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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-05
(45)【発行日】2025-08-14
(54)【発明の名称】カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20250806BHJP
【FI】
A61M25/00 620
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023500969
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2022007144
(87)【国際公開番号】W WO2022177020
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2024-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2021026036
(32)【優先日】2021-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】北村 晃大
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】星 光起
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-144163(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004100(WO,A1)
【文献】特開2014-155606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00 - 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端から基端まで連通するルーメンを有するシャフトを備えたカテーテルであって、
前記シャフトは、
前記ルーメンを形成する前記シャフトの内表面と前記シャフトの外表面の間の少なくとも一部に配置されて管状に編組された線材を備える補強体を有し、
前記補強体は、断面が円形の線材である複数の丸線からなる丸線群と、前記丸線群と交差して前記丸線群と編組された複数の平線と、を有し、
複数の前記丸線群の総断面積の、複数の前記平線の総断面積に対する断面積比は、0.5よりも大きいことを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記断面積比は、1よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
先端から基端まで連通するルーメンを有するシャフトを備えたカテーテルであって、
前記シャフトは、
前記ルーメンを形成する前記シャフトの内表面と前記シャフトの外表面の間の少なくとも一部に配置されて管状に編組された線材を備える補強体を有し、
前記補強体は、断面が円形の線材である複数の丸線からなる丸線群と、前記丸線群と交差して前記丸線群と編組された複数の平線と、を有し、
前記丸線の直径の、前記平線の厚さに対する比率は、1.5よりも大きいことを特徴とするカテーテル。
【請求項4】
前記丸線の材料の降伏点は、前記平線の材料の降伏点よりも低いことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記丸線の本数は、前記平線の本数よりも多いことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のカテーテルカテーテル。
【請求項6】
交差する前記線材同士は、接合されていないことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記平線は、断面が長方形の線材であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のカテーテル。
【請求項8】
先端から基端まで連通するルーメンを有するシャフトを備えたカテーテルであって、
前記シャフトは、
前記ルーメンを形成する前記シャフトの内表面と前記シャフトの外表面の間の少なくとも一部に配置されて管状に編組された線材を備える補強体を有し、
前記補強体は、断面が円形の線材である複数の丸線と、前記丸線と交差する線材である複数の平線と、を有し、
複数の前記丸線の総断面積の、複数の前記平線の総断面積に対する断面積比は、0.5よりも大きく、
前記丸線の材料の降伏点は、前記平線の材料の降伏点よりも低いことを特徴とするカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管等の管腔内で使用されるカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外科的侵襲が非常に低いという理由から、カテーテルを用いた血管等の管腔内の治療が盛んに行われている。カテーテルは、細い管腔へ挿入でき、かつ内部に広い通路を確保できるように、強度を保持しつつ薄肉とすることが望まれている。
