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特許7733958鉢物仕立て用補助具、鉢物仕立て用キット、鉢植え、鉢植えの仕立て方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-27
(45)【発行日】2025-09-04
(54)【発明の名称】鉢物仕立て用補助具、鉢物仕立て用キット、鉢植え、鉢植えの仕立て方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/12 20060101AFI20250828BHJP
【FI】
A01G9/12 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2025088933
(22)【出願日】2025-05-28
(65)【公開番号】P2025113445
(43)【公開日】2025-08-01
【審査請求日】2025-06-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和7年5月23日~24日、豊明花き市場(愛知県豊明市阿野町三本木121番地)にて、「鉢物仕立て用支柱」に係る発明を公開。令和7年2月17日~4月17日、JA西三河および各卸売市場関係者が開設するLINEグループにて、「鉢物仕立て用支柱」に係る発明を公開。令和6年11月13日および令和7年5月6日、各卸売市場関係者および園芸関係者が開設するLINEグループにて、「鉢物仕立て用支柱」に係る発明を公開。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】525205780
【氏名又は名称】鈴木寿一
(74)【代理人】
【識別番号】100180057
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木一子
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-037041(JP,U)
【文献】特開平11-239421(JP,A)
【文献】実開昭61-028342(JP,U)
【文献】特開2007-310853(JP,A)
【文献】特開2000-014253(JP,A)
【文献】米国特許第04860489(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0289454(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106576867(CN,A)
【文献】登録実用新案第3011330(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平行に配置した同じ長さのN本(Nは2以上の整数)の支柱と、輪を巻くように予め癖付けされた可撓性線材の長さ方向に沿って(N+2)個配置された支柱把持部において支柱に固定可能な(N+1)本支柱用の複数本の囲繞用線材とを備えた鉢物仕立て用補助具であって、前記N本の支柱は、支柱の長手方向から視て、共通の仮想円上に配置されており、当該仮想円の外周側、内周側または仮想円周上において、前記複数本の囲繞用線材が支柱の長手方向に沿ってらせん状に同方向巻きで巻き回されて支柱に固定されており、支柱を立てた状態で隣り合う囲繞用線材を下端が低いものから順に第1線材および第2線材としたとき、第1線材の上端が固定された支柱と同一支柱において第2線材の下端が固定されている鉢物仕立て用補助具。
【請求項2】
支柱および囲繞用線材がプラスチック製である請求項1に記載の鉢物仕立て用補助具。
【請求項3】
囲繞用線材を複数個有し、隣り合う囲繞用線材を下端が低いものから順に第1線材および第2線材としたとき、第1線材の上端が固定された支柱と同一支柱において所定距離離間した上方に第2線材の下端が固定されており、第1線材と第2線材とが同方向巻きで巻き回されている、請求項1に記載の鉢物仕立て用補助具。
【請求項4】
囲繞用線材を複数個有し、隣り合う囲繞用線材を下端が低いものから順に第1線材および第2線材としたとき、第1線材の上端が固定された支柱と同一支柱において所定距離離間した下方に第2線材の下端が固定されており、第1線材と第2線材とが同方向巻きで巻き回されている、請求項1に記載の鉢物仕立て用補助具。
