(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-21
(45)【発行日】2025-08-29
(54)【発明の名称】漫然運転判定装置及び漫然運転判定方法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20250822BHJP
G06T 7/70 20170101ALI20250822BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20250822BHJP
【FI】
G06T7/00 660A
G06T7/70 B
G08G1/16 F
(21)【出願番号】P 2022115844
(22)【出願日】2022-07-20
【審査請求日】2024-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 匡駿
(72)【発明者】
【氏名】山内 航一郎
【審査官】伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/150485(WO,A1)
【文献】特開2022-012829(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0370579(US,A1)
【文献】特開2020-086907(JP,A)
【文献】特開2011-115450(JP,A)
【文献】菊地進一 外1名,AIドラレコを支える技術 ~DRIVE CHARTを例に~,映像情報メディア学会誌,一般社団法人映像情報メディア学会,2021年11月01日,第75巻 第6号,pp.758~763
【文献】Lollett Catherine et al.,“Towards a Driver's Gaze Zone Classifier using a Single Camera Robust to Temporal and Permanent Face Occlusions”,2021 IEEE Intelligent Vehicles Symposium (IV)[online],IEEE,2021年,pp.578-585,[検索日 2025.3.24], インターネット:<URL:https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=9575367&tag=1>,DOI: 10.1109/IV48863.2021.9575367
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00 - 7/90
G06V 10/00 - 20/90
G06V 30/418
G06V 40/16
G06V 40/20
G08G 1/00 - 99/00
CSDB(日本国特許庁)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者が漫然運転状態にあるか否かを判定する漫然運転判定装置であって、
前記運転者の顔画像データを取得するドライバモニタカメラと、
前記ドライバモニタカメラにより取得された前記顔画像データを記憶するメモリと、
所定の一定期間に取得された複数の前記顔画像データに基づいて、前記運転者の顔向き角度又は視線角度の分布範囲を演算し、演算された前記分布範囲が閾値範囲に含まれる場合に、前記運転者が漫然運転状態にあると判定するプロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、
前記複数の顔画像データのそれぞれについて、前記運転者が顔の一部を覆う装着物を装着しているかどうかを表す装着状況が、前記装着物を装着している第一状況であるか前記装着物を装着していない第二状況であるかを判定し、
前記第一状況と判定される顔画像データの割合が前記第二状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、前記第一状況に対応する第一閾値範囲を前記閾値範囲として設定し、前記第二状況と判定される顔画像データの割合が前記第一状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、前記第二状況に対応する第二閾値範囲を前記閾値範囲として設定する
ように構成され
、
前記第一閾値範囲は、前記第二閾値範囲よりも大きい漫然運転判定装置。
【請求項2】
前記分布範囲は、前記複数の顔画像データにおける前記運転者の顔向き角度又は視線角度を、前記車両のヨー角方向及びピッチ角方向により規定される座標上に投影した座標点の分布範囲であり、
前記閾値範囲は、前記座標上において前記分布範囲の中心を中心とした所定半径の円形の範囲であり、
