(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-29
(45)【発行日】2025-09-08
(54)【発明の名称】多端子直流送電システムの保護制御装置
(51)【国際特許分類】
H02J 1/00 20060101AFI20250901BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20250901BHJP
H02H 3/06 20060101ALI20250901BHJP
H02J 3/36 20060101ALI20250901BHJP
【FI】
H02J1/00 301D
H02J3/38 160
H02H3/06 D
H02J3/36
(21)【出願番号】P 2022532310
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012278
(87)【国際公開番号】W WO2021261041
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2020110265
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉原 徹
(72)【発明者】
【氏名】大原 伸也
(72)【発明者】
【氏名】李 佳澤
(72)【発明者】
【氏名】原口 瑠理子
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-050694(JP,A)
【文献】特開2014-166114(JP,A)
【文献】特開2013-188050(JP,A)
【文献】特開2018-046642(JP,A)
【文献】多端子HVDCの制御・保護の標準仕様書案,日本,国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構,2020年03月,https://www.nedo.go.jp/content/100905898.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 1/00
H02J 3/38
H02H 3/06
H02J 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウインドファームの電力を交直変換する交直変換器を備えたウインドファーム変換所が、直流遮断器を含む複数の直流線路を介して他の交直変換所に接続された多端子直流送電システムの保護制御装置であって、
複数の前記直流線路
の一部に直流事故が発生し
、かつ前記ウインドファーム変換所における複数の前記直流遮断器が全て開放状態にあることを検知し、前記直流遮断器が全て開放状態にあるときに、前記直流遮断器の開放・投入状況及び前記直流線路の電流又は電圧情報から誤動作している直流遮断器を同定し、前記直流事故が発生していない側の前記直流線路の前記直流遮断器を再投入させ、
前記直流線路の一部に直流事故が発生したときに、前記ウインドファームの電力を抑制制御すると共に、
前記ウインドファーム変換所は、前記交直変換器と前記直流線路の間からブレーキングチョッパを介して対大地接続
されており、
複数の前記直流遮断器が全て開放状態にあることの検知により前記ブレーキングチョッパを対大地接続することを特徴とする多端子直流送電システムの保護制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能エネルギー電源などの発電システムを、電力変換器および直流送電線を介して連系する、多端子直流送電システムの保護制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
長距離送電や、海底送電の高効率化のために、直流送電システム(HVDC:High Voltage Direct Current)が用いられる。一般の電力系統は交流系統であるので、直流送電システムでは、交流系統の電力を交直変換器で直流に変換して送電する。
【0003】
直流送電システムに用いられる交直変換器は、古くはサイリスタを用いた他励式交直変換器が主流であったが、近年は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いた自励式交直変換器の導入が増加している。
【0004】
自励式直流送電システムに用いる交直変換器は、高調波が少なく、大容量化や高電圧化に適した方式として、モジュラーマルチレベル変換器(MMC:Modular Multilevel Converter)を適用する事例が増加している。
