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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-26
(45)【発行日】2025-09-03
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/80 20060101AFI20250827BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20250827BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20250827BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20250827BHJP
   B60B 35/14 20060101ALN20250827BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16J15/447
B60B35/14 V
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021152313
(22)【出願日】2021-09-17
(65)【公開番号】P2023044334
(43)【公開日】2023-03-30
【審査請求日】2024-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須間 洋斗
(72)【発明者】
【氏名】岸部 駿之介
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-032823(JP,A)
【文献】特開2017-133533(JP,A)
【文献】特開2013-190082(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0243360(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/80
F16C 33/78
F16C 19/18
F16J 15/447
B60B 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、
前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に介装された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぐシール部材と、
前記外方部材の軸方向外側の外径面に嵌合する補助シールと、を備える車輪用軸受装置であって、
前記補助シールは、芯金と、当該芯金を覆う弾性部材からなる堰部と、を有し、
前記芯金は、軸方向に延びて形成され、前記外方部材の外径面に嵌合する嵌合部と、前記嵌合部の軸方向外側端部から径方向内側に延びる内径部と、前記嵌合部の軸方向内側端部から径方向外側に延びる外径部と、を有し、
前記堰部は、前記嵌合部から径方向外側と軸方向外側とに向かって厚みを有する塊状に形成され、
前記堰部は、径方向の厚みが前記外径部の軸方向外側の径方向長さよりも大きく、軸方向の厚みが前記嵌合部の径方向外側の軸方向長さよりも大きい肉厚形状に形成されており、
前記堰部と前記内方部材との間にラビリンス構造を形成する、ことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記堰部は、前記嵌合部の径方向外側において前記外径部の径方向外側端部よりも径方向外側に突き出して形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記堰部と前記内方部材と間のラビリンス隙間は、0.5~1.5mmである、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記堰部の外径面には、軸方向外側から軸方向内側に向かって径方向内側に傾斜する傾斜面が形成される、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記堰部は、当該堰部の軸方向外側に突き出し部を有し、前記突き出し部は、当該突き出し部が軸方向外側に突き出すことにより形成される内径面を有し、
前記外方部材において前記補助シールが嵌合する外径面の外径をAとし、前記突き出し部の内径面の内径をBとすると、A<Bである、ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記外方部材において前記シール部材が嵌合する内径面の内径をCとし、前記補助シールの径方向内側端部の内径をDとすると、C<Dである、ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている(特許文献1参照)。かかる車輪用軸受装置は、車体に外方部材が固定される。また、外方部材の内側に内方部材が配置され、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に複数の転動体が介装されている。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としている。
