IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-磁性体コアおよびコイル部品 図1
  • 特許-磁性体コアおよびコイル部品 図2
  • 特許-磁性体コアおよびコイル部品 図3
  • 特許-磁性体コアおよびコイル部品 図4A
  • 特許-磁性体コアおよびコイル部品 図4B
  • 特許-磁性体コアおよびコイル部品 図5
  • 特許-磁性体コアおよびコイル部品 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-08
(45)【発行日】2025-08-19
(54)【発明の名称】磁性体コアおよびコイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/255 20060101AFI20250812BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20250812BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20250812BHJP
【FI】
H01F27/255
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F17/04 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023146195
(22)【出願日】2023-09-08
(62)【分割の表示】P 2018205396の分割
【原出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2023158174
(43)【公開日】2023-10-26
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】殿山 恭平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】浅井 深雪
(72)【発明者】
【氏名】大久保 等
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-103287(JP,A)
【文献】特開2012-012699(JP,A)
【文献】特開2007-134591(JP,A)
【文献】特開2016-208002(JP,A)
【文献】特開2016-025352(JP,A)
【文献】特開2018-123361(JP,A)
【文献】特開2018-123360(JP,A)
【文献】特開2018-123363(JP,A)
【文献】特開2019-007053(JP,A)
【文献】特開2007-270271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/147-1/153、1/20-1/26
H01F 17/04、27/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粉を含む金属磁性粉含有樹脂を有する磁性体コアであって、
前記金属磁性粉含有樹脂は金属磁性粉を有し、
前記金属磁性粉は、大径粉、中径粉および小径粉を有し、
前記大径粉は粒子径が10μm以上60μm以下であり、
前記中径粉は粒子径が2.0μm以上10μm未満であり、
前記小径粉は粒子径が0.1μm以上2.0μm未満であり、
前記大径粉はナノ結晶を含み、
前記ナノ結晶がFe基ナノ結晶であり、前記Fe基ナノ結晶がFeおよびNbを含み、
前記大径粉におけるFeの含有割合が72.9at%以上81.0at%以下であり、Nbの含有割合が3.1at%以上7.0at%以下であり、
前記金属磁性粉に対する前記大径粉の存在割合は、前記磁性体コアの切断面における面積比率で39%以上91%以下であり、
前記磁性体コアの任意の断面において、前記小径粉の存在割合に対する前記中径粉の存在割合が面積比で0.73以上5.7以下であることを特徴とする磁性体コア。
【請求項2】
前記中径粉はナノ結晶を含む請求項1に記載の磁性体コア。
【請求項3】
前記小径粉はパーマロイを含む請求項1または2に記載の磁性体コア。
【請求項4】
前記金属磁性粉が絶縁コーティングされている請求項1~のいずれかに記載の磁性体コア。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の磁性体コアと、コイルと、を有するコイル部品。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体コアおよびコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器分野では、電源用のインダクタとして表面実装型のコイル部品を用いることが多くなっている。表面実装型のコイル部品の具体的構造のひとつに、プリント回路基板技術を応用した平面コイル構造がある。
【0003】
特許文献1では、粒径が互いに異なる2種類以上の金属磁性粉を用いて作製した磁性体コアを有するコイル部品が提案されている。そして、粒径が互いに異なる2種類以上の金属磁性粉を用いることで透磁率を向上させ、コアロスを低下させる効果を奏することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-103287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、さらに良好な特性を有する磁性体コアが要求されている。本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、透磁率、コアロス、直流重畳特性および耐電圧が優れる磁性体コアおよびコイル部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁性体コアは、
