(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-08
(45)【発行日】2025-08-19
(54)【発明の名称】HIFU照射装置
(51)【国際特許分類】
A61N 7/00 20060101AFI20250812BHJP
【FI】
A61N7/00
(21)【出願番号】P 2024115422
(22)【出願日】2024-07-19
【審査請求日】2024-10-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】720007925
【氏名又は名称】ソニア・セラピューティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川畑 健一
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-259806(JP,A)
【文献】特開2013-055984(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第116115258(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112023284(CN,A)
【文献】荒井修,ほか4名,音響放射力を用いた焦点イメージング:強力集束超音波の熱凝固領域を予測する新たな方法,超音波医学,2013年,第40巻,第5号,pp.495-506
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 7/00
A61N 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用の複数の超音波振動子と、
Bモード画像データを取得するための超音波プローブと、
複数の前記超音波振動子を制御する振動子制御部と、
前記超音波プローブによって前記Bモード画像データを取得するデータ取得部と、
前記振動子制御部および前記データ取得部を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
複数の前記超音波振動子から生体組織にプッシュ波を送信させる送信処理と、
前記Bモード画像データに基づいて、複数の前記超音波振動子から発せられる超音波の焦点に関する焦点情報を求める探索処理と、を実行し、
前記焦点情報は、前記焦点が存在する領域および前記焦点の位置のうち少なくとも一方を表し、
前記探索処理は、
前記生体組織におけるある深さについて前記
プッシュ波によって前記生体組織に発生したせん断波の振幅の極大点の位置の変化を求める位置変化決定処理であって、異なる複数の方向のそれぞれについて、各前記方向に向けて進む1つの前記極大点について位置の変化を求める位置変化決定処理と、
各前記方向について求められた前記極大点の位置の変化に基づいて、前記せん断波が発生した発生領域および発生点のうち少なくとも一方を求め、前記発生領域および前記発生点のうち少なくとも一方に基づいて前記焦点情報を求める処理と、を含み、
前記位置変化決定処理は、
前記データ取得部が時間経過と共に順次取得した前記Bモード画像データのそれぞれに基づいて、異なる時刻における各前記極大点の位置を求めることによって、各前記方向に向けて進む1つの前記極大点について位置の変化を求める処理を含むことを特徴とするHIFU照射装置。
【請求項2】
請求項1に記載のHIFU照射装置であって、
前記探索処理は、
前記生体組織におけるある深さにおける各前記極大点の位置の変化に基づいて、前記せん断波が発生した発生時刻における各前記極大点の位置を推定し、推定された各前記極大点の位置に基づいて前記焦点情報を求める処理を含むことを特徴とするHIFU照射装置。
【請求項3】
請求項1に記載のHIFU照射装置であって、
前記探索処理は、
異なる2方向のうち一方に向けて進む1つの前記極大点と、前記異なる2方向のうち他方に向けて進む1つの前記極大点のそれぞれについて、位置と時間との関係を近似関数で表した場合に、前記異なる2方向のうち一方についての前記近似関数で表される直線または曲線と、他方についての前記近似関数で表される直線または曲線との交点の座標が示す位置に基づいて、前記焦点情報を求める処理を含むことを特徴とするHIFU照射装置。
【請求項4】
請求項3に記載のHIFU照射装置であって、
前記探索処理は、
