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特許7725120圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンおよびその製造方法、並びに気密端子および電動コンプレッサ
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  • 特許-圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンおよびその製造方法、並びに気密端子および電動コンプレッサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-08
(45)【発行日】2025-08-19
(54)【発明の名称】圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンおよびその製造方法、並びに気密端子および電動コンプレッサ
(51)【国際特許分類】
   H01R 9/16 20060101AFI20250812BHJP
   H01R 43/20 20060101ALI20250812BHJP
   H01L 23/04 20060101ALI20250812BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20250812BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20250812BHJP
   C22C 27/06 20060101ALI20250812BHJP
   B22F 5/12 20060101ALI20250812BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20250812BHJP
【FI】
H01R9/16 101
H01R43/20 Z
H01L23/04 E
C22C9/00
C22C27/04 102
C22C27/06
B22F5/12
C22C1/04 A
C22C1/04 D
C22C1/04 E
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2025003008
(22)【出願日】2025-01-08
【審査請求日】2025-01-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592047249
【氏名又は名称】新興窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 星明
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-016174(JP,U)
【文献】特開2010-163687(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005090(WO,A1)
【文献】実開平04-119965(JP,U)
【文献】国際公開第2016/208551(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 9/16
H01R 13/02
H01R 43/20
H01L 23/04
C22C 9/00
C22C 27/04
C22C 27/06
B22F 5/12
C22C 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮封止型ガラスハーメチックシールを構成するリードピンであって、
Cuマトリックス中にCr相または/およびMo相が分散した金属組織を有する[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなり、
該[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、粉末冶金成形体の縮径延伸材であり、光学顕微鏡で断面組織観察をした時に、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散した軸方向断面組織と、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散した径方向断面組織を有することを特徴とする、圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピン。
【請求項2】
30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率が7.0~12.0×10-6/K、30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率が18.0×10-6/K以下であり、[30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率]<[30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率]であることを特徴とする、請求項1に記載の圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピン。
【請求項3】
軸方向の電気伝導率が20.0×10S/m以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピン。
【請求項4】
前記[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、Crまたは/およびMoの含有量が合計で35~60mass%であることを特徴とする、請求項1に記載の圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピン。
【請求項5】
前記[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなるピン本体の表面に表面処理皮膜を有することを特徴とする、請求項1に記載の圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピン。
【請求項6】
請求項1に記載されたリードピンを製造する方法であって、
粉末原料を焼結させる工程を経て[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる減面加工用の素材を得る工程(A)と、
該工程(A)で得られた素材を減面加工して棒状または線状に縮径延伸させる工程(B)と、
該工程(B)で得られた棒状または線状の素材を所定の長さに切断してピン材を切り出す工程(C)を有することを特徴とするリードピンの製造方法。
【請求項7】
前記工程(B)が素材を仕上げ引き抜き加工する工程を有することを特徴とする請求項6に記載のリードピンの製造方法。
【請求項8】
さらに、前記工程(B)で得られた棒状若しくは線状の素材、または工程(C)で得られたピン材の表面を研削または研磨する工程(D)を有することを特徴とする請求項6に記載のリードピンの製造方法。
【請求項9】
さらに、前記工程(C)を経たピン材に表面処理を施すことを特徴とする請求項6または7に記載のリードピンの製造方法。
【請求項10】
さらに、前記工程(C)および工程(D)をその順に経たピン材、または前記工程(D)および工程(C)をその順に経たピン材に表面処理を施すことを特徴とする請求項8に記載のリードピンの製造方法。
【請求項11】
圧縮封止型の気密端子において、
リードピンが、Cuマトリックス中にCr相または/およびMo相が分散した金属組織を有する[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなり、
該[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、粉末冶金成形体の縮径延伸材であり、光学顕微鏡で断面組織観察をした時に、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散した軸方向断面組織と、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散した径方向断面組織を有することを特徴とする気密端子。
【請求項12】
前記リードピンは、30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率が7.0~12.0×10-6/K、30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率が18.0×10-6/K以下であり、[30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率]<[30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率]であることを特徴とする請求項11に記載の気密端子。
【請求項13】
前記リードピンは、軸方向の電気伝導率が20.0×10S/m以上であることを特徴とする請求項11または12に記載の気密端子。
【請求項14】
前記[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、Crまたは/およびMoの含有量が合計で35~60mass%であることを特徴とする請求項11に記載の気密端子。
【請求項15】
前記リードピンは、前記[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなるピン本体の表面に表面処理皮膜を有することを特徴とする請求項11に記載の気密端子。
【請求項16】
請求項11または12に記載の気密端子を備えることを特徴とする電動コンプレッサ。
【請求項17】
請求項13に記載の気密端子を備えることを特徴とする電動コンプレッサ。
【請求項18】
請求項15に記載の気密端子を備えることを特徴とする電動コンプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮封止型ガラスハーメチックシールを構成するリードピンと、このリードピンを備えた気密端子などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスハーメチックシールは、金属製のステムベースに貫設された挿通孔にガラス(封止材)を介して金属製のリードピンを気密に封着したシールであり、例えば、気密容器内に収容された電気機器や素子に電流を供給したり、電気機器や素子から信号を外部に導出したりする場合に使用される。具体例としては、気密端子などが挙げられる。
【0003】
ガラスハーメチックシールには整合封止(封着)型と圧縮封止(封着)型があり、このうち整合封止型は、金属製ステムベース、金属製リードピンと封止ガラスの収縮差ができるだけ生じないように、金属製ステムベース、金属製リードピンと封止ガラスは熱膨張係数がほぼ同じものが用いられ、金属と封止ガラスの界面に形成された金属の酸化膜を介してリードピンを化学的に封止するものである。一方、圧縮封止型は、ステムベース(金属)と封止ガラスの熱膨張係数の差を利用し、ステムベース側から封止ガラスとリードピンに圧縮応力を与えてリードピンを機械的に封止するものである。ステムベースの挿通孔にリードピンとガラスをセットした状態でガラスを加熱溶融させ、その後に冷却して固化させると、ステムベースと封止ガラスの収縮量の差によりステムベースが封止ガラスとリードピンを圧縮し、リードピンを機械的に封止するものである。
【0004】
