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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】基板処理装置および基板処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/306 20060101AFI20250821BHJP
【FI】
H01L21/306 R
H01L21/306 D
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021051556
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149413
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 晃久
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-154860(JP,A)
【文献】特開2008-066351(JP,A)
【文献】特開2015-174014(JP,A)
【文献】特開2018-056469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/304-H01L21/467
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部の開口寸法が10ナノメートル以下である箇所を含む狭所をエッチングする狭所エッチングを行う基板処理装置であって、
前記狭所エッチングのエッチャントとして作用し液中でイオン化する溶質を含む薬液を調製する薬液調製部と、
基板を収容し、前記薬液により前記基板をエッチング処理する処理チャンバと、
前記薬液中の前記狭所エッチングに寄与しないまたは前記狭所エッチングの反応を阻害する特定のイオン種を少なくとも一部除去するイオン除去部と、
前記薬液調製部から送出される前記薬液を、前記イオン除去部を経由して前記処理チャンバ内の前記基板に供給する前記薬液の流路を形成する薬液供給部と
を備える、基板処理装置。
【請求項2】
前記イオン除去部は前記処理チャンバに設けられる、請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記イオン除去部は前記処理チャンバの内部に設けられる、請求項2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記薬液調製部は、調製された前記薬液を一時的に貯留する貯留容器を有し、
前記薬液供給部は、前記貯留容器から送出された前記薬液を前記貯留容器に循環させる循環流路を有し、
前記循環流路から分岐した前記流路に前記イオン除去部が設けられる、請求項1ないし3のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記薬液調製部は、調製された前記薬液を一時的に貯留する貯留容器を備え、
前記薬液供給部は、前記貯留容器から送出された前記薬液を前記貯留容器に循環させる循環流路と、前記循環流路から分岐して前記基板に前記薬液を供給する供給流路とを有し、
前記貯留容器から前記供給流路との分岐点に至る前記循環流路に、前記イオン除去部と、前記薬液中の前記イオン種の濃度を計測する濃度計測部と、前記濃度計測部の計測結果に基づき前記薬液中のイオン濃度を調整する濃度調整部と
が設けられる、請求項1ないし3のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記循環流路に接続され前記イオン除去部をバイパスするバイパス流路と、
前記バイパス流路における前記薬液の流量を制御する制御バルブと
をさらに備える、請求項4または5に記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記イオン除去部は、イオン交換樹脂またはイオン交換膜により前記イオン種を除去する、請求項1ないし6のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記イオン除去部が有する前記イオン交換樹脂を再生する再生部をさらに備える、請求項7に記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記薬液調製部は、前記薬液中の未電離の前記溶質の濃度計測結果に基づき前記薬液に加える前記溶質の量を制御する、請求項1ないし8のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項10】
前記薬液は前記エッチャントとしてのフッ化水素を含み、前記イオン除去部は二フッ化水素イオンを除去する、請求項1ないし9のいずれかに記載の基板処理装置。
【請求項11】
凹部の開口寸法が10ナノメートル以下である箇所を含む狭所をエッチングする狭所エッチングを行う基板処理方法であって、
前記狭所エッチングのエッチャントとして作用し液中でイオン化する溶質を含む薬液を調製する工程と、
調製された前記薬液をイオン除去部に送液し、前記薬液中の前記狭所エッチングに寄与しないまたは前記狭所エッチングの反応を阻害する特定のイオン種を少なくとも一部除去する工程と、
前記イオン除去部を通過した前記薬液を基板に供給してエッチング処理する工程と
を備える、基板処理方法。
【請求項12】
前記開口寸法の最小値が5ナノメートル以下である、請求項11に記載の基板処理方法。
【請求項13】
前記薬液は前記エッチャントとしてのフッ化水素を含み、前記イオン除去部は二フッ化水素イオンを除去する、請求項11または12に記載の基板処理方法。
【請求項14】
エッチング処理による除去対象物が二酸化ケイ素である、請求項13に記載の基板処理方法。
【請求項15】
前記薬液は前記エッチャントとしての過酸化水素を含み、前記イオン除去部は過酸化水素イオンを除去する、請求項11または12に記載の基板処理方法。
【請求項16】
エッチング処理による除去対象物が二酸化チタンである、請求項15に記載の基板処理方法。
【請求項17】
前記イオン除去部を通過した前記薬液中のイオン濃度を計測する工程と、
前記計測の結果に基づき前記薬液中のイオン濃度を調整する工程と
を備える、請求項11ないし16のいずれかに記載の基板処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオン化した溶質を含む薬液により基板をエッチング処理する基板処理装置および基板処理方法に関するものであり、特に微細パターンなどの狭所をエッチングする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置などの電子部品の製造工程には、薬液を用いて基板を部分的にエッチング除去し、所望のパターンを形成するエッチング工程が含まれる。近年では、特にパターンの微細化や電子部品の三次元構造化に伴い、比較的広い開口を有する凹部を形成するだけでなく、開口が狭く且つ深い形状の細長サイズの凹部を形成することが、エッチング処理において要求されることがある。
