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特許7727345自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-13
(45)【発行日】2025-08-21
(54)【発明の名称】自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20250814BHJP
【FI】
A61F2/24
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024517108
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(86)【国際出願番号】 CN2022121560
(87)【国際公開番号】W WO2023051493
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】202111160970.4
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】524101087
【氏名又は名称】寧波健世科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呂 世文
(72)【発明者】
【氏名】陳 志
(72)【発明者】
【氏名】陳 進雄
(72)【発明者】
【氏名】張 善冬
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0035759(US,A1)
【文献】中国特許第107212950(CN,B)
【文献】米国特許出願公開第2014/0207231(US,A1)
【文献】特表2016-503710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁膜ステントと、前記弁膜ステントに接続される弁挟み固定装置とを備える自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼであって、
前記弁挟み固定装置は、近端が前記弁膜ステントに接続され、遠端が遊離する挟持機構と、少なくとも一部が前記挟持機構に配置されるアンカーリングとを備え、前記アンカーリングは、前記弁膜ステントが所定の位置に取り付けられた後、自己弁尖を引き上げるように構成され、自己弁尖及び腱索組織のうちの少なくとも1つが前記弁膜ステントと前記弁挟み固定装置との間に挟まれ、且つ、前記アンカーリングが前記弁膜ステントを締め付け
前記アンカーリングは、前記挟持機構に接続され、前記挟持機構は、少なくとも1つの挟持アームを備え、
前記自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼは、自己適応セグメントと宛がいセグメントを備える密封装置をさらに備える、
ことを特徴とする自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項2】
前記弁挟み固定装置は、第1形態及び第2形態を呈することが可能であるように構成され、前記弁挟み固定装置が第1形態にある場合、前記挟持機構が自己弁尖を捕捉するように構成され、前記弁膜ステントが径方向に拡張することにより、前記アンカーリングが腱索を引っ張り、自己弁尖を上に引き上げられるように動かし、前記弁挟み固定装置が第2形態にある、
ことを特徴とする請求項1に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項3】
前記弁挟み固定装置が前記第1形態にある場合、前記挟持機構は自己弁尖と心室壁との間にあり、且つ一部の前記アンカーリングは自己弁尖と腱索組織との間にある、
ことを特徴とする請求項2に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項4】
前記弁膜ステント及び前記挟持機構は一体式構造であり、且つ自然状態において、少なくとも一部の挟持機構が前記弁膜ステントの外側に宛がわれる、
ことを特徴とする請求項1に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項5】
