(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-19
(45)【発行日】2025-08-27
(54)【発明の名称】HVスイッチユニット
(51)【国際特許分類】
H03K 17/10 20060101AFI20250820BHJP
【FI】
H03K17/10
(21)【出願番号】P 2023507804
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2021071922
(87)【国際公開番号】W WO2022029255
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-02-03
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508142413
【氏名又は名称】トゥルンプフ ヒュッティンガー スプウカ ズ オグラニショナ オドポヴィヂャルノスツィア
【氏名又は名称原語表記】TRUMPF Huettinger Sp. z o. o.
【住所又は居所原語表記】Ul. Marecka 47, 05-220 Zielonka, Poland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンジェイ クリムチャク
(72)【発明者】
【氏名】ミハル バルセラク
(72)【発明者】
【氏名】アンジェイ ギエラウトフスキ
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-105536(JP,A)
【文献】特開平6-197522(JP,A)
【文献】特開平7-67320(JP,A)
【文献】国際公開第2020/090768(WO,A1)
【文献】特表2013-518544(JP,A)
【文献】特表2004-537942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M1/08-1/096
H03K17/00-17/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HVスイッチ(HVS)において直列に接続された複数のスイッチ(S1,S2,Si,Sn)上の電圧分布を均衡させる方法であって、各前記スイッチ(S1,S2,Si,Sn)にスナバ装置(10,10’,12,12’,14,14’)が
一対一に対応付けられている、方法において、
a. 前記複数のスイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの第1のスイッチ(S1)
に対応付けられた前記スナバ装置(10,10’)
から出力される第1の量であって、前記第1のスイッチ(S1)に対応付けられた
前記スナバ装置(10,10’)の第1のスナバエネルギー蓄積部品(C1)にわたる第1の電圧である前記第1の量を決定するステップと、
b. 前記複数のスイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの第2のスイッチ(S2,Si,…Sn)
に対応付けられた前記スナバ装置(12,12’,14,14’)
から出力される第2の量であって、前記第2のスイッチ(S2,Si,…Sn)に対応付けられた
前記スナバ装置(12,12’,14,14’)の第2のスナバエネルギー蓄積部品(C2,Ci,…Cn)にわたる第2の電圧である前記第2の量を決定するステップと、
c. 前記第1の電圧と前記第2の電圧とを比較するステップと、
d. 比較に基づいて第1の駆動信号(3)を調整することによって第2の駆動信号(6)を形成し、少なくとも前記第1のスイッチ(S1)を前記第2の駆動信号(6)によって駆動するステップと、
を含み、
前記複数のスイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの第nのスイッチ(Sn)
(nは、2以上の自然数)を前記第1の駆動信号(3)によって駆動し、前記複数のスイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの他
のスイッチ(S1,S2,Si)を前記第2の駆動信号(6)によって駆動し、
前記複数のスイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの前記他のスイッチ(S1,S2,Si)
を駆動するための前記第2の駆動信号(6)は、各前記他のスイッチ(S1,S2,Si)について異なるようにかつ個々に調整されて形成され、同時には1つの前記第2の駆動信号(6)のみが形成される、方法。
【請求項2】
少なくとも前記第1のスイッチ(S1)