前記交点の座標が示す時間に基づいて、前記せん断波の発生時刻を求める処理を含むことを特徴とするHIFU照射装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のHIFU照射装置であって、
前記コントローラは、
前記プッシュ波が送信されたときから所定の時間が経過したときに取得された前記Bモード画像データに基づいて、前記生体組織における異なる複数通りの深さのそれぞれについて、
互いに逆方
向に進む
2つの前記極大点の振幅値を求め、
2つの前記極大点のうち一方について求められた振幅値が所定の閾値を超え
、かつ、2つの前記極大点のうち他方について求められた振幅値が所定の閾値を超える深さの範囲について、前記焦点情報を求めることを特徴とするHIFU照射装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のHIFU照射装置であって、
前記コントローラは、
前記プッシュ波が送信されたときから所定の時間が経過したときに取得された前記Bモード画像データに基づいて、前記生体組織における異なる複数通りの深さのそれぞれについて、異なる複数の方向のうちいずれかに向けて進む1つの前記極大点の振幅値を求め、その求められた振幅値が最大となる深さについて前記焦点情報を求め、前記せん断波の極大値が最大となる深さにおける前記焦点の位置を求めることを特徴とするHIFU照射装置。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のHIFU照射装置であって、
複数の前記超音波振動子は、凹面に沿って配置され、
前記超音波プローブは、前記凹面の中心軸上に配置されていることを特徴と
するHIFU照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIFU照射装置に関し、特に、治療用の複数の超音波振動子から発せられる超音波の焦点を探索する処理に関する。
【背景技術】
【0002】
強力集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound)を用いた治療装置が広く用いられている。この治療装置は、HIFU照射装置あるいはHIFU照射システムと称され、治療部位に集束超音波を照射して生体組織を壊死させる。
【0003】
一般に、HIFU照射装置は、凹面に沿って配置された治療用の複数の超音波振動子を備えている。複数の超音波振動子は、それぞれから発せられた超音波が一点に照射され焦点を形成するように配置されている。治療の際には、焦点の位置が治療部位に合わせられ超音波が照射される。照射位置の確認には、超音波画像上に焦点を表す超音波診断装置が用いられる。
【0004】
以下の特許文献1には、Bモード画像(超音波エコー強度に基づく断層画像)を表示する超音波診断装置を用いて焦点の位置を観測する超音波治療装置が記載されている。この装置では、組織に影響のない弱いレベルの超音波が治療用の超音波振動子から発せられると共に、超音波イメージングプローブによる超音波の送受信によって断層画像が表示される。患者の組織の音響特性は組織の温度変化に応じて変化するため、断層画像には焦点の位置が輝度の強弱によって示される。また、非特許文献1に示されているように、患者の組織には超音波の照射によって変位が生じるため、断層画像には焦点の位置が輝度の変化によって示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】ARFIを利用した組織硬度測定インターネット<https://www.innervision.co.jp/sp/ad/suite/siemens/technical_notes/140368>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
強力集束超音波を用いた治療では、音響特性が周囲と異なる領域が患者の組織にあると、治療用の超音波振動子から発せられる超音波が屈折する。これによって、音響特性が一様な場合に想定される焦点の位置に対して、実際の焦点の位置がずれてしまうことがある。これによって、治療用超音波の焦点の位置を治療部位に合わせる操作が困難となることがある。
【0008】
