(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-19
(45)【発行日】2025-08-27
(54)【発明の名称】ハロゲン化有機化合物で汚染された環境の浄化方法および浄化キット
(51)【国際特許分類】
C02F 1/461 20230101AFI20250820BHJP
C02F 1/70 20230101ALI20250820BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20250820BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20250820BHJP
【FI】
C02F1/461 101C
C02F1/70 Z
B09B3/70 ZAB
B09C1/08
(21)【出願番号】P 2022562798
(86)(22)【出願日】2021-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2021059674
(87)【国際公開番号】W WO2021209504
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2024-03-27
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522402656
【氏名又は名称】フォトン・リミディエイション・テクノロジー・ナムローゼ・フエンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】PHOTON REMEDIATION TECHNOLOGY N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クバピル,ペトル
(72)【発明者】
【氏名】ノセク,ヤロスラフ
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-009025(JP,A)
【文献】米国特許第6255551(US,B1)
【文献】特表2017-538572(JP,A)
【文献】特開2006-224056(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105750322(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-1/78
B09C 1/00-1/10
B09B 1/00-5/00
A62D 3/00-3/40
C02F 3/00-3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化有機化合
物で汚染された環境の浄化のための方法であって、
汚染された環境中に複数の電
極を配置するステップ、
前記電極を通して直流電流を供給するステップ、
前記電極間の電気抵抗を示す情報を取得するステッ
プ、
前記情報を分析して、前記電極の少なくとも1つが、残余の前記電極と比較して、汚染された環境へより低い電流を導入するかどうかを検出するステップ、
ハロゲン化有機化合物用の少なくとも1つの導電性還元
剤を提供するステップ
を含み、
汚染された環境へより低い電流を導入すると特定された前記電極の少なくとも1つの汚染された環境に対する電気抵抗が減少するように、前記検出に応答して前記還元剤を汚染された環境に入れるかまたは近接させること
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記還元剤を、残りの電極と比較して、汚染された環境へより低い電流を導入すると特定された前記電極の少なくとも1つから50cm未
満の距離で、汚染された環境に入れるかまたは近接させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
汚染された環境中
に、複数の測定電極を配置するステップ、
前記測定電極間の、および/または前記測定電極のそれぞれからそのそれぞれの直近の電極までの電圧降下を測定するステップ、
測定された電圧降下から電気抵抗を示す情報を取得するステップ
をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記電極
間の電界線および/または等電位線を決定するステップ
、
前記決定された電界線および/または等電位線に基づいて、前記電極の少なくとも1つの極性を切り替える、および/または汚染された環境中に少なくとも1つの追加の電極を配置するステップ、
をさらに含む、請求項1~3
のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記電極の有効範囲内の環境のpHを測定するステップ
任意に、前記電極の有効範囲内で、pH調整
剤を添加するステップ
をさらに含む、請求項1~4
のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記汚染された環境中に少なくとも1つの監視井戸を提供するステップ、ならびに
少なくとも1つの化学的特性および/または少なくとも1つの物理的特性を測定することができる、監視井戸ごとに少なくとも1つのセンサを提供するステップ
をさらに含む、請求項1~5
のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記還元剤が、ゼロ価金
属、バイメタル化合物、または1つまたは複数のゼロ価金属および/または1つまたは複数のバイメタル化合物の混合物を含む、請求項1~6
のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記電極のアノードおよ
びカソードが、ゼロ価金
属で作られている、請求項1~7
のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記還元剤が、
50~200nmの粒径、および/もしくは10~350μmの粒径、および/もしくは500μm超の粒径を有する粒状の鉄、ならびに/または
0.5~100g/Lの溶液中濃度
を特徴とするゼロ価鉄の水性分散液である、請求項1~8
のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記汚染された環境が、廃水、地下水、工業排水、堆積物、土壌、有害液体廃棄物、環境流出物および処理副産物またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの
膜を、少なくとも1対の前記電極の間の汚染された環境中に配置するステップをさらに含む、
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの膜の各々が、それぞれの膜を通過する汚染された環境の主な流れ方向に対し
て横断するように各々配置される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ハロゲン化有機化合
物で汚染された環境の浄化を行うための
、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法を行うためのキットであって、前記キットが、
複数の電
極、
前記複数の電極に直流電力を供給するための手段、
ハロゲン化有機化合
物のための少なくとも1つの導電性還元剤、
前記電極間の電気抵抗を示す情報を得るための手段、
前記還元剤を汚染された環境に近づけるための手段
