IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-動力伝達装置 図1
  • 特許-動力伝達装置 図2
  • 特許-動力伝達装置 図3
  • 特許-動力伝達装置 図4
  • 特許-動力伝達装置 図5
  • 特許-動力伝達装置 図6
  • 特許-動力伝達装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-18
(45)【発行日】2025-08-26
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/26 20060101AFI20250819BHJP
   F16H 48/22 20060101ALI20250819BHJP
   F16H 48/24 20060101ALI20250819BHJP
   F16H 1/06 20060101ALI20250819BHJP
【FI】
F16H48/26
F16H48/22
F16H48/24
F16H1/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022111138
(22)【出願日】2022-07-11
(65)【公開番号】P2024009534
(43)【公開日】2024-01-23
【審査請求日】2024-04-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】板津 直樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】道下 雅也
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-178010(JP,A)
【文献】特開2021-195002(JP,A)
【文献】特開2021-098460(JP,A)
【文献】特開平11-051153(JP,A)
【文献】特表2022-520613(JP,A)
【文献】特開2003-207025(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108716529(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/26
F16H 48/22
F16H 48/24
F16H 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の駆動源と、前記第1の駆動源と駆動力を伝達可能に接続される第1の変速機と、を有する第1の駆動ユニットと、
第2の駆動源と、前記第2の駆動源と駆動力を伝達可能に接続される第2の変速機と、を有し、前記第1の駆動ユニットと並列に配置される第2の駆動ユニットと、
前記第1の変速機と前記第2の変速機との間に配置され、前記第1の変速機の回転駆動と前記第2の変速機の回転駆動との差動を制限する第1の摩擦式差動制限要素と、
前記第1の変速機の歯車に設けられる第1の凸部と、
前記第1の変速機と前記第1の摩擦式差動制限要素との間で駆動力を伝達可能に接続する第1の接続軸に設けられ、前記歯車が回転した場合に前記第1の凸部と接触して当該歯車の駆動力を前記第1の接続軸に伝達する第2の凸部と、
を備え
前記第1の摩擦式差動制限要素は、前記第1の接続軸と駆動力を伝達可能に接続される第1のクラッチ板と、前記第2の変速機と前記第1の摩擦式差動制限要素との間で駆動力を伝達可能に接続する第2の接続軸と駆動力を伝達可能に接続される第2のクラッチ板と、を有し、
前記歯車が一方に回転した場合の前記第1の凸部と前記第2の凸部との接触面は、前記第1の接続軸の軸方向において前記第1の駆動ユニットの側に向かうのに従って前記一方への歯車の回転方向の側に傾斜する傾斜面を有し、前記歯車が一方に回転して前記第1の凸部が前記第2の凸部に接触した場合、前記第1の接続軸を介して前記第1のクラッチ板を前記第2のクラッチ板の側に押し込み、前記第1の摩擦式差動制限要素を作動させ、
前記歯車が他方に回転した場合の前記第1の凸部と前記第2の凸部との接触面は、前記第1の接続軸の軸方向に対して平行な面を有し、前記歯車が他方に回転して前記第1の凸部が前記第2の凸部に接触した場合、前記第1の接続軸を介して前記第1のクラッチ板を前記第2のクラッチ板の側に押し込まず、前記第1の摩擦式差動制限要素を作動させない、動力伝達装置。