本発明の目的は、治療用超音波の焦点の位置を治療部位に合わせる操作を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るHIFU照射装置は、治療用の複数の超音波振動子と、Bモード画像データを取得するための超音波プローブと、複数の前記超音波振動子を制御する振動子制御部と、前記超音波プローブによって前記Bモード画像データを取得するデータ取得部と、前記振動子制御部および前記データ取得部を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、複数の前記超音波振動子から生体組織にプッシュ波を送信させる送信処理と、前記Bモード画像データに基づいて、複数の前記超音波振動子から発せられる超音波の焦点に関する焦点情報を求める探索処理と、を実行し、前記焦点情報は、前記焦点が存在する領域および前記焦点の位置のうち少なくとも一方を表し、前記探索処理は、前記生体組織におけるある深さについて前記プッシュ波によって前記生体組織に発生したせん断波の振幅の極大点の位置の変化を求める位置変化決定処理であって、異なる複数の方向のそれぞれについて、各前記方向に向けて進む1つの前記極大点について位置の変化を求める位置変化決定処理と、各前記方向について求められた前記極大点の位置の変化に基づいて、前記せん断波が発生した発生領域および発生点のうち少なくとも一方を求め、前記発生領域および前記発生点のうち少なくとも一方に基づいて前記焦点情報を求める処理と、を含み、前記位置変化決定処理は、前記データ取得部が時間経過と共に順次取得した前記Bモード画像データのそれぞれに基づいて、異なる時刻における各前記極大点の位置を求めることによって、各前記方向に向けて進む1つの前記極大点について位置の変化を求める処理を含むことを特徴とする。
【0011】
一つの実施形態では、前記探索処理は、前記生体組織におけるある深さにおける各前記極大点の位置の変化に基づいて、前記せん断波が発生した発生時刻における各前記極大点の位置を推定し、推定された各前記極大点の位置に基づいて前記焦点情報を求める処理を含む。
【0012】
一つの実施形態では、前記探索処理は、異なる2方向のうち一方に向けて進む1つの前記極大点と、前記異なる2方向のうち他方に向けて進む1つの前記極大点のそれぞれについて、位置と時間との関係を近似関数で表した場合に、前記異なる2方向のうち一方についての前記近似関数で表される直線または曲線と、他方についての前記近似関数で表される直線または曲線との交点の座標が示す位置に基づいて、前記焦点情報を求める処理を含む。一つの実施形態では、前記探索処理は、前記交点の座標が示す時間に基づいて、前記せん断波の発生時刻を求める処理を含む。
【0013】
一つの実施形態では、前記コントローラは、前記プッシュ波が送信されたときから所定の時間が経過したときに取得された前記Bモード画像データに基づいて、前記生体組織における異なる複数通りの深さのそれぞれについて、互いに逆方向に進む2つの前記極大点の振幅値を求め、2つの前記極大点の一方について求められた振幅値が所定の閾値を超え、かつ、2つの前記極大点のうち他方について求められた振幅値が所定の閾値を超える深さの範囲について、前記焦点情報を求める。
【0014】
一つの実施形態では、前記コントローラは、前記プッシュ波が送信されたときから所定の時間が経過したときに取得された前記Bモード画像データに基づいて、前記生体組織における異なる複数通りの深さのそれぞれについて、異なる複数の方向のうちいずれかに向けて進む1つの前記極大点の振幅値を求め、その求められた振幅値が最大となる深さについて前記焦点情報を求め、前記せん断波の極大値が最大となる深さにおける前記焦点の位置を求める。
【0015】
一つの実施形態では、複数の前記超音波振動子は、凹面に沿って配置され、前記超音波プローブは、前記凹面の中心軸上に配置されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、治療用超音波の焦点の位置を治療部位に合わせる操作を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】プッシュ波の焦点からせん断波が発生する様子を模式的に示す図である。
【
図3A】せん断波の振幅強度分布を拡大して示した図である。
【
図3B】せん断波の振幅強度分布の断面を示す図である。
【
図4A】超音波プローブの長軸をy軸方向に合わせ、観測面をyz平面に合わせて取得されたBモード画像の例を示す図である。
【
図4B】超音波プローブの長軸をy軸方向に合わせ、観測面をyz平面に合わせて取得されたBモード画像の例を示す図である。
【
図4C】超音波プローブの長軸をy軸方向に合わせ、観測面をyz平面に合わせて取得されたBモード画像の例を示す図である。