前記アンカーリングと前記挟持機構とは少なくとも、高さが異なる2つの第1接続点を備えるか、又は、
前記アンカーリングと前記挟持機構第1接続点を備え前記アンカーリングと前記弁膜ステントとは高さが前記第1接続点と異なる第2接続点を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項6】
前記挟持機構は、単一の挟持アームを備え、前記アンカーリングは前記挟持アーム及び前記弁膜ステントにそれぞれ接続され、且つ、前記アンカーリングと前記挟持アームとの第1接続点の高さは、前記アンカーリングと前記弁膜ステントとの第2接続点の高さよりも高い
ことを特徴とする請求項1に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項7】
僧帽弁の治療に用いられる場合、且つ、前記弁挟み固定装置が第1形態にある場合、前記挟持アームは前弁尖を捕捉して挟持し、前記アンカーリングと前記弁膜ステントとの前記第2接続点は後弁尖領域に位置する、
ことを特徴とする請求項6に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項8】
前記少なくとも1つの挟持アームは、それぞれ前記アンカーリングに接続され、且つ、異なる自己弁尖をそれぞれ捕捉して挟持するように構成される第1挟持アーム及び第2挟持アームを備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項9】
前記弁挟み固定装置は、前記第1挟持アーム及び第2挟持アームにそれぞれ取り外し可能に接続され、且つ、引き動かされることにより、前記第1挟持アーム及び第2挟持アームが開いて自己弁尖を捕捉する制御糸をさらに備える、
ことを特徴とする請求項8に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項10】
前記挟持機構は複数の挟持アームを備え、前記アンカーリングは、複数の前記挟持アームと前記アンカーリングとの接続点の高さが異なるため、波形状の形態を呈する、
ことを特徴とする請求項1に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項11】
前記弁膜ステントの遠端には、前記弁膜ステントが所定の位置に取り付けられた後、心房内に位置し、且つ、少なくとも一部が心房壁に宛がわれる複数本の補助支持棒が設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【請求項12】
前記自己適応セグメントは、第1弧形セグメントと、第2弧形セグメントと、漏れ防止膜とを備え
前記第1弧形セグメントは、前記第1弧形セグメントに支点を提供する前記弁膜ステントに接続され、前記弁膜ステントが所定の位置に取り付けられた後、少なくとも一部の前記第1弧形セグメントが心房壁に宛がわれ、心房壁が前記第1弧形セグメントを押圧すると、前記第1弧形セグメントは、前記支点回りに前記弁膜ステントの中心に向かって回動し、且つ、前記第2弧形セグメントを同じ方向に向かって回動するように動かす、
ことを特徴とする請求項1に記載の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は2021年9月30日に出願された、特許出願番号が202111160970.4である特許出願を優先権として主張し、該出願に開示された内容をここで参照にして援用する。
【0002】
本願は医療機器の分野に関し、具体的には自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼに関する。
【背景技術】
【0003】
心臓構造からみると、僧帽弁であれ、三尖弁であれ、特殊な生理的構造を有するため、製品の正確な位置決め及び固定が非常に困難である。特に、僧帽弁の心内での位置及びその複雑な解剖構造は、僧帽弁置換手術に極めて大きい挑戦をもたらしている。
【0004】