を駆動するための前記第2の駆動信号(6)を、自己制御方式により前記第1の駆動信号(3)を調整することによって形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の量及び前記第2の量を、前記複数のスイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの互いに隣接するスイッチ(S1,Si,S2,Sn)について決定する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の駆動信号(3)を調整することは、前記第1の駆動信号(3)を遅延させる又は
早めることを含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の駆動信号(3)を調整することは、前記第1の駆動信号(3)のパルス幅変調を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のスイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの
前記他のスイッチ(S1,S2
,Si)
を駆動するための前記第2の駆動信号(6)を、前記
他のスイッチ(S1,S2
,Si)
に対応付けられた前記スナバ装置(10,12)に設けられた電圧リミッタ(V1,V2)
により決定される量にさらに基づいて調整する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
HVスイッチユニット(HVU)であって、
a. 直列に接続された複数の半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)を備えるHVスイッチ(HVS)と、
b. 各前記半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)に
一対一に対応付けられて並列に接続された、少なくとも1つのスナバエネルギー蓄積部品(C1,C1’,C2,Ci,Ci’,Cn,Cn’)を備えるスナバ装置(10,10’,12,12’,14,14’)と、
c. 第1の駆動信号(3)を調整することによって、前記複数の半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの少なくとも1つの半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)
を駆動するための第2の駆動信号(6)を形成するための少なくとも1つの駆動信号調整器(8)と、
d. 前記少なくとも1つの半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)
に対応付けられた前記スナバ装置(10,10’,12,12’,14,14’)
から出力される量を前記駆動信号調整器(8)に供給するためのフィードバック装置と、
を備え、
前記駆動信号調整器(8)は、
e. 前記複数の半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの第1の半導体スイッチ(S1)
に対応付けられた前記スナバ装置(10,10’)
から出力される第1の量であって、前記第1の半導体スイッチ(S1)に対応付けられた
前記スナバ装置(10,10’)の第1のスナバエネルギー蓄積部品(C1)にわたる第1の電圧である前記第1の量を決定し、
f. 前記複数の半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの第2の半導体スイッチ(S2,Si,…Sn)
に対応付けられた前記スナバ装置(12,12’,14,14’)
から出力される第2の量であって、前記第2の半導体スイッチ(S2,Si,…Sn)に対応付けられた
前記スナバ装置(12,12’,14,14’)の第2のスナバエネルギー蓄積部品(C2,Ci,…Cn)にわたる第2の電圧である前記第2の量を決定し、
g. 前記第1の電圧と前記第2の電圧とを比較し、
h. 前記比較に基づいて前記第1の駆動信号(3)を調整することによって前記第2の駆動信号(6)を形成し、少なくとも前記第1の半導体スイッチ(S1)を駆動するための前記第2の駆動信号(6)を出力する
ように構成されており、
前記複数の半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの第nの半導体スイッチ(Sn)
(nは、2以上の自然数)以外の他
の半導体スイッチ(S1,S2,Si)が、前記駆動信号調整器(8)に
選択的に接続されており、前記第nの半導体スイッチ(Sn)と前記駆動信号調整器(8)とに、同一の前記第1の駆動信号(3)が供給され、
前記駆動信号調整器(8)は、
前記複数の半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの前記他の半導体スイッチ(S1,S2,Si)
を駆動するための前記第2の駆動信号(6)を、各前記他の半導体スイッチ(S1,S2,Si)について異なるようにかつ個々に調整して形成し、同時には1つの前記第2の駆動信号(6)のみを形成する
