(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-18
(45)【発行日】2025-08-26
(54)【発明の名称】電気自動車
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20250819BHJP
【FI】
B60L15/20 J
(21)【出願番号】P 2024046669
(22)【出願日】2024-03-22
(62)【分割の表示】P 2023072572の分割
【原出願日】2023-04-26
【審査請求日】2024-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勇 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】水谷 賢治
(72)【発明者】
【氏名】池上 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】安江 昭人
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-037312(JP,A)
【文献】特開2011-002055(JP,A)
【文献】特開2018-191366(JP,A)
【文献】特開2018-166386(JP,A)
【文献】特開2022-036845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータを走行用の動力装置として使用する電気自動車であって、
アップシフトスイッチとダウンシフトスイッチとを有するパドル式シフターと、
前記電気モータを制御するモータ制御装置と、を備え、
前記モータ制御装置は、運転者が
前記アップシフトスイッチを所定時間以上操作しつつ
前記ダウンシフトスイッチを操作したことを受けて、前記電気モータの制御モードを通常制御モードから疑似変速モードへ遷移させるように構成され、
前記疑似変速モードは、アクセルペダルの操作に対する
前記電気モータの出力特性を前記パドル式シフターの操作に応じて変化させることで、前記パドル式シフターの操作による疑似変速を可能にする制御モードである
ことを特徴とする電気自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気モータを走行用の動力装置として用いる電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2022-036845号公報には、マニュアルトランスミッション車両(以下、MT車両という)の手動変速動作を電気モータの制御によって疑似的に再現可能な電気自動車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、電気自動車における通常の電気モータの制御モードを自動モードと呼び、MT車両の手動変速動作を模擬するための電気モータの制御モードを手動モードと呼ぶ。自動モードと手動モードとの間で制御モードを切り替えるための手段としてはスイッチを用いることが考えられる。しかし、スイッチは運転者がステアリングから手を離さざるを得ない位置に設置せざるを得ず、運転者にとって利便性が悪い。
【0005】
本開示は上記の課題に鑑みてなされたものである。本開示の1つの目的は、運転者がステアリングホイールから手を離すことなく制御モードを切り替えてMT車両のような運転を楽しむことを可能にする電気自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電気自動車はアクセルペダル、パドル式シフター、及びモータ制御装置を備える。パドル式シフターにはアップシフト操作、ダウンシフト操作、及びモード切替操作が予め登録されている。モータ制御装置はパドル式シフターに対するモード切替操作を受けて手動モードと自動モードとの間で電気モータの制御モードを切り替える。そして、制御モードが自動モードの場合、モータ制御装置はアクセルペダルの操作に応じて電気モータの出力を変化させる。一方、制御モードが手動モードの場合、モータ制御装置はパドル式シフターに対するアップシフト操作及びダウンシフト操作に応じてアクセルペダルの操作に対する電気モータの出力特性を変化させる。
【発明の効果】
【0007】
