(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-22
(45)【発行日】2025-09-01
(54)【発明の名称】新規遺伝子輸送担体
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20250825BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20250825BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20250825BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20250825BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20250825BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250825BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20250825BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20250825BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/077
C12N15/12
A61K35/34
A61P21/00
A61K48/00
A61L27/38
A61L27/54
(21)【出願番号】P 2024077708
(22)【出願日】2024-05-13
【審査請求日】2024-07-18
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522002179
【氏名又は名称】株式会社Hyperion Drug Discovery
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 健一
(72)【発明者】
【氏名】赤平 莉菜
(72)【発明者】
【氏名】嶽北 和宏
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0253655(US,A1)
【文献】国際公開第2020/090836(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
A61L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の生体内の筋細胞または体細胞と移植細胞を融合させて持続的に薬剤をコードする遺伝子を発現するための細胞医薬であって、前記細胞医薬は、
細胞間融合遺伝子である筋関連遺伝子を外来遺伝子として含む移植細胞であって、筋関連遺伝子が細胞外因子の存在下で発現される、前記移植細胞、および、細胞外因子、
を含み、
前記細胞医薬は、筋関連遺伝子の発現の時期を調節しない場合と比較して、細胞移植後の融合を向上させる特性を付加されており、筋関連遺伝子の発現が細胞医薬の製造において必要な増殖能に影響を与えないように、細胞外因子を、移植細胞に任意に暴露でき、
前記筋関連遺伝子がMyomaker、Myomixer、CD56、MyoD、Myf5、Myogenin、MEF2A、MEF2B、MEF2Cのいずれか1つ以上であり、
前記移植細胞が、薬剤をコードする遺伝子をさらに発現
し、
前記薬剤をコードする遺伝子が、CDK、Cyclin、p16、p21、p27、E2F、テロメラーゼ、TERT、ZSCAN、SV40 Large T抗原、HPV E6/E7、Ras、Rb、B-cell lymphoma 2、CRISPR Cas、Oct3/4、c-Myc、Klf4、Sox2、NANOG、ASCL1、PITX3、NURR1、LMX1A、Dystrophin、Myotilin、Laminin A/C、CAV、CAPN、SGCG、TRIM32、TCAP、FKRP、EMD、PABP、DMPK、ZNF9、FCMD、Collagen、SEPN1、RYRI、MTM、TNNT、NEB、TPM、ACTN、GNE、DYSF、CRY AB、VEGF、IGF、FGF、HGF、EGF、TGF、NGF、BDNF、GDNF、BMP、PDGF、EPO、TPO、G-CSF、GM-CSF、RUNX、グルコース-6-ホスファターゼ、t-PA、コラゲナーゼ、アルグルコシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グリコサミノグリカン分解酵素、β-グルクロニダーゼ、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ、α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、α-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、リソソーム酸リパーゼ、ネプリライシン、CAR、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、血液凝固関連因子、血清タンパク質、ホルモン、ワクチン、インターフェロン、エリスロポエチン、サイトカイン、または、毒素をコードする遺伝子である、前記細胞医薬。
【請求項2】
移植細胞が、筋細胞または筋様細胞である、請求項1に記載の細胞医薬。
【請求項3】
移植細胞が、ヒト筋細胞またはヒト筋様細胞である、請求項
2に記載の細胞医薬。
【請求項4】
筋細胞が、筋芽細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、または平滑筋細胞であり、筋様細胞が、多能性幹細胞由来の筋細胞または体性幹細胞由来の筋細胞である、請求項
3に記載の細胞医薬。
【請求項5】
筋関連遺伝子が細胞外因子の存在下で発現される細胞ベクターシステムが、Cre-Lox、Flp-FRT、Vika-Vox
、Destabilizing Domain (DD)、TetON、またはTetOFFである、請求項1に記載の細胞医薬。
【請求項6】
細胞間の融合を促進して持続的に薬剤をコードする遺伝子を発現する方法であって、細胞間融合遺伝子である筋関連遺伝子を外来遺伝子として含む細胞であって、筋関連遺伝子が細胞外因子の存在下で発現される、前記細胞、および細胞外因子を、融合させる細胞(ヒト細胞を除く)に暴露することを含み、筋関連遺伝子の発現が細胞医薬の製造において必要な増殖能に影響を与えないように、細胞外因子を、細胞に暴露し、前記筋関連遺伝子を含む細胞が、薬剤をコードする遺伝子をさらに発現
し、
前記筋関連遺伝子がMyomaker、Myomixer、CD56、MyoD、Myf5、Myogenin、MEF2A、MEF2B、MEF2Cのいずれか1つ以上であり、
前記薬剤をコードする遺伝子が、CDK、Cyclin、p16、p21、p27、E2F、テロメラーゼ、TERT、ZSCAN、SV40 Large T抗原、HPV E6/E7、Ras、Rb、B-cell lymphoma 2、CRISPR Cas、Oct3/4、c-Myc、Klf4、Sox2、NANOG、ASCL1、PITX3、NURR1、LMX1A、Dystrophin、Myotilin、Laminin A/C、CAV、CAPN、SGCG、TRIM32、TCAP、FKRP、EMD、PABP、DMPK、ZNF9、FCMD、Collagen、SEPN1、RYRI、MTM、TNNT、NEB、TPM、ACTN、GNE、DYSF、CRY AB、VEGF、IGF、FGF、HGF、EGF、TGF、NGF、BDNF、GDNF、BMP、PDGF、EPO、TPO、G-CSF、GM-CSF、RUNX、グルコース-6-ホスファターゼ、t-PA、コラゲナーゼ、アルグルコシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グリコサミノグリカン分解酵素、β-グルクロニダーゼ、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ、α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、α-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、リソソーム酸リパーゼ、ネプリライシン、CAR、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、血液凝固関連因子、血清タンパク質、ホルモン、ワクチン、インターフェロン、エリスロポエチン、サイトカイン、または、毒素をコードする遺伝子である、前記方法。
