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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】吊り扉装置
(51)【国際特許分類】
   E05D 15/16 20060101AFI20250821BHJP
   A01K 1/035 20060101ALI20250821BHJP
   E05F 15/665 20150101ALI20250821BHJP
   E06B 9/02 20060101ALI20250821BHJP
   E06B 9/84 20060101ALI20250821BHJP
【FI】
E05D15/16 Z
A01K1/035 A
E05F15/665
E06B9/02 A
E06B9/84 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024098763
(22)【出願日】2024-06-19
【審査請求日】2024-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】597049765
【氏名又は名称】株式会社興和工業
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(72)【発明者】
【氏名】高柳 幸司
【審査官】砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3193062(JP,U)
【文献】特開2021-92092(JP,A)
【文献】実開昭54-89139(JP,U)
【文献】実開平1-168797(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05D 1/00 -15/58
E05F 1/00 -17/00
E06B 1/00 -11/08
A01K 1/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視でコ字状を呈し鉛直に配置される左右一対の溝形レールと、これらの溝形レールで上下移動可能に案内される扉と、この扉を吊るワイヤと、このワイヤを引き上げる電動チェーンブロックとを備える吊り扉装置であり、
この吊り扉装置は、前記扉が上昇限位置にあるときに前記扉の下に差し込まれて、前記扉の落下を防止する扉落下防止機構をさらに備えている吊り扉装置であって、
前記扉落下防止機構は、前記一対の溝形レールの少なくとも一方の溝形レールの溝に出入りする縦長の安全バーと、この安全バーを旋回可能に前記溝形レールに係止するヒンジと、前記安全バーに付設され床に立つ作業員が手で握るハンドルとからなることを特徴とする吊り扉装置。
【請求項2】
請求項記載の吊り扉装置であって、
前記安全バーが、前記溝形レールの溝に入っているときにセット位置にあるといい、前記溝形レールの溝から出ているときに待機位置にあるというときに、前記セット位置から前記待機位置までの前記安全バーの旋回角度は260°~280°の範囲にあることを特徴とする吊り扉装置。
【請求項3】
請求項記載の吊り扉装置であって、
前記安全バーが、前記溝形レールの溝に入っているときにセット位置にあるといい、前記溝形レールの溝から出ているときに待機位置にあるというときに、前記安全バーが前記待機位置にあるときに前記電動チェーンブロックの運転を許可し、前記安全バーが前記セット位置にあるときに前記電動チェーンブロックの運転を禁止するリミットスイッチを備えていることを特徴とする吊り扉装置。
【請求項4】
請求項記載の吊り扉装置であって、
前記安全バーは、前記溝形レールの溝に嵌るサイズの角形鋼管であることを特徴とする吊り扉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造が簡便な倉庫に好適な吊り扉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
倉庫は、フォークリフトやトラックなどの車両の通行が可能な大きな出入口を有する。
この出入口は、一般に、引き戸又は吊り扉で塞がれる。
倉庫に適した吊り扉支持構造が、各種提案されてきた(例えば、特許文献1(図4)参照)。
【0003】
特許文献1の吊り扉支持構造は、出入口の上縁に水平にレールを敷き、このレールにローラを介して吊り扉を吊り下げる。吊り扉は横に引かれることで出入口を開閉する。
【0004】
