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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-19
(45)【発行日】2025-08-27
(54)【発明の名称】口腔内乾燥改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20250820BHJP
   A61K 31/7028 20060101ALI20250820BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250820BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20250820BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20250820BHJP
【FI】
A61K31/7048 ZNA
A61K31/7028
A61P43/00 111
A61P1/02
A23L33/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021029101
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022130118
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591061068
【氏名又は名称】東洋精糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 雄志
(72)【発明者】
【氏名】タンジャ マハマドゥ
(72)【発明者】
【氏名】阪本 龍司
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-059522(JP,A)
【文献】特開2017-105774(JP,A)
【文献】TAKAHASHI, A. et al.,Evaluation of the Effects of Quercetin on Damaged Salivary Secretion,PLoS ONE,2015年,Vol.10(1): e0116008,p.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7048
A61K 31/7028
A61P 43/00
A61P 1/02
A23L 33/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるケルセチン配糖体を含む口腔内乾燥改善剤であって、前記ケルセチン配糖体がα-モノグルコシルルチンであり、前記口腔内乾燥改善剤の投与頻度が1日1回以上8週間以上連続投与である、口腔内乾燥改善剤
【化1】
〔式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に糖類由来の構造である。〕
【請求項2】
前記式(1)で示されるケルセチン配糖体がアクアポリンの産生を促進する、請求項1に記載の口腔内乾燥改善剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の口腔内乾燥改善剤を含む口腔内乾燥改善用の飲食品、医薬品、または医薬部外品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内乾燥改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内の乾燥は、ストレスや不規則な生活等で引き起こされ、乾燥状態が続くことで、口臭やプラークの増加をもたらすほか、舌の痛みや味覚の変化などを引き起こし、生活の質を落とすことが知られている。また、口腔内の乾燥感は加齢とともに増し、2016年に行われた65歳以上を対象とした疫学研究では、口腔内乾燥症の有病率が約3人に1人、唾液分泌低下の有病率が約10人に1人であると報告されている(非特許文献1)。そのため、超高齢社会である我が国においては、口腔乾燥感を経験する者の割合が年々増加することが予想される。
【0003】
アクアポリンは、水分子を特異的に通す膜タンパク質であり、ほとんどの内臓に存在する。これまで、アクアポリンのアイソフォームは、アクアポリン0~アクアポリン12まで13種が知られており、このうち、アクアポリン1およびアクアポリン3~アクアポリン8は唾液腺に確認され、唾液分泌機能に寄与すると考えられている(非特許文献2)。ドライマウスおよびシェーグレン症候群におけるアクアポリン3およびアクアポリン5に関する研究では、唾液分泌におけるアクアポリン3の機能はこれまでに明らかになってはいないものの、アクアポリン3のmRNA発現量は、ドライマウス患者で低いことが確認され、アクアポリン3は唾液分泌、ドライマウス、およびシェーングレン症候群における口腔内の乾燥状態などの病気に関わることが示唆されている(非特許文献3)。
【0004】
口腔内乾燥症の緩和剤としては、特許文献1では、レスベラトロールを有効成分として含有する組成物を口腔内乾燥症の緩和剤として開示している。該文献では、レスベラトロールを含むカプセルを製造し、これを用いたシェーグレン症候群の患者9名による、唾液分泌量に及ぼす評価を行い、レスベラトロール摂取により、唾液分泌量が増加傾向にあると報告している。
【0005】
また、特許文献2では、パイナップルセラミドをアクアポリン産生促進作用の有効成分として含有する口腔乾燥症改善剤が開示されている。該文献では、パイナップルの残渣であるパイナップルパルプから得られた所定の構造を有するパイナップルセラミドを配合したチュアブルを用いた、12名の被験者によるVAS法による口腔内乾燥症状の評価を行い、「寝起きの口腔内のネバネバ感」および「口唇の潤い」について、改善効果が認められたと報告している。また、正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞を用いた実施例では、AQP3およびAQP5のmRNAの発現量が促進されたと報告している。
【0006】
ケルセチン配糖体の一つであるα-グルコシルルチンは、ルチンのルチノース単位中のグルコース残基に、α1→4結合により1または複数(2~20程度)のグルコースが結合した化合物である。α-グルコシルルチンは、元のルチンの12000倍溶解度が高く、飲料、食品、機能性食品および化粧品などの分野で利用されてきた。しかし、これまで、α-グルコシルルチンが、口腔内乾燥に及ぼす影響については知られておらず、また継続使用により生じる影響については検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-57144号公報
【文献】特開2014-169238号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Ohara Y,Hirano H,Yoshida H,et al. Prevalence and factors associated with xerostomia and hyposalivation among community-dwelling older people in Japan. Gerodontology.2016;33(1):20-7.