金属磁性粉を含む金属磁性粉含有樹脂を有する磁性体コアであって、
前記金属磁性粉含有樹脂は金属磁性粉を有し、
前記金属磁性粉は、大径粉、中径粉および小径粉を有し、
前記大径粉は粒子径が10μm以上60μm以下であり、
前記中径粉は粒子径が2.0μm以上10μm未満であり、
前記小径粉は粒子径が0.1μm以上2.0μm未満であり、
前記大径粉はナノ結晶を含み、
前記金属磁性粉に対する前記大径粉の存在割合は、前記磁性体コアの切断面における面積比率で39%以上91%以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る磁性体コアは上記の構成を有することにより、透磁率、コアロス、直流重畳特性および耐電圧が優れる磁性体コアとなる。
【0008】
前記中径粉はナノ結晶を含んでもよい。
【0009】
前記小径粉はパーマロイを含んでもよい。
【0010】
前記ナノ結晶がFe基ナノ結晶であってもよい。
【0011】
前記Fe基ナノ結晶がFeおよびMを含んでもよく、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVから選択される少なくとも1種以上であってもよい。
【0012】
前記金属磁性粉が絶縁コーティングされていてもよい。
【0013】
本発明に係るコイル部品は、上記の磁性体コアと、コイルと、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るコイル部品の斜視図である。
図2図2図1に示すコイル部品の分解斜視図である。
図3図3図1に示すIII-III線に沿う断面図である。
図4A図4A図1に示すIV-IV線に沿う断面図である。
図4B図4B図4Aの端子電極付近の要部拡大断面図である。
図5図5は絶縁コーティングされた金属磁性粉の模式図である。
図6図6は試料No.10の磁性体コアの断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0016】
本発明に係るコイル部品の一実施形態として、図1図4に示すコイル部品2が挙げられる。図1に示すように、コイル部品2は、矩形平板形状の磁性体コア10と、磁性体コア10のX軸方向の両端にそれぞれ装着してある一対の端子電極4,4とを有する。端子電極4,4は、磁性体コア10のX軸方向端面を覆うと共に、X軸方向端面の近くで、磁性体コア10のZ軸方向の上面10aと下面10bとを一部覆っている。さらに、端子電極4,4は、磁性体コア10のY軸方向の一対の側面をも一部覆っている。
【0017】
図2に示すように、磁性体コア10は、上部コア15と下部コア16とからなり、そのZ軸方向の中央部に、絶縁基板11を有する。
【0018】
絶縁基板11は、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させた一般的なプリント基板材料からなることが好ましいが特に限定はない。
【0019】
また、本実施形態では樹脂基板11の形状が矩形であるが、その他の形状であってもよい。樹脂基板11の形成方法にも特に制限はなく、たとえば射出成形、ドクターブレード法、スクリーン印刷などにより形成される。
【0020】
また、絶縁基板11のZ軸方向の上面(一方の主面)に、円形スパイラル状の内部導体通路12から成る内部電極パターンが形成してある。内部導体通路12は最終的にコイルとなる。また、内部導体通路12の材質に特に制限はない。
【0021】
スパイラル状の内部導体通路12の内周端には、接続端12aが形成してある。また、スパイラル状の内部導体通路12の外周端には、磁性体コア10の一方のX軸方向端部に沿って露出するようにリード用コンタクト12bが形成してある。
【0022】
絶縁基板11のZ軸方向の下面(他方の主面)には、スパイラル状の内部導体通路13から成る内部電極パターンが形成してある。内部導体通路13は最終的にコイルとなる。また、内部導体通路13の材質に特に制限はない。
【0023】
スパイラル状の内部導体通路13の内周端には、接続端13aが形成してある。また、スパイラル状の内部導体通路13の外周端には、磁性体コア10の一方のX軸方向端部に沿って露出するようにリード用コンタクト13bが形成してある。
【0024】
図3に示すように、接続端12aと接続端13aとは、Z軸方向には絶縁基板11を挟んで反対側に形成してあり、X軸方向、Y軸方向には同じ位置に形成してある。そして、絶縁基板11に形成してあるスルーホール11iに埋め込まれているスルーホール電極18を通して電気的に接続してある。すなわち、スパイラル状の内部導体通路12と、同じくスパイラル状の内部導体通路13とは、スルーホール電極18を通して電気的に直列に接続してある。
【0025】
絶縁基板11の上面11a側から見たスパイラル状の内部導体通路12は、外周端のリード用コンタクト12bから内周端の接続端12aに向かって反時計回りのスパイラルを構成している。
【0026】
これに対して、絶縁基板11の上面11a側から見たスパイラル状の内部導体通路13は、内周端である接続端13aから外周端であるリード用コンタクト13bに向かって反時計回りのスパイラルを構成している。
【0027】
これにより、スパイラル状の内部導体通路12,13に電流が流れることによって生じる磁束の方向が一致し、スパイラル状の内部導体通路12,13で発生する磁束は重畳して強め合い、大きなインダクタンスを得ることができる。
【0028】
上部コア15は、矩形平板状のコア本体の中央部に、Z軸方向の下方に向けて突出する円柱状の中脚部15aを有する。また、上部コア15は、矩形平板状のコア本体のY軸方向の両端部に、X軸方向の下方に向けて突出する板状の側脚部15bを有する。