【請求項2】
前記第1の摩擦式差動制限要素は、ビスカスカップリングを備える、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1の変速機と前記第2の変速機との間であって、且つ前記第1の摩擦式差動制限要素と異なる箇所に配置され、前記第1の変速機の回転駆動と前記第2の変速機の回転駆動との差動を制限する第2の摩擦式差動制限要素を備える、請求項1又は2に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1の駆動源と、第1の駆動源と駆動力を伝達可能に接続される第1のデファレンシャルギヤと、第2の駆動源と、第2の駆動源と駆動力を伝達可能に接続される第2のデファレンシャルギヤと、第1のデファレンシャルギヤと第2のデファレンシャルギヤとを接続する差動制限要素と、を備える動力伝達装置が開示されている。
【0003】
このとき、差動制限要素は、第1のデファレンシャルギヤに接続される第1の接続軸に固定される第1のサイドギヤと、第2のデファレンシャルギヤに接続される第2の接続軸に固定される第2のサイドギヤと、第1のサイドギヤと第2のサイドギヤとに噛み合わされるピニオンギヤと、を有するデファレンシャルギヤを備えている。そして、差動制限要素は、ピニオンギヤに接続されるモータの駆動力によって、第1の接続軸と第2の接続軸との間の差動を調整する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-283836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は、以下の課題を見出した。特許文献1の動力伝達装置は、差動制限要素をデファレンシャルギヤで構成しているため、大型化する課題を有する。
【0006】
本開示は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、動力伝達装置の小型化を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る動力伝達装置は、
第1の駆動源と、前記第1の駆動源と駆動力を伝達可能に接続される第1の変速機と、を有する第1の駆動ユニットと、
第2の駆動源と、前記第2の駆動源と駆動力を伝達可能に接続される第2の変速機と、を有し、前記第1の駆動ユニットと並列に配置される第2の駆動ユニットと、
前記第1の変速機と前記第2の変速機との間に配置され、前記第1の変速機の回転駆動と前記第2の変速機との回転駆動との差動を制限する第1の摩擦式差動制限要素と、
を備える。
【0008】
上述の動力伝達装置において、前記第1の摩擦式差動制限要素は、ビスカスカップリングを備えることが好ましい。
【0009】
上述の動力伝達装置において、前記第1の摩擦式差動制限要素は、前記第1の変速機と前記第1の摩擦式差動制限要素との間で駆動力を伝達可能に接続する第1の接続軸と駆動力を伝達可能に接続される第1のクラッチ板と、前記第2の変速機と前記第1の摩擦式差動制限要素との間で駆動力を伝達可能に接続する第2の接続軸と駆動力を伝達可能に接続される第2のクラッチ板と、を備えることが好ましい。
【0010】
上述の動力伝達装置において、前記第1の摩擦式差動制限要素は、前記第1の接続軸に作用する軸方向の力に基づいて、前記第1のクラッチ板と前記第2のクラッチ板との接触力が変化することが好ましい。
【0011】
上述の動力伝達装置は、
前記第1の変速機の歯車に設けられる第1の凸部と、
前記第1の接続軸に設けられ、前記歯車が回転した場合に前記第1の凸部と接触して当該歯車の駆動力を前記第1の接続軸に伝達する第2の凸部と、
を備え、
前記歯車が一方に回転した場合の前記第1の凸部と前記第2の凸部との接触面は、前記第1の接続軸の軸方向において前記第1の駆動ユニットの側に向かうのに従って前記一方への歯車の回転方向の側に傾斜する傾斜面を有することが好ましい。
【0012】
上述の動力伝達装置において、前記歯車が他方に回転した場合の前記第1の凸部と前記第2の凸部との接触面は、前記第1の接続軸の軸方向に対して平行な面を有することが好ましい。
【0013】
上述の動力伝達装置において、前記第1のクラッチ板と第2のクラッチ板との接触力は、前記第1の摩擦式差動制限要素に供給される圧力媒体の圧力に基づいて変化することが好ましい。
