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  • -酢酸の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】酢酸の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/44 20060101AFI20250821BHJP
   C07C 53/08 20060101ALI20250821BHJP
   B01D 61/58 20060101ALN20250821BHJP
   C02F 1/44 20230101ALN20250821BHJP
   C07C 51/42 20060101ALN20250821BHJP
   C08B 3/06 20060101ALN20250821BHJP
【FI】
C07C51/44
C07C53/08
B01D61/58
C02F1/44 D
C07C51/42
C08B3/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020150254
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022044884
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2023-07-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】福井 直之
(72)【発明者】
【氏名】井本 知志
(72)【発明者】
【氏名】早水 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和史
(72)【発明者】
【氏名】松井 重典
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-520080(JP,A)
【文献】特表2016-530989(JP,A)
【文献】特開平8-40972(JP,A)
【文献】特開平8-333421(JP,A)
【文献】特開2014-8479(JP,A)
【文献】特表2016-534167(JP,A)
【文献】特開2017-159220(JP,A)
【文献】特表2009-523857(JP,A)
【文献】第5版 実験化学講座5,丸善株式会社,2005年02月28日,p. 30-38,ISBN 4-621-07304-4,特に図1.27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/44
C07C 51/42
C07C 53/08
C08B 3/06
B01D 61/58
C02F 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸セルロースが溶解した酢酸水溶液から酢酸を回収する方法であって、
酢酸セルロースが溶解した酢酸水溶液を、膜分離処理に付し、膜透過液として、酢酸水溶液に溶解する酢酸セルロース濃度が1~100ppmである酢酸水溶液を得る工程1、
前記工程1の膜分離処理を経て膜透過液として得られた、溶解する酢酸セルロース濃度が1~100ppmである酢酸水溶液を有機溶媒と接触させて主に酢酸と有機溶媒を含む抽出液相と、主に水を含む抽残液相とに分離する工程2、
前記工程1の膜分離処理を経て得られた膜濃縮液を有機溶媒と接触させる抽出工程に付し、得られた、酢酸、有機溶媒、及び溶解酢酸セルロースを含む抽出液相を、蒸発器を用いてガス化する工程2’、
前記工程2を経て得られた溶解する酢酸セルロース、主に酢酸と有機溶媒を含む抽出液相を液相で蒸留塔を用いた蒸留に付して、及び前記工程2’を経て得られたガスを蒸留塔を用いた蒸留に付して、酢酸を回収する工程3を含む、高純度酢酸の回収方法。
【請求項2】
工程1が、酢酸セルロースが溶解した酢酸水溶液を、孔径が0.01~10μmの精密濾過膜を用いた膜分離処理に付し、得られた膜透過液を更に逆浸透膜を用いた膜分離処理に付して、膜透過液として、酢酸水溶液に溶解する酢酸セルロース濃度が1~100ppmである酢酸水溶液を得る工程である、請求項1に記載の高純度酢酸の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酢酸の回収方法、及びこれを利用した酢酸セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸セルロースは、耐薬品性、耐熱性、難燃性に優れるため、液晶光学フィルム、たばこ用フィルター、アセテート繊維、写真フィルム、繊維素系プラスチック、濾過膜等の種々の用途に用いられている。そして、酢酸セルロースの製造方法としては、酢酸水溶液中において、セルロースにアセチル化剤を反応させる方法が知られている。また、反応混合物から生成物としての酢酸セルロースを得た後は、その残液から酢酸が回収され再利用されている。
