IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

<>
  • 特許-圃場作業機 図1
  • 特許-圃場作業機 図2
  • 特許-圃場作業機 図3
  • 特許-圃場作業機 図4
  • 特許-圃場作業機 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-21
(45)【発行日】2025-08-29
(54)【発明の名称】圃場作業機
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20250822BHJP
【FI】
A01B69/00 303J
A01B69/00 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021206415
(22)【出願日】2021-12-20
(65)【公開番号】P2023091597
(43)【公開日】2023-06-30
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】玉谷 健二
(72)【発明者】
【氏名】鈴川 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】宇谷 直晃
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-108620(JP,A)
【文献】特開2018-000039(JP,A)
【文献】特開2021-090741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00-69/08
G05D 1/00- 1/87
A47L 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
畦によって境界付けられた圃場で作業を行う自動走行可能な圃場作業機であって、
前記畦を含む認識対象を障害物として検出する障害物検出ユニットと、
機体位置を算出する機体位置算出部と、
機体を自動走行または手動走行させる走行制御部と、
前記機体周辺の前記畦を含む前記認識対象が事前に登録された特定認識対象であるかどうかを認識して認識結果として出力する認識ユニットと、
前記障害物検出ユニットによる前記障害物の検出結果と、前記認識ユニットによる前記特定認識対象の前記認識結果との2つの判定条件に基づいて、前記障害物検出ユニットによって検出された前記障害物への前記機体の接近禁止距離、または当該障害物への前記機体の接近可能時間を管理する障害物管理部と、
を備え、
前記特定認識対象は、前記障害物検出ユニットによって検出された前記障害物への前記機体の接近を許す象徴として登録されており、
前記障害物管理部は、前記障害物が前記特定認識対象として認識された前記認識対象である場合、または前記障害物検出ユニットによって検出された前記障害物の近傍領域に存在する前記認識対象が前記特定認識対象として認識されている場合、前記接近禁止距離を短縮するか、または当該障害物への前記機体の前記接近可能時間を延長する圃場作業機。
【請求項2】
前記障害物管理部による前記接近禁止距離の短縮、または前記接近可能時間の延長のための判定に用いられる前記障害物は、前記畦であり、前記特定認識対象は、前記畦の特定区域である特定畦または前記特定畦の近傍に位置する前記認識対象である請求項1に記載の圃場作業機。
【請求項3】
前記特定認識対象が、予め登録された特定の通信端末であり、前記認識ユニットは、前記通信端末からの送信データに基づいて前記通信端末を認識する請求項1または2に記載の圃場作業機。
【請求項4】
前記通信端末は、前記圃場作業機に対するリモコン操作機能を有する請求項3に記載の圃場作業機。
【請求項5】
前記認識ユニットは画像認識機能を有し、前記特定認識対象が、前記画像認識機能によって認識される請求項1~4のいずれか一項に記載の圃場作業機。
【請求項6】
前記認識ユニットによって認識される前記特定認識対象が、前記圃場作業機の動きを畦から監視する監視者である請求項5に記載の圃場作業機。
【請求項7】
前記認識ユニットの前記画像認識機能に畦に居る、ジェスチャーを行う人物を認識する機能が含まれ、前記障害物管理部は、前記機体の走行状態を変更する走行状態変更指令を前記走行制御部に与える請求項5または6に記載の圃場作業機。
【請求項8】
前記認識ユニットは音声認識機能を有し、前記特定認識対象が、前記畦から音声を発する人物であり、
前記障害物管理部は、前記認識ユニットによって認識された音声に基づいて、前記機体の走行状態を変更する走行状態変更指令を前記走行制御部に与える請求項1から7のいずれか一項に記載の圃場作業機。
【請求項9】
前記障害物管理部は、営農管理システムとデータ交換可能に接続可能であり、
前記障害物管理部は、前記営農管理システムに予め登録された前記特定認識対象に対して前記接近禁止距離、または前記特定認識対象への前記機体の前記接近可能時間を管理する請求項1から8のいずれか一項に記載の圃場作業機。
【請求項10】
