(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-18
(45)【発行日】2025-08-26
(54)【発明の名称】多発性骨髄腫治療用の抗BCMA CAR T細胞
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20250819BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250819BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250819BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20250819BHJP
A61K 35/17 20250101ALI20250819BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20250819BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20250819BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250819BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20250819BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C12N15/62 Z
C12N5/10
A61K38/17
A61K35/17
A61K39/00 H
A61P35/02
A61P37/04
C07K16/28
(21)【出願番号】P 2022506455
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2020071831
(87)【国際公開番号】W WO2021023721
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-08-03
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510335476
【氏名又は名称】フンダシオ・クリニック・ペル・ア・ラ・レセルカ・ビオメディカ
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO CLINIC PER A LA RECERCA BIOMEDICA
(73)【特許権者】
【識別番号】513295630
【氏名又は名称】ホスピタル クリニック デ バルセロナ
(73)【特許権者】
【識別番号】519178423
【氏名又は名称】インスティトゥート ディンベスティガシオンス ビオメディケス アウグスト ピ イ スニェール - イディバプス
(73)【特許権者】
【識別番号】513295641
【氏名又は名称】ユニベルシタ デ バルセロナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルティン アントニオ ベアトリス
(72)【発明者】
【氏名】ウルバノ イスピッツア アルバロ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス アミル ロレーナ
(72)【発明者】
【氏名】スニェ ロドリゲス ギリェルモ
(72)【発明者】
【氏名】フアン オテロ マネル
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/211900(WO,A1)
【文献】特表2017-515470(JP,A)
【文献】特表2015-535002(JP,A)
【文献】Julia BLUHM et al.,Molecular Therapy,2018年,Vol. 26, No. 8,pp. 1906-1920
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
C07K 19/00
C12N 5/10
A61K 38/17
A61K 35/17
A61K 39/00
A61P 35/02
A61P 37/04
C07K 16/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BCMA標的化部位を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)であって、
前記BCMA標的化部分は、VHドメイン及びVLドメインを含み、該VHドメインは、配列番号1のアミノ酸配列を含み、
該VLドメインは、配列番号2のアミノ酸配列を含む、
キメラ抗原受容体。
【請求項2】
前記VHドメイン及びVLドメインが、配列番号1及び2のアミノ酸配列からそれぞれなる、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記BCMA標的化部分は、配列番号3のアミノ酸配列を含む、請求項2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記BCMA標的化部分は、一本鎖可変フラグメント(scFv)BCMA標的化部分であり、VLドメイン及びVHドメインを含み、該VHドメイン及び該VLドメインが配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列をそれぞれ含む、請求項2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
a.VLドメイン及びVHドメインを含み、該VHドメイン及び該VLドメインが配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列をそれぞれ含む、一本鎖可変フラグメント(scFv)BCMA標的化部分と、
b.配列番号9のアミノ酸配列を含むヒンジドメインに結合した膜貫通ドメインと、 c.配列番号11のアミノ酸配列を含む共刺激シグナル伝達ドメインと、
d.配列番号10のアミノ酸配列を含む細胞内シグナル伝達ドメインと、
を含む、請求項4に記載のキメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項6】
前記キメラ抗原受容体(CAR)が配列番号13のアミノ酸配列のみからなる、請求項5に記載のCAR。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のCARをコードする核酸。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸を含む細胞。
【請求項9】
前記細胞がT細胞である、請求項8に記載の細胞。
【請求項10】
複数種の請求項8に記載の細胞と、薬学的に許容可能な担体又は希釈剤とを含む医薬組成物。
【請求項11】
医薬である、請求項9に記載の細胞、又は請求項1
0に記載の医薬組成物。
【請求項12】
多発性骨髄腫の治療方法において使用される、請求項8に記載の細胞、又は請求項10に記載の医薬組成物であって、前記方法が、前記細胞又は組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む、請求項8に記載の細胞、又は請求項10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性骨髄腫の治療薬を提供する。特に、本発明は、B細胞成熟抗原を標的とすることができるキメラ抗原受容体(CAR)T細胞を提供する。
【背景技術】
【0002】
多発性骨髄腫(MM)は依然として不治の血液悪性腫瘍であり、全ての癌の1%及び全ての血液悪性腫瘍の15%~20%を占めており、過去10年間に新規症例では毎年平均0.8%増加している。MMは、骨髄(BM)内の悪性形質細胞がクローン的に増加し、血液及び/又は尿中にモノクローナル免疫グロブリン(Ig)が過剰に産生され、高カルシウム血症、感染症、及び臓器機能不全を含む臨床症状を伴う溶骨性病変を引き起こすことを特徴とする。MMの自然経過は難治性疾患まで再燃し、生存のプラトーに達せず、自己幹細胞移植(ASCT)後5年~10年を超えて持続的完全寛解(CR)を達成した患者は10%未満である。さらに、高用量化学療法とそれに続くASCTの後に患者が治癒することはほとんどなく、重要なことに、CRを達成した患者はCRを得られなかった患者よりも生存期間が長い。したがって、R/R MM患者、特に細胞遺伝学的に有害な高リスク患者の生存率を向上させるには、新たな戦略が必要である。
【0003】
近年、腫瘍細胞に発現した抗原を認識するために遺伝子修飾された自己T細胞を注入することに基づくキメラ抗原受容体(CAR)T細胞免疫療法により、或る特定の血液悪性腫瘍の治療法に変化があった。具体的には、急性リンパ芽球性白血病(ALL)及びリンパ腫において、CD19を標的としたこの治療は優れた応答(responses:奏効)を達成し、FDAによるこれらの新規治療法の承認に至った。MMでは、B細胞の成熟及び生存の調節に関与する膜貫通型糖タンパク質であり、成熟B細胞及び形質細胞に特異的かつ限定的な発現を伴う、B細胞成熟抗原(BCMA)が、CART細胞免疫療法の最も有望な標的となっている。
【0004】
MM患者において現在進行中のCARTBCMA細胞を用いた臨床試験はいずれも、CART19と比較して、応答を達成するためにより高用量のCART細胞(150×106のCART細胞)を必要とし、応答を得るためにより低い用量が必要とされていることを示した。さらに、非常に良好な部分奏効の数が経時的に完全奏効へと進むにつれて、経時的に応答が深くなることが示されている。さらに、CART細胞の早期消失による再燃を避けることを目的として、CART細胞免疫療法では、マウスCARの代わりにヒト化又はヒトCARを使用することが現在の傾向となっている(非特許文献1、非特許文献2)
【0005】
ここでは、B細胞悪性腫瘍の多施設臨床試験第II相に既に使用されているCART19(ARI1)(非特許文献3)から開始して、本発明者らは、公的医療システムにおいて患者が使用することができる、BCMAに対するマウスCART細胞(ARI2m)を作製した。in vitro及びin vivoでの有効性を確認すると、本発明者らは、ARI2mをARI2hヘとヒト化した。ARI2mとARI2hの両方の有効性及び炎症反応を比較すると、両方のCARが同等の有効性を示したが、ARI2hの炎症プロファイルの低下が観察された。さらに、本発明らの施設でのGMP臨床規模への拡大は、両方のCARで成功裏に達成された。最後に、ARI2活性における可溶性BCMA(sBCMA)の影響を分析し、sBCMAがどのようにCART活性に悪影響を及ぼし得るかを示した。これら全ての結果により、スペインで本発明者らのARI2h細胞を用いたMM患者を対象とした多施設臨床試験の実施が可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sommermeyer D, Hill T, Shamah SM, et al. Fully human CD19-specific chimeric antigen receptors for T-cell therapy. Leukemia. 2017;31(10):2191-2199
【文献】Turtle CJ, Hanafi LA, Berger C, et al. CD19 CAR-T cells of defined CD4+:CD8+ composition in adult B cell ALL patients. J Clin Invest. 2016;126(6):2123-2138