【
図5】生体組織におけるある深さz=D、時刻t=t1、t2およびt3のそれぞれにおけるせん断波の振幅の例を示す図である。
【
図6】第1近似線と第2近似線の例をty平面上に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
各図を参照して本発明の実施形態について説明する。複数の図面に示された同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を簡略化する。
図1には、本発明の実施形態に係るHIFU照射装置100の構成が示されている。HIFU照射装置100は、HIFU振動子ユニット10、超音波プローブ12、カップリング袋24、プローブ駆動部14、データ取得部16、振動子制御部18、表示部20およびコントローラ22を備えている。
【0019】
図1には、HIFU振動子ユニット10の断面が示されている。HIFU振動子ユニット10は、開口が下方に向けられた凹面30を有する振動子筐体26と、振動子筐体26における凹面30に沿って配置され、振動子筐体26に固定された複数の超音波振動子32を備えている。HIFU振動子ユニット10は、必ずしも実体的な凹面30を有していなくてもよい。この場合、複数の超音波振動子32は、仮想的な凹面に沿って配置されるように、振動子筐体26に固定されてよい。
【0020】
振動子筐体26の凹面30は、錐体の側面と同様の形状であってよい。ここで、錐体とは、空間内の1点から底面に伸びる直線の集合によって形成される立体形状をいう。また、振動子筐体26の凹面30は、上側にドーム状に膨らんだ形状を有してもよい。各超音波振動子32は、各超音波振動子32が超音波を発したときに、振動子筐体26の下方の治療基準点Pで、超音波の強度が強められるように振動子筐体26に固定されている。ここで、治療基準点Pは、治療部位または治療部位に含まれる点である。
【0021】
コントローラ22は、パーソナルコンピュータ、タブレットコンピュータ等であってよい。コントローラ22はプログラムの実行によって各機能を実現してよい。コントローラ22には、ユーザがHIFU照射装置100を操作するための操作機器(図示せず)が接続されている。操作機器は、マウス、表示部20と一体化されたタッチパネル、スイッチ、キーボード等を含んでよい。
【0022】
振動子制御部18は、プログラムを実行することで各超音波振動子32を制御するプロセッサによって構成されてよい。振動子制御部18は、コントローラ22の制御に応じて、各超音波振動子32に超音波を発生させる。また、振動子制御部18は、コントローラ22の制御に応じて、各超音波振動子32が発生する超音波の強度および遅延時間のうち少なくとも一方を調整する。
【0023】
上下方向に延伸する超音波プローブ12は、振動子筐体26の下方、かつ、治療基準点Pの上方の位置で超音波が送受信されるように、振動子筐体26に取り付けられている。本実施形態では、振動子筐体26の凹面30の頂点部を超音波プローブ12が上下方向に貫通し、超音波を送受信する送受信部28が下方に向けられている。
【0024】
HIFU振動子ユニット10の下方には、各超音波振動子32と患者との間、および超音波プローブ12と患者との間の音響インピーダンスを整合させるカップリング袋24が設けられている。カップリング袋24は、水等の液体が充填された袋であってよい。カップリング袋24の上方から内部には超音波プローブ12が貫通し、送受信部28がカップリング袋24の内部に位置している。
【0025】
HIFU振動子ユニット10、プローブ駆動部14およびカップリング袋24を備える可動体は、ロボットアーム等の搬送機構に取り付けられてよい。搬送機構は、コントローラ22によって制御されてよい。コントローラ22は、例えば、ユーザの操作に従って搬送機構を制御する。搬送機構は、コントローラ22の制御に従って可動体を搬送し、可動体の位置を調整してよい。
【0026】
データ取得部16には超音波診断装置が用いられてよい。データ取得部16は、コントローラ22の制御に応じて、次のような処理を実行する。すなわち、データ取得部16は、超音波プローブ12に超音波を送信させ、送信される超音波によるビーム(超音波ビーム)を走査させる。
【0027】
超音波プローブ12の送受信部28には長軸方向と短軸方向が定められており、長軸方向かつ送受信部28から離れる方向に広がる観測面44で超音波ビームが走査される。超音波プローブ12は、振動子筐体26の凹面30の頂点部を上下に貫通する中心軸40に沿って、HIFU振動子ユニット10に取り付けられている。
