(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-25
(45)【発行日】2025-09-02
(54)【発明の名称】情報記録体
(51)【国際特許分類】
B42D 25/378 20140101AFI20250826BHJP
B42D 25/342 20140101ALI20250826BHJP
B42D 25/41 20140101ALI20250826BHJP
B41M 5/40 20060101ALI20250826BHJP
B41M 5/382 20060101ALI20250826BHJP
【FI】
B42D25/378
B42D25/342
B42D25/41
B41M5/40 400
B41M5/40 300
B41M5/382 800
(21)【出願番号】P 2021132209
(22)【出願日】2021-08-16
【審査請求日】2024-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】浦田 誠子
(72)【発明者】
【氏名】牛腸 智
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-199682(JP,A)
【文献】特開2002-283696(JP,A)
【文献】特開2015-174224(JP,A)
【文献】特開2003-312172(JP,A)
【文献】特開2006-123174(JP,A)
【文献】特開2021-094740(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0139024(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/035
5/26
5/36-5/48
5/50
5/52
B42D 15/02
25/00-25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれプラスチックシートからなる第1の保護層、レーザー発色層、コア層、第2の保護層、オーバーレイ層をこの順に積層してなる情報記録体において、前記オーバーレイ層が少なくとも赤外線透過インクによってオンデマンドで画像形成された第1のセキュリティ絵柄を含み、該
第1のセキュリティ絵柄と、前記レーザー発色層にレーザーエングレービングによってオンデマンドで画像形成された第2のセキュリティ絵柄とを重ね合わせて得られる画像が、観察角度によって異なるセキュリティ絵柄情報を表示することを可能とする情報記録体。
【請求項2】
前記観察角度によって異なるセキュリティ絵柄情報が、モアレパターンによって顕像化されたものであることを特徴とする請求項1に記載の情報記録体。
【請求項3】
前記オーバーレイ層が、感熱転写法によって形成された絵柄を含む中間転写箔を、前記第2の保護層に接着することによって積層されることを特徴とする
請求項1または2に記載の情報記録体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパスポートや査証などの冊子、カード等の情報記録体において、偽造防止効果の高い画像を有する情報記録体および感熱転写媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポートや査証用ステッカー、あるいはIDカード類などの個人認証に係わる情報記録体においては、その個人情報を保護するために、様々なセキュリティ手法が提案されている。
【0003】
例えば、パスポートにおいては、現在使用されているパスポートあるいはICAO(International Civil Aviation Organization)の規定によれば、目視および光学文字識別方式の両方で読めなければならないとされているが、使用する材質やセキュリティに関しては各国の自由裁量であるとされている。
【0004】
セキュリティ機能として一般に使われているものは、有機溶剤等で反応する化学反応体、虹彩色のパールチップ、ファイバー(絹もしくは合成繊維、可視もしくは不可視、蛍光もしくは非蛍光)、ホログラムやマイクロ文字の印刷されたフィルムのセキュリティ糸、透かし模様等を盛り込んだ用紙や退色性インク、蛍光インク、感熱インク、光学的に変化するインク(いわゆるOVIなど)等の各種インク、細線印刷、レインボー印刷、凹版印刷、ピクセル印刷等の様々な技法を盛り込んだセキュリティと美観の同時向上を図っている。
【0005】
パスポートの目視確認情報としての顔写真は、従来写真を貼りあわせたものであったが、近年では写真情報をデジタル化し、これをパスポートに画像形成する傾向にある。パスポートへの画像形成方法としては、顔料を分散させた樹脂型溶融タイプやワックス溶融タイプ、更には染料の昇華・拡散を用いた昇華タイプなどの転写リボンによる感熱転写記録法、電子写真法、インクジェット法、などが検討されている。
【0006】