このような吊り扉支持構造は、倉庫において広く採用されている。
ただし、水平に渡したレールが撓むと矩形扉の横移動が困難になるため、レールの剛性を十分に高める必要がある。結果、レールが大型になり重くなる。
このように大型で重いレールを取付けるには、倉庫、特に出入口回りは、十分に剛性を高める必要がある。
【0005】
ところで、農作物や肥料や農機具などを保管する農業用倉庫は、農家に必須である。農業用倉庫は、天井クレーンなどを備える工業用倉庫に比較して、簡便な造りで差し支えない。
簡便な造りの倉庫には、家畜を収容する畜舎や、物品を収納する一般の軽倉庫が含まれる。
特許文献1の吊り扉支持構造は、工業用倉庫(又は頑丈の造りの倉庫)に適しているが、構造的に簡便な造りの倉庫に適しているとは言えない。
【0006】
そこで、本出願人は、先に特許文献2に開示する畜舎を提案し、この畜舎に、簡便な吊り扉装置を付設した。畜舎の代表例が牛舎である。
牛舎であれば、多数頭の牛を収納することから、大型の建築物となる。
建築物の建築費用及び維持費用が、牛乳や牛肉の価格に影響する。そのため、畜舎は構造が簡単であることが求められる。
【0007】
そのために、特許文献2に開示される畜舎では、扉をワイヤ及び電動チェーンブロックで昇降する。ワイヤや電動チェーンブロックは入手が容易で安価である。安価であるため、建築物の建築費用及び維持費用の抑制が図れる。
【0008】
ところでワイヤは、長期間使用すると表面が解(ほつ)れる。解れが進行するとワイヤが切れる。切れる前にワイヤを交換することが求められる。
しかし、畜舎は大型であるため、ワイヤは高い位置にあり、目視検査が難しい。
【0009】
ワイヤを所定値より太くすることで、交換までの期間を延ばすことができ、検査の頻度を下げることができる。所定値とは、定められた安全率を見込んだ設計値である。
しかし、ワイヤを太くすると、ワイヤの調達コストが嵩む。ワイヤを太くすると重くなり、電動チェーンブロックに係る電気代が増加する。
【0010】
建築費用及び維持費用の抑制が求められる中、ワイヤの外径を所定値に留めることができる吊り扉装置が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2006-132087号公報
【文献】実用新案登録第3193062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ワイヤの外径を所定値に留めることができる吊り扉装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項に係る発明は、平面視でコ字状を呈し鉛直に配置される左右一対の溝形レールと、これらの溝形レールで上下移動可能に案内される扉と、この扉を吊るワイヤと、このワイヤを引き上げる電動チェーンブロックとを備える吊り扉装置であり、
この吊り扉装置は、前記扉が上昇限位置にあるときに前記扉の下に差し込まれて、前記扉の落下を防止する扉落下防止機構をさらに備えている吊り扉装置であって、
前記扉落下防止機構は、前記一対の溝形レールの少なくとも一方の溝形レールの溝に出入りする縦長の安全バーと、この安全バーを旋回可能に前記溝形レールに係止するヒンジと、前記安全バーに付設され床に立つ作業員が手で握るハンドルとからなることを特徴とする。
【0016】
請求項に係る発明は、請求項記載の吊り扉装置であって、
前記安全バーが、前記溝形レールの溝に入っているときにセット位置にあるといい、前記溝形レールの溝から出ているときに待機位置にあるというときに、前記セット位置から前記待機位置までの前記安全バーの旋回角度は260°~280°の範囲にあることを特徴とする。
【0017】
請求項に係る発明は、請求項記載の吊り扉装置であって、
前記安全バーが、前記溝形レールの溝に入っているときにセット位置にあるといい、前記溝形レールの溝から出ているときに待機位置にあるというときに、前記安全バーが前記待機位置にあるときに前記電動チェーンブロックの運転を許可し、前記安全バーが前記セット位置にあるときに前記電動チェーンブロックの運転を禁止するリミットスイッチを備えていることを特徴とする。
【0018】
請求項に係る発明は、請求項記載の吊り扉装置であって、
前記安全バーは、前記溝形レールの溝に嵌るサイズの角形鋼管であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明では、扉が上昇限位置にあるときに、扉の落下を防止する扉落下防止機構を備えている。