【0003】
例えば特許文献1には、半導体基板の表面上に互いに異なる組成を有する2種類の薄膜を交互に繰り返して積層して形成された積層体のうち、一方の薄膜をエッチング処理により選択的に除去することにより三次元構造を実現する、半導体記憶装置の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-027125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には構造の各部における寸法については明確に記載されていないが、エッチング処理の対象となるパターンの凹部の開口寸法が微小、例えば10ナノメートル以下になるような狭所エッチングでは、エッチングレートが極端に低下することがわかってきている。後述するように、この現象は、薬液とこれに接するエッチング対象物の表面との界面に電気二重層が形成され、これにより形成される電界が薬液中のイオンに斥力を及ぼすことが一因であると考えられる。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板にエッチング処理を行う基板処理装置および基板処理方法において、微細パターンを含む基板を良好なエッチングレートでエッチング処理することを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一の態様は、凹部の開口寸法が10ナノメートル以下である箇所を含む狭所をエッチングする狭所エッチングを行う基板処理装置であって、前記狭所エッチングのエッチャントとして作用し液中でイオン化する溶質を含む薬液を調製する薬液調製部と、基板を収容し、前記薬液により前記基板をエッチング処理する処理チャンバと、前記薬液中の前記狭所エッチングに寄与しないまたは前記狭所エッチングの反応を阻害する特定のイオン種を少なくとも一部除去するイオン除去部と、前記薬液調製部から送出される前記薬液を、前記イオン除去部を経由して前記処理チャンバ内の前記基板に供給する前記薬液の流路を形成する薬液供給部とを備える、基板処理装置である。
【0008】
また、この発明の他の一の態様は、凹部の開口寸法が10ナノメートル以下である箇所を含む狭所をエッチングする狭所エッチングを行う基板処理方法であって、前記狭所エッチングのエッチャントとして作用し液中でイオン化する溶質を含む薬液を調製する工程と、調製された前記薬液をイオン除去部に送液し、前記薬液中の前記狭所エッチングに寄与しないまたは前記狭所エッチングの反応を阻害する特定のイオン種を少なくとも一部除去する工程と、前記イオン除去部を通過した前記薬液を基板に供給してエッチング処理する工程とを備える、基板処理方法である。
【0009】
このように構成された発明では、基板に供給される薬液から、狭所エッチングに寄与しない、または狭所エッチングの反応を阻害する特定のイオン種の含有量が人工的に低減されている。薬液に含まれる溶質はその一部が電離し、薬液中には電離により生成されたイオンと、未電離の溶質とが混在した状態となっている。通常は、イオンと未電離の溶質とが電離平衡を保つ濃度でそれぞれが液中に存在している。本発明では、薬液から特定のイオン種を除去してから基板に供給するため、基板に供給される薬液は電離平衡が崩れた状態となっている。
【0010】
以下の説明において「狭所」とは、被処理基板または該基板上に積層された構造体に予め形成された、またはエッチング処理の結果として形成される凹部であって、開口部の直径、幅等の最小寸法が概ね10ナノメートル以下のものを想定している。
【0011】
詳しくは後述するが、本願発明者の知見によれば、エッチャントとして薬液中に含まれる一部のイオン種は、狭所ではエッチング処理に対する寄与が小さくなり、このことが狭所エッチングにおいてエッチングレートが低下する原因になっていると考えられる。一方で、このように処理に寄与しないイオンの滞留が被処理部位への他のエッチャントの供給を妨げることが考えられる。
【0012】
そこで、本発明では、薬液中のエッチャントのうち狭所エッチング処理への寄与が小さい特定のイオン種を少なくとも一部除去し、これにより、処理に寄与するエッチャントが効率よく被処理部位に供給されるようにする。こうすることで、狭所に対するエッチング処理の効率を向上させ、エッチングレートの低下を抑えることができる。
【0013】
なお、薬液から一部のイオン種を除去しても、時間の経過とともに電離平衡が移動して当該イオン種が再び増加してくる。このことから、イオン種の除去は基板に供給される直前に行われることが好ましい。これを可能とするために、本発明では、調整された薬液が基板に供給される流路上にイオン除去部が設けられる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された発明によれば、薬液中のエッチング処理に寄与しないイオン種の含有量を低減させることにより、例えば開口寸法が10ナノメートル以下の狭所を有する基板であっても、エッチングレートの低下を抑えて良好にエッチング処理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の対象となる基板上の構造体の事例を示す図である。
図2】三次元NAND構造を形成する工程の一部を模式的に示す図である。
図3】本発明の対象となる基板上の構造体の他の事例を示す図である。
図4】開口寸法に該当する事例を示す図である。
図5】実験結果の一部の例を示す図である。
図6】実験結果に対する考察を説明するための図である。
図7】基板処理装置の第1ないし第3実施形態の概略構成を示す図である。
図8】基板処理装置の第4実施形態の概略構成およびその動作を示す図である。
図9】基板処理装置の第5実施形態の概略構成を示す図である。
図10】基板処理装置の第6、第7実施形態の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る基板処理装置および基板処理方法のいくつかの実施形態について説明する。本発明は基板のエッチング処理に係るものである。発明の説明に先立って、本発明の対象となる基板およびその表面に形成されるデバイスの構造を例示しておく。
【0017】
図1は本発明の対象となる基板上の構造体の事例を示す図である。図1(a)は置換ゲート(Replacement Gate;RG)方式の三次元NAND型フラッシュメモリの製造工程中の一段階に現れる構造体の事例を示している。この構造体は、基板S1の表面と平行に複数の絶縁層Iが互いに微小なギャップを隔てて設けられ、それらを貫通するように基板S1の表面に対し垂直なメモリピラーPが立設された構造を有している。
【0018】
