(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池用正極材料、その製造方法及び応用
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20250821BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250821BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250821BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20250821BHJP
C01G 53/50 20250101ALI20250821BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M10/054
C01G53/50
(21)【出願番号】P 2024090247
(22)【出願日】2024-06-03
【審査請求日】2024-06-03
(31)【優先権主張番号】202311388602.4
(32)【優先日】2023-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523124740
【氏名又は名称】湖北融通高科先進材料集団股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100230086
【氏名又は名称】譚 粟元
(72)【発明者】
【氏名】孫 傑
(72)【発明者】
【氏名】呉 大貝
(72)【発明者】
【氏名】王 正傑
(72)【発明者】
【氏名】董 要港
(72)【発明者】
【氏名】馬 夢玉
(72)【発明者】
【氏名】徐 東
(72)【発明者】
【氏名】梅 京
(72)【発明者】
【氏名】何 健豪
(72)【発明者】
【氏名】何 中林
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-103477(JP,A)
【文献】国際公開第2018/181461(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104953172(CN,A)
【文献】国際公開第2017/098855(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第116895751(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 10/054
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドープ元素Aを含み、一般化学式がNa
mNi
xFe
yMn
z
A
p
O
2であり、ここで、0.1≦x≦0.25、0.5≦y≦0.8、0.1≦z≦0.25、0.8≦m≦1.1、0.95≦x/z≦1.05、x+y+z=1であり、
0.001≦p≦0.05であり、m、x、y、z
、pがそれぞれ対応する元素が占めるモル百分率であり、一般化学式における各成分が電荷保存及び化学量保存を満たし、
前記ドープ元素Aは、リチウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、アルミニウム、ホウ素、コバルト、バナジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、スズ、モリブデン、ルテニウム、ニオブ、アンチモン、タングステンの元素のうちの1種以上である、ことを特徴とするナトリウムイオン電池用正極材料。
【請求項2】
請求項1に記載のナトリウムイオン電池用正極材料を製造する製造方法であって、
共沈法で所望の化学量論のニッケル源、鉄源、マンガン源を含む前駆体を製造するステップS1と、
前記ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体とナトリウム源を一定の割合で混合した後にドープ元素を加えて一次焼結を行い、ドープされたナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップS2と、
前記ドープされたナトリウムイオン電池用正極材料と被覆物を二次焼結し、最終的なナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップS3とを含む、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項3】
前記ステップS1では、前記鉄源は、硫酸第一鉄、含水硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄のうちの1種以上であり、前記マンガン源は、硫酸第一マンガン、硝酸第一マンガン、塩化第一マンガン及び酢酸第一マンガンのうちの1種以上であり、前記ニッケル源は、塩化ニッケル、酸化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル及びスルファミン酸ニッケルのうちの1種以上である、
ことを特徴とする請求項
2に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項4】
前記ステップS1は、
前記ニッケル源、前記鉄源、前記マンガン源を化学量論比で水溶液に調製するステップS11と、
一定の濃度のアンモニア水溶液及び一定の濃度の水酸化ナトリウム溶液を調製するステップS12と、
一定の回転速度及び温度の条件下で、前記水溶液、前記アンモニア水溶液、前記水酸化ナトリウム溶液を一定の流量で反応釜に入れ、反応系のpH値を10~10.5に制御し、共沈反応を行い、反応生成物を得るステップS13と、
前記反応生成物を洗浄し、吸引濾過し、乾燥させて、前記ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体を得るステップS14とを含む、