コストダウンの一環として扉は安価なワイヤで吊られている。ワイヤは経年劣化により解れて切断することが心配される。しかし、本発明では、扉落下防止機構を備えているので、仮に、ワイヤが切れても扉が落下することは防止される。
扉落下防止機構を備えているので、過度にワイヤを太くする必要はなく、ワイヤの外径を所定値に留めることができる。
結果、本発明によりは、ワイヤの外径を所定値に留めることができる吊り扉装置が提供される。
【0021】
加えて、請求項に係る発明では、扉落下防止機構は、縦長の安全バーと、この安全バーを溝形レールに係止するヒンジと、作業員が手で握るハンドルとからなる。
安全バーであれば溝形レールのウェブに切欠き穴を設ける必要がない。切欠き穴が無ければフリーローラを溝形レールのウェブに沿って回転させることができる。
【0022】
また、電動アクチュエータを追加し、この電動アクチュエータで安全バーを旋回させることは差し支えないが、装置コストが嵩む上に、電気代などのランニングコストが嵩む。
本発明では手動で安全バーを旋回させる。結果、吊り扉装置の装置コスト及びランニングコストを低減することができる。
【0023】
請求項に係る発明では、安全バーは約270°旋回される。
セット位置では溝形レールの溝に安全バーを十分に入れることができる。
待機位置では溝形レールのフランジに安全バーを沿わせることができる。
設置位置と待機位置の何れにおいても、安全バーは邪魔にならない位置に置かれる。
【0024】
請求項に係る発明では、安全バーが溝形レールの溝に入っているときには、電動チェーンブロックの運転を禁止する。運転者による誤操作を回避することができる。
【0025】
請求項に係る発明では、安全バーは、角形鋼管である。
角形鋼管は、溝形レールの溝と相性がよい。加えて、角形鋼管は安価な市販品が使える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施例に係る吊り扉装置を備える倉庫の部分図(倉庫内から出入口を見た図)である。
図2】(a)は図1の2a部拡大図、(b)は図2(a)のb-b矢視図である。
図3】(a)は図2の3a-3a線断面図、(b)~(d)は安全バーの旋回動作を説明する図である。
図4】(a)~(c)はリミットスイッチの動作を説明する図、(d)は図2の4d-4d線断面図、(e)~(f)は安全バーに付設したキックバーの作用を説明する図である。
図5】電動チェーンブロックの構成図である。
図6】本発明に係る扉が、閉位置から開位置まで移動するときの動作を説明するフロー図である。
図7】本発明に係る扉が、開位置から閉位置まで移動するときの動作を説明するフロー図である。
図8】(a)は本発明の第2実施例に係る吊り扉装置の要部拡大図、(b)は(a)のb部斜視図である。
図9】第2実施例に係る電動チェーンブロックの構成図である。
図10】本発明の第3実施例に係る吊り扉装置の要部拡大図である。
図11】第3実施例に係る電動チェーンブロックの構成図である。
図12】(a)は本発明の第4実施例に係る吊り扉装置の要部拡大図、(b)は第4実施例の作用を説明する図である。
図13】(a)は本発明の第5実施例に係る吊り扉装置の要部拡大図、(b)は(a)のb矢視図、(c)は第5実施例の作用図、(d)は(c)のc矢視図である。
図14】二重扉を備える倉庫の部分図(倉庫内から出入口を見た図)である。
図15】二重扉の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例
【0028】
[倉庫]
図1に示すように、倉庫10は、幅が3m~8mで高さが3m~5mの大きな出入口11を有する。出入口11は横長矩形の扉22で塞がれる。
【0029】
倉庫10は、農機具や農作物など農業に関する物を保管する農業用倉庫が好適である。工業用倉庫であれば、天井クレーンを設けるなどして頑丈な建物である。農業用倉庫は工業用倉庫ほどに頑丈さが求められない。そのため、農業用倉庫は簡便な構造の建物である。そのため、扉22は簡単なもので済ませる。
なお、倉庫10は農業用倉庫の他、漁業用倉庫、大型の納屋、一般の軽倉庫であってもよい。
また、倉庫10は牛や馬を飼う畜舎であってもよい。
【0030】
[吊り扉装置]
扉22は十分に大きく重いため、人の力では開閉できない。そこで、吊り扉装置20が必要となる。
