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特許7730651固体電池用シートの製造方法及びそれに使用される積層体の製造方法
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  • 特許-固体電池用シートの製造方法及びそれに使用される積層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】固体電池用シートの製造方法及びそれに使用される積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20250821BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20250821BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021056118
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2021163759
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2020063237
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
(72)【発明者】
【氏名】山野 晃裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 司
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-103146(JP,A)
【文献】特開2019-169245(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078130(WO,A1)
【文献】特開2018-129307(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0211547(US,A1)
【文献】特開2019-160748(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110581314(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の固体電池用シートを製造する方法であって、
前記方法が、下記工程:
(1a)多孔質基材を準備する工程;
(1b)第1の支持層と、前記第1の支持層の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層とを備える第1の部材を準備する工程;
(1c)第2の支持層と、前記第2の支持層の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層とを備える第2の部材を準備する工程;
(1d)前記第1の部材及び前記第2の部材を、前記多孔質基材を介して前記第1の固体電解質層と前記第2の固体電解質層とが対向するように積層して第1の積層体を得る工程;並びに
(1e)前記第1の積層体を厚さ方向にプレスし、前記第1の固体電池用シートを形成する工程
を含み、
前記第1の固体電池用シートにおいて、前記第1の固体電解質層の少なくとも一部及び前記第2の固体電解質層の少なくとも一部が、前記多孔質基材の細孔に充填されて接触しており
前記多孔質基材が不織布である、前記方法。
【請求項2】
前記第1の積層体が、前記第1の支持層と前記第1の固体電解質層との間、又は前記第2の支持層と前記第2の固体電解質層との間の少なくとも一方に電極層を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の固体電池用シートを製造する方法であって、
前記方法が、下記工程:
(2a)第1の多孔質基材及び第2の多孔質基材を準備する工程;
(2b)第1の支持層と、前記第1の支持層の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層とを備える第1の部材を準備する工程;
(2c)第2の支持層と、前記第2の支持層の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層とを備える第2の部材を準備する工程;
(2d)前記第1の部材の前記第1の固体電解質層側の面に前記第1の多孔質基材を積層して第3の部材を得る工程;
(2e)前記第2の部材の前記第2の固体電解質層側の面に前記第2の多孔質基材を積層して第4の部材を得る工程;
(2f)前記第3の部材及び前記第4の部材を、前記第3の部材の前記第1の多孔質基材側の面と前記第4の部材の前記第2の多孔質基材側の面とが対向するように積層して第2の積層体を得る工程;並びに
(2g)前記第2の積層体を厚さ方向にプレスし、前記第2の固体電池用シートを形成する工程
を含み、
前記第2の固体電池用シートにおいて、前記第1の固体電解質層の少なくとも一部及び前記第2の固体電解質層の少なくとも一部が、前記第1の多孔質基材及び前記第2の多孔質基材の細孔に充填されて接触している、前記方法。
【請求項4】
前記第2の積層体が、前記第1の支持層と前記第1の固体電解質層との間、又は前記第2の支持層と前記第2の固体電解質層との間の少なくとも一方に電極層を備える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の固体電解質層及び前記第2の固体電解質層がそれぞれ硫化物固体電解質を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の第1の積層体を製造する方法であって、以下の工程:
(3a)多孔質基材を準備する工程;
(3b)第1の支持層と、前記第1の支持層の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層とを備える第1の部材を準備する工程;
(3c)第2の支持層と、前記第2の支持層の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層とを備える第2の部材を準備する工程;並びに
(3d)前記第1の部材及び前記第2の部材を、前記多孔質基材を介して前記第1の固体電解質層と前記第2の固体電解質層とが対向するように積層して第1の積層体を得る工程
を含
前記多孔質基材が不織布である、前記方法。
【請求項7】
前記第1の積層体が、前記第1の支持層と前記第1の固体電解質層との間、又は前記第2の支持層と前記第2の固体電解質層との間の少なくとも一方に電極層を備える、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項に記載の第2の積層体を製造する方法であって、以下の工程:
(4a)第1の多孔質基材及び第2の多孔質基材を準備する工程;
(4b)第1の支持層と、前記第1の支持層の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層とを備える第1の部材を準備する工程;
