(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20250821BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20250821BHJP
【FI】
B60W30/02
B60L15/20 J
(21)【出願番号】P 2021033189
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2024-02-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】金 太駿
(72)【発明者】
【氏名】大黒 智寛
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-100284(JP,A)
【文献】特開平05-338577(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022413(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/02
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪にトルクを出力する駆動部と、フロントサスペンションと、リアサスペンションとを備えた車両に搭載される車両制御装置であって、
アクセル操作量を検出するアクセル検出部と、
車速を推定する車速推定部と、
前記フロントサスペンションの伸縮量を検出するフロント検出部と、
前記リアサスペンションの伸縮量を検出するリア検出部と、
前記車速推定部により推定された車速に基づき、前記アクセル操作量に応じた前記車両の移動が停滞していると判別した場合に、前記アクセル操作量の増加割合に関わらずに前記トルクを増加させるトルク増加処理を含んだアシスト処理を開始するコントロールユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、
同一タイミングにおける前記フロント検出部の検出結果と前記リア検出部の検出結果との両方に基づ
き、
前記フロント検出部が検出した伸縮量と前記リア検出部が検出した伸縮量との差分が所定の閾値を超えた後に、前記フロント検出部が検出した伸縮量と平地上での等速走行時の前記フロントサスペンションの伸縮量との差分の絶対値が第1閾値未満となり、かつ、前記リア検出部が検出した伸縮量と平地上での等速走行時の前記リアサスペンションの伸縮量との差分の絶対値が第2閾値未満となった場合に、
前記アシスト処理を終了することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記コントロールユニットは、前記フロント検出部が検出した伸縮量と平地上での等速走行時の前記フロントサスペンションの伸縮量との差分の絶対値が第1閾値未満となり、かつ、前記リア検出部が検出した伸縮量と平地上での等速走行時の前記リアサスペンションの伸縮量との差分の絶対値が第2閾値未満となったことに基づき、前記アシスト処理を終了することを特徴とする請求項1記載の車両制御装置。
【請求項3】
運転者によりオン操作可能なアシスト操作部を更に備え、
前記コントロールユニットは、前記アシスト操作部がオン操作された場合に、前記アシスト処理を実行可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記アシスト処理には、複数回の前記トルク増加処理が含まれることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記アシスト処理は、第1回目の前記トルク増加処理によって、推定された車速が閾値を超えた場合に前記トルクを低下させる処理を含むことを特徴とする請求項4記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両が段差に差し掛かかることで車両の移動が停滞した場合に、コントロールユニットがトルクを増加させて車両が段差に乗り上がることをアシストする技術について記載されている(
