(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-29
(45)【発行日】2025-09-08
(54)【発明の名称】変質層形成装置、及び、半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20250901BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20250901BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
(21)【出願番号】P 2021140510
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2024-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中林 正助
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】大原 淳士
(72)【発明者】
【氏名】恩田 正一
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 千秋
(72)【発明者】
【氏名】小島 淳
(72)【発明者】
【氏名】河口 大祐
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆二
(72)【発明者】
【氏名】油井 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】原 佳祐
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-147928(JP,A)
【文献】特開2019-126844(JP,A)
【文献】特開2016-215231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変質層形成装置を用いて半導体装置を製造する製造方法であって、
前記変質層形成装置が、
レーザ照射装置と、
撮影装置と、
を有し、
前記製造方法が、
前記レーザ照射装置によって化合物半導体基板の目標領域内にレーザを照射することによって、前記目標領域内の前記化合物半導体基板の内部に変質層を形成する工程と、
前記撮影装置によって前記目標領域内の前記化合物半導体基板の画像を撮影し、前記画像に基づいて前記目標領域の中で前記変質層が形成されていない変質層未形成領域を特定する工程と、
前記レーザ照射装置によって前記化合物半導体基板の前記変質層未形成領域内にレーザを照射することによって、前記変質層未形成領域内の前記化合物半導体基板の内部に前記変質層を形成する工程と、
前記変質層未形成領域を特定する前記工程の後であって前記変質層未形成領域内の前記化合物半導体基板の内部に前記変質層を形成する前記工程よりも前に、前記化合物半導体基板を洗浄する工程
、
を有する、
製造方法。
【請求項2】
変質層形成装置を用いて半導体装置を製造する製造方法であって、
前記変質層形成装置が、
レーザ照射装置と、
撮影装置と、
を有し、
前記製造方法が、
前記レーザ照射装置によって化合物半導体基板の目標領域内にレーザを照射することによって、前記目標領域内の前記化合物半導体基板の内部に変質層を形成する工程と、
前記撮影装置によって前記目標領域内の前記化合物半導体基板の画像を撮影し、前記画像に基づいて前記目標領域の中で前記変質層が形成されていない変質層未形成領域を特定する工程と、
前記レーザ照射装置によって前記化合物半導体基板の前記変質層未形成領域内にレーザを照射することによって、前記変質層未形成領域内の前記化合物半導体基板の内部に前記変質層を形成する工程と、
前記変質層未形成領域を特定する前記工程の後であって前記変質層未形成領域内の前記化合物半導体基板の内部に前記変質層を形成する前記工程よりも前に、前記化合物半導体基板の表面を平坦化する工程
、
を有する、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、変質層形成装置、及び、半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