【0003】
前記残液中には、酢酸以外にも、水や酢酸セルロースが含まれているが水と酢酸は沸点が近いことから、酢酸を蒸留で分離することは難しい。このため、酢酸との沸点の差が大きい有機溶媒を用いて主に酢酸と有機溶媒とを含む抽出液相と、主に水を含む抽残液相とに分離し、その後、抽出液相を蒸留に付して有機溶媒と酢酸とを分離することにより酢酸を回収していた。しかし、抽出液相への酢酸の抽出効率が低く、回収できずに廃棄される酢酸が多いのが問題であった。
【0004】
また、前記抽出液相をそのまま蒸留塔に導入すると、抽出液相に溶解している酢酸セルロースが塔底部に析出し、送液不良や伝熱不良を引き起こし、蒸留塔の安定運転を維持することが困難となる。そのため、抽出液相を蒸留塔に仕込む前に蒸発器等を用いてガス化することにより酢酸セルロースを不揮発分として除去することが行われている。
【0005】
しかし、抽出液相をガス化させるには膨大なエネルギーが必要である。さらに、抽出液相をガス化した状態で蒸留塔に仕込むと、有機溶媒と酢酸との分離効率が悪化すること、分離効率の悪化は、還流比を高めることで対応可能だが、それにより酢酸の回収コストが嵩むことが問題であり、省エネルギー技術の開発が求められていた。
【0006】
このような課題の解決方法として、特許文献1には、残液をナノ濾過処理に付して酢酸セルロースを除去すること、濾過処理に付す残液に界面活性剤の1つであるリグノスルホネート類を添加すると、前記界面活性剤は濾過膜を透過せず、濾過膜の表面に酢酸セルロースを高濃度に含有する層が形成されるのを抑制する効果を発揮する。そのため、高純度の酢酸が得られることが記載されている。しかし、この方法でも、回収できずに廃棄される酢酸が多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2003-508594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本開示の目的は、酢酸のロスを低減して回収率を向上することができ、且つ省蒸気効果に優れる酢酸の回収方法を提供することにある。
本開示の他の目的は、省蒸気効果に優れる方法で、高純度の酢酸を効率よく回収し、これを再利用して酢酸セルロースを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、
1.酢酸水溶液を抽出処理前に付す前に、酢酸水溶液に溶解する酢酸セルロース(以後、「溶解酢酸セルロース」と称する場合がある)濃度を1~10000ppmにまで低減させると、酢酸水溶液中に溶解した1~10000ppmの酢酸セルロースが界面活性剤として作用して、酢酸水溶液の液滴を微細化し、有機溶媒との接触面積を広げることにより、酢酸の抽出液相への抽出効率が飛躍的に向上し、廃棄される酢酸量が低減すること
2.酢酸水溶液中の溶解酢酸セルロース濃度を膜分離処理により調整すれば、従来のガス化により酢酸セルロースを不揮発分として除去する方法によって調整するのに比べ、省蒸気効果に優れること
3.溶解酢酸セルロース濃度が低減された抽出液相を、液相のまま蒸留等へ仕込むと、ガス化した状態で蒸留塔に仕込むのに比べて分離効率が向上すること
を見いだした。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本開示は、酢酸セルロースが溶解した酢酸水溶液から酢酸を回収する方法であって、
酢酸水溶液に溶解する酢酸セルロース濃度を1~10000ppmに調整する工程1、
溶解する酢酸セルロース濃度が1~10000ppmである酢酸水溶液を有機溶媒と接触させて主に酢酸と有機溶媒を含む抽出液相と、主に水を含む抽残液相とに分離する工程2、
前記抽出液相を蒸留に付して酢酸を回収する工程3を含む、酢酸の回収方法を提供する。
【0011】
本開示は、また、工程1が、酢酸セルロースが溶解した酢酸水溶液を、孔径が0.01~10μmの精密濾過膜を用いた膜分離処理に付し、膜透過液として、酢酸水溶液に溶解する酢酸セルロース濃度が1~10000ppmである酢酸水溶液を得る工程である前記酢酸の回収方法を提供する。
【0012】
本開示は、また、工程1が、酢酸セルロースが溶解した酢酸水溶液を、孔径が0.01~10μmの精密濾過膜を用いた膜分離処理に付し、得られた膜透過液を更に逆浸透膜を用いた膜分離処理に付して、膜透過液として、酢酸水溶液に溶解する酢酸セルロース濃度が1~10000ppmである酢酸水溶液を得る工程である前記酢酸の回収方法を提供する。
