(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-22
(45)【発行日】2025-09-01
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20250825BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20250825BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20250825BHJP
B23B 27/20 20060101ALN20250825BHJP
C22C 1/051 20230101ALN20250825BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 A
B23B27/14 B
B23C5/16
B23B27/20
C22C1/051 G
(21)【出願番号】P 2024534738
(86)(22)【出願日】2024-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2024002894
【審査請求日】2025-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城戸 保樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 好博
(72)【発明者】
【氏名】米田 敦洋
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】津田 圭一
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特許第7283636(JP,B2)
【文献】特開2004-232000(JP,A)
【文献】特開2017-088917(JP,A)
【文献】特開2019-090098(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111378857(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,3/10,3/15
B23B 27/14,27/20
B23C 5/16
C22C 1/051,29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金からなる基材と、前記基材上に設けられた被膜と、を備える切削工具であって、
前記超硬合金は、第1硬質相と、複数の第2硬質相と、結合相とからな
り、
前記第1硬質相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
前記炭化タングステン粒子の粒径のD10は、0.40μm以上であり、
前記炭化タングステン粒子の粒径のD90は、2.00μm以下であり、
前記第2硬質相は、TaNbC、TaNbN、TaNbCN、TiCN、TiNbC、TiNbN、および、TiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物からなり、
前記超硬合金は、前記第2硬質相を0.30体積%以上1.60体積%以下含み、
前記超硬合金の断面において、前記第2硬質相の面積の中央値は、0.90μm
2以上1.20μm
2以下であり、
前記第2硬質相の面積の変動係数は、0.50以上1.20以下であり、
前記結合相は、コバルトを50質量%以上含み、
前記超硬合金は、前記結合相を8.0体積%以上12.0体積%以下含む、
切削工具。
【請求項2】
前記超硬合金は、クロムを0.08質量%以上0.5質量%以下含む、請求項1に記載の
切削工具。
【請求項3】
前記結合相は、鉄およびニッケルの一方または両方を含む、請求項1または請求項2に記載の
切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超硬合金および切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、炭化タングステン(WC)を主成分とする第一硬質相と、タングステンを含む複数種の金属元素と、炭素、窒素、酸素および硼素から選択される一種以上の元素と、を含む化合物を主成分とする第二硬質相と、鉄族元素を主成分とする結合相とを備える超硬合金が、切削工具の素材に利用されている。特許文献1には、このような超硬合金からなる基材上にTiAlN膜などの硬質膜を形成した切削工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の超硬合金は、第1硬質相と、複数の第2硬質相と、結合相とからなる超硬合金であって、
前記第1硬質相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
前記炭化タングステン粒子の粒径のD10は、0.40μm以上であり、
前記炭化タングステン粒子の粒径のD90は、2.00μm以下であり、
前記第2硬質相は、TaNbC、TaNbN、TaNbCN、TiCN、TiNbC、TiNbN、および、TiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物からなり、
