(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-19
(45)【発行日】2025-08-27
(54)【発明の名称】積層圧電フィルム
(51)【国際特許分類】
H10N 30/02 20230101AFI20250820BHJP
H10N 30/857 20230101ALI20250820BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20250820BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20250820BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250820BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20250820BHJP
【FI】
H10N30/02
H10N30/857
H10N30/20
H10N30/30
B32B27/30 D
B32B7/025
(21)【出願番号】P 2024521957
(86)(22)【出願日】2023-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2023018369
(87)【国際公開番号】W WO2023224057
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2024-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2022081449
(32)【優先日】2022-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】芹川 正寛
(72)【発明者】
【氏名】今治 誠
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155006(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/076071(WO,A1)
【文献】特開2016-219804(JP,A)
【文献】国際公開第2021/200790(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/064739(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/261154(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/00
B32B 27/30
B32B 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデンを主成分とする圧電フィルムと、前記圧電フィルムの一方の面に積層された保護フィルムとを備えた積層圧電フィルムであって、
前記保護フィルムの剛性が、前記圧電フィルムの剛性の1.0倍以上20倍以下であり、
前記保護フィルムの厚みが50μm以上200μm以下である、積層圧電フィルム。
【請求項2】
前記保護フィルムの厚みが前記圧電フィルムの厚みの1.5倍以上である、請求項1に記載の積層圧電フィルム。
【請求項3】
前記保護フィルムの剛性が、前記圧電フィルムの剛性の3.0倍以上20倍以下である、請求項1または2に記載の積層圧電フィルム。
【請求項4】
前記保護フィルムが積層された側とは反対側の前記圧電フィルムの面における表面凹凸度が80μm以下である、請求項1又は2に記載の積層圧電フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層圧電フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットなどの電子機器にタッチセンサが導入され、直感的な操作を可能とするヒューマン-マシンインターフェースとして利用されている。タッチセンサは指やペンでタッチされた2次元の位置を検出することで電子機器を操作する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また近年では、入力情報を増やし、操作性を向上させる目的で押圧力を検知するタッチセンサが開発されている。たとえば、筐体が歪んだときの静電容量の変化や感圧ゴムを用いた抵抗値の変化などで押圧力を検出する方法、圧電材料の電荷の変化を検出する方法などがある。このような押圧力(Z座標)も検出できるタッチパネルの圧電フィルムとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリフッ化ビニリデン-四フッ化エチレン共重合体を主成分とするフッ素系樹脂圧電体が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、前記フッ素系樹脂フィルムの圧電性を高めるには、フィルムの延伸処理や熱ポーリング処理が行われることがあるため、前記処理が行われた圧電フィルムはその製法上、PETなどの非圧電フィルムと比べて、表面に大きなうねりを生じることで平滑性が低下する傾向にあり、前記圧電フィルムを使った積層体の製造工程において、積層過程で不具合を生じる虞、及び積層体の圧電感度が低下する虞があるという問題がある。
