(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-18
(45)【発行日】2025-08-26
(54)【発明の名称】内部欠陥検査方法及び内部欠陥検査システム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/72 20060101AFI20250819BHJP
【FI】
G01N25/72 K
(21)【出願番号】P 2025028766
(22)【出願日】2025-02-26
【審査請求日】2025-03-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】512056016
【氏名又は名称】北電技術コンサルタント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 始
(72)【発明者】
【氏名】白上 新
(72)【発明者】
【氏名】松谷 悟
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-122859(JP,A)
【文献】特開2017-203761(JP,A)
【文献】特開2021-089185(JP,A)
【文献】特開2003-344330(JP,A)
【文献】特開昭63-255650(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第119089382(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00~25/72
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータシステムによって実行される方法であって、コンクリート床版の上面にアスファルト舗装が敷設されて通路を形成している検査対象構造物の上面を撮像した熱画像を分析することによって前記検査対象構造物の内部欠陥を検出する内部欠陥検査方法において、
前記通路の長さ方向に対して平行な軸をX軸、前記通路の幅方向に対して平行な軸をY軸とした時に、前記熱画像を構成する複数の画素Gは、基準点からX軸方向にNx個が順に並び、Y軸方向にNy個が順に並んでおり、個々の画素Gを画素G(kx,ky)[1≦kx≦Nx、1≦ky≦Ny]と表し、画素G(kx,ky)が有する温度データを温度T(kx,ky)と表した場合に、
画素G毎に、X軸方向に並ぶNx個の画素Gの温度Tに含まれる低周波のドリフト成分Tav(kx,ky)を算出し、温度T(kx,ky)からドリフト成分Tav(kx,ky)を差し引いて高周波の温度変動ΔT(kx,ky)を算出する温度変動算出ステップと、
前記温度変動算出ステップで算出した温度変動ΔT(kx,ky)が基準値Tthを超えている画素G(kx,ky)を、欠陥画素KG(kx,ky)として抽出する欠陥画素抽出ステップと、
前記欠陥画素抽出ステップで抽出した欠陥画素KG(kx,ky)の位置情報を基に、前記検査対象構造物を上面から見た時の、前記コンクリート床版に内部欠陥が発生している欠陥領域を特定する欠陥領域特定ステップとを備えることを特徴とする内部欠陥検査方法。
【請求項2】
前記温度変動算出ステップでは、画素G(kx,ky)に隣接してX軸方向に順に並ぶ規定個数の画素Gの温度Tの平均値、又は画素G(kx,ky)を含めてX軸方向に並ぶ規定個数の画素Gの温度Tの平均値を、前記ドリフト成分Tav(kx,ky)として算出する請求項1記載の内部欠陥検査方法。
【請求項3】
前記温度変動算出ステップでは、X軸方向に並ぶNx個の画像Gの温度Tに対して多項式によるフィッティングを行うことによって前記ドリフト成分Tav(kx,ky)を算出する請求項1記載の内部欠陥検査方法。
【請求項4】
前記欠陥領域特定ステップでは、前記欠陥画素抽出ステップで抽出した複数個の欠陥画素KG(kx,ky)を、所定のクラスタリングアルゴリズムを適用することによってクラスタリングし、得られたクラスタ又は当該クラスタを囲む領域を前記欠陥領域とする請求項1記載の内部欠陥検査方法。
【請求項5】
前記検査対象構造物の上面の、前記欠陥領域以外の領域を健全領域とし、表示装置に、前記健全領域と前記欠陥領域とを互いに異なる色で表した二値化画像を表示させる欠陥領域表示ステップを備える請求項1記載の内部欠陥検査方法。
【請求項6】
前記欠陥画素抽出ステップにおいて、複数個の基準値Tthを設定して基準値Tth毎に欠陥画素KG(kx,ky)を抽出し、
前記欠陥領域特定ステップにおいて、基準値Tth毎に前記欠陥領域を特定し、
前記欠陥領域表示ステップにおいて、基準値Tth毎の前記二値化画像を、前記健全領域を互いに同じ色で前記欠陥領域を互いに異なる色で各々表し、これらを重ねて前記表示装置に表示させる請求項5記載の内部欠陥検査方法。
【請求項7】
前記欠陥画素抽出ステップでは、前記基準値である第一の基準値Tth1と第二の基準値Tth2とを設け、
第一の基準値Tth1を、各行を構成するNx個の温度変動ΔT(kx,ky)の分布を正規分布とみなした時の標準偏差σのh1倍(h1は、h1>0の定数)の値に設定し、
第二の基準値Tth2を、ゼロよりも大きい任意の定数に設定し、
前記温度変動算出ステップで算出した温度変動ΔT(kx,ky)が基準値Tth1,Tth2の両方を超えている画素G(kx,ky)を、欠陥画素KG(kx,ky)として抽出する請求項1記載の内部欠陥検査方法。
【請求項8】
前記検査対象構造物の上面の、前記欠陥領域以外の領域を健全領域とし、前記欠陥領域と前記健全領域との境界部分で発生している温度変動ΔT(kx,ky)の変化率Rpを基に、又は、温度T(kx,ky)の平均値Tmean及び変化率Rpを基に、当該検査対象構造物で発生している前記内部欠陥の深さ位置を推定する欠陥深さ推定ステップを備える請求項1乃至7のいずれか記載の内部欠陥検査方法。
【請求項9】
前記検査対象構造物を模擬した仮想のモデル構造物についての数値情報であるモデル構造物関連情報、及び、前記モデル構造物関連情報を用いた熱伝導解析の演算によって算出された情報であって、当該モデル構造物の、前記欠陥領域及び前記健全領域を含む各部の温度分布を示す情報であるモデル構造
物温度変化情報が、相互に紐付けて登録されたデータベースを準備するデータベース準備ステップを備え、
前記モデル構造物関連情報には、少なくとも、前記モデル構造物の構造上の特徴を示す構造情報と、当該モデル構造物の設置場所の環境温度の特徴を示す環境温度情報と、当該モデル構造物の上面への日射量に関する特徴を示す現場情報と、当該モデル構造物における内部欠陥の有無及び内部欠陥の特徴を示す欠陥情報とが含まれており、
前記欠陥深さ推定ステップでは、前記データベースに登録された前記モデル構造物関連情報及び前記モデル構造物
温度変化情報を教師データとする機械学習により作成された欠陥深さ推定モデルを準備し、当該欠陥深さ推定モデルに、前記モデル構造物関連情報の中の前記欠陥情報以外の情報に対応した数値情報である検査対象構造物関連情報と、前記検査対象構造物の温度T(kx,ky)の情報又は前記温度変動算出ステップで算出した温度変動ΔT(kx,ky)の情報又はその両方の情報とを入力することによって、当該検査対象構造物で発生している前記内部欠陥の深さ位置を推定する請求項8記載の内部欠陥検査方法。
【請求項10】
コンクリート床版の上面にアスファルト舗装が敷設されて通路を形成している検査対象構造物の上面を撮像した熱画像を分析することによって前記検査対象構造物の内部欠陥を検出する、コンピュータシステムで成る内部欠陥検査システムにおいて、
前記通路の長さ方向に対して平行な軸をX軸、前記通路の幅方向に対して平行な軸をY軸とした時に、前記熱画像を構成する複数の画素Gは、基準点からX軸方向にNx個が順に並び、Y軸方向にNy個が順に並んでおり、個々の画素Gを画素G(kx,ky)[1≦kx≦Nx、1≦ky≦Ny]と表し、画素G(kx,ky)の位置の温度データを温度T(kx,ky)と表した場合に、
