(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-08
(45)【発行日】2025-08-19
(54)【発明の名称】噴射装置、地盤改良方法および掘削方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20250812BHJP
【FI】
E02D3/12 102
(21)【出願番号】P 2024111831
(22)【出願日】2024-07-11
【審査請求日】2025-06-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】引田 真規子
(72)【発明者】
【氏名】松長 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】金森 裕太
(72)【発明者】
【氏名】石丸 時大
【審査官】田所 彩花
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-55955(JP,A)
【文献】特開2018-25005(JP,A)
【文献】特開2011-226161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
E02F 1/00-9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中で用いる流体の噴射装置であって、
地盤に挿入されるロッドと、
前記ロッドに鉛直面内で回転可能に取り付けられ、水平面内で旋回するアームと、
前記アームに設けられ、前記流体を噴射する内向きの噴射ノズルおよび外向きの噴射ノズルと、
を具備し、
内向きの前記噴射ノズルは、前記アームの中間部に設けられることを特徴とする噴射装置。
【請求項2】
前記噴射装置は地盤改良に用いられることを特徴とする請求項1記載の噴射装置。
【請求項3】
前記噴射装置は地盤改良に用いられ、
前記流体はセメントを含むことを特徴とする請求項2記載の噴射装置。
【請求項4】
前記噴射装置は、地盤の掘削に用いられることを特徴とする請求項1記載の噴射装置。
【請求項5】
前記アームの延伸方向と直交する断面において、内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルの位置が異なることを特徴とする請求項1記載の噴射装置。
【請求項6】
前記アームを引き上げて上向きに回転させるための引き上げ治具をさらに有することを特徴とする請求項1記載の噴射装置。
【請求項7】
前記引き上げ治具は、前記アームに設けたフックであり、
前記フックに、地上から降ろした線材が取り付けられることを特徴とする請求項6記載の噴射装置。
【請求項8】
内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルのそれぞれが、前記アームの延伸方向の同じ位置で、前記アームの延伸方向と直交する断面の周方向に間隔を空けて複数配置されることを特徴とする請求項1記載の噴射装置。
【請求項9】
請求項1記載の噴射装置による地盤改良方法であって、
前記アームの向きを鉛直下方とした状態で外向きの前記噴射ノズルから下方に流体を噴射して地盤を削孔しつつ、前記ロッドを地盤に挿入する工程と、
内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルの少なくともいずれかから流体を噴射しつつ前記アームを上向きに回転させて水平姿勢とする工程と、
内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルの双方から流体を噴射しつつ前記アームを水平面内で旋回させながら、前記ロッドの昇降を行うことにより、前記地盤と前記流体を攪拌して地盤改良を行う工程と、
を有することを特徴とする地盤改良方法。
【請求項10】
請求項1記載の噴射装置による掘削方法であって、
前記アームの向きを鉛直下方とした状態で外向きの前記噴射ノズルから下方に流体を噴射して地盤を削孔しつつ、前記ロッドを地盤に挿入する工程と、
内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルの少なくともいずれかから流体を噴射しつつ前記アームを上向きに回転させて水平姿勢とする工程と、
