(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-18
(45)【発行日】2025-08-26
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/14 20060101AFI20250819BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20250819BHJP
【FI】
F02D41/14
F02D45/00 368F
(21)【出願番号】P 2022171461
(22)【出願日】2022-10-26
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】青木 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】池本 雅里
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-174668(JP,A)
【文献】特開2003-138964(JP,A)
【文献】国際公開第2010/041585(WO,A1)
【文献】特開2005-207924(JP,A)
【文献】米国特許第05521099(US,A)
【文献】国際公開第2012/049751(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 - 45/00
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設置された空燃比センサのセンサ出力に基づいて空燃比検出値を演算することで空燃比を検出するとともに、前記空燃比の検出結果に基づいて空燃比フィードバック制御を行う内燃機関の制御装置であって、
前記空燃比センサの素子温度が既定の活性温度以上となったときに前記空燃比の検出を開始するとともに、
前記空燃比の検出開始から既定の条件が成立するまでの期間は、前記センサ出力がストイキ空燃比よりもリッチ側の空燃比を示す値であるときの前記センサ出力に対する前記空燃比検出値のゲインを、同期間の経過後よりも小さい値に設定して前記空燃比検出値の演算を行
い、
かつ、前記空燃比の検出開始から既定の条件が成立するまでの期間であって前記センサ出力がストイキ空燃比よりもリッチ側の空燃比を示す値であるときには、前記素子温度が低い場合の前記空燃比検出値のゲインを、前記素子温度が高い場合よりも小さい値に設定して前記空燃比検出値の演算を行う
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記素子温度が、前記活性温度よりも高い既定の温度以上となることを前記既定の条件とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空燃比センサの検出結果に基づいて空燃比のフィードバック制御を行う内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような内燃機関の制御装置に用いられる空燃比センサは、周囲の排気と基準ガスとの酸素分圧の差に応じて起電力を発生する検出素子を備えている。検出素子は、一定の温度以上でないと活性化しない。そのため、制御装置は、内燃機関の始動後、検出素子の温度が活性温度以上となってから、空燃比のフィードバック制御を開始している。
【0003】
一方、内燃機関の停止中に、排気中のHC成分が空燃比センサの検出素子に吸着することがある。吸着したHC成分は、検出素子の温度がある程度に高まると、検出素子から脱離し始める。検出素子は、こうしたHC成分の脱離によっても起電力を発生する。そしてその結果、空燃比センサの出力がリッチ側にずれるコールドシュート現象と呼ばれる現象が発生する。
【0004】
