(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-22
(45)【発行日】2025-09-01
(54)【発明の名称】動圧軸受、流体動圧軸受装置、及びモータ
(51)【国際特許分類】
F16C 17/02 20060101AFI20250825BHJP
H02K 5/167 20060101ALI20250825BHJP
【FI】
F16C17/02 A
H02K5/167 A
(21)【出願番号】P 2024001200
(22)【出願日】2024-01-09
【審査請求日】2025-05-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山郷 正志
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/047938(WO,A1)
【文献】特開2013-029123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/18
F16C 17/26
F16C 33/00-33/10
H02K 5/167
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材の外径面と対向する軸受内径面を有し、前記軸受内径面に動圧発生部を備えた動
圧軸受であって、
前記動圧発生部はヘリングボーン形状に配列された複数の動圧溝を有し、前記動圧溝は、第1・第2動圧溝群が設けられるとともに、第1・第2動圧溝群の動圧溝間には、それぞれ、傾斜状の傾斜丘部が形成され、かつ、第1動圧溝群と第2動圧溝群との間に各傾斜丘部と連結されて周方向に延びる環状丘部が設けられ、前記環状丘部の一部に、動圧を発生させるための凹部を形成したことを特徴とする動圧軸受。
【請求項2】
前記凹部の円周方向幅を、
合流部の円周方向幅よりも小さくし、かつ、第1・第2動圧溝群の動圧溝の数を同一とするとともに、第1動圧群の傾斜丘部と環状丘部との合流部と、第2動圧群の傾斜丘部と環状丘部との合流部とが一致し、全合流部に前記凹部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の動圧軸受。
【請求項3】
軸受内径面に、軸方向に離間した上下反転形状の一対の動圧発生部が形成されていることを特徴とする請求項1の記載の動圧軸受。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の動圧軸受と、前記動圧軸受の内周に挿入された軸部材と、前記動圧軸受の内周面と前記軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間の潤滑流体の動圧作用で前記軸部材の相対回転を支持するラジアル軸受部とを備えたことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項5】
請求項4に記載の流体動圧軸受装置と、前記軸部材又は前記動圧軸受と一体に回転するロータと、前記ロータを回転駆動する駆動部とを備え、前記ロータが
インペラを有することを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動圧軸受、流体動圧軸受装置、及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、軸部材の外周面と軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間の流体膜(例えば油膜)に生じる圧力により、軸部材を相対回転自在に非接触支持するものである。動圧軸受装置は、その高回転精度および静粛性から、情報機器(例えば、HDD等の磁気ディスク駆動装置、CD-ROM、CD-R/RW、DVD-ROM/RAM、ブルーレイディスク等の光ディスク駆動装置、MD、MO等の光磁気ディスク駆動装置)のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイール、あるいは電気機器の冷却ファン等に使用されるファンモータなどの小型モータ用として好適に使用される。
