(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-22
(45)【発行日】2025-09-01
(54)【発明の名称】蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20250825BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20250825BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20250825BHJP
H01M 50/463 20210101ALI20250825BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20250825BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20250825BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20250825BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20250825BHJP
H01G 11/10 20130101ALI20250825BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20250825BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/04 Z
H01M50/489
H01M50/463 B
H01M50/434
H01M50/446
H01M50/426
H01M50/443 M
H01G11/10
H01G11/84
(21)【出願番号】P 2021105574
(22)【出願日】2021-06-25
【審査請求日】2024-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勇一
(72)【発明者】
【氏名】中野 広幸
(72)【発明者】
【氏名】水谷 守
(72)【発明者】
【氏名】瀬上 正晴
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-026990(JP,A)
【文献】特開2020-123543(JP,A)
【文献】特開2012-089444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/04
H01M 50/489
H01M 50/463
H01M 50/434
H01M 50/446
H01M 50/426
H01M 50/443
H01G 11/10
H01G 11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を含む壁部と壁部に囲まれて形成された空間である複数のセルとを有する電極構造体と、
対極活物質を含み前記セルに充填された対極と、
イオン伝導性及び絶縁性を有し前記壁部の表面に形成され前記電極構造体と前記対極とを分離し粒子を70体積%以上96体積%以下の範囲で含み、その厚さtが
20μm<t<70μmの範囲である分離膜と
、を備え
、
前記壁部の中央で仕切ったユニットに内接する内接円の半径rと前記分離膜の厚さtとの比r/tが2.4以上5以下であり、
エネルギー密度が300W/L以上500W/L以下の範囲である、蓄電デバイス。
【請求項2】
前記電極構造体は、断面が六角形に形成された前記セルを有する、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記分離膜は、(1)~(3)のうち1以上を満たす、請求項1
又は2に記載の蓄電デバイス。
(1)前記分離膜は、前記粒子として酸化アルミニウムを含む。
(2)前記分離膜は、ポリフッ化ビニリデン及びフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体のうちいずれかの樹脂を含む。
(3)前記分離膜は、平均粒径が0.4μm以上4μm以下の範囲の前記粒子を含む。
【請求項4】
電極活物質を含む壁部と壁部に囲まれて形成された空間である複数のセルとを有する電極構造体の前記壁部に、イオン伝導性及び絶縁性を有し粒子を70体積%以上96体積%以下の範囲で含む分離膜を厚さtが
20μm<t<70μmの範囲で形成する分離膜形成工程と、
前記分離膜が形成されたセル内部に対極活物質を含む対極合材を充填し対極を形成する対極形成工程と
、を含み、
前記壁部の中央で仕切ったユニットに内接する内接円の半径rと前記分離膜の厚さtとの比r/tが2.4以上5以下であり、
エネルギー密度が300W/L以上500W/L以下の範囲である、蓄電デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記分離膜形成工程では、断面が六角形に形成された前記セルを有する前記電極構造体を用いる、請求項
4に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記分離膜は、(1)~(3)のうち1以上を満たす、請求項4又は5に記載の蓄電デバイスの製造方法。
(1)前記分離膜は、前記粒子として酸化アルミニウムを含む。
(2)前記分離膜は、ポリフッ化ビニリデン及びフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体のうちいずれかの樹脂を含む。