関連技術のアンカーの技術的方式の大半は、ステントによる房室弁輪の径方向支持力を採用している。このような技術の欠点は、弁輪周囲の組織に圧迫を与えやすく、ステント及び圧迫された組織が流出路に影響を与えやすいことである。長期的には、逆流の減少に伴い、心室、心房圧が降下し、心臓構造が再構築され、大規格のステントが弁輪のサイズの縮小に影響を与え、心臓の内部構造に影響を与える。
【0005】
さらに、既存のプロテーゼは置換後、前弁尖がステントの外周に宛がわれ、それは左室流出路の血流の供給に深刻な影響を与え、大動脈の運行状况に影響を与える。
【0006】
以上のことから、以上の技術は臨床的にはいずれも、いくつかの効果があるが、いずれも不足が存在しており、これらの問題を解決するために、新たな経カテーテル心臓弁膜置換システムが早急に必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願の様々な実施例によれば、本願は自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼを提供する。本願の主な目的は、関連技術のいくつかの問題及び不足を克服することである。
【0008】
房室弁手術の応用において、本願は、房室弁に病変が現れ且つインターベンション治療が必要となる患者に対して、自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼを提供することで、関連技術における心臓弁膜置換システムによる原生弁輪への圧迫及び弁尖による流出路の遮りなどの問題を解決できることを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の一態様によれば、弁膜ステントと、弁膜ステントに接続される弁挟み固定装置とを備える自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼであって、前記弁挟み固定装置は、近端が前記弁膜ステントに接続され、遠端が遊離する挟持機構と、少なくとも一部が前記挟持機構に配置されるアンカーリングとを備え、前記弁膜ステントが所定の位置に取り付けられた後、自己弁尖が前記アンカーリングにより引き上げられ、自己弁尖又は/及び腱索組織が前記弁膜ステントと前記弁挟み固定装置との間に挟まれ、且つ、前記アンカーリングが前記弁膜ステントを締め付ける、自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼを提供する。
【0010】
一実施例によれば、前記弁膜ステント内には人工弁尖が設けられ、前記人工弁尖は牛の心膜、豚の心膜等の生体材料を採用して作られてもよいし、高分子材料を採用して作られてもよい。
【0011】
一実施例によれば、前記弁挟み固定装置は、第1形態及び第2形態を呈することが可能であるように構成され、そのうち、前記弁挟み固定装置が第1形態にある場合、前記挟持機構が自己弁尖を捕捉するように構成され、前記弁膜ステントが径方向に拡張することにより、前記アンカーリングが腱索を引っ張り、自己弁尖を上に引き上げられるように動かし、この時、前記弁挟み固定装置が第2形態にある。
【0012】
一実施例によれば、前記弁挟み固定装置が第1形態にある場合、前記挟持機構は自己弁尖と心室壁との間にあり、且つ一部の前記アンカーリングは自己弁尖と腱索組織との間にある。
【0013】
一実施例によれば、前記弁膜ステント及び前記挟持機構は一体式構造であり、且つ自然状態において、少なくとも一部の挟持機構が前記弁膜ステントの外側に宛がわれる。
【0014】
一実施例によれば、前記アンカーリング及び一部の前記挟持機構には織物層が被覆され、該設計はアンカーリング、挟持機構の自己弁尖に対する摩擦力を効果的に増加させることができる。
【0015】
一実施例によれば、前記アンカーリングは、閉ループ構造であり、又は前記挟持機構と連携して閉ループ構造を形成する。
【0016】
一実施例によれば、前記アンカーリングと前記挟持機構とは少なくとも、高さが異なる2つの接続点を備えるか、又は、前記アンカーリングと前記挟持機構及び前記弁膜ステントとは少なくとも、高さが異なる2つの接続点を備える。
【0017】
一実施例によれば、前記挟持機構は、単一の挟持アームを備え、前記アンカーリングは前記挟持アーム及び前記弁膜ステントにそれぞれ接続され、且つ前記アンカーリングと前記弁膜ステントとの接続点の高さは、前記アンカーリングと前記挟持アームとの接続点の高さよりも低くなる必要がある。