【請求項7】
in vitroにおいて細胞間の融合を促進して持続的に薬剤をコードする遺伝子を発現する方法であって、細胞間融合遺伝子である筋関連遺伝子を外来遺伝子として含む細胞であって、筋関連遺伝子が細胞外因子の存在下で発現される、前記細胞、および細胞外因子をin vitroにおいて、融合させる細胞に暴露することを含み、筋関連遺伝子の発現が細胞医薬の製造において必要な増殖能に影響を与えないように、細胞外因子を、細胞に暴露し、前記筋関連遺伝子を含む細胞が、薬剤をコードする遺伝子をさらに発現
し、
前記筋関連遺伝子がMyomaker、Myomixer、CD56、MyoD、Myf5、Myogenin、MEF2A、MEF2B、MEF2Cのいずれか1つ以上であり、
前記薬剤をコードする遺伝子が、CDK、Cyclin、p16、p21、p27、E2F、テロメラーゼ、TERT、ZSCAN、SV40 Large T抗原、HPV E6/E7、Ras、Rb、B-cell lymphoma 2、CRISPR Cas、Oct3/4、c-Myc、Klf4、Sox2、NANOG、ASCL1、PITX3、NURR1、LMX1A、Dystrophin、Myotilin、Laminin A/C、CAV、CAPN、SGCG、TRIM32、TCAP、FKRP、EMD、PABP、DMPK、ZNF9、FCMD、Collagen、SEPN1、RYRI、MTM、TNNT、NEB、TPM、ACTN、GNE、DYSF、CRY AB、VEGF、IGF、FGF、HGF、EGF、TGF、NGF、BDNF、GDNF、BMP、PDGF、EPO、TPO、G-CSF、GM-CSF、RUNX、グルコース-6-ホスファターゼ、t-PA、コラゲナーゼ、アルグルコシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グリコサミノグリカン分解酵素、β-グルクロニダーゼ、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ、α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、α-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、リソソーム酸リパーゼ、ネプリライシン、CAR、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、血液凝固関連因子、血清タンパク質、ホルモン、ワクチン、インターフェロン、エリスロポエチン、サイトカイン、または、毒素をコードする遺伝子である、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤の徐放を目的として、融合能を持った細胞から作製したベクターとその融合による長期生着により外来遺伝子の安定発現を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療等製品は、細胞移植後に免疫拒絶により消失することが課題となっているため、移植細胞の生着を高める様々な工夫が検討されている。筋細胞の移植の事例においても免疫拒絶による消失の問題が起きている。
非特許文献1の9頁の左欄、最終段落には、注射による細胞送達の欠点として、免疫拒絶または炎症性サイトカインのいずれかによる過酷な免疫環境となり細胞死を引き起こし得ることが記載されている。
非特許文献2の要約には、Myoblast mediated gene transferが、治療用血管新生に対する有望な新規のアプローチを研究するための有用なツールであり、強力かつ長期の発現を可能にし、筋肉における相対的に迅速な形態の「成人遺伝子組み換え」として考えられていることが記載されている。
非特許文献3には、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)マウスへの筋芽細胞投与について記載されており、178頁の左欄最終段落~右欄第1段落にわたり、ヒトでのMMT(Myoblast Transfer Therapy)の課題が免疫拒絶を回避することであると記載されている。
【0003】
また、筋芽細胞移植では、免疫抑制剤を併用して免疫拒絶に対応することがスタンダードとなっているが、依然として、生着には課題がある。
非特許文献4には、免疫抑制剤を使用しない、ヒトDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)患者における筋芽細胞の移植の盲検の結果について記載されているが、非特許文献4の要約の最終行において、筋芽細胞移植およびDMDについての遺伝子治療が免疫抑制なしでは行うことが出来ない、と結論付けられている。
非特許文献5の557頁、左欄、第一段落には、いくつかの形態の免疫抑制が、免疫適合性ドナーおよびレシピエントについてさえ、必要であるかは未だ明らかでないと記載されている。
非特許文献6の表1においては、ヒトDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)患者における筋芽細胞の筋肉内移植について検討されているが、免疫抑制剤を使用しなければ、ジストロフィン陽性線維(筋線維)の割合が低下することが示されている。また、非特許文献6の836頁の左欄、第三段落の最終行には、非常に低い細胞残存率が見られると記載されている。
【0004】
特許文献1には、融合能力を欠く線維芽細胞などの非筋細胞に融合遺伝子Myomakerをコードする核酸を発現させて、筋芽細胞などの筋細胞と融合させることが記載されているが、移植後の実際の生着については確認されていない。また、特許文献1には、筋細胞に融合遺伝子Myomakerを発現させることも記載されていない。
したがって、免疫抑制剤を併用するか否かにかかわらず、移植細胞に融合能を持たせ、所望の時期に細胞融合能を発揮させることにより、細胞が生着せずに免疫拒絶され、消失することを回避し、生着させることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2019/0358294号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Taimoor H. Qazi, et al., Cell therapy to improve regeneration of skeletal muscle injuries. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle. 2019;(3):501-516
【文献】Georges von Degenfeld, et al., Myoblast-mediated gene transfer for therapeutic angiogenesis and arteriogenesis, British Journal of Pharmacology (2003) 140, 620-626
【文献】T. A. Partlidge, et al., Conversion of mdx myofibres from dystrophin-negative to -positive by injection of normal myoblasts. Nature. 1989; (337): 176-179
【文献】J. P. Tremblay, et al., RESULTS OF A TRIPLE BLIND CLINICAL STUDY OF MYOBLAST TRANSPLANTATIONS WITHOUT IMMUNOSUPPRESSIVE TREATMENT IN YOUNG BOYS WITH DUCHENNE MUSCULAR DYSTROPHY. Cell Transplantation. 1933; (2): 99-112.