この種の個人認証データの入った画像表示媒体としては、画像データに基づいて形成された画像パターンをポリ塩化ビニルやポリカーボネート等の基材上に備えたものや、紙基材上に備えたもの、更には上記画像パターンに加えてホログラムや回折格子を具備するもの等が知られている。
【0007】
顔写真の他に個人を特定する情報を複数個入れる方法が考えられている。例えば顔写真の中に電子透かし情報を入れ、その情報を同一媒体中のICチップに記憶して、電子透かし情報とICチップの情報を照合することで認証する方法がある(下記特許文献1)。
【0008】
また、顔写真情報の特徴点を数値化して、その値を2次元コード化して同一媒体中に印字し、2次元コードのデータと顔写真の特徴点を照合することで認証する方法がある(下記特許文献2)。
【0009】
しかしながら、下記特許文献2や下記特許文献3の技術ではICチップの情報や2次元コードを読み取るための専用の装置およびデコーダが必要であり、認証できる場面が限られるという課題があった。
【0010】
他の検証方法として、目視情報による認証が可能な顔写真を複数個入れる方法が考えられ、前記方式で設けた顔写真の他に蛍光材料を用いて同じ顔写真を形成する方法がある(下記特許文献3、4、5)。
【0011】
しかしながら、これらの蛍光材料を用いる方法では、紫外線ランプ(ブラックライト)を用いる必要があるため、認証できる場面が限られている。
【0012】
顔写真などの画像パターンに加えてホログラムや回折格子を形成する方法としては、顔写真などの画像パターンが形成される受像シートとして、ホログラム層を有する中間転写媒体を用いた中間転写方法による画像形成法などを例示することができる(下記特許文献6)。
【0013】
このようなホログラムまたは回折格子転写箔は、偽造防止効果としては十分な機能を果たすが、パスポートのように顔写真などの画像形成後に該画像上にホログラムまたは回折格子転写層を熱的に転写しているため、偽造技術の発達した現在では何らかの手法により転写層を一旦取り去り、画像データ等の改ざんを行った後、改めて転写箔を載せるといったことが行われる可能性もでてきた。
【0014】
この問題を解決するため、光学素子の下に隠蔽パターンを施し、さらに黄(Y)・マゼンタ(M)・シアン(C)の内2色を用いてパターンを形成することでカラー変化のあるモアレを形成して視認する技術が提案されている(下記特許文献7)。
【0015】
しかし下記特許文献7の技術では絵柄を印字した側とは反対側から光学素子を介して隠蔽パターンを視認する必要があり、認証手順が煩雑となる課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2001-126046号公報
【文献】特開2004-70532号公報
【文献】特開平7-125403号公報
【文献】特開2000-141863号公報
【文献】特開2002-226740号公報
【文献】特開平6-106740号公報
【文献】特開2019-142083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明は、前記のような課題に対処するためになされたものであって、高いセキュリティ性を求められるパスポートや査証などの冊子、カード等の情報記録体において、偽造防止効果が高く、かつ真正性の判別が容易な画像を有する情報記録体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、それぞれプラスチックシートからなる第1の保護層、レーザー発色層、コア層、第2の保護層、オーバーレイ層をこの順に積層してなる情報記録体において、前記オーバーレイ層が少なくとも赤外線透過インクによってオンデマンドで画像形成された第1のセキュリティ絵柄を含み、該第1のセキュリティ絵柄と、前記レーザー発色層にレーザーエングレービングによってオンデマンドで画像形成された第2のセキュリティ絵柄とを重ね合わせて得られる画像が、観察角度によって異なるセキュリティ絵柄情報を表示することを可能とする情報記録体である。
【0019】
また請求項2に記載の発明は、前記観察角度によって異なるセキュリティ絵柄情報が、モアレパターンによって顕像化されたものであることを特徴とする請求項1に記載の情報記録体である。
【0020】
また請求項3に記載の発明は、前記オーバーレイ層が、感熱転写法によって形成された絵柄を含む中間転写箔を、前記第2の保護層に接着することによって積層されることを特徴とする請求項1または2に記載の情報記録体である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、情報記録媒体を観察する角度を変えるだけで異なる絵柄を表示することができ、簡便に情報記録媒体の真正性を確認することができる。
【0024】
また本発明によれば、赤外線透過インクで形成される第1の絵柄と、レーザーエングレービングで形成される第2の絵柄とを、ともにオンデマンドで形成できることから、印刷版を必要とすることなく個々にユニークな情報記録体を大量に製造することが可能となる。
