(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-08
(45)【発行日】2025-08-19
(54)【発明の名称】打ち込み工具
(51)【国際特許分類】
B25C 1/06 20060101AFI20250812BHJP
B25C 1/04 20060101ALI20250812BHJP
【FI】
B25C1/06
B25C1/04
(21)【出願番号】P 2021174426
(22)【出願日】2021-10-26
【審査請求日】2024-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗木 駿
(72)【発明者】
【氏名】長尾 雅也
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 聖展
(72)【発明者】
【氏名】平山 俊郎
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-213665(JP,A)
【文献】国際公開第1994/010478(WO,A1)
【文献】特開2013-000847(JP,A)
【文献】特開2020-051543(JP,A)
【文献】特開平11-303846(JP,A)
【文献】特開平04-312213(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0229043(US,A1)
【文献】国際公開第2018/100943(WO,A1)
【文献】中国実用新案第214055139(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25C1/00-13/00
B27F1/00-7/38
F16H1/28-1/48
F16H48/00-48/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打ち込み工具であって、
ガス圧によって打ち込み方向へ移動するピストンと、
前記ピストンと一体で移動して打ち込み具を打撃するドライバと、
前記ドライバを反打ち込み方向に移動させるリフト機構と、を有し、
前記リフト機構は、
電動モータと、
前記電動モータの出力を減速する遊星ギア機構と、
前記遊星ギア機構のキャリアに結合されて、前記電動モータにより回転する回転軸と、
前記キャリアの外周側において前記回転軸を回転可能に支持する軸受と、
前記回転軸に支持されて、前記ドライバに係合するホイール
と、
前記ホイールを収容する金属製の機構ケースを有し、
前記遊星ギア機構が複数段直列に配置されており、前記複数段の遊星ギア機構の最終段のインターナルギアと前記軸受が前記機構ケースに直接接触して支持されている打ち込み工具。
【請求項2】
請求項1記載の打ち込み工具であって、
前記電動モータのモータ軸線に直交する同一面上に、前記回転軸と前記キャリアと前記軸受が配置された打ち込み工具。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の打ち込み工具であって、
前記回転軸と前記キャリアがスプライン篏合により結合された打ち込み工具。
【請求項4】
請求項
3記載の打ち込み工具であって、
前記スプライン篏合が大径合わせのスプライン篏合である打ち込み工具。
【請求項5】
請求項1~
4の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記最終段の前記遊星ギア機構を除いた上流側の前記遊星ギア機構が樹脂製のギアケースに収容された打ち込み工具。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記最終段の前記遊星ギア機構のインターナルギアのモータ軸線方向の変位が、前記軸受の外輪により規制される打ち込み工具。
【請求項7】
請求項
6に記載の打ち込み工具であって、
前記インターナルギアの側面に、前記外輪の側面に当接させるために当接部を前記モータ軸線方向に突き出して設けた打ち込み工具。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1つに記載の打ち込み工具であって、
前記軸受の外輪が前記インターナルギアの外周に対して内周側に位置する打ち込み工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、釘やステープル等の打ち込み具を木材等に打ち込むための打ち込み工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、圧縮ガスの推力を打撃力として利用するガスバネ式の打ち込み工具が開示されている。ガスバネ式の打ち込み工具は、シリンダ内を上下動するピストンと、ピストンに結合されて一体で下動して打ち込み具を打撃するドライバを有する。ピストンとドライバは蓄圧室のガス圧で打ち込み方向に下動する。ピストンとドライバはリフト機構により反打ち込み方向に戻される。
