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7733736深絞り加工に適したコード鋼線材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-26
(45)【発行日】2025-09-03
(54)【発明の名称】深絞り加工に適したコード鋼線材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250827BHJP
   C22C 38/18 20060101ALI20250827BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20250827BHJP
   C21C 5/28 20060101ALI20250827BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20250827BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20250827BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20250827BHJP
   B22D 11/115 20060101ALI20250827BHJP
   B21B 1/16 20060101ALI20250827BHJP
   B22D 1/00 20060101ALI20250827BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/18
C21D8/06 A
C21C5/28 Z
C21C7/00 F
C21C1/02 108
B22D11/00 A
B22D11/115 A
B21B1/16 B
B22D1/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023537249
(86)(22)【出願日】2021-10-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 CN2021123778
(87)【国際公開番号】W WO2023056658
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】202111171327.1
(32)【優先日】2021-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521196073
【氏名又は名称】江▲陰▼▲興▼澄合金材料有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】517018813
【氏名又は名称】江陰興澄特種鋼鉄有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGYIN XING CHENG SPECIAL STEEL WORKS CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白云
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼海燕
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼▲剣▼▲鋒▼
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼海
(72)【発明者】
【氏名】李▲シゥン▼均
(72)【発明者】
【氏名】▲鄭▼▲暁▼▲偉▼
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼逸澄
(72)【発明者】
【氏名】何佳▲鋒▼
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-280836(JP,A)
【文献】特開平04-289148(JP,A)
【文献】特開平05-105951(JP,A)
【文献】国際公開第2008/156295(WO,A2)
【文献】特開2007-039800(JP,A)
【文献】特開平02-179840(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105506479(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109794515(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112620385(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111996349(CN,A)