【0025】
また本発明によれば、前記第1の絵柄が赤外線透過インクパネルによる単色で行えることから、モアレ生成に要する細密画像の形成について、多色の場合に必要となる精密な位置合わせが不要となり、容易に行うことが可能となる。
【0026】
また本発明によれば、第1の絵柄の直下に形成する第2の絵柄をレーザーエングレービングで形成する際、第1の絵柄が赤外線透過インクから成ることから、レーザーエングレービングの品質に影響を与えることもない。
【0027】
また本発明によれば、特別なセキュリティ用の画像形成設備を必要とせずに従来の感熱転写設備を利用して前記第1の絵柄を含むオーバーレイの絵柄を形成することができる。
【0028】
また本発明によれば、真正性を確認する絵柄が、単独の層の画像ではなく、二つの異なる方法によって形成された異なる層の画像が組み合わされることによってのみ発現することから、変偽造が極めて困難な情報記録体が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実例における感熱転写媒体の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の情報記録体を発行するプリンタの一例を示す模式図である。
【
図3】本発明で発行した情報記録体の一例の模式図である。
【
図4】本発明の実施例における情報記録体をA-A’で切断した断面図である。
【
図5】本発明の実施例におけるパターン1、パターン2の位置と視認角の例を示した断面図である。
【
図6】本発明の実施例における情報記録体を傾けた時のセキュリティ画像(モアレ画像)の画像変化の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明において適宜図面を参照するが、図面に記載された態様は本発明の例示であり、本発明はこれらの図面に記載された態様に制限されない。
【0031】
尚、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全て図面を通じて同一の参照符号を附し、重複する説明は省略する。
【0032】
(感熱転写媒体)
図1は、本発明の一実施形態に係る感熱転写媒体の斜視図である。
図1に示す感熱転写媒体1は、帯形状を有している。
図1において、感熱転写媒体1は、一端が巻き出されたロールの形態にある。感熱転写媒体1は、他の形状を有していてもよい。
【0033】
感熱転写媒体1は、支持体2と、色材層となるインクパネルK、C、M、Y、セキュリティ層となる赤外吸収インクパネルS及び接着層となるプライマインクパネルPとを含んでいる。必要に応じて、蛍光パネルや光輝性パネルを追加挿入しても構わない。
【0034】
支持体2は、帯形状を有している。支持体2は、他の形状を有していてもよい。
支持体2は、転写時の熱に対して十分な耐性を有している。支持体2は、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのポリマーフィルムである。支持体2は、単層構造を有していてもよく、また多層構造を有していてもよい。
【0035】
インクパネルK、C、M、Y、S及びPは、支持体2の一方の主面上に設けられている。より詳細には、支持体2の上記主面上では、インクパネルK、C、M、Y、S及びPから各々がなる複数のインクパネル群が、面内方向に、ここでは、支持体2の長手方向に配列している。各インクパネル群では、インクパネルK、C、M、Y、S及びPは、面内方向に配列している。ここでは、各インクパネル群では、支持体2の長手方向に、インクパネルK、C、M、Y、S及びPがこの順に配列している。また、ここでは、インクパネルK、C、M、Y、S及びPは、支持体2の幅方向の伸びた帯形状を各々が有している。
【0036】
各色相パネルであるインクパネルK、C、M及びYは、それぞれ、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローのカラーインクパネルである。インクパネルK、C、M及びYの各々は、熱転写インクからなる。ここでは、熱転写インクは、色材とバインダ樹脂とを含んだカラーインクである。インクパネルK、C、M及びYが含んでいる色材は、1種以上の顔料、1種以上の染料又はそれらの組み合わせである。インクパネルKを構成しているカラーインク、インクパネルCを構成しているカラーインク、インクパネルMを構成しているカラーインク、及びインクパネルYを構成しているカラーインクは、それぞれ、白色光で照明した場合に、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエロー色を呈する。
【0037】