(4c)第2の支持層と、前記第2の支持層の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層とを備える第2の部材を準備する工程;
(4d)前記第1の部材の前記第1の固体電解質層側の面に前記第1の多孔質基材を積層して第3の部材を得る工程;
(4e)前記第2の部材の前記第2の固体電解質層側の面に前記第2の多孔質基材を積層して第4の部材を得る工程;並びに
(4f)前記第3の部材及び前記第4の部材を、前記第3の部材の前記第1の多孔質基材側の面と前記第4の部材の前記第2の多孔質基材側の面とが対向するように積層して第2の積層体を形成する工程
を含む、前記方法。
【請求項9】
前記第2の積層体が、前記第1の支持層と前記第1の固体電解質層との間、又は前記第2の支持層と前記第2の固体電解質層との間の少なくとも一方に電極層を備える、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の固体電解質層及び前記第2の固体電解質層がそれぞれ硫化物固体電解質を含有する、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電池用シートの製造方法に関する。また、本発明は、固体電池用シートの製造方法で使用される積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電池は、可燃性の有機溶媒を使用しないので、安全装置の簡素化を図ることができ、製造コスト及び生産性に優れているとともに、セル内で直列に積層して高電圧化を図れるという特徴も有する。固体電池に使用される固体電解質では、リチウムイオン以外は移動しないため、アニオンの移動による副反応が生じない等、安全性及び耐久性の向上につながることが期待される。
【0003】
固体電池の製造には、固体電解質シートが使用されている。例えば、特許文献1には、多孔質基材を備えた固体電解質シートを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-129307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔質基材を備えた固体電解質シートの製造方法としては、多孔質基材に固体電解質材料を付着させて充填する方法がある(例えば、特許文献1)。しかしながら、当該方法により得られた固体電解質シートを使用した固体電池に対しては、電池性能の更なる向上が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、固体電池に使用した際に良好な電池性能を発揮することができる固体電池用シートの製造方法、及び当該固体電池用シートの製造方法で使用される積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の方法を提供する。
[1]第1の固体電池用シートを製造する方法であって、
前記方法が、下記工程:
(1a)多孔質基材を準備する工程;
(1b)第1の支持層と、前記第1の支持層の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層とを備える第1の部材を準備する工程;
(1c)第2の支持層と、前記第2の支持層の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層とを備える第2の部材を準備する工程;
(1d)前記第1の部材及び前記第2の部材を、前記多孔質基材を介して前記第1の固体電解質層と前記第2の固体電解質層とが対向するように積層して第1の積層体を得る工程;並びに
(1e)前記第1の積層体を厚さ方向にプレスし、前記第1の固体電池用シートを形成する工程
を含み、
前記第1の固体電池用シートにおいて、前記第1の固体電解質層の少なくとも一部及び前記第2の固体電解質層の少なくとも一部が、前記多孔質基材の細孔に充填されて接触している、前記方法。
[2]第2の固体電池用シートを製造する方法であって、
前記方法が、下記工程:
(2a)第1の多孔質基材及び第2の多孔質基材を準備する工程;
(2b)第1の支持層と、前記第1の支持層の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層とを備える第1の部材を準備する工程;
(2c)第2の支持層と、前記第2の支持層の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層とを備える第2の部材を準備する工程;
(2d)前記第1の部材の前記第1の固体電解質層側の面に前記第1の多孔質基材を積層して第3の部材を得る工程;
(2e)前記第2の部材の前記第2の固体電解質層側の面に前記第2の多孔質基材を積層して第4の部材を得る工程;
(2f)前記第3の部材及び前記第4の部材を、前記第3の部材の前記第1の多孔質基材側の面と前記第4の部材の前記第2の多孔質基材側の面とが対向するように積層して第2の積層体を得る工程;並びに
(2g)前記第2の積層体を厚さ方向にプレスし、前記第2の固体電池用シートを形成する工程
を含み、
前記第2の固体電池用シートにおいて、前記第1の固体電解質層の少なくとも一部及び前記第2の固体電解質層の少なくとも一部が、前記第1の多孔質基材及び前記第2の多孔質基材の細孔に充填されて接触している、前記方法。
[3]前記[1]に記載の第1の積層体を製造する方法であって、以下の工程:
(3a)多孔質基材を準備する工程;
(3b)第1の支持層と、前記第1の支持層の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層とを備える第1の部材を準備する工程;
(3c)第2の支持層と、前記第2の支持層の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層とを備える第2の部材を準備する工程;並びに
(3d)前記第1の部材及び前記第2の部材を、前記多孔質基材を介して前記第1の固体電解質層と前記第2の固体電解質層とが対向するように積層して第1の積層体を得る工程
を含む、前記方法。
[4]前記[2]に記載の第2の積層体を製造する方法であって、以下の工程:
(4a)第1の多孔質基材及び第2の多孔質基材を準備する工程;
(4b)第1の支持層と、前記第1の支持層の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層とを備える第1の部材を準備する工程;
(4c)第2の支持層と、前記第2の支持層の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層とを備える第2の部材を準備する工程;
(4d)前記第1の部材の前記第1の固体電解質層側の面に前記第1の多孔質基材を積層して第3の部材を得る工程;
(4e)前記第2の部材の前記第2の固体電解質層側の面に前記第2の多孔質基材を積層して第4の部材を得る工程;並びに
(4f)前記第3の部材及び前記第4の部材を、前記第3の部材の前記第1の多孔質基材側の面と前記第4の部材の前記第2の多孔質基材側の面とが対向するように積層して第2の積層体を形成する工程