また、図1(b)は浮遊ゲート(Floating Gate;FG)方式の三次元NAND型フラッシュメモリの製造工程中の一段階に現れる構造体の事例を示している。この構造体は、基板S2に対し垂直にメモリホールHが設けられ、メモリホールHの側壁が部分的に拡径されて拡径部Rが形成された構造を有している。
【0019】
このような構造体を形成する、または、このような構造に形成された構造体の表面を処理することを目的として、エッチング処理が実行される。例えば図1(b)の構造は、以下のようにして形成される。
【0020】
図2は三次元NAND構造を形成する工程の一部を模式的に示す図である。図2(a)に示すように、まず基板S2の表面に、互いに異なる材料M1,M2からなる2種類の薄膜を交互に積層する。次に、図2(b)に示すように、それらの積層体を貫通するようにメモリホールHが形成される。メモリホールHの形成には、例えばフォトリソグラフィによるマスク形成と異方性エッチングとの組み合わせを適用することができる。さらに、図2(c)に示すように、材料M2を選択的に溶解させるエッチング処理により、メモリホールHに臨む材料M2の表面の少なくとも一部を除去する。こうすることで、図1(b)に示す三次元構造が形成される。
【0021】
同様に、図1(a)に示す構造についても、基板S1に絶縁膜Iとなる材料の層と、最終的にはエッチング処理により除去される層(犠牲層)とを交互に積層し、ピラーPを形成した後に犠牲層をエッチング除去することで形成可能である。
【0022】
機能層として最終的なデバイスに残留させる材料M1と、選択的エッチングにより少なくとも一部が除去される材料M2との組み合わせとしては、例えばSiOとSiN、SiOとポリSi、SiとSiGe、TiOとSiなど各種のものが考えられる。本発明においてこれらの材料は特に限定されるものではない。また、上記の組み合わせにおいて、デバイスに残留させる材料とエッチング除去される材料とが逆であってもよい。
【0023】
図3は本発明の対象となる基板上の構造体の他の事例を示す図である。この事例は、基板S3の表面に複数の機能層が積層されて形成された半導体デバイスにエアスペーサーと呼ばれる空隙を形成するものである。この例では、トランジスタやスイッチング素子などナノシートデバイスと呼ばれるデバイスの製造工程の一部として、電極E1~E3間の絶縁のためにエアスペーサーASが設けられる。エアスペーサーASは、電極E1~E3間に形成された犠牲層Lsがエッチング除去されることにより形成される。
【0024】
このように、本発明の適用対象となり得るデバイス構造としては種々のものが考えられるが、特にプロセスルールが10ナノメートル以下のデバイス製造に、本発明を好適に適用することができる。このような微細構造のデバイスでは、高密度化のために上記のような三次元構造が採られることが多い。したがって、ナノメートルオーダーの狭所をエッチング処理する技術が必要となる。
【0025】
以下、本願発明者の知見に基づく「狭所エッチング」における問題点およびその本実施形態における解決手段について説明する。エッチング処理される基板上の被エッチング部位のうち、周囲に比べて表面が後退した凹部については、開口寸法が小さい「狭所」では、より大きな開口寸法の凹部をエッチング処理する場合と比べてエッチングレートが顕著に低下するという現象がある。
【0026】
なお、ここで「狭所」とは、被処理基板または該基板上に積層された構造体に予め形成された、またはエッチング処理の結果として形成される凹部であって、開口部の直径、幅等の最小寸法が概ね10ナノメートル以下のものを想定している。より狭義には、開口部の最小寸法が5ナノメートル以下とする。以下では「開口部の最小寸法」を単に「開口寸法」と略称する。また、以下において「基板」というとき、半導体ウエハやガラス基板等の基材だけでなく、その表面に各種の機能層が積層された構造体も含めるものとする。
【0027】
図4は本明細書における「開口寸法」に該当する事例を示す図である。図4(a)に示す断面図のように、基板Sに開口が小さく深い凹部R1が設けられるとき、その開口幅W1が、開口寸法となる。凹部R1が例えば円形断面の孔であるとき、その直径が開口寸法に該当する。一方、図4(b)に示すように、開口形状に異方性がある凹部R2の場合には、そのうちの最小のものの寸法W2が開口寸法に該当する。
【0028】
また、図4(c)に示すように、基板Sに設けられた凹部R3の内部に、さらに凹部R4が形成されているとき、凹部R3の開口幅W3および凹部R4の開口幅W4がいずれも本明細書にいう開口寸法に該当し得る。すなわち、凹部R3の開口幅W3が10ナノメートル以下であるとき、凹部R3の全体が「狭所」に該当する。一方、凹部R3の開口幅W3は10ナノメートルよりも大きくても、凹部R4の開口幅W4が10ナノメートル以下であるとき、凹部R4のそれぞれが「狭所」に該当する。
【0029】
以下、本願発明者が各種実験により得た知見について、図5および図6を参照しながら説明する。図5は実験結果の一部の例を示す図であり、図6は実験結果に対する考察を説明するための図である。本願発明者は、ケイ素(Si)と二酸化ケイ素(SiO)との積層体におけるSiO層をエッチング対象物とし、エッチング用薬液としてフッ酸(HF)水溶液を用いSiO層を選択的に除去する場合の、狭所エッチングにおけるエッチングレートの変化を調べた。具体的には、薬液におけるフッ酸濃度と、狭所の開口寸法Wとの組み合わせを種々に変更してエッチングレートを測定した。ここで、「ブランケット」は凹部を設けないいわゆるベタ膜であり、いわばW=∞の状態に相当する。
【0030】
図5(a)に示すように、薬液中のフッ酸濃度が高いほどエッチングレートは高く、かつ、狭所の開口寸法Wが小さいほどエッチングレートは低い。フッ酸による二酸化ケイ素のエッチング反応については、次の反応式:
SiO+6HF→SiF 2-+2HO … (式1)
により表すことができる。実際には、未分離のフッ化水素(HF、より具体的には会合分子(HF))による寄与と、電離により生成される二フッ化水素イオン(HF )による寄与とがあるとされており、これらによるエッチングレートReを定量的に表す式としては、図5(b)上段に記載された(式2)が知られている。
【0031】
図5(a)に示す実験結果に(式2)を適用し、例えば最小二乗法による曲線の当てはめで各係数a,b,c,dを求めた結果が図5(b)下段に示されている。いずれの係数も開口寸法Wが小さいほど小さくなるが、未分離のフッ化水素分子(HF)による寄与を表す項の係数a,bの低下の度合いに比べ、二フッ化水素イオン(HF )による寄与を表す項の係数c、dの低下がより顕著である。なおRは決定係数であり、いずれの開口寸法についても1に近く、曲線近似の精度が良好であることを示している。
【0032】