【0014】
上述の動力伝達装置は、前記第1の変速機と前記第2の変速機との間であって、且つ前記第1の摩擦式差動制限要素と異なる箇所に配置され、前記第1の変速機の回転駆動と前記第2の変速機との回転駆動との差動を制限する第2の摩擦式差動制限要素を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、動力伝達装置の小型化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態1の動力伝達装置を示す図である。
図2】実施の形態2の動力伝達装置を示す図である。
図3】実施の形態2の動力伝達装置における第1の変速機の第4の歯車と接続軸との間の係合部をY軸-側から見た図である。
図4】実施の形態2の動力伝達装置における第1の変速機の第4の歯車と接続軸との間の係合部の第1の凸部と第2の凸部との関係を示す図である。
図5】実施の形態3の動力伝達装置を示す図である。
図6】動力伝達装置に用いる電磁弁を示す図である。
図7】実施の形態4の動力伝達装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本開示が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0018】
<実施の形態1>
先ず、本実施の形態の動力伝達装置の構成を説明する。本実施の形態の動力伝達装置は、例えば、車両の動力伝達装置として好適である。図1は、本実施の形態の動力伝達装置を示す図である。なお、以下の説明では、説明を明確にするために、三次元(XYZ)座標系を用いて説明する。
【0019】
動力伝達装置1は、図1に示すように、第1の駆動ユニット2、第2の駆動ユニット3及び摩擦式差動制限要素4を備えており、これらの第1の駆動ユニット2、第2の駆動ユニット3及び摩擦式差動制限要素4は、ハウジング5に収容されている。
【0020】
第1の駆動ユニット2は、図1に示すように、第1の駆動源21及び第1の変速機22を備えている。第1の駆動源21は、例えば、モータである。つまり、第1の駆動源21は、ステータ21a及びロータ21bを備えている。但し、第1の駆動源21は、モータに限定されず、内燃機関などの駆動源であってもよい。
【0021】
第1の変速機22は、図1に示すように、第1の歯車22a、第2の歯車22b、第3の歯車22c及び第4の歯車22dを備えている。第1の歯車22aは、第1の駆動源21におけるロータ21bの回転軸21cと駆動力を伝達可能に接続されている。第1の歯車22aは、Y軸回りに回転する。
【0022】
第2の歯車22bは、図1に示すように、第1の歯車22aと噛み合わされており、Y軸回りに回転する。第3の歯車22cは、Y軸方向に延在する接続軸22eを介して第2の歯車22bと駆動力を伝達可能に接続されており、Y軸回りに回転する。第4の歯車22dは、第3の歯車22cと噛み合わされており、Y軸回りに回転する。そして、第4の歯車22dは、接続軸22fを介してY軸+側の車輪6と駆動力を伝達可能に接続されている。
【0023】
第2の駆動ユニット3は、図1に示すように、Y軸方向で第1の駆動ユニット2と並列に配置されている。そして、第2の駆動ユニット3は、第1の駆動ユニット2に対して、Z軸方向に延在する軸を対称軸とする線対称の構成である。そのため、詳細な説明は省略するが、第2の駆動ユニット3は、第2の駆動源31及び第2の変速機32を備えている。第2の駆動源31は、例えば、ステータ31a及びロータ31bを備えている。
【0024】
第2の変速機32は、図1に示すように、第2の駆動源31におけるロータ31bの回転軸31cと駆動力を伝達可能に接続された第1の歯車32a、第1の歯車32aと噛み合わされた第2の歯車32b、接続軸32eを介して第2の歯車32bと駆動力を伝達可能に接続された第3の歯車32c、及び第3の歯車32cと噛み合わされた第4の歯車32dを備えている。そして、第4の歯車32dは、接続軸32fを介してY軸-側の車輪7と駆動力を伝達可能に接続されている。
【0025】
摩擦式差動制限要素4は、第1の変速機22の第4の歯車22dの回転駆動と第2の変速機32の第4の歯車32dの回転駆動との差動、即ち、車輪6と車輪7との差動を制限する。摩擦式差動制限要素4は、図1に示すように、第1の変速機22と第2の変速機32との間に配置されている。
【0026】