【0013】
本開示は、また、逆浸透膜として、ホスホリルコリン基を有するポリマー(以後、「PCポリマー」と称する場合がある)を含む表面層を備える逆浸透膜を使用する、前記酢酸の回収方法を提供する。
【0014】
本開示は、また、セルロースを酢酸水溶液中にてアセチル化して酢酸セルロースを得る酢酸セルロースの製造方法であって、前記アセチル化後の反応液から酢酸セルロースを回収し、その残液から、前記酢酸の回収方法により酢酸を回収して前記酢酸水溶液の原料として再利用する酢酸セルロースの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本開示の方法によれば、従来の方法(すなわち、有機溶媒にて抽出後に、抽出液相をガス化して溶解酢酸セルロース濃度を低減させ、その後、蒸留処理に付す方法)に比べて、抽出工程における酢酸の抽出率を向上することができ、酢酸の回収率を向上することができる(省資源効果)。
また、前記方法で回収された酢酸は、酢酸セルロースの製造に再利用することができる。
更に、蒸留工程においては、液相にて蒸留塔に仕込むことができるため分離効率に優れ、たとえ還流比を下げても、従来と同程度の純度の酢酸を回収することができる。
更にまた、酢酸水溶液中の溶解酢酸セルロース濃度の低減を膜分離処理により行えば、ガス化に要していた膨大なエネルギーを削減することができる(省蒸気効果)。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の酢酸の回収方法の一例を示す概略フロー図である。
図2】逆浸透膜(0)、PCポリマーを含む表面層を備える逆浸透膜(1)、及びアルカリ洗浄後の逆浸透膜(1)の、膜分離処理の運転時間と循環流量の関係を示す図である。
図3】逆浸透膜(0)、PCポリマーを含む表面層を備える逆浸透膜(1)、及びアルカリ洗浄後の逆浸透膜(1)の、膜分離処理の運転時間と循環流量低下率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[酢酸の回収方法]
本開示の酢酸の回収方法は、酢酸セルロースが溶解した酢酸水溶液から酢酸を回収する方法であって、下記工程1~3を含む。
工程1:酢酸水溶液に溶解する酢酸セルロース濃度を1~10000ppmに調整する工程
工程2:溶解する酢酸セルロース濃度が1~10000ppmである酢酸水溶液を有機溶媒と接触させて、主に酢酸と有機溶媒を含む抽出液相と、主に水を含む抽残液相とに分離する工程
工程3:前記抽出液相を蒸留に付して酢酸を回収する工程
【0018】
(工程1:酢酸水溶液中に溶解する酢酸セルロース濃度を調整する工程)
工程1は、酢酸水溶液に溶解する酢酸セルロース濃度を1~10000ppmに調整する工程である。酢酸セルロース濃度の上限値は、好ましくは5000ppm、より好ましくは3000ppm、更に好ましくは2000ppm、更に好ましくは1500ppm、更に好ましくは1250ppm、特に好ましくは1000ppm、最も好ましくは500ppm、とりわけ好ましくは100ppmである。また、酢酸セルロース濃度の下限値は、好ましくは10ppmである。
【0019】
工程1を経て、溶解する酢酸セルロース濃度が前記範囲である酢酸水溶液(以後、「酢酸水溶液(a)」と称する場合がある)が得られる。得られた酢酸水溶液(a)は、続く工程2(抽出工程)に付される。本開示の酢酸の回収方法では、抽出工程に付す酢酸水溶液(a)が、溶解酢酸セルロース濃度を上記範囲で含有するため、溶解酢酸セルロースの界面活性効果により、抽出効率を向上する効果が得られる。
【0020】
酢酸水溶液(a)を得る方法としては、特に制限されることがなく、例えば、膜分離処理方法や、蒸留処理方法等が挙げられる。前記方法としては、なかでも、膜分離処理方法が省蒸気効果に優れる点で好ましい。
【0021】
膜分離処理により酢酸水溶液(a)を得る方法としては、なかでも、孔径が0.01~10μm(好ましくは1~10μm)の精密濾過膜を用いた膜分離処理を行うことが好ましい。通常、酢酸セルロース製造後の残液である酢酸水溶液中には溶解酢酸セルロースと共に不溶解酢酸セルロースが多量に含まれている(不溶解酢酸セルロース濃度は、例えば100ppm以上)が、孔径が0.01~10μmの精密濾過膜を用いた膜分離処理を行えば、不溶性の酢酸セルロースを膜濃縮液中に分離、除去することができ、膜透過液として、酢酸水溶液(a)が得られる。
【0022】