(3)前記分離膜は、平均粒径が0.4μm以上4μm以下の範囲の前記粒子を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、例えば、第1電極と、第1電極と電気的に接続し第1活物質と支持塩とを含み流動可能な第1活物質流体と、第2活物質を含んで形成され第1活物質流体に浸漬されるか第1活物質流体を収容する構造体を含み、第1活物質流体と構造体との間にイオン伝導性及び絶縁性を有する分離膜が形成されている第2電極とを備えているものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この蓄電デバイスでは、電池特性をより向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の蓄電デバイスでは、電池特性をより向上することができるが、まだ十分ではなく、例えば、抵抗や単位体積あたりのエネルギー密度などをより向上することが求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、壁部に囲まれて形成された空間である複数のセルを有する電極構造体を用いた蓄電デバイスにおいて、電池特性をより向上することができる新規な蓄電デバイス及び蓄電デバイスの製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、複数のセルを有する電極構造体において、粒子を含む分離膜を用いると、電池特性をより向上することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する蓄電デバイスは、
電極活物質を含む壁部と壁部に囲まれて形成された空間である複数のセルとを有する電極構造体と、
対極活物質を含み前記セルに充填された対極と、
イオン伝導性及び絶縁性を有し前記壁部の表面に形成され前記電極構造体と前記対極とを分離し粒子を70体積%以上96体積%以下の範囲で含み、その厚さtが10μm<t<70μmの範囲である分離膜と、
を備えたものである。
【0008】
本明細書で開示する蓄電デバイスの製造方法は、
電極活物質を含む壁部と壁部に囲まれて形成された空間である複数のセルとを有する電極構造体の前記壁部に、イオン伝導性及び絶縁性を有し粒子を70体積%以上96体積%以下の範囲で含む分離膜を厚さtが10μm<t<70μmの範囲で形成する分離膜形成工程と、
前記分離膜が形成されたセル内部に対極活物質を含む対極合材を充填し対極を形成する対極形成工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示では、電池特性をより向上する新規な蓄電デバイス及びその製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、球状粒子の最密構造における空間充填率は、六方最密充填構造および面心立方最密充填構造で74体積%であり、残りの26体積%は空隙である。この空隙を利用して樹脂を充填して分離膜とすることができる。また、分離膜が粒子を含んで構成されると、分離膜を有孔化することができ、例えば、電解液を微細な空隙に浸み込ませることによって、イオン伝導度をより向上することができるものと推察される。このため、分離膜に粒子を所定量加えることによって、抵抗をより低減するなど、電池特性をより向上することができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】小区画空間14の形状と内接円径rの一例を示す説明図。
【
図4】小区画空間14の中心からの距離と抵抗値との関係図。
【
図8】比r/tと、
図7のエネルギー密度の増加の傾きとの関係図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本実施形態で開示する蓄電デバイスについて図面を用いて説明する。
図1は、蓄電デバイス10の一例を示す模式図である。
図2は、小区画空間14の形状と内接円径rの一例を示す説明図であり、
図2Aが六角形であり、
図2Bが矩形であり、
図2Cが三角形である小区画空間14の説明図である。蓄電デバイス10は、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、アルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池などとしてもよい。蓄電デバイス10のキャリアイオンは、リチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオンやマグネシウムイオンやストロンチウムイオン、カルシウムイオンなどの第2族イオンなどが挙げられる。この蓄電デバイス10は、電極構造体11と、分離膜17と、対極19と、電池ケース30とを備えている。この蓄電デバイス10において、負極16は電極活物質を含む電極構造体11及び電極集電体15により構成されており、正極18は対極活物質を含む対極19、対極集電体21及び集電端子22により構成されている。なお、蓄電デバイス10において、負極を対極19とし、正極を電極構造体11としてもよい。また、蓄電デバイス10は、電極構造体11、分離膜17及び正極18のうち1以上に電解液を含むものとしてもよい。また、電極構造体11及び対極19には、集電線などの集電部材が埋設されているものとしてもよいし、この集電部材を備えないものとしてもよい。ここでは、説明の便宜のため、電極構造体11が負極活物質を含む負極であり、対極19が正極活物質を含む正極であり、リチウムイオンをキャリアとするリチウムイオン二次電池を蓄電デバイス10の主たる一例として以下説明する。
【0012】
負極16は、電極構造体11と、電極集電体15とにより構成されている。電極構造体11は、電極活物質を含む壁部12と壁部12に囲まれて形成された空間である複数の小区画空間14(セル)とを有する構造体である。電極構造体11において、小区画空間14は、その端部に底部13が形成されている有底孔である。電極構造体11は、電極活物質を含んで形成された導電性を有する部材である。電極構造体11は、小区画空間14に対極19が収容されている。この電極構造体11は、小区画空間14に対極19が充填された構造を有するものとしてもよい。この電極構造体11は、底部13を有する有底孔である小区画空間14が形成されているが、この底部13には、対極19の充填に用いる充填孔が形成されているものとしてもよい。この充填孔は、小区画空間14に対極19が充填されたのち塞がれるものとしてもよい。なお、小区画空間14の端部には底部13が形成されているものとしたが、負極16と正極18との短絡防止が確保されれば、底部13を有しなくてもよい。