【0029】
下部コア16は、上部コア15のコア本体と同様な矩形平板状の形状を有し、上部コア15の中脚部15aと側脚部15bとが、それぞれ下部コア16の中央部およびY軸方向の端部に連結されて一体化される。
【0030】
なお、図2では、磁性体コア10が、上部コア15と下部コア16とに分離されて描かれているが、これらは、金属磁性粉含有樹脂により一体化されて形成されても良い。また、上部コア15に形成してある中脚部15aおよび/または側脚部15bは、下部コア16に形成されていても良い。いずれにしても、磁性体コア10は、完全な閉磁路を構成してあり、閉磁路内にギャップは存在しない。
【0031】
図2に示すように、上部コア15と内部導体通路12との間には、保護絶縁層14が介在してあり、これらは絶縁されている。また、下部コア16と内部導体通路13との間には、矩形シート状の保護絶縁層14が介在してあり、これらは絶縁されている。保護絶縁層14の中央部には、円形の貫通孔14aが形成してある。また、絶縁基板11の中央部にも、円形の貫通孔11hが形成してある。これらの貫通孔14aおよび11hを通して、上部コア15の中脚部15aが下部コア16の方向に延びて下部コア16の中央と連結してある。
【0032】
図4Aおよび図4Bに示すように、本実施形態では、端子電極4が、磁性体コア10のX軸方向端面に接触する内層4aと、内層4aの表面に形成される外層4bとを有する。内層4aは、磁性体コア10のX軸方向の端面近くで、磁性体コア10の上面10aおよび下面10bの一部も覆っており、その外表面を外層4bが覆っている。
【0033】
ここで、本実施形態では、磁性体コア10は、金属磁性粉含有樹脂で構成してある。金属磁性粉含有樹脂とは、樹脂に金属磁性粉が混入されてなる磁性材料である。
【0034】
ここで、本実施形態では、磁性体コア10を任意の断面で切断して切断面を観察した場合に、大径粉、中径粉および小径粉の3種類の大きさの金属磁性粉が観察される。言いかえれば、金属磁性粉は大径粉、中径粉および小径粉を有する。具体的には、磁性体コア10の切断面についてSEMを用いて観察すると図6に示す態様となる。なお、図6は後述する実施例、試料No.10である。
【0035】
大径粉は粒子径(円相当径)が10μm以上60μm以下であり、中粒径は粒子径が2.0μm以上10μm未満であり、小粒径は粒子径が0.1μm以上2.0μm未満である。
【0036】
そして、大径粉はナノ結晶を含む。ここで、ナノ結晶とは結晶粒径がナノオーダーの結晶のことであり、1nm以上100nm以下の結晶のことである。また、全ての大径粉がナノ結晶を含んでいなくてもよいが、個数ベースで30%以上の大径粉がナノ結晶を含むことが好ましい。
【0037】
さらに、中径粉がナノ結晶を含んでいてもよく、個数ベースで30%以上の中径粉がナノ結晶を含んでいてもよい。中径粉がナノ結晶を含むことで、透磁率がさらに向上する。
【0038】
なお、ナノ結晶を含む粉末においては、1粒の粉に多数のナノ結晶が含まれていることが通常である。すなわち、粉の粒子径と結晶粒径とは異なる。
【0039】
本実施形態では、大径粉がナノ結晶を含むことで、磁性体コアの透磁率が向上し、コアロスが低下する。また、直流重畳特性および耐電圧も大きく低下することなく好適に維持される。
【0040】
以下、ナノ結晶についてさらに詳細に説明する。そして、大径粉および中径粉の組成についても説明する。
【0041】
本実施形態のナノ結晶は、Fe基ナノ結晶であることが好ましい。Fe基ナノ結晶とは、粒径がナノオーダーであり、Feの結晶構造がbcc(体心立方格子構造)である結晶のことである。
【0042】
本実施形態においては、Fe基ナノ結晶は平均粒径が5~30nmであることが好ましい。このようなFe基ナノ結晶を析出させた軟磁性合金は、飽和磁束密度が高くなりやすく、保磁力が低くなりやすい。
【0043】
本実施形態におけるFe基ナノ結晶の組成は任意である。例えば、Feの他にMを含んでもよい。なお、MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVから選択される1種以上の元素である。
【0044】
Fe基ナノ結晶を含む金属磁性粉の組成は任意である。例えば、
組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β)(1-(a+b+c+d+e+g+f))abcSidefTigからなる主成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.020≦a≦0.14
0.020<b≦0.20
0≦c≦0.15
0≦d≦0.14
0≦e≦0.030
0≦f≦0.010
0≦g≦0.0010
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であってもよい。
【0045】
以下、Fe基ナノ結晶を含む金属磁性粉の各成分について詳細に説明する。
【0046】
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上である。
【0047】
Mの含有量(a)は0.020≦a≦0.14を満たす。aが小さい場合には、金属磁性粉の製造時においてナノ結晶より粒径の大きな結晶が生じやすい。そして、金属磁性粉の比抵抗が低くなりやすく、保磁力が高くなりやすくなり、透磁率が低くなりやすくなる。aが大きい場合には、金属磁性粉の飽和磁束密度が低下しやすくなる。
【0048】
Bの含有量(b)は0.020<b≦0.20を満たす。bが小さい場合には、金属磁性粉の製造時においてナノ結晶より粒径の大きな結晶が生じやすい。そして、金属磁性粉の比抵抗が低くなりやすく、保磁力が高くなりやすくなり、透磁率が低くなりやすくなる。bが大きい場合には、金属磁性粉の飽和磁束密度が低下しやすくなる。