【文献】特開2000-317597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/06
B21B 1/16
B22D 11/00-11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
深絞り加工に適したコード鋼線材において、前記線材の金属組織はソルバイト+パーライト+フェライトであり、ソルバイトの比率は60~70%に制御され、パーライトの比率は30~40%であり、フェライトは少量存在する組織であり、その比率は≦10%であり、
前記線材の化学成分を質量百分率によって算出すると、C:0.70~0.99%、Si:0.15~0.30%、Mn:0.15~0.60%、Cr:0.01~0.50%で、残部はFe及び不可避的不純物元素であり、
前記パーライトラメラの厚さは0.10~0.35μmであり、パーライトブロックの大きさは10~20μmであり、前記パーライトの特徴がより小さい転位密度に対応することを特徴とする、
深絞り加工に適したコード鋼線材。
【請求項2】
線材の中心炭素偏析レベルの、YB/T 4413「高炭素鋼線材の中心炭素偏析の金属相評定方法」に基づく評価が≦レベル1、組織中の網状セメンタイトレベルが≦レベル1であることを特徴とする、請求項1に記載の深絞り加工に適したコード鋼線材。
【請求項3】
線材の引張強度σは(103762*Ceq~114606*Ceq)/100 MPaであり、式中の炭素当量はCeq=C+Mn/6+Cr/5で、式中の元素記号が線材中の前記元素の重量百分率含有量を表すことを特徴とする、請求項1に記載の深絞り加工に適したコード鋼線材。
【請求項4】
線材表面の酸化層の厚さは13~18μmであり、酸化層中の厚さの比がFeO厚さ/Fe 厚さ=2~2.5であり、より高いスケール除去効果を有することを特徴とする、請求項1に記載の深絞り加工に適したコード鋼線材。
【請求項5】
線材の面収縮率が≧38%であることを特徴とする、請求項1に記載の深絞り加工に適したコード鋼線材。
【請求項6】
請求項1に記載の深絞り加工に適したコード鋼線材の製造方法であって、
製錬後の溶鋼を正方形ビレットに鋳造し、前記正方形ビレットの炭素偏析指数は≦1.05であり、炭素偏析指数とは正方形ビレットのコア部C%/溶錬C%であり、
正方形ビレットを加熱し、高温帯の温度を1180℃以上とし、高温帯の保持時間を60分以上とし、その後、正方形ビレットを連続した線材に圧延し、仕上げ圧延温度を800~900℃、吐糸温度を900~950℃とし、
圧延完了後の線材コイルを空冷ロールパス上で制御冷却し、ファンを起動して15~20℃/sの冷却速度で線材を前記線材の温度から700℃以下まで急速冷却し、この段階で少量のフェライトが生成され、かつパーライト核形成数が促進され、続いて、線材が変態領域に入るので、ファンをオフにすると、線材が室温条件下でオーステナイトからソルバイト及びパーライトに変態し、線材の温度が570℃以下まで下がってから、線材コイルのために保温カバーを設置し、ソルバイト変態が完了した線材を保温カバー内で充分に徐冷して酸化層の増厚を促し、酸化層中のFeOをさらにFeに変態させることを特徴とする、製造方法。
【請求項7】
連続鋳造工程を採用して溶鋼を正方形ビレットに鋳造し、タンディッシュ過熱度を15~30℃に制御し、電磁撹拌装置を配備し、凝固末端には動的軽圧下装置を採用し、かつビレット凝固初期には軽圧下を、凝固後期には重圧下を採用することを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記動的軽圧下装置とはテンションレベラーを指し、各ゾーンの圧力ローラによる変位圧下モードを採用し、1#~6#の圧力ローラの変位圧下量がそれぞれ2mm、2mm、3mm、4mm、4mm、4mmであることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
空冷ロールパスの速度は0.95~1.05m/sであり、0.95m/sから徐々に増加させて、線材コイルピッチを徐々に増大させることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金技術分野に属し、具体的にはコード鋼線材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化の急速な発展及び新エネルギー自動車の迅速な台頭により、自動車タイヤカーカス用スチールコードの強度要求が徐々に高まっている。スチールコードの強度レベルも、当初の標準張力(NT)レベルの普通強度から、現在のスーパー張力(ST)レベルの超高強度及びウルトラ張力(UT)レベルの超々高強度レベルへと徐々に進化している。
【0003】