インクパネルSに使用する赤外線透過インクは、プロセスカラーであるシアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料を混色して黒色を呈する方法が一般的である。この他にも、ビスベンゾフラン系顔料、アゾメチン系顔料、ぺリレン系顔料、アゾ系染料および硫化ビスマス顔料を使用することができる。
【0038】
各色相パネルとインクパネルSに用いられるバインダーとしては、実質的に透明な熱可塑性樹脂であれば、いずれも用いることができ、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系樹脂、ロジン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを例示することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、また各熱可塑性樹脂を単独あるいは混合物、更には共重合物などの複合物として用いることができる。また、シリカ、タルク、炭酸カルシウムなどに例示されるフィラー類やワックス類が添加されても良い。
【0039】
インクパネルPに用いられる熱可塑性樹脂は、転写箔と情報記録体の基材(プラスチック)とを接着する材料であれば良く、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニルや酢酸ビニル等のビニル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、あるいはこれらの各種誘導体や共重重合体などを例示することができるが、必ずしもこれらの限定されるものではない。また、各種樹脂は単独あるいは2つ以上の混合物または複合物などでもよく、更には、シリカ、タルク、炭酸カルシウムなどに例示される無期刑フィラー類、有機系フィラー類などの他に、ワックス類などが添加されても良い。
【0040】
インクパネルK、C、M、Y、S及びPの各々の寸法は、適宜設定すること、例えば、感熱転写媒体1から熱転写インクを転写すべき記録媒体における記録領域の寸法等に合わせることができる。
【0041】
感熱転写媒体1は、支持体2のインクパネルK、C、M、Y、S及びPとは反対側に、耐熱層及び滑性層などのバックコート層を更に設けてもよい。
【0042】
(中間転写箔)
中間転写箔は少なくとも、感熱転写媒体1から転写される受像層が必要だが、必要に応じて、剥離層、アンカー層、ホログラム形成層などを積層しても構わず、支持体には受像層の反対側にバックコート層を形成しても良い。支持体としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリカ―ドネート、アクリル樹脂、ポリプロピレン、トリアセチルセルロースなど樹脂フィルムを用いることができる。
【0043】
前記受像層は、例えば、線状飽和ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂等の塩化ビニル径樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸-2-メトキシエチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリメチルクロロアクリレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸-tert-ブチル、ポリメタクリル酸イソブチル、ポリメタクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸アルキル(ただし、アルキル基の炭素数2~6)の共重合樹脂等のビニル径樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリジビクリルベンゼン、ポリビニルベンゼン、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの樹脂は、単独または2種類以上の混合物や積層物などの複合物として用いても良く、更には紫外線吸収剤やフィラー類等の各種添加物が添加されていてもよい。
【0044】
前記剥離層は、加熱時の剥離性や箔切れ性を有すると共に、被転写体(基材)に転写された後、外部からの化学的、機械的破損を防止する機能を有することが好ましく、例えば、熱可塑性アクリル樹脂、セルロース系樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂などが挙げられ、必ずしもこれらに限定するわけではない。また、これらの樹脂は、単独または2種類以上の混合物や積層物などの複合物として用いても良く、更にはフッ素樹脂パウダー、ポリエチレンパウダー。動物系ワックス、植物系ワックス、脂肪族アルコールと酸系ワックス、アミンおよびアマイド系ワックス、塩素化成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸の金属塩などの耐摩擦剤や無機物などが添加されていても良い。
【0045】