【文献】J. HUARD, et al., HUMAN MYOBLAST TRANSPLANTATION: PRELIMINARY RESULTS OF 4 CASES. Muscle Nerve 1992;(15):550?56
【文献】KARLIJN J. WILSCHUT, et al., Concise Review: Stem Cell Therapy for Muscular Dystrophies. STEM CELLS TRANSLATIONAL MEDICINE. 2012; (1): 833?842.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、移植細胞の融合能を促進すると移植細胞の製造において増殖が止まり、移植細胞の増殖を促進すると移植細胞の移植部位における融合が進まないという状況下で、免疫抑制剤を併用するか否かにかかわらず、移植細胞に融合能を持たせ、所望の時期に移植部位において細胞融合能を発揮させることにより、細胞が生着せずに免疫拒絶され、消失する課題に対して、長期生着させることを狙いとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、移植細胞の融合能を促進すると移植細胞の製造において増殖が止まり、移植細胞の増殖を促進すると移植細胞の移植部位における融合が進まないという課題を認識していたところ、本発明者らは、細胞間融合遺伝子の発現の開始時期を調節し、移植細胞の増殖能に影響することなく、移植細胞をex vivoで効率的に増殖させ、筋細胞とin vivoで融合させ、細胞移植後の生着を向上させることができることを見出し、かかる知見に基づき、さらに研究を重ねることで、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関するものである。
[1]細胞間融合遺伝子を外来遺伝子として含む細胞であって、細胞間融合遺伝子が細胞外因子の存在下で発現される、前記細胞。
[2]細胞間融合遺伝子の発現の開始時期が細胞の増殖能に影響を与えないように任意に調節できる、[1]に記載の細胞。
[3]細胞間融合遺伝子が、筋関連遺伝子群、受精関連遺伝子群、または、膜融合に関するウイルス関連遺伝子群である、[1]または[2]に記載の細胞。
[4]細胞間融合遺伝子が筋関連遺伝子である、[3]に記載の細胞。
[5]筋関連遺伝子がMyomaker、Myomixer、M-cadherin、CD56、Pax3、Pax7、MyoD、Myf5、Myogenin、ACTA、Myosin Heavy Chain、Desmin、Wnt、GSK3 inhibitor、Six1/4、P21、Ezh2、Notch1、PitX1、PitX2、MEF2A、MEF2B、MEF2C、IGF、TGF inhibitor、Sirt1、HDAC、Sms1、Sms2、MyD88である、[4]に記載の細胞。
[6]細胞が、筋細胞または筋様細胞である、[1]~[5]に記載の細胞。
[7]細胞が、ヒト筋細胞またはヒト筋様細胞である、[6]に記載の細胞。
[8]細胞が、薬剤をコードする遺伝子をさらに発現する、[1]~[7]に記載の細胞。
[9]細胞間融合遺伝子が細胞外因子の存在下で発現される細胞ベクターシステムが、Cre-Lox、Flp-FRT、Vika-Vox、ERT、ERT2、Destabilizing Domain (DD)、TetON、またはTetOFFである、[1]~[8]に記載の細胞。
[10][1]~[9]に記載の細胞および細胞外因子を含む、細胞移植後の生着を向上させる特性を付加した細胞医薬であって、細胞間融合遺伝子の発現が細胞医薬の製造において必要な増殖能に影響を与えないように、細胞外因子を、細胞に任意に暴露できる、前記医薬組成物。
[11]細胞間の融合を促進する方法であって、[1]~[9]に記載の細胞および細胞外因子を、融合させる細胞に暴露することを含み、細胞間融合遺伝子の発現が細胞医薬の製造において必要な増殖能に影響を与えないように、細胞外因子を、[1]~[9]に記載の細胞に暴露する、前記方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の細胞を用いることにより、免疫抑制剤を併用するか否かにかかわらず、移植細胞の増殖能に影響することなく、移植細胞をex vivoで効率的に増殖させ、筋細胞とin vivoで融合させ、細胞移植後の生着を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、本発明の細胞に導入されたプラスミドベクター(ベクター1;配列番号1)を示す。ベクター1において、細胞間融合用の骨格筋関連遺伝子(MyoDおよびMyogenin)が逆向に設計されている。2つのloxP部位は、同じDNA鎖にあり、異なる方向に位置しているので、CreによりloxP間の遺伝子は反転する。
【
図1B】
図1Bは、本発明の細胞に導入されたプラスミドベクター(ベクター2;配列番号2)を示す。ベクター2は、ベクター1の逆向を順向にスイッチさせる役割を有する。当該スイッチは、トリメトプリム(TMP)を暴露することにより機能する。