前記超硬合金は、前記第2硬質相を0.30体積%以上1.60体積%以下含み、
前記超硬合金の断面において、前記第2硬質相の面積の中央値は、0.90μm2以上1.20μm2以下であり、
前記第2硬質相の面積の変動係数は、0.50以上1.20以下であり、
前記結合相は、コバルトを50質量%以上含み、
前記超硬合金は、前記結合相を8.0体積%以上12.0体積%以下含む、超硬合金である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る超硬合金の代表的な構成例を説明する図である。
【
図2】
図2は、実施形態2に係る切削工具の模式的断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態2に係る切削工具の代表的な構成例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、切削加工において被削材の難削化が進んでいる。例えば、超硬合金からなる基材上に被膜の形成された切削工具を用いて、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:carbon fiber reinforced plastics)を加工すると、長時間の使用に伴い、切れ味が低下し、被削材の面品位が悪化し、安定した工具性能を得にくい傾向があった。
【0007】
そこで、本開示は、切削工具の材料として用いた場合に、CFRPの加工においても、切削工具の長寿命化を可能とする超硬合金およびそれを備える切削工具を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、切削工具の材料として用いた場合に、CFRPの加工においても、切削工具の長寿命化を可能とする超硬合金およびそれを備える切削工具を提供することが可能である。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の超硬合金は、第1硬質相と、複数の第2硬質相と、結合相とからなる超硬合金であって、
前記第1硬質相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
前記炭化タングステン粒子の粒径のD10は、0.40μm以上であり、
前記炭化タングステン粒子の粒径のD90は、2.00μm以下であり、
前記第2硬質相は、TaNbC、TaNbN、TaNbCN、TiCN、TiNbC、TiNbN、および、TiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物からなり、
前記超硬合金は、前記第2硬質相を0.30体積%以上1.60体積%以下含み、
前記超硬合金の断面において、前記第2硬質相の面積の中央値は、0.90μm2以上1.20μm2以下であり、
前記第2硬質相の面積の変動係数は、0.50以上1.20以下であり、
前記結合相は、コバルトを50質量%以上含み、
前記超硬合金は、前記結合相を8.0体積%以上12.0体積%以下含む、超硬合金である。
【0010】
本開示によれば、切削工具の材料として用いた場合に、CFRPの加工においても、切削工具の長寿命化を可能とする超硬合金を提供することが可能である。
【0011】
(2)上記(1)において、前記超硬合金は、クロムを0.08質量%以上0.5質量%以下含んでもよい。
【0012】
クロムは、超硬合金の製造の際に、粒成長抑制剤として用いられる炭化クロム(Cr3C2)に由来する。超硬合金がクロムを上記の範囲で含むと、超硬合金の硬度が向上し、超硬合金を用いた切削工具の寿命が更に向上する。
【0013】
(3)上記(1)または(2)において、前記結合相は、鉄およびニッケルの一方または両方を含んでもよい。
【0014】
これによると、超硬合金の靭性が向上し、超硬合金を用いた切削工具の寿命が更に向上する。
【0015】
(4)本開示の切削工具は、上記(1)から(3)のいずれかに記載の超硬合金からなる基材と、前記基材上に設けられた被膜と、を備える切削工具である。
【0016】
本開示によれば、CFRPの加工においても、長い寿命を有する切削工具を提供することが可能である。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の超硬合金および切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0018】
本開示において「A~B」という形式の表記は、A以上B以下を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0019】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0020】
本開示において、数値範囲下限及び上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。
【0021】
[実施形態1:超硬合金]
図1に示されるように、本開示の一実施形態(以下「実施形態1」とも記す。)に係る超硬合金4は、第1硬質相1と、複数の第2硬質相2と、結合相3とからなる超硬合金4であって、
第1硬質相1は、複数の炭化タングステン粒子からなり、