画素G毎に、X軸方向に並ぶNx個の画素Gの温度Tに含まれる低周波のドリフト成分Tav(kx,ky)を算出し、温度T(kx,ky)からドリフト成分Tav(kx,ky)を差し引いて高周波の温度変動ΔT(kx,ky)を算出する温度変動算出部と、
前記温度変動算出部で算出された温度変動ΔT(kx,ky)が基準値Tthを超えている画素G(kx,ky)を、欠陥画素KG(kx,ky)として抽出する欠陥画素抽出部と、
前記欠陥画素抽出部で抽出された欠陥画素KG(kx,ky)の位置情報を基に、前記検査対象構造物を上面から見た時の、前記コンクリート床版に内部欠陥が発生している欠陥領域を特定する欠陥領域特定部とを備えることを特徴とする内部欠陥検査システム。
【請求項11】
前記温度変動算出部は、画素G(kx,ky)に隣接してX軸方向に順に並ぶ規定個数の画素Gの温度Tの平均値、又は画素G(kx,ky)を含めてX軸方向に並ぶ規定個数の画素Gの温度Tの平均値を、前記ドリフト成分Tav(kx,ky)として算出する請求項10記載の内部欠陥検査システム。
【請求項12】
前記温度変動算出部は、X軸方向に並ぶNx個の画像Gの温度Tに対して多項式によるフィッティングを行うことによって、前記ドリフト成分Tav(kx,ky)を算出する請求項10記載の内部欠陥検査システム。
【請求項13】
前記欠陥領域特定部は、前記欠陥画素抽出部で抽出された複数個の欠陥画素KG(kx,ky)を、所定のクラスタリングアルゴリズムを適用することによってクラスタリングし、得られたクラスタ又は当該クラスタを囲む領域を前記欠陥領域とする請求項10記載の内部欠陥検査システム。
【請求項14】
表示装置と、
前記検査対象構造物の上面の、前記欠陥領域以外の領域を健全領域とし、前記表示装置に、前記健全領域と前記欠陥領域とを互いに異なる色で表した二値化画像を表示させる欠陥領域表示部とを備える請求項10記載の内部欠陥検査システム。
【請求項15】
前記欠陥画素抽出部は、複数個の基準値Tthを設定して基準値Tth毎に欠陥画素KG(kx,ky)を抽出し、
前記欠陥領域特定部は、基準値Tth毎に前記欠陥領域を特定し、
前記欠陥領域表示部は、基準値Tth毎の前記二値化画像を、前記健全領域を互いに同じ色で前記欠陥領域を互いに異なる色で各々表し、これらを重ねて前記表示装置に表示させる請求項
14記載の内部欠陥検査システム。
【請求項16】
前記検査対象構造物の上面の、前記欠陥領域以外の領域を健全領域とし、前記欠陥領域と前記健全領域との境界部分で発生している温度変動ΔT(kx,ky)の変化率Rpを基に、又は、温度T(kx,ky)の平均値Tmean及び変化率Rpを基に、当該検査対象構造物で発生している前記内部欠陥の深さ位置を推定する欠陥深さ推定部を備える請求項10乃至15のいずれか記載の内部欠陥検査システム。
【請求項17】
前記検査対象構造物を模擬した仮想のモデル構造物についての数値情報であるモデル構造物関連情報、及び、前記モデル構造物関連情報を用いた熱伝導解析の演算によって算出された情報であって、当該モデル構造物の、前記欠陥領域及び前記健全領域を含む各部の温度分布を示す情報であるモデル構造物
温度変化情報が、相互に紐付けて登録されたデータベースを備え、
前記モデル構造物関連情報には、少なくとも、前記モデル構造物の構造上の特徴を示す構造情報と、当該モデル構造物の設置場所の環境温度の特徴を示す環境温度情報と、当該モデル構造物の上面への日射量に関する特徴を示す現場情報と、当該モデル構造物における内部欠陥の有無及び内部欠陥の特徴を示す欠陥情報とが含まれており、
前記欠陥深さ推定部は、前記データベースに登録された前記モデル構造物関連情報及び前記モデル構造物
温度変化情報を教師データとする機械学習により作成された欠陥深さ推定モデル準備し、当該欠陥深さ推定モデルに、前記モデル構造物関連情報の中の前記欠陥情報以外の情報に対応した数値情報である検査対象構造物関連情報と、前記検査対象構造物の温度T(kx,ky)の情報又は前記温度変動算出部で算出された温度変動ΔT(kx,ky)の情報又はその両方の情報とを入力することによって、当該検査対象構造物で発生している前記内部欠陥の深さ位置を推定する請求16記載の内部欠陥検査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象構造物の表面を撮像した熱画像を分析することによって検査対象構造物の内部欠陥を検出する内部欠陥検査方法及び内部欠陥検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や高架橋等は、コンクリート床版の上面にアスファルト舗装が敷設されて道路を形成しているものが多い。この種の構造物は、老朽化や施工不良によってコンクリート床版の内部やコンクリート床版とアスファルト舗装との境界部に、剥離や浮き等の内部欠陥が生じている可能性があり、重大事故が発生するのを防止するため、内部欠陥を早期に発見して対処する必要がある。
【0003】
最も直接的な検査方法として、アスファルト舗装を剥がし、コンクリート床版の状態を目視や打音により検査する方法があるが、交通規制が長期化してしまうという問題や、作業者の負担や工事費用が増加するという問題がある。また、アスファルト舗装の上から打音検査を行う方法も考えられるが、特殊技能を有した検査員が必要になるので、全国各地にある多数の構造物をこの方法で検査するのは難しい。
【0004】
近年、多数の構造物を効率よく検査するため、無人機(ドローン等)に搭載したサーマルカメラで構造物の表面を撮像し、撮像された熱画像を分析することによって内部欠陥を検出する検査方法が提案されている。一般に、構造物の表面温度は、内側に内部欠陥が存在する領域(欠陥領域)と内部欠陥が存在しない領域(健全領域)との間に温度差が生じるという性質があるので、熱画像を分析することによって、構造物の内部欠陥の有無、内部欠陥の位置や大きさを非接触で推定することができる。
【0005】
例えば、特許文献1に開示されている変状部検出方法は、赤外線サーモグラフィ装置によってコンクリート表層部の被調査面を撮影し、被調査面の熱画像に基づいて、コンクリート表層部の変状部を特定するというものである。熱画像は、水平方向及び垂直方向に整列した複数の画素から構成され、各画素が温度データを有している。
【0006】
特許文献1の
図1の処理フローを簡単に説明すると、まず、各画素の水平方向の温度勾配を算出し[S4,S5]、算出した温度勾配が閾値より大きいか否かを判定し[S6]、閾値よりも大きい画素を1とし小さい画素0として水平方向の2値化処理画像を作成する[S7]。さらに、各画素の垂直方向の温度勾配を算出し[S8,S9]、その温度勾配が閾値より大きいか否かを判定し[S10]、閾値よりも大きい画素を1とし小さい画素0として垂直方向の2値化処理画像を作成する[S11]。そして、水平方向と垂直方向の2値化処理画像を重ね合わせ[S12]、重ね合わせた2値化処理画像で1となる画素で囲まれた領域に対応する被調査面の領域を変状部と判定する[S13,S14]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の変状部検出方法は、コンクリートの被調査面を直接撮像した熱画像を基にコンクリート表層部の変状部を検出する。しかし、前述したように、橋梁や高架橋等は、コンクリート床版の上面にアスファルト舗装が敷設されているものが多いので、アスファルト舗装が敷設されている場合に有効かどうか不明である。
【0009】