【0028】
データ取得部16は、超音波ビームが向けられた方向から到来する反射超音波を超音波プローブ12に受信させ、超音波ビームが向けられた各方向から受信された反射超音波に基づく受信信号を取得する。データ取得部16は、観測面44で得られた受信信号に基づいて超音波データを生成し、コントローラ22に出力する。超音波データは、例えば、観測面44に対して取得されたBモード画像(断層画像)を示すデータ(以下、Bモード画像データという)であってよい。
【0029】
超音波プローブ12は、プローブ駆動部14によって中心軸40周りで回転自在となっている。プローブ駆動部14は、HIFU振動子ユニット10に対して超音波プローブ12を中心軸40の周りで回転させる。すなわち、プローブ駆動部14は、コントローラ22の制御に応じて、超音波プローブ12を中心軸40の周りで回転させ、中心軸40の周りで超音波プローブ12の観測面44を回転させる。
【0030】
治療の際には、カップリング袋24の下方が患者に密着するように、カップリング袋24、超音波プローブ12およびHIFU振動子ユニット10が配置される。治療用超音波がHIFU振動子ユニット10から患者に照射される前には、以下のような位置決め処理が実行される。
【0031】
位置決め処理では、HIFU振動子ユニット10が備える複数の超音波振動子32から生体組織にプッシュ波を送信させる送信処理と、データ取得部16によって取得されたBモード画像データに基づいて、複数の超音波振動子32から発せられる超音波の焦点Fに関する焦点情報を求める探索処理とをコントローラ22が実行する。ここで、焦点情報は、焦点Fが存在する領域および焦点Fの位置のうち少なくとも一方を表す情報である。
【0032】
また、プッシュ波とは、生体組織内に焦点を形成し、その焦点から生体組織にせん断波を励振する超音波パルスをいう。プッシュ波は、粗密波を主成分とする超音波であってよい。せん断波は、伝搬方向に対してある特定の方向へ変位する波を主成分とする波動をいう。探索処理は、プッシュ波によって生体組織に発生したせん断波の動きを測定し、せん断波の動きに基づいて焦点情報を求める処理を含む。なお、プッシュ波については、対象とする生体組織でせん断波を生じさせるものであれば強度、波連の長さ等の特性に関する制限はない。
【0033】
コントローラ22は、焦点Fが存在する領域および焦点Fの位置のうち少なくとも一方を示す図形をBモード画像に重ねた、位置決め用画像を表示部20に表示させる。表示部20は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイや、これらのディスプレイを用いたコンピュータ、スマートフォン等の情報処理装置であってよい。
【0034】
ユーザは、位置決め用画像を参照し、焦点Fの位置と治療基準点Pの位置との相違を確認する。焦点Fの位置と治療基準点Pの位置との相違が許容範囲内でないときは、ユーザは、カップリング袋24、超音波プローブ12およびHIFU振動子ユニット10の位置または姿勢を変更する。あるいは、ユーザは、カップリング袋24と患者との接触状態を変更する。ユーザは、焦点Fの位置と治療基準点Pの位置とが一致していること、あるいは、焦点Fの位置と治療基準点Pの位置との相違が許容範囲内であることを確認した後に、コントローラ22に対して治療のための操作を行う。
【0035】
コントローラ22は、ユーザによる操作に応じて振動子制御部18を制御する。振動子制御部18は、コントローラ22による制御に応じて、治療に必要な強度を有する治療用超音波を各超音波振動子32に送信させる。これによって、焦点Fにおける生体組織が焼灼され、治療が施される。
【0036】
位置決め処理において実行される送信処理および探索処理について説明する。コントローラ22は、ユーザの操作に応じて、焦点Fに収束するプッシュ波を各超音波振動子32が送信するように振動子制御部18を制御する。振動子制御部18は、コントローラ22の制御に応じて、各超音波振動子32からプッシュ波を送信させる。
【0037】
図2(a)~(d)には、HIFU振動子ユニット10における各超音波振動子32から発せられたプッシュ波48の焦点Fからせん断波50が発生する様子が模式的に示されている。
図2では、HIFU振動子ユニット10から下方に向かう方向がz軸正方向とされ、z軸正方向に垂直なxy平面が定義されている。