吊り扉装置20は、出入口11の左右に配置した建屋側の支柱12に沿わせた左右一対の溝形レール21と、これらの溝形レール21で上下移動可能に案内される扉22と、この扉22を吊るワイヤ23と、このワイヤ23を引き上げる電動チェーンブロック30とを備える。電動チェーンブロック30の構造は後述するが、入手が容易で安価な市販品で差し支えない。
電動チェーンブロック30により、扉22は想像線で示す上昇限位置まで上げられる。
【0031】
[扉落下防止機構]
ワイヤ23は使用により劣化する。そこで、本発明では、扉22が上昇限位置(図1、想像線で示す位置。)にあるときに扉22の下に差し込まれて扉22の落下を防止する扉落下防止機構(図2(a)、符号40)を備える。
【0032】
図2(a)に示すように、扉落下防止機構40は、溝形レール21の溝に出入りする縦長の安全バー41と、この安全バー41を旋回可能に溝形レール21に係止するヒンジ42と、安全バー41に付設され床13に立つ作業員が手で握るU字形のハンドル43とを備える。なお、安全バー41は、旋回の途中の状態が示されている。
【0033】
また、溝形レール21及び安全バー41は、左右一対の溝形レール21の両方に設けることや、一方のみに設けることの何れであってもよい。ワイヤ23が適正に管理されれば、安全バー41で扉22を支える頻度はゼロ又はごく僅かであるため、一方にのみ設けることで差し支えない。
【0034】
また、図2(a)に示すように、好ましくは、安全バー41にキックバー44を設け、支柱12にリミットスイッチ45を設ける。ただし、リミットスイッチ45やキックバー44は省いてもよい。
ハンドル43の地上高さH1は1m程度が好ましい。リミットスイッチ45の地上高さH2は任意であるが、2m程度が好ましい。
【0035】
リミットスイッチ45は、I字レバー形リミットスイッチ、L字レバー形リミットスイッチ、その他のセンサの何れも採用可能であるが、この第1実施例では、L字レバー形リミットスイッチ50を採用する。
【0036】
また、図2(b)に示すように、溝形レール21は、一対のフランジ21aと、一対のフランジ21aの一端同士を結ぶウェブ21bとからなる。溝形レール21は、チャンネルとも呼ばれ、薄肉で軽量な軽量チャンネルが採用できる。
【0037】
好ましくは、扉22に回転自在のフリーローラ24を設け、このフリーローラ24を介して溝形レール21で扉22を案内させるようにする。
フリーローラ24が回転しつつウェブ21bを走行するため、扉22が円滑に上下に移動する。ただし、フリーローラ24は省くこともできる。
【0038】
[安全バー]
安全バー41は、落下する扉22を支える部材であり、丸棒、角棒、丸形鋼管、角形鋼管の何れであってもよい。
図3(a)に示すように、安全バー41は、溝形レール21の溝に嵌るサイズの角形鋼管47が推奨される。
角形鋼管47は、JIS G 3466で規定される一般構造用角形鋼管が採用できる。
【0039】
[安全バーの動作]
図3(a)に示すように、ヒンジ42は、一方の羽根が溝形レール21のフランジ21aの外面に溶接止めされ、他方の羽根が角形鋼管47に溶接止めされている。
図3(a)で、角形鋼管47を矢印(1)のように、時計方向に90°回すと図3(b)に至る。図3(b)では安全バー41はセット位置にある。
【0040】
図3(b)では、金属同士が接触すること(以下、メタルタッチという)により、これ以上時計方向へ角形鋼管47は回らない。よって、ハンドル43を握って操作する旋回は容易になる。作業員は回らなくなったら手をハンドル43から離せばよいからである。
【0041】
なお、ヒンジ42は、狭義の蝶番に限定されない。例えば、角形鋼管47に丸棒を溶接し、溝形レール21のフランジ21aの外面に丸管を溶接し、この丸管に丸棒を上から挿入する形態のヒンジであってもよい。すなわち、ヒンジ42は羽有りヒンジ(蝶番)と羽根無しのヒンジの何れであってもよい。ただし、蝶番は種類が豊富で、入手容易で、安価であるため、推奨される。
【0042】
図3(b)(セット位置)では、角形鋼管47は、溝形レール21の溝を塞いでいる。この状態で、仮に扉が図面表から裏へ下がると、この扉は角形鋼管47に載り、それ以降下がることはない。
【0043】
図3(a)で、角形鋼管47を矢印(2)のように、反時計方向に90°回すと図3(c)に至り、図3(c)で角形鋼管47を矢印(3)のように、反時計方向にさらに90°回すと図3(d)に至る。図3(d)では安全バー41は待機位置にある。
【0044】
図3(d)では、メタルタッチにより、これ以上反時計方向へ角形鋼管47を回すことはできない。よって、ハンドル43を握って操作する旋回は容易になる。作業員は回らなくなったら手をハンドル43から離せばよいからである。