【文献】Delporte C,Steinfeld S. Distribution and roles of aquaporins in salivary glands. Biochim Biophys Acta-Biomembr. 2006;1758(8):1061-70.
【文献】Ichiyama T,Nakatani E,Tatsumi K,et al. Expression of aquaporin 3 and 5 as a potential marker for distinguishing dry mouth from Sjoegren’s syndrome. J Oral Sci.2018;60(2):212-20.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、口腔内の乾燥状態を改善することが、口腔内乾燥に起因する疾病の発症、進展の予防や治療の戦略上重要であると考え、口腔内乾燥を改善する口腔内乾燥改善剤を提供することを本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の〔1〕~〔6〕に関する。
【0011】
[1]式(1)で示されるケルセチン配糖体を含む口腔内乾燥改善剤。
【化1】
〔式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に糖類由来の構造である。〕
[2]前記式(1)中、R1がラムノース由来の構造である、[1]に記載の口腔内乾燥改善剤。
[3]前記式(1)で示されるケルセチン配糖体がα-グルコシルルチンである、[1]または[2]に記載の口腔内乾燥改善剤。
[4]前記式(1)で示されるケルセチン配糖体がα-モノグルコシルルチンである、[1]~[3]のいずれかに記載の口腔内乾燥改善剤。
[5]前記式(1)で示されるケルセチン配糖体がアクアポリンの産生を促進する、[1]~[4]のいずれかに記載の口腔内乾燥改善剤。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の口腔内乾燥改善剤を含む飲食品、医薬品、または医薬部外品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、口腔内乾燥を改善する口腔内乾燥改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、αG-ルチンを含む口腔内乾燥改善剤をヒト健常人に摂取させた場合の、VAS法による口腔内乾燥感の実測値を示したグラフである。横軸は摂取時間(週)を、縦軸は感覚の程度を示したVAS記録用紙の直線上の位置(mm)を示している。
図2図2は、αG-ルチンを含む口腔内乾燥改善剤をヒト健常人に摂取させた場合の、VAS法による口腔内乾燥感の変化量を示したグラフである。横軸は摂取時間(週)を、縦軸はVAS記録用紙の直線状の位置の変化量を示している。
図3図3は、αG-ルチンを含む培養液で培養したCa9-22細胞の、アクアポリン3のmRNAの発現量の相対強度を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明の口腔内乾燥改善剤について具体的に説明する。
<口腔内乾燥改善剤>
本発明の一実施形態である口腔内乾燥改善剤は、式(1)で示されるケルセチン配糖体を含む。
【0015】
【化2】
〔式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に糖類由来の構造である。〕
【0016】
〔ケルセチン配糖体〕
式(1)で示されるケルセチン配糖体は、ポリフェノールの一種であるケルセチンの3位の水酸基にグルコースがβ結合し、該グルコースの4位および5位の水酸基に糖類が結合した化合物である。式(1)で表されるケルセチン配糖体としては、1種のケルセチン配糖体のみで用いてもよく、複数種のケルセチン配糖体の混合物を用いてもよい。また、口腔内乾燥改善剤は、本発明の効果を損なわない範囲で上記ケルセチン配糖体以外の成分(その他の成分)を含んでもよく、例えばイソケルシトリン(イソケルセチン)、ケルセチン、ルチン等を含んでもよい。
【0017】