【0018】
他の実施例によれば、前記心臓弁膜プロテーゼが僧帽弁の治療に用いられる場合、且つ、前記弁挟み固定装置が第1形態にある場合、前記挟持アームは前弁尖を捕捉して挟持し、前記アンカーリングと前記弁膜ステントとの接続点は後弁尖領域に位置する。
【0019】
他の実施例によれば、前記挟持機構は第1挟持アームと、第2挟持アームとを備え、前記アンカーリングは前記第1挟持アーム及び第2挟持アームにそれぞれ接続され、且つ、前記第1挟持アーム及び第2挟持アームは、それぞれ異なる自己弁尖を捕捉して挟持するように構成され、且つ、前記アンカーリングの直径は前記弁膜ステントの直径よりも小さく、且つ、前記アンカーリングの直径は自己弁輪の直径よりも小さい。
【0020】
一実施例によれば、前記弁挟み固定装置は、前記第1挟持アーム及び第2挟持アームにそれぞれ取り外し可能に接続され、且つ、引き動かされることにより、前記第1挟持アーム及び第2挟持アームが開いて自己弁尖を捕捉する制御糸をさらに備える。
【0021】
他の実施例によれば、前記挟持機構は複数の挟持アームを備え、前記アンカーリングは、複数の前記挟持アームとの接続点の高さが異なるため、波形状の形態を呈する。
【0022】
一実施例によれば、前記弁膜ステントの遠端には、前記弁膜ステントが所定の位置に取り付けられた後、心房内に位置し、且つ、少なくとも一部が心房壁に宛がわれる複数本の補助支持棒が設けられ、前記弁膜ステントが僧帽弁の治療に用いられる場合、前弁尖領域の補助支持棒の遊離端から前記弁膜ステントの中心点までの距離は後弁尖領域の補助支持棒の遊離端から前記弁膜ステントの中心点までの距離よりも大きくなる必要があり、このように設計された目的は、弁膜ステント全体を後弁尖領域に宛がわせ、弁膜ステントの植え込まれた後の左室流出路への邪魔を低減させることを可能にすることにある。
【0023】
一実施例によれば、前記心臓弁膜プロテーゼは、弁輪の生理的構造に適応する形態として構成される密封装置をさらに備え、前記密封装置は、第1弧形セグメントと、第2弧形セグメントと、漏れ防止膜とを備える自己適応セグメント、及び宛がいセグメントを備え、前記第1弧形セグメントは、前記第1弧形セグメントに支点を提供する前記弁膜ステントに接続され、前記弁膜ステントが所定の位置に取り付けられた後、少なくとも一部の前記第1弧形セグメントは、心房壁に宛がわれ、心房壁が前記第1弧形セグメントを押圧すると、前記第1弧形セグメントは、前記支点回りに前記弁膜ステントの中心に向かって回動し、且つ、前記第2弧形セグメントを同じ方向に向かって回動するように動かす。
【0024】
一実施例によれば、前記漏れ防止膜は、前記第1弧形セグメント及び第2弧形セグメントを被覆しており、且つ、前記漏れ防止膜は、前記第1弧形セグメントの遊離端と第2弧形セグメントの遊離端とを接続する。
【0025】
一実施例によれば、前記心臓弁膜プロテーゼが僧帽弁の治療に用いられる場合、前記自己適応セグメントは前弁尖領域に位置し、前記宛がいセグメントは後弁尖領域に位置する。
【0026】
一実施例によれば、前記弁膜ステントは後弁尖領域に自己弁尖をアンカーするための逆刺が設けられる。
【0027】
一実施例によれば、前記アンカーリングは、ほぼシート状、糸状、又は麻縄状を呈する。
【発明の効果】
【0028】
関連技術と比較して、本願の利点及び有益な技術的効果は、少なくとも以下に挙げられるものを含む。
【0029】
1.従来の弁膜プロテーゼは、径方向に弁輪を支持することによってプロテーゼをアンカー固定することが多く、そうすると、原生弁輪に圧迫を与え、そのアンカー固定の欠陥が明らかであり、且つ、既存の、弁尖を利用してステントをアンカー固定する態様は左室流出路の阻隔の影響を解決することができず、本願の一実施例において、挟持機構を利用してアンカーリングを自己弁尖の下方の位置に至るように持っていき、さらに、そのアンカーリングが腱索組織と自己弁尖との間に位置するように操作を行い、弁膜ステントが径方向に拡張すると、アンカーリングが張架されて腱索を引っ張り、自己弁尖を上に引き上げられるように動かし、弁膜ステントが植え込まれた後にその自己弁尖が流出路を邪魔することを回避し、同時に、弁膜ステントが径方向に拡張してアンカーリングして最終的に自己弁尖及び腱索組織を弁膜ステントとアンカーリングとの間に締め付け、このようなアンカー固定方式は、弁膜ステントが自己弁輪を大幅に径方向に拡張することを回避し、心臓の原生組織の押圧及び過度の引張りを回避し、手術後の合併症を低減させ、関連技術における僧帽弁置換術の治療に関する2つの大きな技術的ペインポイントを解決することができ、良い臨床意義を有する。