【0013】
この電極構造体11において、長手方向に直交する小区画空間14の形状は、壁部12との体積比率を好適にする形状が好ましく、例えば、断面が多角形状であることが好ましく、六角形、矩形、八角形及び三角形などが挙げられ、このうち六角形であるハニカム構造体がより好ましい。ここで、小区画空間14の断面形状について説明する。同じ面積で最も周が短い図形は円である。一方、電極構造体11に断面を円とする小区画空間14を複数配列させると、壁部12が歪な形になることから、円形の断面を有する小区画空間14を配列することは妥当でない。平面充填可能な図形は、
図2に示すように、三角形、四角形、六角形などが挙げられるが、最も周が短いのは正六角形である。小区画空間14の断面形状を六角形とすると、最も周が短いことから、隔壁部分の面積(体積)を最も少なくすることができ、単位体積あたりのエネルギー密度を最も高く設計することが可能となる。また、六角形は円に近いことから、面積が同じでも内部の中心から外周点までの距離が最も短くなり、かつ外周までの距離も平均化できるため、リチウムの反応速度、すなわちレート性を向上できるとともに、反応不均一を軽減することも可能となる。このため、小区画空間14の断面形状は、六角形が最も好ましい。この小区画空間14の開口の一辺の長さAは、例えば、40μm以上500μm以下の範囲であることが好ましく、50μm以上250μm以下の範囲であることがより好ましい。また、壁部12の厚さBは、例えば、5μm以上200μm以下の範囲であることが好ましく、7μm以上70μm以下の範囲であることがより好ましい。このような範囲では、電極活物質と対極活物質とのバランスが好適である。小区画空間14の長手方向の長さLは、蓄電デバイス10の電池容量など、電池設計に応じて適宜定めるものとすればよい。
【0014】
この電極構造体11は、電極活物質を含んで形成されているが、電極活物質が導電性を有さない場合は、例えば炭素材料などの導電性を有する導電材と混合して成形したものとしてもよい。この電極構造体11は、例えば、電極活物質と、必要に応じて導電材と、結着材とを混合し成形したものとしてもよい。電極活物質としては、例えば、キャリアであるリチウムを吸蔵放出可能な材料が挙げられる。電極活物質は、例えば、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。導電材の平均粒径は、例えば、0.02μm以上0.2μm以下の範囲であることが好ましく、0.05μm以上0.1μm以下の範囲であることがより好ましい。このような範囲では、流動性がよい。結着材は、電極活物質粒子や導電材粒子を繋ぎ止めて所定の形状を保つ役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。
【0015】
電極構造体11において、電極活物質の含有量は、より多いことが好ましく、電極構造体11の全体に対して70質量%以上99質量%以下の範囲であることが好ましく、75質量%以上98質量%以下の範囲であることがより好ましく、80質量%以上95質量%以下の範囲であることが更に好ましい。また、導電材の含有量は、電極構造体11の全体に対して0質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下の範囲であることがより好ましい。また、結着材の含有量は、電極構造体11の全体に対して0質量%以上5質量%以下の範囲であることが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下の範囲であることがより好ましい。
【0016】
電極集電体15は、導電性を有する材質で形成されている。この電極集電体15は、例えば、カーボンペーパー、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、白金、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化(還元)性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀、白金、金などで処理したものも用いることができる。電極集電体15の形状については、例えば、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。電極集電体15の厚さTは、例えば100μm~1cmとしてもよい。
【0017】
正極18は、対極19と、対極集電体21と、集電端子22とにより構成されている。対極19は、対極活物質を含み小区画空間14に充填されている。この対極19は、例えば、対極活物質を含み、必要に応じて導電材や結着材を含む対極合材からなるものとしてもよい。また対極19は、対極活物質が固体活物質であり固形であるものとしてもよいし、対極活物質と電解液とを含む流動性のあるスラリーであるものとしてもよい。対極活物質は、例えば、リチウムと遷移金属とを有する化合物、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物などが挙げられる。具体的には、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoaNibMncO2(a>0、b>0、c>0、a+b+c=1)などとするリチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。また、基本組成式をLiFePO4とするリン酸鉄リチウム化合物などを正極活物質として用いることができる。これらのうち、リチウムコバルトニッケルマンガン複合酸化物、例えば、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2やLiNi0.4Co0.3Mn0.3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素、例えば、AlやMgなどの成分を含んでもよい趣旨である。対極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上50μm以下の範囲であることが好ましく、1μm以上20μm以下の範囲であることがより好ましい。このような範囲では充填性がよい。