【0038】
図2(a)には、プッシュ波48が伝搬する伝搬領域46と焦点Fが示されている。
図2(a)には、プッシュ波48が焦点Fに収束し、せん断波がこれから発生する状態が示されている。
図2(b)~(d)には、時間経過と共に焦点から離れる方向に向かってせん断波50が伝搬する様子が示されている。
図2(b)~(d)では、せん断波50は、その振幅強度分布で表されている。
ここで、せん断波50の振幅強度分布は、z軸方向への振幅成分を白黒の濃淡で表したものである。z軸方向への振幅成分が大きい領域程、濃い色が付されている。
【0039】
図3Aには、せん断波50の振幅強度分布が拡大して示され、
図3Bにはせん断波50の振幅強度分布の断面が示されている。
図2(b)~(d)および
図3に示されているように、せん断波50の振幅強度分布(エネルギー分布)は、焦点を中心にしてxy平面に沿って時間経過と共にドーナツ状に広がる。
【0040】
図1に戻って説明する。コントローラ22は、焦点Fで収束するプッシュ波を各超音波振動子32が送信するように振動子制御部18を制御すると共に、Bモード画像データを取得するようにデータ取得部16を制御する。すなわち、データ取得部16は、超音波プローブ12に超音波を送信させ、観測面44で超音波ビームを走査させる。
【0041】
データ取得部16は、超音波ビームが向けられた方向から到来する反射超音波を超音波プローブ12に受信させ、超音波ビームが向けられた各方向から受信された反射超音波に基づく受信信号を取得する。データ取得部16は、観測面44で得られた受信信号に基づいてBモード画像データを生成し、コントローラ22に出力する。
【0042】
データ取得部16は、超音波ビームを繰り返し走査させ、時間経過と共に順次、Bモード画像データを生成し、コントローラ22に出力する。コントローラ22は、時間経過と共に順次、データ取得部16から出力されたBモード画像データに基づくBモード画像を、時間経過と共に順次、表示部20に表示させる。
【0043】
図4A~
図4Cには、超音波プローブ12の長軸をy軸方向に合わせ、観測面44をyz平面に合わせて取得されたBモード画像の例が示されている。
図4BのBモード画像は、
図4AのBモード画像を示すBモード画像データが取得された時刻よりも後に取得されたBモード画像データに基づく画像である。
図4CのBモード画像は、
図4BのBモード画像を示すBモード画像データが取得された時刻よりも後に取得されたBモード画像データに基づく画像である。すなわち、
図4A、
図4Bおよび
図4Cは、それぞれ、時刻t=t1、t2およびt3において取得されたBモード画像データに基づくBモード画像であり、時刻t=t2は時刻t=t1よりも後の時刻であり、時刻t=t3は時刻t=t2よりも後の時刻である。
【0044】
図4A~
図4Cに示される例では、(z,y)=(8mm,0mm)の位置に幾何学焦点がある。ここで、幾何学焦点とは、各超音波振動子32の位置や、各超音波振動子32が発生する超音波の強度および遅延時間に基づいて、物理学および幾何学に基づく理論によって定まる焦点の位置である。
図4A~
図4Cにおける横軸は、幾何学焦点からの距離yを示している。以下の説明では、幾何学焦点からの距離yをy座標値と称することがある。
【0045】
図4A~
図4Cに示されているBモード画像では、せん断波の振幅が大きい領域程、白色に近い色が付され、せん断波の振幅が小さい領域程、黒色に近い色が付されている。各図の右側には、画素の濃淡(明暗)と、画素値とを対応付けたインジケータが示されている。
図4A~
図4Cに示されているように、時間経過と共に、淡い色で示されたせん断波は幾何学焦点から離れる方向に進んでいく。
【0046】
図5には、生体組織におけるある深さz=D、時刻t=t1、t2およびt3のそれぞれにおけるせん断波の振幅の例が示されている。横軸はy座標値[mm]を示し、縦軸はせん断波の振幅を示す。縦軸の[a.u.]は任意の単位であることを示す。せん断波の振幅は、例えば、せん断波の振幅強度分布のyz平面内での平均値によって規格化した値や、yz平面上におけるせん断波のエネルギーの平方根で規格化した値等であってよい。
【0047】
図5に示されている例では、各超音波振動子32がプッシュ波を送信した時刻をt=0として、t1=2.0[msec]、t2=2.5[msec]、t3=3.0[msec]である。せん断波の振幅の極大点は、時間経過と共に幾何学焦点から離れていく。そして、せん断波の振幅の極大点における振幅値、すなわち極大値は、幾何学焦点から離れるにつれて小さくなる。