図12)。当該技術においてコントロールユニットは、車速に基づいてアシストを終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が段差に乗り上がる際、車輪の空転が生じることがある。コントロールユニットが車速を推定する場合、車輪の回転速度が用いられて車速の計算が行われる。よって、特許文献1の車両制御のように、車速に基づいてアシストを終了したのでは、車両が段差に乗り上がる途中で車輪の空転が生じた場合に、望ましい車両の挙動が得られないことがある。
【0005】
本発明は、車両が段差に乗り上がる動作を安定的にアシストできる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
駆動輪にトルクを出力する駆動部と、フロントサスペンションと、リアサスペンションとを備えた車両に搭載される車両制御装置であって、
アクセル操作量を検出するアクセル検出部と、
車速を推定する車速推定部と、
前記フロントサスペンションの伸縮量を検出するフロント検出部と、
前記リアサスペンションの伸縮量を検出するリア検出部と、
前記車速推定部により推定された車速に基づき、前記アクセル操作量に応じた前記車両の移動が停滞していると判別した場合に、前記アクセル操作量の増加割合に関わらずに前記トルクを増加させるトルク増加処理を含んだアシスト処理を開始するコントロールユニットと、
を備え、
前記コントロールユニットは、
同一タイミングにおける前記フロント検出部の検出結果と前記リア検出部の検出結果との両方に基づき、
前記フロント検出部が検出した伸縮量と前記リア検出部が検出した伸縮量との差分が所定の閾値を超えた後に、前記フロント検出部が検出した伸縮量と平地上での等速走行時の前記フロントサスペンションの伸縮量との差分の絶対値が第1閾値未満となり、かつ、前記リア検出部が検出した伸縮量と平地上での等速走行時の前記リアサスペンションの伸縮量との差分の絶対値が第2閾値未満となった場合に、
前記アシスト処理を終了することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記アシスト処理によって、車両が段差に乗り上がる動作をアシストできる。さらに、コントロールユニットは、フロント検出部が検出したフロントサスペンションの伸縮量とリア検出部が検出したリアサスペンションの伸縮量とに基づいて、アシスト処理を終了させる。車両が段差へ乗り上がる際、フロントサスペンションとリアサスペンションとには、特徴的な挙動が現れ、これらの伸縮量の検出値に基づいて、段差への乗り上がりの完了を安定的に判別することができる。したがって、上記のアシスト処理によって、車両が段差に乗り上がる動作を安定的にアシストできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両制御装置を搭載した車両を示すブロック図である。
【
図2】車両が段差に乗り上がる動作をアシストするアシスト処理を説明するタイムチャートである。
【
図3】コントロールユニットが実行するアシスト制御処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図3のステップS5のアシスト処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両制御装置を搭載した車両を示すブロック図である。
【0010】
本実施形態の車両制御装置100を搭載した車両1は、EV(Electric Vehicle)又はHEV(Hybrid Electric Vehicle)などの電動車両である。車両1は、前輪2及び後輪3と、フロントサスペンション4と、リアサスペンション5と、駆動輪の駆動力を発生する電動モータ11と、走行用の電力を蓄積する走行用バッテリ12と、を備える。さらに、車両1は、走行用バッテリ12の電力を用いて電動モータ11を駆動するインバータ13と、運転者が運転操作を行う運転操作部14と、電動モータ11から出力されるトルクの制御を行うコントロールユニット21と、を備える。以下では、駆動輪が前輪2である構成を一例にとって説明するが、駆動輪は後輪3であってもよいし、前輪2及び後輪3の両方であってもよい。
【0011】
フロントサスペンション4は、前輪2と車体Hとの間に設けられ、前輪2と車体Hとの間に加わる荷重に応じて伸縮することで緩衝作用を及ぼす。リアサスペンション5は、後輪3と車体Hとの間に設けられ、後輪3と車体Hとの間に加わる荷重に応じて伸縮することで緩衝作用を及ぼす。