内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルの双方から流体を噴射しつつ前記アームを水平面内で旋回させながら、前記ロッドの昇降を行うことにより、前記地盤を円柱状に掘削する工程と、
を有することを特徴とする掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射装置とこれを用いた地盤改良方法および掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
支持力等の不足する地盤を強固な地盤に改良する際、原地盤とセメントミルクとを原位置で攪拌混合する手法が採られることが多い。その手法の一つに、噴射式攪拌工法がある。噴射式攪拌工法では、回転式のロッドの先端からセメントミルクを圧縮空気とともに水平方向に噴射し、原地盤を切削しつつ原地盤の土砂とセメントミルクとを攪拌混合することで、地盤改良体を築造する。
【0003】
特許文献1には、回転式のロッドに水平方向の攪拌翼を設け、攪拌翼の先端に内向きの噴射ノズルを配置するとともに、ロッドに外向きの噴射ノズルを配置することで、これらの噴射ノズルからの高圧噴射同士がぶつかることで拡散し、地盤を強く攪拌できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地中でセメントミルク等の流体を噴射すると、噴流の運動量は周辺の流体(地下水や噴射後滞留した流体)に奪われ、ある程度の距離を超えると急激に減衰し、施工効率が低下する。
【0006】
これに対し、セメントミルク等の噴流の外側を覆うように、圧縮空気による環状の空気噴流を噴射することで、セメントミルクと周辺流体との接触を遮断し、セメントミルク等の噴流を気中に近い状態下に置いて運動量の減衰を抑制することができる。しかしながら、空気噴流により周辺流体の攪拌や循環は抑制されるため、地盤条件によっては十分な攪拌ができないケースがあり、複数回の施工や過剰な噴射量の設定が必要となることが多かった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、地中での施工効率を向上させる噴射装置と、これを用いた地盤改良方法および掘削方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明は、地中で用いる流体の噴射装置であって、地盤に挿入されるロッドと、前記ロッドに鉛直面内で回転可能に取り付けられ、水平面内で旋回するアームと、前記アームに設けられ、前記流体を噴射する内向きの噴射ノズルおよび外向きの噴射ノズルと、を具備し、内向きの前記噴射ノズルは、前記アームの中間部に設けられることを特徴とする噴射装置である。
【0009】
本発明の噴射装置は、ロッドに回転可能に取り付けられたアームに噴射ノズルを設けることで、アームを鉛直姿勢として地盤を鉛直方向に削孔した後、アームを水平姿勢として旋回させつつ流体を噴射することで、地盤改良や地盤掘削など地中での施工が可能となる。そして、噴射ノズルは複数設けられるため、これらの噴射ノズルにより噴流の運動量の減衰をカバーし、施工範囲を噴流の運動量が低下しない、もしくは運動量の低下が小さい範囲として施工効率を高めることができる。結果、施工回数や噴射量の削減による排泥量の低減、噴射圧力の低圧化、工期の短縮等が可能となる。特に、内向きの噴射ノズルは、施工範囲の半径内側部分を確実に施工するため、アームの先端でなく、アームの延伸方向の中間部に設けられる。また、複数の噴射ノズルが内向きと外向きに配置されることで、一方の噴射ノズルの噴射反力を他方の噴射ノズルの噴射反力で相殺することができ、ロッドに作用する応力も低減できる。
【0010】
前記噴射装置は、例えば地盤改良に用いられる。前記流体は、例えばセメントを含む。あるいは、前記噴射装置は、地盤の掘削に用いられる。
噴射装置は、例えば、セメントミルク等のセメントを含む流体を噴射することで、地盤改良に用いることができる。あるいは、水等を流体として噴射することで、地盤の掘削に用いることもできる。
【0011】
前記アームの延伸方向と直交する断面において、内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルの位置が異なることが望ましい。