ように構成されている、HVスイッチユニット(HVU)。
【請求項8】
前記複数の半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの互いに隣接する2つの半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)の前記スナバ装置(10,10’,12,12’,14,14’)の前記スナバエネルギー蓄積部品(C1,C1’,C2,Ci,Ci’,Cn,Cn’)は、第1の接続点(CP1)において直列に接続されており、前記第1の接続点(CP1)は、比較部品(7)の第1の入力端子(-)に接続されている、請求項7に記載のHVスイッチユニット(HVU)。
【請求項9】
前記複数の半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの前記互いに隣接する2つの半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)の前記スナバ装置(10,10’,12,12’,14,14’)の抵抗器(R1,R2,R1’,Ri,Ri’,Rn’)が、第2の接続点(CP2)において直列に接続されており、前記第2の接続点(CP2)は、前記比較部品(7)の第2の入力端子(+)に接続されている、請求項8に記載のHVスイッチユニット(HVU)。
【請求項10】
前記比較部品(7)は、前記駆動信号調整器(8)に組み込まれている、請求項8又は9に記載のHVスイッチユニット(HVU)。
【請求項11】
前記複数の半導体スイッチ(S1,S2,Si,Sn)のうちの前記第1の半導体スイッチ(S1)
に対応付けられた前記スナバ装置(10)に電圧リミッタ(V1)が設けられており、
当該電圧リミッタ(V1)
により決定される量が、
当該第1の半導体スイッチ(S1)
に選択的に接続された前記駆動信号調整器(8)に供給され、当該駆動信号調整器(8)は、前記第1の半導体スイッチ(S1)
を駆動するための前記第2の駆動信号(6)を、前記電圧リミッタ(V1)
により決定される量に基づいてさらに調整する、請求項7から10までのいずれか1項に記載のHVスイッチユニット(HVU)。
【請求項12】
前記第1の接続点(CP1)と前記第2の接続点(CP2)との間に抵抗器(Rdif)が接続されている、請求項9に記載のHVスイッチユニット(HVU)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の背景
本発明は、高電圧(HV)スイッチにおいて直列に接続されたスイッチ上の電圧分布を均衡させる方法であって、各スイッチにスナバ装置が関連付けられている、方法に関する。本発明は、HVスイッチユニットにも関する。
【背景技術】
【0002】
HVスイッチは、複数の半導体スイッチの直列接続により構成され、500V以上、特に1kV以上の電圧を切り換えることができるスイッチである。半導体スイッチの直列接続は、スイッチスタックと称されることがある。直列に接続され、単一のスイッチとして機能する全ての半導体スイッチは、スイッチスタックに沿った電圧分布を均衡させるために、同時にオン及び/又はオフ状態になる必要がある。信号伝播の遅延のばらつきに関連した小さなタイミングのずれにより、大きな電圧不均衡が引き起こされ、過電圧又は電圧関連ストレスによって1つ又は複数の半導体スイッチ、ひいてはHVスイッチの破壊につながることがある。
【0003】
また、半導体スイッチの本体上の対地電圧が異なり、スイッチ間の対地容量が異なることにより、スイッチ上の電圧の分布が等しくなくなることもある。電圧分布が等しくなくなると、電力損失分布も等しくなくなる。これにより、冷却の問題が引き起こされることがある。
【0004】
問題の重要性は、スイッチスタックの長さ、すなわち、半導体スイッチの数、スイッチング周波数及びスイッチング速度とともに大きくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明の課題
本発明の課題は、上記の欠点を克服する方法及びHVスイッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
第1の態様によれば、本発明は、請求項1に記載の方法に関する。HVスイッチにおいて直列に接続されたスイッチ上の電圧分布を均衡させる方法であって、各スイッチにスナバ装置が関連付けられている、方法において、
a. 第1のスイッチのスナバ装置に関連する第1の量、特に、第1のスイッチに関連付けられた第1のスナバエネルギー蓄積部品にわたる第1の電圧を決定するステップと、
b. 第2のスイッチのスナバ装置に関連する第2の量、特に、第2のスイッチに関連付けられた第2のスナバエネルギー蓄積部品にわたる第2の電圧を決定するステップと、
