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特許7731871電動自転車用の電池パックとこの電池パックを備える電動自転車
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  • 特許-電動自転車用の電池パックとこの電池パックを備える電動自転車 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-22
(45)【発行日】2025-09-01
(54)【発明の名称】電動自転車用の電池パックとこの電池パックを備える電動自転車
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20250825BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20250825BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20250825BHJP
   B60L 53/80 20190101ALI20250825BHJP
   B60L 58/15 20190101ALI20250825BHJP
【FI】
H02J7/00 P
H02J7/00 S
H01M10/48 P
H01M10/44 Q
B60L53/80
B60L58/15
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022512011
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012180
(87)【国際公開番号】W WO2021200441
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2020061486
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝下 真吾
(72)【発明者】
【氏名】荒井 英剛
(72)【発明者】
【氏名】西川 透
(72)【発明者】
【氏名】前川 和也
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 大樹
【審査官】村上 優斗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199661(WO,A1)
【文献】特開2008-108567(JP,A)
【文献】特開2015-144538(JP,A)
【文献】特開平09-050826(JP,A)
【文献】特開2017-046400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/12
7/34-7/36
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電できる電池と、
前記電池と直列に接続してなる並列ダイオードを有する充電FETと、
前記充電FETをオンオフに制御する制御回路と、
を備える電動自転車用の電池パックであって、
前記制御回路が、
自転車セット状態と充電器接続状態とを判別する判別回路と、
電池の満充電電圧に加えて、
満充電電圧よりも低く設定してなる閾値電圧とを記憶している記憶部とを備え、
前記制御回路は、
前記判別回路が自転車セット状態を検出する状態では、
電池電圧が閾値電圧よりも高い状態では前記充電FETをオフ状態とし、
電池電圧が閾値電圧よりも低い状態では前記充電FETをオン状態とし、
前記判別回路が充電器接続状態を検出する状態では、
充電器で充電してなる電池電圧が満充電電圧よりも高くなることを検出して、
前記充電FETをオフ状態に切り換えて電池の充電を終了する、
ことを特徴とする電動自転車用の電池パック。
【請求項2】
充電できる電池と、
前記電池と直列に接続してなる並列ダイオードを有する充電FETと、
前記充電FETをオンオフに制御する制御回路と、
を備える電動自転車用の電池パックであって、
前記制御回路が、
自転車セット状態と充電器接続状態とを判別する判別回路と、
電池の満充電電圧と、負荷電流の閾値電流とを記憶している記憶部とを備え、
前記制御回路は、
前記判別回路が自転車セット状態を検出する状態では、
負荷電流が閾値電流よりも小さい状態では前記充電FETをオフ状態とし、
負荷電流が閾値電流よりも大きい状態では前記充電FETをオン状態とし、
前記判別回路が充電器接続状態を検出する状態では、