【0018】
対極19に含まれる導電材や結着材は、負極16で説明したものを適宜用いることができる。対極活物質の含有量は、より多いことが好ましく、対極19の全体に対して70質量%以上98質量%以下の範囲であることが好ましく、80質量%以上95質量%以下の範囲であることがより好ましい。このような範囲では、電池容量を好適なものとすることができる。導電材の添加量は、対極19の全体に対して2質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下の範囲であることがより好ましい。このような範囲では、電池容量の低下を抑制し、導電性を十分に付与することができる。ここで、活物質などの粉体の平均粒径は、粉体を電子顕微鏡(SEM)観察し、この観察画像に含まれる粉体粒子の直径を測定して平均した値とする。
【0019】
対極集電体21は、導電性を有する材質で形成されている。対極集電体21は、上述した電極集電体15で挙げられた材質や形状を有するものを適宜利用することができる。対極集電体21の厚さT’も電極集電体15の厚さTと同様の範囲とすることができる。対極集電体21には、小区画空間14の開口に挿入される集電端子22がその下面側に配設されている。この集電端子22は、導電性を有する材質であればよく、対極集電体21と同じ材質としてもよいし、対極集電体21と異なる材質としてもよい。集電端子22の長さは、対極19の導電性などに応じて適宜設定することができる。また、対極19の導電性が十分である場合は、集電端子22を省略してもよい。
【0020】
分離膜17は、キャリアであるイオン(例えばリチウムイオン)のイオン伝導性及び絶縁性を有し、電極構造体11と対極19とを絶縁分離するものである。分離膜17は、対極19と対向する小区画空間14の壁部12の表面全体に形成されており、負極16と正極18との短絡を防止している。分離膜17は、イオン伝導性と絶縁性とを有する膜体31と、導電性を有さない(絶縁性を有する)粒子32とを含む。膜体31は、例えば、樹脂としてもよい。この分離膜17の樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)や、PVdFとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びPMMAとアクリルポリマーとの共重合体などが挙げられる。例えば、PVdFとHFPとの共重合体では、電解液の一部がこの膜を膨潤ゲル化し、イオン伝導膜となる。この分離膜17の厚さtは、例えば、10μmを超えることが好ましく、12μm以上であることがより好ましく、15μm以上が更に好ましく、20μm以上としてもよい。また、この厚さtは、70μm未満であることが好ましく、65μm以下がより好ましく、60μm以下が更に好ましく、50μm以下としてもよい。厚さtは、より厚く、10μmを超えると、絶縁性を確保する上で好ましい。また、分離膜17の厚さtは、70μm未満では、イオン伝導性の低下を抑制できる点や、セルに占める体積をより低減する上で好ましい。厚さtが20~50μmの範囲では、イオン伝導性及び絶縁性が好適である。
【0021】
粒子32は、分離膜17の内部で骨格を形成するものである。この粒子32は、絶縁性を有するものとすれば特に限定されず、無機粒子としてもよいし、有機粒子としてもよい。無機粒子としては、例えば、セラミック粒子などが挙げられる。この粒子32は、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、炭化ケイ素、窒化ケイ素などのうち1以上が挙げられる。このうち、アルミナ、シリカ、チタニア及びベーマイトが好ましく、アルミナがより好ましい。この粒子32は、平均粒径が0.4μm以上4μm以下の範囲であることが好ましく、0.44μm以上3.5μm以下の範囲であることがより好ましい。この平均粒径は、より小さいことが、イオン伝導度をより向上することができ好ましく、1μm以下が更に好ましい。この平均粒径は、走査型電子顕微鏡により撮像した画像を用いて、各粒子の最長長さを求め、これを平均した値として求めることができる。この粒子32は、膜体31との全体のうち、70体積%以上の範囲で含むものとする。粒子32の含有量が70体積%以上では、イオン伝導度の低下を抑制しつつ、膜厚増加をより抑制することができる。粒子32の含有量は、75体積%以上がより好ましく、80体積%以上が更に好ましい。また、粒子32の含有量は、96体積%以下であるものとしてもよく、95体積%以下が好ましく、90体積%以下が更に好ましい。この含有量の上限値は、最終的には電池性能との兼ね合いで決定されるが、96体積%以下であれば、膜体31によって壁部12に結着することができる。また、粒子32は、膜体31との全体のうち、85質量%以上の範囲で含むものとし、87.5質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。また、粒子32の含有量は、98質量%以下であるものとしてもよく、97.5質量%以下が好ましく、95質量%以下が更に好ましい。
【0022】
蓄電デバイス10は、負極16、分離膜17及び正極18のいずれか1以上に電解液を含むものとしてもよい。電解液は、例えば、支持塩を含むものとしてもよい。電解液の溶媒は、例えば、非水電解液の溶媒などが挙げられる。この溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。
【0023】
電解液に含まれる支持塩は、例えば、蓄電デバイス10のキャリアであるイオンを含む。この支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。
【0024】