前記第一閾値範囲の前記所定半径は、前記第二閾値範囲の前記所定半径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の漫然運転判定装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記複数の顔画像データのそれぞれから判定される前記装着状況のうち、前記第一状況と判定される顔画像データの割合が前記第二状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、前記複数の顔画像データのうち前記第一状況に対応する顔画像データを用いて前記分布範囲を演算し、前記第二状況と判定される顔画像データの割合が前記第一状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、前記第二状況に対応する顔画像データを用いて前記分布範囲を演算する
ように構成される請求項1又は請求項2に記載の漫然運転判定装置。
【請求項4】
前記装着物は、マスク又は赤外線カット眼鏡である請求項1又は請求項2に記載の漫然運転判定装置。
【請求項5】
車両の運転者が漫然運転状態にあるか否かを判定する漫然運転判定方法であって、
ドライバモニタカメラを用いて前記運転者の顔の顔画像データを取得し、
前記顔画像データのうち、所定の一定期間に取得された複数の前記顔画像データに基づいて、前記運転者の顔向き角度又は視線角度の分布範囲を演算し、
前記複数の顔画像データのそれぞれについて、前記運転者が顔の一部を覆う装着物を装着しているかどうかを表す装着状況が、前記装着物を装着している第一状況であるか前記装着物を装着していない第二状況であるかを判定し、
前記第一状況と判定される顔画像データの割合が前記第二状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、前記第一状況に対応
し、前記第二状況に対応する第二閾値範囲よりも大きい第一閾値範囲を閾値範囲として設定し、前記第二状況と判定される顔画像データの割合が前記第一状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、
前記第二閾値範囲を前記閾値範囲として設定し、
演算された前記分布範囲が前記閾値範囲に含まれる場合に、前記運転者が漫然運転状態にあると判定する漫然運転判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ドライバモニタカメラを用いて、運転者による運転が漫然運転状態であるかを判定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の運転者が漫然運転を行っているか否かを判定する技術が開示されている。「漫然運転」とは、運転者が車両の運転に集中していない状態で当該車両の運転を行うことを意味している。運転者は、漫然運転を行っているときには周辺確認行動が不十分になる運転傾向を示す場合がある。この技術では、運転者の顔向き及び視線方向の少なくともいずれかを取得する。そして、取得された運転者の顔向き及び視線方向の少なくともいずれかの変化量が、予め設定された時間にわたって予め設定された範囲内である場合に、運転者が漫然運転を行っていると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術において、運転者の顔向き及び視線方向は、車両に搭載されたドライバモニタカメラの顔画像データから演算される。このため、運転者が顔の一部を覆う装着物を装着している場合、ドライバモニタカメラから得られるセンサ値がばらつくことが考えられる。このような装着物としては、口元を覆い隠すマスク又は目元の赤外線をカットするIRカット眼鏡等が例示される。顔への装着物の装着状況を考慮せずに漫然運転の判定を行うと誤判定が起きるおそれがある。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、運転者が顔の一部を覆う装着物の装着状況を考慮することにより、漫然運転状態にあるかどうかの判定を精度よく行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上記目的を達成するため、車両の運転者が漫然運転状態にあるか否かを判定する漫然運転判定装置に適用される。漫然運転判定装置は、運転者の顔画像データを取得するドライバモニタカメラと、ドライバモニタカメラにより取得された顔画像データを記憶するメモリと、所定の一定期間に取得された複数の顔画像データに基づいて、運転者の顔向き角度又は視線角度の分布範囲を演算し、演算された分布範囲が閾値範囲に含まれる場合に、運転者が漫然運転状態にあると判定するプロセッサと、を備える。プロセッサは、複数の顔画像データのそれぞれについて、運転者が顔の一部を覆う装着物を装着しているかどうかを表す装着状況が、装着物を装着している第一状況であるか装着物を装着していない第二状況であるかを判定し、第一状況と判定される顔画像データの割合が第二状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、第一状況に対応する第一閾値範囲を閾値範囲として設定し、第二状況と判定される顔画像データの割合が第一状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、第二状況に対応する第二閾値範囲を閾値範囲として設定するように構成される。そして、第一閾値範囲は、第二閾値範囲よりも大きい。
