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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-26
(45)【発行日】2025-09-03
(54)【発明の名称】軸受台上試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/045 20190101AFI20250827BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20250827BHJP
【FI】
G01M13/045
G01M17/007 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021125428
(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公開番号】P2023020183
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 啓介
(72)【発明者】
【氏名】上野 亮
(72)【発明者】
【氏名】用松 一真
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-004593(JP,A)
【文献】特開2000-074788(JP,A)
【文献】特開平10-153527(JP,A)
【文献】中国実用新案第211784278(CN,U)
【文献】米国特許第06234022(US,B1)
【文献】岡村吉晃 他,材料技術 車軸軸受のフレッチング摩耗の発生機構,鉄道総研報告,2017年08月01日,Vol.31、No.8,11-16頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B21/00-31/06、35/00-37/12
B60K23/00-23/08
F16C41/00-41/04
F16D25/00-39/00、48/00-48/12
G01B5/00-5/30
G01M13/00-13/045、17/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸とスプライン結合される回転子と、鋼球列及びグリスを挟んで前記回転子に外挿される固定子とからなる軸受部品を含む車両用のハブユニットを試験対象物として台上に設置して加振試験を行う軸受台上試験装置において、
前記固定子を固定し、加振入力が付与される加振部材と、
前記加振部材に対して振動を付与する加振入力装置と、
前記加振部材を柔支持する支持部材と、
前記回転子及び前記固定子のいずれよりも大径の略円環形状からなり、N極とS極とが円周方向に沿って交互に配置される磁石と、前記磁石の磁気を遮断する非磁性材料からなり、前記回転子を取り付ける回転子取付部を有する円板状部材と、を有し、前記回転子を固定する略円板形状からなる磁気プレートと、
前記磁石と協働して非接触状態を保持しながら前記磁気プレートを回転させる駆動力を発生させる複数の電磁コイルと、
前記複数の電磁コイルへの電流制御を行う駆動制御ユニットと、
前記車軸の外周面に対して非接触状態で巻回される金属製のコイル部材であって、交流電源からの電流を受けて電磁誘導により発熱する電熱コイルからなる軸受加熱装置と、
前記加振入力装置,前記駆動制御ユニット,前記軸受加熱装置を少なくとも制御するコントローラと、
を具備することを特徴とする軸受台上試験装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記駆動制御ユニットを通じて、前記電磁コイルに流れる電流量とオンオフタイミングとを制御し、前記磁気プレート及び前記回転子の回転方向と単位時間当たりの回転数とを設定し、
前記交流電源から前記電熱コイルに流れる電流量を制御して、前記電熱コイルの発熱量を制御し、前記ハブユニットの温度調整を行い、
前記加振入力装置を通じて前記加振部材に付与する振動の方向及び大きさを制御し、
前記試験対象物に取り付けられた加速度センサからの出力信号に基づく振動特性を計測する
ことを特徴とする請求項1に記載の軸受台上試験装置。
【請求項3】
前記加振入力装置は、インパクトハンマー又は電磁シェーカーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の軸受台上試験装置。
【請求項4】