前記認識ユニットが有する画像認識機能または音声認識機能で検知された前記特定認識対象のデータは、前記営農管理システムに自動的または選択的に蓄積される請求項9に記載の圃場作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畦によって境界付けられた圃場で作業を行う自動走行可能な圃場作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の田植機や収穫機などの圃場作業機の畦の近傍での走行において、機体と畦との不測の接触を回避するため、実際の境界線より畦から離れた位置に走行制御用の制御境界線が設定されている。圃場作業機は、圃場に対する作業の途中で、苗や肥料の補給、収穫物の排出、燃料補給など、畦に接近する必要があるが、このような畦への接近走行において、制御境界線が設定されていると、機体を畦のぎりぎりまでに接近することが不可能となる。この問題を解決するため、特許文献1による田植機では、苗補給などのために機体が畔に向かう直進接近走行が検知されると、自動的に走行制御用の境界線を畔側に拡張する機能を有する。この制御境界線の拡張により、田植機は、畔に対してぎりぎりまで接近することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-108597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1による田植機では、所定の走行状態に基づいて、境界線を越えた走行が許可されると、境界線が拡張され、田植機は畦ぎりぎりまで接近可能となる。しかしながら、境界線の拡張を許可する走行状態を誤って検知すると、不要に境界線が拡張され、ぎりぎりに接近する必要のない場所に対しても機体が接近するという不都合が生じる。これを避けるためには、境界線の拡張を許可する場所を正確に検知しなければならないが、そのような処方は、特許文献1には開示されていない。
【0005】
上記実情に鑑み、本発明の課題は、特定の障害物に対して、他の障害物に比べてより接近することができる圃場作業機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による自動走行可能な圃場作業機は、畦によって境界付けられた圃場で作業を行うものであり、前記畦を含む認識対象を障害物として検出する障害物検出ユニットと、
機体位置を算出する機体位置算出部と、機体を自動走行または手動走行させる走行制御部と、前記機体周辺の前記畦を含む前記認識対象が事前に登録された特定認識対象であるかどうかを認識して認識結果として出力する認識ユニットと、前記障害物検出ユニットによる前記障害物の検出結果と、前記認識ユニットによる前記特定認識対象の前記認識結果との2つの判定条件に基づいて、前記障害物検出ユニットによって検出された前記障害物への前記機体の接近禁止距離、または当該障害物への前記機体の接近可能時間を管理する障害物管理部とを備え、前記特定認識対象は、前記障害物検出ユニットによって検出された前記障害物への前記機体の接近を許す象徴として登録されており、前記障害物管理部は、前記障害物が前記特定認識対象として認識された前記認識対象である場合、または前記障害物検出ユニットによって検出された前記障害物の近傍領域に存在する前記認識対象が前記特定認識対象として認識されている場合、前記接近禁止距離を短縮するか、または当該障害物への前記機体の前記接近可能時間を延長する。
【0007】
この構成によれば、障害物検出ユニットによって障害物が検出されるとともに、認識ユニットによって事前に登録された特定認識対象が認識された場合、機体の接近禁止距離、または当該障害物への前記機体の接近可能時間を管理する障害物管理部が起動する。つまり、検出された障害物自体が認識された特定認識対象であるか、あるいは検出された障害物の近傍領域に認識された特定認識対象が存在していると、この検出された障害物は、機体ができるだけ接近すべき対象であると判定し、接近禁止距離を短縮するか、または、当該障害物への機体の接近可能時間を延長する。接近禁止距離が短くなることで、機体は、より障害物に接近することができる。なお、障害物への機体の接近可能時間は、車速によって、障害物に接近できる距離が変動するが、障害物へ接近する機体の速度がほぼ一定であるとすれば、接近可能時間が長くなると、検出された障害物まで走行できる距離も長くなり、機体の障害物に対する接近距離が短くなる。特定認識対象は、機体の障害物への接近を許す象徴、つまり接近判定材料として登録されている。つまり、障害物の検出と特定認識対象の認識との2つの判定条件に基づいて、機体の障害物へのより近い接近が許されるので、安全かつ確実な接近走行制御が実現する。
【0008】
圃場作業機の走行において頻繁に検出される障害物は畦であるが、苗や肥料の補給、収穫物の排出、燃料補給などの作業目的で設定された畦の特定区域に対しては、圃場作業機はできるだけ近くに接近しなければならない。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記障害物管理部による前記接近禁止距離の短縮、または前記接近可能時間の延長のための判定に用いられる障害物は前記畦であり、前記特定認識対象は、前記畦の特定区域である特定畦または前記特定畦の近傍に位置する認識対象である。なお、ここでの「畦」なる語句は、広義に解釈可能であり、コンクリート製、木製、プラスチック製、土製などの構成材料を含むだけでなく、圃場から立ち上がっている壁体、人工的な法面、自然発生的な法面なども含まれる。
【0009】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記特定認識対象が、予め登録された特定の通信端末であり、前記認識ユニットは、前記通信端末からの送信データに基づいて前記通信端末を認識する。この構成では、圃場作業機がより近くまで接近してもよい区域に特定の通信端末を配置するだけで、圃場作業機は当該区域により接近することができる。例えば、苗や肥料の補給、収穫物の排出、燃料補給などの作業目的で設定された畦の特定区域(特定畦)には、その作業を行うかまたは監視する監視者が待機している。このため、そのような監視者に、この特手の通信端末を携帯させることで、監視者が待機している場所に対しては、圃場作業機は、できるだけ接近すること可能となる。
【0010】
