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  • 特許-光軸調整装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】光軸調整装置
(51)【国際特許分類】
   B60Q 1/08 20060101AFI20250821BHJP
【FI】
B60Q1/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021159756
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049790
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2024-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 研太郎
(72)【発明者】
【氏名】浅野 憲昭
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157064(JP,A)
【文献】特開2007-258034(JP,A)
【文献】特開2020-177812(JP,A)
【文献】特開昭55-039816(JP,A)
【文献】実開昭54-099989(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される前照灯ユニットの光軸を調整する光軸調整装置であって、
前記車両のエンジンの油温、又は、前記エンジンを冷却する冷却水の水温に基づいてエンジン房内の温度を取得するエンジン温度取得部と、
前記温度に基づいて、前記前照灯ユニットの周囲の温度変化に起因する前記光軸の変位量を算出する変位量算出部と、
前記変位量に基づいて前記前照灯ユニットの光軸を調整する光軸調整部と、を備え、
前記変位量算出部は、前記エンジン房内の温度に応じた前記光軸の変位量の算出に関する計算式、又は、前記エンジン房内の温度と前記光軸の変位量とが対応付けられたテーブルに基づいて前記光軸の変位量を算出する、車両用前照灯の光軸調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備えられる車両用前照灯の光軸を調整する光軸整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯は、その光軸が法規で定められた範囲内に位置するように調整される。車両用前照灯の光軸を調整する光軸調整装置として、例えば、車体の前後方向の角度が水平方向に対して傾斜した場合に、傾斜角度に応じて光軸を調整するオートレベリング装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-234456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の走行中は、周囲の環境や車両の走行状況によって、車両用前照灯の周囲や内部の温度が変化し、温度変化に起因して光軸にずれが生じることがある。具体的には、温度変化によって、車両用前照灯の筐体に熱伸びが生じて車両用前照灯自体が車体に対してずれたり、車両用前照灯の筐体内部に収容された光源ユニットに熱伸びが生じて光源ユニットが筐体に対してずれたりする場合がある。このようなずれによって、車両用前照灯の光軸が所定の範囲内から逸脱してしまうことがある。
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1のオートレベリング装置では、温度変化による光軸のずれを調整することが想定されていない。
近年、車両用前照灯に用いられる光源(LED)の高精細化や、ADB(Adaptive Driving Beam)のような高機能の車両用前照灯の普及に伴い、より精度の高い光軸調整が望まれている。
【0006】
本発明は、このような状況に対処することを課題としている。すなわち、車両用前照灯周りの温度変化に起因する光軸のずれを算出して補正すること、などを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために、本発明に係る光軸調整装置は、以下の構成を具備する。
すなわち、本発明の一態様は、車両に搭載される前照灯ユニットの光軸を調整する光軸調整装置であって、前記車両のエンジン房内の温度を取得するエンジン温度取得部と、前記温度に基づく前記光軸の変位量を算出する変位量算出部と、前記変位量に基づいて前記前照灯ユニットの光軸を調整する光軸調整部と、を備えた車両用前照灯の光軸調整装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
このような特徴を有する光軸調整装置によれば、車両用前照灯周りの温度変化に起因する光軸のずれを算出し、高精度に補正又は調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る光軸調整装置を含む車両制御システムの概略構成を示す説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る光軸調整装置の概略構成を示す説明図である。
図3】本発明の実施形態に係る光軸調整装置によって光軸の調整が実施される車両用の前照灯ユニットの概略構成を示す説明図である。
図4図3のA-A端面図である。