【0005】
また、直流送電システムの送電形態として、従来は、2つの地点を1対1でつなぐ1対1送電が主流であったが、近年、直流送電システムの大規模化、大容量化が進み、送電形態も、3つの地点以上を接続する、いわゆる多端子直流送電システムが注目を浴びている。係る多端子直流送電システムの運用上の課題として、直流線路事故時におけるシステム全体の運転継続がある。
【0006】
システム全体の運転継続の基本的な考え方は、従来の交流系統と同様であり、事故区間を切り離し、残る健全部分で運転継続を図るというものである。この点について、交流系統と異なり、多端子直流送電システムでは、交直変換器を介して相互接続するが、事故除去後は速やかに交直変換器による制御の回復が行われることが求められる。また、交直変換器の過電流・過電圧保護および事故波及防止のため、一般に、事故発生から数ms程度で、事故区間を切り離し、残るシステムで運転継続できることが望まれる。
【0007】
多端子直流送電システムにおける直流事故除去ならびにシステムの運転継続を図る手法として、例えば特許文献1が知られている。特許文献1では、「送電経路を各区間に区切るように設置される各開閉器と、事故の存在を検出する検出部と検出部の検出結果に基づき、開閉器の開閉を制御する制御部と前記制御部は、前記検出部が事故発生を検出すると、前記事故区間を前記直流送電経路から切り離すように前記開閉器を遮断動作させ、前記遮断動作後、前記事故発生により遮断動作させた前記開閉器のうち一つの開閉器を投入動作させ、前記一つの開閉器の前記投入動作後、前記検出部が事故の継続を検出すると、前記投入動作させた前記一つの開閉器を再遮断動作させ、前記一つの開閉器の前記投入動作後、前記検出部が事故の継続を検出しなければ、前記事故区間を前記直流送電経路から切り離すために遮断動作させた全ての前記開閉器を投入状態に戻すことによって前記事故区間を復旧動作させること特徴をとするもの」である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、多端子直流送電システムの保護において、事故検出部の整定ミスや事故検出部と開閉部の通信ミスなどによって、本来、事故除去のために開く必要のない開閉器が、誤って開閉してしまうことも考えられる。以降、本明細書では、「事故除去のために開く必要のない開閉器や遮断器が、誤って開閉してしまうこと」を「誤動作」と呼称する。
【0010】
開閉器の誤動作は、多端子直流送電システムの直流系統の不要な分断を引き起こし、事故区間の拡大や、最悪の場合システム全停止を招きうる。特に、開閉器の誤動作は、多端子直流送電システムの少なくとも1端に、ウインドファームなどの再生可能エネルギー電源発電所が連系される場合に、再生可能エネルギー電源発電所が、多端子直流送電システムから分断されてしまい、再生可能エネルギー電源発電所の単独運転状態の検出による発電所解列、運転の停止に至る可能性がある。
【0011】
この場合に、一度運転を停止した発電所を再度運転するためには、復旧処理に時間を要する可能性があり、たとえ多端子直流送電システムの直流系統内の事故線路を切り離し、送電システムが復旧しても、再生可能エネルギー電源発電所からの電力を速やかに送電再開することはできない。
【0012】
ゆえに、多端子直流送電システムの少なくとも1端に、再生可能エネルギー電源発電所が連系されるような直流送電システムにおいては、開閉器の誤動作が起こった場合でも、再生可能エネルギー電源発電所の運転停止を極力回避し、かつ、多端子直流送電システムの直流線路で発生した直流事故の区間を適切に切り離し、システム全体として運転継続できることが望ましい。上記に示した開閉器の誤動作や再生可能エネルギー電源発電所が接続される場合の課題および解決手法について、特許文献1では言及されていない。
【0013】
以上のことから本発明においては、再生可能エネルギー電源発電所の運転停止を極力回避し、かつ、多端子直流送電システムの直流線路で発生した直流事故の区間を適切に切り離し、システム全体として運転継続できることができる多端子直流送電システムの保護制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明においては「ウインドファームの電力を交直変換する交直変換器を備えたウインドファーム変換所が、直流遮断器を含む複数の直流線路を介して他の交直変換所に接続された多端子直流送電システムの保護制御装置であって、複数の直流線路の一部に直流事故が発生し、かつウインドファーム変換所における複数の直流遮断