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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-18
(45)【発行日】2025-08-26
(54)【発明の名称】TiAl鋳造合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20250819BHJP
   F01D 5/28 20060101ALI20250819BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20250819BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20250819BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
F01D5/28
F01D25/00 L
F02B39/00 U
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020180501
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071499
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-07-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】鉄井 利光
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-147475(JP,A)
【文献】特開2016-166418(JP,A)
【文献】特開平09-143599(JP,A)
【文献】特開平10-130756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
F01D 5/28
F01D 25/00
F02B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分がアルミニウム(Al):44.5-46.5原子%、ニッケル(Ni):0.3-1.0原子%、ニオブ(Nb):1.0-5.0原子%、残部チタン(Ti)および不可避不純物からなるTiAl鋳造合金。
【請求項2】
さらに、バナジウム(V)またはタングステン(W)の少なくとも一方を含むと共に、両者の合計で0.5-2.0原子%を含む請求項1に記載のTiAl鋳造合金。
【請求項3】
さらに、バナジウム(V)、マンガン(Mn)含むと共に、マンガン(Mn)、バナジウム(V)を合計で0.5-2.0原子%含むか、
若しくは、さらに、タングステン(W)、クロム(Cr)含むと共に、クロム(Cr)タングステン(W)を合計で0.5-2.0原子%含む、
請求項1に記載のTiAl鋳造合金。
【請求項4】
さらに、クロム(Cr)またはマンガン(Mn)の一方を含むと共に、クロム(Cr)またはマンガン(Mn)を0.5-2.0原子%含む請求項1に記載のTiAl鋳造合金。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載のTiAl鋳造合金を用い、精密鋳造品であるターボチャージャー用タービンホイール。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか一項に記載のTiAl鋳造合金を用い、精密鋳造品であるジェットエンジン用動翼及び発電用ガスタービン用動翼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェットエンジンの動翼や乗用車用ターボチャージャーのタービンホイールなどに用いるのに好適な、鋳造性、機械加工性、並びに高温強度に優れたTiAl鋳造合金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジェットエンジンの動翼や乗用車用ターボチャージャーのタービンホイールにTiAl合金が使用されている。TiAl合金の密度はこれらの製品に従来使用されてきたNi基超合金や鉄基超合金の約1/2であるため、サイズを大きくしても重量増が少ないなどのメリットがあり、エンジン効率の向上による燃料消費量削減などに大きく寄与している。
【0003】
ジェットエンジン動翼の場合、現在は単純形状の矩形のインゴットより動翼全体を切削加工で削り出している。従って加工量が非常に多く、加工コストが高いことが現在の課題である。そこで、精密鋳造によって動翼に近い形状の素材を製造し、それを機械加工することで製品に仕上げる方法が今後必要と考えられている。