【文献】Castella M, Boronat A, Martin-Ibanez R, Rodriguez V, Sune G, Caballero M, et al. Development of a Novel Anti-CD19 Chimeric Antigen Receptor: A Paradigm for an Affordable CAR T Cell Production at Academic Institutions. Mol Ther Methods Clin Dev. 2019 Mar 15;12:134-44
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】多発性骨髄腫(MM)細胞に対するCARTBCMAマウス(ARI2m)の設計及び機能特性決定を示す図である。(A)ARI2mの設計。(B)凍結保存前後のARI2細胞及びNT T細胞の形質導入効率。(C)2つのMM細胞株(ARP1及びU266)及び1つの非骨髄腫細胞株(K562)に対するARI2の細胞毒性アッセイ。ARP1及びU266(MM細胞株)、並びにK562(CML)に対する限外希釈細胞毒性アッセイを36時間(D)及び72時間(E)において1:1~0.125:1の比率(T細胞:腫瘍細胞株)で実施した。(F)24時間及び48時間の共培養(T細胞及びARP1細胞)後のIFNγ、IL-6及びTNF-αのサイトカインプロファイル。(G~K)ARI2m細胞のin vivoでの有効性:(G):実験計画の図、並びにARI2mで処理したマウス、対NT T細胞群で処理したマウス、対未処理群の週毎の生物発光(H)及び全生存率(I)による疾患進行の定量。(J)実験終了時のマウスの骨髄(BM)及び脾臓のフローサイトメトリー。(K)ARI2mで処理したマウスのBM及び脾臓におけるT細胞及びCART細胞の総量のパーセンテージ。(L)ARI2m又はNT T細胞で処理した後のマウス血清からの可溶性BCMA(sBCMA)ELISA。
【
図2】ARI2mのARI2hへのヒト化、及びARI2m対ARI2hの比較を示す図である。(A)BLAST又はGermlineのアルゴリズムに基づくヒト化ARI2におけるscFvの重鎖と軽鎖のアミノ酸不均衡(amino acid disparity)の概略図。(B)ARI2m対両方のヒト化バージョン(Blast及びGermline)の限界希釈細胞毒性アッセイ。(C)ARP1(MM)及びK562(CML)に対してマウスのARI2とヒト化したARI2とを比較した長期細胞毒性アッセイ、並びにそのIFNγ産生。(D~I)in vivoでの結果:それぞれ、初期モデル(D)及び進行モデル(E)における週毎の生物発光による疾患の進行、並びにその定量(F)。(G)初期及び進行した疾患モデルにおける未処理、ARI2m及びARI2hのマウス群の全生存率を表すカプラン-マイヤー曲線。(H)初期及び進行の両方の疾患モデルについてBM及び脾臓で見られるCD3+T細胞集団の総CD3+T細胞及びARI2細胞のパーセンテージ。(I)初期疾患モデルでは3日目と31日目、及び進行疾患モデルでは5日目と21日目のマウス血清からのIFNγのELISA。
【
図3】ARI2m対ARI2hのT細胞プロファイル及び炎症反応を示す図である。(A)反復抗原刺激アッセイの概略図。(B)4つの連続したチャレンジの間のARI2m、ARI2h、及びNT T細胞のCD4/CD8 T細胞比プロファイル、並びにCD4又はCD8 T細胞サブセットにおけるCART細胞のパーセンテージ(C)。(D)同一のバフィーコートからの自己単球及びT細胞単離、並びにその増加、分化及びMM細胞株との共培養の概略図。(E)マクロファージを併用する又は併用しないARP1細胞に対するARI2mの細胞毒性、及び炎症誘発性サイトカイン(IL6、TNFα及びIL1β)の産生(F)。(G)ARI2m/ARI2hをマクロファージ及びARP1と共培養した後のIFNγ、IL6、TNFα及びIL1βの48時間にわたるサイトカイン産生。
【
図4】ARI2m及びARI2hの臨床産生及び活性を示す図である。ARI2m細胞及びARI2h細胞(A及びB)の臨床的増加は、増加終了時に達成されたT細胞の総数(左)及び達成されたCART細胞のパーセンテージ(右)を示す。(C)ARI2m細胞及びARI2h細胞の4つの臨床的増加の中央値。結果は、増加の終了時に達成されたARI2細胞のパーセンテージ及び総数を示す。(D)増加の終了時におけるARI2m細胞とARI2h細胞の両方のU266 MM細胞株に対する細胞毒性アッセイ。
【
図5】可溶性BCMAはARI2活性に影響を与えることを示す図である。(A)5名の意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)、診断時(Dx)及び再燃時のMMの患者に由来するsBCMAのELISA。(B)MM細胞をcell tracker CMACで染色し、BCMAをモノクローナル抗TNRSF17で染色した共焦点蛍光画像。(C及びD)cell tracker CMACで染色されたARI2m、及びGFPでBCMAを過剰発現するARP1 MM細胞の3時間にわたる2つの異なるin vivoタイムラプス実験からの代表画像。(E)BCMAに対する抗体(Ab)を用いて又はそれを用いずに、組換えBCMAタンパク質(BCMA)を添加した、ARP1 MM細胞と共培養されたARI2mの細胞毒性アッセイ及びIFNγ産生(F)。(G)DAPTを用いる又はそれを用いない、ARP1 MM細胞株単独又はARI2/NT T細胞との共培養におけるBCMAのMFI、及びそのsBCMA定量(H)。(I)トランスウェル(TW)を用いる又はそれを用いない細胞毒性アッセイの概略図。ウェルでARI2m/NT T細胞とARP1細胞株との共培養を行い、sBCMAの連続放出源として追加のARP1細胞をTWに添加する。DAPTも並行して添加した。(J)(I)に示す実験の細胞毒性の結果。
【
図6】非常に進行した疾患モデルにおけるARI2m対ARI2hの更なる比較を示す図である。(A)ARP1 MM細胞に遭遇した後のARI2増殖を分析するための4日間にわたるCFSEアッセイ。(B)0.125:1(E:T)の比でARI2m細胞及びARI2h細胞とARP1 MM細胞とを共培養した7日間にわたるTNFα及びIL6の産生。(C)ARP1 MM細胞と、ARI2m細胞及びARI2h細胞のいずれかとを受けたマウスでのin vivo実験の概略図。(D)(C)の実験の疾患の進行とそれに続く週毎の生物発光。
【発明を実施するための形態】
【0008】
定義
患者に薬剤を「投与する」又は患者への薬剤の「投与」(及びこの表現と文法的に同等のもの)は、医療専門家による患者への投与若しくは自己投与であり得る直接投与、及び/又は薬物を処方する行為であり得る間接投与を指す。例えば、薬剤を自己投与するよう患者に指示するか、又は患者に薬物を処方する医師が患者に薬物を投与する。
【0009】
「アフィボディ(affibody)」という用語は、プロテインAのZドメインに由来し、特定の標的に結合するように改変されたタンパク質を指す(Frejd & Kim, 2017. Exp Mol Med. 49(3): e306を参照されたい)。
【0010】
「抗体」という用語は、特定の標的に結合するか、又は特定の標的と免疫学的に反応性の少なくとも1つの免疫グロブリンドメインを含む分子を指す。この用語は、全抗体及びその任意の抗原結合部分又は一本鎖、並びにそれらの組合せを含む。例えば、「抗体」という用語は、特に二価抗体及び二価二重特異性抗体を含む。
【0011】
典型的なタイプの抗体は、ジスルフィド結合によって相互接続した少なくとも2つの重鎖(「HC」)と2つの軽鎖(「LC」)とを含む。
【0012】
各「重鎖」は、「重鎖可変ドメイン」(本明細書にて「VH」と略される)及び「重鎖定常ドメイン」(本明細書にて「CH」と略される)を含む。重鎖定常ドメインは通例、3つの定常ドメインCH1、CH2及びCH3を含む。
【0013】
各「軽鎖」は、「軽鎖可変ドメイン」(本明細書にて「VL」と略される)及び「軽鎖定常ドメイン」(「CL」)を含む。軽鎖定常ドメイン(CL)は、κ型又はλ型であり得る。VHドメイン及びVLドメインは、「フレームワーク領域」(「FW」)と称される、より保存された領域が散在する、相補性決定領域(「CDR」)と称される超可変性の領域に更に細分することができる。
【0014】
VH及びVLは各々、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配置された3つのCDR及び4つのFWから構成される:FW1、CDR1、FW2、CDR2、FW3、CDR3、FW4。本開示は特に、VH配列及びVL配列、並びにCDR1、CDR2及びCDR3に対応する部分配列を提示する。
【0015】
所与のCDRの正確なアミノ酸配列の境界は、Kabat et al. (1991), "Sequences of Proteins of Immunological Interest," 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(「Kabat」ナンバリングスキーム)、Al-Lazikani et al., (1997) JMB 273, 927-948(「Chothia」ナンバリングスキーム)に記載されているものを含む多数の既知のスキームのいずれかを用いて決定することができる。
【0016】
したがって、FW1、FW2、FW3及びFW4の配列が等しく開示されることが当業者には理解される。特定のVHについて、FW1はVHのN末端とH-CDR1のN末端との間の部分配列であり、FW2はH-CDR1のC末端とH-CDR2のN末端との間の部分配列であり、FW3はH-CDR2のC末端とH-CDR3のN末端との間の部分配列であり、FW4はH-CDR3のC末端とVHのC末端との間の部分配列である。同様に、特定のVLについて、FW1はVLのN末端とL-CDR1のN末端との間の部分配列であり、FW2はL-CDR1のC末端とL-CDR2のN末端との間の部分配列である。FW3はL-CDR2のC末端とL-CDR3のN末端との間の部分配列であり、FW4はL-CDR3のC末端とVLのC末端との間の部分配列である。
【0017】
重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、結合標的と相互作用する領域を含有し、この結合標的と相互作用する領域は、本明細書にて「抗原結合部位」("antigen-binding site" or "antigen binding site")とも称される。抗体の定常ドメインは、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)を含む宿主組織又は宿主因子への抗体の結合を媒介することができる。本開示の例示的な抗体としては、典型的な抗体だけでなく、F(ab’)2等のその二価フラグメント及び変形も挙げられる。
【0018】
本明細書にて使用される場合、「抗体」という用語は、無傷ポリクローナル抗体、無傷モノクローナル抗体、二価抗体フラグメント(F(ab’)2等)、二重特異性抗体等の多重特異性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、及び抗原結合部位を含む任意の他の修飾免疫グロブリン分子を包含する。
【0019】
抗体は、それぞれα、δ、ε、γ及びμと称されるそれらの重鎖定常ドメインの同一性に基づいて、免疫グロブリンの5つの主要クラス(アイソタイプ):IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、又はそのサブクラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)のいずれかとすることができる。異なるクラスの免疫グロブリンは、異なる既知のサブユニット構造及び三次元配置を有する。抗体は、裸であっても、又は治療剤若しくは診断剤等の他の分子とコンジュゲートして免疫複合体を形成してもよい。
【0020】
「抗原結合フラグメント」又は「Fab」という用語は、重鎖及び軽鎖の各々の1つの定常ドメイン及び1つの可変ドメインを含む抗体フラグメントを指す。Fabフラグメントは、無傷モノクローナル抗体をパパインで消化することによって得ることができる。
