(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-29
(45)【発行日】2025-09-08
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
B66B 29/04 20060101AFI20250901BHJP
【FI】
B66B29/04 G
(21)【出願番号】P 2024103687
(22)【出願日】2024-06-27
【審査請求日】2024-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004657
【氏名又は名称】弁理士法人アルプラス
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】大脇 裕之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功一
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-198570(JP,A)
【文献】特開2011-063336(JP,A)
【文献】特開2000-219473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00 - 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドレールの復路部分の入り口であるインレットを有するインレット部に設けられるインレット安全装置として、
先端側がインレットから外部に突出するようにハンドレールに遊嵌され
、ハンドレールの移動方向に移動可能な作動体と、
作動体の移動方向に沿って一直線に直列に配置される第1弾性体及び第2弾性体を備え、作動体に対して直接又は間接的に作動体の移動方向と反対の方向に弾性力を付与する弾性力付与部と、
作動体がインレット部内に押し込まれて
第1弾性体及び第2弾性体を圧縮させてハンドレールの移動方向に移動することにより、接触、押圧を受けて作動する安全スイッチ
とを備える
乗客コンベア。
【請求項2】
インレット安全装置として、さらに、
作動体を支持する可動体と、
可動体をハンドレールの移動方向に移動可能に支持するベースとを備え、
安全スイッチは、作動体がインレット部内に押し込まれて可動体がハンドレールの移動方向に移動することにより、可動体が備える接触部による接触、押圧を受けて作動するものであり、
弾性力付与部は、可動体に対して可動体の移動方向と反対の方向に弾性力を付与するものである
請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
ハンドレールの復路部分の入り口であるインレットを有するインレット部に設けられるインレット安全装置として、
先端側がインレットから外部に突出するようにハンドレールに遊嵌される作動体と、
作動体を支持する可動体と、
可動体をハンドレールの移動方向に移動可能に支持するベースと、
可動体に対して可動体の移動方向と反対の方向に弾性力を付与する弾性力付与部と、
作動体がインレット部内に押し込まれて可動体がハンドレールの移動方向に移動することにより、可動体が備える接触部による接触、押圧を受けて作動する安全スイッチとを備え、
可動体及びベースは、それぞれ、取付部を備え、2つの取付部は、所定の間隔を有して対向するものであり、
弾性力付与部は
、
2つの取付部間において可動体の移動方向に移動可能に配置される中間体と、
可動体の取付部と中間体との間に配置される第1弾性体と、
中間体とベースの取付部との間にかつ第1弾性体と直列に配置される第2弾性体と、
可動体の移動方向に移動する中間体と当接し、中間体を係止することにより、中間体のそれ以上の移動を規制する係止体
であって、可動体の接触部が安全スイッチと接触する前
に中間体と当接するよう
に設けられる
係止体とを備える
乗客コンベア。
【請求項4】
ハンドレールの復路部分の入り口であるインレットを有するインレット部に設けられるインレット安全装置として、
先端側がインレットから外部に突出するようにハンドレールに遊嵌される作動体と、
作動体を支持する可動体と、
可動体をハンドレールの移動方向に移動可能に支持するベースと、