【0003】
ノートパソコンやタブレット型端末等の携帯情報機器(いわゆるモバイル機器)は薄型化に対する要求が強い。また、近年では、5G(ファイブジー)に対応するための情報機器の高機能化が進み、回路からの発熱量が増加するため、冷却性能に対する要求も高まっているため、回転軸に取り付けられるインペラは大きくなる傾向にある。このため、ファンモータの回転軸を支持する動圧軸受装置に加わる負荷が大きくなる。ここで、5G(ファイブジー)とは、「第5世代移動通信システム」であり、主な特徴は「高速大容量」、「多数同時接続」、「超低遅延」の3つが挙げられる。
【0004】
薄型ファンモータに対応した動圧軸受として、従来には、特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1に記載の動圧軸受は、軸方向寸法を拡大することなく、モーメント荷重に対する軸受剛性を高め、軸の振れ回りを抑制しようとするものである。この場合、溝(動圧溝)仕様の異なる動圧発生部を軸方向に2列配置するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、動圧軸受を用いるモータでは、構成するロータの重心位置などによって、溝仕様を変更する必要があり、汎用性に劣り、コスト高となる場合がる。さらに、この場合、上下の溝仕様が異なるため、モータ仕様は同じで回転方向のみ異なるモータがある場合、上下反転させても対応することができない。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、軸方向寸法を拡大することなく、かつ、汎用性を損なうことなく、負荷容量を向上させることが可能な動圧軸受、流体動圧軸受装置、及びモータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の動圧軸受は、軸部材の外径面と対向する軸受内径面を有し、前記軸受内径面に動圧発生部を備えた動圧軸受であって、前記動圧発生部はヘリングボーン形状に配列された複数の動圧溝を有し、前記動圧溝は、軸方向に沿って離間した第1・第2動圧溝群が設けられるとともに、第1・第2動圧溝群の動圧溝間には、それぞれ、傾斜状の傾斜丘部が形成され、かつ、第1動圧溝群と第2動圧溝群との間に各傾斜丘部と連結されて周方向に延びる環状丘部が設けられ、前記環状丘部の一部に、動圧を発生させるための凹部を形成したものである。
【0009】
本発明の動圧軸受によれば、各動圧溝群における傾斜溝(動圧溝)と環状丘部との間には段差部が形成され、この段差で圧力(動圧)が発生し、環状丘部の凹部により、凹部における回転方向下流側で圧力(動圧)が発生する。すなわち、環状丘部にくさび効果により圧力を発生させるための凹部を設けることになり、負荷容量が向上する。
【0010】
前記動圧を発生させるための凹部を、前記環状丘部と前記傾斜丘部との合流部に設けると共に、前記凹部の円周方向幅を、前記合流部の円周方向幅よりも小さくし、かつ、第1・第2動圧溝群の動圧溝の数を同一とするとともに、第1動圧群の傾斜丘部と環状丘部との合流部と、第2動圧群の傾斜丘部と環状丘部との合流部とが一致し、全合流部に前記凹部が設けられているのが好ましい。
【0011】
環状丘部と前記傾斜丘部との全合流部に凹部が設けられることより、負荷容量をより増加させることができ、さらには、凹部の円周方向幅を、前記合流部の円周方向幅よりも小さくすることによって、凹部を環状丘部および傾斜丘部の輪郭に接しない寸法内で大きめに設定することができ、負荷容量をより増加させることができる。
【0012】
軸受内径面に、軸方向に離間した上下反転形状の一対の動圧発生部が形成されているものであってもよい。このように構成することによって、モータ仕様が同じで回転方向のみ異なるモータに対して、上下反転させることにより対応できる。
【0013】
本発明にかかる流体動圧軸受装置は、前記動圧軸受と、前記動圧軸受の内周に挿入された軸部材と、前記動圧軸受の内周面と前記軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間の潤滑流体の動圧作用で前記軸部材の相対回転を支持するラジアル軸受部とを備えたものである。