鋼線の強度が高くなるほど、引抜き後の直径が細くなり、構造が複雑になるため、コード鋼用線材に対して、鋼中の介在物、主にMnS及び変形可能な40%SiO+15%Al+20%CaO複合介在物などの変形可能な介在物を合理的に制御することは、線材の引抜き性能の向上に役立つ。また、線材組織中のソルバイト組織の比率も線材の引抜き性能に影響を与えており、一般的には、線材を600~650の温度範囲内まで冷却すると恒温変態が発生し、変態した組織はソルバイトである。高炭素鋼線材にとって、ソルバイトの比率は一般に85%以上であり、ソルバイトが高すぎて、パーライトラメラが細かくなると、線材の引張強度が過度に高くなり、転位密度や引抜き硬化が大きくなるので、深絞り加工には不向きである。ソルバイトの比率が低すぎると、線材の強度が下がり、塑性が悪くなり、線材の引抜き変形能力が低くなるので、同様に深絞り加工には適さない。よって、線材中のソルバイトの比率、引張強度を適切な範囲内に制御しない限り、線材の深絞り加工、低断線率の要求を満たして、スチールコードの高強度化、精密化に向けての発展をさらに推進することはできないのである。
【0004】
以上の技術的課題を解決することによって、4000MPa以上のUTレベルのスチールコード及び鋼線切断用線材の生産普及化を実現することができる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、線材組織中のソルバイトの比率を低下させた、深絞り加工に適したコード鋼線材を提供することである。上記の線材の金属組織はソルバイト+パーライト+フェライトであり、そのうち、ソルバイトの比率は60~70%に制御され、パーライトの比率は30~40%であり、フェライトは少量存在する組織であり、その比率は≦10%である。線材中の各組織の比率とは、線材の金属組織図(例えばSEM拡大図)の中の各組織の面積占有比を指す。
【0006】
さらに、本願では、ラメラのより厚いパーライト組織を得ることを意図しており、パーライトラメラの厚さは0.10~0.35μmで、パーライトブロックの大きさは10~20μmであり、金属組織の転位密度が減少することで、引張強度が大きくなりすぎることを防止して、引抜き硬化を抑制している。
【0007】
さらに、本願は線材の中心炭素偏析レベルを制御することを意図しており、YB/T 4413「高炭素鋼線材の中心炭素偏析の金属相評定方法」に基づいて評価した本発明の線材の中心炭素偏析レベルは≦レベル1であり、線材の冷却過程における網状セメンタイトの析出を有効に抑制することができ、組織中の網状セメンタイトのレベルは≦レベル1で、本願はレベル0である。
【0008】
さらに、線材表面の酸化層の厚さは13~18μmであり、従来の平均的な酸化層の厚さより5μm厚く、酸化層中ではFeO/Fe=2~2.5:1で、FeO/Feはさらに低く、理想的な(機械)スケール除去効果を容易に達成するので、線材の引抜き断線率を著しく低下させることに役立つ。
【0009】
本発明の線材の引張強度σは(103762*Ceq~114606*Ceq)/100 MPaであり、式中の炭素当量はCeq=C+Mn/6+Cr/5であり、式中の元素記号は鋼中の元素の重量百分率含有量を表し、強度は適切で、深絞り加工により適しており、断線率を著しく低下させる。従来技術によって生産された線材の引張強度範囲はσ=(120387*Ceq~131231*Ceq)/100 MPaであり、引張強度は主に2つの要素によって決定される。一つ目は化学成分、即ち炭素当量である。二つ目は冷却時の冷却強度と線材の変態温度であり、冷却強度が小さく、変態温度が高ければ、線材強度は低くなり、冷却強度が大きく、変態温度が低ければ、線材強度は高くなる。本願では主に、冷却強度を制御することによって引張強度が高くなりすぎることを防止している。
【0010】
線材の化学成分を質量百分率によって算出すると、C:0.70~0.99%、Si:0.15~0.30%、Mn:0.15~0.60%、Cr:0.01~0.50%で、残部はFe及び不可避的不純物元素である。強度はレベル72、82、86、92のコード鋼に関係する。
【0011】
本願の線材中の化学元素の作用原理は以下の通りである。
【0012】
Cは高炭素硬鋼線中の主要な強化元素であり、固溶強化と析出強化を通して鋼の強度を高め、炭素含有量が増加するにつれて、線材の強度も上がり、引抜き鋼線の強度もそれに伴って上がる。しかし、過共析鋼中では、炭素含有量の増加に伴って線材コア部の網状セメンタイト析出の確率も増加する。よって、本発明のC含有量範囲は0.78~0.99%に設定されている。
【0013】
Siはコード鋼中の主な脱酸元素であり、Si脱酸により無害化されたSiO2介在物が生成される。しかし、Siは同時にフェライトを強化する元素でもあり、コード鋼中の過度なSi含有量はパーライト中のフェライト相の塑性を低下させ、鋼線引抜きの延性が悪くなるため、本発明のSi含有量は0.15~0.30%に制御されている。