充電器で充電してなる電池電圧が満充電電圧よりも高くなることを検出して、
前記充電FETをオフ状態に切り換えて電池の充電を終了する、
ことを特徴とする電動自転車用の電池パック。
【請求項3】
請求項1または2に記載する電動自転車用の電池パックであって、
前記制御回路が、
前記電池電圧をデジタル信号に変換するA/Dコンバータを備え、
前記A/Dコンバータで変換されたデジタル信号を演算して、
前記電池電圧を演算することを特徴とする電動自転車用の電池パック。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか一項に記載する電動自転車用の電池パックであって、
前記充電FETが、
並列ダイオードを寄生ダイオードとするMOSFETであることを特徴とする電動自転車用の電池パック。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の電池パックであって、
充電できる前記電池がリチウムイオン電池であることを特徴とする電動自転車用の電池パック。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれか一項に記載する電池パックと、
前記電池パックに制御コンバータを介して接続してなり、
自転車の回生制動時に電池パックに充電電流を流す走行モータと、
を備えることを特徴とする電動自転車。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか一項に記載する電池パックと、
前記電池パックに制御コンバータを介して接続してなる走行モータと、
前記走行モータの起電力で前記電池パックを充電する回生制動発電機構と、
を備えることを特徴とする電動自転車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動自転車の走行モータに電力を供給する電池パックと、この電池パックを備える電動自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪を駆動する走行モータを備える電動自転車は、電池から走行モータに電力を供給して楽に走行できる。このような電動自転車として、制動時に回生制動して電池パックを充電する回路を備える電動自転車が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載される電動自転車は、回生制動で違和感なく自転車を減速するために、電池を充電余地を確保して充電している。充電余地を残して充電された電池は、満充電されるまで回生制動して充電できるので、たとえば長い下り坂をスムーズに回生制動して走行できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-103871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電池を充電余地を残して充電する方式は、満充電されないことで電池の走行距離を短縮する欠点がある。さらに自転車は種々の走行状態で使用されるので、走行モータから電池を充電する電流が大幅に変動して、瞬間的に大電流で充電されることがある。電池が大電流で充電されると電圧が急激に上昇して電池に種々の弊害を与える問題が発生する。
【0006】
本発明は、さらに以上の欠点を解消することを目的に開発されたもので、本発明の目的の一は、走行モータからの充電電流による電圧の上昇を制限して、電圧上昇に起因する電池の劣化を防止し、さらに十分な安全性を確保できる電動自転車用の電池パックとこの電池パックを備える電動自転車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る電池パックは、充電できる電池と、電池と直列に接続している並列ダイオードを有する充電FETと、充電FETをオンオフに制御する制御回路とを備える。制御回路は、判別回路と記憶部とを備え、判別回路は自転車セット状態と充電器接続状態とを判別し、記憶部は電池の満充電電圧を記憶している。この制御回路は、電池パックが自転車にセットされて判別回路が自転車セット状態を検出する状態では、充電FETをオフ状態として、走行モータの起電力で電池が充電されるのを禁止し、電池パックが充電器に接続されて判別回路が充電器接続状態を検出する状態では、充電器で充電される電池電圧が満充電電圧を超えると充電FETをオフ状態として充電を停止する。
【0008】