【0014】
本発明にかかる流体動圧軸受装置によれば、負荷容量を向上させることができる動圧軸受を用いるので、軸受の軸方向寸法を小とする薄型化を図っても、軸受に係る荷重を支えることが可能となる。
【0015】
本発明に係るモータは、前記流体動圧軸受装置と、前記軸部材又は前記動圧軸受と一体に回転するロータと、前記ロータを回転駆動する駆動部とを備え、前記ロータがインペラを有するものである。
【0016】
インペラのサイズを大きくしても、軸受にかかる荷重を十分支えることができ、冷却性能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、負荷容量が向上するので、小型化をはかっても十分に軸受の機能を発揮することができる。すなわち、軸方向寸法を拡大することなく、負荷容量を向上させる軸受を提供できる。しかも、本動圧軸受を用いたモータにおいて、構成するロータの重心位置などによって、溝仕様を変更する必要がなく、軸受として、汎用性を損なうおそれも生じない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】本発明に係る動圧軸受を用いた動圧軸受装置の断面図である。
【
図4】
図3に示す動圧軸受装置を備えたモータの断面図である。
【
図6】実施品1を示し、(a)は溝仕様図であり、(b)は圧力分布図である。
【
図7】比較品1を示し、(a)は溝仕様図であり、(b)は圧力分布図である。
【
図8】比較品2を示し、(a)は溝仕様図であり、(b)は圧力分布図である。
【
図9】従来品1を示し、(a)は溝仕様図であり、(b)は圧力分布図である。
【
図10】実施品2に用いた動圧軸受の断面図である。
【
図11】従来品2に用いた動圧軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明の実施の形態を
図1~
図4に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る動圧軸受を示し、
図2は動圧軸受の要部拡大簡略図を示し、
図3は本発明に係る動圧軸受を用いた流体動圧軸受装置を示し、
図4はこの流体動圧軸受装置を用いた冷却用のファンモータを示す。このファンモータは、例えば、情報機器、特に携帯電話やタブレット型端末等のモバイル機器に組み込まれる。
【0020】
このファンモータは、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1と、流体動圧軸受装置1の軸部材2に装着されたロータ3と、ロータ3の外径端に取付けられたインペラ(羽根)4と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル6aおよびロータマグネット6bと、これらを収容するケーシング5とを備える。ステータコイル6aは、動圧軸受装置1の外周に取付けられ、ロータマグネット6bはロータ3の内周に取付けられる。ステータコイル6aに通電することにより、ロータ3、インペラ4、及び軸部材2が一体に回転し、これにより軸方向あるいは外径方向の気流が発生する。
【0021】
流体動圧軸受装置1は、
図3に示すように、軸部材2と、ハウジング7と、本発明に係る動圧軸受としての軸受スリーブ8と、シール部材9と、スラスト受け10とを備える。尚、以下では、軸方向(
図2の上下方向)で、ハウジング7の開口側を上側、ハウジング7の底部7b側を下側と言う。
【0022】
軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料で円柱状に形成される。軸部材2は、円筒面状の外周面2aと、下端に設けられた球面状の凸部2bとを有する。
【0023】