【0045】
図3(d)では、溝形レール21の溝が開放されているため、扉が上下に移動可能となる。
また、図3(a)と図3(c)では角形鋼管47は旋回中である。そのため、図3(b)又は図3(d)の状態で保持される。図3(b)及び図3(d)では角形鋼管47は邪魔にならない。
【0046】
[安全バーの旋回角度]
安全バー41は、図3(b)から図3(a)へ90°回転し、図3(a)から図3(c)へ90°回転し、図3(c)から図3(d)へ90°回転した。図3(b)における角度誤差を5°と見込み、図3(d)における角度誤差を5°と見込むと、セット位置から待機位置までの安全バー41の旋回角度は260°~280°の範囲にある。
【0047】
先に述べたように、図3(b)と図3(c)では安全バー41はメタルタッチにより安定している。すなわち、ハンドル43を握る作業員はメタルタッチするまで安全バー41を時計方向又は反時計方向へ回すだけで済み、作業が極めて容易になる。よって、ヒンジ42の回転角度は260°~280°の範囲が推奨される。
【0048】
[リミットスイッチ]
また、先に述べたように、リミットスイッチには、I字レバー形リミットスイッチとL字レバー形リミットスイッチとその他のセンサの何れも採用は可能であるが、本例ではL字レバー形リミットスイッチを採用した。
【0049】
図4(a)に示すように、L字レバー形リミットスイッチ50は、マイクロスイッチ及びばねを内蔵する筐体51と、マイクロスイッチを切り替えるL字レバー52とを主要素とする。L字レバー52は、第1腕部53と第2腕部54とを有する。
【0050】
キックバー44が矢印のように、L字レバー52に向かう。
すると、キックバー44が第1腕部53に当り、L字レバー52を図面反時計方向へ回す。
図4(b)に示すように、L字レバー52が所定角度回されると、筐体51に内蔵するばねの力で、L字レバー52は自動的に図面反時計方向へ回り、図4(c)となる。
図4(c)では、第1腕部53が水平になり、第2腕部54が垂直になる。
【0051】
図4(c)でキックバー44が図面右へ移動すると、第2腕部54が押され、図4(b)を経由して図4(a)に戻る。
図4(b)は過渡的な状態図であり、L字レバー形リミットスイッチ50は、図4(a)と図4(c)の何れかの状態に保持される。
【0052】
そのため、L字レバー形リミットスイッチ50は、保持型リミットスイッチとも呼ばれる。I字レバー形リミットスイッチは保持リレーが必須であるが、L字レバー形リミットスイッチ50は保持リレーが不要であるという利点がある。
【0053】
以下の説明の便利のために、図4(a)でL字レバー形リミットスイッチ50から「運転許可情報」が発せられ、図4(c)でL字レバー形リミットスイッチ50から「運転禁止情報」が発せられるとする。
【0054】
図4(d)は図3(a)に対応する図であり、図4(e)は図3(c)に対応する図であり、図4(f)は図3(d)に対応する図である。
図4(d)でキックバー44が矢印(4)のように旋回し、図4(e)でキックバー44が矢印(5)のように旋回すると、キックバー44が第1腕部53を押し、図4(f)に至る。
【0055】
すなわち、図4(d)~図4(e)では、L字レバー形リミットスイッチ50は、図4(a)の状態が保持され、図4(f)では、L字レバー形リミットスイッチ50は、図4(c)の状態が保持される。
【0056】
図4(f)でキックバー44を矢印(6)のように戻す。すると、図4(c)の状態のL字レバー形リミットスイッチ50は、図4(b)を経て図4(a)に切り換わる。
【0057】
[電動チェーンブロック]
図5に示すように、電動チェーンブロック30は、チューン31と、このチューン31を掛けるチェーンシーブ32と、このチェーンシーブ32を回転させる電動モータ33と、チェーンシーブ32を制動する電磁ブレーキ34及び機械式ブレーキ35と、押しボタンスイッチ36と、この押しボタンスイッチ36から電動モータ33に至る電気系統に介在させるスイッチボックス37とからなる。
【0058】
このスイッチボックス37へは、L字レバー形リミットスイッチ50から「運転許可情報」又は「運転禁止情報」が送られる。
「運転許可情報」が送られているときには、押しボタンスイッチ36を操作することで、ワイヤ23を介して扉22を上又は下へ移動することができる。
