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特許7730386電気化学電池、レドックスフロー電池、燃料電池、及び電解装置の構成要素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-19
(45)【発行日】2025-08-27
(54)【発明の名称】電気化学電池、レドックスフロー電池、燃料電池、及び電解装置の構成要素
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20250820BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20250820BHJP
   H01M 8/0208 20160101ALI20250820BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20250820BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20250820BHJP
   H01M 8/0215 20160101ALI20250820BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20250820BHJP
   H01M 8/0226 20160101ALI20250820BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20250820BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20250820BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20250820BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20250820BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20250820BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/0208
H01M8/021
H01M8/0213
H01M8/0215
H01M8/0221
H01M8/0226
H01M8/18
H01M4/86 B
H01M4/86 M
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/19
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023577096
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-02
(86)【国際出願番号】 DE2022100379
(87)【国際公開番号】W WO2023274441
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】102021116770.1
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102022112319.7
(32)【優先日】2022-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestr. 1-3, 91074 Herzogenaurach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ラディスラウス ドブレニツキ
(72)【発明者】
【氏名】ベアトラム ハーグ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン-ペーター ヴィクトーア シンツェル
(72)【発明者】
【氏名】イェーヴァンティ フィヴェカナンタン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン マーティン シュトゥンプフ
(72)【発明者】
【氏名】モーリッツ ヴェーゲナー
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/132797(WO,A1)
【文献】特開2010-272429(JP,A)