これにより、対向する噴射ノズルからの噴流同士の干渉を防ぐことができる。また、一方の噴射ノズルからの噴流により他方の噴射ノズルが損傷することも防止できる。
【0012】
前記アームを引き上げて上向きに回転させるための引き上げ治具をさらに有することが望ましい。前記引き上げ治具は、例えば前記アームに設けたフックであり、前記フックに、地上から降ろした線材が取り付けられる。
本発明では、引き上げ治具を用いることにより、アームを引き上げて確実に回転させることができる。引き上げ治具は上記のフックとすることで、治具の構成を簡易とできる。
【0013】
内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルのそれぞれが、前記アームの延伸方向の同じ位置で、前記アームの延伸方向と直交する断面の周方向に間隔を空けて複数配置されることも望ましい。
これにより、アームの軸周りの大部分を噴流で覆う構造とすることができ、確実に施工を行うことができる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明の噴射装置による地盤改良方法であって、前記アームの向きを鉛直下方とした状態で外向きの前記噴射ノズルから下方に流体を噴射して地盤を削孔しつつ、前記ロッドを地盤に挿入する工程と、内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルの少なくともいずれかから流体を噴射しつつ前記アームを上向きに回転させて水平姿勢とする工程と、内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルの双方から流体を噴射しつつ前記アームを水平面内で旋回させながら、前記ロッドの昇降を行うことにより、前記地盤と前記流体を攪拌して地盤改良を行う工程と、を有することを特徴とする地盤改良方法である。
第3の発明は、第1の発明の噴射装置による掘削方法であって、前記アームの向きを鉛直下方とした状態で外向きの前記噴射ノズルから下方に流体を噴射して地盤を削孔しつつ、前記ロッドを地盤に挿入する工程と、内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルの少なくともいずれかから流体を噴射しつつ前記アームを上向きに回転させて水平姿勢とする工程と、内向きの前記噴射ノズルと外向きの前記噴射ノズルの双方から流体を噴射しつつ前記アームを水平面内で旋回させながら、前記ロッドの昇降を行うことにより、前記地盤を円柱状に掘削する工程と、を有することを特徴とする掘削方法である。
第2、第3の発明は、それぞれ、第1の発明の噴射装置を用いた地盤改良方法と掘削方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、地中での施工効率を向上させる噴射装置と、これを用いた地盤改良方法および掘削方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】噴射ノズル4からの噴流の運動量について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(1.噴射装置1)
図1は、本発明の実施形態に係る噴射装置1の要部を示す図である。噴射装置1は、地中でセメントミルクを噴射し、原地盤を切削しつつ原地盤の土砂とセメントミルクを攪拌混合することで、円柱状の地盤改良体を築造して地盤改良を行うものである。セメントミルクは、セメントを含むスラリー(流体)状のセメント系固化材である。
【0019】
噴射装置1は、ロッド2、アーム3、噴射ノズル4、フック5、線材6等を有する。
【0020】
ロッド2は、地上の施工機から下方に垂下し、地盤に挿入される筒状の金属部材である。ロッド2の内部には、セメントミルク等の流路(不図示)が設けられる。ロッド2は従来の噴射式攪拌工法と同じものを使用可能であるが、本装置専用のロッドを用いることもできる。
【0021】
アーム3は、ロッド2の下端に回転軸31を中心として鉛直面内で回転可能に接続される開閉・攪拌翼である。回転軸31には例えばスイベルが用いられ、アーム3は、
図1に示す鉛直姿勢と水平姿勢の間で角度が可変である。アーム3の長さは、地盤改良体の施工範囲の半径程度とし、アーム3を水平姿勢とした時に、施工範囲の外縁にアーム3の先端が届くようにする(後述の