従来、この圧縮封止型の材料の組み合わせとしては、ステムベースにSC材やSPC材などの炭素鋼、リードピンに50%Ni-Fe合金などのNi-Fe合金やコバール、封止ガラスにソーダ系ガラスを用いるのが一般的である(例えば、特許文献1)。また、上記以外に、リードピンとしてステンレス鋼(SUS410、SUS430、SUH446など)などが、ステムベースとしてステンレス鋼(SUS304、SUS410など)やクロム鋼などが用いられる場合もある。この圧縮封止型ガラスハーメチックシールは、比較的安価な材料を利用できることから、従来、気密端子などに広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-27679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンには、次のような技術的課題がある。リードピンは、その軸方向において封止ガラスとの熱膨張差が大きいと、リードピンと封止ガラスとの界面に生じる軸方向せん断応力が大きくなる。例えば、コバール(熱膨張率:5.3×10-6/K)には、熱膨張率が7.6×10-6/Kの封止ガラス(FN-13W,日本電気硝子社製)が使用されているが、2×10-6/K程度の熱膨張率差が生じている。このため、使用時の温度上昇・下降が繰り返されることによる疲労で封止ガラスに亀裂を生じるおそれがあるなど、リードピンと封止ガラスとの接合信頼性が低下する問題がある。さらに、リードピンは、軸方向電気伝導率が低いと通電時の発熱量が高くなり、特に大電流の通電用には使用できないという問題がある。
【0007】
従来、リードピンに使用されている材料のなかで、Ni-Fe合金や一部のステンレス鋼は、軸方向での封止ガラスとの熱膨張差が比較的小さいものもあるが、従来リードピンに使用されているいずれの材料も軸方向電気伝導率が低く、上記のような課題に対応できない。特に、近年では、EV,HEV自動車用の電動コンプレッサは大電流化しており、その電源接続端子に使用する気密端子(圧縮封止型ガラスハーメチックシールを備える気密端子)のリードピンには、大電流の通電でも発熱量が十分に低く抑えられることが求められるが、上述した従来のリードピンではこの要求を満足できない。また、大電流の通電での発熱量を低減できるリードピンとして、「50%Ni-Feの中心に銅をクラッドした銅芯ピン」が使用されているが、発熱量の低減化には限界があり、また、電動コンプレッサのさらなる大電流化が進むとピン径が大きくなり、自動車用部品の小型化の要請に対応できなくなる。
【0008】
リードピンの電気伝導率が低いと、リードピンでの電力消費が大きくなり、搭載電池への負荷が大きくなる。EV車用にはさらに大電流が必要とされており、銅芯ピンも含め既存の材料では、気密端子で使用されているリードピン径(例えばφ3.2mm)には対応できないため、リードピン径をさらに大きくする必要がある。しかし、仮に現状の4倍の電流を流す場合、リードピン径はφ6.4mmとなり、これでは自動車用部品の軽量化、小型化にも問題が生じるうえ、リードピンの材料費も4倍となりコスト的にも問題となる。
以上述べたように、リードピンの材料としては、軸方向熱膨張率が比較的小さく、好ましくは封止ガラスの熱膨張率になるべく近い軸方向熱膨張率を有し、しかも軸方向電気伝導率ができるだけ高いものが求められるが、従来そのような要求を満足し得るような金属材料は知られていない。
【0009】
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決すべくなされたもので、その目的は、圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンであって、軸方向熱膨張率が比較的小さく且つ軸方向電気伝導率が高い特性を有し、これにより従来のリードピンに較べて封止ガラスとの接合信頼性が高く、しかも小径であっても大電流の通電が可能であり、通電時の発熱量が少ないリードピンを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記のような優れた特性および性能を有するリードピンを備えた気密端子、およびこの気密端子を用いた電動コンプレッサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、次のような知見を得た。
(i)粉末冶金で得られた[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる素材を減面加工(縮径延伸加工)して棒状若しくは線状に縮径延伸させた金属材料(すなわち粉末冶金成形体の縮径延伸材である[Crまたは/およびMo]-Cu複合体)は、Cuマトリックス中にCr相または/およびMo相が分散した金属組織を有するが、光学顕微鏡で断面組織観察をした時に、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散した延伸方向(軸方向)断面組織と、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散した延伸直角方向(径方向)断面組織を有する。従来、Cr-Cu複合体の板圧延材(平ロールで板状に圧延したもの)は知られているが、上記金属材料の断面組織は、このCr-Cu複合体の板圧延材の断面組織とは全く異なる。
【0011】
(ii)上記のような延伸方向(軸方向)・延伸直角方向(径方向)断面組織を有する金属材料(粉末冶金成形体の縮径延伸材である[Crまたは/およびMo]-Cu複合体)は、従来、圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンに使用されている金属材料とは異なる特有の性質(特性)を有する。すなわち、この金属材料は、延伸方向熱膨張率<延伸直角方向熱膨張率であって、延伸方向熱膨張率が比較的小さく、延伸直角方向熱膨張率が等方性であり、しかも高い延伸方向電気伝導率を有する。また、そのなかでも、さらに特性を最適化したものは、封止ガラスの熱膨張率に近い延伸方向熱膨張率とすることができ、しかもリードピンに広く用いられているNi-Fe合金などに較べて格段に高い延伸方向電気伝導率を有する。
【0012】
したがって、上記延伸方向を軸方向とし、延伸直角方向を径方向とする棒状または線状の金属材料(粉末冶金成形体の縮径延伸材である[Crまたは/およびMo]-Cu複合体)で構成されるリードピンは、軸方向熱膨張率<径方向熱膨張率であって、軸方向熱膨張率が比較的小さく、径方向熱膨張率が等方性であり、しかも高い軸方向電気伝導率を有する。また、そのなかでも、さらに特性を最適化したものは、封止ガラスの熱膨張率に近い軸方向熱膨張率とすることができ、しかもリードピンに広く用いられているNi-Fe合金などに較べて格段に高い軸方向電気伝導率を有する。
【0013】
さらに、この金属材料の大きな特徴は、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体のCrまたは/およびMoの配合率(含有量)や減面加工(縮径延伸加工)による材料の縮径延伸時の減面率を選択することにより、延伸方向(軸方向)熱膨張率の大きさを変える(調整する)ことができるという点にある。このため、リードピンの軸方向熱膨張率を封止ガラスの熱膨張率に極力近づけることができ、圧縮封止型ガラスハーメチックシールの課題であるリードピンと封止ガラスとの接合信頼性を最大限高めることができる。加えて、この金属材料は、縮径延伸時の減面率の大きさによって軸方向電気伝導率の大きさが変わり、減面率が大きくなるほど軸方向電気伝導率が大きくなる。このため、減面率を変えることで、適用機器などに応じてリードピンの軸方向電気伝導率を適宜調整することもできる。
(iii)この金属材料は、粉末原料を焼結させる工程を経て得られた[Crまたは/およびMo]-Cu複合体(粉末冶金成形体)からなる素材を減面加工(縮径延伸加工)して棒状または線状に縮径延伸させることにより、比較的容易に製造することができる。そして、このようにして製造された棒状または線状の金属材料を所定の長さに切断するだけで、リードピン(ピン基材)が得られる。
【0014】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]圧縮封止型ガラスハーメチックシールを構成するリードピンであって、
Cuマトリックス中にCr相または/およびMo相が分散した金属組織を有する[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなり、
該[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、粉末冶金成形体の縮径延伸材であり、光学顕微鏡で断面組織観察をした時に、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散した軸方向断面組織と、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散した径方向断面組織を有することを特徴とする、圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピン。
[2]上記[1]のリードピンにおいて、30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率が7.0~12.0×10-6/K、30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率が18.0×10-6/K以下であり、[30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率]<[30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率]であることを特徴とする、圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピン。
【0015】
[3]上記[1]または[2]のリードピンにおいて、軸方向の電気伝導率が20.0×10S/m以上であることを特徴とする、圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピン。
[4]上記[1]~[3]のいずれかのリードピンにおいて、前記[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、Crまたは/およびMoの含有量が合計で35~60mass%であることを特徴とする、圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピン。
[5]上記[1]~[4]のいずれかのリードピンを製造する方法であって、
粉末原料を焼結させる工程を経て[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる減面加工用の素材を得る工程(A)と、
該工程(A)で得られた素材を減面加工して棒状または線状に縮径延伸させる工程(B)と、
該工程(B)で得られた棒状または線状の素材を所定の長さに切断してピン材を切り出す工程(C)を有することを特徴とするリードピンの製造方法。
[6]上記[5]の製造方法において、前記工程(B)が素材を仕上げ引き抜き加工する工程を有することを特徴とするリードピンの製造方法。
[7]上記[5]または[6]の製造方法において、さらに、前記工程(B)で得られた棒状若しくは線状の素材、または工程(C)で得られたピン材の表面を研削または研磨する工程(D)を有することを特徴とするリードピンの製造方法。
【0016】
