(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-05
(45)【発行日】2025-08-14
(54)【発明の名称】セルロース繊維材料及び方法
(51)【国際特許分類】
D21H 17/21 20060101AFI20250806BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20250806BHJP
B29K 105/06 20060101ALN20250806BHJP
【FI】
D21H17/21
B29B11/16
B29K105:06
(21)【出願番号】P 2023580975
(86)(22)【出願日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2022068740
(87)【国際公開番号】W WO2023280918
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2024-03-05
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】524001765
【氏名又は名称】ペーパーシェル アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】アンデシュ ブライトルツ
(72)【発明者】
【氏名】マティウ グスタブソン アプリハグ
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-536896(JP,A)
【文献】特開平08-188979(JP,A)
【文献】特開平05-140900(JP,A)
【文献】特開2014-152290(JP,A)
【文献】特開2018-150465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 17/21
B29B 11/16
B29K 105/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維基材であって、
少なくとも1つの上面と、
少なくとも1つの底面と、
を含み、
前記セルロース繊維基材は、
最大10mmの長さを有する60~90重量%のセルロース繊維と、
0~10%の酸性硬化触媒と、
セルロース、ヘミセルロース、フラン、リグニン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される10~40重量%の結合剤と、
を更に含むことを特徴とする、
セルロース繊維基材。
【請求項2】
前記結合剤が、ポリフルフリルアルコール(PFA)である、請求項1に記載のセルロース繊維基材。
【請求項3】
前記セルロース繊維が、0~100%の未使用セルロース繊維と、0~100%の再生利用セルロース繊維と、を含む請求項1又は2に記載のセルロース繊維基材。
【請求項4】
前記少なくとも1つの上面及び/又は底面が、少なくとも1つの可展及び/又は非可展表面部分を有する、請求項1又は2に記載のセルロース繊維基材。
【請求項5】
前記基材中の前記セルロース繊維が実質的に平行に配置されるか、又は前記基材中の前記セルロース繊維が実質的に交差して配置されるか、又は前記基材中の前記セルロース繊維が実質的にランダムに配置されるか、又はこれらの組み合わせで配置される、請求項1又は2に記載のセルロース繊維基材。
【請求項6】
前記基材が、少なくとも1つの空洞を含む、請求項1又は2に記載のセルロース繊維基材。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のセルロース繊維基材を含む、耐荷重性3D物品。
【請求項8】
前記耐荷重
性3D物品が、少なくとも40MP
aの引張り強度を有する、請求項7に記載の耐荷重性3D物品。
【請求項9】
前記耐荷重
性3D物品が、少なくとも2.5m
mの厚さを有する、請求項7に記載の耐荷重性3D物品。
【請求項10】
少なくとも1つの上面と、1つの底面と、を含むセルロース繊維基材を製造するための方法であって、前記方法が、
a)10mmの最大長を有す
る少なくとも1つ
のセルロース繊維シートを提供する工程と、
b)前記少なくとも1つのセルロース繊維シートに、酸性硬化触媒と、セルロース、ヘミセルロース、フラン、リグニン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される結合剤と、の混合物を含浸させ、少なくとも1つの含浸セルロース繊維シートを得る工程と、
c)50~300℃の範囲の熱を加えることによって、前記少なくとも1つの含浸セルロース繊維シートを予備硬化させて、それによってプリプレグを得る工程と、
d)1つ以上の前記プリプレグをスタックに配置する工程と、
e)少なくとも7kg/cm
2
の圧力で、及び少なくとも60
℃の温度で、少なくとも10秒
間、前記スタックをプレスツール内でプレスして、それによって少なくとも1つの上面及び1つの底面を有するセルロース繊維基材を得る工程と、
を含む、方法。
【請求項11】
前記結合剤が、ポリフルフリルアルコール(PFA)である、請求項10に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項12】
前記セルロース繊維が、0~100%の未使用セルロース繊維と、0~100%の再生利用セルロース繊維と、の混合物を含む、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項13】
前記セルロース繊維が、紙の形態で提供される、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項14】
前記上面及び/又は前記底面が、少なくとも1つの可展及び/又は非可展表面部分を有する、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項15】
前記セルロース繊維基材が、少なくとも80%の量のバイオベース炭素を有する、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項16】
前記セルロース繊維基材が、60~90重量%の前記セルロース繊維を含む、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項17】
前記セルロース繊維基材が、10~40重量%の前記結合剤を含む、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項18】
前記セルロース繊維基材が
、最大10重量%の前記酸
性硬化触媒を含む、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項19】
前記スタック中の前記プリプレグが、前記プリプレグ中の粒子方向が実質的に平行であるように配向される、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項20】