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、固体電池に使用した際に良好な電池性能を発揮ことができる固体電池用シートの製造方法、及び当該固体電池用シートの製造方法で使用される積層体の製造方法を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る積層体及び固体電池用シートの製造方法を示す概略工程図である。
図2A図2Aは、本発明の第2実施形態に係る積層体及び固体電池用シートの製造方法を示す概略工程図である。
図2B図2Bは、本発明の第2実施形態に係る積層体及び固体電池用シートの製造方法を示す概略工程図(図2Aの続き)である。
図3A図3Aは、本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る積層体の製造方法で形成される積層体の平面図である。
図3B図3Bは、図3AのA-A線断面図である。
図4図4は、本発明の第1実施形態に係る積層体の製造方法で使用される装置の概略図である。
図5A図5Aは、本発明の第1実施形態及び第2実施形態に係る固体電池用シートの製造方法で形成される固体電池用シートの平面図である。
図5B図5Bは、図5AのA-A線断面図である。
図6図6は、本発明の第1実施形態に係る固体電池用シートの製造方法で使用される装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪積層体の製造方法≫
以下、図1図3を参照して、本発明に係る積層体の製造方法の実施形態について説明する。図1(a)~(d)は、本発明の第1実施形態に係る積層体の製造方法における工程3a~3dを示す概略工程図であり、図2A(a)~(e)及び図2B(f)は、本発明の第2実施形態に係る積層体の製造方法における工程4a~4fを示す概略工程図であり、図3Aは、工程3d及び工程4fで得られる積層体1A及び1Bの平面図であり、図3Bは、図3AのA-A線断面図である。各図面において、Xは長さ方向を示し、Yは幅方向Yを示し、Zは厚さ方向を示す。長さ方向X、幅方向Y及び厚さ方向Zは互いに直交する。長さ方向Xは、積層体1A及び1Bの製造時における機械方向(MD)に対応する。
【0011】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る積層体1Aの製造方法は、図1(a)~(d)に示すように、以下の工程:
(3a)多孔質基材10を準備する工程;
(3b)第1の支持層11と、第1の支持層11の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層13とを備える第1の部材M1を準備する工程;
(3c)第2の支持層12と、第2の支持層12の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層14とを備える第2の部材M2を準備する工程;並びに
(3d)第1の部材M1及び第2の部材M2を、多孔質基材10を介して第1の固体電解質層13と第2の固体電解質層14とが対向するように積層して積層体1Aを得る工程
を含む。
【0012】
工程3a、工程3b及び工程3cの実施順序は特に限定されない。工程3dは、工程3a、工程3b及び工程3cの後に実施される。
【0013】
本発明の第1実施形態によれば、積層体の製造方法が工程3a~工程3dを有することにより、固体電池に使用した際に良好な電池性能を発揮することができる固体電池用シートを製造するための積層体を形成することができる。このような効果を奏する理由としては、以下のようなことが推測される。
【0014】
従来、多孔質基材及び固体電解質層を積層した積層体の製造方法としては、多孔質基材に固体電解質を塗布や浸漬により付着させることで多孔質基材上に固体電解質層を形成して積層体を得る方法がある(例えば特許文献1)。しかしながら、多孔質基材に固体電解質を塗布や浸漬により付着させると、得られた積層体における固体電解質層表面にムラが生じる場合がある。このムラにより、固体電解質層の厚み方向の断面を観察した際に、正極層が配置される面側から負極層が配置される面側まで通じる貫通孔ができる場合がある。このような貫通孔は、電池の短絡の原因となる恐れがある。また、上述のような貫通孔が生じる原因としては、次のようなことが推測される。まず、固体電解質層を形成するに際し、固体電解質と溶媒とを含むスラリーを乾燥させて溶媒を除去するとき、溶媒分の体積が収縮することがあるが、多孔質基材に固体電解質を塗布や浸漬する場合には、このような体積の収縮が顕著になることが原因として推測される。
【0015】
そこで、本発明者らは、上記課題について検討を重ねた結果、多孔質基材に固体電解質を塗布や浸漬により付着させる工程に着目し、本発明に至った。すなわち、本発明者らは、予め形成した固体電解質層を多孔質基材に積層して積層体を得ることで、多孔質基材に固体電解質を塗布や浸漬により付着させて積層体を得る場合に比べて、多孔質基材上に形成された固体電解質層に生じる貫通孔を抑えることができること、並びに、予め形成した固体電解質層を多孔質基材に積層して得られる積層体を厚さ方向にプレスすることにより、多孔質基材に充填された固体電解質層に生じる貫通孔を抑えることができることを新たに見出した。したがって、本発明の第1実施形態によれば、多孔質基材上に形成された固体電解質層に生じる空隙及び多孔質基材に充填された固体電解質層に生じる貫通孔を抑えることができ、これにより、積層体を使用して得られた固体電池用シートを固体電池に使用したときの短絡の発生を抑制することができ、結果として、固体電池用シートの電池性能の向上を図ることができると推測される。
【0016】
<工程3a>
工程3aは、図1(a)に示すように、多孔質基材10を準備する工程である。
【0017】
多孔質基材10は、固体電解質層に自己支持性や強度を付与することができる基材であることが好ましい。多孔質基材10は、単層構造であってもよいし、複層構造であってもよい。
【0018】
多孔質基材10における「基材」とは、板状、箔状、シート状、膜状、メッシュ状等を包含する。多孔質基材10がシート状である場合、当該多孔質基材は、例えば、繊維シートであってもよい。繊維シートは、繊維をシート状に成形した構造物である。繊維シートとしては、例えば、不織布、織布、編布、紙等が挙げられる。また、多孔質基材10が膜状である場合、当該多孔質基材は、例えば微多孔膜であってもよい。
【0019】
多孔質基材10における「多孔質」とは、多数の細孔を有する状態を指す。多孔質基材10は、後述する固体電池用シートを形成した際に、第1の固体電解質層13と第2の固体電解質層14とが充填されて接触するような細孔Hを有していればよく、複数の繊維状の材料により構成されていてもよい。すなわち、多孔質基材10は、図1(a)に示すように、内部又は表面に、多孔質基材10の一方の面側から他方の面側まで通じる細孔Hを有する。細孔Hのサイズは、後述する固体電池用シートを形成した際に、第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14の少なくとも一部が充填される程度のサイズであればよい。多孔質基材10における細孔Hは、例えば、マイクロ孔、メソ孔及びマクロ孔のいずれであってもよい。細孔Hは互いに連通してしてもよい。また、多孔質基材10が繊維シートである場合、「多孔質」は繊維同士の隙間に生じる空隙を有する状態を指す。