[8]圧縮封止型の気密端子において、
リードピンが、Cuマトリックス中にCr相または/およびMo相が分散した金属組織を有する[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなり、
該[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、粉末冶金成形体の縮径延伸材であり、光学顕微鏡で断面組織観察をした時に、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散した軸方向断面組織と、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散した径方向断面組織を有することを特徴とする気密端子。
[9]上記[8]の気密端子において、前記リードピンは、30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率が7.0~12.0×10-6/K、30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率が18.0×10-6/K以下であり、[30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率]<[30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率]であることを特徴とする気密端子。
【0017】
[10]上記[8]または[9]の気密端子において、前記リードピンは、軸方向の電気伝導率が20.0×10S/m以上であることを特徴とする気密端子。
[11]上記[8]~[10]のいずれかの気密端子において、前記[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、Crまたは/およびMoの含有量が合計で35~60mass%であることを特徴とする気密端子。
[12]上記[8]~[11]のいずれかの気密端子を備えることを特徴とする電動コンプレッサ。
【発明の効果】
【0018】
本発明のリードピンは、軸方向熱膨張率<径方向熱膨張率であって、軸方向熱膨張率が比較的小さく、径方向熱膨張率が等方性であり、しかも高い軸方向電気伝導率を有する。また、そのなかでも、さらに特性を最適化したものは、封止ガラスの熱膨張率に近い軸方向熱膨張率とすることができ、しかも従来リードピンに広く用いられているNi-Fe合金などに較べて格段に高い軸方向電気伝導率を有する。さらに、本発明のリードピンは、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体のCrまたは/およびMoの配合率(含有量)や減面加工(縮径延伸加工)による材料の縮径延伸時の減面率を選択することにより、軸方向熱膨張率の大きさを変える(調整する)ことができ、リードピンの軸方向熱膨張率を封止ガラスの熱膨張率に極力近づけることができる。加えて、本発明のリードピンは、縮径延伸時の減面率が大きくなるほど軸方向電気伝導率が大きくなるので、適用機器などに応じて軸方向電気伝導率を調整することもできる。
【0019】
このため本発明のリードピンは、封止ガラスとの接合信頼性を高めることができ、しかも小径であっても大電流の通電が可能であり、通電時の発熱量を少なくすることができ、例えば、自動車用の電動コンプレッサのさらなる大電流化と小型化にも十分に対応することができる。
また、上記リードピンを用いた本発明の気密端子、およびこの気密端子を用いた本発明の電動コンプレッサは、それぞれ上述した本発明のリードピンによる効果を享受できる。したがって、電動コンプレッサの容量によっては、リードピンを小径化することで非常にコンパクトな気密端子を実現することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例の1つであるリードピンを構成する線状の金属材料(50mass%Cr-Cu複合体からなるφ1.2mm線材)について、その材料表面のSEM画像(左側の写真)と、光学顕微鏡(倍率120倍)で観察した延伸方向(軸方向)断面組織の拡大写真(右側の写真)および延伸直角方向(径方向)断面組織の拡大写真(中央の写真)である。
図2】Cr焼結体にCuを溶浸させた50mass%Cr-Cu溶浸体を平ロールで板状に圧延した金属材料(50mass%Cr-Cu複合体の板圧延材)について、光学顕微鏡で観察した圧延方向断面組織と圧延直角方向断面組織の拡大写真である。
図3】圧縮封止型ガラスハーメチックシールを模式的に示したものであり、図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)のA-A線に沿う断面図である。
図4】本発明のリードピンの断面を模式的に示したものであり、上図がリードピンの径方向断面、下図が軸方向断面を示す図面である。
図5】本発明のリードピンを「気密端子が備える圧縮封止型ガラスハーメチックシール」に適用する場合における接合信頼性の検討に用いた圧縮封止型ガラスハーメチックシールの模式図(構成部材の寸法と熱膨張率、シール内の圧縮応力などを示す概念図)であり、図5(A)はシール全体の縦断面模式図、図5(B)は同じく平面模式図、図5(C)は封止ガラスの平面模式図である。
図6】本発明のリードピンを「気密端子が備える圧縮封止型ガラスハーメチックシール」に適用する場合における接合信頼性の検討に用いた圧縮封止型ガラスハーメチックシールの模式図(構成部材の寸法と熱膨張率、シール内の圧縮応力などを示す概念図)であり、図6(A)はシール全体の縦断面模式図、図6(B)はハウジング(ステムベース)および封止ガラスの平面模式図、図6(C)は封止ガラスおよびリードピンの平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<本発明のリードピン>
本発明のリードピンは、圧縮封止型ガラスハーメチックシールを構成するリードピンであって、Cuマトリックス中にCr相または/およびMo相が分散した金属組織を有する[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなり、この[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、粉末冶金成形体の縮径延伸材であり、光学顕微鏡(例えば倍率120倍)で断面組織観察をした時に、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散した軸方向断面組織と、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散した径方向断面組織を有することを特徴とする。
【0022】
ここで、リードピンはピン基材(ピン本体)の表面にNiメッキなどの表面処理皮膜を有するのが一般的であるが、本発明において「リードピン」という場合は、そのような表面処理皮膜を除く「ピン基材」を指すものとする。また、後述する気密端子および電動コンプレッサに関する発明においても同様である。
また、本発明において、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体とは、Cuマトリックス中にCr相が分散した金属組織を有するCr-Cu複合体、Cuマトリックス中にMo相が分散した金属組織を有するMo-Cu複合体、およびCuマトリックス中にCr相およびMo相が分散した金属組織を有するCr・Mo-Cu複合体を指す。
【0023】
また、本発明において粉末冶金成形体とは、粉末冶金法を適用して得られる成形体を指し、したがって、後述する製造方法における工程(A)で得られる成形体、例えば、(i)粉末原料の成形体(圧粉体)を焼結した焼結体とする工程(a1)と、この焼結体にCu溶浸または/および緻密化処理を施す工程(a2)を経て得られるもの、(ii)粉末原料を放電プラズマ焼結(SPS焼結)またはホットプレス焼結する工程を経て得られるもの、などを含む。また、粉末冶金成形体の縮径延伸材とは、上記のような粉末冶金成形体を減面加工(縮径延伸加工)して縮径延伸させた材料を指す。
また、本発明において、「Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散(する)」は、Cuマトリックス中に「層状のCr相または/およびMo相」と「線状のCr相または/およびMo相」の両方が分散(混在)する場合を含む。同じく「Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散(する)」は、Cuマトリックス中に「細片状のCr相または/およびMo相」と「小片状のCr相または/およびMo相」と「粒状のCr相または/およびMo相」のうちの2種以上が分散(混在)する場合を含む。
【0024】
本発明のリードピンを構成する金属材料は、粉末原料を焼結させる工程を経て得られた[Crまたは/およびMo]-Cu複合体(粉末冶金成形体)からなる素材を減面加工(縮径延伸加工)して棒状または線状に縮径延伸させることにより得られるものであり、その延伸方向を軸方向とし、延伸直角方向を径方向とする棒状体または線状体である。このため本発明のリードピンは、Cuマトリックス中に分散したCr粒子または/およびMo粒子が軸方向に針状ないしは棒状に細長く引き伸ばされたCr相または/およびMo相が生成され、上述したような特徴的な軸方向・径方向断面組織を有することになる。そして、このような特徴的な軸方向・径方向断面組織を有する[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、後述するような特有の性質、特に圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンに好適な性質を有しており、従来、このような金属材料([Crまたは/およびMo]-Cu複合体)は知られていない。
【0025】
本発明のリードピンを構成する棒状または線状の金属材料の径方向断面形状は、特に限定されないが、通常は断面円形または断面多角形(例えば、断面六角形、断面八角形、断面十六角形など)である。なお、棒状の材料(棒材)と線状の材料(線材)には厳密な区別はないが、一般的には、線状の材料(線材)とは巻取り可能なもの、棒状の材料(棒材)とは巻取りできないものを指す。
上述したように、この棒状または線状の金属材料は、粉末冶金で得られた[Crまたは/およびMo]-Cu複合体(粉末冶金成形体)を減面加工(縮径延伸加工)して棒状または線状に縮径延伸させることにより得られるが、この縮径延伸された金属材料を所定の長さに切断する(但し、この切断の前または後で仕上処理として表面研削・研磨をする場合がある)ことで本発明のリードピン(ピン基材)が得られる。
ここで、本発明において、「棒状または線状の金属材料」、「棒状または線状の材料」、「棒状または線状の素材」、「(材料を)棒状または線状に縮径延伸させる」という場合の「棒状」とは“棒材状”という意味であり、同じく「線状」とは“線材状”という意味である。
【0026】
図1に、本発明の実施例の1つであるリードピンを構成する線状の金属材料(50mass%Cr-Cu複合体からなるφ1.2mm線材)について、その材料表面のSEM画像(左側の写真)と、光学顕微鏡(倍率120倍)で観察した延伸方向(軸方向)断面組織の拡大写真(右側の写真)および延伸直角方向(径方向)断面組織の拡大写真(中央の写真)を示す。この延伸方向・延伸直角方向(軸方向・径方向)断面組織において、色の濃い部分がCuマトリックス(色の薄い部分)中に分散したCr相である。なお、この金属材料の製造条件は、角柱形状の減面加工用の素材(太さ9mm)をスウェージング加工とこれに続くコンバインドロール圧延で減面加工(縮径延伸加工)し、さらに、ローラダイス引き抜き加工(CRD)からなる仕上げ引き抜き加工を行って減面加工(縮径延伸加工)し、外径φ1.2mmとしたものである。