図3参照)。アーム3は筒状の金属部材であり、その内部には、ロッド2と同じく、セメントミルク等の流路が設けられる。
【0022】
アーム3の延伸方向の根元側(ロッド2側に対応する)の部分には、噴射ノズル4の取付部32が設けられる。また本実施形態では、アーム3の延伸方向の両端部の間の中間部にも、噴射ノズル4の取付部32が設けられる。
【0023】
噴射ノズル4は、アーム3の延伸方向に沿ってセメントミルク等を噴射するノズルである。本実施形態の噴射ノズル4は、圧縮空気を噴射せずに、セメントミルク等の施工用の流体のみを噴射する構成(単独噴流)とされる。本実施形態では、セメントミルク等の単独噴流とすることで、噴流の周辺に激しい攪拌を生じさせ、優れた施工効率を実現できる。
【0024】
単独噴流の場合、前記したように噴流の運動量の急激な低下が生じるが、本実施形態では、噴射ノズル4を前記した複数の取付部32に取り付けてアーム3の延伸方向に多段に配置することで、運動量の低下をカバーする。
【0025】
図2は噴射ノズル4から噴射されるセメントミルク等の噴流の運動量の概略を示したものである。噴流の運動量は、噴射ノズル4から一定の距離D離れるまでは同一の値であるが、当該距離Dを超えると減衰し始め、最終的には0になる。
【0026】
本実施形態では、このような運動量の低下を考慮し、
図1に示したように、前記した取付部32のそれぞれに、噴射ノズル4をその噴射方向が対向するように取り付ける。すなわち、アーム3の根元側の取付部32には、噴射ノズル4(4-1)をアーム3の延伸方向の先端側(ロッド2の反対側に対応する)に向けて外向きに取り付け、アーム3の中間部の取付部32には、噴射ノズル4(4-2)をアーム3の延伸方向の根元側に向けて内向きに取り付ける。これらの噴射ノズル4の先端は、アーム3の延伸方向の中央部でアーム3の延伸方向のほぼ同じ位置に配置される。
【0027】
その結果、
図3に示すように、アーム3を水平姿勢とし、外向きの噴射ノズル4(4-1)からセメントミルクを噴射して、施工範囲Rのうち半径外側部分の距離Dの区間に対応する範囲R
外の地盤改良を行うとともに、内向きの噴射ノズル4(4-2)からセメントミルクを噴射して、施工範囲Rのうち半径内側部分の距離Dの区間に対応する範囲R
内の地盤改良を行うことができる。これにより、施工範囲Rを、セメントミルクの噴流の運動量が低下しない範囲とすることができる。
【0028】
図4は、アーム3をその延伸方向の先端側から見た図である。
図4に示すように、上記の噴射ノズル4(4-1、4-2)は、アーム3の延伸方向と直交する断面において、アーム3の周方向の異なる位置に設けられる。これにより、対向する噴射ノズル4からの噴流同士の干渉を防ぐことができる。また、一方の噴射ノズル4からの噴流により他方の噴射ノズル4が損傷することも防止できる。噴射ノズル4同士の離隔角度θは特に限定されないが、噴射ノズル4同士を離しすぎると地盤の攪拌を十分に行えないことも懸念されるため、離隔角度θは5°~30°程度とすることが望ましい。
【0029】
図1の説明に戻る。フック5はアーム3の根元側の端部に取り付けられる引き上げ治具である。フック5には、地上側から垂下した線材6の下端部が取り付けられる。この線材6を地上側から上方に引っ張ることで、アーム3を鉛直面内で回転させ、
図1に示す鉛直姿勢から水平姿勢へと変更できる。線材6を緩めれば、アーム3は自重により水平姿勢から鉛直姿勢へと戻る。
【0030】
(2.地盤改良方法)
図5は、噴射装置1を用いた地盤改良方法について説明する図である。本実施形態では、
図5(a)に示すように、噴射装置1を地上に配置した施工機8に取り付け、外部のポンプ(不図示)から削孔用の流体(水またはセメントミルク)を圧送し、噴射装置1に供給する。施工機8は、従来の噴射式攪拌工法で使用されている施工機を用いることができるが、本装置専用の施工機8を用いることもできる。
【0031】
アーム3は鉛直姿勢とされており、その向きが鉛直下方とされている。上記の流体は、ロッド2とアーム3を通って外向きの噴射ノズル4(4-1)から下方へと噴射される。この流体により地盤を削孔しつつ、