圃場作業機がリモコンによって操縦される機能を備えている場合、特定畦での作業を監視する監視者がリモコンを用いて、圃場作業機の畦への接近走行を行うと好都合である。その場合、認識ユニットが認識する特定認識対象である通信端末とリモコンとが一体化されていると、相乗効果が得られる。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、認識ユニットの特定認識対象である通信端末は、前記圃場作業機に対するリモコン操作機能を有する。
【0011】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記認識ユニットは画像認識機能を有し、前記特定認識対象が前記画像認識機能によって認識される。安価で高性能な画像認識装置が流通しているので、技術的、コスト的な負担なしに、特定の物体の認識が可能である。さらに、任意の物体を予め被画像認識体として設定することで、任意の物体が、本発明の特定認識対象として利用できる。
【0012】
さらに、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記認識ユニットによって認識される前記特定認識対象が前記圃場作業機の動きを畦から監視する監視者である。特定の監視者が、例えば特定の衣装を身にまとった監視者が、認識ユニットに登録されることで、作業とは関係のない人物が認識され、圃場作業機が誤って畦に近づくという問題は回避される。
【0013】
前記認識ユニットの画像認識機能に畦に居る人物のジェスチャーを認識する機能が追加された場合、障害物管理部は、このジェスチャーに応答して、機体の停止、機体の前進や後進を走行制御部に指示することが可能となる。これにより、ジェスチャーを通じて、機体の畦への接近走行だけでなく、緊急時の走行制御も容易に行うことができる。
【0014】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記認識ユニットは音声認識機能を有し、前記特定認識対象が、前記畦から発せられる音声であり、前記障害物管理部は、前記認識ユニットによって認識された音声に基づいて、前記機体の走行状態を変更する走行状態変更指令を前記走行制御部に与える。この実施形態でも、安価で高性能な音声認識装置が流通しているので、技術的、コスト的な負担なしに、特定認識対象として採用された音声を認識ユニットが認識する構成が可能である。また、特定認識対象として、監視者の音声を登録しておくことで、作業とは関係のない雑音や人物の音声が特定認識対象として認識され、圃場作業機が誤って畦に近づくという問題は回避される。さらに、認識ユニットの音声認識機能を機体走行制御に関する簡単な単語を認識できるように構成すれば、障害物管理部は、認識ユニットによって認識された音声に基づいて、機体の走行状態を変更する走行状態変更指令を走行制御部に与えることができる。これにより、音声を通じて、機体の畦への接近走行だけでなく、緊急時の走行制御も容易に行うことができる。
【0015】
さらに、好適な実施形態の1つでは、前記障害物管理部は、営農管理システムとデータ交換可能に接続可能であり、前記障害物管理部は、前記営農管理システムに予め登録された前記特定認識対象に対して前記接近禁止距離、または前記特定認識対象への前記機体の接近可能時間を管理する。この構成では、例えば、クラウドサービスセンターや営農家の自宅等に設置されているコンピュータに構築されている営農管理システムに予め特定認識対象に対して接近禁止距離、または特定認識対象への機体の接近可能時間を登録しておけば、障害物管理部は、営農管理システムにアクセスして、これらのデータを取得し、管理することができる。これにより、障害物管理部における特定認識対象に対する接近禁止距離や接近可能時間などのデータ管理が分散され、障害物管理部でのデータ管理が簡素化される。
【0016】
さらに、上述したような営農管理システムに、認識ユニットが有する画像認識機能または音声認識機能で検知された特定認識対象のデータを、自動的または選択的に蓄積させる構成を採用すれば、検知された特定認識対象に関する情報が営農管理システムに時系列的に格納され、種々の後処理に利用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】自動操舵システムを搭載した田植機の側面図である。
図2】エンジンから植付機構への動力伝達を説明する模式図である。
図3】田植機の自動走行のための走行経路を説明する模式図である。
図4】田植機の制御系を示す機能ブロック図である。
図5】畦際走行における制御機能部間のデータや指令の流れを示すデータ流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の自動走行可能な圃場作業機の実施形態の1つとして、田植機を例に説明する。本実施形態では、特に断りがない限り、「前」(図1に示す矢印Fの方向)は機体前後方向(走行方向)における前方を意味し、「後」(図1に示す矢印Bの方向)は機体前後方向(走行方向)における後方を意味するものとする。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体左右方向(機体幅方向)を意味し、「左」は図1における紙面の手前の方向、「右」は図1における紙面の奥向きの方向を意味するものとする。
【0019】
〔全体構造〕
図1に示すように、田植機は、乗用型で四輪駆動形式の機体1を備える。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構13、リンク機構13を揺動駆動する油圧式の昇降シリンダ13a、リンク機構13の後端部領域にローリング可能に連結される苗植付装置3A、および、機体1の後端部領域から苗植付装置3Aにわたって架設されている施肥装置3B等を備える。この実施形態では、苗植付装置3A及び施肥装置3Bが、本発明の圃場作業機に備えられる昇降可能な作業装置3であり、予め決められた条方向に沿って苗植付作業を行う。リンク機構13と昇降シリンダ13aとにより、苗植付装置3A及び施肥装置3Bを昇降させる昇降機構が構成されている。