としての注入井戸、ならびに分散器、水槽および前記還元剤を貯蔵するためのリザーバを含む投与ユニット、
前記電極間の電気抵抗を示す情報を監視するための手段、
データの保存と送信が可能なコンピューティングシステムと、前記電極間の電気抵抗を示す情報を使用し、前記投与ユニットからの前記還元剤の導入が開始されるように、組み立てられた前記キットを制御するためのユーザーインターフェイスとを備えた制御ユニット、
を含むことを特徴とするキット。
【請求項14】
前記直流電力を供給する手段が、電
池、発電機、燃料電池、または再生可能エネルギー源の電力変換器を含むことを特徴とする、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
前記還元剤が、ゼロ価
鉄の粒子および/または500μm超の粒径の粒状の鉄であることを特徴とする、請求項13または14に記載のキット。
【請求項16】
複数の測定電極をさらに含むことを特徴とする、請求項13~15
のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
少なくとも1つの
膜をさらに含むことを特徴とする、請求項13~16
のいずれか1項に記載のキット。
【請求項18】
ハロゲン化有機化合
物で汚染された環境の浄化のため
の、請求項13~17
のいずれか1項に記載のキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化有機化合物で汚染された環境の浄化方法、ハロゲン化有機化合物で汚染された環境の浄化を行うためのキットおよびハロゲン化有機化合物で汚染された環境の浄化のためのキットの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化有機化合物は、ハロカーボンとも呼ばれ、1つまたは複数の炭素原子が1つまたは複数のハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)と共有結合した化学物質で、それぞれ有機フッ素化合物、有機塩素化合物、有機臭素化合物、有機ヨウ素化合物を形成する。産業および農業におけるそれらの使用および誤用は、これらの化学物質が環境に大量に入り込むことを表し、その結果、広範囲に拡散し、しばしば望ましくない状態、つまり環境汚染を引き起こす。特に、パーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質(PFAS、パーフルオロアルキル化物質)による汚染は、近年、人間の健康にとって難しい問題になっている。
【0003】
PFASは、アルキル鎖に複数のフッ素原子が結合した多様なクラスの人為的有機フッ素化合物である。したがって、少なくとも1つのパーフルオロアルキル部分(CnF2n)を含んでいる。多くの異なるPFASが存在し、その一部は、ノンスティック表面、電子機器、高性能プラスチック、カーペット、布地および紙のコーティング、水性フィルム形成フォーム(AFFF)など、産業、軍事、および消費者製品に広く使用されている。
【0004】
炭素-フッ素結合の高い安定性と、比較的高い溶解性と移動性により、PFASは化学的および生物学的反応に対して抵抗力があり、その結果、環境中に残留しやすい。多くの研究により、PFASは生殖および発生毒素、内分泌かく乱物質、発がん物質の可能性、生物蓄積性であり、遍在することが実証されている。
【0005】
PFASと同様に、有機臭素化合物(有機臭化物)も、その残留性、生体蓄積性、および毒性から、環境中の汚染物質として大きな懸念が持たれている。合成有機臭素化合物の重要なグループとして、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)を含む臭素系難燃剤(BFR)は、難燃剤を含む製品の製造、使用、および廃棄の際に環境に放出される。
【0006】
したがって、ハロゲン化有機化合物、特にPFASを、影響を受ける環境中から効率的に除去することは、生物学的および環境学的観点から重要な課題である。
【0007】
ハロゲン化有機化合物を除去するためのいくつかの手法が、技術水準として知られている。例えば、廃水および飲料水の処理施設では、従来から炭素吸着、イオン交換、逆浸透またはナノろ過が使用されているが、前述の物質を効果的に除去するためには、これらの手段を頻繁に更新または変更する必要がある。他の除去方法は、コストのかかる高温や高圧などの極端な条件を使用する。
【0008】
最近では、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、粉末活性炭(AC)などの炭素質材料へのハロカーボンの吸着プロセスが研究されており、吸着は静電的および疎水的相互作用によって生じる。しかし、吸着したPFASをさらに破壊する必要があることと、吸着剤の再生が必要なことから、このアプローチの適用性は制限される。
【0009】
高度還元処理(ARP)は、様々なハロゲン系有機物の分解に成功した新しい処理方法である。
【0010】
酸化プロセスと同様に、還元プロセスでは、汚染物質を処理するための直接的な電子移動、または汚染物質を分解する水素ラジカル(H・)や水和電子(eaq
-)などの反応性自由種の生成が含まれる。
【0011】
粒状のゼロ価鉄(ZVI)またはナノスケールのゼロ価鉄(nZVI)は、無毒で、豊富で、比較的安価な材料であり、吸着剤および/または還元剤として機能することができる。
【0012】
一般に、還元プロセスにおけるZVIによる汚染物質の除去には、ZVI表面への汚染物質の物質移動、ZVI表面またはその近傍での汚染物質の吸着および/または反応、およびZVIから溶液への良性最終生成物の物質移動が含まれる。
【0013】
ZVIは水の存在下で腐食し(式1)、酸性条件下ではさらに腐食が進行する(式2)。
Fe(0)+2H2O→Fe(+II)+H2+2OH- (1)
Fe(0)+2H+→Fe(+II)+H2 (2)
ZVIは時間の経過とともに、いわゆるSchikorrの式に基づいて鉄の水酸化物および酸化物に変化することがある。
3Fe(+II)+2H2O→Fe(+II)+2Fe(+III)+H2+2OH- (3)
Fe(+II)+2OH-→Fe(OH)2 (4)
Fe(+III)+3OH-→Fe(OH)3 (5)
3Fe(OH)2→FeO+Fe2O3+2H2O+H2 (6)
3Fe(OH)2→Fe3O4+2H2O+H2 (7)
その結果、ZVI粒子は、Fe3O4の内側の酸化物シェルと、還元された鉄コアを囲むFe2O3の外側シェルを持つ。酸化鉄シェルは汚染物質の吸着場所として機能し、還元鉄コアはアノードとして溶解を受ける(式8)。
Fe(0)→Fe(+II)+2e- (8)
Fe2O3界面での電子移動はほとんどないため、還元鉄コアからPFASへの電子移動が可能になる前に、Fe2O3シェルがさらに腐食し、還元鉄コアを囲むますます多孔性の酸化鉄シェルが生じる必要がある。酸化鉄の腐食は、アノード反応(式(8))と平衡に達するために、以下の反応によって起こる。
Fe2O3+6H++2e-→2Fe(+II)+3H2O (9)
Fe3O4+8H++2e-→3Fe(+II)+4H2O (10)
例えば、US8,048,317B2は、水溶液中の塩素化および非塩素化有機化合物を分解するために、酸素ガスと結合したゼロ価の鉄および他の金属を使用することを開示している。しかし、フッ素化有機化合物はヒドロキシルフリーラジカルに対して非反応性であるため、この方法はPFASで汚染された環境の浄化にはうまく適用できない。
【0014】