特許文献1に開示の半導体装置の製造方法では、化合物半導体基板にレーザを照射することによって、化合物半導体基板の内部に変質層を形成する。変質層は、化合物半導体基板の表面に沿って伸びるように形成される。このように変質層を形成することで、化合物半導体基板を加工することができる。例えば、変質層に沿って化合物半導体基板を分割することで、より薄い化合物半導体基板を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化合物半導体基板の内部に変質層を形成するときに、目標領域全体に変質層を形成できない場合がある。例えば、レーザ照射装置の設備異常によって、目標領域の一部に変質層を形成できない場合がある。また、化合物半導体基板の表面に存在する異物や粗面部によってレーザが遮られることで、目標領域の一部に変質層を形成できない場合がある。目標領域全体に変質層を形成できないと、化合物半導体基板を適切に加工できない。例えば、変質層に沿って化合物半導体基板を分割する場合には、変質層が形成できない領域において、化合物半導体基板を適切に分割できないことがある。本明細書では、従来よりも確実に目標領域全体に変質層を形成する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する変質層形成装置は、レーザ照射装置と、撮影装置と、制御装置と、を有する。前記制御装置が、第1変質層形成工程、変質層未形成領域特定工程、及び、第2変質層形成工程を実行する。前記制御装置は、前記第1変質層形成工程では、前記レーザ照射装置によって前記化合物半導体基板の目標領域内にレーザを照射することによって、前記目標領域内の前記化合物半導体基板の内部に変質層を形成する。前記制御装置は、前記変質層未形成領域特定工程では、前記撮影装置によって前記目標領域内の前記化合物半導体基板の画像を撮影し、前記画像に基づいて前記目標領域の中で前記変質層が形成されていない変質層未形成領域を特定する。前記制御装置は、前記第2変質層形成工程では、前記レーザ照射装置によって前記化合物半導体基板の前記変質層未形成領域内にレーザを照射することによって、前記変質層未形成領域内の前記化合物半導体基板の内部に前記変質層を形成する。
【0006】
この変質層形成装置では、第1変質層形成工程の後に変質層未形成領域特定工程が実行される。変質層未形成領域特定工程では、目標領域の中で変質層が形成されていない変質層未形成領域が特定される。したがって、第1変質層形成領域において何等かの異常によって目標領域の一部に変質層が形成されなかった場合には、変質層未形成領域特定工程で変質層未形成領域が特定される。変質層未形成領域特定工程の後に実行される第2変質層形成工程では、変質層未形成領域内にレーザが照射されることによって、変質層未形成領域内の化合物半導体基板の内部に変質層が形成される。このため、この変質層形成装置によれば、従来よりも確実に目標領域全体に変質層を形成することができる。
【0007】
本明細書が開示する半導体装置の製造方法は、変質層形成装置を用いて半導体装置を製造する。前記変質層形成装置が、レーザ照射装置と、撮影装置と、を有する。前記製造方法が、第1変質層形成工程、変質層未形成領域特定工程、及び、第2変質層形成工程を有する。前記第1変質層形成工程では、前記レーザ照射装置によって化合物半導体基板の目標領域内にレーザを照射することによって、前記目標領域内の前記化合物半導体基板の内部に変質層を形成する。前記変質層未形成領域特定工程では、前記撮影装置によって前記目標領域内の前記化合物半導体基板の画像を撮影し、前記画像に基づいて前記目標領域の中で前記変質層が形成されていない変質層未形成領域を特定する。前記第2変質層形成工程では、前記レーザ照射装置によって前記化合物半導体基板の前記変質層未形成領域内にレーザを照射することによって、前記変質層未形成領域内の前記化合物半導体基板の内部に前記変質層を形成する。
【0008】
この製造方法では、第1変質層形成領域において何等かの異常によって目標領域の一部に変質層が形成されなかった場合には、変質層未形成領域特定工程で変質層未形成領域が特定される。そして、第2変質層形成工程で、変質層未形成領域内に変質層が形成される。したがって、この製造方法によれば、従来よりも確実に目標領域全体に変質層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】実施例1の半導体装置の製造方法を示すフローチャート。
【
図4】カメラ50で撮影されたGaN基板12の画像を示す図。
【
図14】実施例4の半導体装置の製造方法を示すフローチャート。
【
図16】実施例6の半導体装置の製造方法を示すフローチャート。
【