この結果から、狭所エッチングにおいては二フッ化水素イオンによる寄与の割合が大きく減少することでエッチングレートが低下するものの、フッ化水素分子による寄与は依然として有効であることがわかる。特に開口寸法Wが3ナノメートルのとき、二フッ化水素イオンによる寄与はほとんどないと言える。この結果は、例えば以下のように、エッチング対象物と薬液との界面に形成される電気二重層の影響として説明することが可能である。
【0033】
図6(a)は、エッチング対象物の構成物質(Si,SiO)と水溶液との界面におけるゼータ電位と、水溶液の水素イオン濃度(pH)との間の一般的な関係を模式的に示す図である。ゼータ電位は、物質と水溶液との界面に形成される電気二重層により物質表面に現れる電位を代表的に示すものである。水溶液のpH値が高くなるほどゼータ電位は負側にシフトする点においてSiとSiOとは同じ傾向を示すが、SiOでは強酸下で正の電位となるのに対し、図に点線で示すようにSiでは強酸下でも負電位である。SiOにおいてゼータ電位がゼロとなるときのpH値は、概ね2~3程度である。したがって弱酸性からアルカリ性の水溶液においては、ゼータ電位は負電位である。
【0034】
つまり、エッチング用薬液である弱酸性のフッ酸水溶液中においては、図6(b)に示すように、エッチング対象物の表面は負の電位を帯びている。この負電位は、電気的に中性の分子であるフッ化水素分子HF、(HF)には影響を与えない一方、負イオンである二フッ化水素イオン(HF )に対する斥力を生じさせる。このため、二フッ化水素イオン(HF )がエッチング対象物から排斥されて表面に接近する確率が低下し、結果としてエッチングに寄与することができなくなる。この斥力が及ぶのは、エッチング対象物の表面からの距離がデバイ長λ程度までの範囲と考えることができる。
【0035】
デバイ長は界面に形成される電気二重層の厚さの目安となる物性値であり、水溶液中での溶質の濃度が高いほど小さくなる。例えば溶質濃度が0.01Mのときデバイ長は1ナノメートル程度、溶質濃度が0.1Mのとき10ナノメートル程度である。本実験の系におけるデバイ長は2.5ナノメートル程度である。
【0036】
そうすると、図6(b)に点線で示すように、エッチング対象物の表面には、二フッ化水素イオンにとって厚さがデバイ長λ程度の電位障壁が形成されていることとなる。開口寸法W5が比較的大きい(例えば10ナノメートル以上)凹部R5においては、電位障壁が凹部R5の内壁に沿って延びているため、二フッ化水素イオンも凹部R5の内部まで入り込むことができる。したがって、この場合には二フッ化水素イオンによるエッチング効果をある程度期待することができる。
【0037】
これに対し、開口寸法W6が比較的大きい(例えば5ナノメートル以下)凹部R6においては、電位障壁が凹部R5の開口を塞ぐように形成されるため、二フッ化水素イオンは凹部R6の内部にほとんど進入することができない。そのため、二フッ化水素イオンによるエッチング効果は期待できない。
【0038】
一方、未電離のフッ化水素分子(HF、(HF))は電位障壁の影響を受けない。しかしながら、図5(b)に示されるように、やはり狭所の開口寸法が小さいほど係数a,bはいくらか小さくなっており、狭所ではこれらの分子によるエッチング効果も低下していることがわかる。これについては、凹部の内部に進入できないイオンが開口周辺に滞留し、それが凹部への分子の進入を妨げているものと考えることができる。
【0039】
このことから、後述する狭所エッチングの各実施形態では、エッチング対象物に供給される薬液から、上記のようにエッチング反応に寄与しないイオン種の少なくとも一部を除去するための構成が設けられている。エッチング反応に寄与しない、または反応を阻害するイオン種を除去することで、エッチングレートの低下を抑制することが可能になる。
【0040】
上記したフッ酸水溶液による二酸化ケイ素のエッチングにおいては、エッチング対象物の表面が負電位であるためエッチング反応に寄与しない陰イオン、具体的には二フッ化水素イオンを除去しつつ薬液をエッチング対象物に供給することで、フッ化水素分子によるエッチング効果を維持し、エッチングレートの低下を抑制することができる。
【0041】
同様の現象は他の材料系でも生じ得る。例えば、ケイ素(Si)と窒化チタン(TiN)との積層体から選択的エッチングにより窒化チタン層を除去する場合には、エッチング用薬液として過酸化水素(H)水溶液を用いることができる。露出した窒化チタンの表面には酸化膜(二酸化チタン;TiO)が形成されるが、水素イオン(H)による溶解反応でこれを除去することが可能である。したがって薬液中には水素イオンが豊富に含まれることが望ましい。
【0042】
一方、窒化チタン層は未電離の過酸化水素(H)または過酸化水素イオン(HO )による酸化溶解反応が支配的となる。この場合、エッチング対象物の表面が負電位となるため、陰イオンである過酸化水素イオンが狭所エッチングに寄与しないこととなる。薬液からこれを除去し未電離の過酸化水素の比率を増加させることで、エッチングレートの低下を抑制することが可能となる。
【0043】
なお、上記のように一般的に絶縁物では強酸下以外でゼータ電位は負電位となるが、酸化アルミニウム(Al)等の金属系物質ではゼータ電位が正電位となる範囲がより広く、例えば中性(pH=7)下でも正のゼータ電位を示すものもある。この場合、薬液中の陽イオンがエッチング反応に寄与しないこととなるので、薬液から陽イオンを除去することでエッチングレートの低下を抑制することができると期待される。
【0044】
このように、液中でイオン化する溶質をエッチャントとして含む薬液を用いた狭所エッチングでは、エッチング反応への寄与が小さい特定のイオン種を薬液から除去してエッチング対象物に供給することで、エッチングレートの低下を抑制することが可能である。除去すべきイオン種は、エッチング対象物と薬液との組み合わせに依存する。すなわち、薬液中でのエッチャントとしての機能と、エッチング対象物が薬液中で帯びる電位の極性との関係により、どのイオン種を除去すべきかを判断することができる。
【0045】
また、開口寸法がどの程度のものが「狭所」に該当するかについても、エッチング対象物と薬液との組み合わせ、さらには薬液の濃度によって変わる。一般的には、両者の界面に形成される電気二重層に起因するゼータ電位の大きさと、その電位の影響が実効的に及ぶ範囲の目安となるデバイ長とから、狭所として扱うべき寸法を設定することが可能である。
【0046】
現在広く使われているエッチング対象物と薬液との組み合わせでは、デバイ長は数ナノメートル程度であるから、開口寸法が概ね10ナノメートル以下のときに、界面の電気二重層によるイオン排斥の影響が現れると考えてよい。特に開口寸法が5ナノメートル以下であるとき、その影響が顕著である。
【0047】
以下、上記原理に基づき、狭所エッチングにおけるエッチングレートの低下を抑制するための構成を備えた基板処理装置のいくつかの実施形態を例示し、その構成を順に説明する。なお、以下においてエッチング処理の具体的事例を示す必要がある場合、その一例としてフッ酸水溶液(希フッ酸)を薬液とする二酸化ケイ素エッチングを採り上げるが、エッチング対象物および薬剤がこれと異なる場合にも、各実施形態の構成を同様に適用可能である。