式(1)中のR1およびR2は、それぞれ独立に糖類由来の構造である。糖類由来の構造としては、通常は糖類の有する複数のOH基のうち、一つが脱離した構造が挙げられる。糖類としては例えば、グルコース、ラムノース、フルクトース、マンノース、ガラクトース等のヘキソース、キシロース、アラビノース等のペントース等の単糖類、スクロース、ラクトース、プリメベロース、ゲンチオビオース、ルチノース、ストロファントビオース、セロビオース、アミロース、アミロペクチン、セルロース等の多糖類、エリスリトール、キシリトール等の糖アルコール、あるいはそれらの誘導体を用いることができる。原料の入手容易性や反応効率、ケルセチン配糖体の安定性、口腔内乾燥改善効果の観点から、R1およびR2は単糖または多糖であることが好ましい。R1はラムノース由来の構造であることが好ましい。また、R2はグルコース由来の構造またはアミロース由来の構造であることが好ましい。
【0018】
原料の入手容易性や反応効率、ケルセチン配糖体の安定性、口腔内乾燥改善効果の観点から、R1がラムノース由来の構造である場合は、上記ケルセチン配糖体は式(1-1)で示されるものが好ましい。
【化3】
〔式(1-1)中、R2は糖類由来の構造である。〕
【0019】
原料の入手容易性や反応効率、ケルセチン配糖体の安定性、口腔内乾燥改善効果の観点から、R2がグルコース由来の構造またはアミロース由来の構造である場合は、上記ケルセチン配糖体は式(1-2)で示されるものがより好ましい。なお、アミロースは、グルコースがα1→4結合により結合した多糖である。
【化4】
〔式(1-2)中、R1は糖類由来の構造である。また、nは1以上の整数である。〕
【0020】
原料の入手容易性や反応効率、ケルセチン配糖体の安定性、口腔内乾燥改善効果の観点から、式(1-2)中、n=1、またはn=2~20が好ましく、n=1、またはn=2~10がより好ましく、n=1がさらに好ましい。
【0021】
原料の入手容易性や反応効率、ケルセチン配糖体の安定性、口腔内乾燥改善効果の観点から、上記ケルセチン配糖体は式(1-3)で示されるものが特に好ましい。
【化5】
【0022】
原料の入手容易性や反応効率、ケルセチン配糖体の安定性、口腔内乾燥改善効果の観点から、式(1-3)中、n=1、またはn=2~20が好ましく、n=1、またはn=2~10がより好ましく、n=1がさらに好ましい。
【0023】
式(1-3)のケルセチン配糖体は総称して、α-グルコシルルチンとも呼ばれる。また、α-グルコシルルチンの中でも、式(1-3)中、n=1であるケルセチン配糖体は、α-モノグルコシルルチンとも呼ばれる。
【0024】
式(1)で表されるケルセチン配糖体としては、α-モノグルコシルルチンが主成分であることが好ましく、式(1)で表されるケルセチン配糖体中として、α-モノグルコシルルチンが50~100質量%含まれることがより好ましく、65~85質量%含まれることがさらに好ましい。
【0025】
上記糖に含まれている水酸基は、他の基により修飾されていてもよい。
【0026】
式(1)で示されるケルセチン配糖体のうち、アクアポリン(以下、「AQP」とも称す)の産生を促進するケルセチン配糖体であることが、口腔内乾燥改善効果の点から好ましい。AQPとしては、特に限定されないが、AQP1およびAQP3~AQP8から選ばれる少なくとも一つが好ましく、AQP3またはAQP5がより好ましい。
【0027】
アクアポリンの産生促進の当否は、上記ケルセチン配糖体に接触した細胞のアクアポリンの発現量またはアクアポリンの遺伝子の発現量により判断することができる。例えば、上記ケルセチン配糖体を含む培地で培養した細胞のアクアポリンの発現量またはアクアポリンの遺伝子の発現量により判断することができる。
【0028】
アクアポリンの発現量またはアクアポリンの遺伝子の発現量は、公知の方法により測定することができる。アクアポリンの発現量は、例えば、吸光光度法、ELISA法および電気泳動法により測定することができる。アクアポリンの遺伝子発現量は、例えば、PCR法、マイクロアレイ法、およびRNAシークエンス法などの公知の解析法により測定することができる。
【0029】