図5図3のA-A端面図であり、前照灯ユニットを支持するブラケットの動きを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0011】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る車両に搭載される光軸調整装置は、車両用制御システム1の一部として機能し、車両100に設けられる。車両用制御システム1は、車両100の走行に必要な種々の電子機器類、及び、これらの電子機器類を制御する複数の車載ECU(Electronic Control Unit)を備えている。各電子機器及び各車載ECU等は、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)等の車載ネットワーク3により相互に通信可能に接続されると共に、中継装置としてのセントラルゲートウェイ(CGW)4に接続されて車両用制御システム1を構成する。
【0012】
各車載ECUは、例えば、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサや電気回路、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子を備えて構成することができる。また、車載ECUが実行する動作の一部又は全部を、ASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(field-programmable gate array)やGPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェアにより実現することもできる。
以下の説明において、本実施形態にかかる光軸調整装置(光軸調整ECU11)に直接関与しない電子機器等についての詳細な説明及び図示は省略する。
【0013】
図1に示すように、車両用制御システム1は、車載ECUとして、光軸調整ECU11、エンジンECU21、ブレーキECU31及びステアリングECU41を含んで構成されている。各車載ECUは、各車載ECUの制御対象である電子機器に接続され、車載ネットワーク3から取得する情報(データ)に基づいて各々が接続された電子機器の動作を制御する。また、各車載ECUは、接続された電子機器の動作状態などの状態を示す情報を車載ネットワーク3へ出力する。
【0014】
光軸調整ECU11は、車両の前方に設けられる前照灯ユニット13及び前照灯ユニット13を駆動する駆動部12と接続され、前照灯ユニットの光軸を調整する光軸調整装置として機能する。光軸調整ECU11の詳細は後述する。
【0015】
エンジンECU21はエンジンに、ブレーキECU31はブレーキに、ステアリングECU41はステアリングにそれぞれ接続されている。そして、エンジンECU21、ブレーキECU31、及びステアリングECU41は、車載ネットワーク3から取得した情報に基づいて車両の走行を制御する。
【0016】
特に、エンジンECU21は、油温センサ22及び冷却水水温センサ23と接続されている。油温センサ22は、走行中のエンジンの油温を検出しエンジン制御ECU21に出力する。冷却水水温センサ23は、走行中のエンジン冷却水の水温を検出してエンジン制御ECU21に出力する。
【0017】
この他、エンジンECU21、ブレーキECU31及びステアリングECU41は、それぞれに接続された電子機器から、当該電子機器の状態を示す状態情報(例えば、エンジンの回転数、トルク、アクセル開度、車両の走行速度及び走行時間、燃料消費量、フットブレーキの踏み込み量、サイドブレーキのオン/オフ、ステアリングの操舵角や操舵量等に関する情報)を取得し、取得した情報を車載ネットワーク3に出力する。
【0018】
(光軸調整装置について)
以下、光軸調整装置としての光軸調整ECU11について説明する。光軸調整ECU11は、車載ネットワーク3を介して上述した各車載ECUから取得した情報を参照して駆動部12を制御し、前照灯ユニット13から照射される光の光軸を所定の範囲内に位置するように調整する。
【0019】
図2に示すように、光軸調整ECU11は、光軸調整ECU11は、CPU(Central Processing Unit)111、ROM112、及びRAM113を備えている。
CPU111は、ROM112に格納されたプログラムに基づいて種々の処理を実行する。本実施形態では、CPU111は、ROM112に格納されたプログラムを例えばRAM113等のメモリに読み込んで実行することにより、図2に示すエンジン温度取得部114、変位量算出部115、及び、光軸調整部116として機能する。以下、エンジン温度取得部114、変位量算出部115、及び、光軸調整部116について説明する。
【0020】
エンジン温度取得部114は、エンジン制御ECU21及び車載ネットワーク3を介して、油温センサ22によって検出されたエンジンの油温度又は冷却水水温センサ23によって検出されたエンジンの冷却水の水温を、エンジン房内の温度として取得する。
【0021】
変位量算出部115は、エンジン温度取得部114によって取得されたエンジン房内の温度に基づいて前照灯ユニットの光軸の変位量(ずれ量)を算出する。例えば、変位量算出部115は、エンジン房内の温度に応じた変位量の算出に関する計算式又はエンジン房内の温度と変位量とが対応付けられたテーブルを、予めROM112等に記憶させておき、これに基づいて算出する。計算式又はテーブルは、車両毎に予めシミュレーション等によって取得しておくことが好ましい。
【0022】
光軸調整部116は、変位量算出部115によって算出された変位量に基づいて前照灯ユニットの光軸を調整する。具体的には、光軸調整部116は、前照灯ユニットの変位量に応じて、前照灯ユニット13の調整量を定め、調整量を示す駆動信号を駆動部12に出力する。
【0023】
(前照灯ユニットについて)
続いて、光軸調整ECU11による光軸調整の対象である前照灯ユニット13について図3から図5を用いて説明する。
【0024】
