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特許7729500ポリフェニレンサルファイドフィルムとそのロール、およびそれらからなる金属化フィルムとそのロール、集電箔とそのロール、電極板とそのロールおよび二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-18
(45)【発行日】2025-08-26
(54)【発明の名称】ポリフェニレンサルファイドフィルムとそのロール、およびそれらからなる金属化フィルムとそのロール、集電箔とそのロール、電極板とそのロールおよび二次電池
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20250819BHJP
   B29C 55/14 20060101ALI20250819BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20250819BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250819BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20250819BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20250819BHJP
   B29K 81/00 20060101ALN20250819BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
B29C55/14
B32B15/08 Q
B32B27/00 A
H01G4/32 511L
H01G4/32 521A
H01G4/32 521G
H01M4/66 A
B29K81:00
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2024575215
(86)(22)【出願日】2024-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2024044761
【審査請求日】2025-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2023217684
(32)【優先日】2023-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023217685
(32)【優先日】2023-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】森下 健太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 健太
(72)【発明者】
【氏名】沢見 亮
(72)【発明者】
【氏名】小林 諒
(72)【発明者】
【氏名】尾形 大輔
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-255839(JP,A)
【文献】特開平9-300365(JP,A)
【文献】特開2000-218740(JP,A)
【文献】特開2002-331577(JP,A)
【文献】特開2004-244630(JP,A)
【文献】特開2009-132874(JP,A)
【文献】特開2009-138080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 55/00-55/30
B32B
H01G 4/32
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド樹脂を主成分とするフィルムであって、熱機械分析(TMA)で測定した230℃での幅方向の伸び率が0.0%以上13.0%以下であって、TMAで測定した150℃での長手方向、45°方向、幅方向および135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差が1.6%以下であるポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項2】
TMAで測定した150℃から230℃の範囲での幅方向の伸び率変化量が0.0%以上8.0%以下である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項3】
フィルムの長手方向および幅方向に50mm×50mmに切り出したフィルム試料をTMAで測定した230℃における長手方向、45°方向、幅方向および135°方向の伸び率がいずれも0.0%以上9.0%以下である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項4】
示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した融解熱量エンタルピーから求めた結晶化度が29%以上40%以下である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項5】
室温23℃でフィルムの引張試験をしたときの伸度2%の応力F2、伸度5%の応力F5が長手方向において次式を満たす、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
36.0[MPa]<F5-F2≦54.0[MPa]
【請求項6】
分子配向計を用いて測定した長手方向の誘電率ε′MDが3.00以上3.30以下であり、MOR_c(Corrected Molecular Orientation Ratio)が1.00以上1.30以下である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項7】
動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて、測定温度25℃から200℃、昇温速度2℃/min、周波数1Hz、変位10μmの条件で測定される長手方向の90℃の貯蔵弾性率E′MD90[GPa]と長手方向の100℃の貯蔵弾性率E′MD100[GPa]の比が次の関係を満たす、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
0.93≦E′MD100/E′MD90≦0.98
【請求項8】
示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した結晶化温度Tccが136℃以上155℃以下である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項9】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂の含有割合が、ポリフェニレンサルファイドフィルムを構成する全成分の質量に対して98質量%より多く100質量%以下である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項10】
温度315.6℃、荷重5000gの条件で測定した前記ポリフェニレンサルファイド樹脂のメルトフローレイトが40g/10min以上100g/10min以下である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項11】
厚さが1μm以上30μm以下である、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルムの少なくとも片面に金属層を設けてなる金属化フィルム。
【請求項13】
請求項1~11のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルムの少なくとも片面に金属層を設けてなる集電箔。
【請求項14】
請求項13に記載の集電箔の表面に電極材層が形成されてなる電極板。
【請求項15】
請求項14に記載の電極板を用いてなる二次電池。
【請求項16】
幅が700mm以上の、ポリフェニレンサルファイドを主成分とするフィルムを巻き取ってなるフィルムロールであって、ロール一方の端部から中心部に50mmの位置における点Aと他方の端部から中心部に50mmの位置における点Bにおいて、フィルムロールの長手方向および幅方向に50mm×50mmに切り出したフィルム試料を熱機械分析(TMA)で測定した230℃での幅方向の伸び率がいずれも0.0%以上13.0%以下であり、TMAで測定した150℃での長手方向、45°方向、幅方向および135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差がいずれも1.6%以下であるポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
【請求項17】
前記点Aおよび点BにおけるTMAで測定した230℃での45°方向の伸び率の差が1.2%以下であり、かつ230℃での135°方向の伸び率の差が1.2%以下である、請求項16に記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
【請求項18】
前記点Aおよび点Bにおける、TMAで測定した150℃から230℃の範囲での幅方向の伸び率変化量がいずれも0.0%以上8.0%以下である請求項16に記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
【請求項19】
フィルム幅方向中央部を中心とする700mm幅において、下記測定方法により求めたフィルム幅方向における長手方向引張弾性率の最大値と最小値の差が5MPa以上60MPa以下である、請求項16に記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
(測定方法)
フィルム幅方向中央部を中心とする700mm幅にわたって100mm間隔で長手230mm幅10mmのサイズに切り出し、試験長100mm、引張速度200mm/minで幅方向8箇所の長手方向の引張弾性率を測定し、幅方向における長手方向引張弾性率の最大値と最小値の差を求める。
【請求項20】
フィルム厚さが1μm以上30μm以下である、請求項16に記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
【請求項21】
請求項16~20のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロールの少なくとも片面に金属層を設けてなる金属化フィルムロール。
【請求項22】
請求項16~20のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロールの表面に金属層が積層されてなる集電箔ロール。
【請求項23】
請求項22に記載の集電箔ロールの表面に電極材層が形成されてなる電極板ロール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルムロール、およびそれからなる金属化フィルム、集電箔、電極板および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイドフィルムは、優れた耐熱性、耐加水分解性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性などの特徴を有しており、特に電気・電子機器、機械部品および自動車部品に好適に使用されている。