【0003】
カテーテルを高強度かつ薄肉にする方法として、平板からなる帯状の線材である平線を管状に編組し、補強体としてカテーテルに埋設することが行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-144163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、平板は強度が高いため、平線を編組すると、平板の切断した端部がばらけやすい。これにより、カテーテルの切断が容易に行えず、または補強体を管状の樹脂材料に埋め込む際に、ばらける補強体が樹脂材料に密着できずに、カテーテルの強度の低下が起こる可能性がある。このため、一般的に平線を補強体に用いたカテーテルでは、補強体の端部の線材同士を溶接するなどの後処理を要する。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、カテーテルを薄肉かつ高強度とするために有効な平線を補強体に適用しつつも、補強体の端部がばらけることを抑制できるカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するカテーテルの一態様は、先端から基端まで連通するルーメンを有するシャフトを備えたカテーテルであって、前記シャフトは、前記ルーメンを形成する前記シャフトの内表面と前記シャフトの外表面の間の少なくとも一部に配置されて管状に編組された線材を備える補強体を有し、前記補強体は、断面が円形の線材である複数の丸線からなる丸線群と、断面が長方形の線材であって前記丸線群と交差して前記丸線群と編組された複数の平線と、を有し、複数の前記丸線群の総断面積の、複数の前記平線の総断面積に対する断面積比は、0.5よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するカテーテルの他の態様は、先端から基端まで連通するルーメンを有するシャフトを備えたカテーテルであって、前記シャフトは、前記ルーメンを形成する前記シャフトの内表面と前記シャフトの外表面の間の少なくとも一部に配置されて管状に編組された線材を備える補強体を有し、前記補強体は、断面が円形の線材である複数の丸線からなる丸線群と、前記丸線群と交差して前記丸線群と編組された複数の平線と、を有し、前記丸線の直径の、前記平線の厚さに対する比率は、1.5よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するカテーテルのさらに他の態様は、先端から基端まで連通するルーメンを有するシャフトを備えたカテーテルであって、前記シャフトは、前記ルーメンを形成する前記シャフトの内表面と前記シャフトの外表面の間の少なくとも一部に配置されて管状に編組された複数の線材を備える補強体を有し、前記補強体は、断面が円形の線材である複数の丸線と、前記丸線と交差する線材である複数の平線と、を有し、複数の前記丸線の総断面積の、複数の前記平線の総断面積に対する断面積比は、0.5よりも大きく、前記丸線の材料の降伏点は、前記平線の材料の降伏点よりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成したカテーテルは、カテーテルを薄肉かつ高強度とするために有効な平線を補強体に適用しつつも、補強体に平線と共に適用されて平線と交差する丸線群により、補強体の端部がばらけることを抑制できる。
【0011】
前記断面積比は、1よりも大きくてもよい。これにより、カテーテルは、丸線群によって補強体の端部がばらけにくくなる効果を高めることができる。
【0012】
前記丸線の材料の降伏点は、前記平線の材料の降伏点よりも低くてもよい。これにより、丸線は平線よりも塑性変形しやすく、編組された形状を維持しやすい。このため、塑性変形しにくいためにばらけようとする平線を丸線群により保持して、補強体の端部がばらけることを効果的に抑制できる。
【0013】
前記丸線の本数は、前記平線の本数よりも多くてもよい。これにより、ばらけようとする平線を丸線により保持して、補強体の端部がばらけることを効果的に抑制できる。
【0014】
交差する前記線材同士は、接合されていなくてもよい。これにより、本カテーテルは、交差する線材同士が接合されていなくても、補強体がばらけることを抑制できる。このため、薄肉かつ高強度のカテーテルの加工を容易にすることができる。
【0015】
前記平線は、断面が長方形の線材であってもよい。これにより、平線の断面積が大きくなり、平線を薄くして、薄肉かつ高強度のカテーテルを得ることができる。
【0016】