ことを特徴とする請求項
2に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル源、前記鉄源、前記マンガン源の添加モル比は、n(Ni):n(Fe):n(Mn)=x:y:zを満たし、前記アンモニア水溶液の濃度は25%であり、前記水酸化ナトリウム溶液の濃度は15%であり、前記回転速度は300~500rpmであり、前記温度は40~80℃であり、前記水溶液の流量は1.0L/hであり、前記アンモニア水溶液の流量は0.8L/hであり、前記水酸化ナトリウム溶液の流量は2.0L/hである、
ことを特徴とする請求項
4に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項6】
前記ステップS2では、モル比で、前記ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体:前記ナトリウム源=1:(0.8~1.1)であり、前記ナトリウム源は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム及びリン酸水素ナトリウムなどの1種以上である、
ことを特徴とする請求項2に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項7】
前記ステップS2では、前記ドープ元素は、リチウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、アルミニウム、ホウ素、コバルト、バナジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、スズ、モリブデン
、ルテニウム、ニオブ、アンチモン、タングステン元素のうちの1種以上であってもよく、前記一次焼結
のプロセスは、3℃/minの昇温速度で480℃まで加熱して4h保温することである、
ことを特徴とする請求項
2に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項8】
前記ステップS3では、前記被覆物は、酸化カルシウム、オキシ水酸化コバルト、酸化アルミニウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ランタン、メタリン酸アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、チタン酸ナトリウム、酸化コバルト、フッ化アルミニウム、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化銅及び酸化タングステンのうちの1種以上であり、前記二次焼結
のプロセスは、4℃/minの昇温速度で850℃まで加熱し、10h保温することである、
ことを特徴とする請求項
2に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法。
【請求項9】
請求項
1に記載のナトリウムイオン電池用正極材料を含むことを特徴とするナトリウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムイオン電池の技術分野に関し、特に、ナトリウムイオン電池用正極材料、その製造方法及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
新エネルギー産業の高速発展に伴い、リチウムイオン電池を製造するためのリチウム資源は爆発的に増加しているニーズをはるかに満たすことができず、ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池と似たエネルギー貯蔵メカニズムと貯蔵量が豊富であるという特徴を有するため、大規模エネルギー貯蔵システムにリチウムイオン電池に代わる有力競争者となる。
【0003】
層状ナトリウムイオン電池は、最も潜在力を有するナトリウムイオン電池用正極材料と見なされ、例えば、CN113258060Bには、ナトリウムイオン電池高ニッケル層状酸化物材料、その製造方法及び応用が開示されており、ナトリウムイオン電池高ニッケル層状酸化物材料は、一般化学式がNaxNiaFebMncMdO2±δであり、ここで、Ni、Fe、Mnは遷移金属元素であり、Mは遷移金属サイトをドープして置換する元素であり、酸化物材料の構造において、遷移金属サイトのイオンは、隣接する6つの酸素と八面体構造を形成し、八面体配位のNaO6層と交互に配列され、空間群がR-3mであるO3型のナトリウムイオン電池高ニッケル層状酸化物材料を構成し、Mは、具体的には、Li+、Mg2+、Ca2+、Cu2+、Zn2+、Al3+、B3+、Co3+、V3+、Y3+、Ti4+、Zr4+、Sn4+、Mo4+、Si4+、Ru4+、Nb5+、Sb5+、Mo5+、Mo6+、W6+のうちの1種以上を含み、x、a、b、c、d及び2+δは、それぞれ対応する元素が占めるモル百分率であり、一般化学式における各成分は電荷保存及び化学量保存を満たし、かつ0.67≦x≦1、0.5≦a<1、0.01≦b≦0.35、0.01≦c≦0.35、0≦d≦0.3、0≦δ≦0.1である。
【0004】
しかしながら、これらのナトリウムイオン電池用正極材料のニッケル含有層状遷移金属酸化物に、コストが高く、表面の残留アルカリが多く、サイクル安定性が低いなどの問題があり、その大規模な応用が制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の内容に鑑み、本発明は、少なくとも従来技術に存在する技術的課題の1つを解決することを目的とする。本発明は、ナトリウムイオン電池用正極材料、その製造方法及び応用を提供する。本発明では、遷移金属元素の鉄、マンガンの組成と粒子の形態を制御することにより、低ニッケルを維持しながら正極材料の高容量を維持し、表面の遊離ナトリウムイオンを減少させ、高容量、低残留アルカリ及び高安定性を有する低ニッケルナトリウムイオン電池用正極材料を得る。また、当該製造方法は、プロセスが簡単であり、大規模な工業生産における応用に適する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、第1態様によれば、本発明の実施例は、一般化学式がNamNixFeyMnzO2であり、ここで、0.1≦x≦0.25、0.5≦y≦0.8、0.1≦z≦0.25、0.8≦m≦1.1、0.95≦x/z≦1.05、x+y+z=1であり、m、x、y、zがそれぞれ対応する元素が占めるモル百分率であり、一般化学式における各成分が電荷保存及び化学量保存を満たすナトリウムイオン電池用正極材料を提供する。