【0030】
2.関連技術において、アンカーリングは弁膜ステントを固定する役割しか果たせず、自己弁尖による左室流出路への邪魔の影響を解決することができず、関連技術との区別として、本願の一実施例において、アンカーリングは、弁尖を取り囲んで、弁膜ステントを自己弁尖に固定させ、径方向に原生弁輪を支持することを回避することができると同時に、腱索を引っ張り、さらに自己弁尖を上に引き上げられるように動かすこともでき、自己弁尖による流出路への邪魔を効果的に回避することができ、良い臨床意義を有する。
【0031】
3.関連技術との区別として、本願の一実施例において、アンカーリングの弁挟み部材における接続点の高さは異なり、具体的には、アンカーリングの前弁尖領域における高さは、アンカーリングの後弁尖領域における高さよりも高くなる必要があり、これにより、前弁尖を顕著に引き上げ、左室の流出路への邪魔を回避することもできるし、抱締材による後弁尖領域の腱索への過度の引張りを回避し、腱索組織を保護することもできる。
【0032】
4.関連技術において、弁膜ステントの中軸線に垂直な横断面方向において、密封装置が完全に自己弁輪全体を覆うことができるように、密封装置の横断面積は自己弁輪の横断面積よりも大きくなる必要があり、且つ、密封装置の遊離縁部分は心房壁に宛がわれる必要があり、このようにすることで、優れた漏れ防止効果を達成できるが、心房の内壁面は非常に整然とした、滑らかなものではないため、心房壁の何らかの部位の密封装置に対する押圧力が大きく、その結果、密封装置にシワが生じて隙間が現れ、血液に逆流が発生してしまい、また、プロテーゼが長期にわたって植え込まれると、弁膜の逆流が減少するため、心房が再構築され、病変前のサイズに縮小し、これは同様に心房壁の密封装置に対する押圧力を大きくし、その結果、密封装置にシワが生じて隙間が現れ、血液の逆流につながってしまい、関連技術との区別として、本願の一実施例において、密封装置は、第1弧形セグメントと、第2弧形セグメントと、漏れ防止膜とを備える自己適応セグメント、及び宛がいセグメントを備え、第1弧形セグメントが心房壁により押圧されると、第1弧形セグメントは、支点回りに弁膜ステントの中心に向かって回動し、且つ、第2弧形セグメントを同じ方向に向かって回動して適時自己弁尖の下方に当たるように動かし、リアルタイムで補欠を作り、血液の逆流を回避し、そして、密封装置は、プロテーゼ全体を、できるだけ左室流出路を避けるように後弁尖領域に宛がわせ、左室流出路を遮ることを回避する。
【0033】
本願の実施例は、個々に挙げられていない他の有益な技術的効果を実現することができ、これらの技術的効果は、一部が後文で説明される可能性があり、且つ当業者にとっては、本願を読んだ後に予想及び理解できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
後文の説明を図面とともに参照することにより、これらの実施例の上述の特徴及び利点、その他の特徴及び利点、並びにそれらを実現する方法がより明らかになり、且つ本願の実施例をよりよく理解できる。
【0035】
図1a-1c】本願のいくつかの実施例における心臓弁膜プロテーゼの全体構造の模式図である。
図2a-2c】本願のいくつかの実施例における心臓弁膜プロテーゼの密封装置の構造模式図であり、そのうち、図2cは本願のいくつかの実施例における心臓弁膜プロテーゼの密封装置の底面図である。
図3a-3b】本願のいくつかの実施例における心臓弁膜プロテーゼが植え込まれた後の模式図であり、そのうち、図3bは第2弧形セグメントが第1弧形セグメントの回動に伴って回動する原理図であり、破線とは、密封装置が押圧された後の第1弧形セグメント、第2弧形セグメントの回動の模式図である。
