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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-20
(45)【発行日】2025-08-28
(54)【発明の名称】インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20250821BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20250821BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20250821BHJP
【FI】
C09D11/38
B41M5/00 116
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022510434
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2021011437
(87)【国際公開番号】W WO2021193448
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2020054528
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 麻子
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 知志
(72)【発明者】
【氏名】荒川 祐樹
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0107388(US,A1)
【文献】特開2003-012972(JP,A)
【文献】特開2020-041116(JP,A)
【文献】特開2017-075251(JP,A)
【文献】特表2002-501641(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044429(WO,A1)
【文献】特開2014-172271(JP,A)
【文献】特開2018-188581(JP,A)
【文献】特開2015-160890(JP,A)
【文献】特開2012-177026(JP,A)
【文献】特開2017-149811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なガラス基材への画像の描画に使用されるガラス基材用インクジェットインクであって、
黒色を呈する無機顔料とガラスフリットとを含む無機固形分と、
光硬化性を有するモノマー成分と、
光重合開始剤と
を含有し、
前記ガラス基材用インクジェットインクの総体積を100体積%としたときの前記無機固形分の体積比が15体積%以上30体積%以下であり、
前記無機固形分の総体積を100体積%としたときの前記無機顔料の体積比が25体積%以上85体積%以下であり、かつ、
前記光重合開始剤に対する前記無機顔料の体積比が6倍以下である、ガラス基材用インクジェットインク。
【請求項2】
前記無機顔料は、スピネルブラックである、請求項1に記載のガラス基材用インクジェットインク。
【請求項3】
前記ガラス基材用インクジェットインクの総体積を100体積%としたときの前記無機固形分の体積比が15体積%以上30体積%以下である、請求項1または2に記載のガラス基材用インクジェットインク。
【請求項4】
前記無機固形分の総体積を100体積%としたときの前記無機顔料の体積比が25体積%以上85体積%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス基材用インクジェットインク。
【請求項5】
前記光重合開始剤に対する前記無機顔料の体積比が5倍以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のガラス基材用インクジェットインク。
【請求項6】
前記モノマー成分は、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を分子内に1つ含む単官能アクリレートモノマーと、窒素含有化合物の窒素(N)原子にビニル基が1つ結合した単官能N-ビニル化合物モノマーと、ビニルエーテル基を分子内に少なくとも2つ含む多官能ビニルエーテルモノマーとを少なくとも含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のガラス基材用インクジェットインク。
【請求項7】
前記ガラス基材用インクジェットインクの総体積を100体積%としたときの前記モノマー成分の体積比率が50体積%以上70体積%以下である、請求項6に記載のガラス基材用インクジェットインク。
【請求項8】
装飾部を有するガラス製品の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載のガラス基材用インクジェットインクをガラス基材の表面にインクジェット印刷する工程と、
前記ガラス基材の表面に紫外線を照射し、前記ガラス基材の表面に付着した前記ガラス基材用インクジェットインクを硬化させる工程と、
前記ガラス基材を450℃~1200℃の範囲内で最高焼成温度が設定される条件で焼成する工程と
を包含する、ガラス製品の製造方法。
【請求項9】
焼成を伴うガラス基材に使用されるガラス基材用転写紙の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載のガラス基材用インクジェットインクを台紙の表面にインクジェット印刷する工程と、
前記台紙の表面に紫外線を照射し、前記台紙の表面に付着した前記ガラス基材用インクジェットインクを硬化させる工程と
を包含する、ガラス基材用転写紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクに関する。具体的には、透明なガラス基材への画像の描画に使用されるガラス基材用インクジェットインクに関する。本出願は、2020年3月25日に出願された日本国特許出願2020-054528号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
模様や文字などの所望の画像を印刷対象に描画する印刷方法の一つとして、従来からインクジェット印刷が用いられている。インクジェット印刷は、簡素かつ安価な装置で高い精度の画像を描画することができるため種々の分野で用いられている。近年では、ガラス基材、セラミック基材(例えば、陶磁器、セラミックタイル)、金属基材等の無機基材に画像を描画する際に、インクジェット印刷を用いることが検討されている。具体的には、無機基材の分野において模様や文字などの画像を描画する際には、従来から手書きや有版印刷などが実施されていた。しかし、手書きのような熟練した職人的技術を必要とせず、かつ、有版印刷と異なり、オンデマンドで早期に印刷が可能であるため、生産性向上の観点からインクジェット印刷が注目されている。
【0003】
しかし、紙や布などを対象とする他分野におけるインクジェット印刷の技術を無機基材の分野にそのまま転用することは困難であり、当該無機基材の分野におけるインクジェット印刷には改良の余地が多く残されている。例えば、無機基材を使用した製品(無機製品)では、画像が描画された無機基材に対して、450℃以上(例えば450℃~1200℃)の焼成処理が行われることがある。このときに、紙や布などに使用されているインクジェットインクを用いていると、焼成処理中に顔料が変色(又は消色)してしまう虞がある。このため、焼成を伴う無機基材に使用されるインクジェットインク(無機基材用インクジェットインク)は、焼成を考慮した組成であることが求められる。かかる無機基材用インクジェットインクの一例として、特許文献1~3等に記載のインクが挙げられる。また、紙や布などと異なり、無機基材はインクを吸収しない。このため、無機基材インクジェットインクには、通常、光硬化性成分(光硬化性モノマーなど)を含む光硬化性インクが用いられる。
【0004】