【0007】
好ましくは、前記ナトリウムイオン電池用正極材料は、ドープ元素Aを含み、一般化学式がNamNixFeyMnzApO2であり、ここで、0.001≦p≦0.05、0.1≦x≦0.25、0.5≦y≦0.8、0.1≦z≦0.25、0.8≦m≦1.1、0.95≦x/z≦1.05、x+y+z=1であり、m、x、y、z、pがそれぞれ対応する元素のモル百分率であり、一般化学式における各成分が電荷保存及び化学量保存を満たし、前記ドープ元素Aは、リチウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、アルミニウム、ホウ素、コバルト、バナジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、スズ、モリブデン、ケイ素、ルテニウム、ニオブ、アンチモン、タングステンの元素のうちの1種以上である。
【0008】
第2態様によれば、本発明の実施例は、上記第1態様に係るナトリウムイオン電池用正極材料を製造する製造方法であって、共沈法で所望の化学量論のニッケル源、鉄源、マンガン源を含む前駆体を製造するステップと、前記ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体とナトリウム源を一定の割合で混合した後にドープ元素を加えて一次焼結を行い、ドープされたナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップと、前記ドープされたナトリウムイオン電池用正極材料と被覆物を二次焼結し、最終的なナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップとを含む、製造方法を提供する。
【0009】
好ましくは、前記鉄源は、硫酸第一鉄、含水硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄のうちの1種以上であり、前記マンガン源は、硫酸第一マンガン、硝酸第一マンガン、塩化第一マンガン及び酢酸第一マンガンのうちの1種以上であり、前記ニッケル源は、塩化ニッケル、酸化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル及びスルファミン酸ニッケルのうちの1種以上である。
【0010】
好ましくは、共沈法で所望の化学量論のニッケル源、鉄源、マンガン源を含む前駆体を製造するステップは、前記ニッケル源、前記鉄源、前記マンガン源を化学量論比で水溶液に調製するステップと、一定の濃度のアンモニア水溶液及び一定の濃度の水酸化ナトリウム溶液を調製するステップと、前記水溶液、前記アンモニア水溶液、前記水酸化ナトリウム溶液を一定の流量で反応釜に入れ、反応系のpH値を10~10.5に制御し、共沈反応を行い、反応生成物を得るステップと、前記反応生成物を洗浄し、吸引濾過し、乾燥させて、前記ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体を得るステップとを含む。
【0011】
好ましくは、前記ニッケル源、前記鉄源、前記マンガン源の添加モル比は、n(Ni):n(Fe):n(Mn)=x:y:zを満たし、前記アンモニア水溶液の濃度は25%であり、前記水酸化ナトリウム溶液の濃度は15%であり、前記回転速度は300~500rpmであり、前記温度は40~80℃であり、前記水溶液の流量は1.0L/hであり、前記アンモニア水溶液の流量は0.8L/hであり、前記水酸化ナトリウム溶液の流量は2.0L/hである。
【0012】
好ましくは、モル比で、前記ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体:前記ナトリウム源=1:(0.8~1.1)であり、前記ナトリウム源は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム及びリン酸水素ナトリウムなどの1種以上である。
【0013】
好ましくは、前記ドープ元素は、リチウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、アルミニウム、ホウ素、コバルト、バナジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、スズ、モリブデン、ケイ素、ルテニウム、ニオブ、アンチモン、タングステン元素のうちの1種以上であってもよく、前記一次焼結プロセスは、3℃/minの昇温速度で480℃まで加熱して4h保温することである。
【0014】
好ましくは、前記被覆物は、酸化カルシウム、オキシ水酸化コバルト、酸化アルミニウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ランタン、メタリン酸アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、チタン酸ナトリウム、酸化コバルト、フッ化アルミニウム、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化銅及び酸化タングステンのうちの1種以上であり、前記二次焼結プロセスは、4℃/minの昇温速度で850℃まで加熱し、10h保温することである。