【0003】
その耐熱性や耐薬品性を活かし、フィルムコンデンサの誘電体へ適用されており、近年では、リチウムイオン電池に用いられる集電箔等の電池用部材としての適用が進められている。上記用途へ好適に用いるには、金属層形成や電極形成といった加工工程においてしわやクラック等の問題が生じないように、基材として加工性が優れている必要がある。中でも加工性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルムを提供した一例として、破断や穴あきが発生しにくいポリフェニレンサルファイドフィルム(特許文献1)、接着性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルム(特許文献2、3)、寸法安定性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルム(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2022/004414号
【文献】特開2019-89317号公報
【文献】特開2016-69445号公報
【文献】特開2008-202127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらポリフェニレンサルファイドフィルムは加工性がある程度良好である一方、寸法変化の面内均一性に改善の余地があり、金属層形成や電極形成といった加工が必要な製品としての取り扱い性について改善の余地があった。
【0006】
本発明は、加工性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成をとる。
[1]ポリフェニレンサルファイド樹脂を主成分とするフィルムであって、熱機械分析(TMA)で測定した230℃での幅方向の伸び率が0.0%以上13.0%以下であって、TMAで測定した150℃での長手方向、45°方向、幅方向および135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差が1.6%以下であるポリフェニレンサルファイドフィルム。
[2]TMAで測定した150℃から230℃の範囲での幅方向の伸び率変化量が0.0%以上8.0%以下である[1]に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[3]フィルムの長手方向および幅方向に50mm×50mmに切り出したフィルム試料をTMAで測定した230℃における長手方向、45°方向、幅方向および135°方向の伸び率がいずれも0.0%以上9.0%以下である[1]または[2]に記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[4]示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した融解熱量エンタルピーから求めた結晶化度が29%以上40%以下である[1]から[3]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[5]室温23℃でフィルムの引張試験をしたときの伸度2%の応力F2、伸度5%の応力F5が長手方向において次式を満たす、[1]から[4]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
36.0[MPa]<F5-F2≦54.0[MPa]
[6]分子配向計を用いて測定した長手方向の誘電率ε′MDが3.00以上3.30以下であり、MOR_c(Corrected Molecular Orientation Ratio)が1.00以上1.30以下である、[1]から[5]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[7]動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて、測定温度25℃から200℃、昇温速度2℃/min、周波数1Hz、変位10μmの条件で測定される長手方向の90℃の貯蔵弾性率E′MD90[GPa]と長手方向の100℃の貯蔵弾性率E′MD100[GPa]の比が次の関係を満たす、[1]から[6]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
0.93≦E′MD100/E′MD90≦0.98
[8]示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した結晶化温度Tccが136℃以上155℃以下である、[1]から[7]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[9]前記ポリフェニレンサルファイド樹脂の含有割合が、ポリフェニレンサルファイドフィルムを構成する全成分の質量に対して98質量%より多く100質量%以下である、[1]から[8]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[10]温度315.6℃、荷重5000gの条件で測定した前記ポリフェニレンサルファイド樹脂のメルトフローレイトが40g/10min以上100g/10min以下である、[1]から[9]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[11]厚さが1μm以上30μm以下である、[1]から[10]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルム。
[12][1]~[11]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルムの少なくとも片面に金属層を設けてなる金属化フィルム。
[13][1]~[11]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルムの少なくとも片面に金属層を設けてなる集電箔。
[14][13]に記載の集電箔の表面に電極材層が形成されてなる電極板。
[15][14]に記載の電極板を用いてなる二次電池。
[16]幅が700mm以上の、ポリフェニレンサルファイドを主成分とするフィルムを巻き取ってなるフィルムロールであって、ロール一方の端部から中心部に50mmの位置における点Aと他方の端部から中心部に50mmの位置における点Bにおいて、フィルムロールの長手方向および幅方向に50mm×50mmに切り出したフィルム試料を熱機械分析(TMA)で測定した230℃での幅方向の伸び率がいずれも0.0%以上13.0%以下であり、TMAで測定した150℃での長手方向、45°方向、幅方向および135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差がいずれも1.6%以下であるポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
[17]前記点Aおよび点BにおけるTMAで測定した230℃での45°方向の伸び率の差が1.2%以下であり、かつ230℃での135°方向の伸び率の差が1.2%以下である、[16]に記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
[18]前記点Aおよび点BにおけるTMAで測定した150℃から230℃の範囲での幅方向の伸び率変化量がいずれも0.0%以上8.0%以下である、[16]または[17]に記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
[19]フィルム幅方向中央部を中心とする700mm幅において、下記測定方法により求めたフィルム幅方向における長手方向引張弾性率の最大値と最小値の差が5MPa以上60MPa以下である、[16]から[18]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
(測定方法)
フィルム幅方向中央部を中心とする700mm幅にわたって100mm間隔で長手230mm幅10mmのサイズに切り出し、試験長100mm、引張速度200mm/minで幅方向8箇所の長手方向の引張弾性率を測定し、幅方向における長手方向引張弾性率の最大値と最小値の差を求める。
[20]フィルム厚さが1μm以上30μm以下である、[16]から[19]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
[21][16]~[20]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロールの少なくとも片面に金属層を設けてなる金属化フィルムロール。
[22][16]~[20]のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイドフィルムロール少なくとも片面に金属層が積層されてなる集電箔ロール。
[23][22]に記載の集電箔ロールの表面に電極材層が形成されてなる電極板ロール。
[24]幅が700mm以上の、ポリフェニレンサルファイドを主成分とするフィルムを巻き取ってなるフィルムロールであって、ロール一方の端部から中心部に50mmの位置における点Aと他方の端部から中心部に50mmの位置における点Bにおいて、フィルムロールの長手方向および幅方向に50mm×50mmに切り出した試料を熱機械分析(TMA)で測定した230℃での幅方向の伸び率がいずれも0.0%以上13.0%以下であり、前記点Aおよび点Bにおける230℃での45°方向の伸び率の差が1.2%以下であり、かつTMAで測定した230℃での135°方向の伸び率の差が1.2%以下であるポリフェニレンサルファイドフィルムロール。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加工性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるポリフェニレンサルファイドとは、繰り返し単位の95モル%以上が下記化学式1の構造式で示される構成単位からなる重合体をいう。かかる成分の比率が95モル%以上、好ましくは97モル%以上であることで、ポリマーの結晶性、軟化点等の低下を抑え、耐熱性、寸法安定性、機械特性、電気絶縁等を維持することができる。本発明におけるポリフェニレンサルファイドには5モル%を超えない範囲で下記化学式2の構造式で示されるメタフェニレンサルファイド単位やビフェニレンサルファイド単位、ビフェニレンエーテルサルファイド単位、ビフェニレンスルホンサルファイド単位、ビフェニレンカルボニルサルファイド単位、ナフタレンサルファイド単位等が共重合されていてもよい。
【0010】
【化1】
【0011】
【化2】
【0012】
上記ポリフェニレンサルファイドにおいて、本発明のフィルム伸び率に悪影響を与えない範囲であれば、共重合可能なスルフィド結合を含有する単位が繰り返し単位として含まれていても差し支えない。当該重合体の共重合の仕方はランダム、ブロック型を問わない。