上記のように構成したさらに他の態様のカテーテルは、カテーテルを薄肉かつ高強度とするために有効な平線を補強体に適用しつつも、補強体に平線と共に適用されて平線と交差する丸線により、補強体の端部がばらけることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係るカテーテルを示す平面図である。
図2】実施形態に係るカテーテルを示す中心軸に沿った縦断面図である。
図3】実施形態に係るカテーテルを示す中心軸に直交する横縦断面図である。
図4】実施形態に係るカテーテルの外層を透過して示す平面図である。
図5】補強体の線材を示す断面図であり、(A)は丸線、(B)は平線を示す。
図6】製造過程において、切断された補強体の端部で線材がばらけた状態を参考例として示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。本明細書において、カテーテル1の生体管腔に挿入する側を「先端側」、操作する側を「基端側」と称することとする。
【0019】
本実施形態に係るカテーテル1は、腕の橈骨動脈から血管内に導入されて下肢の動脈内まで挿入され、治療や診断等を行うために用いられる。下肢の動脈とは、大動脈腸骨動脈分岐部近傍及びより末梢側の動脈である。カテーテル1は、図1に示すように、長尺なシャフト2と、シャフト2の基端に連結されるハブ3と、シャフト2およびハブ3の連結部位に設けられる耐キンクプロテクタ4とを有している。
【0020】
シャフト2は、図1~4に示すように、可撓性を有する管状の部材であり、基端から先端へ延びる中心軸Xを有し、基端から先端にかけて内部にルーメン5が形成されている。ルーメン5は、カテーテル1の血管への挿入時に、ガイドワイヤーが挿通される。また、ルーメン5は、他のカテーテル1等の医療器具、薬液、塞栓物質、造影剤等の通路として用いることもできる。
【0021】
シャフト2の有効長は、特に限定されず、カテーテル1の用途に応じて適宜設定される。カテーテル1が、腕の橈骨動脈から血管内に導入されて下肢の動脈内まで挿入され、治療や診断等を行うために用いられる場合には、シャフト2の有効長は、特に限定されないが、好ましくは1500mm~2600mmであり、より好ましくは1800mm~2300mm、さらに好ましくは2100mm~2300mmである。これにより、カテーテル1は、腕の動脈から下肢の動脈へ到達できる。なお、シャフト2の有効長は、血管やシース等内へ挿入可能な部位の長さである。本実施形態において、有効長は、耐キンクプロテクタ4の最先端からシャフト2の最先端までの中心軸Xに沿う長さである。シャフト2の有効長は、カテーテル1を大腿動脈から血管内へ導入する場合は、650mm以上、足背動脈や後脛骨動脈の遠位部から血管内へ導入する場合は、300mm以上であることが好ましい。
でもよい。
【0022】
シャフト2は、複数の層で構成されており、ルーメン5の内表面11を形成する内層10と、内層10の外側に配置される補強体20と、内層10および補強体20の外側に形成される外層30とを備えている。
【0023】
内層10は、内部にルーメン5が形成されている。内層10の構成材料は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を適用でき、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)等の低摩擦材料等が好ましい。
【0024】
内層10の内径は、特に限定されないが、好ましくは0.4mm~1.2mmであり、より好ましくは0.45mm~0.7mm、さらに好ましくは0.5mm~0.6mmである。
【0025】
補強体20は、内層10の外周囲に、複数の線材21を、隙間を有するように管状に編組して形成される。線材21は、断面が円形の複数の丸線22と、断面が長方形の複数の平線23とを有している。線材21の断面とは、線材21が延在する方向と直交する断面である。平線23の断面は、長方形あるいは楕円、長円形でもよいが、同じ厚みおよび幅として形状を比較する場合に、断面積が最も大きい長方形が好ましい。
【0026】
丸線22は、複数の素線で1つの丸線群24を形成する。各々の丸線群24は、シャフト2の周方向へ隣接して並ぶ1つまたは複数の丸線22を有している。丸線群24は、内層10の外周囲に、同じ方向へ螺旋を描くように延在し、シャフト2の周方向へ等間隔で離れて配置されている。各々の丸線群24を構成する複数の丸線22は、シャフト2の周方向へ隙間なく並んで配置される。なお、各々の丸線群24を構成する複数の丸線22は、シャフト2の周方向へ多少の隙間を有して配置されてもよい。丸線群24の数L1は、平線23の数と一致するが、一致しなくてもよい。丸線群24の数L1は、丸線群24の1つを1条とした場合、特に限定されないが、例えば1条~16条であり、本実施形態では4条である。各々の丸線群24が有する丸線22の数N1は、特に限定されないが、例えば1本~ 8本であり、本実施形態では4本である。1つの丸線群24に複数の丸線22が含まれる場合、大きな外径の1つの丸線22の代わりに、小さな外径の複数の丸線22を使用できるため、シャフト2の肉厚や外径が大きくなることを抑制できる。