【0015】
第3態様によれば、本発明の実施例は、上記第1態様に係るナトリウムイオン電池用正極材料を含むナトリウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料、その製造方法及び応用では、低ニッケル層状酸化物を用い、遷移金属元素の鉄、マンガンの組成と粒子の形態を制御することにより、低ニッケルを維持しながら正極材料の高容量を維持し、表面の遊離ナトリウムイオンを減少させ、高容量、低残留アルカリ及び高安定性を有するナトリウムイオン電池用正極材料を得る。また、当該製造方法は、プロセスが簡単であり、大規模な工業生産における応用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法のステップS1のフローチャートである。
【
図3】本発明の
参考例1で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料のSEM図である。
【
図4】本発明の
参考例1で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料のXRD図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を詳細に説明し、上記実施例の例は、図面に示され、全体を通して、同一又は類似の符号は、同一又は類似の部品、或いは同一又は類似の機能を有する部品を示す。以下、図面を参照して説明される実施例は、例示的なものであり、本発明を解釈するものであり、本発明を限定するものと理解すべきではない。
【0019】
以下の開示は、本発明の異なる構造を実現するために、多くの異なる実施例又は例を提供する。本発明の開示を簡単にするために、以下、特定の例の部材及び配置を説明する。当然のことながら、これらは、例示的なものに過ぎず、本発明を限定するためのものではない。また、本発明は、異なる例において参照数字及び/又は参照アルファベットを繰り返して用いることができる。このような繰り返しは、簡略化及び明確化を目的とし、それ自体は、検討された様々な実施例及び/又は配置の間の関係を示さない。また、本発明は、様々な特定のプロセス及び材料の例を提供しているが、当業者は、他のプロセスの適用性及び/又は他の材料の使用を認識することができる。
【0020】
本発明は、ナトリウムイオン電池用正極材料、その製造方法及び応用を提供することを目的とし本発明では、低ニッケル層状酸化物を用い、遷移金属元素の鉄、マンガンの組成と粒子の形態を制御することにより、低ニッケルを維持しながら正極材料の高容量を維持し、表面の遊離ナトリウムイオンを減少させ、高容量、低残留アルカリ及び高安定性を有するナトリウムイオン電池用正極材料を得る。また、当該製造方法は、プロセスが簡単であり、大規模な工業生産における応用に適する。
【0021】
本発明の第1態様の実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料は、一般化学式がNamNixFeyMnzO2であり、ここで、0.1≦x≦0.25、0.5≦y≦0.8、0.1≦z≦0.25、0.8≦m≦1.1、0.95≦x/z≦1.05、x+y+z=1であり、m、x、y、zがそれぞれ対応する元素が占めるモル百分率であり、一般化学式における各成分が電荷保存及び化学量保存を満たす。本発明に記載のナトリウムイオン電池用正極材料の構造において、遷移金属サイトのイオンは、隣接する6つの酸素イオンと八面体構造を形成し、空間群がR-3mであるO3型の低ニッケル層状酸化物材料ナトリウムイオン電池用正極材料を構成する。
【0022】
更に、前記ナトリウムイオン電池用正極材料は、ドープ元素Aを含み、一般化学式がNamNixFeyMnzApO2であり、ここで、0.001≦p≦0.05、0.1≦x≦0.25、0.5≦y≦0.8、0.1≦z≦0.25、0.8≦m≦1.1、0.95≦x/z≦1.05、x+y+z=1であり、m、x、y、z、pがそれぞれ対応する元素のモル百分率であり、一般化学式における各成分が電荷保存及び化学量保存を満たす。元素Aは、リチウム(Li+)、マグネシウム(Mg2+)、カルシウム(Ca2+)、銅(Cu2+)、亜鉛(Zn2+)、アルミニウム(Al3+)、ホウ素(B3+)、コバルト(Co3+)、バナジウム(V3+)、イットリウム(Y3+)、チタン(Ti4+)、ジルコニウム(Zr4+)、スズ(Sn4+)、モリブデン(Mo4+、Mo5+、Mo6+)、ケイ素(Si4+)、ルテニウム(Ru4+)、ニオブ(Nb5+)、アンチモン(Sb5)、タングステン(W6+)のうちの1種以上であってもよい。
【0023】
本発明の第2態様の実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法は、
図1に示すように、以下のステップS1~S3を含む。
【0024】
ステップS1では、共沈法で所望の化学量論のニッケル源、鉄源、マンガン源を含む前駆体を製造する。
前記鉄源は、硫酸第一鉄、含水硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄のうちの1種以上であってもよく、前記マンガン源は、硫酸第一マンガン、硝酸第一マンガン、塩化第一マンガン及び酢酸第一マンガンのうちの1種以上であってもよく、前記ニッケル源は、塩化ニッケル、酸化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル及びスルファミン酸ニッケルのうちの1種以上であってもよい。
【0025】
具体的には、本発明の第1実施例では、
図2に示すように、前記ステップS1は、以下のステップS11~S14を含む。
【0026】
ステップS11では、ニッケル源、鉄源、マンガン源を化学量論比で水溶液に調製する。
ニッケル源、鉄源、マンガン源の添加モル比は、n(Ni):n(Fe):n(Mn)=x:y:zを満たす。
【0027】