精密鋳造とは、製品と同じ形状の空洞部を有するセラミック製の鋳型を用い、鋳造時にこの空洞を溶湯で満たして凝固させることで製品形状の鋳造品を得る方法である。なお、鋳造品の外側に付着するセラミック鋳型は破壊して除去される。
【0004】
一方、現在TiAl合金が使用されているもう一つの部品である乗用車用ターボチャージャーのタービンホイールの場合、ジェットエンジン動翼よりは大幅にサイズが小さいため精密鋳造によって製品全体を製造することが可能である。上面の羽根車など製品のほとんどの部位は精密鋳造で製造される形状のままであるが、シャフトとの接合部分についてはタービンホイール背面を機械加工することで、直径15mm程度の接合面となる凸部を形成している。
【0005】
タービンホイールを鋳造する際、現在の方法ではタービンホイール背面より溶湯を導入している。従って背面には溶湯の導入経路(湯口という)が残留している。後述するようにTiAl合金の鋳造性は悪いため、欠陥発生を抑えるためにはこの湯口を太くする必要がある。具体的には直径30mm程度必要である。接合面を加工する際にはこの太い湯口を切削加工し、径15mm程度の接合部を形成する必要があることから、多くの加工量が必要となる。
つまり、ジェットエンジンの動翼ならびに乗用車用ターボチャージャーのタービンホイールともに精密鋳造で部品を製造した後においても多くの機械加工が必要となる。一般にTiAl合金は他の実用金属材料と較べると硬く、脆いため、機械加工性が劣悪である。具体的には、他の金属材料と同じ条件で切削加工すると、製品にはむしれと呼ばれる表面の剥離や欠けが生じることがあり、また工具の摩耗量も大きいため頻繁な工具交換が必要となる。従って、回転数や切り込みなどを極端に小さくした低負荷条件で加工する必要があり、加工時間が長くなることによるコストアップが課題となっている。
【0006】
一方、TiAl合金の精密鋳造に関し、現在の最大の課題は低い良品歩留まりである。良品歩留まりが低いため製品単価が非常に高いものとなっている。良品歩留まりが低い最大の理由は、従来のTiAl合金の鋳造性が悪いためである。TiAl合金の鋳造性が悪い理由は多くあるが、その最大の理由は溶湯の流動性が低いことである。このため、鋳型の狭い空洞部分の先端まで隙間無く溶湯が満たされなかったり、厚い部分の内部において引け巣などが生じることが多い。従って、これらの欠陥により製品が不良品となるため良品歩留まりが低下する。
つまり、以上示した現在の状況より、ジェットエンジンの動翼ならびに乗用車用ターボチャージャーのタービンホイールなどに好適なTiAl合金とは、良品歩留まり向上のため鋳造性(溶湯の流動性)が良好であると同時に、加工コスト低減のため優れた機械加工性を有する合金である。また、製品使用時に必要とされる良好な高温強度や、製造中や使用中に破壊しないための室温での一定の耐衝撃性を有する必要があることは言うまでも無い。
【0007】
TiAl合金の精密鋳造ではこれまで吸引鋳造や遠心鋳造など溶湯を加圧することで強制的に湯周り性を向上させる方策が取られてきた(例えば、特許文献1、2および3を参照)。特許文献1は、吸引鋳造によって精密鋳造品を製造し、特許文献2は、遠心鋳造によって精密鋳造品を製造することを開示する。また特許文献3は、吸引鋳造装置の中で遠心鋳造して精密鋳造品を製造することを開示する。
しかしながら、これらの方策を取ってもTiAl合金の鋳造性が低いことを完全に補うことはできず、製品に湯周り不良などの欠陥がでやすい問題があった。
【0008】
一方、機械加工性についてはβ相と呼ばれる第3相を意図的に生成させることで機械加工性を向上させたTiAl合金が知られている。(例えば、特許文献4を参照)。特許文献4は、α2相と、γ相とが交互に積層された平均粒径1~65μmのラメラー粒が配列し、該ラメラー粒の間隙をβ相およびγ相を含む基地が埋めてなる微細組織を有し、前記ラメラー粒の面積分率が30~70%であり、前記ラメラー粒内のα2相どうしの間隔すなわちラメラー間隔が0.4~1.5μmであり、前記β相の面積分率が5~15%であるTiAl合金であり、その特性の1つとして機械加工性に優れることを開示する。
しかしながら、β相の面積率が5%以上必要なことが問題である。β相とは高温で柔らかいことが特徴の相であり、この先行技術のように通常熱間鍛造時の変形能改善のために利用される相である。高温で柔らかいとは高温で低強度であるということから、TiAl合金の最大の特徴である優れた高温強度で特にクリープ強度を低下させる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平4-22562号公報
【文献】特開2016-78067号公報
【文献】特開2008-254052号公報