【0006】
本発明者が上記問題に対して鋭意検討したところ、圧電フィルムの面に剛性(以降、フィルムの引張弾性率とフィルムの厚さの積を「剛性」と呼ぶ)の高い保護フィルムを積層することによって、平滑性を改善できることが分かった。
【0007】
また、前記保護フィルムを圧電フィルムに積層した積層フィルムにおいて、圧電フィルムの表面が平滑となること(平滑性)、さらに前記積層フィルムに導電層を積層する工程で熱処理する場合があるが、それらの熱処理で積層圧電フィルムがカールしないこと(高い熱安定性)、搬送時の応力などによってシワが発生しないこと(高剛性)が求められる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高剛性を有し、高い熱安定性、及び平滑性に優れた積層圧電フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、保護フィルムを備えた積層圧電フィルムであって、保護フィルムの剛性Bと、圧電フィルムの剛性AにおいてB/Aが特定の範囲を満たし、保護フィルムの厚みが特定の範囲を満たす積層圧電フィルムとすることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものに関する。
【0010】
本発明は、圧電フィルムと、前記圧電フィルムの一方の面に積層された保護フィルムとを備えた積層圧電フィルムであって、前記保護フィルムの剛性Bが、前記圧電フィルムの剛性Aの1.0倍以上20倍以下であり、前記保護フィルムの厚みが50μm以上200μm以下である、積層圧電フィルムに関する。
【0011】
前記保護フィルムの厚みが前記圧電フィルムの厚みの1.5倍以上であることが好ましい。
前記保護フィルムの剛性Bが、前記圧電フィルムの剛性Aの3.0倍以上20倍以下であることが好ましい。
前記保護フィルムが積層された側とは反対側の前記圧電フィルムの面における表面凹凸度が80μm以下であることが好ましい。
前記圧電フィルムがポリフッ化ビニリデンを主成分とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高剛性で熱安定性及び平滑性に優れた積層圧電フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の積層圧電フィルムの一実施形態である積層圧電フィルム1を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の積層圧電フィルムの別の実施形態である積層圧電フィルム2を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
本明細書において、「積層」とは、各層が順番に積層されていればよく、各層の間に他の層が積層されていてもよい。
【0016】
≪積層圧電フィルム≫
本発明に係る積層圧電フィルムは、圧電フィルムと、前記圧電フィルムの一方の面に積層された保護フィルムと、を備えた積層圧電フィルムであって、前記保護フィルムの剛性Bが、前記圧電フィルムの剛性Aの1.0倍以上20倍以下であり、前記保護フィルムの厚みが50μm以上200μm以下である。
【0017】
特に、保護フィルムの剛性Bが、圧電フィルムの剛性Aの1.0倍以上20倍以下であることにより、熱安定性及び平滑性に優れた積層圧電フィルムを得られやすい。フィルムの剛性が変形しにくさを表しており、保護フィルムの剛性Bと圧電フィルムの剛性Aとを特定の範囲とすることで、保護フィルムが圧電フィルム表面のうねりを平滑化することで圧電フィルム表面の凹凸度を低下させ、また、積層圧電フィルムの加工熱によるカールを抑制すると推察される。
【0018】
<積層圧電フィルム、保護フィルム及び圧電フィルムの特性>
積層圧電フィルムは、保護フィルムの剛性Bが、圧電フィルムの剛性Aの1.0倍以上20倍以下であり、前記保護フィルムの厚みが50μm以上200μm以下である。
【0019】