【文献】特開2011-071080(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026104(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C25B 1/00- 9/77
C25B 13/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学電池(10)の構成要素(1)であって、金属基材(2)と、前記金属基材(2)上に少なくとも部分的に電気めっきされている層システム(3)と、を備え、前記層システム(3)が、前記金属基材(2)上に配設された第1の層(3a)と、前記第1の層(3a)上に配設された少なくとも1つの第2の層(3b)と、を備え
記第1の層(3a)が、銅又はニッケルから形成されており、かつ前記少なくとも1つの第2の層(3b)が、スズ、銅、ニッケル、銀、亜鉛、ビスマス、アンチモン、コバルト、マンガン、タングステンのうちの少なくとも2つの元素を含む合金から形成されており、非金属粒子が、前記合金中に拡散された導電性粒子を含み、
前記非金属粒子が、炭素、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、すす、グラフェン、グラフェンオキシド、金属窒化物、金属炭化物を含む群からの少なくとも1つの材料から形成されている導電性粒子を含み、
前記非金属粒子が、金属硫化物、雲母、PTFEを含む群からの少なくとも1つの材料から形成された非導電性粒子を更に含み、
前記金属基材(2)が、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、主にスズを含有する合金を含む群からの材料から形成されている、構成要素(1)。
【請求項2】
電気化学電池(10)の構成要素(1)であって、金属基材(2)と、前記金属基材(2)上に少なくとも部分的に電気めっきされている層システム(3)と、を備え、前記層システム(3)が、前記金属基材(2)上に配設された少なくとも1つの第2の層(3b)と、を備え、
前記少なくとも1つの第2の層(3b)が、スズ、銅、ニッケル、銀、亜鉛、ビスマス、アンチモン、コバルト、マンガン、タングステンのうちの少なくとも2つの元素を含む合金から形成されており、非金属粒子が、前記合金中に拡散された導電性粒子を含み、
前記非金属粒子が、炭素、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、すす、グラフェン、グラフェンオキシド、金属窒化物、金属炭化物を含む群からの少なくとも1つの材料から形成されている導電性粒子を含み、
前記非金属粒子が、金属硫化物、雲母、PTFEを含む群からの少なくとも1つの材料から形成された非導電性粒子を更に含み、
前記金属基材(2)が、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、低合金炭素鋼を含む群からの材料から形成されている、構成要素(1)。
【請求項3】
前記非金属粒子が、グラファイト又はBN(窒化ホウ素)から形成されている導電性粒子を含む、請求項1または2に記載の構成要素(1)。
【請求項4】
前記合金が、ニッケル含有量が20~30重量%の範囲内のスズ-ニッケル合金から形成されている、請求項1または2に記載の構成要素(1)。
【請求項5】
前記合金が、銅-スズ合金、又はスズ-銀合金、又はスズ-亜鉛合金、又はスズ-ビスマス合金、又はスズ-アンチモン合金、又はスズ-コバルト合金、又はニッケル-タングステン合金、又はスズ-マンガン合金から形成されている、請求項1または2に記載の構成要素(1)。
【請求項6】
前記第1の層(3a)が、最大5μmの層厚を有する、請求項1に記載の構成要素(1)。
【請求項7】
前記少なくとも1つの第2の層(3b)が、最大30μmの層厚を含む、請求項1または2に記載の構成要素(1)。
【請求項8】
レドックスフロー電池(8)のための電極の形態で、前記層システム(3)が、少なくとも前記レドックスフロー電池(8)の電解質との接触領域において前記金属基材(2)を覆う、請求項1または2に記載の構成要素(1)。
【請求項9】
レドックスフロー電池(8)であって、請求項に記載の少なくとも1つの電極と、-1~14の範囲内のpHを有する少なくとも1つの電解質と、を備える、レドックスフロー電池(8)。
【請求項10】
少なくとも2つの電極と、第1の反応チャンバ(10a)と、第2の反応チャンバ(10b)と、を備え、各反応チャンバ(10a、10b)が、前記電極のうちの1つと接触しており、かつ前記反応チャンバ(10a、10b)が、イオン交換膜(9a)によって互いに分離されている、請求項に記載のレドックスフロー電池(8)。