前記加振入力装置により入力される振動は、前記ハブユニットの前記回転子の回転軸に対する回転方向と、前記回転軸に直交する方向と、前記回転軸をこじる方向のいずれかの方向に沿って付与されることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の軸受台上試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受、特に車両の車輪の取り付け軸に使用されるハブベアリングを含むハブユニットの振動特性を計測するための軸受台上試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両においては、車輪の取り付け軸(車軸という)に軸受部品としてのハブベアリングが使用されている。従来、この種のハブベアリングを含むハブユニットの振動特性を計測する際には、例えば、フリー状態もしくは台上に固定した状態のハブユニットに対して打撃試験(ハンマリング計測)等が行われていた。
【0003】
しかしながら、車両に用いられるハブベアリングは、実際の使用環境下(即ち車両を走行状態とした時)では、車輪の回転に応じて回転する部品である。そのため、ハブベアリングは、使用に伴う回転動作に起因して温度上昇が発生する。
【0004】
従来の車両のハブユニットは、使用環境下では、通常の場合、例えばハブベアリング内のグリス(潤滑油)が攪拌摩擦されることによってグリスの粘性が低下することがわかっている。また、同時に、ハブベアリング内において複数のスチールボール(鋼球)とケースとの間に生じる滑り摩擦に起因して、グリス温度が上昇して、当該グリスの粘性が低下する傾向があることは周知である。
【0005】
そこで、車両に用いられる軸受部品としてのハブベアリングを含むハブユニットを試験対象物とし、その使用環境を想定した試験を台上にて行うための軸受台上試験装置については、例えば特開平10-153527号公報,特開2000-329654号公報等によって、従来、種々の提案がなされている。
【0006】
上記特開特開平10-153527号公報,特開2000-329654号公報等によって開示されている軸受台上試験装置は、いずれも車軸(回転軸)を備える軸受に対して回転力を付与(回転駆動)させながら、加振入力装置によって振動を付与する構成を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-153527号公報
【文献】特開2000-329654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記特開特開平10-153527号公報,上記特開2000-329654号公報等によって開示されている軸受台上試験装置は、駆動装置の駆動力を車軸(回転軸)に与えて回転駆動させる際に、車軸(回転軸)に対して駆動装置を接触させている。このような構成の場合、駆動装置から発生した振動が試験対象物であるハブユニットへと伝達されてしまい、正確な振動特性の計測を行うことができないという問題点がある。
【0009】
また、上記特開平10-153527号公報,上記特開2000-329654号公報等によって開示されている軸受台上試験装置は、いずれも回転に伴って生じる温度上昇については何ら考慮されていない。
【0010】
このように、従来の軸受台上試験装置においては、車両に用いられる軸受部品(ハブベアリング)を含むハブユニットを試験対象物とする場合に、当該ハブユニットの実際の使用環境、特に回転動作と、その回転動作時の温度上昇を伴う状況を再現しながら振動特性の計測を行うことは困難であった。
【0011】
一般に、自動車等の車両におけるハブユニットは、車軸の回転を車輪へと伝達する際の伝達特性上、重要な部品となっている。したがって、当該ハブユニットの実使用環境下での振動特性を精度良く同定することが望まれている。
【0012】
本発明の目的とするところは、車両の車軸に使用されるハブベアリングを含むハブユニットの実際の走行環境下(特に回転かつ温度変化を伴う環境下)における振動特性を精度良く同定することができる軸受台上試験装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様の軸受台上試験装置は、車軸とスプライン結合される回転子と、鋼球列及びグリスを挟んで前記回転子に外挿される固定子とからなる軸受部品を含む車両用のハブユニットを試験対象物として台上に設置して加振試験を行う軸受台上試験装置において、前記固定子を固定し、加振入力が付与される加振部材と、前記加振部材に対して振動を付与する加振入力装置と、前記加振部材を柔支持する支持部材と、前記回転子及び前記固定子のいずれよりも大径の略円環形状からなり、N極とS極とが円周方向に沿って交互に配置される磁石と、前記磁石の磁気を遮断する非磁性材料からなり、前記回転子を取り付ける回転子取付部を有する円板状部材と、を有し、前記回転子を固定する略円板形状からなる磁気プレートと、前記磁石と協働して非接触状態を保持しながら前記磁気プレートを回転させる駆動力を発生させる複数の電磁コイルと、前記複数の電磁コイルへの電流制御を行う駆動制御ユニットと、前記車軸の外周面に対して非接触状態で巻回される金属製のコイル部材であって、交流電源からの電流を受けて電磁誘導により発熱する電熱コイルからなる軸受加熱装置と、前記加振入力装置,前記駆動制御ユニット,前記軸受加熱装置を少なくとも制御するコントローラと、を具備する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車両の車軸に使用されるハブベアリングを含むハブユニットの実際の走行環境下(特に回転かつ温度変化を伴う環境下)における振動特性を精度良く同定することができる軸受台上試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態の軸受台上試験装置の構成を概念的に示す側面図、