【0021】
形質細胞骨髄腫としても知られる「多発性骨髄腫」という用語は、通常は抗体を産生する白血球の一種である形質細胞の癌である。多くの場合、初期には症状が認められない。進行すると、骨痛、出血、頻繁な感染、及び貧血が起こることがある。合併症にはアミロイドーシスが含まれる場合がある。
【0022】
腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー17(TNFRSF17)としても知られる「B細胞成熟抗原」(BCMA又はBCM)という用語は、ヒトにおいてTNFRSF17遺伝子によってコードされるタンパク質である。
【0023】
「BCMA標的化部分」という用語は、BCMAに結合することが可能な物質を指す。CARとの関連で、BCMA標的化部分は、T細胞をBCMA陽性細胞、好ましくは癌細胞に標的化する。CARとの関連で、BCMA標的化部分が遺伝的にコード可能であることを理解されたい。
【0024】
「キメラ抗原受容体」又は「CAR」という用語は、T細胞を選ばれた抗原に標的化し、T細胞の機能、代謝及び持続性をリプログラミングする合成受容体を指す(Riviere & Sadelain, 2017. Mol Ther. 25(5):1117-1124を参照されたい)。同様に、「CART」という用語は、CARを含むT細胞を指す。
【0025】
「併用療法」、「と組み合わせて」又は「と併用して」は、本明細書にて使用される場合、少なくとも2つの異なる治療モダリティ(modalities)(すなわち化合物、構成要素、標的化剤又は治療剤)による任意の形態の併用、並行、同時、連続又は間欠的治療を表す。そのため、これらの用語は、被験体への一方の治療モダリティの投与の前、その間又はその後の他方の治療モダリティの投与を指す。組合せでのモダリティは、任意の順序で投与することができる。治療効果のあるモダリティは、共に(例えば、同じ又は別個の組成物、配合物又は単位剤形において同時に)又は別個に(例えば、同じ日又は異なる日に、別個の組成物、配合物又は単位剤形に適切な投与プロトコルに従って任意の順序で)、医療従事者によって処方される又は規制機関に従う方式及び投与計画で投与される。概して、各治療モダリティは、その治療モダリティについて決定される用量及び/又は日程で投与される。任意に、3つ以上のモダリティを併用療法において用いてもよい。さらに、本明細書にて提供される併用療法は、他のタイプの治療と併用することができる。例えば、他の抗癌治療は、被験体に対する現在の標準治療と関連する他の治療の中でも化学療法、外科手術、放射線療法(放射線)及び/又はホルモン療法からなる群より選択することができる。
【0026】
「完全奏効」又は「完全寛解」又は「CR」は、RECIST v1.1ガイドラインにおいて規定される全ての標的病変の消失を示す。これは必ずしも癌が治癒したことを意味するわけではない。
【0027】
「共刺激シグナル伝達ドメイン」という用語は、例えばTCR/CD3複合体のCD3ζ鎖によって与えられる一次シグナルに加えて、活性化、増殖、分化、サイトカイン分泌等を含むが、これらに限定されないT細胞応答を媒介するシグナルをT細胞に与えるシグナル伝達部分を指す。本発明の文脈において、共刺激ドメインは4-1BBである。「4-1BB」という用語は、活性化T細胞の表面にアクセサリー分子の一種として発現される腫瘍壊死因子受容体(TNFR)スーパーファミリーのメンバーであるCD137とも呼ばれる膜受容体タンパク質を指す[Kwon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:1963 (1989); PoUok et al., J. Immunol. 151:771 (1993)]。4-1BBは55kDaの分子量を有し、ホモダイマーとして見出される。4-1BBは細胞外から内部へのシグナル伝達経路を媒介することが示唆されている[Kim et al., J. Immunol. 151:1255 (1993)]。ヒト4-1BB遺伝子は、活性化ヒト末梢T細胞mRNAから作られたcDNAライブラリーから単離された[Goodwin et al., Eur. J. Immunol. 23:2631 (1993);]。ヒト4-1BBのアミノ酸配列は、マウス4-1BBに対して60%相同性を示し[Kwon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:1963 (1989); Gen Bank No:NM_011612]、これは配列が高度に保存されていることを示す。上記で述べたように、4-1BBはCD40、CD27、TNFR-I、TNFR-II、Fas、及びCD30と共に、TNFRスーパーファミリーに属する[Alderson et al., Eur. J. Immunol. 24:2219 (1994)]。T細胞の表面に発現される4-1BBにモノクローナル抗体が結合すると、抗CD3 T細胞の活性化が何倍も増加する[Pollok et al., J. Immunol. 150:771 (1993)]。4-1BBは、マクロファージ及び活性化B細胞等の幾つかの抗原提示細胞に発現する高親和性リガンド(4-1BBL、CD137Lとも呼ばれる)に結合する[Pollok et al., J. Immunol. 150:771 (1993) Schwarz et al., Blood 85:1043 (1995)]。4-1BBLは米国特許第5,674,704号の特許請求の範囲に記載され、説明されている。4-1BBとそのリガンドとの相互作用は、T細胞の活性化及び成長につながる共刺激シグナルを提供する[Goodwin et al., Eur. J. Immunol. 23:2631 (1993);Alderson et al., Eur. J. Immunol. 24:2219 (1994);Hurtado et al., J. Immunol. 155:3360 (1995); Pollock et al., Eur. J. Immunol. 25:488 (1995);DeBenedette et al., J. Exp. Med. 181:985 (1995)]。
【0028】
「無病生存」(DFS)は、患者が無病のままである治療中及び治療後の期間を指す。
【0029】
本明細書にて使用される場合、作用物質、例えばCART等の治療剤の「有効量」という用語は、有益な又は所望の結果、例えば臨床結果をもたらすのに十分な量であり、このため、「有効量」は、それが適用される状況に左右される。例えば、多発性骨髄腫を治療する治療剤を投与する状況では、有効量は、癌細胞の数を減少させ、腫瘍サイズ若しくは負荷を減少させ、末梢器官への癌細胞の浸潤を阻害し(すなわち、或る程度遅らせ、或る特定の実施形態においては停止させる)、腫瘍転移を阻害し(すなわち、或る程度遅らせ、或る特定の実施形態においては停止させる)、腫瘍成長を或る程度阻害し、癌と関連する症状の1つ以上を或る程度緩和し、及び/又は無進行生存(PFS)、無病生存(DFS)若しくは全生存(OS)の増大、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、若しくは場合によっては病勢安定(SD)、進行性疾患(PD)の減少、進行までの時間(TTP)の短縮、若しくはそれらの任意の組合せ等の有利な応答をもたらすことができる。「有効量」という用語は、「有効用量」、「治療有効量」又は「治療有効用量」と区別なく使用することができる。
【0030】
「個体」、「患者」又は「被験体」という用語は、ヒトを指定するために本出願において区別なく使用され、決して限定することを意図するものではない。「個体」、「患者」又は「被験体」は、任意の年齢、性別及び身体状態であってもよい。
【0031】
「注入」又は「注入する」は、治療目的での静脈を介した体内への治療剤を含有する溶液の導入を指す。概して、これは静注バッグ(intravenous bag)によって達成される。
【0032】
「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、本明細書にて使用される場合、リンパ球の活性化をもたらす分子(ここではキメラ受容体分子)の1つ以上のドメインの全て又は一部を指す。かかる分子の細胞内ドメインは、細胞メディエーターと相互作用することによってシグナルを媒介し、増殖、分化、活性化及び他のエフェクター機能をもたらす。本発明のCARに使用される細胞内シグナル伝達ドメインの例としては、CD3ζ鎖の細胞内配列、及び/又はCAR連結後にシグナル伝達を開始するように協調して作用する補助受容体、並びにこれらの配列の任意の誘導体又は変異体、並びに同じ機能を有する任意の合成配列が挙げられる。
【0033】
「モノボディ(monobody)」という用語は、フィブロネクチンIII型ドメインに由来し、特定の標的に結合するように改変されたタンパク質を指す(Koide et al., 2013. J Mol Biol. 415(2):393-405を参照されたい)。
【0034】
「ナノボディ」という用語は、重鎖抗体、好ましくはラクダ科重鎖抗体の可溶性単一抗原結合Vドメインを含むタンパク質を指す(Bannas et al., 2017. Front Immunol. 8:1603を参照されたい)。
【0035】
「全生存」(OS)は、患者の登録から死亡又は判明している最後の生存日で打ち切られるまでの期間を指す。OSは、未投与又は未治療の個体又は患者と比較した平均余命の延長を含む。全生存は、例えば診断又は治療の時点から1年、5年等の規定の期間にわたって患者が生存し続ける状況を指す。
【0036】
「部分奏効」又は「PR」は、RECIST v1.1ガイドラインにおいて規定される、治療に応答した、ベースライン直径和を参照として少なくとも30%の標的病変の直径の和の減少を指す。
【0037】
「ペプチドアプタマー」という用語は、特定の標的に結合することができる短い5~20アミノ酸残基の配列を指す。ペプチドアプタマーは通例、安定したタンパク質足場のループ領域内に挿入される(Reverdatto et al., 2015. Curr Top Med Chem. 15(12):1082-101を参照されたい)。
【0038】
本明細書にて使用される場合に、「薬学的に許容可能な担体」又は「薬学的に許容可能な希釈剤」は、医薬品投与と適合可能な任意の全ての溶剤、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤を意味する。医薬品活性物質用のそのような媒体及び作用物質の使用は、当該技術分野でよく知られている。許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、使用される投与量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、本発明の範囲を限定するものではないが、追加の緩衝剤、保存剤、共溶媒、アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤、EDTA等のキレート化剤、金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体)、ポリエステル類等の生分解性ポリマー、ナトリウム、多価糖アルコール等の塩形成対イオン、アラニン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジン、オルニチン、ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸及びトレオニン等のアミノ酸、ラクチトール、スタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、リビトール、ミオイニシトース(myoinisitose)、ミオイニシトール(myoinisitol)、ガラクトース、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール類(例えば、イノシトール)、ポリエチレングリコール等の有機糖類又は糖アルコール、尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウム等の硫黄含有還元剤、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン又は他の免疫グロブリン等の低分子量タンパク質、並びにポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーが挙げられる。Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)に記載されるもののような他の薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤が、医薬組成物の所望の特性に悪影響を及ぼさない限りにおいて、本明細書に記載される医薬組成物に含まれていてもよい。