【0003】
リフト機構は、ドライバに設けた被係合部に係合される複数の係合部を備えたホイールを有する。ホイールは電動モータにより回転する。打ち込み動作後にホイールが回転して係合部がドライバの被係合部に順次噛み合わされることでドライバが反打ち込み方向に上動される。ピストンが反打ち込み方向に上動されることで、蓄圧室のガス圧が高められる。上動端位置に上動されたドライバに対するリフト機構の係合状態が解除されることで、ドライバがガス圧により下動して打撃動作がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたリフト機構では、ホイールが回転軸により回転可能に支持される。電動モータの出力が減速ギア部を経て回転軸に伝達される。回転軸は、2つの軸受を介して機構ケースに軸回りに回転可能に支持されている。2つの軸受のうち、特に下側の軸受がホイールと減速ギア部との間に配置されることから、リフト機構のモータ軸線方向のコンパクト化が困難であった。本開示では、リフト機構のモータ軸線方向のコンパクト化が図られるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面によれば、打ち込み工具は、例えばガス圧によって打ち込み方向へ移動するピストンと、ピストンと一体で移動して打ち込み具を打撃するドライバと、ドライバを反打ち込み方向に移動させるリフト機構とを有する。リフト機構は、例えば電動モータと、電動モータの出力を減速する遊星ギア機構と、遊星ギア機構のキャリアに結合されて、電動モータにより回転する回転軸を有する。リフト機構は、例えばキャリアの外周側において回転軸を回転可能に支持する軸受と、回転軸に支持されて、ドライバに係合するホイールを有する。従って、リフト機構のモータ軸線方向のコンパクト化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】
図1中II-II線断面矢視図であって、工具本体部の縦断面図である。
【
図3】
図1中III-III線断面矢視図であって、リフト機構の横断面図である。
【
図4】
図3中IV部拡大図であって、リフト機構と減速部の拡大図である。
【
図6】
図4中VI-VI線断面矢視図であって、第1段遊星ギア機構の横断面図である。
【
図7】
図4中VII-VII線断面矢視図であって、第2段遊星ギア機構の横断面図である。
【
図8】
図4中VIII-VIII線断面矢視図であって、最終段の遊星ギア機構の横断面図である。
【
図9】
図4中IX-IX線断面矢視図であってスプライン結合部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば電動モータのモータ軸線に直交する同一面上に、回転軸とキャリアと軸受が配置される。これにより回転軸とキャリアと軸受がモータ軸線方向にコンパクトに配置される。
【0009】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば遊星ギア機構が複数段直列に配置されている。例えば最終段の遊星ギア機構のインターナルギヤがホイールを収容する金属製の機構ケースに支持される。これにより最終段の遊星ギア機構のインターナルギヤが強固に支持される。
【0010】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば回転軸とキャリアがスプライン篏合により結合される。これにより、回転軸に対して電動モータの回転出力が効率よく伝達される。
【0011】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えばスプライン篏合が大径合わせのスプライン篏合である。これにより、電動モータの回転出力がより一層効率よく回転軸に伝達される。
【0012】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば遊星ギア機構が複数段直列に配置されている。例えば最終段の遊星ギア機構を除いた上流側の遊星ギア機構が樹脂製のギアケースに収容される。これにより、リフト機構の軽量化が図られる。
【0013】
1つ又はそれ以上の実施態様において、例えば遊星ギア機構が複数段直列に配置されている。例えば最終段の遊星ギア機構のインターナルギアのモータ軸線方向の変位が、軸受の外輪により規制される。これにより構成の簡略化が図られる。
【0014】
1つ又はそれ以上の実施態様において、インターナルギアの側面に、外輪の側面に当接される当接部をモータ軸線方向に突き出して設けられる。これにより、インターナルギアと軸受との間に適切なクリアランスが確保されて、軸受に対する遊星ギアの干渉が回避される。
【実施例】