【請求項11】
燃料電池(90)であって、フローフィールドプレートの形態の請求項1または2に記載の少なくとも1つの構成要素(1)と、少なくとも1つのポリマー電解質膜(9)と、を備える、燃料電池(90)。
【請求項12】
の電気分解のための電解装置であって、フローフィールドプレート又は流体拡散層(22a、22b)の形態の請求項1または2に記載の少なくとも1つの構成要素と、少なくとも1つのポリマー電解質膜(9)と、を備える、電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材と金属基材上に少なくとも部分的に電気めっきされている層システムとを備える電気化学電池のための構成要素に関し、層システムは、金属基材上に配設された第1の層と、第1の層上に配設された第2の層と、を備える。
【0002】
本発明は、レドックスフロー電池、電解装置、及び燃料電池の形態の電気化学電池に更に関する。
【0003】
水素は、更なるエネルギー貯蔵及びエネルギー変換を視野に入れる際鍵となる技術のための重要な原材料である。水電解は、水を成分の水素(H)及び酸素(O)に分離することに基づく。水素を動力とする燃料電池は、水素から電気エネルギーを発生させる。ポリマー電解質膜を備える電解装置(PEM-EL)による水素生成コストにおける低減及びポリマー電解質膜を備える燃料電池(PEM-FC)の構成要素のコスト生成における低減は、これらのシステムの未来の効果的な使用に対する基本的な要件である。PEM電解装置積層体/PEM燃料電池積層体の主な構成要素は、フローフィールドプレート(FFP)、集電器又は流体拡散層、及び膜電極アセンブリ(MEA)である。フローフィールドプレートの材料及び生成は、それぞれの積層体の製造コストに対して小さくない割合で寄与する。フローフィールドプレート及び流体拡散層などの構成要素に対する重要な要件は、両方の応用分野における、低い基材抵抗及び界面抵抗と組み合わされた高い耐腐食性である。
【0004】
チタン及びステンレス鋼プレートは、電気分解において最新である。アノード側におけるステンレス鋼プレートの応用分野が、高い酸化の可能性に起因しておよそ7のpH範囲に制限される一方で、チタンプレートは、1~7の広いpH範囲で使用することができる。チタンは、水素脆化の傾向を有するため、カソード側において不利であることが証明されている。更に、チタンプレートを有する電解装置積層体の動作は、表面パッシベーションに起因するオーム損失の増加を示す。この背景に対して、チタンプレート上にニオビウム、白金、又は金のコーティングを使用することが知られている。フローフィールドプレートを形成するためのステンレス鋼の広範囲の使用は、電気科学的に安定し、導電性であり、特に、高密度の浸透防止コーティングの使用を必要とする。特に、水性電解質に対する非漏出性が達成されるべきである。
【0005】
PEM-FCの場合、現存する電位窓は、より穏やかであり、pH範囲は、大部分が3に制限される。しかしながら、局所的な動作条件が電池内で発生し得、電位>1.4V SHE(標準水素電極)につながる可能性がある。これは、Ir、Ru、又はAuなどの貴金属を含有する層の使用を要求し、この材料コストは、nm範囲での層厚に関わらず、$3/kW(概して、US Department of Energyの2025年の認識目標)のフローフィールドプレートに関する目標コスト範囲を上回る。
【0006】
欧州特許第3336942(A1)号は、ポリマー電解質燃料電池用のセパレータを形成するための金属シートを記載する。金属基材は、基材とフィルムとの間に島形状の中間層を有する、基材の表面をコーティングするフィルムを有する。中間層は、ニッケル、銅、銀、金からなる群からの少なくとも1つの要素を含むか、又はNiP合金から形成される。例示的な実施形態として、NiPから作製される島形状の中間層を有するステンレス鋼から作製される基材及びTiN-分散NiSnから作製された電気化学的に適用されたフィルムが、説明される。
【0007】
出願公開第2010-272429(A)号は、銅又はスズ若しくはスズ合金から作製された少なくとも1つの湿潤し化学的に形成された第1の層でコーティングされた銅合金から作製された基材を有する燃料電池のためのセパレータを開示する。第1の層は、特に炭素の形態の導電性充填剤を含有し得る。
【0008】