【0012】
車両1は、さらに、フロントサスペンション4の伸縮量を検出するフロント検出部22と、リアサスペンション5の伸縮量を検出するリア検出部23とを備える。フロント検出部22としては、例えばフロントサスペンションの2点(一端と他端など)間距離を計測するリニアセンサを適用できる。フロント検出部22及びリア検出部23の出力はコントロールユニット21に送られる。
【0013】
車両1は、さらに、前輪2及び後輪3の回転速度を検出する複数の車輪速センサ25と、車両1の回転角速度及び加速度を検出する慣性センサ26とを備える。複数の車輪速センサ25及び慣性センサ26の出力はコントロールユニット21に送られる。
【0014】
本実施形態に係る車両制御装置100は、フロント検出部22、リア検出部23、車輪速センサ25、慣性センサ26、アクセル検出部141a、アシスト操作部142及びコントロールユニット21を備える。
【0015】
運転操作部14は、アクセル操作部(例えばアクセルペダル)141と、アクセル操作部141の操作量を検出するアクセル検出部141aと、段差乗り上げアシストを発動可能とするアシスト操作部142とを備える。運転操作部14は、さらに、ブレーキ操作部(例えばブレーキペダル)143と、ブレーキ操作部143の操作量を検出するブレーキ検出部143aと、操舵部(例えばステアリングハンドル)144とを備える。アシスト操作部142は、操舵部に設けられたスイッチ(例えばパドルスイッチ)であり、運転者が操舵部144から手を外さずに操作することのできるスイッチである。なお、アシスト操作部142は、上記スイッチに限られず、操舵部144以外に設けられたボタン等の操作部であってもよい。
【0016】
コントロールユニット21は、計算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUがデータを展開するRAM(Random Access Memory)と、CPUが実行する制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、CPUとコントロールユニット21の外部の機器との間で信号を授受するインタフェースとを備えるECU(Electronic Control Unit)である。コントロールユニット21は、1つのECUから構成されてもよいし、互いに通信を行って連携して動作する複数のECUから構成されてもよい。
【0017】
コントロールユニット21は、通常運転モードの際、アクセル検出部141aから出力されるアクセル操作量を示す信号を受け、運転操作等に応じた目標トルクを計算し、当該目標トルクが得られるように、インバータ13を介して電動モータ11を駆動する。
【0018】
コントロールユニット21は、車速を推定する車速推定部としても機能する。車速とは、車体Hの速度を意味する。コントロールユニット21は、前輪2及び後輪3の各車輪速センサ25の値と慣性センサ26の値とから車速を推定する。前輪2及び後輪3には空転が生じる可能性があることを考慮し、コントロールユニット21は、前輪2及び後輪3の全車輪速センサ25の値(第1値~第4値)のうち、複数の値が均衡しない場合に、均衡しない値を無視して車速を推定してもよい。あるいは、コントロールユニット21は、第1値が均衡しない場合に、均衡している第2値から第4値と慣性センサ26の値とに基づき第1値を修正して、車速を推定してもよい。
【0019】
コントロールユニット21は、フロント検出部22及びリア検出部23の出力に基づきフロントサスペンション4の伸縮量とリアサスペンション5の伸縮量とを取得する。さらに、コントロールユニット21は、フロントサスペンション4の基準伸縮量の値とリアサスペンション5の基準伸縮量の値を保持する。
【0020】