【0039】
「進行性疾患」又は「進行した疾患」は、RECIST v1.1ガイドラインにおいて規定される、もう1つの新たな病変若しくは腫瘍の出現及び/又は既存の非標的病変の明白な進行を指す。進行性疾患又は進行した疾患は、腫瘍の量又は広がりのいずれかの増大による治療開始からの20パーセントを超える腫瘍成長を指す場合もある。
【0040】
「無進行生存」(PFS)は、登録から疾患の進行又は死亡までの期間を指す。PFSは概して、カプラン-マイヤー法及び固形癌効果判定基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors:RECIST)1.1標準を用いて測定される。概して、無進行生存は、癌が増悪することなく患者が生存し続ける状況を指す。
【0041】
「RECIST」という用語は、固形癌効果判定基準を意味する。RECISTガイドライン、基準又は標準は、成人及び小児癌の臨床試験に用いられる腫瘍サイズの変化の客観的評定のための固形腫瘍の測定及び定義の標準アプローチを記載している。RECIST v1.1は、改訂RECISTガイドラインのバージョン1.1を意味し、European Journal of Cancers 45 (2009) 228-247に公開されている。
【0042】
「リピボディ(repebody)」という用語は、ロイシンリッチリピートモジュールに由来し、特定の標的に結合するように改変されたタンパク質を指す(Lee et al., 2012. PNAS. 109(9): 3299-3304を参照されたい)。
【0043】
「有利に応答する」という用語は概して、被験体において有益な状態を生じることを指す。癌治療に関して、この用語は、被験体に対して治療効果をもたらすことを指す。癌における好ましい治療効果は、多数の方法で測定することができる(Weber, 2009. J Nucl Med. 50 Suppl 1:1S-10Sを参照されたい)。例えば、腫瘍成長阻害、分子マーカー発現、血清マーカー発現及び分子イメージング技術は全て、抗癌治療法の治療効力を評定するために用いることができる。腫瘍成長阻害に関して、NCI標準によると、T/C≦42%が抗腫瘍活性の最低レベルである。T/C<10%は、高い抗腫瘍活性レベルとみなされ、T/C(%)=治療した場合の腫瘍体積中央値/対照の腫瘍体積中央値×100である。有利な応答は、例えば無進行生存(PFS)、無病生存(DFS)若しくは全生存(OS)の増大、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、若しくは場合によっては病勢安定(SD)、進行性疾患(PD)の減少、無増悪期間(TTP)の短縮、又はそれらの任意の組合せによって評定することができる。
【0044】
「配列同一性」という用語は、ペアワイズ配列アラインメントツールを用いて2つの配列を比較した場合に得られるパーセンテージ値を指す。本件では、配列同一性は、デフォルト設定を用いるグローバルアラインメントツール「EMBOSS Needle」を用いて得られる(Rice et al., 2000. Trends Genet. 16(6):276-7、Li et al., 2015. Nucleic Acids Res. 43(W1):W580-4)。グローバルアラインメントツールは、https://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/で利用可能である。
【0045】
「一本鎖抗原結合フラグメント」又は「scFab」という用語は、抗体の重鎖の1つの可変ドメイン及び1つの定常ドメインに付着した抗体の軽鎖の1つの可変ドメイン及び1つの定常ドメインを含み、重鎖及び軽鎖が短ペプチドによって連結した融合タンパク質を指す。
【0046】
「一本鎖可変フラグメント」又は「scFv」という用語は、ペプチドリンカーによって互いに連結した抗体の重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変ドメインを含む融合タンパク質を指す。この用語は、ジスルフィド安定化Fv(dsFv)も含む。ジスルフィド結合によってscFvを安定化する方法は、Reiter et al., 1996. Nat Biotechnol. 14(10):1239-45に開示されている。
【0047】
「病勢安定」は、RECIST v1.1ガイドラインにおいて規定される、進行又は再燃のない疾患を指す。病勢安定では、部分奏効とみなすのに十分な腫瘍縮小も、進行性疾患とみなすのに十分な腫瘍増加も見られない。
【0048】
「無増悪期間」(TTP)は、登録から疾患の進行までの時間として規定される。TTPは概して、RECIST v1.1基準を用いて測定される。
【0049】
本出願で使用される「治療」及び「療法」という用語は、疾患及び/又は症状を治癒及び/又は緩和する目的と共に健康上の問題の改善を目標として使用される一連の衛生的手段、薬理学的手段、外科的手段及び/又は物理的手段を指す。「治療」及び「療法」という用語には、予防法及び治癒法が含まれる。それというのも、両者とも個体又は動物の健康の維持及び/又は回復に向けられるからである。症状、疾患及び障害の原因にかかわらず、健康上の問題を軽減及び/又は治癒するために適した薬剤の投与は、本出願の文脈内の治療又は療法の形として解釈されるべきである。
【0050】
発明の詳細な説明
本発明者らは、プロテアソーム阻害剤、免疫調節剤及び抗CD38モノクローナル抗体を含む少なくとも2種類の治療に対して再燃した又は難治性(R/R)になったMM患者を治療するための多施設第I相臨床試験で投与される4-1BBを共刺激ドメインとするBCMAに対するCART細胞(ARI2m細胞)の開発に成功した。本発明者らのARI2m細胞はARI2hにヒト化され、抗MM活性がヒト化バージョンで保持され、さらに、ARI2h細胞ではより低い細胞毒性プロファイルが観察されたことを示す。
【0051】
BCMAは、2013年にCART細胞を用いたMMの治療のための有望な抗原として登場し(Carpenter RO, Evbuomwan MO, Pittaluga S, et al. B-cell maturation antigen is a promising target for adoptive T-cell therapy of multiple myeloma. Clin Cancer Res. 2013;19(8):2048-2060)、2016年にCD28を共刺激ドメインとするCART BCMA細胞を受けたMM患者を対象とした最初の臨床研究へと導いた(Ali SA, Shi V, Maric I, et al. T cells expressing an anti-B-cell maturation antigen chimeric antigen receptor cause remissions of multiple myeloma. Blood. 2016;128(13):1688-1700)。これらのCART細胞は有効性を示したが、活性用量で治療された全ての患者が重度のCRSを発症したことから、高い細胞毒性プロファイルを示した。したがって、CD28は4-1BBに置き換えられ、bb2121と呼ばれる新たなCARは管理可能な毒性を示し、応答を得るには150×106個の最低用量のCART細胞が必要であることを示した(Raje N, Berdeja J, Lin Y, et al. Anti-BCMA CAR T-Cell Therapy bb2121 in Relapsed or Refractory Multiple Myeloma. N Engl J Med. 2019;380(18):1726-1737)。並行して、MM患者における2つの追加の研究(Cohen AD, Garfall AL, Stadtmauer EA, et al. B cell maturation antigen-specific CAR T cells are clinically active in multiple myeloma. J Clin Invest. 2019;130及びZhao WH, Liu J, Wang BY, et al. A phase 1, open-label study of LCAR-B38M, a chimeric antigen receptor T cell therapy directed against B cell maturation antigen, in patients with relapsed or refractory multiple myeloma. J Hematol Oncol. 2018;11(1):141)は、以前の治療回数が少ないほど応答が良くなること、及びin vivoでのCAR T細胞の増加及び活性にリンパ球枯渇が絶対的に必要ではないものの、リンパ球枯渇後の短期的な増加がより一貫していることを実証した。ほとんどのMM患者が最終的に再燃することが研究で示されている(CART19で治療されたALL患者には認められない知見である)ため、様々な要因がCARTBCMA療法で改善される必要がある因子である疾患の長期の制御を強化するCARTの増加及び持続に影響を与える。これに関して、CARのscFvのマウス成分がヒト免疫系による免疫反応を開始し、CART細胞の早期消失を引き起こすため、CART細胞の持続性はヒト又はヒト化されたCARの使用により改善され得る。これらの以前の研究に基づき、またARI2mとARI2hの両方が疾患の進行を等しく回避したことを示すという結果に裏付けられて、本発明者らは、4-1BB共刺激ドメインを含むヒト化CARTBCMA細胞であるARI2h細胞を選択した。
【0052】
CART細胞の持続性に影響を与える他の要因としては、CART細胞の疲弊プロファイル、及びCARTBCMA細胞ではin vivoでのCART増加と相関する白血球アフェレーシス産物におけるCD4/CD8比が挙げられる。本発明において、初期のCD4/CD8比にかかわらず、全てのin vitroでの増加はCD4/CD8>1を達成し、腫瘍細胞への曝露後、優先的なCD8T細胞増殖により、ほぼ等しい量のCD4及びCD8に正常化した。さらに、腫瘍細胞への連続曝露は、ARI2h細胞がARI2mと比較してより高い増殖を達成したことを示し、ARI2h細胞の疲弊が少ないことを示唆している。これに関して、CD28及び4-1BB共刺激ドメインを用いたCART19における研究では、標的抗原の高親和性又は高発現によるCART細胞の強力な活性化が、疲弊の増加を伴うエフェクターT細胞の表現型につながることが示され、逆に、より低い親和性によるより弱い活性化は、疲弊を軽減するT細胞記憶表現型につながる。ここで、ヒト化プロセスは、ARI2h細胞のCART親和性が低下する可能性のあるアミノ酸配列の変化を含み、1回のチャレンジの後、アッセイでのin vitro活性が遅くなることを説明し、それどころか、腫瘍細胞への連続的なチャレンジの後、持続的でより高いCART細胞増殖が起こり、非常に進行した腫瘍モデルではより長いin vivoでの疾患の制御が可能となる。