【0013】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、前記ポリフェニレンサルファイドフィルムを構成する全成分の質量を100質量%としたときに、98質量%より多く100質量%以下がポリフェニレンサルファイド樹脂であることが好ましい。ポリフェニレンサルファイドフィルム全体を100質量%として、ポリフェニレンサルファイド以外の樹脂組成物(樹脂組成物(A))の含有率が2質量%未満であることが好ましく、より好ましくは1質量%未満であり、実質的に含有しないことが更に好ましい。樹脂組成物(A)の含有率を2質量%未満とすることで、製膜工程における押出機での樹脂溶融時に、樹脂組成物(A)がポリフェニレンサルファイドへ作用し変性させることでフィルム中に異物が発生し品位を損ねてしまうことを防ぐことができる。
【0014】
本発明のフィルムはポリフェニレンサルファイドを主成分とする。ここで、フィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、当該フィルムがポリフェニレンサルファイドを50質量%より多く100質量%以下含む場合に、当該フィルムを「ポリフェニレンサルファイドを主成分とするフィルム」と見なす。
【0015】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを構成するポリフェニレンサルファイド樹脂の温度315.6℃、荷重5000gで測定したメルトフローレイトが40g/10min以上100g/10min以下であることが好ましく、50g/10min以上80g/10min以下がより好ましい。メルトフローレイトが40g/10min未満だと粘度が高く溶融押出や二軸延伸が不可能な場合があり、100g/10minを超えると縦、横延伸や再延伸の際にフィルム破れが発生する場合がある。
【0016】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、フィルムの易滑性を高めるために粒子を含有することが好ましい。前記粒子の種類としては、本発明のフィルム伸び率に悪影響を与えない粒子を用いることができる。前記粒子は、1種が単独で使用されていてもよく、また2種以上が併用されていてもよい。前記粒子の中でも、炭酸カルシウム粒子がポリフェニレンサルファイドフィルム中での分散性が良いため好ましい。
【0017】
前記粒子の平均粒子径は0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。当該平均粒子径を10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは2μm以下とすることで、フィルム表面突起が大きくなることを抑え、金属層形成時に金属層の特性を阻害することがなく好適に使用できる。当該平均粒子径を0.1μm以上とすることで、フィルム表面の滑り性が悪くなりフィルム搬送時や加工時に傷が生じフィルムの品位が悪化することを防ぐことができる。
【0018】
前記粒子の平均粒子径は、ポリフェニレンサルファイドフィルムからポリフェニレンサルファイドをプラズマ低温灰化処理法(ヤマト科学製PR-503型)で除去して粒子を露出させ、これを透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM H7100)で観察し、粒子の画像(粒子によってできる光の濃淡)をイメージアナライザー(ケンブリッジインストルメント製QTM900)に結び付け、観察箇所を変えて粒子数5000個以上で次の数値処理を行ない、それによって求めた数平均粒子径Dを指す。
D=ΣDi/N(Di:粒子の円相当径、N:粒子の個数)
【0019】
前記粒子の含有率は0.1質量%以上2.0質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以上1.8質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以上1.5質量%以下である。当該含有率を2.0質量%未満とすることでフィルム表面突起を減らし、金属層形成時に金属層の特性を阻害することがなく好適に使用できる。当該含有率を0.1質量%以上とすることで、フィルム表面の滑り性が悪くなりフィルム搬送時や加工時に傷が生じフィルムの品位が悪化することを防ぐことができる。
【0020】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、単層であっても、複合フィルムであってもよい。複合フィルムとしては、2層以上の積層フィルムが挙げられる。例えば、A層/B層からなる2層積層フィルムや、A層/B層/A層、A層/B層/C層からなる3層積層フィルムであってもよく、積層フィルム全体として本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムとしての特徴を具備していればよい。
【0021】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムの好ましい一態様は、フィルムの熱機械分析(TMA)で測定した230℃での幅方向の伸び率が0.0%以上13.0%以下であり、より好ましくは0.0%以上9.0%以下、さらに好ましくは0.0%以上5.0%以下である。当該幅方向の伸び率を13.0%以下にすることで金属層形成時の熱負荷でフィルムが幅方向に伸びて、しわが発生することを抑制することができ、加工性が向上する。また、当該幅方向の伸び率を0.0%以上にすることで金属層形成時の熱負荷でフィルムが幅方向に収縮し、金属層にクラックが発生することを抑制することができ、加工性が向上する。特に、230℃での伸び率を上記範囲とすることにより、ロールtoロールでの1回の蒸着で厚膜に金属層を設けるような、フィルムが高温にさらされつつ流れ方向に張力がかかる場合において、フィルムのしわ発生を抑制し、また金属層のしわやクラック発生をより抑制できる。また、金属層のしわやクラック発生を抑えることによって、その上に塗布形成される電極材層の厚みムラを小さくすることができる。
【0022】
当該幅方向の伸び率を0.0%以上13.0%以下とする方法としては、製膜工程において幅方向(横方向)に延伸する温度と倍率を調整する方法や、幅方向(横方向)に延伸したフィルムに熱処理を施した後、幅方向(横方向)にリラックスする温度とリラックス率を調整する方法が挙げられる。なお、厚みが薄いと製造工程中に配向が緩和しやすくなり当該幅方向の伸び率は高まりやすい傾向がある。
【0023】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムの好ましい一態様は、TMAで測定した150℃での長手方向、45°方向、幅方向、135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差が1.6%以下である。当該差はより好ましくは1.2%以下、さらに好ましくは0.7%以下である。当該伸び率のうち最大値と最小値の差が1.6%以下であることで、フィルムの寸法変化の面内均一性が向上し、金属層を形成したポリフェニレンサルファイドフィルムの表面に電極材層を形成する際、電極材層塗布後の乾燥時にフィルムが面内で均一に伸びるため、電極材層の厚み均一性を向上することができ、加工性が向上する。
【0024】
当該伸び率のうち最大値と最小値の差を1.6%以下とする方法としては、製膜工程において長手方向(縦方向)及び幅方向(横方向)に延伸したフィルムに熱処理を施し、幅方向(横方向)にリラックスさせた後、再度幅方向(横方向)に延伸する温度と倍率を調整する方法が挙げられる。
【0025】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、TMAで測定した150℃から230℃の範囲での幅方向の伸び率変化量が0.0%以上8.0%以下であることが好ましく、より好ましくは0.0%以上3.5%以下である。当該幅方向の伸び率変化量を8.0%以下にすることで金属層形成時の熱負荷でフィルムが幅方向に伸びて、しわが発生することをより抑制することができる。また、当該幅方向の伸び率変化量を0.0%以上にすることで金属層形成時の熱負荷でフィルムが幅方向に収縮し、金属層にクラックが発生することをより抑制することができ、加工性が向上する。
【0026】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、フィルムの長手方向、幅方向に50mm×50mmに切り出したフィルム試料をTMAで測定した230℃における長手方向、45°方向、幅方向、135°方向の伸び率がいずれも0.0%以上9.0%以下であることが好ましい。より好ましくは0.0%以上5.0%以下である。当該各方向の伸び率を9.0%以下にすることで金属層形成時の熱負荷でフィルムが面内に均一に伸びて、しわが発生することをより抑制することができる。また、当該幅方向の伸び率を0.0%以上にすることで金属層形成時の熱負荷でフィルムが収縮し、金属層にクラックが発生することをより抑制することができ、加工性が向上する。
【0027】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した融解熱量エンタルピーから求めた結晶化度が29%以上40%以下であることが好ましく、30%以上38%以下がより好ましい。結晶化度が29%未満だと熱寸法安定性が低下し、金属層形成時の熱負荷でしわが発生して加工性が悪化する場合がある。結晶化度が40%を超えると金属層形成時にポリフェニレンサルファイドフィルムと金属層の密着性が低下し、しわが発生して加工性が悪化する場合がある。
【0028】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、フィルムを室温23℃で引張試験をしたときの伸度2%の応力F2、伸度5%の応力F5が長手方向において次式を満たすことが好ましい。
36.0[MPa]<F5-F2≦54.0[MPa]
【0029】
次式を満たすことがより好ましい。
37.5[MPa]≦F5-F2≦45.0[MPa]
【0030】
(F5-F2)の値を36.0MPaより大きく54.0MPa以下の範囲にすることで捲回時の引張応力に対して優れた寸法安定性を示し、高速・高張力の捲回でも巻ずれがより少なく、より安定した捲回体を作製することが可能となる。
【0031】
(F5-F2)の値を36.0MPaより大きく54.0MPa以下の範囲にする方法としては、製膜工程において長手方向(縦方向)に延伸する温度と倍率を調整する方法や、アニール処理のような高温長時間の熱処理を避けることが挙げられる。
【0032】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、長手方向のF2が65MPa以上75MPa以下であることが好ましく、68MPa以上73MPa以下がより好ましい。また、長手方向のF5が104MPa以上120MPa以下であることが好ましく、108MPa以上115MPa以下がより好ましい。
【0033】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、分子配向計を用いて測定した長手方向の誘電率ε′MDが3.00以上3.30以下であることが好ましく、3.10以上3.25以下がより好ましい。誘電率ε′MDを3.00以上3.30以下にすることで長手方向の配向が強く捲回時の引張応力に対して優れた寸法安定性を示し、高速・高張力の捲回でも巻ずれがより少なく、より安定した捲回体を作製することが可能となる。また、MOR_c(Corrected Molecular Orientation Ratio)が1.00以上1.30以下であることが好ましく、1.00以上1.10以下がより好ましい。MOR_cは主配向軸とその直交軸との配向度合いの比率を表し、原理上1.00が下限である。主配向軸とその直交軸との配向度合いの比率を厚みによる影響を除外して厚み4μm換算で一律に比較するため、厚みによる値の違いを補正したMOR_cを用いる。MOR_cが1.30を超えると配向の面内均一性が低下するため、寸法変化の面内均一性も低下し、金属層を形成したポリフェニレンサルファイドフィルムの表面に電極材層を形成する際、電極材層塗布後の乾燥時にフィルムが面内で均一に伸びず、電極材層の厚み均一性が悪化する場合がある。