ハウジング7は、略円筒状の側部7aと、側部7aの下方の開口部を閉塞する底部7bとを有する。図示例では、側部7aと底部7bとが樹脂で一体に射出成形される。側部7aの外周面7a2には、ケーシング5及びステータコイル6aが固定される。側部7aの内周面7a1には、軸受スリーブ8が固定される。底部7bの上側端面7b1の外径端には、内径部よりも上方に位置する肩面7b2が設けられ、この肩面7b2に軸受スリーブ8の下側端面8cが当接する。側部7aの外周面7a2には、周方向切欠部7b4が形成され、この周方向切欠部7b4にステータコイル6aが嵌合されている。底部7bの上側端面7b1の中央部には、樹脂製のスラスト受け10が配される。尚、ハウジング7の肩面7b2に半径方向溝7b3を設ける代わりに(あるいはこれに加えて)、軸受スリーブ8の下側端面8cに半径方向溝を形成してもよい。
【0024】
軸受スリーブ8は、円筒状を成し、ハウジング7の側部7aの内周面7a1に、隙間接着、圧入、圧入接着(接着剤介在下での圧入)等の適宜の手段で固定される。本実施形態では、軸受スリーブ8は、プレスで加工した焼結金属、切削で加工した黄銅やステンレス等の溶製材、さらには射出成形で加工した樹脂等で構成できる。
【0025】
ラジアル軸受面となる軸受スリーブ8の内周面8aには、一対の動圧発生部20(20A、20B)とが軸方向に離間して設けられる。各動圧発生部20A、20Bは、へリングボーン形状に配列された複数の動圧溝11a、11bを有する。動圧発生部20A、20Bの軸方向外方側の動圧溝11a、11aは、第1の動圧溝群11A,11Aを形成し、動圧発生部20の軸方向内側の動圧溝11b、11bは、第2の動圧溝群11B,11Bを形成する。なお、一対の動圧発生部20A、20Bは、上下反転形状としている。
【0026】
また、各動圧発生部20A、20Bにおいて、軸方向外方側の動圧溝11a、11aと軸方向内方側の動圧溝11b、11bと傾斜方向が異なる。図示例では、軸方向外方側の動圧溝11a、11aは、軸部材2の回転方向に沿って軸方向外方側から軸方向内方側へ傾斜し、軸方向内方側の動圧溝11b、11bは、軸部材2の回転方向に沿って軸方向内方側から軸方向外方側へ傾斜している。動圧溝11a、11bの底面は同一円筒面上に設けられる。軸方向内方側の動圧溝11bの底面は、両動圧発生部20(20A,20B)の軸方向間に設けられた円筒面13と連続している。
【0027】
動圧溝11a、11b間には、それぞれ傾斜丘部11c、11dが設けられ、また、各動圧発生部20(20A,20B)において、第1の動圧溝群11A及び第2の動圧溝群11Bの間に、環状丘部11e、11eが設けられている。傾斜丘部11c、11d及び環状丘部11e、11eを、クロスハッチングで示している。環状丘部11e、11e及び傾斜丘部11c、11dは、動圧溝11a、11bの底面から内径側に盛り上がっている。環状丘部11e、11e及び傾斜丘部11c、11dの内径面は、同一円筒面上に設けられる。環状丘部11e、11e及び全ての傾斜丘部11c、11dはそれぞれ連続して設けられる。
【0028】
ところで、第1の動圧溝群11A及び第2の動圧溝群11Bの各軸方向長さ(幅寸法)をA,Bとし、環状丘部11e、11eの軸方向長さ(幅寸法)Cとたしとき、A=B>Cとしている。また、各第1の動圧発生部20A及び第2動圧発生20Bにおいて、第1の動圧溝群11A、11Aの動圧溝11a,11aの周方向に対する傾斜角度θa(
図2参照)と、第2の動圧溝群11B、11Bの動圧溝11b、11bの周方向に対する傾斜角度θb(
図2参照)は等しくしている。
【0029】
環状丘部11eには、それぞれ凹部11e1が設けられている。この場合、凹部11e1は、傾斜丘部11c、11dと環状丘部11eとの合流部Uに形成されている。凹部11e1は、図例では、矩形状に構成され、深さ寸法としては、環状丘部11eの高さ寸法
と同一とされる。すなわち、凹部11e1の底面は、円筒面13と一致させている。また、凹部11e1の幅寸法(軸方向長さ)を環状丘部11eの幅寸法(軸方向長さ)と同程度としている。この場合、凹部11e1の周方向長さとして、合流部Uから露出しない寸法としている。すなわち、合流部Uの周方向長さをLとし、凹部11e1の周方向長さをL1としたときに、L>L1としている。また、合流部Uの軸方向長さをHとし、凹部11e1の軸受軸方向長さをH1としたときに、H≧H1としている。
【0030】