【文献】特開2002-356729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上から、本発明の課題は、ジェットエンジンの動翼や乗用車用ターボチャージャーのタービンホイールなどに用いるのに好適なTiAl鋳造合金を提供することであり、詳細には鋳造性、機械加工性、並びに高温強度と室温の耐衝撃性に優れたTiAl鋳造合金に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、Al量が比較的狭い一定の範囲内において、本願で目的とする鋳造性、機械加工性、高温強度、ならびに室温の耐衝撃性の必要以上の低下は無いことを見出した。また、Niが添加されることにより鋳造性と機械加工性が向上し、Nbが添加されることにより高温強度が向上することを見出した。また、さらにCrとMnを添加することで鋳造性と機械加工性がさらに向上し、VとWが添加されることにより高温強度がさらに向上することを見出した。また、室温で一定の耐衝撃性を確保するためには上記添加元素の添加量はNbを除くとなるべく少ない方が良いことを見出した。
以上により、以下の組成を有するTiAl鋳造合金の発明に至った。以下に詳細に説明する。
【0012】
本発明によるTiAl鋳造合金は、アルミニウム(Al):44.5-46.5原子%、ニッケル(Ni):0.3-1.0原子%、ニオブ(Nb):1.0-5.0原子%、残部チタン(Ti)および不可避不純物からなり、さらに好ましくは、上記成分に加えてクロム(Cr)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、タングステン(W)のうちの1種または2種以上を合計で0.5-2.0原子%含むことにより上記課題を解決する。
【0013】
アルミニウム(Al):TiとともにTiAl合金の基本的な元素であり、TiAl相、TiAl相等を構成する。Alが44.5原子%以下では室温の耐衝撃性と機械加工性が低下し、また46.5原子%以上では高温強度が低下するためAlの含有量は、44.5~46.5原子%が好ましい。
【0014】
ニッケル(Ni)は上記Al量において鋳造性と機械加工性を向上させるが、0.3原子%以下では添加効果が少なく、また1.0%原子以上では高温強度と室温の耐衝撃性を必要値以下に低下させるので望ましくない。従ってNiの添加量は0.3~1.0原子%が好ましい。
【0015】
ニオブ(Nb)は固溶強化によって高温強度を向上させるが、0.5%原子以下では添加効果が少なく、また5.0%原子以上では機械加工性と室温の耐衝撃性を必要値以下に低下させるので望ましくない。従ってNbの添加量は0.5~5.0原子%が好ましい。
【0016】
上記合金にクロム(Cr)とマンガン(Mn)を添加すると鋳造性と機械加工性はさらに向上するが、単独あるいは複合添加で0.5原子%以下では添加効果が少なく望ましくない。
また、バナジウム(V)とタングステン(W)を添加すると高温強度はさらに向上するが、単独あるいは複合添加で0.5原子%以下では添加効果が少なく望ましくない。また、Cr,Mn,V,Wは単独あるいは複合添加で2.0%原子以上では室温の耐衝撃性を必要値以下に低下させるので望ましくない。従ってCr,Mn,V,Wの添加量は単独あるいは複合添加で0.5~2.0原子%が好ましい。
【0017】
本発明のTiAl鋳造合金は、上述したように、鋳造性、機械加工性ならびに高温強度と室温の耐衝撃性に優れるため、精密鋳造品として有利であり、ジェットエンジンの動翼や乗用車用ターボチャージャーのタービンホイールなどに利用されるのに好適である。
【0018】
次に、本発明のTiAl鋳造方法を説明する。
まず原料を溶解する。ここで原料は、鋳造後の成分がアルミニウム(Al):44.5-46.5原子%、ニッケル(Ni):0.3-1.0原子%、ニオブ(Nb):1.0-5.0原子%、残部チタン(Ti)および不可避不純物からなり、さらに好ましくは、上記成分に加えてクロム(Cr)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、タングステン(W)のうちの1種または2種以上を合計で0.5-2.0原子%含むように調整される。原料の形状に特に制限はなく、ペレット、粒状、スポンジ、粉末等どれでも良い。また、あらかじめ溶解して作製した同じ成分の母合金インゴットを再溶解して使用しても良い。
【0019】
溶解に用いるるつぼは、通常TiAl合金の溶解に用いる水冷銅ルツボに加え、セラミックるつぼを用いて行っても良い。例示的には、イットリアるつぼ、カルシアるつぼが採用される。また、溶解方法は原料が溶解し、溶湯となれば、任意の溶解法を採用できるが、例示的には、高周波溶解等を採用できる。例えば、高周波溶解を採用した場合、原料を投入したるつぼを、チャンバー内に設置し、チャンバー内を真空排気し、アルゴンガス等の不活性ガスを導入して溶解してもよい。
【0020】