ケルセチン配糖体に接触した細胞のアクアポリンの発現量またはアクアポリンの遺伝子の発現量が、ケルセチン配糖体に接触させない細胞の該発現量に対して、増加傾向、例えば、10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上増加している場合を、アクアポリンの産生が促進していると判断することができる。
【0030】
〔ケルセチン配糖体の製造方法〕
上記ケルセチン配糖体は、天然物由来のものでもよく、合成品であってもよい。天然物を原料とする場合には、原料となる動植物から、公知の抽出方法によって得られる抽出物をそのまま用いてもよく、さらに分離精製を行ってもよい。
【0031】
ケルセチン配糖体が合成品である場合には、原料となる化合物は制限されず、公知の手法を用いて製造することができ、未反応の原料や副生成物、不純物を含んでもよい。ケルセチン配糖体は、原料の入手容易性や反応効率、ケルセチン配糖体の安定性、口腔内乾燥改善効果の観点からケルセチン、イソケルシトリンまたはルチンに糖類を結合させて製造することが好ましく、ルチンに糖類を結合させることがさらに好ましい。また、糖類を結合させた後、糖類の結合を特異的に切断し、目的とする分子種のケルセチン配糖体を得ることがより好ましい。糖類の結合または切断には、例えば酵素法、有機化学的な方法や生物変換による方法等を用いることができるが、原料のケルセチン、イソケルシトリンまたはルチンに1種または複数の酵素を作用させることが好ましく、特許第2816030号公報に記載の酵素処理がさらに好ましい。
【0032】
上記特許第2816030号公報に記載の酵素処理について概説すれば、以下の通りである。(1)糖供与体の共存下でルチンに糖転移酵素を作用させ、ルチンのグルコース単位にα-1,4結合によりグルコースを付加することにより、α-グルコシルルチンが生成し、未反応のルチンとα-グルコシルルチンを含有する組成物が得られる。(2)上記(1)により生成したα-グルコシルルチンにグルコアミラーゼ等を作用させ、ルチンのグルコース単位に結合しているグルコース鎖から1分子だけを残して他のグルコースを切断することにより、α-モノグルコシルルチンが生成し、未反応のままのルチンとα-モノグルコシルルチンを含有する組成物が得られる。(3)未反応のままのルチンにα-L-ラムノシダーゼを作用させ、ルチンのルチノース単位に含まれるラムノースを切断することによりイソケルシトリンが生成し、イソケルシトリンとα-モノグルコシルルチンを含有する組成物が得られる。
【0033】
前記酵素処理は、目的とする口腔内乾燥改善剤の態様に合わせて、組み合わせ、順番等を適宜調整することが可能である。また、複数種の酵素を同時に添加することで、1つの工程で複数の酵素反応を並行して進める態様であってもよい。また、このような酵素処理工程の後にまたはその途中に、必要に応じてその他の処理を行ってもよい。例えば、沈殿物を除去するための濾過処理、沈殿物が生じない程度の濃縮処理、イオン交換樹脂を用いた脱塩処理、その他の夾雑物を除去するための精製処理、さらにこれらの液状物から固形物を調製するための乾燥または凍結乾燥処理などが挙げられる。
【0034】
上述のような製造方法により得られる組成物は「酵素処理ルチン」として一般的に製造販売されており、本発明ではそのような商品を使用することができる。例えば、東洋精糖(株)製の商品「αGルチンPS」は、α-モノグルコシルルチン75質量%、イソケルシトリン15質量%を含有する組成物である。また、同じく東洋精糖(株)製の商品「αGルチンP」は、α-グルコシルルチン70質量%、ルチン15質量%を含有する組成物である。
【0035】
〔組成〕
本発明の口腔内乾燥改善剤は、上記ケルセチン配糖体を含むものであればよく、ケルセチン配糖体のみからなるものであってもよいし、ケルセチン配糖体による口腔内乾燥改善効果を妨げない限り、さらに賦形剤、潤沢剤、安定化剤、結合剤、甘味剤、崩壊剤、湿潤剤、着色剤、コーティング剤、乳化剤等の公知の任意成分を含有してもよい。
【0036】