図2図1の軸受台上試験装置の断面斜視図、
図3図2の矢印[3]方向から見た際の電磁コイルの配置及び磁気プレートの極性配置を主に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図示の実施の形態によって本発明を説明する。以下の説明に用いる各図面は模式的に示すものであり、各構成要素を図面上で認識できる程度の大きさで示すために、各部材の寸法関係や縮尺等を構成要素毎に異ならせて示している場合がある。したがって、本発明は、各図面に記載された各構成要素の数量や各構成要素の形状や各構成要素の大きさの比率や各構成要素の相対的な位置関係等に関して、図示の形態のみに限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態の軸受台上試験装置の構成を概念的に示す側面図である。図2は、図1の軸受台上試験装置の断面斜視図である。図3は、図2の矢印[3]方向から見た際の電磁コイルの配置及び磁気プレートの極性配置を主に示す平面図である。
【0018】
なお、図1図2図3においては、本実施形態の軸受台上試験装置に試験対象物(車両のハブユニット)を設置した状態を示している。また、図2においては、本実施形態の軸受台上試験装置の構造を主に示すために、電気的な構成部材(20,21,22,23)の図示を省略している。また、図3においては、主に電磁コイルの配置を示すために、一部の構成部材の図示を省略している。
【0019】
本発明の一実施形態の軸受台上試験装置の構成を図面を用いて以下に説明する。本実施形態の軸受台上試験装置1は、試験対象とする軸受部品の実使用環境を想定した加振試験を実験室等の台上にて行うための試験装置である。
【0020】
ここで、試験対象とする軸受部品としては、車両における車輪の取り付け軸(以下、単に車軸という)に使用されるハブベアリングを含むハブユニットを想定している。この場合において、本実施形態の軸受台上試験装置1に設置される試験対象物としてのハブユニットは、車両に使用される一般的な形態のハブユニットである。
【0021】
また、ここで、当該軸受台上試験装置によって行われる試験は、例えば試験対象物(ハブユニット)の実使用環境を再現した環境下において振動特性を計測する加振試験である。この加振試験によって取得された計測データに基づいて、実使用環境下での試験対象物(ハブユニット)の振動特性を同定することができる。
【0022】
さらに、ここで、実使用環境を再現した環境とは、例えば試験対象物(ハブユニット)の実使用時の走行環境に応じた環境である。具体的には、当該試験対象物(ハブユニット)の軸受部品(ハブベアリング)を、試験継続中に回転自在とするための構成を有する。この場合、例えば、実際の走行速度に応じた車輪又は車軸の回転作用を再現するための回転駆動制御が行われる。
【0023】
また、これに加えて、試験対象物(ハブユニット)の軸受部品(ハブベアリング)の回転に伴って、当該軸受部品(ハブベアリング)内の温度上昇を再現するための加熱制御を行うための構成を有する。この場合、実際の走行速度に応じた試験対象物(ハブユニット)の軸受部品(ハブベアリング)の回転に対応する内部温度を再現するための加熱制御が行われる。なお、試験対象物(ハブユニット)の実使用時の走行環境としては、例えば車両の走行速度の上限値として時速200km程度を想定している。
【0024】
本実施形態の軸受台上試験装置1の具体的な構成を以下に説明する。図に示すように、本実施形態の軸受台上試験装置1は、基台11と、加振台12と、柔支持装置13と、支持台14と、非接触電磁モータ装置(15,18,21)と、非磁性プレート16と、軸受加熱装置(19,22)と、加振入力装置23と、複数の各種センサ24と、コントローラ20等を具備して主に構成されている。
【0025】
基台11は、当該軸受台上試験装置1を構成する全ての構成部材を載置する台座部品である。
【0026】
加振台12は、試験対象物としてのハブユニット50(詳細構成は後述する)を取り付ける台座となる加振部材である。この加振台12は、例えば略円板状の薄板部材によって形成されている。加振台12は、例えば金属部材または樹脂部材などの硬質な素材を用いて形成されている。
【0027】