また、サーマルカメラで撮像した場合、サーマルカメラの光学特性により、熱画像の温度データの特性に低周波のドリフト成分が発生するという問題がある。例えば、現実の被調査面の温度が均一だったとしても、サーマルカメラで撮像した熱画像では、その中央部が最も高温になり、中央部から離れるほど温度が徐々に低下する傾向があり、内部欠陥の有無に関係なく発生する温度のシフトが、熱画像データの温度特性曲線において低周波のドリフト成分となる。その他、橋梁等の道路面を検査する場合、道路面にセンターラインが引かれていたり自動車のタイヤ痕が残っていたりするので、これらも、サーマルカメラで撮像した場合の誤差要因となる。したがって、熱画像を基に高精度な検査を行うためには、上記の誤差要因(ドリフト成分等)についても考慮する必要がある。しかし、特許文献1の変状部検出方法では、この点について特に考慮されていない。
【0010】
本発明は、上記背景技術に鑑みて成されたものであり、アスファルト舗装の表面を撮像した熱画像を分析することにより、コンクリート床版の内部欠陥を高精度に検出できる内部欠陥検査方法及び内部欠陥検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、コンピュータシステムによって実行される方法であって、コンクリート床版の上面にアスファルト舗装が敷設されて通路を形成している検査対象構造物の上面を撮像した熱画像を分析することによって前記検査対象構造物の内部欠陥を検出する内部欠陥検査方法である。
本発明は、前記通路の長さ方向に対して平行な軸をX軸、前記通路の幅方向に対して平行な軸をY軸とした時に、前記熱画像を構成する複数の画素Gは、基準点からX軸方向にNx個が順に並び、Y軸方向にNy個が順に並んでおり、個々の画素Gを画素G(kx,ky)[1≦kx≦Nx、1≦ky≦Ny]と表し、画素G(kx,ky)が有する温度データを温度T(kx,ky)と表した場合に、
画素G毎に、X軸方向に並ぶNx個の画素Gの温度Tに含まれる低周波のドリフト成分Tav(kx,ky)を算出し、温度T(kx,ky)からドリフト成分Tav(kx,ky)を差し引いて高周波の温度変動ΔT(kx,ky)を算出する温度変動算出ステップと、
前記温度変動算出ステップで算出した温度変動ΔT(kx,ky)が基準値Tthを超えている画素G(kx,ky)を、欠陥画素KG(kx,ky)として抽出する欠陥画素抽出ステップと、
前記欠陥画素抽出ステップで抽出した欠陥画素KG(kx,ky)の位置情報を基に、前記検査対象構造物を上面から見た時の、前記コンクリート床版に内部欠陥が発生している欠陥領域を特定する欠陥領域特定ステップとを備える。
【0012】
温度変動算出ステップでは、画素G(kx,ky)に隣接してX軸方向に順に並ぶ規定個数の画素Gの温度Tの平均値、又は画素G(kx,ky)を含めてX軸方向に並ぶ規定個数の画素Gの温度Tの平均値を、前記ドリフト成分Tav(kx,ky)として算出することができる。あるいは、温度変動算出ステップにおいて、X軸方向に並ぶNx個の画像Gの温度Tに対して多項式によるフィッティングを行うことによって前記ドリフト成分Tav(kx,ky)を算出するようにしてもよい。
【0013】
前記欠陥領域特定ステップでは、前記欠陥画素抽出ステップで抽出した複数個の欠陥画素KG(kx,ky)を、所定のクラスタリングアルゴリズムを適用することによってクラスタリングし、得られたクラスタ又は当該クラスタを囲む領域を前記欠陥領域とすることが好ましい。
【0014】
前記検査対象構造物の上面の、前記欠陥領域以外の領域を健全領域とし、表示装置に、前記健全領域と前記欠陥領域とを互いに異なる色で表した二値化画像を表示させる欠陥領域表示ステップを備える構成にすることが好ましい。この場合、前記欠陥画素抽出ステップにおいて、複数個の基準値Tthを設定して基準値Tth毎に欠陥画素KG(kx,ky)を抽出し、前記欠陥領域特定ステップにおいて、基準値Tth毎に前記欠陥領域を特定し、前記欠陥領域表示ステップにおいて、基準値Tth毎の前記二値化画像を、前記健全領域を互いに同じ色で前記欠陥領域を互いに異なる色で各々表し、これらを重ねて前記表示装置に表示させることができる。
【0015】
前記欠陥画素抽出ステップでは、前記基準値である第一の基準値Tth1と第二の基準値Tth2とを設け、第一の基準値Tth1を、各行を構成するNx個の温度変動ΔT(kx,ky)の分布を正規分布とみなした時の標準偏差σのh1倍(h1は、h1>0の定数)の値に設定し、第二の基準値Tth2を、ゼロよりも大きい任意の定数に設定し、前記温度変動算出ステップで算出した温度変動ΔT(kx,ky)が基準値Tth1,Tth2の両方を超えている画素G(kx,ky)を、欠陥画素KG(kx,ky)として抽出することが好ましい。
【0016】
さらに、前記検査対象構造物の上面の、前記欠陥領域以外の領域を健全領域とし、前記欠陥領域と前記健全領域との境界部分で発生している温度変動ΔT(kx,ky)の変化率Rpを基に、又は、温度T(kx,ky)の平均値Tmean及び変化率Rpを基に、当該検査対象構造物で発生している前記内部欠陥の深さ位置を推定する欠陥深さ推定ステップを備える構成にすることができる。
【0017】
この場合、前記検査対象構造物を模擬した仮想のモデル構造物についての数値情報であるモデル構造物関連情報、及び、前記モデル構造物関連情報を用いた熱伝導解析の演算によって算出された情報であって、当該モデル構造物の、前記欠陥領域及び前記健全領域を含む各部の温度分布を示す情報であるモデル構造物温度変化情報が、相互に紐付けて登録されたデータベースを準備するデータベース準備ステップを備え、
前記モデル構造物関連情報には、少なくとも、前記モデル構造物の構造上の特徴を示す構造情報と、当該モデル構造物の設置場所の環境温度の特徴を示す環境温度情報と、当該モデル構造物の上面への日射量に関する特徴を示す現場情報と、当該モデル構造物における内部欠陥の有無及び内部欠陥の特徴を示す欠陥情報とが含まれており、
前記欠陥深さ推定ステップでは、前記データベースに登録された前記モデル構造物関連情報及び前記モデル構造物温度変化情報を教師データとする機械学習により作成された欠陥深さ推定モデルを準備し、当該欠陥深さ推定モデルに、前記モデル構造物関連情報の中の前記欠陥情報以外の情報に対応した数値情報である検査対象構造物関連情報と、前記検査対象構造物の温度T(kx,ky)の情報又は前記温度変動算出ステップで算出した温度変動ΔT(kx,ky)の情報又はその両方の情報とを入力することによって、当該検査対象構造物で発生している前記内部欠陥の深さ位置を推定する構成にすることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、コンクリート床版の上面にアスファルト舗装が敷設されて通路を形成している検査対象構造物の上面を撮像した熱画像を分析することによって前記検査対象構造物の内部欠陥を検出する、コンピュータシステムで成る内部欠陥検査システムである。
【0019】
そして、前記通路の長さ方向に対して平行な軸をX軸、前記通路の幅方向に対して平行な軸をY軸とした時に、前記熱画像を構成する複数の画素Gは、基準点からX軸方向にNx個が順に並び、Y軸方向にNy個が順に並んでおり、個々の画素Gを画素G(kx,ky)[1≦kx≦Nx、1≦ky≦Ny]と表し、画素G(kx,ky)の位置の温度データを温度T(kx,ky)と表した場合に、
画素G毎に、X軸方向に並ぶNx個の画素Gの温度Tに含まれる低周波のドリフト成分Tav(kx,ky)を算出し、温度T(kx,ky)からドリフト成分Tav(kx,ky)を差し引いて高周波の温度変動ΔT(kx,ky)を算出する温度変動算出部と、
前記温度変動算出部で算出された温度変動ΔT(kx,ky)が基準値Tthを超えている画素G(kx,ky)を、欠陥画素KG(kx,ky)として抽出する欠陥画素抽出部と、
前記欠陥画素抽出部で抽出された欠陥画素KG(kx,ky)の位置情報を基に、前記検査対象構造物を上面から見た時の、前記コンクリート床版に内部欠陥が発生している欠陥領域を特定する欠陥領域特定部とを備える。
【0020】