【0027】
この金属材料は、上述したように粉末冶金で得られたCr-Cu複合体(粉末冶金成形体)からなる素材を減面加工(縮径延伸加工)して棒状または線状に縮径延伸させたものであるので、上記素材(粉末冶金成形体)のCuマトリックス中に分散したCr粒子が針状ないしは棒状(後述する図2の板圧延材のような「扁平状」ではない)に細長く引き伸ばされ、その結果、図1に示すような断面組織となる。すなわち、まず、光学顕微鏡で観察される延伸方向(軸方向)断面組織は、上記針状ないしは棒状に延伸されたCr相が延伸方向で断面されることになるので、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相が分散したものとなる。この層状(「帯状」と表現することもできる)若しくは線状のCr相は、材料の延伸方向(軸方向)に沿って長く延びた状態で存在しており、通常、ある程度の幅を有する層状のものと細い線状のものとが混在している。このうち、ある程度の幅を有する層状のものは、下記するような理由により、近接した複数のCr粒子が延伸されて合体したCr相であると考えられる。この図1の延伸方向(軸方向)断面組織でも、Cr相はある程度の幅を有する層状のものと細い線状のものとが、材料の延伸方向(軸方向)に延びた状態で混在し、Cuマトリックス中に分散している。一方、光学顕微鏡で観察される延伸直角方向(径方向)断面組織は、上記針状ないしは棒状に延伸されたCr相が延伸直角方向で断面されることになるので、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相が分散したものとなる。通常、この断面組織のCr相は、細片状のものと小片状のものと粒状のものとが混在したものとなる。ここで、延伸直角方向断面でのCr相が細片状や小片状を呈するのは、素材(粉末冶金成形体)が縮径延伸されることでCr粒子が針状ないしは棒状に細長く引き伸ばされた際に、延伸直角方向でのCr相の分布に疎密が生じ、一部のCr相どうしが近接・接触または合体するためであると考えられる。この図1の延伸直角方向(径方向)断面組織でも、粒の細かいCr相(細片状、小片状若しくは粒状のCr相)がCuマトリックス中に比較的均一に分散している。この細片状、小片状若しくは粒状に見えるCr相は、上述したように針状ないしは棒状に細長く引き伸ばされたCr相の延伸直角方向(径方向)断面である。
なお、図1には、本発明の実施例の1つであるCr-Cu複合体からなる線状の金属材料(50mass%Cr-Cu複合体からなるφ1.2mm線材)の延伸方向・延伸直角方向(軸方向・径方向)断面組織を示したが、Mo-Cu複合体やCr・Mo-Cu複合体からなる本発明の金属材料についても、同様の延伸方向・延伸直角方向(軸方向・径方向)断面組織となる。
【0028】
比較のために、50mass%Cr-Cu複合体の板圧延材、すなわちCr焼結体にCuを溶浸させた50mass%Cu溶浸体を平ロールで板状に圧延した金属材料について、光学顕微鏡で観察した圧延方向断面組織と圧延直角方向断面組織を図2に示す。このCr-Cu複合体の板圧延材の場合には、圧延方向断面組織と圧延直角方向断面組織に顕著な違いはなく、圧延方向断面組織と圧延直角方向断面組織ともに、圧下率75%のものではCr相が擬似網目状にCuマトリックス中に分散し、圧下率98%のものでは、一方向に延伸したCr相が扁平状(擬似繊維状)にCuマトリックス中に分散している。この図2と比較すると、本発明のリードピンを構成する図1の金属材料が非常に特徴的な延伸方向・延伸直角方向(軸方向・径方向)断面組織を有していることが判る。特に、延伸直角方向断面組織については、図2の板圧延材は、Cr相が扁平状(擬似繊維状)に薄く延ばされた形態であるのに対して、図1の本発明材料は、Cr相が細片状、小片状若しくは粒状(延伸方向に針状または棒状に細長く引き伸ばされたCr相の延伸直角方向断面形状)に分散した形態であり、全く異なる形態を呈する。
【0029】
ここで、図2に示すCr-Cu複合体の板圧延材は、熱膨張率の小さい半導体やセラミックスと板面間で接合するヒートシンク用として開発されたものであり、上述したような断面組織を有することから、板面方向(圧延方向および圧延直角方向)の熱膨張率は小さい一方で、板厚方向の熱膨張率が大きい。このため、この板圧延材から圧延方向を軸方向とする軸体を切り出し、圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンとして用いた場合、ピン径方向熱膨張率が異方性を有することになり、ピン径方向断面の一方向においてリードピンと封止ガラスとの熱膨張差が大きくなり、封止ガラスに亀裂が生じるなど、十分な接合信頼性が得られない。
これに対して本発明のリードピンを構成する金属材料は、後述するように、従来知られている金属材料とは全く異なる特有の性質(特性)を有し、この特性はリードピンに非常に好適なものであり、上述したCr-Cu複合体の板圧延材(図2)のような問題も全く生じない。
【0030】
図3は、本発明のリードピンが使用される圧縮封止型ガラスハーメチックシールを模式的に示すものであり、図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)のA-A線に沿う断面図である。
この圧縮封止型ガラスハーメチックシールは、ステムベース1、リードピン2、封止ガラス3などで構成され、ステムベース1に貫設された挿通孔4に封止ガラス3(封止材)を介してリードピン2を気密に封着したシールである。
リードピンは、リード、メタルピン、ピン、フィードスルーなどと呼ばれることもあり、従来では、材料としてFe-Ni合金、コバール、ステンレス鋼(SUS410,SUS430,SUH446など)などが用いられている。上述した金属材料で構成される本発明のリードピンは、これら従来品の代替となり得るものであって、それらに較べて優れた性能を発揮する。
【0031】
図4は本発明のリードピンの断面を模式的に示したものであり、上図が径方向断面、下図が軸方向断面である。この図面は、Cuマトリックス中に分散したCr粒子または/およびMo粒子が延伸方向に針状ないしは棒状に細長く引き伸ばされることで生成したCr相または/およびMo相の断面を模式的に示したものである。
図4の軸方向断面(下図)において、短い線状に表わしたものがCuマトリックス中に分散した「層状若しくは線状のCr相または/およびMo相」であり、図1の右側の写真の断面組織のものと対応している。また、図4の径方向断面(上図)において、点状に表わしたものがCuマトリックス中に分散した「細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相」であり、図1の中央の写真の断面組織のものと対応している。この図面に示す通り、本発明のリードピンは、上述したような特有の軸方向・径方向断面組織を有する。
【0032】
さきに述べたように、圧縮封止型ガラスハーメチックシールを構成するリードピンには、(i)封止ガラスとの接合信頼性を確保するために、軸方向熱膨張率が比較的小さく、封止ガラスになるべく近いこと、(ii)小径であっても大電流の通電が可能であり、通電時の発熱量が少ないこと、すなわち軸方向電気伝導率が高いこと、などが求められる。
本発明のリードピンは、上述したような軸方向・径方向断面組織を有するため、従来の圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンとは異なる特有の性質(特性)を有する。すなわち、本発明のリードピンは、軸方向熱膨張率<径方向熱膨張率であって、軸方向熱膨張率が比較的小さく、しかも高い軸方向電気伝導率を有する。また、そのなかでも、下記のようにさらに特性を最適化したものは、封止ガラスの熱膨張率に近い軸方向熱膨張率とすることができ、しかもリードピンに広く用いられているNi-Fe合金などに較べて格段に高い軸方向電気伝導率を有する。また、本発明のリードピンは、粉末冶金成形体の縮径延伸材であり、上述したような延伸方向(軸方向)・延伸直角方向(径方向)断面組織を有するため、その径方向熱膨張率は径方向のどの方向でも同じであり、径方向熱膨張率が等方性を有する。
後述する実施例によれば、本発明のリードピン(発明例)は、いずれも径方向熱膨張率>軸方向熱膨張率であって、封止ガラスの熱膨張率(ただし、ガラスの種類によって熱膨張率は異なる)に近い比較的低い軸方向熱膨張率である。さらに、本発明のリードピン(発明例)は、軸方向電気伝導率が、従来リードピンに広く用いられている50.5mass%Ni-Fe(No.30の比較例)に較べて格段高い。
【0033】
以上のように本発明のリードピンは、総じて「軸方向熱膨張率<径方向熱膨張率であって、軸方向熱膨張率が比較的小さく、径方向熱膨張率が等方性であり、しかも高い軸方向電気伝導率を有する」という、従来のリードピンにはない特性を有するものであるが、さらに、以下のような大きな特徴がある。まず、このリードピンは、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体のCrまたは/およびMoの配合率(含有量)や減面加工(縮径延伸加工)による材料の縮径延伸時の減面率を選択することにより、軸方向熱膨張率の大きさを変える(調整する)ことができる利点がある。具体的には、材料の縮径延伸時の減面率が同じであればCrまたは/およびMoの配合率を高くするほど、また、Crまたは/およびMoの配合率が同じであれば、縮径延伸時の減面率97%程度までは減面率を大きくするほど、それぞれ軸方向熱膨張率を小さくすることができる。このため、リードピンの軸方向熱膨張率を封止ガラスの熱膨張率に極力近づけることができ、圧縮封止型ガラスハーメチックシールの課題であるリードピンと封止ガラスとの接合信頼性を最大限高めることができる。
【0034】
これを後述する実施例を例に説明すると、例えば、実施例においてNo.5,10,15,20のリードピン(発明例)は、減面率が90.3%であってCrの配合率が異なるCr-Cu複合体からなるものであるが、軸方向熱膨張率はCrの配合率が高いほど小さくなっている。また、No.24,29のリードピン(発明例)は、減面率が97.6%であってMoの配合率が異なるMo-Cu複合体からなるものであり、No.37,39のリードピン(発明例)は、減面率が80%であってMoの配合率が異なるMo-Cu複合体からなるものであるが、いずれも軸方向熱膨張率はMoの配合率が高いほど小さくなっている。一方、例えば、No.7~12のリードピン(発明例)は、Crの配合率が45mass%であって減面率が異なるCr-Cu複合体からなるものであり、No.26~29のリードピン(発明例)は、Moの配合率が40mass%であって減面率が異なるMo-Cu複合体からなるものであるが、いずれも軸方向熱膨張率は減面率が大きいほど小さくなっている。このため、リードピンの軸方向熱膨張率を、封止ガラスの熱膨張率に応じてその熱膨張率に極力近づけることができ、圧縮封止型ガラスハーメチックシールの課題であるリードピンと封止ガラスとの接合信頼性を最大限高めることができる。特に、後述するように、τ3/P2(=[リードピンから封止ガラス界面に作用する軸方向圧縮せん断応力τ3]/[封止ガラスからリードピンへの径方向圧縮応力P2])の値がプラスで且つできるだけ小さい方が、リードピンと封止ガラスとの接合信頼性が高くなるので好ましいと言えるが、そのようなτ3/P2となるように、リードピンの軸方向熱膨張率を調整する(封止ガラスの熱膨張率に近づける)ことが可能となる。