この蓄電デバイス10において、
図2に示すように、壁部12の中央で仕切ったユニットUに内接する内接円Rの半径rと分離膜17の厚さtとの比r/tは、10以下であるものとしてもよく、7.5以下がより好ましく、5以下であることが更に好ましい。比r/tは、より小さい方が抵抗をより低減する傾向を示し好ましい。また、比r/tは、エネルギー密度の観点からは、より大きい方が好ましく、2以上であることが好ましく、2.4以上であることがより好ましく、3以上であることが更に好ましい。この比r/tは、2.4以上5以下の範囲では、エネルギー密度と抵抗とをより最適化でき、好ましい。比r/tは、より小さいほど小区画空間14の断面形状の効果がより高くなると推察される。例えば、小区画空間14の断面形状を六角形とし、比r/tを2.4以上5以下の範囲とすることが、エネルギー密度の増加効果をより高める観点から、より好ましい。また、内接円Rの半径rの範囲は、例えば、比r/tの範囲と厚さtの範囲から適宜好適な値を求めるものとしてもよい。
【0025】
電池ケース30は、第1電極14、電極構造体11などを収容する部材である。この電池ケース30は、第1電極14と第2電極18とが短絡せず、電極構造体11などを保護できる強度を有するものとすればどのような材質を採用してもよいが、例えば、絶縁性の樹脂などとしてもよい。蓄電デバイス10の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。
【0026】
(蓄電デバイスの製造方法)
次に、蓄電デバイス10の製造方法について説明する。この製造方法は、分離膜形成工程と、対極形成工程とを含むものとしてもよい。また、この製造方法は、対極形成工程のあとに、電極構造体11を電池ケース30へ収容する収容工程や、電極集電体15や対極集電体21を接続する集電体接続工程を含むものとしてもよい。また、この製造方法は、分離膜形成工程の前に、電極構造体11を成形する成形工程を有するものとしてもよい。なお、この製造方法において、上述した蓄電デバイス10の材質、形状、サイズ及び含有量などを適宜採用するものとして、その詳細な説明を省略する。
【0027】
分離膜形成工程では、電極活物質を含む壁部12と壁部12に囲まれて形成された空間である複数の小区画空間14(セル)とを有する電極構造体11の壁部12に、イオン伝導性及び絶縁性を有し粒子32を70体積%以上96体積%以下の範囲で含む分離膜17を形成する。この工程では、壁部12の中央で仕切ったユニットUに内接する内接円Rの半径rと、分離膜17の厚さtとの比r/tが所定範囲である電極構造体11を用いる。比r/tは、例えば、上述したように、2以上10以下の範囲で任意に設定することができ、5以下がより好ましい。また、この工程では、長手方向に直交する小区画空間14の断面が多角形である電極構造体11を用いるものとしてもよい。この電極構造体11は、断面が六角形に形成された小区画空間14を有することがより好ましい。分離膜17の形成方法は、例えば、膜体31の原料と粒子32とを含む原料溶液を用い、小区画空間14にこの原料溶液を流し込んだのち、余剰分を除去して形成するものとしてもよいし、この原料溶液へ電極構造体11を浸漬させてその表面にコートすることにより形成するものとしてもよい。原料溶液の溶媒は、例えば、膜体31の原料である樹脂を溶解することができるものが好ましく、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)などが挙げられる。粒子32は、絶縁性を有するものとし、例えば、セラミック粒子が好ましく、アルミナ粒子が好ましい。粒子32の配合量は、分離膜17の全体に対して70体積%以上96体積%以下の範囲とし、75体積%以上95体積%以下としてもよい。また、粒子32の配合量は、分離膜17の全体に対して85質量%以上98質量%以下の範囲とし、90質量%以上95質量%以下としてもよい。分離膜17を形成する厚さtは、例えば、10μmを超え、70μm未満の範囲とすることができ、15μm以上60μm以下の範囲が好ましく、20μm以上50μm以下の範囲としてもよい。
【0028】
対極形成工程では、分離膜17が形成された電極構造体11の小区画空間14(セル)内部に対極活物質を含む対極合材を充填し対極19を形成する処理を行う。対極合材は、例えば、対極活物質と、必要に応じて導電材や結着材を加え、溶媒で流動性を付与した対極合材ペーストやスラリーを用いることができる。この工程では、対極合材を小区画空間14の内部に入れたのち、溶媒を除去して固形状の対極19としてもよいし、溶媒を残して流動性を有する対極19としてもよい。このようにして、蓄電デバイス10を作製することができる。
【0029】
以上詳述した蓄電デバイス10及びその製造方法では、電池特性をより向上する新規な蓄電デバイス及びその製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、球状粒子の最密構造における空間充填率は、六方最密充填構造および面心立方最密充填構造で74体積%であり、残りの26体積%は空隙である。この空隙を利用して樹脂を充填して分離膜17とすることができる。また、分離膜が粒子を含んで構成されると、分離膜を有孔化することができ、例えば、電解液を微細な空隙に浸み込ませることによって、イオン伝導度をより向上することができる。また、分離膜17が粒子32を含んで構成されると、粒子32の界面でイオンの伝導が促進される、いわゆるSoggy-Sand効果により、イオン伝導度が向上するものと推察される。このため、分離膜17に粒子32を所定量加えることによって、抵抗をより低減するなど、電池特性をより向上することができるものと推察される。また、粒子32を85質量%以上含む分離膜17では、例えば、電解液の含浸時に粒子間の空隙内の膜体31は膨潤するが、分離膜17の体積増加には影響しにくい。このため、電極構造体11の構造変化が起こりにくく、耐久性をより向上することができる。
【0030】