加振台12の一方の面(図1図2においては下面)には、ハブユニット50の固定子(アウターレース51;後述)が嵌合する固定子取付部12cが加振台12と一体に形成されている。この固定子取付部12cは、加振台12の中心軸周りに形成されている。そして、固定子取付部12cには、複数の貫通穴が中心軸周りに並べて形成されている。この複数の貫通穴のそれぞれには、取付ボルト12xが挿通される。これにより、これら複数の取付ボルト12xは、ハブユニット50の固定子(アウターレース51)をネジ止め固定している。
【0028】
このとき、ハブユニット50の固定子(アウターレース51)側における取付ボルト12xが螺合されるネジ孔は、試験対象物としてのハブユニット50に元から設けられているネジ孔を利用する。これにより、軸受台上試験装置1にハブユニット50を設置するのに際しては、ハブユニット50に構造変更を加える必要がないようにしている。
【0029】
また、この加振台12には、加振入力装置23(詳細後述)が発生させる振動が付与される。そのために、加振台12には、加振入力ポイントとなる加振入力部12a,12bが設けられている。
【0030】
ここで、加振入力部12aは、Y方向(図1図3参照)及びZ方向(図3参照)の振動が入力される領域である。この加振入力部12aは、加振台12の外周面上の所定の一部を切り欠いて形成されている。また、加振入力部12bは、X方向(図1参照)の振動が入力される領域である。加振入力部12bは、加振台12の軸中心から離れた位置、具体的には例えば加振台12の外周縁部近傍の所定の領域に設定されている。
【0031】
なお、X方向は鉛直方向であり、当該軸受台上試験装置1に設置されるハブユニット50の車軸55の軸方向と平行な方向に相当する。即ち、X方向への振動は車軸55及び軸受をこじる方向(車軸55を傾ける方向)に付与される。Y方向は加振台12の平面に沿う方向であって、加振台12の径方向に相当する。即ち、Y方向への振動は車軸55及び軸受を屈曲させる方向に付与される。Z方向は加振台12の平面に沿う方向であって、加振台12の周方向に相当する。即ち、Z方向への振動は車軸55及び軸受を捻る方向に付与される。
【0032】
柔支持装置13及び支持台14は、試験対象物(ハブユニット50)を取り付けた加振台12の外周縁部を支持する支持部材である。この場合において、柔支持装置13は、加振台12の姿勢を保持し、柔支持構造を構成する支持装置である。柔支持装置13は、加振台12の外周縁部において、略全周に亘って配置されている。柔支持装置13は、例えば圧縮空気の弾力性を利用する空気ばね装置等が適用される。
【0033】
支持台14は、例えば角柱または円柱形状からなる支持部材である(図2においては角柱形状の支持台を例示している)。支持台14の基端は、基台11の所定の位置において直立状態で固設されている。支持台14の先端は、加振台12の外周縁部近傍に当接する位置に配設される。
【0034】
非接触電磁モータ装置は、試験対象物(ハブユニット50)の回転子(インナーレース52;詳細後述)を回転させるための装置である。この非接触電磁モータ装置は、磁気プレート17(15,16)と、複数の電磁コイル18と、駆動制御ユニット21等によって構成されている。
【0035】
磁気プレート17は、円環磁石15と非磁性プレート16とを重ねて2層構造として一体に形成された略円板状部材である。
【0036】
このうち円環磁石15は、N極とS極が円周方向に沿って交互に配置され、略円環状に形成された永久磁石である。この円環磁石15は、非磁性プレート16の一面の外周縁部近傍に設けられている。そして、円環磁石15は、必要充分な回転トルクを発生させるために充分なイナーシャを有するように形成されている。
【0037】
一般に、ハブユニット50の実使用時の走行環境は大きな回転駆動力が付与される。そのような走行環境を再現するために、円環磁石15は、充分大きなイナーシャを持たせて形成されている。なお、本実施形態の軸受台上試験装置1において、円環磁石15は、例えばディスクロータ相当のイナーシャを想定して形成されている。
【0038】
非磁性プレート16は、円環磁石15からの磁気がハブユニット50内の複数のスチールボール53(詳細後述;図2参照)に影響を与えないようにするために設けられる磁気遮断部材である。これと同時に、非磁性プレート16は、ハブユニット50の回転子(インナーレース52)を取り付ける回転子取付部材でもある。
【0039】
非磁性プレート16は、試験対象物(ハブユニット50)回転子(インナーレース52)及び固定子(アウターレース51)のいずれよりも大径で略円板状の薄板部材によって形成されている。非磁性プレート16は、硬質な非磁性材料(例えば樹脂素材など)を用いて形成されている。
【0040】
