(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-12
(45)【発行日】2025-08-20
(54)【発明の名称】浴槽
(51)【国際特許分類】
A47K 3/02 20060101AFI20250813BHJP
【FI】
A47K3/02
(21)【出願番号】P 2024227429
(22)【出願日】2024-12-24
【審査請求日】2024-12-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524320909
【氏名又は名称】株式会社セントラルメタル
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】石橋 勝一
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】実公昭52-033493(JP,Y2)
【文献】実開平02-074885(JP,U)
【文献】実開平04-086490(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側部および底部からなる有底筒型の筒状部と、前記筒状部の前記側部の上端の全周にわたって形成された、水平方向外向きに延びる
フラットな形状のフランジ部と
、前記フランジ部の外側縁部に形成され、上側縁部を終端として上方に向かって延びた起立部とを備え、
一枚の金属板を成形することで、前記筒状部
、フランジ部
、および起立部が一体形成された金属製の浴槽本体と、
前記浴槽本体のフランジ部の上面
でかつ前記起立部の内側に配置され、前記フランジ部に沿って周方向に延びた環状をなし、少なくとも表面が木質材料で形成された木質部と
を有することを特徴とする浴槽。
【請求項2】
前記筒状部の側部に、水平方向に延びる腰掛部を一体に設けた請求項1に記載の浴槽。
【請求項3】
前記木質部よりも内側に前記フランジ部の起点を配置した請求項1に記載の浴槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の浴槽は、樹脂製とする場合が多いが、樹脂製の浴槽は経時劣化するため、耐久性が劣る問題がある。また、近年問題とされるSDGsの面でも問題がある。以上の課題を解決するものとしてとして、ステンレス鋼板をプレス成形することで形成した浴槽が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の浴槽は、個別にプレス成形した底板部、および複数の側壁部を溶接によって接合することで、有底の筒型としている。このように溶接により接合することで組み立てた浴槽では、溶接部を後加工で平滑にする工程が不可欠となり、コストアップを招く。また、ステンレス鋼では、溶接時に高温割れ等を生じ易い等の理由から溶接後の強度を確保することが難しく、十分な耐久性を有する浴槽を提供することは困難である。
【0005】
また、ステンレス鋼製の浴槽は、どうしても無機質で冷たい印象となるため、浴槽に温もり感を求める需要者からは敬遠されがちな点も問題となる。
【0006】
そこで、本発明は、低コストでありながら耐久性が高く、かつ温もり感に富む浴槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するため、本発明にかかる浴槽は、側部および底部からなる有底筒型の筒状部と、前記筒状部の前記側部の上端の全周にわたって形成された、水平方向外向きに延びるフラットな形状のフランジ部と、前記フランジ部の外側縁部に形成され、上側縁部を終端として上方に向かって延びた起立部とを備え、一枚の金属板を成形することで、前記筒状部、フランジ部、および起立部が一体形成された金属製の浴槽本体と、前記浴槽本体のフランジ部の上面でかつ前記起立部の内側に配置され、前記フランジ部に沿って周方向に延びた環状をなし、少なくとも表面が木質材料で形成された木質部とを有することを特徴とする。
【0008】
このように、浴槽本体を構成する筒状部とフランジ部を、金属板の成形により一体形成した場合、溶接作業が不要となる。そのため、溶接部の後加工が不要となり、低コスト化を図ることができる。また、溶接が不要となることで、浴槽本体の剛性を高めることもできる。また、フランジ部が持ち手となることから、浴槽に可搬性を与えることができる。加えて、浴槽を金属製の浴槽本体と木質部のハイブリッド構造としているので、金属だけで形成する場合に比べ、浴槽の外観の印象として無機質感を軽減して温もり感を与えることができ、そのような無機質感を嫌う利用者にとって好ましいものとなる。浴槽本体は再利用可能な金属製であるので、SDGsの面でも優れたものとなる。
【0009】
木質部は、入浴者の身体(例えば首や背中)を支える部分となり、浴槽内部の高さ寸法を増す効果を奏する。金属の一枚板を成形する場合、金属板の寸法に制約があることから、浴槽の高さ寸法の足が懸念されるが、フランジ部の上に木質部を配置することで、木質部により高さ寸法の不足を補うことができ、使用感の向上を図ることができる。
【0010】
この浴槽においては、フランジ部の縁部に、上方に向かって延びる起立部を前記フランジ部と一体に設け、起立部の内側に前記木質部を配置することができる。これにより木質部を水平方向で位置決めできるので、木質部をフランジ部に固定するための固定具(例えばネジ等)の使用数を減らすことができ、軽量化や低コスト化を図ることができる。