また、精密濾過膜を用いた膜分離処理を経て得られる膜透過液が、溶解酢酸セルロースを、10000ppmを超えて含有する場合には、更に、逆浸透膜を用いた膜分離処理を行うことが好ましい。溶解酢酸セルロースは、逆浸透膜をほとんど通過することができないため、逆浸透膜を用いた膜分離処理を経て得られる膜透過液は、溶解酢酸セルロース濃度が1~10000ppmの範囲にまで低減される。尚、膜透過液は逆浸透膜を通過した液であり、膜濃縮液は逆浸透膜を通過しなかった液である。そして、溶解酢酸セルロースは主に膜濃縮液に含まれる。
【0023】
膜分離処理は、濾過膜モジュールを具備する濾過装置を利用して行うことができる。濾過膜モジュールは、濾過膜を透過した膜透過液と濾過膜を透過しない膜濃縮液とを分離できる構成を有している限りにおいて、特に制限されない。
【0024】
濾過膜モジュールとしては、例えば、集水管のまわりに濾過膜を巻回したスパイラル型濾過膜モジュールが挙げられる。濾過膜の材質としては、ポリアミド、ポリスルフォン、セルロースアセテート等が挙げられ、これらの中でも芳香族ポリアミドや架橋芳香族ポリアミド等のポリアミドが好ましい。
【0025】
膜分離処理としては、クロスフロー濾過方式による膜分離処理が好ましい。クロスフロー濾過方式による膜分離処理によれば、濾過速度低下を防止しつつ、膜分離処理を行うことができる。尚、クロスフロー濾過方式とは濾過膜面に平行に被処理水を流し、濾滓の沈着による濾過膜汚染を防ぎながら被処理水の一部を、被処理水の流れの側方で濾過する方式である。
【0026】
濾過膜を使用した膜分離は、例えば30~50℃、好ましくは35~45℃の範囲で行うことが好ましい。
【0027】
濾過膜を使用した膜分離の濾過圧力は、例えば0.001~6.0MPaG程度であり、好ましくは0.01~5.0MPaG、特に好ましくは0.1~4.0MPaGである。
【0028】
濾過膜を使用した膜分離の膜面を流れる液の循環量は、4インチ膜モジュールを使用の場合、例えば10~40L/min、好ましくは15~30L/min、特に好ましくは20~25L/minである。2インチ膜モジュールを使用の場合、前記循環量は、例えば5~22L/min、好ましくは6~17L/min、特に好ましくは8~12L/minである。膜モジュールのサイズが異なれば上記に準じて循環流量も変化させる。
【0029】
濾過膜を使用した膜分離操作は、循環膜濾過方式等を利用して、膜透過液中の溶解酢酸セルロース濃度が上記範囲となるまで繰り返すことが好ましい。
【0030】
酢酸水溶液(a)は溶解する酢酸セルロース濃度を1~10000ppm含有するが、その他にも可溶成分を含有していても良く、例えば、無機塩(例えば、硫酸マグネシウム等)を含有していても良い。
【0031】
また、前記逆浸透膜は、PCポリマー(=ホスホリルコリン基を有するポリマー、又はリン脂質極性基を有するポリマー)を含む表面層を備える逆浸透膜あってもよい。
【0032】
前記PCポリマーとしては、例えば2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(=MPCポリマー)等のカチオン性親水性基を有するPCポリマーを好適に使用することができる。
【0033】
PCポリマーを含む表面層を備える逆浸透膜は、例えば、逆浸透膜にPCポリマー水溶液を通過させることにより調製することができる。前記PCポリマー水溶液におけるPCポリマー濃度は、例えば100~3000ppm、好ましくは300~2000ppm以下、特に好ましくは500~1000ppmである。
【0034】
前記表面層を備える逆浸透膜の膜面を流れる液の循環量は、上記に同じである。
【0035】
逆浸透膜に溶解性酢酸セルロースが目詰まりすると、循環流量が低下し、ある程度まで循環流量が低下すると、膜分離処理を停止させて、目詰まりを除去する必要がある。しかし、前記ポリマーが吸着してなる逆浸透膜は、前記ポリマーと逆浸透膜との静電相互作用により、溶解性酢酸セルロースが逆浸透膜に近接するのが阻害される。これにより、膜表面への溶解性酢酸セルロースの付着量を劇的に低下させることができ、経時での循環流量の低下を抑制することができる。
【0036】
前記表面層を備える逆浸透膜は、アルカリ性薬品の存在下、或いはアルカリ性薬品に接触させた後でも、表面への溶解性酢酸セルロースの付着を抑制する効果を維持することができる。すなわち、前記表面層を備える逆浸透膜は耐アルカリ性に優れる。
【0037】
また、前記表面層を備える逆浸透膜は耐久性に優れ、100時間の使用でも、表面層が損なわれることがない。
【0038】
さらに、前記表面層を構成するポリマーは逆浸透膜を透過しないので、回収する酢酸に前記ポリマーが混入することもない。
【0039】
(工程2:抽出工程1)