炭化タングステン粒子の粒径のD10は、0.40μm以上であり、
炭化タングステン粒子の粒径のD90は、2.00μm以下であり、
第2硬質相2は、TaNbC、TaNbN、TaNbCN、TiCN、TiNbC、TiNbN、および、TiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物からなり、
超硬合金4は、第2硬質相2を0.30体積%以上1.60体積%以下含み、
超硬合金4の断面において、前記第2硬質相2の面積の中央値は、0.90μm
2以上1.20μm
2以下であり、
第2硬質相2の面積の変動係数は、0.50以上1.20以下であり、
結合相3は、コバルトを50質量%以上含み、
超硬合金4は、結合相3を8.0体積%以上12.0体積%以下含む、超硬合金である。
【0022】
実施形態1の超硬合金は、切削工具の材料として用いた場合に、CFRPの加工においても、切削工具の長寿命化を可能とする。この理由は明らかではないが、以下の通りと推察される。
【0023】
超硬合金をCFRPの加工に用いる場合、一般的に、超硬合金からなる基材上に被膜を形成した切削工具が用いられる。安定した工具性能を得るためには、被膜の安定性(優れた耐剥離性、および、被膜組織の均一性)が肝要である。被膜の安定性は、基材の内部組織によって変化する。超硬合金の断面において、第2硬質相の面積の中央値が0.90μm2以上1.20μm2以下であり、第2硬質相の面積の変動係数が0.50以上1.20以下であると、基材と被膜との密着性が向上する。よって、実施形態1の超硬合金を切削工具の材料として用いた切削工具は、CFRPの加工においても、長い工具寿命を有することができる。
【0024】
<超硬合金の組成>
実施形態1の超硬合金は、第1硬質相と、複数の第2硬質相と、結合相とからなる。超硬合金は、本開示の効果を損なわない限りにおいて、不純物を含むこともできる。すなわち、超硬合金は、第1硬質相と、複数の第2硬質相と、結合相と、不純物とからなることができる。不純物としては、例えば、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、カルシウム(Ca)、珪素(Si)、硫黄(S)が挙げられる。超硬合金の不純物の含有率(不純物が2種類以上の場合は、これらの含有率の合計)は、0質量%以上0.1質量%未満でもよい。超硬合金の不純物の含有率は、ICP発光分析(Inductively Coupled Plasma Emission Spectroscopy)により測定される。測定装置は、島津製作所「ICPS-8100」(商標)を用いることができる。
【0025】
実施形態1の超硬合金の第2硬質相の含有率は、0.30体積%以上1.60体積%以下である。これによると、超硬合金の耐溶着性、耐熱性および耐摩耗性が向上する。超硬合金の第2硬質相の含有率は、0.40体積%以上1.50体積%以下でもよく、または、0.50体積%以上1.40体積%以下でもよい。
【0026】
実施形態1の超硬合金の結合相の含有率は、8.0体積%以上12.0体積%以下である。これによると、超硬合金の強度が向上する。超硬合金の結合相の含有率は、8.1体積%以上11.9体積%以下でもよく、または、8.2体積%以上11.8体積%以下でもよい。
【0027】
実施形態1の超硬合金の第1硬質相の含有率は、超硬合金全体の体積100体積%から、第2硬質相および結合相の体積を減じた値である。
【0028】
超硬合金の第1硬質相の含有率、第2硬質相の含有率および結合相の含有率の測定方法は以下の通りである。
(A1)超硬合金の任意の位置を切り出して断面を露出させる。該断面をクロスセクションポリッシャ(日本電子社製)により鏡面加工する。
【0029】
(B1)超硬合金の加工面を走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S-3400N」(商標))で撮影して反射電子像を得る。反射電子像を6枚準備する。6枚の反射電子像の撮影領域はそれぞれ異なる。撮影箇所は任意に設定することができる。条件は、観察倍率5000倍、加速電圧10kVとする。
【0030】
(C1)上記(B1)の撮影領域に対して、SEM付帯のエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)を用いて元素分析を行い、元素マッピング像を得る。
【0031】
(D1)上記(B1)で得られた6枚の反射電子像を画像解析ソフトウェア(ImageJ、version 1.51j8:https://imagej.nih.gov/ij/)でコンピュータに取り込み、二値化処理を行い、6枚の二値化処理後の画像を得る。二値化処理は、画像を取り込んだのちに、コンピュータ画面上の「Make Binary」との表示を押すことにより、画像解析ソフトウェアに予め設定された条件で実行される。二値化処理後の画像において、第1硬質相からなる第1領域と、第2硬質相および第3硬質相からなる第2領域とは、色の濃淡で識別できる。例えば、二値化処理後の画像において、第1硬質相は黒色領域で示され、第2硬質相および第3硬質相は白色領域で示される。
【0032】