非磁性プレート16の略中心部分には、ハブユニット50の回転子(インナーレース52)が嵌合する回転子取付部16a(図2参照)が設けられている。この回転子取付部16aの周縁には、ハブユニット50の回転子(インナーレース52)を、非磁性プレート16に対してネジ止め固定する複数の取付ボルト52xを挿通させる複数の貫通穴が、周方向に並べて形成されている。
【0041】
当該軸受台上試験装置1に設置されたハブユニット50の回転子(インナーレース52)に対し、当該磁気プレート17を規定の形態で取り付けたとき、非磁性プレート16は、円環磁石15とハブユニット50との間に配置される。この構成により、非磁性プレート16は、円環磁石15とハブユニット50との間を磁気的に遮断する。同時に、磁気プレート17は、必要とする充分大きなイナーシャを持って構成される。
【0042】
複数の電磁コイル18は、円環磁石15と協働することで、当該円環磁石15とは非接触状態を保持しつつ、当該円環磁石15を車軸55付近を回転中心として回転させる構成部材である。したがって、円環磁石15が回転することにより、当該円環磁石15を含む磁気プレート17も同様に回転する。
【0043】
電磁コイル18は、基台11上に複数配設される。この場合において、複数の電磁コイル18は、円環磁石15の各磁極面に対向する位置に配置されている。例えば、本実施形態の軸受台上試験装置1においては、図3に示すように、電磁コイル18は磁気プレート17の周方向において略等間隔をおいて3つ設けている。なお、図3において、矢印符号「OUT」及び「IN」は、電流の流れる方向を示している。
【0044】
駆動制御ユニット21は、複数の電磁コイル18に対する電流制御を行って、円環磁石15の回転制御を行う構成ユニットである。この駆動制御ユニット21は、コントローラ20に接続されている。コントローラ20は、当該軸受台上試験装置1の電気的な制御を統括的に行うプロセッサを含む制御装置である。したがって、駆動制御ユニット21は、当該軸受台上試験装置1の使用者がコントローラ20を操作することによって制御される。
【0045】
即ち、使用者がコントローラ20を操作することによって、駆動制御ユニット21を通して電磁コイル18に流れる電流を適宜変化させるスイッチング制御が行われる。この制御により、円環磁石15に対する回転駆動力が、円環磁石15との非接触状態を保持しながら付与される。円環磁石15が回転することによりハブユニット50の回転子(インナーレース52)が車軸55の軸周りに回転する。このとき、電磁コイル18に対する電流量とオンオフタイミングの制御が行われることにより、円環磁石15(及びハブユニット50の回転子)の回転方向及び単位時間当たりの回転数(回転速度)を適宜制御することができる。
【0046】
軸受加熱装置は、試験対象物(ハブユニット50)の温度制御を行うための装置である。軸受加熱装置は、電熱コイル19と、交流電源22等によって構成されている。
【0047】
電熱コイル19は、当該軸受台上試験装置1に設置される試験対象物(ハブユニット50)の回転子(インナーレース52)と同軸に配設されている車軸55の下方突出部分の外周面に対して非接触状態で巻回される金属製のコイル部材である。この電熱コイル19は交流電源22に接続されている。交流電源22は、電熱コイル19へ電流を供給する装置である。交流電源22は、コントローラ20に接続されている。したがって、交流電源22は、当該軸受台上試験装置1の使用者がコントローラ20を操作することによって制御される。
【0048】
即ち、使用者がコントローラ20を操作することによって、交流電源22を通して電熱コイル19に交流電流を流すと、電熱コイル19は電磁誘導により発熱する。このとき、交流電源22から流れる電流量を制御することにより、電熱コイル19の発熱を制御できる。電熱コイル19が発熱すると車軸55が加熱される。車軸55が加熱されると、その熱エネルギーは車軸55から試験対象物(ハブユニット50)内のグリス54(後述する;図2参照)へと伝達される。
【0049】
このように、電熱コイル19への電流量を制御することにより、電熱コイル19の発熱量を制御できるので、試験対象物(ハブユニット50)内の温度調整を行うことができる。これにより、試験対象物(ハブユニット50)の実使用時の走行環境に応じた温度設定ができる。
【0050】
加振入力装置23は、加振台12に対して振動を付与することで、当該加振台12に設置された試験対象物(ハブユニット50)に対して適宜所定の振動を付与する装置である。この場合において加振台12に対して付与される振動は、上述したように、X方向,Y方向,Z方向である。即ち、当該加振入力装置23は、加振台12に対する回転方向に加えて並進の6方向の振動を付与できる。
【0051】
なお、加振入力装置23としては、例えば電磁シェーカー等を適用することを想定している。また、加振入力装置23のその他の形態の例としては、例えばインパクトハンマー等を手動にて操作するといった形態であってもよい。
【0052】