c. 第1の量と第2の量とを、特に、第1の電圧と第2の電圧とを比較するステップと、
d. 比較に基づいて、少なくとも第1のスイッチの駆動信号を第1の量に基づいて調整するステップと、
を含む方法が開示される。
【0007】
第1のスイッチの駆動信号は、自己制御方式により調整されるものとしてよい。自己制御方式による調整は、コントローラを使用しない、HVスイッチユニットの量に基づく駆動信号の調整を含むものとしてよい。それゆえ、この用語は、調整された駆動信号が、コントローラ又は駆動信号生成器によって生成されないことを意味する。
【0008】
スナバ装置は、例えば電圧を第1の量として決定するために使用することができる。第1の量に基づいて、第1のスイッチを制御するための制御信号を調整することができ、よって、スイッチオン及び/又はスイッチオフ時間、すなわち、スイッチングオン及び/又はスイッチングオフの瞬間を調整することができる。
【0009】
駆動信号は、マイクロコントローラなどのデジタル制御装置、FPGAなどのプログラマブル論理装置、又は、他のデジタル論理回路からのものとすることができる。「駆動信号を調整すること」は、独立した電子回路である駆動信号調整器によって行われるものとしてよい。このようにして、駆動信号自体は、一定に保持することができ、すなわち、個々の調整を伴わないものとしてよい。このようにして、調整は、非常に高速で行われるものとしてよく、不利に遅くなり得る論理回路又はプログラムへの干渉なしに行われるものとしてよい。このようにして、駆動信号は、直列に接続された全てのスイッチについて同一であるものとしてもよく、1つ又は複数の、特に個々のスイッチ全てのスイッチング調整は、駆動信号調整器によって行われるものとしてよい。それゆえ、1つの駆動信号のみを生成すればよく、コントローラが、複数のスイッチの駆動信号を生成及び/又は調整する必要がない。コントローラが、複数の駆動信号を生成する負担がない。
【0010】
直列に接続されてHVスイッチを形成する複数の半導体スイッチ間の一様な電圧分布を、個々の各スイッチのスイッチング時間を変化させることによって実現することができる。よって、個々のスイッチスタック部品に過電圧又は過度の電圧関連ストレスがかからないように、HVスイッチの各オフ状態においてスイッチスタックに沿った電圧分布を実現することができる。
【0011】
半導体スイッチの制御信号をシフトさせるこの方法により、直列接続された半導体スイッチに沿った電圧分布に影響を及ぼすことができる。この方法は、(スイッチングオンの前に電圧が存在する、及び/又は、スイッチングオフの前に電流が存在する)ハードスイッチング装置に適用することができる。
【0012】
第1の量及び第2の量は、互いに隣接するスイッチについて決定されるものとしてよい。この方法においては、スナバ装置、特に、抵抗器-コンデンサ(RC)スナバ又は抵抗器-コンデンサ-ダイオード(RCD)スナバを、各半導体スイッチに設けることができる。ダイオードの代わりに、別の整流部品が使用されるものとしてもよい。連続する2つのスナバ装置のスナバエネルギー蓄積部品、特にコンデンサの電圧の合計が、例えば、抵抗器を備える、分圧器によって分割されるものとしてよい。特に、電圧は、二分されるものとしてよい。抵抗器は、スナバ装置の一部であるものとしてよい。スナバ装置のコンデンサの中間の電圧と分圧器からの電圧とを比較することにより、制御信号は、連続するスイッチのスナバコンデンサが同等の電圧を有する状態に達するように、時間的にシフトされるものとしてよい。この方法は、直列接続された任意の数の半導体スイッチの駆動信号を個々にシフトさせるために適用することができる。この方法により、直列接続された全てのスイッチの等しい電圧分布に達するように、各半導体のスイッチング時間が、自己制御方式により調整されるものとしてよい。
【0013】
駆動信号を調整することは、駆動信号を遅延させる又は繰り上げる(早める)ことを含むものとしてよい。このことは、調整された駆動信号を得るために、駆動信号のパルス幅変調を含むものとしてよい。
【0014】
駆動信号が提供され、スイッチのうちの1つが駆動信号によって駆動され、他のスイッチが、前記駆動信号を調整することによって形成された調整された駆動信号によって駆動されるものとしてよい。よって、全てのスイッチに沿った等しい電圧分布を実現することができる。他のスイッチの調整された駆動信号は、各スイッチについて異なり、個々に調整されるものとしてよい。同時に、1つの駆動信号のみが生成されるものとしてよい。これにより、論理的な駆動信号の生成が容易に保持される。
【0015】
第1のスイッチに関連付けられたスナバエネルギー蓄積部品にわたる電圧が、第1の量として決定され、第2のスイッチに関連付けられたスナバエネルギー蓄積部品にわたる電圧が、第2の量として決定されるものとしてよい。それゆえ、異なるスイッチの異なるスナバ装置に関連付けられた量が、スイッチのうちの1つの駆動信号を調整するために使用されるものとしてよい。