前記温度変動算出部は、画素G(kx,ky)に隣接してX軸方向に順に並ぶ規定個数の画素Gの温度Tの平均値、又は画素G(kx,ky)を含めてX軸方向に並ぶ規定個数の画素Gの温度Tの平均値を、前記ドリフト成分Tav(kx,ky)として算出する構成にすることができる。あるいは、前記温度変動算出部は、X軸方向に並ぶNx個の画像Gの温度Tに対して多項式によるフィッティングを行うことによって、前記ドリフト成分Tav(kx,ky)を算出する構成にしてもよい。
【0021】
前記欠陥領域特定部は、前記欠陥画素抽出部で抽出された複数個の欠陥画素KG(kx,ky)を、所定のクラスタリングアルゴリズムを適用することによってクラスタリングし、得られたクラスタ又は当該クラスタを囲む領域を前記欠陥領域とする構成にすることが好ましい。
【0022】
表示装置と、前記検査対象構造物の上面の、前記欠陥領域以外の領域を健全領域とし、前記表示装置に、前記健全領域と前記欠陥領域とを互いに異なる色で表した二値化画像を表示させる欠陥領域表示部とを備える構成にすることが好ましい。この場合、前記欠陥画素抽出部は、複数個の基準値Tthを設定して基準値Tth毎に欠陥画素KG(kx,ky)を抽出し、前記欠陥領域特定部は、基準値Tth毎に前記欠陥領域を特定し、前記欠陥領域表示部は、基準値Tth毎の前記二値化画像を、前記健全領域を互いに同じ色で前記欠陥領域を互いに異なる色で各々表し、これらを重ねて前記表示装置に表示させる構成にすることができる。
【0023】
さらに、前記検査対象構造物の上面の、前記欠陥領域以外の領域を健全領域とし、前記欠陥領域と前記健全領域との境界部分で発生している温度変動ΔT(kx,ky)の変化率Rpを基に、又は、温度T(kx,ky)の平均値Tmean及び変化率Rpを基に、当該検査対象構造物で発生している前記内部欠陥の深さ位置を推定する欠陥深さ推定部を備える構成にすることが好ましい。
【0024】
この場合、前記検査対象構造物を模擬した仮想のモデル構造物についての数値情報であるモデル構造物関連情報、及び、前記モデル構造物関連情報を用いた熱伝導解析の演算によって算出された情報であって、当該モデル構造物の、前記欠陥領域及び前記健全領域を含む各部の温度分布を示す情報であるモデル構造物温度変化情報が、相互に紐付けて登録されたデータベースを備え、
前記モデル構造物関連情報には、少なくとも、前記モデル構造物の構造上の特徴を示す構造情報と、当該モデル構造物の設置場所の環境温度の特徴を示す環境温度情報と、当該モデル構造物の上面への日射量に関する特徴を示す現場情報と、当該モデル構造物における内部欠陥の有無及び内部欠陥の特徴を示す欠陥情報とが含まれており、
前記欠陥深さ推定部は、前記データベースに登録された前記モデル構造物関連情報及び前記モデル構造物温度変化情報を教師データとする機械学習により作成された欠陥深さ推定モデル準備し、当該欠陥深さ推定モデルに、前記モデル構造物関連情報の中の前記欠陥情報以外の情報に対応した数値情報である検査対象構造物関連情報と、前記検査対象構造物の温度T(kx,ky)の情報又は前記温度変動算出部で算出された温度変動ΔT(kx,ky)の情報又はその両方の情報とを入力することによって、当該検査対象構造物で発生している前記内部欠陥の深さ位置を推定する構成にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の内部欠陥検査方法及び内部欠陥検査システムは、検査対象構造物(コンクリート床版の上面にアスファルト舗装が敷設されて通路を形成している構造物)の上面を撮像した熱画像の温度データを分析する時、温度データの特性に含まれる低周波のドリフト成分等の誤差要因を独特な手法でキャンセルして分析するので、内部欠陥の有無、内側に内部欠陥が存在している欠陥領域の位置等を容易に且つ高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の内部欠陥検査システムの第一の実施形態を示すブロック図である。
【
図2】本発明の内部欠陥検査方法の第一の実施形態(
図1の内部欠陥検査システムが実行する検査方法)を示す全体フローチャート(a)、温度変動算出ステップ及び欠陥画素抽出ステップの内容を示すフローチャート(b)である。
【
図3】検査対象構造物の上面の検査領域の熱画像を撮像する様子を示す斜視図(a)、熱画像を構成する画素Gの中の画素G(1,ky)~G(Nx,ky)の温度Tのグラフ(b)である。
【
図4】画素G(1,ky)~G(Nx,ky)毎に算出された温度変動ΔTのグラフ(a)、打音検査で検出された欠陥領域を表した熱画像と欠陥領域特定ステップで特定した欠陥領域を表した二値化画像とを対比した図(b)である。
【
図5】第一の実施形態の内部欠陥検査方法の検証試験の結果を示すグラフ(a)、(b)である。
【
図6】欠陥画素抽出ステップにおける基準値Tthの設定方法の2つの例を示す図(a)、(b)である。
【
図7】本発明の内部欠陥検査システムの第二の実施形態を示すブロック図である。
【
図8】本発明の内部欠陥検査方法の第二の実施形態(
図7の内部欠陥検査システムが実行する検査方法)を示す全体フローチャート(a)、データベース準備ステップでデータベースを作成する場合の情報の流れを示すブロック図(b)である。
【
図9】あるモデル構造物の表面の、欠陥領域と健全領域との境界部分の温度の変化率Rpと内部欠陥の深さ位置Zfとの関係を示すシミュレーション結果のグラフ(a)、モデル構造物の概要を示す模式図(b)である。
【
図10】欠陥深さ推定ステップにおける情報の流れを示すブロック図(a)、欠陥深さ推定モデルの作成方法を示すブロック図(b)である。
【
図11】モデル構造物関連情報の例を示す図表である。
【
図12】モデル構造物温度変化情報の例を示す図表である。
【
図13】検査対象構造物概要情報の例を示す図表である。
【
図14】検査対象構造物関連情報の例を示す図表(a)、画素Gの温度T及び温度変動ΔTの情報の例を示す図表(b)である。
【
図15】欠陥深さ推定ステップの途中で導出される境界部分の温度の情報の例を示す図表(a)、欠陥深さ推定ステップの推定結果として出力される内部欠陥の深さ及び大きさの情報の例を示す図表(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<<第一の実施形態の内部欠陥検査システム10/内部欠陥検査方法>>
以下、本発明の内部欠陥検査システム及び内部欠陥検査方法の第一の実施形態について、
図1~
図6に基づいて説明する。この実施形態の内部欠陥検査システム10は、コンクリート床版の上面にアスファルト舗装が敷設されて通路を形成している検査対象構造物の上面を撮像した熱画像を分析することによって検査対象構造物の内部欠陥を検査するコンピュータシステムである。内部欠陥検査システム10は、
図1に示すように、温度変動算出部12、欠陥画素抽出部14、欠陥領域特定部16及び欠陥領域表示部18の各機能ブロックを備え、さらに、ディスプレイ等の表示装置20と、ユーザが操作するキーボードやマウス等の情報入力装置22とを備える。
【0028】
本発明の温度測定予測方法の第一の実施形態は、内部欠陥検査システム10が実行する検査方法であり、
図2(a)に示すように、温度変動算出部12が実行する温度変動算出ステップS11、欠陥画素抽出部14が実行する欠陥画素抽出ステップS12、欠陥領域特定部16が実行する欠陥領域特定ステップS13、及び欠陥領域表示部18が実行する欠陥領域表示ステップS14で構成される。
この実施形態の温度測定結果予測方法(及び温度測定結果予測システム10)について、
図2(a)の全体フローチャートに沿って説明するが、その前に、検査対象構造物及び熱画像について説明する。
【0029】
検査対象構造物は、例えば
図3(a)に示す検査対象構造物24のように、コンクリート床版26の上面にアスファルト舗装28を敷設して道路30を形成している橋桁等である。また、道路30の上面の幅方向の中央部に、白色又は黄色のセンターライン32が引かれている。なお、この図では、欄干などの付属的な部材は省略してある。