【0020】
本発明の実施例では、後述するように多孔質基材10として繊維シート(不織布)を使用されている。以下、繊維シートの一例として不織布について説明する。
【0021】
不織布には、不織布の製造に使用される繊維の種類(繊維長、繊維径、繊維の材料等)、製造方法の種類(例えば、ウェブの形成方法、ウェブの繊維結合方法等)等に応じて、様々な種類の不織布が存在する。多孔質基材10として使用される不織布は、所望の積層体や固体電池用シートが得られれば特に限定されない。不織布としては、例えば、繊維直交不織布、長繊維不織布、短繊維不織布、湿式不織布、乾式不織布、エアレイド不織布、カード式不織布、パラレル式不織布、クロス式不織布、ランダム不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、フラッシュ紡糸不織布、ケミカルボンド不織布、水流交絡不織布、ニードルパンチ不織布、ステッチボンド不織布、サーマルボンド不織布、バーストファイバー不織布、トウ開織不織布、スプリットファイバー不織布、複合不織布、積層不織布、コーテッド不織布、ラミネート不織布等が挙げられるが、これらのうち、クロス式不織布が好ましい。クロス式不織布は、長さ方向X及び幅方向Yの強度比、目付(坪量)等の調整が容易である点で好ましい。クロス式不織布の長さ方向X及び幅方向Yの強度比は、均一に調整することが好ましい。クロス式不織布の目付は、低目付であってもよいし、高目付であってもよい。クロス式不織布としては、例えば、ポリオレフィンメッシュクロス(特開2007-259734参照)が挙げられる。なお、不織布の具体的な目付(坪量)については、例えば、特開2018-129307号公報に記載された内容と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0022】
多孔質基材10を構成する材料、空隙率、通気度や厚み等については、一般的な固体電池用シートに使用される多孔質基材と同様とすることができる。例えば、特開2018-129307号公報に記載された多孔性基材と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0023】
<工程3b>
工程3bは、図1(b)に示すように、第1の部材M1を準備する工程である。
【0024】
第1の部材M1は、例えば、シート状である。
【0025】
図1(b)に示すように、第1の部材M1は、第1の支持層11と、第1の支持層11の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層13とを備える。
【0026】
第1の部材M1は、図1(b)に示すように、第1の支持層11と第1の固体電解質層13との間に設けられた電極層(正極層)15をさらに備えていてもよい。正極層15は、必要に応じて設けられる層であり、省略可能である。本発明には、正極層15が省略された実施形態も包含される。また、本発明には、正極層15及び後述する負極層16のうち、一方が設けられる実施形態、両方が設けられる実施形態、及び、いずれも省略される実施形態が包含される。第1の支持層11及び第1の固体電解質層13の間に正極層15を備えるとき、第1の支持層11は正極集電体としての機能を有することが好ましい。第1の支持層11が正極集電体としての機能を有することで、積層体1Aを使用して得られる固体電池用シートを、固体電池として使用することができるからである。
【0027】
積層体1Aを形成する際、第1の支持層11は、第1の固体電解質層13及び正極層15を支持する。積層体1Aを使用して固体電池用シートを形成する際、第1の支持層11は、第1の支持層11に加えられた力によって第1の固体電解質層13を押圧し、第1の固体電解質層13の少なくとも一部を多孔質基材10の細孔Hに充填させる。また、第1の支持層11は、上述のように正極集電体として使用してもよく、必要に応じて後述する固体電池用シートから剥離してもよい。第1の支持層11の材料、厚さ等は、これらの第1の支持層11の役割、機能等を考慮して適宜選択することができる。第1の支持層11としては、例えば、金属単体で構成される金属層、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂で構成される樹脂層等が挙げられる。なお、第1の支持層11が正極集電体としての機能を有するとき、第1の支持層の材料、厚さ等については、例えば、一般的な固体電池に使用される正極集電体の材料、厚さ等と同様とすることができる。
【0028】
第1の固体電解質層13は、正極層15の表面(正極層15が省略される場合は、第1の支持層11の表面)に形成される。第1の固体電解質層13の形成方法としては、一般的な固体電解質層の形成方法を採用することができ、特に限定されない。第1の固体電解質層13の形成方法としては、例えば、固体電解質を溶媒に溶解して正極層15の表面又は第1の支持層11の表面に塗工して乾燥する工程を含む方法が挙げられる。
【0029】
第1の固体電解質層13は、少なくとも固体電解質を含有し、必要に応じてバインダーを含有していてもよい。第1の固体電解質層13は、1種の固体電解質を含有してもよいし、2種以上の固体電解質を含有してもよい。なお、「固体電解質」は、粉末状又は粒状である。第1の固体電解質層13における固体電解質の含有量は特に限定されないが、第1の固体電解質層13の質量を基準として、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。なお、上限は100質量%である。
【0030】
固体電解質は、固体電池(例えば、全固体型リチウムイオン電池)に一般的に使用される固体電解質から適宜選択することができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等が挙げられる。本発明においては、硫化物固体電解質を用いることが好ましい。硫化物固体電解質は、柔らかいため、多孔質基材10の細孔Hへの充填性に優れている。
【0031】
硫化物固体電解質としては、一般的な硫化物固体電解質、例えば、リチウム元素、リン元素及び硫黄元素を含有する固体電解質等が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、リチウムイオン伝導度の一層の向上の観点から、特に、アルジロダイト型結晶構造を有する材料からなることが好ましい。なお、硫化物固体電解質のその他の詳細な説明については、例えば、特許6595153号、WO2019/009228号公報、特開2018-067552号公報等に記載された内容と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0032】