図17】実施例7の半導体装置の製造方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書が開示する一例の変質層形成装置では、前記化合物半導体基板がガリウム化合物によって構成されていてもよい。
【0011】
本明細書が開示する一例の変質層形成装置は、基板分割装置をさらに有していてもよい。この場合、前記制御装置が、前記変質層未形成領域内の前記化合物半導体基板の内部に前記変質層を形成した後に、前記基板分割装置によって前記化合物半導体基板を前記変質層に沿って分割する工程をさらに実行してもよい。
【0012】
この構成によれば、化合物半導体基板を分割して薄板化することができる。
【0013】
本明細書が開示する一例の変質層形成装置においては、前記変質層未形成領域を特定する前記工程では、前記化合物半導体基板の外観における第1特徴点を基準にして座標系を設定した状態で、前記変質層未形成領域の座標範囲を特定してもよい。この場合、前記変質層未形成領域内の前記化合物半導体基板の内部に前記変質層を形成する前記工程では、前記化合物半導体基板の外観における第2特徴点を基準にして座標系を設定した状態で、前記座標範囲内にレーザを照射してもよい。
【0014】
なお、第1特徴点及び第2特徴点は、化合物半導体基板の外形における特徴点(例えば、オリエンテーションフラット、ノッチ等)であってもよいし、化合物半導体基板の表面における特徴点(例えば、アライメントマーク等)であってもよい。また、第2特徴点は、第1特徴点と同じ特徴点であってもよいし、第1特徴点とは異なる特徴点であってもよい。
【0015】
この構成によれば、変質層未形成領域内に正確にレーザを照射することができる。
【0016】
本明細書が開示する一例の半導体装置の製造方法は、前記変質層未形成領域を特定する前記工程の後であって前記変質層未形成領域内の前記化合物半導体基板の内部に前記変質層を形成する前記工程よりも前に、前記化合物半導体基板を洗浄する工程をさらに有していてもよい。
【0017】
この構成によれば、化合物半導体基板の表面に異物が付着していることによって変質層未形成領域が発生した場合に、洗浄によって異物を除去してから変質層未形成領域にレーザを照射することができる。したがって、変質層未形成領域内の化合物半導体基板の内部により確実に変質層を形成することができる。
【0018】
本明細書が開示する一例の半導体装置の製造方法は、前記変質層未形成領域を特定する前記工程の後であって前記変質層未形成領域内の前記化合物半導体基板の内部に前記変質層を形成する前記工程よりも前に、前記化合物半導体基板の表面を平坦化する工程をさらに有していてもよい。
【0019】
この構成によれば、化合物半導体基板の表面に粗面部(すなわち、表面粗さが粗い部分)が存在することによって変質層未形成領域が発生した場合に、平坦化工程によって粗面部を除去してから変質層未形成領域にレーザを照射することができる。したがって、変質層未形成領域内の化合物半導体基板の内部により確実に変質層を形成することができる。
【実施例1】
【0020】
図1に示す実施例1の変質層形成装置10は、窒化ガリウム基板12(以下、GaN基板12という)に変質層14を形成する。変質層形成装置10は、基板搬送装置20、ステージ30、レーザ光源40、及び、カメラ50、制御装置60を有している。
【0021】
基板搬送装置20は、変質層形成装置10に対するGaN基板12の搬入及び搬出を行う。基板搬送装置20は、変質層形成装置10に搬入したGaN基板12をステージ30上に載置する。
図2は、GaN基板12を示している。
図2に示すように、GaN基板12は、オリエンテーションフラット12a、12bを有している。基板搬送装置20は、粗アライメント装置を内蔵している。粗アライメント装置は、GaN基板12をステージ30上に載置する前に、GaN基板12の外観上の特徴点(例えば、オリエンテーションフラット12a、12b)を検出する。基板搬送装置20は、検出された特徴点に基づいてGaN基板12の位置と角度(GaN基板12の中心周りの角度)を調整した状態で、GaN基板12をステージ30上に載置する。
【0022】
ステージ30は、x方向、y方向及びz方向に移動可能とされている。x方向はステージ30の上面に平行な一方向である。y方向はステージ30の上面に平行かつx方向に直交する方向である。z方向は、ステージ30の上面に垂直な方向である。
【0023】