【0035】
また、本発明のリードピンは、縮径延伸時の減面率の大きさによって軸方向電気伝導率の大きさが変わり、Crまたは/およびMoの配合率が同じであれば、縮径延伸時の減面率97%程度までは減面率を大きくするほど軸方向電気伝導率が大きくなる。例えば、さきに挙げた実施例のNo.7~12のリードピン(Cr配合率45mass%の発明例)や、No.26~29のリードピン(Mo配合率40mass%の発明例)を見ると、減面率が大きいほど軸方向電気伝導率は大きくなっている。このため、減面率を変えることで、適用機器などに応じてリードピンの軸方向電気伝導率を適宜調整することもできる。なお、実施例からも明らかなように、リードピンの成分組成(Crまたは/およびMoの配合率)によっても軸方向電気伝導率は変わり、Crまたは/およびMoの配合率が低いほど軸方向電気伝導率は大きくなる。
【0036】
ここで、本発明のリードピンを構成する棒状または線状の金属材料の熱特性として、上述したように延伸直角方向(径方向)の熱膨張率に対して延伸方向(軸方向)の熱膨張率が小さくなるのは、縮径延伸加工により針状ないしは棒状に細長く延伸したCr相または/およびMo相とCuの界面のせん断応力により、延伸方向でのCuの膨張が抑えられるためであると考えられる。ただし、延伸直角方向断面において1つのCr相または/およびMo相のせん断応力が及ぶ範囲は限られるので、延伸直角方向断面におけるCr相または/およびMo相の密度が高い方が、つまりCrまたは/およびMoの配合率(含有量)が多い方が延伸方向熱膨張率が小さくなりやすい。また、延伸方向でのCr相または/およびMo相の延伸長さが長い方が上記せん断応力は大きくなるので、後述するように、本発明のリードピン(棒状または線状の金属材料)を製造する際の減面率が大きいと、延伸方向でのCr相または/およびMo相の延伸長さが長くなり、延伸方向熱膨張率が小さくなる。すなわち、減面率が大きいほど延伸方向熱膨張率が小さくなりやすい。なお、延伸直角方向熱膨張率は減面率が大きいほど大きくなりやすいが、これは、減面率が大きいほど延伸直角方向でのCr相または/およびMo相の径が小さくなり、延伸直角方向でのCuの拘束力が小さくなるためである。以上のことから、Crまたは/およびMoの配合率(含有量)や材料の縮径延伸時の減面率を選択することで、延伸方向(軸方向)・延伸直角方向(径方向)の熱膨張率を調整できることが判る。
また、減面率が大きいほど延伸方向(軸方向)電気伝導率が大きくなるのは、減面率が大きくなると、延伸方向に延伸したCr相または/およびMo相によって、Cu相も延伸方向に組織が延伸された形となり、電流が延伸方向に優先的に流れるためであると考えられる。
【0037】
本発明のリードピンの特性は、上述したように軸方向熱膨張率<径方向熱膨張率であって、軸方向熱膨張率が比較的小さく、径方向熱膨張率が等方性であり、且つ軸方向電気伝導率が高いという特徴があるが、最適な熱特性として、30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率が7.0~12.0×10-6/K、30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率が18.0×10-6/K以下であり、[30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率]<[30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率]であることが好ましい。なお、リードピンの上記径方向平均熱膨張率は、18.0×10-6/K以下であれば、リードピンが封止ガラスから圧縮応力を受けることが可能である(後述する表1および表3の「参考例」参照)と考えられるので特に問題はないが、封止ガラスの熱膨張率とあまり大きな差があると封止ガラスからの圧縮力が小さくなり、あまり好ましくないので、封止ガラスの熱膨張率との関係で15.0×10-6/K以下が好ましいこともある。
【0038】
30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率が7.0~12.0×10-6/Kであれば、上述した効果を得るのに特に有効である。すなわち、軸方向平均熱膨張率が上記範囲内であれば、封止ガラスの熱膨張率に近くなるため、封止ガラスとの接合信頼性が得られやすくなるので好ましい。また、使用する封止ガラスの熱膨張率に応じて、上記範囲内で軸方向熱膨張率を適宜調整(選択)すればよい。さきに述べたように、軸方向平均熱膨張率は、金属材料の成分組成(Crまたは/およびMoの配合率)や材料の縮径延伸時の減面率を変えることで調整することができる。
また、本発明のリードピンの熱特性の特徴である径方向熱膨張率>軸方向熱膨張率という点については、後述する実施例(発明例)では、いずれも[30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率]と[30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率]の差は2.0×10-6/K以上となっている。
【0039】
なお、軸方向・径方向の平均熱膨張率を30℃から450℃までの平均熱膨張率とするのは、次のような理由による。封止ガラスにはガラス転移点(Tg)が410~560℃程度の範囲のものが使用されているが、封止ガラスはガラス転移点-30℃付近の温度で体積が決まるので、ガラス転移点が410~560℃程度の封止ガラスは380~530℃程度の温度で体積が決まることになる。ただし、この温度範囲での平均熱膨張率は温度によって大きくは変わらないので、380~530℃のほぼ中間温度である450℃に代表させ、「30℃から450℃までの平均熱膨張率」とした。
【0040】
また、本発明のリードピンは、最適な特性として軸方向電気伝導率が20.0×10S/m以上であることが好ましい。軸方向電気伝導率が20.0×10S/m以上であれば、上述した効果を得るのに特に有効である。なお、「電気伝導率20.0×10S/m以上」は、電気伝導率の逆数である体積抵抗率に置き換えると「体積抵抗率5.0μΩ・cm以下」ということになるので、体積抵抗率でいうと、軸方向の体積抵抗率は5.0μΩ・cm以下であることが好ましい。
軸方向電気伝導率が高いことはリードピンに特に有用な特性であるが、軸方向電気伝導率が20.0×10S/m以上のレベルは、従来リードピンに広く用いられているNi-Fe合金などに較べて格段に高い軸方向電気伝導率であり、小径のリードピンであっても大電流の通電が可能であり、通電時の発熱量が特に少なくなる効果が得られる。後述する実施例に示されるように、従来、リードピンに用いられている50.5mass%Ni-Fe(No.30の比較例)の軸方向電気伝導率が2.81×10S/mであるのに対して、本発明のリードピンの軸方向電気伝導率はそれよりも1桁大きい値であり、格段に高い電気伝導率が得られることが判る。
さきに述べたように、このリードピンの軸方向電気伝導率についても、金属材料の成分組成(Crまたは/およびMoの配合率)や材料の縮径延伸時の減面率を選択することで調整することができる。
【0041】
以上の通り本発明のリードピンは、軸方向熱膨張率<径方向熱膨張率であって、軸方向熱膨張率が比較的小さく、径方向熱膨張率が等方性であり、しかも高い軸方向電気伝導率を有するため、封止ガラスとの接合信頼性が高く、しかも小径であっても大電流の通電が可能であり、通電時の発熱量を少なくすることができ、例えば、自動車用の電動コンプレッサのさらなる大電流化と小型化にも十分に対応することができる。
ここで、本発明のリードピンの各特性は次のようにして求める。
軸方向および径方向の熱膨張率は押棒式変位検出法で測定されるものであり、30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率と径方向平均熱膨張率は、軸方向熱膨張率と径方向熱膨張率をそれぞれ押棒式変位検出法で測定し、30℃と450℃での伸び量の差を求め、その値を温度差420℃(=450℃-30℃)で割り算して求める。
また、軸方向の電気伝導率は、市販の電気抵抗測定装置を用いて直流四端子法(測定温度:室温、雰囲気:大気中)で測定する。
【0042】
本発明のリードピンは、図1に示したような特徴的な軸方向(延伸方向)・径方向(延伸直角方向)断面組織を有することにより、上述したような特有の性質(特性)を有するので、本発明のリードピンを構成する[Crまたは/およびMo]-Cu複合体のCrまたは/およびMoの含有量(配合率)は特に限定しないが、Crまたは/およびMoの含有量を合計で35~60mass%とすることが、上述した熱特性を得るのに特に有効である。これは、Crまたは/およびMoの含有量(合計)が少なくなると、Cr相または/およびMo相によるCuの拘束力が低下し、材料の熱膨張率、特に軸方向熱膨張率が小さくなりにくくなり、一方、Crまたは/およびMoの含有量(合計)が多くなると、材料(素材)の加工性が低下するため、棒状または線状に減面加工(縮径延伸加工)することが難しくなるとともに、軸方向電気伝導率が高くなりにくくなるからである。
【0043】
ここで、本発明のリードピンを構成する[Crまたは/およびMo]-Cu複合体において、Cuに対して配合するCr(Cr相)とMo(Mo相)を較べた場合、(i)MoよりもCrの方が素材の加工性(圧延性など)は良くなる、(ii)CrよりもMoの方が軸方向の電気伝導率を高くしやすい、(iii)CrよりもMoの方が軸方向熱膨張率を小さくしやすい、という傾向がある(上記(ii)、(iii)の傾向については後述する実施例でも確認できる)。したがって、例えば、Cr・Mo-Cu複合体において、必要な熱特性に応じて、CrとMoの含有量や割合を調整することで熱特性のバランスをとり、最適な熱特性が得られるようにすることもできる。
リードピンの径サイズは、適用するガラスハーメチックシールによっても異なるが、通常、φ0.1~6mm程度である。通常、リードピンにはNiメッキなどの表面処理が施される。
【0044】
次に、本発明のリードピンの製造方法について説明する。
まず、本発明のリードピンを構成する棒状または線状の金属材料は、概して、粉末原料を焼結させる工程を経て得られた[Crまたは/およびMo]-Cu複合体(粉末冶金成形体)からなる素材を減面加工(縮径延伸加工)して棒状または線状に縮径延伸させることにより製造することができる。このような一連の工程を経て製造される棒状または線状の金属材料([Crまたは/およびMo]-Cu複合体)は、さきに述べたような、Cuマトリックス中でCr相または/およびMo相が軸方向(長手方向)に針状ないしは棒状に細長く延伸された組織、すなわち、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散した延伸方向(軸方向)断面組織と、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散した延伸直角方向(径方向)方向断面組織を有することになる。
【0045】
したがって、本発明のリードピンの好ましい製造方法は、粉末原料を焼結させる工程を経て[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる減面加工用の素材を得る工程(A)と、この工程(A)で得られた素材を減面加工(縮径延伸加工)して棒状または線状に縮径延伸させる工程(B)と、この工程(B)で得られた棒状または線状の素材を所定の長さに切断してピン材を切り出す工程(C)を有する。