多くの注目を集めているもう1つの技術は、動電学的浄化である。
in situ動電学的浄化(エレクトロレメディエーション)は、通常、汚染された環境のかなりの範囲(通常は数十から数百メートル)にわたって配置された電極対に電圧差を与え、かなりの期間(通常は数ケ月から数年)にわたって行う。このようなプロセスを経済的に実行可能にするためには、できるだけ少数の単純な電極を使用し、これらの電極にできるだけ大きな電流を有効に流すことが望ましい。また、かなりの量の電気エネルギーが使われる。このエネルギーはできるだけ効率よく利用することが望ましい。
【0015】
「動電学的」という用語は、流体の流れおよび電極に向かう帯電粒子およびイオンの移動を含めて、すべての電気的に誘導される物質輸送プロセスを含む。電界によって引き起こされる基本的な輸送メカニズムは、エレクトロオスモシス、すなわち、帯電した固定表面に対する液体の移動、エレクトロマイグレーション、すなわち、溶液中の帯電イオンまたはイオン複合体の移動、および電気泳動、すなわち、固定液体に対する帯電粒子/コロイドの移動である。
【0016】
エレクトロレメディエーションでは、物質輸送プロセスだけでなく、電極反応も起こる。水は電気分解され、アノードでは酸素とプロトンが、カソードでは水素とヒドロキシルイオンが形成される。
アノード:H2O→2H++1/2O2+2e- (11)
カソード:2H2O+2e-→2OH-+H2 (12)
イオンの移動は、電極間および生じた等電位面に垂直な方向の電流線に沿ってそれぞれ進行し、正イオンは負に帯電したカソードに向かって移動し、負イオンは正に帯電したアノードに引き寄せられる。
【0017】
システム内の電極によって生成される電気双極子場は、前記電極間の等電位線をコンピュータでマッピングすることによって視覚化することができる。各電極対によって生成された単一の電界は互いに重なり合い、カソードとアノードの間の領域には電気勾配が存在しないか、または非常にわずかしか存在しない。このような低電気勾配領域では、エレクトロマイグレーション速度が低く、水対流が支配的である可能性がある。電気勾配は直線的で、反対に帯電した電極の間のゾーンで最も急勾配になる。したがって、エレクトロマイグレーション速度はこのゾーンで最も高くなる。
【0018】
既存の商業的な動電システムでは、汚染物質は、一般に、二次回収システムによって抽出されるか、または電極に堆積する。例えば、WO2019/046743は、帯水層内の水から汚染物イオンを除去するための装置、システム、および方法を開示している。エレクトロレメディエーションは、イオン汚染物質の電極への移動を誘導するために採用され、電極で汚染物質を濃縮して帯水層から除去することができる。しかし、このような技術は、汚染物質を媒体中に濃縮するだけであり、それらを無害または少なくとも有害性の低い物質に分解することにはならない。
【0019】
他の技術は、技術的に複雑であり、高価な触媒の使用を必要とする。例えば、US6,255,551B1は、ハロゲン化炭化水素、特に塩素化溶媒で汚染された媒体を処理するための動電学的浄化方法およびシステムを開示している。この方法は、汚染された媒体中の不均一な導電率または電気浸透透過性を検出し、汚染された媒体に近接して1つまたは複数のセグメント化された電極を配置することによって、汚染された媒体に電界を選択的に印加するステップを含む。各セグメント化された電極は、それぞれが絶縁セグメントによって分離され、各導電性セグメントにそれぞれの電流を個別に印加できる電源に結合された複数の導電性セグメントを含み、このようなセグメント化された電極を技術的に複雑にし、かなり高価にしている。
【0020】
米国特許第6,214,202号は、電極対または電極アレイを用いた水の電気分解によって促進される接触還元的脱ハロゲン化による地下水浄化のための方法を記載している。汚染された地下水と水の電気分解で発生した溶存水素は、パラジウムを含む触媒床にポンプで送られるため、プロセスが高価になる。触媒床を通過した後、地下水は環境から抽出され、専用の坑井を経由して地中に再注入されるが、これによりプロセスが複雑になる。
【0021】
US6,265,205B1は、環境に水素を供給することによって塩素化有機化合物の生分解速度を高める方法を開示している。一実施形態では、電界を使用して、間隙流体の水平輸送を誘導し、水素ガスおよび他の電子供与体を電極間で移動させる。同文献の代替の一実施形態では、金属粒子を使用して、in situ腐食反応によって水素を生成している。金属粒子は、土壌中の任意の地点で地下水に導入される。
【0022】
しかしながら、技術水準として知られている方法は、任意の添加された還元剤と電極との間の距離の役割について言及していない。さらに、現在知られている方法のほとんどは、汚染された環境からPFASを除去することを目的としていないか、またはPFASを完全に無機化せず、未知の毒性を有する短鎖の分解生成物を生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、先行技術のこれらおよび他の欠点を克服し、特に、ハロゲン化有機化合物、特にPFASで汚染された環境を浄化するための、費用効果が高く、信頼性が高く、実行が容易な改良された動電学的方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本目的は、独立請求項による、ハロゲン化有機化合物、特にPFASで汚染された環境の浄化方法、ハロゲン化有機化合物で汚染された環境の浄化を行うためのキット、およびハロゲン化有機化合物で汚染された環境の浄化のためのキットの使用によって達成される。
【0025】
本発明によれば、ハロゲン有機化合物で汚染された環境の浄化方法は、汚染された環境中に複数の電極を配置するステップ、前記電極を通して直流電流を供給するステップ、前記電極間の電気抵抗を示す情報を取得するステップ、前記情報を分析して、前記電極の少なくとも1つが、残余の前記電極と比較して、汚染された環境へより低い電流を導入するかどうかを検出するステップ、ハロゲン化有機化合物用の少なくとも1つの導電性還元剤を提供するステップを含み、汚染された環境へより低い電流を導入すると特定された前記電極の少なくとも1つの汚染された環境に対する電気抵抗が減少するように、前記検出に応答して前記少なくとも1つの還元剤を汚染された環境に入れるかまたは近接させることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0026】
驚くべきことに、動電学または還元種のみに焦点を当てた以前の開示とは対照的に、ハロカーボンの効率的かつ効果的な無機化は、特に制御された動電学と組み合わせた導電性還元剤の空間的に定義された配置に関与する、本発明による方法で達成される。導電性還元剤の導入はまた、配置された電極間の距離を増加させることを可能にし、それによって、任意の所与の領域を覆うために必要な電極の全体的な数を減少させることを可能にする。さらに、本明細書に開示される方法では、局所的条件や浄化プロセスの進捗に応じて、還元剤を必要な量だけ具体的に配置することができる。
【0027】
電極の表面またはその近傍における抵抗増加の決定は、様々な方法で実現することができる。例えば、アノードのそれぞれが制御された電流IAを供給する場合、カソードの抵抗RCに前記アノードと前記カソードとの間の環境の抵抗REnvironmentを加えた指標は、式(13)に従って、前記カソードと前記アノードとの間の電圧差UACから得ることができる。
【0028】