【0016】
少なくとも1つのスイッチの駆動信号は、少なくとも1つのスイッチのスナバ装置に設けられた電圧リミッタに関連する量に基づいて調整されるものとしてよい。例えば、スナバ装置のコンデンサにわたって接続された電圧リミッタの電流が決定されるものとしてよい。あるいは、電圧リミッタを駆動する電圧を決定することができ、電圧リミッタが電流を引き込む前に駆動信号が調整されるものとしてよい。電圧リミッタの使用により、電圧が制限値未満の場合にスナバ装置の電力散逸を低減することができ、バーストモードでの安全な動作が可能になる。
【0017】
特定のスイッチ上の電圧を低減する必要がある場合、互いに隣接するスイッチの切り換えに対して、スイッチオン時間をわずかに繰り上げ(早め)、スイッチオフ時間をわずかに遅延させるものとしてよい。
【0018】
本発明の思想は、伝播遅延を補償し、スイッチ間の電圧不均衡を最小化するために、各スイッチの局所電位レベルで利用可能な信号に基づいて、HVスイッチを構成するスイッチスタックに個々のスイッチのスイッチオン及び/又はスイッチオフ時間の小さなずれを導入することである。
【0019】
時間調整の遅延を決定するために使用される制御信号は、特定のスイッチのスナバコンデンサにわたる電圧と、互いに隣接するスイッチ上の電圧とを比較すること、その特定のスイッチのスナバコンデンサにわたって接続された電圧リミッタの電流を検出すること、又は、電圧リミッタを駆動する電圧を測定し、電圧リミッタが電流を引き込む前にその値に反応することによって得られるものとしてよい。
【0020】
特定のスイッチ上の電圧を低減する必要がある場合、互いに隣接するスイッチの切り換えに対して、スイッチオン時間をわずかに繰り上げる(早める)ものとしてよく、及び/又は、スイッチオフ時間をわずかに遅延させるものとしてよい。
【0021】
さらなる態様によれば、本発明は、請求項9に記載のHVスイッチユニットに関する。そのようなHVスイッチユニットは、
a. 直列に接続された複数の半導体スイッチを備えるHVスイッチと、
b. 各半導体スイッチに並列に接続された、少なくとも1つのスナバエネルギー蓄積部品を備えるスナバ装置と、
c. 少なくとも1つのスイッチの駆動信号を調整するための少なくとも1つの駆動信号調整器と、
d. 少なくとも1つのスイッチのスナバ装置に関連する量を駆動信号調整器に供給するためのフィードバック装置と、
を備える。
【0022】
駆動信号調整器は、
e. 第1のスイッチのスナバ装置に関連する第1の量、特に、第1のスイッチに関連付けられた第1のスナバエネルギー蓄積部品にわたる第1の電圧を決定し、
f. 第2のスイッチのスナバ装置に関連する第2の量、特に、第2のスイッチに関連付けられた第2のスナバエネルギー蓄積部品にわたる第2の電圧を決定し、
g. 第1の量と第2の量とを、特に、第1の電圧と第2の電圧とを比較し、
h. 比較に基づいて、少なくとも第1のスイッチの駆動信号を第1の量に基づいて調整する
ように構成されている。
【0023】
駆動信号を調整することにより、一様な電圧分布を実現することができる。よって、個々のスイッチを過電圧又は電圧ストレスから保護することができる。よって、高電圧を切り換えることができる高速HVスイッチを実現することができる。既知の解決手段は、ばらつき自体でなく、ドライバのばらつきに関連する電圧不均衡に対処するものである。本発明によれば、ばらつきは、適切な電圧分布を実現するために補償される。補償は、ドライバ電位で局所的に機能する。追加信号の余分な分離が必要とされない。
【0024】
結果として、HVスイッチユニットは、スイッチを同時にオン及び/又はオフに切り換えるように構成されている。このことは、スイッチが同時にオン及び/又はオフ状態になること、すなわち、スイッチの出力がそれらの状態を同時に変化させることを意味する。
【0025】
互いに隣接する2つのスイッチのスナバ装置のスナバエネルギー蓄積部品は、接続点において直列に接続されるものとしてよく、接続点は、比較部品に接続されるものとしてよい。よって、異なる2つの半導体スイッチ及び/又はそれらに関連付けられたスナバ装置に関連する量を、スイッチのうちの1つの駆動信号を調整するために使用することができる。比較部品は、その入力信号又は量のどちらが高いか、また、それがどの程度高いかを決定するように構成されるものとしてよい。このことは、その入力信号又は量のどちらが高いかのみを決定し得る単なる比較器とは対照的である。
【0026】
互いに隣接する2つのスイッチのスナバ装置の抵抗器は、第2の接続点において直列に接続されるものとしてよく、第2の接続点は、比較部品に接続されるものとしてよい。よって、2つの電圧が比較され、比較に基づいて駆動信号が調整されるものとしてよい。
【0027】
比較部品は、駆動信号調整器に組み込まれるものとしてよい。よって、本発明のHVスイッチユニットは、少ない部品で実装することができる。