なお、後述するように工程(A)には、粉末原料の焼結後にCu溶浸や緻密化処理する場合や、粉末原料を放電プラズマ焼結やホットプレス焼結する場合なども含まれる。
【0046】
工程(A)では、種々の態様で減面加工用の素材を得ることができるが、基本的な態様としては、以下の(i)、(ii)が挙げられる。各態様は、常法にしたがって実施すればよい。
(i)粉末原料の成形体(圧粉体)を焼結して焼結体とする工程(a1)と、この焼結体にCu溶浸または/および緻密化処理を施す工程(a2)を経ることにより、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる減面加工用の素材を得る。
(ii)粉末原料を放電プラズマ焼結(SPS焼結)またはホットプレス焼結する工程を経ることにより、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる減面加工用の素材を得る。
上記(i)の態様では、工程(a1)において、常法に従い、粉末原料を型に充填して成形し、その成形体(圧粉体)を所定の雰囲気中で焼結して焼結体とする。次いで、工程(a2)において、その焼結体にCu溶浸、緻密化処理のうちの少なくとも1つを実施し、減面加工用の素材とする。
【0047】
焼結体のCu溶浸では、例えば、粉末原料の成形体にCu溶浸用のCu板やCu粉末を配置した状態で、まず焼結温度に加熱して焼結させ、しかる後、温度をCu溶浸温度まで上昇させてCu溶浸を実施するようにしてもよい。なお、この工程で得られたCu溶浸体は、表面に残留した余剰の純Cuを除去するために表面研削(例えば、フライス盤や砥石などによる表面研削加工)を施すことが好ましい。
緻密化処理は、多孔質体である焼結体の緻密化を目的としたものであり、処理の種類に特別な制限はないが、代表的なものとしては、熱間押出し加工、HIP処理、ホットプレス処理、放電プラズマ処理(SPS処理)などが挙げられ、その1つ以上を実施できる。焼結体にCu溶浸を施さない場合には、この緻密化処理を実施し、焼結体を緻密化することが好ましい。一方、焼結体にCu溶浸を施すことにより焼結体を緻密化することができるが、このCu溶浸後、さらに上記の緻密化処理を行ってもよい。
緻密化処理の1つであるHIP処理(熱間静水圧加圧処理)では、焼結体を圧力容器内で不活性ガスを圧力媒体として加圧(静水圧)・加熱する。また、ホットプレス処理では、焼結体を型内で加熱しながら加圧する。放電プラズマ処理(SPS処理)では、焼結体を型内でパルス通電加熱しながら加圧する。
【0048】
上記(ii)の態様では、放電プラズマ焼結(SPS焼結)またはホットプレス焼結で緻密な焼結体が得られるので、そのままで減面加工用の素材とすることができる。
放電プラズマ焼結では、型に充填した粉末原料を加圧しながらパルス通電加熱により焼結する。また、ホットプレス焼結では、粉末原料を型に入れて加熱しながら加圧して焼結する。
したがって、工程(A)の具体的な態様としては、例えば、下記(ア)~(エ)を挙げることができる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0049】
(ア) Cr粉末または/およびMo粉末を成形するか、若しくはCr粉末または/およびMo粉末とCu粉末の混合粉末を成形し、この成形体を焼結して焼結体とし、この焼結体にCuを溶浸させることにより、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる減面加工用の素材を得る。
(イ) Cr粉末または/およびMo粉末とCu粉末の混合粉末を成形し、この成形体を焼結して焼結体とし、この焼結体に緻密化処理として、熱間押出し加工、HIP処理、ホットプレス処理、放電プラズマ処理(SPS処理)のいずれかを施すことにより、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる減面加工用の素材を得る。
(ウ) Cr粉末または/およびMo粉末を成形するか、若しくはCr粉末または/およびMo粉末とCu粉末の混合粉末を成形し、この成形体を焼結して焼結体とし、この焼結体にCuを溶浸させ、さらに緻密化処理として、熱間押出し加工、HIP処理、ホットプレス処理、放電プラズマ処理(SPS処理)のいずれかを施すことにより、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる減面加工用の素材を得る。
(エ) Cr粉末または/およびMo粉末とCu粉末の混合粉末を放電プラズマ焼結またはホットプレス焼結することにより、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる減面加工用の素材を得る。
工程(A)で得られる減面加工用の素材は、通常、丸棒または角棒(例えば断面多角形状)である。
【0050】
工程(B)は、素材を減面加工(縮径延伸加工)して棒状または線状に縮径延伸できるのであれば加工方法は問わないが、例えば、ロール圧延、スウェージング加工、熱間押出し加工のうちの1つ若しくは2つ以上を組み合わせて実施することができ、さらに、その後に仕上げ引き抜き加工(線引き加工)を実施してもよい。
ロール圧延としては、例えば、溝ロール圧延やコンバインドロール圧延を実施できる。溝ロール圧延は、素材(丸棒、角棒など)を溝付きの圧延ロールで棒状または線状に減面加工(縮径延伸加工)するものである。また、コンバインドロール圧延は、素材(丸棒、角棒など)を多段スタンド(例えば20スタンド以上)の溝付き圧延ロールで棒状または線状に減面加工(縮径延伸加工)するものである。
スウェージング加工は圧縮加工(冷間鍛造)の一種であって、型を用いて素材を径方向で押し潰して外径を絞り、長さを伸展(縮径延伸)させる加工であり、例えば、型を回転させながら素材を絞り込み、長さを伸展(縮径延伸)させる。
熱間押し出し加工では、素材をコンテナの中に入れ、ラムによって素材をダイス穴から押し出す。
【0051】
仕上げ引き抜き加工(線引き加工)を行う場合は、通常、最終の減面加工(縮径延伸加工)として行うが、例えば、径が比較的大きい棒状体を得る場合には、この仕上げ引き抜き加工を実施しない場合もある。
引き抜き加工では、単純引き抜き加工(湿式法、乾式法)、ローラダイス引き抜き加工(CRD)などの公知の加工方法を用いることができる。
工程(B)での素材の総減面率は特に制限はないが、減面率が小さすぎると本発明のリードピンの組織が得られにくくなるので、工程(B)での素材の総減面率は60%以上とすることが望ましい。また、工程(B)での素材の総減面率の上限は特にないが、Crまたは/およびMoの配合率や製造設備(減面加工の加工手段)などにより実質的な上限がある。
ここで、減面率(断面積減少率)は、工程(B)での減面加工前の素材の径方向断面積をa、工程(B)を経た後の材料の径方向断面積bとした場合、減面率(%)=[(a-b)/a]×100で求められる。
【0052】
工程(C)では、工程(B)で得られた棒状または線状の素材を所定の長さに切断し、リードピンとなるピン材を切り出す。素材の切断(素材径方向の切断)には、例えば、線材用の切断機などを用いればよい。この工程(C)で得られたピン材は、そのままで若しくは必要な加工を加えた上でリードピン(ピン基材)となる。通常、リードピン(ピン基材)にはNiメッキなどの表面処理が施される。
工程(B)で得られた棒状または線状の金属材料の表面には、工程(B)での減面加工(縮径延伸加工)により疵や凹凸が生じることがあり、そのような疵や凹凸の程度によっては、例えばリードピン用途の場合に封止ガラスとの間に隙間を生じさせ、封止状態が損なわれるおそれがある。また、工程(B)で得られた材料の外径寸法精度をさらに高めることが必要となる場合がある。このため本発明の製造方法では、上記のような材料表面の疵や凹凸を無くしたり、或いは寸法精度を高めたりすることを主たる目的とした、さらなる工程として、工程(B)で得られた棒状若しくは線状の素材、または工程(C)で得られたピン材の表面を研削または研磨する工程(D)を必要に応じて実施してもよい。
この工程(D)で行う材料表面の研削または研磨の方法は特に制限はないが、比較的小径の棒状または線状の材料を対象とするので、センタレス研削・研磨で行うのが好ましい。
【0053】
<本発明の気密端子および電動コンプレッサ>
本発明の気密端子は、さきに説明したリードピンを備えた圧縮封止型の気密端子である。したがって、リードピンが、Cuマトリックス中にCr相または/およびMo相が分散した金属組織を有する[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなり、この[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、粉末冶金成形体の縮径延伸材であり、光学顕微鏡(例えば倍率120倍)で断面組織観察をした時に、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散した軸方向断面組織と、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散した径方向断面組織を有することを特徴とする。
この気密端子が備えるリードピンの詳細は、さきに説明した通りである。
また、本発明の電動コンプレッサは、その気密端子を備えた電動コンプレッサである。
したがって、本発明の気密端子、およびこの気密端子を備えた本発明の電動コンプレッサは、それぞれ上述した本発明のリードピンによる効果を享受できる。
【0054】
<本発明のリードピンの接合信頼性についての検討>
次に、本発明のリードピンを圧縮封止型ガラスハーメチックシールに適用する場合の接合信頼性について、材料力学による考察に基づいて検討した結果を以下に示す。なお、以下の説明では、ステムベースを「ハウジング」と呼ぶ。また、以下の説明(表1~表3を含む)において材料の組成に関する「%」は「mass%」を意味する。
本発明のリードピンを、気密端子が備える圧縮封止型ガラスハーメチックシールに適用する場合について検討した。具体的には、ハウジングが炭素鋼S45C、封止ガラスがST-4W(ガラスコード,日本電気硝子社製)、リードピンが本発明材(55%Cr-Cu複合体の線材)でそれぞれ構成された圧縮封止型ガラスハーメチックシールについて、単純化した同心円筒状での材料力学的アプローチにより接合信頼性について検討を行った。
【0055】
図5および図6は、この検討に用いた圧縮封止型ガラスハーメチックシールの模式図(構成部材の寸法と熱膨張率、シール内の圧縮応力などを示す概念図)であり、図5(A)はシール全体の縦断面模式図、図5(B)は同じく平面模式図、図5(C)は封止ガラスの平面模式図である。また、図6(A)はシール全体の縦断面模式図、図6(B)はハウジングおよび封止ガラスの平面模式図、図6(C)は封止ガラスおよびリードピンの平面模式図である。図5および図6において図中に明示した数値は、シールを構成する各部材の平均熱膨張率である。なお、説明の便宜上、以下の説明において本発明のリードピンを構成する金属材料を「55%Cr-Cu材」という。
ハウジング(炭素鋼S45C)の熱膨張率は、封止ガラスの熱膨張率より大きいため、封止ガラスが硬化してから常温まで冷却する間に、封止ガラス外半径面(外周面)はハウジングの内半径面(内周面)から圧縮応力P1を受ける。
【0056】
