(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】振動工具
(51)【国際特許分類】
B25D 17/24 20060101AFI20250821BHJP
【FI】
B25D17/24
(21)【出願番号】P 2025107874
(22)【出願日】2025-06-26
【審査請求日】2025-06-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510155210
【氏名又は名称】アピュアン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】渡部 幸雄
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-151682(JP,A)
【文献】特開2018-130823(JP,A)
【文献】特開2024-86090(JP,A)
【文献】特開2019-22921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 17/00
B25D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業状態で前後に振動する工具本体と、
前記工具本体に取り付けられて当該工具本体の振動が伝達される先端具と、
を備え、前記先端具をワークに当てて作業を行う振動工具であって、
前記工具本体に取り付けられて当該工具本体を被覆するカバー体を備え、
前記工具本体には、駆動スイッチ部が設けられており、
前記カバー体には、当該カバー体に対して可動自在な操作部が設けられており、当該操作部が可動することで、前記駆動スイッチ部に接触又は非接触となるように前記操作部が位置変換してなり、
前記操作部が前記駆動スイッチ部に接触する位置に変換されて当該駆動スイッチ部がオン状態になると前記工具本体が振動開始して作業状態となり、
前記カバー体は、
前記工具本体に取り付けられた非操作部側カバー部と、
前記非操作部側カバー部に、当該非操作部側カバー部に対して相対的に前後動自在に支持されており、かつ、前記操作部が接続された操作部側カバー部と、を具備し、
前記操作部側カバー部の内側周面部と前記工具本体の外側周面部との間には、前記工具本体の外側周面部に外嵌されて前記操作部側カバー部の内側周面部に接触可能で弾性変形自在な振動吸収体が介装されてなり、
さらに、前記振動吸収体の前方に前側コイルスプリング係止部が設けられているとともに、前記振動吸収体の後方に後側コイルスプリング係止部が設けられており、前記振動吸収体と前側コイルスプリング係止部との間隙に、弾性変形可能な範囲で弾縮した状態の前側コイルスプリングが前記工具本体に外嵌するように介装されてなり、当該振動吸収体と後側コイルスプリング係止部との間隙に、弾性変形可能な範囲で弾縮した状態の後側コイルスプリングが前記工具本体に外嵌するように介装されてなる
ことを特徴とする振動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに対して衝撃を与えて種々の作業を行う振動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されている打撃工具のような、工具本体を作業者が手で把持したり、ロボットアームに把持させたりして作業を行う振動工具が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような振動工具は、工具本体を把持して作業を行うものであり、作業中に工具本体が発する振動が作業者の手やロボットアームに強く伝達されてしまい、作業者の健康を害したり、ロボットアームの寿命を縮めたりしてしまうという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、かかる課題を解決しうる振動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、作業状態で前後に振動する工具本体と、前記工具本体に取り付けられて当該工具本体の振動が伝達される先端具と、を備え、前記先端具をワークに当てて作業を行う振動工具であって、前記工具本体に取り付けられて当該工具本体を被覆するカバー体を備え、前記工具本体には、駆動スイッチ部が設けられており、前記カバー体には、当該カバー体に対して可動自在な操作部が設けられており、当該操作部が可動することで、前記駆動スイッチ部に接触又は非接触となるように前記操作部が位置変換してなり、前記操作部が前記駆動スイッチ部に接触する位置に変換されて当該駆動スイッチ部がオン状態になると前記工具本体が振動開始して作業状態となり、前記カバー体は、前記工具本体に取り付けられた非操作部側カバー部と、前記非操作部側カバー部に、当該非操作部側カバー部に対して相対的に前後動自在に支持されており、かつ、前記操作部が接続された操作部側カバー部と、を具備し、前記操作部側カバー部の内側周面部と前記工具本体の外側周面部との間には、前記工具本体の外側周面部に外嵌されて前記操作部側カバー部の内側周面部に接触可能で弾性変形自在な振動吸収体が介装されてなり、さらに、前記振動吸収体の前方に前側コイルスプリング係止部が設けられているとともに、前記振動吸収体の後方に後側コイルスプリング係止部が設けられており、前記振動吸収体と前側コイルスプリング係止部との間隙に、弾性変形可能な範囲で弾縮した状態の前側コイルスプリングが前記工具本体に外嵌するように介装されてなり、当該振動吸収体と後側コイルスプリング係止部との間隙に、弾性変形可能な範囲で弾縮した状態の後側コイルスプリングが前記工具本体に外嵌するように介装されてなることを特徴とする振動工具である。