これに対して特許文献1に記載の内燃機関の制御装置では、内燃機関の始動後経過時間に基づき、HC成分の脱離が収束したか否かを判定している。すなわち、この制御装置は、始動後経過時間が既定の時間となったときに、HC成分の脱離が収束したと判定している。そして、この制御装置は、HC成分の脱離が収束したと判定され、かつ検出素子の温度が活性温度以上であることを条件に空燃比のフィードバック制御を開始している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HC成分の脱離が収束したと判定される前に、検出素子の温度が活性温度に達する場合がある。そうした場合には、脱離が収束したと判定されていないため、検出素子は活性化していても空燃比のフィードバック制御を実施できない期間が発生する。
【0007】
なお、検出素子からのHC成分の脱離の所要時間は、内燃機関の始動時における検出素子のHC成分の吸着量や、内燃機関の始動後における検出素子の温度の推移により大きく変化する。そのため、脱離が収束したと判定する始動後経過時間は、脱離の所要時間のばらつきを考慮して、比較的長い時間に設定する必要がある。そのため、上記のような従来の制御装置では、空燃比フィードバック制御の開始が遅くなる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する内燃機関の制御装置は、内燃機関の排気通路に設置された空燃比センサのセンサ出力に基づいて空燃比検出値を演算することで空燃比を検出する。そして、この制御装置は、空燃比の検出結果に基づいて空燃比フィードバック制御を行っている。またこの制御装置は、空燃比センサの素子温度が既定の活性温度以上となったときに空燃比の検出を開始する。そして、この内燃機関の制御装置は、空燃比の検出開始から既定の条件が成立するまでの期間は、センサ出力がストイキ空燃比よりもリッチ側の空燃比を示す値であるときのセンサ出力に対する空燃比検出値のゲインを、同期間の経過後よりも小さい値に設定して空燃比検出値の演算を行う。
【0009】
上記内燃機関の制御装置は、空燃比センサのセンサ出力に基いて空燃比検出値を演算することで空燃比を検出している。ここで、ストイキ空燃比よりもリッチ側の空燃比を示すセンサ出力をリッチ出力とする。リッチ出力に対するゲインを小さくして空燃比検出値を演算すると、空燃比検出値は、センサ出力が本来示す空燃比よりもリッチ化の度合いが小さいリッチ空燃比を示す値となる。そのため、コールドシュート現象によりセンサ出力がリッチ側にずれた場合にも、空燃比フィードバック制御に依って、ストイキ空燃比よりも大きくリーン側にずれた空燃比に制御され難くなる。これにより、コールドシュート現象が発生する可能性がある期間にも、空燃比フィードバック制御を実施できるようになる。したがって、上記内燃機関の制御装置には、内燃機関の始動後に、空燃比フィードバック制御を早期に開始できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】内燃機関の制御装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図2】同制御装置が制御する内燃機関に設置された空燃比センサの構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図2の空燃比センサにおける素子温度及びセンサ出力と空気過剰率との関係を示すグラフである。
【
図4】
図1の制御装置が空気過剰率の演算に用いる演算マップにおける、素子温度及びセンサ出力と空気過剰率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、内燃機関の制御装置の一実施形態を、
図1~
図4を参照して詳細に説明する。
<内燃機関の制御装置の構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態の構成を説明する。本実施形態の制御装置は、
図1に示す内燃機関10を制御する。内燃機関10は、混合気の燃焼が行われる燃焼室11と、燃焼室11に接続された吸気通路12及び排気通路13と、を備えている。吸気通路12は、燃焼室11での燃焼に供される吸気の導入路である。排気通路13は、燃焼室11での混合気の燃焼により生じた排気の排出路である。また、内燃機関10は、吸気通路12の吸気流量を検出するエアフローメータ14と、吸気通路12の吸気流量を調整するためのバルブであるスロットルバルブ15と、を備えている。また、内燃機関10は、燃焼室11に導入される吸気中に燃料を噴射するインジェクタ16と、燃焼室11内の混合気を火花放電により点火する点火装置17と、を備えている。更に内燃機関10は、排気通路13を流れる排気を浄化する触媒装置18を備えている。なお、排気通路13における触媒装置18よりも上流側の部分には、空燃比センサ20が設置されている。