第2の発明に係る電池パックは、充電できる電池と、電池と直列に接続している並列ダイオードを有する充電FETと、充電FETをオンオフに制御する制御回路とを備える。制御回路は、判別回路と記憶部を備え、判別回路は電池パックが自転車にセットされた自転車セット状態と、電池パックが充電器に接続された充電器接続状態とを判別し、記憶部は、電池の満充電電圧と満充電電圧よりも低く設定している閾値電圧とを記憶している。この制御回路は、判別回路が自転車セット状態を検出する状態では、電池電圧が閾値電圧よりも高い状態では充電FETをオフ状態として、走行モータの起電力で充電されて満充電電圧よりも高電圧になるのを阻止する。電池電圧が閾値電圧より低い状態では、走行モータの起電力で充電されて電池電圧が満充電電圧を超えるのを防止できるので、充電FETをオン状態として充電電流を許容する。判別回路は、電池パックが充電器に接続される状態では、充電器接続状態を検出して、充電される電池の電圧が満充電電圧を超えるとオフ状態に切り換えて電池の充電を停止する。
【0009】
第3の発明に係る電池パックは、充電できる電池と、電池と直列に接続している並列ダイオードを有する充電FETと、充電FETをオンオフに制御する制御回路とを備える。制御回路は、判別回路と記憶部を備え、判別回路は電池パックが自転車にセットされた自転車セット状態と、電池パックが充電器に接続された充電器接続状態とを判別し、記憶部は、電池の満充電電圧と、電池から自転車に供給する負荷電流の閾値電流とを記憶している。この制御回路は、判別回路が自転車セット状態を検出する状態では、負荷電流が閾値電流よりも小さい状態は充電FETをオフ状態として、走行モータの起電力で充電されて満充電電圧よりも高電圧になるのを阻止する。負荷電流が閾値電流よりも大きい状態では、電池パックは放電状態であって、走行モータの起電力で電池が充電されて電圧が満充電電圧を超えるのを防止できるので、充電FETをオン状態として、電池はFETを介して走行モータに電流を供給する。充電FETは、オフ状態においても並列ダイオードを介して走行モータに電流を供給できるが、並列ダイオードの電圧降下は大きく、大電流が流れる状態で電力損失が大きくなる。制御回路は、電池から走行モータに供給する負荷電流が閾値電流を超えると、充電FETをオン状態として、低抵抗な充電FETを介して電池から自転車に負荷電流を供給する。電池から負荷の走行モータに大電流が供給される状態では、充電FETは並列ダイオードに比較してオン状態の内部抵抗が小さく、大電流が流れる状態で電圧降下が小さく、電池から走行モータに大電流を供給して電力損失を小さくできる。判別回路は、電池パックが充電器に接続される状態では、充電器接続状態を検出して、充電される電池の電圧が満充電電圧を超えるとオフ状態に切り換えて電池の充電を停止する。
【0010】
本発明のある態様に係る電動自転車は、以上のいずれかの電池パックと、電池パックに制御コンバータを介して接続してなり、自転車の回生制動時に電池パックに充電電流を流す走行モータとを備えている。
【0011】
本発明の他の態様に係る電動自転車は、以上のいずれかの電池パックと、電池パックに制御コンバータを介して接続してなる走行モータと、走行モータの起電力で電池パックを充電する回生制動発電機構と備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電動自転車用の電池パックは、走行モータからの充電電流による電圧の上昇を制限して、電圧上昇に起因する電池の劣化を防止し、さらに十分な安全性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る電動自転車用の電池パックのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は、以下の構成によって特定されてもよい。
本発明の第1の実施態様にかかる電動自転車用の電池パックは、充電できる電池と、電池と直列に接続してなる並列ダイオードを有する充電FETと、充電FETをオンオフに制御する制御回路とを備えている。制御回路は、自転車セット状態と充電器接続状態とを判別する判別回路と、電池の満充電電圧を記憶してなる記憶部とを備えている。制御回路は、判別回路が自転車セット状態を検出する状態では、充電FETをオフ状態とし、判別回路が充電器接続状態を検出する状態では、充電器で充電してなる電池電圧が満充電電圧よりも高くなることを検出して、充電FETをオフ状態に切り換えて電池の充電を終了する。
【0015】