器が全て開放状態にあることを検知し、直流遮断器が全て開放状態にあるときに、前記直流遮断器の開放・投入状況及び前記直流線路の電流又は電圧情報から誤動作している直流遮断器を同定し、前記直流事故が発生していない側の直流線路の直流遮断器を再投入させ、前記直流線路の一部に直流事故が発生したときに、前記ウインドファームの電力を抑制制御すると共に、前記ウインドファーム変換所は、前記交直変換器と前記直流線路の間からブレーキングチョッパを介して対大地接続されており、複数の前記直流遮断器が全て開放状態にあることの検知により前記ブレーキングチョッパを対大地接続することを特徴とする多端子直流送電システムの保護制御装置」としたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、直流事故の発生時に、再生可能エネルギー発電装置から多端子直流送電システムへ送電される電力を抑制することで、直流事故の除去のために事故区間を切り離す際も、再生可能エネルギー発電装置および再生可能エネルギー発電装置が接続された交直変換所の運転停止を回避し、極力、健全部分で運転継続できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例に係る多端子直流送電システムとその制御装置の構成例を示す図。
【
図2】多端子直流送電システムの事故状態を示す図。
【
図3】本発明の実施例に係る多端子直流送電システムの保護制御装置の動作フローを示す図。
【
図4】ウインドファーム変換所が分断された状況における、ウインドファーム変換所とウインドファームの簡易的な回路構成を示す図。
【
図5】ブレーキングチョッパを使わない場合の、有効電力Pacを変えた場合における、直流電圧Vdcの変化の概念を示す図。
【
図6】ブレーキングチョッパを用いた場合の、直流電圧Vdcとブレーキングチョッパの温度の変化の概念を示す図。
【
図7】ウインドファーム変換所が分断された状況における、ウインドファーム変換所とウインドファームの簡易的な回路を示す図。
【
図8】ウインドファーム変換所の出力交流電圧を下げる方法を行った場合の、直流電圧Vac、交流電流Iac、有効電力Pacの時間変化の概念を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。なお、以下の実施例は本発明の一形態を示すものであり、本発明は要旨を逸脱しない限り、他の形態を含むものである。
【0019】
なお、以下の説明で、特に断りがない限り、「交流」は三相交流を指す。また交直変換器は、三相交流を直流に相互変換する自励式交直変換器を指し、交直変換器の三相交流と接続される部分を「交流側」と呼称し、直流回路と接続される部分を「直流側」と呼称する。また図中における矢印点線は「検出信号や指令信号の通信」を意味する。
【0020】
また、説明を簡単にするために、電圧や電力などの値について、数値を用いて説明する。電圧の値は、全て任意単位(arbitrary unit)にて表記し、単位は[a.u.]である。なお、数値については、本発明の実施形態の一例を示すために使用するものであり、本発明の実施形態について、その数値を限定するものではない。
【0021】
また、以下の図面の説明について、直流遮断器の投入および開放状態を示すために、投入状態の遮断器は黒塗にて図示し、開放状態の遮断器は白塗にて図示する。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を
図1から
図8を用いて説明する。
図1は、本発明の実施例に係る多端子直流送電システムとその制御装置の構成例である。
【0023】
図1には、電力系統とその制御装置の構成が示されている。電力系統は、ウインドファーム変換所102Wと、交流系統接続変換所102Aと、交流系統接続変換所102Bが、直流送電線LD(LD1、LD2、LD3)を介して相互に接続されることで多端子直流送電システムを構成している。また各変換所102W、102A、102Bの交流側は、それぞれウインドファーム103W、交流系統104A、交流系統104Bと電気的に接続されている。
【0024】
各変換所102W、102A、102Bは、ウインドファーム変換所102Wにブレーキングチョッパ108Wを追加的に設置している点を除けば、殆ど同じ構成であり、交直変換器106(106W、106A、106B)と直流遮断器107(107WA、107WB、107AW、107AB、107BA、107BW)を含んで構成されている。