【0007】
本開示において、分布範囲は、複数の顔画像データにおける運転者の顔向き角度又は視線角度を、車両のヨー角方向及びピッチ角方向により規定される座標上に投影した座標点の分布範囲であってもよい。閾値範囲は、座標上において分布範囲の中心を中心とした所定半径の円形の範囲であってもよく、第一閾値範囲の所定半径は、第二閾値範囲の所定半径よりも大きくてもよい。
【0008】
本開示において、プロセッサは、複数の顔画像データのそれぞれから判定される装着状況のうち、第一状況と判定される顔画像データの割合が第二状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、複数の顔画像データのうち第一状況に対応する顔画像データを用いて分布範囲を演算し、第二状況と判定される顔画像データの割合が第一状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、第二状況に対応する顔画像データを用いて分布範囲を演算するように構成されていてもよい。
【0009】
本開示において、装着物は、マスク又は赤外線カット眼鏡であってもよい。
【0010】
また、本開示は、上記目的を達成するため、車両の運転者が漫然運転状態にあるか否かを判定する漫然運転判定方法に適用される。漫然運転判定方法は、ドライバモニタカメラを用いて運転者の顔の顔画像データを取得し、顔画像データのうち、所定の一定期間に取得された複数の顔画像データに基づいて、運転者の顔向き角度又は視線角度の分布範囲を演算し、複数の顔画像データのそれぞれについて、運転者が顔の一部を覆う装着物を装着しているかどうかを表す装着状況が、装着物を装着している第一状況であるか装着物を装着していない第二状況であるかを判定し、第一状況と判定される顔画像データの割合が第二状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、第一状況に対応し、第二状況に対応する第二閾値範囲よりも大きい第一閾値範囲を閾値範囲として設定し、第二状況と判定される顔画像データの割合が第一状況と判定される顔画像データの割合よりも大きい場合、第二閾値範囲を閾値範囲として設定し、演算された分布範囲が閾値範囲に含まれる場合に、運転者が漫然運転状態にあると判定する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、一定期間における運転者の装着物の装着状況にばらつきがある場合であっても、割合の大きい方の装着状況を採用して漫然運転の判定が行われる。これにより、装着状況の誤判定を防ぐことができるので、漫然運転状態にあるかどうかの判定を精度よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】漫然運転判定装置100の構成を示すブロック図である。
【
図2】一定期間内に運転者の顔の向きと視線がどのように移動したかを示す分布図である。
【
図3】漫然運転状態において一定期間内に運転者の顔の向きと視線がどのように移動したかを示す分布図である。
【
図4】実施形態の漫然運転判定装置100が実行する漫然運転判定処理のルーチンを示すフローチャートである。
【
図5】
図4のステップS102において実行される装着物判定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】
図4のステップS106において実行される閾値範囲の設定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図4のステップS104において実行される処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る技術思想に必ずしも必須のものではない。
【0014】
1.漫然運転判定装置の構成
本実施形態に係る漫然運転判定装置は、車両の運転者が漫然運転状態にあるかを判定する装置である。本実施形態に係る漫然運転判定装置が搭載される車両は、例えば自動運転車両である。自動運転車両では、従来車両の運転で運転者が担っていた認知、予測、判断、及び操作は、自動運転システムによって行われる。
【0015】
しかし、走行環境又はシステムの異常などの様々な原因により、時として、自動運転システムによる自動運転の継続が不可能になることがある。そのような場合、運転者は、直ちに通常の運転に戻らなければならない。このため、たとえ自動運転中であったとしても、運転者の漫然運転は避けるべきできである。本実施形態に係る漫然運転判定装置は、自動運転車両の自動運転中に運転者が漫然運転状態にあるかどうかを判定する機能を備えた装置である。
【0016】
以下、
図1を用いて、本実施形態に係る漫然運転判定装置の構成を説明する。
図1は、漫然運転判定装置100の構成を示すブロック図である。漫然運転判定装置100は、自動運転車両に搭載される。漫然運転判定装置100は、ドライバモニタカメラ20と、制御装置50とから構成されている。制御装置50とドライバモニタカメラ20とは、CAN(Controller Area Network)などの車内ネットワークによって接続されている。