【0029】
電流または電圧の一方が一定に保たれている場合、抵抗を明示的に決定する必要さえない。この場合、電圧または電流がそれぞれ一定に保たれていれば、電流または電圧の変数の他方が抵抗を示しているからである。
【0030】
それぞれのアノード-カソード対間の電気抵抗を示す情報は、導電性還元剤の配置を実施するために使用される。
【0031】
特に、パーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質(PFAS)で汚染された環境の浄化方法は、汚染された環境中に複数の電極を配置するステップ、前記電極を通して直流電流を供給するステップ、前記電極間の電気抵抗を示す情報を取得するステップ、前記情報を分析して、前記電極の少なくとも1つが、残余の前記電極と比較して、汚染された環境へより低い電流を導入するかどうかを検出するステップ、パーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質用の少なくとも1つの導電性還元剤を提供するステップ、および汚染された環境へより低い電流を導入すると特定された前記電極の少なくとも1つの汚染された環境に対する電気抵抗が減少するように、前記検出に応答して前記少なくとも1つの還元剤を汚染された環境に入れるかまたは近接させるステップを含む。
【0032】
驚くべきことに、動電学や還元剤を単独で使用してもPFASの還元にはつながらないが、直流電流と導電性還元剤を組み合わせることで効果的かつ効率的にPFASを還元できることがわかった。本明細書に記載の方法では、電気抵抗に関する情報に基づいて、すなわち、動電学を強化し、還元剤の使用および消費を最適化し、したがって、浄化プロセスの有効性および効率を高めるために、標的化された方法で、還元剤が配置される。
【0033】
本明細書で使用する「ハロゲン化有機化合物の還元剤」という用語は、汚染物質を処理するための直接的な電子移動、または反応性フリーラジカルの生成のいずれかを行うことができる化学物質、物質の混合物または材料を意味し、その後汚染物質を分解する。還元剤は、その導電率と組み合わせて、電極の有効表面とその作用半径を増加させる。
【0034】
任意に、還元剤は、反対に帯電した電極間の電界の影響下で移動することができ、それによって、その界面で液体混合物からハロゲン化有機化合物を濃縮し、電気化学的分解のために電極、好ましくはカソードに前記物質を輸送する。
【0035】
反対に帯電した電極間の動水勾配および/または電界の影響下で移動することができる還元剤は、浄化技術の有効範囲を拡大し、同時に、吸着による汚染物質のさらなる拡散を抑制する。
【0036】
一般的な飲料水の目標値は、通常、1兆分の1(ppt)または1リットルあたりナノグラム(ng/L)の範囲である。
【0037】
本明細書で使用する「汚染された環境」という用語は、ハロゲン化有機化合物の合計が、所定の場所について当局が規定する最大濃度を超えている環境を意味する。関連当局によって規制されていない場合、用語「汚染された環境」は、ハロゲン化有機化合物の合計が500pptの濃度を超える環境、および/または、パーフルオロオクタン酸(PFOA)およびパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の濃度がそれぞれ100pptを超える環境を意味する。
【0038】
例えば、欧州連合の1998年飲料水指令では、PFOAおよびPFOSを含む膨大なPFASファミリーの化学物質の20の化合物について100ppt、PFASの合計で最大500pptの飲料水規制が法的拘束力を持つとされている。米国環境保護庁は最近、パーフルオロオクタン酸(PFOA)とパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の合計について70兆分の1(ppt)、C4~C7PFASについて300~7000ng/Lの非強制健康勧告レベルを確立している。
【0039】
本明細書に記載される方法は、in situまたはex situで実施することができる。
【0040】
in situでの浄化は、多大な費用となり得る高価な掘削、除去、または処分の費用が生じないという利点を有する。
【0041】
汚染された環境のex situ浄化は、汚染濃度レベルが非常に高い場合、汚染物質自体が特に難分解性の場合、またはクリーンアップの時間枠が短い場合に、特に実行可能な選択肢となり得る。汚染された環境のex situ浄化は、費用のかかる輸送を避けるため、現場で行うことができる。
【0042】
好ましくは、汚染環境は、廃水、地下水、工業排水、堆積物、土壌、有害液体廃棄物、環境流出物および処理副産物またはそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0043】
本明細書で使用される「近接した」という用語は、還元剤がすぐに汚染物質と相互作用できる位置、または後の時点で汚染物質と薬剤の相互作用が起こるために少なくともさらなる行動を必要としない位置を意味する。環境にもよるが、これは通常、汚染された環境から1m以下、好ましくは0,1m以下の距離を意味する。
【0044】
本発明に関連して使用される電極は、汚染された環境に直接配置されるか、または汚染された環境と流体連通する井戸またはトレンチ内に挿入され得る。
【0045】
汚染された環境の局所的条件、特に浄化すべき環境の導電率に応じて、電極は、互いに30cm~5m、好ましくは30cm~3mの距離に配置することができる。
【0046】
本発明で使用できる電極は、ロッドまたはフラットシートなどの様々な形状を有することができる。電極井戸も様々な形状を有することができる。
【0047】
いずれの特定の場合においても、複数のアノードおよびカソードを使用することができ、単一の場所で数十の電極を同時に使用することが可能である。電流と電圧は、汚染された環境の導電率に合わせて選択される。通常、抵抗率などの電気特性に応じて、10V~60Vの電圧が使用され、10m×10mの場に導入される電力は約3キロワットである。
【0048】
アノード溶解に対して不活性な電極は、好ましくはエレクトロレメディエーションに使用される。電極材料としては、グラファイト、白金、金、銀、IrO2、RuO2、ならびにホウ素ドープダイヤモンド(BDD)、Ti/SnO2、Ce/PbO2、Ti/RuO2、準化学量論的およびドープTiO2などが挙げられるが、チタンやステンレス製の安価な電極も使用可能である。
【0049】
カソードに析出する傾向がある負に帯電したヒドロキシルイオンとは対照的に、アノードで形成されたプロトンは電界内でカソードに向かって効率的に移動する。その結果生じる酸性フロント(過剰なH+イオンによる、式11参照)は、特定の種類の汚染物質を可溶化し、エレクトロマイグレーションによって容易に輸送されるイオン種を形成することによって、汚染物質の除去を助けることができる。粒子のゼータ(ζ)電位、すなわちその見かけの表面電荷は、溶液のpHに強く依存することが示されているので、酸性フロントは、還元剤のゼータ電位をより正にすることにも役立ち、それによってカソードに向かうそのエレクトロマイグレーションを強化する。
【0050】
好ましくは、前記少なくとも1つの還元剤は、残りの電極と比較してより低い電流を汚染された環境に導入すると特定された電極の少なくとも1つから50センチメートル未満の距離で、より好ましくは30センチメートル未満の距離で、汚染された環境に入れるか、または近接させる。
【0051】