米国特許出願公開第2019/0148741(A1)号は、好ましくは、銅、鉄、チタン、アルミニウム、ニッケル、又はステンレス鋼などの金属から作製された基材を有するコーティングされた構成要素を含む、燃料電池、バッテリ、電極装置、レドックスフローバッテリなどの電気科学デバイスを記載する。基材は、スズ、又はスズ-ニッケル合金、スズ-アンチモン合金、スズ-ニッケル-アンチモン合金などのスズ合金のコーティングを有し、導電性コーティングは、炭素系材料及びアゾール含有腐食防止剤を含む。蓄電システムとしてのフローバッテリシステムはまた、再生可能エネルギーを使用する静止及び可動用途に対する持続可能なエネルギー供給を可能にする。高い効果及び電力密度を達成するために、可能な限りコンパクトなバッテリ積層体を有することが目標である。しかしながら、高い電力密度は、バッテリ積層体の個々の構成要素に関して大きな課題をもたらす。本明細書における新規のアプローチは、活性領域における電解質の均質な分配を確実とし、同時に、膜に対する短い距離を可能にする、構造化幾何学形状を有する金属電極である。一方で、金属電極は、電気化学的安定性、低界面抵抗、及び触媒活性に対する高い要求に見合う適切な表面特性を必要とする。
【0009】
レドックスフロー電池では、両側に適用された活性すすコーティング(厚さ約0.1~0.3mm)を有する、プラスチック及びグラファイト(厚さ約0.5~0.6mm)を含む複合プレートが、多くの場合、電極として使用され、これは乾燥押圧されるか、又は湿潤し化学的に適用される。このことで、厚さが<0.5mmの金属プレートを有する、約0.7~1.2mmの総プレート厚さの電極が大面積にわたって達し得る。また、大面積の金属プレートの加工性は、グラファイト系電極を有する射出成形プラスチックフレームと比較してより好都合である。
【0010】
全バナジウムレドックスフロー電池などの別の電池構成は、多くの場合、活性表面を増加させるためのグラファイトフェルトを有する2つの電極の形態の2つのフローフィールドプレート及び膜からなる。電解質は、硫酸(pH<1)に溶解されたバナジウムからなる。フローフィールドプレート(厚さ約0.5~0.6mm)は、多くの場合、純粋なグラファイト又はグラファイトポリマー複合体から作製された平面プレートとして使用される。グラファイト又はカーボンナノチューブで充填されるポリプロピレンから作製されたフローフィールドプレートは、水素形成反応(HFR)に関して高い耐腐食性及び高い過電圧によって特徴付けられる。
【0011】
グラファイト複合体から作製されたフローフィールドプレートと比較して、金属フローフィールドプレートは、それらの高い導電性及び高い機械的安定性又は強度によって特徴付けられ、グラファイトフェルトを備える電池構成は、低いオーム損失に起因して、より高い性能及び効率につながる。
【0012】
PEM-EL、PEM-FC、及びレドックスフロー電池用途において、導電性、高密度コーティングが必要となる。これらは、バリア層の機能を帯び、それらの性能、特に、適用される追加的な層によって触媒有効性を増加させることができる。要件は、以下のようにまとめることができる。
【0013】
電気化学的安定性:
pH範囲:1~14
電位範囲:-1V NHE~+3V NHE(短時間:-2V NHE~+3V NHE)
動作寿命:>10000時間
界面抵抗:
<10mOhm・cm(100N/cmにおける接触圧)
電気化学的安定性及び低い界面抵抗に関するこれらの要件を満たす電気化学電池のための構成要素を提供することが、本発明の目的である。本発明の更なる目的は、かかる構成要素を有するレドックスフロー電池、電解装置、又は燃料電池の形態の電気化学電池を提供することである。
【0014】
目的は、金属基材と金属基材上に少なくとも部分的に電気めっきされている層システムとを備え、層システムが、任意選択的に、金属基材上に配設された第1の層及び金属基材、又は存在する場合、第1の層上に配設された少なくとも1つの第2の層を有し、任意選択の第1の層が、銅又はニッケルから形成されており、かつ合金からの少なくとも1つの第2の層が、スズ、銅、ニッケル、銀、亜鉛、ビスマス、アンチモン、コバルト、マンガン、タングステンのうちの少なくとも2つの元素を含み、非金属粒子が、合金中に埋め込まれた導電性粒子を含む、電気化学電池の構成要素を獲得する。
【0015】
導電性粒子は、20~25℃の温度範囲、0.25mΩ・cm~10mΩ・cmの範囲内の導電性を有する。
【0016】