加振入力装置23は、コントローラ20と接続されている。したがって、使用者がコントローラ20を操作することで、加振入力装置23による加振を制御することができる。 また、本実施形態の軸受台上試験装置1は、加振入力装置23から加振台12への加振入力を受けて生じる試験対象物(ハブユニット50)の振動を計測する加速度センサや、試験対象物(ハブユニット50)の表面温度を計測する温度センサ等の複数の各種センサ24を有している。これら複数の各種センサ24はコントローラ20に接続されている。これにより、複数の各種センサ24の出力信号はコントローラ20に入力され、当該コントローラ20内に設けられる記憶装置(不図示)の所定の記憶領域に計測データとして蓄積される。
【0053】
コントローラ20は、上述したように、当該軸受台上試験装置1の電気的な制御を統括的に行うプロセッサを含む制御装置である。このコントローラ20は、例えば駆動制御ユニット21,交流電源22,加振入力装置23等の制御を使用者の操作に応じて行う。また、コントローラ20は記憶装置を有している。この記憶装置には、複数の各種センサ24からの計測データが蓄積記憶されると共に、各種の制御を行うためのソフトウエアプログラムなどが予め記憶されている。
【0054】
例えば、コントローラ20は、全部又は一部がハードウエアを含むプロセッサにより構成されている。このプロセッサは、例えば、中央処理装置(CPU;Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)や、不揮発性メモリ(Non-volatile memory)、不揮発性記憶装置(Non-volatile storage)等のほか、非一過性の記録媒体(non-transitory computer readable medium)等を備える周知の構成、及びその周辺機器等によって構成されている。
【0055】
ROM、不揮発性メモリ、不揮発性記憶装置等には、CPUが実行するソフトウエアプログラムやデータテーブル等の固定データ等が予め記憶されている。そして、CPUがROM等に格納されたソフトウエアプログラムを読み出してRAMに展開して実行し、また、当該ソフトウエアプログラムが各種データ等を適宜参照等することによって、各種の制御に基づく各種の機能が実現される。
【0056】
なお、プロセッサは、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの半導体チップなどにより構成されていてもよい。また、上記各構成部や構成ユニット(12,20b,21d,22,23,24,25)等は電子回路によって構成してもよい。
【0057】
さらに、ソフトウエアプログラムは、コンピュータプログラム製品として、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM等の可搬型板媒体や、カード型メモリ、HDD(Hard Disk Drive)装置,SSD(Solid State Drive)装置等の非一過性の記憶媒体(non-transitory computer readable medium)等に、全体あるいは一部が記録されている形態としてもよい。
【0058】
次に、上述したように構成される本実施形態の軸受台上試験装置1において、試験対象物となる車両用ハブユニットの概略構成について、図1図2を用いて以下に簡単に説明する。
【0059】
図1等に示すように、試験対象物としてのハブユニット50は、アウターレース51と、インナーレース52と、複数のスチールボール53(鋼球ともいう;図2参照)と、ボール保持部材(リテーナー;不図示)と、グリス54(図2参照)等によって構成される軸受部品と、車軸55等を具備する一般的な形態からなる。
【0060】
アウターレース51は、後述するように加振台12に対して、例えば複数の取付ボルト12xを用いてネジ止め固定される固定子である。そのために、アウターレース51には、取付ボルト12xが螺合される複数のネジ孔(不図示)が設けられている。これら複数のネジ孔は、アウターレース51の中心軸周りに設けられている。
【0061】
インナーレース52は、アウターレース51に対して回転する回転子である。インナーレース52の回転中心には貫通穴52aが設けられている。この貫通穴52aの内壁面にはハブ側スプライン部52aa(図2図3参照)が形成されている。また、インナーレース52は、後述するように磁気プレート17(15,16)に対して、例えば複数の取付ボルト52xを用いてネジ止め固定される。そのために、インナーレース52には、取付ボルト52xが螺合される複数のネジ孔(不図示)が設けられている。これら複数のネジ孔は中心軸周りに形成されるフランジ部に設けられている。
【0062】
このとき、ハブユニット50の回転子(インナーレース52)側における取付ボルト52xが螺合されるネジ孔は、試験対象物としてのハブユニット50に元から設けられているネジ孔を利用する。これにより、軸受台上試験装置1にハブユニット50を設置するのに際しては、ハブユニット50に構造変更を加える必要がないようにしている。