ところで、上述の無機基材の中でも、ガラス基材と、セラミック基材と、金属基材とでは、要求されるインクの性能(定着性など)が異なる。このため、近年の無機基材用インクジェットインクの分野では、印刷対象に応じて更に細かくインク組成を変更することが検討されている。例えば、特許文献4には、ガラス基材を印刷対象とするインクジェットインク(ガラス基材用インクジェットインク)が開示されている。かかる特許文献4に記載のインクは、架橋剤及びシリコーン樹脂がシロキサン結合を有することで、特にガラス基板との密着性に優れると推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2007/20779号
【文献】日本国特許出願公開第2017-75251号
【文献】日本国特許出願公開第2009-154419号
【文献】日本国特許出願公開第2016-069390号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術では、ガラス基材に対する密着性は検討されているが、当該インクを用いて形成された画像の美観について十分に検討されていなかった。具体的には、透明なガラス基材では、その表面に描画した画像の透過性が高い(隠蔽性が低い)と当該画像の反対側が透けて見えるため、画像の種類によっては美観が著しく損なわれるおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、インクジェット印刷によって、高い隠蔽性を有した美しい画像をガラス基材の表面に形成できるガラス基材用インクジェットインクを提供することである。また、本発明は、他の側面として、当該ガラス基材用インクジェットインクを使用したガラス製品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を考慮し、高い隠蔽性を有する画像を形成するには、インク中の無機顔料の含有量を増加させる必要がある。しかし、無機顔料を増量したインクは、種々の新たな問題を生じさせるため、容易に使用することができなかった。
【0009】
第1に、無機顔料を増量したインクは、粘度が大きく上昇してインクジェット印刷が困難になるため、精密な画像を描画できなくなる。これに対して、本発明者らは、インクジェットインクの粘度は無機顔料とガラスフリットを含めた無機固形分の総量が影響しているため、無機顔料を増量した分、ガラスフリットを減量して無機固形分の総量を一定以下に抑えれば、インク粘度を低い状態に維持できると考えた。一方で、ガラスフリットは、基材表面に無機顔料を定着させる成分であるため、その含有量を低下させ過ぎると焼成後の画像がガラス基材表面に定着しなくなるおそれがある。これらの点を考慮し、本発明者らは、「インク総量に対する無機固形分の含有量比」と、「無機固形分総量に対する無機顔料の含有量比」とを調節し、印刷時の吐出性と、焼成後の画像の隠蔽性と、ガラス基材への定着性とを高いレベルで調和させることを考えた。なお、インク粘度に直接影響するのは、無機固形分の「重量」ではなく「体積」である。このため、ここに開示される技術では、無機固形分とガラスフリットの各々の含有量を体積比で規定している。
【0010】
第2に、無機顔料を増量したインクは、ガラス基材表面に印刷した後に硬化し難く、滲みを生じるため、鮮明な画像を形成できなくなるという問題も有していた。このインク滲みによる鮮明性の低下が生じる原因について、本発明者らは、無機顔料の増量によって光透過性が低下(隠蔽性が向上)すると、インク内部の光硬化成分まで十分な光量が供給されなくなり、印刷直後にインクが硬化しなくなるためと考えた。かかる知見に基づいて、本発明者らは、少量の光量でインクが光硬化するように光重合開始剤に対する無機顔料の体積比を好適な範囲を調べた結果、所定の範囲の体積比に調節することによって、インクの硬化不良による滲みが解消され、鮮明な画像が形成されることを見出した。
【0011】
ここに開示されるインクジェットインクは、上述の知見に基づいてなされたものである。このインクジェットインクは、透明なガラス基材への画像の描画に使用されるガラス基材用インクジェットインクである。かかるインクジェットインクは、黒色を呈する無機顔料とガラスフリットとを含む無機固形分と、光硬化性を有するモノマー成分と、光重合開始剤とを含有している。そして、ここに開示されるインクジェットインクでは、当該ガラス基材用インクジェットインクの総体積を100体積%としたときの無機固形分の体積比が35体積%以下であり、無機固形分の総体積を100体積%としたときの無機顔料の体積比が15体積%以上90体積%未満であり、かつ、光重合開始剤に対する無機顔料の体積比が6倍以下である。
【0012】
上記したように、ここに開示されるインクジェットインクでは、黒色の無機顔料を使用した場合の「インク総量に対する無機固形分の体積比」と、「無機固形分の総量に対する無機顔料の体積比」と、「光重合開始剤に対する無機顔料の体積比」とが所定の範囲内に調節されている。これによって、印刷時の吐出性と、印刷後の光硬化性と、焼成後の画像の隠蔽性と、ガラス基材への定着性とを高いレベルで発揮できる。なお、黒色の無機顔料は、他の色の無機顔料と比べて光透過性が低いため、黒色のインクでは、必要となる光重合開始剤の含有量が他の色のインクとは異なる。このため、ここに開示される技術では、黒色の無機顔料を使用したインクのみを対象としている。
【0013】
ここに開示されるインクジェットインクの好ましい一態様では、無機顔料は、スピネルブラックである。かかるスピネルブラックは、優れた発色を有しているため、黒色の無機顔料として特に好ましく用いることができる。
【0014】
ここに開示されるインクジェットインクの好ましい一態様では、ガラス基材用インクジェットインクの総体積を100体積%としたときの無機固形分の体積比が15体積%以上30体積%以下である。これにより、印刷時の吐出性と、焼成後の画像の隠蔽性と、ガラス基材への定着性とをより高いレベルで発揮できる。
【0015】
ここに開示されるインクジェットインクの好ましい一態様では、無機固形分の総体積を100体積%としたときの無機顔料の体積比が25体積%以上85体積%以下である。これにより、焼成後の隠蔽性とガラス基材への定着性とをより高いレベルで発揮できる。
【0016】
ここに開示されるインクジェットインクの好ましい一態様では、光重合開始剤に対する無機顔料の体積比が5倍以下である。これにより、焼成後の隠蔽性と印刷後の光硬化性とをより高いレベルで発揮できる。
【0017】
ここに開示されるインクジェットインクの好ましい一態様では、モノマー成分は、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を分子内に1つ含む単官能アクリレートモノマーと、窒素含有化合物の窒素(N)原子にビニル基が1つ結合した単官能N-ビニル化合物モノマーと、ビニルエーテル基を分子内に少なくとも2つ含む多官能ビニルエーテルモノマーとを少なくとも含有する。これらの3種類のモノマーを含有する光硬化性モノマー成分を用いることによって、印刷対象の表面に好適に定着し、かつ、定着後の柔軟性に優れた画像を描画できる。
【0018】
また、上述の3種のモノマーを含む態様では、ガラス基材用インクジェットインクの総体積を100体積%としたときのモノマー成分の体積比率が50体積%以上70体積%以下であることが好ましい。これにより、印刷対象の表面への定着性と、定着後の柔軟性とをより高いレベルで両立すると共に、焼成後に光沢と発色性に優れた画像を形成できる。
【0019】
また、本発明の他の側面として装飾部を有するガラス製品の製造方法が提供される。かかるガラス製品の製造方法は、ここに開示されるインクジェットインクをガラス基材の表面にインクジェット印刷する工程と、ガラス基材の表面に紫外線を照射し、ガラス基材の表面に付着したガラス基材用インクジェットインクを硬化させる工程と、ガラス基材を450℃~1200℃の範囲内で最高焼成温度が設定される条件で焼成する工程とを包含する。
【0020】
ここに開示されるガラス製品の製造方法では、上述したインクジェットインクを使用している。これによって、優れた吐出性でインクジェット印刷を実施できるため、精密な画像をガラス基材の表面に印刷できる。さらに、かかるインクは、優れた光硬化性を有しているため、印刷後の塗膜の付着や画像の滲みが生じることを防止して鮮明な画像を形成できる。さらに、焼成後の画像(装飾部)は、隠蔽性と定着性とが高いレベルで両立しているため、優れた美観を長期間維持できる。すなわち、ここに開示される製造方法によると、美しい画像を有するガラス製品を容易に製造することができる。