摩擦式差動制限要素4は、例えば、ビスカスカップリングを備えている。摩擦式差動制限要素4は、例えば、図1に示すように、第1のクラッチ板41、第2のクラッチ板42、筒状部43、第3のクラッチ板44及び充填材45を備えている。
【0027】
第1のクラッチ板41は、例えば、図1に示すように、XZ平面と略平行な円盤形状であり、接続軸8を介して第1の変速機22の第4の歯車22dと駆動力を伝達可能に接続されている。第2のクラッチ板42は、例えば、XZ平面と略平行な円環板形状であり、第1のクラッチ板41に対してY軸-側に配置されている。
【0028】
筒状部43は、例えば、図1に示すように、Y軸方向に延在する円筒形状である。そして、筒状部43のY軸+側の端部に第1のクラッチ板41の周縁部が固定され、筒状部43のY軸-側の端部に第2のクラッチ板42の外周縁部が固定されている。そのため、第1のクラッチ板41及び第2のクラッチ板42は、接続軸8の回転に伴い回転する。
【0029】
第3のクラッチ板44は、例えば、図1に示すように、XZ平面と略平行な円盤形状であり、第1のクラッチ板41と第2のクラッチ板42との間に配置されている。そして、第3のクラッチ板44は、接続軸9を介して第2の変速機32の第4の歯車32dと駆動力を伝達可能に接続されている。
【0030】
このとき、接続軸9は、第2のクラッチ板42の中空部に通されている。そして、第1のクラッチ板41と、筒状部43と、第2のクラッチ板42と、で囲まれた空間S1は、略密閉空間とされている。
【0031】
充填材45は、一般的なビスカスカップリングに用いられるシリコンオイルであり、空間S1に充填されている。充填材45は、充填材45の発熱に伴って体積膨張する。但し、摩擦式差動制限要素4の構成は、上述の限りではなく、例えば、一般的なビスカスカップリングの構成を採用することができる。
【0032】
次に、動力伝達装置1の摩擦式差動制限要素4の動作を説明する。第1の変速機22の第4の歯車22dの回転駆動と第2の変速機32の第4の歯車32dの回転駆動との差動に伴って、第1のクラッチ板41及び第2のクラッチ板42と、第3のクラッチ板44と、の差動が発生する。
【0033】
このとき、第1のクラッチ板41及び第2のクラッチ板42と、第3のクラッチ板44と、の差動が増加するのに伴って、充填材45が発熱して体積膨張し、第1のクラッチ板41と第3のクラッチ板44との間、及び第2のクラッチ板42と第3のクラッチ板44との間が充填材45を介して駆動力を伝達可能に接続される。これにより、動力伝達装置1は、車輪6と車輪7との差動を制限することになる。
【0034】
このように本実施の形態の動力伝達装置1は、摩擦式差動制限要素4を用いて第1の変速機22の回転駆動と第2の変速機32の回転駆動との差動を制限する。つまり、本実施の形態の動力伝達装置1は、特許文献1の動力伝達装置のような大掛かりな差動制限要素を用いていないため、特許文献1の動力伝達装置に比べて動力伝達装置の小型化を実現することができる。
【0035】
しかも、摩擦式差動制限要素4の充填材45が体積膨張する温度特性を変化させることで、摩擦式差動制限要素4が作動する車輪6と車輪7との回転差、即ち、第1のクラッチ板41及び第2のクラッチ板42と、第3のクラッチ板44と、の摩擦力を簡単に調整することができる。
【0036】
<実施の形態2>
図2は、本実施の形態の動力伝達装置を示す図である。図3は、本実施の形態の動力伝達装置における第1の変速機の第4の歯車と接続軸との間の係合部をY軸-側から見た図である。図4は、本実施の形態の動力伝達装置における第1の変速機の第4の歯車と接続軸との間の係合部の第1の凸部と第2の凸部との関係を示す図である。なお、図3及び図4は、第1の凸部及び第2の凸部を簡略的に示している。
【0037】
なお、本実施の形態の動力伝達装置200は、実施の形態1の動力伝達装置1と略等しい構成とされているため、重複する説明は省略し、等しい部材には等しい符号を用いて説明する。本実施の形態の動力伝達装置200において、摩擦式差動制限要素210は、図2に示すように、第1のクラッチ板211、第2のクラッチ板212及び摩擦板213を備えている。
【0038】
第1のクラッチ板211は、例えば、図2に示すように、XZ平面と略平行な円盤形状であり、接続軸8を介して第1の変速機22の第4の歯車22dと駆動力を伝達可能に接続されている。そのため、第1のクラッチ板211は、接続軸8の回転に伴い回転する。