次の工程では、得られた溶湯を鋳型に注湯する。鋳型の材質は特に限定はしないが、工業的な精密鋳造の場合では、Ti系合金で一般的なジルコニア系のセラミック鋳型を用いると表面欠陥などが抑制されて望ましい。また、同様に工業的な精密鋳造の場合、薄い製品先端まで溶湯を充填させて欠陥を防止し、良品歩留まりを向上させるためには、吸引鋳造や遠心鋳造などの強制的に溶湯を加圧する方法を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のTiAl鋳造合金は、44.5-46.5原子%のAlにおいて、鋳造性、機械加工性、高温強度、ならびに室温の耐衝撃性の必要以上の低下は無く、その上で0.3-1.0原子%のNiが添加されることにより、鋳造性と機械加工性が向上し、また、1.0-5.0原子%のNbが添加されることにより高温強度が向上する。さらに、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、タングステン(W)のうちの1種または2種以上が合計で0.5-2.0原子%添加されることで、鋳造性、機械加工性ならびに高温強度がさらに向上する。また、以上の添加元素により室温の耐衝撃性はある程度低下するものの、添加量が上記の範囲内であれば一定の耐衝撃性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】例1~例25で使用した鋳型を模式的に示す図
図2】合金8の外観を示す図
図3A】合金8の鋳型から流出した溶湯の外観を示す図
図3B】合金6の鋳型から流出した溶湯の外観を示す図
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0023】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
[例1~例25]
表1の組成を満たすよう、スポンジTi粒状原料、Alペレット、Ni粒状原料、Nb薄片原料、Cr粒状原料、Mn薄片原料、AlV母合金粒状原料、W粉末を秤量し、合計重量がおおよそ500gとした原料を混合してイットリアるつぼに投入し、高周波溶解によって溶解した。詳細には、溶解炉のチャンバー内に原料を入れたるつぼを設置し、チャンバー内の真空引きを開始した。所定の真空度まで到達した後、アルゴンガスを導入した。アルゴンガスの圧力が所定の値まで到達した後、徐々に高周波電源による出力を負荷することで原料を昇温させて溶解させた。最大出力は5kWであり、原料すべてが溶解後、出力を3.5kWまで下げて3分間保持した。その後、鋳型に溶湯を注湯した。
【0024】
【表1A】
【0025】
【表1B】
【0026】
【表1C】
【0027】
なお、上記3つの表1A、1B、1Cは1つの表を3分割したものである。各試料に係る情報は、3つの表1A、1B、1Cにわたって各行に記載されている。例えば、「合金No.1」であれば、区分が「比較合金」であり、成分は原子%でAlの44.3、Niの0.7、Nbの2.0であり、溶湯流出量(g)が26であり、むしれの数量(ヶ)が8であり、800℃の引張強度(MPa)が480であり、室温のシャルピー吸収エネルギー(J)が4.0であり、鋳造性が「○」であり、機械加工性が「×」であり、高温の強度が「○」であり、室温の耐衝撃性が「×」である。他の試料も上記と同様である。
【0028】
なお、(その3)表において、鋳造性は、溶湯流出量が20g未満で「×」、20g以上で「○」、40g以上で「◎」とした。機械加工性は157cm加工し、むしれ発生量が5ヶ以上で「×」、5ヶ以下で「○」、2ヶ以下で「◎」とした。高温の強度は、800℃の引張強度が400MPa以下で「×」、400MPa以上で「○」、500MPa以上で◎とした。室温の耐衝撃性は、室温のシャルピー吸収エネルギーが5J未満で「×」、5J以上で「○」とした。
【0029】
図1は例1~例25の合金の鋳造で使用した鋳型を模式的に示す図である。
図において、本実施例の鋳型は、鋳型本体10、空洞部20、スペーサ30を有している。鋳型本体10は、右側ブロック12と左側ブロック14よりなるもので、基本的には2つ割りの鋳型であり、外側をシャコマン等で挟み込むことで固定している。従ってこのシャコマン等を外せば、鋳型本体10は右側ブロック12と左側ブロック14とに容易に分離する。鋳型の材質は鋳鉄であるが、実際の精密鋳造品の状況に近づけるため、溶湯と接触する鋳型の内表面にジルコニア系塗料を塗布している。また、鋳造性を向上させるための鋳型の予熱は行っていない。注湯に際しては、鋳型の上にアルミナ製ロートを置き、鋳型内部の空洞部全体ならびにこのロートの途中まで溶湯で満たした。
【0030】