【0020】
機体1は、車輪式の走行装置12、エンジン2A、および主変速装置である油圧式の無段変速装置2Bを備える。無段変速装置2Bは、例えばHST(Hydro-Static Transmission:静油圧式無段変速装置)であり、モータ斜板およびポンプ斜板の角度を調節することにより、エンジン2Aから出力される動力(回転動力)の回転数を変更する。走行装置12は、車体方位を変更するための操舵輪として機能する左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。
【0021】
図1に示すように、機体1は、その後部側領域に運転部14を備える。運転部14は、前輪操舵用のステアリングホイール10、無段変速装置2Bの変速操作を行うことで車速を調節する主変速レバー7A、副変速装置の変速操作を可能にする副変速レバー7B、苗植付装置3Aの昇降操作等を行う作業操作レバー11、搭乗者(運転者・作業者・管理者)用の運転座席16等を備える。さらに、運転部14の前方において、予備苗を収容する予備苗収納装置17Aが予備苗支持フレーム17に支持されている。
【0022】
ステアリングホイール10は、非図示の操舵機構を介して前輪12Aと連結されており、ステアリングホイール10の回転操作を通じて、前輪12Aの操舵角が調整される。操舵機構には、ステアリングモータM1が連結されており、自動操舵時には、操舵信号に基づいてステアリングモータM1が動作することにより、前輪12Aの操舵角(操舵度)が調整される。さらに、主変速レバー7Aを自動操作するための変速操作用モータM2も備えられており、自動走行時には、変速信号に基づいて変速操作用モータM2が動作することにより、無段変速装置2Bの変速位置が調整される。
【0023】
図2に示すように、苗植付装置3Aは、一例として8条植え形式で図示されているが、6条植え形式や10条植え形式などの他の形式であってもよい。エンジン2Aからの動力は、植付クラッチC0及び各条クラッチECを介して各植付機構22に分配される。植付クラッチC0は、エンジン2Aからの動力伝達を入切することによって苗植付装置3Aの駆動状態を切り替える。各条クラッチECは、苗植付装置3Aによる作業開始及び作業停止を2条毎に選択可能に構成されている。各条クラッチの制御により、2条植え、4条植え、6条植え、8条植えの形式に変更可能である。
【0024】
図1に示すように、苗植付装置3Aは、苗載せ台21、植付機構22等を備える。苗載せ台21は、8条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台21は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、苗載せ台21が左右のストローク端に達するごとに、苗載せ台21上の各マット状苗を苗載せ台21の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。8個の植付機構22は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置される。そして、各植付機構22には、エンジン2Aからの動力が伝達され、苗載せ台21に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗(植付苗)を切り取って、整地後の泥土部(圃場面)に植え付ける。これにより、苗植付装置3Aの作動状態では、苗載せ台21に載置されたマット状苗から苗を取り出して水田の泥土部に植え付けることができる。
【0025】
施肥装置3Bは、粒状または粉状の肥料(薬剤やその他の農用資材)を貯留するホッパ25と、ホッパ25から肥料を繰り出す繰出機構26と、繰出機構26によって繰出された肥料を搬送すると共に肥料を圃場に排出する施肥ホース28とを有する。ホッパ25に貯留された肥料が、繰出機構26によって所定量ずつ繰り出されて施肥ホース28へ送られて、ブロワ27の搬送風によって施肥ホース28内を搬送され、作溝器29から圃場へ排出される。このように、施肥装置3Bは圃場に肥料を供給する。
【0026】
作溝器29は、整地フロート15に配備される。そして、各作溝器29は、各整地フロート15と共に昇降し、各整地フロート15が接地する作業走行時に、水田の泥土部に施肥溝を形成して肥料を施肥溝内に案内する。
【0027】
図1に示すように、運転部14に取り外し可能に装着される通信端末9は、例えばタブレットコンピュータで構成され、各種の情報をオペレータに視覚情報や聴覚情報報として出力すると共に、各種の情報の入力を受け付けることができる。通信端末9は、無線または有線で、田植機の制御系とデータ交換可能に接続される。通信端末9には、自動走行のための種々の機能がインストールされており、例えば、田植機から離れた位置において、田植機をリモコン操縦するリモコン操作機能を備えることも可能である。
【0028】
機体1の位置(機体位置:例えば地図座標で表される)および方位(機体方位)を算出するための測位データを出力する測位ユニット8が備えられている。測位ユニット8には、全地球航法衛星システム(GNSS)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール8Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール8Bが含まれている(図6参照)。測位ユニット8は、予備苗支持フレーム17の上部に支持される。
【0029】