【0034】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて、測定温度25℃から200℃、昇温速度2℃/min、周波数1Hz、変位10μmの条件で測定される長手方向の90℃の貯蔵弾性率E′MD90[GPa]と長手方向の100℃の貯蔵弾性率E′MD100[GPa]の貯蔵弾性率比が次の関係を満たすことが好ましい。
0.93≦E′MD100/E′MD90≦0.98
【0035】
次式を満たすことがより好ましい。
0.95≦E′MD100/E′MD90≦0.97
【0036】
E′MD100/E′MD90の値を0.93以上0.98以下にすることで圧延電極を形成する際にロールプレスの圧力を高くしても寸法変化が小さく、金属層とフィルムとの剥離やしわの発生をより抑制することができる。E′MD100/E′MD90の値を0.93以上0.98以下にする方法としては、製膜工程において長手方向(縦方向)及び幅方向(横方向)に延伸したフィルムに熱処理を施し、幅方向(横方向)にリラックスさせた後、再度幅方向(横方向)に延伸する温度と倍率を調整する方法や、アニール処理のような高温長時間の熱処理を避けることが挙げられる。
【0037】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、DMAを用いて、測定温度25℃から200℃、昇温速度2℃/min、周波数1Hz、変位10μmの条件で測定される長手方向の100℃の貯蔵弾性率E′MD100が5.30GPa以上7.00GPa以下であることが好ましく、5.50GPa以上6.50GPa以下がより好ましい。
【0038】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、DSCを用いて測定した結晶化温度Tccが136℃以上155℃以下であることが好ましく、138℃以上150℃以下がより好ましい。結晶化温度Tccが136℃未満だと再延伸の効果が十分に得られず、寸法変化の面内均一性も低下し、金属層を形成したポリフェニレンサルファイドフィルムの表面に電極材層を形成する際、電極材層塗布後の乾燥時にフィルムが面内で均一に伸びず、電極材層の厚み均一性が悪化する場合がある。結晶化温度Tccが155℃を超えると熱処理での結晶化が不十分で熱寸法安定性が低下し、金属層形成時の熱負荷でしわが発生して加工性が悪化する場合がある。
【0039】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、厚みが1μm以上30μm以下であることが好ましい。当該厚みを1μm以上、より好ましくは2μm以上とすることで、製膜工程においてフィルム破れによる生産性の悪化を抑制すると共に、加工工程でのハンドリングを向上することができる。当該厚みの上限は加工性の点では特に制限が無いが、フィルムコンデンサの誘電体や集電箔の基材に用いる場合、小型化、薄膜化の観点で15μm以下がより好ましい。
【0040】
本発明の好ましい一態様は、幅が700mm以上の、ポリフェニレンサルファイドを主成分とするフィルムを巻き取ってなるフィルムロールであって、ロール一方の端部から中心部に50mmの位置における点Aと他方の端部から中心部に50mmの位置における点Bにおいて、フィルムロールの長手方向、幅方向に50mm×50mmに切り出したフィルム試料を熱機械分析(TMA)で測定した230℃での幅方向の伸び率がいずれも0.0%以上13.0%以下であり、点Aと点BにおいてTMAで測定した150℃での長手方向、45°方向、幅方向、135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差がいずれも1.6%以下であるポリフェニレンサルファイドフィルムロール、である。
【0041】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールの好ましい一態様は、幅が700mm以上であり、より好ましくは900mm以上、さらに好ましくは1200mm以上である。ポリフェニレンサルファイドフィルムロールの幅が700mm未満の場合、金属層を形成する際に単位速度当たりの加工面積が小さく、製造コストの点で劣る場合がある。ポリフェニレンサルファイドフィルムロールの幅の上限は特段限定されるものではないが、ハンドリングの点から2000mm以下であることが一般的である。
【0042】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールの長さは、特段限定されるものではないが、一般的には2000m以上20000m以下である。
【0043】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、ロール一方の端部から中心部に50mmの位置における点Aと他方の端部から中心部に50mmの位置における点Bにおいて、フィルムロールの長手方向、幅方向に50mm×50mmに切り出した試料を熱機械分析(TMA)で測定した230℃での幅方向の伸び率がいずれも0.0%以上13.0%以下であることが好ましく、より好ましくは0.0%以上9.0%以下、さらに好ましくは0.0%以上5.0%以下である。当該幅方向の伸び率を13.0%以下にすることで金属層形成時の熱負荷でフィルムが幅方向に伸びて、しわが発生することをより抑制することができ、加工性が向上する。また、当該幅方向の伸び率を0.0%以上にすることで金属層形成時の熱負荷でフィルムが幅方向に収縮し、金属層にクラックが発生することをより抑制することができ、加工性が向上する。特に、230℃での伸び率を上記範囲とすることにより、ロールtoロールでの1回の蒸着で厚膜に金属層を設けるような、フィルムが高温にさらされつつ流れ方向に張力がかかる場合において、フィルムのしわ発生をより抑制し、また金属層のしわやクラック発生をより抑制でき、加工性が向上する。また、金属層のしわやクラック発生を抑えることによって、その上に塗布形成される電極材層の厚みムラを小さくすることができる。
【0044】
当該幅方向の伸び率を0.0%以上13.0%以下とする方法としては、製膜工程において幅方向(横方向)に延伸する温度と倍率を調整する方法や、幅方向(横方向)に延伸したフィルムに熱処理を施した後、幅方向(横方向)にリラックスする温度とリラックス率を調整する方法が挙げられる。
【0045】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、前記それぞれの点Aおよび点BにおけるTMAで測定した150℃での長手方向、45°方向、幅方向、135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差が1.6%以下であることが好ましく、より好ましくは1.2%以下、さらに好ましくは0.7%以下である。当該伸び率のうち最大値と最小値の差が1.6%以下であることで、フィルムの寸法変化の面内均一性が向上し、金属層を形成したポリフェニレンサルファイドフィルムの表面に電極材層を形成する際、電極材層塗布後の乾燥時にフィルムが面内で均一に伸びるため、電極材層の厚み均一性をより向上することができる。
【0046】
当該伸び率のうち最大値と最小値の差を1.6%以下とする方法としては、製膜工程において長手方向(縦方向)及び幅方向(横方向)に延伸したフィルムに熱処理を施し、幅方向(横方向)にリラックスさせた後、再度幅方向(横方向)に延伸する温度と倍率を調整する方法が挙げられる。また、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、前記点AにおけるTMAで測定した150℃での長手方向、45°方向、幅方向、135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差Rと、前記点BにおけるTMAで測定した150℃での長手方向、45°方向、幅方向、135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差Rとの差の絶対値|R-R|は1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0047】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、前記それぞれの点Aおよび点Bにおける230℃での45°方向の伸び率の差が1.2%以下であり、かつ230℃での135°方向の伸び率の差が1.2%以下であることが好ましく、より好ましくは230℃での45°方向の伸び率の差が0.5%以下、かつ230℃での135°方向の伸び率の差が0.5%以下であり、さらに好ましくは230℃での45°方向の伸び率の差が0.3%以下、かつ230℃での135°方向の伸び率の差が0.3%以下である。当該伸び率の差が1.2%以下であることで、フィルムの寸法変化の面内均一性がより向上し、金属層形成時の熱負荷によりポリフェニレンサルファイドフィルムロールの片側端部ともう片側端部が同程度に伸びるため、ロールtoロールで金属層を形成する際に蛇行が発生することをより抑制することができ、加工性が向上する。
【0048】
当該伸び率の差を1.2%以下とする方法としては、製膜工程において長手方向(縦方向)及び幅方向(横方向)に延伸したフィルムに熱処理を施し、幅方向(横方向)にリラックスさせた後、再度幅方向(横方向)に延伸する温度と倍率を調整する方法が挙げられる。
【0049】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、前記それぞれの点Aおよび点BにおけるTMAで測定した150℃から230℃の範囲での幅方向の伸び率変化量がいずれも0.0%以上8.0%以下であることが好ましく、より好ましくは0.0%以上3.5%以下である。当該幅方向の伸び率変化量を8.0%以下にすることで金属層形成時の熱負荷でフィルムが幅方向に伸びて、しわが発生することをより抑制することができる。また、当該幅方向の伸び率変化量を0.0%以上にすることで金属層形成時の熱負荷でフィルムが幅方向に収縮し、金属層にクラックが発生することをより抑制することができ、加工性が向上する。
【0050】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、フィルム幅方向中央部を中心とする700mm幅において、フィルム幅方向における長手方向引張弾性率の最大値と最小値の差が5MPa以上60MPa以下であることが好ましく、5MPa以上30MPa以下がより好ましい。
【0051】
(測定方法)
フィルム幅方向中央部を中心とする700mm幅にわたって100mm間隔で長手230mm幅10mmのサイズに切り出し、試験長100mm、引張速度200mm/minで幅方向8箇所の長手方向の引張弾性率を測定し、幅方向における長手方向引張弾性率の最大値と最小値の差を求める。
【0052】