以上の電動自転車用の電池パックは、自転車にセットされる自転車セット状態では充電FETをオフ状態とする。充電FETは、寄生ダイオードなどの並列ダイオードを接続しているので、オフ状態においても電池から走行モータに電力を供給する。この電池パックは、自転車にセットする状態で、走行モータに電力を供給できる状態としながら、走行モータの起電力で電池が充電されるのは禁止する。電池パックは、自転車にセットされて、走行モータの起電力で充電されて、電池の電圧が満充電電圧を超えると電池の劣化が促進されて、安全性が低下する。自転車にセットされる状態で、充電FETをオフ状態とする電池パックは、自転車にセットされる状態では走行モータの起電力による充電が禁止される。したがって、自転車にセットされて走行モータの起電力による電池の劣化を防止して、安全性を確保できる。
【0016】
本発明の第2の実施態様にかかる電動自転車用の電池パックは、充電できる電池と、電池と直列に接続してなる並列ダイオードを有する充電FETと、充電FETをオンオフに制御する制御回路とを備えている。制御回路は、自転車セット状態と充電器接続状態とを判別する判別回路と、電池の満充電電圧に加えて、満充電電圧よりも低く設定してなる閾値電圧とを記憶している記憶部とを備えている。制御回路は、判別回路が自転車セット状態を検出する状態では、電池電圧が閾値電圧よりも高い状態では充電FETをオフ状態とし、閾値電圧より低い状態では充電FETをオン状態とし、判別回路が充電器接続状態を検出する状態では、充電器で充電してなる電池電圧が満充電電圧よりも高くなることを検出して、充電FETをオフ状態に切り換えて電池の充電を終了する。
【0017】
以上の電動自転車用の電池パックは、自転車にセットされる自転車セット状態では、電池の電圧が、満充電電圧よりも低い電圧にあらかじめ設定している閾値電圧よりも高い状態では充電FETをオフ状態として、走行モータの起電力による充電を禁止する。したがって、電池の電圧が低い状態では、走行モータの起電力で充電されるが、この状態で電池の電圧が満充電電圧を超えることがなく、電池の劣化を防止し、かつ安全性を確保できる。電池電圧が閾値電圧より低い状態では充電FETをオン状態として、走行モータの起電力による充電を許容するが、閾値電圧は起電力で充電されて満充電電圧を超えない電圧に設定できるので、電池の電圧が閾値電圧よりも低い状態で、走行モータの起電力が電池を充電しても、電池の電圧が満充電電圧を超えることがなく、電池の劣化と安全性は確保される。
【0018】
本発明の第3の実施態様にかかる電動自転車用の電池パックは、充電できる電池と、電池と直列に接続してなる並列ダイオードを有する充電FETと、充電FETをオンオフに制御する制御回路とを備えている。制御回路は、自転車セット状態と充電器接続状態とを判別する判別回路と、電池の満充電電圧と、負荷電流の閾値電流とを記憶している記憶部とを備えている。制御回路は、判別回路が自転車セット状態を検出する状態では、負荷電流が閾値電流よりも小さい状態で充電FETをオフ状態とし、負荷電流が閾値電流よりも大きい状態では充電FETをオン状態とし、判別回路が充電器接続状態を検出する状態では、充電器で充電してなる電池電圧が満充電電圧よりも高くなることを検出して、充電FETをオフ状態に切り換えて電池の充電を終了する。
【0019】
以上の電動自転車用の電池パックは、自転車にセットされる自転車セット状態では、負荷電流が閾値電流よりも小さい状態で充電FETはオフ状態に制御されるが、負荷電流が閾値電流よりも大きい状態で充電FETはオン状態に制御される。充電FETは並列ダイオードを接続しているので、オフ状態においては、並列ダイオードを介して電池から走行モータに電力が供給される。充電FETのオフ状態で並列ダイオードから走行モータに電力を供給する状態では、並列ダイオードの電圧降下が発生する。並列ダイオードの電圧降下は、FETのオン状態における電圧降下よりも大きく、一般的なダイオードの電圧降下は約0.6V程度となる。これに対してオン状態のFETの内部抵抗は数mΩと極めて小さく、電流が流れて発生する電圧降下は並列ダイオードよりも小さい。電圧降下の大きい並列ダイオードは、電力損失が電流に比例して大きくなるので、電池から走行モータに大電流が供給される状態で、オフ状態の充電FETの電力損失は大きくなる。以上の電池パックは、負荷電流が閾値電流よりも大きい状態では、充電FETをオン状態とするので、電池から走行モータに大電流が供給される状態で、充電FETの電力損失を小さくできる。
【0020】
本発明の第4の実施態様にかかる電動自転車用の電池パックは、制御回路が、電池電圧をデジタル信号に変換するA/Dコンバータを備え、A/Dコンバータで変換されたデジタル信号を演算して、電池電圧を演算している。