【0015】
図1は、打ち込み工具1の一例として、シリンダ上室のガス圧を打ち込み具Nを打ち込むための推力として利用するガスバネ式の打ち込み工具を示している。以下の説明では、各図に示したように打ち込み具Nの打ち込み方向を下側とし、反打ち込み方向を上側とする。以下説明するドライバ15が下動して打ち込み具Nが打ち込まれ、打ち込み後ドライバ15が上方へ戻される。打ち込み工具1の使用者は
図1において概ね打ち込み工具1の左側に位置する。使用者の手前側を後ろ側(使用者側)、前方を前側とする。また、左右方向については使用者を基準として用いる。
【0016】
図1,2に示すように打ち込み工具1は、本体部10を有する。本体部10は、概ね円筒形の本体ハウジング11にシリンダ12を内装した構成を有する。シリンダ12内にピストン13が上下に往復動可能に収容されている。シリンダ12の上部は、蓄圧室14に連通されている。蓄圧室14のガス圧がピストン13の上面に打撃のための推力として作用する。
【0017】
ピストン13の下面に1つの長いドライバ15が結合されている。ドライバ15は下方へ延在されている。ドライバ15の下部側は、本体部10の下面に設けた打ち込みノーズ部2の打ち込み通路2a内に進入している。ピストン13の上面に作用する蓄圧室14のガス圧により、ドライバ15が打ち込み通路2a内を下動することで1本の打ち込み具Nが打撃される。
図2では、打ち込み通路2aに1本の打ち込み具Nが供給された状態が示されている。ドライバ15で打撃された打ち込み具Nは、打ち込みノーズ部2の射出口2bから射出される。射出された打ち込み具Nは被打ち込み材Wに打ち込まれる。
図1では、被打ち込み材Wに打ち込み具Nが打ち込まれた状態が示されている。シリンダ12の下部には、ピストン13の下動端での衝撃を吸収するための下動端ダンパ16が配置されている。
【0018】
打ち込みノーズ部2の下部であって射出口2bの周囲には、コンタクトアーム2cが上下に変位可能に設けられている。コンタクトアーム2cのアーム部は上方へ延在されて、スイッチレバー3a付近に至っている。コンタクトアーム2cを被打ち込み材Wの打ち込み部位に当接させた状態で、打ち込み工具1を押し下げ操作すると、コンタクトアーム2cが打ち込みノーズ部2に対して相対的に上動される。コンタクトアーム2cの上動操作が打ち込み動作開始の1つの条件とされる。これにより、不用意な打ち込み動作が防止される。
【0019】
本体部10の側部に、使用者が把持するグリップ部3が設けられている。グリップ部3の前部側下面に、使用者が指先で引き操作するスイッチレバー3aが設けられている。グリップ部3の後部にバッテリ取り付け部4が設けられている。バッテリ取り付け部4にバッテリパック5が取り付けられる。後述する駆動部30は、バッテリパック5の電力を電源として動作する。バッテリ取り付け部4の側部には、吊り下げ用のフック7が設けられている。
【0020】
打ち込みノーズ部2の下部側にマガジン6が結合されている。マガジン6内に装填された多数本の打ち込み具Nは、打ち込み動作に連動して1本ずつ打ち込み通路2a内に供給される。
【0021】
打ち込みノーズ部2の上部側にリフト機構20が結合されている。リフト機構20は、打撃後にピストン13とドライバ15を一体で上方へ移動させる機能を有する。リフト機構20によりピストン13が上方へ移動されることで、蓄圧室14のガス圧が高められる。
【0022】
図3に示すようにリフト機構20には、駆動部30と減速ギア部40が前後方向に直列に並設されている。駆動部30と減速ギア部40によりリフト機構20が動作する。駆動部30は、電動モータ32を有する。電動モータ32は、リフト機構20とバッテリ取り付け部4の下部との間に概ねL字形に跨る駆動部ケース31に収容されている。駆動部ケース31は、本体ハウジング11に一体に設けられている。本体ハウジング11と駆動部ケース31は左右半割り構造を有している。
図3,6~8には、駆動部ケース31が右半割りケース31Rと左半割りケース31Lが複数本のねじ31dにより相互に突き合わせ状態で結合された半割り構造であることが示されている。駆動部ケース31は前方へ延在されている。減速ギア部40とリフト機構20が駆動部ケース31の前部側に収容されている。
【0023】
電動モータ32は、モータ軸33の軸線(モータ軸線J)を打ち込み方向(
図3において紙面直交方向)に直交させた前後方向に沿わせた向きに収容されている。電動モータ32はバッテリパック5の電力を電源として起動する。前記したようにスイッチレバー3aの引き操作により電動モータ32が起動する。
【0024】
電動モータ32のモータ軸33は、駆動部ケース31に軸受34,35を介して回転可能に支持されている。前側の軸受34は、駆動部ケース31の前側の仕切り壁部31aに保持されている。後側の軸受35は、駆動部ケース31の後側の仕切り壁部31bに保持されている。前後の仕切り壁部31a,31b間において駆動部ケース31がモータケースの機能を有している。