図4a-4f】本願のいくつかの実施例における人工弁膜プロテーゼの植込み過程の模式図であり、そのうち、図4fは図4eの部分拡大図である。
図5a-5b】本願の他の実施形態の模式図である。
図6a-6b】本願の他の実施形態の模式図である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・弁膜ステント、11・・・補助支持棒、12・・・密封装置、121・・・自己適応セグメント、1211・・・第1弧形セグメント、1212・・・第2弧形セグメント、1213・・・漏れ防止膜、122・・・宛がいセグメント、13・・・逆刺、2・・・弁挟み固定装置、21・・・挟持機構、211・・・挟持アーム、2111・・・第1挟持アーム、2112・・・第2挟持アーム、22・・・アンカーリング、23・・・織物層、24・・・制御糸、3・・・搬送装置。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下の、図面及び発明を実施するための形態に対する説明において、本願の1つ又は複数の実施例の詳細が述べられる。これらの説明、図面、及び請求項から、本願の他の特徴、目的、及び利点が明らかになる。
【0038】
図示及び説明される実施例は、応用では以下の説明において説明又は図面において図示された部材の構成及び配置の詳細に限定されるものではないことを理解すべきである。図示された実施例は、他の実施例であってもよく、様々な方法で実施又は実行することができる。各例は、開示された実施例を限定ではなく解釈する方式で提供される。実際的に、本願の開示の範囲又は実質から逸脱することなく、本願の各実施例に様々な修正及び変形を加えることができることは、当業者には明らかである。例えば、一実施例の一部として図示又は説明された特徴は、他の実施例とともに使用しても、依然として他の実施例を作り出すことができる。したがって、本願の開示は、添付された請求項及びその均等の要素の範囲内に属するそのような修正及び変形を含む。
【0039】
同様に、本稿で使用されるフレーズ及び用語は説明するためのものであり、制限的なものとみなされるべきではないことを理解できる。本稿における「含む」、「包含」、又は「有する」及びその変形の使用は、その後に列挙される項目及びその均等項、及び可能な追加項を開放的に含めることを意図している。
【0040】
以下、本願のいくつかの態様の異なる実施例及び例を参照して、本願をより詳細に説明する。
【0041】
本願において、近端とは心尖に近い一端であり、遠端とは心尖から遠い一端である。
【0042】
具体的な実施例
【0043】
実施例1
図1a~1cに示すように、本実施例において、自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼは、弁膜ステント1と、弁膜ステント1に接続される弁挟み固定装置2とを備え、前記弁挟み固定装置2は、近端が前記弁膜ステント1に接続され、遠端が遊離する挟持機構21と、少なくとも一部が前記挟持機構21に配置されるアンカーリング22とを備え、前記弁膜ステント1が所定の位置に取り付けられた後、自己弁尖が前記アンカーリング22により引き上げられ、自己弁尖又は/及び腱索組織が前記弁膜ステント1と前記弁挟み固定装置2との間に挟まれ、且つ、前記アンカーリング22が前記弁膜ステント1を締め付ける。
【0044】
一実施例によれば、前記弁膜ステント1内には人工弁尖が設けられ、前記人工弁尖は牛の心膜、豚の心膜等の生体材料を採用して作られてもよいし、高分子材料を採用して作られてもよい。
【0045】
一実施例によれば、前記弁挟み固定装置2は、第1形態及び第2形態を呈することが可能であるように構成され、そのうち、前記弁挟み固定装置2が第1形態にある場合、図4b及び4cに示すように、前記挟持機構21が自己弁尖を捕捉するように構成され、前記弁挟み固定装置2が第2形態にある場合、図4d及び4eに示すように、前記弁膜ステント1が径方向に拡張することにより、前記アンカーリング22が腱索を引っ張り、自己弁尖を上に引き上げられるように動かす。
【0046】
一実施例によれば、前記弁挟み固定装置2が第1形態にある場合、前記挟持機構21は自己弁尖と心室壁との間にあり、且つ一部の前記アンカーリング22は自己弁尖と腱索組織との間にある。