【0063】
アウターレース51にはインナーレース52が挿通配置される。つまり、インナーレース52にはアウターレース51が外挿されている。この場合において、アウターレース51とインナーレース52との間には隙間空間が形成されている。この隙間空間には、複数のスチールボール53がリテーナー(不図示)によって保持された状態で、回転軸周りに並べて配置されている。これにより鋼球列が形成されている。そして、当該隙間空間には、グリス54が充填されている。
【0064】
車軸55は、インナーレース52の貫通穴52aに嵌合して、インナーレース52と共に回転する軸部材である。そのために、車軸55の一端部の外周面上の所定の領域には、軸側スプライン部55aが形成されている。当該車軸55を貫通穴52aに挿通させるとハブ側スプライン部52aaと軸側スプライン部55aとが係合する。これにより、インナーレース52と車軸55とはスプライン結合して一体化される。これにより、インナーレース52と車軸55とは同方向に同時に回転するように構成されている。
【0065】
なお、実使用環境下においては、車軸55に対して、エンジンなどからの駆動力が付与される。そして、車軸55の回転駆動力は、インナーレース52を回転させる。このインナーレース52には、車輪ホイール(不図示)が一体に固定されている。この構成により、車軸55に付与された回転駆動力は、インナーレース52を通して車輪ホイール(不図示)を回転駆動する構成となっている。
【0066】
本実施形態の軸受台上試験装置1に対して、試験対象物であるハブユニット50を取り付けた場合、図1図2に示す形態となる。このとき、図1図2に示すように、車軸55は、図において下側に突出するように配設されている。そして、このとき車軸55の先端は、基台11に対し非接触状態とされている。
【0067】
ただし、ハブユニット50の実使用環境では、図において下側に車輪(ホイール)が取り付けられ、車軸55は、図において上側に向けて突出する形態となる。
【0068】
これに対し、本実施形態の軸受台上試験装置1にハブユニット50が設置された状態では、図1図2に示すように、車軸55が下方に向けて突出した形態とされている。このような形態としているのは、車軸55を利用してハブユニット50内部のグリスを加熱するための便宜的な措置である。
【0069】
なお、試験対象物としてのハブユニットは、使用する車両のモデル毎に各種様々な種類のものが存在している。したがって、軸受台上試験装置1においては、ハブユニット50の固定子(アウターレース51)を固定する加振台12と、同ハブユニット50の回転子(インナーレース52)を固定する磁気プレート17とは、試験対象物に応じた形態のものが複数種類用意されている。したがって、本実施形態の軸受台上試験装置1においては、加振台12と磁気プレート17を入れ替えることで、さまざまな種類の試験対象物に対して容易に対応することができる。
【0070】
なお、上述したハブユニット50の構成においては、アウターレース51を固定子とし、インナーレース52を回転子とした形態を例示したが、この例に限られることはない。例えば、アウターレース51を回転子とし、インナーレース52を固定子とする形態のハブユニットであっても、当該軸受台上試験装置1は容易に対応できる。
【0071】
次に、本実施形態の軸受台上試験装置1に上述のような形態の試験対象物(車両用のハブユニット50)を設置して加振試験を行う際の作用を、以下に簡単に説明する。
【0072】
まず、試験対象物としてのハブユニット50のアウターレース51に加振台12を複数の取付ボルト12xを用いて固定する。
【0073】
次に、同ハブユニット50のインナーレース52に磁気プレート17を複数の取付ボルト52xを用いて固定する。なお、このとき、ハブユニット50のインナーレース52には、すでに車軸55が取り付けられているものとする。
【0074】
加振台12と磁気プレート17とを取り付けたハブユニット50を、軸受台上試験装置1に設置する。このとき、加振台12の外周縁部は柔支持装置13上に載置される。また、このとき同時に、磁気プレート17の円環磁石15の磁極面は、基台11上に設けられる複数の電磁コイル18のそれぞれに対向するように非接触状態を保持しながら配置される。さらに、このとき同時に、車軸55の下方突出端の外周には、電熱コイル19が非接触状態で巻回される。
【0075】
そして、ハブユニット50のアウターレース51及びインナーレース52の各外面上における所定の位置に、複数の各種センサ24を固定する。この場合の各種センサ24を固定する手段としては、例えば接着等を用いる。このときの状態が、図1に示す状態である。
【0076】