フロントサスペンション4の基準伸縮量とは、平地での等速走行中(或いは停止中)におけるフロントサスペンション4の伸縮量を意味する。リアサスペンション5の基準伸縮量とは、平地での等速走行中(或いは停止中)におけるリアサスペンション5の伸縮量を意味する。基準伸縮量は、搭乗者を含めた車体Hの総重量により変化するので、コントロールユニット21は、平地での等速走行中にフロント検出部22とリア検出部23とから入力された各値を基準伸縮量として記憶する。または、搭乗者の重量による伸縮量の影響が小さい場合、搭乗者の重量を無視した基準伸縮量の値、あるいは、平均的な搭乗者の重量が加わったときの基準伸縮量の値が計算され、例えば製造段階で当該値がコントロールユニット21に与えられてもよい。
【0021】
特に限定されないが、以下では、コントロールユニット21は、フロント検出部22が検出した伸縮量の値から、フロントサスペンション4の基準伸縮量を差し引いた値を、フロントサスペンション4の伸縮量として扱うものとして説明する。当該伸縮量は、フロントサスペンション4の基準伸縮量をゼロとしたときの相対的な伸縮量を表わすものであり、以下では、当該伸縮量を「フロント伸縮量」とも呼ぶ。同様に、コントロールユニット21は、リア検出部23が検出した伸縮量の値から、リアサスペンション5の基準伸縮量を差し引いた値を、リアサスペンション5の伸縮量として扱うものとして説明する。当該伸縮量は、リアサスペンション5の基準伸縮量をゼロとしたときの相対的な伸縮量を表わすものであり、以下では、当該伸縮量を「リア伸縮量」とも呼ぶ。伸縮量の正負は、正値が伸びる方を示し、負値が縮む方を示すものとする。
【0022】
コントロールユニット21は、車両1が段差fに乗り上がる動作をアシストするアシスト処理を実行可能である。アシスト処理は、車両1が段差fに乗り上がる際に、運転者の巧みなアクセル操作を要さずに、車両1の理想的な動作を実現することのできる制御処理である。
【0023】
<段差乗り上がり時の車両の理想的な動作>
図2は、車両が段差に乗り上がる動作をアシストするアシスト処理を説明するタイムチャートである。まず、
図2を参照して、車両1が段差fに乗り上がる際の理想的な動作を説明する。
【0024】
図2に示すように、車両1が段差fに乗り上がる際には、まず、前輪2が段差fに差し掛かることで車速がほぼゼロまで低下する(タイミングt1)。そして、その後の期間T1に、前輪2に出力されるトルクが増加し、段差fに乗り上がり可能なトルクに達すると(タイミングt2)、前輪2が段差fに乗り上がり、ゼロより大きい車速が生じる。前輪2が段差fに乗り上がったら、車両1が急加速しないように前輪2のトルクが低減されることで、車両1を緩やかに前進することができる(期間T2)。その後、後輪3が段差fに差し掛かることで、再び、車速がほぼゼロまで低下する(タイミングt3)。そして、その後の期間T3に、前輪2に出力されるトルクが増加し、後輪3が段差fに乗り上がり可能なトルクに達すると(タイミングt4)、後輪3が段差fに乗り上がり、ゼロより大きい車速が生じる。後輪3が段差fに乗り上がったら、車両1が急加速しないように、前輪2のトルクが低下されることで、車両1を緩やかに前進させることができる。
【0025】
上記の理想的な車両1の動作中、前輪2が段差fに差し掛かってから段差fに乗り上がるまでには、フロントサスペンション4が伸縮することがある。しかし、前輪2が段差fに乗り上がり、後輪3が段差fに差し掛かっていない期間T2には、車体Hが後傾姿勢となる。したがって、車体Hの重心を支える前後割合が変化し、リアサスペンション5が縮み(リア伸縮量が負値となり)、フロントサスペンション4が伸びる(フロント伸縮量が正値となる)。すなわち、フロント伸縮量とリア伸縮量の差分が大きくなる。
【0026】
その後、後輪3が、段差fに乗り上がり、車体Hの姿勢が水平に戻ると、フロントサスペンション4及びリアサスペンション5は基準伸縮量(平地で等速走行中の伸縮量)に戻る。すなわち、フロント伸縮量の絶対値が基準伸縮量(ゼロ)に近い値となり、リア伸縮量の絶対値が基準伸縮量(ゼロ)に近い値となる。
【0027】
上記のような車両1の理想的の動作を、運転者のアクセル操作によって実現しようとすると、巧みな操作が必要となり、慣れない運転者には困難である。
【0028】
<アシスト処理>
コントロールユニット21は、車両1が段差fに差し掛かったときに、次のようにアシスト処理を行う。まず、コントロールユニット21は、