空洞部20は鋳造合金で製造される物品の形状を有するもので、例えばタービン翼の場合には、根本が太く、先端が細い形状をしている。そこで、各合金の鋳造性を評価するため、空洞部20のサイズを、縦が80mmで、幅を上から30mmの空洞部21、20mmの空洞部22、15mmの空洞部23、3mmの空洞部24および1mmの空洞部25と徐々に小さくし、最下部となる空洞部25にも空洞を設けた。また、鋳型底部にスペーサ30を設置することより、この最下部の空洞部25の下に空間を設けた。
鋳造時に一部の溶湯については、凝固前に一番下の空洞部25に設けられた幅1mmの隙間より漏出することになる。この漏出の状況と溶湯の流動性は当然のことながら大きく関係するため、この漏出した溶湯の重量を測定し、それが多いものほど鋳造性が良い合金と見なした。
【0031】
注湯後、鋳型をある程度の温度まで放冷し、シャコマンを外すことで図1に示す箇所で鋳型を分離し、TiAl合金鋳造素材を取り出した。
例1~例25のそれぞれで得られた試料を、合金1~合金25と称する。なお、得られた合金1~合金25の組成は目標成分どおりであった。合金1~合金25の鋳造性、機械加工性、高温強度および室温の耐衝撃性の評価方法、ならびにその結果に基づく優劣の判断基準は以下の通りである。
【0032】
(1)鋳造性
合金1~合金25を注湯した際に、鋳型の最下部の1mmの隙間より漏出した溶湯の重量を測定した。漏出した溶湯の重量が20g以下のものを鋳造性が劣り、20g以上のものを鋳造性が優れ、40g以上のものをさらに優れるとした。
【0033】
(2)機械加工性
合金1~合金25の鋳造材の幅30mmの部分から直径20mm長さ80mmの円柱を加工し、超硬チップを用いた汎用旋盤での旋削試験を実施した。加工条件は回転数500rpm、切り込み0.2mm、送り0.1mm/rpmであり、長さ50mm切削加工した。従って、加工した面積は157cm2である。加工後の表面全体を目視観察することでむしれ(表面の剥離)の発生数を計測した。発生したむしれが5ヶ以上のものを機械加工性が劣り、5ヶ以下のものを機械加工性に優れ、2ヶ以下のものをさらに優れるとした。
【0034】
(3)高温強度
合金1~合25の鋳造材の幅15mmの部分から、平行部が直径4mm、長さ20mmで、掴み部がM10×P1.5のネジである全長が60mmの引張試験片を加工した。引張試験は800℃で実施し、最大荷重となる破断時の引張強度を測定した。得られた引張強度が400MPa以下のものを高温強度が劣り、400MPa以上のものを高温強度が優れ、500MPa以上のものをさらに優れるとした。
【0035】
(4)室温の耐衝撃性
合金1~合金25の鋳造材の幅20mmの部分から、縦10mm、横10mm、長さ55mmのシャルピー衝撃試験片を加工し、室温でシャルピー衝撃試験を実施して吸収エネルギーを測定した。なお、一般にTiAl合金は脆い材料であり、シャルピー衝撃試験で通常の2mmVノッチなどを入れると、いずれも小さい吸収エネルギーとなって合金間の差異が十分に比較できない恐れがあったことから、この評価ではノッチは入れない平滑試験片で試験した。得られた吸収エネルギーが5J以下下のものを室温の耐衝撃性に劣り、5J以上のものを優れるとした。
【0036】
以上示した各種特性の測定結果、ならびにこれに基づく各合金の性能評価結果を表1にまとめて示す。
図2は鋳造素材の外観の一例を示すものであり、合金3の外観である。
図3は鋳型下部から溶湯が漏出した外観状況の一例を示すものであり、図3Aは合金8、図3Bは合金6について、鋳型の裏側から撮影した漏出部分の外観である。
【0037】
以上示した鋳造実験ならびに各種特性の評価結果から、アルミニウム(Al):44.5-46.5原子%、ニッケル(Ni):0.3-1.0原子%、ニオブ(Nb):1.0-5.0原子%、残部Tiおよび不可避不純物を満たす合金2~合金4、合金7~合金9、合金12~合金14は、本願の目的に対して優れたTiAl鋳造合金であることが示された。また、上記成分に加えておよびクロム(Cr)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、タングステン(W)のうちの1種または2種以上を合計で0.5-2.0原子%含む、合金17~合金19、合金22~合金24は本願の目的に対してさらに優れたTiAl鋳造合金であることが示された。
【0038】
以下、更に詳細に記載する。
(1)Alの好適な濃度について
合金1~5は、Al濃度を変化させたグループである。このグループでは、Al並びにTi及び不可逆不純物を除く成分が、ニッケル(Ni):0.3-1.0原子%、ニオブ(Nb):1.0-5.0原子%の範囲内であり、Alが44.7%、45.5%、46.3%の場合(それぞれ合金2、3及び4)は鋳造性と機械加工性、高温の強度、ならびに室温の耐衝撃性はいずれも良好であるが、Alが44.3%と比較的少ない場合(合金1,比較合金)は機械加工性と室温の耐衝撃性が不良であることが分かる。また、Alが46.7%と比較的多い場合(合金5,比較合金)は高温強度が不良であることが分かる。