【0011】
この浴槽においては、前記筒状部の側部に、水平方向に延びる腰掛部を一体に設けることもできる。この腰掛部は、浴槽利用者が入浴中に腰かけるためのスペースとして活用することができる。また、浴槽内部の容積が減じられるので節水効果得ることができ、かつ腰掛部がリブとして機能するので、浴槽本体の剛性を高めることができる。
【0012】
この浴槽においては、木質部よりも内側に前記フランジ部の起点を配置することができる。これにより、浴槽本体の開口部を蓋で閉鎖する際に、蓋をフランジ部で支持することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、低コストでありながら耐久性が高く、かつ温もり感に富む浴槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る浴槽の断面図(
図3のI-I線断面図)である。
【
図4】本実施形態に係る浴槽を
図3のIV方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかる浴槽の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る浴槽1は、浴槽本体2と浴槽本体2の上端に配置された木質部3とを有する。
【0018】
浴槽本体2は、側部21および底部22からなる有底筒型の筒状部23と、筒状部23の側部21の上端に全周にわたって設けられた、水平方向外向きに延びるフランジ部24とを備える。側部21の平面視した形状は任意であるが、本実施形態では、
図3に示すように、当該形状が小判型となるように形成した場合を例示している。
図2に示すように、フランジ部24の外側縁部に、上方に向かって延びる起立部25がフランジ部24と一体に設けられる。起立部25はフランジ部の全周にわたって形成してもよいし、周方向に延びるフランジ部24の周方向一部領域にのみ設けてもよい。
【0019】
木質部3は、浴槽本体2のフランジ部24の上面に配置され、フランジ部24に沿って周方向に延びた環状に形成される。木質部3は、少なくともその表面が木質材料で形成される。例えば、木質部3の全体を木材で形成することができる。この他、例えば金属や樹脂等で形成した心材の表面に板状の木材を貼り付けることで木質部3を形成してもよい。いずれにせよ木材は耐水性に富む樹種(欅、杉、檜等)で形成するのが好ましい。木質部3は、全周にわたって連続する環状に形成してもよいし、周方向の複数個所で分割してセグメントとし、このセグメントを並べることで環状に形成してもよい。
【0020】
木質部3は、起立部25の内側に配置される。この際、起立部25の全周で、起立部25の内側面を木質部3に接触させるのが好ましい。これにより、起立部25で木質部3の水平方向の位置決めを行うことができる。木質部3は、ネジ等の締結部材あるいは耐水性の接着剤を用いてフランジ部24に固定される。木質部3の固定に締結部材を使用することで、木質部3を経年劣化等により交換する際にも、交換作業が容易なものとなる。
【0021】
筒状部23の側部21の上端と底部22との間には、側部21を内側に膨出させることで、水平方向に延びる腰掛部26が側部21と一体に形成される。この腰掛部26は、例えば利用者が浴槽1内で腰かけるためのスペースとして活用することができる。
図3に示すように、腰掛部26は、側部21から内側に向けて突出した形状をなし、その内側縁部26aは直線状に形成される。腰掛部26の内側縁部26aは下方に延びて底部22につながっている。腰掛部26はリブとしても機能するため、浴槽本体2の剛性を高める上でも有効となる。腰掛部26は、浴槽1の長手方向の一方側に設けられる。
【0022】
腰掛部26上には、必要に応じて、スポンジ等の柔軟な材料で形成されたクッション5(
図1参照)が配置される。クッション5と腰掛部26の何れか一方に凹部29を設け、他方に凹部29と嵌合する凸部を設けることで、腰掛部26に対するクッション5の位置決めを行うことができる。腰掛部26が磁性材料で形成されている場合、クッション5に永久磁石を装着し、永久磁石を腰掛部26に磁着させることで、クッション5の位置決めを行うこともできる。あるいはクッション5の下面と腰掛部26を、浴槽外側に向かうほど下方となるテーパ面状に形成し、テーパ面嵌合によってクッション5の位置ずれを防止することもできる。
【0023】
以上に述べた浴槽本体2を構成する筒状部23(腰掛部26を含む)とフランジ部24(起立部25を含む)は金属板、例えばステンレス鋼板を成形することで一体に形成される。金属板の成形は、例えばプレス成形による絞り加工で行うことができる。絞り加工に際し、1回目の絞り加工でフランジ部24(起立部25を除く)と筒状部23(腰掛部26を含む)とを一体に成形し、2回目の絞り加工でフランジ部24の外側縁部を上方に起立するよう成形して起立部25を設けることができる。起立部25の上端の不要部分はレーザ加工等により切断除去される。
【0024】
以上の手順により製作された浴槽本体2には、金属板同士の継ぎ目や金属板同士を溶接した跡は存在しない。また、浴槽本体2の各角部にはエッジは存在せず、各角部は滑らかな円弧を介して隣接する部位同士がつながっている。