図5では、時間経過と共にy軸正方向(右方向)に進む極大点が黒丸で示されている。また、時間経過と共にy軸負方向(左方向)に進む極大点が黒塗りの矩形で示されている。
【0048】
コントローラ22は、y軸正方向に進む極大点について、極大点のy座標値と時刻tとの関係を示す第1近似関数と、y軸負方向に進む極大点について、極大点のy座標値と時刻との関係を示す第2近似関数とを求めた場合において、ty平面で第1近似関数が示す曲線または直線と、ty平面で第2近似関数が示す曲線または直線との交点における時刻t=t0を求める。
【0049】
例えば、コントローラ22は、y軸正方向に進む極大点について、時刻t=t1、t2およびt3のみならず、あらゆる時刻tにおけるy座標値を近似して表す直線または曲線を示す第1近似関数を、最小自乗近似等による回帰分析によって求める。また、コントローラ22は、y軸負方向に進む極大点について、時刻t=t1、t2およびt3のみならず、あらゆる時刻tにおけるy座標値を近似して表す直線または曲線を示す第2近似関数を、最小自乗近似等による回帰分析によって求める。
【0050】
第1近似関数は、y軸正方向に進む極大点の動きによって、せん断波の動きを表す関数である。1次関数の傾きは、y軸正方向に進む極大点の速度を示す。第2近似関数は、y軸負方向に進む極大点の動きによって、せん断波の動きを表す関数である。2次関数の傾きは、y軸負方向に進む極大点の速度を示す。
【0051】
図6には、第1近似関数が示す第1近似線60-1と、第2近似関数が示す第2近似線60-2の例がty平面上に示されている。
図6に示されている例では、第1近似関数および第2近似関数は一次関数であり、第1近似線60-1および第2近似線60-2は直線である。
【0052】
コントローラ22は、第1近似線60-1と第2近似線60-2との交点の座標(y,t)=(A0(D),t0)を求める。ここで、A0(D)は、深さz=Dに対して求められた値であることを意味する。
【0053】
コントローラ22は、yz平面における位置が(y,z)=(A0(D),D)で表される位置を焦点の推定位置として求める。ここで、焦点の推定位置は、生体組織での深さがz=Dであるという限定された条件で探索された焦点の位置である。
【0054】
一つの処理例として、コントローラ22は、所定の時刻、例えば時刻t=t1、t2またはt3において、y軸正方向またはy軸負方向に進む極大点の振幅値が、z軸方向を見たときに最大となる深さz=Dfを焦点深さとして求める。コントローラ22は、焦点深さz=Dfについて、第1近似線60-1と第2近似線60-2との交点の座標(y,t)=(A0(Df),t0)を求め、yz平面における位置(y,z)=(A0(Df),Df)を焦点の位置として求めてよい。コントローラ22は、このようにして位置が求められた焦点を表す焦点図形をBモード画像に重ねた位置決め用画像を表示部20に表示させてよい。
【0055】
別の処理例として、コントローラ22は、所定の時刻、例えば時刻t=t1、t2またはt3におけるせん断波の大きさが所定のz方向条件を満たすz軸方向の範囲を焦点深さ範囲として求めてもよい。このz方向条件は、y軸正方向に進む極大点の振幅値が所定の閾値を超え、かつ、y軸負方向に進む極大点の振幅値が所定の閾値を超えるという範囲であってよい。
【0056】
この場合、コントローラ22は、y軸正方向に進む極大点の振幅値が所定の閾値を超え、かつ、y軸負方向に進む極大点の振幅値が所定の閾値を超えるz軸方向の範囲を焦点深さ範囲として求める。コントローラ22は、y=A0(Df)の位置で、z軸方向に焦点深さ範囲に亘って延びる直線を、焦点直線(後述する焦点領域の一つの形態)として求めてよい。コントローラ22は、焦点直線を表す焦点直線図形をBモード画像に重ねた位置決め用画像を表示部20に表示させてよい。
【0057】
さらに別の処理例として、コントローラ22は、時刻t=0における第1近似関数の値y=D1と、時刻t=0における第2近似関数の値y=D2を求める。コントローラ22は、D2≦y≦D1で定まるy軸方向の範囲を焦点横方向範囲として求める。コントローラ22は、焦点横方向範囲と、上述の焦点深さ範囲によって定まる矩形の領域を焦点領域として求める。焦点領域は、せん断波が発生した領域として推定される領域であり、治療用超音波の焦点Fが存在する領域である。