保護フィルムの剛性が、圧電フィルムの剛性の1.0倍より小さいと、圧電フィルム表面のうねりを保護フィルムの剛性で抑制することが困難となり、圧電フィルム表面の凹凸度が高くなるので好ましくない。また、搬送・巻き取りなどの生産工程上の観点から、保護フィルムの剛性は、圧電フィルムの剛性の10倍以下であってもよい。保護フィルムの剛性は、圧電フィルムの剛性の1.5倍以上20倍以下が好ましく、2.5倍以上20倍以下がより好ましく、3.0倍以上20倍以下がさらに好ましく、5.0倍以上15倍以下がとくに好ましく、5.0倍以上10倍以下が最も好ましい。1.5倍以上であると、優れた熱安定性及び平滑性を得られやすい。
フィルムの引張弾性率は測定方向によって異なる場合があるが、本明細書において、保護フィルム、圧電フィルム及び積層圧電フィルムの引張弾性率は、その最小値を意味する。また、上記引張弾性率は、JIS K 7127に準拠して測定され、JIS K 7161-1の10.3に基づいて計算される値であり、具体的には後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0020】
加熱による積層圧電フィルムのカール高さは、前記フィルムの熱安定性を示す尺度となる。フィルム接地位置からフィルムが湾曲することにより到達するフィルムの最高到達高さをカール高さと呼び、カール高さが小さいほど熱安定性が高いことを示す。カール高さは、20mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。
本明細書において、積層圧電フィルムのカール高さは、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。なお、カールの度合いが大きい結果、試験片が筒状になる場合のカール高さは、20mm超であるとみなす。
積層圧電フィルムのカール高さは、例えば、保護フィルムの厚みや引張弾性率、圧電フィルムの厚みや引張弾性率、保護フィルムと圧電フィルムの線膨張係数の差を検討することなどによって適宜調整することができる。
【0021】
積層圧電フィルムの厚みは、50μm以上300μm以下が好ましく、100μm以上300μm以下がより好ましく、150μm以上250μm以下がさらに好ましい。前記フィルムの厚みが50μm以上であると、剛性が十分となりやすい。また、前記フィルムの厚みが300μm以下であると搬送・巻き取りなどの生産工程上の観点から好ましい。
【0022】
保護フィルムの厚みは、50μm以上200μm以下が好ましく、70μm以上200μm以下がより好ましく、90μm以上150μm以下がさらに好ましく、110μm以上150μm以下がとくに好ましい。前記保護フィルムの厚みが50μm以上であると、より高剛性となりやすく、優れた熱安定性及び平滑性を得られやすい。
【0023】
圧電フィルムの厚みは、10μm以上200μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましく、30μm以上120μm以下がさらに好ましく、30μm以上80μm以下がとくに好ましい。前記フィルムの厚みが10μm以上であると、強度が十分となりやすい。また、200μm以下であると、透明性が十分となりやすく、光学用途に使用しやすい。
【0024】
保護フィルムの厚みは、圧電フィルムの厚みの1.5倍以上10倍以下が好ましく、2.0倍以上10倍以下がより好ましい。1.5倍以上であると、積層圧電フィルムの剛性において保護フィルムの剛性が支配的となる。保護フィルムは圧電フィルムで行われるような圧電性を高める処理が行われていない。そのため、保護フィルムは熱安定性や平滑性が優れているため、積層圧電フィルムの剛性において保護フィルムの剛性が支配的となることで積層圧電フィルムは、優れた熱安定性及び平滑性を得られやすい。
【0025】
保護フィルムの引張弾性率は、1.0GPa以上5.0GPa以下が好ましく、2.0GPa以上5.0GPa以下がより好ましく、3.0GPa以上5.0GPa以下がさらに好ましい。1.0GPa以上であると、剛性が高くなりやすく、優れた熱安定性及び平滑性を得られやすい。また、搬送・巻き取りなどの生産工程上の観点から、保護フィルムの引張弾性率は、5.0GPa以下であってもよい。
【0026】
圧電フィルムの引張弾性率は、0.5GPa以上3.0GPa以下が好ましく、1.0GPa以上3.0GPa以下がより好ましく、1.5GPa以上3.0GPa以下がさらに好ましく、1.5GPa以上2.0GPa以下がとくにより好ましい。上記数値範囲内であると、圧電性が十分となりやすい。
【0027】
積層圧電フィルムの剛性は、100N/mm以上1000N/mm以下が好ましく、200N/mm以上1000N/mm以下がより好ましく、300N/mm以上1000N/mm以下がさらに好ましく、400N/mm以上1000N/mm以下がとくに好ましい。積層圧電フィルムの剛性が100N/mm以上であると、前記フィルムは優れた熱安定性及び平滑性を得られやすい。
【0028】