【0049】
Pの含有量(c)は0≦c≦0.15を満たす。すなわち、Pは含有しなくてもよい。cが大きい場合には、金属磁性粉の飽和磁束密度が低下しやすくなる。
【0050】
Siの含有量(d)は0≦d≦0.14を満たす。すなわち、Siは含有しなくてもよい。dが大きい場合には、金属磁性粉の保磁力が上昇しやすくなる。
【0051】
Cの含有量(e)は0≦e≦0.030を満たす。すなわち、Cは含有しなくてもよい。eが大きい場合には、金属磁性粉の比抵抗が低下し、保磁力が上昇しやすくなる。
【0052】
Sの含有量(f)は0≦f≦0.010を満たす。すなわち、Sは含有しなくてもよい。fが大きい場合には、保磁力が上昇しやすくなる。
【0053】
Tiの含有量(g)は0≦f≦0.0010を満たす。すなわち、Tiは含有しなくてもよい。gが大きい場合には、保磁力が上昇しやすくなる。
【0054】
Feの含有量(1-(a+b+c+d+e+f+g))は、0.73≦(1-(a+b+c+d+e+f+g))≦0.95であることが好ましい。(1-(a+b+c+d+e+f+g))を上記の範囲内とすることで、Fe基ナノ結晶が得やすくなる。
【0055】
また、Feの一部をX1および/またはX2で置換してもよい。
【0056】
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上である。X1の含有量に関してはα=0でもよい。すなわち、X1は含有しなくてもよい。また、X1の原子数は組成全体の原子数を100at%として40at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦α{1-(a+b+c+d+e+f+g)}≦0.40を満たすことが好ましい。
【0057】
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上である。X2の含有量に関してはβ=0でもよい。すなわち、X2は含有しなくてもよい。また、X2の原子数は組成全体の原子数を100at%として3.0at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦β{1-(a+b+c+d+e+f+g)}≦0.030を満たすことが好ましい。
【0058】
FeをX1および/またはX2に置換する置換量の範囲としては、原子数ベースでFeの半分以下としてもよい。すなわち、0≦α+β≦0.50としてもよい。α+β>0.50の場合には、Fe基ナノ結晶を得にくくなる。
【0059】
また、上記以外の元素については、特性に大きな影響を与えない範囲で含有しても良い。たとえば、金属磁性粉100重量%に対して、0.1重量%以下、含有してもよい。
【0060】
本実施形態では、磁性体コア10の任意の断面において、金属磁性粉に対する大径粉の存在割合が、面積比率で39%以上91%以下である。
【0061】
大径粉の存在割合を面積比率で39%以上とすることで、磁性体コアの透磁率が向上し、コアロスが低下する。また、直流重畳特性および耐電圧も大きく低下することなく好適に維持される。
【0062】
また、大径粉の存在割合を面積比率で91%以下とすることで、磁性体コアの透磁率が向上する。また、直流重畳特性、耐電圧も大きく低下することなく好適に維持される。さらに、コアロスも大きく上昇することなく好適に維持される。
【0063】
金属磁性粉に対する大径粉の存在割合は、面積比率で59%以上86%以下であることが好ましく、74%以上86%以下であることがさらに好ましい。特に、大径粉の存在割合が74%以上86%以下である場合には、中径粉がナノ結晶を含む場合にコアロスがさらに小さくなる。
【0064】
本実施形態では、磁性体コア10の任意の断面において、小径粉の存在割合に対する中径粉の存在割合が面積比で0.73以上5.7以下であることが好ましく、0.73以上2.3以下であることがさらに好ましい。小径粉の存在割合に対する中径粉の存在割合が小さいほど磁性体コアの透磁率が好適となる。一方、小径粉の存在割合に対する中径粉の存在割合が大きいほど直流重畳特性が好適となる。
【0065】
本実施形態では、小径粉がパーマロイを含むことが好ましく、個数ベースで30%以上の小径粉がパーマロイを含んでいてもよい。小径粉がパーマロイを含むことで、透磁率がさらに向上する。
【0066】
なお、全ての金属磁性粉がナノ結晶を含んでいてもよいが、全ての金属磁性粉がナノ結晶を含む場合には、磁性体コア10における金属磁性粉の含有率が低下しやすくなり、透磁率が低下しやすくなる。また、ナノ結晶は高コストである。したがって、ナノ結晶を含む金属磁性粉とナノ結晶を含まない金属磁性粉とを同時に含むことが好ましい。具体的には、ナノ結晶を含む金属磁性粉の割合は重量比で40wt%~90wt%とすることが好ましい。
【0067】
本実施形態のパーマロイとは、Ni-Fe系合金のことであり、Niが28重量%以上含まれ、残部がFeおよびその他の元素からなる合金のことである。その他の元素の含有量に特に制限はないが、Ni-Fe合金を100重量%とする場合に8重量%以下である。
【0068】
なお、パーマロイにおけるNiの含有率は40~85重量%であることが好ましく、75~82重量%であることが特に好ましい。Niの含有率を上記の範囲内とすることで初透磁率が向上し、コアロスが低下する。
【0069】
また、本実施形態に係る金属磁性粉は図5に示すように絶縁コーティングされていることが好ましい。大径粉、中径粉、小径粉がいずれも絶縁コーティングされていることがさらに好ましい。金属磁性粉が絶縁コーティングされていることにより、特に耐電圧が向上する。なお、「絶縁コーティングされている」とは、当該粉末のうち、50%以上の粉末が絶縁コーティングされている場合を指す。