【0012】
内燃機関10は、制御装置としての電子制御ユニット21により制御されている。電子制御ユニット21は、処理装置22と、記憶装置23と、を備えている。記憶装置23には、内燃機関10の制御に用いるプログラムやデータが予め記憶されている。処理装置22は、記憶装置23から読み込んだプログラムを実行することで、内燃機関10を制御するための各種の処理を実施する。
【0013】
電子制御ユニット21には、内燃機関10の運転状態を検出するための各種センサが接続されている。電子制御ユニット21に接続されたセンサには、上述のエアフローメータ14及び空燃比センサ20が含まれる。電子制御ユニット21は、これらセンサの検出結果に基づき、スロットルバルブ15、インジェクタ16、点火装置17等を操作することで、内燃機関10の運転状態を制御している。
【0014】
なお、電子制御ユニット21は、空燃比センサ20の出力に基づいて、燃焼室11で燃焼した混合気の空燃比を検出している。電子制御ユニット21は、空燃比の検出結果に基づき、内燃機関10の制御を行っている。
【0015】
<空燃比フィードバック制御>
電子制御ユニット21は、空燃比センサ20による空燃比の検出結果に基づいて、燃焼室11で燃焼する混合気の空燃比のフィードバック制御を行っている。空燃比フィードバック制御に際して、電子制御ユニット21は、エアフローメータ14の検出結果に基づいて、燃焼室11の空気量を演算する。そして、電子制御ユニット21は、燃焼室11の空気量に対する比率がストイキ空燃比となる量を、ベース噴射量の値として演算する。ベース噴射量は、空燃比フィードバック制御においてフィードバックの対象とするインジェクタ16の燃料噴射量のフィードフォワード値である。また、電子制御ユニット21は、空燃比センサ20による空燃比の検出結果に基づいて、燃料噴射量のフィードバック補正値を演算する。具体的には、電子制御ユニット21は、空燃比検出値がストイキ空燃比よりもリーン側の空燃比を示す値である場合には、フィードバック補正値として正の値を、すなわち燃料噴射量を増量する側に補正する値を演算する。一方、電子制御ユニット21は、空燃比検出値がストイキ空燃比よりもリッチ側の空燃比を示す値である場合には、フィードバック補正値として負の値を、すなわち燃料噴射量を減量する側に補正する値を演算する。そして、電子制御ユニット21は、ベース噴射量とフィードバック補正値との和に等しい量の燃料を噴射するようにインジェクタ16を操作する。電子制御ユニット21は、こうした空燃比フィードバック制御によって、燃焼室11で燃焼する混合気の空燃比をストイキ空燃比に保持している。なお、以下の説明では、ストイキ空燃比よりもリーン側の空燃比をリーン空燃比と記載する。また、ストイキ空燃比よりもリッチ側の空燃比をリッチ空燃比と記載する。こうした空燃比フィードバック制御は、例えば、空燃比検出値を制御量とし、ストイキ空燃比を目標値とし、燃料噴射量を操作量としたPID制御を通じて行われる。
【0016】
<空燃比センサの構成>
次に、
図2を参照して空燃比センサ20の構成を説明する。空燃比センサ20は、センサ素子30を備えている。センサ素子30は、ジルコニアを主成分とする固体電解質を平板状とした固体電解質層31を有している。固体電解質層31の表面には、拡散律速層34が積層されている。拡散律速層34は、気体分子の拡散を制限する多孔質セラミクスからなる層である。拡散律速層34が積層された側とは反対側の固体電解質層31の表面には、絶縁セラミクス材料からなるセラミクス基材35が積層されている。セラミクス基材35には、センサ素子30の加熱用の電熱ヒータ38が設置されている。
【0017】