【0007】
かかる構成にあっては、振動の発生源となる工具本体に対して操作部側カバー部が振動吸収体を介して配設され、加えて当該操作部側カバー部に操作部が設けられているため、露出駆動スイッチ部をオン状態とする操作部に伝わる振動が飛躍的に抑制される。また、この操作部側カバー部は、非操作部側カバー部に対して前後に可動自在であるため、工具本体に取り付けられた非操作部側カバー部に伝わる振動も、操作部に伝わりにくい構成となっている。したがって、例えば、作業者やロボット等の作業主体が操作部を把持して露出駆動スイッチ部のオン状態を維持しながら作業をする際に、工具本体から発生する振動が作業主体に伝達されることを抑制することができる。これにより、作業主体が操作部を保持して作業する場合にも、作業者が健康を損ねることを防止したり、ロボットアームの寿命が縮むことを抑制したりすることができる。また、工具本体から発せられた前後方向の振動に対しても、各コイルスプリングの伸縮機能により効果的に振動が低減され、より一層、操作部側カバー部に振動が伝わってしまうことを抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、作業主体に振動が伝わりにくくすることのできる優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した例を詳細に説明する。なお、本発明は、下記に示す例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0011】
図1に示すように、例えばエアー式の振動工具1は、内部にシリンダー構造を有する工具本体10と、工具本体10の前端部に取り付けられた先端具11と、を備えている。かかる構成により、先端具11をワークW(
図2参照)に押し当ててワークWに衝撃力を付与して所要の作業を行うことが可能である。
【0012】
また、工具本体10の側周面からは、振動工具1の駆動状態を切り替える露出駆動スイッチ部13が突き出されている。そして、露出駆動スイッチ部13を工具本体10側に押し込むことによって、当該振動工具1の駆動源がオン状態となって工具本体10が駆動開始して先端具11が前後に振動し、先端具11の先端に接触したワークW(
図2参照)の表面を削ったり、溶接時に出るフラックス等の、ワークの表面に付着した不要物を除去したりする。逆に、露出駆動スイッチ部13の押し込みを解放すると、駆動源がオフ状態となって非作業状態となる。
【0013】
次に、本発明の要部について説明する。
振動工具1には、例えば樹脂材料からなる略円筒形のカバー体20が装着されている。詳述すると、カバー体20は、前後に分割されてなり、先端具11側(工具本体10において前部側)に配された前側カバー本体部21と、工具本体10の基端側(工具本体10において後部側)に配された後側カバー本体部22とで構成されている。
【0014】
前側カバー本体部21は、後側に向けて開放された筒材からなり、この前側カバー本体部21が、当該筒部材内に工具本体10が収容される態様で工具本体10に固定されている。また、前側カバー本体部21の前端には、先端具11が挿通される孔部23が貫通状に設けられ、該孔部23を介して先端具11が外向きに差し出されている。
【0015】
一方、後側カバー本体部22は、前側に向けて開放された筒材からなり、この後側カバー本体部22が、当該筒部材内に工具本体10が収容される態様となっている。また、この後側カバー本体部22の後端には、圧縮空気の導入部12が挿通される孔部24が形成されている。さらに、後側カバー本体部22の後部には、露出駆動スイッチ部13が挿通されるスイッチ開口部25が貫通状に形成されている。また、後側カバー本体部22には、長尺状の操作部45の一端が軸支部46を介して回動自在に取り付けられており、かかる操作部45を回動させることで、露出駆動スイッチ部13が押し込み可能となっている。
【0016】
ここで、前側カバー本体部21が、後側カバー本体部22を前後動自在に支持する機構について説明する。
前側カバー本体部21の後端部には、前側支持段部21Aが形成されているとともに、前側カバー本体部21の後端部に対向する後側カバー本体部22の前端部には、後側支持段部22Aが形成されている。そして、前側支持段部21Aと後側支持段部22Aとが互いに面接触するように重ね合わされることで前側カバー本体部21と後側カバー本体部22とが互いに組付けられ、後側カバー本体部22が前側カバー本体部21に対して前後動自在に支持されている。
【0017】
また、工具本体10の外周面には、固定式のリング材14に係止されたワッシャーで構成される前側コイルスプリング係止部15が形成されている。また、工具本体10の後部に設けられた、先端側よりも径大は径大部の端面で構成される後側コイルスプリング係止部26が形成されている。
【0018】