【請求項5】
支柱把持部が仮想円の円周の外側から支柱を把持している請求項1に記載の鉢物仕立て用補助具。
【請求項6】
請求項1に記載の鉢物仕立て用補助具の複数本の支柱は、下端から一定の長さが鉢植土に埋め込まれていることで直立姿勢が保持されており、
鉢植え植物の主軸は、複数本の支柱と囲繞用線材とに囲まれた概ね筒状の空間内を伸びており、
鉢植え植物の分枝は、主軸の成長に伴って異なる高さで筒状の空間の外側方に向かって伸びている鉢植え。
【請求項7】
鉢植え植物がつる性の観賞花植物である請求項6に記載の鉢植え。
【請求項8】
鉢の内周に沿ってN本(Nは2以上の整数)の支柱を直立させて鉢植土に差し込むことと、
鉢植土上に直立したN本(Nは2以上の整数)の支柱の外周側または内周側において輪を巻くように予め癖付けされた可撓性線材の長さ方向に沿って(N+2)個の支柱把持部を有する(N+1)本支柱用の囲繞用線材をらせん状に複数本同方向巻きで上昇旋回させて各支柱把持部支柱に固定する際、隣り合う囲繞用線材を下端が低いものから順に第1線材および第2線材としたとき、第1線材の上端が固定された支柱と同一支柱において第2線材の下端を固定することで、支柱および囲繞用線材に囲まれた概ね筒状の空間を確保することと、
主軸の成長に伴い筒状の空間の異なる高さ位置において外側方に向かって適量の分枝を伸ばせるように支柱における囲繞用線材の固定位置を調整することと
を含む鉢植えの仕立て方法。
【請求項9】
N本(Nは2以上の整数)の支柱と、輪を巻くように予め癖付けされた可撓性線材の長さ方向に沿って(N+2)個配置された支柱把持部において支柱に固定可能な(N+1)本支柱用の複数本の囲繞用線材と、支柱の長手方向から視て、前記複数本の支柱が共通の仮想円上に配置されており、当該仮想円の外周側、内周側または仮想円周上において、囲繞用線材を支柱の長手方向に沿ってらせん状に同方向巻きで巻き回して支柱に固定する際、隣り合う囲繞用線材を下端が低いものから順に第1線材および第2線材としたとき、第1線材の上端が固定された支柱と同一支柱において第2線材の下端を固定する組み立て方法を説明する説明書または説明手段へのリンクとを備えた鉢物仕立て用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉢物仕立て用補助具、鉢物仕立て用キット、鉢植え、鉢植えの仕立て方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、つる性の観賞花植物を仕立てる方法として知られる、図5に示すトラス仕立ては、表側103と裏側109があり、見せる側が表側103と決まっていることから、置き場所が制約される。
【0003】
つる性の観賞花植物をどの方向からみても見栄えよくコンパクトに仕立てる方法として図6に示す行燈仕立て100がある。行燈仕立ては、フラワーガーデン戸谷の戸谷猛氏によって開発・考案された仕立て方法で、つる性の観賞花植物の主軸101自体を複数本の平行に配置した支柱102の周りに周回させながらワイヤー入りビニール紐104で結び付けていく手法である。行燈仕立てはどの方向からみても花105の見栄えが良く、華やかに見えるメリットがある一方、棘107がある植物を枝折れなく短時間で巻き付けていくには技術を要し、仕立てに慣れるのにワンシーズンでは難しい。したがって、一鉢を作るのにかかるコストがどうしても高くなりやすい。加えて、高さは支柱102の高さに制約されてしまい、それ以上成長した主軸101は行燈に咲いた花105を覆い隠すように側方に垂れてきて始末が悪くなりやすい。
【0004】
倒立した大略J字形又は円弧状の形状を有する金属製又はプラスチック製よりなる流線型の三本の棒材と、この三本の棒材の周囲を螺旋状に空隙をもって囲うコーン状スパイラル円錐体を組み合わせた園芸用支柱が提案されている(特許文献1)。これは意匠に係る物品の説明にあるように、つるの主軸をスパイラル円錐体に沿って螺旋状に伸びさせる目的で使用するものであり、鉢物仕立て用途でなく園芸園地用途である。
【0005】