【0047】
一実施例によれば、前記弁膜ステント1及び前記挟持機構21は一体式構造であり、且つ自然状態において、少なくとも一部の挟持機構21が前記弁膜ステント1の外側に宛がわれる。
【0048】
一実施例によれば、図1cに示すように、前記アンカーリング22及び一部の前記挟持機構21には織物層23が被覆され、該設計はアンカーリング22、挟持機構21の自己弁尖に対する摩擦力を効果的に増加させることができる。
【0049】
一実施例によれば、前記アンカーリング22は、閉ループ構造であり、又は前記挟持機構21と連携して閉ループ構造を形成する。
【0050】
一実施例によれば、前記アンカーリング22と前記挟持機構21とは少なくとも、高さが異なる2つの接続点を備える。
【0051】
一実施例によれば、前記挟持機構21は第1挟持アーム2111と、第2挟持アーム2112とを備え、前記アンカーリング22は前記第1挟持アーム2111及び第2挟持アーム2112にそれぞれ接続され、且つ、前記第1挟持アーム2111及び第2挟持アーム2112は、それぞれ異なる自己弁尖を捕捉して挟持するように構成され、且つ、前記アンカーリング22の直径は前記弁膜ステント1の直径よりも小さく、且つ、前記アンカーリング22の直径は自己弁輪の直径よりも小さい。
【0052】
一実施例によれば、前記弁挟み固定装置2は、前記第1挟持アーム2111及び第2挟持アーム2112にそれぞれ取り外し可能に接続され、且つ、引き動かされることにより、前記第1挟持アーム2111及び第2挟持アーム2112が開いて自己弁尖を捕捉する制御糸24をさらに備える。
【0053】
一実施例によれば、前記弁膜ステント1の遠端には、前記弁膜ステント1が所定の位置に取り付けられた後、心房内に位置し、且つ、少なくとも一部が心房壁に宛がわれる複数本の補助支持棒11が設けられ、前記弁膜ステント1が僧帽弁の治療に用いられる場合、図1c及び2aに示すように、前弁尖領域の補助支持棒11の遊離端から前記弁膜ステント1の中心点までの距離は後弁尖領域の補助支持棒11の遊離端から前記弁膜ステント1の中心点までの距離よりも大きくなる必要があり、このように設計された目的は、弁膜ステント1全体を後弁尖領域に宛がわせ、弁膜ステント1の植え込まれた後の左室流出路への邪魔を低減させることを可能にすることにある。
【0054】
一実施例によれば、図2a~2cに示すように、前記心臓弁膜プロテーゼは、弁輪の生理的構造に適応する形態として構成される密封装置12をさらに備え、前記密封装置12は、自己適応セグメント121と、宛がいセグメント122とを備え、前記自己適応セグメント121は、第1弧形セグメント1211と、第2弧形セグメント1212と、漏れ防止膜1213とを備え、図3a及び3bに示すように、前記第1弧形セグメント1211は、前記第1弧形セグメント1211に支点を提供する前記弁膜ステント1に接続され、前記弁膜ステント1が所定の位置に取り付けられた後、少なくとも一部の前記第1弧形セグメント1211は、心房壁に宛がわれ、心房壁が前記第1弧形セグメント1211を押圧すると、前記第1弧形セグメント1211は、前記支点回りに前記弁膜ステント1の中心に向かって回動し、且つ、前記第2弧形セグメント1212を同じ方向に向かって回動するように動かす。
【0055】
一実施例によれば、前記漏れ防止膜1213は、前記第1弧形セグメント1211及び第2弧形セグメント1212を被覆しており、且つ、前記漏れ防止膜1213は、前記第1弧形セグメント1211の遊離端と第2弧形セグメント1212の遊離端とを接続する。
【0056】
一実施例によれば、前記心臓弁膜プロテーゼが僧帽弁の治療に用いられる場合、前記自己適応セグメント121は前弁尖領域に位置し、前記宛がいセグメント122は後弁尖領域に位置する。
【0057】
一実施例によれば、図1cに示すように、前記弁膜ステント1は後弁尖領域に自己弁尖をアンカーするための逆刺13が設けられる。
【0058】
一実施例によれば、前記アンカーリング22は、ほぼシート状、糸状、又は麻縄状を呈する。
【0059】
一実施例によれば、前記心臓弁膜プロテーゼは、それを手術部位に搬送するための搬送装置3をさらに備える。