【0003】
ところで、このような車輪用軸受装置には、外方部材と内方部材との間に環状空間が形成されている。環状空間に異物(泥水や砂塵等)が侵入する、又は環状空間に封入しているグリースが漏出する可能性がある。そのため、車輪用軸受装置は、環状空間の両側開口端を塞ぐためにインナー側シール部材とアウター側シール部材を備えている。加えて、特許文献1に記載のハブベアリング(車輪用軸受装置)は、より効果的に異物の侵入を防止するために、外輪(外方部材)に嵌着(嵌合)された補助シールを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-101750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のハブベアリングにおいて、補助シールは、堰部とラビリンスシール(ラビリンス隙間)を有する構造であるが、着脱が容易になるように芯金等を有しない構造となっている。しかし、補助シールは、市場にて着脱することはなく、むしろ取り扱いによって、補助シールが軸方向ハブ輪側(アウター側)へ移動してしまうと、回転体であるハブ輪と補助シールが接触することで、ベアリングからの異音や回転摩擦トルクの増大につながる。
【0006】
そこで、本発明においては、外方部材に対する補助シールの十分な嵌合力を得ることができる車輪用軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、第一の発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に介装された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぐシール部材と、前記外方部材の軸方向外側の外径面に嵌合する補助シールと、を備える車輪用軸受装置であって、前記補助シールは、芯金と、当該芯金を覆う弾性部材からなる堰部と、を有し、前記芯金は、軸方向に延びて形成され、前記外方部材の外径面に嵌合する嵌合部と、前記嵌合部の軸方向外側端部から径方向内側に延びる内径部と、前記嵌合部の軸方向内側端部から径方向外側に延びる外径部と、を有し、前記堰部は、前記嵌合部から径方向外側と軸方向外側とに向かって厚みを有する塊状に形成され、前記堰部は、径方向の厚みが前記外径部の軸方向外側の径方向長さよりも大きく、軸方向の厚みが前記嵌合部の径方向外側の軸方向長さよりも大きい肉厚形状に形成されており、前記堰部と前記内方部材との間にラビリンス構造を形成する、としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0009】
即ち、第一の発明によれば、芯金が外方部材の外径面に嵌合することによって、補助シールが外方部材の外径面に圧入固定される。従って、外方部材に対する補助シールの十分な嵌合力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車輪用軸受装置を示す図。
図2】車輪用軸受装置の補助シールとその周囲構造を示す図。
図3】車輪用軸受装置の補助シールとその周囲構造を示す図。
図4】車輪用軸受装置の補助シールとその周囲構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び図2を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置1について説明する。図1は、車輪用軸受装置1の全体構造を示す断面図である。図2は、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1の一部構造を示す断面図である。
【0012】
車輪用軸受装置1は、車輪を回転自在に支持するものである。図1に示すように、車輪用軸受装置1は、外方部材2、内方部材3、及び転動部材4を備えている。なお、本明細書において、「インナー側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、「径方向外側」とは、内方部材3の回転軸Rから遠ざかる方向を表し、「径方向内側」とは、内方部材3の回転軸Rに近づく方向を表す。更に、「軸方向」とは、内方部材3の回転軸Rに沿う方向を表し、「軸方向外側」とは回転軸Rに沿って環状空間Sから遠ざかる方向を表し、「軸方向内側」とは回転軸Rに沿って環状空間Sに近づく方向を表す。
【0013】
外方部材2は、転がり軸受構造の外輪部分を構成するものである。外方部材2のインナー側端部における内周には、嵌合面2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部における外周には、内径面(嵌合面)2bが形成されている。更に、外方部材2の軸方向中央部における内周には、二つの外側軌道面2c・2dが形成されている。加えて、外方部材2には、径方向外側へ広がる車体取り付けフランジ2eが形成されている。車体取り付けフランジ2eには、複数のボルト穴2fが設けられている。