【0053】
CRSの高い発生率及び神経毒性は、CART細胞投与後に発生する一般的な事象であり、国際的なガイドラインに従って効率的に管理されているが、理想的なCART治療はCRSの発症を最小限に抑えるよう努めるべきである。ここで、ARI2mの代わりにARI2h細胞を使用することは、ARI2m細胞と比較して、ARI2hのより低いin vivo毒性プロファイル及びより低いTNFαのin vitroでの産生の観察によって更に裏付けられる。IL6は単球及びマクロファージによって産生されるCRSのエフェクターサイトカインであり、CRSが発症するにつれて指数関数的に増加するのに対し、TNFα及びIL1β等の他のサイトカインはCRSの主なイニシエータであり、それらは、CART細胞によって産生されるIFNによって活性化されると、単球及びマクロファージによって早い時期に産生される。実際、TNFαは、様々な炎症性疾患の治療標的として現れる多くの炎症性疾患におけるサイトカインカスケードを組織するイニシエータサイトカインとして作用する。ここでは、in vivoシナリオにより類似したモデルを模倣する、マクロファージを使用した本発明者らのin vitroモデルが、ARI2h細胞がマクロファージによるTNFα産生の低下につながったことを示し、これは、TNFαの高いピークに関連するCARTBCMA後のMM患者におけるCRSと関連する知見である。
【0054】
最後に、この研究では、sBCMAがCART活性に及ぼす影響を注意深く分析し、sBCMAが標的からCART細胞を受け入れる(entertains)ことを確認し、更に、CARTBCMA細胞間でフラトリサイド(fratricide)を引き起こす可能性がある。MMにおけるCARTBCMAを用いた前臨床及び臨床試験では、sBCMAとCART活性との間に何らの相関関係も見られないにもかかわらず、本発明者らは、MM細胞を急速に排除する高いin vitro CART活性が前臨床試験におけるsBCMAの役割を適切に分析するのを妨げることを観察した。さらに、応答を誘導するためにALL患者におけるCART19と比較してMMで必要とされるCARTBCMA細胞の用量が高いことから、必要とされるこの高用量のCARTにsBCMAが関与する可能性があるという仮説が導かれた。したがって、本発明者らのin vitroモデルは低いCARTBCMA:MM比で実施され、sBCMAの持続放出を伴う環境が作り出され、γ-セクレターゼ阻害剤の添加により、sBCMAがCARTBCMA活性に及ぼす悪影響が確認された。
【0055】
結論として、本発明者らは本明細書で高い有効性を保持し、そのマウス対応物(ARI2m)よりも低い毒性プロファイルを示すヒト化されている共刺激ドメインとして4-1BBを有するCART BCMA(ここで、CARは配列番号13のARI2hに対応する)を提示する。このCAR(ARI2h)を、臨床試験で使用するために、GMP条件下で効率的に増加させる。したがって、本発明の主な目的は、ARI2hのキメラ抗原受容体及びその変異体を保護することであり、以下の説明に記載されている。
【0056】
ARI2hのキメラ抗原受容体及びその変異体
一態様において、本発明は、BCMA標的化部位を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含む、ARI2hのキメラ抗原受容体(CAR)又はその変異体を提供する。かかるドメインについて、以下で詳しく説明する。
【0057】
BCMA標的化部分
幾つかの実施形態において、BCMA標的化部分は抗体、アンチカリン、リピボディ、モノボディ、scFv、Fab、scFab、アフィボディ、フィノマー、DARPin、ナノボディ、又はBCMAに特異的に結合するペプチドアプタマーである。
【0058】
BCMAに特異的に結合する結合分子は、MMの診断及び治療に非常に役立つ可能性がある。BCMAに対する幾つかのマウスモノクローナル抗体がこの分野で知られている。しかしながら、マウス抗体は、短い血清半減期、或る特定のヒトエフェクター機能を誘発することができないこと、及びマウス抗体に対する望ましくない免疫応答の生成等といったマウス抗体のヒトへの投与に関連する問題により、in vivoでの使用が制限されている。これらの先に言及された欠点を克服して、新たなヒト抗体が開発された。
【0059】
抗体を生成するファージディスプレイ及びコンビナトリアル方法が当該技術分野で既知である(例えば、Ladner et al.の米国特許第5,223,409号、Kang et al.の国際公開第92/18619号、Dower et al.の国際公開第91/17271号、Winter et al.の国際公開第92/20791号、Markland et al.の国際公開第92/15679号、Breitling et al.の国際公開第93/01288号、McCafferty et al.の国際公開第92/01047号、Garrard et al.の国際公開第92/09690号、Ladner et al.の国際公開第90/02809号、Fuchs et al. (1991) Bio/Technology 9:1370-1372、Hay et al. (1992) Hum Antibod Hybridomas 3:81-85、Huse et al. (1989) Science 246:1275-1281、Griffths et al. (1993) EMBO J 12:725-734、Hawkins et al. (1992) J Mol Biol 226:889-896、Clackson et al. (1991) Nature 352:624-628、Gram et al. (1992) PNAS 89:3576-3580、Garrad et al. (1991) Bio/Technology 9:1373-1377、Hoogenboom et al. (1991) Nuc Acid Res 19:4133-4137及びBarbas et al. (1991) PNAS 88:7978-7982に記載され、これらのいずれの内容も引用することにより本明細書の一部をなす)。
【0060】
さらに、特定の標的に結合する非免疫グロブリン足場を生成及び選択する方法が当該技術分野で既知である(例えば、Skrlec, et al., 2015. Trends Biotechnol. 33(7):408-18を参照されたい)。
【0061】
幾つかの実施形態において、BCMA標的化部分、好ましくは抗体、scFv、Fab、又はscFabは、VHドメインを含み、該VHドメインは、配列番号1:
、又は配列番号1と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むか、又はそれのみからなる。
【0062】
幾つかの実施形態において、BCMA標的化部分、好ましくは抗体、scFv、Fab、又はscFabは、上述のVHドメインを含み、VLドメインを更に含み、該VLドメインは、配列番号2:
、又は配列番号2と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むか、又はそれのみからなる。
【0063】
幾つかの実施形態において、BCMA標的化部分、好ましくは抗体、scFv、Fab、又はscFabは、VLドメイン及びVHドメインを含み、該VLドメイン及び該VHドメインは、配列番号1及び2又は上記で定義したこれらの配列のいずれかの変異体を含むか又はそれらのみからなる。好ましくは、上記配列VLドメイン及び上記VHドメインは、配列番号3:
、又は配列番号3と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むか、又はそれのみからなる。
【0064】
本明細書において、上述の配列番号3のVLドメイン及びVHドメインは、リンカー配列、特に配列番号4:
を含むことに留意されたい。ただし、他のリンカー配列が使用される場合もある。
【0065】
さらに、VLドメイン及びVHドメイン、特に配列番号3は、ペプチドシグナルを更に含む場合があり、好ましくは、該シグナルペプチドは、配列番号5:
、又は配列番号5と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むか、又はそれのみからなることに留意されたい。
【0066】
幾つかの実施形態において、BCMA標的化部分、好ましくは抗体、scFv、Fab、又はscFabは、配列番号6:
、又は配列番号6と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むか、又はそれのみからなる。
【0067】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、天然供給源又は合成供給源のいずれに由来していてもよい。供給源が天然である場合、ドメインは任意の膜結合又は膜貫通タンパク質に由来し得る。膜貫通領域は、少なくともCD28、CD3、CD45、CD4、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137又はCD154のα鎖、β鎖又はζ鎖の一又は複数の膜貫通領域を含み得る。膜貫通領域は、少なくとも一又は複数の膜貫通領域CD8aを含むことが好ましい。
【0068】
膜貫通ドメインは、合成であっても又は自然発生膜貫通ドメインの変異体であってもよい。幾つかの実施形態において、合成又は変異体膜貫通ドメインは、主にロイシン及びバリン等の疎水性残基を含む。
【0069】
幾つかの実施形態において、膜貫通ドメインはCD28、CD3、CD45、CD4、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154の膜貫通ドメイン、又はそれらの変異体を含み、それらの変異体は少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する。上記膜貫通ドメインは、少なくともCD8aの膜貫通ドメインを含むか、又はそれのみからなることが好ましい。
【0070】
幾つかの実施形態において、膜貫通ドメインは、CD8aの膜貫通ドメイン又はその変異体を含むか、又はそれからなり、その変異体は少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0071】
特に、幾つかの実施形態において、膜貫通ドメインは、配列番号7、又は配列番号7と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有する変異体を含むか、又はそれのみからなる。
【0072】
【0073】
幾つかの実施形態において、CD8aに由来するドメインは、CD8ヒンジ、好ましくは配列番号8:
、又は配列番号8と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体に直接結合される。
【0074】
したがって、更に幾つかの実施形態において、膜貫通ドメインはCD8ヒンジを更に含み、配列番号9:
、又は配列番号9と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むか、又はそれのみからなる。
【0075】
細胞内シグナル伝達ドメイン
細胞内シグナル伝達ドメインは、腫瘍細胞上で発現されるリガンドへの結合後にCARを発現する細胞の少なくとも1つの機能の活性化をもたらす。幾つかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインを含有する。幾つかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CARを含む細胞の少なくとも1つの機能の活性化をもたらす細胞内シグナル伝達ドメインの一部及び/又は変異体である。
【0076】