【0030】
熱画像は、無人機34に搭載したサーマルカメラ36を使用し、検査対象構造物24の上面(道路30の上面)の検査領域38を撮像したものである。
図3(b)の上段に示す熱画像NG38は、整列配置された多数の画素Gによって構成され、各画素Gに温度データ及び座標データが付与されている。
【0031】
道路30の長さ方向に対して平行な軸をX軸、道路30の幅方向に対して平行な軸をY軸とした時、画素Gは、基準点からX軸方向にNx個が順に並び、Y軸方向にNy個が順に並んでいる。ここでは、各画素GにXY座標を付与し、各画素Gを、画素G(kx,ky)[1≦kx≦Nx、1≦ky≦Ny]と表する。また、各画素Gが有する温度データを温度T(kx,ky)と表する。熱画像NG38を分析する際、熱画像NG38は、視覚的に情報を提供する画像というよりも、画像データ(各画素の温度データ及び座標データの集合体)として取り扱われることになる。
【0032】
熱画像NG38は、Nx個の画素GがX軸方向に順に並ぶ行がNy個あり、その中の画素G(1,ky)~G(Nx,ky)の行に着目すると、温度T(1,ky)~T(Nx,ky)の分布は、
図3(b)の下段のグラフのようになる。このグラフを見ると、温度特性曲線の中央部が上向きに緩やかに膨出しており、これが背景技術の項で説明した温度特性曲線の低周波のドリフト成分である。そして、
図3(b)のグラフに表れる低周波のドリフト成分に重畳している高周波の変動成分が、内部欠陥の状況を検出するための重要なデータとなる。
【0033】
<温度変動算出ステップS11/温度変動算出部12>
温度変動算出ステップS11では、熱画像NG38を取得し、温度T(kx,ky)から低周波のドリフト成分をキャンセルして高周波の変動成分を抽出する。具体的には、
図2(b)に示すステップS111,S112を順に行う。
まず、画素G毎に、画素G(kx,ky)に隣接してX軸方向に順に並ぶ規定個数の画素Gの温度Tの平均値(移動平均値)を、ドリフト成分Tav(kx,ky)として算出する[ステップS111]。あるいは、画素G毎に、画素G(kx,ky)を含めてX軸方向に並ぶ規定個数の画素Gの温度Tの平均値(移動平均値)を、ドリフト成分Tav(kx,ky)として算出する[ステップS111]。どちらの移動平均値を使用するかは自由であるが、経験上、ほぼ同様の結果が得られる。画素G(1,ky)~G(Nx,ky)の行についてのドリフト成分Tav(1,ky)~Tav(Nx,ky)は、先に説明した
図3(b)の下段のグラフの中の「低周波のドリフト成分」に相当する。
【0034】
そして、画素G毎に、温度T(kx,ky)からドリフト成分Tav(kx,ky)を差し引いて温度変動ΔT(kx,ky)を算出する[ステップS112]。
図4(a)のグラフは、画素G(1,ky)~G(Nx,ky)の行についての温度変動ΔT(1,ky)~ΔT(Nx,ky)の分布を示している。温度変動ΔT(1,ky)~ΔT(Nx,ky)は、先に説明した「高周波の変動成分」に相当するものであり、ステップS111,S112を行うことによって、この重要なデータを的確に抽出することができる。
【0035】
また、この温度変動算出ステップS11は、低周波のドリフト成分を算出する時に、「Y軸方向(道路30の幅方向)の移動平均」を使用するのではなく、「X軸方向(道路30の長さ方向)の移動平均」を使用する点にも特徴がある。道路30は、長さ方向(X軸方向)にセンターライン32や自動車のタイヤ痕が有るケースが少なくないので、これらが有る部分と無い部分の日射吸収率の違いによって、熱画像NG38に温度ムラが生じる可能性がある。しかし、低周波のドリフト成分を算出する時に「X軸方向(道路30の長さ方向)の移動平均」を使用することによって、温度ムラの影響を最小限に抑えることができる。
【0036】
<欠陥画素抽出ステップS12/欠陥画素抽出部14>
欠陥画素抽出ステップS12では、温度変動算出ステップS11で算出した温度変動ΔT(kx,ky)が基準値Tthを超えている画素G(kx,ky)を、欠陥画素KG(kx,ky)として抽出する。
上記のように、構造物に内部欠陥が有る場合、構造物表面の、内側に内部欠陥が存在する領域(欠陥領域KKR)と内部欠陥が存在しない領域(健全領域KZR)との間の温度差が大きくなる性質がある。そこで、温度変動ΔT(kx,ky)が基準値Tthを越えている画素G(kx,ky)を、欠陥領域KKRに属する可能性が高い欠陥画素KG(kx,ky)だと判断する。
【0037】
この実施形態では、基準値Tthを、各行を構成するNx個の温度変動ΔT(kx,ky)の分布を正規分布とみなした時の標準偏差σのh1倍(h1は、h1>0の定数)の値としている。例えば
図4(a)のグラフにおいて、基準値Tthをσ[h1=1]にした場合と2σ[h1=2]にした場合とを比較すると、基準値Tth=σにした方が欠陥画素KG(kx,ky)の数が多くなっている。これは、基準値Tthを小さくするほど欠陥検出感度が高くなることを意味している。
【0038】
なお、基準値Tthの決め方は他にも考えられ、例えば、基準値Tthを、各行を構成するNx個の温度変動ΔT(kx,ky)の中の、値が大きい方から数えてh2番目(1<h2<Nx)の値にするという決め方や、基準値Tthを、ゼロよりも大きい任意の定数にするという決め方も考えられる。
【0039】
<欠陥領域特定ステップS13/欠陥領域特定部16><欠陥領域表示ステップS14/欠陥領域表示部18>
欠陥領域特定ステップS13では、欠陥画素抽出ステップS12で抽出した欠陥画素KG(kx,ky)の位置情報を基に、熱画像NG38における欠陥領域KKRを特定し、その他の領域を健全領域KZRとする。
例えば、欠陥画素抽出ステップS12で抽出した各欠陥画素KG(kx,ky)の位置をそのまま欠陥領域KKRとする方法や、全部の欠陥画素KG(kx,ky)を囲む領域を欠陥領域KKRとする方法が考えられる。その他、ノイズデータを除去するため、欠陥画素抽出ステップS12で抽出した複数の欠陥画素KG(kx,ky)を、所定のクラスタリングアルゴリズムを適用することによってクラスタリングし、得られたクラスタ又は当該クラスタを囲む領域を欠陥領域KKRとする方法も考えられる。
【0040】
そして、欠陥領域表示ステップS14で、ディスプレイ等の表示装置20に、欠陥領域KKRと健全領域KZRとを互いに異なる色で表した二値化画像40を表示させる。
図4(b)の下段に示す二値化画像40は、基準値Tth=σ[h1=1]にした時の二値化画像で、欠陥領域KKRを黒色で表し、健全領域KZRを白色で表してある。
【0041】
図4(b)の上段の熱画像NG38には、熟練検査員が打音検査を行って検出した主要な欠陥領域KKRを四角形の枠で囲んで表してある。二値化画像40に表された欠陥領域KKRは、概ね、現実の欠陥領域(打音検査で検出された欠陥領域KKR)と類似した位置にあることが分かる。
【0042】
なお、欠陥領域表示ステップS14では、基準値Tth=σの時の二値化画像40と基準値Tth=2σの時の二値化画像40とを重ねて表示させるようにしてもよい。この場合、欠陥領域KKRを互いに異なる色(例えば黒色と赤色)で表し、健全領域KZRの色を互いに同じ色(例えば白色)で表すことによって、ユーザが、基準値Tthの違いよる欠陥領域KKRの違いを視覚的に認識することができる。
【0043】
<上述したステップS11~S13についての補足>
ここまで、説明を分かりやすくするため、ステップS11~S13の内容について、「特定の検査領域38の熱画像NG38を分析し、検査領域38の中の欠陥領域KKRを特定する。」という流れで説明した。しかし、一般的な検査対象構造物24は非常に大型なので、多くの場合、検査対象構造物24の表面を複数個の検査領域38に区分し、検査領域38毎に撮像した複数個の熱画像NG38を分析し、検査対象構造物24全体の検査を行うことになる。
【0044】