口腔内乾燥改善剤に含まれる上記ケルセチン配糖体の含有量は特に限定されない。例えば、本発明の口腔内乾燥改善剤中のケルセチン配糖体の含有量の下限としては、例えば、30質量%、40質量%、45質量%、50質量%、60質量%、70質量%が挙げられる。また、本発明の口腔内乾燥改善剤中のケルセチン配糖体の含有量の上限としては、例えば、100質量%、99質量%、98質量%、95質量%、90質量%、85質量%が挙げられる。本発明の口腔内乾燥改善剤中のケルセチン配糖体の含有量の範囲としては、上記下限と上限とを任意に組み合わせた範囲を任意に設定することができ、例えば30~100質量%、60~100質量%、60~90質量%等の範囲を設定することができる。
【0037】
ケルセチン配糖体を含む口腔内乾燥改善剤としては、例えば、以下の市販品をあげることができる。東洋精糖株式会社製の商品「αGルチンPS」は、α-モノグルコシルルチン75質量%、イソケルシトリン15質量%を含有する組成物である。また、同じく東洋精糖株式会社製の商品「αGルチンP」は、α-グルコシルルチン70質量%、ルチン15質量%を含有する組成物であり、これら商品を口腔内乾燥改善剤として使用することができる。または、これらの市販品を精製したものを口腔内乾燥改善剤として使用してもよい。
【0038】
〔用途〕
本発明の口腔内乾燥改善剤は、口腔内の乾燥状態を改善する効果を有する。したがって、本発明の口腔内乾燥改善剤は、口腔内の乾燥に起因する症状、例えば、口腔内のネバネバ感、歯垢、舌苔、口臭、灼熱感、疼痛、舌通、味覚異常、舌乳頭萎縮、口腔粘膜の炎症、びらん、潰瘍形成、舌や口角の亀裂等の症状の改善に有用であり、これらを症状に含む口腔内乾燥症(ドライマウス)などの疾患の治療に有用である。
【0039】
口腔内乾燥改善剤の投与量は、口腔内の乾燥に起因する症状の程度によって適宜選択すればよい。例えば、口腔内乾燥改善効果の観点から上記ケルセチン配糖体として一日あたり、通常は65~520mg、好ましくは130~390mg、より好ましくは195~255mgである。また、前記一日あたり投与量を、例えば1日あたり1~3回にわけて投与することができ、2または3回にわけて投与するのが好ましい。
【0040】
口腔内乾燥改善剤の投与期間は、口腔内の乾燥に起因する症状の程度によって適宜選択すればよい。例えば、通常は28~168日、好ましくは42~112日、より好ましくは56日~84日である。投与方法は特に制限されないが、経口投与が好ましい。
【0041】
〔評価〕
本発明の口腔内乾燥改善剤の口腔内乾燥改善効果は、例えば、実施例で後述するように口腔内乾燥感の自覚症状をVAS法により評価することができる。該改善効果は、ケルセチン配糖体の配合量や投与期間によって変動するが、口腔内乾燥改善剤の摂取前後で、口腔内乾燥感を示す数値が、例えば、15%以上低下することが好ましく、20%以上低下することが好ましく、25%以上低下することがより好ましい。
【0042】
<口腔内乾燥改善剤を含む飲食品、医薬部外品または医薬品>
本発明の一実施形態は、上記口腔内乾燥改善剤を含む飲食品、医薬部外品または医薬品である。口腔内乾燥改善剤は、そのまま生体に投与してもよいし、口腔内乾燥改善剤を含む有効量を薬学的に許容する担体とともに配合した飲食品、医薬部外品または医薬品(以下、「飲食品等」と称す)として投与してもよい。投与方法は特に制限されないが、経口投与が好ましい。
【0043】
飲食品としては、例えば、果実飲料、ウーロン茶、緑茶、紅茶、ココア、野菜ジュース、青汁、豆乳、乳飲料、乳酸飲料、ニアウォーター、スポーツドリンク、栄養ドリンク等の飲料類、ゼリー、プリン、飴、グミ、ガム、錠菓(ラムネ)およびヨーグルト等の洋菓子または和菓子、調味料、魚肉加工品、畜産加工品、および特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の保健機能食品や、その他のいわゆる健康食品やサプリメント、飼料、ペットフードが挙げられる。このうち、口腔内改善促進剤の口腔内での滞留時間の長さの点から、飴、グミ、ガム、錠菓(ラムネ)が好ましい。
【0044】
医薬部外品または医薬品としては、例えば、固形製剤や液体製剤などが挙げられる。剤具体的には、固形製剤として、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ等が挙げられる。また、液状製剤として内用液剤、外用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、ドリンク剤、注射液、輸液等が例示され、これら剤形やその他の剤形が目的に応じて適宜選択される。投与が容易で、口腔内乾燥改善効果を発揮しやすいことから、錠剤、またはカプセル剤とするのが好ましい。