(E1)上記(C1)で得られた元素マッピング像と上記(D1)で得られた二値化処理後の画像とを重ねることにより、二値化処理後の画像上で第1硬質相、第2硬質相および結合相のそれぞれの存在領域を特定する。具体的には、二値化処理後の画像において黒色で示され、元素マッピング像においてタングステン(W)および炭素(C)の存在する領域が、第1硬質相の存在領域に該当する。二値化処理後の画像において白色で示され、元素マッピング像においてチタン(Ti)またはタンタル(Ta)の存在する領域が、第2硬質相の存在領域に該当する。二値化処理後の画像において白色で示され、元素マッピング像においてコバルトの存在する領域が、結合相の存在領域に該当する。
【0033】
(F1)6枚の二値化処理後の各画像中に、25.3μm×17.6μmの矩形の1つの測定視野を設定する。上記画像解析ソフトウェアを用いて、6つの測定視野のそれぞれにおいて、測定視野全体の面積を分母として第1硬質相、第2硬質相および結合相のそれぞれの面積百分率(面積%)を測定する。本開示において、6つの測定視野の第1硬質相の面積百分率(面積%)の平均、6つの測定視野の第2硬質相の面積百分率(面積%)の平均、6つの測定視野の結合相の面積百分率(面積%)の平均が、それぞれ超硬合金の第1硬質相の含有率(体積%)、第2硬質相の含有率(体積%)および結合相の含有率(体積%)に相当する。
【0034】
同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
【0035】
<第1硬質相>
≪組成≫
実施形態1の超硬合金において、第1硬質相は複数の炭化タングステン粒子(以下「WC粒子」とも記す。)からなる。炭化タングステン粒子には、「純粋なWC粒子(不純物元素が一切含有されないWC、不純物元素の含有量が検出限界未満であるWCも含む。)」だけではなく、「本開示の効果を損なわない限りにおいて、内部に不純物を含むWC粒子」も含まれる。不純物は、例えば、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、硫黄(S)が挙げられる。
【0036】
≪炭化タングステン粒子の粒径≫
炭化タングステン粒子の粒径のD10は、0.40μm以上であり、炭化タングステン粒子の粒径のD90は、2.00μm以下である。これによると、超硬合金は高い硬度を有し、該超硬合金を含む切削工具の耐摩耗性が向上する。
【0037】
炭化タングステン粒子のD10は、0.42μm以上でもよく、または、0.44μm以上でもよい。炭化タングステン粒子の粒径のD90は、1.98μm以下でもよく、または、1.96μm以下でもよい。
【0038】
本開示において、炭化タングステン粒子のD10およびD90は、それぞれ、超硬合金の断面における炭化タングステン粒子の等面積円相当径(Heywood径)のD10(個数基準の頻度の累積が10%となる円相当径)およびD90(個数基準の頻度の累積が90%となる円相当径)を意味する。
【0039】
本開示において、炭化タングステン粒子のD10およびD90の測定方法は以下の通りである。
(A2)超硬合金の第1硬質相等の含有率の測定方法と同一の方法で6枚の二値化処理後の画像を得る。更に、ノイズを除去するため、コンピュータ画面上の「Despeckle」との表示を1回押した後、「Watershed」との表示を押すことで、二値化処理後の画像上で第1硬質相(タングステン粒子)の粒界も画像解析ソフトウェアに予め設定された条件で判別される。コンピュータ画面上の「Analyze Particle」を押すことにより、面積が0.002μm2以上の炭化タングステン粒子の等面積円相当径を測定する。
【0040】
(B2)6枚の二値化処理後の各画像中に、25.3μm×17.6μmの矩形の1つの測定視野を設定する。上記画像解析ソフトウェアを用いて、6つの測定視野中の面積が0.002μm2以上の全ての炭化タングステン粒子に基づき、炭化タングステン粒子の等面積円相当径のD10およびD90を測定する。本開示において、上記で測定されたD10およびD90が、炭化タングステン粒子のD10およびD90に該当する。
【0041】
二値化処理における閾値の設定は手動調整も可能であるが、本測定方法では手動調整は採用しない。本測定方法では上記の通り、「Make Binary」との表示を押すことにより二値化処理が実行される。面積が0.002μm2以上の炭化タングステン粒子の等面積円相当径を測定する理由は、本発明者らが測定したところ、面積が0.002μm2未満の粒子は、画像解析において誤って炭化タングステン粒子として検出されたノイズに該当する場合が多いことが確認されたたためである。
【0042】
同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
【0043】
<第2硬質相>
≪組成≫
実施形態1において、第2硬質相はTaNbC、TaNbN、TaNbCN、TiCN、TiNbC、TiNbN、および、TiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物からなる。これによると、超硬合金の耐溶着性、耐熱性および耐摩耗性が向上する。本開示において、TaNbC、TaNbN、TaNbCN、TiCN、TiNbC、TiNbN、および、TiNbCNのそれぞれは、Ta、NbおよびTiの原子数の合計と、CおよびNの原子数の合計との比が1:1の場合に限定されず、本開示の効果を損なわない限りにおいて、従来公知の比を含むことができる。