幾つかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、FcRγ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b、CD66bの細胞内ドメイン、又はそれらの変異体を含むか、又はそれらからなり、それらの変異体は少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0077】
幾つかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ又はその変異体の細胞内ドメインを含むか、又はそれからなり、その変異体は少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0078】
幾つかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号10、又は配列番号10と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含む。配列番号10は、以下の配列で表されることに留意されたい。
【0079】
共刺激シグナル伝達ドメイン
本発明のCAR、ARI2h CAR又はその変異体は、共刺激シグナル伝達メインを更に含まなければならないことに留意されたい。幾つかの実施形態において、共刺激シグナル伝達ドメインは、4-1BBの細胞内ドメイン又はその変異体を含み、その変異体は、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する。
【0080】
幾つかの実施形態において、共刺激シグナル伝達ドメインは、4-1BBの細胞内ドメイン又はその変異体を含むか、又はそれからなり、その変異体は、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する。
【0081】
幾つかの実施形態において、共刺激シグナル伝達メインは、配列番号11又は配列番号11と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むか、又はそれのみからなる。本明細書において、4-1BBに由来する共刺激シグナル伝達ドメインは、配列番号11:
で表されることに留意されたい。
【0082】
本発明による全配列CAR
本発明によるARI2h CARの全アミノ酸配列は、配列番号13:
(ここで、
シグナルペプチドは配列番号5からなり、
VHドメインは配列番号1からなり、
リンカー配列は配列番号4からなり、
VLドメインは配列番号2からなり、
CD8ヒンジは配列番号8からなり、
膜貫通ドメインは配列番号7からなり、
4-1BBドメインは配列番号11からなり、
CD3zドメインは配列番号10のみからなる)を含むか、又はそれのみからなることに留意されたい。
【0083】
幾つかの実施形態において、本発明によるCARは、以下を含むことを特徴とし得る:
(i)VLドメイン及びVHドメインを含むか、又はそれのみからなるBCMA標的化部分、好ましくは抗体、scFv、Fab、又はscFabであって、該VHドメイン及び該VLドメインはそれぞれ、配列番号1及び配列番号2、又はそのいずれかの変異体を含むか、又はそれらからなり、その変異体は、配列番号1及び/又は配列番号2のいずれかと少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する、BCMA標的化部分;
(ii)配列番号9又はその変異体を含むか、又はそれのみからなるヒンジドメインに結合した膜貫通ドメインであって、その変異体は、配列番号9と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する、膜貫通ドメイン;
(iii)配列番号11又はその変異体を含むか、又はそれのみからなる共刺激シグナル伝達ドメインであって、その変異体は、配列番号11と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する、共刺激シグナル伝達ドメイン;並びに、
(iv)配列番号10又はその変異体を含むか、又はそれのみからなる細胞内シグナル伝達ドメインであって、その変異体は、配列番号10と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する、細胞内シグナル伝達ドメイン。
【0084】
幾つかの実施形態において、CARは、配列番号13:
、又は配列番号13と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むか、又はそれのみからなる。
【0085】
核酸
一態様において、本発明は、上記に開示するCARのいずれか1つを含む本発明のCARのいずれか1つをコードする核酸を提供する。キメラ受容体をコードする核酸配列は、効率的なT細胞活性化及びBCMAの認識に対してキメラ受容体をカスタマイズするために切除し、他の構成要素と置き換えることができる多数のモジュール構成要素同士を接続する。
【0086】
幾つかの実施形態において、核酸は、細胞の形質導入又は形質転換に適している。幾つかの実施形態において、核酸は、養子免疫療法に使用されるT細胞の形質導入又は形質転換に適している。
【0087】
幾つかの実施形態において、核酸は、哺乳動物細胞における発現のためにコドン最適化される。コドン最適化方法は、当該技術分野で既知である(例えば、Parret et al., 2016. Curr Opin Struct Biol. 39: 155-162を参照されたい)。
【0088】
本発明の核酸は、T細胞の形質導入又は形質転換に使用することができるレンチウイルスベクターに含まれ得る(Riviere & Sadelain, 2017. Mol Ther. 25(5):1117-1124を参照されたい)。現在、レンチウイルスベクターを用いたT細胞の形質導入は、ヒトにおいてより広く用いられている手法である。DNAトランスポゾン、RNAトランスフェクション、又はTALEN、ZFN及びCRISPR/Cas9等のゲノム編集技術を用いて核酸を細胞に挿入することもできる(Riviere & Sadelain, 2017. Mol Ther. 25(5):1117-1124を参照されたい)。
【0089】
本発明によるCARSの全ヌクレオチド配列は、配列番号12:
を含むか、又はそれのみからなることが好ましい。
【0090】
細胞
一態様において、本発明は、本発明の核酸及び/又は本発明のCARを含む細胞を提供する。幾つかの実施形態において、細胞はT細胞(CARTと称される)である。
【0091】
幾つかの実施形態において、細胞はナイーブT細胞、メモリーステムT細胞又はセントラルメモリーT細胞である。これらの細胞が適応免疫療法により良好に適していると現在考えられている(Riviere & Sadelain, 2017. Mol Ther. 25(5):1117-1124を参照されたい)。
【0092】
幾つかの実施形態において、細胞は自己T細胞である。「自己細胞」という用語は、本発明の方法のいずれか1つを用いて治療されるのと同じ患者から得られた細胞を指す。
【0093】
幾つかの実施形態において、細胞は同種寛容(allo-tolerant)T細胞である。「同種寛容細胞」という用語は、移植片対宿主病応答のリスクを低下させるように改変された細胞を指す。幾つかの実施形態において、これはTCR及び/又はβ2-ミクログロブリンのゲノム編集を介した欠失によって達成される15、19。同種寛容細胞は、当該技術分野で既知である(Riviere & Sadelain, 2017. Mol Ther. 25(5):1117-1124の同種T細胞の章を参照されたい)。
【0094】
幾つかの実施形態において、細胞は、成熟T細胞へと分化する能力を有するリンパ球前駆体、胚性幹細胞又は誘導多能性幹細胞である(Riviere & Sadelain, 2017. Mol Ther. 25(5):1117-1124を参照されたい)。
【0095】
医薬組成物
一態様において、本発明は、本発明の複数の細胞と薬学的に許容可能な担体又は希釈剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0096】
本明細書に記載される医薬組成物は、その他の物質も含有し得る。これらの物質としては、限定されるものではないが、凍結保護剤、界面活性剤、酸化防止剤及び安定剤が挙げられる。本明細書にて使用される「凍結保護剤」という用語は、凍結誘導ストレスに対してCARTに安定性を与える作用物質を含む。凍結保護剤の非限定的な例としては、スクロース、グルコース、トレハロース、マンニトール、マンノース及びラクトース等の糖類、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン及びポリエチレングリコール等のポリマー、ポリソルベート等の界面活性剤(例えば、PS-20又はPS-80)並びにグリシン、アルギニン、ロイシン及びセリン等のアミノ酸が挙げられる。生物系における毒性が低い凍結保護剤が一般的に使用される。
【0097】
幾つかの実施形態において、細胞を初めにそれらの培養培地から採取し、次いで細胞を洗浄し、投与に適している培地及び容器システム(「薬学的に許容可能な」担体)において治療有効量で濃縮することによって細胞を配合する。好適なインフュージョン培地は任意の等張培地配合物、通例、生理食塩水、Normosol R(Abbott)又はPlasma-Lyte A(Baxter)とすることができ、水又は乳酸リンゲル液中の5%デキストロースを用いることもできる。インフュージョン培地にヒト血清アルブミン、ウシ胎仔血清又は他のヒト血清成分を添加してもよい。
【0098】
一態様において、本発明は、薬剤として使用される本発明による細胞又は本発明による医薬組成物を提供する。
【0099】
治療方法
一態様において、本発明は、本発明の細胞又は本発明の医薬組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む、多発性骨髄腫を治療する方法を提供する。
【0100】
幾つかの実施形態において、患者に治療有効量の細胞を投与する。幾つかの実施形態において、患者に少なくとも102個、103個、104個、105個、106個、107個、108個、109個又は1010個の細胞を投与する。細胞の数は、組成物が対象とする最終的な用途によって決まり、組成物に含まれる細胞のタイプも同様である。
【0101】
幾つかの実施形態において、細胞又は医薬組成物を静脈内に、腹腔内に、骨髄に、リンパ節に及び/又は脳脊髄液に投与する。
【0102】
幾つかの実施形態において、方法は併用療法を含む。幾つかの実施形態において、方法は、免疫チェックポイント阻害剤を更に投与することを含む(Lim & June, 2017. Cell. 168(4):724-740を参照されたい)。更なる実施形態において、方法は、免疫チェックポイント阻害剤及び/又はIAP阻害剤を更に投与することを含む(国際公開第2016/054555号を参照されたい)。
【0103】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載される細胞又は医薬組成物を化学療法剤及び/又は免疫抑制剤と組み合わせて投与する。一実施形態において、患者を初めに他の免疫細胞を阻害又は破壊する化学療法剤、続いて本明細書に記載される細胞又は医薬組成物で治療する。場合によっては、化学療法を完全に回避することができる。
【0104】
以下の実施例は、本発明を説明する役割を果たすが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0105】
材料及び方法
倫理声明:人体材料に関する研究は、臨床研究倫理委員会(Hospital Clinic、バルセロナ)によって承認された。末梢血(PB)T細胞を、インフォームドコンセントを得た健康なドナーから取得した。全ての動物にかかわる作業を、動物研究倫理委員会(Hospital Clinic、バルセロナ)の下で行った。
【0106】