ところで、軸受スリーブ8は具体的には、焼結金属で形成され、例えば銅を35wt.%以上含む焼結金属、特に、銅及び鉄をそれぞれ35wt.%以上含む焼結金属で形成される。軸受スリーブ8は、以下の方法で製造される。まず、原料粉末を圧縮成形して圧粉体を形成する(圧粉工程)。原料粉末は、主成分金属粉末として、銅系粉末(銅粉あるいは銅合金粉)及び鉄系粉末(鉄粉あるいは鉄合金粉)の何れか又は双方を含む。原料粉末は、ステンレス鋼粉末等の高硬度の粉末を含んでも良い。本実施形態の原料粉末は、主成分金属粉末として、純鉄粉及び純銅粉を含む。原料粉末は、主成分金属粉末の他、錫粉末等の低融点金属粉末や、黒鉛粉等の炭素粉末、あるいは成形用潤滑剤等を含んでもよい。この圧粉体を所定の焼結温度で焼結することにより焼結体を得る(焼結工程)。この焼結体にサイジングを施すことにより、内周面に動圧溝11,11を成形する(サイジング工程)。本実施形態では、焼結体の内周面に回転サイジング等の封孔処理は施している。この焼結体の内部気孔に潤滑油を含浸させることにより、軸受スリーブ8が完成する。
【0031】
軸受スリーブ8は、密度比が80~95%である。軸受スリーブ8には、内部と表面とを連通する連通気孔が形成され、具体的には、含油率が4%以上となる程度の連通気孔が形成される。すなわち、含油率が4%以上となる程度の連通気孔が形成されるように、軸受スリーブ8の成形条件(例えば、圧粉工程及びサイジング工程における圧縮率等)が設定される。軸受スリーブ8は、サイジングにより、内周面8a(ラジアル軸受面)における表面開口率が、軸受スリーブ8の気孔率(=100%-密度比)の値以下となっており、具体的には10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下とされる。このように、開口率を10%以下とすることによって、内径面8aからの動圧抜けを有効に防止できる。
【0032】
なお、軸受スリーブ8の外周面には、軸方向溝8d1が形成される。軸方向溝8d1の数は任意であり、例えば円周方向等間隔の3箇所に形成される。
【0033】
シール部材9は、樹脂あるいは金属で環状に形成され、ハウジング7の側部7aの内周面7a1の上端部に固定される。シール部材9は、軸受スリーブ8の上側端面8bと当接している。シール部材9の内周面9aは、軸部材2の外周面2aと半径方向で対向し、これらの間にシール空間Sが形成される。軸部材2の回転時には、シール空間Sにより、軸受内部の潤滑油の外部への漏れ出しが防止される。シール部材9の下側端面9bには、半径方向溝9b1が形成される。尚、シール部材9の下側端面9bに半径方向溝9b1を形成する代わりに(あるいはこれに加えて)、軸受スリーブ8の上側端面8bに半径方向溝を形成してもよい。
【0034】
上記の動圧軸受装置1は、以下のような手順で組み立てられる。まず、ハウジング7の底部7bの上側端面7b1にスラスト受け10を固定する。そして、ハウジング7の側部7aの内周に、予め内部気孔に潤滑油を含浸させた軸受スリーブ8を挿入し、軸受スリーブ8の下側端面8cを底部7bの肩面7b2に当接させた状態で、軸受スリーブ8の外周面8dを側部7aの内周面7a1に固定する。その後、シール部材9をハウジング7の側部7aの内周面7a1の上端に固定する。このとき、シール部材9をハウジング7の側部7aに圧入し、シール部材9とハウジング7の底部7bの肩面7b2とで軸受スリーブ8を軸方向両側から挟持することで、軸受スリーブ8を軸方向で拘束することができる。その後、軸受スリーブ8の内周に潤滑油を点滴し、軸部材2を挿入することで、動圧軸受装置1の組立が完了する。このとき、シール部材9で密封されたハウジング7の内部空間(軸受スリーブ8の内部空孔を含む)に潤滑油を充満し、油面はシール空間Sの範囲内に維持される。
【0035】
上記構成の流体動圧軸受装置1において、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部材2の外周面2aとの間にラジアル軸受隙間が形成される。そして、軸受スリーブ8の内周面8aに形成された動圧発生部20(20A、20B)が、ラジアル軸受隙間の潤滑油に動圧作用を発生させる。詳しくは、ラジアル軸受隙間の潤滑油が、動圧溝11a、11bに沿って各動圧発生部20(20A,20B)の軸方向中央側に集められ、この部分の流体圧が高められる。これにより、軸部材2をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R(R1、R1)が構成される。また、軸部材2の下端の凸部2bとスラスト受け10とが接触摺動することで、軸部材2をスラスト方向に支持するスラスト軸受部Tが構成される。