また、小区画空間14の断面形状が六角形であり、周が短いことから、分離膜17の面積(体積)を最も少なくすることができるため、エネルギー密度をより高く設計することができる。また、蓄電デバイス10では、対極活物質と電極活物質とが至近距離にあるため、電極の膜厚方向の塩濃度のムラが少なく、急速充電することができる。また、蓄電デバイス10では、できるだけ多くの活物質を電池反応に寄与することができるため、電池容量をより高めることができる。
【0031】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0032】
例えば、上述した実施形態では、対極をリチウムイオンを吸蔵放出することができる対極活物質を有するリチウムイオン二次電池として説明したが、特にこれに限定されず、ハイブリッドキャパシタなどの他の蓄電デバイスとしてもよい。対極活物質は、キャリアイオンを吸着、脱離する炭素材料としてもよい。炭素材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、このような対極19では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着、脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入、脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0033】
上述した実施形態では、電極構造体11を負極とし、対極19を正極としたが、特にこれに限定されず、対極19を負極とし、電極構造体11を正極としてもよい。また、上述した実施形態では、蓄電デバイス10のキャリアをリチウムイオンとしたが、特にこれに限定されず、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのアルカリイオン、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの2族元素イオンとしてもよい。また、電解液を非水系電解液としたが、水溶液系電解液としてもよい。
【実施例】
【0034】
以下には、上述した蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例7、15、18が比較例であり、実験例1~6、8~14、16、17が本開示の実施例である。まず、はじめに、分離膜について参考例として検討した。
【0035】
(参考例1~5の分離膜)
セラミック粒子を含み、イオン伝導性及び絶縁性を有する自立した樹脂膜(分離膜)を作製した。N-メチルピロリドン(NMP)に、セラミック粒子としての平均粒径0.44μmのアルミナ粉末(Al2O3,住友化学製)を混合し、30分間の超音波処理を行い分散液を得た。この分散液に、ポリフッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP)を混合し、1晩以上撹拌し、PVdF-HFPを分散液に溶解した。このとき、アルミナとPVdF-HFPの全体に対して、87質量%、90質量%、93質量%、70質量%及び78質量%となるように、アルミナの量を調整したものをそれぞれ参考例1~5の分離膜とした。なお、参考例1~5のアルミナ添加量(体積%)は、75体積%、80体積%、85体積%、50体積%及び60体積%に相当する。
【0036】
(分離膜の評価)
分離膜のイオン導電率、膜厚増加率の評価法は以下の通りである。上述したセラミック粒子-PVdF-HFPスラリーをポリテトラフルオロエチレン製シャーレに所定量秤量し、NMPを蒸発させることで、厚さ100μmの分離膜を得た。この膜を非水電解液に2日間以上浸漬した。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で30/40/30で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度で溶解させたものを用いた。浸漬前後の膜厚を比較し、膜厚増加率(%)を算出した。また、浸漬後の分離膜を2枚のNi電極で挟んだ測定セルを作製し、交流インピーダンス法によって、分離膜の伝導度を評価した。上記作製した測定セルに対し、ACインピーダンスアナライザー(Agilent4294A)を用い、開回路電圧で振幅±500mV、周波数領域を1Hz~100kHz、測定温度を25℃で測定し、集電体間の抵抗からイオン伝導度(mS/cm)を算出した。
【0037】
(結果と考察)
表1に、参考例1~5のセラミック粒子の種別、粒径(μm)、添加割合(質量%)、分離膜の伝導度(mS/cm)、膜厚増加率(%)をまとめて示した。表1に示すように、アルミナ割合が70体積%以上の参考例1~3では、膜厚増加率が1%と低く、イオン伝導度も高かった。一方で、アルミナ割合が70体積%より低い参考例4、5では、膜厚増加率が5%以上と大きく、イオン伝導度も低かった。このように、アルミナの添加割合が最密充填体積である70体積%以上において、アルミナ粒子間に高分子が含有されるため、電解液の含浸性に優れ、樹脂が非水系電解液で膨潤しても、膜厚増加率が抑えられ、電池性能も向上したものと推測される。また、ナノ~サブミクロン径の粒子表面でカチオン伝導が促進される、いわゆるSoggy-Sand効果により、Liイオン伝導度が向上したものと推測された。このような作用は、上記メカニズムにより発現していると考えられるので、粒子の大きさおよび樹脂の種類によらず効果が発現すると推測された。
【0038】
【0039】
(蓄電デバイスの作製)
図1に示した、電極構造体と対極と分離膜とを有する蓄電デバイスを作製した。電極構造体は、電極活物質と結着材とを含み、それぞれ質量比で98.5:1.5で混合した合材を、複数の内部空間としてのセルを形成するハニカム形状の型から押し出すことによって成型し、熱処理(焼成・乾燥)することによって電極構造体を構成した。電極活物質は、黒鉛とし、結着材をカルボキシメチルセルロース(CMC)とした。また、セルは、軸方向に直交する断面の形状を正六角形、正方形(矩形)及び正三角形のいずれかとした。得られた電極構造体の密度は、1.3g/cm