工程2は、酢酸水溶液(a)を有機溶媒と接触させて、主に酢酸と有機溶媒を含む抽出液相と、主に水を含む抽残液相とに分離する工程である。本開示の酢酸の回収方法では、抽出工程に付される酢酸水溶液(a)が、溶解酢酸セルロース濃度を上記範囲で含有するため、溶解酢酸セルロースの界面活性効果により、高い抽出効率が実現される。
【0040】
前記有機溶媒としては、酢酸の沸点より低い(酢酸の沸点より、例えば25℃以上低い、好ましくは30℃以上低い、特に好ましくは35℃以上低い)沸点を有し、酢酸の溶解性が高く、且つ水への溶解性が低い溶媒を使用することが好ましい。前記有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸n-アミル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸イソアミル、安息香酸メチル等のエステル;クロロホルム、四塩化炭素クロルベンゼン等のハロゲン化物;1,2-ジメトキシエタン、ジメチルエーテル等のエーテル化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
前記有機溶媒としては、なかでも、酢酸エチル等のエステル(特に好ましくは、酢酸エステル)とベンゼンなどの芳香族炭化水素との混合溶媒が好ましく、エステルと芳香族炭化水素の混合比(前者/後者;重量比)は、例えば5/95~95/5、好ましくは20/80~90/10、特に好ましくは40/60~85/15、最も好ましくは55/45~85/15である。
【0042】
前記有機溶媒の使用量としては、酢酸水溶液(a)の使用量の1.0~5.0倍(体積比)程度である。
【0043】
前記抽出操作には、酢酸水溶液(a)と有機溶媒を接触させ、抽出液相(=有機相)と抽残液相(=水相)に分離できる装置を用いることが好ましい。このような装置としては、特に制限されないが、例えば、抽出塔等の抽出装置を用いた公知の方法等が挙げられる。前記抽出塔には、通常用いられる形式、例えば、ミキサーセトラ型抽出塔、多孔板型、充填塔型、バッフル塔型、振動多孔板型、撹拌混合型、脈動充填型、遠心抽出型等の抽出装置等が含まれる。このような抽出装置を用いた場合、酢酸水溶液(a)と有機溶媒は、前記抽出装置内部で向流接触する。
【0044】
酢酸水溶液(a)と有機溶媒の接触温度は、例えば20~60℃、好ましくは30~50℃の範囲である。接触時間は、例えば0.1~10時間程度である。
【0045】
酢酸水溶液(a)と有機溶媒の接触は、常圧下、加圧下、又は減圧下で行うことができ、ゲージ圧力は、例えば、約-30~30kPa程度である。
【0046】
前記抽出操作は、間欠的又は連続的に行うことができる。また、抽出効果が不十分である場合は、繰り返し抽出操作を行うこともできる。
【0047】
前記条件下で抽出操作を行うことにより、酢酸水溶液(a)中の酢酸の抽出液相への抽出率を高めることができ、水の分離・除去効率を向上することができる。
【0048】
本工程で得られる抽出液相は主に酢酸と前記有機溶媒を含み、水の含有量は例えば15重量%以下、好ましくは10重量%以下である。また、酢酸セルロース含有量は200ppm以下(好ましくは150ppm以下)である。
【0049】
本工程を経て得られる抽出液相は上記の通り酢酸セルロース含有量が低減されているため、そのまま蒸留工程に付しても(例えば、ガス化する工程等を設けることなく、そのまま液相にて蒸留塔に仕込んでも)、酢酸セルロースが塔底部に析出することを抑制することができ、蒸留塔の安全運転を維持することができる。
【0050】
(工程2’:抽出工程2)
また、工程1の膜分離処理を経て得られた膜濃縮液は、水、酢酸、及び多量の溶解酢酸セルロースを含有する。当該膜濃縮液は、膜透過液である酢酸水溶液(a)と同様に抽出工程に付し、得られた抽出液相(酢酸、抽出に用いた有機溶媒、及び多量の溶解酢酸セルロースを含有)を、蒸発器等を用いてガス化することにより、酢酸セルロースを不揮発分として分離・除去することができ、溶解酢酸セルロース濃度が極めて低い酢酸水溶液(a’)が得られる。得られた酢酸水溶液(a’)も、酢酸水溶液(a)と同様に以降の工程に付すことにより、高純度の酢酸を回収することができる。
【0051】
(工程3:蒸留工程)
工程3は、工程2を経て得られた抽出液相、及び工程2’を経て得られたガスを蒸留に付して、酢酸を回収する工程である。本工程においては、工程2を経て得られた抽出液相、及び工程2’を経て得られたガスを、蒸留塔を用いた蒸留に付し、沸点の差異を利用して酢酸と有機溶媒を分離することによって、高純度の酢酸を回収する。例えば、酢酸より低沸点の有機溶媒を用いた場合は、有機溶媒は留出液として系外へ排出され、高純度の酢酸が缶出液として回収される。