【0021】
本発明の第5の実施態様にかかる電動自転車用の電池パックは、充電FETが、並列ダイオードを寄生ダイオードとするMOSFETである。
【0022】
本発明の第6の実施態様にかかる電動自転車用の電池パックは、充電できる電池を、リチウムイオン電池としている。
【0023】
本発明の第7の実施態様にかかる電動自転車は、以上のいずれかに記載する電池パックと、電池パックに制御コンバータを介して接続してなる走行モータと、走行モータの起電力で電池パックを充電する回生制動充電機構とを備えている。
【0024】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0025】
(実施の形態1)
図1のブロック図に示す電動自転車用の電池パック100は、充電できる電池1と、電池1と直列に接続している並列ダイオード7を有する充電FET3と、充電FET3をオンオフに制御する制御回路2とを備えている。図のブロック図は、電池パック100が接続される自転車20と、電池パック100を充電する充電器30も一緒に示している。電池パック100は、自転車20にセットされる状態では、自転車20を走行させる走行モータ21に電力を供給し、充電器30に接続される状態では、自転車20から外して充電器30に接続される。電池パック100は、自転車20にセットされる状態では、走行モータ21に電力を供給して自転車20に駆動力を与える。
【0026】
図1の電池パック100は、充電FET3に加えて、電池1の放電をコントロールする放電FET4も備えている。充電FET3と放電FET4は制御回路2でオンオフに制御される。制御回路2は、判別回路5と記憶部6とを備える。判別回路5は、電池パック100が自転車20にセットされた自転車セット状態と、充電器30に接続された充電器接続状態とを判別する。記憶部6は、例えば半導体メモリで、充電して電圧が上昇する電池1が満充電となったことを検出して充電を停止する満充電電圧を記憶している。
【0027】
充電FET3と放電FET4は、並列ダイオード7として寄生ダイオードが接続されるMOSFETである。ただ、充電FET3と放電FET4は、寄生ダイオードのないFETと並列に別部品の大電流ダイオードを接続し、あるいは寄生ダイオードと並列に大電流のダイオードを接続することもできる。電池1から走行モータ21に大電流を供給できるように、大電流特性の優れたダイオードが使用される。とくに、電圧降下の小さいダイオードが適している。ただ、電池1から走行モータ21に大電流を供給する状態で、充電FET3をオン状態としてFETから走行モータ21に大電流を供給する電池パックにおいては、大電流をFETから走行モータに供給するので、並列ダイオード7には必ずしも大電流特性が要求されない。図1に示す電池パック100は、充電FET3と放電FET4に、いずれもNチャンネルのFETを使用している。ただ、充電FETと放電FETには、PチャンネルのFETを使用してもよい。
【0028】
図1のブロック図に示す判別回路5は、接続端子12を介して自転車20に接続される。自転車側の接続端子22は、抵抗器23を介してアースライン24に接続している。電池パック100は、接続端子12をプルアップ抵抗13を介して電源14に接続しており、判別回路5が、接続端子12の電圧を検出して、自転車セット状態と充電器接続状態とを判別する。判別回路5は、電池パック100が自転車20に接続される状態では、接続端子12の電圧がプルアップ抵抗13と自転車側の抵抗器23とで分圧される電源電圧よりも低い電圧となり、充電器30に接続される状態では接続端子12がアースライン24に接続されない状態となるので、接続端子12の電圧が電源電圧となる。したがって、この判別回路5は、接続端子12の電圧が電源電圧よりも低い状態を自転車セット状態、電源電圧では充電器接続状態と判定する。
【0029】
電池パック100は、自転車20にセットされる状態で、たとえば回生制動などの状態では、走行モータ21が発電機となって電池パック100を充電することがある。電池パック100は、充電されて電圧が上昇するので、走行モータ21の起電力で充電されると電圧が上昇する。電池パック100の電圧上昇は、設定値よりも高くなると電気特性を低下し、さらに安全性を低下させる原因となる。たとえば、軽くてコンパクトで充放電容量を大きくできることから、電池パック100にはリチウムイオン電池が好んで使用される。リチウムイオン電池は、最大電圧を4.1V~4.2Vに設定して充電されるが、最大電圧を超えて充電されると、電気特性と安全性の両方が低下する。