第1の固体電解質層13の厚さは、多孔質基材10の細孔Hへの固体電解質の充填性、多孔質基材10の細孔Hに充填される固体電解質の量等を考慮して適宜調整することができる。第1の固体電解質層13の厚さは、第1の固体電解質層13の一部が多孔質基材10の細孔Hに充填される際、第1の固体電解質層13の残部(第1の固体電解質層13のうち多孔質基材10の細孔Hに充填されなかった部分)が層の形態を保持するように調整される。第1の固体電解質層13の厚さは、例えば0.1μm以上1000μm以下である。
【0033】
第1の支持層11及び第1の固体電解質層13の間に正極層15を有する場合、正極層15は第1の支持層11上に形成される。正極層15の形成方法は、一般的な正極層の形成方法を採用することができ、特に限定されない。正極層15の形成方法としては、例えば、正極活物質を含む正極合剤を第1の支持層11の表面に塗工して乾燥する工程を含む方法が挙げられる。
【0034】
正極層15は、正極活物質を含有し、必要に応じて固体電解質、導電助剤、結着剤等を含有していてもよい。正極層15は、1種の正極活物質を含有してもよいし、2種以上の正極活物質を含有してもよい。正極活物質は、固体電池(例えば、全固体型リチウムイオン電池)に一般的に使用される正極活物質から適宜選択することができる。正極活物質としては、例えば、金属酸化物、金属硫化物等が挙げられる。正極層の厚さは、例えば0.1μm以上1000μm以下である。
【0035】
<工程3c>
工程3cは、図1(c)に示すように、第2の部材M2を準備する工程である。
【0036】
図1(c)に示すように、第2の部材M2は、第2の支持層12と、第2の支持層12の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層14とを備える。
【0037】
第2の部材M2は、図1(c)に示すように、第2の支持層12と第2の固体電解質層14との間に設けられた電極層(負極層)16をさらに備えていてもよい。負極層16は、必要に応じて設けられる層であり、省略可能である。本発明には、負極層16が省略された実施形態も包含される。第2の支持層12及び第2の固体電解質層14の間に負極層16を備えるとき、第2の支持層12は負極集電体としての機能を有することが好ましい。第2の支持層12が負極集電体としての機能を有することで、積層体1Aを使用して得られる固体電池用シートを、固体電池として使用することができるからである。
【0038】
第2の支持層12に関する説明は、第1の支持層11と同様であるので省略する。第2の支持層12を構成する材料、第2の支持層12の厚さ等は、第1の支持層11と同一であってよいし、異なっていてもよい。第2の支持層12が負極集電体としての機能を有するとき、第2の支持層12の材料、厚さ等については、例えば一般的な固体電池に用いられる負極集電体の材料、厚さ等と同様とすることができる。負極集電体としては、例えば銅箔が挙げられる。
【0039】
第2の固体電解質層14に関する説明は、第1の固体電解質層13と同様であるので省略する。第2の固体電解質層14を構成する材料、第2の固体電解質層14の厚さ等は、第1の固体電解質層13と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0040】
負極層16は、負極活物質を含有し、必要に応じて固体電解質、導電助剤、結着剤等を含有していてもよい。負極層16は、1種の負極活物質を含有してもよいし、2種以上の負極活物質を含有してもよい。負極活物質は、全固体型リチウムイオン電池に一般的に使用される負極活物質から適宜選択することができる。負極活物質としては、例えば、炭素材料、金属材料、シリコン系材料等が挙げられる。
【0041】
第2の部材M2のその他の説明については、上述した第1の部材の説明と同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0042】
<工程3d>
工程3dは、図1(d)に示すように、第1の部材M1及び第2の部材M2を、多孔質基材10を介して第1の固体電解質層13と第2の固体電解質層14とが対向するように積層して積層体1Aを得る工程である。
【0043】
工程3dで得られる積層体1Aは、図3に示すように、第1の支持層11と、正極層15と、第1の固体電解質層13と、多孔質基材10と、第2の固体電解質層14と、負極層16と、第2の支持層12とを順に備える。正極層15及び負極層16は必要に応じて設けられる層であり、省略可能である。本発明には、正極層15及び/又は負極層16が省略された実施形態も包含される。
【0044】
多孔質基材10、第1の部材M1及び第2の部材M2の積層順序は、第1の固体電解質層13と第2の固体電解質層14との間に多孔質基材10が位置するように積層される限り特に限定されない。例えば、第2の部材M2に多孔質基材10を積層した後、第1の部材M1を積層してもよいし、第1の部材M1に多孔質基材10を積層した後、第2の部材M2を積層してもよいし、多孔質基材10に第1の部材M1及び第2の部材M2を同時に積層してもよい。
【0045】
予め準備された多孔質基材10、第1の部材M1及び第2の部材M2を積層して積層体1Aを形成する場合における積層体1Aの生産性は、第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14の一方を多孔質基材10の一方の面側に形成し、次いで、第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14の他方を多孔質基材10の他方の面側に形成して積層体1Aを形成する場合における積層体1Aの生産性よりも優れている。また、予め準備された多孔質基材10、第1の部材M1及び第2の部材M2を積層して積層体1Aを形成する場合、後述するように、積層体1Aの製造をロールツーロール方式で行うことができる。
【0046】
工程3dにおいては、必要に応じて積層体1Aに対して厚み方向にプレスしてもよい。プレスは、例えば、ロールプレスにより行うことができる。なお、ここでのプレスは、後述する固体電池用シートの製造方法の工程1eでのプレスよりも圧力が小さいプレスを言う。具体的には、多孔質基材10の細孔Hに充填された第1の固体電解質層13の一部と、多孔質基材10の細孔Hに充填された第2の固体電解質層14の一部とが、多孔質基材10内で接触しない程度の圧力であることが好ましい。
【0047】
第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14の一部は、多孔質基材10内で両者が接触しない程度に、多孔質基材10の細孔Hに充填されていてもよい。ここで、「多孔質基材10内で両者(第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14の一部)が接触しない程度に」とは、多孔質基材10内で第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14が完全に接触しない場合だけではなく、意図せず僅かに接触する場合も包含する。
【0048】