【0039】
第2のクラッチ板212は、例えば、図2に示すように、XZ平面と略平行な円盤形状であり、第1のクラッチ板211に対してY軸-側に配置されている。そして、第2のクラッチ板212は、接続軸9を介して第2の変速機32の第4の歯車32dと駆動力を伝達可能に接続されている。そのため、第2のクラッチ板212は、接続軸9の回転に伴い回転する。
【0040】
このとき、接続軸9のY軸-側の端部は、例えば、第2の変速機32の第4の歯車32dに固定されており、Y軸方向の移動が略拘束されている。摩擦板213は、例えば、図2に示すように、XZ平面と略平行な円環板形状であり、第1のクラッチ板211と第2のクラッチ板212との間に配置されている。
【0041】
このような摩擦式差動制限要素210は、例えば、車輪6が前進回転した際の当該車輪6の回転駆動によって作動する。詳細には、動力伝達装置200は、図2に示すように、第1の変速機22の第4の歯車22dと接続軸8との間に係合部220を備えている。係合部220は、図3及び図4に示すように、第1の凸部221及び第2の凸部222を備えている。
【0042】
第1の凸部221は、図3に示すように、第1の変速機22の第4の歯車22dからY軸-側に突出している。そして、第1の凸部221は、Y軸方向から見て第4の歯車22dの回転軸を中心として当該第4の歯車22dの周方向に略等しい間隔で配置されている。
【0043】
第1の凸部221は、図3及び図4に示すように、略矩形ブロック状であり、第1の凸部221における車輪6が前進回転した際の第4の歯車22dの回転方向(矢印A方向)の側の第1の面221aがY軸+側(即ち、車輪6の側)に向かうのに従って当該第4の歯車22dの回転方向に向かって傾斜する傾斜面に形成されている。一方、第1の凸部221における車輪6が前進回転した際の第4の歯車22dの回転方向に対して逆側の第2の面221bは、Y軸と略平行な平坦面である。
【0044】
第2の凸部222は、例えば、図3に示すように、接続軸8のY軸+側の端部から当該接続軸8の径方向外側に突出している。そして、第2の凸部222は、Y軸方向から見て接続軸8の回転軸を中心として当該接続軸8の周方向に略等しい間隔で配置されている。このとき、接続軸8のY軸+側の端部が第4の歯車22dの周方向に並ぶ複数の第1の凸部221の内部に挿入された状態で、第2の凸部222は、第1の凸部221の間に配置されている。そのため、接続軸8のY軸+側の端部が第1の変速機22の第4の歯車22dに固定されておらず、接続軸8は、Y軸方向に移動可能である。
【0045】
第2の凸部222は、図3及び図4に示すように、略矩形ブロック状であり、第2の凸部222における車輪6が前進回転した際の接続軸8の回転方向、言い換えると、第4の歯車22dの回転方向に対して逆側の第1の面222aがY軸+側に向かうのに従って当該接続軸8の回転方向に向かって傾斜する傾斜面に形成されている。一方、第2の凸部222における車輪6が前進回転した際の接続軸8の回転方向の側の第2の面222bは、Y軸と略平行な平坦面である。
【0046】
このとき、第1の凸部221の第1の面221aと第2の凸部222の第1の面222aとは略面接触可能であり、第1の凸部221の第2の面221bと第2の凸部222の第2の面222bとは略面接触可能である。
【0047】
このような動力伝達装置200において、例えば、車輪6及び車輪7が前進回転している場合、第1の凸部221の第1の面221aが、当該第1の凸部221に対して車輪6が前進回転した際の第4の歯車22dの回転方向の側に配置された第2の凸部222の第1の面222aと略面接触して当該第2の凸部222を押し込む。
【0048】
このとき、第1の凸部221の第1の面221a及び第2の凸部222の第1の面222aは、Y軸+側に向かうのに従って第1の変速機22の第4の歯車22dの回転方向に向かって傾斜する傾斜面に形成されている。つまり、第1の凸部221の第1の面221aと第2の凸部222の第1の面222aとの接触面は、Y軸+側に向かうのに従って第1の変速機22の第4の歯車22dの回転方向に向かって傾斜する傾斜面となる。
【0049】