【0048】
図7は本発明に係る基板処理装置の第1ないし第3実施形態の概略構成を示す図である。また、図8は本発明に係る基板処理装置の第4実施形態の概略構成およびその動作を示す図である。また、図9は本発明に係る基板処理装置の第5実施形態の概略構成を示す図である。
【0049】
図7(a)に示す第1実施形態の基板処理装置1は、基板処理ユニット10および薬液供給ユニット100と、装置各部の動作を制御するための制御ユニット19とを備えている。基板処理ユニット10は、エッチング処理の実行主体となるものであり、処理チャンバ11内に、基板保持部13と薬液吐出部15とが配置された構成を有している。処理チャンバ11は、図示しない開閉自在のシャッタ部を介して、処理対象たる基板Sを外部から受け入れる。
【0050】
基板保持部13は、基板Sを水平姿勢に保持しつつ、鉛直軸回りに回転させる。基板保持部13としては公知のスピンチャック機構を適用することができる。薬液吐出部15は、揺動アーム15bの先端にノズル15aが装着された構造を有している。ノズル15aは、基板保持部13により回転される基板Sの上面に向けてエッチング用薬液を吐出する。揺動アーム15bは所定の揺動軸回りに揺動することで、基板Sに対するノズル15aの位置決めを行う。
【0051】
なお、このような構成の基板処理ユニット10は周知であるため、詳しい説明を省略する。また、後述する第2ないし第5実施形態においても、基板処理ユニット10の構成は概ね同一である。そこで、以下の説明では、上記と同様の構成については同一符号を付して説明を省略することとする。
【0052】
薬液供給ユニット100は、エッチング用薬液を調製し、上記のように構成された基板処理ユニット10に対して供給する機能を有する。薬液供給ユニット100は、図示しない外部の供給源から供給される薬剤およびDIW(De-ionized Water;脱イオン水)を混合して所定濃度のエッチング用薬液を調製する混合器101を備えている。薬剤はエッチャントとして機能する溶質であり、例えばフッ酸水溶液によるエッチング処理ではフッ化水素である。また例えば、過酸化水素水によるエッチング処理では過酸化水素である。その他、エッチャントとして機能する電解質、液体、気体等各種の化学物質を薬剤として用いることができる。調製された薬液CSは貯留タンク103に一時的に貯留される。
【0053】
貯留タンク103には、薬液の循環流路を形成する配管105が接続されており、貯留タンク103の下部から送出される薬液は配管105内を流通して貯留タンク103の上部に戻される。配管105には、薬液の流通方向に沿って上流側から順に、温度調整器111、送液ポンプ113およびパーティクルフィルター115が介挿されている。なお、以下の説明で単に「上流側」または「下流側」というとき、これらは流路内での薬液の流通方向における上流側、下流側をそれぞれ指すものとする。
【0054】
温度調整器111は、配管105を流通する薬液の温度を所定の目標温度に調整する。送液ポンプ113は、配管105内で薬液を流通させる。パーティクルフィルター115は、薬液中のパーティクル等の異物を除去する。これらの構成は周知であるため、詳しい説明を省略する。
【0055】
パーティクルフィルター115より下流側の配管105には、基板処理ユニット10のノズル15aに連通する出力用配管107が接続されている。出力用配管107には、制御バルブ117およびイオン除去フィルター121が介挿される。制御バルブ117は、ノズル15aへの薬液の供給のオンオフ制御および流量制御を行う。
【0056】
イオン除去フィルター121は、イオン交換樹脂またはイオン交換膜を有し、薬液中の陰イオンまたは陽イオンの少なくとも一部を除去する。薬液中における特定のイオン種の含有量を有意に減少させることができれば足り、全てのイオンを除去することを必要とするものではない。薬液中の異物等を取り除く目的で流路中にイオン除去フィルターを設けた事例は既にあるが、ここでは本来はエッチャントとして有効に機能するイオン種が、狭所エッチングにおけるエッチングレート改善という目的の下で除去される。
【0057】
陰イオンを除去するためのイオン交換樹脂としては、例えば第4級などのアンモニウム基を官能基として有するものを好適に用いることができる。また、陽イオンを除去するためのイオン交換樹脂としては、例えばスルホン酸、硫酸エステル、カルボン酸などの官能基を有するものを好適に用いることができる。
【0058】
一部がイオン化した溶質を含む薬液では、特定のイオン種を一時的に除去したとしても、電離平衡が移動することにより、時間の経過とともに除去されたイオン種の濃度は上昇してくる。このため、イオン除去は薬液が基板Sに供給される直前に行われることが好ましい。これを可能とするために、イオン除去フィルター121は循環流路から分岐した出力用配管107に介挿される。特に、イオン除去フィルター121を処理チャンバ11内に配置すれば、イオン除去フィルター121より下流側の配管長を最小にして、イオン濃度が回復する前に薬液を基板Sに供給することが可能となる。
【0059】
また、除去されたイオン種の量が回復するように平衡が移動する結果、薬液中で他のエッチャント、特に狭所でも有効に機能する未電離の溶質の濃度が低下することも想定される。これによるエッチングレートの低下を抑制するためには、予め薬液中の溶質濃度を高めておくことが好ましい。例えば開口寸法の大きいエッチング対象物をエッチング処理する際の薬液濃度の10倍程度の高濃度の薬液を用いることができる。
【0060】
上記のような構成によれば、狭所エッチングに寄与せず、むしろそれを阻害する原因となり得るイオン種の含有量を低減させた薬液を基板Sに供給することができる。このため、狭所エッチングにおいてもエッチングレートの低下を抑制し、エッチング処理を良好に実行することが可能である。
【0061】
図7(b)に示す第2実施形態の基板処理装置2は、第1実施形態と同様の基板処理ユニット10および制御ユニット19と、薬液供給ユニット200とを備えている。薬液供給ユニット200は、混合器201、貯留タンク203、配管205、温度調整器211、送液ポンプ213、パーティクルフィルター215、出力用配管207および制御バルブ217などを備えている。これらの構造および機能は、第1実施形態において対応する構成のものと同じである。
【0062】
この実施形態では、出力用配管207上にイオン除去フィルター221,223が直列に介挿されている。イオン除去フィルター221,223のうち一方は陰イオン除去を実行し、他方は陽イオン除去を実行する。このように陰イオン、陽イオンの双方を除去することで、薬液は未電離の溶質を主体とするものになる。エッチング反応において未電離の溶質が大きく寄与している場合には、こうして陰イオン、陽イオンの両方を除去することにより、エッチング対象物の表面電位に影響されない安定したエッチング処理が可能となる。