可動体に対して可動体の移動方向と反対の方向に弾性力を付与する弾性力付与部と、
作動体がインレット部内に押し込まれて可動体がハンドレールの移動方向に移動することにより、可動体が備える接触部による接触、押圧を受けて作動する安全スイッチとを備え、
可動体及びベースは、それぞれ、取付部を備え、2つの取付部は、所定の間隔を有して対向するものであり、
弾性力付与部は、
2つの取付部間において可動体の移動方向に移動可能に配置される中間体と、
可動体の取付部と中間体との間に配置される第1弾性体と、
中間体とベースの取付部との間にかつ第1弾性体と直列に配置される第2弾性体と、
可動体の移動方向に移動する中間体と当接し、中間体を係止することにより、中間体のそれ以上の移動を規制する係止体であって、可動体の接触部が安全スイッチのアクチュエータと接触すると同時に中間体と当接するように設けられる係止体とを備える
乗客コンベア。
【請求項5】
第1弾性体の弾性定数をk1、第2弾性体の弾性定数をk2、可動体の移動方向における可動体の接触部と安全スイッチとの間の距離をL1、可動体の移動方向における中間体と係止体との間の距離をL2とするときに、以下の条件式を満足する
L1≧[(k1+k2)/k1]L2
請求項3
又は請求項4に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
第1弾性体の弾性定数をk1、第2弾性体の弾性定数をk2とするときに、以下の条件式を満足する
k1>k2
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドレールの復路部分の入り口であるインレットを有するインレット部にインレット安全装置を備える乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道といった乗客コンベアは、ハンドレールを備える。ハンドレールは、降り口側で向きを変えて欄干のインレット部に向かって移動する。そこで、インレット部は、巻き込み防止や挟まれ防止を目的として、インレット安全装置を備える。インレット安全装置は、作動体と、安全スイッチとを備える。作動体は、先端側がインレット部のインレットから外部に突出するようにハンドレールに遊嵌される。インレット安全装置によれば、作動体が乗客の身体や持ち物との接触を受けてインレット部内に押し込まれると、安全スイッチが作動し、インレット部付近に設けられたスピーカから警告音が発せられたり、エスカレータが自動停止する、という安全処理が実行される(たとえば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のインレット安全装置は、作動体が数mm押し込まれると作動するようになっている。このため、子供のちょっとした悪戯や瞬間的に過ぎない接触など、必要性が乏しいときであってもインレット安全装置が即時に作動してしまう場合が散見される。
【0005】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、インレット安全装置の不必要な作動を低減することができる乗客コンベアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乗客コンベアは、
ハンドレールの復路部分の入り口であるインレットを有するインレット部に設けられるインレット安全装置として、
先端側がインレットから外部に突出するようにハンドレールに遊嵌され、ハンドレールの移動方向に移動可能な作動体と、
作動体の移動方向に沿って一直線に直列に配置される第1弾性体及び第2弾性体を備え、作動体に対して直接又は間接的に作動体の移動方向と反対の方向に弾性力を付与する弾性力付与部と、
作動体がインレット部内に押し込まれて第1弾性体及び第2弾性体を圧縮させてハンドレールの移動方向に移動することにより、接触、押圧を受けて作動する安全スイッチとを備える
乗客コンベアである。
【0007】
本発明に係る乗客コンベアの一態様として、
インレット安全装置として、さらに、
作動体を支持する可動体と、
可動体をハンドレールの移動方向に移動可能に支持するベースとを備え、
安全スイッチは、作動体がインレット部内に押し込まれて可動体がハンドレールの移動方向に移動することにより、可動体が備える接触部による接触、押圧を受けて作動するものであり、