そのため、第1の凸部221の第1の面221aが第2の凸部222の第1の面222aを押し込んだ際に、Y軸-側への力が発生して、接続軸8がY軸-側に押し込まれる。それに伴い、第1のクラッチ板211が摩擦板213を介して第2のクラッチ板212に押し込まれる。その結果、摩擦式差動制限要素210が作動して車輪6と車輪7との差動が制限される。
【0050】
一方、動力伝達装置200において、例えば、車輪6及び車輪7が後進回転している場合、第1の凸部221の第2の面221bが、当該第1の凸部221に対して車輪6が後進回転した際の第4の歯車22dの回転方向の側に配置された第2の凸部222の第2の面222bと略面接触して当該第2の凸部222を押し込む。
【0051】
このとき、第1の凸部221の第2の面221b及び第2の凸部222の第2の面222bは、Y軸と略平行に配置されている。つまり、第1の凸部221の第2の面221bと第2の凸部222の第2の面222bとの接触面は、Y軸と略平行である。そのため、第1の凸部221の第2の面221bが第2の凸部222の第2の面222bを押し込んでも、Y軸方向への力が発生しない。その結果、摩擦式差動制限要素210が作動せず、車輪6と車輪7との差動が許容される。
【0052】
このように動力伝達装置200は、第1の凸部221と第2の凸部222とを用いた簡単な係合部220の構成で摩擦式差動制限要素210を作動させることができる。しかも、動力伝達装置200は、実施の形態1の動力伝達装置1と同様に摩擦式差動制限要素210を用いるので、特許文献1の動力伝達装置に比べて動力伝達装置の小型化を実現することができる。
【0053】
また、第1の凸部221の第1の面221aと第2の凸部222の第1の面222aとの接触面のY軸に対する傾斜角を調整することで、第1のクラッチ板211と第2のクラッチ板212との摩擦力を簡単に調整することができる。
【0054】
なお、本実施の形態では、第1の変速機22の第4の歯車22dと接続軸8との間に係合部220を備えているが、第2の変速機32の第4の歯車32dと接続軸9との間に係合部が配置されていてもよい。このとき、係合部220は、省略してもよい。そして、第2の変速機32の第4の歯車32dと接続軸9との間の係合部は、係合部220に対して、Z軸方向に延在する軸を対称軸とする線対称の構成であればよい。
【0055】
<実施の形態3>
図5は、本実施の形態の動力伝達装置を示す図である。なお、本実施の形態の動力伝達装置300は、図5に示すように、実施の形態1の動力伝達装置1と略等しい構成とされているため、重複する説明は省略し、等しい部材には等しい符号を用いて説明する。
【0056】
本実施の形態の動力伝達装置300は、図5に示すように、逆止弁310を介してポンプ320からハウジング5内にオイルなどの冷却媒体が供給されており、ハウジング5内が冷却媒体で満たされている。そして、摩擦式差動制限要素330は、ハウジング5内に満たされた冷却媒体を圧力媒体として用いて作動する構成とされている。
【0057】
このとき、摩擦式差動制限要素330は、図5に示すように、第1のクラッチ板331、第2のクラッチ板332、ピストン333、摩擦板334及びハウジング335を備えている。
【0058】
第1のクラッチ板331は、例えば、図5に示すように、XZ平面と略平行な円盤形状であり、接続軸8を介して第1の変速機22の第4の歯車22dと駆動力を伝達可能に接続されている。このとき、接続軸8は、例えば、接続軸8のY軸+側の端部が第1の変速機22の第4の歯車22dに固定されており、Y軸方向への移動が拘束されている。
【0059】
第2のクラッチ板332は、例えば、図5に示すように、XZ平面と略平行な円盤形状であり、第1のクラッチ板331に対してY軸-側に配置されている。そして、第2のクラッチ板332は、接続軸9を介して第2の変速機32の第4の歯車32dと駆動力を伝達可能に接続されている。このとき、接続軸9と第2の変速機32の第4の歯車32dとは、例えば、スプライン接続されており、接続軸9のY軸方向への移動が許容されている。
【0060】
ピストン333は、例えば、図5に示すように、XZ平面と略平行な円環板形状であり、第2のクラッチ板332に対してY軸-側に配置されている。摩擦板334は、例えば、XZ平面と略平行な円環板形状であり、第1のクラッチ板331と第2のクラッチ板332との間に配置されている。
【0061】