【0017】
制御装置50は、プロセッサ52とメモリ54とを備えるECU(Electronic Control Unit)である。メモリ54には、種々のプログラムやデータが記憶されている。ここで言うメモリ54には、RAM(Random Access Memory)のような狭義のメモリに加えて、HDDなどの磁気ディスク、DVDなどの光学ディスク、SSDなどのフラッシュメモリ記憶装置などのデータ保存装置が含まれてもよい。メモリ54には、データとして、少なくともドライバ状態情報DRSが記憶されている。また、メモリ54には、プログラムとして、少なくとも漫然運転判定プログラムCDPが記憶されている。メモリ54に記憶されたプログラムは、プロセッサ52によって実行される。
【0018】
ドライバモニタカメラ20は、運転席の前方で運転者の顔を撮影できる場所、例えば、ステアリングコラムの上部又は車内リアビューミラーの近傍に設置されている。ドライバモニタカメラ20は、運転者の顔の表情を常時モニタリングし、取得したデータを制御装置50のメモリ54に記憶する。ドライバモニタカメラ20により取得されたデータは、メモリ54にドライバ状態情報DRSとして記憶される。ドライバ状態情報DRSは、後述するように漫然運転判定プログラムCDPによる漫然運転の判定に用いられる。つまり、ドライバモニタカメラ20は、制御装置50とともに漫然運転判定装置として機能する。
【0019】
2.漫然運転の判定処理
漫然運転判定装置100による漫然運転の判定は、プロセッサ52によって漫然運転判定プログラムCDPが実行されることによって実現される。以下、
図2を用いて、漫然運転判定プログラムCDPによる漫然運転の判定の方法について説明する。
【0020】
図2には、一定期間内に運転者の顔の向きと視線がどのように移動したかを示す分布図が掲載されている。上段の分布図は通常状態でのデータから作成されたものであり、下段の分布図は漫然運転状態でのデータから作成されたものである。各分布図において、黒丸は顔向き角度を示し、白丸は視線角度を示している。また、各分布図において、縦軸Pは車両進行方向をゼロとしたときの車両ピッチ角方向の角度であり、横軸Yは車両進行方向をゼロとしたときの車両ヨー角方向の角度である。縦軸Pと横軸Yとで規定される座標系は、以下「P-Y座標系」と呼ばれる。
【0021】
上下の分布図の比較から明らかなように、漫然運転状態の分布図では、顔向き角度が分布している分布範囲は通常状態での分布範囲よりも狭く、視線角度が分布している分布範囲も通常状態での分布範囲よりも狭い。このことから、顔向き角度の分布範囲と視線角度の分布範囲とを調べることで、運転者の状態が通常状態か漫然運転状態かを区別できると考えられる。
【0022】
漫然運転判定プログラムCDPは、ドライバモニタカメラ20によって取得されたドライバ状態情報DRSを処理し、一定期間(例えば30秒程度)における顔向き角度のデータと視線角度のデータを集める。そして、漫然運転判定プログラムCDPは、顔向き角度が分布している分布範囲RFと、視線角度が分布している分布範囲RGとを計算する。ここでの分布範囲RF及び分布範囲RGは、顔向き角度のデータ及び視線角度のデータを、P-Y座標上に投影した座標点の分布範囲である。
【0023】
顔向き角度の分布範囲RFには、閾値範囲RFthが設定されている。視線角度の分布範囲RGにも、閾値範囲RGthが設定されている。閾値範囲RFthと閾値範囲RGthとは、例えば、P-Y座標上において分布範囲RF及び分布範囲RGの中心を中心とした所定半径の円形の範囲として定義される。閾値範囲RFthと閾値範囲RGthの半径は、漫然運転状態で得られたデータに基づき決定されている。漫然運転判定プログラムCDPは、顔向き角度の分布範囲RFが閾値範囲RFthに収まる場合、又は、視線角度の分布範囲RGが閾値範囲RGthに収まる場合、運転者の状態は漫然運転状態であると判定する。
【0024】
ここで、運転者が顔に装着物を装着している場合、ドライバモニタカメラ20によって取得されたドライバ状態情報DRSから処理した運転者の顔向き角度又は視線角度のデータにばらつきが生じることがある。このような装着物としては、口元を覆うマスク又は赤外線(IR)をカットする機能を備える赤外線カット眼鏡(以下、「サングラス」とも呼ぶ)等が例示される。
図3には、漫然運転状態において一定期間内に運転者の顔の向きと視線がどのように移動したかを示す分布図が掲載されている。上段の分布図は裸顔状態でのデータから作成されたものであり、中段の分布図はマスク装着状態でのデータから作成されたものであり、そして、下段の分布図はサングラス装着状態でのデータから作成されたものである。各分布図において、黒丸は顔向き角度を示し、白丸は視線角度を示している。
【0025】
図3に示す分布図の比較から明らかなように、マスク装着状態の顔向き角度及び視線角度の分布範囲RF,RGは、裸顔状態のそれに比べてばらつきが大きくなっている。同様に、サングラス装着状態の顔向き角度の分布範囲RFは、裸顔状態のそれに比べてばらつきが大きくなっている。なお、サングラス装着状態では、ドライバモニタカメラ20によって運転者の視線を検知できないので視線角度の分布範囲RGのデータは得られていない。