フィルム幅方向における長手方向引張弾性率の最大値と最小値の差を5MPa以上60MPa以下とすることで金属層形成時の張力によりポリフェニレンサルファイドフィルムロールが幅方向で均等に伸びるため、ロールtoロールで金属層を形成する際に蛇行が発生することをより抑制することができ、加工性が向上する。
【0053】
(フィルムの製造方法)
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルムロールは、例えば以下に示した工程によって製造することが好ましい。
【0054】
まず、前記ポリフェニレンサルファイドを製造する方法について述べる。ポリフェニレンサルファイドは、例えば、アルカリ金属硫化物(硫化アルカリ)とジハロベンゼンとを重合させることによって製造することができる。
【0055】
前記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等が挙げられ、その中でも硫化ナトリウムが好ましい。前記アルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。また、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物、および、硫化物、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水和物と硫化水素とから調製されるアルカリ金属硫化物等を用いることもできる。前記アルカリ金属硫化物は、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されていてもよい。
【0056】
前記ジハロベンゼンとしては例えば、p-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼンなどのp-ジハロベンゼン、m-ジクロロベンゼンなどのm-ジハロベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、3,5-ジクロロ安息香酸等のハロゲン原子以外の置換基を含むジハロベンゼン等を挙げることができる。これらの中でも、p-ジハロベンゼンが好ましく、p-ジクロロベンゼンが特に好ましい。前記ジハロベンゼンは、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が併用されていてもよい。
【0057】
前記ジハロベンゼンの使用量(仕込み量)は、前記のアルカリ金属硫化物の仕込み量1モル当たり、好ましくは0.9~2.0モル、より好ましくは1.0~1.3モルの範囲であることが、高分子量のポリフェニレンサルファイドを得るためには好ましい。この使用割合を前述の範囲とすることで、加工に適した高粘度(高重合度)の前記ポリフェニレンサルファイドを得ることが容易となる。
【0058】
前記ポリフェニレンサルファイドの製造においては、その末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、前記ジハロベンゼンと共に、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を併用することができる。また、分岐または架橋重合体を形成させるために、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼンなどのトリハロゲン以上のポリハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)、活性水素含有ハロゲン芳香族化合物、ハロゲン芳香族ニトロ化合物等を併用することも可能である。
【0059】
前記ポリフェニレンサルファイドの製造においては、重合度を調整するために、重合助剤を添加して反応させることが好ましい。前記重合助剤としては例えば、一般にポリフェニレンサルファイドの重合助剤として用いられる公知の重合助剤を用いることができ、例えば、アルカリ金属水酸化物(苛性アルカリ)、カルボン酸アルカリ金属塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物、カルボン酸アルカリ金属塩が好適に用いられる。
【0060】
前記アルカリ金属水酸化物としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。
【0061】
前記カルボン酸アルカリ金属塩としては例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウムなどが挙げられ、その中でも安価で入手し易いことから、酢酸ナトリウムが好適に用いられる。前記カルボン酸アルカリ金属塩は、無水物、水和物または水溶液として用いることができる。
【0062】
また、前記カルボン酸アルカリ金属塩は、溶媒中で、有機酸と、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩及び重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。
【0063】
前記重合助剤は、1種が単独で用いられてもよく、また2種以上が組み合わされて用いられていてもよい。
【0064】
前記重合助剤の使用量は、重合助剤の種類、ならびにアルカリ金属硫化物およびジハロベンゼンの種類などに応じて広い範囲から適宜選択することができるが、前記アルカリ金属硫化物の仕込み量1モルに対し、0.01モル~5モルが好ましく、0.1~2モルがより好ましい。
【0065】
前記溶媒としては、有機アミド溶媒等の極性溶媒を使用することが好ましい。前記有機アミド溶媒の中でも、反応の安定性が高いことから、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアブロチック有機アミド溶媒などのアミド系高沸点極性溶媒が好適に用いられる。これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記する場合もある)が特に好適に用いられる。
【0066】
前記溶媒の使用量は、前記アルカリ金属硫化物の仕込み量1モル当たり0.2~10モルが好ましく、2~5モルがより好ましい。
【0067】
(1)前記ポリフェニレンサルファイドは、前記アルカリ金属硫化物および前記ジハロベンゼンの適量、ならびに必要に応じてジハロベンゼン以外のハロゲン化化合物および前記重合助剤の適量を、前記アミド系高沸点溶媒などの前記極性溶媒中に加え、高温高圧下に反応させることによって製造することができる。
【0068】
重合系内の圧力は、使用する助剤の種類や量、および所望する重合度等に応じて適宜選択される。また重合系内の温度および重合時間も、使用する助剤の種類や量、および所望する重合度等に応じて適宜選択されるが、好ましくは温度200~300℃において20分~50時間、より好ましくは温度230~280℃において1~10時間である。
【0069】
以上のようにして粉状または粒状のポリフェニレンサルファイドを得る。次いで、得られた粉状または粒状のポリフェニレンサルファイドを、水または/および溶媒で洗浄して、副塩、重合助剤、未反応モノマ等を分離する。
【0070】
(2)本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムに前述のように、ポリフェニレンサルファイド以外の樹脂(樹脂組成物(A))または粒子を添加する場合、まず、樹脂組成物(A)または粒子を、粉状または粒状の前記ポリフェニレンサルファイドに混ぜ、ヘンシェルミキサー等で均一混合する。また、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を添加する場合にも、同様にしてポリフェニレンサルファイドに混合する。
【0071】
次いで、得られた混合物を押出機、好ましくは1段以上のベント孔を有する押出機に供給し、290~360℃の温度で溶融混錬して適当な口金から押し出し、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を得る。またガット状に溶融成形して、長さ2~10mm程度にカットし、ペレット状のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物としてもよい。得られたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、真空下の加熱式ドライヤで、温度100~180℃、時間1~5時間程度の条件で乾燥される。
【0072】
なお、樹脂組成物(A)や粒子を添加しない場合には、(1)で得られたポリフェニレンサルファイドに必要に応じて酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤などの添加剤を混合し、樹脂組成物(A)や粒子を含む混合物の場合と同様にして押出し成形または溶融成形し、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物として使用することができる。
【0073】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて使用されていてもよい。例えば、樹脂組成物(A)が添加されたポリフェニレンサルファイド樹脂ペレット(以後、マスターペレットとも称する)と、樹脂組成物(A)や粒子が添加されていないポリフェニレンサルファイド樹脂ペレット(以後、ベースペレットとも称する)とを混合して用いることができる。
【0074】
(3)次に、(2)で得られた前記ポリフェニレンサルファイド樹脂ペレットを用いて、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを製造する。(2)で得られたポリフェニレンサルファイド樹脂ペレットを減圧下、好ましくは真空度が0~50mmHgで120~230℃、好ましくは160~200℃の温度に加熱しながらミキサーで撹拌し、3時間以上、好ましくは5~10時間乾燥する。減圧が不十分であると、ポリフェニレンサルファイド樹脂同士が酸素で架橋され、変性ポリマーが生成されやすくなる。乾燥温度が230℃を越えると、乾燥原料が固まりフィルムの製膜に支障を来す懸念があり、また該温度が120℃未満では、ポリフェニレンサルファイド原料中の不純物、特に250℃程度にまで加熱して揮発するような高沸点化合物が残留し、フィルムの欠陥を引き起こす場合がある。
【0075】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の乾燥は、前述のようにして前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を乾燥した後、徐冷して室温まで戻し、再度乾燥させる等、多段階に分けて行ってもよい。
【0076】
次いで、乾燥された前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を用いて本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを作成するが、フィルムは単層でも複合層でもよい。複合フィルムを作製する場合、その積層方法としては、コーティング、ラミネートまたは共押出による方法等を用いることができる。その中でも、共押出による積層が、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムを構成する各層の厚みコントロールの上で好ましい。