なお交直変換器106と直流遮断器107に付したW、A、Bの記号は、変換所を区別したものであり、直流遮断器107に付したW、A、Bの2桁の記号は、自己変換所を前に相手端変換所を後ろに記述することで、直流送電線の自端と相手端の接続関係を示したものである。
【0025】
ウインドファーム変換所102Wには、さらにブレーキングチョッパ108Wが設置されている。ここで、ブレーキングチョッパ108Wは、交直変換器106Wと所内母線間の直流線路に対大地接続された例えば、スイッチと抵抗の直列回路であり、後述する制御装置108Wからの指令に応じて、スイッチのオンオフを切り替え、抵抗投入状態ないし抵抗開放状態を切り替えることで、ブレーキングチョッパ108Wで消費する電力を切り替える機能を有するものである。
【0026】
ウインドファーム103Wは、複数の風力発電109から構成されており、
図1ではその一例として4つの風力発電109から構成される例を示している。
【0027】
以上が
図1に例示する多端子直流送電システムの電力系統構成であるが、これに対して電力系統の制御装置は、全変換所を統括制御する全体制御装置100と、各変換所を個別に制御する個別制御装置105(105W、105A、105B)と、ウインドファーム103Wを制御するウインドファーム制御装置101を含んで構成されている。また全体制御装置100と、個別制御装置105(105W、105A、105B)の間では相互通信による各種信号の送受が実行され、さらに個別制御装置105Wとウインドファーム制御装置101にも相互通信が形成されている。
【0028】
これにより、ウインドファーム103Wの状態を含めた各変換所102W、102A、102Bの状態が全体制御装置100に把握され、ウインドファーム103Wを含めた各変換所102W、102A、102Bは全体制御装置100からの制御指令により制御される。なお、個別制御装置105(105W、105A、105B)における制御対象は、当該所内の交直変換器106と直流遮断器107であり、ウインドファーム変換所102Wでは更に、ブレーキングチョッパ108Wのスイッチ開閉操作を行う。ウインドファーム制御装置101は、ウインドファーム内の複数の風力発電109を制御する。
【0029】
先にも述べたが、
図1などにおいて直流遮断器107(107WA、107WB、107AW、107AB、107BA、107BW)は、開放状態を白塗、投入状態を黒墨で表記している。従って
図1は、電力系統が健全状態でありすべての直流遮断器107(107WA、107WB、107AW、107AB、107BA、107BW)は投入状態にあることを示している。
【0030】
これに対して
図2は、直流送電線路LD2に直流事故201が発生した状態を示している。この状態では、直流送電線路LD2の両端の直流遮断器107WBと107BWが、例えば直流線路における事故を直流電圧低下から検知して開放され、さらにウインドファーム変換所102Wのもう一方の直流遮断器107WAも直流電圧低下の影響を検知して開放されたものである。直流遮断器107WAは、本来開放すべきものではなく、誤動作に基づいたものである。これにより、ウインドファーム変換所102Wは、ウインドファーム103Wでの発電電力に見合う電力を直流側に送電できない状態となっている。
【0031】
図3は、本発明の実施例に係る多端子直流送電システムの保護制御装置の動作フローを示す図である。この図は、
図2の直流事故発生時における処理の流れを上段から下段に向かう時系列的な処理の流れをフローとして示したものである。また、左側から順次全体制御装置100における動作内容、ウインドファーム変換所102Wにおける動作内容、ウインドファーム103Wにおける動作内容を記述している。なお
図3ではウインドファームのことをWFと略式表示している。
【0032】
以降の説明では、本発明の実施例について、事故点201で直流事故が発生し、直流遮断器107WAが誤動作にて開放されてしまった場合を例に、
図3の動作フローと合わせて、時系列に沿って説明する。
【0033】
まず、事故点201での直流事故の発生直後と直流遮断器107の動作について説明する。
図3のステップ301において、直流送電線路LD2の事故点201に直流事故が発生した。このとき各変換所102W、102A、102Bから事故点に向かって事故電流が流れる。
【0034】
ステップ302では、各交直変換所102W、102A、102BはLD(LD1、LD2、LD3)に流れる電流や電圧など、変換所の自端で検出できる情報を基に、直流事故線路LD2を開放すべく、直流遮断器を開放する。この事例の場合に、事故点201を含む直流送電線LD2の両側における変換所102W、102Bが事故検知し、直流送電線路LD2の両端の直流遮断器107WBと107BWが開放される。