センサ素子30の内部には、排気室36と大気室37とが設けられている。排気室36は、固体電解質層31及び拡散律速層34に囲まれた閉空間である。排気室36には、センサ素子30の周囲の排気が拡散律速層34を透過して導入される。一方、大気室37は、固体電解質層31及びセラミクス基材35に囲まれた空間であり、大気に開放されている。
【0018】
さらにセンサ素子30には、排気側電極32及び大気側電極33が設けられている。排気側電極32は、拡散律速層34が積層された側の固体電解質層31の表面に、排気室36に露出するように設けられている。一方、大気側電極33は、セラミクス基材35が積層された側の固体電解質層31の表面に、大気室37に露出するように設けられている。
【0019】
排気側電極32と大気側電極33との間に電圧を印加すると、排気室36及び大気室37の酸素分圧差に応じて、固体電解質層31内を酸素イオンが移動する。その結果、排気側電極32と大気側電極33との間に電流が流れる。以下の説明では、この電流をセンサ電流と記載する。空燃比センサ20には、センサ電流を検出する電流計39が設けられている。センサ電流は、排気室36及び大気室37の酸素分圧差が大きいほど、電極間の印加電圧が高いほど、大きくなる。ただし、固体電解質層31を通じた酸素イオンの移動は、排気室36及び大気室37の酸素分圧差を小さくする。また、拡散律速層34は、排気通路13から排気室36への排気の移動を制限する。そのため、電極間の印加電圧をある程度以上に増加しても、センサ電流は飽和してそれ以上増加しなくなる。以下の説明では、このときのセンサ電流の値を限界電流値ILと記載する。限界電流値ILは、センサ素子30の周囲の排気と大気との酸素分圧差に比例する。
【0020】
空燃比センサ20は、排気側電極32、大気側電極33間に交流電圧を印加したときのセンサ電流の推移に基づいて限界電流値ILを測定する。そして、空燃比センサ20は、測定した限界電流値ILをセンサ出力としている。
図1の内燃機関10の場合、空燃比センサ20には、触媒装置18を通過する前の、燃焼室11からの排出時と同じ性状の排気が到達する。この場合の大気、排気の酸素分圧差は、燃焼室11で燃焼した混合気の空燃比に相関する。よって、センサ出力は、燃焼室11で燃焼した混合気の空燃比を反映した値となる。
【0021】
なお、この空燃比センサ20の場合、限界電流値ILは、ストイキ空燃比の場合には限界電流値ILは「0」となり、リーン空燃比の場合には正の値となり、リッチ空燃比の場合には負の値となる。以下の説明では、ストイキ空燃比に対応するセンサ出力(IL=0)をストイキ出力と記載する。また、リッチ空燃比に対応するセンサ出力(IL<0)をリッチ出力と記載する。さらに、リーン空燃比に対応するセンサ出力(IL>0)をリーン出力と記載する。
【0022】
電子制御ユニット21は、センサ出力に基づいて空気過剰率λを演算している。そして、電子制御ユニット21は、空燃比フィードバック制御において、演算した空気過剰率λを空燃比検出値として用いている。空気過剰率λは、ストイキ空気量に対する混合気の空気量の比率である。ストイキ空気量は、混合気中の全ての燃料を完全燃焼させるために必要な最小の空気量である。空気過剰率λは、実際の空燃比をストイキ空燃比で除した値に等しい。
【0023】
<空燃比センサの出力特性>
次に、
図3を参照して、空燃比センサ20の出力特性について説明する。以下の説明では、センサ素子30の温度を素子温度TSと記載する。
図3には、素子温度TSがT1~T3のそれぞれの場合の限界電流値ILと空気過剰率λとの関係が示されている。T1~T3は、T1、T2、T3の順に高い温度となっている。
図3において、曲線L1は素子温度TSがT1のときの限界電流値ILと空気過剰率λとの関係を示している。また、曲線L2は素子温度TSがT2のときの限界電流値ILと空気過剰率λとの関係を示している。さらに、曲線L3は素子温度TSがT3のときの限界電流値ILと空気過剰率λとの関係を示している。
【0024】
素子温度TSが低いほど、固体電解質層31の電気抵抗が高くなってセンサ電流が流れ難くなる。そのため、素子温度TSが低いほど、同一の空気過剰率λにおける限界電流値ILの絶対値が大きくなる。
【0025】