【0014】
Mnはコード鋼中で脱酸して変形可能なMnS介在物を形成することができると同時に、鋼中で主に強度を高める元素である。しかし、Mnは同時に偏析しやすい元素でもあり、Mnが高すぎると鋼材の偏析を悪化させ、また鋼の焼入れ性を向上させ、オーステナイト冷却時の過冷度を増加させ、パーライトラメラを細かくし、強度を向上させ、塑性を悪化させる。よって、本発明では、Mn含有量を0.15~0.60%に制御している。
【0015】
Crはコード鋼中でC曲線の右下移動を促進することができ、ソルバイトの変態時間を遅らせ、変態温度を下げ、パーライトラメラの間隔を細かくすることができ、鋼材の塑性指標を顕著に改善し、引抜き加工性能を顕著に改善して、大きな引抜き変形を実現し、中間熱処理を減らし、引抜き鋼線の最終強度を向上させることができる。しかし、コード鋼中のCr含有量が多すぎると、冷却過程で過冷組織のベイナイト、マルテンサイトが形成されやすく、塑性変形が悪くなり、鋼材の引抜き加工性能に影響が生じるので、本発明では、Crを0.35%以下に制御することが望ましい。
【0016】
また、本願では、コード鋼線材の製造方法も提供しており、具体的な生産工程プロセスでは、KR溶鉄前処理、転炉製錬、LF精錬、正方形ビレット連続鋳造、正方形ビレット熱間圧延、線材冷却をこの順で含む。
【0017】
そのうち、
成分設計と合致する溶鋼を製錬し、連続鋳造工程を採用して溶鋼を小さい正方形ビレットに連続鋳造し、タンディッシュ過熱度を15~30℃に制御し、電磁撹拌装置を配備し、凝固末端には動的軽圧下設備を採用し、テンションレベラーの各ゾーンの圧力ローラには変位圧下モードを採用する。具体的には、1#~6#のローラの変位圧下量はそれぞれ2mm、2mm、3mm、4mm、4mm、4mmである。通常の連続鋳造ビレットの炭素偏析制御で主に軽圧下技術が採用されることに比べて、本願の動的圧下では「軽圧下+重圧下」の組合わせ圧下技術を採用しており、ビレット凝固初期には軽圧下を、凝固後期には重圧下を採用している。連続鋳造ビレット炭素偏析指数は≦1.05で、そのうち、連続鋳造ビレット炭素偏析指数は連続鋳造ビレットのコア部C%/溶解C%である。
【0018】
ビレット圧延には適切な加熱温度を選択する。具体的には、圧延前に炉内の高温帯の温度を1180℃以上に加熱する。総加熱時間を120分以上、高温時間を60分以上とし、ビレットの拡散に十分な温度と時間があることを保証する。高温拡散によって、コア部の炭素偏析をさらに抑制する。
【0019】
線材の仕上げ圧延温度は800~900℃に制御し、圧延速度は95~120m/sに設定し、吐糸温度は850~950℃とする。
【0020】
圧延完了後の線材コイルは空冷ロールパス上で制御冷却され、ロールパスの速度範囲は0.95~1.05m/sであり、0.95m/sから徐々に増加する。1~3#ファンを起動して線材の初期冷却速度を速め、吐糸温度から700℃以下まで急速に冷却し、パーライトブロックの大きさの微細化を促進し、網状炭素の析出を抑制する。この段階で少量のフェライトが析出する。急冷段階の冷却速度は15~20℃/sに制御することが望ましく、環境温度に基づいてファン風量の開度を調整する。具体的な環境温度が20℃以上では、1~3#ファン開度はそれぞれ90%、90%、70%である。具体的な環境温度が20℃以下では、1~3#ファンの開度はそれぞれ90%、90%、50%である。その後のファン(3#以降の残りのファン)はすべてオフにする。オフにするのは、主に充分な徐冷を行い、線材が変態領域に入り、オーステナイトからソルバイト及びパーライトに変態し、ソルバイトの変態温度が上昇して、ソルバイトの650℃前後での変態を実現すると同時に、変態時間を延長して恒温変態を実現するためである。変態過程中の変態潜熱の放出により、線材温度は一旦回復するが、変態の完成に伴って再び降下し、線材温度が570℃以下まで降下すると、変態がほぼ終了する。その後、線材コイルに対して保温カバーを設置して徐冷を行い、線材表面の酸化層の増厚を促進させる。酸化層中のFeOがさらにFeに変化し、FeO/Feが下がる。
【0021】
空冷ロールパス上の保温カバーの設置については、1~11#保温カバーが急冷及び変態領域に対応しており、この2つの冷却ゾーンに対応する空冷ロールパス上には保温カバーを設置せず、12#以降の保温カバーはすべて閉じ、線材が570℃前後で充分に保温され、充分に徐冷されて、酸化層の厚さが増すことを保証し、酸化層の成分を調節して線材のスケール除去がさらに有利になるようにして、引抜き断線率を引き下げる。
【0022】
従来技術と比較すると、本発明の長所は以下の点にある。
【0023】