前記スタック中の前記プリプレグが、前記プリプレグ中の粒子方向の角度が隣接する前記プリプレグに対して0~90°の範囲であるように配向される、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項21】
f)前記プリプレグ及び/又は前記セルロース繊維基材を所定の形状に切断する工程を更に含む、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【請求項22】
g)前記セルロース繊維基材に空洞を作製する工程を更に含む、請求項10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維熱硬化性材料、及び前記セルロース繊維熱硬化性材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化、並びに海洋汚染及び土壌汚染、による負の環境影響に対する認識の高まりを考慮すると、純粋な化石資源由来プラスチック、鉱物充填プラスチック及び繊維強化プラスチック(FRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)及び炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を、より環境に優しい代替物に置き換えることが必要である。GFRP及び/又はCFRP複合材などのFRP複合材は、高い又は非常に高い強度対重量比を示し、人工の非分解性繊維の際立った長さ及び強度により、極めて剛性である。これらのFRP複合材は、例えば、曲げ強度、耐衝撃性及び/又は耐候性が重要である、ビークル、保護スポーツ器具、建物、電気ハウジングなどの、様々な用途に使用されることが多い。しかしながら、これらの材料の環境への影響は、ガラス繊維又は炭素繊維のような原料の製造、その中間体の製造、並びに廃棄及び/又は再生利用の両方において高い。GFRP及びCFRP材料中の化石系ポリマーを、より環境に優しい代替物、例えば、バイオベース又はバイオ由来のポリマーで置き換える試みがなされてきた。更に、ガラス繊維又は炭素繊維を亜麻、麻、サイザルなどの天然繊維に置き換える試みもなされてきた。しかしながら、GFRP及びCFRP複合材のためのバイオベース及び/又はバイオ属性、並びに再生可能及び/又は天然繊維代替物の両方に関する主要な課題は、高価であること、化石系ポリマー及び人工繊維と競合し得る供給における十分な量並びに品質の一貫性がないことである。
【0003】
天然繊維複合材(NFC)は、非木材繊維系複合材と、木材繊維及び木材粒子系複合材と、に分類される。木材繊維は、ジュート又は亜麻のような他の天然繊維よりも長さが短いことが多い。非木材繊維(天然繊維)の長さがより長いため、例えば、曲げ強度により導かれる用途の可能性は、木材繊維及び/又は木材粒子の場合よりも大きい。これらの繊維は、多くの場合、多量に(50%超)セルロースを有し、親水性である傾向が高く、自然腐朽プロセス、寸法の不安定性、層剥離、及び気候サイクル(湿度及び温度)によるその他の問題などの課題が生じる。これらの問題に対処するために、NFC産業は、熱可塑性樹脂の熱硬化性物質(thermosets och thermoplastic)などの、化石系であることが多い結合剤を複合材に浸透させる必要があり、このような系では20%超のバイオ含量であれば高いとみなされる。すなわち、これらの天然繊維は、環境に悪く、再生利用又は分離するのに非常に問題がある化石ベースの系と組み合わされる。
【0004】
大規模で安定した再生可能資源のセルロース繊維は、パルプ及び紙の生産において針葉樹やユーカリなどの様々な樹種から得られる、林業からのものである。最近では、多くのNFC材料は、森林由来のセルロース繊維とポリマーとを組み合わせて製造されており、環境への影響を低減するだけでなく、更に耐荷重性である物品を作り出している。このような材料は、通常、純粋な木材繊維又はパルプ及び紙製造からの繊維を、射出成形用の粒子に混合し(mixing)混合する(compounding)ことによって製造され、したがって、最終物品は層状シートをベースにしていない。
【0005】
セルロース繊維をベースにした、耐荷重性のある3D単一湾曲、又は可展(developable)なソリューションを作り出す周知のソリューションは、層を含む木材単板であり、各層の長い木材繊維は、隣接する層の木材繊維に対して垂直に配置されることが多く、層は、椅子の座席などの単一湾曲形状に熱プレスされる。従来の単板は二重湾曲表面を作ろうとすると裂けて壊れることから、二重湾曲又は非可展な表面などのより複雑な3D表面の場合、特殊かつ高価な3D単板又はプラスチックが唯一の選択肢である。
【0006】
紙に見られる短いセルロース繊維を使用する別の周知の例は、紙及び表面材料のいくつかの異なる層、並びにポリマー若しくはフェノール結合剤からなる、高圧ラミネート又はHPLを使用して、平坦耐荷重用途(flat load-bearing applications)を作り出すことである。HPLのいくつかの特殊かつ斬新なグレードは、熱及び拘束(restraint)を加え、二次成形可能な熱可塑性結合剤を使用することによって、単一湾曲縁部の周りに二次成形することができるが、HPLは、単一湾曲、二重湾曲、並びに/又は回転及び並進の組み合わせを含む複雑な3D非可展表面、例えば、ヘルメット用の耐荷重性球面形状、花瓶用の円筒回転表面、又はボートの船体用の複雑な表面を有する物品を製造するために使用されたことはない。
【0007】
上記の両方の例において、天然繊維は疎水性であり、及び/又はUVで分解するので、使用としては屋内使用が意図される。HPLの場合、最外層は、耐引掻性、耐UV性及び耐湿性、並びに装飾的外観、例えば、大理石又は木材の模倣を高めるための特別なコーティングを有することが多い。このような材料は、例えば、カウンタートップ又は積層床のスタックとして使用され得る。
【0008】
再生可能な天然供給源からの繊維の層を含み、高い引張り強度及び曲げ強度を有する、複雑な3D耐荷重性物品を作製する別の選択肢は、麻、亜麻、ラミー及びサイザルなどの長いセルロース繊維を使用することである。このような繊維は、結合剤を含浸させた平坦であるが2D可撓性のマット/布に織られてもよい。これらの材料は、有利な機械的特性を有する、平坦構造及び3D構造を提供するために頻繁に使用される。ここで、繊維の長さは最も重要であり、各繊維は複雑な3D表面上に配置される。このプロセスは高価であり、回収される繊維の供給源は食品産業及び繊維産業と競合する。別の課題は、長い天然繊維が親水性であり、したがって、湿気を吸収し、かかる繊維を屋外での使用及び湿った場所に適さないものにすることである。また、ポリマー結合剤の必要性は更に、これらの天然繊維複合材を、ポリマーを含む任意の複合材と同様に、再生利用することを困難又は不可能にし、したがって、プラスチックの再生利用ループを崩壊させる。
【0009】