【
図1C】
図1Cは、本発明の細胞に導入されたプラスミドベクター(ベクター3;配列番号3)を示す。ベクター3は、ベクターを鋳型としてmRNAを合成し、mRNAを細胞に導入する。また、ベクター3は、ベクター1及びベクター2を細胞の核酸にインテグレーションする役割を有する。
【
図2A】
図2Aは、Flp-FRTシステムを用いた融合検出システムを示す。
【
図2B】
図2Bは、細胞ベクターのin vitro融合試験の結果を示す。
【
図3A】
図3Aは、細胞ベクターのin vivo融合試験の結果を示す(写真)。
【
図4A】
図4Aは、細胞ベクターマトリゲルプラグアッセイの結果を示す(写真)。
【
図5A】
図5Aは、細胞ベクターの薬効試験の結果(21日目および28日目)を示す。
【
図5B】
図5Bは、薬効試験の結果(血流量)を数値化したグラフである。
【
図5C】
図5Cは、薬効試験の結果(陽性細胞数)を数値化した表およびこれに対応するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、細胞間融合遺伝子を外来遺伝子として含む細胞であって、細胞間融合遺伝子が細胞外因子の存在下で発現される細胞、および、これを使用する細胞間の融合を促進する方法に関する。
【0013】
本発明の細胞(以下、移植細胞とも称する)は、細胞間融合遺伝子をコードするベクターを含む。一態様において、細胞間融合遺伝子は、移植細胞の増殖能に影響を与えないように、細胞外因子の存在下で発現される。別の様態において、細胞間融合遺伝子は、移植細胞の増殖能に影響を与えないように、細胞外因子の存在下のみで発現される。
【0014】
本発明の細胞は、ベクターによってコードされる細胞間融合遺伝子の発現の時期を調節することによって、移植細胞の細胞増殖能に影響することなく、移植細胞をex vivoで効率的に増殖させ、移植後の意図した時期に生体内の筋細胞や筋様細胞との融合が促進可能となり、生着を向上させることができる。
【0015】
本発明において、移植細胞の「増殖能に影響を与えない」または「増殖能に影響しない」とは、移植細胞が、M期の間の有糸分裂および細胞質分裂が影響されずに、効率的に増殖できることをいう。移植細胞の細胞集団には、DNAの複製を準備する期間(G1期)、DNAを複製する期間(S期)、細胞分裂準備期間(G2期)、細胞分裂期間(M期)、および、休止期(G0期)の細胞が混在するため、細胞集団中の全ての細胞において細胞分裂期間等をそろえることは困難である。
外来性遺伝子として融合能を有する遺伝子を、その発現を制御することなく細胞に導入して発現させると、この遺伝子の発現が強く影響して、遺伝子導入した移植細胞同士が生体内に移植する前に融合し、その後、増殖しなくなるという問題がある。遺伝子導入後かつ移植前の移植細胞同士の融合をできるだけ回避し、できるだけ多くの移植細胞を製造において増殖させ、かつ、生体内の体細胞と効率的に融合できるように、細胞外因子の存在下での細胞間融合遺伝子の発現の開始時期を制御することにより、移植細胞の増殖能に影響を与えないこととした。
【0016】
本発明において、細胞間融合遺伝子は、筋関連遺伝子群、受精関連遺伝子群、または、膜融合に関するウイルス関連遺伝子群である。
筋関連遺伝子群とは、筋細胞の分化・融合に関わる遺伝子を意味し、例えば、Myomaker、Myomixer、M-cadherin、CD56、Pax3、Pax7、MyoD、Myf5、Myogenin、ACTA、Myosin Heavy Chain、Desmin、Wnt、GSK3 inhibitor、Six1/4、P21、Ezh2、Notch1、PitX1、PitX2、MEF2A、MEF2B、MEF2C、IGF、TGF inhibitor、Sirt1、HDAC、Sms1、Sms2、MyD88などが挙げられる。
受精関連遺伝子群とは、CD9、Izumo1、Juno、Spaca6、TMEM95、Sof1、Fimp、Dcst1/Dsct2などの精子と卵子の融合に関わる遺伝子を意味する。
膜融合に関するウイルス関連遺伝子群とは、Hemagglutinin、Syncytin-1、Syncytin-2、Hap2/Gcs1、Arginine、Snare、Snap-25/SNAP-29、MAP-Tau、p-Tau、Tmem16f、Tubulin、Gp41、Gp120、CD4、Ccr5、Cxcr4などのウイルスと細胞の融合に関わる遺伝子を意味する。
一態様において、細胞間融合遺伝子は、骨格筋関連遺伝子のMyoDおよび/またはMyogeninである。例えば、MyoDは、NM_002478.5(MYOD1)(配列番号4)であり、Myogeninは、NM_002479.6(MYOG)(配列番号5)である。
別の態様において、細胞間融合遺伝子は、Myomakerである。Myomakerは筋芽細胞の分化過程で高発現する膜タンパク質であり、これが欠損すると筋芽細胞の融合は著しく損なわれることが知られている。Myomakerとしては、例えば、特許文献1に記載の配列番号1に示す塩基配列、および、配列番号2に示すアミノ酸配列を使用することができる。
【0017】