弾性力付与部は、可動体に対して可動体の移動方向と反対の方向に弾性力を付与するものである
との構成を採用することができる。
【0008】
本発明に係る乗客コンベアは、
ハンドレールの復路部分の入り口であるインレットを有するインレット部に設けられるインレット安全装置として、
先端側がインレットから外部に突出するようにハンドレールに遊嵌される作動体と、
作動体を支持する可動体と、
可動体をハンドレールの移動方向に移動可能に支持するベースと、
可動体に対して可動体の移動方向と反対の方向に弾性力を付与する弾性力付与部と、
作動体がインレット部内に押し込まれて可動体がハンドレールの移動方向に移動することにより、可動体が備える接触部による接触、押圧を受けて作動する安全スイッチとを備え、
可動体及びベースは、それぞれ、取付部を備え、2つの取付部は、所定の間隔を有して対向するものであり、
弾性力付与部は、
2つの取付部間において可動体の移動方向に移動可能に配置される中間体と、
可動体の取付部と中間体との間に配置される第1弾性体と、
中間体とベースの取付部との間にかつ第1弾性体と直列に配置される第2弾性体と、
可動体の移動方向に移動する中間体と当接し、中間体を係止することにより、中間体のそれ以上の移動を規制する係止体であって、可動体の接触部が安全スイッチと接触する前に中間体と当接するように設けられる係止体とを備える
乗客コンベアである。
また、本発明に係る乗客コンベアは、
ハンドレールの復路部分の入り口であるインレットを有するインレット部に設けられるインレット安全装置として、
先端側がインレットから外部に突出するようにハンドレールに遊嵌される作動体と、
作動体を支持する可動体と、
可動体をハンドレールの移動方向に移動可能に支持するベースと、
可動体に対して可動体の移動方向と反対の方向に弾性力を付与する弾性力付与部と、
作動体がインレット部内に押し込まれて可動体がハンドレールの移動方向に移動することにより、可動体が備える接触部による接触、押圧を受けて作動する安全スイッチとを備え、
可動体及びベースは、それぞれ、取付部を備え、2つの取付部は、所定の間隔を有して対向するものであり、
弾性力付与部は、
2つの取付部間において可動体の移動方向に移動可能に配置される中間体と、
可動体の取付部と中間体との間に配置される第1弾性体と、
中間体とベースの取付部との間にかつ第1弾性体と直列に配置される第2弾性体と、
可動体の移動方向に移動する中間体と当接し、中間体を係止することにより、中間体のそれ以上の移動を規制する係止体であって、可動体の接触部が安全スイッチのアクチュエータと接触すると同時に中間体と当接するように設けられる係止体とを備える
乗客コンベアである。
【0009】
本発明に係る乗客コンベアの一態様として、
第1弾性体の弾性定数をk1、第2弾性体の弾性定数をk2、可動体の移動方向における可動体の接触部と安全スイッチとの間の距離をL1、可動体の移動方向における中間体と係止体との間の距離をL2とするときに、以下の条件式を満足する
L1≧[(k1+k2)/k1]L2
との構成を採用することができる。
【0010】
本発明に係る乗客コンベアの一態様として、
第1弾性体の弾性定数をk1、第2弾性体の弾性定数をk2とするときに、以下の条件式を満足する
k1>k2
との構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0011】
インレット安全装置の不必要な作動を低減するために、一般的には、弾性力付与部が備える弾性体として、i)弾性定数がより大きいものを採用する、ii)弾性定数がより小さく、長さがより長いものを採用する、という2つの考え方がある。しかし、i)の場合は、弾性力の調整範囲が狭くなり、弾性力の調整が難しくなるという問題がある。ii)の場合は、弾性体の直線性が低下し、弾性力のベクトルがずれて、やはり弾性力の調整が難しくなるという問題がある。これに対し、本発明によれば、弾性体は、直列に配置される第1弾性体及び第2弾性体の2つの弾性体で構成される。このため、本発明によれば、i)の場合及びii)の場合の両問題を一回的に解決しつつ、インレット安全装置の不必要な作動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】