積層体1Aは、必要に応じて多孔質基材10と第1の固体電解質層13との間、及び/又は、多孔質基材10と第2の固体電解質層14との間に層間の密着性を向上するための粘着層を有していてもよい。粘着層は、多孔質基材10の少なくとも一方の面に形成してもよく、あるいは、上述した工程3b及び/又は工程3cにおいて、第1の固体電解質層13の第1の支持層11とは反対側の面及び/又は第2の固体電解質層14の第2の支持層12とは反対側の面に形成してもよい。なお、粘着層の材料や形成方法等については、一般的な粘着層の材料及び形成方法と同様とすることができる。例えば、特開2018-129307号公報に記載された内容と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0049】
<ロールツーロール方式>
積層体1Aは、ロールツーロール方式で製造されることが好ましい。ロールツーロール方式により、積層体1Aを連続して製造することができ、積層体1Aの生産性を向上させることができる。
【0050】
以下、図4を参照して、積層体1Aをロールツーロール方式で製造する一実施形態について説明する。図4は、本実施形態で使用される装置の概略図である。
【0051】
図4に示すように、多孔質基材10は、供給リール101から連続して供給され、巻き取りリール50によって連続して巻き取られることにより搬送されてもよい。搬送中、多孔質基材10は、ガイドロールによってガイドされていてもよい。供給リール101は、回転可能に支持されており、多孔質基材10は、供給リール101に巻回されていてもよい。
【0052】
図4に示すように、第1の支持層11は、供給リール111から連続して供給され、巻き取りリール50によって連続して巻き取られることにより搬送されていてもよい。搬送中、第1の支持層11は、ガイドロールによってガイドされていてもよい。供給リール111は、回転可能に支持されており、第1の支持層11は、供給リール111に巻回されていてもよい。
【0053】
図4に示すように、塗布部112により第1の支持層11の一方の面に塗布された正極合剤を乾燥する乾燥部113、固体電解質層形成材料を塗布する塗布部114、及び、塗布部114により塗布された固体電解質層形成材料を乾燥する乾燥部115が設けられていてもよい。第1の支持層11に対して、塗布部112、乾燥部113、塗布部114及び乾燥部115による処理が順次施されることにより、第1の部材M1が形成されることが好ましい。なお、固体電解質層形成材料とは、例えば、固形分(例えば、固体電解質等)及び溶媒(例えば、有機溶媒等)を含有するスラリーである。
【0054】
図4に示すように、塗布部122により第2の支持層12の一方の面に塗布された負極合剤を乾燥する乾燥部123、固体電解質層形成材料を塗布する塗布部124、及び、塗布部124により塗布された固体電解質層形成材料を乾燥する乾燥部125が設けられていてもよい。第2の支持層12に対して、塗布部122、乾燥部123、塗布部124及び乾燥部125による処理が順次施されることにより、第2の部材M2が形成されることが好ましい。なお、第2の部材M2については、上述した第1の部材M1と同様にしてロールツーロール方式により形成することができる。
【0055】
図4に示すように、積層体1Aの搬送経路には、一対のプレスロース61,62が設けられていてもよい。また、積層体1Aは、ガイドロールによってガイドされながら搬送され、巻き取りリール50によって連続して巻き取られてもよい。
【0056】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る積層体1Bの製造方法は、図2A(a)~(e)及び図2B(f)に示すように、以下の工程:
(4a)第1の多孔質基材10a及び第2の多孔質基材10bを準備する工程;
(4b)第1の支持層11と、第1の支持層11の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層13とを備える第1の部材M1を準備する工程;
(4c)第2の支持層12と、第2の支持層12の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層14とを備える第2の部材M2を準備する工程;
(4d)第1の部材M1の第1の固体電解質層13側の面に第1の多孔質基材10aを積層して第3の部材M3を得る工程;
(4e)第2の部材M2の第2の固体電解質層14側の面に第2の多孔質基材10bを積層して第4の部材M4を得る工程;
(4f)第3の部材M3及び第4の部材M4を、第3の部材M3の第1の多孔質基材10a側の面と第4の部材M4の第2の多孔質基材10b側の面とが対向するように積層して積層体1Bを形成する工程
を含む。
【0057】
工程4a、工程4b及び工程4cの実施順序は特に限定されない。工程4dは、工程4a及び工程4bの後に実施され、工程4eは、工程4a及び工程4cの後に実施され、工程4fは工程4d及び工程4eの後に実施される。第2実施形態により得られる効果については、工程3a~工程3dを有する第1実施形態の効果と同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0058】
工程3a~3dを有する第1実施形態では、1つの多孔質基材10を用いているのに対し、工程4a~工程4fを有する第2の実施形態では、2つの多孔質基材10a,10bを使用している点で相違するが、その他の点では同様とすることができる。具体的には、工程4aは工程3aと、工程4bは工程3bと、工程4cは工程3cと、工程4d、工程4e及び工程4fは工程3dと同様とすることができる。したがって、工程4a~工程4fの詳細な説明は省略する。
【0059】
積層体1Bは、ロールツーロール方式で製造されることが好ましい。ロールツーロール方式により、積層体1Bを連続して製造することができ、積層体1Bの生産性を向上させることができる。積層体1Bのロールツーロール方式の製造は、積層体1Aと同様にして行うことができるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0060】
≪固体電池用シートの製造方法≫
以下、図1図2及び図5を参照して、本発明に係る固体電池用シートの製造方法の実施形態について説明する。図1(a)~(e)は、本発明の第1実施形態に係る固体電池用シートの製造方法における工程1a~1eを示す概略工程図であり、図2A(a)~(e)及び図2B(f)~(g)は、本発明の第2実施形態に係る固体電池用シートの製造方法における工程2a~2gを示す概略工程図であり、図5Aは、工程1e及び工程2gで形成される固体電池用シート5A及び5Bの平面図であり、図5Bは、図5AのA-A線断面図である。各図面において、Xは長さ方向を示し、Yは幅方向Yを示し、Zは厚さ方向を示す。長さ方向X、幅方向Y及び厚さ方向Zは互いに直交する。長さ方向Xは、固体電池用シート5A及び5Bの製造時における機械方向(MD)に対応する。
【0061】
本発明の第1実施形態に係る固体電池用シート5Aの製造方法は、図1(a)~(e)に示すように、以下の工程:
(1a)多孔質基材10を準備する工程;
(1b)第1の支持層11と、第1の支持層11の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層13とを備える第1の部材M1を準備する工程;