【0058】
コントローラ22は、焦点領域を表す矩形等の焦点領域図形をBモード画像に重ねた位置決め用画像を表示部20に表示させてよい。
図7には、Bモード画像に矩形の焦点領域図形70が重ねられた位置決め用画像が示されている。
図7に示される例では、時刻t=t1におけるBモード画像上に、矩形の枠で描かれた焦点領域図形70によって、焦点領域が示されている。
【0059】
上記では、3つの時刻t=t1、t2およびt3について求められた、異なる方向に進む2つの極大点の位置に基づいて、焦点、焦点直線または焦点領域を求める処理が示された。焦点、焦点直線または焦点領域は、2つまたは4つ以上の時刻について求められた異なる方向に進む2つの極大点の位置に基づいて求められてもよい。
【0060】
また、位置決め処理は、超音波プローブ12の中心軸40周りの複数の回転角度位置のそれぞれについて行われてもよい。この場合、コントローラ22は、ユーザの操作に応じて、超音波プローブ12の回転角度位置が調整されるように、プローブ駆動部14を制御する。プローブ駆動部14は、コントローラ22の制御に応じて、超音波プローブ12を中心軸40の周りで回転させ、中心軸40の周りで超音波プローブ12の観測面44を回転させる。観測面44の中心軸40周りの複数の回転角度位置のそれぞれについて位置決め処理が行われることで、焦点Fの位置がより正確に治療基準点Pに近付けられ、または一致させられる。
【0061】
本実施形態に係るHIFU照射装置100では、治療に用いられる複数の超音波振動子32からプッシュ波を生体組織に送信し、生体組織にせん断波を発生させる。HIFU照射装置100は、複数の超音波振動子32からプッシュ波を送信すると共に、Bモード画像データを取得し、せん断波の極大点の動きをBモード画像データに基づいて測定する。HIFU照射装置100は、極大点の動きに基づいて、せん断波が発生した焦点を推定し、焦点、焦点直線または焦点領域を求め、表示部20に表示する。焦点、焦点直線または焦点領域が表示部20に表示されることで、ユーザが治療基準点Pを焦点に合わせる作業が容易になる。
【0062】
上記では、y軸の正方向および負方向に移動するせん断波の極大点の位置の変化に基づいて、焦点、焦点直線または焦点領域を求める探索処理が示された。探索処理は、一般化された次のような処理であってもよい。
【0063】
すなわち、探索処理は、せん断波の複数の極大点のそれぞれの位置の変化を求める処理と、各極大点の位置の変化に基づいて、せん断波が発生した発生領域および発生点のうち少なくとも一方を求め、発生領域および発生点のうち少なくとも一方に基づいて、焦点情報を求める処理とを含んでよい。ただし、せん断波の複数の極大点は、異なる方向に進む複数の極大点である。上記の実施形態では、発生領域は、焦点直線または焦点領域として求められる。
【0064】
また、探索処理は、各極大点の位置の変化に基づいて、せん断波が発生した発生時刻における各極大点の位置を推定し、推定された各極大点の位置に基づいて焦点情報を求める処理を含んでよい。上記の実施形態では、発生時刻は時刻t=t0に相当する。
【符号の説明】
【0065】
10 HIFU振動子ユニット、12 超音波プローブ、14 プローブ駆動部、16 データ取得部、18 振動子制御部、20 表示部、22 コントローラ、24 カップリング袋、26 振動子筐体、28、送受信部、30 凹面、32 超音波振動子、40 中心軸、44 観測面、46 伝搬領域、48 プッシュ波、50 せん断波、60-1 第1近似線、60-2 第2近似線、70 焦点領域図形、100 HIFU照射装置。
【要約】
【課題】 本発明の目的は、治療用超音波の焦点の位置を治療部位に合わせる操作を容易にすることである。
【解決手段】コントローラ22は、複数の超音波振動子32から生体組織にプッシュ波を送信させる送信処理と、データ取得部16によって取得されたBモード画像データに基づいて、複数の超音波振動子32から発せられる超音波の焦点Fに関する焦点情報を求める探索処理とを実行する。焦点情報は、焦点Fが存在する領域および焦点Fの位置のうち少なくとも一方を表す情報である。探索処理は、プッシュ波によって生体組織に発生したせん断波の動きを測定し、せん断波の動きに基づいて、焦点情報を求める処理を含む。コントローラ22は、焦点Fが存在する領域および焦点Fの位置のうち少なくとも一方を示す図形をBモード画像に重ねた、位置決め用画像を表示部20に表示させる。
【選択図】
図1