かかる構成要素は、電気化学電池に必要とされるような優秀な電気化学的安定性を有する。低い界面抵抗に起因して、かかる構成要素は、レドックスフロー電池、燃料電池及び電解装置用フローフィールドプレート並びに、電解装置の流体拡散層の電極の形成に特に好適である。第2の層中の合金内に埋め込まれる非金属粒子の存在は、層システムの機械的安定性を改善し、使用される粒子の材料に応じて、界面抵抗における更なる低減、このため電気化学電池の効率の増加を可能にする。
【0017】
材料スズ及びニッケルは、酸化物の形成に起因する、広いpH範囲に対して熱力学的に安定していることが証明された。20~30重量%の範囲内のニッケル含有量を含む、スズーニッケル合金から作製された合金は、したがって、特に好ましい。かかる低いニッケル含有量は、膜のニッケル被毒の最小化又は防止につながり、このため電池性能の低下を効果的に防止するため、結果としてもたらされる電気化学電池の膜へのニッケル拡散の低減の観点から大きな利点である。結果として、内部に導電性粒子、特に、炭素、及び/又はグラファイト、及び/又はカーボンナノチューブ、及び/又は炭素繊維、及び/又はすす、及び/又はグラフェン、及び/又はグラフェンオキシドから作製される導電性粒子が拡散した状態のかかるスズ-ニッケル合金から作製された第2の層は、金の層と比較して、長い期間より安定していることが証明された。
【0018】
合金は、代替的に、銅-スズ合金、又はスズ-銀合金、又はスズ-亜鉛合金、又はスズ-ビスマス合金、又はスズ-アンチモン合金、又はスズ-コバルト合金、又はニッケル-タングステン合金、又はスズ-マンガン合金から作製される。
【0019】
特にSnCuは、アルカリ電解質が使用されるとき、レドックスフロー電池内の強力な材料組成物であることが証明された。
【0020】
第1の層は、銅又はニッケルから作製される。これは、層システムの金属基材への良好な接着を確実とする。
【0021】
非金属粒子は、好ましくは、導電性粒子のある割合を含み、これは構成要素上の界面抵抗における著しい低減をもたらし、特に、炭素、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、すす、グラフェン、グラフェンオキシド、金属窒化物、金属炭化物を含む群からの少なくとも1つの材料から形成される。
【0022】
導電性粒子の割合は、特に、非金属粒子の50%以上である。第2の層から突出する導電性粒子が、電気化学電池の膜と電気化学電池の外側の電気接触との間の電気接触を、高い腐食条件下であっても、確実に維持することを示す。
【0023】
特に好ましいのは、20~30重量%の範囲内のニッケル含有量を含むスズ-ニッケル合金の合金を、炭素、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、すす、グラフェン、グラフェンオキシドを含む群からの少なくとも1つの材料から作製された、内部で拡散された非金属粒子と混み合わせることである。この合金は、パッシベーションとしてその表面上に酸化物層を形成し、これが、特に腐食抑制効果を有し、電気化学電池の長期的な安定性を増加させる。
【0024】
非金属粒子は、金属硫化物、金属酸化物、ダイヤモンド、雲母、PTFEを含む群からの少なくとも1つの材料など、非導電性材料から形成された粒子の割合を更に含み得る。
【0025】
金属酸化物として、Al、BeO、CdO、MgO、SiO、TiO、ZrO、Fe酸化物などが、好ましくは、使用される。SiC、WC、VC、TiC、Cr、Crなどが、好ましくは、金属炭化物として使用される。BN又はSiNなどが、好ましくは、金属窒化物として使用される。炭素は、特に好ましくは、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、すす、グラフェンの形態、又はグラフェンオキシドの形態で使用される。MoS、MoS、NiFeSなどは、好ましくは、金属硫化物として使用される。
【0026】
好ましい粒径の非金属粒子は、100nm~8μmの範囲内、特に500nm~6μmの範囲内にある。特に好ましいのは、第2の層の電着のための電解質内に特に安定的に拡散され得るナノメートル範囲内の粒子を使用することである。特に、粒径は、少なくとも1つの第2の層の表面からの突出が、膜との接触を確実とするように選択される。
【0027】
第2の層中の非金属粒子の好ましい量の分留は、2~50体積%の範囲内にある。これは、金属マトリックス内の粒子の確実な結合を確実とする。
【0028】