したがって、検査対象構造物24全体の欠陥領域KKRを特定するまでの流れは、例えば、「ステップS11の前に全部の熱画像NG38を合成して全体熱画像のデータを作成し、全体熱画像のデータに対してステップS11~S13を順に実行して検査対象構造物24全体の欠陥領域KKRを特定する」という流れが考えられる。また、「各熱画像NG38に対して各ステップS11~S13を個別に実行し、検査領域38毎に欠陥領域KKRを特定した後、その結果を合成して検査対象構造物24全体の欠陥領域KKRとする」という流れも考えられる。どちらの流れを選択しても、ほぼ同様の結果が得られる。
複数個の熱画像NG38から得られる情報をどの段階で合成するかは自由であり、最終的に、検査対象構造物24全体の欠陥領域KKRが特定できればよい。
【0045】
<第一の実施形態についての検証試験の結果>
次に、この実施形態の内部欠陥検査方法(及び内部欠陥検査システム10)の欠陥検出精度を検証するために実施した検証試験について説明する。検証試験は、実際に稼働している特定の構造物について、本実施形態の内部欠陥検査方法を用いて検出した欠陥領域KKRと、熟練検査員による打音検査で検出した欠陥領域KKRとを比較し、前者の欠陥領域KKRが後者の欠陥領域KKRにどれだけ適合しているかを評価した。
【0046】
ここでは、面積ベースの適合率と件数ベースの適合率という2つの指標で評価することにした。面積ベースの適合率は、構造物全体の表面積(欠陥領域KKRの面積[R]と健全領域KZRの面積[S]の合計)を分母とし、本実施形態の内部欠陥検査方法による検出結果と打音検査による検出結果とが一致した部分の面積(欠陥領域KKRの面積[A]と健全領域KZRの面積[D]の合計)を分子として算出される値である。また、件数ベースの適合率は、打音検査で検出された欠陥領域KKRの件数[R]を分母とし、件数[R]の中で、本実施形態の内部欠陥検査方法によって検出された内部欠陥KKRの件数[A]を分子として算出される値である。
【0047】
図5(a)のグラフは、欠陥画素抽出ステップS12の基準値Tthをσ[h1=1]にした場合の検証結果で、面積ベースの適合率が概略85%以上となり、件数ベースの適合率は85%だった。また、
図5(b)のグラフは、欠陥画素抽出ステップS12の基準値Tthを2σ[h1=2]にした場合の検証結果で、面積ベースの適合率が概略85%以上となり、件数ベースの適合率は62%だった。
【0048】
面積ベースの適合率に着目すると、基準値Tthがσの時も2σの時も、概ね85%以上という良好な結果が得られた。本発明の第一の目標は、熱画像を分析して欠陥領域を簡易的に特定し、打音検査等の厳密な検査が急がれる構造物を効率よく絞り込むことである。したがって、面積ベースの適合率が85%以上であれば、本実施形態の内部欠陥検査方法は十分に実用性があると言える。
【0049】
ちなみに、件数ベースの適合率について見ると、基準値Tthをσ[h1=1]にした方が、2σ[h2=2]にするよりも良い結果(85%)が得られたが、基準値Tthをσ[h1=1]よりもさらに小さくすることは検討しなかった。なぜなら、基準値Tth=σ[h1=1]の時は2σ[h1=2]の時よりも欠陥検出感度が高いため、誤って欠陥領域KKRだと判断した件数[C]も増加しており、欠陥検出感度をこれ以上高くするのは好ましくないからである。現状、件数ベースの適合率が85%に留まっているのは、熱画像NG38に含まれるノイズデータの影響が一因になっていると思われる。したがって、例えば、もっと高性能なサーマルカメラ36を使用する等して熱画像NG38に含まれるノイズデータを減らすことができれば、件数ベースの適合率がさらに向上すると考えられる。
【0050】
また、基準値Tthの設定方法についても改善の余地がある。上記の検証試験では、基準値Tthを標準偏差σのh1倍(h1>0)にするという決め方を選択した。これは、統計的且つ客観的な評価を可能にするためであるが、その一方で、
図6(a)の右側のグラフに示すように、健全領域KZRが多いエリアに存在する画素G(kx,ky)を、過度に厳しく欠陥画素KG(kx,ky)だと判定している可能性がある。
【0051】
そこで、第一の基準値Tth1と第二の基準値Tth2とを設け、第一の基準値Tth1を標準偏差σのh1倍(h1は、h1>0の定数)の値に設定し、第二の基準値Tth2をゼロよりも大きい任意の定数に設定し、温度変動ΔT(kx,ky)が基準値Tth1,Tth2の両方を超えている画素G(kx,ky)を欠陥画素KG(kx,ky)として抽出するのがよいと考えられる。これによって、
図6(b)の右側のグラフに示すように、健全領域KZRが多いエリアにある画素G(kx,ky)を、欠陥領域KKRが多いエリアにある画素G(kx,ky)と同等の厳しさで欠陥画素KG(kx,ky)だと判定することができるので、件数ベースの適合率がさらに向上すると考えられる。
【0052】
<第一の実施形態についてのまとめ>
以上説明したように、この実施形態の内部欠陥検査方法及び内部欠陥検査システム10は、検査対象構造物24(コンクリート床版26の上面にアスファルト舗装28が敷設されて道路30を形成している構造物)の上面を撮像した熱画像NG38の温度データを分析する時、温度データに含まれる低周波のドリフト成分等の誤差要因を独特な手法でキャンセルして分析するので、内部欠陥の有無や、内側に内部欠陥が存在している欠陥領域KKRの位置を容易に且つ高精度に検出することができる。
【0053】
<<第二の実施形態の内部欠陥検査システム42/内部欠陥検査方法>>
次に、本発明の内部欠陥検査システム及び内部欠陥検査方法の第二の実施形態について、
図7~
図15に基づいて説明する。ここで、第一の実施形態と同一の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
この実施形態の内部欠陥検査システム42は、
図7に示すように、上記の内部欠陥検査シシテム10と同様の構成を備え、さらに欠陥深さ推定部44及びデータベース46を追加して新規な機能を付加したコンピュータシステムである。新規な機能とは、熱画像NG38を基に、検査対象構造物24で発生している内部欠陥NKの深さ位置を推定する機能である。
【0054】
本発明の温度測定予測方法の第二の実施形態は、内部欠陥検査システム42が実行する検査方法であり、
図8(a)に示すように、上述した温度変動算出ステップS11、欠陥画素抽出ステップS12、欠陥領域特定ステップS13及び欠陥領域表示ステップS14の他に、データベース46を準備するデータベース準備ステップS21と、欠陥深さ推定部44が実行する欠陥深さ推定ステップS22とが追加されている。
【0055】
この後、この実施形態の温度測定結果予測方法(及び温度測定結果予測システム42)について、新たに追加された2つのステップS21,S22を中心に説明するが、その前に、内部欠陥の深さ位置を推定する時の技術的根拠となる特性について説明する。
【0056】
図9(a)のグラフは、シミュレーションモデルであるモデル構造物Xの表面の、欠陥領域KKR及び健全領域KZRの境界部分KYBの温度の変化率Rpと内部欠陥NKの深さ位置Zfとの関係を示す熱伝導解析のシミュレーション結果のグラフで、
図9(b)は、モデル構造物Xの概要を示す模式図である。本願発明者は、
図9(a)、(b)に示すようなシミュレーションを様々なモデル構造物Xを用いて実施し、境界部分KYBの表面温度の変化率Rp(=温度勾配)と内部欠陥NKの深さ位置Zfとの間に相関があることを突き止めた。
【0057】
表面温度の変化率Rpを数値化する方法は複数考えられるが、ここでは、
図9(a)の右側のグラフに示すように、表面温度の変化率Rpを、Rp=Ta/Tbという形で数値化した。Taは、「欠陥領域KKRの主温度」と「欠陥領域KKR及び健全領域KZRの境界点の温度」との差分で、Tbは、「欠陥領域KKRの主温度」と「健全領域KZRの主温度」との差分である。したがって、表面温度の変化率Rp=Ta/Tbは、温度勾配が大きい場合に大きくなり、温度勾配が小さい場合に小さくなる。