図2に示すように、アクセル操作量が操作量閾値THac(例えば略ゼロ)よりも大きく、車速が停滞を示す値(例えば略ゼロ)であり、かつ、アシスト操作部142がオン操作されているという条件を判別する。そして、条件が満たされている場合に、コントロールユニット21は、アシスト処理を開始する(タイミングt1)。上記の操作量閾値THacは、略ゼロに限られず、ゼロより大きい値で、運転者に前進又は後退の意思があることを識別できる値であってもよい。停滞を示す値は、略ゼロに限られず、車両1が僅かに前後振動するときの値を含んでもよい。上記のアシスト処理を開始する条件において、アクセル操作量が操作量閾値THacよりも大きく、かつ、車速が停滞を示す値である状態とは、アクセル操作量に応じた車両1の移動が停滞している状態に相当する。
【0029】
アシスト処理が開始されると、
図2の期間T1に示すように、コントロールユニット21は、アクセル操作量の増加割合に関係なく、電動モータ11のトルクを漸次高くするトルク増加処理を実行する。トルクが漸次高くなることで、前輪2が段差fに乗り上がり、車速が生じる。コントロールユニット21は、推定車速を監視し、車速が車速閾値THv以上になったら、
図2の期間T2に示すように、電動モータ11のトルクを一旦低下させるトルク低減処理を実行する。車速閾値THvは、車両1の移動が停滞している状態と、段差fを超えて停滞が解除された状態とを識別可能な値に設定される。
【0030】
上述した期間T1のトルク増加処理により、前輪2を段差f上に緩やかに上げることができ、上述した期間T2のトルク低減処理により、前輪2が段差fに乗り上がった後、急加速することなく、車両1を緩やかに前進させることができる。
【0031】
コントロールユニット21は、アシスト処理中、フロントサスペンション4の伸縮量(フロント伸縮量)と、リアサスペンション5の伸縮量(リア伸縮量)とを監視する。
図2のサスペンション伸縮量の項目では、基準伸縮量をゼロとしたときの相対的な伸縮量を示している。基準伸縮量とは、前述したように、平地での等速走行中(或いは停止中)における絶対的な伸縮量を意味する。
【0032】
ここで、フロント伸縮量が正値となり、リア伸縮量が負値となり、両者の差分が大きくなると、前輪2が段差fに乗り上げ、車体Hが後傾姿勢になったと判別できる。したがって、コントロールユニット21は、フロント伸縮量とリア伸縮量の差分が、差分閾値THfr以上となったかを判別し、以上となれば、前輪2が段差fに乗り上がったと識別する。差分閾値THfrは、段差fによって車体Hが後傾姿勢となったときと水平なときとを識別できる値に設定される。
【0033】
期間T2のトルク低減処理の後、続いて、後輪3が段差fに差し掛かることで、再び、車速が停滞を示す値となる(タイミングt3)。したがって、コントロールユニット21は、停滞を判別すると、2回目のトルク増加処理(期間T3に示す)を実行する。すなわち、アクセル操作量の増加割合に関係なく、電動モータ11のトルクを漸次高くする。トルクが漸次高くなることで、後輪3が段差fに乗り上がる。
【0034】
フロント伸縮量とリア伸縮量との差異が差分閾値THfr以上となった後、コントロールユニット21は、フロント伸縮量の絶対値が第1閾値THf未満とになり、かつ、リア伸縮量の絶対値が第2閾値THr未満となったか監視する。ここで、第1閾値THfは、後輪3が段差fに乗ってない状態と、乗った後の状態とを識別できる値に設定されればよく、例えば基準伸縮量(ゼロ)に近い値に設定される。同様に、第2閾値THrは、後輪3が段差fに乗ってない状態と、乗った後の状態とを識別できる値に設定されればよく、例えば基準伸縮量(ゼロ)に近い値に設定される。
【0035】
そして、後輪3が段差fに乗り上がることで、フロント伸縮量の絶対値が第1閾値THf未満とになり、かつ、リア伸縮量の絶対値が第2閾値THr未満となると(タイミングt4)、コントロールユニット21は、アシスト終了処理を行う。すなわち、コントロールユニットは、電動モータ11のトルクを低下させるトルク低減処理(期間T4に示す)を行って、アシスト処理を終了する。
【0036】
上述した期間T3のトルク増加処理により、後輪3を段差f上に緩やかに上げることができ、上述した期間T4のトルク低減処理により、その後、急加速することなく、車両1を緩やかに前進させることができる。
【0037】