【0027】
平線23は、1本の素線が内層10の外周囲に、螺旋を描くように同方向へ延在し、シャフト2の周方向へ等間隔で離れて配置されている。複数の平線23が延在する方向は、丸線群24と交差するように、シャフト2の周方向において、丸線群24の延在する方向と逆方向である。平線23および丸線群24は、シャフト2の径方向に重なる配置が交互に、またはパターンを有して入れ替わるように編組されている。図3に示すように平線23の数L2は、平線1本を1条とした場合に特に限定されないが、例えば1条~16条である。平線23の数L2は、丸線群24の数L1と一致するが、必ずしも一致しなくてもよい。各々の平線23は、長方形である断面の短辺の方向が、シャフト2の径方向と略一致するように配置される。
【0028】
丸線22および平線23の構成材料は、ステンレス鋼、白金(Pt)・タングステン(W)等の金属線、樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維等を適用でき、または、これらの線材21を複数併用してもよい。
【0029】
丸線22および平線23の構成材料は、同じ材料であってもよいが、異なることが好ましい。丸線22の材料の降伏点は、平線23の材料の降伏点よりも低いことが好ましい。丸線22は、編組された状態において、降伏点を超えて変形している。すなわち、丸線22は、編組される際に塑性変形しており、平線23よりも、元の形状へ戻ろうとする復元力が小さい状態で補強体20を構成している。平線23は、編組された状態において、内部応力が丸線22よりも大きく残っており、丸線22よりも、元の形状へ戻ろうとする復元力が大きい状態で補強体20を構成している。
【0030】
一例として、丸線22および平線23の構成材料は、異なるステンレス鋼であり、丸線22の材料の降伏点は、平線23の材料の降伏点よりも低い。丸線22の構成材料は、例えばSUS316であり、平線23の構成材料は、例えばSUS304-WPBである。
【0031】
補強体20を構成する全ての丸線22の断面積の合計(総断面積)をA、補強体20を構成する全ての平線23の断面積の合計(総断面積)をBと定義した場合に、A/Bは、好ましくは0.5よりも大きく、より好ましくは0.74以上であり、より好ましくは1よりも大きく、さらに好ましくは1.4以上であり、さらに好ましくは2.0以上である。A/Bは、好ましくは2.1以下であり、より好ましくは2.1未満であり、さらに好ましくは2.09以下である。これにより、丸線22の総断面積を十分に確保して、塑性変形した丸線22によって、切断された補強体20の端部の形状を維持する効果を向上させることができる。なお、線材21の断面積は、線材21の延在方向と直交する断面における面積である。
【0032】
また、図5に示すように、丸線22の直径をD、平線23の厚さ(長方形断面の短辺の長さ)をTと定義した場合に、D/Tは、好ましくは1.5よりも大きく、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは4.0以上である。これにより、丸線22の直径を十分に確保して、塑性変形した丸線22によって、切断された補強体20の端部の形状を維持する効果を向上させることができる。なお、丸線22の直径Dは、丸線22の延在方向と直交する断面における直径である。平線23の厚さTは、平線23の延在方向と直交する断面における長方形断面の短辺の長さである。平線23の幅Wは、平線23の延在方向と直交する断面における長方形断面の長辺の長さである。
【0033】
丸線22の直径Dは、特に限定されないが、好ましくは0.020mm~0.080mmであり、より好ましくは0.025mm~0.060mm、さらに好ましくは0.030mm~0.040mmである。
【0034】
平線23の厚さTは、特に限定されないが、好ましくは0.010mm~0.040mmであり、より好ましくは0.010mm~0.030mm、さらに好ましくは0.015mm~0.020mmである。平線23の幅Wは、特に限定されないが、好ましくは0.045mm~0.250mmであり、より好ましくは0.045mm~0.200mm、さらに好ましくは0.045mm~0.140mmである。
【0035】
外層30は、図2~4に示すように、内層10および補強体20の外周囲を覆う管状の部材である。外層30は、シャフト2の径方向外側の面である外表面31を形成する。
【0036】
外層30の外径は、特に限定されないが、好ましくは0.7mm~1.3mmであり、より好ましくは0.8mm~1.2mmであり、さらに好ましくは0.86mm~1.1mmである。
【0037】