また、後側カバー本体部22の内部には、後側カバー本体部22に収容された工具本体10の外側周面部39に外嵌され、かつ外側周面部39と後側カバー本体部22の内側周面部27との間に介装された振動吸収体40が備えられている。かかる振動吸収体40は、外側周面部39に外嵌されたOリング17と、Oリング17の外周に配設された環状体41と、環状体41に外嵌されたCリング42等で構成される。特に、本実施例における振動吸収体40のCリング42は、外径が拡縮する金属製の一部切欠環状体が用いられている。この金属製の一部切欠環状体は、金属製であることから耐久性が高く寿命が長く、また、一部切欠環状体であるために自在に径方向に沿って拡縮して、工具本体10から後側カバー本体部22に伝達しようとする振動を適時に吸収することができる効果を奏する。なお、金属製の一部切欠環状体に関しては、例えば特開2015-226976号公報に開示されているものが好適に適用可能である。
【0019】
また、後側カバー本体部22の内部であって、振動吸収体40の前方にはワッシャー18が配され、かつ振動吸収体40と前側コイルスプリング係止部15との間には、前側コイルスプリング部35が弾性変形可能な範囲で弾縮した状態で配されている。これに対し、後側カバー本体部22の内部であって、振動吸収体40の後方にはワッシャー19が配され、かつ振動吸収体40と後側コイルスプリング係止部26との間には、後側コイルスプリング部36が弾性変形可能な範囲で弾縮した状態で配されている。
【0020】
次に、振動工具1を使った作業状態について説明する。
かかる振動工具1を駆動する際は、作業者の手やロボットアーム等で操作部45ごとカバー体20を把持する。すなわち、
図2に示すように、操作部45を回動させて操作部45に接触した露出駆動スイッチ部13が押し込まれると、所定の振動機構(図示省略)が起動して工具本体10が駆動開始する。ここで、駆動した工具本体10は先端具11を前後に振動させるが、同様に工具本体10も反力によって前後に振動する。かかる状況において、前側コイルスプリング部35、後側コイルスプリング部36、及び振動吸収体40によって特に後側カバー本体部22に伝達される振動は低減され、作業者の手やロボットアームに与えられる振動は従来の衝撃工具を直接把持する場合と比べて格段に減少する。そして、かかる構成を効果的に達成すべく、後側カバー本体部22が、前側カバー本体部21に対して前後自在に支持されているため、後側カバー本体部22が適性に微動して当該操作部45に伝わる振動が抑制されることとなる。また、ワークWに先端部11を押し付けた状態で作業者等が操作部45を把持したまま後側カバー本体部22を前方に押し込む強度に変化を持たせると、前側コイルスプリング部35と後側コイルスプリング部36の収縮動作により、ワークWに伝達される打撃力を変化させることも可能である。なお、スイッチ開口部25の開口径は、作業時に後側カバー本体部22が露出駆動スイッチ部13に接触しないような寸法に定められることが望ましい。
【0021】
上記実施例において、各部の寸法形状は適宜自由に選択可能である。
前側コイルスプリング部35、後側コイルスプリング部36及び振動吸収体40の線径等を調整することで、振動吸収効果を最適なものとすることができる。
【0022】
前側コイルスプリング部35、後側コイルスプリング部36及び振動吸収体40の配置数も特に限定されない。
【0023】
また、カバー体20は、上述の通り、作業者が手で把持して作業を行うものに限定されず、例えばロボットアームに把持させて作業を行うものに対しても適用可能である。
【0024】
また、振動工具1は、エアー式振動工具でもよいし、電動式振動工具でもよい。また、振動工具1は、建設分野で使用される場合や、製造業の生産現場で使用される場合もあり、また歯科医等によって使用される場合も含まれる。また、振動工具1における作業者等が保持する形状としては、本実施例のようなストレート形状であってもよいし、ピストル形状のものに適用しても勿論よい。
【符号の説明】
【0025】
1 振動工具
10 工具本体
11 先端具
12 導入部
13 露出駆動スイッチ部
14 リング材
15 前側コイルスプリング係止部
17 Oリング
18 ワッシャー
19 ワッシャー
20 カバー体
21 非操作部側カバー部
21A 前側支持段部
22 操作部側カバー部
22A 後側支持段部
23 孔部
24 孔部
25 スイッチ開口部
26 後側コイルスプリング係止部
27 内側周面部
35 前側コイルスプリング部
36 後側コイルスプリング部
39 外側周面部
40 振動吸収体
41 環状体
42 Cリング
45 操作部
46 軸支部
【要約】
【課題】振動工具の工具本体を把持するものに振動が伝わりにくくすることのできるカバー体を提供する。
【解決手段】作業者の手やロボットアーム等で操作部45ごとカバー体20を把持すると、操作部45を回動させて操作部45に接触した露出駆動スイッチ部13が押し込まれて工具本体10が駆動開始すると、前側コイルスプリング部35、後側コイルスプリング部36、及び振動吸収体40によって、特に後側カバー本体部22に伝達される振動が低減され、作業者の手やロボットアームに与えられる振動は従来の衝撃工具を直接把持する場合と比べて格段に減少する。
【選択図】
図1