【0077】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、以下のようにして製膜されることが好ましい。まず、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を溶融押出装置に供給し、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の融点以上、好ましくは290~360℃の温度に加熱して溶融する。次いで、この溶融物をスリット状の口金出口から押出し、キャスティングロールと呼ばれる回転する金属ドラム上で冷却固化させる(キャストする)等の方法で急冷して未延伸フィルムを作製する。このとき、ポリマー流路にギアポンプ、スタティックミキサー、濾過装置を設置することが好ましい。
【0078】
得られた未延伸フィルムを、ロール群とテンターとを用いてフィルム長手方向(縦方向)およびフィルム幅方向(横方向)の延伸を順次行う逐次二軸延伸法、フィルム長手方向およびフィルム幅方向の延伸を同時に行う同時二軸延伸法等により延伸して延伸フィルムとすることができる。延伸方法の中でも逐次二軸延伸法が好ましい。
【0079】
逐次二軸延伸法を用いる場合の延伸条件は、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物に含まれるポリフェニレンサルファイドの種類、ならびにその他の樹脂や添加物の有無および種類などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択することができるが、温度80~120℃、より好ましくは90~110℃で、長手方向(縦方向)を3.3~5.0倍、より好ましくは3.5~4.4倍の倍率で延伸し、幅方向(横方向)を2.5~4.5倍、より好ましくは3.0~4.0倍の倍率で延伸することが好ましい。長手方向(縦方向)の延伸倍率に対する幅方向(横方向)の延伸倍率の比率は0.8以上1.4以下、1.0以上1.2以下がより好ましい。
【0080】
また、長手方向延伸時のフィルム加熱方法として、搬送ロールからの熱伝導による加熱と合わせて、ラジエーションヒーターによる加熱を行い、フィルム両面の温度を適正な範囲に調整することが、ポリフェニレンサルファイドの分子配向を制御することに繋がり更に好ましい。
【0081】
得られた延伸フィルムには、さらに熱処理を施すことが好ましい。このときの熱処理条件は、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物に含まれるポリフェニレンサルファイドの種類、ならびにその他の樹脂や添加剤の有無および種類などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択することができるが、温度は180℃以上、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の融点以下、より好ましくは200℃以上、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の融点(℃)-5℃の範囲で、定長または15%以下の制限収縮下に1~60秒間行うことが、耐熱性、機械特性、熱的寸法安定性の点で好ましい。さらに、該フィルムの熱寸法安定性を向上させるために、一方向もしくは二方向にリラックスしてもよい。特に、フィルムの幅方向に3.0%以上9.0%以下リラックスさせると、寸法変化率を小さくしやすくなり、TMAで測定した230℃での幅方向の伸び率を本願規定の範囲にするのに好ましい。フィルムの幅方向に5.5%以上8.0%以下リラックスさせることがより好ましい。リラックスさせる温度は220℃以上、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の融点以下、より好ましくは250℃以上、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の融点(℃)-10℃の範囲がTMAで測定した230℃での幅方向の伸び率を本願規定の範囲にするのに好ましい。リラックスした後のフィルムには幅方向(横方向)に再延伸することが寸法変化の面内均一性を向上するために好ましい。再延伸の倍率は0.2%以上7.0%以下が好ましく、1.0%以上3.5%以下がより好ましい。再延伸の倍率が0.2%未満ではボーイングの抑制により寸法変化の面内均一性を向上する効果が得られず、7.0%を超えるとフィルム破れが発生し生産性が悪化する場合がある。再延伸の温度はポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の結晶化温度Tcc(℃)+30℃以上、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の結晶化温度Tcc(℃)+90℃以下がTMAで測定した150℃での長手方向、45°方向、幅方向、135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差を本願規定の範囲にするのに好ましく、より好ましくはポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の結晶化温度Tcc(℃)+40℃以上、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の結晶化温度Tcc(℃)+80℃以下である。
【0082】
再延伸後のポリフェニレンサルファイドフィルムは、搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後に巻き取り、中間製品を得る。得られた中間製品はスリット工程により適切な幅、長さにスリットして巻き取り、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールが得られる。
【0083】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは金属層とより強固な界面接着性を付与するために、コロナ放電処理やプラズマ処理を施してもよい。コロナ放電処理時の雰囲気ガスとしては、空気(EC処理)、酸素(OE処理)、窒素(NE処理)、炭酸ガス(CE処理)等から選ばれる少なくとも1種のガスが挙げられる。これらのうち、本発明においては経済性の観点からEC処理で表面処理することがより好ましい。これらの表面加工はポリフェニレンサルファイドフィルムの製膜工程中で行っても、製膜工程とは別工程で行ってもよく、経済性の観点から製膜工程中で行うのが好ましい。
【0084】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、蒸着や金属層積層時の加工性に優れるためポリフェニレンサルファイドフィルムの少なくとも片面に金属層を設けてなる金属化フィルムとすることが好ましい。金属化フィルムとしてはコンデンサ、回路基材の他、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは薄膜化しても加工特性に優れるため集電箔として用いることができる。金属化フィルムとするには少なくとも片側の表面に金属層を有し、金属の種類としては銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀、銀合金のうちの1種または複数種が用いられていてもよい。リチウムイオン電池用の正極集電箔では金属層がアルミニウム、負極集電箔では金属層が銅であることが好ましい。またナトリウムイオン電池では正極集電箔がアルミニウム、負極集電箔が銅、または正極、負極集電箔ともにアルミニウムとしてもよい。金属層を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、電解めっき法、無電解めっき法等の方法が好ましく用いられ、これらの方法を組み合わせてもよい。
【0085】
本発明の金属化フィルムは少なくとも片側の表面に電極材層を形成することで電極板とすることができる。電極材としては、リチウムイオン電池用の正極としてコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウムなどのリチウム含有金属酸化物やリン酸鉄リチウム、リン酸鉄マンガンリチウムなどのリチウム含有金属リン酸化物、ナトリウムイオン電池用の正極としてナトリウム含有金属酸化物やナトリウム含有金属リン酸化物、ナトリウム含有プルシアンブルー類似体など活物質を用いることができる。また、導電材としてアセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン等を用いてもよい。負極としてグラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの炭素材料、スズ、ケイ素などのリチウム合金材料、チタン酸リチウム、金属リチウムなどの活物質と、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースやスチレンブタジエン共重合体、ポリフッ化ビニリデンなど用いることができる。
【0086】
電極の作製方法としては、まず活物質と導電助剤をバインダー樹脂溶液中に分散して電極用塗布液を調製し、この塗布液を金属箔や金属化フィルム上に塗工して、溶媒を乾燥させることで正極、負極がそれぞれ得られる。乾燥後の塗工膜の膜厚は30μm以上500μm以下とすることが好ましい。さらにロールプレス法などの圧延方法で、金属化フィルム上に形成した活物質層に圧力を加え、活物質層を緻密化することが好ましい。また圧延時にロールを加熱することで活物質層をさらに緻密化してもよい。本発明の金属化フィルムは高温での寸法安定性に優れるため、溶媒乾燥時に高温にしても平面性に優れた電極を作製することが可能で生産性を向上することができる。また長手方向の90℃の貯蔵弾性率E′MD90と長手方向の100℃の貯蔵弾性率E′MD100の貯蔵弾性率比が0.93≦E′MD100/E′MD90≦0.98であることでロールプレスの圧力を高くしても寸法変化が小さく、金属層とフィルムの剥離やしわの発生が抑制可能である。
【0087】
得られた正極と負極の間にリチウム二次電池用セパレータを、それぞれの電極の活物質層と接するように配置した電極群を複数重ねた積層体や、正極とセパレータ、負極を重ねて巻き取る捲回体を金属缶やアルミラミネートフィルム等の外装材に封入し、二次電池とすることができる。本発明の金属化フィルムは室温23℃における伸度2%の応力F2、伸度5%の応力F5が長手方向において36[MPa]<F5-F2≦54[MPa]を満たすため、捲回時の引張応力に対して優れた寸法安定性を示し、高速・高張力の捲回でも巻ずれが少なく、安定した捲回体を作製することが可能となる。
【0088】
このように得られたポリフェニレンサルファイドフィルムロールは巻き返しながら金属化フィルムロール、集電箔ロール、電極板ロールに必要な層を積層して巻き取り得ることができる。
【0089】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、様々な工業用途に用いることができ、ポリフェニレンサルファイド樹脂の特性である耐熱性、耐薬品性を兼ね備えるため、集電箔用途に特に好適に用いることができる。ほかにも、本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、フィルムが高温にさらされつつ流れ方向に張力がかかる場合において、フィルムのしわ発生を抑制できることから、少なくとも片面にロールtoロールでの1回の蒸着で厚み1μm以上10μm以下の厚膜で金属層を設ける用途に好適に用いることができる。また、150℃程度の温度においての伸び率のばらつきが小さいことから、さらに金属層の上に150℃以下の温度で電極材層を設ける用途により好適に用いることができる。