本発明において、移植細胞は、移植細胞が投与される対象の生体内の筋細胞または筋様細胞などの体細胞と融合できる限り限定されず、移植細胞は、筋細胞、または、筋細胞以外の体細胞のいずれであってもよい。
本発明において、筋細胞は、例えば、筋芽細胞および骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、筋様細胞である。
本発明において、筋様細胞とは、例えば、多能性幹細胞由来の筋細胞および間葉系幹細胞などの体性幹細胞由来の筋細胞である。
本発明において、筋細胞以外の細胞としては、生体内の筋細胞や筋様細胞などの体細胞と融合できる限り特に限定されないが、比較的に入手可能な、皮膚や毛髪に由来する線維芽細胞、赤血球、骨髄および脂肪由来の幹細胞などの体細胞が挙げられる。
本発明において、移植細胞は、好ましくは、ヒト由来の細胞である。
本発明において、移植細胞と融合される細胞は、移植細胞と融合できる限り特に限定されないが、筋細胞または筋様細胞などの体細胞が好ましい。
【0018】
本発明において、移植細胞は、細胞間融合遺伝子をコードする細胞ベクター以外に、同一または別の細胞ベクターが、薬剤をコードする遺伝子(以下、薬剤遺伝子とも称する)をさらにコードしてもよいし、または、細胞ベクターにはコードされずに、薬剤遺伝子を含み、これを発現してもよい。
本発明において、薬剤遺伝子は、一本鎖であっても、二本鎖であってもよい。一本鎖の薬剤遺伝子としては、例えば、mRNAやmiRNAが挙げられる。二本鎖の薬剤遺伝子としては、例えば、ウイルスベクターやプラスミドDNA、siRNAが挙げられる。
【0019】
一態様において、薬剤遺伝子は、薬剤徐放性の細胞ベクターによってコードされる。本発明において、細胞外因子への暴露により、細胞間融合遺伝子の発現が開始されるが、細胞間融合遺伝子をコードするベクターと同じベクターまたは異なるベクターにおいて、薬剤遺伝子をさらにコードしておくことにより、細胞外因子へ暴露される際、薬剤遺伝子の発現も開始させることができる。例えば、細胞外因子への暴露により、細胞間融合遺伝子の発現が開始され、続いて、または、その前に、薬剤遺伝子の発現も開始させることにより、薬剤徐放性の細胞ベクターとすることができる。
【0020】
本発明において、薬剤遺伝子は、特に限定されない。例えば、薬剤遺伝子として、細胞周期に関わる遺伝子(CDKファミリー、Cyclinファミリー、p16、p21、p27、E2Fおよびそれらの変異体など)、染色体の構造に関連する遺伝子(テロメラーゼ、TERT、ZSCAN、SV40 Large T抗原、HPV E6/E7、Ras、Rb、リコンビナーゼ、インテグラーゼ、ヌクレアーゼ、ヘリカーゼ、リガーゼ、レプリカーゼ、B-cell lymphoma 2、CRISPR Casおよびそれらの変異体などをコードする遺伝子)、リプログラミング関連遺伝子(Oct3/4、c-Myc、Klf4、Sox2、NANOG、ASCL1、PITX3、NURR1、LMX1Aおよびそれらの変異体など)、骨格筋関連遺伝子(CD56、Pax3、Pax7、Myogenin、Myf5、MyoD、Myomaker、Myomixer、Myosin Heavy Chain、Desmin、Dystrophin、Myotilin、Laminin A/C、CAV、CAPN、SGCG、TRIM32、TCAP、FKRP、EMD、PABP、DMPK、ZNF9、FCMD、POMENTI、Collagen、SEPN1、RYRI、MTM、TNNT、NEB、TPM、ACTN、GNE、DYSF、CRY AB、ACTAおよびそれらの変異体など)、成長因子(VEGF、IGF、FGF、HGF、EGF、TGF、NGF、BDNF、GDNF、BMP、PDGF、EPO、TPO、G-CSF、GM-CSFおよびそれらのファミリー並びにそれらの変異体など)に関わる遺伝子、転写因子(RUNXおよびその変異体を含むRuntドメインをはじめ、ヘリックス・ターン・ヘリックス、ヘリックス・ループ・ヘリックス、ジンクフィンガー、ロイシンジッパー、βシートモチーフおよびそれらの変異体など)に関わる遺伝子、酵素(グルコース-6-ホスファターゼ、t-PA、コラゲナーゼ、アルグルコシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グリコサミノグリカン分解酵素、β-グルクロニダーゼ、グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ、α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、α-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、リソソーム酸リパーゼ、およびその変異体など)に関わる遺伝子、膜タンパク質(ネプリライシンを含むMonotopicをはじめ、Polytopicおよびそれらの変異体など)に関わる遺伝子、キメラ抗原受容体(CARおよびその変異体など)に関わる遺伝子、抗体遺伝子(マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、由来を示すサブステムを持たない抗体などをコードする遺伝子)、血液凝固関連因子、血清タンパク質、ホルモン、ワクチン、インターフェロン類、エリスロポエチン類、サイトカイン類、毒素類、融合タンパク質などをコードする遺伝子などが挙げられる。本発明において、例えば、上記のような遺伝子を移植細胞中のベクター(すなわち、細胞ベクターシステム)に導入またはベクターには導入せずにそのまま移植細胞内に導入することにより、遺伝子が導入された移植細胞の寿命を長期化するか、または、所望する細胞への分化を促進することができる。