【0052】
前記蒸留塔としては、例えば、棚段塔、充填塔等が挙げられる。塔頂温度は、例えば20~120℃、好ましくは30~100℃、より好ましくは40~80℃である。また、蒸留塔内の圧力は、例えば0~60kPaの範囲で適宜調整することができる。蒸留工程は、単一の工程で構成してもよく、複数の工程を組み合わせて構成してもよい。
【0053】
前記蒸留塔の実段数は、例えば1~100段であり、分離効率に優れる点で、好ましくは10~100段、特に好ましくは30~80段、最も好ましくは40~60段である。
【0054】
本開示の酢酸の回収方法では、工程2を経て得られた抽出液相を、液相のまま蒸留塔へ仕込むことができる。そのため、蒸留塔への仕込みの全てを気相にて行う場合に比べて、エネルギーコストを削減することができ、省蒸気効果に優れる。
【0055】
上記工程を経て、缶出液として高純度の酢酸が得られる。缶出液中の酢酸濃度は、例えば90重量%以上、好ましくは98重量%以上、より好ましくは99.9重量%以上である。
【0056】
また、留出液中の酢酸濃度は、還流比を調整することによりコントロールできる。
【0057】
以下、本開示の酢酸の回収方法の一例を図1により詳細に説明する。
図1では、酢酸セルロース製造後の残液がライン1により膜分離装置Aに供給され膜分離処理に付される。そして、逆浸透膜を透過して得られる酢酸水溶液(a)は、ライン2より抽出塔B-1の塔頂に導入される。有機溶媒(=酢酸より低沸点の有機溶媒)はライン3より抽出塔B-1の塔底に導入され、抽出塔B-1内において酢酸水溶液(a)と向流接触し、主に酢酸と有機溶媒を含む抽出液相と、主に水を含む抽残液相に分離される。前記抽出液相はライン4より蒸留塔Cに(液相で)仕込まれる。前記抽残液相はライン13より系外へ排出される。
抽出液相を蒸留塔Cに仕込むと、前記抽出液相に含まれていた有機溶媒の大部分が塔頂からライン8を経て冷却器Dで冷却され、ライン9よりタンクEに導入される。タンクEに導入された液のうち上層液は主に有機溶媒を含有し、ライン10より系外へ排出される。これは再び抽出塔B-1若しくはB-2へ導入する有機溶媒として再利用することができる。タンクEの下層液は主に水を含有し、ライン11より系外へ排出される。タンクEの上層液の一部は液相のまま、ライン12を通じて蒸留塔Cにリサイクルしてもよい。
一方、蒸留塔Cの塔底からは、ライン5を経て高純度の酢酸が缶出液として回収される。
【0058】
また、膜分離装置Aにおいて逆浸透膜を透過しなかった膜濃縮液はライン14より抽出塔B-2の塔頂に導入される。有機溶媒はライン15より抽出塔B-2の塔底に導入され、抽出塔B-2内において膜濃縮液と向流接触し、主に酢酸と有機溶媒と可溶性酢酸セルロースを含む抽出液相と、主に水と可溶性酢酸セルロースを含む抽出残相に分離される。前記抽出液相はライン16より蒸発器Gに導入される。前記抽出残相はライン17より系外へ排出される。
抽出液相は蒸発器Gにおいて蒸発させて酢酸と有機溶媒とを含む蒸気と可溶性酢酸セルロースを含む蒸発残液に分離され、酢酸と有機溶媒とを含む蒸気はライン18より蒸留塔Cに気相で仕込まれる。以後のフローは蒸留塔Cに液相で仕込まれた抽出液相と同じである。可溶性酢酸セルロースを含む蒸発残液はライン19より系外へ排出される。
【0059】
[酢酸セルロースの製造方法]
本開示の酢酸セルロースの製造方法は、セルロースを酢酸水溶液中にてアセチル化して酢酸セルロースを得る酢酸セルロースの製造方法であって、前記アセチル化後の反応液から酢酸セルロースを回収し、その残液から、上述の酢酸の回収方法により酢酸を回収して前記酢酸水溶液の原料として再利用するものである。
【0060】
酢酸セルロースの製造は、例えば下記工程1~3を含む。
工程1:セルロース原料を、離解・解砕し、その後、酢酸又は少量の酸性触媒を含んだ酢酸を散布して、セルロースを活性化する活性化処理工程
工程2:活性化処理後のセルロースを、酢酸水溶液中にてアセチル化して、酢酸セルロースを得るアセチル化工程
工程3:精製工程
【0061】
前記アセチル化後の反応液には、アセチル化により得られた、不溶性酢酸セルロース、可溶性酢酸セルロース、及び酢酸水溶液が含まれる。
【0062】
前記酢酸水溶液には、酢酸と水以外にも他の成分、例えば、アセチル化剤(例えば、無水酢酸)や酸性触媒(例えば、硫酸)を含んでいてもよい。
【0063】
アセチル化工程を経て得られる1次酢酸セルロースは、加水分解することにより所望の酢酸化度の2次酢酸セルロースを得ることができる。
【0064】