【0025】
図2に示すように、フランジ部24の起点は、木質部3よりも内側に配置される。ここでいう「起点」は、水平方向に延びたフランジ部24と、側部24の上端に形成されたアール部21aとの接点をいう。このようにフランジ部24の起点を木質部3よりも内側に配置することで、
図1に示すように、浴槽本体2の開口部を蓋4で閉鎖する際に、蓋4をフランジ部24で支持することが可能となる。
【0026】
図1に示すように浴槽本体2の底部22と床面Fとの間には、脚部6が配置される。脚部6は例えばゴム材料や樹脂材料で形成することができる。脚部6は浴槽本体2には固定せず、底部22と床面Fの間に挟む構造とする。
【0027】
底部22には、排水口28が設けられる。排水口28には、浴槽の使用中は図示しないゴム栓により閉鎖される。底部22の上面は、排水性のため、排水口28側が低位となるよう僅かに傾斜させるのが好ましい。排水口28は、側部21の下部に設けることもできる。
【0028】
本実施形態の浴槽1の長手方向の一端部には、浴槽1に出入りする際の利用者の補助のため、手摺7が設けられる。手摺7は鋼管あるいは樹脂材料でパイプ状に形成され、両端がねじ等を用いて木質部3に取り付けられる。手摺7には、ブラケット8を介してシャワーポール9が取り付けられる。シャワーポールにより、外部の水源と接続したシャワーヘッド(図示せず)が支持される。浴槽1内への湯はりは、シャワーヘッドを用いて行う他、シャワーとは別に給湯用蛇口を浴槽1に設置して行うこともできる。手摺7、ブラケット8、及びシャワーポール9は、長手方向の反対側の端部に移設可能としてもよい。
【0029】
以上に説明した浴槽1によれば、浴槽本体2を構成する筒状部23とフランジ部24を、金属板の成形により一体形成しているので、溶接作業が不要となる。そのため、溶接部の後加工が不要となり、低コスト化を図ることができる。また、溶接が不要となることで、浴槽本体2の剛性を高めることもできる。加えて、浴槽1が金属材料(浴槽本体2)と木質材料(木質部3)のハイブリッド構造であるので、金属だけで浴槽を形成する場合に比べ、浴槽1の外観の印象として無機質感を軽減して温もり感を与えることができ、そのような無機質感を嫌う利用者にとって好ましいものとなる。浴槽本体2は再利用可能な金属製であるので、SDGsの面でも優れたものとなる。
【0030】
また、木質部3は、入浴者の身体(例えば首や背中)を支える部分となり、浴槽1の高さ寸法を嵩上げする機能を有する。金属の一枚板を成形する場合、金属板の寸法に制約があることから、浴槽の高さ寸法の足が懸念されるが、フランジ部24の上に木質部3を配置することで、高さ寸法の不足を補うことができ、使用感の向上を図ることができる。具体的には、湯面をフランジ部24と同レベルまで高めることができる。
【0031】
加えて、浴槽本体2にフランジ部24が設けられているので、このフランジ部24を持ち手とすることで、浴槽1に可搬性を与えることができる。これにより、浴槽3の設置場所を自由に選択することができ、自宅等の屋内使用のみならず、キャンプ施設等での屋外使用も可能となる。自宅等に設置する場合、フランジ部24にエプロンを取付けて、浴室内の利用者から視認可能な面に装飾性を持たせることもできる。
【0032】
また、フランジ部24の縁部に上方に向かって延びる起立部25をフランジ部24と一体に設け、起立部25の内側に木質部3を配置しているので、木質部3を水平方向で位置決めできる。従って、木質部3をフランジ部24に固定するための締結部材(例えばネジ等)の使用数を減らすことができ、軽量化や低コスト化を図ることができる。木質部3の固定に締結部材を使用することで、木質部3を経年劣化等により交換する際にも、交換作業が容易なものとなる。
【0033】
また、筒状部23の側部21に、水平方向に延びる腰掛部26を一体に設けているので、腰掛部26を利用者が腰かけるためのスペースとして活用することができる。このように腰掛部26を設けた場合、浴槽内部の容積が減じられるので節水効果得ることができ、かつ腰掛部26がリブとして機能するので、浴槽本体2の剛性を高めることができる。
【0034】
加えて、木質部3よりも内側にフランジ部25の起点を配置することで、浴槽本体2の開口部を蓋4で閉鎖する際に、蓋4をフランジ部24で支持することが可能となり、蓋4による閉鎖機能を安定的に維持することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 浴槽
2 浴槽本体
3 木質部
4 蓋
6 脚部
21 側部
22 底部
23 筒状部
24 フランジ部
25 腰掛部
【要約】
【課題】低コストでありながら耐久性が高く、かつ温もり感に富む浴槽を提供する。
【解決手段】浴槽1は、浴槽本体2と木質部3とを有する。浴槽本体2は、側部21および底部22からなる有底筒型の筒状部23と筒状部23の側部21の上端の全周にわたって形成された、水平方向外向きに延びるフランジ部とを有する。浴槽本体2は、筒状部23とフランジ部24を金属板の成形により一体形成した金属製とする。木質部3は、浴槽本体2のフランジ部24の上面に配置され、フランジ部24に沿って周方向に延びた環状をなす。木質部3の少なくとも表面は木質材料で形成する。
【選択図】
図1