図3(a)は、インレット安全装置の正面図である。
図3(b)は、作動体を取り外した状態のインレット安全装置の正面図である。
【
図4】
図4(a)は、インレット安全装置の平面図である。
図4(b)は、インレット安全装置の側面図である。
【
図5】
図5(a)は、インレット安全装置の一部拡大平面図である。
図5(b)は、インレット安全装置の一部拡大側面図である。
【
図6】
図6(a)及び(b)は、インレット安全装置の作動に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態として、インレット安全装置を備えるエスカレータについて説明する。
【0014】
図1に示すように、エスカレータ1は、トラス(図示しない)と、乗降口3と、搬送部4と、ハンドレール部5とを備える。トラスは、エスカレータ1の自重及び積載荷重を支える構造体である。乗降口3は、トラスの両端部の上部に設けられ、通路の端部(始端部、終端部)に位置する。搬送部4は、トラスに支持され、踏面が通路に沿って移動することにより、乗客をその位置に立たせたまま歩かせることなく搬送する。ハンドレール部5も、トラスに支持され、通路の両側に通路に沿って設けられる。
【0015】
乗降口3(乗り口3A及び降り口3B)は、トラスの水平端部の上部に設けられる。乗降口3は、フロアプレート30を備える。フロアプレート30は、乗降口3の床を構成し、通路の端部(始端部、終端部)に設置される。フロアプレート30の先端は、乗降口3と搬送部4との境界を画する。
【0016】
搬送部4は、無端搬送体40を備える。無端搬送体40は、複数の踏段(ステップ)41,…が無端状に連結されたものである。無端搬送体40は、トラス内にトラスの長手方向に沿って循環移動可能に配置される。無端搬送体40は、駆動モータ(図示しない)の駆動により、一方向又は反対方向に循環移動する。
【0017】
ハンドレール部5は、ハンドレール50と、欄干51とを備える。ハンドレール50は、移動手摺とも呼ばれ、可撓性を有する無端状である。ハンドレール50は、無端搬送体40と連動して循環移動する。欄干51は、無端搬送体40の側方に無端搬送体40の長手方向に沿って配置される。欄干51は、下辺部がトラスに支持され、ハンドレール50を循環移動可能に支持する。ハンドレール50及び欄干51は、通路の両側に通路に沿って1対設けられる。
【0018】
欄干51は、欄干パネル52と、スカートガード54と、外装材55と、デッキカバー56と、インレットガード57とを備える。欄干パネル52は、下辺部がトラスに支持され、ハンドレール50の上辺部である往路部分及び下辺部である復路部分間に縦に配置される。スカートガード54は、欄干パネル52よりも内側に配置される。外装材55は、欄干パネル52よりも外側に配置される。デッキカバー56は、スカートガード54及び外装材55間の上部開放部を閉鎖するように配置される。インレットガード57は、長手方向の両端部(ハンドレール50の復路部分が出入りする部分)を覆うように配置される。このように、欄干51は、スカートガード54、外装材55、デッキカバー56及びインレットガード57に囲まれる内部空間を有し、ハンドレール50の復路部分を外部から遮蔽する。
【0019】
図2にも示すように、インレットガード57は、中央から左右に分割可能なカバー58で構成される。カバー58は、内カバー58Aと、外カバー58Bとを備える。内カバー58Aは、中間部で湾曲ないし屈曲され、一端が外カバー58Bの一端と突き合わせられ、他端がスカートガード54の終端と突き合わせられる形状を有する。外カバー58Bは、中間部で湾曲ないし屈曲され、一端が内カバー58Aの一端と突き合わせられ、他端が外装材55の終端と突き合わせられる形状を有する。カバー58の正面部がインレット部59となる。なお、カバー58は、ニューエルカバーともいい、カバー58が配置される領域をニューエル部ともいう。一例として、カバー58は、樹脂成型品である。
【0020】