【0014】
内方部材3は、転がり軸受構造の内輪部分を構成するものである。内方部材3は、ハブ輪31と内輪32で構成されている。
【0015】
ハブ輪31は、外方部材2の内側に設けられている。ハブ輪31のインナー側端部における外周には、軸方向中央部まで小径段部3aが形成されている。小径段部3aは、ハブ輪31の外径が小さくなった部分を指し、その外周が回転軸Rを中心とする円筒形状となっている。また、ハブ輪31には、そのインナー側端部からアウター側端部まで貫かれたスプライン穴3bが形成されている。更に、ハブ輪31の軸方向中央部における外周には、外側軌道面2dと対向する内側軌道面3dが形成されている。加えて、ハブ輪31には、径方向外側へ広がる車輪取り付けフランジ3eが形成されている。車輪取り付けフランジ3eには、回転軸Rを中心に複数のボルト穴3fが設けられており、それぞれのボルト穴3fにハブボルト33が圧入されている。
【0016】
内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに外嵌される。内輪32のインナー側端部における外周には、嵌合面3gが形成されている。また、嵌合面3gに隣接する外周には、内側軌道面3cが形成されている。内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに外嵌されることにより、ハブ輪31の外周に外側軌道面2cと対向する内側軌道面3cを構成する。
【0017】
転動部材4は、転がり軸受構造の転動部分を構成するものである。インナー側の転動部材4は、複列の転動体41と一つの保持器42で構成されている。同様に、アウター側の転動部材4も、複列の転動体41と一つの保持器42で構成されている。
【0018】
転動体41は、それぞれが保持器42によって円形にかつ等間隔にならべられている。そして、インナー側の転動部材4を構成している転動体41は、外方部材2の外側軌道面2cと内方部材3(内輪32)の内側軌道面3cの間に転動自在に介装されている。また、アウター側の転動部材4を構成している転動体41は、外方部材2の外側軌道面2dと内方部材3(ハブ輪31)の内側軌道面3dの間に転動自在に介装されている。
【0019】
保持器42は、転動体41を収めるためのポケットが等間隔に形成された円環体となっている。保持器42は、互いに隣り合う転動体41と転動体41の間に球面壁が延びており、二つの球面壁によって一つの転動体41を挟み込むように保持している。
【0020】
加えて、本車輪用軸受装置1は、外方部材2と内方部材3(ハブ輪31及び内輪32)の間に形成される環状空間Sの両側開口端を密封すべく、インナー側シール部材5とアウター側シール部材6を備えている。インナー側シール部材5は、スリンガ51とシールリング52で構成されている。アウター側シール部材6は、芯金61と弾性部材62で構成されている。なお、インナー側シール部材5及びアウター側シール部材6は、様々な仕様が存在しており、本明細書に開示された仕様に限定するものではない。
【0021】
ここで、ハブ輪31に形成された段差部3hについて説明する。段差部3hは、ハブ輪31に形成された車輪取り付けフランジ3eの基端部分において、インナー側へ突き出している部位を指す。図2に示すように、段差部3hの平坦面3iは、径方向に沿って延びており、その径方向内側に湾曲面3jが形成されることによって平坦面3iと軸周面3kが滑らかにつながっている。なお、段差部3hの傾斜面3mは、径方向に対して傾斜しており、平坦面3iからハブ輪31の平坦面3nまで滑らかに延びている。
【0022】
アウター側シール部材6は、例えば、芯金61に弾性部材62を加硫接着したものである。芯金61は、外方部材2の内径面2bに内嵌される嵌合部61aと、嵌合部61aのアウター側端部から径方向内側に延びる側板部61bと、を有している。弾性部材62には、サイドリップ62aが形成されており、サイドリップ62aの先端が平坦面3i又は湾曲面3jに接触している。また、サイドリップ62aの径方向内側には、中間リップ62bが形成されており、中間リップ62bの先端が湾曲面3jに接触している。更に、弾性部材62には、グリースリップ62cが形成されており、グリースリップ62cの先端が軸周面3kに接触している。
【0023】
次に、図2及び図3を用いて、第一実施形態に係る補助シール7について説明する。補助シール7は、アウター側シール部材6への泥水等の異物の侵入を低減するものである。補助シール7は、芯金71と堰部72を有する。図3は、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1の一部構造を示す断面図である。
【0024】
芯金71は、外方部材2の軸方向外側の外径面2gに嵌合するものである。芯金71は、例えば、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、嵌合部71a、内径部71b、外径部71cが形成されている。芯金71は、腐食を防止するために、ステンレス鋼板(SUS)又はメッキ鋼板からなることが好ましい。