保護フィルムの剛性は、100N/mm以上1000N/mm以下が好ましく、150N/mm以上1000N/mm以下がより好ましく、300N/mm以上1000N/mm以下がさらに好ましく、400N/mm以上1000N/mm以下がとくに好ましい。保護フィルムの剛性が100N/mm以上であると、前記フィルムを使った積層圧電フィルムは優れた熱安定性及び平滑性を得られやすい。
【0029】
圧電フィルムの剛性は、10N/mm以上200N/mm以下が好ましく、50N/mm以上200N/mm以下がより好ましく、50N/mm以上150N/mm以下がさらに好ましい。圧電フィルムの剛性が10N/mm以上であると、前記フィルムを使った積層圧電フィルムは高い圧電性が得られやすい。
【0030】
保護フィルムが積層された側とは反対側の圧電フィルムの面における表面凹凸度は、80μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましく、30μm以下が特に好ましい。前記フィルムの面における表面凹凸度が100μm以下であると、優れた平滑性が得られやすくなり、前記フィルムを使った積層工程における不具合が減少したり、前記工程で得られた積層体の圧電感度が向上する。
本明細書において、上記表面凹凸度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。本明細書の表面凹凸度は、表面の微細な凹凸に基づく値ではなく、表面のうねりやシワに基づく値である。
上記表面凹凸度は、例えば、保護フィルムの厚みや引張弾性率、圧電フィルムの厚みや引張弾性率を検討することなどによって適宜調整することができる。
【0031】
次に、図面を参照しながら積層圧電フィルムの各層について説明する。
【0032】
図1は、積層圧電フィルムの一実施形態である積層圧電フィルム1を模式的に示す断面図である。積層圧電フィルム1は、圧電フィルム11の一方の面に、保護フィルム31が積層されている。
図2は、積層圧電フィルムの別の実施形態である積層圧電フィルム2を模式的に示す断面図である。積層圧電フィルム2は、圧電フィルム11と保護フィルム31との間に粘着層21を備える点で、積層圧電フィルム1と異なっている。
【0033】
<圧電フィルム>
圧電フィルム11は、圧電性(加えられた力を電圧に変換する性質、又は加えられた電圧を力に変換する性質)を有するフィルム(薄膜)である。
【0034】
圧電フィルム11としては、一般に熱ポーリング処理と呼ばれる分極処理によって分子双極子を配向させることで圧電性を発現できる分極化極性高分子化合物や、キラルな高分子化合物に延伸処理を加えることによって圧電性を発現できる延伸キラル高分子化合物などが挙げられる。分極化極性高分子化合物としては、フッ素系樹脂;シアン化ビニリデン系重合体;酢酸ビニル系重合体;ナイロン9、ナイロン11などの奇数ナイロン;ポリウレアなどが挙げられる。延伸キラル高分子化合物としては、ポリ乳酸などのヘリカルキラル高分子化合物;ポリヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシカルボン酸;セルロース系誘導体などが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。なかでも、圧電フィルムの表面の平滑性が低くなりやすく、本発明の平滑性改善効果が発揮されやすい点から、フッ素系樹脂が好ましい。
圧電フィルムが一軸延伸されたフィルムであると、表面の平滑性が低くなりやすく、本発明の平滑性改善効果が発揮されやすい。また、圧電フィルムがフッ素系樹脂である場合、分極の程度が大きいと、表面の平滑性が低くなりやすく、本発明の平滑性改善効果が発揮されやすい。
【0035】
フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン系共重合体(例えば、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、パーフルオロビニルエーテル/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレンオキシド/フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレンオキシド/テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体);テトラフルオロエチレン系重合体;クロロトリフルオロエチレン系重合体などが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。なかでも、得られる圧電性の高さ、耐候性、耐熱性などの観点で、ポリフッ化ビニリデン又はフッ化ビニリデン系共重合体を主成分とすることが好ましく、ポリフッ化ビニリデンを主成分とすることがより好ましい。本明細書において、圧電フィルムを構成する高分子化合物(樹脂)の全質量に対し、ある高分子化合物を構成する成分の質量が50質量%以上含まれているとき、当該高分子化合物を主成分と呼ぶ。