導電性還元剤を電極から所定の距離内に導入することにより、電極の有効範囲を導電性還元剤によって増加させることができ、それにより電極をさらに離すことができ、任意の所与のために必要な電極の総数を減らすことができることがわかった。これにより、CAPEXが削減され、方法全体の費用効率が向上する。還元剤は、汚染された環境の導電率を高め、汚染された環境での動電プロセスを促進し、汚染物質の還元率と移動性を増加させる。還元剤を、最も好ましい効果を発揮する汚染環境、すなわちDC電界による効果的な被覆を妨げる抵抗率の高い環境領域に導入することにより、方法の全体的な効率が向上し、高価な還元剤の使用を制限することができる。
【0052】
本明細書で使用される「電極の有効範囲」という用語は、電極に由来する電気化学反応が起こり得る電極の周囲の球を指す。
【0053】
好ましくは、本明細書に記載の方法は、汚染された環境中に複数の測定電極を配置するステップ、前記測定電極間のおよび/または測定電極のそれぞれからそのそれぞれの直近の電極までの電圧降下を測定するステップ、ならびに測定された電圧降下から電気抵抗値を示す情報を取得するステップをさらに含む。
【0054】
電極に加えて測定電極を用いることにより、測定電極間または測定電極と電極との間の汚染環境の電気抵抗を求めることができる。これにより、より高い空間分解能で汚染環境の電気抵抗を求めることができる。
【0055】
電界は、導入電流および測定電圧を記録することができるDC電界を測定するための手段、例えばプローブのグリッドを用いて、および/または本明細書に記載の方法で用いられる電極によって、調べることができ、すなわち前記電極は、浄化に用いられる適切に機能するアノードまたはカソードであり得る。あるいは、前記プローブは、例えば、電流および電圧データを測定するための専用の電極であり得る。理想的には、プローブおよび/または電極は、測定の分解能を向上させるために可能な限り近くに配置され、少なくとも1つの拡張平面で浄化されるべき環境全体を覆う必要がある。
【0056】
本明細書に開示される本発明による方法は、好ましくは、以下のステップをさらに含む。
- DC電界を測定するための手段、特に少なくとも1つの参照電極および少なくとも1つの測定電極を、汚染された環境内に配置するステップ、ならびに
- 前記電極間に印加される前記直流電流によって生じる電界を測定するステップ、特に、前記参照電極と前記少なくとも1つの測定電極との間の電位差を測定するステップ。
【0057】
少なくとも1つの参照電極と少なくとも1つの測定電極を汚染された環境中に配置し、汚染された環境中を一定の電流が流れる領域で前記電極間の電圧および/または電流を測定することによって、汚染された環境の抵抗の指標を得ることができ、そこからカソードからアノードへの抵抗に対する汚染された環境の帰属を算出することができる。
【0058】
多くの場合、汚染された環境は処理領域内の異なる位置で同様に反応すると仮定してもよく、この場合、前記少なくとも1つの参照電極および前記少なくとも1つの測定電極は、抵抗が決定されるアノードおよび/またはカソードの近くに配置される必要はない。したがって、1対の測定電極を使用して、複数の異なるカソードおよび/またはアノード間の電気抵抗を示す情報を得ることができる。
【0059】
少なくとも1つの測定電極および/または電極を、本明細書に記載の方法で使用する電極間に印加される電位がゼロに近い場所に配置し、それぞれの電極を参照電極とすることによって、また、残りの少なくとも1つのプローブおよび/または電極を調査対象の電界の領域に配置することによって、プローブおよび/または電極間の電位差、ならびに調査領域にわたる等電位線および電流線の形状を取得することが可能である。DC電界を測定する手段が、本明細書に記載された方法で使用される電極を含む場合、電位がゼロに近い位置に置かれた電極は、DC電界のみを測定するために使用され、電界を活発に形成していないことが明らかである。
【0060】
調査領域上の電位差を測定することで、直流電界の形状を解釈するための基礎データが得られる。
【0061】
一実施形態では、前述の方法は、電極間、好ましくは電極および/または測定電極間の電界線および/または等電位線を決定するステップ、ならびに特に電界によって覆われる汚染環境の領域を増加させるため、および/または汚染環境の所定の領域における電気強度を増加させるために、前記決定された電界線および/または等電位線に基づいて、前記電極の少なくとも1つの極性を切り替える、および/または汚染された環境中に少なくとも1つの追加の電極を配置するステップをさらに含む。
【0062】
選択電極極性の切り替えおよび/または汚染環境への追加電極の導入には、汚染環境の可能な限り最大の領域が電界の影響下にあり、浄化プロセスの有効性が高まるという利点がある。
【0063】
例えば、測定結果の解釈の過程で、堆積物の存在の増加などに起因する高い電位勾配が前記1つまたは複数の電極の周囲で検出された場合、1つまたは複数の電極の極性を切り替えることが望ましい場合がある。
【0064】
電界の分布を変更することにより、電圧勾配の位置、速度率、および汚染物質の移動方向を制御することができ、これにより、本明細書に開示される浄化方法全体の効果および効率が向上する。
【0065】
等電位線および電流線の形状から、浄化期間中の汚染された環境における汚染物質の分布に関する結論を導き出すことも可能である。
【0066】
例えば、イオン濃度が高く導電率が高い細粒土では電位勾配が低くなり、イオン濃度が低く導電率が低い粗粒土では電位勾配が高くなる。より高い電圧勾配の発生、すなわち電気抵抗の増加は、それぞれの電極へのエレクトロマイグレーションによるイオンの枯渇、沈殿反応、および水の電気分解生成物の反応によるウォーターフロントの発生によって説明できる(式11および12を参照)。本明細書に記載の方法が、PFASに限定されるものではなく、広く適用可能であり、汚染された環境全体にわたる電界の分布を制御および最適化し、PFASおよび他の汚染物質の浄化の進行を追跡するのに特に適していることは、当業者には明らかである。
【0067】
本明細書に記載されたDC電界のマッピングは、繰り返し行うことができ、それによって、測定の頻度は、対象となる汚染物質の分解速度に依存する。
【0068】
PFASの場合、本発明者らは実験室での実験で、PFASの75~90%の除去が、浄化の約2週間以内に起こることを発見した。この時間の後、電極の極性を切り替えるか、または本明細書に記載の方法で使用されるカソードおよびアノードの配置を変更することが適切であり得る。
【0069】
好ましい実施形態では、測定電極は、1つの測定電極が、電位がほぼゼロ電位になる位置、すなわち参照電極に配置され、残りの測定電極が浄化される領域上に分散され、それによって電極の数および位置が浄化の経過中に変化しないような方法で配置される。
【0070】
これは、本明細書に記載の浄化方法に使用されるすべての作用電極および測定電極の位置が最初から決定され、前記電極の再配置のために浄化の過程で追加の作業を必要としないという利点を有し、例えば手順の遠隔制御も可能である。
【0071】
直流電流の流路、すなわち複数の電極のうちの少なくとも1つの極性を反転または切り替えることにより、還元剤を含む処理ゾーンを汚染物質が複数回通過することを促進し、電極を活性化することができる。例えば、カソードの場合、極性を切り替えると、抵抗値上昇の原因となる析出したミネラル沈着物を酸で除去することができる。さらに、汚染物質のエレクトロマイグレーション経路を変更して、以前は電界によって覆われていなかった汚染環境の領域に残留するPFASを保持することができる。