さらに、田植機は、障害物検出のために、障害物検出ユニット70を備えている。この実施形態では、障害物検出ユニット70は、カメラユニット71とLiDAR(Light Detection And Ranging)72を備えている。障害物検出ユニット70は、カメラユニット71による撮影画像とLiDARユニット72による点群画像とを組み合わせて物体を検出し、当該物体の位置及び形状を算出し、これを検出物体情報として、田植機の制御系に送る。カメラユニット71による撮影画像から物体検出や物体認識を行うことも可能である。さらには、LiDARユニット72による点群データから物体検出や物体認識を行うことも可能である。したがって、障害物検出ユニット70は、カメラユニット71とLiDARユニット72いずれか1つから構成されてもよい。この実施形態では、カメラユニット71による撮影画像は、後述する特定認識対象を認識する認識ユニット54(図4参照)に用いられるので、いずれにせよ、カメラユニット71は、機体1に設けられている。
【0030】
〔走行経路〕
自動走行により、田植機が圃場に苗植付作業を行う作業走行について、図3を用いて説明する。
【0031】
本実施形態における田植機は、手動走行および自動走行を選択的に行うことができる。手動走行では、運転者が手動操作(リモコン操作を含む)で、ステアリングホイール10、主変速レバー7A、副変速レバー7B、作業操作レバー11等を操作して作業走行を行う。自動走行では、あらかじめ設定された目標走行経路に沿って、田植機が自動制御で走行および作業を行う。
【0032】
田植機が苗植付作業を行う際には、まず、圃場の外周(外縁)に沿って、運転者が手動操作で、作業を行わずに田植機を走行させる。このマッピング周回走行によって、圃場の外周形状が算出されると、図3に示すように、圃場を外周領域OAと内部領域IAに区分けされた圃場マップが生成される。
【0033】
圃場マップが生成されると、さらに、田植機が自動走行のために用いる走行経路が生成される。内部領域IAでは、圃場の一つの辺に略平行となるように延びた複数の直線状の走行経路(以下、これを直線走行経路と称するが、必ずしも直線には限定されない)が生成される。この走行経路の延び方向は条方向とも呼ばれる。この直線走行経路は、田植機が、内部領域IAの全体をくまなく作業走行するための走行経路であり、自動走行における自動操舵は、この直線走行経路を目標走行経路として行われる。各直線走行経路は、U字状の旋回走行経路(実質的には180度旋回経路)によって繋がれる。直線走行経路に沿った走行及び旋回走行経路に沿った走行は、自動操舵と自動変速とからなる自動走行制御で行われる。
【0034】
外周領域OAでは、圃場の外周(外縁)に沿って外周領域OA内を周回する1つまたは複数回の周回走行経路が生成される。例えば、図3の例では、周回走行経路は、内側と外側の2つの周回走行経路とからなる。内側および外側の周回走行経路も自動走行が可能であるが、いずれか一方または両方が手動走行されてもよい。
【0035】
直線走行経路に沿った走行のほとんどは、作業走行である。作業走行では、苗植付装置3Aを下位置に下降させた状態で、作業装置3である苗植付装置3Aを動作させながら、機体1が走行する。これにより、直線状の苗植付作業が数条単位で行われる。
【0036】
作業走行を終えた直線走行経路から次に作業走行すべき直線走行経路への機体1の方向転換を行う180度旋回走行は非作業走行であり、作業装置3である苗植付装置3Aを上位置に上昇させ、整地フロート15を水田面の上方に位置させた状態で、かつ、苗植付装置3Aを停止させた状態で、機体1が走行する。
【0037】
図3で示されたような長方形の圃場に対する苗植付作業では、まず、作業走行である直線走行と非作業走行である180度旋回走行との組み合わせで、内部領域IAでの苗植付作業が行われる。次いで、外周経路での作業走行である直線走行と非作業走行である90度旋回走行との組み合わせで、外周領域OAでの苗植付作業が行われる。内部領域IAでの苗植付作業で用いられる180度旋回走行は、未作業状態(苗が植付られていない状態)の外周領域OAで行われるので、十分な旋回スペースの確保が可能である。
【0038】
〔畦際特殊走行〕
田植機は、上述した直進走行や180度旋回走行以外に、畦際での複雑な経路での特殊走行を行う。このような畦際特殊走行の1つが、マッピング周回走行でのコーナ部の旋回走行であり、図3において符号SR1で示されている。この90度旋回は畦に境界付けられたコーナ部で行われる。図3では簡単な経路で示されているが、実際には前進と後進とを何度か繰り返すことが少なくない。圃場マッピングのための基準位置は、苗植付装置3Aの上昇位置から下降位置に下降させたタイミングで算出される。このため、正確な基準位置を得るためには、苗植付装置3Aをできるだけ畦に接近させて、苗植付装置3Aを下降させる必要がある。また、畦の上方に苗植付装置3Aが上昇させた状態で、機体1を畦に接近させる畦越え走行も必要となる。
【0039】
畦際特殊走行の他の1つが、内部領域IAでの直線走行から資材補給のために前進で畦に接近する前進補給走行であり、図3において符号SR2で示されている。さらに他の1つが、内部領域IAでの直線走行から180度旋回した後、資材補給のために後進で畦に接近する後進補給走行であり、図3において符号SR3で示されている。いずれの補給走行においても、スムーズな資材補給のために、機体1が畦に接近することが重要である。特に後進補給走行では、畦越え走行も行われる。さらに、場合によっては、畦の上面に苗植付装置3Aを載置する操作も行われる。
【0040】