【0039】
(2)Niの好適な濃度について
合金6~10は、Ni濃度を大きく変化させたグループである。このグループでは、Ni並びにTi及び不可逆不純物を除く成分が、アルミニウム(Al):44.5-46.5原子%、ニオブ(Nb):1.0-5.0原子%の範囲内であり、Niが0.4%、0.7%、0.9%の場合(それぞれ合金7,8及び9)は、鋳造性と機械加工性、高温の強度、ならびに室温の耐衝撃性はいずれも良好であるが、Niが0.2%と比較的少ない場合(合金6,比較合金)は鋳造性と機械加工性が不良であることが分かる。また、Niが1.2%と比較的多い場合(合金10,比較合金)は鋳造性と機械加工性はさらに良好であるものの、高温の強度と室温の耐衝撃性が不良であることが分かる。
【0040】
(3)Nbの好適な濃度について
合金11~15は、Cr濃度を大きく変化させたグループである。このグループでは、Nb並びにTi及び不可逆不純物を除く成分が、アルミニウム(Al):44.5-46.5原子%、ニッケル(Ni):0.3-1.0原子%、の範囲内であり、Nbが1.2%、3.0%、4.8%の場合(それぞれ合金12,13及び14)は、鋳造性と機械加工性、高温の強度、ならびに室温の耐衝撃性はいずれも良好であるが、Nbが0.8%と比較的少ない場合(合金11,比較合金)は高温強度が不良であることが分かる。また、Nbが5.2%と比較的多い場合(合金15,比較合金)は高温強度はさらに良好であるものの、機械加工性と室温の耐衝撃性が不良であることが分かる。
【0041】
(4)CrとMnの添加の効果について
合金16~20は、発明合金に対してさらにCrとMnを添加した合金である。このグループでは、アルミニウム(Al):44.5-46.5原子%、ニッケル(Ni):0.3-1.0原子%、ニオブ(Nb):1.0-5.0原子%、の範囲内であり、Cr+Mnが0.4%の場合(合金16)は鋳造性と機械加工性、高温の強度、ならびに室温の耐衝撃性はいずれも良好であるが、無添加の発明合金と大差ない。一方、Cr+Mnが1.0,1.2%、1.5%の場合(それぞれ合金17,18及び19)は、鋳造性と機械加工性がこれら元素が無添加の発明合金よりさらに優れている。また、Cr+Mnが2.6%と比較的多い場合(合金20,比較合金)は高温強度と室温の耐衝撃性が不良であることが分かる。
【0042】
(5)VとWの添加の効果について
合金21~25は、発明合金に対してさらにVとWを添加した合金である。このグループでは、アルミニウム(Al):44.5-46.5原子%、ニッケル(Ni):0.3-1.0原子%、ニオブ(Nb):1.0-5.0原子%、の範囲内であり、V+Wが0.4%の場合(合金21)は鋳造性と機械加工性、高温の強度、ならびに室温の耐衝撃性はいずれも良好であるが、無添加の発明合金と大差ない。一方、V+Wが1.3,0.9%、1.7%の場合(それぞれ合金22,23及び24)は、高温高度がこれら元素が無添加の発明合金よりさらに優れている。また、V+Wが2.3%と比較的多い場合(合金25,比較合金)は機械加工性と室温の耐衝撃性が不良であることが分かる。
【0043】
(6)総括
以上の通り、表1の測定結果及び評価結果から、Ti及び不可逆不純物を除く濃度が、アルミニウム(Al):44.5-46.5原子%、ニッケル(Ni):0.3-1.0原子%、ニオブ(Nb):1.0-5.0原子%、の範囲内にあるTiAl鋳造合金はこれらの組成比の範囲外にある合金と比べて、本願の目的に対して優れた特性を示すことが示された。またさらに上記成分に加えてクロム(Cr)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、タングステン(W)のうちの1種または2種以上を合計で0.5-2.0原子%含む元素は、本願の目的に対してさらに優れた特性を示すことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上詳細に説明したように、本発明のTiAl鋳造合金は鋳造性が優れているので精密鋳造品に用いた場合、湯周り不良などによる欠陥の発生が抑制される。また機械加工性に優れているので、鋳造品の切削加工コストの削減が可能である。さらに、高温強度と室温の耐衝撃性に優れているので、発電用ガスタービンやジェットエンジンの動翼、乗用車用等の陸上輸送機器用エンジンや船舶用エンジンに用いられるターボチャージャーのタービンホイールなどとして使用するのに好適である。
【符号の説明】
【0045】
10 鋳型本体
12 右側ブロック
14 左側ブロック
20 空洞部
21、22、23、24、25 空洞部各部
30 スペーサ
図1
図2
図3A
図3B