こうした素子温度TS、空気過剰率λ及び限界電流値ILの関係は、予め実験等により予め求めることができる。したがって、空気過剰率λは、素子温度TSと、センサ出力である限界電流値ILと、に基づいて求めることができる。また、素子温度TSは、例えば固体電解質層31のインピーダンスに基づいて求めることができる。
【0026】
<空燃比センサのコールドシュート現象>
空燃比センサ20の暖機過程には、空燃比センサ20の出力が、実際の空燃比に対応する値よりもリッチ側にずれる現象が発生する。この現象は、コールドシュート現象と呼ばれる。次に、こうした空燃比センサ20のコールドシュート現象について説明する。
【0027】
内燃機関10の停止後の排気通路13には、HC成分を含む排気が残存している。そして、内燃機関10の停止中に、排気中のHC成分が空燃比センサ20のセンサ素子30に吸着することがある。内燃機関10の始動後、センサ素子30は、排気からの受熱や電熱ヒータ38の加熱により、次第に温度を高めていく。センサ素子30に吸着したHC成分は、素子温度TSがある程度よりも高くなると、センサ素子30から脱離する。このときの排気室36内の排気の未燃燃料成分の濃度は、脱離したHC成分のため、排気通路13内の排気よりも高い濃度となる。そのため、HC成分の脱離が生じると、空燃比センサ20の出力がリッチ側にずれる。こうしたリッチ側への空燃比センサ20の出力のずれは、センサ素子30からのHC成分の脱離が収束するまで継続する。
【0028】
なお、センサ素子30に吸着するHC成分には、炭素数の少ないHCと、芳香族炭化水素のような炭素数の多いHCと、が含まれる。そして、炭素数の多いHCの脱離は、炭素数の少ないHCの脱離よりも高い素子温度TSで発生する。そのため、コールドシュート現象は、炭素数の少ないHCが脱離する低い素子温度TSから炭素数の多いHCが脱離する高い素子温度TSまでの広い素子温度TSの範囲で発生することがある。以下の説明では、炭素数の多いHCの脱離が収束するときの素子温度TSを脱離収束温度TCOと記載する。
【0029】
<空燃比の検出>
次に、
図4を併せ参照して、センサ出力に基づいて電子制御ユニット21が実施する空燃比の検出について説明する。電子制御ユニット21は、素子温度TSがセンサ素子30の活性温度TAC以上となったときに、センサ出力に基づく空燃比の検出を開始する。また、電子制御ユニット21は、空燃比の検出と共に空燃比フィードバック制御を開始する。
【0030】
空燃比検出処理において電子制御ユニット21は、既定の制御周期毎に空燃比センサ20から限界電流値IL及び素子温度TSを取得する。そして、電子制御ユニット21は、取得した限界電流値IL及び素子温度TSに基づいて空気過剰率λを演算することで、空燃比の検出を行っている。電子制御ユニット21は、記憶装置23に予め記憶された演算マップを参照して、空気過剰率λを演算している。演算マップには、限界電流値IL及び素子温度TSの値の組合せ毎の空気過剰率λの値が格納されている。
【0031】
図4に、演算マップにおける素子温度TSがT1~T3の場合のそれぞれの限界電流値ILと空気過剰率λとの関係を示す。
図4において、曲線L1Aは素子温度TSがT1のときの限界電流値ILと空気過剰率λとの関係を示している。また、曲線L2Aは素子温度TSがT2のときの限界電流値ILと空気過剰率λとの関係を示している。さらに、曲線L3Aは素子温度TSがT3のときの限界電流値ILと空気過剰率λとの関係を示している。
【0032】
演算マップは、センサ出力がストイキ出力又はリーン出力の場合(IL≧0)、空燃比センサ20の出力特性を反映するように設定されている。そのため、限界電流値ILが0以上の範囲では、
図4の曲線L1A~L3Aは
図3の曲線L1~L3に重なる曲線となっている。上述のように空燃比センサ20は、素子温度TSが低いほど、同じ空燃比でのセンサ出力が小さくなる出力特性を有している。これを反映して、限界電流値ILが正の値である場合の電子制御ユニット21は、素子温度TSが低いときには、素子温度TSが高いときよりも大きい値をセンサ出力に対する空燃比検出値のゲインに設定して空気過剰率λを演算している。ここでのゲインは、空燃比へのセンサ出力の換算係数である。本実施形態の場合、限界電流値IL及び空気過剰率λに対して式(1)の関係を満たす値「G」が、センサ出力に対する空燃比検出値のゲインに対応する。