レーザ光源40は、ステージ30の上方に配置されている。レーザ光源40は、レーザLを照射する。また、ステージ30の直上には、レーザLの光学系としてハーフミラー42と集光レンズ44が設けられている。レーザ光源40は、ハーフミラー42の下面に向けてレーザLを照射する。レーザLは、ハーフミラー42の下面で反射する。ハーフミラー42で反射したレーザLは、集光レンズ44を通過してステージ30上のGaN基板12に照射される。集光レンズ44は、レーザLの焦点がGaN基板12の内部に形成されるように、レーザLを集光する。
【0024】
カメラ50は、ステージ30の上方に配置されている。また、ハーフミラー42の直上には、カメラ50の光学系としてミラー52が配置されている。カメラ50には、ハーフミラー42を透過してミラー52で反射した光が入射する。カメラ50は、ミラー52とハーフミラー42を介して、ステージ30上に載置されたGaN基板12の画像を撮影する。また、図示していないが、変質層形成装置10が、カメラ50の撮影時にGaN基板12の上面12cに光を照射する照明装置を有していてもよい。
【0025】
制御装置60は、基板搬送装置20、ステージ30、レーザ光源40、及び、カメラ50に電気的に接続されている。制御装置60は、基板搬送装置20、ステージ30、レーザ光源40、及び、カメラ50を制御する。
【0026】
次に、実施例1の半導体装置の製造方法について説明する。
図3は、実施例1の製造方法を示している。実施例1の製造方法は、基板搬入工程、精アライメント工程、変質層形成工程、変質層未形成領域特定工程、変質層再形成工程、及び、基板分割工程を有する。
【0027】
(基板搬入工程)
基板搬入工程では、制御装置60は、基板搬送装置20によってGaN基板12をステージ30上に搬送する。GaN基板12は、GaNの単結晶によって構成されている。基板搬入工程では、基板搬送装置20は、粗アライメント装置によってGaN基板12の位置及び角度を調整した状態で、ステージ30上にGaN基板12を載置する。したがって、ステージ30上には、比較的高い位置精度及び角度精度でGaN基板12が載置される。
【0028】
(精アライメント工程)
次に、制御装置60は、精アライメント工程を実施する。精アライメント工程では、制御装置60は、カメラ(例えば、カメラ50または図示しない精アライメント用カメラ)によってステージ30上のGaN基板12の画像を撮影し、GaN基板12のオリエンテーションフラット12a、12bの位置を検出する。すると、制御装置60は、オリエンテーションフラット12a、12bの位置に基づいて、原点Oの位置を算出する。例えば、制御装置60は、
図2に示すように、オリエンテーションフラット12a、12bの延長線の交点を原点Oとして算出する。制御装置60は、原点Oの位置を記憶する。この後の各工程では、制御装置60は、原点Oを基準としてx方向の位置を示す座標(以下、x座標という)と、原点Oを基準としてy方向の位置を示す座標(以下、y座標という)とによって構成されるxy座標系に基づいて、GaN基板12上における位置を制御する。また、精アライメント工程では、制御装置60は、レーザLの焦点がGaN基板12の内部の所定深さに形成されるように、ステージ30のz方向の位置を調整する。
【0029】
(変質層形成工程)
次に、制御装置60は、変質層形成工程を実施する。変質層形成工程では、制御装置60は、レーザ光源40を作動させる。レーザ光源40から発されたレーザLは、ハーフミラー42で反射した後に集光レンズ44を通過し、ステージ30上のGaN基板12に照射される。集光レンズ44は、GaN基板12の内部(すなわち、GaN基板12の厚みの範囲内)にレーザLの焦点を形成する。レーザLの焦点の位置では、GaN基板12が加熱されて分解される。その結果、GaN基板12の内部(より詳細には、レーザLの焦点の位置)に、変質層14が形成される。変質層14は、元のGaN単結晶とは異なる構造を有する層である。変質層14は、例えば、ガリウムの析出層等によって構成されている。変質層14の強度は、GaN単結晶の強度よりも低い。変質層形成工程では、制御装置60は、ステージ30をx方向及びy方向に移動させながらGaN基板12にレーザを照射する。これによって、制御装置60は、GaN基板12のx方向及びy方向の全域にレーザを照射する。したがって、GaN基板12のx方向及びy方向の全域に変質層14が形成される。このように、本実施例では、変質層14を形成する目標領域は、GaN基板12のx方向及びy方向の全域である。
【0030】
なお、変質層形成工程では、設備異常、GaN基板12の上面12cに付着した異物、GaN基板12の上面12cに存在する粗面部等の影響によって、GaN基板12の一部の領域に変質層14が形成されない場合がある。以下では、GaN基板12を上側から見たときに変質層14が形成されている領域を変質層形成領域15といい、GaN基板12を上側から見たときに変質層14が形成されていない領域を変質層未形成領域16という。