最後に、射出成形、押出成形、並びにブロー成形及びプレス成形用の粒子を製造するために、セルロース繊維を熱可塑性物質などのポリマー材料と組み合わせることが知られている。熱可塑性材料はバイオベースで生分解性であり得るが、このような材料はかなり高価であり、バイオベースのソリューションは、化石ベースの樹脂系よりも劣った特性を有する。NCF及びバイオベースポリマーは、畑で栽培される作物に基づいているため、食品生産に必要な農地と競合するかどうかという議論が進行中である。また、いくつかの場合では、肥料の必要性及び低収率は、いわゆるバイオプラスチックが環境全体に悪影響を及ぼすことを示している。これに加えて、毎年収穫に影響を及ぼし価格の変動を生じさせる、天候の不確実性がある。
【0010】
当該技術分野に現在存在する課題を考慮すると、GFRP、化石系ポリマー、更にはアルミニウムなどの金属などの繊維複合材に匹敵する機械的特性を得ながら、環境への影響が低い、天然及び再生可能な成分を含むセルロース繊維基材を提供することが望ましい。更に、このような基材を得るための材料及び方法を提供することが望ましい。同様にして、1)安定したプロセス産業ベースの大規模な非食物競合バイオベース原料供給源を使用すること、2)市販されているマニュアルの強化繊維複合材のソリューションの場合によくある、内部ロジスティック、ロボット工学システムなどに組み込むことが困難な、湿潤で粘着性のソリューションなどの問題を低減することによって、高度に自動化された生産プロセスを可能にする特性を創出することによって、大規模生産のためのソリューションを作成することが望ましい。
【発明の概要】
【0011】
上記に鑑みて、本発明は、先行技術の問題/欠陥の少なくともいくつかを解決することを目的とする。この目的のために、本発明は、セルロース繊維材料及びその製造方法を提供する。再生可能な天然資源に基づくセルロース繊維材料は、表面を含み、表面は、少なくとも1つの可展及び/又は非可展表面部分を有する。
【0012】
本発明によるセルロース繊維基材は、少なくとも1つの上面と、少なくとも1つの底面と、を含み、セルロース繊維基材は、最大10mmの長さを有する60~90重量%のセルロース繊維と、0~10%の酸性硬化触媒と、セルロース、ヘミセルロース、フラン、リグニン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される10~40重量%の結合剤と、を更に含むことを特徴とする。
【0013】
一実施形態では、結合剤がポリフルフリルアルコール(PFA)である、セルロース繊維基材が提供される。
【0014】
一実施形態では、セルロース繊維基材が提供され、前記セルロース繊維は、0~100%の未使用セルロース繊維と、0~100%の再生利用セルロース繊維と、を含む。
【0015】
一実施形態では、少なくとも1つの上面及び/又は底面が少なくとも1つの可展及び/又は非可展表面部分を有する、セルロース繊維基材が提供される。
【0016】
一実施形態では、セルロース繊維基材が提供され、基材中の前記セルロース繊維は実質的に平行に配置されるか、又は基材中の前記セルロース繊維は実質的に交差して配置されるか、又は基材中の前記セルロース繊維は実質的にランダムに配置されるか、又はこれらの組み合わせで配置される。
【0017】
一実施形態では、基材が少なくとも1つの空洞を含む、セルロース繊維基材が提供される。
【0018】
本発明による耐荷重性3D物品は、本発明によるセルロース繊維基材を含む。
【0019】
一実施形態では、耐荷重性3D物品が提供され、耐荷重性物品は、少なくとも40MPa、好ましくは少なくとも50MPa、より好ましくは少なくとも100MPaの引張り強度を有する。
【0020】
一実施形態では、耐荷重性3D物品が提供され、耐荷重性物品は、少なくとも2.5mm、好ましくは少なくとも5mm、より好ましくは少なくとも10mmの厚さを有する。
【0021】
本発明による少なくとも1つの上面と、1つの底面と、を含むセルロース繊維基材を製造する方法は、以下の工程:
a)10mmの最大長を有するセルロース繊維の少なくとも1つのシートを提供する工程と、
b)少なくとも1つのセルロース繊維シートに、酸性硬化触媒と、セルロース、ヘミセルロース、フラン、リグニン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される結合剤と、の混合物を含浸させ、少なくとも1つの含浸セルロース繊維シートを得る工程と、
c)50~300℃の範囲の熱を加えることによって、少なくとも1つの含浸セルロース繊維シートを予備硬化させて、それによってプリプレグを得る工程と、
d)1つ以上のプリプレグをスタックに配置する工程と、
e)少なくとも7kg/cm2、好ましくは少なくとも25kg/cm2、より好ましくは少なくとも30kg/cm2の圧力で、及び少なくとも60℃、好ましくは少なくとも140℃、より好ましくは少なくとも150℃の温度で、少なくとも10秒間、好ましくは少なくとも1分間、より好ましくは少なくとも2分間、前記スタックをプレスツール内でプレスして、それによって少なくとも1つの上面及び1つの底面を有するセルロース繊維基材を得る工程と、
を含む。
【0022】
一実施形態では、結合剤がポリフルフリルアルコール(PFA)である、セルロース繊維基材を製造するための方法が提供される。
【0023】
一実施形態では、セルロース繊維基材を製造するための方法が提供され、セルロース繊維は、0~100%の未使用セルロース繊維と、0~100%の再生利用セルロース繊維と、の混合物を含む。
【0024】
一実施形態では、セルロース繊維基材を製造するための方法が提供され、セルロース繊維は、紙の形態で提供される。
【0025】
一実施形態では、上面及び/又は底面が少なくとも1つの可展及び/又は非可展表面部分を有する、セルロース繊維基材を製造するための方法が提供される。
【0026】
一実施形態では、セルロース繊維基材を製造するための方法が提供され、前記セルロース繊維基材は、少なくとも80%の量のバイオベース炭素を有する。
【0027】
一実施形態では、セルロース繊維基材を製造する方法が提供され、前記セルロース繊維基材は、60~90重量%の前記セルロース繊維を含む。
【0028】
一実施形態では、セルロース繊維基材を製造する方法が提供され、前記セルロース繊維基材は、10~40重量%の前記結合剤を含む。
【0029】
一実施形態では、セルロース繊維基材の製造方法が提供され、前記セルロース繊維基材は、0~10重量%の前記酸性触媒を含む。
【0030】
一実施形態では、セルロース繊維基材を製造するための方法が提供され、スタック内のプリプレグは、プリプレグ内の粒子方向が実質的に平行であるように配向される。
【0031】
一実施形態では、セルロース繊維基材を製造する方法が提供され、スタック内のプリプレグは、プリプレグ内の粒子方向の角度が隣接するプリプレグに対して0~90°の範囲であるように配向される。
【0032】
一実施形態では、f)プリプレグ及び/又はセルロース繊維基材を所定の形状に切断する工程を更に含む、セルロース繊維基材を製造するための方法が提供される。