【0044】
第2硬質相は、TaNbC、TaNbCN、TiCN、および、TiNbCNからなる群より選ばれる1種の第1化合物からなってもよい。
【0045】
第2硬質相は、本開示の効果を損なわない範囲でタングステン(W)、クロム(Cr)、コバルト(Co)などの金属元素を含んでいてもよい。第2硬質相中のW、CrおよびCoの合計含有率は、0質量%以上0.1質量%未満でもよい。第2硬質相中のW、CrおよびCoの含有率は、ICP発光分析により測定される。
【0046】
第2硬質相の組成の測定方法は以下の通りである。
(A3)超硬合金の任意の位置をイオンスライサ(装置:日本電子社製 IB09060CIS(商標))を用いて薄片化し、厚さ30~100nmのサンプルを作製する。イオンスライサの加速電圧は、薄片化加工では6kV、仕上加工では2kVである。
【0047】
(B3)上記サンプルを走査透過型電子顕微鏡(STEM)(日本電子社製のJFM-ARM300F(商標))にて50000倍で観察することによってSTEM-HAADF(HAADF:high-angle annular dark field)像を得る。STEM-HAADF像の撮影領域は、サンプルの中央部、すなわち、超硬合金の表面近傍などバルク部分とは明らかに性状が異なる部分を含まない位置(撮像領域がすべて超硬合金のバルク部分となる位置)に設定する。測定条件は、加速電圧200kVである。
【0048】
(C3)次に、STEM-HAADF像に対してSTEMに付属するEDXにより、元素マッピング分析を実行し、元素マッピング像を得る。元素マッピング像においてタンタル(Ta)またはチタン(Ti)と、炭素(C)および窒素(N)の一方または両方との存在する領域を第2硬質相と特定し、第2硬質相の組成を特定する。
【0049】
同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
【0050】
≪第2硬質相の面積の中央値および面積の変動係数≫
実施形態1の超硬合金は複数の第2硬質相を含む。各第2硬質相は、一つの第1化合物粒子、または、複数の第1化合物粒子の集合体からなる。第2硬質相が複数の第1化合物粒子の集合体からなる場合、複数の第1化合物粒子は、1種の第1化合物粒子からなってもよいし、2種以上の第1化合物粒子からなってもよい。
【0051】
実施形態1の超硬合金の断面において、第2硬質相の面積の中央値は、0.90μm2以上1.20μm2以下であり、第2硬質相の面積の変動係数は、0.50以上1.20以下である。第2硬質相の面積の中央値は、1.00μm2以上1.10μm2以下でもよく、または、1.03μm2以上1.08μm2以下でもよい。第2硬質相の面積の変動係数は、0.55以上1.05以下でもよく、0.60以上1.00以下でもよい。
【0052】
本開示において、第2硬質相の面積の中央値は、第2硬質相の面積の個数基準の頻度の累積が50%となる面積を意味する。本開示において、第2硬質相の面積の変動係数は、第2硬質相の面積の標準偏差を、第2硬質相の面積の平均値で除した値(標準偏差/平均値)である。第2硬質相の面積の平均値とは、第2硬質相の面積の算術平均を意味する。
【0053】
本開示において、超硬合金の断面における第2硬質相の面積の中央値および第2硬質相の面積の変動係数の測定方法は以下の通りである。
(A4)超硬合金の任意の位置を切り出して断面を露出させる。該断面をクロスセクションポリッシャにより研磨する。超硬合金の研磨面をSEMで撮影して反射電子像を得る。条件は、観察倍率1000倍、加速電圧10kVとする。
【0054】
(B4)上記(A4)の撮影領域に対して、SEM付帯のエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)を用いて元素分析を行い、元素マッピング像を得る。反射電子像と元素マッピング像とを重ねることにより、反射電子像上で第2硬質相を特定する。
【0055】
(C4)第2硬質相が特定された反射電子像を画像解析ソフトウェア(マウンテック社製「Mac-View Version.5」(商標))でコンピュータに取り込み、以下の条件で各第2硬質相の面積を測定する。
・取得モード:色差
・検出許容量:32、検出確度:0.5
・走査:密度10×1回
・ハイカット:有効[110]
・ローカット:反転[150]
【0056】
(D4)第2硬質相が30個以上確認できる視野を3視野特定する。3視野中の全ての第2硬質相に基づき、第2硬質相の面積の中央値および第2硬質相の面積の変動係数を測定する。本開示において、上記で測定された第2硬質相の面積の中央値および第2硬質相の面積の変動係数が、超硬合金の断面における第2硬質相の面積の中央値および第2硬質相の面積の変動係数に該当する。
【0057】
同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
【0058】
<結合相>
≪組成≫
実施形態1の超硬合金において、結合相はコバルトを50質量%以上含む。これにより、超硬合金は優れた靱性を有することができる。結合相のコバルト含有率は、50質量%以上100質量%以下でもよく、60質量%以上90質量%以下でもよく、または、70質量%以上80質量%以下でもよい。