上述したアシスト処理中、コントロールユニット21は、アシスト操作部142の操作状態を監視し、アシスト操作部142のオン操作が解除された場合には、アシスト処理を途中で終了する。このような制御により、車両1が段差fに乗り上がることを、運転者が途中で中止することができる。あるいは、乗り上がりの途中から運転者が自己のアクセル操作で車両1を操ることができる。また、コントロールユニット21は、アシスト処理中、アクセル操作量を示す信号を監視し、アクセル操作量がゼロになった場合には、アシスト制御を途中で終了するようにしてもよい。このような制御により、車両1が段差fに乗り上がることを、アクセル操作によって、運転者が途中で中止させることができる。
【0038】
<アシスト制御の処理フロー>
図3は、コントロールユニットにより実行されるアシスト制御処理を示すフローチャートである。上述したアシスト処理は、
図3のアシスト制御処理によって実現される。アシスト制御処理は、車両1のシステムの起動時に開始される。
【0039】
アシスト制御処理が開始されると、まず、コントロールユニット21は、アクセル操作量が操作量閾値THacよりも大きいか否かの判別(ステップS1)、推定された車速が停滞を示す値(例えばほぼゼロ)であるか否かの判別(ステップS2)、アシスト操作部142がオン操作されているか否かの判別(ステップS3)を行う。そして、いずれかがNOであれば、コントロールユニット21は、ステップS1からの判別処理を繰り返す。一方、ステップS1~S3の判別処理の結果が全てYESであれば、コントロールユニット21は、アシスト処理の初期化処理を行い(ステップS4)、処理をステップS5に進めて、アシスト処理を開始する。ステップS4の初期化処理では、コントロールユニット21は、後述する制御状態iを初期値「i=1」とし、伸縮差フラグを初期値「0」とする。
【0040】
図4は、ステップS5のアシスト処理の詳細を示すフローチャートである。
図4のアシスト処理は、
図3のステップS5~S9のループ処理によって、制御サイクルごとに繰り返し実行される。
【0041】
アシスト処理では、まず、コントロールユニット21は、制御状態iを判別する(ステップS21)。制御状態iは、
図3のステップS4の初期化時に初期段階の値にセットされる。ステップS21の判別の結果、制御状態i=1(初期段階)であれば、コントロールユニット21は、電動モータ11のトルクを漸次上昇させ(ステップS22)、推定された車速が車速閾値THv以上か判別する(ステップS23)。そして、ステップS23の判別の結果がNOであれば、コントロールユニット21は、そのまま、1回の制御サイクルの処理を終了する。一方、ステップS23の判別の結果がYESであれば、コントロールユニット21は、制御状態iを第2段階の値「i=2」に更新し(ステップS24)、1回の制御サイクルの処理を終了する。
図3のステップS5~S9のループ処理において、制御状態i=1の処理が繰り返し実行されることで、
図2の期間T1のトルク上昇処理が実現される。
【0042】
また、ステップS21の判別結果、制御状態i=2(第2段階)であれば、コントロールユニット21は、電動モータ11をのトルクを低い値に低減させ(ステップS25)、車速が停滞を示す値になるか判別する(ステップS26)。そして、ステップS26の判別の結果がNOであれば、コントロールユニット21は、そのまま、1回の制御サイクルの処理を終了する。一方、ステップS25の判別の結果がYESであれば、コントロールユニット21は、制御状態iをi=3(第3段階)に更新し(ステップS27)、1回の制御サイクルの処理を終了する。
図3のステップS5~S9のループ処理において、制御状態i=2の処理が繰り返し実行されることで、
図2の期間T2のトルク低減処理が実現される。
【0043】
また、ステップS21の判別結果、制御状態i=3(第3段階)であれば、コントロールユニット21は、電動モータ11のトルクを漸次上昇させ(ステップS28)、1回の制御サイクルの処理を終了する。
図3のステップS5~S9のループ処理において、制御状態i=3の処理が繰り返し実行されることで、
図2の期間T3のトルク上昇処理が実現される。
【0044】
コントロールユニット21は、