【0033】
一実施形態では、g)セルロース繊維基材中に空洞を作成する工程を更に含む、セルロース繊維基材を製造するための方法が提供される。
【0034】
本発明の更なる特徴及び利点は、添付の特許請求の範囲及び以下の説明を検討するときに明らかになるであろう。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の異なる特徴を組み合わせて、以下に説明する実施形態以外の実施形態を作成することができることを理解するであろう。
【0035】
ここで、本発明の実施形態を示す添付の図面を参照して、本発明のこれら及び他の態様をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1a】本発明によるセルロース繊維基材の表面の例を示す。
【
図1b】本発明によるセルロース繊維基材の表面の例を示す。
【
図1c】本発明によるセルロース繊維基材の表面の例を示す。
【
図2a】本発明によるセルロース繊維基材の表面の別の例を示す。
【
図2b】本発明によるセルロース繊維基材の表面の別の例を示す。
【
図2c】本発明によるセルロース繊維基材の表面の別の例を示す。
【
図2d】本発明によるセルロース繊維基材の表面の別の例を示す。
【
図2e】本発明によるセルロース繊維基材の表面の別の例を示す。
【
図3b】曲面に成形された硬化セルロース繊維基材を示す。
【
図5】セルロース繊維基材の引張り強度試験を示す。
【
図6】
図5で分析されたセルロース繊維基材の引張り強度と、他の材料の引張り強度との関係を比較するデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の例示的な実施形態が示されている添付の図面を参照して、本発明を以下に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で実施されてもよく、本明細書に記載される本発明の実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。むしろ、本発明のこれらの実施形態は、本開示が本発明の範囲を当業者に伝えるように、例示として提供される。各図において、同じ参照番号は、別途記載のない限り、同一又は同様の機能を有する同一又は同様の構成要素を示す。
【0038】
上述のように、セルロース繊維基材は、最大10mmの長さを有するセルロース繊維を含む。セルロース繊維は、植物の樹皮、木若しくは葉から、又は他の植物ベースの材料から得ることができる、セルロースのエーテル又はエステルを用いて作製される。セルロース繊維は、木材を木材パルプに変換して得ることができる。複合材料中の各セルロース繊維の長さは、他のセルロース繊維の長さと同じであっても異なっていてもよい。実際、セルロース繊維のいくつかは、10mmを超える長さを有し得ると考えられるが、これらの繊維の量は無視できると考えるべきである。「無視できる」という用語は、0.01重量%未満の量として理解される。セルロース繊維は、シート、ロール、詰め綿(batting)などの任意の適切な形態で提供されてもよい。
【0039】
本発明によるセルロース繊維基材を製造するために使用され得るセルロース繊維は、再生利用セルロース繊維でもよく、このことは、セルロース繊維基材のコストを低減し、循環型経済に寄与するという利点を提供する。一方、セルロース繊維は、未使用セルロース繊維でもよく、未使用セルロース繊維は、再生利用セルロース繊維が使用される場合と比較して、サーキットボードの増加した引張り強度及び/又は曲げ強度を提供する。更に、セルロース繊維は、それぞれ、0~100%の未使用セルロース繊維及び0~100%の再生利用セルロース繊維の範囲の再生利用セルロース繊維及び未使用セルロース繊維の混合物であることが考えられる。セルロース繊維は、紙、例えば、針葉樹クラフト紙、広葉樹クラフト紙、亜硫酸繊維、オルガノソルブ繊維、不織布、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。セルロース繊維がクラフト紙の50~90重量%を構成することが考えられる。紙は、シートの形態及び/又は連続シートの形態、例えば、紙ロールの形態で提供されてもよい。
【0040】
本発明のセルロース繊維基材は、40~90重量%のセルロース繊維と、10~40重量%の結合剤とを含み得る。セルロース繊維基材は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の量のバイオベース炭素を有し得る。バイオベース炭素は、全体的又は部分的にバイオマス資源に由来する。バイオマス資源は、作物残渣、木材残渣、草、及び水生植物などの、再生可能又は反復的に利用可能な有機材料である。対照的に、非バイオベース炭素は、完全に石油化学資源から製造される。上記のバイオベース炭素の量は、製品中のバイオベース炭素を、製品中のバイオベース炭素と石油系炭素との合計と比較した、製品中のバイオベース炭素の量の尺度である。バイオベース炭素という用語は、非化石由来の炭素を表し、セルロース繊維及び/又は結合剤及び/又は添加剤に関する。
【0041】
本発明によるセルロース繊維基材は、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、フラン、好ましくはポリフルフリルアルコール(PFA)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される結合剤を更に含む。
【0042】
セルロース繊維基材は、触媒、UV剤、導電性化合物、顔料、疎水性物質、軟化剤、硬化剤(hardener)、硬化剤(curing agent)などの添加剤を含んでもよい。触媒は酸性触媒、例えば、無機酸又は有機酸であってもよい。触媒は、0~10重量%の範囲で添加されてもよく、5未満のpH値及び/又は5mg KOH/g未満の酸価を有してもよい。添加剤は、耐薬品性、耐火性及び耐摩耗性を増加させるために、及び/又は硬化速度を増加させ、したがって生産を最大化するために添加されてもよい。
【0043】
本発明のプリプレグ材料は、驚くべきことに、比較的短い繊維と特定の粘度を有する結合剤との組み合わせに起因する可能性が最も高い、硬化工程中の有利な浮遊特性を示す。アルコール、例えば、最大20%のエタノール又はメタノールをプロセスに添加し、浮遊能力を更に改善することが考えられる。浮遊という用語は、セルロース繊維基材の製造中に現れ得る亀裂及び断裂を移動並びに充填することができるセルロース繊維の特性として理解される。浮遊特性は、セルロース繊維が製造プロセス中に成形型又はツールの形状に適合することを可能にする。
図1~
図4に示されるように、浮遊特性は、3D形状などの複雑な形状並びに平坦な表面の製造を可能にし、微細表面構造の制御を付与し、したがって、表面特性、例えば、平滑及びブランク又は艶消し及び粗い表面などの追加の特性の調整された製造を可能にする。本発明に従って製造される形状は、平坦、単一湾曲、二重湾曲、球形、複合体、又はその中に穴を有するものであり得ることが考えられる。