【0021】
また、本発明によると、ガラス基材に使用されるガラス基材用転写紙(以下、単に「転写紙」ともいう)の製造方法も提供される。かかる転写紙の製造方法は、上述したインクジェットインクを台紙の表面にインクジェット印刷する工程と、台紙の表面に紫外線を照射し、台紙の表面に付着したガラス基材用インクジェットインクを硬化させる工程とを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、インクジェットインクの製造に用いられる撹拌粉砕機を模式的に示す断面図である。
図2図2は、インクジェット装置の一例を模式的に示す全体図である。
図3図3は、図2中のインクジェット装置のインクジェットヘッドを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0024】
1.インクジェットインク
ここに開示されるインクジェットインクは、透明なガラス基材への画像の描画に使用されるガラス基材用インクジェットインクである。かかるインクジェットインクは、少なくとも、無機固形分と、光硬化性を有するモノマー成分(光硬化性モノマー成分)と、光重合開始剤とを含む。以下、各成分について説明する。
【0025】
(1)無機固形分
無機固形分は、焼成後における画像(装飾部)の母材を構成する成分であり、無機顔料と、ガラスフリットとを含む。
【0026】
(a)無機顔料
無機顔料は、焼成後の基材表面において所望の色を発色させるために添加される。無機顔料は、例えば金属化合物を含むものであり得る。かかる無機顔料は、耐熱性に優れている。このため、インクが付着したガラス基材に対して450℃以上(例えば450℃~1200℃)の焼成処理を行った際に、顔料が変色(または消色)することを防止することができる。かかる無機顔料の具体例としては、Cu、Mn、Zr、Ti、Pr、Cr、Sb、Ni、Co、Al、Cdからなる群のうち、少なくとも一つ以上の金属元素を含む複合金属化合物が挙げられる。
【0027】
なお、ここに開示される技術は、黒色を呈する無機顔料を使用したインクを対象とする。詳しくは後述するが、黒色の無機顔料は、他の色の無機顔料と比べて光透過性が低いため、黒色のインクでは、必要となる光重合開始剤の含有量が他の色のインクとは異なる。このような黒色の無機顔料としては、FeCr系の複合金属化合物(例えばスピネルブラック)などが好ましく用いられる。
【0028】
無機顔料は、典型的には粒子状であり得る。かかる粒子状の無機顔料の粒子径は、後述するインクジェット装置の吐出口の直径を考慮して適宜調整すると好ましい。無機顔料の粒子径が大きすぎると無機顔料が吐出口に詰まってインクの吐出性が低下する虞がある。一般的なインクジェット装置の吐出口の直径は15μm~60μm(例えば25μm)程度であるため、粒径が小さい側から累積100個数%に相当するD100粒径(最大粒子径)が5μm以下(好ましくは1μm以下)となるように無機顔料を微粒子化すると好ましい。なお、上記D100粒径は、動的光散乱法による粒度分布測定に基づいて測定される値が採用され得る。
【0029】
(b)ガラスフリット
ガラスフリットは、インクが付着したガラス基材を焼成する際に融解し、その後の冷却に伴い固化することによって、無機顔料を基材表面に定着させる。また、ここに開示されるインクジェットインクのガラスフリットは、冷却後に無機顔料をコーティングし、美しい光沢を発現させるガラス材料を含有することが好ましい。
【0030】
このような性状を有し得るガラス材料としては、例えば、SiO-B系ガラス、SiO-RO(ROは第2族元素の酸化物、例えばMgO、CaO、SrO、BaOを表す。以下同じ。)系ガラス、SiO-RO-RO(ROはアルカリ金属元素の酸化物、例えばLiO、NaO、KO、RbO、CsO、FrOを表す。特にはLiO。以下同じ。)系ガラス、SiO-B-RO系ガラス、SiO-RO-ZnO系ガラス、SiO-RO-ZrO系ガラス、SiO-RO-Al系ガラス、SiO-RO-Bi系ガラス、SiO-RO系ガラス、SiO-ZnO系ガラス、SiO-ZrO系ガラス、SiO-Al系ガラス、RO-RO系ガラス、RO-ZnO系ガラスなどが挙げられる。なお、これらのガラス材料は、上記呼称に現れている主たる構成成分の他に1つまたは2つ以上の成分を含んでもよい。また、ガラスフリットは、一般的な非晶質ガラスの他、結晶を含んだ結晶化ガラスを含んでいてもよい。
【0031】
好適な一態様では、ガラス材料全体を100mol%としたときに、SiOが半数(50mol%)以上を占めている。SiOの割合は概ね80mol%以下であり得る。また、ガラスフリットの溶融性を向上する観点からは、ROやRO、Bなどの成分を添加してもよい。好適な一態様では、ガラス材料全体を100mol%としたときに、ROが0~35mol%を占めている。好適な他の一態様では、ガラス材料全体を100mol%としたときに、ROが0~10mol%を占めている。好適な他の一態様では、ガラス材料全体を100mol%としたときに、Bが0~30mol%を占めている。
【0032】
また好適な一態様では、ガラス材料が4成分以上の(例えば5成分以上の)多成分系で構成されている。これにより、焼成後の画像の物理的安定性が向上する。例えば、AlやZnO、CaO、ZrOなどの成分を、例えば1mol%以上の割合で添加してもよい。これにより、装飾部の化学的耐久性や耐摩耗性を向上することができる。好適な一態様では、ガラス材料全体を100mol%としたときに、Alが0~10mol%を占めている。好適な一態様では、ガラス材料全体を100mol%としたときに、ZrOが0~10mol%を占めている。
【0033】
ここに開示されるガラスフリットの好適な一例として、ガラス材料全体を100mol%としたときに、酸化物換算のモル比で以下の組成:
SiO 40~70mol%(例えば50~60mol%);
10~40mol%(例えば20~30mol%);
O(LiO、NaO、KO、RbOのうち少なくとも1つ) 3~20mol%(例えば5~10mol%);
Al 0~20mol%(例えば5~10mol%);
ZrO 0~10mol%(例えば3~6mol%);
から構成されているホウケイ酸ガラスを含むガラスフリットが挙げられる。かかるホウケイ酸ガラスのガラスマトリックス全体に占めるSiOの割合は、例えば40mol%以上であって、典型的には70mol%以下、例えば65mol%以下であってもよい。ガラスマトリックス全体に占めるBの割合は、典型的には10mol%以上、例えば15mol%以上であって、典型的には40mol%以下、例えば35mol%以下であってもよい。ガラスマトリックス全体に占めるROの割合は、典型的には3mol%以上、例えば6mol%以上であって、典型的には20mol%以下、例えば15mol%以下であってもよい。好ましい一態様では、ホウケイ酸ガラスは、ROとして、LiO、NaOおよびKOを含む。ガラスマトリックス全体に占めるLiOの割合は、例えば3mol%以上6mol%以下であり得る。ガラスマトリックス全体に占めるKOの割合は、例えば0.5mol%以上3mol%以下であり得る。ガラスマトリックス全体に占めるNaOの割合は、例えば0.5mol%以上3mol%以下であり得る。ガラスマトリックス全体に占めるAlの割合は、典型的には3mol%以上であって、典型的には20mol%以下、例えば15mol%以下であってもよい。ガラスマトリックス全体に占めるZrOの割合は、典型的には1mol%以上であって、典型的には10mol%以下、例えば8mol%以下であってもよい。
また、ホウケイ酸ガラスは、上記以外の付加的な成分を含んでいてもよい。かかる付加的な成分としては、例えば、酸化物の形態で、BeO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、AgO、TiO、V、FeO、Fe、Fe、CuO、CuO、Nb、P、La、CeO、Bi、Pb等が挙げられる。付加的な成分は、ガラスマトリックス全体を100mol%としたときに、目安として合計10mol%以下の割合で含んでいてもよい。
【0034】
ここに開示されるガラスフリットの他の例として、ガラス全体を100mol%としたときに、90mol%以上が酸化物換算のモル比で以下の組成:
SiO 45~70mol%(例えば50~60mol%);
SnO 0.1~6mol%(例えば1~5mol%);
ZnO 1~15mol%(例えば4~10mol%);
RO(BeO、MgO、CaO、SrO、BaOのうち少なくとも1つ) 15~35mol%(例えば20~30mol%);
O(LiO、NaO、KO、RbOのうち少なくとも1つ) 0~5mol%(例えば1~5mol%);
0~3mol%(例えば0~1mol%);
から構成されているガラス材料を含むガラスフリットが挙げられる。
かかる組成のガラス材料のガラスマトリックス全体に占めるSiOの割合は、例えば50mol%以上であって、典型的には65mol%以下、例えば60mol%以下であってもよい。ガラスマトリックス全体に占めるSnOの割合は、典型的には0.5mol%以上、例えば1mol%以上であって、典型的には5.5mol%以下、例えば5mol%以下であってもよい。ガラスマトリックス全体に占めるZnOの割合は、典型的には2mol%以上、例えば4mol%以上であって、典型的には12mol%以下、例えば10mol%以下であってもよい。ガラスマトリックス全体に占めるROの割合は、典型的には18mol%以上、例えば20mol%以上であって、典型的には32mol%以下、例えば30mol%以下であってもよい。ガラスマトリックス全体に占めるROの割合は、概ね0.1mol%以上、例えば1mol%以上であって、例えば3mol%以下であってもよい。ガラスマトリックス全体に占めるBの割合は、典型的には1mol%以下、例えば0.1mol%以下であってもよい。
また、上記ガラスフリットは、上記以外の付加的な成分を含んでいてもよい。かかる付加的な成分としては、例えば、酸化物の形態で、AgO、A1、ZrO、TiO、V、FeO、Fe、Fe、CuO、CuO、Nb、P、La、CeO、Bi等が挙げられる。付加的な成分は、ガラスマトリックス全体を100mol%としたときに、目安として合計10mol%以下の割合で含んでいてもよい。
【0035】
なお、ガラスフリットの線熱膨張係数(熱機械分析装置を用いて25℃から500℃までの温度領域において測定した平均線膨張係数。以下同じ。)は、例えば10.0×10-6-1以下であると好ましい。これにより、焼成時における装飾対象(ガラス基材)との収縮率の差が小さくなり、装飾部に剥離やひびなどが生じ難くなる。また、ガラスフリットの屈伏点は特に限定されないが、例えば400℃~700℃であり得る。また、ガラスフリットのガラス転移点(示差走査熱量分析に基づくTg値。以下同じ。)は特に限定されないが、例えば400℃~700℃であり得る。
【0036】
また、ガラスフリットは、典型的には粒子状のガラス材料を含む。かかるガラスフリットの粒子径は、インク粘度に影響するため、インクジェット装置からの吐出性を考慮して適宜調整すると好ましい。具体的には、インク中に粒子径が大きなガラスフリットが含まれていると、吐出口の詰まりが発生しやすくなり、吐出性が低下するおそれがある。このため、ガラスフリットの最大粒子径(粒径が小さい側から累積100個数%に相当するD100粒径)が1μm以下(好ましくは0.85μm以下)となるようにガラスフリットの粒子径を制御すると好ましい。
【0037】
(2)光硬化性モノマー成分
ここに開示されるインクジェットインクは、光硬化性を有するモノマー成分を含有する光硬化型インクジェットインクである。本明細書における「光硬化性モノマー成分」は、典型的には液状であり、光(例えば紫外線)照射時に重合(又は架橋)して硬化する樹脂の単量体(モノマー)を少なくとも一種含む材料を指す。かかる光硬化性モノマー成分は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲内で、一般的な光硬化型インクに使用され得るモノマーを特に制限なく使用できる。
【0038】
光硬化性モノマー成分の好適例として、(a)単官能アクリレートモノマーと、(b)単官能N-ビニル化合物モノマーと、(c)多官能ビニルエーテルモノマーとを含む光硬化性モノマー成分が挙げられる。上記(a)~(c)のモノマーを含む光硬化性モノマー成分は、印刷対象への定着性(光硬化性)に優れているため、種々の印刷対象に好適に使用できる。また、上記(a)~(c)のモノマー含む光硬化性モノマー成分は、光硬化後の柔軟性に優れているという利点も有しているため、使用時に湾曲させる必要がある印刷対象(例えば、無機機材用転写紙)に特に好適に使用できる。
【0039】
(a)単官能アクリレートモノマー
単官能アクリレートモノマーは、アクリロイル基(CH=CHCOO‐)またはメタアクリロイル基(CH=CCHCOO‐)を分子内に1つ含む化合物である。
かかる単官能アクリレートモノマーは、無機固体成分の分散性に優れ、インク粘度の上昇を抑制できるため、好適な吐出性を有するインクの調製に貢献できる。また、単官能アクリレートモノマーは、光硬化性を有するモノマーの中では、光硬化後の剛性が比較的に低い(柔軟性が高い)という特性も有している。
なお、吐出性と柔軟性をより向上させるという観点から、光硬化性モノマー成分の総体積を100体積%としたときの単官能アクリレートモノマーの体積比は、40体積%以上であることが好ましく、45体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることがさらに好ましく、55体積%以上であることが特に好ましく、例えば60体積%以上である。一方で、単官能アクリレートモノマーは、光硬化性が比較的に低い傾向があるため、後述する光硬化性に優れたモノマーの含有量を確保するという観点から、96体積%以下であることが好ましく、90体積%以下であることがより好ましく、85体積%以下であることがさらに好ましく、80体積%以下であることが特に好ましく、例えば78体積%以下である。
【0040】
単官能アクリレートモノマーの具体例としては、例えば、ベンジルアクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、(2ーメチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、n-ステアリルアクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、フェノキシエトキシエチルアクリレートなどが挙げられる。上述した(メタ)アクリレート化合物は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレートは、光硬化後の柔軟性に特に優れているため、転写紙を湾曲させた際のクラックの発生を好適に防止できる。
【0041】
(b)単官能N-ビニル化合物モノマー
単官能N-ビニル化合物モノマーは、窒素含有化合物の窒素(N)原子にビニル基が1つ結合した化合物である。ここでいう「ビニル基」は、CH=CR-(ここで、Rは水素原子又は有機基である)を指す。かかる単官能N-ビニル化合物モノマーは、延伸性が高いため、描画した画像にクラックが生じることを抑制できる。また、単官能N-ビニル化合物モノマーは、優れた光硬化性を有しており、印刷対象の表面への定着性を向上させる機能を有している。
なお、定着性をより向上させるという観点から、光硬化性モノマー成分の総体積を100体積%としたときの単官能N-ビニル化合物モノマーの体積比は、2体積%以上であることが好ましく、3体積%以上であることがより好ましく、4体積%以上であることがさらに好ましく、5体積%以上であることが特に好ましい。一方で、単官能N-ビニル化合物モノマーを添加すると硬化後のインクの柔軟性が低下する傾向がある。このため、無機基材用転写紙等を印刷対象にする場合には、単官能N-ビニル化合物モノマーの含有量を少なくした方が好ましい。かかる観点から、単官能N-ビニル化合物モノマーの体積比は、20体積%以下が好ましく、17体積%以下がより好ましく、15体積%以下がさらに好ましく、13体積%以下が特に好ましく、例えば10体積%以下である。
【0042】
上記N-ビニル化合物モノマーは、例えば、下記一般式(1)で表される。
CH=CR-NR (1)