【0035】
ここまでは、直流送電線路LD2に直流事故が発生した場合の正しい保護動作である。
直流送電線路LD2に発生した直流事故に対して、理想的には、事故点201の直流送電線LD2の両端の遮断器である、直流遮断器107BWと直流遮断器107WBのみを開放すればよい。これに対しここでは、上記2つの直流遮断器107BWと107WBに加え、ウインドファーム変換所102Wにおける直流遮断器107WAが誤動作にて開放されてしまったと想定している。
【0036】
ステップ303では、各変換所102W、102A、102Bが、自所内における直流遮断器の開放・投入状態および直流送電線の電流や電圧情報を全体制御装置101に送信する。この事例の場合には、変換所102W、102Bが直流送電線LD2における事故検知と、開放した直流遮断器107を報告する。このときウインドファーム変換所102Wが報告する開放した直流遮断器107には、誤動作にて開放された直流遮断器107WAが含まれている。
【0037】
以降、まずは、全体制御装置100で実施する動作について説明する。まずステップ304では、全体制御装置100への情報送信により各変換所102W、102A、102Bから送信された直流遮断器の開放・投入状態、および直流送電線LD(LD1、LD2、LD3)の電流や電圧情報をもとに、どの直流送電線で事故が起きたかを同定する。事故送電線の同定方法においては、例えば電流差動方式のように、送電線の両端の情報を用いて事故点を同定する方法があげられる。ここでは、直流事故点の同定処理により、事故点201にて事故が起きたことを同定できたとする。
【0038】
ステップ305では、直流事故点の同定ステップ304で同定された事故点情報と、各変換所から送信された直流遮断器の開放・投入状態から、誤動作している直流遮断器を同定する。ここでは、直流事故点の同定ステップ304において、事故点201にて事故が起きたことを同定できており、事故点201で発生した直流事故に対して、理想的には、事故点201の直流送電線の両端の遮断器である、直流遮断器107BWと直流遮断器107WBのみを開放すればよいことは、予めわかるため、誤動作を起こしている直流遮断器は、直流遮断器107WAであると同定することができる。
【0039】
ステップ306では、誤動作が判明した直流遮断器107WBに対し、再投入するよう、全体制御装置100から各変換所に指令を出す。本例では、直流遮断器107WAを再投入するよう、ウインドファーム変換所102Wに指令を出す。
【0040】
以上が、本発明の実施例における、全体制御装置100で実施する動作の説明である。
なお、各変換所102W、102A、102Bの運転情報の送受信、全体制御装置100での直流事故点の同定や誤動作した直流遮断器の同定などには、数100ms~数秒の時間遅延が発生する。しかし、どの程度の時間遅延が生じるかについては、例えば、全体制御装置100と各変換所102W、102A、102Bの運用ルールとして、直流事故を全体制御装置100で検出した後、最大である時間以内に各変換所102W、102A、102Bに指令を出す、などを予め設けておくことで、直流事故が発生してから、全体制御装置100から指令が来るまでの間、どの程度の時間、各変換所102W、102A、102Bが自律制御のみで運転継続し続ける必要があるかを、変換所102W、102A、102Bが把握しておくことは可能である。
【0041】
次に、本発明の実施例における、ウインドファーム変換所およびウインドファームの動作フローについて説明する。ステップ308では、ウインドファーム変換所が自変換所の直流遮断器107の開放・投入状態をもとに、多端子直流送電システムから分断されているか判定する。本例では、直流遮断器107WAと直流遮断器107WBが両方とも開放状態のため、ウインドファーム変換所102Wは、多端子直流送電システムから分断されていると判定できる。
【0042】
ウインドファーム変換所102Wが多端子直流送電システムから分断されている、この状態では、ウインドファーム103Wからウインドファーム変換所102Wに送電される電力は、ウインドファーム変換所102Wに蓄積されてしまい、いずれは変換所の電気的制約や熱的制約により、ウインドファーム変換所102Wの運転停止に至る可能性がある。
【0043】