(1c)第2の支持層12と、第2の支持層12の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層14とを備える第2の部材M2を準備する工程;
(1d)第1の部材M1及び第2の部材M2を、多孔質基材10を介して第1の固体電解質層13と第2の固体電解質層14とが対向するように積層して積層体1Aを得る工程;並びに
(1e)積層体1Aを厚さ方向にプレスし、固体電池用シート5Aを形成する工程
を含み、
図5A及びBに示すように、固体電池用シート5Aにおいて、第1の固体電解質層13の少なくとも一部及び第2の固体電解質層14の少なくとも一部が、多孔質基材10の細孔Hに充填されて接触している。
【0062】
本発明の第1実施形態により得られる効果については、上述した積層体の製造方法の項に記載した内容と同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0063】
<工程1a~工程1d>
工程1a~工程1dは、上述した積層体の製造方法における工程3a~工程3dと同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0064】
<工程1e>
工程1eは、積層体1Aを厚さ方向Zにプレスし、固体電池用シート5Aを形成する工程である。
【0065】
工程1eにおいて、積層体1Aを厚さ方向Zにプレスすることにより、第1の固体電解質層13の少なくとも一部が多孔質基材10の一方の面からの細孔Hに充填されるとともに、第2の固体電解質層14の少なくとも一部が多孔質基材10の他方の面から細孔Hに充填され、第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14が多孔質基材10内で接触する。ここで、「第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14が多孔質基材10内で接触する」とは、多孔質基材10の細孔Hを通じて第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質14が接触していれば足りるが、工程1eで得られる固体電池用シート5を固体電池に使用した際に、当該固体電池が良好に駆動する程度に第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14が接触していることが好ましい。
【0066】
第1の固体電解質層13の一部が多孔質基材10の一方の面からの細孔Hに充填されるとともに、第2の固体電解質層14の一部が多孔質基材10の他方の面から細孔Hに充填されることにより、多孔質基材10に対する固体電解質の不均一な充填及びこれによりに生じる多孔質基材10に充填された固体電解質の貫通孔を防止することができる。これにより、電池性能を向上させることができる。
【0067】
第1の固体電解質層13の残部(第1の固体電解質層13のうち多孔質基材10の細孔Hに充填されなかった部分)及び第2の固体電解質層14の残部(第2の固体電解質層14のうち多孔質基材10の細孔Hに充填されなかった部分)が、それぞれ、層の形態を保持した状態で、多孔質基材10の一方及び他方の面に残存していることにより、多孔質基材10の露出を防止することができる。これにより、第1の固体電解質層13と正極層15との接触性及び第2の固体電解質層14と負極層16との接触性を向上させることができ、電池性能を向上させることができる。第1実施形態においては、工程1bで準備された第1の部材M1における第1の固体電解質層13の厚さを1としたとき、工程1eで得られた固体電池用シート5Aにおける第1の固体電解質層13の残部の厚さが、例えば0.1以上であってもよく、0.2以上であってもよく、0.3以上であってもよく、0.5以上であってもよい。なお、工程1cで準備された第2の部材M2における第2の固体電解質層14の厚さを1としたときの第2の固体電解質層14の残部の厚さは、上述した第1の固体電解質層13での数値範囲と同様とすることができるため省略する。なお、上記厚さは、任意に選択された10箇所の厚さの平均値とする。
【0068】
工程1eにおけるプレス方法は、積層体1Aを厚み方向にプレスすることができる方法であればよく、特に限定されず、例えば、ロールプレスが挙げられる。また、プレスの際の圧力は、第1の固体電解質層13の少なくとも一部が多孔質基材10の一方の面からの細孔Hに充填されるとともに、第2の固体電解質層14の少なくとも一部が多孔質基材10の他方の面から細孔Hに充填され、第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14が多孔質基材10内で接触するような圧力であることが好ましい。
【0069】
工程1eにおけるプレス方法は、必要に応じて積層体1Aを加熱しながらプレスする方法であってもよい。例えば、HIP(Hot Isostatic Press)、WiP(Warm Isostatic Press)、加熱ロールプレス等が挙げられる。工程1eが積層体1Aを加熱しながらプレスする工程であることにより、第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14と多孔質基材10とがより強固に密着し、安定なシートを形成することができる。また、第1の固体電解質層13及び第2の固体電解質層14と多孔質基材10とがより強固に密着することで、固体電池用シート5Aから第1の支持層11及び第2の支持層12を良好に剥離することができる。加熱温度としては特に限定されないが、例えば、30℃以上であることが好ましく、中でも50℃以上であることが好ましく、特に70℃以上であることが好ましい。一方、上記加熱温度は、例えば、200℃以下であることが好ましく、中でも150℃以下であることが好ましく、特に100℃以下であることが好ましい。
【0070】
なお、多孔質基材10の厚さは、積層体1を厚さ方向Zにプレスすることにより減少する場合がある。そのため、プレス後の多孔質基材10の厚さは、プレス前の多孔質基材10の厚さよりも小さくなる場合がある。
【0071】
<工程1f>
本発明の第1実施形態は、必要に応じて固体電池用シート5Aから第1の支持層11及び第2の支持層12を剥離する工程を含んでいてもよい。
【0072】
第1の支持層11及び第2の支持層12の剥離は、例えば、固体電池用シート5Aをプレスすることにより、あるいは、固体電池用シート5Aを湾曲させることにより行うことができる。
【0073】
固体電池用シート5Aは、固体電池の製造に使用することができる。固体電池用シート5Aを固体電池の製造に使用する際、固体電池用シート5Aを所望の形状に切断してもよい。なお、このような切断は、固体電池用シート5Aよりも以前の段階(例えば、積層体1Aの製造段階、固体電池用シート5Aの製造段階等)で行ってもよい。
【0074】
固体電池は、好ましくはリチウム固体電池である。リチウム固体電池は、一次電池であってもよいし、二次電池であってもよいが、リチウム二次電池であることが好ましい。固体電池は、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。固体電池の形態としては、例えば、ラミネート型、円筒型及び角型等が挙げられる。