【0025】
モータ軸33の前部には冷却ファン36と駆動ギア37が結合されている。駆動ギア37を介してモータ軸33の前部側が軸受34に支持されている。駆動ギア37が前側の仕切り壁部31aから前方へ突き出されている。前方へ突き出された駆動ギア37が減速ギア部40に接続されている。
【0026】
減速ギア部40の詳細が
図4に示されている。減速ギア部40は3段の遊星ギア機構41,42,43を有する。3段の遊星ギア機構41,42,43は、樹脂製のギアケース45に収容されている。ギアケース45の後部45aは、円筒形を有している。円筒形の後部45aは、軸受34の外周側と仕切り壁部31aの保持孔31cとの間に挟み込まれて結合されている。ギアケース45は駆動部ケース31で覆われている。
【0027】
3段の遊星ギア機構41,42,43は、モータ軸線Jに同軸(直列)に配置されている。
図4,5,6に示すように上流側(後部側)の第1段遊星ギア機構41は、3つの遊星ギア41aと1つのキャリア41bと1つのインターナルギア41cを有する。3つの遊星ギア41aが駆動ギア37に噛み合わされている。駆動ギア37が第1段遊星ギア機構41の太陽ギアに相当する。
図4に示すようにインターナルギア41cはギアケース45の内面に沿って固定されている。インターナルギア41cに3つの遊星ギア41aが噛み合わされている。3つの遊星ギア41aは1つのキャリア41bにそれぞれ支軸41dを介して回転可能に支持されている。
【0028】
第1段遊星ギア機構41のキャリア41bの前面に、第2段遊星ギア機構42の太陽ギア42aが一体に形成されている。
図4,5,7に示すように太陽ギア42aに3つの遊星ギア42bが噛み合わされている。3つの遊星ギア42bは1つのキャリア42cにそれぞれ支軸42eを介して回転可能に支持されている。3つの遊星ギア42bは1つのインターナルギア42dに噛み合わされている。
図4に示すようにインターナルギア42dはギアケース45の内面に沿って固定されている。第2段遊星ギア機構42のインターナルギア42dと、第1段遊星ギア機構41のインターナルギア41cとの間に円環形の介装部材46が挟み込まれている。これによりインターナルギア41c,42dのモータ軸線J方向の変位が規制されている。
【0029】
第2段遊星ギア機構42のキャリア42cの前面に第3段遊星ギア機構43の太陽ギア43aが一体に形成されている。
図4,5,8に示すように太陽ギア43aに5つの遊星ギア43bが噛み合わされている。5つの遊星ギア43bは1つのキャリア43cにそれぞれ支軸43eを介して回転可能に支持されている。5つの遊星ギア43bは1つのインターナルギア43dに噛み合わされている。
【0030】
図4に示すように第3段遊星ギア機構43のインターナルギア43dは、リフト機構20の機構ケース25の内周に沿って固定されている。第3段遊星ギア機構43のインターナルギア43dと第2段遊星ギア機構42のインターナルギア42dとの間に円環形の介装部材47が挟み込まれている。これによりインターナルギア42d,43dのモータ軸線J方向の変位が規制されている。
【0031】
図4,9に示すように第3段遊星ギア機構43のキャリア43cは、軸受48を介して機構ケース25に回転可能に支持されている。従って、第3段遊星ギア機構43は機構ケース25に支持されている。機構ケース25はアルミニウム合金製で円筒形を有する。
図3,4に示すように機構ケース25の後部側は、ギアケース45の前部内周側に進入している。これにより機構ケース25とギアケース45がモータ軸線Jと同軸に結合されている。
【0032】
図4,5,9に示すように本実施例では軸受48には内輪48aと外輪48bとの間に多数個の鋼球48cを介在させたボールベアリングが用いられている。軸受48の外輪48bは、第3段遊星ギア機構43のインターナルギア43dに当接されている。インターナルギア43dの前面には5つの当接部43fが前方へ一段高く突き出すように設けられている。5つの当接部43fは周方向の五等分位置に配置されている。当接部43fの前面に外輪48bが当接されている。これによりモータ軸線J回りに公転する5つの遊星ギア43bと軸受48との干渉が回避されるようになっている。
【0033】
第3段遊星ギア機構43のキャリア43cに、リフト機構20の回転軸21が結合されている。回転軸21の後部のスプライン軸部21aが、キャリア43cのスプライン孔43gに篏合されている。スプライン篏合により回転軸21がキャリア43cに対してモータ軸線J回りの回転について一体化されている。本実施例では、大径合わせ(旧JIS規格D2001)により、回転軸21のスプライン軸部21aがキャリア43cのスプライン孔43gに対してスプライン篏合されている。このため、