【0059】
結合相のコバルト含有率の測定方法は、以下の通りである。上記の超硬合金の第1硬質相等の含有率の測定方法の(A1)~(E1)と同一の方法で、元素マッピング像において、結合相の存在領域を特定する。元素マッピング像の画像中に、24.9μm×18.8μmの矩形の1つの測定視野を設定する。測定視野中の結合相の存在領域において、コバルト含有率を測定する。本開示において、6つの測定視野における結合相の存在領域におけるコバルト含有率の平均が、結合相のコバルト含有率に該当する。
【0060】
同一の試料において測定する限りにおいては、上記測定を測定視野の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認されている。
【0061】
結合相は、本開示の効果を損なわない範囲において、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)等を含むことができる。結合相は、コバルトと、ニッケルおよび鉄の一方または両方を含んでもよい。結合相は、コバルトと、ニッケルおよび鉄の一方または両方とからなってもよい。
【0062】
<クロム>
実施形態1の超硬合金は、クロムを0.08質量%以上0.5質量%以下含んでもよい。超硬合金のクロムの含有率は、0.10質量%以上0.48質量%以下でもよく、または、0.12質量%以上0.46質量%以下でもよい。超硬合金のクロム含有率は、ICP発光分析により測定される。
【0063】
<製造方法>
実施形態1の超硬合金は、例えば、準備工程、混合工程、成形工程、焼結工程および冷却工程を経て作製することができる。
【0064】
<準備工程>
準備工程では、原料粉末を準備する。原料粉末としては、WC粉末、TaNbC粉末、TaNbN粉末、TaNbCN粉末、TiCN粉末、TiNbC粉末、TiNbN粉末、TiNbCN粉末、NbC粉末、Ta2O5粉末、TiO2粉末、Co粉末、Ni粉末、Fe粉末等が挙げられる。これらの原料粉末は、狙いとする超硬合金の組成に基づき、適宜選択される。粒成長抑制剤として、炭化クロム(Cr3C2)粉末を準備してもよい。
【0065】
炭化タングステン(WC)粉末の平均粒径は、1.0μm以上1.8μm以下である。
【0066】
TaNbC粉末、TaNbN粉末、TaNbCN粉末、TiCN粉末、TiNbC粉末、TiNbN粉末、TiNbCN粉末、NbC粉末、Ta2O5粉末、および、TiO2粉末の平均粒径は、1μm以上2μm以下である。これらの粉末は、第2硬質相の原料粉末である。
【0067】
Co粉末、Ni粉末、および、Fe粉末の平均粒径は、0.1μm以上5μm以下でもよい。
【0068】
上記の原料粉末の平均粒径は、フィッシャー法による平均粒径である。
【0069】
<混合工程>
混合工程では、原料粉末を所定の割合で混合して混合粉末を得る。各原料粉末の混合割合は、狙いとする超硬合金の組成に応じて適宜調整する。混合にはボールミルを用いる。混合条件は、ボール径6mm、回転数100rpm、混合時間12~48時間である。
【0070】
<成形工程>
成形工程では、混合粉末を所望の形状に成形して、成形体を得る。成形方法および成形条件は、一般的な方法および条件を採用すればよく、特に問わない。
【0071】
<焼結工程>
焼結工程では、まず、成形体を1365~1400℃まで加熱して、240分間保持する。1000℃以上での昇温速度は5℃/分とする。ここでの圧力は、真空でもよいし、N2条件下(流量2L/分、分圧5kPa)でもよい。次に、-0.8~-1.2℃/分の降温速度で1200℃まで冷却して、超硬合金中間体を得る。
【0072】
次に、超硬合金中間体に対してHIP処理(HIP:Hot Isostatic Pressing)を行う。具体的には、超硬合金中間体に対して、Arガスを圧力媒体として、温度1320℃かつ圧力10MPaを60分間加える。その後、徐冷して実施形態1の超硬合金を得る。徐冷時の降温速度は、一般的な条件を採用すればよく、特に制限されない。
【0073】
<実施形態1の超硬合金の製造方法の特徴>
実施形態1の超硬合金の製造方法において、上記の混合条件を採用することにより、WC粒子および第2硬質相の原料粉末の過剰な粉砕が抑制され、粒径を制御できる。更に、1365~1400℃での保持時間は240分であり、一般的な保持時間よりも長く、降温速度が-0.8~-1.2℃/分であり、一般的な降温速度よりも小さい。上記の条件によって、第2硬質相の成長が促進され、超硬合金の断面において、第2硬質相の面積の中央値が0.90μm2以上1.20μm2以下であり、第2硬質相の面積の変動係数が0.50以上1.20以下である実施形態1の超硬合金を製造することができる。これは、本発明者らが鋭意検討の結果、見いだしたものである。
【0074】
[実施形態2:切削工具]
本開示の一実施形態(以下「実施形態2」とも記す。)の切削工具について、
図2を用いて説明する。
図2に示されるように、実施形態2の切削工具10は、実施形態1の超硬合金からなる基材5と、基材5上に設けられた被膜6と、を備える。実施形態2の切削工具は、CFRPの加工においても、長い工具寿命を有することができる。この理由は明らかではないが、以下の通りと推察される。
【0075】