図5(b)に示すようにロッド2を地盤に挿入する。ロッド2は、削孔深さに応じて複数本継ぎ足して使用する。なお、上記の流体は、内向きの噴射ノズル4(4-2)からも上方に噴射される。これによりフック5や線材6周りの地盤も攪拌され、後述するアーム3の引き上げ工程を容易に行うことができる。
【0032】
その後、外向きの噴射ノズル4(4-1)と内向きの噴射ノズル4(4-2)の双方から前記の流体を噴射してアーム3周りの地盤を攪拌しつつ、線材6を上方に引っ張ることで、
図5(c)の矢印aで示すようにアーム3を引き上げ、水平姿勢となるまでアーム3を鉛直面内で上向きに回転させる。
【0033】
こうしてアーム3を水平姿勢とした後、噴射装置1にセメントミルクを供給し、外向きの噴射ノズル4(4-1)と内向きの噴射ノズル4(4-2)の双方からセメントミルクを噴射しつつ、地上の施工機8によりロッド2を軸周りに回転させ、ロッド2を中心としてアーム3を水平面内で旋回させる。これにより地盤を切削しつつ、その土砂とセメントミルクとを攪拌混合する。セメントミルクの噴射を行いつつアーム3を旋回させながら、ロッド2を昇降させることにより、
図5(d)に示すように円柱状の地盤改良体が造成される。
【0034】
ここで、アーム3の旋回時に地盤の攪拌が不十分な領域があるとアーム3が地盤に引っ掛かり、水平面内で旋回できない。つまり、アーム3が旋回可能であれば、その範囲は地盤の攪拌ができていると判断できる。前記の通りアーム3の長さは施工範囲の半径に対応するので、アーム3が360°旋回できれば、地盤の改良径を担保できていることになる。
【0035】
また噴射装置1では、ロッド2に回転可能に取り付けられたアーム3に噴射ノズル4を設けることで、アーム3を鉛直姿勢として地盤を鉛直方向に削孔した後、アーム3を水平姿勢として旋回させつつセメントミルクを噴射することで、円柱状の地盤改良体の造成が可能になる。そのため、地盤の削孔時と改良時で治具や装置の盛替えが不要となり、施工手順を簡略化して工期を短縮できる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態では、噴射ノズル4がアーム3に複数設けられるため、これらの噴射ノズル4により噴流の運動量の減衰をカバーし、施工範囲を噴流の運動量が低下しない、もしくは運動量の低下が小さい範囲として施工効率を高めることができる。結果、施工回数や噴射量の削減による排泥量の低減、噴射圧力の低圧化、工期の短縮、改良体強度のばらつきの低減が可能となる。特に、内向きの噴射ノズル4は、施工範囲の半径内側部分を確実に施工するため、アーム3の先端でなく、アーム3の延伸方向の中間部に設けられる。また、複数の噴射ノズル4が内向きと外向きに配置されることで、一方の噴射ノズル4の噴射反力を他方の噴射ノズル4の噴射反力で相殺することができ、ロッド2に作用する応力も低減できる。
【0037】
また本実施形態では、アーム3の延伸方向と直交する断面において、外向きの噴射ノズル4(4-1)と内向きの噴射ノズル4(4-2)の位置が異なるので、対向する噴射ノズル4からの噴流同士の干渉を防ぐことができる。また、一方の噴射ノズル4からの噴流により他方の噴射ノズル4が損傷することも防止できる。
【0038】
また従来の噴射式攪拌工法では、地盤改良体の形状を担保できる品質管理手法が確立していないという課題があり、施工後に、所定の品質を満足していることの確認を行う必要がある。現在では施工範囲の外縁に相当する位置に予め熱電対等のセンサを設置しておき、セメントミルク噴射後の温度変化により改良径の確認を行っているが、本実施形態では施工範囲の半径と同じ長さのアーム3を用いることで、前記したように改良径を担保することができ、熱電対等による改良径の確認が不要となる。ただし、確実を期すため、熱電対等による別途の検査を行い改良径を確認することは可能である。
【0039】
また本実施形態では、アーム3を引き上げて回転させる際に、噴射ノズル4から流体を噴射し、アーム3の周囲の地盤を攪拌するので、アーム3と地盤の間に生じる摩擦が低減され、アーム3を容易に引き上げることができる。
【0040】
また本実施形態では引き上げ治具を用いることにより、アーム3を引き上げて確実に回転させることができる。引き上げ治具は前記のフック5とし、線材6を用いてアーム3の引き上げを行うことで、治具の構成を簡易とでき、従来のロッド2に対する大きな改変が不要である。