【0021】
本発明において、細胞に遺伝子を導入する手法としては、既知の任意の手法を利用して行うことができる。かかる手法として、例えば、リポフェクション法やポリブレン法などの生化学的手法ならびに、エレクトロポレーション法などの物理的手法、またはこれらの組み合わせによる方法などが挙げられる。
本発明において、リポフェクション法を利用する場合、遺伝子が導入される細胞は、約1,000~100,000細胞/cm2で播種される。遺伝子が導入される細胞が、ヒト体細胞である場合において、より好ましくは、細胞は、1~2x104細胞/cm2で播種され、細胞が、ヒト筋芽細胞である場合、より好ましくは、2x104細胞/cm2で播種される。
例えば、リポフェクション法を利用して細胞にプラスミドDNAやmRNA(例えば、ベクター3から合成されたmRNA)などの核酸分子を導入する場合、プラスミドDNAやmRNAは、1~100pg/細胞の量となるようにLipofectamine(Thermo Fisher Scientific)またはViaFect(Promega)またはPEI MAX(Polysciences)などのリポフェクション試薬と混合されて遺伝子が導入される細胞に添加される。好ましくは、最終的な導入効率および生存率が高いという観点から、プラスミドDNAやmRNA(例えば、ベクター3から合成されたmRNA)は、1~20pg/細胞の量となるように遺伝子が導入される細胞に添加される。
本発明において、ポリブレン法を利用する場合、遺伝子が導入される細胞は、約1,000~100,000細胞/cm2で播種される。遺伝子が導入される細胞が、ヒト体細胞である場合において、より好ましくは、細胞は、1~2x103細胞/cm2で播種され、細胞が、ヒト筋芽細胞である場合、より好ましくは、2x103細胞/cm2で播種される。
例えば、ポリブレン法を利用して細胞にウイルスベクターを導入する場合、ウイルスベクターは、0.1~100の感染多重度(multiplicity of infection; MOI)となるようにポリブレン溶液と混合されて遺伝子が導入される細胞に添加される。好ましくは、最終的な導入効率および生存率が高いという観点から、ウイルスベクターは、1~10MOIとなるように遺伝子が導入される細胞に添加される。
本発明において、エレクトロポレーション法を利用する場合、遺伝子が導入される細胞は、約1,000~1,000,000細胞/mLで調製され、電気穿孔される。遺伝子が導入される細胞が、ヒト体細胞である場合において、より好ましくは、細胞は、1~10x104細胞/mLで調整され、電気穿孔され、細胞が、ヒト筋芽細胞である場合、より好ましくは、10x104細胞/mLで調整され、電気穿孔される。
例えば、エレクトロポレーション法を利用して細胞にプラスミドDNAやmRNAなどの核酸分子を導入する場合、プラスミドDNAやmRNAは、1~100pg/細胞の量となるようにNEON Nxt Resuspension buffer(Thermo Fisher Scientific)などのエレクトロポレーション試薬と混合されて遺伝子が導入される細胞に添加される。好ましくは、最終的な導入効率および生存率が高いという観点から、プラスミドDNAやmRNA(例えば、ベクター3から合成されたmRNA)は、1~20pg/細胞の量となるように遺伝子が導入される細胞に添加される。
【0022】
本発明において、細胞間融合遺伝子が細胞外因子の存在下で発現される細胞ベクターシステムは、移植細胞の増殖能に影響しないように、細胞間融合遺伝子の発現の開始の時期を調節できる限り、特に限定されないが、例えば、Cre-Lox、Flp-FRT、Vika-Vox、ERT、ERT2、Destabilizing Domain (DD)、TetON、またはTetOFFを使用することができる。本発明の一態様において、細胞間融合遺伝子をコードするベクターは、融合された細胞のゲノムに組み込まれる。
本発明において、細胞外因子は、上記細胞ベクターシステムにおいて細胞間融合遺伝子の発現の開始時期を調節できる限り、特に限定されないが、例えば、トリメトプリム(TMP)、タモキシフェンを使用することができる。一態様において、細胞外因子は、移植細胞の投与部位に移行でき、移植細胞に暴露されたときに、細胞間融合遺伝子の発現を開始できる限り特に限定されない。