この状態において、当該軸受台上試験装置1の使用者(試験実施者)は、コントローラ20を適宜操作して、駆動制御ユニット21,交流電源22,加振入力装置23を制御する。これにより、磁気プレート17(インナーレース52)の回転制御と、電熱コイル19の温度制御と、加振入力装置23による加振制御等が実行される。
【0077】
そして、加振試験が行われる毎に、コントローラ20には、各種センサ24からの計測データが入力され記録される。このようにして、本実施形態の軸受台上試験装置1における加振試験が行われ、各種の環境下における計測データが取得される。
【0078】
以上説明したように上記一実施形態によれば、円環磁石15と複数の電磁コイル18とによって非接触電磁モータ装置を構成したので、試験対象物(ハブユニット50)における回転子(インナーレース52)に対して非接触状態を保持しつつ回転駆動力を付与することができる。したがって、ハブユニット50の実使用環境に近い状態(軸受回転状態)での加振試験を実施する際に、モータ装置等からハブユニット50に伝達される不要な振動を排除することができる。これにより、ハブユニット50の台上加振試験において、より高精度な計測データを取得することができる。
【0079】
また、円環磁石15を含む磁気プレート17は、充分大きなイナーシャを持って形成したので、特にこじり方向成分の振動特性の計測をも容易に行うことができる。
【0080】
同時に、電熱コイル19と交流電源22によって軸受加熱装置を構成し、ハブユニット50の軸中心に設けた車軸55を非接触状態で加熱することができる。したがって、ハブユニット50の実使用環境下での温度上昇を加味した加振試験を容易に実施することができる。これにより、ハブユニット50の台上加振試験において、より高精度な計測データを取得することができる。
【0081】
また、ハブユニット50の固定子を固定する加振台12のハブ取付部位と、ハブユニット50の回転子を固定する磁気プレート17のハブ取付部位とを工夫することにより、ハブユニット50の構造を変更することなく、当該ハブユニット50を軸受台上試験装置1に設置することができる。さらに、形態の異なるハブユニット50に応じた加振台12と磁気プレート17とを用意することで、多種類のハブユニット50に対応することができる。
【0082】
加振入力装置23は、加振入力部12a,12bに対して振動を付与することができるように構成している。これにより、加振台12に固定された試験対象物(ハブユニット50)に対する振動方向を、回転方向に加えてこじり方向への振動を付与できる。したがって、回転及び並進の6方向の振動特性を同定することができる 。
【0083】
このように、本実施形態の軸受台上試験装置1においては、車両に用いられるハブユニット50を試験対象物とし、当該ハブユニット50の実使用環境のうち特に回転状態及び温度上昇を伴う環境を再現することができ、回転及び温度コントロール下において、さまざまな振動モードに対応する正確な加振試験を行って、振動特性の計測を行うことができる。
【0084】
そして、取得された振動特性に関する計測データを利用することによって、ハブユニット50の軸受部品(ベアリング)の実走行時におけるロードノイズや振動等の解析予測や、低周波振騒のメカニズム解明につながるベアリング剛性,グリス粘性減衰特性などの同定を容易に行うことができる。また、回転駆動装置(モーター)の回転次数成分等の外乱を取り除いた純粋な部品特性の同定ができる。
【0085】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用を実施することができることは勿論である。さらに、上記実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせによって、種々の発明が抽出され得る。例えば、上記一実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題が解決でき、発明の効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。この発明は、添付のクレームによって限定される以外にはそれの特定の実施態様によって制約されない。
【符号の説明】
【0086】
1…軸受台上試験装置
11…基台
12…加振台(加振部材)
12a,12b…加振入力部
12c…固定子取付部
12x…取付ボルト
13…柔支持装置(支持部材)
14…支持台(支持部材)
15…円環磁石
16…非磁性プレート
16a…回転子取付部
17…磁気プレート
18…電磁コイル
19…電熱コイル
20…コントローラ
21…駆動制御ユニット
22…交流電源
23…加振入力装置
24…各種センサ
50…ハブユニット(試験対象物)
51…アウターレース(固定子)
52…インナーレース(回転子)
52a…貫通穴
52aa…ハブ側スプライン部
52x…取付ボルト
53…スチールボール
54…グリス
55…車軸
55a…軸側スプライン部
図1
図2
図3