【0041】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば本実施形態では、アーム3を引き上げて回転させるための引き上げ治具としてフック5と線材6を用いているが、引き上げ治具はこれに限らない。例えば油圧式や空圧式のアクチュエータなどを用いてもよい。
【0042】
また、アーム3の延伸方向の各箇所の噴射ノズル4のノズル径等は、それぞれの噴射ノズル4の受け持つ施工面積(例えば
図3の範囲R
内、R
外の面積)の違いに応じて変えることができ、これにより過剰な噴射流量を避けることができる。例えば施工面積が小さい場合、噴射ノズル4のノズル径を小さくする。あるいは、アーム3の延伸方向における噴射ノズル4の位置を調整し、アーム3の延伸方向の各箇所の噴射ノズル4が受け持つ施工面積を等しくしてもよい。この場合、噴射ノズル4のノズル径等をアーム3の延伸方向の各箇所で揃えることができる。そのため、ノズル径の異なる部品を準備する必要が無く、また、ノズルの付け間違いも生じない。
【0043】
また、本実施形態ではアーム3の延伸方向の2箇所に噴射ノズル4を設け、且つ延伸方向の1箇所あたりの噴射ノズル4の個数を1個としているが、噴射ノズル4の配置はこれに限らない。
図6の噴射装置1aはその例であり、アーム3の延伸方向の4箇所に噴射ノズル4を設けることで、施工範囲の大面積化に対応できる。またアーム3の延伸方向の各箇所に配置する噴射ノズル4(4-1~4-4)を、アーム3の根元側から先端側へと順に、外向き、内向き、外向き、内向きとしている。これにより内向きの噴射ノズル4の噴射反力を外向きの噴射ノズル4の噴射反力で相殺することができ、ロッド2に作用する応力も低減できる。
【0044】
図7は、
図6のアーム3をその延伸方向の先端側から見た図である。
図7に示すように、上記の噴射ノズル4のうちアーム3の先端側の2箇所の噴射ノズル4(4-3、4-4)は、アーム3の延伸方向と直交する断面において、アーム3の周方向に間隔を空けて複数(
図7の例では3つ)配置される。これにより、アーム3の軸周りの大部分を噴流で覆う構造とすることができ、確実に地盤改良を行うことができる。また、アーム3の延伸方向と直交する断面において、外向きの噴射ノズル4(4-3)と、内向きの噴射ノズル4(4-4)のアーム3の周方向の位置は異なる。そのため、噴射ノズル4-3と噴射ノズル4-4が対向することがなく、噴流同士の干渉が軽減される。
【0045】
以上の構成は、アーム3の根元側の2箇所の噴射ノズル4(4-1、4-2)に関しても同様である。噴射ノズル4同士の離隔角度θは特に限定されないが、好ましくは離隔角度θを45°程度とするとよい。
【0046】
また本実施形態では外向きの噴射ノズル4と内向きの噴射ノズル4の双方から流体を噴射しつつ、アーム3を鉛直面内で上向きに回転して水平姿勢とするが、噴射装置の構成によっては、外向きの噴射ノズル4と内向きの噴射ノズル4の一方から流体を噴射しつつ、アーム3を回転させてもよい。
【0047】
また噴射装置1は、地盤を円柱状に掘削する際にも用いることができる。この場合、噴射ノズル4から噴射する流体を水等として
図5で説明した工程を実施し、土砂交じりの流体を掘削孔から排出すればよい。
【0048】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0049】
例えば、本実施形態では、流体として水やセメントミルクを用いる例を示したが、その限りではない。セメントを使用しない地盤改良材やコンクリート、増粘剤等を含む粘性流体を流体として用いてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1、1a;噴射装置
2:ロッド
3:アーム
4、4-1、4-2、4-3、4-4:噴射ノズル
5:フック
6:線材
【要約】
【課題】地中での施工効率を向上させる噴射装置と、これを用いた地盤改良方法および掘削方法等を提供する。
【解決手段】噴射装置1は、地盤改良や地盤の掘削に用いられる。噴射装置1は、地盤に挿入されるロッド2と、ロッド2に鉛直面内で回転可能に取り付けられ、水平面内で旋回するアーム3と、アーム3に設けられ、流体を噴射する内向きの噴射ノズル4および外向きの噴射ノズル4と、を具備する。内向きの噴射ノズル4は、アーム3の中間部に設けられる。
【選択図】
図1