【0063】
図7(c)に示す第3実施形態の基板処理装置3は、第1実施形態と同様の基板処理ユニット10および制御ユニット19と、薬液供給ユニット300とを備えている。この実施形態では、イオン除去フィルターは処理チャンバ11の外部に設けられる一方、循環流路を流通する薬液中のイオン濃度を調整するための構成が設けられている。
【0064】
具体的には、薬液供給ユニット300は、混合器301、貯留タンク303、配管305、温度調整器311、送液ポンプ313、パーティクルフィルター315、出力用配管307および制御バルブ317などを備えている。これらの構造および機能は、第1実施形態において対応する構成のものと同じである。
【0065】
一方、第1実施形態とは異なり、送液ポンプ313とパーティクルフィルター315との間で、配管305が2つに分岐している。一方の配管305aには制御バルブ321が介挿される。他方の配管305bには、制御バルブ323とイオン除去フィルター325とが介挿される。つまり、配管305aはイオン除去フィルター325をバイパスするバイパス流路を形成する機能を有する。また、2つの配管305a,305bが再合流した後の配管305に、濃度計327が介挿される。
【0066】
濃度計327として、薬液の導電率を計測してイオン濃度を求める方式のものを用いた場合には、各種のイオン種の濃度が一括して計測されることになる。フッ酸水溶液のように薬剤の成分が比較的単純なものについては、このような計測方法でも十分に実用になる。一方、より厳密にイオン種ごとの濃度を計測する必要がある場合には、例えば赤外分光を利用した方式のものを用いることができる。例えば複数の薬剤を混合して薬液を調製する場合にはこの方法を採ることができる。
【0067】
この実施形態では、イオン除去フィルター325は、最終的に薬液を基板処理ユニット10に向けて送出する出力用配管307との分岐よりも上流側の循環流路の中に組み込まれている。この場合、平衡移動により、除去されたイオン種が時間と共に再び増加してくる。そこで、この実施形態では、循環流路に濃度計327を設けて薬液中のイオン濃度を測定し、その結果に応じてイオン除去フィルター325によるイオン除去量を調整する。第2実施形態と同様に、陰イオンを除去するフィルターと陽イオンを除去するフィルターとが併用されてもよい。
【0068】
具体的には、濃度計327によるイオン濃度測定結果に応じて制御バルブ321,323の開閉を制御することで、薬液の流路を、イオン除去フィルターのない配管305aを介した流路と、イオン除去フィルター325が設けられた配管305bを介した流路との間で切り替える。これにより、例えば基板Sへの薬液供給を行わないときにはイオン除去を行わない一方、薬液供給を行う前に流路を切り替えてイオン除去を行い、イオン濃度が適正化された薬液を基板Sに供給することが可能となる。
【0069】
図8(a)に示す第4実施形態の基板処理装置4は、基本的に第3実施形態と同様の構成を有している。すなわち、この実施形態の薬液供給ユニット400は、混合器401、貯留タンク403、配管405およびこれから分岐する配管405a,405b、温度調整器411、送液ポンプ413、パーティクルフィルター415、出力用配管407、制御バルブ417,421,423、イオン除去フィルター425、濃度計427などを備えている。これらの構造および機能は、第3実施形態において対応する構成のものと同じである。
【0070】
この実施形態では、図8(a)に点線矢印で示すように、外部の供給源から供給される薬剤(溶質)を、混合器401を介さず貯留タンク403に直接注入することのできる流路が付加されている。これは、薬剤を一時的に直接貯留タンク403に注入することで貯留タンク403内の薬剤濃度を増大させる、いわゆるスパイキングを行うための構成である。詳しい構成の図示は省略するが、例えば、外部からの薬剤の供給配管から分岐した配管と制御バルブとの組み合わせにより、スパイキングを実施することができる。
【0071】
イオン除去された薬液が循環すること、および、電離平衡が移動することにより、貯留タンク403内の薬液では未電離の溶質の濃度が低下することになる。このことは狭所エッチングにおいてエッチングレート低下の原因となる。そこで、この実施形態では、イオン除去フィルター425によるイオン除去と薬剤のスパイキングとの実行タイミングを以下のように制御することで、未電離のフッ化水素の濃度と二フッ化水素イオンの濃度とをいずれも適正範囲に維持することができるようにしている。
【0072】
図8(b)は本実施形態における濃度制御を示すタイミングチャートである。混合器401は、外部から供給される薬剤とDIWとを所定の比率で混合することで、フッ化水素濃度Cmが適正範囲の上限値USL1と下限値LSL1との間に調製された薬液を貯留タンク403に供給する。濃度計427は、薬液中の未電離のフッ化水素(HF)分子の濃度Cmと、二フッ化水素イオン(HF )の濃度Ciとを測定する。制御ユニット19は、二フッ化水素イオンの濃度測定結果に基づき制御バルブ421,423を開閉制御し、図8(a)に矢印Aで示すイオン除去フィルターを通さない流路と、矢印Bで示すイオン除去フィルター425を通す流路とを切り替える。
【0073】
循環する薬液中で生じる電離平衡の移動により、貯留タンク403内の薬液中のフッ化水素分子の濃度Cmは経時的に低下してくる。図8(b)に白抜き矢印で示すように、フッ化水素濃度Cmが下限値LSL1まで低下すると、一定量の薬剤を貯留タンク403に注入するスパイキングを実行する。これによりフッ化水素濃度Cmは一時的に上昇し、その後再び低下してゆく。これを繰り返すことにより、薬液中のフッ化水素濃度Cmを適正範囲に維持することができる。
【0074】
一方、二フッ化水素イオンの濃度Ciは、薬液がイオン除去フィルターを通らない流路Aを流れているときには上昇し、薬液がイオン除去フィルター425を通る流路Bを流れているときには低下する。したがって、二フッ化水素イオン濃度Ciが適正範囲の上限値USL2に達すると、薬液の流路は流路Aから流路Bに切り替えられる。これにより、イオン除去フィルター425によるイオン除去作用が機能し、イオン濃度は低下する。そして、イオン濃度Ciが適正範囲の下限値LSL2に達すると、薬液の流路は流路Bから再び流路Aに切り替えられる。これにより、イオン除去作用は停止され、平衡移動によりイオン濃度が上昇する。これを繰り返すことにより、薬液中の二フッ化水素イオン濃度Ciについても適正範囲に維持することができる。
【0075】
これら2つの制御は互いに独立したものであり、スパイキングの実行タイミングと流路切り替えタイミングとは必ずしも同期しない。ただし、スパイキングを実行することで二フッ化水素イオン濃度Ciも一時的に上昇することから、相互に何らかの関連性が現れると考えられる。
【0076】