【0030】
図1の電池パック100の制御回路2は、判別回路5が自転車セット状態を検出する状態においては、充電FET3をオフ状態として、走行モータ21からの起電力で電池1が充電されるのを禁止する。この電池パック100は、自転車20にセットされる状態で、走行モータ21の起電力が電池1を充電するのを、オフ状態の充電FET3が禁止するので、自転車20の走行モータ21からの起電力では充電されず、この状態で電池パック100の電圧が上昇することはなく、電源電圧が上昇して電池1が劣化し、あるいは電池1の安全性が低下する弊害を防止する。放電FET4は電池1から走行モータ21に電力を供給するスイッチング素子であるから、このスイッチング素子がオフ状態になると、FETを介して電池1から走行モータ21に電力を供給できない。電池パック100は、自転車20にセットされる状態で、電池1から走行モータ21に電力を供給することを必須の要件とする。以上の電池パック100は、充電FET3のオフ状態では、並列ダイオード7を介して電池1から走行モータ21に電力を供給する。並列ダイオード7は、FETの順方向と逆向きに電流を流すように接続されて、FETのオフ状態で電池1から走行モータ21に電流を供給する。したがって、図1の電池パック100は、自転車20にセットされる状態で、電池1から走行モータ21に電力を供給しながら、走行モータ21の起電力で電池1が充電するのを禁止して、電池1の劣化を防止して、安全性を確保する。
【0031】
制御回路2は、電池パック100が自転車20にセットされる状態では常に充電FET3をオフ状態とすることもできるが、電池電圧で充電FET3をオンオフに切り換えて、電池1の異常な電圧上昇による劣化と安全性の低下を防止しながら、電池1から走行モータ21に大電流を供給して電力損失を小さくすることもできる。この電池パック100は、制御回路2の記憶部6に、満充電電圧よりも低く設定している閾値電圧を記憶している。閾値電圧は、制御回路2が充電FET3をオフ状態に切り換える時間遅れのタイミングを考慮して設定される。
【0032】
制御回路2は、電池1の電圧を満充電電圧よりも低い電圧に設定している閾値電圧に比較して、電池1の電圧が閾値電圧を超えると充電FET3をオフ状態に切り換えるので、原理的には電池電圧が閾値電圧を超えることはない。ただ、制御回路2は電池電圧を検出し、検出電圧が閾値電圧よりも高いかどうかを判定し、検出電圧が閾値電圧よりも高いと判定すると充電FET3をオフ状態に切り換えるので、電池1の電圧が閾値電圧を超えてから、充電FET3をオフ状態に切り換えるまでに時間遅れが発生する。とくに、検出する電池電圧のアナログ信号をA/Dコンバータがデジタル信号に変換し、変換されたデジタル信号を演算処理して、電池電圧が閾値電圧を超えたかどうかを判定して、充電FET3をオフ状態に切り換えるまでにはタイムラグができる。さらに、電池パック100は、雑音などでの誤差を少なくして高精度に電池電圧を検出するために、A/Dコンバータが所定のサンプリング周期で変換する複数のデジタル信号を平均して電池電圧を演算するので、電池電圧の検出にタイムラグが発生する。閾値電圧は、電池電圧を検出して充電FET3をオフ状態に切り換えまでのタイムラグの間に、走行モータ21で電池1が充電されて閾値電圧を超えないように、例えば、電池1の満充電電圧よりも0.1V~0.3V低い電圧に設定される。
【0033】
記憶部6に閾値電圧を記憶している制御回路2は、電池パック100が自転車20にセットされた状態で、常に充電FET3をオフ状態としない。この制御回路2は、判別回路5が自転車セット状態を検出する状態では、電池電圧が閾値電圧よりも高い状態では充電FET3をオフ状態とするが、電池電圧が閾値電圧より低い状態ではオン状態とする。オン状態の充電FET3は、並列ダイオード7を介することなく、オン状態のFETを介して電池1から走行モータ21に電力を供給する。並列ダイオード7の電圧降下は大きいが、オン状態のFETのオン抵抗はmΩオーダーと極めて小さく、電池1から走行モータ21に大電流を供給しても、充電FET3の電力損失は極めて小さい。このため、電池パック100から走行モータ21に大電流を供給する状態においても、充電FET3の電力損失を小さくして、電池1から効率よく走行モータ21に電力を供給でき、さらに、充電FET3のジュール熱による発熱量を小さくして充電FET3の温度上昇も少なくできる。
【0034】