【0058】
図9(a)の左側のグラフは、横軸が内部欠陥NKのX軸方向の長さ(2×Lx)で、縦軸が表面温度の変化率Rpであり、実線の特性は、内部欠陥NKが深さZf=45mmの位置に有る時の特性、すなわち、この実施形態ではアスファルト舗装28とコンクリート床版26との境界部に内部欠陥NK(空隙)が有る時の特性である。また、同グラフの破線の特性は、内部欠陥NKが深さZf=85mmの位置に有る時の特性、すなわち、アスファルト舗装28よりも深いコンクリート床版26の内部に内部欠陥NK(空隙)が有る時の特性である。このグラフから、内部欠陥NKの長さ(2×Lx)が一定以上であれば、表面温度の変化率Rpと内部欠陥NKの深さ位置Zfの間に強い相関が生じることが分かる。
【0059】
したがって、「表面温度の変化率Rpと深さ位置Zfとの相関関係」を事前に把握しておけば、その相関関係を表した数式に、熱画像NG38から導出した温度の変化率Rpを代入することによって、又は、熱画像NG38から導出した温度の変化率Rp及び平均値Tmeanを代入することによって、深さ位置Zfを容易に算出することができ、内部欠陥NKの大きさについても容易に算出することができる。あるいは、相関関係に基づいて変換テーブルを作成し、その変換テーブルを用いて導出してもよい。ちなみに、平均値Tmeanは、熱画像NG38の各画素Gの温度Tの平均値である。また、表面温度の変化率Rpは、温度勾配の大小を数値化したものであればよく、Ta/Tb以外の指標を用いてもよい。
【0060】
なお、構造物の表面温度は、外気温の経時変化の影響を受ける点に注意が必要である。例えば、時刻12:00(外気温20℃)における構造物の表面温度は、その日の時刻6:00の外気温が0℃だった場合と、その日の時刻6:00の外気温が10℃だった場合とで、多少違ってくる。したがって、深さ位置Zfをより高精度に特定するためには、外気温の履歴も考慮して熱画像NG38を分析することが好ましい。以下に説明するデータベース準備ステップS21及び欠陥深さ推定ステップS22では、外気温の経時変化についても考慮している。
【0061】
<データベース準備ステップS21/データベース28>
データベース準備ステップS21では、
図8(b)に示すように、モデル構造物関連情報及びモデル構造物温度変化情報が相互に紐付けて登録されたデータベース46を準備する。モデル構造物Xは、検査対象構造物24を模擬した仮想の構造物であり、熱伝導解析用のシミュレーションモデルである。
【0062】
まず、モデル構造物関連情報について説明する。モデル構造物関連情報は、モデル構造物X(モデル構造物1,2,・・・)についての熱伝導解析シミュレーションを行うための数値情報で、少なくとも、モデル構造物Xの構造上の特徴を示す構造情報と、当該モデル構造物Xの設置場所の環境温度の特徴を示す環境温度情報と、当該モデル構造物Xの上面への日射量に関する特徴を示す現場情報と、当該モデル構造物Xにおける内部欠陥NKの有無及び内部欠陥NKの特徴を示す欠陥情報とが含まれている。
【0063】
図11に示す例では、構造情報の項目として、アスファルト及びコンクリートの厚み、アスファルト及びコンクリートの熱伝導率の値等が設定され、環境温度情報の項目として、月毎・時刻毎の外気温のデータ等が設定されている。外気温のデータは、例えば、気象庁が発表している適宜の場所のデータを使用するとよい。
【0064】
また、現場情報の項目として、アスファルトの日射吸収率の値、月毎・時刻毎の全天日射量のデータ等が設定されている。全天日射量のデータは、例えば、気象庁が発表している適宜の場所のデータを使用するとよい。アスファルトの日射吸収率や全天日射量の値は、熱伝導解析に必要な相当外気温を算出する際に使用される。さらに、内部欠陥NK(空隙)が存在すると想定する場合、欠陥情報の項目として、空気層の深さ位置、厚み、長さ、熱伝導率等の値等が設定される。
【0065】
次に、モデル構造物温度変化情報について説明する。モデル構造物温度変化情報は、モデル構造物関連情報を基に熱伝導解析シミュレーションを行って算出された各部の温度分布のデータで、
図12に示すように、モデル構造物X(モデル構造物1,2,・・・)の各部の温度を、月毎・時刻毎に算出したものである。
【0066】
算出される温度分布のデータには、少なくとも、モデル構造物Xの表面の欠陥領域KKR及び健全領域KZRの温度データが含まれている。モデル構造物Xの内側に空隙等の内部欠陥NKが存在すると、構造物表面の欠陥領域KKRと健全領域KZRとの間の温度差が大きくなり、2つの領域の境界部分の等温線48が密になる傾向があるので、境界部分の等温線48の粗密の程度が重要な情報になる。
【0067】
このように、データベース46には、
図11に示すモデル構造物関連情報及び
図12に示すモデル構造物温度変化情報が相互に紐付けて登録されており、これらの情報は、後述する欠陥深さ推定モデル44a(機械学習モデル)を作成する時の教師データとなる。
ちなみに、「データベース46を準備する」というのは、データベース46を作成してシステム内に格納すること、既にシステム内に格納されているデータベース46を使用可能な状態にすること、他の装置や記憶媒体に格納されているデータベース46の情報を取得可能な状態にすること等を意味している。
【0068】
<欠陥深さ推定ステップS22/欠陥深さ推定部26>
欠陥深さ推定ステップS22は、
図8(a)に示すように、欠陥領域特定ステップS13及びデータベース準備ステップS21の後に行うステップである。
欠陥深さ推定ステップS22では、
図10(a)に示すように、所定の欠陥深さ推定モデル44a(機械学習モデル)を準備し、欠陥深さ推定モデル44aに、検査対象構造物関連情報と、検査対象構造物24の熱画像NG38の温度T(kx,ky)の情報又は温度変動算出ステップS12で算出した温度変動ΔT(kx,ky)の情報又はその両方の情報とを入力することによって、検査対象構造物24で発生している内部欠陥NKの深さ位置Zfを推定する。
【0069】
まず、欠陥深さ推定モデル44aについて説明すると、欠陥深さ推定モデル44aは、
図10(b)に示すように、データベース46に格納されているモデル構造物関連情報及びモデル構造物温度変化情報を教師データとする機械学習により作成された機械学習モデルである。したがって、欠陥深さ推定モデル44aは、必然的に、「表面温度の変化率Rpと深さ位置Zfとの相関関係」及び「外気温の経時変化」を考慮した推定を行うことになる。なお、機械学習のアルゴリズム等は特に限定されず、例えば重回帰分析の手法を用いて作成したモデル式を使用してもよいし、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク等の手法を用いることも可能である。
【0070】
ちなみに、「欠陥深さ推定モデル44aを準備する」というのは、欠陥深さ推定モデル44aを作成してシステム内に格納すること、既にシステム内に格納されている欠陥深さ推定モデル44aを使用可能な状態にすること、他の装置や記憶媒体に格納されている欠陥深さ推定モデル44aを使用可能な状態にすること等を意味している。
【0071】
次に、欠陥深さ推定モデル44aに入力する検査対象構造物関連情報について説明する。
図14(a)は、検査対象構造物関連情報の例を示しており、検査対象構造物関連情報の各項目は、
図11に示すモデル構造物関連情報の中の欠陥情報以外の情報(構造情報、環境温度情報及び現場情報)に対応した数値情報である。
【0072】
検査対象構造物関連情報[=数値情報]は、基本的にはユーザから提供されるものであるが、項目の中には、ユーザが専門知識を有していないと値を特定しにくいものがある。そこで、ユーザの負担を軽減するため、この実施形態では、ユーザが提供するのはテキスト情報[=文字情報又は数値情報]である検査対象構造物概要情報とし、提供された検査対象構造物概要情報から検査対象構造物関連情報を導出する処理を行う。