細胞培養:RPMI8226、U266、及びK562を、American Tissue Culture Collection(ATCC、バージニア州マナッサス)から購入した。ARP1細胞株は、多発性骨髄腫研究センター(米国アラスカ州リトルロック)から親切に提供された。細胞株(K562、RPMI8226、及びARP1)を、10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Pen/Strep)を含むRPMI、並びに15%FBSを含むU266で培養した。293-T細胞を10%FBS及び1%Pen/Strepを含むDMEMで培養した。リンパ球を、フィコール及びT細胞分離キットによる磁気枯渇(Miltenyi Biotec)によって健康なドナーから得た。T細胞はClickの培地(Irvine Scientific製の50%RPMI、50%Clickの培地、5%ヒト血清及び1%Pen/strepを添加)で増加させ、Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28(Thermo Fisher Scientific)及びIL-2(100IU)で一日おきに活性化した。T細胞増加の8日~10日後に実験を行った。マクロファージは、1週間にRPMI 10%FBS及び0.1mg/mlのM-CSF(Thermo Fisher Scientific)で増加後に単球から分化させた。
【0107】
クローニング及びヒト化:ARI2m膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン(4-1BB)及びCD3ζを、本発明者らの施設で使用されたCART19を含むレンチウイルスベクターから得た(pCCL-EF1α-CD19-CD8a-41BB-CD3ζ)。scFv-CD19を、Oden F. et alが以前に発表した抗BCMA抗体J22.9から得て、NCBI-Protein Genbankにて無償で入手可能なscFv BCMAの代わりに使用した。マウスARI2mに対応する、シグナルペプチド、VH、リンカー、VL、CD8ヒンジ、CD8 TM、4-1BB、及びCD3ζに対応する完全なアミノ酸配列を以下に示す。
【0108】
マウス(ARI2m)(配列番号14):
シグナルペプチド(配列番号5):
VH(配列番号15):
リンカー(配列番号4):
VL(配列番号16):
CD8ヒンジ(配列番号8):
CD8 TM(配列番号7):
4-1BB(配列番号11):
CD3ζ(配列番号10):
【0109】
ARI2hを得るため、ARI2m配列のscFvを2つの予測モデル(Blast及びGermline)を用い、ヒト化してマウスのアミノ酸をそれらのヒトのホモログに置き換え、相補性決定領域(CDR)とバーニアゾーン(Vernier Zone)の両方を除いた。配列の準備が整うと、ARI2mと同じ手順を用いてpCCLベクターにクローニングした。ヒト化配列と並んで、ARI2hとARI2mとのアミノ酸配列の違いを以下に示す。
【0110】
ヒト化(配列番号13に対応するARI2h(Germline変異体)):
VH(配列番号1):
リンカー(配列番号4):
VL(配列番号2):
CD8ヒンジ(配列番号8):
CD8 TM(配列番号7):
4-1BB(配列番号11):
CD3ζ(配列番号10):
【0111】
ヒト化プロセス中に生じたアミノ酸の違い(ARI2mとARI2hとの比較):
太字:CDR
斜体:バーニアゾーン
下線付き:AAの変更
VH:
マウス(AR2m):
ヒト化(AR2h):
VL:
マウス(AR2m):
ヒト化(AR2h):
【0112】
ウイルス産生及びCAR発現:293-T細胞をレンチウイルスベクター(pCCL-EF1α-BCMA、pREV-REV、pMDLg/pRRE及びpCMV-VSV-G)でトランスフェクトしてレンチウイルスウイルスを産生し、48時間後に上清を採取し、製造業者のプロトコルに従ってLentiX濃縮器(Clontech、Takara)で濃縮した。濃縮レンチウイルスを、使用するまで-80℃に保持した。健康なドナーからのT細胞をDynabeadsで0日目に活性化させ、2日目にポリブレン(Merck Millipore)を加えて濃縮レンチウイルスで形質導入し、2000rpmで1時間遠心分離した。
【0113】
フローサイトメトリー:CAR-BCMA検出のために、細胞を組換えBCMA-Fcタンパク質(Enzo Life Sciences)と共にインキュベートした後、Brilliant Violet(BV)-421(Biolegend)にコンジュゲートした二次抗体抗ヒトIgG FCと共にインキュベートした。T細胞の染色及び疲弊に用いた抗体は、CD3-APC及びCD8-PE(Becton Dickinson)、PD1-APC、TIM3-APC、及びLAG3-APC(Thermo Fisher Scientific)であった。多発性骨髄腫細胞をCD138-BV421(Becton Dickinson)及びBCMA-APC(Biolegend)で染色した。全ての実験でフローサイトメトリー分析を、FlowJoソフトウェアを用いて行った。
【0114】
増殖アッセイ:CAR-T細胞をCellTrace(商標)CFSE細胞増殖キット(Invitrogen、Thermo Fisher Scientific)で染色した後、異なる条件下及び細胞株で96時間共培養した。フローサイトメトリーにより増殖を分析した。
【0115】
サイトカイン産生及びsBCMA:IFN-γ、TNF-α、IL-6、IL-1βサイトカインを製造業者のプロトコルに従ってELISA(ELISA MAX(商標)デラックスセット、Biolegend)によって定量した。可溶性BCMAを製造業者のプロトコルに従ってELISA(ヒトBCMA/TNFRSF17デュオセットELISA、R&D systems)によって検出した。
【0116】
共焦点顕微鏡法:RPMI細胞株をレンチウイルス粒子で形質導入し、緑色蛍光タンパク質(GFP)に融合したBCMAを過剰発現させ、次いでCellTracker(商標) Blue CMAC色素(Thermo Fisher Scientific)で染色したCART細胞と共培養した。さらに、BCMAはまた、モノクローナル抗TNRSF17マウス抗体(Sigma-Aldrich)及び二次抗マウスIgG Alexa 647(Cell signaling Technologies)を用いた共焦点蛍光顕微鏡法によって検出した。画像をLeica SP5顕微鏡を使用して取得した。405、488、及び633のレーザーを励起に使用し、Zスタック取得画像を作成し、対応するフィルターを適用した。in vivoでのタイムラプスでは、20秒毎に画像取得を行った。
【0117】
細胞毒性:アッセイを、1:1~0.125:1の様々なエフェクター:標的比で、T細胞と、GFP-ホタルルシフェラーゼ(GFP-ffLuc)を過剰発現させるようにレンチウイルスベクター(pLV)で修飾した腫瘍細胞とを24時間~96時間、共培養させることで行った。残存する生存GFP+腫瘍細胞のパーセンテージを次の式を適用してフローサイトメトリーで調べた:生細胞の%=x時点でのGFP+細胞の%/0hでのGFP+細胞の%)。
【0118】
in vivo骨髄腫マウスモデル:8週齢~12週齢のNOD/SCID IL-2Rcnull(NSG)マウスを、-1日目及び0日目に2Gで照射し、GFP-ffLuc-ARP-1細胞をマウスに接種した。マウスは、雌性又は雄性のマウスに応じて、それぞれ1個又は1.5×106個のARP1細胞/マウスのいずれかを受けた。腫瘍細胞を6日~14日間増殖させ、次いでNT T細胞又はCART細胞のいずれかをマウスに接種した。マウスを毎週の生物発光イメージング(BLI)に供した。BLIは、D-ルシフェリン(20mg/mL PBS)の100μL IP注入に続いて、HamamatsuカラーCDDカメラ(ニュージャージー州ブリッジウォーターのHamamatsu Photonics Systems)を用いて実施した。シグナルの定量をImageJソフトウェアで行った。
【0119】
結果
マウスCARTBCMA(ARI2m)の設計及び機能特性決定
ARI2mの設計は、それぞれヒンジ、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン、及びシグナル伝達ドメインとしてCD8a、4-1BB及びCD3ζを含む本発明者らのCART19(ARI1)に基づいた。抗CD19(A3B1抗体)をコード化する一本鎖可変フラグメント(scFv)を、MM 22に対する試験に成功した抗BCMA抗体J22.9 21の配列と交換した。この配列全体を第3世代のpCCLレンチウイルスベクターにクローニングした(
図1A)。CART細胞のトランスフェクション効率は30%を超え、CART細胞の凍結保存と解凍後に保持されたin vitro及びin vivo実験の全てで30%~60%の間で変動した(
図1B)。異なるMM細胞株(ARP1及びU266)に対するARI2の有効性は、T細胞とMM細胞をE:T比1:1で4日間にわたって共培養した後に確認され、非形質導入T細胞と比較してMM細胞を効率的に排除することが示された(
図1C)。さらに、BCMAを発現しないK562非MM細胞はARI2m細胞では排除されず、これによりARI2m細胞の特異性が示された(
図1C)。さらに、1:1~0.125:1のE:T比の限外希釈細胞毒性アッセイは、MM細胞を低E:T比において36時間(
図1D)で排除することにより、ARI2m細胞の高い有効性を実証し、有効性は72時間(
図1E)後も増加し続けた。予想通り、K562細胞に対する毒性は検出されなかった(
図1D及び
図1E)。
【0120】
ARI2m細胞による炎症誘発性サイトカインの産生は、異なるE:T比でARI2細胞とMM細胞とを24時間及び48時間共培養させて更に分析した。24時間のARI2m細胞で高いIFNγ産生が観察され、48時間後も増加し続けた(
図1F)。in vitroでの増加によりNT T細胞が活性化されるため、非形質導入(NT)T細胞では予想通り幾らかのIFNγ産生が検出された。IL6の最小レベルも24時間で検出され、48時間の共培養で増加した。さらに、予想通り、MM細胞だけで幾らかのIL6分泌が観察された(
図1F)。TNFαの産生は24時間と比較して48時間で減少し、TNFαはCART活性化の早い時期に産生されることを示す(
図1F)。残念ながら、このin vitroシステムではIL1β産生を検出することができなかった。
【0121】
ARI2m細胞のin vivoでの有効性を、本発明者らのマウスモデルで分析し、NSGマウスは1×10
6個のARP1 MM細胞を受け、6日後に10×10
6個のNT細胞又は2×10
6個のARI2m細胞を含む10×10
6個のT細胞のいずれかで処理した(
図1G)。疾患の進行とそれに続く生物発光は、未処理のマウス及びNT T細胞で処理したマウスと比較して、ARI2m細胞が疾患の進行を回避することを示し(
図1H)、これはより高い生存率につながった(
図1I)。さらに、実験終了時のマウス組織の分析は、BM及び脾臓にMM細胞が存在しないことを示し(
図1J)、T細胞は主に脾臓でみられたのに対し(
図1K)、CART細胞は主にBMで増殖し、BMにおける全T細胞集団からのCART細胞のパーセンテージは、脾臓におけるよりも高いことが示され(
図1K)、MMはBMの疾患であることから、これは関連性の高い所見である。さらに、MM進行の追加マーカーとして、本発明者らは、マウス血清中のsBCMA量を分析し、NT T細胞で処理したマウスでは大量のsBCMAを確認し、ARI2m細胞で処理したマウスではsBCMAが全く存在しないことを確認した(
図1L)。
【0122】
ARI2mのARI2hへのヒト化及びARI2m対ARI2hの比較