金属基材は、好ましくは、1.4404又はDC04グレードなどのステンレス鋼、及び更にチタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、主にスズを含有する合金を含む群からの材料から形成される。この場合、第1の層は、好ましくは、層システムの接着を改善するために存在する。
【0029】
代替的に、金属基材は、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、低合金炭素鋼からなる群から選択された材料から形成される。特に、金属基材は、銅又はニッケルから作製される。かかる場合、第1の層はまた、省略され得る。100Cr6は、それ自体を低合金炭素鋼として証明する。
【0030】
任意選択の第1の層及び少なくとも1つの第2の層は、電着によって形成される。流電プロセスを使用すると、PEM-EL及びレドックスフロー電池を使用するために層厚>10マイクロメートルの層を有する電解質非漏出性層の堆積は、容易に可能である。その結果、電着、導電性及び耐久層は、広いpH範囲及び電位窓にわたってステンレス鋼などの金属基材上で達成され得る。非金属粒子は、第2の層を形成するために電解質内に拡散され、少なくとも1つの第2の層を形成するために第1の層上に堆積した合金に組み込まれる。
【0031】
単一の第2の層又は複数の第2の層は、他方の上部上に適用され得る。
【0032】
特に、電着は、「パルスめっき」プロセスと呼ばれるものを使用して実行され、電解質に適用される電圧は、周期的にスイッチオフされるか又は反転される。スイッチオン時に、短期電流サージを受信することに起因して、増加した数の核が、金属堆積のために形成され、このため微粒状の粒子及び光沢の基礎を作成する。
【0033】
金属基材は、特に、0.05~1mmの範囲内の厚さを有する金属シート又は金属箔の形態である。更に、金属シート又は金属箔は、表面積を増加させるためにエンボス加工された三次元構造を有することができ、このため電気化学電池内の流体との接触面積を増加させる。
【0034】
第1の層は、好ましくは、最大5μm、特に最大3μmの範囲内の層厚を備える。少なくとも1つの第2の層は、好ましくは、最大30μm、特に5~20μmの範囲内の層厚を有する。層システムの好ましい全体の層厚は、<10μm及び特に、4~8μmの範囲内にある。
【0035】
金属基材から離れる方向に面し、層システムのカバー層を形成する第2の層の表面は、特に陽極酸化される。かかる後続の陽極酸化により、酸化物の形態のそれぞれの合金元素の標的濃縮が可能になる(表面改質)。これは、電位を水性電解質内に浸漬された構成要素に適用することによって達成される。
【0036】
本発明による構成要素は、好ましくは、レドックスフロー電池用の電極の形態で構成され、層システムは、少なくとも電解質との接触領域において、任意選択的に、中を通って電解質が流れるグラファイトフェルトとの接触領域において、レドックスフロー電池の金属基材を覆う。
【0037】
目的は、レドックスフロー電池、特に、-1~14の範囲内のpHを有する、レドックスフロー電池のための少なくとも1つの電極及び少なくとも1つの電解質を備えるレドックスフロー電池のために更に達成される。
【0038】
レドックスフロー電池は、好ましくは、少なくとも2つの電極と、第1の反応チャンバと、第2の反応チャンバと、を備え、各反応チャンバは、電極のうちの1つと接触し、かつ反応チャンバは、イオン交換膜によって互いに分離される。グラファイトフェルトは、反応チャンバ内に配設され、それぞれの電極に隣接し得る。
【0039】
したがって、レドックスフローバッテリを形成するために、好ましくは10を超える、特に50を超えるレドックスフロー電池が、電気的に相互接続された方法で使用される。
【0040】
ここでは、レドックスフロー電池又はレドックスフローバッテリに好適な例として、次のアノライトに言及する:
1モルの苛性ソーダ中に溶解された、1.4Mの7,8-ジヒドロキシフェナジン-2-スルホン酸(略称:DHPS)
ここでは、レドックスフロー電池又はレドックスフローバッテリに好適な例として、次のカソライトに言及する:
2モルの苛性ソーダ中に溶解された、0.31Mのカリウムヘキサシアノ鉄(II)と0.31Mのカリウムヘキサシアノ鉄(III)。
【0041】
レドックスフロー電池又はレドックスフローバッテリを形成するために、アノライト側にレドックス活性有機種及び/又は金属種を含有する水性電解質を有する電解質の組み合わせが、好ましくは、使用される。