内カバー58A及び外カバー58Bは、それぞれ突き合わせ端にて開放される切欠き58aを備える。内カバー58A及び外カバー58Bが組み合わせられると、2つの切欠き58a,58aが合わさって一つの横長の孔となり、インレット部59におけるハンドレール50のインレット(出入り口)59aとなる。すなわち、インレット59aは、左右に分割可能なカバー58の分割ラインに跨って形成される。一例として、切欠き58aは、矩形状であり、インレット59aは、横長の矩形状である。
【0021】
図3及び
図4に示すように、インレット部59は、巻き込み防止や挟まれ防止を目的として、インレット安全装置60を備える。インレット安全装置60は、作動体61と、可動体62と、ベース64と、安全スイッチ65とを備える。
【0022】
作動体61は、一部が開放されるハンドレール挿通孔61aを有し、ハンドレール50に遊嵌され、先端側がインレット59aから外部に突出する。作動体61は、ある程度の変形が可能なゴム又は硬質樹脂等の素材からなる部材であり、インレットゴムともいう。
【0023】
作動体61は、フランジ部61bを備える。フランジ部61bは、作動体61の基端部から外方に突出し、インレット59aの外形よりも大きく、カバー58の内面に当接可能な外形を有する。フランジ部61bがカバー58の内面に当接することにより、作動体61の先端側の突出量が規定値Pに規定され、作動体61の先端側のそれ以上の突出が規制される。
【0024】
可動体62は、ベース64に対し、ハンドレール50の移動方向X(双方向でなく、一方向を意味する、以下、同様)に移動可能に取り付けられる。可動体62は、ガイド部によりハンドレール50の移動方向Xにガイドされつつ、ベース64に直進的にスライド可能に支持される。
【0025】
可動体62は、取付部62aを備える。取付部62aは、板状であり、可動体62の移動方向X(双方向でなく、一方向を意味する、以下、同様)と直交する方向に沿って配置される。取付部62aは、作動体61(のフランジ部61b)を取り付ける部分である。取付部62aの取付面は、適宜の箇所に、ビス孔62bを備える。ビス孔62bは、作動体61を取付部62aに固定するためのビス63用の孔である。取付部62aは、ハンドレール50を挿通させる関係上、一部が開放されるハンドレール挿通孔62cを有する。一例として、可動体62の本体部及び取付部62aは、金属製の板材を屈曲することにより形成される。
【0026】
可動体62は、接触部62dを備える。接触部62dは、可動体62の移動方向Xにおいて安全スイッチ65のアクチュエータ65aと対向する。可動体62がハンドレール50の移動方向Xに移動すると、接触部62dは、アクチュエータ65aと接触し、押圧し、安全スイッチ65を作動させる。
【0027】
ベース64は、固定部64aと、取付部64bとを備える。ベース64は、固定部64aを介してトラス(図示しない)の一部であるフレーム20又はトラスに取り付けられるフレーム20に取り付けられ、固定される。取付部64bは、板状であり、可動体62の移動方向Xと直交する方向に沿って配置される。取付部64bは、可動体62の取付部62aと所定の間隔を有して平行状態で対向する。一例として、ベース64の本体部、固定部64a及び取付部64bは、金属製の板材を屈曲することにより形成される。
【0028】
安全スイッチ65は、ベース64に取り付けられる。安全スイッチ65は、インレットスイッチともいい、エスカレータ1における安全回路の構成要素である。安全スイッチ65は、アクチュエータの種類として、ローラレバー形、ロッドレバー形等のレバー形、ローラプランジャ形、プッシュプランジャ形等のプランジャ形等、各種の公知のものを採用することができる。一例として、安全スイッチ65は、ローラプランジャ形のアクチュエータ65aを備えるリミットスイッチが用いられる。
【0029】
図5に示すように、インレット安全装置60は、弾性力付与部70を備える。弾性力付与部70は、可動体62に対して可動体62の移動方向Xと反対の方向に弾性力を付与(付勢)することにより、作動体61の先端側の突出量が規定値Pとなるようにする機構部である。弾性力付与部70は、弾性体としての圧縮バネ71と、中間体72と、係止体73とを備える。
【0030】