【0026】
このように、マスク装着状態又はサングラス装着状態の場合には顔向き角度の分布範囲RF又は視線角度の分布範囲RGがばらつく傾向がある。漫然運転の判定において裸顔状態の場合と同様の閾値範囲を用いると漫然運転状態であっても正常運転を判定される可能性がある。
【0027】
そこで、漫然運転判定プログラムCDPは、運転者の顔への装着物の装着状況が「装着物あり」の第一状況であるか「装着物なし」の第二状況であるかを判定し、判定結果に応じて個別に閾値範囲を設定するように構成されている。具体的には、漫然運転判定プログラムCDPは、ドライバ状態情報DRSに基づいて運転者のマスク装着有無及びサングラス装着有無を判定する。この処理は、以下「装着物有無判定処理」と呼ばれる。装着物有無判定処理では、漫然運転判定プログラムCDPは、一定期間(例えば30秒程度)における運転者の複数の顔画像データDTを取得する。そして、漫然運転判定プログラムCDPは、取得した顔画像データDTのうち、マスク又はサングラスの装着物ありの第一状況の顔画像データDT1である割合R1と装着物なしの第二状況の顔画像データDT2である割合R2とを計算する。漫然運転判定プログラムCDPは、装着物あり(第一状況)の割合R1が装着物なし(第二状況)の割合R2よりも大きい場合、装着物ありと判定する。一方、漫然運転判定プログラムCDPは、装着物ありの割合R1が装着物なしの割合R2よりも小さい場合、装着物なしと判定する。
【0028】
漫然運転判定プログラムCDPは、装着物有無判定処理の判定結果に応じて閾値範囲を設定する。具体的には、漫然運転判定プログラムCDPは、装着物あり(第一状況)と判定された場合、閾値範囲RFth,RGthを第一閾値範囲RFth1,RGth1,に設定し、装着物なし(第二状況)と判定された場合、閾値範囲RFth,RGthを第二閾値範囲RFth2,RGth2に設定する。第一閾値範囲RFth1,RGth1の半径は、第二閾値範囲RFth2,RGth2の半径よりも大きい。
【0029】
このような処理によれば、運転者が顔の一部を覆う装着物を装着しているかどうかによらず、漫然運転状態にあるかどうかの判定を精度よく行うことができる。また、装着物有無判定処理では、装着物ありの割合と装着物なしの割合とに基づいて装着物有無を判定するため、一定期間における装着物の装着状況のデータにばらつきがあったとしても、装着物有無の妥当な判定が可能となる。これにより、装着物有無の誤判定を防ぐことができる。
【0030】
3.漫然運転判定装置100による漫然運転の判定の具体的処理
次に、漫然運転判定装置100による漫然運転の判定の具体的処理について説明する。
図4は、本実施形態の漫然運転判定装置100が実行する漫然運転判定処理のルーチンを示すフローチャートである。
図4に示すルーチンは、プロセッサ52が漫然運転判定プログラムCDPを実行することによって開始される。
【0031】
ステップS100では、一定期間(例えば30秒)の運転者の顔画像データが取得される。ドライバモニタカメラ20によって取得された顔画像データは、ドライバ状態情報DRSとしてメモリ54に常時記憶されている。ここでは、ドライバ状態情報DRSに基づいて、一定期間の運転者の顔画像データが取得される。
【0032】
ステップS102では、ステップS100において取得した顔画像データを用いて運転者の顔への装着物の有無が判定される。
図5は、
図4のステップS102において実行される装着物判定処理の流れを示すフローチャートである。
図5に示すステップS122では、ステップS100において取得したそれぞれの顔画像データについて、公知の画像認識機能を用いて装着物の装着状況が判定される。
【0033】
ステップS124では、一定期間の顔画像データDTのうち、装着物を装着している第一状況の顔画像データDT1と判定された画像の割合R1が、装着物を装着していない第二状況の顔画像データDT2と判定された画像の割合R2よりも大きいかどうかが判定される。その結果、判定の成立が認められた場合、処理はステップS126に進み、装着物ありを判定される。一方、判定の成立が認められない場合、処理はステップS128に進み、装着物なしと判定される。
【0034】
ステップS102の処理が実行されると、処理は次のステップS104に進む。ステップS104では、ステップS100において取得された顔画像データから、P-Y座標上の顔向き角度の分布範囲RF及び視線角度の分布範囲RGが計算される。ステップS104の処理が実行されると、処理は次のステップS106に進む。
【0035】
ステップS106では、漫然運転判定の閾値範囲RFth,RGthが設定される。
図6は、
図4のステップS106において実行される閾値範囲の設定処理の流れを示すフローチャートである。
図6に示すステップS130では、ステップS102の装着物有無判定において装着物ありと判定されたかどうかが判定される。その結果、判定の成立が認められた場合、処理はステップS132に進む。