患者におけるCART細胞の早期消失は、非持続的応答を引き起こす可能性があり、CAR内のscFvのマウス成分に対するヒト免疫系による異種認識と関連している。したがって、ARI2mのscFvヒト化を行った。ARI2の2つの異なる変異体(Blast及びGermline)は、マウスアミノ酸(aa)をヒトコードでより頻繁に見られるaaに置換することによって、2つの異なる予測アルゴリズムに基づいて作製された。重鎖ではマウス配列と比較して両方の変異体が同じ置換aaの数を示したのに対し、軽鎖ではGermline変異体の置換aaの数がBlast変異体よりも少なかった(
図2A)。両変異体の有効性をin vitroで比較したところ、Germline変異体ではわずかに高い抗MM活性(
図2B)及びいずれの変異体もK562細胞を排除しなかったことから、MM細胞に対する特異性(
図2B)が示された。したがって、ARI2mとARI2hとを比較するために、全ての追加アッセイでGermline変異体を選択した(両方のCARの完全な配列については、材料及び方法を参照されたい)。ARI2h対ARI2mのin vitroでの有効性がわずかに低いことが認められたため(
図2B)、腫瘍細胞及びCART細胞を低いE:T(0.125:1)比で共培養した長期細胞毒性アッセイを実施した。このアッセイは、ARI2hはARI2mよりも遅いものの、全てのMM細胞を排除することでその目的を達成することが示された(
図2C)。さらに、増殖アッセイは、ARI2h細胞の増殖速度が遅くなることを確認した。さらに、長期の細胞毒性アッセイで両方のCARについて同じIFNγのin vitro産生が観察されたのに対し(
図2C)、ARI2h対ARI2mではTNFα及びIL6の産生が低いことが示され、ARI2hの毒性プロファイルが低いことが示唆された。
【0123】
ARI2h及びARI2mを、MM疾患の2つの異なるモデル(初期及び進行)でin vivoで比較した。マウスは0日目にMM細胞を受け、6日目又は14日目のいずれかに5×10
6個のCART細胞で処理して、疾患の初期モデル及び進行モデルをそれぞれ作製した(
図2D及び
図2E)。初期疾患モデルでは、ARI2hとARI2mの両方がMM疾患の進行を同等に回避した(
図2D及び
図2F)。予想通り、約50日でマウスが異種移植片対宿主病(GVHD)の徴候を示し始め、これはARI2m群でより重症であり、この群では生存率が低下した(
図2G)。進行した疾患モデルでは、ARI2mは疾患の進行は認められなかったが、ARI2h群では所定の時点で何らかの疾患シグナルが検出された(
図2E)が、有意ではなかった(
図2F)。さらに、ARI2hで処理したマウスは、ARI2mと比較して毒性がはるかに低いため、生存期間が長くなった(
図2G)。マウス組織の分析では、BMと比較して脾臓のT細胞のホーミングが高いことが再び示された(
図2H)。どちらのモデルでも、T細胞の増殖はARI2hよりもARI2mの方が高かったため、ARI2mの毒性が高いことが説明される可能性があり(
図2H)、重要なことに、両方のCAR及び両方の疾患モデルにおいて、BMにおけるT細胞の大部分はCART細胞であった(
図2H)。最後に、マウスの血清分析は、両方のCARが大量のIFNγを分泌することを示した。しかしながら、ARI2hの毒性プロファイルが低いという以前の観察と一致して、ARI2hによるIFNγ産生はARI2mよりも遅かった。したがって、初期モデルでは、CART注入の3日後、ARI2h群ではIFNγ産生を検出できず、CART注入の31日後にはARI2mとARI2hの両方で高量のIFNγ産生が示された(
図2I)。進行モデルでは、同じパターンが観察され、5日間のCART投与ではARI2hによるIFNγ産生がなく、21日で両方のCARでIFNγ産生が高いが、ARI2hでは低いことが示された(
図2I)。
【0124】
これらの結果は、ARI2m対ARI2hの活性が速いことを示唆しており、腫瘍負荷が高い場合、これによりCART細胞の疲弊が速くなると考えられる
したがって、CART細胞用量を低くした第3のin vivo実験(3×106)を実施した。この場合、生物発光の画像化は、マウスが14日目にCART細胞を受けると、以前の進行モデルと比較して疾患がより進行したことを示した。このモデルでは、ARI2mもARI2hも疾患の進行を回避することができなかった。しかしながら、ARI2hは疾患の進行が遅く、ARI2mよりも優れたパフォーマンスを示し、そのより遅い活性が、腫瘍負荷が高い場合にCART細胞の疲弊の低下につながる可能性があることを示唆する。
【0125】
腫瘍細胞への連続チャレンジに対する応答及びARI2m対ARI2hの炎症反応
以前の結果は、ARI2hはin vivoでの活性が遅く、xeno-GVHDに関して毒性が低くなることを示した。さらに、腫瘍負荷が高いと、ARI2mの有効性が低下し、これは、ARI2m対ARI2hの疲弊がより速いためであり得ると仮定される。この仮説を確認するため、本発明者らは、CART細胞を腫瘍細胞との連続したin vitroチャレンジに曝露した(
図3A)。これらの実験は最初に、T細胞のin vitroでの増加がCD8 T細胞と比較してより多数のCD4 T細胞を達成したことを示し、これは、CART細胞とNT T細胞の両方で観察された知見である。しかしながら、腫瘍細胞への曝露はCD8 T細胞の増殖を高め、このCD4/CD8比の正常化につながった(
図3B)。
【0126】
さらに、CART細胞の腫瘍細胞への連続チャレンジは、ARI2hではCD4及びCD8-CART細胞増殖の増加を示したが、ARI2mではこの増殖は継続的ではなく(
図3C)、MM細胞への連続チャレンジの後、ARI2m細胞が疲弊したか又は死んでいることを示唆している。
【0127】
さらに、本発明者らは、CART細胞によって活性化された後、マクロファージがIL6、IL1β及びTNFαの主な生産者である患者で観察されるサイトカイン放出症候群(CRS)とより類似したモデルを確立する両方のCARの炎症促進プロファイルを比較した。したがって、同じ個体から単離された単球及びT細胞をそれぞれマクロファージ及びCART細胞に分化させ、両方をMM細胞とのin vitro共培養に添加して細胞毒性及びサイトカイン産生を評価した(
図3E)。マクロファージの添加はCART抗MM活性に悪影響を及ぼさず(
図3F)、IFNγ産生がわずかに増加し(
図3G)、IL6及びTNFα産生の大幅な増加が誘発された(
図3G)。さらに、マクロファージ不在下では検出することができなかったIL1βをマクロファージ添加後に大量に検出した(
図3G)。したがって、この状況では、ARI2m及びARI2hの炎症促進活性を2日間にわたって比較し、両方のCARで同様のIFNγ、IL6及びIL1βの産生が示され(
図3G)、ARI2hのTNF産生が低い(
図3H)ことが示され、以前に示されたin vivo研究のようにARI2hの炎症誘発性及び毒性活性が低いことが示唆された(
図2D~
図2G)。
【0128】
ARI2m及びARI2hの効率的な臨床産生と活性
2019年に本発明者らの施設で生成されたARI2細胞から始まり、参加している全てのセンターに提供された、これらの以前のデータは、MM患者を対象とした第I相多施設臨床試験の開発を支持した(EudraCT コード:2019-001472-11)。したがって、ARI2m及びARI2hを、ARI1細胞を有するB細胞悪性腫瘍の多施設第II相臨床試験のために本発明者らの施設で使用されているのと同じプロトコルに従って、本発明者らの施設のGMP設備において増加させた
17。ARI2m(
図4A及び
図4C)とARI2h(
図4B及び
図4C)の両方が効率的に増加され、MM患者の応答を達成するための最小必要量(150×10
6個を超えるCART細胞)よりも多くのCART細胞を達成した。4つの臨床的増加を比較すると、増加の終わりに同等の数のARI2h細胞及びARI2m細胞が達成されたことが示され、ARI2h細胞の割合が高くなったにもかかわらず、この差は有意ではなく、おそらくARI2hのウイルス滴定率が高かったためである(
図4C)。さらに、これらのCART細胞は、低いE:T比でMM細胞を排除する高い有効性を示した(
図4D)。
【0129】
可溶性BCMAがARI2の活性に影響を与える
ALLにおいてCART19を用いた臨床研究によれば、MMにおいてCARTBCMA(150×10
6超)を用いた研究と比較して、完全奏効(CR)を達成するにはCART細胞用量を低くする必要がある(100×10
6)ことが示されている。これに関して、MM細胞の表面でのBCMA発現は、細胞外環境にsBCMAとして持続的に放出されるため、安定していない。したがって、本発明者らは、sBCMAがCARTBCMA細胞に結合し、それらの活性を一時的に阻害すると仮定して、MM患者においてCRを達成するために必要な高用量を説明する。したがって、本発明者らはまず、意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)を有する患者、新たに診断されたMM患者において、及び再燃時に血清中のsBCMA量を測定し、MM患者ではより多い量のsBCMAを確認した(
図5A)。さらに、共焦点蛍光顕微鏡法は、小胞においてMM細胞からBCMAが放出されることを確認した(
図5B)。したがって、sBCMAが一時的にCARTBCMA活性に影響を与え得ることを確認するため、GFPに融合されたBCMA過剰発現するMM細胞(MM-BCMA-GFP)を3時間にわたってARI2細胞と共培養し、in vivoタイムラプスイメージングを行った。本発明者らは、小胞で放出されたsBCMAが、ARI2細胞に結合し、それらの標的MM細胞からARI2細胞を受け入れることを確認した(
図5C)。さらに、本発明者らはまた、MM細胞と接触した後、ARI2細胞は、MM細胞の表面からBCMAの一部をそれらの膜内に獲得することができ、その結果、ARI2細胞間でフラトリサイドが認められたことを観察した(
図5D)。
【0130】
sBCMAがCART活性を阻害することを更に確認するために、MM細胞を組換えBCMAタンパク質の存在下で、抗BCMA抗体の有無にかかわらずARI2m細胞と共培養した。結果は、組換えBCMAタンパク質が細胞毒性及びIFNγ産生の観点からARI2m活性を阻害することを確認した(
図5E及び
図5F)。抗BCMAの添加は、細胞毒性ではなくIFNγ産生のみの観点から、この阻害を部分的に回復させた(
図5E及び
図5F)。さらに、MM細胞から放出されるsBCMAは、MM細胞におけるBCMA発現の減少につながり、これは、γ-セクレターゼが媒介する効果であり、BCMAを放出する可溶性BCMAを直接切断し、これはγ-セクレターゼ阻害剤を使用することで回避することができる。したがって、本発明者らはまず、MM細胞上のBCMA発現及び放出されたsBCMAの量におけるγ-セクレターゼ阻害剤(DAPT)の影響を分析した。予想通り、DAPT処理はMM細胞におけるBCMA発現を増加させ、sBCMAの放出を減少させた(
図5G及び
図5H)。このDAPTに関連するBCMA発現の増加は、MM細胞をNT T細胞と共培養した後にも検出された(
図5G)。ARI2/MM細胞の共培養へのDAPT添加は、sBCMAの量も減少させた。しかしながら、MM細胞を排除する高いARI2 in vitro活性により、BCMA発現の影響は通常のin vitro共培養ではほとんど検出されなかった(
図5G及び
図5H)。sBCMAの量を減少させることによってARI2活性を増強するDAPTの可能性のある役割を確認するため、本発明者らは、ARI2細胞に触れられていないMM細胞によるsBCMAの持続放出を伴うin vitroの状況でその影響を分析した。したがって、本発明者らは、同じin vitro実験をトランスウェルプレートで並行して行い、ここでは、ARI2細胞に触れられていないMM細胞が持続的にsBCMAを放出し得る(
図5I)。この状況では、未接触のMM細胞によるsBCMAの持続放出によりARI2活性が低下し(
図5J)、DAPT添加により未接触のMM細胞から放出されるsBCMAの悪影響が部分的に回避されることが確認された(
図5J)。
【配列表】