さらに、充電FET3は、満充電電圧よりも低い電圧に設定している閾値電圧よりも電池電圧が低い状態に限ってオン状態に切り換えるので、充電FET3がオン状態で走行モータ21の起電力が電池1を充電して電池電圧が上昇しても、制御回路2が電池電圧の上昇を検出して、充電FET3をオフ状態に切り換えるまでのタイムラグの時間内において、電池電圧が満充電電圧まで上昇することがなく、電池電圧が満充電電圧を超えて劣化し、安全性が低下する弊害も防止できる。
【0035】
以上の制御回路2は、電池電圧が閾値電圧よりも低い状態で充電FET3をオン状態に切り換えるが、制御回路2は、電池1から走行モータ21に供給する負荷電流が閾値電流を超える状態に限って充電FET3をオン状態に切り換えることもできる。この制御回路2は、記憶部6に、負荷電流の閾値電流を記憶し、判別回路5が自転車セット状態を検出する状態で、負荷電流が閾値電流よりも小さい状態では充電FET3をオフ状態とし、負荷電流が閾値電流よりも大きい状態では充電FET3をオン状態に切り換える。この電池パック100は、電池1から自転車20に供給する負荷電流が閾値電流よりも小さい状態では、充電FET3をオン状態に切り換えず、閾値電流よりも大きな負荷電流が電池1から自転車20に供給される状態に限って充電FET3をオン状態に切り換えるので、電池1の電圧が満充電電圧を超えるのを確実に防止しながら、充電FET3の電力損失を小さくして、電池1から効率よく走行モータ21に電力を供給できる。負荷電流が閾値電流を超える状態は、電池1から走行モータ21に電力を供給する放電状態であって、回生制動により電池1が充電されることはない。したがって、この状態で充電FET3をオン状態に切り換えても、走行モータ21の起電力で電池1が充電されて電池電圧が満充電電圧を超えることはなく、電池1の安全性は確保される。また、負荷電流が閾値電流よりも大きい状態で充電FET3をオン状態とすることで、電池1から走行モータ21に大電流が供給される状態における充電FET3の電力損失を小さくできると共に、並列ダイオードに大電流が流れるのを防止して充電FET3を保護できる。
【0036】
電池パック100は、自転車20から外されて充電器30に接続される状態では、判別回路5が充電器接続状態を検出し、充電器30で充電される電池電圧が満充電電圧よりも低い状態では充電FET3をオン状態として電池1を充電し、充電される電池1の電圧が満充電電圧よりも高くなることを検出すると、充電FET3をオフ状態に切り換えて電池1の充電を終了する。
【0037】
以上の電池パック100は、自転車20にセットされて、自転車20に搭載された走行モータ21に電力を供給する電源として使用される。図1に示す電動自転車200は、電池パック100と、この電池パック100と走行モータ21との間に接続している制御コンバータ25とを備える。制御コンバータ25は、電池パック100から走行モータ21に供給する電力をコントロールする。
【0038】
走行モータ21は、電池パック100から供給される電力で車輪(図示せず)を駆動する。走行モータ21は、制御コンバータ25を介して電池パック100に接続されており、電池パック100から供給される電力が制御コンバータ25に制御されて、車輪の回転トルクが調整される。制御コンバータ25は、自転車の速度とユーザーによるペダルの回転トルクをパラメータとして、走行モータ21への供給電力を調整する。制御コンバータ25は、例えば、走行モータ21が車輪を回転するトルクと、ペダルの回転トルクとが所定の比率となるように、走行モータ21の供給電力をコントロールする。
【0039】
走行モータ21で回生制動する自転車20は、走行モータ21の発電電力で電池パック100を充電して制動するので、回生制動時に電池パック100に充電電流が流れる。充電電流は、電池パック100の電池1に弊害を与える原因となるので、電池パック100は自転車の回生制動による充電電流を制限する回路を内蔵している。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、電動自転車の走行モータに電力を供給する電池パックとして、とくに、制動時に回生制動して電池パックを充電する機構を備える電動自転車に好適に使用される。
【符号の説明】
【0041】
100…電池パック
200…電動自転車
1…電池
2…制御回路
3…充電FET
4…放電FET
5…判別回路
6…記憶部
7…並列ダイオード
12…接続端子
13…プルアップ抵抗
14…電源
20…自転車
21…走行モータ
22…接続端子
23…抵抗器
24…アースライン
25…制御コンバータ
30…充電器
図1