【0025】
嵌合部71aは、軸方向に延びる円筒状のものである。嵌合部71aは、外方部材2の外径面2gに沿って延びており、嵌合部71aの内径面が外方部材2の外径面2gに嵌合する。嵌合部71aが外方部材2の外径面2gに嵌合する部分の軸方向長さは、外方部材2の外径面2gに対する嵌合力を得るために、例えば、1.5mm以上に形成されることが好ましい。
【0026】
内径部71bは、嵌合部71aの軸方向外側端部から径方向内側に延びる円環状のものである。内径部71bは、外方部材2の軸方向外側端面2hに沿って延びており、内径部71bの軸方向内側端面が外方部材2の軸方向外側端面2hに当接する。内径部71bは、嵌合部71aとの断面形状が略L字状に形成されている。
【0027】
外径部71cは、嵌合部71aの軸方向内側端部から径方向外側に延びる円環状のものである。外径部71cは、径方向外側端面71e及び軸方向内側端面71fを有する。外径部71cは、嵌合部71aとの断面形状が略L字状に形成されている。
【0028】
堰部72は、芯金71を覆う弾性部材からなるものである。堰部72は、嵌合部71aから径方向外側と軸方向外側とに向かって厚みを有する塊状に形成されている。具体的には、堰部72は、径方向の厚みが外径部71cの軸方向外側の径方向長さよりも大きく、軸方向の厚みが嵌合部71aの径方向外側の軸方向長さよりも大きい肉厚形状に形成されている。従って、堰部72は、嵌合部71aの径方向外側において外径部71cの径方向外側端部71gよりも径方向外側に突き出して形成されている。堰部72は、リップ構造ではなく塊状の構造であるため、摩耗等のロバスト性が高くなっている。具体的には、堰部72は、リップ形状(薄い肉厚)でラビリンス構造を形成した場合よりも、塊状に形成されることよって飛来物に対する耐性が高くなる。また、リップ形状でラビリンス構造を形成した場合、泥水によりリップが摩耗して、ラビリンス構造を維持し難い。しかし、堰部72は、塊状に形成されることによって、摩耗してもラビリンス構造73が維持される。従って、堰部72は、性能を長期間にわたって維持することにおいて、特に有利な効果を奏する。堰部72は、例えば、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、内径部71bの径方向内側端部から外径部71cの径方向外側端面71eの軸方向外側端部までを覆うように形成されている。
【0029】
堰部72は、その径方向外側において軸方向外側へ突き出した突き出し部72aが形成されており、ハブ輪31の傾斜面3m及び平坦面3nとラビリンス隙間Lを介して対向する。つまり、堰部72は、内方部材3との間にラビリンス構造73を形成している。これにより、堰部72は、外方部材2の外径面2g及びハブ輪31の平坦面3n等からの異物の侵入を低減できる。
【0030】
このように構成されることにより、本発明に係る車輪用軸受装置1は、芯金71が外方部材2の外径面2gに嵌合することによって、補助シール7が外方部材2の外径面2gに圧入固定される。従って、外方部材2に対する補助シール7の十分な嵌合力を得ることができる。
【0031】
また、本発明に係る車輪用軸受装置1は、嵌合部71aが外方部材2の外径面2gに嵌合することによって、補助シール7を外方部材2に圧入固定することができる。また、内径部71bが外方部材2の軸方向外側端面2hに突き当たるまで、補助シール7を外方部材2に圧入することが可能であり、補助シール7の圧入位置の管理が容易となる。即ち、堰部72と内方部材3の間におけるラビリンス隙間Lの管理が容易となる。更に、外径部71cにより芯金71の径方向の剛性が高くなるため、外方部材2に対する補助シール7の嵌合力を高めることができる。加えて、外径部71cは、外方部材2の外径面2gから伝って流れてくる泥水を軸方向内側端面71fで堰き止めることによって、外方部材2の外径面2gからの異物の侵入を低減できる。
【0032】
堰部72は、その径方向内側の軸方向外側端面72bが径方向に沿って延びている。堰部72は、軸方向外側へ突き出すことにより、嵌合部71aと同じ径方向位置において、内径面72cが形成されている。堰部72の径方向外側の軸方向外側端面72dは、径方向に沿って延びており、その径方向内側に湾曲面72eが形成されることによって内径面72cと軸方向外側端面72dが滑らかにつながっている。
【0033】
堰部72は、内方部材3とのラビリンス隙間Lが0.5~1.5mmである。例えば、堰部72の軸方向外側端面72dとハブ輪31の平坦面3nとのラビリンス隙間L、堰部72の湾曲面72eとハブ輪31の傾斜面3mとのラビリンス隙間L、堰部72の軸方向外側端面72bとハブ輪31の平坦面3iとのラビリンス隙間Lは、それぞれ0.5~1.5mmになっている。
【0034】
このように構成されることにより、本発明に係る車輪用軸受装置1は、車輪用軸受装置1に負荷される荷重により外方部材2とハブ輪31が近接して、堰部72とハブ輪31が接触することを防止しつつ、外方部材2の外径面2g及びハブ輪31の平坦面3n等からの異物の侵入を低減できる。