ステップS12では、一定の濃度のアンモニア水溶液及び一定の濃度の水酸化ナトリウム溶液を調製する。
アンモニア水溶液濃度は25%であり、水酸化ナトリウム溶液濃度は15%である。
【0028】
ステップS13では、一定の回転速度及び温度の条件下で、水溶液、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム溶液を一定の流量で反応釜に入れ、反応系のpH値を10~10.5に制御し、共沈反応を行い、反応生成物を得る。
回転速度は300~500rpmであってもよく、温度は40~80℃であってもよい。水溶液の流量は1.0L/hであり、アンモニア水溶液の流量は0.8L/hであり、水酸化ナトリウム溶液の流量は2.0L/hである。
【0029】
ステップS14では、上記反応生成物を洗浄し、吸引濾過し、乾燥させて、ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体を得る。
【0030】
ステップS2では、ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体とナトリウム源を一定の割合で混合した後にドープ元素を加えて一次焼結を行い、ドープされたナトリウムイオン電池用正極材料を得る。
モル比で、ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体:ナトリウム源=1:(0.8~1.1)であり、前記ナトリウム源は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム及びリン酸水素ナトリウムなどの1種以上であってもよい。前記ドープ元素は、リチウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、アルミニウム、ホウ素、コバルト、バナジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、スズ、モリブデン、ケイ素、ルテニウム、ニオブ、アンチモン、タングステン元素のうちの1種以上であってもよい。前記一次焼結プロセスは、3℃/minの昇温速度で480℃まで加熱して4h保温することである。
【0031】
ステップS3では、前記ドープされたナトリウムイオン電池用正極材料と被覆物を二次焼結し、最終的なナトリウムイオン電池用正極材料を得る。
【0032】
前記被覆物は、酸化カルシウム、オキシ水酸化コバルト、酸化アルミニウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ランタン、メタリン酸アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、チタン酸ナトリウム、酸化コバルト、フッ化アルミニウム、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化ストロンチウム、酸化銅及び酸化タングステンのうちの1種以上であってもよく、前記二次焼結プロセスは、4℃/minの昇温速度で850℃まで加熱し、10h保温することである。
【0033】
本発明の実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料は、低ニッケル層状酸化物材料ナトリウムイオン電池用正極材料であり、低ニッケル層状酸化物における鉄元素は、電気化学的活性を有し、低ニッケル層状酸化物材料の容量を向上させることができ、そして表面の2価のニッケルの酸化により、バルク相ナトリウムが析出するため、ナトリウムイオン電池用正極材料の表面から遊離したナトリウムイオンの含有量がより低くなり、表面がより安定する。また、当該製造方法は、プロセスが簡単であり、大規模な工業生産における応用に適する。
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。同様に、実施例は、本発明を更に説明するためのものに過ぎず、本発明の保護範囲を制限するものであると理解すべきではなく、当業者であれば本発明の上記内容に基づいて行われたいくつかの本質的でない改良及び調整も本発明の保護範囲に属することに理解されたい。下記の例示的なプロセスパラメータなども適切な範囲における1つの例に過ぎず、即ち、当業者は本明細書の説明によって適切な範囲内で選択することができ、以下に例示する具体的な数値に限定されるものではない。
【0035】
(参考例1)
本参考例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法について、本参考例で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi0.25Fe0.5Mn0.25O2(この場合x=0.25、y=0.5、z=0.25)であり、
化学式NaNi0.25Fe0.5Mn0.25O2によれば、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸第一鉄七水和物を、ニッケル、鉄、マンガンのモル比が0.25:0.5:1/3の割合で水溶液に調製するステップと、350rpmの回転速度、50℃の条件下で濃度25%のアンモニア水溶液、及び濃度15%の水酸化ナトリウム溶液を調製するステップと、水溶液、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム溶液をそれぞれ1.0L/h、0.8L/h、2.0L/hの流量で並流させて反応釜に入れ、反応系のpH値を10~10.5に制御し、共沈反応を行い、その後に洗浄し、吸引濾過し、乾燥させ、ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体を得るステップと、ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体と炭酸ナトリウムを1:1.1のモル比で均一に混合した後、3℃/minの昇温速度で480℃まで加熱して4h保温し、更に4℃/minの昇温速度で850℃まで加熱し、10h保温し、NaNi0.25Fe0.5Mn0.25O2ナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップとを含む。