本開示の酢酸セルロースの製造方法では、アセチル化工程後の反応液から、酢酸を回収して再利用するため、酢酸セルロースの製造コストを削減することができる。
【0065】
以上、本開示に係る発明の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示に係る発明の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。また、本開示に係る発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例
【0066】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0067】
実施例1[膜分離工程-抽出工程-蒸留工程]
(膜分離工程)
30%酢酸水溶液(1)(可溶成分:溶解酢酸セルロース0.4%、無機塩0.6%、不溶成分:100ppm)を精密濾過膜(POREX社製MF膜、孔径:5μm、材質:ポリエチレン)を用いて濾過を行って、膜透過液(1)(可溶成分:溶解酢酸セルロース0.4%、無機塩0.6%、不溶成分:ゼロ)を得た。
膜透過液(1)を、逆浸透膜(2インチ膜モジュール、日東電工(株)製ES15、材質:ポリアミド)を用い、40℃、循環流量8L/min、運転圧力2.4MPaGでクロスフロー濾過して、膜透過液(2)(可溶成分:溶解酢酸セルロース20ppm、無機塩30ppm、不溶成分:ゼロ)を得た。
【0068】
(抽出工程1)
膜透過液(2)を、有機溶剤(酢酸エチル:75%、ベンゼン:25%)を用いて、S/F:1.6(v/v)、抽出温度:40℃、空塔速度:0.4cm/secの条件下で向流多段抽出(抽出塔の実段数112段:28段/節×4節)を行った。抽出時間は0.2時間であった。抽出運転は終始安定であった。これによって抽出液相を得た。
得られた抽出液相中の酢酸濃度を自動滴定装置(京都電子工業(株)製、「NZH77774」)で測定して、段効率(=理論段数/実段数)を算出し、これを抽出効率とした。
【0069】
(蒸留工程)
得られた抽出液相を蒸留塔(オールダーショウ60段)の上から24段目仕込んだ。仕込液量は233g/hとした。塔頂圧は常圧であり、温度計は塔頂(上から1段目)、上から4段目、8段目、14段目、18段目、24段目、28段目、38段目、44段目、48段目、54段目、58段目、及びリボイラー液(BTM液)に設置した。還流比(還流量/(上層液量+下層水量))は0.6とした。前記条件で蒸留を行い、缶出液として高純度の酢酸を得た。
【0070】
実施例2[膜分離工程-抽出工程1,2-蒸留工程]
(膜分離工程)
実施例1と同様にして得られた膜透過液(1)を、逆浸透膜(2インチ膜モジュール、日東電工(株)製ES15、材質:ポリアミド)を用い、40℃、循環流量8L/min、運転圧力2.4MPaGでクロスフロー濾過して、膜透過液(3)(可溶成分:溶解酢酸セルロース20ppm、無機塩30ppm、不溶成分:ゼロ)と、膜濃縮液(1)とを得た。
【0071】
(抽出工程1)
膜透過液(3)を、有機溶剤(酢酸エチル:75%、ベンゼン:25%)を用いて、S/F:1.6(v/v)、抽出温度:40℃、空塔速度:0.4cm/secの条件下で向流多段抽出(抽出塔の実段数112段:28段/節×4節)した。抽出運転は終始安定であった。これによって抽出液相(1)を得た。
得られた抽出液相(1)中の酢酸濃度を自動滴定装置(京都電子工業(株)製、「NZH77774」)で測定して、段効率(=理論段数/実段数)を算出し、これを抽出効率とした。
【0072】
(抽出工程2)
前記膜濃縮液(1)を、有機溶剤(酢酸エチル:75%、ベンゼン:25%)を用いて、S/F:1.6(v/v)、抽出温度:40℃、空塔速度:0.4cm/secの条件下で向流多段抽出(抽出塔の実段数112段:28段/節×4節)した。抽出運転は終始安定であった。これによって酢酸セルロースを含む抽出液相(2)を得た。その後、得られた抽出液相(2)を蒸発器(留出率:99%)に付してガス化して、酢酸セルロースを含まないガス(2)を得た。
【0073】
(蒸留工程)
得られた抽出液相(1)を蒸留塔(オールダーショウ60段)の上から24段目仕込んだ。仕込液量は185g/hとした。また、得られたガス(2)は上から34段目から仕込んだ。仕込液量は615g/hとした。塔頂圧は常圧であり、温度計は塔頂(上から1段目)、上から4段目、8段目、14段目、18段目、24段目、28段目、38段目、44段目、48段目、54段目、58段目、及びリボイラー液(BTM液)に設置した。還流比(還流量/(上層液量+下層水量))は0.65とした。前記条件で蒸留を行い、缶出液として高純度の酢酸を得た。
【0074】