上述した畦際特殊走行では、機体1が畦に接近するため、畦が障害物として障害物検出ユニット70によって検出される。障害物が検出され、当該障害物の位置及び形状を含む検出物体情報が制御系に送られると、制御系は、検出された障害物と機体1との距離が、予め設定されている接近禁止距離以下にならないように、または機体1が検出された障害物へ接近する際の接近可能時間を超えないように、走行制御を行う。しかしながら、畦際特殊走行では、できる限り畦に近づく必要があるので、検出された障害物(畦)がこの圃場における畦の特定区域として設定された特定畦と判定される場合には、接近禁止距離を短くし、または接近可能時間を延長し、機体1の畦へのより近い接近を許す。つまり、検出された畦が前もって設定された特定認識対象である場合、または検出された畦の近傍領域に特定認識対象が認識されている場合、この特別な畦への接近が許される。この特定認識対象の認識処理は、後で詳説される。なお、畦際特殊走行以外での走行においても、この障害物検出ユニット70によって検出された障害物に対する接近禁止距離または接近可能時間を変更する制御を採用してもよい。
【0041】
〔制御系〕
次に、図4図5とを用いて、この田植機の制御系を説明する。図4は、制御系の制御ブロック図であり、図5は、制御系における特定認識対象の認識処理に関するデータの流れを示す流れ図である。
【0042】
田植機の制御系は、田植機の各種動作を制御する制御ユニット100と、制御ユニット100とのデータ交換が可能な通信端末9とを含む。制御ユニット100には、測位ユニット8、手動操作具センサ群31、走行センサ群32、作業センサ群33からの信号が入力されている。制御ユニット100からの制御信号が、走行機器群1Aと作業機器群1Bとに出力される。
【0043】
制御ユニット100は、測位ユニット8の衛星測位モジュール8Aから機体1の位置及び方位(車体前後方向の方位)を算出するための測位データを取得し、慣性計測モジュール8Bからは、機体1の三軸の傾きや加速度に関する慣性計測データを取得する。
【0044】
制御ユニット100は、機体1の周辺に存在する物体(障害物)を検出する障害物検出ユニット70から検出物体情報を取得する。また、この障害物検出ユニット70のカメラユニット71の撮影画像は、この実施形態では制御ユニット100に構築されている認識ユニット54に送られ、特定認識対象を認識するために用いられる。
【0045】
走行機器群1Aには、例えば、ステアリングモータM1や変速操作用モータM2が含まれており、制御ユニット100からの制御信号に基づいて、ステアリングモータM1が制御されることで操舵角が調節され、変速操作用モータM2が制御されることで車速が調節される。
【0046】
作業機器群1Bには、例えば、苗植付装置3Aを昇降させる昇降シリンダ13a、植付機構22による苗取り量を調節する苗取り量調節機器、繰出機構26による肥料の繰出し量を変更する繰出し量調節機器、植付クラッチC0や各条クラッチECの入り切り制御機器などが含まれている。
【0047】
手動操作具センサ群31には、各種手動操作具の操作状態を検出するセンサやスイッチなどが含まれている。走行センサ群32には、操舵角、車速、エンジン回転数などの状態及びそれらに対する設定値を検出する各種センサが含まれている。作業センサ群33には、整地フロート15の接地を検出する接地センサ、リンク機構13による昇降位置を検出する昇降位置センサなど、苗植付装置3Aや施肥装置3Bの駆動状態を検出する各種センサが含まれている。
【0048】
制御ユニット100には、入力信号処理部50、走行制御部6、作業制御部51、機体位置算出部52、走行経路設定部53、認識ユニット54、障害物管理部55などの機能部が備えられている。
【0049】
入力信号処理部50は、測定機器、監視機器、コミュニケーション機器などの外部機器からのデータを受け取り、必要なデータ変換処理等を行って、制御ユニット100の機能部に与える。例えば、音声認識機器から音声認識された音声認識データ、スマートフォンなど携帯端末からのデータ、さらには、遠隔地の管理コンピュータからのWifiデータや公衆回線データを受け取ることも可能である。なお、この管理コンピュータには、後述する営農管理システムが構築される。
【0050】
機体位置算出部52は、測位ユニット8から逐次送られてくる衛星測位データや慣性航法データに基づいて、機体1の車体位置(地図位置)を算出する。この地図座標は、緯度経度だけでなく、圃場座標系、あるいは特定の座標系での座標であってよい。
【0051】
この実施形態では、通信端末9に、タッチパネルIF90、圃場情報格納部91、走行経路マップ生成部92、走行経路生成部93、リモコン部94、などが備えられている。タッチパネルIF90は、グラフィックインタフェースであり、通信端末9に装備されているタッチパネルを通じて、情報の表示や入力を行う機能を有する。したがって、この通信端末9は、制御ユニット100の入力出力インターフェースとして機能することができる。
【0052】
圃場情報格納部91は、圃場の入口(出口)位置や苗や肥料の補給可能位置など圃場に関する情報が格納されている。走行経路マップ生成部92は、圃場の外周領域OA(図3参照)の最外周部、つまり畦との境界線に沿って機体1を周回走行させることで得られる走行軌跡に基づいて、圃場の外形寸法を算出する。走行経路生成部93は、圃場の外形寸法に基づいて圃場を外周領域OAと内部領域IAとに区分けし、自動走行するための走行経路を生成する。走行経路は、図3に示されたように、外周領域OAを走行するための周回走行経路と、内部領域IAを走行するための直線走行経路とからなる。生成された走行経路は、制御ユニット100に送られる。
【0053】
リモコン部94は、この通信端末9を田植機の操作のためのリモコンとして機能させるプログラムを有する。リモコン部94が動作すると、管理者は、通信端末9に付属するハードウエアスイッチや通信端末9のタッチパネルに表示されたソフトウエアスイッチを用いて、田植機をリモコン操作することができる。
【0054】