本開示の電気自動車によれば、運転者はパドル式シフターの操作によってステアリングホイールから手を離すことなく手動モードと自動モードとの間で制御モードを切り替えることができる。そして、手動モードでは、運転者はパドル式シフターの操作によってMT車両のような手動変速による運転を楽しむことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態に係る電気自動車の動力制御系の構成を示すブロック図である。
【
図2】車両モデルを構成するエンジンモデル、クラッチモデル、及びトランスミッションモデルの各例を示す図である。
【
図3】パドル式シフターによるモード切替操作の例を示すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本実施の形態に係る電気自動車10の動力制御系の構成を示すブロック図である。電気自動車10は電気モータ44とバッテリ46とインバータ42とを備えている。電気モータ44は走行用の動力装置である。バッテリ46は電気モータ44を駆動する電気エネルギを蓄える。すなわち、電気自動車10はバッテリ46に蓄えられた電気エネルギで走行するバッテリ電気自動車(BEV)である。インバータ42は加速時にバッテリ46から入力される直流電力を電気モータ2の駆動電力に変換する。また、インバータ42は減速時に電気モータ44から入力される回生電力を直流電力に変換し、バッテリ46に充電する。
【0010】
電気自動車10は運転者が電気自動車10に対する加速要求を入力するためのアクセルペダル22を備えている。アクセルペダル22には、アクセル開度を検出するためのアクセルポジションセンサ32が設けられている。
【0011】
電気自動車10はパドル式シフター24を備えている。ただし、このパドル式シフター24は本来のパドル式シフターとは異なるダミーである。パドル式シフター24はクラッチペダルレスMT車両が備えるパドル式シフターに似せた構造を有している。パドル式シフター24はステアリングホイールに取り付けられている。パドル式シフター24は操作ポジションを決定するアップシフトスイッチ34uとダウンシフトスイッチ34dとを備える。アップシフトスイッチ34uは手前に引かれることでアップシフト信号を発し、ダウンシフトスイッチ36dは手前に引かれることでダウンシフト信号を発する。
【0012】
電気自動車10の車輪26には車輪速センサ36が設けられている。車輪速センサ36は電気自動車10の車速を検出するための車速センサとして用いられる。また、電気モータ44には、その回転速度を検出するための回転速度センサ38が設けられている。
【0013】
電気自動車10はモータ制御装置50を備えている。モータ制御装置5はインバータ42のPWM制御によって電気モータ44を制御する装置である。モータ制御装置50にはアクセルポジションセンサ32、アップシフトスイッチ34u、ダウンシフトスイッチ34d、車輪速センサ36、及び回転速度センサ38からの信号が入力される。モータ制御装置50はこれらの信号を処理し、インバータ42をPWM制御するためのモータトルク指令値を算出する。
【0014】
モータ制御装置50は電気自動車10に搭載されるECUである。モータ制御装置50は複数のECUの組み合わせであってもよい。モータ制御装置50は制御モード切替ユニット52、自動モードトルク計算ユニット54、及び手動モードトルク計算ユニット56を備える。各ユニット52、54、56はそれぞれが独立したECUであってもよいし、メモリに記録されたプログラムがプロセッサで実行されることで得られるECUの機能であってもよい。
【0015】
制御モード切替ユニット52は電気モータの制御モードを自動モードと手動モードとの間で切り替える機能を備える。自動モードは電気自動車10を一般的な電気自動車として運転するための通常の制御モードである。自動モードはアクセルペダル22の操作に応じて電気モータ44の出力を連続的に変化させるようにプログラムされている。手動モードは電気自動車10をMT車両のように運転するための制御モードである。手動モードはアクセルペダル22の操作に対する電気モータ44の出力特性をパドル式シフター24に対するアップシフト操作及びダウンシフト操作に応じて変化させるようにプログラムされている。なお、自動モードはアップシフト操作及びダウンシフト操作を回生ブレーキの強さの切り替え操作として受け付けるようにプログラムされている。
【0016】