【0070】
絶縁コーティング22の材質には特に制限はなく、本技術分野において一般的に用いられている絶縁コーティングを用いることができる。SiO2からなるガラスを含む被膜またはリン酸塩を含むリン酸塩化成皮膜が好ましい。パーマロイを含む金属磁性粉には、SiO2からなるガラスを含む被膜を用いることが特に好ましい。また、絶縁コーティングの方法は任意であり、本技術分野で通常用いられる方法を用いることができる。
【0071】
絶縁コーティング22の厚みは任意である。金属磁性粉の絶縁コーティング22の平均厚みを5~45nmとすることが好ましく、特に好ましくは10~35nmである。
【0072】
絶縁コーティングされた金属磁性粉における金属磁性粉の粒径は図5のd1の長さである。また、図5のd2の長さ、すなわち、当該金属磁性粉における絶縁コーティングの最大厚みが当該金属磁性粉における絶縁コーティングの厚みとなる。また、絶縁コーティングは必ずしも金属磁性粉の表面の全てを覆っている必要はない。表面の50%以上が絶縁コーティングに覆われている金属磁性粉は絶縁コーティングされている金属磁性粉であるとみなす。
【0073】
本実施形態における金属磁性粉が上記の構成を有することで、初透磁率、コアロス、直流重畳特性および耐電圧が全て優れた磁性体コア10を得ることができる。
【0074】
前記金属磁性粉含有樹脂における金属磁性粉の含有率は90~99重量%であることが好ましく、95~99重量%であることがさらに好ましい。樹脂に対する金属磁性粉の量を少なくすれば飽和磁束密度および透磁率は小さくなり、逆に金属磁性粉の量を多めにすれば飽和磁束密度および透磁率は大きくなる。したがって、金属磁性粉の量で飽和磁束密度および透磁率を調整することができる。
【0075】
金属磁性粉含有樹脂に含まれる樹脂は絶縁結着材として機能する。樹脂の材料としては液状エポキシ樹脂又は粉体エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂の含有率は1~10重量%であることが好ましく、1~5重量%であることがさらに好ましい。また、金属磁性粉と樹脂とを混合させるときには、樹脂溶液を用いて金属磁性粉含有樹脂溶液を得ることが好ましい。樹脂溶液の溶媒には特に限定はない。
【0076】
以下、コイル部品2の製造方法について述べる。
【0077】
まず、絶縁基板11に、スパイラル状の内部導体通路12,13をめっき法により形成する。めっき条件に特に限定はない。また、めっき法以外の方法により形成してもよい。
【0078】
次に、内部導体通路12,13が形成された絶縁基板11の両面に、保護絶縁層14を形成する。保護絶縁層14の形成方法に特に限定はない。例えば、絶縁基板11を高沸点溶剤にて希釈した樹脂溶解液に浸漬させ乾燥させることで保護絶縁層14を形成することができる。
【0079】
次に、図2に示す上部コア15および下部コア16の組合せからなる磁性体コア10を形成する。そのために、保護絶縁層14が形成してある絶縁基板11の表面に、上述した金属磁性粉含有樹脂溶液を塗布する。塗布方法には特に限定はないが、印刷により塗布することが一般的である。
【0080】
本実施形態における金属磁性粉は、粒度分布等が互いに異なる複数の金属磁性粉を混合することにより製造される。ここで、複数の金属磁性粉の粒度分布や混合割合等を制御することで、最終的に得られる磁性体コア10における大径粉、中径粉および小径粉の断面積比率を制御することができる。
【0081】
磁性コア10における大径粉、中径粉および小径粉の断面積比率を比較的、容易に制御する方法の一例を示す。この方法では、最終的に得られる磁性コア10において、主に大径粉となる金属磁性粉と、主に中径粉となる金属磁性粉と、主に小径粉となる金属磁性粉と、を別個に準備する。この場合には、主に大径粉となる金属磁性粉のD50を15~40μm、主に中径粉となる金属磁性粉のD50を3.0~8.0μm、主に小径粉となる金属磁性粉のD50を0.5~1.5μmとし、各金属磁性粉の粒子径のバラつきを十分に小さくする。
【0082】
大径粉、中径粉および小径粉は球状であることが好ましい。本実施形態において球状であるとは、具体的には、球形度が0.9以上である場合をいう。また、球形度は画像式粒度分布計で測定することができる。
【0083】
さらに、ナノ結晶(特にFe基ナノ結晶)を含む金属磁性粉の製造方法について説明する。ナノ結晶(特にFe基ナノ結晶)を含む金属磁性粉の製造方法は任意であるが、ナノ結晶(特にFe基ナノ結晶)を含む金属磁性粉を球状にしやすくする観点からは、ガスアトマイズ法により製造することが好ましい。
【0084】
ガスアトマイズ法では、まず、最終的に得られる金属磁性粉に含まれる各金属元素の純金属を準備し、最終的に得られる金属磁性粉と同組成となるように秤量する。そして、各金属元素の純金属を溶解し、混合して母合金を作製する。なお、前記純金属の溶解方法には特に制限はないが、例えばチャンバー内で真空引きした後に高周波加熱にて溶解させる方法がある。なお、母合金と最終的に得られる軟磁性合金とは通常、同組成となる。次に、作製した母合金を加熱して溶融させ、溶融金属(溶湯)を得る。溶融金属の温度には特に制限はないが、例えば1200~1500℃とすることができる。
【0085】
その後、前記溶融合金をチャンバー内で噴射させ、金属磁性粉を作製する。金属磁性粉の粒度分布はガスアトマイズ法で通常用いられている方法により制御することができる。このとき、ガス噴射温度を50~200℃とし、チャンバー内の蒸気圧を4hPa以下とすることが好ましい。後述する熱処理によりFe基ナノ結晶を含む金属磁性粉が得やすくなるためである。この時点では、金属磁性粉が非晶質のみからなる場合もあれば、金属磁性粉がナノヘテロ構造を有する場合もある。本実施形態でのナノヘテロ構造とは、粒径が30nm以下であるナノ結晶が非晶質中に存在する構造のことである。