【0036】
圧電フィルム11は、通常用いられる添加剤(フィラーや界面活性剤など)をさらに含有してもよい。
【0037】
<保護フィルム>
保護フィルム31としては、上述した特性を有するものであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の含ハロゲン系重合体、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系重合体、ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体等のスチレン系重合体などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより良好に得られる観点から、PET又はPPが好ましく、PETがより好ましい。また、これらのフィルムは、二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0038】
<粘着層>
本発明に係る積層圧電フィルムは、粘着層を備えていてもよい。
積層圧電フィルム2は、圧電フィルム11と保護フィルム31との間に粘着層21を備える。すなわち、粘着層21を介することによって圧電フィルム11と保護フィルム31とを貼り合わせてもよい。
【0039】
粘着層としては、圧電フィルムから保護フィルムとともに剥離しやすいものであれば特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂や、天然ゴム、合成ゴムなどのゴム系樹脂などを使用できる。
【0040】
<積層圧電フィルムの用途>
本発明に係る積層圧電フィルムは、保護フィルムを剥離した後、静電容量方式、抵抗膜方式などのタッチパネルなどを含む圧電パネル、圧力センサ、ハプティックデバイス用アクチュエータ、圧電振動発電装置及び平面スピーカーなどのデバイスに好適に用いられる。
上記デバイスは、上記圧電フィルムの下に、LCDなどの一般的な表示パネルユニットをさらに備えていてもよい。
上記デバイスは、スマートフォン、携帯情報端末、タブレットPC、ノートパソコン、医療機器、カーナビゲーションシステムなどに好適に用いられる。
【0041】
<積層圧電フィルムの製造方法>
本実施形態に係る積層圧電フィルムは、(1)圧電フィルムの製造工程と、(2)保護フィルムを貼合する工程と、を含む方法などにより製造することができる。
【0042】
(1)圧電フィルムの製造工程
圧電フィルムの製造方法は、とくに限定されず、例えば以下の方法で製造することができる。
【0043】
フッ素系樹脂を含む圧電フィルムを製造する場合、当該圧電フィルムは、フッ素系樹脂を含むフィルムを分極処理する工程を経て得ることができる。フッ素系樹脂を含むフィルムは、延伸フィルムであってもよいし、未延伸フィルムであってもよい。本実施形態では、高い圧電効果を発現させる観点から、フッ素系樹脂を含むフィルムを延伸した後、分極処理することが好ましい。
【0044】
フッ素系樹脂を含むフィルムは、溶融押出法や溶液キャスティング法等の任意の方法で製造することができる。中でも、所定以上の厚みの圧電フィルムを得やすい観点等から、フッ素系樹脂を含むフィルムは、溶融押出法で製造されることが好ましい。溶融押出法では、フッ素系樹脂及び任意の添加剤を、押出機のシリンダー内で加熱溶融させた後、ダイから押し出して、フィルムを得ることができる。
【0045】
得られたフィルムは、α型結晶(主鎖は螺旋型構造)とβ型結晶(主鎖は平面ジグザグ構造)等が混在した構造を有している。β型結晶は大きな分極構造をしている。フィルムを延伸することにより、α型結晶をβ型結晶とすることができ、延伸工程はフッ素系樹脂をβ型結晶とするために必要に応じて延伸されることが好ましい。延伸方向は、TD方向であってもよいし、MD方向であってもよく、MD方向であることがより好ましい。
【0046】
延伸方法は、特に限定されず、テンター法、ドラム法等の公知の延伸方法で行うことができる。
【0047】
延伸倍率は、例えば3.0倍以上6.0倍以下でありうる。延伸倍率が3.0倍以上であると、フィルムの厚みや分極性をより適度な範囲に調整しやすい。延伸倍率が3.0倍以上であると、β型結晶の転位がより十分となり、より高い圧電性が発現しやすいだけでなく、透明性もより高めうる。延伸倍率が6.0倍以下であると、延伸による破断を一層抑制することができる。
【0048】