【0031】
(変質層未形成領域特定工程)
次に、制御装置60は、変質層未形成領域特定工程を実施する。変質層未形成領域特定工程では、制御装置60は、カメラ50によってGaN基板12の画像を撮影する。より詳細には、制御装置60は、GaN基板12の上面12c側からGaN基板12のx方向及びy方向の全域を撮影する。
図4は、変質層未形成領域特定工程で撮影されたGaN基板12の画像の一例を示している。
図4に示すように、カメラ50によって撮影された画像では、変質層未形成領域16は、変質層形成領域15よりも白っぽい領域として現れる。制御装置60は、撮影した画像に基づいて、変質層形成領域15と、変質層未形成領域16を特定する。
図5~7は、変質層形成領域15と変質層未形成領域16の拡大画像である。
図5は、カメラ50によって撮影された画像である。
図5において、グレーの領域が変質層形成領域15であり、白い領域が変質層未形成領域16である。制御装置60は、カメラ50によって撮影された画像の各画素の輝度値を、白とグレーの間の値を閾値として二値化した画像を算出する。例えば、制御装置60は、
図5の画像を二値化した画像として、
図6の画像を算出する。次に、制御装置60は、二値化した画像に対してノイズ除去処理を実施する。例えば、制御装置60は、
図5の画像に対してノイズ除去処理を実施することで、
図6に示す画像(すなわち、白と黒の微小領域が除去され、白領域と黒領域の境界線が平滑化された画像)を算出する。制御装置60は、ノイズ除去処理実施後の画像のうち、黒領域を変質層形成領域15として特定し、白領域を変質層未形成領域16として特定する。制御装置60は、ノイズ除去処理実施後の画像に基づいて、変質層未形成領域16の座標範囲16rを算出する。変質層未形成領域16の座標範囲16rは、精アライメント工程で設定されたxy座標系にて表される座標範囲である。制御装置60は、算出した座標範囲16rを記憶する。
【0032】
図3に示すように、制御装置60は、変質層未形成領域特定工程の後に、変質層未形成領域16が存在するか否かを判定する。変質層未形成領域特定工程において変質層未形成領域が特定された場合には、制御装置60は、変質層再形成工程を実施する。他方、変質層未形成領域特定工程において変質層未形成領域が特定されなかった場合には、制御装置60は、基板分割工程を実施する。
【0033】
(変質層再形成工程)
変質層未形成領域16が存在する場合、制御装置60は、変質層再形成工程を実施する。変質層再形成工程では、制御装置60は、変質層未形成領域特定工程で特定した変質層未形成領域16の座標範囲16r内にレーザLを照射する。より詳細には、まず、制御装置60は、レーザLの照射位置(すなわち、焦点が形成される位置)が座標範囲16r内に位置するように、ステージ30によってGaN基板12を移動させる。次に、制御装置60は、レーザ光源40を作動させることによって、座標範囲16r内(すなわち、変質層未形成領域16内)にレーザLを照射する。これによって、変質層未形成領域16内に変質層14が形成される。制御装置60は、ステージ30をx方向及びy方向に移動させながらGaN基板12にレーザを照射する。これによって、制御装置60は、座標範囲16rの全域に変質層14を形成する。すなわち、制御装置60は、変質層未形成領域16の全域(すなわち、x方向及びy方向の全域)に変質層14を形成する。なお、変質層未形成領域16が複数存在する場合には、制御装置60は、変質層未形成領域16のそれぞれの全域に変質層14を形成する。
【0034】
制御装置60は、変質層再形成工程の後に変質層未形成領域特定工程を再度実施する。制御装置60は、変質層未形成領域16が無くなるまで、変質層再形成工程と変質層未形成領域特定工程を繰り返し実行する。その結果、GaN基板12のx方向及びy方向の全域に変質層14が形成される。
【0035】
(基板分割工程)
変質層未形成領域16が無くなると、制御装置60は、基板搬送装置20によってGaN基板12を変質層形成装置10の外部へ搬出する。その後、基板分割工程が実施される。基板分割工程では、