この実施形態では、第3実施形態と同様に、イオン濃度が適正化された薬液を基板Sに供給することが可能である。そして、必要に応じてスパイキングを行うことにより、フッ化水素濃度と二フッ化水素イオン濃度との両方をより長期的に安定化させることが可能である。この実施形態においても、陰イオン除去フィルターと陽イオン除去フィルターとが併用されてもよい。
【0077】
図9に示す第5実施形態の基板処理装置5は、第3実施形態の基板処理装置にフィルター再生機能を付加したものに相当する。具体的には、この実施形態の薬液供給ユニット500は、混合器501、貯留タンク503、配管505、温度調整器511、送液ポンプ513、パーティクルフィルター515、出力用配管507および制御バルブ517などを備えている。これらの構造および機能は、第3実施形態において対応する構成のものと同じである。
【0078】
これに加えて、この実施形態では、図に点線で示されるフィルター再生用配管531と、当該配管に介挿された制御バルブ533,535とを備えている。制御バルブ533は、外部の水酸化ナトリウム(NaOH)供給源と接続された配管に設けられている。一方、制御バルブ535は、外部のDIW供給源と接続された配管に設けられている。
【0079】
イオン除去処理を継続的に行うと、除去したイオンを取り込むことによってイオン交換樹脂のイオン交換能力が低下してくる。取り込まれたイオンを排出させる再生処理を行うことで、イオン交換能力を回復させることが可能である。陰イオン交換樹脂に対しては、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液として水酸化物イオン(OH)を供給することでフィルター再生を行うことができる。また、陽イオン交換樹脂に対しては、例えば塩化ナトリウム(NaCl)水溶液を供給することでフィルター再生を行うことができる。
【0080】
フィルター再生は、イオン除去フィルター525への薬液の流通を停止した状態で行い、また再生処理後にはDIWをイオン除去フィルター525に除去することで、残留するイオンを排出する。再生処理時にイオン除去フィルター525から排出される液体は外部へ排出され、配管505には流れ込まないようにする。なお、このようなフィルター再生機能は、第1ないし第4実施形態のいずれにも適用することが可能である。
【0081】
上記した第1ないし第5実施形態の基板処理ユニット10は、処理対象の基板Sを1枚ずつ処理チャンバ11に収容して処理を行う、いわゆる枚葉型の基板処理装置である。しかしながら、本発明の適用対象である基板処理装置の構成はこれに限定されない。例えば以下に例示するように、複数基板を同時に処理する、いわゆるバッチ型の基板処理装置に対しても、本発明を適用することが可能である。
【0082】
図10は本発明に係る基板処理装置の第6および第7実施形態の概略構成を示す図である。このうち図10(a)は第6実施形態を示している。図10(a)に示す第6実施形態の基板処理装置6は、基板処理ユニット60と、薬液供給ユニット600とを備えている。基板処理ユニット60は、内部に基板Sの全体を収容可能で、しかも液体を貯留可能な処理槽61を備えている。この基板処理ユニット60では、処理槽61に貯留された薬液CSに基板Sを浸漬することにより基板Sのエッチング処理を行う。この場合、複数の基板Sを同時に収容可能な容積を有する処理槽を用いることで、複数基板を同時に処理する、いわゆるバッチ処理を実行することが可能である。
【0083】
薬液供給ユニット600は、前述の第1実施形態に記載された薬液供給ユニット100と同一の構成を有している。具体的には、薬液供給ユニット600は、混合器601、貯留タンク603、配管605、温度調整器611、送液ポンプ613、パーティクルフィルター615、出力用配管607および制御バルブ617などを備えており、これらの構造および機能は、第1実施形態において対応する構成のものと同じである。
【0084】
また、出力用配管607にはイオン除去フィルター621が介挿されている。この構成および機能も、第1実施形態のイオン除去フィルター121と同じである。イオン除去フィルター621を通過した薬液は処理槽61の下部から処理槽61内に供給される。こうしてイオン濃度が適正に調製された新鮮な薬液で満たされる処理槽61内に、基板Sが浸漬されることでエッチング処理が実行される。処理槽61の上部から溢れた薬液は外部へ排出される。
【0085】
図10(b)に示す第7実施形態の基板処理装置7は、薬液供給ユニット700の構成が第6実施形態と異なっている。第7実施形態における薬液供給ユニット700は、第3実施形態の薬液供給ユニット300と同一の構成を有している。すなわち、この実施形態の薬液供給ユニット700は、混合器701、貯留タンク703、配管705およびこれから分岐する配管705a,705b、温度調整器711、送液ポンプ713、パーティクルフィルター715、出力用配管707、制御バルブ717,721,723、イオン除去フィルター725、濃度計727などを備えている。これらの構造および機能は、第3実施形態において対応する構成のものと同じである。
【0086】
このような構成によっても、処理槽61にイオン濃度が適正化された薬液を供給して、基板Sのエッチング処理を良好に実行することができる。第4実施形態と同様に、スパイキング機能がさらに付加されてもよい。
【0087】
なお、これらの実施形態においても、第2実施形態と同様に、陰イオン除去フィルターと陽イオン除去フィルターとが併用されてもよい。また、第5実施形態と同様に、フィルター再生機能がさらに付加されてもよい。このように、第1ないし第5実施形態として示した薬液供給ユニットは、バッチ処理を行う基板処理ユニットにも組み合わせることが可能である。
【0088】
以上説明したように、上記した第1実施形態の基板処理装置では、混合器101および貯留タンク103が一体として本発明の「薬液調製部」として機能しており、貯留タンク103は本発明の「貯留容器」に相当している。また、イオン除去フィルター121が本発明の「イオン除去部」として機能している。また、配管105および送液ポンプ113が一体として、本発明の「薬液供給部」として機能している。また、出力用配管107が本発明の「供給配管」に相当している。第2実施形態以降の各実施形態において上記と対応する構成についても同様である。
【0089】
また、第3、第4、第5および第6実施形態における濃度計327等が本発明の「濃度計測部」として機能しており、制御バルブ321,323等が本発明の「濃度調整部」として機能している。また、第5実施形態における再生用配管531、制御バルブ533,535が本発明の「再生部」として機能している。
【0090】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記第1および第2実施形態では、最終的に薬液を基板Sに供給するノズル15aに近い位置でイオン除去を行うという目的から、イオン除去フィルター121等を処理チャンバ11の内部に設けている。これに代えて、イオン除去フィルターを処理チャンバと一体化し、例えばその外壁面に取り付けてもよい。