上記一般式(1)中、Rは水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基またはハロゲン基である。なかでも、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。R,Rは、水素原子、置換基を有してよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルキロール基、アセチル基(CHCO-)および芳香族基から選択される基であり得る。なお、R,Rの各々は同じであってもよく異なっていてもよい。置換基を有してよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルキロール基およびアセチル基における炭素原子の総数は1~20であり得る。また、上記置換基を有してよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルキロール基およびアセチル基は鎖状または環状であり得るが、鎖状であることが好ましい。また、芳香族基は、置換基を有してよいアリール基である。上記芳香族基における炭素原子の総数は6~36である。上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルキロール基、アセチル基および芳香族基が有し得る置換基は、例えば、水酸基、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子を包含する。また、上記一般式(1)中、RとRとは互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
【0043】
上記単官能N-ビニル化合物モノマーの一好適例としては、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニルピペリジン、N-ビニルピロリジン、N-ビニルアジリジン、N-ビニルアゼチジン、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルピラゾール、N-ビニルバレロラクタム、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルフタルイミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルホルムアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド等が挙げられる。これらのなかでも、N-ビニル-2-カプロラクタムは、単官能N-ビニル化合物モノマーの中でも光硬化性が高く、印刷対象の表面への定着性をより好適に向上できる。
【0044】
(c)多官能ビニルエーテルモノマー
多官能ビニルエーテルモノマーは、ビニルエーテル基を分子内に少なくとも2つ含む化合物である。ここでいう「ビニルエーテル基」は、-O-CH=CHR(ここで、Rは水素原子又は有機基である)を指す。かかるビニルエーテル基を少なくとも2つ含む多官能ビニルエーテルモノマーは、UV照射時の光硬化速度が速く、かつ、光硬化性に優れているため、印刷対象の表面への定着性を向上させる機能を有している。さらに、多官能ビニルエーテルモノマーは、光硬化性に優れたモノマーのなかでは硬化後の剛性が低く、柔軟性に優れているという特性を有している。
なお、印刷対象への定着性と光硬化後の柔軟性とを両立させる観点から、モノマー成分の総体積を100体積%としたときの多官能ビニルエーテルモノマーの体積比は、2体積%以上であることが好ましく、5体積%以上であることがより好ましく、7体積%以上であることがさらに好ましく、10体積%以上であることが特に好ましく、例えば15体積%以上である。一方で、多官能ビニルエーテルモノマーを添加しすぎると、単官能アクリレートモノマーの添加量が少なくなって光硬化後の柔軟性が低くなる傾向がある。このため、多官能ビニルエーテルモノマーの体積比の上限は、40体積%以下であることが好ましく、35体積%以下であることがより好ましく、30体積%以下であることがさらに好ましく、25体積%以下であることが特に好ましく、例えば20体積%以下である。
【0045】
上記多官能ビニルエーテルモノマーの一好適例としては、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル、ポリプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ノナンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル等が挙げられる。これらのなかでも、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルは、基材表面への定着性と光硬化後の柔軟性を高いレベルで両立できるため特に好ましい。
【0046】
なお、上述した(a)~(c)のモノマーを含有する光硬化性モノマー成分を使用する場合には、インクジェットインクの総体積を100体積%としたときのモノマー成分の体積比率を50体積%以上にすることが好ましく、52体積%以上にすることがより好ましく、58体積%以上にすることがさらに好ましく、60体積%以上にすることが特に好ましい。これによって、印刷対象の表面への定着性と、定着後の柔軟性とをより高いレベルで両立できる。また、無機固形分の含有量を十分に確保し、光沢と発色性に優れた画像(装飾部)を形成するという観点から、上記モノマー成分の体積比率は、85体積%以下にすることが好ましく、80体積%以下にすることがより好ましく、75体積%以下にすることがさらに好ましく、70体積%以下にすることが特に好ましい。
【0047】
(d)他のモノマー
なお、上述したように、ここに開示されるインクジェットインクにおける光硬化性モノマー成分は、一般的な光硬化型インクジェットインクに使用され得るモノマー成分を特に制限なく使用でき、上述した(a)~(c)のモノマーに限定されない。
上記(a)~(c)以外のモノマー(他のモノマー)の一例として、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を分子内に少なくとも2つ含む多官能アクリレートモノマーが挙げられる。この多官能アクリレートモノマーの好適例として、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン-1,4-ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン-1,3-ジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAEO3.8モル付加物ジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールオクタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトキシトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリプロキシテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、多官能アクリレートモノマー以外の他のモノマーの一例として、ブチルビニルエーテル、ブチルプロペニルエーテル、ブチルブテニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、フェニルアリルエーテル、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチロールプロパントリ((メタ)アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリ((メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物等が挙げられる。
【0048】
(3)光重合開始剤