図9に示すようにスプライン軸部21aの大径面(歯の外周面)は、スプライン孔43gの底面に当接されている。電動モータ32の回転出力は、キャリア43cのスプライン篏合を経てリフト機構20の回転軸21に出力される。第3段遊星ギア機構43が、減速ギア部40の最終段の遊星ギア機構に相当する。
【0034】
図3,4に示すようにリフト機構20は、減速ギア部40に連結された回転軸21と、回転軸21に支持されたホイール22を有する。回転軸21の後部側は、キャリア43cにスプライン篏合により結合されている。キャリア43cは、上記した軸受48を介して機構ケース25に回転可能に支持されている。軸受48は、第3段遊星ギア機構43のキャリア43cの外周側に保持されている。従って、軸受48はキャリア43cに対してモータ軸線J方向にオーバーラップして配置されている。これにより、軸受48とキャリア43cと回転軸21の後部が、モータ軸線Jに直交する同一面上に並んで配置されている。
【0035】
この軸受48の配置構造によれば、リフト機構20のコンパクト化が図られる。例えば、軸受48の内輪48aに回転軸21の後部を直接挿入して保持する従来構成の場合には、キャリア43cと軸受48がモータ軸線J方向に並んで配置(オーバーラップしないで配置)されることから、その分だけモータ軸線J方向のスペースがさらに必要となる。
【0036】
回転軸21の前部側は、軸受23を介して機構ケース25に回転可能に支持されている。機構ケース25の前部は蓋部24で塞がれている。前側の軸受23は蓋部24に保持されている。回転軸21の回転軸線は、モータ軸線Jに一致している。
【0037】
電動モータ32が起動するとリフト機構20のホイール22が一体で回転する。ホイール22は
図2において矢印Rで示すように反時計回り方向に回転する。
図2,3,4に示すようにホイール22は、一定の間隔をおいて相互に平行な2つのフランジ部22aを有する。2つのフランジ部22aの周縁部間に跨って複数の係合部22bが両端支持状態で設けられている。各係合部22bには、それぞれ円柱形の軸部材(ピン)が用いられている。
【0038】
ホイール22の左部が打ち込み通路2a内に進入している。打ち込み通路2a内においてホイール22の各係合部22bがドライバ15の被係合部15aに係合される。被係合部15aはドライバ15の長手方向(上下方向)に一定の間隔をおいて複数配置されている。各被係合部15aは、ラック歯状をなし、それぞれ側方へ張り出す状態に設けられている。
【0039】
図2に示すようにピストン13とドライバ15が上方の待機位置に保持された待機状態で、スイッチレバー3aの引き操作により電動モータ32が起動される。電動モータ32の起動によりホイール22が反時計回り方向に回転すると、ドライバ15の被係合部15aに対するホイール22の係合部22bの係合が外れる。これによりピストン13とドライバ15が蓄圧室14のガス圧により下動する。ドライバ15が打ち込み通路2a内を下動することで1本の打ち込み具Nが打撃されて、射出口2bから打ち出される。
【0040】
射出後、電動モータ32の起動状態が維持されてホイール22が回転し続けることで係合部22bが再びドライバ15の被係合部15aに係合される。ホイール22が回転して係合部22bが被係合部15aに順次係合されていくことにより、ドライバ15とピストン13が上方の待機位置に戻される。例えば電動モータ32の起動からの時間が適切に制御されることで、ドライバ15とピストン13が待機位置に至った段階で電動モータ32が停止される。以上で一連の打ち込み動作が終了する。
【0041】
ホイール22は回転軸21に対して径方向に変位可能に支持されている。回転軸21には、ホイール22を径方向に変位可能に支持するための2つの平坦な支持面21bが相互に対向して設けられている。ホイール22の支持孔には相互に平行な平坦面が設けられている。支持孔の平坦面に支持面21bが摺接されている。これにより、ホイール22が回転軸21に対して一定の範囲で径方向に変位可能に支持されている。ホイール22が回転軸21に対して径方向に変位することで、係合部22bに対する被係合部15aからの不正常な反力が緩衝されて両者の正常な噛み合い状態が維持される。ホイール22の径方向への変位は圧縮バネ21cにより初期位置に復元される。
【0042】
以上説明した打ち込み工具1によれば、回転軸21を支持する後側の軸受48が、最終段の遊星ギア機構43のキャリア43cの外周側に保持されている。軸受48がキャリア43cの外周側にモータ軸線J方向にオーバーラップして配置されることで、リフト機構20のモータ軸線J方向のコンパクト化が図られる。
【0043】
実施例によれば、回転軸21のスプライン軸部21aと、キャリア43cと、軸受48の3部材がモータ軸線Jに直交する同一面上に並んで配置される。これにより回転軸21とキャリア43cと軸受48がモータ軸線J方向にコンパクトに配置される。