図8に示すように、GaN基板12を変質層14に沿って分割する。すなわち、基板分割工程では、GaN基板12の上面12c側の部分12eに対して、GaN基板12の下面12d側の部分12fから離れる方向に力を加える。上述したように、変質層14の強度は、GaN単結晶の強度よりも低い。したがって、部分12eに対して部分12fから離れる方向に力を加えると、変質層14に沿って部分12eが部分12fから剥離する。すなわち、GaN基板12が変質層14に沿って分割される。その後、部分12eに対して、表面研磨、電極形成等の種々の加工を行うことで、半導体装置が製造される。この製造方法によれば、厚みが薄い半導体装置を製造できる。また、部分12fに対して、分割面の平滑化を行い、平滑化後の分割面にGaN層をエピタキシャル成長させると、部分12fを元のGaN基板12の厚さに戻すことができる。その後、部分12fをGaN基板12として再利用して、半導体装置の製造を行うことができる。
【0036】
なお、GaN基板12内に変質層未形成領域16が残存している状態で基板分割工程を実施すると、
図9に示すように変質層未形成領域16内で部分12eが部分12fから剥離しなかったり、
図10に示すように変質層未形成領域16内で変質層14の深さとは異なる位置でGaN基板12が分割されるといった問題が生じる。これに対し、
図8のようにGaN基板12の全域に変質層14が形成されていると、部分12eを部分12fから適切に剥離することができる。
【実施例2】
【0037】
図11は、実施例2の変質層形成装置を示している。実施例1ではカメラ50の光学系とレーザ光源40の光学系が一部で共通化されていたが、実施例2ではカメラ50がレーザ光源40の光学系から独立して設けられている。
図11に示すように、実施例2では、カメラ50が集光レンズ44の側方に配置されている。実施例2では、カメラ50は、直接GaN基板12の画像を撮影する。実施例2の変質層形成装置でも、実施例1と同様に、基板搬入工程、精アライメント工程、変質層形成工程、変質層未形成領域特定工程、及び、変質層再形成工程を実施することができる。
【実施例3】
【0038】
図12は、実施例3の変質層形成装置を示している。実施例3では、カメラ50が、レーザ光源40の光学系から離れた位置に配置されている。また、実施例3では、ステージ30が、集光レンズ44の直下の位置と、カメラ50の直下の位置の間で移動することができる。実施例3の変質層形成装置では、制御装置60は、ステージ30が集光レンズ44の直下に配置されている状態で、実施例1と同様にして基板搬入工程、精アライメント工程、変質層形成工程を実施する。
【0039】
実施例3では、制御装置60が、変質層未形成領域特定工程の開始時に、ステージ30によってGaN基板12をカメラ50の直下まで移動させる。その後、制御装置60は、カメラ50によってGaN基板12の画像を撮影し、変質層未形成領域16の座標範囲16rを特定する。
【0040】
実施例3では、制御装置60が、変質層再形成工程の開始時に、ステージ30によってGaN基板12を集光レンズ44の直下まで移動させる。その後、制御装置60は、実施例1と同様にして、変質層再形成工程を実施する。変質層再形成工程の後に、実施例1と同様にして、基板分割工程が実施される。
【0041】
なお、実施例3では、ステージ30を移動するとき(すなわち、変質層未形成領域特定工程の開始時、及び、変質層再形成工程の開始時)に精アライメント工程を再度実施してもよい。この場合、変質層再形成工程では、変質層未形成領域特定工程と同じように原点O(すなわち、xy座標系)を設定することで、変質層未形成領域16内に正確に変質層14を形成することができる。
【実施例4】
【0042】
図13は、実施例4の変質層形成装置を示している。実施例4の変質層形成装置では、レーザ加工用のステージ30aと撮影用のステージ30bが独立して設けられている。ステージ30aの上部に、レーザ光源40、ハーフミラー42、集光レンズ44等を有するレーザ光学系が配置されている。ステージ30b上に、カメラ50が設けられている。ステージ30a、30bのそれぞれは、x方向、y方向及びz方向に移動可能とされている。基板搬送装置20は、変質層形成装置に対するGaN基板12の搬入及び搬出に加えて、ステージ30aとステージ30bの間におけるGaN基板12の搬送を行う。
【0043】