【0036】
本発明の動圧軸受では、各動圧溝群20A、20Bにおける傾斜溝(動圧溝)11a、11bと環状丘部11eとの間には段差部が形成され、この段差で圧力(動圧)が発生し、また、環状丘部11eの凹部11e1により、凹部11e1における回転方向下流側で圧力(動圧)が発生する。このため、環状丘部11e上で発生する圧力(動圧)が高くなり、負荷容量が向上する。すなわち、負荷容量が向上するので、小型化をはかっても十分に軸受の機能を発揮することができる。すなわち、軸方向寸法を拡大することなく、負荷容量を向上させる軸受を提供できる。しかも、本動圧軸受を用いたモータにおいて、構成するロータの重心位置などによって、溝仕様を変更する必要がなく、軸受として、汎用性を損なうおそれも生じない。
【0037】
また、環状丘部11eと傾斜丘部11c、11dとの全合流部Uに凹部11e1が設けられることにより、負荷容量をより増加させることができ、さらには、凹部11e1の円周方向幅を、前記合流部Uの円周方向幅よりも小さくすることによって、凹部11e1を環状丘部11eおよび傾斜丘部11c、11dの輪郭に接しない寸法内で大きめに設定することができ、負荷容量をより増加させることができる。
【0038】
また、本発明にかかる流体動圧軸受装置によれば、負荷容量を向上させることができる動圧軸受を用いるので、軸受の軸方向寸法を小とする薄型化を図っても、軸受に係る荷重を支えることが可能となる。
【0039】
本発明に係るモータは、インペラ4のサイズを大きくしても、軸受にかかる荷重を十分支えることができ、冷却性能の向上を図ることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることな
く種々の変形が可能であって、前記実施形態では、焼結含油軸受8が固定され、軸部材2が回転する場合を示したが、これに限らず、軸部材2を固定して焼結含油軸受8を回転させる構成、あるいは、軸部材2及び焼結含油軸受8の双方を回転させる構成を採用することもできる。
【0041】
本発明に係る焼結含油軸受8が組み込まれた流体動圧軸受装置は、HDDのディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータに限らず、他の情報機器に組み込まれるスピンドルモータ、レーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイール、あるいは冷却用のファンモータ等、他の小型モータにも広く使用することができる。
【0042】
実施形態では、一対の動圧発生部20A,20Bを設けていたが、一つの動圧発生部20を設けたものであってもよい。また、各動圧溝11a、11bの傾斜角度θa、θbとしても、実施形態のものに限るのもではなく、各動圧溝11a、11bの数、配設ピッチ、溝幅等も任意に設定でき、さらには、動圧溝の深さも必要に応じて種々変更できる。実施形態では、動圧溝(傾斜溝)の深さと、環状丘部11eに設けられた凹部11e1の深さを同一に設定していたが、相違するものであってもよい。なお、深さを同一にすることによって、生産性の向上を図ることができる。
【0043】
実施形態では、第1の動圧溝群11A及び第2の動圧溝群11Bの各軸方向長さ(幅寸法)をA,Bとし、環状丘部11e、11eの軸方向長さ(幅寸法)Cとしとき、A=B>Cとしていたが、A=B<Cであっても、A=B=Cであっても、A≠Bであってもよい。また、凹部11e1の形状として、実施形態では、矩形形状であったが、正方形形状であっても、五角形以上の多角形状等であってもよい。
【0044】