図3a及び
図3bは、プリプレグの単一シートが湾曲構造の単一の均質材料にどのように変形されるかを示す。
図8は、セルロース繊維基材の断面を示すが、製造プロセス中に使用されるセルロース繊維の単一層を識別することはできない。本発明による製造方法における、短繊維の驚くべき浮遊効果によって可能になる特性である。
図3aは、セルロース繊維基材が3層のプリプレグから製造される実施形態を示す。プリプレグの各層は、上記のようなセルロース繊維及び結合剤を含む。層は等しい厚さを有する。
【0044】
上述したように、セルロース繊維基材は表面を含み、表面は、少なくとも1つの可展及び/又は非可展表面部分を有する。
図1a~
図1cは、このような表面の様々な例を示す。特に、
図1aは可展な、すなわち単一湾曲面を示し、
図1b及び
図1cは非可展な、すなわち二重湾曲面を示す。
【0045】
図2a~
図2eは、可展な表面部分及び非可展な表面部分を含む、表面の別の例を示す。
図2aはこのような表面の斜視図であり、
図2b及び
図2cはそれぞれ正面図及び上面図である。
図2d及び
図2eに見られるように、
図2aに示される表面は、非可展部分A及びBを含む。
【0046】
本発明の文脈において、可展面は、ゼロガウス曲率を有する滑らかな面である。ガウス曲率は、表面の2つの主要な曲率の積として定義される。別の言い方をすれば、可展面は、歪みなしに平面上に平坦化することができる非平坦面であり、すなわち、伸張又は圧縮なしに曲げることができる。逆に、それは、折り、曲げ、回転、切断及び/又は接着によって平面を変形させることによって作製され得る表面である。可展面の例は、円柱及び円錐である。
【0047】
逆に、非可展面は、非ゼロガウス曲率を有する面である。したがって、非可展面は、歪みなしに平面上に平坦化することができない非平坦面である。表面の大部分は、一般に非可展面である。非可展面は、二重湾曲面と呼ばれることがある。最も頻繁に使用される非可展面の1つは、球である。
【0048】
図4は、セルロース繊維基材が椅子の座部である、本発明によるセルロース繊維基材を示す。
図4に見られるように、椅子座部は、4つの部分C~Fを備え、これらの部分は、以下でより詳細に説明される。
【0049】
部分Cは、弧を有する縁部と、二重湾曲面から単一湾曲面への遷移と、を含む複雑な非可展3D表面を含む。部分Dは、弧を有する縁部と、極端な二重湾曲面から極端な単一湾曲面への遷移と、を含む非可展な複雑な3D表面を含む。点Eに注目すると、二重湾曲した、すなわち、非可展表面を有するより大きな半径を含む、複雑な3D縁部が示されている。部分Fは、複雑な3D縁部を含み、鋭い縁部の半径(r<2mm)は、単一湾曲面と二重湾曲面との間のすべての遷移に沿って維持される。
【0050】
本発明のセルロース繊維基材は、10cm未満、好ましくは5cm未満の曲率半径を含む、少なくとも1つの部分を有してもよい。
【0051】
セルロース繊維は、植物の樹皮、木材若しくは葉から、又は他の植物ベースの材料から得ることができる、セルロースのエーテル又はエステルを用いて作製される。セルロース繊維は、木材を木材パルプに変換して得ることができる。セルロース繊維基材中の各セルロース繊維の長さは、他のセルロース繊維の長さと同じであっても異なっていてもよい。実際、セルロース繊維のいくつかは、10mmを超える長さを有し得ると考えられるが、これらの繊維の量は無視できると考えるべきである。「無視できる」という用語は、0.01重量%未満の量として理解される。セルロース繊維は、シート又はペレットなどの任意の適切な形態で提供されてもよい。
【0052】
セルロース繊維は、ランダムに配向されてもよく、又は繊維の長手方向の延長が実質的に平行であるように配向されてもよい。
【0053】
本発明のセルロース繊維基材は、40~90重量%のセルロース繊維と、10~40重量%の結合剤とを含み得る。本発明によるセルロース繊維基材は、熱硬化性樹脂、反応性熱可塑性樹脂、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、バイオベースポリマー及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、結合剤を更に含む。熱硬化性樹脂は、置換及び非置換フラン、エポキシ、ポリウレタン、又はフェノール樹脂であってもよい。反応性熱可塑性樹脂は、硬化後に熱硬化性樹脂と同様の性能を有してもよく、液体又は粉末形態であってもよい。このような結合剤は、容易に入手可能であり、費用効率が高く、しばしば生分解性であり、環境に優しい。特に、結合剤は、ポリフルフリルアルコール(PFA)である。バイオベースポリマーの中では、ポリ乳酸、ポリL-ラクチド、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリアミド、ポリプロピレン(PP)、及びポリエチレンテレフタレートを挙げることができる。
【0054】
上述したように、驚くべきことに、本発明のセルロース繊維基材を構成するプリプレグのスタックは層を含むが、本発明による最終的なセルロース繊維基材は、
図3b及び
図7に示すように、均質なセルロース繊維基材から作製されていると認識されることが見出された。理論に束縛されるものではないが、このような効果は、セルロース繊維の長さが10mm未満、好ましくは4mm未満であることによって達成されると考えられる。上述したように、短い親水性セルロース繊維は、結合剤によって実質的に完全に含浸される。また、プリプレグのスタックに高圧を加えて、セルロース繊維基材を形成した場合、繊維長が短いために、破断することなくセルロース繊維を再配列することができるので、亀裂がほとんど発生しない。更に、亀裂がプリプレグのスタックの層のうちの1つに現れたとしても、亀裂は、プリプレグのスタックの隣接する層のうちの少なくとも1つからのセルロース繊維によって充填され得る。
図8は、セルロース繊維基材の断面を示すが、製造プロセス中に使用されるセルロース繊維の単一層を識別することはできない。本発明による製造方法における、短繊維の驚くべき浮遊効果によって可能になる特性である。
【0055】
本発明によるセルロース繊維基材は、少なくとも40MPa、好ましくは少なくとも50MPa、より好ましくは少なくとも100MPaの引張り強度及び/又は曲げ強度を有する。当業者であれば、このような引張り強度及び/又は曲げ強度が、短いセルロース繊維に基づくセルロース繊維基材を含む物品にとって極めて驚くべきものであることを直ちに理解する。このような高い引張り強度及び/又は曲げ強度は、木材及びプラスチックをベースとするセルロース繊維基材を含む物品の引張り強度及び/又は曲げ強度を超え、特定のセルロース繊維基材を使用した場合に得られる引張り強度及び/又は曲げ強度に匹敵する。
【0056】
本発明による基材の機械的特性の測定結果は、以下のとおりだった。
【表1】
【0057】
図5は、ISO527による引張り強度試験の結果を示す。異なる厚さを有する6つの異なる試験片を試験した。