基台に、複数の支柱を立設し、支柱間に、爪で前記支柱を挟んだ横桟を1または複数段に着脱自在で高さ変更可能に横架してなり、基台に植木鉢を載置して植物を育成可能とする移動可能な鉢植え植物の育成台が開示されている(特許文献2)。この育成台によれば、横に拡がる葉の植物や蔓性の植物でも別の支柱を立てたり、紐でくくったりする必要がなく、移動可能である。しかしながら、「横桟10は、植物12の拡がりをおさえて全体の体裁をよくする。植物12が蔓製の場合には、支柱7および横桟10が蔓を支える」とあることから明白なように、植物の側方への拡がりを抑制すること、つる性植物については横桟の上につるを絡ませたり花を載せることに主眼を置くものであって、主軸の成長に従ってあらわれる分枝を横桟に支持させつつ、あるいは横桟の下にくぐらせつつ、外側方(円筒面から飛び出す方向)に伸ばして側方にバランスの良い配分で花を咲かせることを想定したものではない。
【0006】
両端に直線的部分を有し、それ以外の部分がらせん状のねじれ部になるように構成した鋼製支柱が開示されている(非特許文献1)。この支柱は、一端を支持したい植物の根元近傍に突き刺し、らせんの軸中心に植物の根元が来るようにして、ねじれ部で囲まれた円筒空間内に主軸の鉛直上方への成長を誘引しつつ、側方に伸びる分枝をねじれ部に支持させることを想定したものである。トップの重い花、実を結ぶ植物、または直立したままの手を使用できるブドウの木での利用を想定したものであるが、1本5000円近い高価な地植え用の支柱であり、鉢物仕立て用補助具ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】意匠登録第1364245号公報
【文献】特許第3806375号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Garrett Wade販売ウェブサイト「Spiral Plant Supports」(URL: https://tinyurl.com/yu2laclx)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記現状に鑑み、本発明は、汎用資材を使って簡便に構築でき、見栄えの良い鉢物を効率良く仕立てられる鉢物仕立て用補助具、および、鉢物仕立て用補助具を使った鉢植えとその仕立て方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明の1つの側面は、略平行に配置した同じ長さの複数本の支柱と、少なくとも両端を支柱に固定可能な囲繞用線材とを備えた鉢物仕立て用補助具であって、支柱の長手方向から視て、複数本の支柱が共通の仮想円上に配置される場合に、当該仮想円の外周側または内周側において、囲繞用線材が支柱の長手方向に沿ってらせん状に巻き回されて支柱に固定されている、鉢物仕立て用補助具である。斯かる構成であると、支柱とらせん構造の囲繞用線材に囲まれた概ね円筒状の空間内で概ね支柱の長手方向に沿った主軸の成長を誘導し上方に花を咲かせるとともに、主軸の成長に従ってあらわれる分枝を囲繞用線材に支持させつつ、あるいは囲繞用線材の下にくぐらせつつ、外側方(円筒面から飛び出す方向)に伸ばして側方にも花を咲かせることができる。
【0011】
上記鉢物仕立て用補助具は、両端を含めて支柱把持部を(N+2)個有する(N+1)本支柱用の囲繞用線材が、N本(Nは2以上の整数)の支柱に対して、らせん状に複数本旋回されていることが好ましい。その結果、両端の支柱把持部が各々異なる支柱に固定されていることとなり、1本の囲繞用線材をらせん状に巻き回したことで生じたねじれの力が2本目、3本目の囲繞用線材をらせん状に巻き回すことで相殺されていき、複数本の支柱が平行に近い状態になる。
【0012】
上記鉢物仕立て用補助具は、支柱および囲繞用線材がプラスチック製であることが好ましい。行燈仕立てだと骨組みに鉄芯が入った樹脂棒材等の複合素材を使用することが多く、分別廃棄が複雑になりがちであるが、すべてプラスチックで構成していれば、プラスチックごみとして廃棄可能であるので、分別が不要で、消費者にも好まれやすい。
【0013】
上記鉢物仕立て用補助具は、囲繞用線材を複数個有し、隣り合う囲繞用線材を下端が低いものから順に第1線材および第2線材としたとき、第1線材の上端が固定された支柱と同一支柱において所定距離離間した上方に第2線材の下端が固定されており、第1線材と第2線材とが同方向巻きで巻き回されていることが好ましい。所定距離離間させることで、隣り合う線材間の開きが大きくなり、分枝を増やすことにより側方に咲く花の数を増やすことが可能になる。
【0014】