ところで、軸受スリーブ8は多孔質構造を有する円筒体であり、例えば実施形態のように、焼結金属で形成されるが、樹脂やセラミック等の非金属材料からなる多孔質体で形成することもできる。また、多孔質体以外にも、内部空孔を持たない、もしくは、潤滑油の出入りができない程度の大きさの空孔を有する構造体で形成することもできる。
【実施例1】
【0045】
表1に示す軸受仕様の軸受(実施品1)にて、熱流体解析ソフト(SIEMENS社製STAR-CCM+)により軸部材の外径面の圧力分布、軸部材の外径面にかかる力を計算した。STAR-CCM+は複合領域問題向けの統合CAEソフトウェアであり、有限体積法による流体解析機能を軸とし、流体に関する物理機能の他にも有限要素法による構造解析機能やDEM法による粒子解析等も搭載されている。STAR-CCM+は、CADによる形状作成から計算結果の評価まで一つのパッケージで実現し、作業プロセスの自動化も容易にできる。シミュレーションの設定に必要なワークフロー、計算実行、結果評価など作業プロセスを1つのGUIに統合し、自動化に必要な機能も完備している。STAR-CCM+は豊富な物理モデルと機能により、様々な現象を複合的に解析することができる。2次元/3次元、層流/乱流/非粘性、圧縮性/非圧縮性、浮力、移動/回転、多孔質領域など基本機能のほか、流体解析で使用される各種乱流モデルも搭載されている。
【0046】
この場合、解析時間の短縮のため、
図5に示すように、動圧発生部20を1列とした。また、実施品1の軸受仕様を表1に示す。軸(軸部材2)として、外径(直径)が1.99mmのものを使用した。
【表1】
【0047】
軸受の内径(直径)を2mmとし、幅(軸受軸方向長さ)を1.80mmとし、溝深さを10μmとし、丘溝比を1とし、溝角度(θa、θb)を20degとし、傾斜溝幅(動圧溝群11A、11Bの軸方向長さA)を0.7mmとし、環状丘部幅(環状丘部11eの軸方向長さC)を0.4mmとし、ラジアル隙間を10μmとし、偏心率を0とした。ここで、丘溝比とは、丘部の周方向長さをH2とし、溝周方向長さをH1とときに、H2/H1である。
【0048】
この場合、実施品1の
図5に示すように、凹部11e1の軸方向長さ(幅寸法)Hを0.4mmとし、凹部11e1の周方向長さL1を0.32mmとし、合流部Uにずれない位置に配設したものを実施品1とし、凹部11e1の位置、大きさを相違させた2つの比較品1,2、及び凹部を有さない従来品について計算した。こので、比較品1は、丘部の周方向長さを、実施品1の半分とし、比較品2は、丘部の軸方向長さを実施品1よりも0.1mm程度小さくし、かつ、丘部を回転方向側に0.22mm程度ずらせた。なお、軸部材2の回転数を5500rpmとする。
【0049】
図6は、実施品1を示し、(a)は溝仕様図であり、(b)は圧力分布図であり、
図7は、比較品1を示し、(a)は溝仕様図であり、(b)は圧力分布図であり、
図8は、比較品2を示し、(a)は溝仕様図であり、(b)は圧力分布図であり、
図11は、従来品1を示し、(a)は溝仕様図であり、(b)は圧力分布図である。
【0050】
各圧力分布図からわかるように、凹部11e1を設けた実施品1、比較品1、及び比較品2は、溝の回転方向下流側での圧力上昇がみられた。すなわち、軸部材外径面に係る圧力は、実施例1では、0.0049Nであり、比較例1では、0.0042Nであり、比較例2では、0.0042Nであり、従来例1では、0.0039Nであった。この場合、実施例1が最も高く、従来例の1.3倍となった。
【実施例2】
【0051】
次に、表2に示す軸受仕様の実施品2を用いて、機能評価を行った。軸(軸部材2)として、外径(直径)が1.99mmのものを使用した。
【表2】
【0052】
軸受(軸受スリーブ8)の内径(直径)を2mmとし、幅(軸受軸方向長さ)を2.35mmとし、溝深さを3μmとし、丘溝比を1とし、溝角度(θ1、θ2)を20degとし、傾斜溝幅(動圧溝の軸受軸方向長さ)を0.25mmとし、環状丘部幅(環状丘部11eの軸受軸方向長さ)を0.2mmとし、ラジアル隙間を8μmとした。
【0053】
この場合、実施品2として、No,1~No,3の3つを制作し、従来品2として、No,1~No,3
の3つを制作した。実施品2のNo,1~No,3は、それぞれ、