【0036】
ステップS132では、第一閾値範囲RFth1,RGth1が演算される。ここでは、ステップS104において演算された分布範囲RF,RGの中心を中心とした第一半径RFr1,RGr1の円形の範囲が第一閾値範囲RFth1,RGth1として計算される。第一半径RFr1,RGr1は、装着物ありの運転者が漫然運転状態であると判定する分布範囲の閾値として、過去の顔画像データに基づいて予め設定された値が用いられる。そして、計算された第一閾値範囲RFth1,RGth1が漫然運転判定の閾値範囲RFth,RGthに設定される。
【0037】
一方、判定の成立が認められない場合、処理はステップS134に進む。ステップS134では、第二閾値範囲RFth2,RGth2が演算される。ここでは、ステップS104において演算された分布範囲RF,RGの中心を中心とした第二半径RFr2,RGr2の円形の範囲が第二閾値範囲RFth2,RGth2として計算される。第二半径RFr2,RGr2は、装着物なしの運転者が漫然運転状態であると判定する分布範囲の閾値として、過去の顔画像データに基づいて予め設定された値が用いられる。第二半径RFr2,RGr2は、第一半径RFr1,RGr1よりも小さい。つまり、第二閾値範囲RFth2,RGth2は、第二閾値範囲RFth2,RGth2よりも小さい。そして、計算された第二閾値範囲RFth2,RGth2が漫然運転判定の閾値範囲RFth,RGthに設定される。
【0038】
ステップS106の処理が実行されると、処理は次のステップS108に進む。ステップS108では、ステップS104において取得した分布範囲RF,RGが、ステップS106において設定した閾値範囲RFth,RGthに含まれるかどうかが判定される。その結果、判定の成立が認められた場合、処理はステップS110に進み、運転者が漫然運転状態にあると判定される。一方、判定の成立が認められない場合、処理はステップS112に進み、運転者が漫然運転状態にないと判定される。
【0039】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る漫然運転判定装置100によれば、運転者の顔への装着物有無を正確に判定することができる。これにより、精度の高い漫然運転判定を行うことが可能となる。
4.変形例
本実施形態に係る漫然運転判定装置100は、以下のように変形した態様を適用してもよい。
【0040】
4-1.漫然運転判定処理
漫然運転判定処理で用いる分布範囲は、顔向き角度の分布範囲RFと視線角度の分布範囲RGの何れか一方のみでもよい。
4-2.装着物有無判定処理
装着物有無判定では、マスク及びサングラスの装着有無をそれぞれ判定してもよい。この場合、ステップS132において、マスクを装着している場合とサングラスを装着している場合とで個別の閾値範囲RFth,RGthを設定してもよい。
【0041】
4-3.閾値範囲RFth,RGth
閾値範囲RFth,RGthは、分布範囲RF,RGの中心を中心とした円形の範囲に限らない。すなわち、閾値範囲RFth,RGthは、過去の顔画像データに基づいて設定された他の形状の範囲でもよい。
【0042】
4-4.分布範囲RF,RG
漫然運転判定処理で用いる分布範囲RF,RGは、装着物有無に応じて設定してもよい。すなわち、装着物判定処理において装着物ありと判定された場合、装着物なしと判定された顔画像データDT2は漫然運転判定に利用しない方が好ましい。同様に、装着物判定処理において装着物なしと判定された場合、装着物ありと判定された顔画像データDT1は漫然運転判定に利用しない方が好ましい。そこで、装着物判定処理において装着物ありと判定された場合、漫然運転判定処理で用いる分布範囲RF,RGは、装着物ありと判定された顔画像データDT1に基づいて設定する。同様に、装着物判定処理において装着物なしと判定された場合、漫然運転判定処理で用いる分布範囲RF,RGは、装着物なしと判定された顔画像データDT2に基づいて設定する。
【0043】
このような変形例の処理は、例えば、
図4に示す漫然運転判定処理のステップS104において、
図7に示す処理を実行することにより実現することができる。
図7は、
図4のステップS104において実行される処理の変形例を示すフローチャートである。
図7に示すステップS140では、ステップS102の装着物有無判定において装着物ありと判定されたかどうかが判定される。その結果、判定の成立が認められた場合、処理はステップS142に進み、判定の成立が認められない場合、処理はステップS144に進む。
【0044】
ステップS142では、装着物ありと判定された顔画像データDT1のみを用いて計算された分布範囲RF1,RG1が分布範囲RF,RGとして設定される。一方、ステップS144では、装着物なしと判定された顔画像データDT2のみを用いて計算された分布範囲RF2,RG2が分布範囲RF,RGとして設定される。これにより、装着物有無が反映された分布範囲RF,RGが設定される。
【符号の説明】
【0045】
20 ドライバモニタカメラ
50 制御装置(ECU)
52 プロセッサ
54 メモリ
100 漫然運転判定装置