前記アンカー層は必要に応じて設けることができ、例えば、ホログラムや回折格子などによるセキュリティ画像を有するOVD(Optical Variable Device)層として設けることも可能である。
【0046】
(転写箔を除く情報記録体)
転写箔を接着する前の情報記録体(以下、情報記録体基材)を構成する第1の保護層、レーザー発色層、コア層、および第2の保護層は、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリカ―ボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、アクリル系樹脂、ポリプロピレン樹脂などポリオレフィン樹脂からなるプラスチック樹脂などが挙げられるが必ずしも限定されるわけではない。また熱圧着した際に情報記録体がより均一になり耐久性が上がるため、各層共に同一の基材で構成するのが好ましい。
【0047】
前記レーザー発色層は、レーザー光の照射によって炭化するポリカーボネート樹脂、コアシートや保護シートと同様の樹脂に対してレーザー発色剤を混入したものが挙げられる。各層の厚みは、保護層の厚みは50μm以上200μm以下が望ましく、コア層の厚みは50μm以上600μm以下が望ましく、レーザー発色層の厚みは20μm以上200μm以下が望ましい。
【0048】
前記レーザー光はYAGレーザー、YVO4レーザー(1064nm)かCO2レーザー(10600nm)などの使用を想定する。
【0049】
(情報記録体の作成方法)
図2は、情報記録体の製造に使用可能な間接転写記録装置の一例を概略的に示す図である。
【0050】
本発明の実施形態に係る情報記録体は、上述のような感熱転写媒体1と熱転写プリンタとを使用して製造することができる。
図2には、熱転写プリンタを間接転写方式のプリンタである一次転写部101で構成した例を示している。
【0051】
図2に示す間接転写記録装置では、感熱転写媒体1は、感熱転写媒体巻き出し部3から巻き出され、中間転写箔6への熱転写プリントを行う一次転写部101のサーマルヘッド5とプラテンローラ10との間を通過し、その後、感熱転写媒体巻き取り部4に巻き取られる。また、中間転写箔6が、巻出しロール7から巻き出され、一次転写部101のサーマルヘッド5とプラテンローラ10との間を通過し、次いで、被転写体である記録媒体11に熱圧転写を行う二次転写部102でヒートローラ9とプラテンローラ10との間を通過し、その後、中間転写箔巻き取り部8に巻き取られる。
【0052】
一次転写部101においては、感熱転写媒体1から中間転写箔6の受像層ともなるオーバーレイ層上に、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの4色のインクパネルK、C、M及びYからカラー画像や文字等のパターンが転写されるとともに、赤外線透過インクパネルSから第1のセキュリティ絵柄が転写される。更にプライマインクパネルPから接着層が転写される。
【0053】
各パターンが形成された中間転写箔6は、二次転写部102に搬送され、ヒートローラ9により情報記録体基材11に熱圧着されることで、一次転写部101で形成された各パターンがオーバーレイ層と共に情報記録体基材11に転写され、情報記録体12が形成される。
【0054】
このようにしてカラー画像や文字等のパターン及び光輝性パターンは、サーマルヘッド5の動作を適宜制御することで任意の形状及び配置とすることができる。それ故、任意の個別情報を、中間転写箔6に、そして、情報記録体12に記録することができる。
【0055】
更に、ここでは図示していないが、該情報記録体12に対し、中間転写箔側からレーザー光を選択的に照射することによって、レーザー発色層に第2のセキュリティ絵柄を形成する。
【0056】
(情報記録体)
図3は先に述べたようにして得られた情報記録体12の例を示す平面図である。
図3では、情報記録体12における個人情報印字領域に、顔写真画像からなる第1画像13と、同じく顔写真画像ではあるが、前記第1のセキュリティ絵柄と第2のセキュリティ絵柄が重ね合わせられた第2画像14と、氏名、生年月日、個人番号などに代表されるような文字情報からなる文字列15が設けられている。
【0057】
図4は
図3におけるA-A’の断面図である。前記第1画像13は、インクパネルC,M,Yの合成によってカラー画像として、前記文字列15はインクパネルKによってモノクロ画像として、それぞれ前記中間転写箔6に形成されたものがオーバーレイ16として第1の保護層21上にプライマ層Pによって接着積層されている。
【0058】
前記第2画像14は、前述のC,M,Y,Kと同層にインクパネルSによる第1のセキュリティ絵柄14-P1として、またレーザーエングレービングによってレーザー発色シート21内に形成された第2のセキュリティ絵柄14-P2としてそれぞれ形成されていることが示されている。また第1のセキュリティ絵柄14-P1と第2のセキュリティ絵柄14-P2の間は第1の保護層21とコア層19の厚みの和の距離hによって隔てられている。