実施形態2の切削工具では、実施形態1の超硬合金からなる基材上に、被膜が設けられている。安定した工具性能を得るためには、被膜の安定性(優れた耐剥離性、および、被膜組織の均一性)が肝要である。被膜の安定性は、基材の内部組織によって変化する。実施形態1の超硬合金の断面において、第2硬質相の面積の中央値は0.90μm2以上1.20μm2以下であり、第2硬質相の面積の変動係数が0.50以上1.20以下である。これによると、基材と被膜との密着性が向上し、実施形態2の切削工具は、CFRPの加工においても、長い工具寿命を有することができる。
【0076】
切削工具の種類は、特に限定されない。切削工具としては、切削バイト、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマまたはタップ等を例示できる。
図3に示されるように、実施形態2の切削工具10は、特にエンドミルの場合に、優れた効果を発揮することができる。
図2に示される切削工具10の基材5は、実施形態1の超硬合金からなる。
【0077】
被膜は、基材の表面の全部を覆うように配置されていてもよいし、一部を覆うように配置されていてもよい。被膜が基材の一部を覆うように配置されている場合は、基材の少なくとも切削に関与する部分の表面を覆うように配置されていることが好ましい。本開示において、基材の切削に関与する部分とは、基材において、刃先稜線からの距離が0.5mm以内の領域を意味する。
【0078】
被膜の組成は、周期表4,5,6族の金属元素、アルミニウム(Al)、及び珪素(Si)からなる群より選ばれる1種以上の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群より選ばれる1種以上の元素とからなる化合物でもよい。例えば、TiCN、Al2O3、TiAlN、TiN、TiC、AlCrN等が挙げられる。また、被膜の組成は、立方晶窒化硼素(cBN)、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドでもよい。ダイヤモンドは、単結晶ダイヤモンドでも多結晶ダイヤモンドでもよい。
【0079】
被膜は、単層でも多層でもよい。被膜の厚さは、1μm以上20μm以下でもよく、または、5μm以上15μm以下でもよい。
【0080】
実施形態2の切削工具は、例えば、以下の方法で作製される。まず、実施形態1からなる基材を準備する。基材の表面に対して、酸およびアルカリでエッチング処理を行う。
【0081】
エッチング処理後の基材上に、被膜を形成して、実施形態2の切削工具を得る。被膜は、化学的蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法や物理的蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)法等の気相法により形成することができる。
【0082】
被膜がCVD法により形成されていると、基材との密着性に優れる被膜が得られ易い。CVD法としては、例えば、熱フィラメントCVD法等が挙げられる。熱フィラメントCVD法の成膜条件は、例えば、ダイヤモンドからなる被膜を形成する場合、温度650~800℃、圧力500Pa、使用ガスとその流量比H2/CH4=100/1~5でもよい。
【0083】
被膜がPVD法により形成されていると、圧縮残留応力が付与され、その靱性を高め易い。
【0084】
[付記1]
本開示の切削工具は、実施形態1の超硬合金からなる基材と、前記基材上に設けられた被膜と、を備え、
前記被膜は、ダイヤモンドからなる、切削工具。
【実施例】
【0085】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0086】
[超硬合金の作製]
以下の手順で、各試料の超硬合金を作製した。
<準備工程>
原料粉末として、WC粉末、TaNbC粉末(平均粒径:1μm)、TiCN粉末(平均粒径:1μm)、NbC粉末(平均粒径:1μm)、Ta2O5粉末(平均粒径:1μm)、TiO2粉末(平均粒径:1μm)、Cr3C2粉末(平均粒径:1μm)、Co粉末(平均粒径:1μm)、Ni粉末(平均粒径:1μm)、Fe粉末(平均粒径:1μm)を準備した。WC粉末は、アライドマテリアル社製のWC08(平均粒径:0.8μm)、WC10(平均粒径:1.0μm)、WC12(平均粒径:1.2μm)、WC15(平均粒径:1.5μm)、WC20(平均粒径:2.0μm)をそれぞれカッコ内の平均粒径となるように準備した。TaNbC粉末は、H.C.Starck社製の「TaNbC 67/33」を、平均粒径1μmとなるように準備した。
【0087】
<混合工程>
原料粉末を、表1に記載の割合で、ボールミルまたはアトライターで混合して混合粉末を得た。「ボールミル」での混合条件は、ボール径6mm、回転数100rpm、混合時間24時間とした。「アトライター」での混合条件は、回転数250rpm、混合時間1時間とした。
【0088】
【0089】
<成形工程>
混合粉末をプレスすることにより、丸棒形状の成形体を得た。
【0090】
<焼結工程>
成形体を、表2の「焼結」の「保持」欄に記載の温度まで加熱し、該温度で「保持」欄に記載の時間保持した。1000℃以上での昇温速度は「1000℃以上の昇温速度」欄に記載の通りである。保持の際の圧力は、真空(vac)またはN2条件下(流量2L/分、分圧5kPa、表において「N2(2L-5kPa)」と示す。)とした。