3であった。分離膜は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF:クレハ製#8500)にアルミナ粒子(平均粒径0.44μm)を90質量%含有した構造を有しており、上記電極構造体の表面に、10~70μmの厚さで形成した。この分離膜は、PVdFとアルミナ粒子とを混合して、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解、分散した液を、ディッピングもしくはスプレーすることにより、電極構造体のセル内壁表面に塗布、乾燥(溶媒除去)することにより形成した。対極は、対極活物質としてのLiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、結着材としてのPVdFとからなり、対極活物質と導電材と結着材とを質量比で92:6:2となるように混合し、NMPを溶媒として対極合材のスラリーを作製し、電極構造体に形成されたセル(空間)の内部にこのスラリーを充填し、溶媒除去(乾燥)を行った。対極合材の合材密度は、2.5g/cm
3であった。電解液には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で1:1:1で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1Mの濃度で溶解させたものを用いた。上記の分離膜を形成し対極合材を充填させた電極構造体を電池用ケースに収納して、電解液を必要量注液した。これにより、電極構造体、分離膜、対極合材の空隙に電解液が浸漬した。
図2に示した各電極構造体において、「単位ユニット」は、隔壁の中央にラインを設けて区切られた多角形の領域をユニットとし、その内接円の半径rを43~185μmとした。なお、各ユニット中の電極構造体と対極合材層の体積(断面の面積)は同じになるように設計した。上記電極構造体(負極)、対極の構成、及び密度より、その容量比(負極容量/正極容量)を1.1とした。
【0040】
(実験例1~6)
セル(小区画空間)の形状を正六角形、単位内接円径rを54μm、壁部の厚さBを11.6μm、分離膜の厚さtを20μm、分離膜をPVdFにアルミナ粒子を90質量%加えたものとして作製した蓄電デバイスを実験例1とした。単位内接円径rを70μm、壁部の厚さBを21μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例2とした。単位内接円径rを100μm、壁部の厚さBを38.6μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例3とした。単位内接円径rを70μm、壁部の厚さBを11μm、分離膜の厚さtを30μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例4とした。単位内接円径rを120μm、壁部の厚さBを20.3μm、分離膜の厚さtを50μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例5とした。単位内接円径rを185μm、壁部の厚さBを58.4μm、分離膜の厚さtを50μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例6とした。
【0041】
(実験例7)
分離膜をPVdFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体の無孔膜とした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例7とした。
【0042】
(実験例8~11)
小区画空間の形状を正方形、単位内接円径rを50μm、壁部の厚さBを9.3μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例8とした。小区画空間の形状を正三角形、単位内接円径rを44μm、壁部の厚さBを5.8μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例9とした。小区画空間の形状を正方形、単位内接円径rを93μm、壁部の厚さBを34.5μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例10とした。小区画空間の形状を正三角形、単位内接円径rを82μm、壁部の厚さBを28μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例11とした。
【0043】
(実験例12~18)
単位内接円径rを150μm、壁部の厚さBを9.3μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例12とした。小区画空間の形状を正方形、単位内接円径rを140μm、壁部の厚さBを62μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例13とした。小区画空間の形状を正三角形、単位内接円径rを123μm、壁部の厚さBを52.1μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例14とした。単位内接円径rを43μm、壁部の厚さBを15.2μm、分離膜の厚さtを10μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例15とした。小区画空間の形状を正方形、単位内接円径rを112μm、壁部の厚さBを15.6μm、分離膜の厚さtを50μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例16とした。小区画空間の形状を正三角形、単位内接円径rを98μm、壁部の厚さBを7.4μm、分離膜の厚さtを50μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例17とした。単位内接円径rを140μm、壁部の厚さBを12μm、分離膜の厚さtを70μmとした以外は実験例1と同様に作製した蓄電デバイスを実験例18とした。