図3のステップS5で一回の制御サイクル分のアシスト処理を実行したら、続いて、アシスト操作部142のオン操作が維持されているか判別する(ステップS6)。さらに、維持されていれば、コントロールユニット21は、フロント伸縮量とリア伸縮量との差分が差分閾値THfr以上か否かを判別する(ステップS7)。その結果、YESであれば、コントロールユニット21は、伸縮差フラグを「1」にセットし、ステップS9に処理を進めるが、NOであれば、そのままステップS9に処理を進める。伸縮差フラグは、
図2の期間T1の後半から期間T3の前半にかけて、車体Hが後傾姿勢となり前輪2が段差fに乗り上がった後であることを示すフラグに相当する。
【0045】
続いて、コントロールユニット21は、伸縮差フラグが「1」、フロント伸縮量の絶対値が第1閾値THf未満、かつ、リア伸縮量の絶対値が第2閾値THr未満であるか判別する(ステップS9)。そして、判別結果がNOであれば、コントロールユニット21は、処理をステップS5に戻す。一方、ステップS6の判別結果がNO、又は、ステップS9の判別結果がYESであれば、コントロールユニット21は、ステップS5~S9のループ処理を抜けて、電動モータ11のトルクを低い値に低減させるアシスト終了処理を行う(ステップS10)。ステップS10の処理により、
図2の期間T4のトルク低減処理が実現される。そして、ステップS5~S9のループ処理が終了することで、アシスト処理が終了し、コントロールユニット21は、処理をステップS1に戻す。
【0046】
なお、
図3に破線で示すように、ステップS5~S7のループ処理において、コントロールユニット21は、アクセル操作量がゼロか否かを判別し(ステップS6a)、ゼロでなければステップS5~S9のループ処理を継続してもよい。さらに、ゼロであれば、コントロールユニット21は、ループ処理を終了して、処理をステップS10に移行させるようにしてもよい。このような処理が追加されることで、アシスト処理中にアクセル操作量がゼロになった場合に、アシスト処理を中止することができる。
【0047】
アシスト制御処理のプログラムは、コントロールユニット21のROMなどの非一過性の記憶媒体(non transitory computer readable medium)に記憶されている。コントロールユニット21は、可搬型の非一過性の記録媒体に記憶されたプログラムを読み込み、当該プログラムを実行するように構成されてもよい。上記の可搬型の非一過性の記憶媒体は、上述したアシスト制御処理のプログラムを記憶していてもよい。
【0048】
以上のように、本実施形態の車両制御装置100によれば、コントロールユニット21は、アクセル操作量が操作量閾値THacよりも大きく、かつ、推定された車速が停滞を示す値である場合に、アシスト処理を実行する。アシスト処理には、アクセル操作量の増加割合に関わらずに電動モータ11のトルクを漸次増加させるトルク増加処理が含まれる。したがって、アシスト処理により、難しい運転操作を要さずに、車両1を段差fに上げることができる。
【0049】
さらに、コントロールユニット21は、フロントサスペンション4の伸縮量を検出するフロント検出部22とリアサスペンション5の伸縮量を検出するリア検出部23との検出結果に基づいて、アシスト制御を終了する。前輪2が段差fに乗り上がっているときと、前輪2及び後輪3が段差fに乗り上がったときとでは、フロントサスペンション4の伸縮量とリアサスペンション5の伸縮量とに特徴的な違いが生じる。したがって、これらの検出結果に基づいてアシスト処理を終了することで、車両1が段差fに乗り上がる前にアシスト処理が終了してしまうなどの不都合を抑制し、安定的なアシスト処理を実現できる。例えば、推定車速に基づいてアシスト制御を終了させる構成では、例えば前輪2又は後輪3が空転した場合に、推定車速の値が高くなって、車両1が段差fに乗り上がる前にアシスト処理が終了してしまう可能性がある。本実施形態の車両制御装置100では、このような失敗を低減できる。
【0050】
さらに、本実施形態の車両制御装置100によれば、コントロールユニット21は、フロント伸縮量の絶対値が第1閾値THf未満となり、かつ、リア伸縮量の絶対値が第2閾値THr未満となったか判別する(