【0060】
本実施例1の自己弁尖にアンカー可能な心臓弁膜プロテーゼの1つの模範的な僧帽弁の弁膜を修復する操作過程は、図4a~4fに示すように、
1.前記搬送装置3を、心尖からアプローチして遠端の部分が左心房内に位置するように操作し、
2.図4b及び4cに示すように、前記搬送装置3を操作して弁膜ステント1の遠端の部分を解放し、この時、密封装置12及び補助支持棒11が完全に解放されておらず、第1挟持アーム2111及び第2挟持アーム2112が開いて自己弁尖を捕捉するように制御糸24を引き動かし、
3.第1挟持アーム2111及び第2挟持アーム2112がそれぞれ前弁尖と後弁尖の後に位置し、アンカーリング22が自己弁尖と腱索組織との間にある時、密封装置12及び補助支持棒11が完全に解放されて左心房内に支持されるように搬送装置3をさらに操作し、
4.図4d~4fに示すように、弁膜ステント1の近端の部分を解放するように搬送装置3を操作し、弁膜ステント1が完全に径方向に拡張してアンカーリング22と連携して最終的に自己弁尖及び腱索組織を弁膜ステント1とアンカーリング22との間に締め付けると、搬送装置3を撤退させ、植込みを完成させる、というものである。
【0061】
実施例2
実施例2は、実施例1とほぼ同じであるが、図5aに示すように、該実施例における挟持機構21が単一の挟持アーム211しか有せず、アンカーリング22が挟持アーム211及び弁膜ステント1にそれぞれ接続されている点で異なる。
【0062】
本実施例において、図5bに示すように、前記挟持機構21は、単一の挟持アーム211を備え、前記アンカーリング22は前記挟持アーム211及び前記弁膜ステント1にそれぞれ接続され、且つ、前記アンカーリング22と前記弁膜ステント1との接続点の高さは、前記アンカーリング22と前記挟持アーム211との接続点の高さよりも低くなる必要があり、前記弁膜ステント1が所定の位置に取り付けられた後、前記挟持アーム211が前弁尖を捕捉して挟持し、アンカーリング22と弁膜ステント1との接続点が後弁尖領域にあり、このように設計された目的は、前弁尖を顕著に引き上げ、左室の流出路への邪魔を回避することもできるし、抱締材による後弁尖領域の腱索への過度の引張りを回避し、腱索組織を保護することもできることにある。
【0063】
この点に関しては、実施例2の関連構成及び構想は実施例1と類似しているため、ここでは繰り返し説明しない。
【0064】
実施例3
実施例3は、実施例1とほぼ同じであるが、図6aに示すように、該実施例における挟持機構21が複数の挟持アーム211を備える点で異なる。
【0065】
本実施例において、図6bに示すように、前記挟持機構21は、複数の挟持アーム211を備え、前記アンカーリング22は、複数の前記挟持アーム211との接続点の高さが異なるため、波形状の形態を呈し、前記弁膜ステント1が所定の位置に取り付けられた後、前記アンカーリング22の前弁尖領域における挟持アーム211との接続点は前記アンカーリング22の後弁尖領域における挟持アーム211との接続点よりも高くなる必要があり、このように設計された目的は、前弁尖を顕著に引き上げ、左室の流出路への邪魔を回避することもできるし、抱締材による後弁尖領域の腱索への過度の引張りを回避し、腱索組織を保護することもできることにある。
【0066】
本実施例において、前記アンカーリング22の周長は前記弁膜ステント1の周長よりも大きく、且つ、前記アンカーリング22の周長は自己弁輪の周長よりも小さい。
【0067】
この点に関しては、実施例3に関する構成及び構想は実施例1と類似しているため、ここでは繰り返し説明しない。
【0068】
説明の目的のために、本願の例示的な実施例についての前文の説明を提出している。前文の説明は網羅的なものであることを意図せず、本願を開示された精確な配置及び/又は構成に限定するわけでもなく、上文の指導によれば、当業者であれば、本願から逸脱することなく多くの修正及び変形を行うことができることは明らかである。本願の範囲及び均等物は、添付された特許請求の範囲によって限定されることを意図している。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図5a
図5b
図6a
図6b