図14は、実施例4の製造方法を示している。実施例4では、制御装置60は、基板搬入工程において、基板搬送装置20によってGaN基板12をステージ30a上に搬送する。次に、制御装置60は、第1精アライメント工程を実施する。第1精アライメント工程は、実施例1の精アライメント工程と同様に実施される。すなわち、制御装置60は、図示しないアライメント用カメラによってステージ30a上のGaN基板12を撮影し、GaN基板12のオリエンテーションフラット12a、12bの位置を検出する。さらに、制御装置60は、オリエンテーションフラット12a、12bの位置に基づいて、原点Oの位置を算出する。次に、制御装置60は、実施例1の変質層形成工程と同様にGaN基板12に変質層14を形成する。すなわち、制御装置60は、ステージ30a上のGaN基板12にレーザLを照射することによって、GaN基板12のx方向及びy方向の全域に変質層14を形成する。
【0044】
次に、制御装置60は、第1基板搬送工程を実施する。第1基板搬送工程では、制御装置60は、基板搬送装置20によって、GaN基板12をステージ30a上からステージ30b上へ搬送する。基板搬送装置20は、粗アライメントを実施した後に、ステージ30b上にGaN基板12を載置する。次に、制御装置60は、ステージ30b上において、第2精アライメント工程を実施する。第2精アライメント工程は、実施例1の精アライメント工程と同様に実施される。すなわち、制御装置60は、カメラ50または図示しないアライメント用カメラによってステージ30b上のGaN基板12を撮影し、GaN基板12のオリエンテーションフラット12a、12bの位置を検出する。さらに、制御装置60は、オリエンテーションフラット12a、12bの位置に基づいて、原点Oの位置を算出する。すなわち、制御装置60は、xy座標系を設定する。
【0045】
次に、制御装置60は、実施例1と同様にして、変質層未形成領域特定工程を実施する。すなわち、制御装置60は、カメラ50によってGaN基板12の画像を撮影し、撮影した画像に基づいて変質層形成領域15と変質層未形成領域16を特定する。変質層未形成領域16の座標範囲16rは、第2精アライメント工程で設定されたxy座標系にて表される座標範囲である。制御装置60は、算出した座標範囲16rを記憶する。
【0046】
変質層未形成領域16が存在する場合、制御装置60は、第2基板搬送工程を実施する。第2基板搬送工程では、制御装置60は、基板搬送装置20によって、GaN基板12をステージ30b上からステージ30a上へ搬送する。基板搬送装置20は、粗アライメントを実施した後に、ステージ30a上にGaN基板12を載置する。次に、制御装置60は、ステージ30a上において、第3精アライメント工程を実施する。第3精アライメント工程は、実施例1の精アライメント工程と同様に実施される。すなわち、制御装置60は、図示しないアライメント用カメラによってステージ30a上のGaN基板12を撮影し、GaN基板12のオリエンテーションフラット12a、12bの位置を検出する。さらに、制御装置60は、オリエンテーションフラット12a、12bの位置に基づいて、原点Oの位置を算出する。第3精アライメント工程では、第2精アライメント工程と同一の位置に原点Oが設定される。すなわち、第3精アライメント工程では、第2精アライメント工程と同一のxy座標系が設定される。
【0047】
次に、制御装置60は、実施例1の変質層再形成工程と同様にして、変質層未形成領域16内に変質層14を形成する。すなわち、制御装置60は、GaN基板12にレーザLを照射することによって、変質層未形成領域特定工程で特定した座標範囲16r内の全域に変質層14を形成する。
【0048】
制御装置60は、変質層未形成領域16が無くなるまで、変質層未形成領域特定工程と変質層再形成工程を繰り返し実行する。変質層未形成領域16が無くなると、制御装置60は、GaN基板12を変質層形成装置から搬出する。その後、実施例1と同様にして、基板分割工程が実施され、分割後のGaN基板12を利用して半導体装置が製造される。
【0049】
なお、第2精アライメント工程と第3精アライメント工程ではオリエンテーションフラット12a、12bを基準としてxy座標系を設定した。しかしながら、第2精アライメント工程と第3精アライメント工程において、GaN基板12の異なる特徴点に基づいて、共通のxy座標系を設定してもよい。
【実施例5】
【0050】
図15は、実施例5の変質層形成装置を示している。実施例5の変質層形成装置は、実施例1の変質層形成装置に基板分割装置70を付加したものである。基板分割装置70を付加した点を除いて、実施例5の変質層形成装置は、実施例1の変質層形成装置と等しい。
【0051】