このことから本発明の実施例では、ウインドファーム変換所102Wの運転停止に至るまでの時間を、極力伸ばせるよう、ウインドファーム103Wから送電される電力を抑制するためのステップ309の処理(ウインドファーム変換所102Wへの出力上限指令)と、ウインドファーム変換所102Wに蓄積される電力を消費するためのステップ310の処理(ブレーキングチョッパ動作)を実施する。
【0044】
ウインドファーム103Wから送電される電力を抑制するためのステップ309の処理では、直流事故201が発生してから、全体制御装置100から指令が来るまでの間、どの程度の時間、各変換所が自律制御のみで運転継続し続ける必要があるか、をもとに、ウインドファーム103Wへの出力上限を決定する。ウインドファーム103Wへの出力上限値の決定方法については、例えば、ウインドファーム変換所の直流過電圧を回避するよう決定する方法が考えられる。
【0045】
図4と
図5は、出力上限値の決定方法の概念図を説明するための図である。
図4は、ウインドファーム変換所が分断された状況における、ウインドファーム変換所とウインドファームの簡易的な回路図である。
図4において、ウインドファーム103Wからウインドファーム変換所102Wに送電される有効電力をPacと表記し、ウインドファーム変換所102Wから直流送電線LD2に送電される有効電力をPdcと表記し、ブレーキングチョッパ108Wによる消費電力をPbcと表記し、ウインドファーム変換所102Wの直流側の直流電圧をVdcと表記している。事故継続状態に置いてPdcは、ウインドファーム変換所102Wが分断されているため、0.0[a.u.]である。
【0046】
図5は、ブレーキングチョッパ108Wを使わない状態で、ウインドファーム103Wからウインドファーム変換所102Wに送電される有効電力Pacを変えた場合におけるウインドファーム変換所102Wの直流側の直流電圧Vdcの変化の概念を示す図である。
図5の縦軸は直流電圧Vdc[a.u.]、横軸は時刻である。
【0047】
図5の説明では、直流電圧Vdcの定常状態における値を1.0[a.u.]、ウインドファーム変換所102Wの過電圧上限値を1.2[a.u.]、ウインドファーム変換所102Wが多端子直流送電システムから分断された時刻をT0とする。
【0048】
時刻T0でウインドファーム変換所102Wが多端子直流送電システムから分断されると、有効電力Pacの流入により、直流側のコンデンサや直流送電線の浮遊容量などによりエネルギーが蓄積されるため、直流電圧Vdcは上昇する。このときの直流電圧Vdcの上昇の傾きは、有効電力Pacの大きさによって決まり、有効電力Pacが大きいほど、その傾きは大きくなる。換言すれば、有効電力Pacを下げることにより、直流電圧Vdcの上昇の傾きを下げられる。
【0049】
図5では有効電力Pac=1.0[a.u.]の例を点線で図示し、有効電力Pac=0.5[a.u.]の例を実線で図示している。ウインドファーム変換所102Wが分断されてからの直流電圧Vdcの値は、大略、有効電力Pacの大きさと分断時間の時間積によって決まるため、有効電力Pacが半分になれば、ウインドファーム変換所102Wが過電圧上限値に達する時間は大略2倍となる。
【0050】
このことから本発明の実施例では、直流事故が発生し、全体制御装置100から指令が来るまでの間にかかる時間をΔTthとした場合、直流電圧Vdcが1.0[a.u.]から1.2[a.u.]に上昇するのにかかる時間ΔTが、ΔTthより長くなるように、有効電力Pacの上限値を決定すればよい。以上が、ステップ309の処理による、ウインドファーム変換所102Wへの出力上限指令値の決定方法についての説明である。
【0051】
また、本発明の実施例のように、ウインドファーム変換所102Wに蓄積される電力を消費するためのステップ310の処理である、ブレーキングチョッパ動作を併用するのがよい。ウインドファーム変換所102Wにブレーキングチョッパ108Wを備える場合、ブレーキングチョッパ108Wを動作させ、直流電圧Vdc上昇時にブレーキングチョッパ108Wを投入することで、直流側に蓄えられたエネルギーを消費できるため、直流電圧Vdcの傾きを小さくすることができる。
【0052】
図6はブレーキングチョッパ108Wを用いた場合の、直流電圧Vdcの変化を
図6の上段に示し、かつ同時刻におけるブレーキングチョッパ108Wの温度の変化を
図6の下段に示した図である。
【0053】
ブレーキングチョッパ108Wが投入されている間は、ブレーキングチョッパ108Wにて、電力が消費されるため、直流電圧Vdcの上昇が抑えられる一方、ブレーキングチョッパ108Wの発熱によって、温度が上昇する。例えば、ブレーキングチョッパ直流電圧の上限値が1.1[a.u.]の場合、ブレーキングチョッパの温度が上限に達するまで、ブレーキングチョッパ直流電圧を投入することで、直流電圧Vdcの上昇を抑えることができる。