図5に示す表からわかり得るように、平均引張り強度は166MPaであると測定され、この強度は、木材及び木質材料の引張り強度を明らかに超えており、GFRPなどの多孔質セラミック及び複合材に匹敵する(
図6)。
【0058】
本発明のセルロース繊維基材の高い引張り強度及び/又は曲げ強度の理由の1つは、繊維と結合剤との間の良好な接着であると考えられる。結合剤は、繊維が互いに捕捉されて固定され、したがって、セルロース繊維基材の引張り強度及び/又は曲げ強度に寄与するように、繊維の互いへの機械的内部架橋に寄与する。
【0059】
セルロース繊維基材の高い引張り強度及び/又は曲げ強度の別の理由は、製造中に3D物品における繊維配向を決定する可能性である。
【0060】
セルロース繊維は、ランダムに配向されてもよく、又は繊維の長手方向の延長が実質的に平行に若しくは実質的に交差するように配向されてもよい。この目的のために、繊維は、繊維の主要部分の長手方向の延在(粒子方向)が同じ方向に整列されるように、配置されてもよい。これは、スタック中の1つ以上のプリプレグを特定の方向に配置することによって達成することができる。特に、少なくとも1つのプリプレグは、少なくとも1つのプリプレグ中のセルロース繊維の粒子方向が少なくとも1つのプリプレグの他方のセルロース繊維の粒子方向に実質的に平行であるように配向されてもよい。粒子方向に平行である方向における引張り強度及び/又は曲げ強度は、粒子方向に垂直である方向における引張り強度及び/又は曲げ強度と比較して、著しく高く、例えば2倍も高いことが示されている。したがって、引張り強度及び/又は曲げ強度及び/又は曲げ強度が意図された用途に適合されるように、セルロース繊維基材を設計することが可能である。
【0061】
少なくとも1つのプリプレグのそれぞれのセルロース繊維はまた、セルロース繊維が十字形状に配置されるように配向されてもよい。次いで、少なくとも1つのプリプレグは、少なくとも1つのプリプレグのうちの一方のセルロース繊維の粒子方向が、少なくとも1つのプリプレグのうちの他方のセルロース繊維の粒子方向に対して垂直であるように配置され得る。少なくとも1つのプリプレグはまた、少なくとも1つのプリプレグのうちの一方のセルロース繊維の粒子方向が、少なくとも1つのプリプレグのうちの他方のセルロース繊維の粒子方向に対して0~90°の角度をなすように配置されてもよく、それによって、0~直角の範囲の角度を有する十字形状を実現する。
【0062】
麻、亜麻、ラミー、及びサイザルなどの長いセルロース繊維を含むセルロース繊維基材は、かなり高い引張り強度及び/又は曲げ強度を示し得ることが知られている。驚くべきことに、短いセルロース繊維、すなわち最大10mm、好ましくは最大4mmの長さを有するセルロース繊維を含むセルロース繊維基材を含む、本発明の3D物品は、長いセルロース繊維を有する天然繊維セルロース繊維基材に匹敵する引張り強度及び/又は曲げ強度を示すことが見出された。同時に、短いセルロース繊維に結合剤が含浸されるという事実のために、短いセルロース繊維を含む物品は、長いセルロース繊維を含む物品と比較して、より大きな程度まで撥水性になる。「撥水性」という用語は、疎水性であること及び/又は水が材料に浸透するのを防ぐ密度を有することを意味する。短いセルロース繊維は、製造中にセルロース繊維基材内で容易に移動可能であるので、繊維が「浮遊」して、複雑な表面構造を有するセルロース繊維基材の製造中に現れ得る亀裂及び裂け目を埋めることができるので、層は融合することが可能になる。本発明によれば、小さな曲率半径を有するセルロース繊維基材を製造することが可能であり、このような製造は、複雑な3D構造を作成する分野において公知の課題である。
【0063】
本発明によるセルロース繊維基材は、場合によっては製造プロセスと組み合わせた結合剤の性質により、高い耐湿性を示す。更に、本発明によるセルロース繊維基材は、PFAを使用する場合、自己消火性であることが見出された。
【0064】
更に、本発明によるセルロース繊維基材は引火性であり、かつ自己消火性であることが見出された。IEC60695-2-12:2021に従って実施したグローワイヤ試験によれば、本発明によるセルロース繊維基材は、結合剤としてPFAを用いて硬化させた場合、650℃及び850℃での温度試験に合格した。本発明によるセルロース繊維基材は、STD104-0001/ISO3795に従って耐火性であり、STD423-0061に従って耐UV性であり、STD423-0030に従って耐引掻性であり、Volvo STD423-0055に従って耐熱性であり、EN13087に従って耐衝撃性であり、Volvo STD429-0003に従って試験されたVOCフリーである。本発明によるセルロース繊維基材の密度は、ISO11183に従って134g/cm3と測定され、ガラス転移温度Tgは、ISO11358に従って145℃と測定され、シャルピー衝撃強度は、ISO179に従って8.6kJ/m2と測定された。本発明によるセルロース繊維基材に対して実施されたライフサイクル分析計算は、0.65kgCO2相当量をもたらした。
【0065】
本発明のセルロース繊維基材の例は、ヘルメット及びスケートボードなどのスポーツ器具、椅子及びテーブルなどの家具、並びにダッシュボード、ドアハンドル及び内装部品などの車両部品である。更に、セルロース繊維基材は、建築物及び建造物、家電製品、大型家電などに使用され得る。
【0066】
したがって、本発明のセルロース繊維基材は、プラスチック及びGFRPなどのより高価でかつ環境に優しくない材料を含む現在入手可能なセルロース繊維基材を、引張り強度及び曲げ強度を損なうことなく、プラスチック及び木材と比較して引張り強度及び曲げ強度を更に改善して、置き換えることができる。
【0067】
本発明のセルロース繊維基材は高い耐湿性を有し、このことは、セルロース繊維基材が屋外での使用、又は浴室若しくは多湿気候などの湿潤環境での使用が意図される場合に非常に有益である。更に、本発明のセルロース繊維基材の表面の仕上げは、非常に装飾的で審美的に魅力的であり、所望の用途に更に調整することができる。特に、セルロース繊維基材の表面は、艶があってもよく、又は艶消しされていてもよい。セルロース繊維基材は、光沢-サテン仕上げ、艶消し仕上げ、ざらざらした表面、模様のある表面を有してもよく、又は文字若しくは絵を有する表面を有してもよい。本発明によるセルロース繊維基材及びそれから製造される3D物品は、細部全体にわたって様々な厚さを有してもよく、又は細部全体にわたって同じ厚さを有してもよい。
【0068】