【実施例
【0090】
[測定方法]
(1)厚さ
ミクロトーム(日本ミクロトーム研究所製電動ミクロトームST-201)を用いて断面切削したフィルムのスライス片を透過光顕微鏡で観察し、厚み[μm]を測定した。
【0091】
(2)熱機械分析(TMA)
ポリフェニレンサルファイドフィルムロールの一方の端部から中心部に50mmの位置における点Aと他方の端部から中心部に50mmの位置における点Bにおいて、フィルムロールの長手方向、幅方向に50mm×50mmに切り出した試料を採取した。得られた試料から測定長20mm、幅5mmの測定用試料を採取した。
【0092】
アルバック理工社製の熱機械分析装置(TM-9300)を用いて、以下の条件で測定した。各データは1℃につき1つのデータが得られるようにして、各温度における伸び率(%)を算出した。測定方向は長手方向、45°方向、幅方向、135°方向の4方向とし、長手方向から時計回りに45°回転した方向を45°方向、反時計回りに45°回転した方向を135°方向とした。点AおよびBの各4方向においてN=3回の測定を実施し、最も大きな値をポリフェニレンサルファイドフィルムロールの長手方向、45°方向、幅方向、135°方向の伸び率(%)として採用した。
測定温度範囲:30℃~250℃
昇温速度:10℃/分
測定荷重:10g
測定室環境:温度23℃、相対湿度65%、大気中
【0093】
(3)示差走査熱量計(DSC)
ポリフェニレンサルファイドフィルムロールの一方の端部から中心部に50mmの位置における点Aと他方の端部から中心部に50mmの位置における点Bにおいて、フィルムロールの長手方向、幅方向に50mm×50mmに切り出した試料を採取した。
【0094】
切り出した試料からサンプルを5mg削り出してサンプルパンに秤量し、示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC Q100)を用いて、昇温速度は20℃/minで25℃から350℃まで加熱し測定し、結晶化度は、得られた示差走査熱量測定チャートから結晶融解熱量(ΔHm)と冷結晶化熱量(ΔHc)を用い下記式より算出した。
結晶化度[%]=(ΔHm-ΔHc)/ΔHm0×100
【0095】
ここで、ΔHm0として完全結晶ポリフェニレンサルファイドの融解熱量の文献値である146.44J/g(Maemura E.,Cakmak M.,White J.L.,Polym.Eng.Sci,29,140(1989).)を用いた。
【0096】
また、結晶化温度Tccは、昇温速度は20℃/minで25℃から350℃まで加熱して5分間保持した後、液体窒素で5分間急冷し、同サンプルを昇温速度は20℃/minで25℃から350℃まで再加熱して得られたガラス状態からの結晶化による発熱ピークのピーク温度とした。
【0097】
結晶化度、結晶化温度Tcc共に点Aと点Bの平均値をポリフェニレンサルファイドフィルムロールの値とした。
【0098】
(4)引張試験
ポリフェニレンサルファイドフィルムロールの一方の端部から中心部に50mmの位置における点Aと他方の端部から中心部に50mmの位置における点Bにおいて、フィルムロールの長手方向、幅方向に250mm×250mmに切り出した試料を採取した。得られた試料から長手230mm、幅10mmの測定用試料を採取した。
【0099】
JIS-C2151(2019年)に準じて、オリエンテック社製“TENSILON”(登録商標)UCT-100を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気下において、伸度2%の応力(F2)、伸度5%の応力(F5)を測定した。具体的には、長手230mm、幅10mmの短冊状のサンプルを、試験長100mm、引張速度200mm/分で、5回の測定を行い、平均値を伸度2%の応力(F2)、伸度5%の応力(F5)とした。伸度2%の応力(F2)、伸度5%の応力(F5)共に点Aと点Bの平均値をポリフェニレンサルファイドフィルムロールの値とした。
【0100】
また、フィルム幅方向中央部を中心とする700mm幅にわたって100mm間隔で長手230mm幅10mmのサイズに切り出し、試験長100mm、引張速度200mm/minで引張試験を行い、変形する直前の最大弾性(SSカーブの最大傾斜の接線の一次式)から引張弾性率を求めた。同様に幅方向8箇所の長手方向の引張弾性率を測定し、幅方向における長手方向引張弾性率の最大値と最小値の差を求めた。
【0101】
(5)分子配向計
ポリフェニレンサルファイドフィルムロールの一方の端部から中心部に50mmの位置における点Aと他方の端部から中心部に50mmの位置における点Bにおいて、フィルムロールの長手方向、幅方向に40mm×40mmに切り出した試料を採取した。
【0102】
マイクロ波透過型分子配向計MOA-6015((株)王子計測機器社製)を用い、周波数15GHzにて評価した。フィルム長手方向を測定機器0°方向とし、長手方向の誘電率ε′MDとMOR(Molecular Orientation Ratio)を測定した。得られたMORから下記式によりMOR_c(Corrected Molecular Orientation Ratio)を求めた。
MOR_c=(MOR-1)×tc/t+1
【0103】
ここで、tは試料の厚み(μm)、tcは補正したい基準の厚さ(4μm)、MORは上述の測定により得られた極座標(配向パターン)の長軸と短軸の比、MOR_cは補正後のMORを示す。
【0104】
ε′MDは点Aと点Bの平均値をポリフェニレンサルファイドフィルムロールの値とし、MOR_cは点Aと点Bのうち大きい方の値をポリフェニレンサルファイドフィルムロールの値とした。
【0105】
(6)動的粘弾性測定装置(DMA)
ポリフェニレンサルファイドフィルムロールの一方の端部から中心部に50mmの位置における点Aと他方の端部から中心部に50mmの位置における点Bにおいて、フィルムロールの長手方向、幅方向に50mm×50mmに切り出した試料を採取した。得られた試料から長手20mm、幅10mmの測定用試料を採取した。
【0106】
得られた短冊状のサンプルの両端をチャックにチャック間距離が10mmとなるようにセットし測定に供した。90℃の貯蔵弾性率E′MD90および100℃の貯蔵弾性率E′MD100は昇温過程において各温度に到達した時点での貯蔵弾性率を読み取った。E′MD90、E′MD100共に点Aと点Bの平均値をポリフェニレンサルファイドフィルムロールの値とした。
装置:EXSTAR DMS6100(セイコーインスツルメント(株)製)
測定モード:引張
測定温度範囲:25℃から200℃
昇温速度:2℃/min
測定雰囲気:大気
周波数:1Hz
変位:10.0μm
【0107】
(7)金属層を蒸着形成する際のしわ
後述する方法で得られた本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールを20本準備し、各ポリフェニレンサルファイドフィルムロールに高周波誘電加熱方式の真空蒸着法によって、冷却キャンロール温度が50℃の条件で、銅が1.0μmの厚さになる搬送速度にて真空蒸着し、35N/mの張力を掛けて巻き取った。真空蒸着中の熱寸法変化によりしわが発生しなかったロールを合格、発生したロールを不合格とし、20本のうちの合格本数を下記の基準で評価した。搬送工程中や巻き取った後のロール形状の表層で幅0.5mm以上、長さ20cm以上のしわが視認出来たロールをしわ発生有りと判定した。
A:20本中、合格が20本
B:20本中、合格が19本、不合格が1本
C:20本中、合格が16本以上18本以下、不合格が2本以上4本以下
D:20本中、合格が15以下、不合格が5本以上
【0108】
(8)金属層を蒸着形成する際の巻取性
後述する方法で得られた本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールに(7)と同じ方法で真空蒸着を実施し巻き取った。真空蒸着中の熱寸法変化により蛇行したことで発生する巻き取り後のポリフェニレンサルファイドフィルムロールの端面におけるフィルムのずれ量を下記の基準で評価した。
A:端面におけるフィルムのずれ量が2mm未満
B:端面におけるフィルムのずれ量が2mm以上5mm未満
C:端面におけるフィルムのずれ量が5mm以上10mm未満
D:端面におけるフィルムのずれ量が10mm以上
【0109】
(9)電極材層形成時の加工性
後述する方法で得られた本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールに(7)の方法で金属層を形成し、合格となったポリフェニレンサルファイドフィルムロールの金属層の表面に、電極材としてグラファイト、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム、接着剤であるスチレンブタジエンゴムエマルジョンを97.5:1.0:1.5の質量比で脱イオン水に十分に撹拌して混合した固形分濃度50質量%のスラリーを、ロールtoロールで電極層のドライ厚みが50μmになるようにコーティングした後、130℃で乾燥し、電極材層を形成した。得られた電極材層について、幅方向の片側端部から10mmの位置ともう片側端部から10mm位置の間で、等間隔になるように幅方向20箇所から長手方向20mm×幅方向20mmの試料を採取した。採取した試料において、(1)と同じ方法で電極材層の厚さ[μm]を測定し、幅方向20箇所における最大値と最小値の差を下記の基準で評価した。
A:幅方向20箇所における最大値と最小値の差が1.2μm未満
B:幅方向20箇所における最大値と最小値の差が1.2μm以上2.5μm未満
C:幅方向20箇所における最大値と最小値の差が2.5μm以上5.0μm未満
D:幅方向20箇所における最大値と最小値の差が5.0μm以上
【0110】
(10)圧延電極形成時の剥離、しわ
後述する方法で得られた本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールに(7)及び(9)の方法で電極材層を形成し、合格となった電極を用いて、ロールtoロールで電極層の厚みが35μmとなるようロールプレスを行い、圧延電極を形成した。圧延電極を500mm長さに20本の試料を採取した。採取した試料において、電極材層と金属層の剥離やしわの有無を下記の基準で評価した。
A:20本のうち剥離箇所としわの数が1個未満
B:20本のうち剥離箇所としわの数が3個未満
C:20本のうち剥離箇所としわの数が3個以上
【0111】
(11)捲回体形成時の巻取性
後述する方法で得られた本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムロールに(7)、(9)及び(10)の方法で圧延電極を形成し、合格となった圧延電極を用いて、捲回体20個を試料として採取した。採取した試料において、正極と負極の短手方向のズレを下記の基準で評価した。
A:20個のうち短手方向の正極と負極のズレが2mm以下の捲回体が18個以上
B:20個のうち短手方向の正極と負極のズレが2mm以下の捲回体が15個以上18個未満