制御ユニット100に構築されている走行経路設定部53は、通信端末9から走行経路生成部93によって生成された走行経路を受け取って管理し、経路追従操舵制御のための目標となる走行経路を目標走行経路として、順次設定する。
【0055】
作業制御部51は、自動走行では、前もって与えられているプログラムに基づいて自動的に作業機器群1Bを制御し、手動走行では、運転者の操作に基づいて、作業機器群1Bを制御する。
【0056】
走行制御部6には、自動走行制御部61と、手動走行制御部62と、制御管理部63とが備えられている。この田植機は、自動走行を行う自動走行モードと手動走行を行う手動走行モードとに切替可能である。制御管理部63は、図示されていない走行モード切替操作具の状態を検出する手動操作具センサ(手動操作具センサ群31の1つ)からの信号や、制御ユニット100が制御的に生成する切替信号に基づいて、自動走行モードと手動走行モードのいずれかを選択する。
【0057】
手動走行モードで動作する手動走行制御部62は、ステアリングホイール10の操作量に基づいて、ステアリングモータM1を制御するとともに、主変速レバー7Aや副変速レバー7Bなどの手動操作具の操作に基づいて、変速操作用モータM2を制御する。
【0058】
自動走行モードで動作する自動走行制御部61は、機体位置算出部52で算出された車体位置を用いて、目標走行経路に対する機体1の位置ずれ(目標走行経路に対する横ずれ)と機体1の方位ずれ(目標走行経路の方位に対する車体方位のずれ角)を算出し、この位置ずれ及び方位ずれが小さくなるように機体1を操舵する。
【0059】
認識ユニット54は、事前に登録された特定認識対象を認識する。特定認識対象は、前記機体の障害物への接近を許す象徴として登録されている。ここでの「象徴(接近判定材料)」とは、物体、人体、機器、挙動など、認識ユニット54によって認識可能な対象物である。認識ユニット54は、特定認識対象の認識のために、画像認識機能、音声認識機、符号照合機能などの認識機能のうち、少なくとも1つを備えている。
【0060】
障害物管理部55は、障害物検出ユニット70によって検出された障害物への機体1の接近禁止距離または接近可能時間を管理する。上述したように、この田植機には、検出された畦などの障害物がこの圃場における特定区域として設定された特定区域での物体である場合には、検出された畦などの障害物に対する機体1の接近禁止距離を短くし、または接近可能時間を延長し、機体1の畦への接近を許す接近禁止距離変更機能または接近可能時間変更機能が備えられている。障害物管理部55は、この接近禁止距離変更機能または接近可能時間変更機能を行う。障害物管理部55は、障害物検出ユニット70によって検出された障害物が、認識ユニット54によって認識された特定認識対象である場合、または障害物検出ユニット70によって検出された障害物の近傍領域に認識ユニット54によって認識された特定認識対象が認識されている場合、接近禁止距離を短縮するか、または接近可能時間を延長する。これにより、機体1は、この障害物に接近することができる。
【0061】
障害物管理部55による接近禁止距離の短縮または接近可能時間の延長は、内部領域IAでの直線走行から資材補給のために前進で畦に接近する前進補給走行や後進で畦に接近する後進補給走行において、行われる。つまり、障害物管理部55による接近禁止距離の短縮または接近可能時間の延長のための判定に用いられる障害物の1つは畦の特定区域である。認識ユニット54は、この資材補給のために用いられる畦の特定区域である特定畦を、特定認識対象として事前に登録しておく。特定畦が機体進行方向に存在することを認識すると、障害物管理部55は、障害物検出ユニット70によって検出された障害物が特定畦であるみなし、接近禁止距離を短くするか、または接近可能時間を延長する。
【0062】
認識ユニット54が画像認識機能を備えている実施形態では、カメラユニット71によって取得された撮影画像に対して画像認識が行われ、特定畦が認識される。しかしながら、資材補給のために用いられる畦の形態と、その他の畦の形態が類似している場合、特定畦の認識は困難となる。このため、認識ユニット54は、特定認識対象として畦以外のものが認識ユニット54に登録され、障害物検出ユニット70によって検出された障害物の近傍に当該特定認識対象が認識された場合、障害物管理部55は、当該特定認識対象に近傍する畦を特定畦とする。畦そのものの代わりに、特定認識対象として用いられる「象徴(シンボル)」を、以下に列挙する。
【0063】
(1)通信端末9を「象徴」とする:
圃場作業機の動きを畦から監視する監視者が持参する通信端末9は、リモコン装置や作業進捗状態表示装置としても用いられる。したがって、資材補給の際には、監視者は通信端末9を持参して、資材補給するための畦の近傍に位置する。このことから、監視者が持参する通信端末9を特定認識対象とすることは好都合である。認識ユニット54に、通信端末9の色彩や形状を示す特徴データが登録されることで、認識ユニット54は通信端末9を画像認識処理で認識することができる。また、認識ユニット54に、符号照合機能が備えられ、通信端末9が発することができる通信端末9の識別データが登録されていると、認識ユニット54は、通信端末9が発する指向性の高い、識別データを含む送信データを符号照合することで、通信端末9を認識することができる。符号照合可能な送信データとして、ICタグからの送信データも利用可能であり、その場合、資材補給するための畦にICタグが取り付けられる。符号照合機能に符号画像を読み取る機能があれば、符号画像を印刷した看板等が、資材補給するための畦に取り付けられる。通信端末9に代えて、田植機の制御系とデータ交換可能に通信できるアプリをインストールした携帯電話を用いることができる。携帯電話のアプリから、クラウドサービスコンピュータを経由して、認識ユニット54に、当該携帯電話の識別データが登録されるように構成すれば、リアルタイムで、接近距離を短縮することができる特定畦を指定することができる。