【0036】
参考例1に従って製造されたナトリウムイオン電池用正極材料のSEM図は、
図3に示す通りであり、
参考例1に従って製造されたナトリウムイオン電池用正極材料のXRDパターンは、
図4に示す通りである。
【0037】
(参考例2)
本参考例2におけるナトリウムイオン電池用正極材料の製造プロセスについて、参考例1を参照でき、x=0.23、y=0.54、z=0.23であり、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi0.23Fe0.54Mn0.23O2であるという点のみで相違する。
【0038】
(参考例3)
本参考例3におけるナトリウムイオン電池用正極材料の製造プロセスについて、参考例1を参照でき、x=0.2、y=0.6、z=0.2であり、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi0.2Fe0.6Mn0.2O2であるという点のみで相違する。
【0039】
(参考例4)
本参考例4におけるナトリウムイオン電池用正極材料の製造プロセスについて、参考例1を参照でき、x=0.18、y=0.64、z=0.18であり、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi0.18Fe0.64Mn0.18O2であるという点のみで相違する。
【0040】
(参考例5)
本参考例5におけるナトリウムイオン電池用正極材料の製造プロセスについて、参考例1を参照でき、x=0.15、y=0.7、z=0.15であり、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi0.15Fe0.7Mn0.15O2であるという点のみで相違する。
【0041】
(参考例6)
本参考例6におけるナトリウムイオン電池用正極材料の製造プロセスについて、参考例1を参照でき、x=0.1、y=0.8、z=0.1であり、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi0.1Fe0.8Mn0.1O2であるという点のみで相違する。
【0042】
(実施例7)
本実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法について、本実施例で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi0.2Fe0.6Mn0.2Ca0.003O2(この場合x=0.2、y=0.6、z=0.2、p=0.003)であり、
化学式NaNi0.2Fe0.6Mn0.2Ca0.003O2によれば、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸第一鉄七水和物を、ニッケル、鉄、マンガンのモル比が0.25:0.5:1/3の割合で水溶液に調製するステップと、350rpmの回転速度、50℃の条件下で濃度25%のアンモニア水溶液、及び濃度15%の水酸化ナトリウム溶液を調製するステップと、水溶液、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム溶液をそれぞれ1.0L/h、0.8L/h、2.0L/hの流量で並流させて反応釜に入れ、反応系のpH値を10~10.5に制御し、共沈反応を行い、その後に洗浄し、吸引濾過し、乾燥させ、ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体を得るステップと、ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体と炭酸ナトリウムを1:1.1のモル比で均一に混合した後、カルシウムがドープされた化合物を加え、3℃/minの昇温速度で480℃まで加熱して4h保温し、更にオキシ水酸化コバルト被覆物を加えて4℃/minの昇温速度で850℃まで加熱し、10h保温し、NaNi0.2Fe0.6Mn0.2Ca0.003O2ナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップとを含む。
【0043】
(実施例8)
本実施例8におけるナトリウムイオン電池用正極材料の製造プロセスについて、実施例7を参照でき、p=0.006であり、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi0.2Fe0.6Mn0.2Ca0.006O2であるという点のみで相違する。
【0044】
(実施例9)
本実施例9におけるナトリウムイオン電池用正極材料の製造プロセスについて、実施例7を参照でき、前記ドープ元素が亜鉛であり、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi0.2Fe0.6Mn0.2Zn0.003O2であるという点のみで相違する。
【0045】
(実施例10)
本実施例10におけるナトリウムイオン電池用正極材料の製造プロセスについて、実施例7を参照でき、前記ドープ元素が銅であり、前記ナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi0.2Fe0.6Mn0.2Cu0.003O2であるという点のみで相違する。
【0046】
(比較例1)
本実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法について、本実施例で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi1/3Fe1/3Mn1/3O2(この場合x=1/3、y=1/3、z=1/3)であり、