【0091】
次に、表2の「降温速度」欄に記載の降温速度で1200℃まで冷却して、超硬合金中間体を得た。
【0092】
次に、超硬合金中間体に対してHIP処理を行った。具体的には、超硬合金中間体に対して、Arガスを圧力媒体として、温度1320℃かつ圧力10MPaを60分間加えた。その後、徐冷して、各試料の超硬合金を得た。
【0093】
【0094】
[超硬合金の評価]
<超硬合金の第2硬質相の含有率および結合相の含有率>
各試料の超硬合金の第2硬質相の含有率および結合相の含有率を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「超硬合金」の「第2硬質相」の「含有率」欄および「結合相」の「含有率」欄に示す。なお、全ての試料において、第2硬質相および結合相以外は、第1硬質相であった。
【0095】
<炭化タングステン粒子の粒径のD10およびD90>
各試料の超硬合金において、炭化タングステン粒子の粒径のD10およびD90を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「超硬合金」の「第1硬質相」の「D10」および「D90」欄に示す。
【0096】
<第2硬質相の組成>
各試料の超硬合金において、第2硬質相の組成を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「超硬合金」の「第2硬質相」の「組成」欄に示す。
【0097】
<第2硬質相の面積の中央値および変動係数>
各試料の超硬合金の断面において、第2硬質相の面積の中央値および第2硬質相の面積の変動係数を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「超硬合金」の「第2硬質相」の「D50」および「変動係数」欄に示す。
【0098】
<結合相の組成>
各試料の超硬合金において、結合相の組成および結合相のコバルト含有率を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「超硬合金」の「結合相」の「組成」および「Co含有率」欄に示す。
【0099】
<超硬合金のクロム含有率>
各試料の超硬合金のクロム含有率を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載の通りである。結果を表3の「超硬合金」の「Cr含有率」欄に示す。
【0100】
【0101】
[切削工具の作製]
各試料の超硬合金からなる丸棒を加工し、エンドミル形状(型番:SSDC4100)の基材を作製した。基材の表面に対して、酸およびアルカリでエッチング処理を行った。
【0102】
エッチング後の基材上に熱フィラメントCVD法により、厚さ8μmの多結晶ダイヤモンドからなる被膜を形成して、各試料の切削工具(エンドミル)を得た。熱フィラメントCVD法での成膜条件は、700℃、500Pa、使用ガスとその流量比H2/CH4=100/1であった。
【0103】
各試料のエンドミルを用いてCFRPの側面加工を行った。加工条件は、切削速度Vc250m/min、テーブル送りF800mm/min、切込み量(軸方向)ap6mm、切込み量(半径方向)ae1mm、ドライ加工とした。バリ発生までの切削長を測定した。切削長が長いほど、工具寿命が長いと判断される。結果を表3の「切削試験」の「切削長」欄に示す。
【0104】
[考察]
試料1~試料20の超硬合金および切削工具は、実施例に該当する。試料21~試料31の超硬合金および切削工具は、比較例に該当する。実施例の切削工具は、比較例の切削工具に比べて、工具寿命が長いことが確認された。実施例の切削工具は、CFRP加工に用いた場合において、長時間の安定加工が可能であることが確認された。実施例の切削工具は、基材と被膜との密着力が高いため、膜剥離に伴う抵抗の増加を抑制でき、長時間にわたりバリの発生を抑制できたと推察される。
【0105】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0106】
1 第1硬質相、2 第2硬質相、3 結合相、4 超硬合金、5 基材、6 被膜、10 切削工具。
【要約】
第1硬質相と、複数の第2硬質相と、結合相とからなる超硬合金であって、前記第1硬質相は、複数の炭化タングステン粒子からなり、前記炭化タングステン粒子の粒径のD10は、0.40μm以上であり、前記炭化タングステン粒子の粒径のD90は、2.00μm以下であり、前記第2硬質相は、TaNbC、TaNbN、TaNbCN、TiCN、TiNbC、TiNbN、および、TiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物からなり、前記超硬合金は、前記第2硬質相を0.30体積%以上1.60体積%以下含み、前記超硬合金の断面において、前記第2硬質相の面積の中央値は、0.90μm2以上1.20μm2以下であり、前記第2硬質相の面積の変動係数は、0.50以上1.20以下であり、前記結合相は、コバルトを50質量%以上含み、前記超硬合金は、前記結合相を8.0体積%以上12.0体積%以下含む、超硬合金である。