上記鉢物仕立て用補助具は、囲繞用線材を複数個有し、隣り合う囲繞用線材を下端が低いものから順に第1線材および第2線材としたとき、第1線材の上端が固定された支柱と同一支柱において所定距離離間した下方に第2線材の下端が固定されており、第1線材と第2線材とが同方向巻きで巻き回されていることが好ましい。斯かる構成であると、線材の上下間隔が狭まり、その間隔内に分枝の動きを制約できることで、分枝の垂れを抑え、花の位置を高精度に調整可能になる。
【0015】
上記鉢物仕立て用補助具は、支柱把持部が仮想円の円周の外側から支柱を把持していることが好ましい。斯かる構成であると、分枝の剪定に邪魔な支柱把持部の上下位置をずらしてから剪定して、再度支柱把持部の上下位置を元に戻すことによる花の位置・バランスの微調整が容易にできる。
【0016】
上記目的を達成するためになされた本発明の他の側面は、上記鉢物仕立て用補助具の複数本の支柱は、下端から一定の長さが鉢植土に埋め込まれていることで直立姿勢が保持されており、鉢植え植物の主軸は、複数本の支柱と囲繞用線材とに囲まれた概ね筒状の空間内を伸びており、鉢植え植物の分枝は、主軸の成長に伴って異なる高さで筒状の空間の外側方に向かって伸びている鉢植えである。斯かる構成であると、仮に囲繞用線材をらせん状に巻き回したことにより支柱にねじれる方向の力が働いていたとしても、支柱の下端から所定の長さまで鉢植土に埋め込まれていることで、埋め込まれた部分が鉢植土から受ける反作用によりねじれる方向の力が吸収されて支柱の直立姿勢を保持する。また鉢植え植物の分枝についた花房も筒状の空間の外側方に向かって開くことから、行燈仕立て以上に豪華さを増すことができる。
【0017】
上記鉢植えは、鉢植え植物がつる性の観賞花植物であることが好ましい。ブーゲンビレアをはじめとするつる性の観賞花植物は、筒状の空間の上方を主軸の上方に咲く花で満たし、分枝に咲く花を側方に出すことで、全体として満遍なく花房が出て、見た目に華やかな印象を与えることができることから、本発明の鉢物仕立て用補助具を使用した仕立てに特に適したものとなる。
【0018】
上記目的を達成するためになされた本発明の他の側面は、鉢の内周に沿って複数本の支柱を直立させて鉢植土に差し込むことと、鉢植土上に直立した複数本の支柱の外周側または内周側において囲繞用線材をらせん状に上昇旋回させて少なくとも両端で支柱に固定することで、支柱および囲繞用線材に囲まれた概ね筒状の空間を確保することと、主軸の成長に伴い筒状の空間の異なる高さ位置において外側方に向かって適量の分枝を伸ばせるように支柱における囲繞用線材の固定位置を調整することとを含む鉢植えの仕立て方法である。囲繞用線材の固定位置を調整することで外側方に向かって出る分枝の高さ位置を調整(分枝を囲繞用線材の上に支持させるか、下で伸ばすかを決めることが)でき、その結果分枝の先端につく花の量も高さ方向に配分調整することができる。
【0019】
上記目的を達成するためになされた本発明の他の側面は、複数本の支柱と、少なくとも両端を支柱に固定可能な囲繞用線材と、支柱の長手方向から視て、複数本の支柱が共通の仮想円上に配置される場合に、当該仮想円の外周側、内周側または仮想円周上において、囲繞用線材を支柱の長手方向に沿ってらせん状に巻き回して支柱に固定する組み立て方法を説明する説明書または説明手段へのリンクとを備えた鉢物仕立て用キットである。斯かる構成であると、見栄えの良い鉢物を効率良く仕立てるための補助具が汎用資材を使って簡便に構築できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、仕立てに経験や手間、時間を要することなく、農家の生産性を向上することができるうえ、その構造上、主軸の上方への成長を誘導するとともに主軸の成長に従ってあらわれる分枝を囲繞用線材に支持させつつ側方に出して周回螺旋に沿って花を咲かせ、どの方向からみても見栄えのある鉢植えを生産することができる。その結果、置き場所も自由自在で、エントランスにもテーブルにも飾ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】右巻きらせんの鉢物仕立て用補助具を挿した鉢植えの写真。
図2】左巻きらせんの鉢物仕立て用補助具の一実施態様を示す写真。
図3】鉢物仕立て用補助具の他の実施態様を示す写真。
図4】囲繞用線材の一実施態様を示す写真。
図5】ブーゲンビレアのトラス仕立ての一実施態様。
図6】ブーゲンビレアの行燈仕立ての一実施態様。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本明細書で使用する「用語」について定義する。