【0086】
次に、作製した金属磁性粉に対して熱処理を行うことが好ましい。金属磁性粉が非晶質のみからなる場合には必ず熱処理を行うが、金属磁性粉がナノヘテロ構造を有する場合には、必ずしも熱処理を行わなくてもよい。金属磁性粉がすでにナノ結晶を含んでいるためである。
【0087】
例えば、400~600℃で0.5~10分、熱処理を行うことで、各金属磁性粉同士が焼結し粗大化することを防ぎつつ元素の拡散を促し、熱力学的平衡状態に短時間で到達させることができ、歪や応力を除去することができる。その結果、Fe基ナノ結晶を含む金属磁性粉を得やすくなる。なお、熱処理後のFe基ナノ結晶を含む金属磁性粉は非晶質を含む場合もあれば含まない場合もある。
【0088】
また、熱処理により得られた金属磁性粉に含まれるFe基ナノ結晶の平均粒径の算出方法には特に制限はない。例えば透過電子顕微鏡を用いて観察することで算出できる。また、結晶構造がbcc(体心立方格子構造)であること確認する方法にも特に制限はない。例えばX線回折測定を用いて確認することができる。
【0089】
次に、印刷により塗布された金属磁性粉含有樹脂溶液の溶剤分を揮発させて磁性体コア10とする。
【0090】
さらに、磁性体コア10の密度を向上させる。磁性体コア10の密度を向上させる方法には特に限定はないが、例えばプレス処理による方法が挙げられる。
【0091】
そして、磁性体コア10の上面11aおよび下面11bを研削し、磁性体コア10を所定の厚みにそろえる。その後、熱硬化させて樹脂を架橋させる。研削方法には特に限定はないが、例えば、固定砥石による方法が挙げられる。また、熱硬化の温度および時間には特に制限はなく、樹脂の種類等により適宜制御すればよい。
【0092】
その後に、磁性体コア10が形成された絶縁基板11を個片状に切断する。切断方法に特に限定はないが、たとえばダイシングによる方法が挙げられる。
【0093】
以上の方法で、図1で示される端子電極4が形成される前の磁性体コア10が得られる。なお、切断前の状態では、磁性体コア10は、X軸方向およびY軸方向に一体的に連結されている。
【0094】
また、切断後、個片化された磁性体コア10にエッチング処理を行う。エッチング処理の条件としては、特に限定されない。
【0095】
次に、内層4aを形成する電極材を準備する。電極材の種類は任意である。例えば上述した金属磁性粉含有樹脂に用いられるエポキシ樹脂と同様のエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂にAg粉などの導体粉を含有させた導体粉含有樹脂が挙げられる。電極材として導体粉含有樹脂を用いる場合には、エッチング処理された磁性体コア10のX軸方向の両端に電極材を塗布し、加熱により熱硬化性樹脂を硬化させ、内層4aを形成する。
【0096】
次に、内層4aが形成された製品に対してバレルめっきにて端子めっきを施し、外層4bを形成する。外層4bは2層以上の多層構造であってもよい。外層4bの形成方法および材質に特に制限はないが、例えば内層4a上にNiめっきを施し、さらにNiめっき上にSnめっきを施すことで形成できる。以上の方法でコイル部品2を製造することができる。
【0097】
本実施形態では、磁性体コア10を金属磁性粉含有樹脂で構成しているため、金属磁性粉と金属磁性粉との間に樹脂が存在し、微小なギャップが形成された状態となることによって飽和磁束密度が高められる。このため、上部コア15と下部コア16との間にエアギャップを形成することなく磁気飽和を防止することができる。したがって、ギャップを形成するために磁性コアを高い精度で機械加工する必要はない。
【0098】
さらに本実施形態によるコイル部品2では、基板面に集合体として形成することでコイルの位置精度が非常に高く、小型化、薄型化が可能である。さらに本実施形態では、磁性体には金属磁性材料を用いており、フェライトよりも直流重畳特性がよいので、磁気ギャップの形成を省略することができる。
【0099】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、図1図4に示されたコイル部品以外の形態であっても、上述した金属磁性粉含有樹脂により覆われているコイルを有するコイル部品は全て本発明のコイル部品である。
【実施例
【0100】
以下、本発明を、実施例に基づき説明する。
【0101】
本発明に係るコイル部品における金属磁性粉含有樹脂の特性を評価するためにトロイダルコアを作製した。以下、トロイダルコアの作製方法について説明する。
【0102】
まず、トロイダルコアに含まれる金属磁性粉作製のために金属磁性粉に含まれる大径粉1、中径粉1および小径粉1を準備した。
【0103】
まず、大径粉1および中径粉1として、表1に示す組成(原子数比)であるナノ結晶合金粉1~3を準備した。なお、表1の組成は小数点2桁目を四捨五入しているため、合計が100.0%にならない場合がある。
【0104】
【表1】
【0105】
大径粉1および中径粉1に用いられるナノ結晶合金粉の作製方法について説明する。
【0106】
まず、表1に示す合金組成となるように原料金属を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した。
【0107】
その後、作製した母合金を加熱して溶融させ、1250℃の溶融状態の金属とした。そして、ガスアトマイズ法により前記金属を噴射させ、粉体を作成した。ガス噴射温度は150℃、チャンバー内の蒸気圧は3.8hPaとした。また、蒸気圧調整は露点調整をおこなったArガスを用いることで行った。また、表2~表5に示すD50となるように粒度分布を制御した。