「運転禁止情報」が送られているときには、押しボタンスイッチ36の操作は無効とされ、扉22は止まったままとなる。
【0059】
以上に述べた吊り扉装置20の作用を、図6及び図7に基づいて説明する。
図6のステップ番号(以下、STと略記する。)01では、扉が全閉位置にあり、安全バーは待機位置(図3(d))にあり、リミットスイッチは「運転許可情報」を発している(図4(a))。
ST02で、作業員は押しボタンスイッチ(図5、符号36)を用いて扉の開操作を行う。この操作により扉は上昇する。
ST03で、扉が上昇限位置に達したら操作を停止する。この停止により出入口は全開となる。
【0060】
ST04で、作業員は安全バーをセット位置へ旋回する(図3(d)→(c)→(a)→(b))。この旋回により、扉落下防止対策が完了した。
ST05に示すように、このときには、リミットスイッチは「運転禁止情報」を発するように切り換わっている(図4(c))。この状態では作業員が扉開閉操作を行おうとしても操作は不可となる。
ST06で、荷物等の搬入搬出作業を行う。
【0061】
図7のST11に示すように、このときは、扉が全開位置にあり、安全バーはセット位置(図3(b))にあり、リミットスイッチは「運転禁止情報」を発している(図4(c))。
扉を閉じる前に、ST12にて、作業員は安全バーを待機位置へ旋回する(図3(b)→(a)→(c)→(d))。この旋回により、扉落下防止対策は解除された。
ST13に示すように、このときには、リミットスイッチは「運転許可情報」を発するように切り換わっている(図4(a))。この状態で扉開閉操作が可能となる。
【0062】
ST14で、作業員は扉の閉操作を行う。この操作により扉は下降する。
ST15で、扉が閉位置に達したら操作を停止する。結果、出入口は全閉となる。
【0063】
[第1実施例の作用・効果]
以上の述べた第1実施例の作用・効果は、次の通りである。
第1に、上昇限位置にある扉の下に安全バーを入れるため、ワイヤの緩みが発生しても扉の下がりを防止することができる。落下防止策が講じられているため、ワイヤを過度に太くする必要なくなり、適正な太さ収めることができる。
【0064】
ただし、安全バーを入れたままで、扉を下げると、安全バーで扉の下降が阻止される。結果、ワイヤが緩み、電動チェーンブロックのフックからワイヤが外れる。復旧作業が面倒である。第1実施例ではその心配がない。
【0065】
第2に、リミットスイッチで「運転許可情報」と「運転禁止情報」の何れかを発するようにし、安全バーがセット位置にあるときには「運転禁止情報」を発するようにした。安全バーがセット位置にあるときには扉が下がらない。ワイヤには常にテンションが掛かるため、ワイヤが緩むことやフックから外れることはない。
【0066】
第3に、扉と溝形レールとの間にフリーローラ(図2(b)、符号24)を介在させたので、扉の上げ下げが極めて円滑になる。結果、ワイヤ及び電動チェーンブロックへの負荷が軽減され、ワイヤ及び電動チェーンブロックの点検頻度及び交換頻度を小さくすることができる。
【0067】
以上に述べた第1実施例の別実施例を、以下に述べる。
【0068】
[第2実施例]
図8(a)に示すように、扉落下防止機構40は、安全バー41と、ヒンジ42と、ハンドル43と、安全バー41の上面に付設したロードセル56とからなる。ロードセル56は、圧力が加わると電気が発生する圧電素子が好適である。
【0069】
図8(b)に示すように、ロードセル56に扉22が載ると、ロードセル56はその情報を外部へ伝える役割を果たす。
【0070】
図9に示すように、ロードセル56にサイレン38を付設する。サイレン38はベルや点滅ライトであってもよく、これらの組合せでもよい。ロードセル56に下向きの圧力が加わったときに、警報音が鳴る。
警報音により作業者は、扉22の下降操作を中断する。次に、扉22を数十mm程度上げて、安全バー41を待機位置へ移動する。
なお、警報音は、安全バー41を待機位置へ戻し忘れたときにだけ鳴るため、通常は鳴ることはない。
【0071】
[第2実施例の効果]
第1実施例でのリミットスイッチ45を、より小形で軽量で安価なロードセル56に置き換えることができる。ロードセル56は同等のセンサであってもよい。
【0072】
[第3実施例]
図10に示すように、扉落下防止機構40は、安全バー41と、ヒンジ42と、ハンドル43とからなる。
作業員に、扉22の開閉時には、扉22の挙動を注視することを義務付ける。仮に、安全バー41に扉22が当ると、音が発生する。この音で異常に気づくことが期待される。