【0072】
好ましくは、測定値は、コンピューティングシステムによって、測定データおよび/またはシミュレートされたデータをグラフ化し、任意で補間および/または外挿することによって解釈される。
【0073】
例えば、測定された電流および電圧(ボルト)のデータは、汚染された環境に導入された電極の位置または距離に対して、または浄化される環境の幅および長さに対して、図中にプロットすることができる。
【0074】
このようにして、電界の分布および発生、すなわち等電位線および電流線、特に電極から発生する電界間の相互作用および違いを2次元で視覚化することができる。特に、DC電界によって覆われる、またはDC電界によって覆われない、浄化されるべき環境の領域をそれぞれ特定することができる。
【0075】
こうして得られた情報によって示される場合、前記少なくとも1つのアノードおよび/または少なくとも1つのカソードの極性を切り替え、および/または汚染環境に少なくとも1つの追加のアノードおよび/または少なくとも1つの追加のカソードを配置して、汚染された環境で電界の分布を変化させることによって、DC電界が最適化される。
【0076】
好ましくは、前述の方法は、アノードおよび/またはカソードの有効範囲内で環境のpHを測定するステップをさらに含む。
【0077】
電気分解の際、電極のすぐ近くにある水を電気分解して、アノードでH+イオン、カソードでOH-イオンを生成し、水のpHを式11および式12に従って変化させることができる。生成したイオンを中和または除去しないと、これらの反応によりアノードのpHが下がり、カソードのpHが上がる。これにより、pHの上昇はカソードまたはその近傍に不溶性ミネラルの析出および堆積を引き起こし、電気抵抗が高く、電気浸透流の少ない領域が形成される。
【0078】
電極の有効範囲内の環境のpH、酸化還元電位、導電率および温度を測定することにより、電極の動作を監視し、電極システムの適切な動作を危険にさらすことなく供給できる最大持続電流を特定することによって浄化プロセスを可能な限り加速させることが可能である。
【0079】
任意に、アノードおよび/またはカソードの有効範囲内でpH調整剤を添加することができる。
【0080】
電極の有効範囲内でpH値を調整すると、電極の耐用年数が延び、最適なpH条件下でPFASの分解を行うことができる。
【0081】
好ましくは、アノードおよび/またはカソードの有効範囲内でpH調整溶液を添加する。
【0082】
これには、例えば、従来の投与ポンプを用いることにより、pH調整を容易かつ正確に行うことができるという利点がある。
【0083】
好ましくは、前述の方法は、汚染された環境中に少なくとも1つの監視井戸と、少なくとも1つの化学的特性および/または少なくとも1つの物理的特性を測定することができる監視井戸ごとに少なくとも1つのセンサとを提供するステップをさらに含む。
【0084】
本明細書で使用される「監視井戸」という用語は、少なくとも1つのセンサが、浄化されるべき媒体と流体連通することができる汚染環境へのアクセスを意味する。さらに、サンプルは、これらの監視井戸から採取することもできる。
【0085】
汚染された環境を調査するために、少なくとも1つのセンサをそれぞれ有する少なくとも1つの監視井戸を設けることにより、システムの機能を連続的に監視し、浄化プロセスの進行状況および終了点を決定することが可能になる。
【0086】
好ましくは、前述の方法において監視されるべき物理的および/または化学的特性は、フッ化物、フッ化水素、臭化物、臭化水素、塩化物、塩化水素、酸化還元電位、温度、pH、導電率または電気抵抗からなる群から選択される。
【0087】
フッ化物濃度は、PFASの分解および無機化、すなわち浄化の進行状況を示す指標として用いることができる。同様に、臭化物濃度および塩化物濃度は、それぞれ有機臭素化合物および有機塩化物化合物の分解および無機化のための指標として使用することができる。フッ化水素および/または臭化水素および/または塩化水素の濃度を監視することは、操作の安全性の観点から有益である。温度測定を使用して、汚染された環境の抵抗または導電率と関連付けることができる。pH/ORPの読み取り値を使用して、pH/ORPを最適な還元条件に調整することができる。導電率または電気抵抗の測定は、電極の状態を示す指標として利用することができる。
【0088】
好ましくは、前述の方法における還元剤は、ゼロ価金属を含む。ゼロ価金属は、容易に商業的に入手できるという利点がある。
【0089】
好ましくは、本明細書に記載の方法で使用されるゼロ価金属は、無機硫黄系構造によってコーティングされている。
【0090】
硫化(または硫化)、すなわち、様々な酸化状態の硫黄化合物への曝露による金属ベース材料の修飾または変換は、ZVIと水との競合反応に由来する酸化物および水酸化物種による表面不動態化の問題を軽減するため、汚染物質とのZVIの全体的な反応性において重要な役割を果たすことが可能である。硫化物に強い親和性を持つ多数の金属が存在するが、鉄が最も顕著で、マッキナワイト(FeS)、グレイジャイト(Fe3S4)、黄鉄鉱(FeS2)、磁硫鉄鉱(Fe1-xS)などの硫化鉄鉱物が一般的な形態である。
【0091】
硫化ZVI粒子は、静電反発によってZVIの凝集が抑制されるため、コーティングされていないZVIよりも水中で安定である。このようにして、ゼロ価金属の寿命と、PFAS汚染環境の浄化における生成種の有効性が向上する。同時に、正に帯電した表面は、負に帯電したPFASの吸引力を高めるため、到達時に硫化ZVIおよび/またはカソードによる還元分解に対する反応性が高くなる。
【0092】
好ましくは、本明細書に記載の方法で使用されるゼロ価金属は、炭素質構造でコーティングされている。
【0093】
あるいは、バイメタル化合物、あるいは1つもしくは複数のゼロ価金属および/または1つもしくは複数のバイメタル化合物の混合物を、本明細書に記載の方法で使用することができる。
【0094】
バイメタル化合物または混合物の使用には、還元剤の反応性を汚染された環境中に存在するPFAS汚染物質に合わせることができ、浄化プロセスの効果を最適化することができるという利点がある。
【0095】
好ましくは、先に説明した方法で使用されるアノードおよびカソードは、ゼロ価金属で作られている。このような電極は容易に入手可能である。
【0096】
好ましくは、アノードおよびカソードは、ゼロ価鉄で作られている。このような電極は、容易に入手可能であり、比較的安価である。
【0097】
好ましくは、前述の方法で使用される還元剤は、50~200nmの粒径および/もしくは10~350μmの粒径を特徴とするゼロ価鉄ならびに/または500μm超の粒径の粒状の鉄ならびに/または0,5~100g/Lの溶液中の濃度の水性分散液である。
【0098】
本明細書で使用する用語「粒径」は、粒度分布D50、すなわち累積分布における50%での粒径の値を指し、これは粒度分布のメジアン径または中央値としても知られる。粒径および形状の分布の測定は、ISO/DIS 21363に従って透過型電子顕微鏡で行うことができる。
【0099】
本明細書で使用する「溶液中の濃度」という用語は、液体中に分散させる前の金属基準でのゼロ価鉄粒子の乾燥重量を意味する。
【0100】
ゼロ価鉄の水性分散液は、市販されており、比較的安価であり、例えば、適切な投与ポンプを使用することにより、汚染環境上に容易に適用することができる。
【0101】