【0054】
以上が本発明の実施例における、ブレーキングチョッパ108Wの投入による直流電圧Vdc上昇速度を抑える原理の説明である。ブレーキングチョッパの消費電力は、抵抗値と直流電圧によって定まるため、ブレーキングチョッパ108Wの動作を加味したうえで、直流電圧Vdcが1.0[a.u.]から1.2[a.u.]に上昇するのにかかる時間ΔTを計算することで、ブレーキングチョッパ108Wがある場合の有効電力Pacについても、同様の思想で、決定可能である。
【0055】
なお、有効電力Pacの出力上限値の設定による直流電圧Vdcの上昇速度の抑制と、ブレーキングチョッパによる直流電圧Vdcの上昇速度の抑制は、組み合わせて使用することができる。また、本説明では、直流過電圧を例に、有効電力Pacの上限値を決める方法について説明したが、変換所の熱制約など、有効電力Pacの時間積に依存する制約について考慮する場合も、同様の思想で有効電力Pacの上限値を決定することが可能である。
【0056】
以上、ウインドファーム103Wから送電される電力を抑制するための、ウインドファーム103Wへの出力上限指令と、ウインドファーム変換所102Wに蓄積される電力を消費するための、ブレーキングチョッパ108Wの動作を説明した。
【0057】
最終的にステップ311では、ウインドファーム103Wへの出力上限指令で計算された有効電力Pacの上限値をもとに、ウインドファーム103Wの出力抑制を実施する。
【0058】
以上が、直流事故の発生時に、直流遮断器の誤動作があった場合でも、ウインドファームの出力を抑制することで、ウインドファーム変換所の停止を回避しつつ、誤動作した直流遮断器を再投入する動作フローの説明である。最終的にステップ312にて、一連の動作フローが完了する。
【0059】
以上、事故点201で直流事故が発生し、直流遮断器107WAが誤動作にて開放されてしまった場合における対応について説明した。なお、本発明の実施例では、ウインドファーム103Wから直流送電線に流入する電力を抑制するために、ウインドファーム103Wの出力抑制指令を用いる方法と、ブレーキングチョッパ108Wを活用する方法について説明したが、ウインドファーム変換所102Wの出力交流電圧を下げる方法でも、本発明は実現可能である。
【0060】
図7は、ウインドファーム変換所102Wが分断された状況における、ウインドファーム変換所102Wとウインドファーム103Wの簡易的な回路図である。
図7において、ウインドファーム変換所102Wの交流側の電圧をVacと表記し、ウインドファーム変換所102Wに送電される交流電流をIacと表記し、ウインドファーム変換所102Wに送電される有効電力をPacと表記し、ウインドファーム変換所102Wから直流送電線に送電される有効電力をPdcと表記している。ウインドファーム変換所102Wに送電される電力の力率が1の場合、有効電力Pacは交流側電圧Vacと交流電流Iacの積である。
【0061】
図8は、時刻T0で、ウインドファーム変換所102Wの出力交流電圧Vacを下げる方法を行った場合の、交流電圧Vac、交流電流Iac、有効電力Pacの時間変化の概念図である。これによれば、ウインドファーム103Wは交流電流Iacを一定にするよう運転し、ウインドファーム変換所にて直流電圧Vacを下げるように制御をおこなうことで、有効電力Pacを下げることができる。
【0062】
ウインドファームの出力抑制指令を用いる方法と違い、ウインドファーム変換所が分断されている間の、ウインドファームとウインドファーム変換所の通信は不要である。
【符号の説明】
【0063】
10:全体制御装置、102A、102B:交流系統接続変換所、102W:ウインドファーム変換所、103W:ウインドファーム、104A、104B:交流系統、105A、103B、103W:個別制御装置、106A、106B、106W:交直変換器、107AB、107AW、107BA、107BW、107WA、107WB:直流遮断器、108W:ブレーキングチョッパ、109:風力発電、201:事故点、301:直流事故発生、302:直流遮断器開放、303:全体制御装置への情報送信、304:直流事故点の同定、305:誤動作遮断器の同定、306:遮断器投入指令、307:遮断器投入、308:ウインドファーム変換所の分断検出、309:ウインドファームへの出力上限指令、310:ブレーキングチョッパ動作、311:ウインドファーム出力抑制運転、312:完了