【0091】
また例えば、上記各実施形態では薬液の流路に温度調整器およびパーティクルフィルターが設けられているが、これらは必須の要件ではない。また、上記各実施形態では薬液の循環流路が設けられているが、このような循環流路を設けない基板処理装置においても、本発明のイオン除去による狭所エッチングにおけるエッチングレートの改善効果は有効である。
【0092】
また、上記実施形態で挙げた化学物質(エッチング対象物、溶質および溶媒等)の種類は一部の例を示したものであり、本発明は上記以外の各種の物質を用いた処理にも適用可能なものである。
【0093】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る基板処理装置において、イオン除去部は処理チャンバに設けることができる。例えば処理チャンバの内部に設けられてもよい。薬液から一部のイオン種を取り除いたとしても、電離平衡が移動することでその濃度は経時的に増加してくる。基板に供給される位置にできるだけ近い位置でイオン除去を行うことで、本発明の効果をより確実なものとすることができる。
【0094】
また例えば、薬液調製部は調製された薬液を一時的に貯留する貯留容器を有し、薬液供給部は貯留容器から送出された薬液を貯留容器に循環させる循環流路を有し、循環流路から分岐した流路にイオン除去部が設けられてもよい。このような構成によれば、循環流路内では平衡状態の薬液を循環させつつ、そこから分岐して基板に向かう流路にイオン除去部を設けることで、基板に供給される薬液については確実にイオン濃度を低下させることができる。
【0095】
一方、例えば、薬液調製部は調製された薬液を一時的に貯留する貯留容器を備え、薬液供給部は貯留容器から送出された薬液を貯留容器に循環させる循環流路と、循環流路から分岐して基板に薬液を供給する供給流路とを有し、貯留容器から供給流路との分岐点に至る循環流路に、イオン除去部と、薬液中のイオン種の濃度を計測する濃度計測部と、濃度計測部の計測結果に基づき薬液中のイオン濃度を調整する濃度調整部とが設けられた構成とすることもできる。このような構成によれば、薬液中のイオン濃度を適正に維持して基板に供給することが可能である。
【0096】
この場合において、濃度調整部は、循環流路に接続されイオン除去部をバイパスするバイパス流路と、イオン濃度計測部の計測結果に基づきバイパス流路における薬液の流量を制御する制御バルブとを有する構成とすることができる。このような構成によれば、イオン除去された薬液とイオン除去前の薬液との比率を変化させることで、薬液中のイオン濃度を増減することが可能である。
【0097】
また例えば、イオン除去部は、イオン交換樹脂またはイオン交換膜によりイオン種を除去するものであってよい。このような公知の材料を用いて、本発明のイオン除去を実現することが可能である。
【0098】
この場合、イオン除去部が有するイオン交換樹脂を再生する再生部をさらに備えてもよい。イオン交換樹脂を再生する機能を付加することにより、長期にわたり安定的にイオン除去を実行することが可能となる。
【0099】
また例えば、薬液調製部は、薬液中の未電離の溶質の濃度計測結果に基づき薬液に加える溶質の量を制御するように構成されてもよい。特定のイオン種を除去することで電離平衡が移動し、それにより未電離の溶質の薬液中における濃度が低下することがあり得る。未電離の溶質もエッチング反応に寄与しており、その濃度低下はエッチングレート低下の原因となり得る。未電離の溶質の濃度に応じて液中の溶質の量を制御することで、このような問題を回避することが可能となる。
【0100】
また、本発明に係る基板処理装置および基板処理方法において、エッチング処理される基板の被エッチング部位は、開口部の最小寸法が10ナノメートル以下、より好ましくは5ナノメートル以下の凹部とすることができる。半導体等のデバイス製造において一般的なエッチング対象物と薬液との組み合わせでは、材料表面に形成される電気二重層の電位の影響が及ぶ距離の目安となるデバイ長が数ナノメートル程度である。開口部の寸法がこの程度まで小さいとエッチングレートの低下が顕著であり、本発明が特に有効に機能することとなる。
【0101】
また、本発明において、薬液はエッチャントとしてのフッ化水素を含み、イオン除去部は二フッ化水素イオンを除去するものとすることができる。例えばエッチング処理による除去対象物が二酸化ケイ素であるとき、フッ化水素はエッチャントとして有効である。一方、薬液はエッチャントとしての過酸化水素を含み、イオン除去部は過酸化水素イオンを除去するものとすることもできる。例えばエッチング処理による除去対象物が二酸化チタンであるとき、過酸化水素はエッチャントとして有効である。これらの場合において、開口部の大きい領域ではエッチャントとして有効に機能するイオンであっても、狭所ではエッチング反応への寄与が小さくなる。このようなイオン種を除去することで、未電離のエッチャントによるエッチング反応を促進することができる。
【0102】
また例えば、本発明に係る基板処理方法においては、イオン除去部を通過した薬液中のイオン濃度を計測する工程と、計測の結果に基づき薬液中のイオン濃度を調整する工程とをさらに備えていてもよい。このような構成によれば、薬液中のイオン濃度を適正に維持して基板に供給することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、液中でイオン化する溶質をエッチャントとして含む薬液により基板をエッチング処理する技術に適用可能であり、特に開口寸法が10ナノメートル以下となるような狭所エッチングを必要とするデバイス製造プロセスに好適である。
【符号の説明】
【0104】
1~7 基板処理装置
10 基板処理ユニット
100,200,300,400,500,600,700 基板処理ユニット
101,203,303,403,503,603,703 混合器(薬液調製部)
105,205,305,405,505,605,705 配管(薬液供給部、循環流路)
113,213,313,413,513,613,713 送液ポンプ(薬液供給部)
103,203,303,403,503,603,703 貯留タンク(薬液調製部、貯留容器)
107,207,307,407,507,607,707 出力用配管(供給配管)
121,221,223,325,425,525,621,725 イオン除去フィルター(イオン除去部)
321,323,421,423,521,523,721,723 制御バルブ(濃度調整部)
327,427,527,727 濃度計(濃度計測部)
531 再生用配管(再生部)
533,535 制御バルブ(再生部)
S 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10