【0045】
固形製剤においては賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、矯味剤、安定化剤などの補助剤を用いてもよい。固形製剤における賦形剤の好適な例としては、例えば乳糖、D-マンニトール、デンプンなどが挙げられる。結合剤の好適な例としては、例えば、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、糖アルコール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。崩壊剤の好適な例としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等が挙げられる。潤沢剤の好適な例としては、例えばステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0046】
液状製剤において、溶媒としては有効成分である上記ケルセチン配糖体を溶解させることができ、生体安全性が高いものが選択される。溶媒の好適な例としては、例えば、精製水、エタノール、プロピレングリコールなどが挙げられる。また、液状製剤は、溶解補助剤、懸濁剤、等張化剤、緩衝剤、抗酸化剤等の補助成分を含んでいてもよい。
【0047】
上記口腔内乾燥改善剤を含む飲食品等は、一般的に用いられている手法に従って、口腔内乾燥改善剤を添加することにより製造することができる。口腔内乾燥改善剤は、飲食品等の製造工程の初期に添加されるか、製造工程の中期または終期に添加されればよく、また添加の手法は、混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等から適切なものを飲食品等の態様に応じて選択すればよい。
【0048】
口腔内乾燥改善剤に含まれる上記ケルセチン配糖体は、水溶性が良好であるため、水または水分の多い飲食品等に添加する際も、均一に溶解または分散させることが可能である。
【0049】
口腔内乾燥改善剤の飲食品等への配合量は、口腔内の乾燥に起因する症状の程度等によって適宜選択すればよいが、投与の容易性や飲食品等中での安定性の観点から、上記ケルセチン配糖体として、0.045~25.00質量%が好ましく、0.225~14.15質量%がよりに好ましい。
【0050】
<アクアポリン産生促進剤>
本発明の一実施形態は、上記式(1)で記載のケルセチン配糖体を含む、アクアポリン産生促進剤である。ケルセチン配糖体の意味および好適態様は「口腔内乾燥改善剤」の項で記載の内容と同義である。アクアポリン産生促進剤は、上記ケルセチン配糖体を含むものであればよく、ケルセチン配糖体のみからなるものであってもよいし、ケルセチン配糖体によるアクアポリン産生促進効果を妨げない限り、さらに賦形剤、潤沢剤、安定化剤、結合剤、甘味剤、崩壊剤、湿潤剤、着色剤、コーティング剤、乳化剤等の公知の任意成分を含有してもよい。
【0051】
アクアポリン産生促進剤に含まれる上記ケルセチン配糖体の含有量は特に限定されない。例えば、本発明の口腔内乾燥改善剤中のケルセチン配糖体の含有量の下限としては、例えば、30質量%、40質量%、45質量%、50質量%、60質量%、70質量%が挙げられる。また、本発明の口腔内乾燥改善剤中のケルセチン配糖体の含有量の上限としては、例えば、100質量%、99質量%、98質量%、95質量%、90質量%、85質量%が挙げられる。本発明の口腔内乾燥改善剤中のケルセチン配糖体の含有量の範囲としては、上記下限と上限とを任意に組み合わせた範囲を任意に設定することができ、例えば30~100質量%、60~100質量%、60~90質量%等の範囲を設定することができる。
【0052】