【0033】
【0034】
電子制御ユニット21は、センサ出力がリッチ出力(IL<0)の場合にも、素子温度TSが脱離収束温度TCO以上のときには、空燃比センサ20の出力特性を反映するようにセンサ出力に対する空燃比検出値のゲインを設定している。例えば、
図4において、脱離収束温度TCOよりも高い温度「T3」に対応する曲線L3Aは、同じ温度「T3」に対応する
図3の曲線L3と重なる曲線となっている。一方、センサ出力がリッチ出力(IL<0)の場合、電子制御ユニット21は、素子温度TSが脱離収束温度TCO未満の場合には、素子温度TSが脱離収束温度TCO以上の場合よりも小さい値をセンサ出力に対する空燃比検出値のゲインとして設定している。すなわち、電子制御ユニット21は、素子温度TSが脱離収束温度TCO未満、かつセンサ出力がリッチ出力の場合(IL<0)、センサ出力が本来示す値よりもリッチ化の度合が小さい空燃比を、空燃比検出値として演算している。
【0035】
<実施形態の作用効果>
内燃機関10の始動後、電子制御ユニット21は、空燃比センサ20の素子温度TSが活性温度TAC以上となったときに、センサ出力に基づく空燃比の検出を開始する。また、電子制御ユニット21は、空燃比の検出とともに空燃比フィードバック制御を開始する。
【0036】
電子制御ユニット21は、空燃比センサ20の限界電流値IL及び素子温度TSに基づいて、空燃比検出値として用いる空気過剰率λの値を演算することで、空燃比の検出を行っている。そして、電子制御ユニット21は、素子温度TSが脱離収束温度TCO未満の場合には、リッチ出力に対する空燃比検出値のゲインを、素子温度TSが脱離収束温度TCO以上の場合よりも小さい値に設定して空気過剰率λを演算している。内燃機関10の始動後、素子温度TSは、活性温度TACを経て脱離収束温度TCO以上の温度となるまで上昇する。よって、電子制御ユニット21は、空燃比の検出の開始後、素子温度TSが脱離収束温度TCO以上となるまでの期間、同期間の経過後よりも小さい値を、リッチ出力に対する空燃比検出値のゲインに設定して空燃比の検出を行っている。すなわち、電子制御ユニット21は、空燃比の検出開始後、素子温度TSが脱離収束温度TCO以上となるまでの期間には、リッチ出力に対する空燃比検出値のゲインを同期間の経過後よりも小さい値に設定して、センサ出力に基づいて空燃比検出値を演算している。
【0037】
上述のように空燃比センサ20は、素子温度TSが低いほどセンサ出力が小さくなるという出力特性を有している。よって、コールドシュート現象が発生しないのであれば、センサ出力に拘わらず、素子温度TSが低いほど、大きい値をセンサ出力に対する空燃比検出値のゲインに設定して空燃比の検出を行うことが望ましい。しかしながら、その場合には、コールドシュート現象が発生すると、空燃比の検出結果がリッチ側にずれてしまう。この場合には、次の(1)~(3)のいずれか態様で空燃比の検出結果のずれが生じる。
【0038】
(1)実際の空燃比はリーン空燃比であり、空燃比の検出結果もリーン空燃比であるが、検出結果は空燃比のリーン化の度合を過少評価している。
(2)実際の空燃比はリーン空燃比であるが、空燃比の検出結果はリッチ空燃比である。
【0039】
(3)実際の空燃比はリッチ空燃比であり、空燃比の検出結果もリッチ空燃比であるが、検出結果は空燃比のリッチ化の度合を過大評価している。
空燃比フィードバック制御を(2)の場合の検出結果に従って実行した場合には、ストイキ空燃比から乖離する方向に空燃比が制御されてしまう。また、空燃比フィードバック制御を(3)の場合の検出結果に従って実行した場合、空燃比がストイキ空燃比よりもリーン側の空燃比に過補正されてしまう。よって、(2)、(3)の場合には、空燃比がストイキ空燃比からリーン側に大きく逸脱する可能性がある。
【0040】
一方、空燃比フィードバック制御を(1)の場合の検出結果に従って実行した場合には、収束の速度が遅くなるが、空燃比をストイキ空燃比に制御することができる。そのため、コールドシュート現象により、空燃比の検出結果がリッチ側にずれている場合にも、センサ出力がリーン出力の場合には、空燃比フィードバック制御への影響は限定的となる。