ハウジング335は、例えば、図5に示すように、第1の筒状部335a、第2の筒状部335b及び環状部335cを備えており、略密閉空間とされている。第1の筒状部335aは、例えば、Y軸方向に延在する円筒形状であり、第1のクラッチ板331、第2のクラッチ板332、ピストン333及び摩擦板334を覆う。そして、第1の筒状部335aのY軸+側の端部は、第1のクラッチ板331の周縁部に固定されている。
【0062】
第2の筒状部335bは、例えば、図5に示すように、Y軸方向に延在する円筒形状であり、第1の筒状部335aに対して小径である。第2の筒状部335bは、第1の筒状部335aの中空部に配置されており、第2の筒状部335bの中空部に接続軸9が通されている。そして、第1の筒状部335aと第2の筒状部335bとの間には、Y軸方向に移動可能にピストン333が配置されている。
【0063】
環状部335cは、例えば、図5に示すように、XZ平面と略平行な略円環板形状である。そして、環状部335cの外周縁部に第1の筒状部335aのY軸-側の端部が固定され、環状部335cの内周縁部に第2の筒状部335bのY軸-側の端部が固定されている。
【0064】
このとき、第1の筒状部335aと、環状部335cと、第2の筒状部335bと、ピストン333と、で囲まれた空間S2は、略密閉空間とされており、当該空間S2とハウジング5内とが連通している。つまり、図示を省略するが、ハウジング335には、ハウジング5内と空間S2とを連通する連通部が形成されている。
【0065】
そのため、空間S2には、ハウジング5内の冷却媒体が侵入し、空間S2内の冷却媒体の圧力がハウジング5内の冷却媒体の圧力と略等しい状態とされる。そして、摩擦式差動制限要素330において、空間S2内の冷却媒体の圧力によってピストン333が第2のクラッチ板332に押し込む。
【0066】
これにより、第2のクラッチ板332が摩擦板334を介して第1のクラッチ板331を押し込み、その結果、摩擦式差動制限要素330が作動して、車輪6と車輪7との差動が制限される。
【0067】
このような動力伝達装置300において、摩擦式差動制限要素330は、ハウジング5内に充填される冷却媒体を用いて、第2のクラッチ板332を第1のクラッチ板331に常に押し込むとよい。これにより、第1のクラッチ板331や第2のクラッチ板332などが摩耗しても、摩擦式差動制限要素330を常に作動状態に維持することができる。
【0068】
なお、ハウジング5内と摩擦式差動制限要素330の空間S2とを連通させることで、ハウジング5内の冷却媒体の圧力と摩擦式差動制限要素330の空間S2の冷却媒体の圧力とを略等しくしているが、例えば、ハウジング5内に冷却媒体を供給する経路と、摩擦式差動制限要素330の空間S2にオイルなどの圧力媒体を供給する経路と、を分離し、摩擦式差動制限要素330の空間S2の圧力媒体の圧力を個別に制御してもよい。
【0069】
この場合、摩擦式差動制限要素330の空間S2に圧力媒体を供給する経路内に、図6に示す電磁弁340を配置すればよい。これにより、第1のクラッチ板331と第2のクラッチ板332との摩擦力を簡単に調整することができる。
【0070】
<実施の形態4>
図7は、本実施の形態の動力伝達装置を示す図である。なお、本実施の形態の動力伝達装置400は、図7に示すように、実施の形態2の動力伝達装置200と略等しい構成とされているため、重複する説明は省略し、等しい部材には等しい符号を用いて説明する。
【0071】
本実施の形態の動力伝達装置400は、例えば、第1の変速機22の第4の歯車22dと第2の変速機32の第4の歯車32dとの間に配置される第1の摩擦式差動制限要素410に加えて、第1の変速機22の第2の歯車22bと第2の変速機32の第2の歯車32bとの間に第2の摩擦式差動制限要素420を備えている。
【0072】
第1の摩擦式差動制限要素410及び第2の摩擦式差動制限要素420としては、例えば、実施の形態2の摩擦式差動制限要素210を用いることができる。つまり、第1の摩擦式差動制限要素410は、接続軸8を介して第1の変速機22の第4の歯車22dと駆動力を伝達可能に接続される第1のクラッチ板411、接続軸9を介して第2の変速機32の第4の歯車32dと駆動力を伝達可能に接続される第2のクラッチ板412、及び第1のクラッチ板411と第2のクラッチ板412との間に配置される摩擦板413を備えている。
【0073】