【0028】
スナバ装置の少なくとも1つに電圧リミッタが設けられるものとしてよく、電圧リミッタに関連する量が、少なくとも1つのスナバ装置に関連付けられたスイッチの駆動信号調整器に供給されるものとしてよい。電圧リミッタの使用により、電圧が限界値未満のときにスナバ装置の電力散逸を低減することができ、バーストモードでの安全な動作が可能になる。
【0029】
全てのスイッチ又は1つのスイッチ以外の全てが、駆動信号調整器に関連付けられるものとしてよく、1つのスイッチと、他のスイッチに関連付けられた駆動信号調整器とに、同一の駆動信号が供給されるものとしてよい。1つのスイッチの駆動信号を基準とみなすことができ、HVスイッチの他のスイッチを駆動するために使用される信号をその駆動信号に対して調整して、半導体スイッチの等しい電圧分布と同時切り換えとを確保することができる。
【0030】
第1の接続点と比較部品との間に抵抗器が接続されるものとしてよい。
【0031】
本発明のさらなる利点は、本説明及び図面から明らかである。同様に、上述した特徴及び後述する特徴は、本発明に従って、それぞれ個々に又は任意の組み合わせにより使用することができる。図示され、説明される実施形態は、本発明の網羅的な説明として理解されるものでなく、むしろ、本発明の説明のための例示的な性質を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】比較部品を備えるHVスイッチユニットの第1の実施形態を示す図である。
【
図2】独立した比較部品を備えていないHVスイッチユニットの第2の実施形態を示す図である。
【
図3】スナバ装置及び直列に接続された2つよりも多くのスイッチを備える、HVスイッチユニットの第3の実施形態を示す図である。
【
図4】電圧リミッタを備えるHVスイッチユニットの第4の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面の詳細な説明
HVスイッチユニットHVUであって、
a. 直列に接続された複数の半導体スイッチS1,S2,Si,Snを備えるHVスイッチHVSと、
b. 各半導体スイッチS1,S2,Si,Snに並列に接続された、少なくとも1つのスナバエネルギー蓄積部品C1,C1’,C2,Ci,Ci’,Cn,Cn’を備えるスナバ装置10,10’,12,12’,14,14’と、
c. 少なくとも1つのスイッチS1,S2,Si,Snの駆動信号を調整するように構成された少なくとも1つの駆動信号調整器8と、
d. 少なくとも1つのスイッチS1,S2,Si,Snのスナバ装置10,10’,12,12’,14,14’に関連する量を駆動信号調整器8に供給するためのフィードバック装置と、
を備えるHVスイッチユニットが開示される。
【0034】
上述した特性の全てもまた、そのようなHVスイッチユニットHVUの特性であるものとしてよい。
【0035】
さらに、HVスイッチHVSにおいて、直列に接続されたスイッチS1,S2,Si,Sn上の電圧分布を均衡させる方法であって、各スイッチS1,S2,Si,Snにスナバ装置10,10’,12,12’,14,14’が関連付けられている、方法において、
a. 第1のスイッチS1のスナバ装置10,10’に関連する第1の量を決定するステップと、
b. 第1のスイッチS1の駆動信号6を第1の量に基づいて調整するステップと、
を含む方法が開示される。
【0036】
上述した特性の全てもまた、そのような方法の特性であるものとしてよい。
【0037】
方法は、さらに、
c. 第2のスイッチS1,S2,Si,Snのスナバ装置12,12’,14,14’に関連する第2の量を決定することと、
d. 第1の量と第2の量とを比較することと、
e. 比較に基づいて、少なくとも第1のスイッチS1の駆動信号を調整することと、
を含むものとしてよい。
【0038】
図1は、直列接続された2つの半導体スイッチS1,S2を備えるHVスイッチHVSを備えるHVスイッチユニットHVUを示す。第1のスイッチS1に第1のスナバ装置10が関連付けられ、第2のスイッチS2に第2のスナバ装置12が関連付けられる。両スナバ装置10,12は、コンデンサC1,C2及び抵抗器R1,R2として具現化されたスナバエネルギー蓄積部品、並びに、ダイオードとして具現化された整流部品D1,D2を備える。抵抗器R1,R2は分圧器を形成する。スナバエネルギー蓄積部品C1,C2の接続点CP1が比較部品7に接続され、抵抗器R1,R2の接続点CP2も比較部品7に接続される。
【0039】
抵抗器R1,R2は、それぞれのスナバ装置10,12のエネルギー蓄積部品C1,C2と直接的に並列に接続されないが、列として並列に接続され、すなわち、スナバエネルギー蓄積部品C1,C2の直列接続と抵抗器R1,R2の直列接続とが並列に接続される。この接続により、さらなる処理に使用できる2つの電圧、すなわち、スナバエネルギー蓄積部品C1,C2上の電圧の合計を接続点CP2において抵抗器R1,R2によって二分した電圧と、接続点CP1におけるエネルギー蓄積部品C1,C2の充電電圧の差である電圧とが存在する。それら2つの電圧の差が、比較部品7によって決定され、駆動信号3が供給される駆動信号調整器8に供給される。駆動信号調整器8は、パルスシフト装置として機能し、スイッチS1のスイッチング時間を制御する。これは、Δt矢印で示される。