図3のステップS9)。そして、当該判別の結果がYESになったことに基づき、コントロールユニット21は、アシスト処理を終了する。上記判別処理により、コントロールユニット21は、車両1が段差fに乗り上がったタイミングをより安定的に判別できる。したがって、コントロールユニット21は、アシスト処理により、車両1が段差fに乗り上がった後の適宜なタイミングで、アシスト処理を終了できる。
【0051】
さらに、本実施形態の車両制御装置100によれば、運転者によりオン操作可能なアシスト操作部142を備え、コントロールユニット21は、アシスト操作部142がオン操作されている場合に、アシスト処理を実行可能である。したがって、運転者は、アシスト処理の実行又は非実行をアシスト操作部142の操作によって切り替えることができ、運転者の意図に反してアシスト処理が実行されてしまうことを抑制できる。
【0052】
さらに、本実施形態の車両制御装置100によれば、コントロールユニット21が実行するアシスト処理には、複数回のトルク増加処理(
図2の期間T1、T3に示す)が含まれる。したがって、前輪2が段差fに乗り上がるときのトルク増加処理と、後輪3が段差fに乗り上がるときのトルク増加処理とを、別々に行うことができる。よって、2つのトルク増加処理の間に、別のトルクの制御を行うことも可能となる。
【0053】
さらに、本実施形態の車両制御装置100によれば、コントロールユニット21は、第1回目のトルク増加処理(
図2の期間T2)で、推定車速が車速閾値THvを超えた場合に、トルクを低下させるトルク低減処理を行う。したがって、前輪2が段差fに乗り上がってから、後輪3が段差fに差し掛かるまでの期間にトルクを下げて、車両1に急加速が生じてしまうことを抑制できる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、アシスト処理を終了するフロントサスペンション4の伸縮量とリアサスペンション5の伸縮量との条件の一例を具体的に示した。しかし、上記の条件からは、例えば、ステップS7に示したフロント伸縮量とリア伸縮量との差が一旦大きくなった後という条件が省略されても良いし、車両の加減速に基づくフロント伸縮量及びリア伸縮量への影響が考慮された条件が追加されてもよい。また、上記実施形態では、コントロールユニット21が、フロントサスペンション4の伸縮量及びリアサスペンション5の伸縮量を、基準伸縮量をゼロとしたときの相対的な値として扱っている例を示した。しかし、コントロールユニット21は、フロントサスペンション4の伸縮量及びリアサスペンション5の伸縮量を、フロント検出部22とリア検出部23とがそれぞれ出力した値として扱ってもよい。この場合、コントロールユニット21は、フロント検出部22とリア検出部23とが出力した値と、保持されたフロントサスペンション4の基準伸縮量及びリアサスペンション5の基準伸縮量とを用いて、
図3のステップS9と等価な判別処理を行ってもよい。また、上記実施形態では、車両1が前進して段差に乗り上がるのをアシストする構成を示したが、本発明は、車両1が後退して段差に乗り上がるのをアシストする構成にも適用可能である。実施形態の説明において前輪2と後輪3とを逆にし、かつ、フロントサスペンション4の伸縮量とリアサスペンション3の伸縮量とを逆にすることで、車両1が後退して段差に乗り上がるときのアシスト処理を実現できる。また、上記実施形態では、アシスト処理を終了する際に、コントロールユニット21がトルクを低減する処理を行う例を示したが、当該処理は省略されてもよい。また、上記実施形態では、フロントサスペンションの伸縮量を検出するフロント検出部及びリアサスペンションの伸縮量を検出するリア検出部としてリニアセンサを例示したが、上記の伸縮量を検出できればどのようなセンサが採用されてもよい。また、上記実施形態では、駆動輪にトルクを出力する駆動部として電動モータを例示したが、駆動部は内燃機関であるエンジンであってもよい。その他、車速の推定方法、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 車両
2 前輪(駆動輪)
3 後輪
4 フロントサスペンション
5 リアサスペンション
11 電動モータ(駆動部)
14 運転操作部
141a アクセル検出部
142 アシスト操作部
21 コントロールユニット
22 フロント検出部
23 リア検出部
25 車輪速センサ
26 慣性センサ
100 車両制御装置