【0059】
前記距離h、すなわちセキュリティ情報をモアレとして発生させる第1のセキュリティ絵柄14-P1と第2のセキュリティ絵柄14-P2の距離はパターンピッチ以上である必要があり、100μm以上あることが好ましい。第1のセキュリティ絵柄14-P1と第2のセキュリティ絵柄14-P2との距離を空けるほど、情報記録媒体12を傾けた時のモアレ画像の動きがダイナミックになり、視認性が向上する。
【0060】
情報記録媒体12の基材は、全て透明基材(透明プラスチックカード)か前記第2画像14のある部分のみ透明(窓空きプラスチックカード)であれば良い。プラスチックカードの反りを軽減するために対称的な厚み構造を取ることが好ましい。
【0061】
セキュリティパネルSによって形成された第1のセキュリティ絵柄14-P1はモアレ画像の1つとなる。該第1のセキュリティ絵柄14-P1は、直線でも直線でなくても構わない。第1のセキュリティ絵柄14-P1のパターンピッチは、第1のセキュリティ絵柄14-P1と第2のセキュリティ絵柄14-P2の距離hよりも狭ければ良い。また、第1のセキュリティ絵柄14-P1のラインピッチはライン幅に追従し、ライン幅は、40μm以上400μm以下であれば良く、ライン幅を変えることで顔画像を形成する。
【0062】
得られた情報記録媒体12のオーバーレイ16側からレーザー光を照射し、第2画像14領域内に第1のセキュリティ絵柄14-P1の上からレーザー光によってレーザー印字層20を炭化させ(
図4ではLと図示)、第2のセキュリティ絵柄14-P2を形成する。この時、第1のセキュリティ絵柄14-P1が赤外線透過インクで形成されていることから、レーザー光のエネルギー損失が少なく、確実なレーザーエングレービングが可能となる。
【0063】
形成された第2のセキュリティ絵柄14-P2はもう一つのモアレ画像となる。第2のセキュリティ絵柄14-P2は、直線でも直線でなくても構わない。第2のセキュリティ絵柄14-P2のパターンピッチは、第1のセキュリティ絵柄14-P1と第2のセキュリティ絵柄14-P2の距離間よりも狭ければ良く、第1のセキュリティ絵柄14-P1とずらした位置に形成させることで、情報記録体を傾けた時に画像変化を伴うようにさせる。また、セキュリティ絵柄14-P2のラインピッチは第1のセキュリティ絵柄14-P1のラインピッチに追従し、セキュリティ絵柄14-P2のライン幅は、20μm以上第1のセキュリティ絵柄14-P1のライン幅以下であれば良い。
【0064】
(真贋判定)
図5は前記第2画像の観察位置による画像の違いがもたらされることを模式的に示す情報記録体の断面図であり、該情報記録体12を視野角A(正面)22から見た場合と視野角B(斜め)23から見た場合を横から見た状態が示されている。
【0065】
図6は前記視野角A(正面)22で観察して得られる視野角A(正面)で認証した時の情報記録体イメージ24の正面図と、前記視野角B(斜め)23で観察して得られる視野角B(斜め)23で認証した時の情報記録体イメージ26の斜視図である。
【0066】
視野角A22で正面から見た情報記録体イメージ24では、第2の画像14の部分はモノクロの顔画像25として観察されるのに対し、斜視野角B23の斜めから見た情報記録体イメージ26では前記第2の画像14の部分に、セキュリティ効果(モアレ)が生じて、視野角A22では観察されなかった個人情報、例えば生年月日などの潜像が顕像化された画像27が観察される。
【0067】
このようにセキュリティパネルSによって形成された第1のセキュリティ絵柄14-P1と第2のセキュリティ絵柄14-P2のそれぞれ単独では観察できないセキュリティ潜像が、情報記録体12の観察角度を変えることによってモアレが発現して観察できる顕像27とすることができる。
【0068】
以下に本実施形態の実施例を示す。
(感熱転写媒体の作製)
支持体である4.5μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材の片面に、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色素を含む色相パネル、セキュリティパネル(S)、接着パネル(P)をポリエステル系樹脂に各種顔料を混合した混合樹脂をグラビアコーターにより、順次形成し、色材パネルの厚みが1.0μm、セキュリティパネル1~3の厚みが1.2μm、プライマパネル(P)が1.2μmとし、感熱転写媒体とした。
【0069】
各インクの組成は以下のとおりである。
[シアンインクの組成]
シアン顔料 5重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 15重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
[マゼンタインクの組成]