【0042】
レドックスフロー電池に好適な別の電解質(アノライト又はカソライト)が、例として言及される:
水性希硫酸(pH<1)に溶解された1.6M VOSO又はV(SO
【0043】
目的は、フローフィールドプレート及び少なくとも1つのポリマー電解質膜の形態で、本発明による少なくとも1つの構成要素を含む、燃料電池のために更に達成される。
【0044】
最終的に、目的は、フローフィールドプレート又は流体拡散層及び少なくとも1つのポリマー電解質膜の形態で、本発明による少なくとも1つの構成要素を含む、電解装置を獲得する。電解装置は、好ましくは、水の電気分解のために設定される。
【0045】
以下の実施例は、本発明による構成要素を説明することを意図する。
【0046】
実施例1:
金属基材ステンレス鋼電気めっきされた第1の層:銅又はニッケル電気めっきされた第2の層(DC、パルスめっき):
合金:SnNi非金属粒子:グラファイト
実施例2:
金属基材チタン電気めっきされた第1の層:銅又はニッケル電気めっきされた第2の層(DC、パルスめっき):
合金:SnAg非金属粒子:チタンニトリド及びSiC
実施例3:
金属基材銅電気めっきされた第1の層:適用されない電気めっきされた第2の層(DC、パルスめっき):
合金:SnCu非金属粒子:グラファイト及びSiC
実施例4:
金属基材アルミニウム電気めっきされた第1の層:銅又はニッケル電気めっきされた第2の層(DC、パルスめっき):
合金:SnZn非金属粒子:グラフェンオキシド及びSiO
実施例5:
金属基材ステンレス鋼電気めっきされた第1の層:銅又はニッケル電気めっきされた第2の層(DC、パルスめっき):
合金:SnBi非金属粒子:グラフェン及びWC
実施例6:
金属基材チタン電気めっきされた第1の層:銅又はニッケル電気めっきされた第2の層(DC、パルスめっき):
合金:SnSb又はSnMn非金属粒子:すす及び雲母
実施例7:
金属基材ステンレス鋼電気めっきされた第1の層:銅又はニッケル電気めっきされた第2の層(DC、パルスめっき):
合金:SnCo非金属粒子:カーボンナノチューブ及びMgO
実施例8:
金属基材ステンレス鋼電気めっきされた第1の層:銅又はニッケル電気めっきされた第2の層(DC、パルスめっき):
合金:NiW非金属粒子:グラファイト及びMoS
実施例9:
金属基材ステンレス鋼電気めっきされた第1の層:銅又はニッケル電気めっきされた第2の層(DC、パルスめっき):
合金:SnNi非金属粒子:グラファイト及びSiC
図1~8は、構成要素の例及び電気化学電池におけるそれらの使用を示す。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】金属基材及び層システムを備える構成要素を示す。
図2図1による構成要素を断面図で示す。
図3】三次元構造を有する更なる構成要素を、側面図において示す。
図4】一体の金属基材及び第1の層を有する構成要素を示す。
図5】三次元構造のフローフィールドを有する電極の形態の構成要素を示す。
図6】レドックスフロー電池又はレドックスフロー電池を有するレドックスフローバッテリを示す。
図7】電解装置を断面図で示す。
図8】燃料電池積層体を三次元図で示す。
【0048】
図1は、表面4の上面図において金属基材2及び層システム3を含む構成要素1を示す。
【0049】
図2は、図1による構成要素1を、断面図II-IIで示す。図1と同じ参照符号は同一の要素を示す。金属基材2は、例えば、ここでステンレス鋼から作製され、金属シートの形態で見られ得る。金属シートは、1μmの層厚において、ニッケルから作製された第1の層3aで両方の側部に電気めっきされる。第1の層3において、5μmの範囲内の層厚において、グラファイトの非金属粒子を含有するスズ-ニッケル合金から作製された、電気めっきされた第2の層3bが存在する。
【0050】
図3は、三次元構造5を有する別の構成要素1’を側面図で示す。構成要素1’は、ここでは視認可能ではないが、金属基材2を備え、これは層システム3によって全ての側面上で覆われている。
【0051】
図4は、構成要素1’’を断面図で示し、ニッケルから作製された金属基材2を有する。ここで同時に、金属基材2は、第1の層3aを形成する。金属めっきされた第2の層3bは、10μmの層厚で、グラファイト及びSiCの非金属粒子を含有するスズ-ニッケル合金から作製される。
【0052】