C:20個のうち短手方向の正極と負極のズレが2mm以下の捲回体が15個未満
【0112】
[樹脂粉末およびペレットの製造]
(ポリフェニレンサルファイド粉末の製造)
撹拌機付きの70Lのオートクレーブに、濃度48質量%の水硫化ナトリウム水溶液を8.181kg(70.00モル)、純度96%の水酸化ナトリウムを2.943kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を11.45kg(115.5モル)、無水酢酸ナトリウムを2.239kg(27.30モル)、及びイオン交換水を4.900kg(272.2モル)仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.12kgおよびNMP0.14kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。この反応における撹拌速度は毎分240回転(240rpm)とした。
【0113】
仕込んだアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量およびNMPの加水分解に消費された水分量の合計は72.0モルであった。また、仕込んだアルカリ金属硫化物1モル当たり0.020モルの硫化水素が反応系外に飛散した。
【0114】
次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)を10.29kg(69.97モル)、NMPを9.090kg(91.70モル)、反応系に加えた。反応容器を窒素ガス下に密封した後、400rpmで撹拌しながら、200℃から227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、次いで227℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、270℃で140分保持した。
【0115】
その後、イオン交換水2.346kg(130.3モル)を15分かけて系内に添加しながら、250℃まで徐々に反応系を冷却した。次いで250℃から200℃まで1.0℃/分の速度で徐々に反応系を冷却し、その後、室温近傍まで急冷した。
【0116】
得られたポリフェニレンサルファイドの理論量1kg当たり、15kg(浴比1:15)のN-メチル-2-ピロリドン溶剤で90℃、1.5時間洗浄し、濾過を行った。得られたケークを、イオン交換水(浴比1:15)を用いて70℃、1.5時間で2回洗浄・濾過した。その後、酢酸カルシウムを1質量%含有するイオン交換水(浴比1:15)を用いて70℃、1.5時間で洗浄・濾過し、再度、イオン交換水(浴比1:15)を用いて70℃、1.5時間で2回、洗浄・濾過を行った。
【0117】
得られたポリマーを温度150℃にて真空下で4日間乾燥して、融点が285℃、結晶化温度Tccが140℃のポリフェニレンサルファイド粉末を得た。
【0118】
JIS-K7210(1999年)に準じて東洋精機社製メルトインデクサ-を用い、穴径2.095mm、長さ8.00mmのオリフィスを用いて、温度315.6℃、荷重5000gの条件でメルトフローレイトの測定を行った。サンプル約7gを装置に入れ、1分経過後、ピストンを挿入し、更に4分経過の後、ピストンに荷重を載せ、単位時間あたりに流出するポリマーの重量から算出したメルトフローレイトは70g/10minであった。
【0119】
(粒子マスターペレットの作製)
平均粒子径1.0μmの炭酸カルシウム粒子をエチレングリコール中に50質量%分散させたスラリーを調製した。このスラリーをフィルターで濾過した後、ヘンシェルミキサーを用いて、上記のポリフェニレンサルファイド粉末に炭酸カルシウムの含有量が7.0質量%となるよう混合した。得られた混合物を溶融押出し、粒子含有量7.0質量%の粒子ペレットを得た。以下、これをPPS樹脂Aと呼ぶ。
【0120】
(無粒子ペレットの作成)
上記ポリフェニレンサルファイド粉末ポリマーのみを溶融押出し、ポリフェニレンサルファイド樹脂のベースペレットを得た。以下、これをPPS樹脂Bと呼ぶ。
【0121】
[実施例1]
PPS樹脂AおよびPPS樹脂Bを樹脂合計量に対して炭酸カルシウムの含有量が1.0質量%となるよう混合した後、回転式真空乾燥機を用いて、3mmHgの減圧下にて温度180℃で4時間乾燥させた。
【0122】
乾燥させたペレットを単軸押出機に供給し310℃で溶融させ、Tダイ口金よりシート状にして押し出した。次いで、このシート状物を、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。
【0123】
得られた未延伸フィルムに対し、逐次二軸延伸法を用い、加熱搬送ロールとラジエーションヒーターにてフィルム両面を温度100℃に加熱して長手方向に3.7倍に延伸し、さらにテンターを通して、温度100℃で幅方向に3.4倍に延伸した。さらに幅方向に延伸するために用いたテンターに後続する熱処理室にて、温度265℃で熱処理し、温度260℃で7.5%の制限収縮下で幅方向にリラックス処理した。さらにテンターの熱処理室に後続する冷却室にてリラックス処理後のフィルムを温度200℃で幅方向に1.5%の再延伸を施し、コアに巻き取り、厚み4μm、幅2500mmのポリフェニレンサルファイドフィルム中間製品を得た。そこから、表に示すようにスリットしフィルムロールを得た。
【0124】
[実施例2,3]
表に示すようにスリットした以外は実施例1と同様にフィルムロールを得た。
【0125】
[実施例4]
再延伸倍率を4.0%とした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0126】
[実施例5]
再延伸倍率を0.5%とした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0127】
[実施例6]
リラックス率を5.0%とした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0128】
[実施例7]
リラックス率を8.5%とした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0129】
[実施例8]
再延伸温度を240℃とした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0130】
[実施例9]
再延伸温度を160℃とした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0131】
[実施例10]
リラックス処理温度を240℃とした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0132】
[実施例11]
縦延伸倍率を3.4倍、横延伸倍率を3.7倍、再延伸倍率を4.0%とした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0133】
[実施例12]
押出量を調整し厚さを2μmとした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0134】
[実施例13]
押出量を調整し厚さを9μmとした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0135】
[実施例14]
押出量を調整し厚さを12μmとした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0136】
[実施例15]
押出量を調整し厚さを25μmとした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0137】
[比較例1]
リラックス処理後のフィルムに再延伸を施さない以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0138】
[比較例2]
再延伸倍率を7.5%にした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを生産したが、フィルム破れが発生しフィルムを採取できなかった。
【0139】
[比較例3]
リラックス率を1.5%にした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0140】
[比較例4]
リラックス率を9.5%にした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0141】
[比較例5]
再延伸温度を260℃にした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。
【0142】
[比較例6]
再延伸温度を140℃にした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。150℃より低い温度で再延伸を行ったため、TMAで測定した150℃の伸び率を面内で均一化する効果が得られなかった。
【0143】
[比較例7]
リラックス処理温度を210℃にした以外は実施例2と同様にして、ポリフェニレンサルファイドフィルムを得、スリットしフィルムロールを得た。230℃より低く、150℃により近い温度でリラックス処理を行ったため、230℃の幅方向の伸び率は低下し、150℃の幅方向の伸び率は上昇した。
【0144】
[比較例8]
比較例1と同様にして得られたポリフェニレンサルファイドフィルムをロールサポート方式のコーターの送り出し部に取り付け、フィルムを200℃に加熱された乾燥炉に通し、連続的に加熱工程を行ない、熱処理ポリフェニレンサルファイドフィルムを得た。加熱時間は60秒であった。加熱を行う際、巻き取り機による巻き取りによってポリフェニレンサルファイドフィルムが巻き取り方向に受ける引張応力は、1m幅・40μm厚の断面積を有するフィルム相当で0.1kgfであった。また横方向には特に力を与えずに加熱を行った。
【0145】
実施例、比較例から得られたポリフェニレンサルファイドフィルムの特性を表に示す。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
【表3-1】
【0149】
【表3-2】
【0150】
【表4-1】
【0151】
【表4-2】
【0152】
【表5-1】
【0153】
【表5-2】
【0154】
【表6-1】
【0155】
【表6-2】
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明のポリフェニレンサルファイドフィルムは、様々な工業用途に用いることができ、ポリフェニレンサルファイド樹脂の特性である耐熱性、耐薬品性を兼ね備えるため、集電箔用途に特に好適に用いることができる。
【要約】
熱機械分析で測定した230℃での幅方向の伸び率が0.0%以上13.0%以下であって、150℃での長手方向、45°方向、幅方向および135°方向の伸び率のうち最大値と最小値の差が1.6%以下であるポリフェニレンサルファイドフィルム。また、幅が700mm以上のポリフェニレンサルファイドフィルムを巻き取ってなるフィルムロール。さらに、ポリフェニレンサルファイドフィルムの少なくとも片面に金属層を設けてなる金属化フィルムおよび集電箔、ならびに、該集電箔の表面に電極材層が形成されてなる電極板および該電極版を用いてなる二次電池。加工性に優れたポリフェニレンサルファイドフィルムを提供する。