50~200nmの粒径は、これらの比較的小さい粒子が吸着用のより大きな表面積を提供し、汚染された環境で向上した移動性を示し、より速い反応速度が得られるという利点を有する。粒径が10~350μmであれば、これらの比較的大きな粒子が長持ちするという利点がある。500μmより大きい粒径には、そのような粒子が通常、より小さいサイズの類似体と比較して安価であり、沈降やろ過などによるex situ適用での浄化環境からの除去が容易であり、より安全に使用できる、すなわち、ナノ粒子のように特定の国での禁止や制限の影響を受けないという利点がある。小さな粒子と大きな粒子の両方を混合して使用することで、同じ処理で両方の粒径範囲の利点を利用することができる。
【0102】
溶液中のゼロ価鉄粒子の濃度が0,5~100g/Lであれば、それぞれの水溶液がPFAS汚染環境の浄化に最適な費用対効果を示し、通常の分散用装置で処理することができるという利点がある。
【0103】
好ましくは、前述の方法で使用されるカソードの数は、アノードの数とは異なる。
不等数のアノードとカソード、例えば4つのカソードに囲まれた1つのアノードを用いることで、電界の影響下で動員される物質のエレクトロマイグレーション経路を制御することができるという利点がある。これにより、浄化すべき環境で電極を再配置する必要なく、より広い領域の汚染を除去することができる。
【0104】
好ましくは、本明細書に記載の方法でカソードとして動作する電極の数は、アノードとして動作する電極の数よりも多い。これには、ハロゲン化有機化合物、特にPFASを還元するための場所の数が増えるという利点がある。
【0105】
好ましくは、本明細書に記載の方法は、少なくとも1対の前記電極の間の汚染された環境中に少なくとも1つの膜を配置するステップをさらに含む。好ましくは、前記少なくとも1つの膜は、イオン交換膜である。
【0106】
驚くべきことに、本明細書に開示されるような方法で使用される導電性還元剤と、除去されるべき汚染物質が特に動電によって流れる膜との組み合わせが、浄化プロセスの特に高い効果および効率に寄与することが見出された。
【0107】
好ましくは、前記膜の各々は、それぞれの膜を通過する汚染された環境の主な流れ方向に対して実質的に横断するように配置される。一実施形態では、このような配置は、除去されるべき化合物が単に膜に沿って流れ、膜を通過することを防ぎ、したがって、除去されるべき化合物の保持効果を高める。別の実施形態では、このような膜の配置は、いくつかの膜が膜カートリッジの形態で直列に接続される場合に特に有利である。この場合、このような膜カートリッジ内の膜の並列配置は、膜カートリッジの特に省スペースでコンパクトな設計を可能にする。さらに別の実施形態では、上記のように、除去すべき化合物の流れ方向に対して実質的に横断するように少なくとも1つの膜を配置することは、パイプライン、配管および/または管などの閉鎖空間に設置するのに特に有用である。
【0108】
本目的は、ハロゲン化有機化合物、特にパーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質で汚染された環境の浄化を行うためのキット、特に本明細書に記載の方法を行うためのキットによってさらに達成される。
【0109】
キットは、複数の電極、前記電極に直流電力を供給するための手段、少なくとも1つの導電性還元剤、前記電極間の電気抵抗を示す情報を取得するための手段、前記還元剤を汚染された環境に近接させるための手段、および組み立てられたキットを制御するための手段を含む。
【0110】
本明細書で使用する「キット」という用語は、最終的な製品を得るために、ユーザによっておよび/または使用場所で組み立てる必要がある共同使用のための構成要素の明白な配置を意味する。
【0111】
好ましくは、前記複数の電極はゼロ価鉄で作られ、前記少なくとも1つの導電性還元剤はゼロ価鉄の水性分散液であり、還元剤を汚染された環境に近接させるための前記手段は注入井、および分散器を含む投与ユニットであり、組み立てられたキットを制御するための前記手段はデータの保存および送信が可能なコンピューティングシステムならびにユーザーインターフェースを含む制御ユニットである。
【0112】
このようなキットの利点は、費用効率が高く、信頼性が高く、安全で、使い勝手が良いことである。
【0113】
好ましくは、本明細書に記載のキットにおいて、直流電力を供給するための手段は、電池、発電機、燃料電池、または再生可能エネルギー源用の電力変換器を含む。
【0114】
これにより、離れた場所に恒久的に設置された電源接続がなくても、キットに電力を供給して操作することができる。
【0115】
好ましくは、前記電池は、充電式電池である。充電式電池は、省資源的なエネルギー供給の一変形形態である。
【0116】
発電機または燃料電池を使用することにより、電池の切り替えのために方法を中断する必要なく、キットを長時間動作させることができ、方法の全体的な効率が改善される。再生可能エネルギー源、特に太陽エネルギーまたは風力エネルギーのための電力変換器を使用することにより、プロセス全体がより環境に優しいものになる。
【0117】
好ましくは、本明細書に記載のキット中の前記還元剤は、ゼロ価鉄、特に、50~200nmの粒径および/もしくは10~350μmの粒径のゼロ価鉄の粒子ならびに/または500μm超の粒径の粒状の鉄である。
【0118】
これは、そのようなゼロ価鉄が比較的安価で市販されているという利点を有する。より小さなサイズ範囲の粒子は、より速い動力学が与えられ、汚染された環境での移動性を高めるが、より大きなサイズ範囲の粒子は、より長く作用する。小さな粒子と大きな粒子の混合物を使用して、両方の粒径の範囲の利点を活用することができる。
【0119】
好ましくは、本明細書に記載のキットにおけるカソードの数は、アノードの数とは異なる。
【0120】
これは、電界の影響下で動員される還元剤および/または他の物質のエレクトロマイグレーションが、使用される電極によって覆われる領域内で制御され得るという利点を有する。これにより、浄化すべき環境で電極を取り外し、再び設置することなく、より広い領域の汚染を除去することができる。
【0121】
好ましくは、前述のキットは、同数のカソードとアノード、またはアノードよりも多いカソードを含む。このようにして、有機化合物の還元的脱ハロゲン化、特にPFASの還元のための場所の数が増加し、洗浄プロセスを加速することができる。
【0122】
一実施形態では、本明細書に記載の本発明によるキットは、さらに、複数の測定電極を含む。
【0123】
複数の測定電極を含むキットは、電極と前記電極の近傍に配置された測定電極との間、または測定電極の間の電気抵抗を示す情報を得ることができる。
【0124】
好ましくは、本明細書に記載のキットは、さらに、少なくとも1つの膜、好ましくは少なくとも1つのイオン交換膜を含む。
【0125】
本目的は、ハロゲン化有機化合物、特にパーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質で汚染された環境を浄化するためのキットを、前述のように、特に前述の方法に従って使用することによってさらに達成される。
【0126】
本発明は、図によってさらに詳細に説明される。別段の記載がない限り、同様の参照数字は、同一または類似の要素を示すために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【
図1a】浄化方法開始時のPFAS汚染環境を模式的に示す図である。
【