次に、ここに開示されるインクジェットインクは、光重合開始剤を含有する。光重合開始剤は、光を吸収して活性化し、ラジカル分子や水素イオンなどの反応開始物質を生成する。これらの反応開始物質が光硬化性モノマーに作用することによって、当該光硬化性モノマーの重合反応や架橋反応が促進される。すなわち、光重合開始剤の含有量を増加させることによって、少量の光でも容易に硬化するインクを調製できる。なお、光重合開始剤は、従来から使用されている光重合開始剤を特に制限なく使用できる。一例として、アルキルフェノン系光重合開始剤やアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤などのラジカル系光重合開始剤が挙げられる。かかるアルキルフェノン系光重合開始剤としては、例えば、α-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤(例えば、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノンなど)が好ましく用いられる。また、アルキルフェノン系光重合開始剤の他の例として、α-ヒドロキシアルキルフェノン系光重合開始剤(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オンなど)を用いることができる。上記した種々の光重合開始剤の中でも、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンなどのα-アミノアルキルフェノン系光重合開始剤は、高い反応性を発揮してインクの硬化速度を向上させることができ、薄膜硬化性や表面硬化性に優れているため、特に好ましく用いることができる。
【0049】
(4)その他の成分
ここに開示されるインクジェットインクは、本発明の効果を損なわない範囲で、インクジェットインク(典型的には、ガラス基材用インクジェットインクおよび光硬化性インクジェットインク)に用いられ得る公知の添加剤(例えば、分散剤、重合禁止剤、バインダ、粘度調整剤等)を、必要に応じてさらに含有してもよい。なお、上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよく、本発明を特徴づけるものではないため、詳しい説明は省略する。
【0050】
(a)分散剤
ここに開示されるインクジェットインクは、分散剤を含んでもよい。分散剤としては、例えばカチオン系分散剤が用いられる。かかるカチオン系分散剤は、酸塩基反応によって無機顔料の表面に効率良く付着するため、リン酸系分散剤などの他の分散剤と異なり、上記した無機顔料の凝集を抑制して好適に分散させることができる。かかるカチオン系分散剤の一例としてアミン系分散剤が挙げられる。かかるアミン系分散剤は、立体障害により無機顔料が凝集することを防止すると共に、当該無機顔料を安定化させることができる。また、無機顔料の粒子に同一の電荷を付与することができるため、この点においても、無機顔料の凝集を好適に防止することができる。このため、インクの粘度を好適に低下させて印刷性を大きく向上させることができる。かかるアミン系分散剤の例としては、脂肪酸アミン系分散剤、ポリエステルアミン系分散剤などが挙げられ、例えば、ビックケミー・ジャパン株式会社製のDISPERBYK-2013など好ましく用いることができる。
【0051】
(b)重合禁止剤
ここに開示されるインクジェットインクは、重合禁止剤を含んでもよい。かかる重合禁止剤を添加することにより、使用前に光硬化性モノマー成分が重合・硬化することを抑制できるため、インクの保存を容易にすることができる。重合禁止剤には、上記(a)~(c)のモノマーを含む光硬化性モノマー成分の光硬化性を著しく低下させ、ここに開示される技術の効果を低下させない限りにおいて、光硬化型インクジェットインクの分野において従来から使用されているものを特に制限なく使用できる。かかる重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メトキノン、ジ-t-ブチルハイドロキノン、P-メトキシフェノール、ブチルヒドロキシトルエン、ニトロソアミン塩等が挙げられる。これらに含まれる化合物の中でもN-ニトロフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩は、長期保存における安定性に優れているため特に好適である。
【0052】
(5)各成分の含有量
そして、ここに開示されるインクジェットインクは、(a)インク総量に対する無機固形分の体積比と、(b)無機固形分の総量に対する無機顔料の体積比と、(c)光重合開始剤に対する無機顔料の体積比とが所定の範囲に制御されることによって特徴付けられる。以下、各要素について説明する。
【0053】
(a)インク総量に対する無機固形分の体積比
まず、ここに開示されるインクジェットインクでは、インクジェットインクの総体積を100体積%としたときの無機固形分の体積比が35体積%以下である。かかる「無機固形分の体積」は、上述した無機顔料とガラスフリットの合計体積を指す。この無機固形分の体積が大きくなるに従ってインク粘度が上昇する傾向がある。なお、無機固形分に含まれる無機顔料とガラスフリットには多くの種類があり、その比重は様々であるため、本実施形態では、無機固形分の「重量」ではなく、「体積」を調節している。詳しくは後述するが、ここに開示されるインクジェットインクでは、隠蔽性の高い画像を形成するために、無機顔料を増量している。かかる多量の無機顔料を含むインクであっても、インク総量に対する無機固形分の体積比を35体積%以下にすることによって、インクジェット印刷に適した低いインク粘度(典型的には110Pa・s未満、好適には70Pa・s以下)を得ることができる。なお、インク粘度をより好適に低下させるという観点から、上記無機固形分の体積比は、32体積%以下であることが好ましく、30体積%以下であることがより好ましく、28体積%以下であることがさらに好ましく、25体積%以下であることが特に好ましい。一方、焼成後の画像の隠蔽性や定着性を十分に確保するという観点から、上記無機固形分の体積比の下限は、10体積%以上であることが好ましく、12体積%以上であることがより好ましく、15体積%以上であることがさらに好ましく、16体積%以上であることが特に好ましい。
【0054】
(b)無機固形分の総量に対する無機顔料の体積比
次に、ここに開示されるインクジェットインクでは、無機固形分の総体積を100体積%としたときの無機顔料の体積が15体積%以上に調節されている。このように多くの無機顔料を含ませることによって、隠蔽性に優れた画像を形成できる。なお、より優れた隠蔽性を有した画像を形成するという観点から、上記無機顔料の体積比は、17.5体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、25体積%以上であることが特に好ましい。一方、無機固形分の総量に対する無機顔料の体積比を増加させすぎると、ガラスフリット含有量の減少によって焼成後の画像の定着性が低下するおそれがある。かかる観点から、上記無機顔料の体積比の上限は、90体積%未満に設定される。なお、焼成後の画像の定着性をより確実に確保するという観点から、無機顔料の体積比の上限は、85体積%以下であることが好ましく、80体積%以下であることがより好ましく、70体積%以下であることが特に好ましい。
【0055】
(c)光重合開始剤に対する無機顔料の体積比
そして、ここに開示される技術では、無機顔料を増量したインクにおいても、適切な光硬化作用が働くように、光重合開始剤に対する無機顔料の体積比が規定されている。本発明者らの行った実験によると、無機固形分と光重合開始剤との体積比が同じインクでも、無機顔料の占める体積が多いインクの方が、光硬化性が低くなるという結果が確認されている。ここに開示される技術を限定する意図はないが、このような現象が生じるのは、無機顔料の体積比が高く、隠蔽性が高いインクでは、光硬化性モノマーに十分な光量が供給されなくなるためと推測される。これに対して、ここに開示されるインクジェットインクでは、光硬化性の低下要因である無機顔料の体積比を考慮して、光重合開始剤の添加量が定められている。具体的には、ここに開示されるインクジェットインクでは、光重合開始剤に対する無機顔料の体積比が6倍以下に調節されている。これにより、多くの無機顔料を含んでいるにも関わらず、十分な光硬化性が発揮され、滲みのない鮮明な画像を形成できる。なお、黒色のインクは、顔料が紫外線を吸収するため、光硬化性が低下しやすい。このため、十分な光硬化性を得るために、他の色(典型的には三原色)のインクと比べて光重合開始剤の含有量を多くし、かつ、無機顔料の含有量を少なくすることが求められる。なお、より好適な光硬化性を得るという観点から、光重合開始剤に対する無機顔料の体積比は、5.5倍以下であることが好ましく、5倍以下であることがより好ましく、4倍以下であることがさらに好ましい。一方で、光重合開始剤に対する無機顔料の体積比の下限値は、特に限定されず、0.4倍以上であってもよく、1.0倍以上であってもよく、1.1倍以上であってもよく、1.4倍以上であってもよい。