【0044】
(エネルギー密度及び抵抗測定)
作製した蓄電デバイスのエネルギー密度及び1kHz抵抗を測定した。エネルギー密度は、電流密度0.8mA/cm2、電位窓3.0~4.1Vの条件にて充放電を3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量を測定し、単電池の体積あたりの体積エネルギー密度(Wh/L)として算出した。抵抗は、単電池を残容量SOC50%の状態まで充電したのち、1kHz抵抗を測定器(日置電機社製3555 BATTERY HITESTER)を用いて測定した。
【0045】
(結果と考察)
表1に、各実験例の小区画空間(セル)の形状、単位内接円径r(μm)、壁部厚さB(μm)、分離膜の種類、分離膜の厚さt(μm)、比r/t(-)、単位体積あたりのエネルギー密度(Wh/L)、単電池(セル)の抵抗値(規格値)の結果をまとめた。抵抗値は、実験例7の値を100として各実験例の値を規格化した。
図3は、各実験例の抵抗値を示す測定結果であり、
図3Aが実験例1、8、9の測定結果、
図3Bが実験例3、10、11の測定結果、
図3Cが実験例5、16、17の測定結果、
図3Dが実験例12~14の測定結果である。
図4は、小区画空間14の中心からの距離と抵抗値との関係図である。
図5は、比r/tと抵抗値との関係図である。
図6は、各実験例のエネルギー密度を示す測定結果であり、
図6Aが実験例1、8、9の測定結果、
図6Bが実験例3、10、11の測定結果、
図6Cが実験例5、16、17の測定結果、
図6Dが実験例12~14の測定結果である。
【0046】
(分離膜の影響の考察)
実験例1は、実験例7のセルよりも低いセル抵抗値を示すことがわかった。この理由は、例えば、実験例7の分離膜は「無孔」であるが、アルミナ粒子を多量に添加した分離膜を用いることによって、その分離膜に形成された空隙に電解液を浸み込ませることができ、イオン導電性が向上して、導電率を高めることができるものと推察された。実験例1では、実験例7に比して約3倍の抵抗低下効果を得られることがわかった。また、実験例7の20μmの無孔膜に対して、アルミナ含有分離膜では、70μm未満であれは、より低い抵抗値を得ることが可能であった。一方、実験例15に示すように、対極スラリーを充填する際に、分離膜が薄いと微粉末が微細孔を透過して短絡することもあり、分離膜の厚さtとしては、10(μm)<t<70μmの範囲が、より有効であることがわかった。
【0047】
(小区画空間の形状の考察)
小区画空間の形状が六角形である実験例1と、矩形である実験例8、三角形である実験例9を比較すると、表1及び
図3Aに示すように、実験例1がより低い抵抗値を示すことがわかった。また、
図3Bに示すように、実験例3は、実験例10,11よりもより低い抵抗値を示すことがわかった。また、また、
図3Cに示すように、実験例5は、実験例16,17よりもより低い抵抗値を示すことがわかった。
図4には、小区画空間の断面の形状の中心と外周との距離のうち最大値を横軸とし、抵抗値を縦軸とし、分離膜の膜厚ごとにプロットした図である。
図4に示すように、中心と外周との距離及び抵抗値の両者は、形状によらず、各分離膜の厚さ毎に、一義的に対応していることがわかった。この理由は、六角形のハニカム形状は、最も円形に近いため、距離が短くとれるため、ユニット面積(体積)が同じでも抵抗が低くできるためであると推察された。
【0048】
また、小区画空間の形状が六角形である実験例1と、矩形である実験例8、三角形である実験例9を比較すると、表1及び
図5Aに示すように、実験例1がより高いエネルギー密度を示すことがわかった。これは、平面充填可能な、三角形、四角形、六角形のうち、径にたいして最も周が短いのは正六角形であることから、隔壁部分の面積(体積)を最も少なくすることができるため、原理的にもエネルギー密度を最も高く構成することが可能であると推察された。また、
図5Bに示すように、実験例3が、実験例10,11よりも体積エネルギー密度を高く実現できているのも、同様の理由であると推察された。また、また、
図5Cに示すように、実験例5が、実験例16,17よりも体積エネルギー密度を高く実現できているのも、同様の理由であると推察された。
【0049】
(分離膜厚さ t と内接円径rとの比r/tの考察)
上述したように、六角形の方が、矩形、三角形より、エネルギー密度を高めることができる。ただし、内接円半径rと分離膜の厚さtとの比(r/t)が大きくなるにつれて、その効果(差)は小さくなる。
図3D及び
図5Dに示すように、実験例12~14にて効果は認められるものの、その差が顕著でないのは、その理由であると推察された。
図6に示すように、比r/tと抵抗値との関係をプロットした結果では、セル体積が一定条件である、各単位ユニット(1)~(4)にて、抵抗低減の効果が傾向付けられることがわかった。また、
図7に示すように、比r/tとエネルギー密度との関係から、比r/t値が大きいほどエネルギー密度は大きくなる関係が一義的に得られた。ただし、r/tが大きくなるにつれて、エネルギー密度の増加の割合は徐々に小さくなることがわかった。
図8は、比r/tと、
図7のエネルギー密度の増加の傾きとの関係を示した図である。
図8に示すように、エネルギー密度の増加割合を考慮すると、比r/tが5以下において、より高い向上効果が得られることがわかった。このように、形状を六角形とする形状効果をより有効に活用しようとした場合、r/t≦5の範囲が特に推奨されるものと推察された。
【0050】
【符号の説明】
【0051】
10 蓄電デバイス、11 電極構造体、12 壁部、13 底部、14 小区画空間(セル)、15 電極集電体、16 負極、17、分離膜、18 対極、19 対極合材、21 対極集電体、22 集電端子、30 電池ケース、31 膜体、32 粒子、A 開口長さ、B 壁部厚さ、L 長さ、R 内接円、r 半径、t,T,T’ 厚さ、U ユニット。