【0035】
堰部72は、軸方向外側の外径面72fにおいて、軸方向に沿って延びる平坦面72gが形成されている。堰部72は、平坦面72gの軸方向内側端部から軸方向内側に向かうに従って径方向内側へ傾斜した傾斜面72hが形成されている。堰部72は、傾斜面72hが外径部71cの径方向外側端面71eの軸方向外側端部までを覆うように形成されている。
【0036】
このように構成されることにより、本発明に係る車輪用軸受装置1は、堰部72の傾斜面72hに付着した泥水等の異物が軸方向内側に流れやすくなる。従って、外方部材2の外径面2g及びハブ輪31の平坦面3n等からの異物の侵入をより低減できる。
【0037】
堰部72は、上記のように内径面72cを有する突き出し部72aが堰部72の軸方向外側に形成されている。突き出し部72aの内径面72cは、外方部材2の軸方向外側の外径面2gよりも径方向外側に位置するように形成されている。図3に示すように、外方部材2において補助シール7が嵌合する外径面2gの外径をAとし、突き出し部72aの内径面72cの内径をBとすると、A<Bとなっている。従って、堰部72の軸方向外側端面72bの一部(本実施形態では、径方向外側端部)が、嵌合部71aの軸方向外側に位置するように構成されている。
【0038】
このように構成されることにより、本発明に係る車輪用軸受装置1は、補助シール7が外方部材2に圧入される際に、押圧される面である軸方向外側端面72bの面積を十分に確保できる。また、嵌合部71aの軸方向外側から当該嵌合部71aに対して軸方向内側への外力を加えることが可能である。従って、補助シール7を外方部材2に圧入しやすくなる。
【0039】
外方部材2の内径面2bは、補助シール7の径方向内側端部72iよりも径方向内側に位置するように形成されている。外方部材2においてアウター側シール部材6が嵌合する内径面2bの内径をCとし、補助シール7の径方向内側端部72iの内径をDとすると、C<Dとなっている。従って、堰部72は、外方部材2の内径面2bとハブ輪31の平坦面3iとの間を、径方向内側端部72iが遮らないように構成されている。
【0040】
このように構成されることにより、本発明に係る車輪用軸受装置1は、堰部72によって堰き止められることによって、外方部材2の内径面2bに泥水等の異物が溜まらないようにすることができる。
【0041】
次に、図4を用いて、第二実施形態に係る車輪用軸受装置1の特徴点とその効果について述べる。ここでは、主に第一実施形態に係る車輪用軸受装置1との相違点に着目して説明する。図4は、第二実施形態に係る車輪用軸受装置1の一部構造を示す断面図である。
【0042】
図4に示すように、堰部72は、軸方向外側の外径面72fにおいて、傾斜面72hの軸方向内側端部から軸方向に沿って延びる平坦面72jが形成されている。堰部72は、平坦面72jの軸方向内側端部から径方向に沿って延びる平坦面72kが形成されている。堰部72は、平坦面72jと平坦面72kが外径部71cの表面を全て覆うように形成されている。
【0043】
このように構成されることにより、本発明に係る車輪用軸受装置1は、堰部72が芯金71の表面を覆っているため、異物が芯金71に接触しない。従って、防錆性能を有しない、より安価な冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)を、芯金71に用いることができる。
【0044】
本発明に係る車輪用軸受装置1は、車体取り付けフランジ2eを有する外方部材2と、ハブ輪31に一つの内輪32が嵌合される内方部材3と、で構成された内方部材回転仕様の第3世代構造としているが、これに限定するものではない。例えば、ハブ輪として形成された外方部材と、車体取り付けフランジを有する支持軸に一つの内輪が嵌合される内方部材と、で構成された外方部材回転仕様の第3世代構造であってもよい。また、転動体41にボールを用いた構成を例示したが、これに限定されず、円錐ころを用いて構成されていてもよい。
【0045】
最後に、本願における発明は、各実施形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲に記載の均等の意味及び範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0046】
1 車輪用軸受装置
2 外方部材
2b 内径面
2c 外側軌道面
2d 外側軌道面
2g 外径面
3 内方部材
3c 内側軌道面
3d 内側軌道面
31 ハブ輪
32 内輪
41 転動体
5 インナー側シール部材(シール部材)
6 アウター側シール部材(シール部材)
7 補助シール
71 芯金
71a 嵌合部
71b 内径部
71c 外径部
71g 径方向外側端部
72 堰部
72a 突き出し部
72c 内径面
72h 傾斜面
72i 径方向内側端部
73 ラビリンス構造
L ラビリンス隙間
A 外方部材の外径面の外径
B 突き出し部の内径面の内径
C 外方部材の内径面の内径
D 補助シールの径方向内側端部の内径
S 環状空間
図1
図2
図3
図4