外層30の構成材料は、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、或いはこれら二種以上の混合物等)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂等の高分子材料或いはこれらの混合物等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を適用できる。外層30には、X線不透過物質を混合してもよい。
【0038】
ハブ3は、図1に示すように、シャフト2の基端部が接着剤、熱融着または止具(図示せず)等により液密に固着されている。ハブ3は、ルーメン5内へのガイドワイヤーや医療器具の挿入口、ルーメン5内への薬液や塞栓物質、造影剤等の注入口等として機能し、また、カテーテル1を操作する際の把持部としても機能する。ハブ3の構成材料は、特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート-ブチレン-スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂が好適に使用できる。
【0039】
耐キンクプロテクタ4は、シャフト2の周囲を囲むように設けられる弾性材料からなり、シャフト2とハブ3の連結部位におけるシャフト2のキンクを抑制する。耐キンクプロテクタ4の構成材料は、例えば、天然ゴム、シリコーン樹脂、ポリアミドエラストマーあるいはポリエステルエラストマー等が好適に使用できる。
【0040】
次に、本実施形態に係るカテーテル1の製造方法について説明する。
【0041】
まず、内層10の内径と等しい外径の長尺な芯線を準備する。次に、芯線上に内層10を形成する。内層10は、押出成形により形成されてもよく、またはディップ成形によって形成されてもよい。または、管体である内層10のルーメン5に、芯線が挿入されてもよい。
【0042】
この後、図4に示すように、内層10上の少なくとも一部を覆うように補強体20を形成する。補強体20は、編組機(ブレーダー)を用いて、内層10上に、複数の丸線22および平線23を連続的に巻きつけて形成される。平線23は、形成されるシャフト2を薄肉に維持しつつ、シャフト2に高い強度を付与できる。平線23は、編組された状態において、内部応力が丸線22よりも大きく残っており、丸線22よりも、元の形状へ戻ろうとする復元力が大きい状態で補強体20を構成する。丸線22は、編組された状態において、降伏点を超えて変形している。すなわち、丸線22は、編組される際に塑性変形しており、平線23よりも、元の形状へ戻ろうとする復元力が小さい安定した状態で補強体20を構成している。
【0043】
次に、補強体20の端部を切断する。このとき、高い強度を有するとともに降伏点が高い平線23の切断された端部は、図6の参考例のように、自己の復元力によって広がりってばらけやすい。ここで、ばらけとは、管状に巻きつけた補強線(例えば、線材21)が自然状態で外径の5倍以上まで広がることを言う。しかしながら、本実施形態においては、平線23が、塑性変形して内部応力が小さく安定している丸線22と交差しているため、切断された平線23の端部の形状が丸線22によって保持される。このため、補強体20は、切断された端部における線材21(丸線22および平線23)のばらけを抑制できる。
【0044】
次に、補強体20を外周面側から押圧し、補強体20の内周面側を内層10に埋め込む。この後、図2~3に示すように、内層10および補強体20の外側に、外層30を形成する。外層30の形成方法は、特に限定されない。例えば、外層30は、押出成形により形成されてもよく、ディップ成形により形成されてもよい。または、外層30は、内層10および補強体20の外側に外層30の素材となる管体を配置した後に、管体に熱収縮チューブを被せて加熱することで形成されてもよい。管体は、加熱により軟化または溶融しつつ、熱収縮チューブの収縮力によって内層10および補強体20の外側に密着して接合される。この後、熱収縮した熱収縮チューブは取り除かれる。
【0045】
外層30を形成した後、芯線を内層10のルーメン5から引き抜く。この後、シャフト2にハブ3、耐キンクプロテクタ4を取り付け、必要に応じて他の部材(例えば、先端チップ)を取り付けて、カテーテル1が完成する。あるいは先端チップを最初から取り付けて成形してもよい。
【0046】
以上のように、本実施形態に係るカテーテル1は、先端から基端まで連通するルーメン5を有するシャフト2を備えたカテーテル1であって、シャフト2は、ルーメン5を形成するシャフト2の内表面11とシャフト2の外表面31の間の少なくとも一部に配置されて管状に編組された線材21を備える補強体20を有し、補強体20は、断面が円形の線材21である複数の丸線22からなる丸線群24と、断面が長方形の線材21であって丸線群24と交差する複数の平線23と、を有し、複数の丸線群24の総断面積Aの、複数の平線23の総断面積Bに対する断面積比A/Bは、0.5より大きい。
【0047】