圧縮バネ71は、可動体62の取付部62aとベース64の取付部64bとの間に配置される。圧縮バネ71は、第1圧縮バネ71A及び第2圧縮バネ71Bの2つのバネで構成される。第1圧縮バネ71A及び第2圧縮バネ71Bは、各中心線が同軸となるように、かつ、各中心線が可動体62の移動方向Xと平行になるように、すなわち、可動体62の取付部62a及びベース64の取付部64bの2つの対向面と直交するように、直列に配置される。一例として、第1圧縮バネ71A及び第2圧縮バネ71Bは、コイルばねである。
【0031】
第1圧縮バネ71Aは、可動体62の取付部62aと中間体72との間に配置される。第1圧縮バネ71Aの一端は、可動体62の取付部62aの内面に当接する。第1圧縮バネ71Aの他端は、中間体72の一方の外面に当接する。
【0032】
第2圧縮バネ71Bは、中間体72とベース64の取付部64bとの間に配置される。第2圧縮バネ71Bの一端は、中間体72の他方の外面に当接する。第2圧縮バネ71Bの他端は、ベース64の取付部64bの内面に当接する。
【0033】
第1圧縮バネ71Aのバネ定数(弾性定数)をk1[N/mm]、第2圧縮バネ71Bのバネ定数(弾性定数)をk2[N/mm]とすると、
k1>k2 (1)
である。
あるいは、
k1=k2 (2)
であってもよい。
あるいは、
k1<k2 (3)
であってもよい。
【0034】
第1圧縮バネ71A及び第2圧縮バネ71Bの直列状態を維持するために、可動体62の取付部62a、第1圧縮バネ71A、中間体72、第2圧縮バネ71B及びベース64の取付部64bには、芯体74が挿通される。一例として、芯体74は、皿ボルト等の頭部付きボルト及びダブルナットの組み合わせの固定具である。可動体62の取付部62a、中間体72及びベース64の取付部64bには、挿通孔が形成される。ナットを回転してボルトとの螺合位置を変更することにより、第1圧縮バネ71A及び第2圧縮バネ71Bによる弾性力を調整することができる。
【0035】
中間体72は、板状であり、可動体62の移動方向Xと直交する方向に沿って配置される。一例として、中間体72は、金属製の板材である。中間体72は、圧縮バネ71を挟む位置に1対のガイド体75,75を備える。ガイド体75は、可動体62の移動方向Xと平行になるように、すなわち、中間体72の他方の外面と直交するように、中間体72の他方の外面に取り付けられる。ベース64の取付部64bには、挿通孔が形成され、ガイド体75は、挿通孔にスライド可能に挿通される。これにより、中間体72は、可動体62の移動方向X回りにおいて回転しないように、かつ、可動体62の取付部62a及びベース64の取付部64bのそれぞれと平行状態を維持しつつ、可動体62の移動方向Xに移動可能となる。
【0036】
係止体73は、可動体62の移動方向X(中間体72の移動方向Xでもある、以下、同様)において中間体72と対向し、移動する中間体72と当接し、中間体72を係止するストッパである。中間体72が係止体73に当接することにより、中間体72のそれ以上の移動が規制される。係止体73は、可動体62の移動方向Xと平行になるように、すなわち、ベース64の取付部64bの内面と直交するように、ベース64の取付部64bの内面に取り付けられる。一例として、係止体73は、頭部付きボルト、ベース64の取付部64bの外面に溶接等により接合されるナット及びもう1つのナットの組み合わせの固定具である。ベース64の取付部64bには、挿通孔が形成される。
【0037】
係止体73は、圧縮バネ71を挟む位置に1対設けられる。この場合、各係止体73は、中間体72の各端部と当接し、中間体72の各端部を係止する。ただし、係止体73は、いずれか一方だけであってもよい。
【0038】
係止体73は、可動体62の移動方向Xにおける位置を変更可能に設けられる。一例として、係止体73は、頭部付きボルトを回転してナットとの螺合位置を変更することにより、可動体62の移動方向Xにおける位置を変更可能に設けられる。これにより、可動体62が可動体62の移動方向Xに移動していない初期状態における、可動体62の移動方向Xにおける中間体72(の他方の外面)と係止体73(の先端面)との間の距離(間隔)L2[mm]は変更可能である。
【0039】
L2は、可動体62が可動体62の移動方向Xに移動していない初期状態における、可動体62の移動方向Xにおける可動体62の接触部62d(の接触面)と安全スイッチ65のアクチュエータ65a(の接触点)との間の距離(間隔)L1[mm]との関係が次の条件式(4)を満足するように、設定される。