制御モード切替ユニット52はアップシフトスイッチ34uから入力されるアップシフト信号とダウンシフトスイッチ34dから入力されるダウンシフト信号の入力パターンに基づいて制御モードの切り替えを行う。詳しくは、パドル式シフター24で可能な操作にはアップシフト操作、ダウンシフト操作、及びモード切替操作がある。アップシフト操作はアップシフトスイッチ34uのみをオンにする操作であり、ダウンシフト操作はダウンシフトスイッチ34dのみをオンにする操作である。そして、モード切替操作はアップシフトスイッチ34uとダウンシフトスイッチ34dの両方を所定のパターンでオンにする操作である。パドル式シフター24によるモード切替操作の例については後述する。
【0017】
自動モードトルク計算ユニット54は電気モータ44を自動モードで制御する場合のモータトルクを計算する機能を備える。自動モードトルク計算ユニット54にはモータトルク指令マップが記憶されている。モータトルク指令マップはアクセル開度と電気モータ44の回転速度からモータトルクを決定するマップである。モータトルク指令マップの各パラメータには、アクセルポジションセンサ32の信号と、回転速度センサ38の信号とが入力される。モータトルク指令マップからは、これらの信号に対応するモータトルクが出力される。ゆえに、自動モードでは、運転者がパドル式シフター24を操作してもその操作はモータトルクには反映されない。
【0018】
手動モードトルク計算ユニット56は車両モデルを備える。車両モデルは電気自動車10をMT車両であると仮定した場合においてアクセルペダル22及びパドル式シフター24の操作によって得られるはずの駆動輪トルクを計算するためのモデルである。手動モードトルク計算ユニット56は車両モデルで算出された駆動輪トルクを電気モータ44の出力軸から駆動輪までの減速比を用いてモータトルクに変換する。
【0019】
手動モードトルク計算ユニット56が備える車両モデルについて
図2を参照して説明する。
図2に示すように、車両モデルはエンジンモデル561、クラッチモデル562、及びトランスミッションモデル563から構成されている。なお、車両モデルにより仮想的に実現されるエンジン、クラッチ、及びトランスミッションをそれぞれ仮想エンジン、仮想クラッチ、仮想トランスミッションと称する。エンジンモデル561では仮想エンジンがモデル化されている。クラッチモデル562では仮想クラッチがモデル化されている。トランスミッションモデル563では仮想トランスミッションがモデル化されている。
【0020】
エンジンモデル561は仮想エンジン回転速度と仮想エンジン出力トルクを算出する。仮想エンジン回転速度は車輪速、総合減速比、及び仮想クラッチのスリップ率から算出される。仮想エンジン出力トルクは仮想エンジン回転速度及びアクセル開度から算出される。仮想エンジン出力トルクの計算には、
図2に示すように、アクセル開度Papと仮想エンジン回転速度Neと仮想エンジン出力トルクTeoutとの関係を規定したマップが用いられる。このマップでは、アクセル開度Pap毎に仮想エンジン回転速度Neに対する仮想エンジン出力トルクTeoutが与えられる。
図2に示すトルク特性は、ガソリンエンジンを想定した特性に設定することもできるし、ディーゼルエンジンを想定した特性に設定することもできる。また、自然吸気エンジンを想定した特性に設定することもできるし、過給エンジンを想定した特性に設定することもできる。
【0021】
クラッチモデル562はトルク伝達ゲインを算出する。トルク伝達ゲインは仮想クラッチ開度に応じた仮想クラッチのトルク伝達度合いを算出するためのゲインである。仮想クラッチ開度は通常は0%であり、仮想トランスミッションの仮想ギア段の切り替えに連動して一時的に100%まで開かれる。クラッチモデル562は
図2に示すようなマップを有する。このマップでは、仮想クラッチ開度Pcに対してトルク伝達ゲインkが与えられる。
図2でPc0は仮想クラッチ開度Pcが0%の位置に対応し、Pc3は仮想クラッチ開度Pcが100%の位置に対応している。Pc0からPc1までの範囲とPc2からPc3までの範囲は仮想クラッチ開度Pcによってトルク伝達ゲインkが変わらない不感帯である。クラッチモデル562はトルク伝達ゲインを用いてクラッチ出力トルクを算出する。クラッチ出力トルクは仮想クラッチから出力されるトルクである。また、クラッチモデル562はスリップ率を算出する。スリップ率はエンジンモデル561での仮想エンジン回転速度の計算に用いられる。スリップ率の算出には、トルク伝達ゲインと同様に、仮想クラッチ開度に対してスリップ率が与えられるマップを用いることができる。
【0022】