図5は、電極の形態の構成要素1aを三次元図で示し、層システム3でコーティングされた、チタンから作製された金属シートの形態で金属基材2を備える。金属基材2において、各場合においてフローフィールド7を形成するための三次元構造5が存在し、電解質のレドックスフロー電池8内の流動を起こす、電極の表面積の増加をもたらす(図6を参照)。
【0053】
図6は、レドックスフロー電池8又は、それぞれレドックスフロー電池8を有するレドックスフローバッテリを示す。レドックスフロー電池8は、電極の形態の2つの構成要素1a、1b(図5を参照)、第1の反応チャンバ10a、及び第2の反応チャンバ10bを備え、各反応チャンバ10a、10bは、電極のうちの一方と接触している。ここでは別個に示されないグラファイトフェルトは、反応チャンバ10a、10b内に配設され得る。ここでは視認可能ではない電極のフローフィールド7(図5を参照)は、イオン交換膜9a、存在する場合、それぞれのグラファイトフェルトに面して位置合わせされる。反応チャンバ10a、10bは、イオン交換膜9aによって、互いに分離される。グラファイトフェルトは、存在する場合、それぞれ電極とイオン交換膜9aとの間に少なくともわずかに圧縮され、電解質液は、グラファイトフェルトを通して流動することができる。電解質は、電極の構造化表面の領域においてグラファイトフェルトを通過して部分的に流動し、それを通して流動し続けることができる。液体アノライト11aが、タンク13aから第1の反応チャンバ10aへポンプ12aを介してポンプ圧送され、構成要素1aとイオン交換膜9aとの間を通って供給される。液体カソライト11bが、タンク13bから第2の反応チャンバ10bへポンプ12bを介してポンプ圧送され、構成要素1bとイオン交換膜9aとの間を通って供給される。イオン交換は、イオン交換膜9aにわたって発生し、電気エネルギーが電極におけるレドックス反応により放出される。
【0054】
図7は、アノード側A及びカソード側Kに互いを分離するポリマー電解質膜9を備える、電解装置の電気分解電池20を示している。触媒層21a、21bは、各々、ポリマー電解質膜9の両側に触媒層21a、21bに隣接して配設される、チタン(アノード側)及びグラファイトフェルト(カソード側)から作製された触媒材料及び流体拡散層22a、22bを備える。流体拡散層22a、22bは、各々、伝導性プレートの形態で構成要素1e、1fに隣接して配設される。プレートは、ステンレス鋼から作製され、流体拡散層22a、22bに面して、少なくともその側面上で電気めっきされた層システム3(図2を参照)を有する。更に、プレートは、各々、三次元構造5を有し、それぞれ、反応媒質(水)の供給及び反応生成物(水、水素、酸素)の除去を改善するために、流体拡散層22a、22bに面するプレートの側面上にフローチャネル23a、23bを形成する。
【0055】
図8は、複数の燃料電池90を備える燃料電池積層体100を概略的に示している。各燃料電池90は、フローフィールドプレートの形態の構成要素1c、1dの両面に隣接するポリマー電解質膜9を備える。各フローフィールドプレートは、電気めっきされた層システム3(図2を参照)を有する金属基材2を有する。フローフィールドプレートは、開口部80aを有する流入領域と、燃料電池90にプロセスガス及びクーラントを供給し、燃料電池90及びクーラントから反応生成物を除去するために使用される、更なる開口部80bを有する出口領域と、を有する。フローフィールドプレートはまた、両側にガス分配構造6を有し、これは、ポリマー電解質膜9と接触するために提供されている。
【0056】
図1~8は、例として本発明を説明することを意図している。しかしながら、本発明のコンセプトは、本発明によって構成された少なくとも1つの構成要素を有する電気化学電池を更に備えることである。
【符号の説明】
【0057】
1、1’、1’’、1a、1b、1c、1d、1e、1f 構成要素
2 金属基材
3 層システム
3a 第1の層
3b 第2の層
4 表面
5 三次元構造
6 ガス分配構造
7 フラックスフィールド
8 レドックスフロー電池
9 ポリマー電解質膜
9a イオン交換膜
10a 第1の反応チャンバ
10b 第2の反応チャンバ
11a アノライト
11b カソライト
12a、12b ポンプ
13a、13b タンク
20 電解質電池
21a、21b 触媒層
22a、22b 流体拡散層
23a、23b フローチャネル
80a、80b 開口部
90 燃料電池
100 燃料電池積層体
A アノード側
K カソード側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8