L1≧[(k1+k2)/k1]L2 (4)
【0040】
これは、i)作動体61が乗客の身体や持ち物との接触を受けてインレット部59内に押し込まれ、可動体62に対して圧縮バネ71の弾性力を上回る外力が加わることにより、ii)可動体62及び中間体72が弾性力に抗して移動し、iii)安全スイッチ65が作動し、インレット部59付近に設けられたスピーカ(図示しない)から警告音が発せられたり、エスカレータ1が自動停止する、という安全処理において、a)
図6(a)に示すように、中間体72が係止体73と当接し、係止体73に係止された後、又は、中間体72が係止体73と当接し、係止体73に係止されると同時に、b)
図6(b)に示すように、可動体62の接触部62dが安全スイッチ65のアクチュエータ65aと接触し、押圧し、安全スイッチ65を作動させる、という2段階動作を実現するための条件式である。
【0041】
すなわち、初期状態から中間体72が係止体73と当接するまでに要する外力をF’[N]、可動体62の移動方向Xにおける可動体62の初期位置からの移動量(変位量)をx1[mm]、可動体62の移動方向Xにおける中間体72の初期位置からの移動量(変位量)をx2[mm]とすると、
x1=F’/k1+F’/k2=[(k1+k2)/k1k2]F’ (5)
x2=F’/k2 (6)
である。
また、上記a)、b)の条件から、
x2=L2のとき、x1≦L1 (7)
である。
よって、式(5)~(7)に基づき、条件式(4)が導き出される。
【0042】
なお、初期状態から可動体62の接触部62dが安全スイッチ65のアクチュエータ65aと接触するまでに要する外力をF[N]、中間体72が係止体73と当接した時点から可動体62の接触部62dが安全スイッチ65のアクチュエータ65aと接触するまでに要する外力をFα[N]、中間体72が係止体73と当接した時点での可動体62の接触部62dの移動量をL1’[mm]、中間体72が係止体73と当接した時点での、可動体62の移動方向Xにおける可動体62の接触部62dと安全スイッチ65のアクチュエータ65aとの間の隙間をα[mm]とすると、
L1=L1’+α (8)
F=F’+Fα (9)
Fα=k1α (10)
であり、
また、式(5)、(6)から
L1’=[(k1+k2)/k1k2]F’ (11)
L2=F’/k2 (12)
である。
ここで、k2=Nk1 (13)
とすると、式(9)~(13)から次の式(14)~(16)が導き出される。
L1’=(N+1)L2 (14)
k1=[1/(NL2+α)]F (15)
k2=[N/(NL2+α)]F (16)
実際の設計では、L1’をL2の何倍とするかという観点となる。たとえば、L1’をL2の1.5倍としたいなら、N=0.5となり、k2=0.5k1となる。また、作動体61の先端側の突出量の規定値Pがたとえば25mmであるとすると、L1は25mm未満とする必要がある。そして、外力が29N~78Nの範囲内の値で安全スイッチ65を作動させたいとする。これらの条件下において、
外力が29Nである場合、一例として、
L1’=7.5mm、L1=8.5mm(隙間分1.0mm)、L2=5.0mm、k1=8.29N/mm、k2=4.14N/mm
である。
外力が78Nである場合、一例として、
L1’=7.5mm、L1=8.5mm(隙間分1.0mm)、L2=5.0mm、k1=22.29N/mm、k2=11.14N/mm
である。
【0043】
以上のとおり、本実施形態に係るインレット安全装置60によれば、インレット安全装置60の不必要な作動を低減することができる。すなわち、インレット安全装置の不必要な作動を低減するために、一般的には、圧縮バネとして、i)バネ定数がより大きいものを採用する、ii)バネ定数がより小さく、長さがより長いものを採用する、という2つの考え方がある。しかし、i)の場合は、弾性力の調整範囲が狭くなり、弾性力の調整が難しくなるという問題がある。ii)の場合は、圧縮バネの直線性が低下し、弾性力のベクトルがずれて、やはり弾性力の調整が難しくなるという問題がある。これに対し、本実施形態に係るインレット安全装置60によれば、圧縮バネ71は、直列に配置される第1圧縮バネ71A及び第2圧縮バネ71Bの2つの圧縮バネで構成される。このため、本実施形態に係るインレット安全装置60によれば、i)の場合及びii)の場合の両問題を一回的に解決しつつ、インレット安全装置60の不必要な作動を低減することができる。