【0108】
そして、各粉体について、500℃で5分間、熱処理を行い、ナノ結晶合金粉とした。
【0109】
大径粉1としてアモルファス粉を用いる場合には、D50が24μmのFe基アモルファス粉(エプソンアトミックス株式会社製)を準備した。中径粉としてアモルファス粉を用いる場合には、D50が3.0μmのFe基アモルファス粉(エプソンアトミックス株式会社製)を準備した。以下に示す表2~表9では、D50が24μmのFe基アモルファス粉をアモルファス粉1、D50が3.0μmのFe基アモルファス粉をアモルファス
粉2と記載している。
【0110】
小径粉1としては、純鉄粉およびパーマロイ粉(Ni含有率78.5wt%)を準備した。
【0111】
次に、上記の大径粉1、中径粉1および小径粉1(純鉄粉を除く)に対してコーティングを行った。
【0112】
大径粉1および中径粉1に対するコーティングは、リン酸塩を含むリン酸化成被膜(以下、単にリン酸化成被膜と呼ぶ場合がある)を形成することにより行った。リン酸化成被膜の形成は、リン酸塩を含む溶液を大径粉1および中径粉1に噴霧することにより行った。なお、リン酸化成被膜の平均厚みが30nmとなるようにした。
【0113】
小径粉1(純鉄粉を除く)に対するコーティングは、SiO2を含むガラスからなる絶縁被膜(以下、単にガラスコートと呼ぶ場合がある)を、形成することにより行った。ガラスコートの形成は、SiO2を含む溶液を前記金属磁性粉に噴霧することにより行った。なお、ガラスコートの平均厚みが30nmとなるようにした。
【0114】
そして、大径粉1、中径粉1および小径粉1の配合比率が表2~表5の重量比率となるように混合し、金属磁性粉を作成した。
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
そして、金属磁性粉をエポキシ樹脂と混練して金属磁性粉含有樹脂を作製した。前記金属磁性粉含有樹脂における絶縁被膜を形成した金属磁性粉の重量比率は、97.5重量%とした。なお、エポキシ樹脂としてはフェノールノボラック型エポキシ樹脂を用いた。
【0120】
そして、得られた金属磁性粉含有樹脂を所定のトロイダル形状の金型に充填させ、100℃で5時間加熱して溶剤分を揮発させた。そして、3t/cm2の圧力でプレス処理を行ったのちに固定砥石にて研削し、厚みを0.7mmで均一にした。その後に170℃で90分、熱硬化させてエポキシ樹脂を架橋させてトロイダルコア(外径15mm、内径9mm、厚み0.7mm)を得た。
【0121】
また、得られた金属磁性粉含有樹脂を所定の直方体形状の金型に充填させた。トロイダルコアと同様の方法で直方体磁性材料(4mm×4mm×1mm)を得た。さらに、前記直方体磁性材料の一方の4mm×4mmの面の両端に幅1.3mmの端子電極を設けた。端子電極間の距離は1.4mmとなった。
【0122】
次に、得られたトロイダルコアにおける大径粉2、中径粉2および小径粉2の存在割合を測定した。
【0123】
得られたトロイダルコアを任意の断面で切断し、SEMを用いて倍率1000倍、観察範囲0.128mm×0.96mmで切断面を観察した。そして、断面における粒子径(円相当径)が10μm以上60μm以下である粉末を大径粉2、粒子径が2.0μm以上10μm未満である粉末を中径粉2、粒子径が0.1μm以上2.0μm未満である粉末を小径粉2とした。そして、大径粉2、中径粉2および小径粉2の切断面における面積比率(断面積比率)を確認した。なお、当該面積比率の算出においては、互いに異なる5か所以上の観察範囲を設定してそれぞれの観察範囲における各粉末の面積比率を算出し、平均した。結果を表6~表9に示す。
【0124】
また、表6~表9に記載した全ての試料について、個数ベースで大径粉2の少なくとも30%以上が大径粉1由来であることをSEM/EDSを用いて確認した。また、中径粉2の少なくとも30%以上が中径粉1由来であり、小径粉2の少なくとも30%以上が小径粉1由来であることも確認した。
【0125】
前記トロイダルコアにコイルを巻き、各種特性(初透磁率μi、コアロスPcv)を評価した。結果を表6~表9に示す。
【0126】
初透磁率μiは、巻数30でコイルを巻き、LCRメータを用いて周波数1MHzでインダクタンス(L0)を測定し、インダクタンス(L0)から算出した。本実施例では、μiが30以上である場合を良好とし、35以上である場合をさらに良好とし、40以上である場合をさらに良好とし、45以上である場合を特に良好であるとし、50以上である場合を最も良好であるとした。
【0127】
コアロスPcvは、1次側の巻数30、2次側の巻数30でコイルを巻き、交流BHアナライザーを用いて、磁束密度10mT、周波数3MHzで測定した。本実施例では、650kW/m3以下である場合を良好とし、600kW/m3以下である場合をさらに良好とし、550kW/m3以下である場合をさらに良好とし、500kW/m3以下である場合を最も良好であるとした。
【0128】
さらに、直流重畳特性の測定を行った。まず、直流電流を印加していない状態でのインダクタンス(L0)を測定した。次に、直流電流を印加している状態でのインダクタンス(L1)を測定した。100×(L0-L1)/L0(%)が90%であるときの直流電流の大きさをIdc1(A)とした。本実施例ではIdc1が3.5A以上である場合に直流重畳特性が良好とし、4.5A以上である場合をさらに良好とし、5.5A以上である場合を最も良好であるとした。
【0129】