本明細書において「鉢物仕立て用補助具」とは、鉢植え植物の姿勢や外見を整え、鉢物を展示するために植物用の鉢の内側に沿って使用される補助具を意味する。したがって、鉢植えの栽培用に使用するもの、出荷用に使用するものを含むものである。
本明細書において「囲繞用線材が支柱の長手方向に沿ってらせん状に巻き回されて」とは、囲繞用線材がある支柱から隣接する支柱に渡される際に、少なくとも両端が異なる高さ位置で固定されていることを意味する。したがって、囲繞用線材が狭義の螺線、すなわち支柱の軸方向から視て円弧様の軌跡を描いており、円柱面上をまわりやながら軸方向に一定の速度で進んでいくときにできる渦巻き状の軌跡(つるまき線)を辿っていることに限定されない。また、らせんの巻き方向は、右巻き・左巻きの別を問わない。
本明細書において、囲繞用線材を「支柱に固定可能」および「支柱に固定されている」とは、出荷時に植物の分枝を支持していても支柱上での位置が変わらない状態を保てる、または保っていることを意味する。したがって、囲繞用線材と支柱とが着脱自在であってもよいし、着脱自在でなくてもよい。また着脱自在か否かを問わず、囲繞用線材の支柱における高さ位置を調整可能なものであってもよいし、支柱における高さ位置が予め決まっており、調整不可能なものであってもよい。
本明細書において、「主軸」とは、植物の上下軸、上方向への成長を担う軸を意味する。したがって、挿し木の状態で初めて主軸が定まるが、その主軸を切断した場合でも、縦方向の成長を担う最も優位な側芽(通常は最上部の腋芽)は、主軸に該当する。
本明細書において、「分枝」とは、主軸の切断の有無によらずに主軸から生じた複数の枝分かれのことを意味する。分枝には先端に花がついていてもよいし、ついていなくてもよいが、見た目の豪華さの観点で先端に花がついていることが好ましい。
本明細書において、「支柱の長手方向から視て、複数本の支柱が共通の仮想円上に配置され」とは、植物用の鉢の内側に沿って、複数の支柱が等間隔または不規則間隔で立てられている状況を意味する。したがって、3本の支柱が一直線に並んでいる場合は、3本の支柱すべてを通る仮想円は存在しないものの、両端の2本の支柱を通る仮想円が存在するため、包含される。
【0023】
以下本発明を実施するための形態について以下に適宜図面を参照して説明する。
図1に示す本実施形態に係る鉢植え1は、鉢3の内周縁5に沿って鉢植土6上に直立した2本の支柱7と、支柱7の長手方向から視て2本の支柱7を通る仮想円の外周側において支柱7の長手方向に沿って右巻きらせん状に巻き回されて固定されている2本の囲繞用線材9と、鉢植土6における仮想円の略中心付近から鉛直上方に伸びる植物の主軸2と、主軸2から枝分かれして鉛直上方および外側方に伸びた上方分枝12および側方分枝14と、上方分枝12および側方分枝14の先端に咲く上方花16および側方花18とを備える。
【0024】
図2に示す鉢物仕立て用補助具11を設置する鉢33としては、典型的な4寸のプラ鉢を採用しているが、サイズや材質は限定されず、5寸鉢等を採用することもできる。鉢の形状としては、量産性・コスト効率、スタッキングの効率、水や養分の分布が均一、自動化しやすいという観点から、特に出荷用鉢として円形鉢を好適に採用することができる。ただし、観賞用やディスプレイ用として角形鉢、園芸愛好家や室内装飾用として楕円形鉢やデザイン鉢を使用することを排除するものではない。
【0025】
図2に示す鉢物仕立て用補助具11における支柱7は、非可撓性の中空プラスチックで作られている。支柱の太さは、市販品でも直径6mm、6.5mm、8mm、11mm、16mm等さまざまでありいずれを使用することもできるが、本実施形態では直径6mmを採用している。いずれの太さに対しても、長さ120cmの中空プラスチック製のものが市販されており、これを植物の仕立てたい丈に応じて、2等分(60cm)、3等分(40cm)、4等分(30cm)または6等分(20cm)して使用することができる。支柱の丈の目安は、鉢のサイズとのバランスの観点で、4寸鉢用に30cm、5寸鉢用に40cmのものが好適に採用される。支柱の色は、鉢や花や葉の色に対して主張しないように濃緑色を採用しているが、特に限定されない。本実施形態では支柱自体に誘引の目的がないため、表面にイボがついていないものを使用しているが、誘引を許容する場合はイボ付きであってもよい。なお、支柱の材質としては、針金や鋼管の上から樹脂被覆を施したものを使用することもできるが、消費者が廃棄する際に分別が不要である方が好まれることから、中空プラスチックを使用することが好ましい。