一態様において、Cre-LoxまたはFlp-FRT細胞ベクターシステムを使用し、TMPの投与時期・部位を調整することにより、細胞間融合遺伝子の発現の時期を調節することができる。別の態様において、移植細胞とTMPの投与部位を別の部位とすることにより、移植細胞中の細胞ベクターがTMPに暴露される時期を調節することができる。
本発明において、細胞間融合遺伝子の発現の終了の時期については、特に限定されない。
【0023】
本発明の医薬は、細胞移植後の生着を向上させる特性を付加した細胞医薬であり、上記の本発明の細胞、および、細胞外因子を含み、細胞間融合遺伝子の発現が細胞医薬の製造において必要な増殖能に影響を与えないように、細胞外因子を、移植細胞に暴露できることを特徴とする。
本発明の医薬において、移植細胞は、例えば、筋細胞または筋様細胞を必要とする対象に、10,000~100,000,000細胞/kg体重を投与することができる。
本発明の医薬において、細胞外因子がTMPである場合は、例えば、筋細胞または筋様細胞を必要とする対象に、1~200mg/kg体重を投与することができる。細胞外因子が、TMP以外のものである場合は、1~200mg/kg体重などを目安として、当業者は、適宜投与量を設定することができる。
本発明の医薬は、筋細胞または筋様細胞を必要とする対象、例えば、下肢虚血を有する対象に投与することができる。本発明において、対象は、ヒトまたは哺乳動物であり、ヒト対象が好ましい。
【0024】
本発明において、移植細胞と細胞外因子は、同時に投与されてもよいし、別々に投与されてもよい。本発明において、移植細胞と細胞外因子の投与部位を別々の部位とすることにより、移植細胞が細胞外因子に暴露される時期を調節することもできる。一態様において、移植細胞は、筋肉内または皮下または血管内または直接に移植部位に投与され、細胞外因子は、筋肉内または皮下または血管内または直接に移植部位または腹腔内または経口投与される。
細胞間融合遺伝子Myomakerの発現が制御されていない特許文献1とは異なり、本発明においては、MyoDおよびMyogeninなどの細胞間融合遺伝子がベクターにコードされており、かかるベクターを含む移植細胞を細胞外因子へ暴露することによって初めて、細胞間融合遺伝子の発現が開始される。したがって、移植細胞の細胞外因子への暴露による細胞間融合遺伝子の発現が開始されるまでにはある程度の時間を要し、暴露後かつ移植前に直ちに移植細胞間で融合が開始されるわけではないので、移植細胞と細胞外因子は同時に投与されてもよい。
移植細胞と細胞外因子が別々に投与される場合、投与の順序は限定されない。移植細胞は、通常、移植後約24時間にて宿主の免疫反応により消失するため、移植細胞を先に投与し、次いで細胞外因子を投与する場合には、移植細胞の投与後、少なくとも24時間以内、例えば、2~3時間などの数時間以内に細胞外因子を同一または異なる部位に投与する。また、細胞外因子を先に投与し、次いで移植細胞を投与する場合には、細胞外因子の血清中半減期までに投与する。細胞外因子としてTMPを静注で使用する場合には、その血清中半減期が約10時間であるため、移植細胞の投与後、少なくとも10時間以内、例えば9時間以内、8時間以内、7時間以内、6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、または1時間以内にTMPを投与する。また、TMPを経口投与で使用する場合には、その半減期は7時間弱であるため、移植細胞の投与後、少なくとも7時間以内、例えば6時間以内、5時間以内、4時間以内、3時間以内、2時間以内、または1時間以内にTMPを投与する。
一態様において、細胞移植後の生着は、Flp-FRTシステム下で発現するルシフェラーゼの発光強度を、イメージング装置(IVIS Imaging System)を用いて計測することにより、増加・減少を判断することができる。
【0025】
一態様において、本発明は、in vivoまたはin vitroにおいて細胞間の融合を促進する方法に関する。本発明の方法は、上記の本発明の細胞、および、細胞外因子を、融合させる細胞(筋細胞または筋様細胞などの体細胞)に暴露することを含み、細胞間融合遺伝子の発現が細胞医薬の製造において必要な増殖能に影響を与えないように、細胞外因子を、本発明の細胞に暴露することを特徴とする。
【0026】
別の態様において、本発明は、対象と移植細胞を融合させ、持続的に薬剤を徐放することで対象の血流を改善する方法に関する。本発明の方法は、上記の本発明の細胞、および、細胞外因子を、血流の改善を必要とする対象の組織の筋肉内に投与することを含み、細胞間融合遺伝子の発現が細胞医薬の製造において必要な増殖能に影響を与えないように、細胞外因子が、本発明の細胞に暴露されることを特徴とする。
本発明において、薬剤遺伝子は、血管新生因子として知られているhFGF2[NM-001361665.2](配列番号6)およびhHGF[NM_000601.6](配列番号7)を使用することができる。本発明において、血流の改善は、血流量およびCD31陽性細胞数(血管数)を測定することによって、判断することができる。
【0027】