【0044】
実施例によれば、第3段(最終段)の遊星ギア機構43が金属製の機構ケース25に支持される。これにより最終段の遊星ギア機構43が振動や衝撃に対して強固に支持される。
【0045】
実施例によれば、回転軸21とキャリア43cがスプライン篏合により結合される。これにより、回転軸21に対して電動モータ32の回転出力が効率よく伝達される。特に、スプライン篏合が大径合わせのスプライン篏合であることから、電動モータ32の回転出力がより一層効率よく回転軸21に伝達される。
【0046】
実施例によれば、減速ギア部40の3段の遊星ギア機構41,42,43のうち、最終段の遊星ギア機構43を除いた上流側の第1段、第2段の遊星ギア機構41,42が樹脂製のギアケース45に収容される。これにより、減速ギア部40の軽量化が図られる。
【0047】
実施例によれば、最終段の遊星ギア機構43のインターナルギア43dのモータ軸線J方向の変位が、軸受48の外輪48bにより規制される。これにより別途規制部材を設ける構成に比して構成の簡略化が図られる。
【0048】
実施例によれば、最終段の遊星ギア機構43のインターナルギア43dの側面に、当接部43fが一段高く突き出して設けられる。当接部43fに軸受48の外輪48bが当接される。これにより、インターナルギア43dと軸受48との間に適切なクリアランスが確保されて、例えば軸受48に対する遊星ギア43bの干渉が回避される。
【0049】
以上説明した実施例には種々の変更を加えることができる。例えば3段の遊星ギア機構41,42,43を有する減速ギア部40を例示したが、1段若しくは2段の遊星ギア機構、あるいは4段以上の遊星ギア機構を有する減速ギア部についても例示した軸受48の配置構造を適用することができる。
【0050】
回転軸21に対してホイール22が径方向へ変位可能に結合された構成を例示したが、係る変位許容構造は省略してもよい。
【0051】
軸受48がボールベアリングである構成を例示したが、ローラベアリングを用いる場合についても同様に適用することができる。
【0052】
最終段の遊星ギア機構43のキャリア43cに対して回転軸21が大径合わせのスプライン篏合により結合される構成を例示したが、歯面合わせのスプライン篏合に変更してもよい。また、スプライン篏合とは異なる結合手段、例えば圧入やねじ結合により回転軸が最終段の遊星ギア機構に結合される構成としてもよい。
【0053】
実施例の打ち込み工具1が本開示の1つの局面における打ち込み工具の一例である。実施例のピストン13が本開示の1つの局面におけるピストンの一例である。実施例のドライバ15が本開示の1つの局面におけるドライバの一例である。
【0054】
実施例のリフト機構20が本開示の1つの局面におけるリフト機構の一例である。実施例の電動モータ32が本開示の1つの局面における電動モータの一例である。実施例の遊星ギア機構41,42,43が本開示の1つの局面における遊星ギア機構の一例である。実施例のキャリア43cが本開示の1つの局面におけるキャリアの一例である。
【0055】
実施例の回転軸21が本開示の1つの局面における回転軸の一例である。実施例の軸受48が本開示の1つの局面における軸受の一例である。実施例のホイール22が本開示の1つの局面におけるホイールの一例である。
【符号の説明】
【0056】
1…打ち込み工具
N…打ち込み具
2…打ち込みノーズ部
2a…打ち込み通路、2b…射出口、2c…コンタクトアーム
3…グリップ部
3a…スイッチレバー
4…バッテリ取り付け部
5…バッテリパック
6…マガジン
7…フック
10…本体部
11…本体ハウジング
12…シリンダ
13…ピストン
14…蓄圧室
15…ドライバ
15a…被係合部
16…下動端ダンパ
20…リフト機構
21…回転軸
21a…スプライン軸部、21b…支持面
22…ホイール
22a…フランジ部、22b…係合部
23…軸受(前側)
24…蓋部
25…機構ケース
30…駆動部
31…駆動部ケース
31R…右半割りケース、31L…左半割りケース
31a…仕切り壁部(前側)、31b…仕切り壁部(後側)、31c…保持孔、31d…ねじ
32…電動モータ
J…モータ軸線
33…モータ軸
34,35…軸受
36…冷却ファン
37…駆動ギア
40…減速ギア部
41…第1段遊星ギア機構
41a…遊星ギア、41b…キャリア、41c…インターナルギア、41d…支軸
42…第2段遊星ギア機構
42a…太陽ギア、42b…遊星ギア、42c…キャリア、42d…インターナルギア
43…第3段遊星ギア機構
43a…太陽ギア、43b…遊星ギア、43c…キャリア、43d…インターナルギア
43e…支軸、43f…当接部、43g…スプライン孔
45…ギアケース
45a…後部
46,47…介装部材
48…軸受(ボールベアリング)
48a…内輪、48b…外輪、48c…鋼球