(1)本発明で生産する線材は、パーライトラメラが粗く、パーライトブロックのサイズが小さいので、線材の深絞り加工に対応することができ、減面率の大きな引抜き条件下での鋼線の亀裂発生傾向を減少させ、断線率を有効に引き下げて、断線率を通常の工程より30%低くしている。
【0024】
(2)線材中のC:0.70~0.99%は、高炭素鋼線材に属し、高炭素鋼線材のソルバイト比率は一般に85%以上であるが、本願の線材製造方法、特に方法中の制御冷却工程では、線材中のソルバイトの比率を60~70%に、粗いラメラ状パーライトの比率を30~40%に制御している。ラメラを粗大化して線材の引張強度を有効に低下させると、粗絞り段階で研削砥石の損耗や鋼線表面の発熱を減少させることができるので、表面欠陥のリスクが低下し、それにより引抜き断線率が下がる。その一方で、深絞り加工では、パーライトラメラが細かすぎて、引抜き過程で鋼線の面収縮の下降時の真ひずみが小さくなり、即ち、鋼線が安定した塑性を保持して耐えることのできる引抜き減面量が減少する。即ち、鋼線の深絞り加工性能が低下するのである。
【0025】
(3)本発明で生産する線材は、酸化層の厚さが13~18μmであり、通常の工程より5μm厚く、かつ酸化層の組成がFeO/Fe=(2~2.5)/1なので、線材の機械的スケール除去にさらに有利であり、線材のスケール除去が不十分なことによる表面の絞り損失が鋼線の引抜き断線率に影響を与えることを減らしている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の実施例1における線材の顕微鏡組織図である。
図2図2は、本発明の実施例2における線材の酸化層の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、具体的な実施例と結び付けて、本発明についてさらに詳細な説明を行う。
【0028】
100トンの溶鋼を溶錬してコード鋼線材を製造することを例として、溶鉄前処理+転炉製錬+LF精錬+正方形ビレット連続鋳造というプロセスを採用し、以下の成分の各実施例のビレットを生産する。連続鋳造ビレットの炭素偏析指数は≦1.05を満たすものとする。
【0029】
連続鋳造正方形ビレットを炉に入れて加熱し、均熱温度が1180℃以上であることを確保し、かつ1180℃以上の高温時間を4時間以上保持し、ビレットの十分な加熱拡散を確保して、炭素偏析をさらに低下させる。オーステナイト相領域で連続鋳造正方形ビレットを連続圧延して線材にし、線材の仕上げ圧延温度を800~900℃に制御し、圧延速度を95~120m/sに設定し、吐糸温度を900~950℃に制御し、吐糸温度を上げてオーステナイトの安定性を増加させ、圧延完了後の線材コイルの冷却には急冷+徐冷+保温を採用する。線材コイルの所在するロールパスの速度を0.95m/sに設定し、ロールパスの速度を1.05m/sまで徐々に増加させてコイルピッチを広げる。1~3#ファンを起動して急冷を実現し、パーライトの核形成を加速させ、パーライトの成長を抑制する。ファン開度は90%、90%、30%である。3#以降のファンをオフにして徐冷を行い、線材が変態領域に入ると、線材が環境温度と自身の潜熱放出という条件下で変態し、変態温度が650℃前後まで上がると、ソルバイト変態時間が延長され、線材の温度が降下し始め、かつ570℃以下まで下がった時点で、変態が完了したと見なされる。これに対応して、12#以降の保温カバーを閉じ、変態後の線材を保温して、線材表面部分のFeO層がFeに変わることを促進する。この設定により、一般的に線材表面のFeO厚さ/Fe厚さを(2~2.5)/1に調節することができ、線材のスケール除去効果がより高くなり、表面欠陥や引抜き時の断線率が下がる。
【0030】
実施例1~5の線材の元素成分及びビレット偏析指数は表1の通りである。
【0031】
【0032】
実施例1~5及び2つの比較例の具体的な工程パラメータは表2の通りである。
【0033】
【0034】
実施例1~5と2つの比較例の最終線材の測定性能は表3の通りである。
【0035】
【0036】
以上の実施例と比較例の対比により、本願の制御冷却方法、特に制御冷却工程中の徐冷を用いて変態及びその後のカバー徐冷を行うことで、ソルバイト組織含有量、パーライトラメラ間隔を明らかに変えることができ、それにより線材の引張強度を制御して、引抜き性能を改善することができることを証明することができる。
【0037】
以上のように、本発明の好適な実施例について詳細に述べてきたが、当業者は、本発明は様々な変更及び変化が可能であることをはっきりと理解しておかなければならない。本発明の主旨及び原則内で行われる修正、同等の置換、改良などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるものとする。
図1
図2