封止ガラスは完全に硬化するガラス転移点(上記ST-4Wのガラス転移点:460℃)に対して[ガラス転移点-30℃]付近で体積が決まり、30℃では熱膨張率により収縮した体積となる。その計算上の封止ガラス外半径R2’(封止ガラス外周面での半径)は、ハウジングの収縮によるハウジング内半径R2(ハウジング内周面での半径)より大きいが、封止時における圧縮応力P1によりハウジング内半径R2と一致する(東芝ガラス技報26「ガラスの歪みについて」参照)。その分(体積一定)封止ガラス内半径(封止ガラス内周面での半径)は内径側に(圧縮応力P1による圧縮歪により)υ2だけ変位してR3”となる。
ハウジングから封止ガラスに作用する圧縮応力P1は、材料力学の「外圧を受ける厚肉円筒」として変位差υ2により算出して予想できる。
【0057】
リードピンを構成する55%Cr-Cu材の径方向熱膨張率は、封止ガラスの熱膨張率より大きいため、封止ガラスが硬化してから常温に冷える間に、径方向では封止ガラスよりリードピンの方が収縮が大きく、計算上隙間δ3(計算上の封止ガラス内半径R3’と計算上のリードピンの外半径R3の差)が生じる。その隙間δ3よりも、封止ガラスの内径側への変位υ2の方が大きければ、すなわち、R3”(=R3’-υ2)がR3より小さくなれば、封止ガラスとリードピンの界面に隙間は生じなくなることになり、接合信頼性が得られる可能性がある。
この場合、R3とR3”との変位差υ3により、リードピンは封止ガラスから圧縮応力P2を受けることになる。すなわち、封止ガラスは、ハウジングから封止ガラス外半径面が圧縮応力P1を受ける一方、封止ガラス内半径面からリードピンに圧縮応力P2を与えることになる。この圧縮応力P2は、材料力学の「組合せ円筒」として変位差υ3から算出して予想できる。
【0058】
封止ガラスとハウジングおよびリードピンとの接合信頼性については、以下のように考えられる。
ハウジング(炭素鋼S45C)と封止ガラスとは厚さ方向(図面上では高さ方向。以下同様)も熱膨張差が同様に大きいことから、封止時のハウジングと封止ガラスの界面には厚さ方向にせん断応力が生じるが、一般的に使用されていることから、この組み合わせでも直ちに界面剥離が生じるようなことはないと思われる。この理由として、封着時の封止ガラスには圧縮歪が残留するが、その残留歪により生じる厚さ方向のガラス界面のせん断応力は、ガラスの特性として強度が高い圧縮側であり、また径方向への圧縮応力P1(界面密着応力)からも応力緩和されるためであると考えられる。使用環境下の温度上昇時は、厚さ方向のガラス界面のせん断応力は、ガラスの特性として弱い引張側となるが、ガラスの残留圧縮歪によりその引張側の応力を緩和できるものと考えられる。ただ、より厳しい使用環境下では、接合信頼性に問題が生じる可能性がある。さらに、リードピンがコバール、封止ガラスがFN-13W(ガラスコード,日本電気硝子社製)という組合せも一般的に使用されている例であるが、リードピンの方が封止ガラスより2×10-6/K程度熱膨張率が低く、このリードピンと封止ガラスとの熱膨張差により、封止ガラスには好ましくない引張歪が生じる。したがって材料特性上、この組合せでは接合信頼性が十分とは言えない。
【0059】
一方、封止ガラス内半径面側の接合信頼性は、以下のように考えられる。計算の結果では、封止ガラス内半径面からリードピン外半径面への圧縮応力P2は、ハウジングから封止ガラス外半径面への圧縮応力P1より小さくなる傾向にある。このため、リードピンの軸方向の熱膨張率がハウジングと同様に封止ガラスよりも大きいと、厚さ方向ではハウジングと同様に封止ガラスに圧縮歪が残留するものの、封止ガラス内半径面では封止ガラス外半径面よりも接合信頼性が低くなる傾向になる。ただし、リードピンを構成する55%Cr-Cu材は炭素鋼より軸方向の熱膨張率が小さく、封止ガラスとの熱膨張差が少なければ、封止ガラスとリードピンとの界面密着応力(圧縮応力P2)によって接合信頼性が得られると考えられる。
【0060】
さらに、リードピンの軸方向およびハウジングの厚さ方向で封止ガラス界面に作用する圧縮せん断応力τと、この圧縮せん断応力τと封止ガラス径方向での圧縮応力P1,P2とのバランスを考慮する必要がある。ハウジングの板面方向熱膨張率およびリードピンの径方向熱膨張率が封止ガラスの熱膨張率よりも大きい場合、冷却後の封止ガラスはガラスにとっては好ましい圧縮歪を受けるが、温度上昇・下降を繰り返す場合には圧縮と引張の影響を受け、ハウジングの厚さ方向およびリードピンの軸方向と封止ガラスとの熱膨張率差によって発生するせん断応力歪疲労により接合信頼性が低下するおそれがある。このため、ハウジングの厚さ方向熱膨張率およびリードピンの軸方向熱膨張率と封止ガラスの熱膨張率は、封止ガラス圧縮側でなるべく差がない方が好ましく、一方、封止ガラス径方向での圧縮応力P1,P2は大きい方が好ましい。したがって、τ/P1,τ/P2の値がプラスでかつ小さい方が(ただし、十分に小さければマイナスであっても問題はない)、リードピンおよびハウジングと封止ガラスの接合信頼性が高いといえる。リードピンの場合、55%Cr-Cu材と50.5%Ni-Fe材とを比較すると、圧縮応力P2については55%Cr-Cu材は50.5%Ni-Fe材の91%程度、銅芯ピンの88%程度となるが、軸方向で封止ガラスとの熱膨張率差が小さい55%Cr-Cu材は、τ/P2が50.5%Ni-Fe材よりも86%程度、銅芯ピンよりも93%程度低くなり、接合信頼性は高くなる。
55%Cr-Cu材は、リードピンとして[30℃から450℃までの軸方向平均熱膨張率]<[30℃から450℃までの径方向平均熱膨張率]という特性であっても、径方向では封止ガラスから圧縮応力を得ることができ、また軸方向の接合信頼性を得ることができる。
【0061】
ここで、上述した変位差υ2,υ3および圧縮応力P1,P2と、ハウジングから封止ガラス界面への厚さ方向せん断応力τ1およびリードピンから封止ガラス界面への軸方向せん断応力τ3と、τ1/P1およびτ3/P2を計算した結果を以下に示す。
この計算で用いた各材料の物性値については後述する。
なお、下記の計算なかで、特定の数値の下に[ ]で囲って併記した数値は、リードピンに従来の50.5%Ni-Fe(軸方向平均熱膨張率(30-450℃):10.3×10-6/K)を使用した場合のものである。
【0062】
●ハウジング(炭素鋼)と封止ガラスおよびリードピン(55%Cr-Cu材)の430℃から30℃までの寸法変化を以下に示す。
図5および図6において、R1=8mm、R2=3mm、R3=1.6mmとした場合、430℃と30℃の各温度における寸法は以下のようになる。
<430℃時>
・ハウジング内半径=封止ガラス外半径=R2*(1+α1*(430℃-30℃))
=3.018318mm
・封止ガラス内半径=リードピン外半径=R3*(1+α3*(430℃-30℃))
=1.609219mm
[1.607981mm]
<30℃時>
・ハウジング外半径=8mm=R1
・ハウジング内半径=封止ガラス外半径=3mm=R2
・計算上の封止ガラス外半径:R2’=3.018318*(1-α2*(430℃-30℃))
=3.006848mm
→封止ガラスは3mmまで圧縮され、その変位差υ2分の圧縮応力を受ける。
・計算上の封止ガラス内半径:R3’=1.609219*(1-α3*(430℃-30℃))
=1.603104mm
[1.6001870mm]
・リードピン外半径=1.6mm=R3
→δ3=1.603104-1.6=0.003104mm
[0.001870mm]
【0063】
●封止ガラスは[ガラス転移点-30℃]付近で体積が決まり、30℃では熱膨張率により収縮した体積となる。封止ガラスの計算上の体積と封止後の体積は一定となるが、封止ガラスの厚さには変化がないものとすると、
・30℃時、封止ガラスの計算上の平面積は以下のようになる。
R2’=3.006848mm、R3’=1.603104mm → 20.33mm
・封止ガラス外半径が3mmとなり、
封止ガラス内半径:R3”=1.590222mm(υ2=0.012882mm)となる。
[1.588978mm] [0.012892mm]
●封止ガラス内径側の変位υ2によるハウジングからの圧縮応力P1は、下記の式で算出される。
【数1】
P1=-0.019804GPa=-198.04MPa=-1,955kg/cm
[-0.019847GPa=-198.47MPa=-1,959kg/cm
【0064】
●圧縮応力P2は、以下のようになる。
・リードピンがない場合、封止ガラス内半径:R3”=R3’-υ2
=1.590222mm
・R3>R3”→ R3-R3”=υ3=0.00978mm
[0.01102mm]
→リードピンはυ3により封止ガラスから圧縮応力P2を受ける。
●封止ガラスからリードピンへの圧縮応力P2は下記の式で算出される。
【数2】
P2=-0.09224GPa=-92.24MPa=-910kg/cm
[-0.10188GPa=-101.88MPa=-1,005kg/cm
【0065】
●ハウジングから封止ガラス界面に作用する厚さ方向圧縮せん断応力τ1と、[ハウジングから封止ガラス界面に作用する厚さ方向圧縮せん断応力τ1]/[ハウジングから封止ガラスへの径方向圧縮応力P1]は、以下のように算出される。
図5および図6において、R1=8mm、R2=3mm、R3=1.6mmであって、ハウジング厚T1=6mmとした場合、430℃と30℃の各温度における寸法は以下のようになる。
<430℃時>
炭素鋼厚=封止ガラス厚;T1’=6*(1+α1*(430℃-30℃))
=6.036636mm
<30℃時>
封止ガラス厚;T2’=T1’*(1-α2*(430℃-30℃))=6.013697mm
【0066】
→冷却後のハウジングから封止ガラスへの圧縮歪ε=(T2’-T1)/T1
=0.002283
圧縮応力:Pt1=ガラス弾性率*ε=0.15523GPa=155.23MPa
[155.23MPa]
圧縮力:Ft1=Pt1*π*R2=4389N
[4389N]
ハウジングから封止ガラス界面に作用する厚さ方向圧縮せん断応力τ1は、以下のようになる。
τ1=Ft1/(π*2*R2*T1)=38.81MPa
[38.81MPa]
→したがって、[ハウジングから封止ガラス界面に作用する厚さ方向圧縮せん断応力τ1]/[ハウジングから封止ガラスへの径方向圧縮応力P1]は、以下のようになる。
τ1/P1=0.1960
[0.1955]
【0067】
●リードピンから封止ガラス界面に作用する軸方向圧縮せん断応力τ3と、[リードピンから封止ガラス界面に作用する軸方向圧縮せん断応力τ3]/[封止ガラスからリードピンへの径方向圧縮応力P2]は、以下のように算出される。
<30℃時>
封止ガラスと接するリードピン厚;T3’=T1’*(1-α3(430℃-30℃))
=6.013455mm
[6.01177mm]
→冷却後の封止ガラスからリードピンへの圧縮歪ε=(T2’-T3’)/T3’
=0.000040
圧縮応力:Pt3=ガラス弾性率*ε=0.002730GPa=2.730MPa
[21.85MPa]
圧縮力:Ft3=Pt1*π*R3=21.96N
[175.7N]
【0068】
リードピンから封止ガラス界面に作用する軸方向圧縮せん断応力τ3は、以下のようになる。
τ3=Ft3/(π*2*R3*T1)=0.363MPa
[2.908MPa]
→したがって、[リードピンから封止ガラス界面に作用する軸方向圧縮せん断応力τ3]/[封止ガラスからリードピンへの径方向圧縮応力P2]は、以下のようになる。
τ3/P2=0.0039
[0.0285]
【0069】