【0064】
(2)田植機の動きを畦から監視する監視者を「象徴」とする:
資材補給の際には、監視者は、資材補給するための畦の近傍に位置する。このことから、監視者を特定認識対象とすることは好都合である。認識ユニット54に、この監視者の顔写真が登録されることで、認識ユニット54は、この監視者を画像認識機能の一種である顔認識機能を用いて認識することができる。また、この監視者が特定の衣装(特徴的な形態の帽子やジャケットなど)を身に着け、その姿での写真を登録してことで、監視者を他の人物と区別して認識することも可能である。
【0065】
(3)人物のジェスチャーを「象徴」とする:
認識ユニット54に、画像認識機能の一種であるジェスチャー認識機能が備えられ、人物の特徴的なジェスチャー(手を振るなど)が登録されていると、畦の近傍に位置する人物が行うジェスチャーを特定認識対象として認識することができる。障害物検出ユニット70によって検出された畦の近傍に特定認識対象が認識されたとして、障害物管理部55は、この畦を特定畦とみなすことができる。
【0066】
(4)人物が発する音声を「象徴」とする:
認識ユニット54に、音声認識機能が備えられ、入力信号処理部50にマイク(好ましくは指向性の良いマイク)が接続されていると、畦から発せられ、認識ユニット54によって認識された音声を通じて、障害物管理部55は、障害物検出ユニット70によって検出された畦を適切に特定畦とみなすことができる。音声認識される語句を限られたものにすれば、音声認識機能は簡素となる。また、特定の人物の音声を認識するようにすれば、圃場周辺で遊んでいる子供などの音声に間違って反応することが回避される。
【0067】
認識ユニット54がジャスチャーを認識することができる機能を備えている場合、障害物管理部55は、認識ユニット54によって認識されたジャスチャーに基づいて、機体1の走行状態を変更する走行状態変更指令を走行制御部6に与えることができる。この構成では、ジャスチャーによって機体1の停止、前進、後進などが行われる。
【0068】
認識ユニット54が音声を認識することができる機能を備えている場合、障害物管理部55は、認識ユニット54によって認識された音声に基づいて、機体1の走行状態を変更する走行状態変更指令を走行制御部6に与えることができる。この構成でも、音声によって機体1の停止、前進、後進などが行われる。
【0069】
認識ユニット54と障害物管理部55とによる、畦などの障害物への機体1への接近禁止距離を短縮する制御、または接近可能時間を延長する制御は、畦及び圃場内の樹木や電柱などの特定の障害物に接近する走行に限定され、その以外の障害物に対しては、通常の接近禁止距離または接近可能時間が維持される。これにより、誤動作による接近禁止距離の短縮または接近可能時間が抑制される。このため、予め把握されている特定の障害物に接近する走行を特殊走行として管理する特殊走行管理部64が、走行制御部6に備えられてもよい。そのような特殊走行管理部64は、機体1が特殊走行する時のみ、接近禁止距離を短縮する制御、または接近可能時間を延長する制御を許可する許可指令を、認識ユニット54と障害物管理部55とに与える。
【0070】
さらにこの実施形態では、上述したように、障害物管理部55は、入力信号処理部50を介して、管理コンピュータに構築されている営農管理システムとデータ交換可能である。営農管理システムには、予め特定認識対象に対して接近禁止距離、または障害物への機体1の接近可能時間を登録しておく。障害物管理部55は、営農管理システムにアクセスして、営農管理システムに予め登録された特定認識対象(検出された障害物)に対して接近禁止距離、または特定認識対象(検出された障害物)への機体1の接近可能時間を取得し、管理することができる。
【0071】
さらに、営農管理システムは、認識ユニット54の画像認識機能または音声認識機能によって検知された特定認識対象に関するデータを、自動的または選択的に蓄積することができる。この検知された特定認識対象に関するデータは情報化され、営農管理システムに時系列的に格納される。
〔別実施の形態〕
【0072】
(1)上述した実施形態では、本発明の圃場作業機として田植機が取り挙げられたが、その他の圃場作業機、例えば、トラクタ、収穫機、播種機、などにも、本発明は適用可能である。
(2)特殊走行管理部64によって把握される畦際特殊走行などの特殊走行は、走行経路設定部53によって設定される走行経路に予め登録しておくことができる。
(3)上述した実施形態では、走行装置12は、操舵輪タイプであったが、クローラタイプであってもよい。
(4)図4図5に示された機能部の区分けは、一例であり、各機能部が他の機能部と統合されること、各機能部が複数の機能部に分割されること、制御ユニット100が複数の制御サブユニットに分散されること、など、種々の改変が可能である。
【0073】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、畦によって境界付けられた圃場を自動走行可能な圃場作業機に適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 :機体
1A :走行機器群
1B :作業機器群
3 :作業装置
6 :走行制御部
8 :測位ユニット
8A :衛星測位モジュール
8B :慣性計測モジュール
9 :通信端末
12 :走行装置
50 :入力信号処理部
52 :機体位置算出部
54 :認識ユニット
55 :障害物管理部
70 :障害物検出ユニット
71 :カメラユニット
72 :LiDARユニット
100 :制御ユニット
図1
図2
図3
図4
図5