【0026】
図1および図2から明白なように、囲繞用線材9は、2本使用しており、隣り合う囲繞用線材9を下端8が低いものから順に第1線材9aおよび第2線材9bとしたとき、第1線材9aの上端4aが固定された支柱7と同一支柱において所定距離dだけ離間した上方に第2線材9bの下端8bが固定されており、第1線材9aと第2線材9bとが同方向巻き(図1は右巻き、図2は左巻き)で巻き回されている。「所定距離」は、同一支柱上で、第1線材9aの上端4aより高く、第2線材9bの次に高い(らせんが1周した)固定点より低い範囲であれば任意の位置とすることができるが、主軸が低いうちから分枝の成長が良く枝分かれも活発である場合は、dを大きくすることが好ましい。
【0027】
図3に示すように、2本の支柱7a、7bの周りに1本の囲繞用線材19をらせん状に巻き回した状態では、支柱7a、7b間に軸がねじれる方向の力が働いていることがある。このような場合には、2本の支柱を平行に矯正した状態で、囲繞用線材19に適宜ドライヤーやヒーター等からの熱風を当てて、ねじれる方向の力を緩和する癖直しをしてもよい。なお、5寸鉢の場合は3本が目安であるが、特に限定されない。
【0028】
囲繞用線材は、少なくとも両端を支柱に固定可能な線材である。
図4に示す典型的な囲繞用線材9は、輪を巻くように予め癖付けされたプラスチック製の可撓性線材21と、可撓性線材21の両端を含む4か所に等間隔で固定された支柱把持部23とを備えている。支柱把持部23は、対向する膨隆部25a、25bを有する可撓性の把手27を備え、把手27が支柱7を掴んでいないときには対向する膨隆部25a、25b間の開口距離が支柱7の太さ径より小さく、支柱7を受容する受容空間26を有する。当該可撓性線材が形づくるリングの面上、径方向内向きに開口28が向くように構成している。受容空間26の大きさは、支柱7の直径を受け入れられる大きさのものを選択する。図4に示す典型的な囲繞用線材9は、いわゆる3本支柱用のリング線材と称されるものであり、鉢のサイズに応じて、3号リング~5号リング(品番:582~586、三晃物産社製)等の市販品を採用することができる。本実施形態では、4寸鉢に3号リングを採用しているが、5寸鉢では5号リングを採用することができる。囲繞用線材9の色は、鉢や花や葉の色に対して主張しないように濃緑色(モスグリーン)を採用しているが、特に限定されない。
【0029】
複数本の支柱と、両端を含めて等間隔に支柱把持部を有する可撓性の囲繞用線材と、囲繞用線材を複数本の支柱の長手方向に沿ってらせん状に巻き回して支柱に固定する組み立て方法を説明する説明書または説明手段へのリンクとを備えた鉢物仕立て用キットもまた、本発明の1つである。
支柱、囲繞用線材の詳細については、上述の通りである。
説明書は、文章のみ、イラストのみ、またはこれらの組み合わせのいずれであってもよい。
説明手段としては、動画、ショート動画、オンラインマニュアルページ、WebサイトやECページのホバー動画、SNS公式アカウント経由でのチャットで組み立て案内等が挙げられる。説明手段における説明方法は、アニメーションのみ、アニメーションと字幕、実演と字幕、実演と音声等いずれであってもよい。
説明書または説明手段には、鉢物仕立て用補助具の組み立て方法のみならず、仕立て方法に関するノウハウが含まれていてもよい。
説明手段へのリンクとしては、QRコード(登録商標)、近距離無線通信(NFC)で読み取り可能なタグの商品自体への埋め込み、パッケージへの短縮URLの印字、スマートパッケージング(AR対応)等を採用することができる。
【0030】
鉢3の内周5に沿って複数本の支柱7a、7bを直立させて鉢植土6に差し込むステップ(S1)と、鉢植土6の中央付近に挿し木をして、主軸2を成長させるステップ(S2)と、鉢植土6上に直立した複数本の支柱7a、7bの外周側または内周側において囲繞用線材9a、9bをらせん状に上昇旋回させて少なくとも両端4a、8aで支柱7a、7bに固定することで、支柱7a、7bおよび囲繞用線材9a、9bに囲まれた概ね筒状の空間10を確保するステップ(S3)と、主軸2および/または分枝12,14を剪定するステップ(S4)と、主軸2の成長に伴い筒状の空間10の異なる高さ位置において外側方に向かって適量の分枝14を伸ばせるように支柱7a、7bにおける囲繞用線材9a、9bの固定位置4a、4b、8a、8bを調整するステップ(S5)とを含む鉢植えの仕立て方法もまた、本発明の1つである。