得られた延伸フィルムを分極処理する。分極処理は、例えばグランド電極と針状電極の間に直流電圧を印加することによって行うことができる。電圧は、延伸フィルムの厚みに応じて調整すればよいが、例えば1kV以上50kV以下とすることができる。
【0049】
このように、本実施形態においては、延伸フィルムを分極処理することによって圧電フィルムを得ることができる。
【0050】
(2)保護フィルムを貼合する工程
保護フィルムは、市販品であってもよいし、製造してもよい。保護フィルムは、圧電フィルムの表面の平滑性を高める観点から、引張弾性率が高いフィルムであることが好ましい。具体的には、上述した引張弾性率や種類の保護フィルムを使用できる。
【0051】
保護フィルムを貼合する方法は特に限定されず、例えば、ラミネーターなどにより、粘着層を介して保護フィルムと圧電フィルムを貼り合わせる方法が挙げられる。保護フィルムが自己粘着性を有する場合は、粘着層を介さずに保護フィルムと圧電フィルムを貼り合わせてもよい。粘着層を介する場合、粘着層を形成した保護フィルムを圧電フィルムに貼り合わせてもよいし、圧電フィルムに粘着層を形成した後に、保護フィルムを貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0052】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をさらに説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。
本発明の積層圧電フィルムにおける特性は、以下の方法により測定し、結果を表1に示した。
【0053】
(引張弾性率)
圧電フィルム、保護フィルム及び積層圧電フィルムのそれぞれの引張弾性率を、JIS K 7127に準拠して測定した。長辺が縦方向(MD)に対して並行となるように10mm×100mmにカットした試験片を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離50mmの条件で測定した。このときの引張弾性率はJIS K 7161-1の10.3に基づいて算出した。
なお、横方向(TD)などの他の方向に対して長辺が並行となるようにカットした試験片を用い、同様にして引張弾性率を算出したが、いずれの実施例及び比較例においても縦方向の引張弾性率が最小であった。
【0054】
(カール高さ)
積層圧電フィルムを10cm角にカットした試験片を用い、50℃に設定したオーブンに1分間投入して熱処理を行った。その後、熱処理した試験片の垂直方向での4隅の浮き上がり量を測定し、最大の高さをカール高さ(mm)とした。
【0055】
(表面凹凸度)
積層圧電フィルムの表面凹凸度(μm)を、3D形状測定機VR-5000(株式会社キーエンス製)を用いて測定した。
20cm×30cmのステンレス板(厚み1mm)に、同程度のサイズにカットした試験片を、圧電フィルムの面が表になるように乗せ、テンションをかけないように、試験片の長辺の中央を磁石で押さえてから4隅をテープで固定した。
前処理として、指定領域(75mm×140mm)を使用して基準面を設定し、ノイズ除去を中に設定した。
測定は、低倍率カメラで指定領域を撮影して行った。モードは複数線粗さモード、本数は11本、間隔は100本飛ばし、領域は水平線及び垂直線、カットオフは無しの条件で、測定を実施し、計22本の算術平均高さRaを求めた。
毎回試験片をセットし直して計3回測定し、3回の算術平均値を表面凹凸度として求めた。
【0056】
〔実施例1~2及び比較例1~4〕
インヘレント粘度が1.1dl/gであるポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製)から成形された樹脂フィルム(厚さ120μm)を延伸倍率が4.2倍になるように一軸延伸した。延伸後、フィルムをグランド電極と針状電極の間に直流電圧を0kVから12.0kVへと増加させながら印加することで分極処理を行い、圧電フィルムを得た。分極処理後のフィルムをさらに130℃で1分間熱処理することで、厚みが40μmの圧電フィルムを得た。圧電フィルムの引張弾性率は1812MPaであり、厚みと引張弾性率の積は72.5N/mmであった。
次に、表1に記載の保護フィルムに粘着層が形成された積層フィルムと、圧電フィルムとを、ラミネーターを用いて貼り合わせた後、ロール状に巻き取り積層圧電フィルムを得た。ラミネーターは、ライン速度5m/min、ラミネートロール接圧およそ0.3Nに設定した。
【0057】
【0058】
表1に示される通り、実施例において、積層圧電フィルムの厚みと引張弾性率の積が高く、カール高さが低く、表面凹凸度が低かった。よって、本発明により、高剛性で、熱安定性及び平滑性に優れた積層圧電フィルムを得られることが確認された。
【符号の説明】
【0059】
1、2:積層圧電フィルム、11:圧電フィルム、21:粘着層、31:保護フィルム