さらに、前記直方体磁性材料の端子電極間に電圧をかけ、2mAの電流が流れたときの電圧を測定することで、絶縁破壊強さを測定した。本実施例では、耐電圧は200V以上を良好とし、700V以上をさらに良好とし、750V以上をさらに良好とし、800V以上をさらに良好とし、900V以上を最も良好であるとした。
【0130】
【表6】
【0131】
【表7】
【0132】
【表8】
【0133】
【表9】
【0134】
表6の試料No.3~6、6aは大径粉2が主にナノ結晶合金粉1、中径粉2が主にアモルファス粉2、小径粉2が主に純鉄粉である場合において各粉末の配合比率を変化させた実施例である。
【0135】
金属磁性粉に対する大径粉2の断面積比率(L2)が、39%以上91%以下である試料No.3~6,6aは初透磁率μi、コアロスPcv、直流重畳特性および耐電圧がいずれも良好であった。
【0136】
表6の試料No.8~11は大径粉2が主にナノ結晶合金粉1、中径粉2が主にアモルファス粉2、小径粉2が主にパーマロイ粉である場合において各粉末の配合比率を変化させた実施例である。表6の試料No.13~16は大径粉2が主にナノ結晶合金粉1、中径粉2が主にナノ結晶合金粉1、小径粉2が主にパーマロイ粉である場合において各粉末の配合比率を変化させた実施例である。
【0137】
金属磁性粉に対する大径粉2の断面積比率(L2)が、39%以上91%以下であり、小径粉2がパーマロイを含む試料No.8~11および13~16は初透磁率μi、コアロスPcv、直流重畳特性および耐電圧がいずれも良好であった。特に、小径粉2が準鉄粉である場合と比較して耐電圧が良好であった。
【0138】
表7の試料No.18~21は大径粉2が主にナノ結晶合金粉2、中径粉2が主にアモルファス粉2、小径粉2が主にパーマロイ粉である場合において各粉末の配合比率を変化させた実施例である。表7の試料No.23~26は大径粉2が主にナノ結晶合金粉2、中径粉2が主にナノ結晶合金粉2、小径粉2が主にパーマロイ粉である場合において各粉末の配合比率を変化させた実施例である。
【0139】
金属磁性粉に対する大径粉2の断面積比率(L2)が、39%以上91%以下であり、小径粉2がパーマロイを含む試料No.18~21および23~26は初透磁率μi、コアロスPcv、直流重畳特性および耐電圧がいずれも良好であった。
【0140】
表8の試料No.48~51は大径粉2が主にナノ結晶合金粉3、中径粉2が主にアモルファス粉2、小径粉2が主にパーマロイ粉である場合において各粉末の配合比率を変化させた実施例である。表7の試料No.23~26は大径粉2が主にナノ結晶合金粉2、中径粉2が主にナノ結晶合金粉2、小径粉2が主にパーマロイ粉である場合において各粉末の配合比率を変化させた実施例である。
【0141】
金属磁性粉に対する大径粉2の断面積比率(L2)が、39%以上90%以下であり、小径粉2がパーマロイを含む試料No.48~51は初透磁率μi、コアロスPcv、直流重畳特性および耐電圧がいずれも良好であった。
【0142】
表8の試料No.52~55は試料No.50から中径粉と小径粉との配合比率のみを変化させた実施例である。
【0143】
この場合でも金属磁性粉に対する大径粉2の断面積比率(L2)が、39%以上90%以下であり、小径粉2がパーマロイを含む試料No.52~55は初透磁率μi、コアロスPcv、直流重畳特性および耐電圧がいずれも良好であった。また、中径粉2の断面積比率が大きくなるほど直流重畳特性が向上するが初透磁率μiが低下する傾向が見られた。
【0144】
表9は、表6~表8に記載した試料のうち、大径粉2の断面積比率が概ね80%、中径粉2および小径粉2の断面積比率がそれぞれ概ね10%である試料について試験結果を記載したものである。また、大径粉1が主にアモルファス粉1である試料No.1、7、12を記載したものである。なお、特に試料No.12については、STEMを用いて大径粉2にナノ結晶が観察されないことを確認した。
【0145】
金属磁性粉に対する大径粉2の断面積比率(L2)が、39%以上91%以下であり、大径粉2がナノ結晶を含む各試料は、初透磁率μi、コアロスPcv、直流重畳特性および耐電圧がいずれも良好であった。
【0146】
これに対し、大径粉2がナノ結晶を含まない試料No.1、7、12はコアロスPcvが著しく大きくなった。
【0147】
また、大径粉2が主にナノ結晶合金粉1および/またはナノ結晶合金粉2である場合には、大径粉2が主にナノ結晶合金粉3である場合と比較して透磁率μi、コアロスPcvおよび直流重畳特性が特に良好となった。
【0148】
また、中径粉2が主にアモルファス粉である場合と主にナノ結晶合金粉である場合とを比較する。中径粉2が主にアモルファス粉である場合の方が、直流重畳特性が良好になった。これに対し、中径粉2が主にナノ結晶合金粉である場合の方が、透磁率μiおよびコアロスPcvが良好になった。
【0149】
<実験例2>
上記の各実施例で用いられた金属磁性粉含有樹脂を用いて図1図4A図4Bに記載の磁性体コアを作製し、図1図4A図4Bに記載のコイル部品を作製した。各実施例で用いられた金属磁性粉含有樹脂を用いたコイル部品は初透磁率、コアロスおよび直流重畳特性が良好なコイル部品となった。さらに、小径粉2が主にパーマロイ粉である場合には、耐電圧も良好なコイル部品となった。
【符号の説明】
【0150】
2… コイル部品
4… 端子電極
4a… 内層
4b… 外層
10… 磁性体コア
11… 絶縁基板
12,13… 内部導体通路
12a,13a… 接続端
12b,13b… リード用コンタクト
14… 保護絶縁層
15… 上部コア
15a… 中脚部
15b… 側脚部
16… 下部コア
18… スルーホール導体
20… 絶縁コーティングされた金属磁性粉
22… 絶縁コーティング
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6