実施例5の変質層形成装置では、制御装置60は、実施例1と同様にして、基板搬入工程、精アライメント工程、変質層形成工程、変質層未形成領域特定工程、変質層再形成工程を実施する。基板分割工程では、制御装置60は、基板分割装置70によってGaN基板12を分割する。基板分割装置70は、GaN基板12の上面12cを吸着または接着等によって支持する第1支持部と、GaN基板12の下面12dを吸着または接着等によって支持する第2支持部を有している。制御装置60は、第1支持部を第2支持部から離れる方向に移動させることによって、
図8に示すようにGaN基板12を分割する。このように、実施例5の変質層形成装置は、基板分割工程までを実施することができる。
【実施例6】
【0052】
上述したように、変質層形成工程では、GaN基板12の上面に付着した異物によってレーザLが遮られることで、変質層未形成領域16が発生する場合がある。
図16に示すように、実施例6の製造方法では、異物を除去するために、変質層未形成領域特定工程の後であって変質層再形成工程の前に洗浄工程を実施する。実施例6の製造方法は、実施例1~5のいずれの変質層形成装置でも実施することができる。
【0053】
実施例6の製造方法では、変質層未形成領域特定工程で変質層未形成領域16が特定された場合に、制御装置60は、基板搬送装置20によってGaN基板12を変質層形成装置の外部に取り出す。その後、GaN基板12の表面を洗浄する洗浄工程が実施される。洗浄工程において、GaN基板12の表面から異物が除去される。洗浄工程の実施後に、基板搬送装置20によってGaN基板12を変質層形成装置内に搬入し、変質層再形成工程を実施する。GaN基板12の表面から異物が除去されているので、変質層再形成工程で変質層未形成領域16内に適切に変質層14を形成することができる。
【実施例7】
【0054】
上述したように、変質層形成工程では、GaN基板12の上面に表面粗さが粗い粗面部によってレーザLが散乱されることで、変質層未形成領域16が発生する場合がある。
図17に示すように、実施例7の製造方法では、粗面部を除去するために、変質層未形成領域特定工程の後であって変質層再形成工程の前に平坦化工程を実施する。実施例7の製造方法は、実施例1~5のいずれの変質層形成装置でも実施することができる。
【0055】
実施例7の製造方法では、変質層未形成領域特定工程で変質層未形成領域16が特定された場合に、制御装置60は、基板搬送装置20によってGaN基板12を変質層形成装置の外部に取り出す。その後、GaN基板12の表面を研磨、エッチング等によって平坦化する平坦化工程が実施される。平坦化工程において、GaN基板12の表面から粗面部が除去される。平坦化工程の実施後に、基板搬送装置20によってGaN基板12を変質層形成装置内に搬入し、変質層再形成工程を実施する。GaN基板12の表面から粗面部が除去されているので、変質層再形成工程で変質層未形成領域16内に適切に変質層14を形成することができる。
【0056】
なお、変質層未形成領域特定工程で変質層未形成領域16が特定された場合に、実施例6の洗浄工程と実施例7の平坦化工程の両方を実施してもよい。
【0057】
なお、上述した実施例では、変質層形成工程の後に変質層未形成領域特定工程を実施した。しかしながら、変質層形成工程を実施しながら変質層未形成領域特定工程を実施してもよい。すなわち、変質層形成工程を実施しながら、レーザ照射後の領域の画像を撮影して変質層未形成領域を特定してもよい。
【0058】
また、上述した実施例では、GaN基板12のx方向及びy方向の全域が変質層14を形成する目標領域であった。しかしながら、GaN基板12のx方向及びy方向の一部のみが変質層14を形成する目標領域であってもよい。
【0059】
また、上述した実施例では、加工対象がGaN基板であった。GaN基板は光透過性を有するので、カメラ50で撮影した画像によって変質層形成領域15と変質層未形成領域16を区別し易い。しかしながら、加工対象がGaN基板以外の化合物半導体基板であってもよい。加工対象の化合物半導体基板は、光透過性を有さなくてもよい。化合物半導体基板が光透過性を有さない場合でも、変質層形成領域15と変質層未形成領域16の間に外観上の差異が現れる場合があるので、カメラ50で撮影した画像によって変質層形成領域15と変質層未形成領域16を区別することは可能である。
【0060】
実施例のレーザ光源40は、レーザ照射装置の一例である。実施例のカメラ50は、撮影装置の一例である。
【0061】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0062】
10:変質層形成装置、12:窒化ガリウム基板、14:変質層、15:変質層形成領域、16:変質層未形成領域、30:ステージ、40:レーザ光源、50:カメラ