【0040】
HVが(バーストモード中又は電源オフ後のように)長時間オン又はオフに切り換えられるとき、エネルギー蓄積部品C1及びC2の電圧を等しくするために、任意選択肢の抵抗器Rdifが、CP1とCP2の間で比較部品に接続されるものとしてよい。
【0041】
スイッチS1,S2間の等しくない電圧分布を避けるために、スイッチS1のスイッチング時間の位相を変化させることができる。スイッチS2は、駆動信号3、すなわち、調整されていない駆動信号を使用して(位相シフト回路なしで)直接制御される。スイッチS1は、誤差増幅器として具現化された比較部品7によって生成された信号9によって制御される駆動信号調整器8によって制御される(矢印6で示す)。比較部品7は、両半導体スイッチS1,S2上の電圧の半分、すなわち、接続点CP2における電圧から、第2のスイッチS2に関連付けられた第2のスナバ装置12の(接続点CP1における)エネルギー蓄積部品C2上の電圧を減じる。
【0042】
接続点CP1における電圧が接続点CP2における電圧よりも高い場合、第2のスイッチS2上の電圧が高すぎることを意味し、スイッチS1のスイッチングオンの瞬間を減速させること、及び/又は、スイッチS1のスイッチングオフ時間を加速させることが必要である。
【0043】
接続点CP1における電圧が接続点CP2における電圧よりも低い場合、下側のスイッチS2上の電圧が低すぎることを意味し、スイッチS1のスイッチングオンの瞬間を加速させること、及び/又は、スイッチS1のスイッチングオフ時間を減速させる必要がある。
【0044】
接続点CP1は、IGBTのエミッタ又はMOS-FETトランジスタのソースであり得るスイッチS1の低電位と接続される。
【0045】
駆動信号調整器8は、デジタル信号プロセッサ(DSP)として具現化されるものとしてよく、又は、デジタル信号プロセッサを備えるものとしてよい。
【0046】
比較部品7、接続点CP1,CP2及び駆動信号調整器8への接続は、フィードバック装置であるとみなすことができる。
【0047】
図2に示す実施形態は、
図1の実施形態にほぼ対応する。しかし、独立した比較部品が存在しない。比較部品は駆動信号調整器8内に実装される。CP2における電圧は、駆動信号調整器8によってスイッチS1の低電位、すなわち、駆動信号調整器8の接地電位である接続点CP1における電圧と直接比較される。
【0048】
図3は、2つよりも多くの、この場合n個の、スイッチS1,Si,Snが直列に接続されたHVスイッチユニットHVUを示し、n-1個のスイッチS1,Siが、駆動信号調整器8によって制御され、1つのスイッチSnが、駆動信号3によって直接駆動される。駆動信号3は、駆動信号調整器8にも供給され、端子1,2間の電圧がスイッチS1,Si,Snの間で等しく分配されるように、スナバ装置10,12,14,10’,12’,14’から決定された量に基づいて、各スイッチS1,Siについて加速又は減速させられる。
【0049】
直列に接続された半導体スイッチが2つよりも多くある場合、各スイッチS1,Si,Snに2個のスナバ装置10,10’,12,12’,14,14’を接続することが有用である。各スイッチS1,Si,Snに単一のスナバ装置が関連付けられる場合よりも、各スナバエネルギー蓄積部品C1,C1’,Ci,Ci’,Cn,Cn’の静電容量を2倍低くすることができ、又は、各抵抗器R1,R1’,Ri,Ri’,Rn,Rn’の抵抗を2倍高くすることができる。
【0050】
特定のスイッチに関連付けられたスナバ装置の抵抗器は、互いに隣接するスイッチのスナバ装置の抵抗器に接続され、この場合、R1はRiに接続され、Ri’はRn’に接続される。互いに隣接するスナバ装置の抵抗器がない場合、抵抗器はそれ自体のコンデンサと接続され、R1’はC1’に接続され、RnはCnに接続される。
【0051】
スイッチSnは駆動信号3によって直接制御される一方、スイッチS1,Siの信号が、CP1上とCP2上との電圧及びCPi上とCPi’上との電圧を比較することにより、駆動信号調整器8によって時間的にシフトされる。
【0052】
図4の実施形態においては、抵抗器R1,R2は直列に接続されていない。むしろ、電圧リミッタV1,V2が設けられる。C1上又はC2上の電圧(それぞれスナバ装置10,12に関連する第1の量である)が、関連する電圧リミッタV1,V2の閾値電圧を超えるとすぐに、関連する抵抗器R1,R2上に正の電圧が生じ、よって、比較部品7の比較結果に影響を及ぼし、駆動信号調整器8による駆動信号の調整につながる。