【0056】
以上のように、ここに開示されるインクジェットインクでは、(a)インク総量に対する無機固形分の体積比と、(b)無機固形分の総量に対する無機顔料の体積比と、(c)光重合開始剤に対する無機顔料の体積比とが所定の範囲に制御されている。かかるインクジェットインクは、印刷時の吐出性と、印刷後の光硬化性と、焼成後の画像の隠蔽性と、ガラス基材への定着性とを高いレベルで発揮できるため、美しい画像を有するガラス製品を容易に製造できる。
【0057】
2.インクジェットインクの調製
次に、ここに開示されるインクジェットインクを調製(製造)する手順について説明する。ここに開示されるインクジェットインクは、上記した各材料を所定の割合で混合した後に、無機固形分の解砕・分散を行うことによって調製され得る。図1はインクジェットインクの製造に用いられる撹拌粉砕機を模式的に示す断面図である。なお、以下の説明は、ここで開示されるインクジェットインクを限定することを意図したものではない。
【0058】
ここに開示されるインクジェットインクを製造するに際には、先ず、上述した各々の材料を秤量して混合し、当該インクの前駆物質であるスラリーを調製する。
次に、図1に示すような撹拌粉砕機100を用いて、スラリーの撹拌と無機固形分(無機顔料およびガラスフリット)の粉砕を行う。具体的には、上記したスラリーに粉砕用ビーズ(例えば、直径0.5mmのジルコニアビーズ)を添加した後に、供給口110から撹拌容器120内にスラリーを供給する。この撹拌容器120内には、複数の撹拌羽132を有したシャフト134が収容されている。かかるシャフト134の一端はモータ(図示省略)に取り付けられており、当該モータを稼働させてシャフト134を回転させることによって複数の撹拌羽132でスラリーを送液方向Aの下流側に送り出しながら撹拌する。この撹拌の際に、スラリーに添加された粉砕用ビーズによって無機固形分が粉砕され、微粒化した無機固形分がスラリー中に分散される。
【0059】
そして、送液方向Aの下流側まで送り出されたスラリーは、フィルター140を通過する。これによって、粉砕用ビーズや微粒化されなかった無機固形分がフィルター140によって捕集され、微粒化された無機固形分が十分に分散されたインクジェットインクが排出口150から排出される。このときのフィルター140の孔径を調節することによって、インクジェットインク中の無機固形分の最大粒子径を制御できる。
【0060】
3.インクジェットインクの用途
次に、ここに開示されるインクジェットインクの用途について説明する。上述したように、ここに開示されるインクジェットインクは、透明なガラス基材への画像の描画に使用される。なお、本明細書において「透明なガラス基材への画像の描画に使用される」とは、ガラス基材の表面にインクを直接付着させる態様だけでなく、転写紙等を介して間接的にインクをガラス基材の表面に付着させる態様を含む概念である。すなわち、ここに開示されるインクジェットインクは、ガラス基材用転写紙への印刷(転写紙の製造)や、ガラス基材の表面への印刷(ガラス製品の製造)に使用できる。
【0061】
(1)転写紙の製造
ここに開示されるインクジェットインクを用いて、ガラス基材用転写紙を製造する方法(転写紙の表面に画像を描画する印刷方法)を説明する。図2はインクジェット装置の一例を模式的に示す全体図である。図3図2中のインクジェット装置のインクジェットヘッドを模式的に示す断面図である。
【0062】
ここに開示されるインクジェットインクは、図2に示すインクジェット装置1のインクジェットヘッド10内に貯蔵される。かかるインクジェット装置1は、4個のインクジェットヘッド10を備えている。各々のインクジェットヘッド10には、ブラック(K)、シアン(C)、イエロー(Y)、マゼンダ(M)の異なる4色のインクが貯蔵される。そして、ここに開示されるインクジェットインクは、ブラック(K)のインクジェットヘッド10に貯蔵される。そして、各々のインクジェットヘッド10は、印刷カートリッジ40の内部に収容されている。かかる印刷カートリッジ40は、ガイド軸20に挿通されており、当該ガイド軸20の軸方向Xに沿って往復動するように構成されている。また、図示は省略するが、このインクジェット装置1は、ガイド軸20を垂直方向Yに移動させる移動手段を備えている。これによって、転写紙の台紙Wの所望の位置に向けてインクジェットヘッド10からインクを吐出することができる。
【0063】
図2に示すインクジェットヘッド10には、例えば、図3に示されるようなピエゾ型のインクジェットヘッドが用いられる。かかるピエゾ型のインクジェットヘッド10には、ケース12内にインクを貯蔵する貯蔵部13が設けられており、当該貯蔵部13が送液経路15を介して吐出部16と連通している。この吐出部16には、ケース12外に開放された吐出口17が設けられていると共に、当該吐出口17に対向するようにピエゾ素子18が配置されている。かかるインクジェットヘッド10では、ピエゾ素子18を振動させることによって、吐出部16内のインクを吐出口17から台紙W(図2参照)に向けて吐出する。
【0064】
そして、図2に示すインクジェット装置1のガイド軸20には、UV照射手段30が取り付けられている。かかるUV照射手段30は、印刷カートリッジ40に隣接するように配置されており、印刷カートリッジ40の往復動に伴って移動し、インクが付着した台紙Wに紫外線を照射する。これによって、台紙Wの表面に付着した直後にインクが硬化するため、十分な厚みのインクを転写紙(台紙W)の表面に定着させることができる。
【0065】
上述したように、ここに開示されるインクジェットインクでは、インクジェットインクの総体積に対する無機固形分の体積が35体積%以下に調節されている。これによって、インク粘度を低い状態に維持できるため、吐出口17から精度高くインクを吐出し、印刷対象(ここでは転写紙)の表面に精密な画像を描画できる。さらに、ここに開示されるインクジェットインクでは、光重合開始剤の含有量に対する無機顔料の含有量の体積比が6倍以下に調節されている。これによって、高い光硬化性を確保できるため、UV照印刷後のインクを直ちに硬化させ、インクの滲みを防止することができる。
【0066】
また、この転写紙の製造には、上述した(a)~(c)のモノマーを含有する光硬化性モノマー成分を使用することが好ましい。これにより、十分な柔軟性を有する画像(硬化後のインク)を描画できるため、転写紙を湾曲させた際に画像にクラックが生じることを好適に防止できる。
【0067】
(2)ガラス製品の製造方法
次に、ここに開示されるインクジェットインクを用いて、ガラス製品を製造する方法を説明する。かかる製造方法は、ここに開示されるインクジェットインクをガラス基材の表面に付着させる工程と、ガラス基材を焼成する工程とを包含する。
【0068】
この製造方法において製造されるガラス製品は、ガラス基材の表面に画像が形成されたものであれば特に限定されない。例えば、ガラス製品は、食器、窓ガラス、調理機器などの日用品に限定されず、電子機器、ディスプレイなどの工業用品などであってもよい。また、印刷対象であるガラス基材は、特に限定されず、一般的に使用されているガラス製の部材を特に制限なく使用できる。なお、後述の焼成工程を考慮すると、ガラス基材は、軟化点が500℃以上(より好ましくは600℃以上、さらに好ましくは700℃以上)のものを使用することが好ましい。一方、ガラス基材の軟化点の上限は、特に限定されない。例えば、ガラス基材の軟化点の上限は、1600℃以下であってもよいし、1200℃以下であってもよいし、1000℃以下であってもよい。
【0069】
ここに開示される製造方法では、最初に、インクジェットインクをガラス基材の表面に付着させる。ガラス基材にインクを付着させる手段は、特に限定されず、インクジェット装置を使用してガラス基材の表面に直接インクを付着させてもよいし、上述した転写紙を介して間接的にインクを付着させてもよい。なお、インクジェット装置を使用し、ガラス基材の表面に直接インクを付着させる場合には、上述した「転写紙の製造」と同じ手順に従って、ガラス基材の表面に向けてインクを吐出させると好ましい。