実施例3[膜分離工程-抽出工程]
空塔速度を0.4cm/secから0.6cm/secに変更した以外は実施例1と同様に(膜分離工程)、(抽出工程)を行って抽出液相を得た。
【0075】
比較例1[抽出工程]
膜透過液(2)に代えて、30%酢酸水溶液(1)(可溶成分:溶解酢酸セルロース0.4%、無機塩0.6%、不溶成分:100ppm)を使用した以外は実施例1と同様に(抽出工程)を行って抽出液相を得た。
【0076】
比較例2[抽出工程]
空塔速度を0.4cm/secから0.6cm/secに変更した以外は比較例1と同様にしたところ、抽出塔内で著しい白濁が認められた後に分液不良に陥り、運転を継続することができなくなった。
【0077】
比較例3[抽出工程]
膜透過液(2)に代えて、30%酢酸水溶液(2)(溶解酢酸セルロース及び無機塩:ゼロ、不溶成分:ゼロ)を使用した以外は実施例1と同様に(抽出工程)を行って抽出液相を得た。
【0078】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0079】
調製例1(MPCポリマーを含む表面層を備える逆浸透膜の調製)
0.075%MPCポリマー水溶液(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、日油(株)製)をタンクに仕込み、室温条件下、流量1mL/minで30分間、逆浸透膜(0)(2インチ膜モジュール、日東電工(株)製ES15、材質:ポリアミド)を通過させて、膜表面にMPCポリマーを吸着させて、MPCポリマーを含む表面層を備える逆浸透膜(1)を得た。
【0080】
(逆浸透膜の使用性評価)
調製例1で得られた逆浸透膜(1)と、表面層を設ける前の逆浸透膜(0)について、下記条件での膜分離処理の運転時間と、循環流量を測定して、目詰まり防止効果について評価した。結果を図2、3に示す。
膜分離処理条件:
処理液組成:水70%、酢酸29.925%、MPCポリマー0.075%
流量:0.15mL/min
温度:40℃
運転圧力:2.2MPaG
【0081】
図2、3より、逆浸透膜(1)は、逆浸透膜(0)に比べて、循環流量の低下が劇的に抑制され、長時間にわたって一定の循環流量を維持することができることがわかる。
【0082】
(MPCポリマーを含む表面層を備える逆浸透膜の耐久性評価)
逆浸透膜(0)、膜分離処理に付す前及び100時間の膜分離処理に付した後の逆浸透膜(1)について、膜表面のリン原子量及び酸素原子量を、XPSによるワイドスペクトル測定、及びナロウスペクトル測定により解析した。結果を下記表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表2より、膜分離処理に付す前の逆浸透膜(1)の膜表面にリン原子の存在が確認できたことから、MPCポリマー水溶液を逆浸透膜(0)に通過させることで、MPCポリマーが逆浸透膜に吸着することがわかる。また、100時間膜分離処理に付した後の逆浸透膜(1)の膜表面は、酸素原子量が増加していることから、経時で酸化が進行していることがわかる。しかし、100時間膜分離処理後のリン原子量は、膜分離処理前とほとんど変化がなかった。このことから、逆浸透膜に吸着したMPCポリマーは耐久性に優れ、100時間の膜分離処理でも剥離せず付着した状態を維持できることがわかる。
【0085】
また、ナロウスペクトル測定の結果より、膜分離処理に付す前の逆浸透膜(1)の膜表面(深さ:3~5nm領域)において、MPCポリマーが吸着していることが確認できた。
【0086】
さらに、逆浸透膜(1)に、pH12のNaOH水溶液を使用してアルカリ洗浄を実施した。そして、アルカリ洗浄後の逆浸透膜(1)について、上記と同様の方法で膜分離処理を行って、表面層への影響を確認した。結果を図2、3に示す。
【0087】
図2、3より、アルカリ洗浄後の逆浸透膜(1)も、経時での循環流量の低下を抑制できることが確認できた。このことから、逆浸透膜(1)は、アルカリ洗浄に付した後も、表面層を維持できることがわかる。
【0088】
さらに、逆浸透膜(1)の表面に存在するMPCポリマーの溶出性について、下記方法で評価した。
すなわち、26重量%酢酸水溶液(リン未検出)をモデル液として使用し、前記モデル液を、逆浸透膜(1)を用いて濾過処理を施し、透過液と濃縮液とを得、透過液中のリン濃度をICP-AESにて定量した。
その結果、透過液はリン未検出であった。これより、回収される酢酸にはMPCポリマーはほとんど混入しないことが確認できた。
【符号の説明】
【0089】
A 膜分離装置
B-1、B-2 抽出塔
C 蒸留塔
D 冷却器
E タンク
F リボイラー
G 蒸発器
図1
図2
図3