化学式NaNi1/3Fe1/3Mn1/3O2によれば、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化マンガンをニッケル、鉄、マンガンのモル比が1/3:1/3:1/3の割合で混合し、m=1の時に計量した炭酸ナトリウムを加え、ドープ化合物を加え、3℃/minの昇温速度で480℃まで加熱して5h保温し、更に4℃/minの昇温速度で870℃に加熱し、12h保温し、NaNi1/3Fe1/3Mn1/3O2ナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップを含む。
【0047】
(比較例2)
本実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法について、本実施例で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料の化学式がNaNi1/3Fe1/3Mn1/3O2(この場合x=1/3、y=1/3、z=1/3)であり、
化学式NaNi1/3Fe1/3Mn1/3O2によれば、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸第一鉄七水和物を、ニッケル、鉄、マンガンのモル比が1/3:1/3:1/3の割合で水溶液に調製するステップと、350rpmの回転速度、50℃の条件下で濃度25%のアンモニア水溶液、及び濃度15%の水酸化ナトリウム溶液を調製するステップと、水溶液、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム溶液をそれぞれ1.0L/h、0.8L/h、2.0L/hの流量で並流させて反応釜に入れ、反応系のpH値を10~10.5に制御し、共沈反応を行い、その後に洗浄し、吸引濾過し、乾燥させ、ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体を得るステップと、ニッケル源、鉄源、マンガン源の前駆体と炭酸ナトリウムを1:1.1のモル比で均一に混合した後、3℃/minの昇温速度で480℃まで加熱して4h保温し、更に4℃/minの昇温速度で850℃まで加熱し、10h保温し、NaNi1/3Fe1/3Mn1/3O2ナトリウムイオン電池用正極材料を得るステップとを含む。
【0048】
上記参考例1~6、参考例7~10で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料と比較例1~2で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料に対して遊離ナトリウムイオンの含有量を試験するとともに、本発明の実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料の完成品の質量を検証するために、上記参考例1~6、実施例7~10、比較例1~2で製造されたナトリウムイオン電池用正極材料と導電剤であるカーボンブラックと結着剤であるポリフッ化ビニリデンとを90:5:5の質量比でN-メチルピロリドンに分散させ、ボールミルで均一に分散させた後、アルミニウム箔に塗布し、真空乾燥させて正極板を製造した。溶媒体積比がEC:DMC:EMC=1:1:1である電解液が1mol/LのLiPF6であり、セパレータがCelgardポリプロピレンフィルムであり、金属リチウムシートが負極であり、共にボタン型半電池に組み立てた。試験電圧の範囲は2.5V~4.5Vであり、定電流定電圧充電方式で4.5Vまで充電し、定電流放電方式で2.5Vまで放電し、充放電電流は0.1Cで2サイクルとした。具体的な試験項目及び試験結果は、以下の表1に示すとおりである。
【0049】
表1
参考例1~
6、実施例7~10及び比較例1~2の試験項目及び試験結果
【表1】
【0050】
以上の実施例、参考例及び対比例及びそれらを試験して得られた試験結果を対比すると、本発明の実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法がナトリウムイオン電池用正極材料の放電比容量を効果的に向上させ、ナトリウムイオン電池用正極材料の表面の遊離ナトリウムイオンの含有量を低下させ、材料の安定性を向上させることができることが分かった。
【0051】
以上より、本発明の実施例に係るナトリウムイオン電池用正極材料の製造方法では、低ニッケル層状酸化物を用い、遷移金属元素の鉄、マンガンの組成と粒子の形態を制御することにより、低ニッケルを維持しながら正極材料の高容量を維持し、表面の遊離ナトリウムイオンを減少させ、高容量、低残留アルカリ及び高安定性を有するナトリウムイオン電池用正極材料を得る。また、当該製造方法は、プロセスが簡単であり、大規模な工業生産における応用に適する。
【0052】
本明細書の説明において、用語「一実施例」、「いくつかの実施例」、「例」、「具体的な例」、「いくつかの例」などを参照する説明は、当該実施例又は例を組み合わせて説明された具体的な特徴、構造、材料又は特性が本発明の少なくとも1つの実施例又は例に含まれることを意味する。本明細書において、上記用語の例示的な表現は、必ずしも同じ実施例又は例に限定されるわけではない。そして、説明された具体的な特徴、構造、材料又は特性は、任意の1つ以上の実施例又は例において適切に組み合わせることができる。また、互いに矛盾しない場合、当業者であれば、本明細書で説明された異なる実施例又は例、及び異なる実施例又は例の特徴を結合するか又は組み合わせることができる。
【0053】
本発明の実施例を示し説明したが、当業者であれば、本発明の原理及び目的を逸脱しない限り、これらの実施例に対して様々な変更、補正、置換及び変形を行うことができ、本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等物によって限定されていることを理解することができる。