図1b】浄化方法を一定時間実施した後のPFAS汚染環境を模式的に示す図である。
【
図1c】電極の極性を切り替えた後のPFAS汚染環境を模式的に示す図である。
【
図1d】電極の極性を再度切り替えた後のPFAS汚染環境を模式的に示す図である。
【
図2a】エレクトロマイグレーション還元剤を用いた浄化方法開始時のPFAS汚染環境を模式的に示す図である。
【
図2b】エレクトロマイグレーション還元剤を用いた浄化方法を一定時間実施した後のPFAS汚染環境を模式的に示す図である。
【
図3】本発明による方法を実施するために組み立てられ設置されたキットを模式的に示す図である。
【0128】
図1aは、PFAS(3)で汚染された環境(2)の断面図を示す。非限定的な例としてここに記載された方法は、他のハロゲン化有機化合物で(さらに)汚染された環境にも同様に適用されることが理解される。2つの電極、すなわち1つのカソード(4)および1つのアノード(5)が、汚染された環境に置かれ、それによってカソード(4)はカソード井戸(41)に、アノード(5)はアノード井戸(51)に、それぞれ配置される。あるいは、電極は汚染された環境に直接導入することも可能である。電極(4、5)間に直流電流を印加することにより、電界線に沿って反対に帯電した電極に向かって帯電種のエレクトロマイグレーションが誘導される。本例では、負に帯電したPFAS(3)および他の負に帯電したハロゲン化有機化合物(図示せず)は、アノード(5)に向かって移動する。移動の方向は、例示的に単一の矢印で示されている。印加された電流と電極(4、5)間に生じる電位は、セルの電気抵抗を計算するために使用される。得られたデータを分析し、2つの電極(4、5)間の領域で電気抵抗が増加した領域を明らかにした。本実施例では、カソードの周囲に添加した還元剤(6)の量は、アノードの周囲に添加した還元剤(6)の量と等しく、すなわち、還元剤(6)は、アノードおよびカソードの周囲の処理ゾーンの間で等しく分配された。還元剤は、各電極の周囲でd1未満の距離で汚染された環境に導入され、ここでd1は、この特定の例では50cmの距離を表す。還元剤が汚染された環境に導入されると、電流、電界の影響、水の流れ、土砂の動き、還元剤の拡散などによって、汚染環境における還元剤の位置が変化する可能性があり、その結果、還元剤が汚染された環境に導入された位置よりもそれぞれの電極からさらに離れて見出され得ることが理解される。
【0129】
図1bは、浄化方法を一定時間行った後の、
図1aで参照されている断面を示す。本実施例で使用される実質的に移動しない還元剤(6)は、大部分がそれぞれの注入箇所に留まったのに対し、負に帯電した移動性のPFAS(3)および他の負に帯電したハロゲン化有機物(図示せず)はアノード(5)の方に移動した。処理ゾーンで還元剤(6)を通過すると、図中のPFAS(3)に対応する弱い網掛けで示すように、汚染物質が減少する。
【0130】
図1cは、電極の極性を切り替えた後の
図1bで参照されている断面を示す。PFAS(3)および他の負に帯電したハロゲン化有機物(図示せず)が、新たに形成されたアノードに向かって移動する新しい方向が、再び1本の矢印で示されている。処理ゾーンで還元剤(6)を通過すると、この図ではさらに減少しているPFAS(3)に対応するハッチングで示すように、汚染物質が連続的に分解される。
【0131】
図1dは、電極の極性を再び戻した後の、
図1cで参照されている断面を示す。PFAS(3)およびその他の負に帯電したハロゲン化有機物(図示せず)の移動方向は、再び1本の矢印で示されている。
図1aに示された最初の状況と比較して、PFAS(3)および他のハロゲン化有機汚染物質(図示せず)の数が少ないことによって表されるように、電極(4、5)および還元剤(6)の組み合わせによって形成される処理ゾーンをPFAS(3)および他の負に帯電したハロゲン化有機汚染物質(図示せず)が繰り返し通ると、環境(2)に存在するPFAS(3)および他の負に帯電したハロゲン化有機汚染物質(図示せず)の量が継続的に減少した。
【0132】
図2aは、エレクトロマイグレーション還元剤(6)を用いた浄化方法の開始時におけるPFASで汚染された環境(2)の断面図を示す。非限定的な例としてここに記載された方法は、他のハロゲン化有機化合物で(さらに)汚染された環境にも同様に適用されることが理解される。1つのカソード(4)および1つのアノード(5)が汚染された環境に置かれ、それによってカソード(4)はカソード井戸(41)に、アノード(5)はアノード井戸(51)にそれぞれ置かれる。あるいは、電極を汚染された環境に直接導入することも可能である。還元剤(6)は、前記1つのカソードおよび前記1つのアノードのそれぞれの周りでd2未満の距離で、汚染された環境に近接させられたが、本実施例ではd2は30cmの距離に相当する。本実施例では、カソード(4)とアノード(5)との間の電気抵抗を示す情報は、カソード(4)とアノード(5)との間に印加される既知の電圧差、およびアノード(5)とカソード(4)をそれぞれ流れる平均電流の測定値から得られた。アノード(5)とカソード(4)の間の全体の抵抗を減らすために、電極(4、5)間に直流電流を印加すると、電界線に沿って帯電種のエレクトロマイグレーションが反対に帯電した電極に向かって誘導される。本例では、それぞれの1本の矢印で示すように、負に帯電したPFAS(3)はアノード(5)に向かって移動し、還元剤(6)はカソード(4)へ向かって移動する。
【0133】
図2bは、浄化方法を一定時間実施した後の
図2aの断面を示す。PFASは、還元剤(6)によって吸着(31)され、還元され、および/または電界中でカソード(4)に向かって輸送され、そこでもPFASの還元が起こった。還元剤(6)に捕捉されなかった負電荷のPFASの一部は、正電荷のアノード(5)の周囲に集中する。電極(図示せず)の極性を切り替えると、これらのPFASは還元剤(6)に吸着することができ、還元剤は、今度は反対方向、すなわち新しく形成されたカソードに向かって移動する。極性の切り替えは、浄化された環境で目標とするPFAS濃度が得られるまで、複数回繰り返すことができる。
【0134】
図3は、本発明による方法を実施するためのキットの構成要素の概略図である。キット(1)は、ハロゲン化有機化合物で汚染された帯水層(2)とそれぞれが流体連通しているカソード(4)およびアノード(5)を含む。太陽光発電パネル(94)は、制御手段(9)に電力を供給し、この制御手段は、カソード(4)およびアノード(5)に電気的に接続され、前記電極間に電界を印加するように構成された制御ユニット(91)を含む。一連の電極(95)を使用して、前記電極(4、5)間に印加される直流電流によって生成される電界を測定する。処理領域は、カソード(4)とアノード(5)との間の領域によって画定され、エレクトロマイグレーションは、アノード(5)とカソード(4)との間の電界線に沿って生じる。還元剤(6)は、分散器(71)、水タンク(72)および還元剤リザーバ(73)を含む投与ユニット(7)に接続された注入井戸(61)を介して、汚染された環境に近接させる。キット(1)は、帯水層と流体連通するセンサ(8)をさらに含み、それによってセンサ(8)は制御手段(9)に電気的に接続される。キットは、測定される化学的および/または物理的特性に応じて、帯水層と流体連通し、制御手段(9)に電気的に接続された複数のセンサ(8)を含むことができることが理解される。システムは、ユーザーインターフェース(93)を有するコンピューティングシステム(92)により操作される。