本発明によるセルロース繊維基材及びそれから製造される3D物品は、少なくとも1.5mm、好ましくは少なくとも2.5mm、好ましくは少なくとも5mm、より好ましくは少なくとも10mmの厚さを有し得る。上記から明らかなように、本発明のセルロース繊維基材は、比較的薄いにもかかわらず、従来にない強度を示す。したがって、セルロース繊維基材は、軽量かつスリムな構造と、優れた衝撃強度と、を併せ持つ。本発明によるセルロース繊維基材及びそれから製造される3D物品はまた、少なくとも20mm、好ましくは少なくとも40mm、より好ましくは少なくとも50mmの厚さなど、著しく大きい厚さを有してもよい。更に、セルロース繊維基材の総表面積は、少なくとも0.1m2であってもよい。特に、セルロース繊維基材の総表面積は、0.3m2~100m2であってもよい。換言すれば、セルロース繊維基材は、かなり大きくても、依然として従来にない強度を示すことができ、これにより、このような物品を衝撃吸収用途に使用することが可能になる。
【0069】
本発明のセルロース繊維基材は剛性であってもよい。本発明の文脈における「剛性」という用語は、可撓性が不足しているか、又は可撓性を欠いていることを意味することが意図されている。セルロース繊維基材中のセルロース繊維は、シートの形態で提供されてもよい。
【0070】
本発明の3D物品が製造されるもととなるセルロース繊維材料は、結合剤が含浸されたセルロース繊維の少なくとも1つの層の形態であってもよい。更に、本発明の3D物品が製造されるもととなるセルロース繊維基材は、少なくとも2つの層、好ましくは少なくとも3つの層を含むプリプレグのスタックであってもよい。「プリプレグのスタック」という用語は、積層することによって、すなわち、1つ以上の材料の重ね合わされた層を一体化することによって作製される製品と理解される。実際には、プリプレグのスタックは、3層より多い、例えば、少なくとも4つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも6つの層を含んでもよい。各層は、好ましくは、上述したようなセルロース繊維及び結合剤を含む。
【0071】
驚くべきことに、本発明のセルロース繊維基材を構成するプリプレグのスタックは層を含むが、本発明による最終的なセルロース繊維基材は、均質なセルロース繊維基材から作製されていると認識されることが見出された。理論に束縛されるものではないが、このような効果は、セルロース繊維の長さが10mm未満、好ましくは4mm未満であることによって達成されると考えられる。上述したように、短い親水性セルロース繊維は、結合剤によって実質的に完全に含浸される。また、プリプレグのスタックに高圧及び高温を加えて、セルロース繊維基材を形成した場合、繊維長が短いために、破断することなくセルロース繊維を再配列することができるので、亀裂がほとんど発生しない。圧力は、少なくとも20kg/cm2、好ましくは少なくとも25kg/cm2、より好ましくは30kg/cm2であってもよく、温度は、少なくとも60℃、好ましくは少なくとも140℃、より好ましくは少なくとも150℃であってもよい。特に、温度は148℃~152℃であってもよい。更に、亀裂がプリプレグのスタックの層のうちの1つに現れたとしても、亀裂は、製造プロセス中に、プリプレグのスタックの隣接する層のうちの少なくとも1つからのセルロース繊維によって充填され得る。
【0072】
プリプレグのスタックが使用される場合、プリプレグのスタックの各層は、繊維の長手方向の延在が、得られるセルロース繊維基材の意図される使用に適合されるように、他の層に対して配置されてもよい。
【0073】
プリプレグのスタックの各層は、0.01mm~10mmの厚さを有してもよい。実際、各層の厚さは、上述したようなセルロース繊維基材の総厚に依存する。したがって、セルロース繊維基材がセルロース繊維基材の1つの層のみを含む場合、層の厚さは、セルロース繊維基材の厚さに実質的に等しい。複数の層が存在する場合、各層の厚さは、プリプレグのスタック中の他の層の厚さと同じであっても異なっていてもよい。本発明の文脈における「複数」という用語は、少なくとも2つを意味する。
【0074】
上に開示したプリプレグのスタックは、プリプレグの高圧スタック(HPL)であってもよい。HPLは、セルロース繊維を含む複数層のクラフト紙に結合剤を浸透させることによって製造される。
【0075】
本発明によるセルロース繊維基材は、少なくとも1つの表面層を含んでもよい。「表面層」という用語は、本発明の文脈において、セルロース繊維基材の表面上に配置されている層であると理解される。このような表面層は、耐引掻性、耐UV性、食品適合性、美的外観、抗菌性、色、表面構造、摩擦、又は所望され得る任意の他の機能性を提供するために配置され得る。
【0076】
加熱加圧成形によるセルロース繊維基材の製造方法は、以下の工程:
a)10mmの最大長を有するセルロース繊維の少なくとも1つのシートを提供する工程と、
b)少なくとも1つのセルロース繊維シートに、酸性硬化触媒と、セルロース、ヘミセルロース、フラン、リグニン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される結合剤と、の混合物を含浸させ、少なくとも1つの含浸セルロース繊維シートを得る工程と、
c)50~300℃の範囲の熱を加えることによって、少なくとも1つの含浸セルロース繊維シートを予備硬化させて、それによってプリプレグを得る工程と、
d)1つ以上のプリプレグをスタックに配置する工程と、
e)少なくとも7kg/cm2、好ましくは少なくとも25kg/cm2、より好ましくは少なくとも30kg/cm2の圧力で、及び少なくとも60℃、好ましくは少なくとも140℃、より好ましくは少なくとも150℃の温度で、少なくとも10秒間、好ましくは少なくとも1分間、より好ましくは少なくとも2分間、前記スタックをプレスツール内でプレスして、それによって少なくとも1つの上面及び1つの底面を有するセルロース繊維基材を得る工程と、
を含む。
【0077】
上述の方法は、f)セルロース繊維基材の縁部を切断する工程と、h)セルロース繊維基材に空洞を作成する工程と、を更に含んでもよい。
【0078】
要約すると、本発明は、天然で、容易に入手可能で、再生利用性が高く、したがって環境に優しく、費用効率の高い材料であるセルロース繊維を含む、セルロース繊維基材を提供する。本発明の驚くべきかつ予想外の効果は、本発明のセルロース繊維基材の機械的特性、例えば、曲げ強度及び引張り強度が、GFRPから製造された3D物品の引張り強度及び/又は曲げ強度に匹敵するだけでなく、本発明はバイオベース結合剤と組み合わせた短いセルロース繊維から作製されていることであり、このことは、特に非可展部分を含む複雑な3D表面を作製するための設計の自由度を提供する。本発明の別の利点は、食品及び農産業からの副生成物が結合剤として使用されることであり、このことは循環型経済に寄与し、環境に優しい。
【0079】