【0044】
本実施形態に係るインレット安全装置60によれば、可動体62の接触部62dが安全スイッチ65(のアクチュエータ65a)と接触する前に、中間体72が係止体73と当接するようになっている。これにより、第1圧縮バネ71Aのバネ定数k1>第2圧縮バネ71Bのバネ定数k2である場合、中間体72が係止体73と当接するまでは、作動体61が軽い力で動き、中間体72が係止体73と当接してからは、作動体61が重い力で動くこととなる。そこで、第1圧縮バネ71Aとして、バネ定数k1が従来のインレット安全装置のバネのバネ定数と同等程度のものを採用すれば、弾性力の調整を従来と同等の感覚で行うことができる。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0046】
上記実施形態においては、弾性体として、圧縮コイルばねが用いられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。弾性体は、板バネ等の他の種類のバネやゴム等の各種の弾性体を用いることができる。
【0047】
上記実施形態においては、作動体61、可動体62及び中間体72は、ハンドレール50の移動方向Xと全く同じ方向に移動する。しかし、ハンドレール50の移動方向とは、作動体61、可動体62及び中間体72の移動方向がハンドレール50の移動方向Xに対して所定の角度範囲内で傾くことも含む趣旨である。
【0048】
上記実施形態においては、中間体72が移動方向回りに回転せずに平行移動するための手段として、ガイド体75が中間体72と一体的に設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。ガイド体75は、可動体62の取付部62a又はベース64の取付部64bと一体的に設けられ、ガイド体75を挿通するための挿通孔は、中間体72に形成されるものであってもよい。
【0049】
上記実施形態においては、乗客コンベアは、エスカレータである。しかし、本発明は、動く歩道にも適用できることは言うまでもない。なお、動く歩道には、踏段式の無端搬送体を備えるものと、ベルト式の無端搬送体(無端帯状搬送体)を備えるものとがある。
【符号の説明】
【0050】
1…エスカレータ、20…フレーム、3…乗降口、3A…乗り口、3B…降り口、30…フロアプレート、4…搬送部、40…無端搬送体、41…踏段、5…ハンドレール部、50…ハンドレール、51…欄干、52…欄干パネル、53…ハンドレールガイド、54…スカートガード、55…外装材、56…デッキカバー、57…インレットガード、58…カバー、58a…切欠き、58A…内カバー、58B…外カバー、59…インレット部、59a…インレット、60…インレット安全装置、61…作動体、61a…ハンドレール挿通孔、61b…フランジ部、62…可動体、62a…取付部、62b…ビス孔、62c…ハンドレール挿通孔、62d…接触部、63…ビス、64…ベース、64a…固定部、64b…取付部、65…安全スイッチ、65a…アクチュエータ、70…弾性力付与部、71…圧縮バネ(弾性体)、71A…第1圧縮バネ(第1弾性体)、71B…第2圧縮バネ(第2弾性体)、72…中間体、73…係止体、74…芯体、75…ガイド体
【要約】
【課題】インレット安全装置の不必要な作動を低減することができる乗客コンベアを提供する。
【解決手段】インレット安全装置として、先端側がインレットから外部に突出するようにハンドレールに遊嵌される作動体と、作動体を支持する可動体62と、可動体62をハンドレールの移動方向に移動可能に支持するベース64と、作動体がインレット部内に押し込まれて可動体62がハンドレールの移動方向に移動することにより、可動体62の接触部62dによる接触、押圧を受けて作動する安全スイッチ65と、可動体62に対して可動体62の移動方向と反対の方向に弾性力を付与する弾性力付与部70とを備え、弾性力付与部70は、直列に配置される第1弾性体71A及び第2弾性体71Bを備える。
【選択図】
図5