【0073】
この点について、
図13に示す検査対象構造物概要情報の例と
図14(a)に示す検査対象構造物関連情報の例とを対比する形で説明すると、例えば、検査対象構造物関連情報の中の「アスファルトの厚み」の項目は、専門知識を有しないユーザでも比較的容易に値を特定できるので、ユーザから「25」という検査対象構造物概要情報[=数値情報]を取得し、そのまま検査対象構造物関連情報[=数値情報]として使用する。
【0074】
一方、例えば、検査対象構造物関連情報の中の「アスファルトの熱伝導率」の項目は、ユーザが専門知識を有しないと値を特定することが難しい。そこで、ユーザから「標準(アスファルトの密度)」、「含水率少ない(アスファルトの含水状態)」という検査対象構造物概要情報[=文字情報]を取得し、これらを基に、「1.45(アスファルトの熱伝導率)」という検査対象構造物関連情報[=数値情報]を自動的に導出する。導出方法は特に限定されないが、例えば、あらかじめ、特定の文字情報を特定の数値情報に変換する変換テーブルを設けておく等の方法が考えられる。
【0075】
また、例えば、検査対象構造物関連情報の中の「時刻毎の外気温」の項目は、ユーザが過去の気象庁のデータを調査すれば数値を特定できるが、いちいち調査するのは面倒である。そこで、ユーザから、「4月2日(検査実施日)」及び「富山市〇〇地区(設置場所)」という検査対象構造物概要情報[=文字情報]を取得し、これらを基に、時刻毎の外気温データである検査対象構造物関連情報[=数値情報]を自動的に導出する。導出方法は特に限定されないが、例えば、あらかじめ、気象庁が発表した全国各地の気温データをデータベースに蓄積しておいて、文字情報を基にデータベースを自動検索し、該当する数値情報を抽出する等の方法が考えられる。
【0076】
その他、検査対象構造物関連情報の中の「アスファルトの日射吸収率」、「時刻毎の全天日射量」等の項目も、ユーザの負担を軽減するため、ユーザから文字情報の検査対象構造物概要情報を取得し、これらを基に、検査対象構造物関連情報[=数値情報]を自動的に導出する。なお、ユーザが全項目の数値を特定できる場合は、ユーザが全項目の検査対象構造物関連情報[=数値情報]を提供する構成にしてもよい。
【0077】
次に、欠陥深さ推定モデル44aに入力する検査対象構造物24の温度の情報について説明すると、温度の情報は、
図14(b)に示すように、熱画像NG38の各画素Gの温度T(kx,ky)の情報、又は各画素Gの温度変動ΔT(kx,ky)の情報、又はその両方である。上記のように、この欠陥深さ推定ステップS22は、「表面温度の変化率Rpと深さ位置Zfとの相関関係」に基づいて内部欠陥NKの深さ位置Zfを推定するので、検査対象構造物24の「表面温度の変化率Rp」を推定可能(又は算出可能)にする情報が必要になる。したがって、少なくとも温度T又は温度変動ΔTの情報があればよく、両方の情報があれば、さらに効率よく「表面温度の変化率Rp」を推定する(又は算出する)ことができる。
【0078】
図15(a)は、欠陥深さ推定モデル44aが推定結果を出力する途中段階で導出される時刻毎の温度の情報の例、すなわち、検査対象構造物24の表面の欠陥領域KKR(欠陥領域1,2,・・・)の、時刻毎の温度の情報の例を示している。そして、欠陥深さ推定モデル44aは、この温度の情報を基に、内部欠陥NK(内部欠陥1,2,・・・)毎の深さ位置Zfを推定し、
図15(b)に示すようにユーザが理解しやすい形式に整理して出力する。また、内部欠陥NKの大きさも容易に算出できるので、内部欠陥NKの大きさも合わせて出力してもよい。
【0079】
<第二の実施形態についてのまとめ>
以上説明したように、この実施形態の内部欠陥検査方法及び内部欠陥検査システム42によれば、第一の実施形態と同様の効果を得ることができ、さらに、検査対象構造物24で発生している内部欠陥NKの深さ位置Zf等を高精度に推定することができる。
【0080】
<<その他の実施形態や変形例など>>
なお、本発明の内部欠陥検査方法及び内部欠陥検査システムは、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態の説明では、検査対象構造物24の熱画像NG38を、無人機に搭載したサーマルカメラ36で撮像すると説明したが、熱画像の撮像方法は自由であり、熱画像のサイズや画素の数(Nx×Ny)も特に限定されない。
【0081】
上記実施形態の温度変動算出ステップ(温度変動算出部)では、X軸方向に並ぶNx個の画素Gの温度Tに含まれる低周波のドリフト成分Tav(kx,ky)を算出する時に移動平均法を使用しているが、これ以外の手法を使用してもよい。例えば、X軸方向に並ぶNx個の画像Gの温度Tに対して多項式によるフィッティングを行ってドリフト成分Tav(kx,ky)を算出する方法が考えられる。移動平均法は非常に簡易で使いやすい手法ではあるが、移動平均を算出する時の規定個数の画素Gの中に、ドリフト成分以外の温度情報を有した画素Gが多数存在する場合に、ドリフト成分を適切に算出できなくなる。これに対して、多項式によるフィッティングの手法を使用すれば、処理は多少複雑になるものの、より的確にドリフト成分を算出することができる。なお、フィッティングは、多項式を用いるのが好適であるが、条件が合えば、三角関数、指数関数、シグモイド関数などの各種の関数を用いてもよいし、ローパスフィルタを用いたフィッティング処理を行ってもよい。
【0082】
また、
図11、
図13及び
図14(a)に示すモデル構造物関連情報、検査対象構造物概要情報及び検査対象構造物関連情報の具体的な内容(項目や数値)は、あくまでも例を示したものであり、熱伝導解析シミュレーションのやり方や構造物の特徴に合わせて適宜変更されるものである。
【符号の説明】
【0083】
10,42 内部欠陥検査システム
12 温度変動算出部
14 欠陥画素抽出部
16 欠陥領域特定部
18 欠陥領域表示部
20 表示装置
22 情報入力装置
24 検査対象構造物
26 コンクリート床版
28 アスファルト舗装
30 道路(通路)
38 検査領域
40 二値化画像
44 欠陥深さ推定部
44a 欠陥深さ推定モデル
46 データベース
S11 温度変動算出ステップ
S12 欠陥画素抽出ステップ
S13 欠陥領域特定ステップ
S14 欠陥領域表示ステップ
S21 データベース準備ステップ
S22 欠陥深さ推定ステップ
G(kx,ky) 画素
KG(kx,ky) 欠陥画素
KKR 欠陥領域
KYB 境界部分
KZR 健全領域
NG38 検査領域の熱画像
NK 内部欠陥
Rp 表面温度の変化率
T(kx,ky) 各画素の温度
Tav(kx,ky) 各画素の温度移動平均
Tmean 熱画像の各画素の温度の平均値
ΔT(kx,ky) 温度変動
【要約】
【課題】アスファルト舗装の表面を撮像した熱画像を分析することによって、コンクリート床版の内部欠陥を高精度に検出できる内部欠陥検査方法及び検査システムを提供する。
【解決手段】熱画像NG38を構成する画素G毎に、X軸方向に並ぶNx個の画素Gの温度Tに含まれる低周波のドリフト成分Tav(kx,ky)を算出し、温度T(kx,ky)からドリフト成分Tav(kx,ky)を差し引いて高周波の温度変動ΔT(kx,ky)を算出する温度変動算出ステップS11を備える。温度変動ΔT(kx,ky)が基準値Tthを超えている画素G(kx,ky)を欠陥画素KG(kx,ky)として抽出する欠陥画素抽出ステップS12を備える。欠陥画素抽出ステップS12で抽出した欠陥画素KG(kx,ky)の位置情報を基に、検査対象構造物24を上面から見た時の、コンクリート床版26に内部欠陥NKが発生している欠陥領域KKRを特定する欠陥領域特定ステップS13を備える。
【選択図】
図2