マゼンタ顔料 5重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 15重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
[イエローインクの組成]
イエロー顔料 5重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 15重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
[ブラックインクの組成]
カーボンブラック顔料 5重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 15重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
[セキュリティインクの組成]
赤外線透過インク シアン顔料 3重量部
マゼンタ顔料 3重量部
イエロー顔料 4重量部
バイロン500(東洋紡株式会社) 10重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
[プライマの組成]
バイロン500(東洋紡株式会社) 20重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
【0070】
(中間転写箔の作製)
12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)基材の片面に、オーバーレイ層としてエポキシ系樹脂をグラビアコーターにより、厚み0.8μmに形成し、中間転写箔6を得た。オーバーレイ層のインク組成は以下のとおりである。
[オーバーレイ層のインク組成]
jER1003(三菱ケミカル株式会社) 20重量部
MEK(東洋インキ製造株式会社) 80重量部
【0071】
(情報記録体の作製)
情報記録体の作製については
図2を用いて説明した前記(情報記録体の作成方法)に示した方法によって行った。
【0072】
第1画像13は色材パネルであるシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)よって形成され、文字列15はブラック(K)によって形成された。更に第2画像14はセキュリティパネル(S)によって第1のセキュリティ絵柄14-P1として形成され、カード表面に印画配置された。セキュリティパネル(S)によって形成された第1のセキュリティ絵柄14-P1はモアレ画像の1つとなる。該第1のセキュリティ絵柄14-P1は、ライン幅40μmから120μmの万線(直線)画像で形成した。
【0073】
第2画像14はセキュリティパネル(S)によって前記各画像と同層に第1のセキュリティ絵柄14-P1として印画配置されたものと、レーザー発色層に前記第1のセキュリティ絵柄14-P1を通して、YVO4レーザー(1064nm)を用いて選択的にレーザー光を照射して第2のセキュリティ絵柄14-P2として印画配置されたものを合わせて観察されるライン幅40μmの画像として形成した。それぞれは万線パターンとし、観察角度によって発生するモアレのコントラストによって顔画像内に配置した文字列の潜像が顕像化することが確認できた。
【0074】
以上のことから、通常の感熱転写媒体と同様の加工工程で、新たなセキュリティパネルを付与した感熱転写媒体を作製することができ、更に、レーザーエングレービングにと組み合わせることで、モアレによる画像変化を伴う個人認証ができる情報記録体が作製できた。
【0075】
特に認証における真正性を表す画像の形成が、単層のインクまたは光学物性によらず、複数の層に形成した情報の組み合わせによってのみ発現することから、極めて変偽造耐性の高い情報記録体が作製できた。
【符号の説明】
【0076】
1・・・感熱転写媒体
2・・・支持体
K・・・ブラックパネル
C・・・シアンパネル
M・・・マゼンタパネル
Y・・・イエローパネル
S・・・セキュリティパネル(赤外線透過インクパネル)
P・・・プライマパネル
3・・・感熱転写媒体巻き出し部
4・・・感熱転写媒体巻き取り部
5・・・サーマルヘッド
6・・・中間転写箔
7・・・中間転写箔巻き出し部
8・・・中間転写箔巻き取り部
9・・・熱ロール
10・・・プラテンローラ
11・・・情報記録体基材
12・・・情報記録体
13・・・第1画像
14・・・第2画像
14-P1・・・第2画像の第1のセキュリティ絵柄
14-P2・・・第2画像の第2のセキュリティ絵柄
15・・・文字列
A-A’・・・断面箇所
L・・・レーザー発色(炭化部分)
h・・・パターン1とパターン2の距離
16・・・オーバーレイ
17・・・剥離層
18・・・受像層
19・・・コアシート
20・・・レーザー印字シート
21・・・保護ラミシート
22・・・視野角A(正面)
23・・・視野角B(斜め)
24・・・視野角Aで認証した時の情報記録体イメージ
25・・・画像A
26・・・視野角Bで認証した時の情報記録体イメージ
27・・・画像B
101・・一次転写部
102・・二次転写部