【0073】
図11に示すように、吊り扉装置20に、リミットスイッチ(図2、符号45)やロードセル(図8(a)、(b)、符号56)を含めない、
【0074】
[第3実施例の効果]
リミットスイッチ45やロードセル56を使用しないため、吊り扉装置20のコストダウンを図ることができる。
【0075】
以上の第1~第3実施例では、溝形レール21に沿って延びる安全バー41を採用したが、扉22の高さ寸法が大きくなるほど、安全バー41が長くなる。
安全バー41の長さが気になるときには、次の実施例が推奨される。
【0076】
[第4実施例]
図12(a)に示すように、扉落下防止機構40は、溝形レール21のウェブ21bを貫通する扇状の安全板58と、扇の要が回転中心になるようにして安全板58を回転自在に溝形レール21に止めるピンヒンジ59と、安全板58を溝形レール21の溝内へ付勢するねじりばね61と、安全板58から延びるレバー62と、このレバー62から下げた第1ロッド(又はワイヤ)63と、この第1ロッド63の下端にねじ込むターンバックル64と、このターンバックル64から下げた第2ロッド65と、この第2ロッド65の下端に設けたキッカー66と、このキッカー66の下に設けた回転継手67と、この回転継手67から下げたL字ハンドル68と、このL字ハンドル68を案内するJ字溝69を有する操作板71と、この操作板71に設けたリミットスイッチ45とを備える。
【0077】
なお、ねじりばね61は、引張ばね又は圧縮ばねに変更することもできる。
【0078】
ターンバックル64には2個の雌ねじ部が設けられているが、一方は左ねじで他方は右ねじである。そのため、ターンバックル64を一方へ回すと第1ロッド63と第2ロッド65が接近し、他方へ回すと第1ロッド63と第2ロッド65が離れる。結果、容易に位置調整が行える。
【0079】
図12(a)で、仮に、扉22が下がっても、セット位置にある安全板58で受けられるため、それ以上の下がりは防止される。
また、図12(a)では、リミットスイッチ45は、運転禁止情報を発している。
【0080】
扉22を下げるときには、その前に作業員はL字ハンドル68を押し下げる。すると、第1ロッド63及び第2ロッド65を介して安全板58が図面時計方向に回される。
結果、図12(b)に示すように、安全板58は溝形レール21の外の待機位置へ移動する。この状態では、リミットスイッチ45は切り換わって運転許可情報を発する。扉22の上げ下げが可能となる。
【0081】
ねじりばね61の付勢作用により、第1~第2ロッド63、65及びL字ハンドル68は常に引き上げられる。L字ハンドル68を図面左へ少し倒すことで、L字ハンドル68をJ字溝69の先端に引っ掛ける。これで、図12(b)の状態が維持される。
【0082】
図12(b)で、扉22を全閉位置まで下げる。
扉22を開けるときには、その前にL字ハンドル68を少し図面右へ倒す。すると、ねじりばね61の作用で第1ロッド63、第2ロッド65及びL字ハンドル68が上がり、安全板58が図面反時計方向に回転する。安全板58は、ウェブ21bに設けた切欠き穴72を通過する。回転継手67を介在させたので、L字ハンドル68を図面右へ倒しても第1~第2ロッド63、65が捩じれることはない。
結果、図12(a)に円滑に戻る。
【0083】
なお、安全板58は、水平に延びる安全棒であってもよい。安全棒は、切欠き穴72から溝形レール21の溝に出入り可能とすればよい。
よって、安全板58の形状は実施例に限定されない。
【0084】
この第4実施例では、溝形レール21のウェブ21bに切欠き穴72を設ける必要がある。この切欠き穴72にフリーローラ(図2(a)、(b)、符号24)が落ちる(又は引っ掛かる)ため、扉22にフリーローラは設けない。加えて、ウェブ21bと扉22との間に隙間tを設ける。この隙間tの存在により、切欠き穴72を設けることができる。
【0085】
また、ねじりばね61のばね力に抗する作業員の操作力を、より小さくする必要があるときには、次に述べる構造が推奨される。
【0086】
[第5実施例]
図12(a)のL字ハンドル68を、図13(a)ではバーハンドル73に変更した。その他は共通するため、図13(a)では図12(a)の符号を流用して、構造の詳しい説明は省略する。
【0087】
図13(a)に示すように、バーハンドル73の途中に第2ロッド65の下端を取付ける。レバー比により、ねじりばね61のばね力に対して、作業員の操作力を1/2~1/3程度に小さくすることができる。