【0070】
ここに開示される製造方法では、次に、インクが付着したガラス基材を450℃~1200℃(好ましくは500℃~1000℃、より好ましくは550℃~850℃)の範囲内で最高焼成温度が設定される条件で焼成する。これによって、モノマーが硬化した樹脂成分が焼失すると共に、無機固形分中のガラスフリットが融解する。そして、焼成後に冷却されることによって、融解したガラスフリットが固化し、無機顔料が基材表面に定着する。このとき、ここに開示される製造方法では、無機固形分の総体積に対する無機顔料の体積が15体積%以上に調節されたインクを使用しているため、隠蔽性に優れた美しい画像を形成できる。さらに、無機固形分の総体積に対する無機顔料の体積が90体積%未満に調節されているため、無機顔料をガラス基材の表面に適切に定着させることができる。
【0071】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明するが、かかる試験例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0072】
<インクジェットインク>
本試験では、無機固形分と光硬化性モノマーと光重合開始剤とを含む14種類のインクジェットインク(例1~14)を調製した。具体的には、表1および表2に示す体積比で各原料を混合したスラリーを調製し、粉砕用ビーズ(直径0.5mmのジルコニアビーズ)を使用した粉砕・分散処理を行うことによって例1~14のインクを得た。なお、表中の体積比は、特に説明のある箇所を除き、インクの総体積を100体積%とした場合の値である。また、本試験例では、他の添加剤として分散剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製:DISPERBYK-2013)と、重合禁止剤(富士フィルム和光純薬株式会社製:Q-1301(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム))も添加した。これらの体積比についても表1~表2に示す。なお、各成分の体積比は、小数点以下第2位を四捨五入した値である。
【0073】
なお、本試験例で使用した無機固形分について、表1~2中の黒色無機顔料は、スピネルブラックである。そして、「ガラスフリット」は、軟化点550℃のホウケイ酸ガラスである。
【0074】
また、表1~2中の「光硬化成分」は、単官能アクリレートモノマーと、単官能N-ビニル化合物モノマーと、多官能アクリレートモノマーと、多官能ビニルエーテルモノマーとを所定の体積比で混合したものである。なお、単官能アクリレートモノマーとしては、イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)、ベンジルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)、フェノキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)を混合したものを使用した。また、単官能N-ビニル化合物モノマーとしては、N-ビニルカプロラクタム(東京化成株式会社製)を使用した。さらに、多官能アクリレートモノマーとしては、1,9-ノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)を使用した。そして、多官能ビニルエーテルモノマーとしては、トリエチレングリコールジビニルエーテル(日本カーバイド株式会社製)、ジエチレングリコールジビニルエーテル(日本カーバイド株式会社製)、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル(日本カーバイド株式会社製)を混合したものを使用した。
【0075】
また、光重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(IGM RESINS社製:Omnirad 819)を使用した。
【0076】
そして、本試験例では、各例について「インク総量に対する無機固形分の体積比」と「無機固形分に対する無機顔料の体積比」と「光重合開始剤に対する無機顔料の体積比」を算出した。なお、「インク総量に対する無機固形分の体積比」は、インク総量を100体積%とした場合の値であり、「無機固形分に対する無機顔料の体積比」は、無機固形分の総量を100体積%とした場合の値である。そして、「光重合開始剤に対する無機顔料の体積比」は、無機顔料の体積を光重合開始剤の体積で割った値(倍数)である。
【0077】
<評価試験>
(1)インク粘度の評価
調製した各例のインク粘度についてB型粘度計を用いて測定した。なお、測定時のインク温度は25℃、スピンドルの回転速度は5rpmに設定した。そして、粘度が70mPa・s未満であったインクを「優」、70mPa・s以上110mPa・s未満であったインクを「可」、110mPa・s以上であったインクを「不可」と評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0078】
(2)画像の印刷
インクジェット印刷を用いて、各例のインクを厚さ5mmのガラス基材(軟化点:820℃)の表面に印刷した。具体的には、インクジェット装置(富士フィルム株式会社製:マテリアルプリンター(DMP-2831)を使用してガラス基材の表面にインクを吐出した後に、UV光(波長:395nm)を1秒間照射することによって、ガラス基材の表面に厚み5~50μmの画像を描画した。そして、このガラス基材を700℃で焼成することによって装飾部を有するガラス製品を作製した。
【0079】
(3)定着性評価
焼成後の装飾部の密着強度を測定し、ガラス基材へのインクの定着性を評価した。具体的には、JIS K5600-5-4に基づいて、装飾部に対して鉛筆法による引っかき硬度試験を実施した。そして、装飾部の鉛筆硬度が3H以上であった場合を「優」と評価し、3H未満であった場合を「不可」と評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0080】
(4)隠蔽性評価
ガラス基材上に形成した装飾部の隠蔽性を目視観察によって評価した。具体的には、文字を記載した紙をガラス基材の下側に配置し、加飾面側から装飾部を観察して文字が全く見えないものを「優」、文字が透けるが読めないものを「可」、文字が読める程度に装飾部が透けているものを「不可」と評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0081】
(5)UV硬化性評価
ここでは、UV照射後、焼成処理前におけるインクのUV硬化性を評価した。具体的には、UV照射後のガラス基材にワイプを軽く押し当て、ワイプへのインク移りがなかったものを「優」、若干のインク移りがあるものの画像の外観に乱れ(滲み)が生じないものを「可」、多量のインク移りによって画像の外観に乱れが生じたものを「不可」と評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
表1および表2に示すように、例1~9では、インク粘度、密着強度、隠蔽性、光硬化性の各評価の結果が「可」以上となった。このことから、黒色無機顔料を使用するインクジェットインクでは、インク総量に対する無機固形分の体積比を35体積%以下とし、無機固形分に対する無機顔料の体積比を15体積%以上90体積%未満とし、かつ、光重合開始剤に対する無機顔料の体積比を6倍以下とすることによって、これらの性能がバランス良く向上したインクを調製できることが確認された。
【0085】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1 インクジェット装置
10 インクジェットヘッド
12 ケース
13 貯蔵部
15 送液経路
16 吐出部
17 吐出口
18 ピエゾ素子
20 ガイド軸
30 UV照射手段
40 印刷カートリッジ
100 撹拌粉砕機
110 供給口
120 撹拌容器
132 撹拌羽
134 シャフト
140 フィルター
150 排出口
A 送液方向
X ガイド軸の軸方向
Y ガイド軸の垂直方向
図1
図2
図3