【0075】
固体電池は、正極層と、負極層と、正極層及び負極層の間に位置する固体電解質層とを備える。正極層及び負極層を備えた固体電池用シート5Aは、固体電池の構成要素のうち、正極層、負極層及び固体電解質層として使用することができる。また、第1の支持層11が正極集電体としての機能を有し、かつ第2の支持層12が負極集電体としての機能を有するとき、固体電池用シート5Aそのものを固体電池として使用することができる。
【0076】
正極層15及び負極層16が省略された実施形態において、固体電池用シート5Aは、固体電池の構成要素のうち、固体電解質層として使用することができる。固体電池の正極層は、固体電池用シート5Aの第1の固体電解質層13の表面S1に形成することができ、固体電池の負極層は、固体電池用シート5Aの第2の固体電解質層14の表面S2に形成することができる。正極層15及び負極層16が省略された実施形態も、正極層15及び負極層16が設けられている実施形態と同様に、電池性能の向上を実現させることができる。
【0077】
<ロールツーロール方式>
固体電池用シート5Aは、ロールツーロール方式で製造されることが好ましい。ロールツーロール方式により、固体電池用シート5Aを連続して製造することができ、固体電池用シート5Aの生産性を向上させることができる。
【0078】
以下、図6を参照して、固体電池用シート5Aをロールツーロール方式で製造する実施形態について説明する。図6は、本実施形態で使用される装置の概略図である。
【0079】
図6に示すように、積層体1Aの搬送経路には、一対のプレスロース75,76が設けられており、積層体1Aがプレスロース75,76でプレスされることにより、固体電池用シート5Aを得ることができる。また、必要に応じて、固体電池用シート5Aから第1の支持層11及び第2の支持層12が剥離されてもよい。例えば、固体電池用シート5Aがガイドロール81,82,83によってガイドされながら搬送されることにより、固体電池用シート5Aから第1の支持層11及び第2の支持層12が剥離されてもよい。なお、剥離された第1の支持層11は、巻き取りリール72によって連続して巻き取られ、固体電池用シート5Aは、巻き取りリール73によって連続して巻き取られ、剥離された第2の支持層12は、巻き取りリール74によって連続して巻き取られてもよい。
【0080】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る固体電池用シート5Bの製造方法は、図2A(a)~(e)及び図2B(f)~(g)に示すように、以下の工程:
(2a)第1の多孔質基材10a及び第2の多孔質基材10bを準備する工程;
(2b)第1の支持層11と、第1の支持層11の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層13とを備える第1の部材M1を準備する工程;
(2c)第2の支持層12と、第2の支持層12の一方の面側に設けられた第2の固体電解質層14とを備える第2の部材M2を準備する工程;
(2d)第1の部材M1の第1の固体電解質層13側の面に第1の多孔質基材10aを積層して第3の部材M3を得る工程;
(2e)第2の部材M2の第2の固体電解質層14側の面に第2の多孔質基材10bを積層して第4の部材M4を得る工程;
(2f)第3の部材M3及び第4の部材M4を、第3の部材M3の第1の多孔質基材10a側の面と第4の部材M4の第2の多孔質基材10b側の面とが対向するように積層して積層体1Bを得る工程;並びに
(2g)積層体1bを厚さ方向にプレスし、固体電池用シート5Bを形成する工程
を含み、
図5A及びBに示すように、固体電池用シート5Bにおいて、第1の固体電解質層13の少なくとも一部及び第2の固体電解質層14の少なくとも一部が、第1の多孔質基材10a及び第2の多孔質基材10bの細孔Hに充填されて接触している。
【0081】
本発明の第2実施形態により得られる効果については、上述した積層体の製造方法の項に記載した内容と同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0082】
<工程2a~工程2f>
工程2a~工程2fは、上述した積層体の製造方法における工程4a~工程4fと同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0083】
<工程2g>
工程2gは、上述した固体電池用シートの製造方法における工程1eと同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0084】
なお、その他の固体電池用シート、固体電池及びロールツーロール方式についての説明は、上述した工程1a~工程1eでの説明と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【実施例
【0085】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0086】
・工程1a
多孔質基材として、ポリオレフィン不織布(厚み:30μm、材料:ポリエチレン及びポリプロピレン、目付:5g/m)を準備した。
【0087】
・工程1b
第1の支持層(SUS箔、厚み:10μm)と、上記第1の支持層の一方の面側に設けられた第1の固体電解質層(組成:固体電解質/バインダー=99/1(質量比)、厚み:35μm)とを備える第1の部材を準備した。
【0088】
・工程1c
第1の部材と同様にして第2の部材を準備した。
【0089】
・工程1d
第1の部材及び第2の部材を、多孔質基材を介して第1の固体電解質層と第2の固体電解質層とが対向するように積層して積層体(厚み:120μm)を得た。
【0090】
・工程1e
得られた積層体をロールプレスして固体電池用シート(厚み:45μm)を得た。
【0091】
・評価
得られた固体電池用シートの厚み方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)によって得られた断面像から目視により観察した。その結果、第1の固体電解質層の少なくとも一部及び第2の固体電解質層の少なくとも一部が、多孔質基材の細孔に充填されて接触していた。また、従来の固体電池用シートと比較したところ、本発明の固体電池用シートでは、固体電解質層に生じる貫通孔の発生を効果的に抑制できることが分かった。
【符号の説明】
【0092】
1A,1B・・・積層体
5A,5B・・・固体電池用シート
M1・・・第1の部材
M2・・・第2の部材
M3・・・第3の部材
M4・・・第4の部材
10,10a,10b・・・多孔質基材
11・・・第1の支持層
12・・・第2の支持層
13・・・第1の固体電解質層
14・・・第2の固体電解質層
15・・・正極層
16・・・負極層
111,121・・・供給リール
112,122,114,124・・・塗布部
113,123,115,125・・・乾燥部
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6