または、本実施形態に係るカテーテル1は、先端から基端まで連通するルーメン5を有するシャフト2を備えたカテーテル1であって、シャフト2は、ルーメン5を形成するシャフト2の内表面11とシャフト2の外表面31の間の少なくとも一部に配置されて管状に編組された線材21を備える補強体20を有し、補強体20は、断面が円形の線材21である複数の丸線22からなる丸線群24と、断面が長方形の線材21であって丸線群24と交差する複数の平線23と、を有し、丸線22の直径Dの、平線23の厚さTに対する比率D/Tは、1.5を超える。
【0048】
上記のように構成したカテーテル1は、カテーテル1を薄肉かつ高強度にするために有効な平線23を補強体20に適用しつつも、補強体20に平線23と共に適用されて平線23と交差する丸線群24により、補強体20の端部がばらけることを抑制できる。このため、薄肉かつ高強度のカテーテル1の加工を容易にすることができる。ここで、ばらけるとは、補強線(補強体20の線材)を切断した時の補強体20の端部の最大外径がばらけていない補強体20の中間部の外径の5倍以上となることをいう。
【0049】
また、断面積比A/Bは、1よりも大きくてもよい。これにより、丸線群24によって補強体20の端部がばらけにくくなる効果を高めることができる。
【0050】
また、丸線22の材料の降伏点は、平線23の材料の降伏点よりも低い。これにより、丸線22は平線23よりも塑性変形しやすく、編組された形状を維持しやすい。このため、塑性変形しにくいためにばらけようとする平線23を丸線群24により保持して、補強体20の端部がばらけることを効果的に抑制できる。
【0051】
また、丸線22の本数は、平線23の本数よりも多い。これにより、ばらけようとする平線23を丸線22により保持して、補強体20の端部がばらけることを効果的に抑制できる。
【0052】
また、交差する線材21同士は、溶接や接着等により接合されていない。本カテーテル1は、交差する線材21同士が接合されていなくても、補強体20がばらけることを抑制できる。このため、薄肉かつ高強度のカテーテル1の加工を容易にすることができる。
【0053】
また、シャフト2の有効長は、2100mm以上である。これにより、カテーテル1は、腕の動脈から下肢の動脈へ容易に到達できる。
【0054】
また、平線23は、断面が長方形の線材である。これにより、平線23の断面積が大きくなり、平線23を薄くして、薄肉かつ高強度のカテーテル1を得ることができる。
【0055】
変形例として、丸線22と平線23の素線同士を編組してもよい。編み込んだ上記のように構成したカテーテルは、カテーテルを薄肉かつ高強度とするために有効な平線23を補強体20に適用しつつも、補強体20に平線23と共に適用されて平線23と交差する丸線22により、補強体20の端部がばらけることを抑制できる。
【実施例
【0056】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0057】
表1に示す実施例1~5、比較例1のシャフト2を作成し、作成する過程で、切断した補強体20の端部がばらけるか否かを観察した。実施例1~5、比較例1のいずれにおいても、丸線22の材料はSUS316であり、平線23の材料はSUS304-WPBであった。
【0058】
なお、実施例1において、丸線22の配置は、丸線群24の数L1が8条、各々の丸線群24を構成する丸線22の数N1が2本となるように編組機を設定して編組したが、編組後に隣接する2つの丸線群24が合わさり、実質的には、丸線群24の数L1が4条、各々の丸線群24を構成する丸線22の素線の数N1が4本となった。
【0059】
結果として、断面積比A/Bが0.5より大きく2.1より小さい実施例1~5は、0.5未満である比較例1と比較して、切断した補強体20の端部がばらけない(または、ほとんどばらけない)という結果が得られた。また、厚さ比D/Tが1.5より大きい実施例1~5は、1.5以下である比較例1と比較して、切断した補強体20の端部がばらけない(または、ほとんどばらけない)という結果が得られた。
【0060】
【表1】
【0061】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、カテーテル1は、腕の動脈以外の血管から挿入されてもよい。また、カテーテル1は、下肢の動脈以外の血管の治療や診断に用いられてもよい。また、カテーテル1は、胆管、気管、食道、尿道、またはその他の生体管腔内や体腔内に挿入されて、治療や診断等を行うために用いられてもよい。
【0062】
本出願は、2021年2月22日に出願された日本特許出願2021-26036号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0063】
1 カテーテル
2 シャフト
5 ルーメン
10 内層
11 内表面
20 補強体
21 線材
22 丸線
23 平線
24 丸線群
30 外層
31 外表面
A 丸線の総断面積
B 平線の総断面積
D 丸線の直径
T 平線の厚さ
W 平線の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6