以上の計算は、リードピンを本発明材である55%Cr-Cu材、ハウジングを炭素鋼S45C、封止ガラスをST-4W(ガラスコード,日本電気硝子社製)、でそれぞれ構成した場合であるが、リードピン、ハウジング、封止ガラスをそれぞれ他の材料で構成した場合についても同様の計算を行った。すなわち、リードピンには、本発明材である45%Cr-Cu材、同じく60%Mo-Cu材、同じく35%Mo-Cu材、比較材である50.5%Ni-Fe材、同じくSUS430、同じく銅芯ピン、同じく29%Ni-17%Co-Fe材を用いた。その計算結果を、上述した計算結果とともに表1~表3に示す。表1~表3において、「発明例相当」とはリードピンに本発明材を用いたもの、「比較例相当」とはリードピンに本発明材以外の材料を用いたものである。なお、リードピンに35%Mo-Cu材(本発明材)を用いた表1および表3の「参考例」は、リードピンの径方向平均熱膨張率が概ね18.0×10-6/K以下であれば、リードピンが封止ガラスから圧縮応力を受けることが可能であることを示すために記載した。
【0070】
表1~表3の計算で用いた各材料の物性値は以下の通りである。
(1)ハウジング
・炭素鋼S45C
平均熱膨張率α1(20-500℃):14.2×10-6/K
ヤング率E1:205GPa
ポアソン比ν1:0.25
・SUS304
平均熱膨張率α1(0-538℃):18.8×10-6/K
ヤング率E1:193GPa
ポアソン比ν1:0.3
・SUS430
平均熱膨張率α1(0-538℃):11.7×10-6/K
ヤング率E1:200GPa
ポアソン比ν1:0.27
【0071】
(2)リードピン
・55%Cr-Cu材(減面率:96.8%)
径方向平均熱膨張率α3(30-450℃):13.4×10-6/K
軸方向平均熱膨張率(30-450℃):9.6×10-6/K
ヤング率E3:206GPa
ポアソン比ν3:0.25
・45%Cr-Cu材(減面率:75.0%)
径方向平均熱膨張率α3(30-450℃):15.2×10-6/K
軸方向平均熱膨張率(30-450℃):10.7×10-6/K
ヤング率E3:198GPa
ポアソン比ν3:0.26
・60%Mo-Cu材(減面率:80.0%)
径方向平均熱膨張率α3(30-450℃):13.4×10-6/K
軸方向平均熱膨張率(30-450℃):7.6×10-6/K
ヤング率E3:242GPa
ポアソン比ν3:0.33
・35%Mo-Cu材(減面率:97.6%)
径方向平均熱膨張率α3(30-450℃):17.7×10-6/K
軸方向平均熱膨張率(30-450℃):9.3×10-6/K
ヤング率E3:188GPa
ポアソン比ν3:0.33
【0072】
・50.5%Ni-Fe材
径方向平均熱膨張率α3(30-450℃):11.6×10-6/K
軸方向平均熱膨張率(30-450℃):10.3×10-6/K
ヤング率E3:162GPa
ポアソン比ν3:0.30
・SUS430
径方向平均熱膨張率α3(30-450℃):11.3×10-6/K
軸方向平均熱膨張率(30-450℃):11.3×10-6/K
ヤング率E3:200GPa
ポアソン比ν3:0.27
・銅芯ピン
径方向平均熱膨張率α3(30-450℃):11.1×10-6/K
軸方向平均熱膨張率(30-450℃):11.1×10-6/K
ヤング率E3:157GPa
ポアソン比ν3:0.31
・29%Ni-17%Co-Fe材(コバール)
径方向平均熱膨張率α3(30-450℃):5.3×10-6/K
軸方向平均熱膨張率(30-450℃):5.3×10-6/K
ヤング率E3:152GPa
ポアソン比ν3:0.3
【0073】
(3)封止ガラス
・ST-4W(ガラスコード,日本電気硝子社製)
平均熱膨張率α2(30-380℃):9.5×10-6/K
ガラス転移点Tg:460℃
ヤング率E2:68GPa
ポアソン比ν2:0.21
・FN-13W(ガラスコード,日本電気硝子社製)
平均熱膨張率α2(30-380℃):7.6×10-6/K
ガラス転移点Tg:510℃
ヤング率E2:57GPa
ポアソン比ν2:0.22
・SG354(ガラスコード,AGC社製)
平均熱膨張率α2(50-350℃):10.7×10-6/K
ガラス転移点Tg:567℃
ヤング率E2:68GPa
ポアソン比ν2:0.21
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
表1~表3の計算の結果では、リードピンに本発明材を用いたもの(発明例相当)は、封止ガラスからリードピンへの圧縮圧力P2が得られるとともに、τ3/P2が十分に低く、必要な接合信頼性が得られるものと判断できる。特に表2、表3に示す通り、リードピンの軸方向平均熱膨張率を封止ガラスの平均熱膨張率とほぼ合わせることにより、リードピンと封止ガラスとの間に生じるせん断応力をほぼゼロにすることができ、接合信頼性を最大限高めることが可能となる。
一方、表3の比較例相当は、リードピンがコバール、封止ガラスがFN-13W(ガラスコード,日本電気硝子社製)という一般的に使用されている組み合わせであるが、先に述べたようにリードピンの方が封止ガラスよりも2×10-6/K程度熱膨張率が低いことから、τ3/P2の値は封止ガラスには好ましくない引張歪を意味するマイナスの0.44となっており、数値上も接合信頼性が十分とは言えない結果となっていることが分かる。
【実施例
【0078】
以下に示すような製造条件で本発明のリードピン(リードピンを構成する棒状または線状の金属材料。以下「本発明材」という。)を製造し、それらの特性を測定した。また、比較材として、減面加工(縮径延伸加工)をしていない[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる材料(減面率0%)、純Cu材、50.5%Ni-Fe材、銅芯ピン(50%Ni-Feの中心に銅をクラッドしたもの)を供試材とし、上記と同様に特性を測定した。その結果を、金属材料の構成(組成、密度)および製造条件(減面率)とともに表4および表5に示す。なお、本実施例の記載(表4および表5を含む)において、材料の組成に関する「%」は「mass%」を意味する。
また、敢えて表4および表5には記載していないが、本発明材は、図1に示すような断面組織、すなわち、光学顕微鏡で断面組織観察をした時に、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散した延伸方向(軸方向)断面組織と、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散した延伸直角方向(径方向)断面組織を有する。これに対して比較材である減面加工(縮径延伸加工)をしていない[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなる材料(減面率0%)は、当然のことながら、そのような特徴的な断面組織ではなく、図2の「溶浸体断面」のような断面組織を有する。
【0079】
(1)減面加工用の素材の製作
Cr粉末または/およびMo粉末を型に入れて加圧成形し、若しくはCr粉末または/およびMo粉末とCu粉末を所定の割合で混合した混合粉末を型に入れて加圧成形し、圧粉体とした。この圧粉体の上面に純Cu板を置き、還元雰囲気中で焼結→Cu溶浸を行った。すなわち、最初に焼結(1000℃、600分)を行って焼結体とし、その後、温度を上昇させて純Cu板を溶解させ、このCuを焼結体に含浸させるCu溶浸(1200℃、保持時間180分)を行い、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体を得た。フライス盤を用いて、[Crまたは/およびMo]-Cu複合体の表面に残留したCuを切削除去するとともに形状を整え、所定サイズの減面加工用の素材(棒状素材)を得た。
【0080】
(2)減面加工(縮径延伸加工)による本発明材の製作
(2.1)実施例No.1~29,36~47の場合
フライス切削で断面16角形の角柱形状(太さ20.7mm)に整えられた減面加工用の素材を、スウェージング加工とこれに続くコンバインドロール圧延で外径φ3.7mmまで減面加工(縮径延伸加工)し、さらに、2段階のローラダイス引き抜き加工(CRD)からなる仕上げ引き抜き加工を行って減面加工(縮径延伸加工)し、外径φ3.2mmの本発明材を得た。
(2.2)実施例No.32~35の場合
フライス切削で断面8角形の角柱形状(太さ50mm)に整えられた減面加工用の素材を、溝ロール圧延とこれに続くスウェージング加工で外径φ15mmまで減面加工(縮径延伸加工)した後、コンバインドロール圧延で太さ3.7mmの角柱形状(断面8角形)まで減面加工(縮径延伸加工)し、さらに、ローラダイス引き抜き加工(CRD)と単純引き抜き加工(湿式法による冷間線引き)からなる仕上げ引き抜き加工を行って減面加工(縮径延伸加工)し、外径φ3.2mmの本発明材を得た。
【0081】
(3)特性の測定
各供試材について、軸方向および径方向の熱膨張率、軸方向の電気伝導率(および体積抵抗率)を先に説明した測定方法・計算方法で求めた。なお、軸方向の電気伝導率(および体積抵抗率)の測定には、アドバンス理工製「電気抵抗測定装置TER-2000RH特型」を用いた。
また、材料の組成が同じで減面率が異なる試料は、減面率が最も大きい試料の減面加工の途中で他の試料用の材料を採取し、これをセンタレス研磨でφ3.2mmの試料に加工し、各測定に供した。
【0082】
表4および表5によれば、本発明材は、一定レベルの径方向熱膨張率を有する一方で、軸方向熱膨張率が径方向熱膨張率よりも相当程度小さく、圧縮封止型ガラスハーメチックシールの封止ガラス(通常、8~11×10-6/K程度)に近い熱膨張率にできることが判る。例えば、本発明例である「No.5,10,15,20」、「No.24,29」、「No.37,39」、「No.7~12」、「No.26~29」などを見れば分かるように、本発明材はCrまたは/およびMoの配合率(含有量)や材料の縮径延伸時の減面率を選択することにより、軸方向(延伸方向)熱膨張率の大きさを調整することができるので、封止ガラスの熱膨張率に合わせて、軸方向(延伸方向)熱膨張率を封止ガラスの熱膨張率に極力近づけることができる。さらに、本発明材は、比較材(従来のリードピン)である50.5%Ni-Feや銅芯ピンに較べて軸方向の電気伝導率が格段に高いことが判る。また、例えば、本発明例である「No.7~12」、「No.26~29」などを見れば分かるように、本発明材は、成分組成だけでなく縮径延伸時の減面率を変えることにより、軸方向電気伝導率を変えることができるので、適用機器などに応じて軸方向電気伝導率を調整することができる。
以上の点から、本発明の圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンは、封止ガラスとの接合信頼性が高く、しかも小径でありながら大電流での通電による発熱量が少ないリードピンであることが理解できる。
【0083】
【表4】
【0084】
【表5】
【符号の説明】
【0085】
1 ステムベース
2 リードピン
3 封止ガラス
4 挿通孔

【要約】
【課題】圧縮封止型ガラスハーメチックシールのリードピンであって、軸方向熱膨張率が比較的小さく、且つ軸方向電気伝導率が高い特性を有し、封止ガラスとの接合信頼性が高く、しかも小径であっても大電流の通電が可能であり、通電時の発熱量が少ないリードピンを提供する。
【解決手段】Cuマトリックス中にCr相または/およびMo相が分散した金属組織を有する[Crまたは/およびMo]-Cu複合体からなり、この[Crまたは/およびMo]-Cu複合体は、粉末冶金成形体の縮径延伸材であり、光学顕微鏡で断面組織観察をした時に、Cuマトリックス中に層状若しくは線状のCr相または/およびMo相が分散した軸方向断面組織と、Cuマトリックス中に細片状、小片状若しくは粒状のCr相または/およびMo相が分散した径方向断面組織を有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6