【0041】
これに対して、電子制御ユニット21は、検出の開始から素子温度TSが脱離収束温度TCO以上となるまでの期間には、同期間の経過後よりも小さい値をリッチ出力に対する空燃比検出値のゲインに設定して空燃比の検出を行っている。そのため、(2)及び(3)の場合の空燃比の検出結果のずれが空燃比フィードバック制御に与える影響が抑えられる。これにより、コールドシュート現象が発生する期間にも、空燃比フィードバック制御の実施が許容される。すなわち、空燃比フィードバック制御を内燃機関10の始動後のより早い時期から開始できるようになる。
【0042】
なお、こうした場合にも、素子温度TSが脱離収束温度TCOに達するまでの期間には、少なくともリーン側への空燃比のずれを補正するように空燃比フィードバック制御を実施することができる。また、コールドシュート現象が発生しても、空燃比がストイキ空燃比からリーン側に大きく逸脱する状況となることは回避できる。そのため、本実施形態の制御装置は、HC成分の脱離の収束まで制御の開始を遅らせる場合や、コールドシュート現象によりリッチ側にずれた空燃比の検出結果にそのまま従って制御を行う場合よりも早い時期に、空燃比をストイキ空燃比に収束できる。
【0043】
<他の実施形態>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0044】
・リッチ出力に対する空燃比検出値のゲインを小さい値に設定する期間に、リーン出力に対する空燃比検出値のゲインも同期間の経過後よりも小さい値に設定するようにしてもよい。
【0045】
・空気過剰率λではなく空燃比そのものを空燃比検出値として求めるようにしてもよい。
・上記実施形態では、当該期間の経過後よりも小さい値をリッチ出力に対する空燃比検出値のゲインに設定する期間を、素子温度TSが脱離収束温度TCO以上となったときに終了していた。すなわち、素子温度TSが脱離収束温度TCO以上であるという条件が成立したときに、上記期間を終了していた。こうした期間終了の条件を変更してもよい。例えば、空燃比検出の開始からの経過時間やその開始後の積算空気量によっても、センサ素子30からのHC成分の脱離が収束する時期をある程度に予測することができる。そのため、空燃比検出の開始から既定の時間が経過したこと、或いは空燃比検出の開始後の内燃機関10の積算空気量が既定の量以上となること、を上記期間の終了の条件としてもよい。
【0046】
・
図2に示すセンサ素子30とは異なる構成のセンサ素子を備えるセンサを空燃比センサ20として採用してもよい。その場合には、空燃比センサ20が、限界電流値IL以外のセンサ出力を発生するセンサとなることがある。
【0047】
・空燃比センサ20と同様の機能を有するセンサを、排気通路13における触媒装置18よりも下流側の部分に設置して、そのセンサの検出結果に基づいて空燃比のサブフィードバック制御を行う場合がある。こうしたセンサには、触媒装置18により改質された排気が到達する。そのため、そうしたセンサのセンサ出力は、燃焼室11で燃焼した混合気の空燃比を必ずしも反映しないものとなる。空燃比のサブフィードバック制御では、そうしたセンサのセンサ出力に基づいて、触媒装置18を通過した排気の性状の指標値である触媒通過後の排気の空燃比を検出している。よって、そうしたセンサも空燃比センサに含まれる。上記実施形態での空燃比の検出処理を、そうしたセンサのセンサ出力に基づく触媒通過後の排気の空燃比の検出に適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…内燃機関、11…燃焼室、12…吸気通路、13…排気通路、14…エアフローメータ、15…スロットルバルブ、16…インジェクタ、17…点火装置、18…触媒装置、20…空燃比センサ、21…電子制御ユニット、22…処理装置、23…記憶装置、30…センサ素子、31…固体電解質層、32…排気側電極、33…大気側電極、34…拡散律速層、35…セラミクス基材、36…排気室、37…大気室、38…電熱ヒータ、39…電流計。