ステップ(S1)、ステップ(S2)、ステップ(S3)、ステップ(S4)、ステップ(S5)は順番の先後は問わず、他のステップを経た後、再度繰り返してもよい。したがって例えば、ステップ(S3)は主軸の成長に従って段階的に上方に向かって囲繞用線材を構築していってもよく、ステップ(S3)とステップ(S5)とを交互に行ってもよい。
【0031】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、また、上記実施形態に説明される構成のすべてが本発明の必須要件であるとは限らない。本発明は、その技術的思想を逸脱しない範囲において、異なる実施形態で開示された要素同士を組み合わせること等を含めて、種々の改変形態を採り得る。上記実施形態では、両端に支柱把持部を有する線材を採用したが、支柱自体が線材把持部を有する構成としてもよい。この場合、線材把持部は、線材の支柱における固定位置を調整するため、支柱上で高さ調整可能であることが好ましいが、調整不可能であってもよい。
上記実施形態では、囲繞用線材9が支柱7の外周側で巻き回されているものとしたが、内周側または仮想円周上で巻き回されていてもよい。内周側で巻き回されている場合は、支柱の線材把持部(把手)は仮想円の中心に向かって内向き、囲繞用線材の支柱把持部(把手)は仮想円の径方向外向きに開口を向けて配置されている。仮想円周上で巻き回されている場合は、囲繞用線材の支柱把持部(把手)は仮想円の仮想円の中心に向かって内向き、円周方向向きまたは径方向外向きに開口を向けて配置されている。
上記実施形態では、囲繞用線材9として可撓性を有し、環状の癖付けがされたものを採用した結果、支柱7とらせん状に巻き回されて固定された囲繞用線材9とに囲まれた空間10は、概ね円筒状の空間を画しているが、これに代えて、囲繞用線材として非可撓性のものとを採用し、3本支柱、4本支柱または5本以上の支柱においてある支柱から隣接する支柱に囲繞用線材を渡す際に直線的かつより高い位置に渡すことによって、囲繞用線材が三角らせん状または四角らせん状に巻き回され、概ね三角筒状、四角筒状または多角筒状の空間を画しているものを採用してもよい。
上記実施形態では、第1線材9aの上端4aが固定された支柱7と同一支柱において所定距離離間した上方に第2線材9bの下端8bが固定されているものとしたが、これに代えて第1線材の上端が固定された支柱と同一支柱において所定距離離間した下方に第2線材の下端が固定されているものとしてもよい。
上記実施形態では、鉢物仕立て用補助具として支柱と囲繞用線材のみで構成されたものを使用したが、センター支柱を備えたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る鉢物仕立て用補助具は、バラ、テッセン、クレマチス、マンデビラ、アジサイ、カーネーション、カロライナジャスミン、マダカルジャスミン、ハゴロモジャスミン、アブチロン、時計草、マンデェビラ、ダリア等のブーゲンビレア以外の花を主に観賞する(好ましくはつる性の)観賞花植物;ヘデラ等の葉や形状を観賞する(好ましくはつる性の)観葉植物;トマト、ミニトマト、ナス、ピーマン、キュウリ等の主軸または分枝に実がなる(好ましくはつる性の)果菜類/果実植物を栽培する園芸農家の需要を喚起するばかりでなく、その仕立て方の斬新性と見栄えの華やかさから最終消費者の関心も惹くものであり、産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0033】
1 鉢植え
2 植物の主軸
3、33 鉢
5 内周縁
6 鉢植土
7、7a、7b 支柱
4a、4b 線材の上端
8、8a、8b 線材の下端
d 線材の下端と隣り合う線材の上端との距離
9、9a、9b、19 囲繞用線材
10 筒状の空間
11 鉢物仕立て用補助具
12 上方分枝
14 側方分枝
16 上方花
18 側方花
21 可撓性線材
23 支柱把持部
25a、25b 膨隆部
26 受容空間
27 把手
28 開口
100 行燈仕立て
101 主軸
102 支柱
104 ビニール紐
105 花
107 棘
103 表側
109 裏側

図1
図2
図3
図4
図5
図6