図10に示すようなものを使用
した。凹部11e1の軸方向長さ(幅寸法)を0.2mmとし、凹部11e1の周方向長さを0.25mmとし、凹部11e1を合流部Uにずれない位置に配設し、一方の動圧発生部20Aの環状丘部11eの軸方向外端縁から、軸受(軸受スリーブ8)の他方の端面までの寸法をL2として、1.9mmとし、他方の動圧発生部20Bの環状丘部の軸方向外端縁から軸受の他方の端面までの寸法をL3として、0.45mmとした。この場合、実施品2のNo,1~No,3は、設計上、同一のものとした。
【0054】
また、従来品2のNo,1~No,3として、
図11に示すように、
図10に示すものにおいて
、凹部を設けないものである。この場合、従来品2のNo,1~No,3は、設計上、同一のもの
とした。
【0055】
この
図11に示す動圧軸受は、ラジアル軸受面となる軸受スリーブ108の内周面108aには、一対の動圧発生部120(120A、120B)とが軸方向に離間して設けられる。各動圧発生部120A、120Bは、へリングボーン形状に配列された複数の動圧溝111a、111bを有する。動圧発生部120A、120Bの軸方向外方側の動圧溝111a、111aは、第1の動圧溝群111A,111Aを形成し、動圧発生部120の軸方向内側の動圧溝111b、111bは、第2の動圧溝群111B,111Bを形成する。なお、一対の動圧発生部120A、120Bは、上下反転形状としている。
【0056】
また、各動圧発生部120A、120Bにおいて、軸方向外方側の動圧溝111a、111aと軸方向内方側の動圧溝111b、111bと傾斜方向が異なる。動圧溝111a、111b間には、それぞれ傾斜丘部111c、111dが設けられている。傾斜丘部11c、11d及び環状丘部11e、11eを、クロスハッチングで示している。
【0057】
次の表3に機能評価結果を示す。表3は、軸(軸部材2)に0.1Nの荷重(圧縮荷重)を加えた状態で、軸部材2を100~1000rpmの回転速度で60秒間回転させた。この回転させた軸部材2と軸受(軸受スリーブ8)との接触の有無を測定した。この測定には、公知公用の電気接触法により測定した。
【表3】
【0058】
従来品(No,1~No,3)は、1000rpmから軸部材と軸受とに接触があり、200r
pm以下になると接触回数が極端に上昇していることが分かる。これに対して、実施品2(No,1~No,3)は200rpmまではほとんど接触が見られず、100rpmにおける接
触回数も比較例に比べて少ないことが分かる。なお、表3の数値は、接触回数を示し、値の大きい方が接触回数が多いこと示している。また、表3において、>500とは、60秒間に500回以上、軸部材と軸受とに接触したことを示している。
【0059】
軸(軸部材2)に付加する荷重(負荷)を徐々に増やしていった際の軸(軸部材2)と軸受(軸受スリーブ8)との接触の有無を測定した。この場合、実施品2(No,1~No,3)
のものを使用し、従来品2(No,1~No,3)のものを使用した。回転速度を1000rpm
として、軸部材に付加する荷重(負荷)を徐々に増やしていった際の軸(軸部材2)と軸受(軸受スリーブ8)との接触の有無を測定し、その結果を表4に示した。この測定にも、公知公用の電気接触法により測定した。なお、表4において、「-」は、この負荷では測定を行っていないことを示す。これは、この負荷より一つ前の負荷において、接触回数が500を超えたので、その後の負荷での接触回数が500を超えることになるからである。
【表4】
【0060】
表4からわかるように、軸部材と軸受とが頻繁に接触が見られる負荷は、従来品では、1.27Nであり、これに対して、実施品では、1.57N(1.2倍)であった。このため、実施品2のものが、従来品2よりも負荷荷重が上がっていることが確認できた。
【符号の説明】
【0061】
1 流体動圧軸受装置
2 軸部材
3 ロータ
4 インペラ
5 ケーシング
8 焼結含油軸受(軸受スリーブ)
8a 内周面
11A 、11B動圧溝群
11a,11b動圧溝
11c 傾斜丘部
11e 環状丘部
11e1 凹部
20(20A,20B) 動圧発生部
C 合流部
R1 ラジアル軸受部