前照灯ユニット13は、通常、車両前方の左右に一対設けられるが、図3から図5には、代表例として一方のみを示す。図3から図5に示すように、前照灯ユニット13は、例えば、図示しない光源、光源から出射した光が車両の前方に導光させるリフレクタ、光源から出射した光を所定範囲に配光させるためのレンズ等をハウジング内に収容して構成される。
【0025】
前照灯ユニット13は、ブラケット14に固定され、ブラケット14を介して車体80に取り付けられる。ブラケット14は、ブラケット14の上部に設けられるボールジョイント141、左右調整用エイミングスクリュー142、及び、ブラケット14の下部にリテーナ143を介して設けられる上下調整用エイミングスクリュー144によって車体80に取り付けられる。
【0026】
ボールジョイント141は、一端のボール部141Aがブラケット14の搖動中心(支点)となるようにブラケット14に取り付けられ、他端のネジ部141Bが車体80に取り付けられている。
【0027】
上下調整用エイミングスクリュー144は、一端がリテーナ143を介してブラケット14に取り付けられ、他端が車体80側のレベリングユニット145の上下エイミング調整ギア146に取り付けられている。
【0028】
このように前照灯ユニット13は、上下調整用エイミングスクリュー144又はリテーナ143の車両前後方向の移動に伴ってボールジョイント141の一端のボール部141Aを支点として車体80に対してブラケット14と共に上下に傾動可能に支持されている。
【0029】
つまり、上下調整用エイミングスクリュー144を回転させることで、リテーナ143が車両の前後方向に移動し、リテーナ143の移動に伴ってブラケット14の下部も車両前後方向に移動する。これにより、前照灯ユニット13はボールジョイント141のボール部141Aを中心として回転し、傾動する。
【0030】
前照灯ユニット13の光軸調整を行う場合には、作業者によって手動で行う、又は、光軸調整ECU11によって自動で行うことができる。
作業者による手動調整の場合、作業者が、上下調整用エイミングスクリュー144をドライバによって回転させると、上下調整用エイミングスクリュー144のネジ部分においてリテーナ143が車両前後方向に移動する。リテーナ143の移動に伴ってブラケット14の下部も車両前後方向に移動する。これにより、ブラケット14と共に前照灯ユニット13がボールジョイント141のボール部141Aを中心として回転し、傾動する。
【0031】
光軸調整ECU11による自動調整の場合、レベリングユニット145に含まれる駆動部12(例えば、モータ)を駆動して、上下エイミング調整ギア146と共に上下調整用エイミングスクリュー144を回転させる。駆動部12が上下調整用エイミングスクリュー144を回転させることで、上下調整用エイミングスクリュー144が車両前後方向に移動し、これに伴ってリテーナ143も車両前後方向に移動する。これにより、ブラケット14と共に前照灯ユニット13がボールジョイント141のボール部141Aを中心として回転し、傾動する。
【0032】
本実施形態に係る光軸調整ECU11は、このように構成された前照灯ユニット13に対して次のように光軸調整を行う。
前照灯ユニット13は、車体80のエンジン近傍に取り付けられているため、走行中のエンジン房内の温度変化の影響を受けて、熱伸び等を生じやすい。そこで、光軸調整ECU11では、エンジン温度取得部114により、油温センサ22が検出したエンジンの油温又は冷却水水温センサ23が検出したエンジンの冷却水の水温を、エンジン房内の温度として取得して、エンジン近傍の前照灯ユニット周囲の温度を推測する。
【0033】
変位量算出部115は、取得したエンジン房内の温度に応じた光軸の変位量をROM112に記憶された計算式等から算出する。光軸調整部116は、変位量算出部115によって算出された変位量に基づいて前照灯ユニット13の調整量を演算し、調整量を示す駆動信号を駆動部12に出力する。
【0034】
駆動部12は、光軸調整部116からの駆動信号に基づいて、上下調整用エイミングスクリュー144を回転させて、車体80に対して前後方向に調整量の分だけ移動させる。上下調整用エイミングスクリュー144の移動に伴い、リテーナ143も変位量算出部115によって演算された調整量の分だけ車体80の前後方向に移動し、ブラケット14がボール部141Aを中心として回転し、傾動する。これにより、ブラケットに支持された前照灯ユニット13が、車体80に対して上下に傾動し、変位量算出部115によって算出された光軸の変位量に応じて光軸の位置を調整することができる。
【0035】
このように、本実施形態によれば、エンジン房内の温度変化に伴って生じた前照灯ユニット13の光軸の変位(ずれ)を、エンジンの油温又はエンジンの冷却水の水温に基づいて算出(推測)するので、車両用前照灯周りの温度変化に起因する光軸のずれをリアルタイムで算出して調整することができる。
【0036】
本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1:車両用制御システム、3:車載ネットワーク、11:光軸調整ECU(光軸調整装置)、12:駆動部、13:前照灯ユニット、14:ブラケット、21:エンジンECU、22:油温センサ、23:冷却水水温センサ、31:ブレーキECU、41:ステアリングECU、80:車体、100:車両、114:エンジン温度取得部、115:変位量算出部、116:光軸調整部、141:ボールジョイント、141A:ボール部、141B:ネジ部、142:左右調整用エイミングスクリュー、143:リテーナ、144:上下調整用エイミングスクリュー、145:レベリングユニット
146:上下エイミング調整ギア
図1
図2
図3
図4
図5