【0088】
図13(b)は図13(a)のb矢視図であり、I字形レバー形リミットスイッチ75は運転禁止情報を発する。
図13(c)は図13(a)の作用図であり、図13(c)の形態で扉22の開閉の準備をする。
図13(d)は図13(c)のd矢視図であり、I字形レバー形リミットスイッチ75は運転許可情報を発する。
【0089】
図13(c)、(d)にて、閉じた扉22を上昇限位置まで上げること、及び上昇限位置の扉22を閉じ位置まで下げることができる。
図13(a)、(b)にて、扉22の落下を防止することができる。
【0090】
なお、バーハンドル73を採用するときは、ねじりばね61を省略することができる。てこの原理により、バーハンドル73で第1~第2ロッド63、65を持ち上げることができるからである。
【0091】
ところで、図1に示す倉庫10は、建屋の高さの約1/3程度の高さの出入口11を有する。出入口11を基準にすると、出入口11の高さの約3倍が建屋の高さとなる。
倉庫10の用途によっては、低い建屋に大きな出入口11を設けることが求められる。この要求に応え得る構造を、以下に提示する。
【0092】
[倉庫の変更例]
図14に示す倉庫10は、出入口11の高さは図1と同じであるが、建屋は十分に低い。そのために、図14に示すように、扉22は、下扉22Aと上扉22Bからなる多重扉で構成する。
【0093】
図15に示すように、ストッパ片77に載っている上扉22Bの上縁に、鉤形の張り出し78が内側へ延びるように設けられている。ワイヤ23とチェーン31で吊られた下扉22Aが上昇すると、この下扉22Aの上縁が張り出し78に当る。以降は、下扉22Aで上扉22Bが押し上げられる。
【0094】
下扉22Aは内側溝形レール25で案内され、上扉22Bは外側溝形レール26で案内される。
作図の都合で分離して描いたが、外側溝形レール26の溝にストッパ片77が嵌められて固定され、このストッパ片77で上扉22Bの下限位置が規定される。
【0095】
内側溝形レール25に、本発明の扉落下機構(図2(a)、符号40)が付設される。
すなわち、図14の2a部は、図2(a)と同じで差し支えない。
よって、本発明は、出入口11を1枚の扉で塞ぐ倉庫10と、出入口11を2枚の扉で塞ぐ倉庫10との何れにも適用できる。
【0096】
この変更例によれば、図14に示すように、下扉22Aの高さは出入口11の高さの約1/2であり、上扉22Bの高さも出入口11の高さの約1/2である。
想像線で示す上昇限位置では下扉22Aと上扉22Bが前後に重なる。結果、低い建屋に大きな出入口11を設けることができる。
【0097】
扉22は、2枚に限らずに、3枚以上の多重扉であってもよい。多重扉を採用することで、出入口11の大きさと建屋の高さとを自由に決めることができる、倉庫10の設計自由度が格段に高まる。
【0098】
[ワイヤの止め方]
図1では、扉22の下辺にワイヤ23を連結した。一方、図14では、上扉22Bの上辺にワイヤ23を連結した。
扉22の横幅が6m以上であれば扉22の下辺にワイヤ23を連結し、扉22の横幅が6m未満であれば扉22の上辺にワイヤ23を連結することが推奨される。
【0099】
尚、リミットスイッチ45は、機械式センサの他、赤外線やレザー光を照射し物体の有無を判別する電気式非接触形センサであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の吊り扉装置は、農業用倉庫に好適である。
【符号の説明】
【0101】
20…吊り扉装置、21…溝形レール、21a…フランジ、21b…ウェブ、22…扉、23…ワイヤ、24…フリーローラ、30…電動チェーンブロック、40…扉落下防止機構、41…安全バー、42…ヒンジ、43…ハンドル、45…リミットスイッチ、47…角形鋼管。
【要約】
【課題】ワイヤの外径を所定値に留めることができる吊り扉装置を提供する。
【解決手段】左右一対の溝形レール21と、これらの溝形レール21で上下移動可能に案内される扉22と、この扉22を吊るワイヤ23と、このワイヤ23を引き上げる電動チェーンブロック30とを備える吊り扉装置10であって、この吊り扉装置10は、扉22が上昇限位置にあるときに扉22の下に差し込まれて、扉22の落下を防止する安全バー41を備えている。ワイヤ23を過度に太くする必要がなく、ワイヤ23の外径を所定値に留めることができる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15