さらに別の態様において、本発明は、in vitroにおいて細胞間の融合を促進する方法に関する。本発明の方法は、上記の本発明の細胞、および、細胞外因子をin vitroにおいて、融合させる細胞(筋細胞または筋様細胞などの体細胞)に暴露することを含み、細胞間融合遺伝子の発現が細胞医薬の製造において必要な増殖能に影響を与えないように、細胞外因子を、本発明の細胞に暴露することを特徴とする。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0029】
例1.細胞ベクターの作製
Cre-Lox細胞ベクターシステム(Vector Builder)及びφC31インテグラーゼシステム(Vector Builder)を利用し、細胞間融合遺伝子としてMyoD(配列番号4)およびMyogenin(配列番号5)を使用し、細胞外因子としてトリメトプリム(TMP)を使用し、細胞間融合遺伝子の発現の開始を調節する。2つのloxP部位は、同じDNA鎖にあり(ベクター1)、異なる方向に位置している場合、ベクター2のCreによりloxP間の遺伝子は反転する。
φC 31インテグラーゼシステムはベクター3から作られるmRNAとベクター1または2を組み合わせたものである。φC 31インテグラーゼの存在下で、ベクター1,2の「attB」配列を起点にゲノムにインテグレーションされる。
作製したベクター1~3をそれぞれ
図1A,1B,1Cに示す。これらのベクターを初代筋細胞に導入した。ベクターの導入は、リポフェクション法を使用して行い、1~20pg/細胞の量となるように細胞に添加した。
以降、3つのプラスミドを導入した初代筋細胞を、本発明の細胞ベクターと称する。
【0030】
例2.細胞ベクターのin vitro融合試験
Flp-FRTシステム(Vector Builder)を利用し、ヒト細胞ベクターとマウス細胞が融合した時のみLuciferin発光がみられる系を構築した(
図2A)。
具体的には、FRTレンチウイルスに感染したヒト細胞ベクター(FRT)と、Flpレンチウイルスに感染したC2C12(不死化マウス筋芽細胞株)(C2C12(Flp))をTMP暴露下で共培養し、細胞溶解後にLuciferinを加え、ルシフェラーゼアッセイを行った。
Luciferinの発光が確認されたため、異種融合することが示唆された(
図2B)。
【0031】
例3.細胞ベクターのin vivo融合試験
Flp-FRTシステム(Vector Builder)を利用し、細胞ベクターとマウス体細胞が融合した時のみ発光がみられる系を構築した。
C2C12(Flp)の代わりにFlp発現トランスジェニックマウス個体を用いる点を除き、例2と同じ系であり、融合によりLuciferinの発光が生じる。
本発明の細胞ベクターを使用して、マウス体細胞とin vivoにて融合させた。細胞ベクターは、マウスの左右大腿部に投与し、その翌日にTMPを同一部位に投与した。
細胞ベクターのみを移植した群(細胞ベクター移植群)では、発光が減衰したが(
図3A左欄)、細胞ベクターおよびTMPの両方を投与した群では、発光の減衰が抑制されたことから(
図3A中央欄)、TMPへの暴露により細胞間融合遺伝子の発現が開始され、マウス体細胞と融合したことが理解される。また、媒体(Phosphate buffered saline)のみを投与した群(媒体群)では、発光は見られなかった(
図3A右欄)。また、これを数値化したグラフを示す(
図3B)。
装置は、IVIS Imaging System(Revvity)を使用した。
【0032】
例4.細胞ベクターマトリゲルプラグアッセイ
マトリゲル(Corning)に本発明の細胞ベクター(ヒト細胞製品群)を混合し、NOD/SCIDマウス(チャールズ・リバー株式会社)に投与後7日でゲルを取り出して評価した(
図4A)。投与箇所は、マウスの背部皮下とした(
図4B右)。
本発明の細胞ベクター(ヒト細胞製品群)は、bFGF(フィブラストスプレー)(科研製薬株式会社)群およびヒト間葉系幹細胞(MSC)群よりも、誘導された血管面積が有意に高かった(
図4A,B)。媒体は、マトリゲルのみを使用した。
【0033】
例5.細胞ベクターの薬効試験
マウスの片側大腿部の動静脈を摘出することにより、下肢虚血モデルを作製した。次いで、虚血肢の筋肉内に被験物質を投与した。また、ヒト細胞ベクターから細胞間融合遺伝子の発現を開始させるために、同日投与の被験物質の投与の2~3時間前に、TMPを腹腔内投与した。
その結果、ヒト細胞ベクター群(「被験製品」)は、血流改善に優れ(
図5A右欄、
図5B)、血管数は、他の群と比較して有意に多かった(
図5A右欄、
図5C)。
【要約】
【課題】本発明は、移植細胞の融合能を促進すると移植細胞の製造において増殖が止まり、移植細胞の増殖を促進すると移植細胞の移植部位における融合が進まないという状況下で、免疫抑制剤を併用するか否かにかかわらず、移植細胞に融合能を持たせ、所望の時期に移植部位において細胞融合能を発揮させることにより、細胞が生着せずに免疫拒絶され、消失する課題に対して、長期生着させることを狙いとする。
【解決手段】本発明は、細胞間融合遺伝子を外来遺伝子として含む細胞であって、細胞間融合遺伝子が細胞外因子の存在下で発現される、前記細胞を提供する。
【選択図】
図3A
【配列表】