トランスミッションモデル563はギア比(変速比)を算出する。ギア比は仮想トランスミッションにおいて仮想ギア段により決まるギア比である。パドル式シフター24のアップシフト操作を受けて仮想ギア段は1段アップされ、パドル式シフター24のダウンシフト操作を受けて仮想ギア段は1段ダウンされる。トランスミッションモデル563は
図2に示すようなマップを有する。このマップでは、仮想ギア段GPが大きいほどギア比rは小さくなるように仮想ギア段GPに対してギア比rが与えられる。トランスミッションモデル563はマップから得られたギア比とクラッチ出力トルクとを用いて変速機出力トルクを算出する。変速機出力トルクはギア比の切り替えに応じて不連続に変化する。この不連続な変速機出力トルクの変化は変速ショックを発生させ、有段変速機を備えた車両らしさが演出される。
【0023】
車両モデルは所定の減速比を用いて駆動輪トルクを算出する。減速比は仮想トランスミッションから駆動輪までの機械的な構造により決まる固定値である。減速比にギア比を乗じて得られる値が前述の総合減速比である。車両モデルは変速機出力トルク及び減速比から駆動輪トルクを算出する。算出された駆動輪トルクに電気モータ44の出力軸から駆動輪までの減速比が掛けられることで手動モードにおけるモータトルクが算出される。
【0024】
最後に、パドル式シフター24によるモード切替操作の例について
図3を参照して説明する。前述のようにモード切替操作はアップシフトスイッチ34uとダウンシフトスイッチ34dの両方が所定のパターンでオンされる。ここでは、アップシフトスイッチ34uはパドル式シフター24の右パドルに取り付けられ、ダウンシフトスイッチ34dはパドル式シフター2の左パドルに取り付けられているものとする。
図3は手動モードをオンにするための右パドル及び左パドルの操作パターンを示している。
図3に例示される操作パターンはパターンA、B、C、及びDの4つのパターンである。
【0025】
パターンAでは、右パドルを所定時間以上長押ししながら左パドルをダブルクリックすることで手動モードがオンにされる。そして、左パドルをダブルクリックした後に右パドルを離すことで、右パドルのクリックによるアップシフト操作と左パドルのクリックによるダウンシフト操作とが可能になる。手動モードをオンにするための左パドルのクリック回数は3回以上の回数に設定してもよい。また、パターンAでは、右パドルの操作と左パドルの操作を逆にして、左パドルを所定時間以上長押ししながら右パドルを複数回クリックすることで手動モードがオンにされるようにしてもよい。なお、パターンAの操作は、手動モードをオフにする操作、つまり、自動モードをオンにする操作としても用いることができる。
【0026】
パターンBでは、右パドルを所定時間以上長押しした状態で左パドルも所定時間以上長押しすることで手動モードがオンにされる。そして、左パドルを離した後に右パドルを離すことで、右パドルのクリックによるアップシフト操作と左パドルのクリックによるダウンシフト操作とが可能になる。パターンBでは、右パドルの操作と左パドルの操作を逆にして、左パドルを所定時間以上長押しした状態で右パドルも所定時間以上長押しすることで手動モードがオンにされるようにしてもよい。なお、パターンBの操作は、手動モードをオフにする操作、つまり、自動モードをオンにする操作としても用いることができる。
【0027】
パターンCでは、右パドルと左パドルを交互にクリックすることで手動モードがオンにされる。
図3に示す例では、右パドルを2回、左パドルを1回クリックしているが、クリック回数をさらに増やしても良い。また、パターンCでは、右パドルの操作と左パドルの操作を逆にして、左パドルのクリックから開始してもよい。また、パターンCでは、右パドルと左パドルを交互に所定時間以上長押しすることで手動モードがオンにされるようにしてもよい。
【0028】
パターンDでは、右パドルを複数回クリックして所定時間以内に左パドルをクリックすることで手動モードがオンにされる。右パドルを最後にクリックしてから所定時間が経過すると右パドルの操作はリセットされる。パターンDでは、右パドルの操作と左パドルの操作を逆にして、左パドルを複数回クリックして所定時間以内に右パドルをクリックすることで手動モードがオンにされるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
10 電気自動車、22 アクセルペダル、24 パドル式シフター、44 電気モータ、50 モータ制御装置