アクアポリン産生促進剤は、アクアポリンの産生を促進することから、口腔内の乾燥に起因する症状、例えば、口腔内のネバネバ感、歯垢、舌苔、口臭、灼熱感、疼痛、舌通、味覚異常、舌乳頭萎縮、口腔粘膜の炎症、びらん、潰瘍形成、舌や口角の亀裂等の症状の改善に有用であり、これらを症状に含む口腔内乾燥症(ドライマウス)などの疾患の治療に有用である。アクアポリン産生促進剤は、「口腔内乾燥改善剤を含む飲食品、医薬部外品または医薬品飲食品」の項で記載した内容と同義の食品、医薬部外品または医薬品に含めて使用してもよく、それらへの配合量は、口腔内の乾燥に起因する症状の程度等によって適宜選択することができる。
【実施例
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0054】
[実施例1]
〔口腔内乾燥改善剤を含有する錠剤の製造〕
本発明の口腔内乾燥改善剤を含有する実施例の錠剤、および比較例の錠剤を、それぞれ下記表1に示した組成になるよう原料を計量し、流動層造粒、篩過および打錠により製造した。表中、αGルチンPS(α-モノグルコシルルチンを75質量%配合)は東洋精糖株式会社より、コンプレッセルS101は株式会社伏見製薬所より、アマルティMR-50は三菱商事フードテック株式会社より、ステアリン酸カルシウムはセティカンパニーリミテッドより、クチナシ50は日農化学工業株式会社より、それぞれ購入した。
【0055】
【表1】
【0056】
[実施例2]
〔口腔内乾燥感評価試験〕
ヒト健常人を対象に、上記実施例1で製造した実施例および比較例の各錠剤を用いた口腔内乾燥感評価試験を以下のようにして行った。
【0057】
(試験参加者)
口腔内の乾きを感じる健常な日本人の成人55名を試験参加者として、実施例の錠剤を被験食品として摂取する被験食品群(男性11名および女性16名の計27名)、および比較例の錠剤をプラセボとして摂取するプラセボ群(男性12名および女性16名の計28名)に振り分けた。
【0058】
(方法)
口腔内乾燥感は、VAS(Visual Analogue Scale)法を用いて、その自覚症状を評価することで行った。VAS法とは、両端に最良と最悪の感覚の程度が示されている、100mmの直線があり、想像できる最良の状態を0、最悪の状態を100として、その直線上に現在の感覚の程度をマークして自覚症状を評価する方法である。
【0059】
上記被験食品群に実施例の錠剤を、プラセボ群に比較例の錠剤を、1日3回、1回1粒を摂取させた。試験は8週間行い、接種開始から4週間後および8週間後に口腔内乾燥感の評価を行った。
【0060】
(結果)
被験食品群における摂取8週間後時点の口腔内乾燥感の実測値は、比較群よりも有意に低値であった(図1)。また、摂取前から摂取8週間後にかけての口腔内乾燥感の変化量は、比較群よりも口腔内改善剤群のほうが有意に低かった(図2)。
【0061】
[実施例3]
〔アクアポリン産生促進能評価試験〕
Ca2-99細胞(ヒト歯肉扁平上皮がん細胞)を用いて、以下の方法でαG-ルチンのアクアポリン3(AQP3)の産生促進能を評価した。
【0062】
(方法)
コンフルエントなCa2-99細胞をPBSで洗浄し、0.25%トリプシン/0.02%EDTAで処理することで、該細胞をプレートからはがした。該細胞を1.0×105cell/mLになるようにDMEMで希釈し、12ウェルプレートに1mLずつ添加後、37℃、5%CO2の条件で48時間培養した。培養後、培地を除去し、終濃度が500μMとなるようにDMEMで濃度調製したαG-ルチン溶液を1mL添加し、37℃、5%CO2の条件で6時間培養した。該培養後の細胞を試験用細胞とした。αG-ルチン溶液のコントロールとしては、エンドトキシンフリー水を使用した。なお、αG-ルチンは、αGルチンPS(東洋精糖株式会社製)をカラム精製して不純物を取り除き、α-モノグルコシルルチンの純度を約100%として使用した。
【0063】
上記試験用細胞の培地を除去し、ISOGEN II(株式会社ニッポンジーン製)を、各ウェルに500μLずつ添加し、ピペッティングして細胞を溶解し、細胞溶解液をエッペンドルフチューブに回収した。これに、DEPC処理水(株式会社ニッポンジーン製)200μLを添加して撹拌した後、室温で15分間静置した。該チューブを20℃、13500rpmで15分間遠心し、上清500μLを新しいチューブに回収した。ここに、p-Bromoanisole 2.5μLを添加して15秒間撹拌した。10分間遠心した後、上清400μLを新しいチューブに回収し、0.4倍量の75%エタノールを添加し、転倒混和し、室温で10分間静置した。該チューブを、遠心した後、上清を捨て、500μLの75%エタノールを加えて沈殿物を洗浄した。このエタノールによる洗浄操作を再度行った後、上清を完全に除いて沈殿物を風乾させた。沈殿が透明になり始めた辺りで、DEPC処理水を12μL添加し、沈殿物(totalRNA)を溶解させた。