また、第2の摩擦式差動制限要素420は、接続軸430を介して第1の変速機22の第2の歯車22bと駆動力を伝達可能に接続される第1のクラッチ板421、接続軸440を介して第2の変速機32の第2の歯車32bと駆動力を伝達可能に接続される第2のクラッチ板422、及び第1のクラッチ板421と第2のクラッチ板422との間に配置される摩擦板423を備えている。
【0074】
そして、第1の変速機22の第4の歯車22dと接続軸8との間に第1の係合部450が配置され、第1の変速機22の第2の歯車22bと接続軸430との間にも第2の係合部460が配置されている。第1の係合部450及び第2の係合部460は、実施の形態2の係合部220と略等しい構成である。
【0075】
ここで、第1の係合部450における第1の凸部の第1の面と第2の凸部の第1の面との接触面のY軸に対する傾斜角度と、第2の係合部460における第1の凸部の第1の面と第2の凸部の第1の面との接触面のY軸に対する傾斜角度と、を異ならせることで、第1の摩擦式差動制限要素410と第2の摩擦式差動制限要素420との作動特性(つまり、第1のクラッチ板と第2のクラッチ板との摩擦力)を異ならせることができる。
【0076】
なお、本実施の形態では、第1の変速機22の第4の歯車22dと接続軸8との間に第1の係合部450、及び第1の変速機22の第2の歯車22bと接続軸430との間に第2の係合部460を備えているが、第2の変速機32の第4の歯車32dと接続軸9との間、又は第2の変速機32の第2の歯車32bと接続軸440との間に係合部を備えていてもよい。
【0077】
また、本実施の形態では、係合部における第1の凸部の第1の面と第2の凸部の第1の面との接触によって第1のクラッチ板を第2のクラッチ板に押し込んで摩擦式差動制限要素を作動させているが、例えば、第1の摩擦式差動制限要素410の第1のクラッチ板の動作及び第2の摩擦式差動制限要素420の第1のクラッチ板の動作を個別に圧力媒体によって制御することで、例えば、第1の摩擦式差動制限要素410を動力伝達装置400の力行時に作動させ、第2の摩擦式差動制限要素420を動力伝達装置400の回生時に作動させてもよい。
【0078】
本開示は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、上記実施の形態の摩擦式差動制限要素は、例示であって、第1のクラッチ板と第2のクラッチ板との摩擦力によって作動する構成であればよい。また、第1のクラッチ板と第2のクラッチ板との間で摩擦力を発生させるための作動源も限定されない。
例えば、上記実施の形態の動力伝達装置は、車両の動力伝達装置として構成したが、プラントなどの動力伝達装置にも適用でき、限定されない。
【符号の説明】
【0079】
1 動力伝達装置
2 第1の駆動ユニット
21 第1の駆動源、21a ステータ、21b ロータ、21c 回転軸
22 第1の変速機
22a 第1の歯車
22b 第2の歯車
22c 第3の歯車
22d 第4の歯車
22e、22f 接続軸
3 第2の駆動ユニット
31 第2の駆動源、31a ステータ、31b ロータ、31c 回転軸
32 第2の変速機
32a 第1の歯車
32b 第2の歯車
32c 第3の歯車
32d 第4の歯車
32e、32f 接続軸
4 摩擦式差動制限要素
41 第1のクラッチ板
42 第2のクラッチ板
43 筒状部
44 第3のクラッチ板
45 充填材
5 ハウジング
6、7 車輪
8、9 接続軸
200 動力伝達装置
210 摩擦式差動制限要素
211 第1のクラッチ板
212 第2のクラッチ板
213 摩擦板
220 係合部
221 第1の凸部、221a 第1の面、221b 第2の面
222 第2の凸部、222a 第1の面、222b 第2の面
300 動力伝達装置
310 逆止弁
320 ポンプ
330 摩擦式差動制限要素
331 第1のクラッチ板
332 第2のクラッチ板
333 ピストン
334 摩擦板
335 ハウジング、335a 第1の筒状部、335b 第2の筒状部、335c 環状部
340 電磁弁
400 動力伝達装置
410 第1の摩擦式差動制限要素
411 第1のクラッチ板
412 第2のクラッチ板
413 摩擦板
420 第2の摩擦式差動制限要素
421 第1のクラッチ板
422 第2のクラッチ板
423 摩擦板
430、440 接続軸
450 第1の係合部
460 第2の係合部
S1、S2 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7