本発明は、添付の図面及び前述の説明において例示されているが、このような例示は、説明的又は例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。本発明は、開示された実施形態に限定されない。開示された実施形態に対する他の変形は、図面、本開示、及び添付の特許請求の範囲の検討から、特許請求される発明を実施する際に当業者によって理解され、達成され得る。添付の特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という語は、他の要素又は工程を除外せず、不定冠詞「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、複数を除外しない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを有利に使用することができないことを示すものではない。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。以下の項目[態様1]~[態様22]に本発明の実施形態の例を列記する。
[態様1]
セルロース繊維基材であって、
少なくとも1つの上面と、
少なくとも1つの底面と、
を含み、
前記セルロース繊維基材は、
最大10mmの長さを有する60~90重量%のセルロース繊維と、
0~10%の酸性硬化触媒と、
セルロース、ヘミセルロース、フラン、リグニン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される10~40重量%の結合剤と、
を更に含むことを特徴とする、
セルロース繊維基材。
[態様2]
前記結合剤が、ポリフルフリルアルコール(PFA)である、態様1に記載のセルロース繊維基材。
[態様3]
前記セルロース繊維が、0~100%の未使用セルロース繊維と、0~100%の再生利用セルロース繊維と、を含む態様1又は2に記載のセルロース繊維基材。
[態様4]
前記少なくとも1つの上面及び/又は底面が、少なくとも1つの可展及び/又は非可展表面部分を有する、態様1~3のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材。
[態様5]
前記基材中の前記セルロース繊維が実質的に平行に配置されるか、又は前記基材中の前記セルロース繊維が実質的に交差して配置されるか、又は前記基材中の前記セルロース繊維が実質的にランダムに配置されるか、又はこれらの組み合わせで配置される、態様1~4のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材。
[態様6]
前記基材が、少なくとも1つの空洞を含む、態様1~5のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材。
[態様7]
態様1~6のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を含む、耐荷重性3D物品。
[態様8]
前記耐荷重性物品が、少なくとも40MPa、好ましくは少なくとも50MPa、より好ましくは少なくとも100MPaの引張り強度を有する、態様10に記載の耐荷重性3D物品。
[態様9]
前記耐荷重性物品が、少なくとも2.5mm、好ましくは少なくとも5mm、より好ましくは少なくとも10mmの厚さを有する、態様10又は8に記載の耐荷重性3D物品。
[態様10]
少なくとも1つの上面と、1つの底面と、を含むセルロース繊維基材を製造するための方法であって、前記方法が、
a)10mmの最大長を有するセルロース繊維の少なくとも1つのシートを提供する工程と、
b)前記少なくとも1つのセルロース繊維シートに、酸性硬化触媒と、セルロース、ヘミセルロース、フラン、リグニン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される結合剤と、の混合物を含浸させ、少なくとも1つの含浸セルロース繊維シートを得る工程と、
c)50~300℃の範囲の熱を加えることによって、前記少なくとも1つの含浸セルロース繊維シートを予備硬化させて、それによってプリプレグを得る工程と、
d)1つ以上の前記プリプレグをスタックに配置する工程と、
e)少なくとも7kg/cm
2
、好ましくは少なくとも25kg/cm
2
、より好ましくは少なくとも30kg/cm
2
の圧力で、及び少なくとも60℃、好ましくは少なくとも140℃、より好ましくは少なくとも150℃の温度で、少なくとも10秒間、好ましくは少なくとも1分間、より好ましくは少なくとも2分間、前記スタックをプレスツール内でプレスして、それによって少なくとも1つの上面及び1つの底面を有するセルロース繊維基材を得る工程と、
を含む、方法。
[態様11]
前記結合剤が、ポリフルフリルアルコール(PFA)である、態様10に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様12]
前記セルロース繊維が、0~100%の未使用セルロース繊維と、0~100%の再生利用セルロース繊維と、の混合物を含む、態様10又は11に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様13]
前記セルロース繊維が、紙の形態で提供される、態様10~12のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様14]
前記上面及び/又は前記底面が、少なくとも1つの可展及び/又は非可展表面部分を有する、態様10~13のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様15]
前記セルロース繊維基材が、少なくとも80%の量のバイオベース炭素を有する、態様10~14のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様16]
前記セルロース繊維基材が、60~90重量%の前記セルロース繊維を含む、態様10~15のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様17]
前記セルロース繊維基材が、10~40重量%の前記結合剤を含む、態様10~16のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様18]
前記セルロース繊維基材が、0~10重量%の前記酸性触媒を含む、態様10~17のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様19]
前記スタック中の前記プリプレグが、前記プリプレグ中の粒子方向が実質的に平行であるように配向される、態様10~18のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様20]
前記スタック中の前記プリプレグが、前記プリプレグ中の粒子方向の角度が隣接する前記プリプレグに対して0~90°の範囲であるように配向される、態様10~19のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様21]
f)前記プリプレグ及び/又は前記セルロース繊維基材を所定の形状に切断する工程を更に含む、態様10~20のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。
[態様22]
g)前記セルロース繊維基材に空洞を作製する工程を更に含む、態様10~21のいずれか一態様に記載のセルロース繊維基材を製造するための方法。