【0064】
得られたtotalRNAをμDrop Plate(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)に2μLのせ、RNA濃度が250ng/μLになるようにDEPC処理水で調製した。
【0065】
上記濃度調整したtotalRNAを1μLと、5×Prime Script RT(登録商標) Master Mix(Perfect Real Time:タカラバイオ株式会社製)を1μLと、RNase Free dH2Oを3μLとを混合し、37℃で15分間反応させた。反応後、反応液を85℃にして逆転写酵素を失活させ、cDNAを得た。
【0066】
得られたcDNAを滅菌MilliQ水で10倍希釈したものを鋳型とし、下記表2に示すプライマーを使用して半定量PCRを、下記表3の条件で行った。反応液は、10μMのフォワードおよびリバースプリマ―をそれぞれ0.5μLと、2×Go-Taq(登録商標) Green Master Mix(プロメガ社製)を5μLと、およびcDNA10倍希釈液を4μLとを混合して調製した。内部標準として18SrRNAを使用した。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
1.0gのアガロースSを1×TAEを50mLに加熱溶解し、エチジウムブロマイドを1.5μL加えたあと、コームを挿したゲル板に注いだ。ゲルが固まった後コームを抜き取って泳動槽にセットし、1×TAEで泳動槽を満たした。上記PCR産物を8μL、ゲルにアプライし、100Vで15分間電気泳動を行った。泳動後、UVトランスイルミネーター上に置き、UVを照射して泳動写真を撮影した。各mRNAのバンド強度は、画像処理ソフトのImageJを用いて求めた。得られたAQP3のバンド強度を18SrRNAのバンド強度で割った相対強度を算出し、コントロールの相対強度を100とした場合の、各サンプルの相対強度を図3に示した。
【0070】
αG-ルチンの代わりに、同濃度のルチン溶液、または同濃度のケルセチン溶液を用い、コントロールとしてエンドトキシンフリー水の代わりDMSO水を使用したこと以外は、上記と同様の実験を行い、得られた相対強度を図3に示した。
【0071】
(結果)
式(1)で示されるケルセチン配糖体であるαG-ルチンを添加して培養したCa9-22細胞においては、コントロールに比べてAQP3のmRNAの相対強度が有意に高いことが確認でき、AQP3のmRNAの発現量が促進されていることが示された。一方、式(1)で示されるケルセチン配糖体ではないルチンおよびケルセチンを添加したCa9-22細胞では、コントロールに比べてAQP3のmRNAの相対強度の有意な差は確認できず、AQP3のmRNAの発現量の促進は認められなかった。
【0072】
[実施例4]
〔口腔内乾燥改善剤含有ドリンク〕
下記表4の組成表に記載の成分Aに成分Bを加えて成分Bを加熱溶解し、ついで成分Cを加えて混合撹拌して冷却し、口腔内乾燥改善剤含有ドリンクを製造した。
【0073】
【表4】
【0074】
[実施例5]
〔口腔内乾燥改善剤含有飴〕
下記表5の組成表に記載の成分Aを加熱溶解し、濃縮後、成分Bを加えて混合撹拌し、トレーに充填して、口腔内乾燥改善剤含有飴を製造した。
【0075】
【表5】
【0076】
[実施例6]
〔口腔内乾燥改善剤含有グミ〕
下記表6の組成表に記載の成分Aを加熱溶解し、濃縮後、成分Bを加えて混合撹拌し、成分Cを添加後、トレーに充填して、口腔内乾燥改善剤含有グミを製造した。
【0077】
【表6】
図1
図2
図3
【配列表】
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