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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】固形化粧料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/92 20060101AFI20250902BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20250902BHJP
   A61Q 1/06 20060101ALI20250902BHJP
【FI】
A61K8/92
A61K8/02
A61Q1/06
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021131425
(22)【出願日】2021-08-11
(65)【公開番号】P2023025956
(43)【公開日】2023-02-24
【審査請求日】2024-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】クワック アンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】西海 友梨恵
(72)【発明者】
【氏名】千葉 桐子
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196649(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0787784(KR,B1)
【文献】特開2017-52706(JP,A)
【文献】特許第6705603(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1組成を有する粒状の第1組成物と、前記第1組成物とは異なる、第2組成を有する第2組成物とを含み、前記粒状の第1組成物は、原料ペレットの外形形状が実質的に維持されており、
前記第1組成物及び前記第2組成物は、それぞれワックスを含有し、前記第1組成物に含有される前記ワックスの融解温度と、前記第2組成物に含有される前記ワックスの融解温度の差が、0~10℃である、固形化粧料。
【請求項2】
第1組成を有する粒状の第1組成物と、前記第1組成物とは異なる、第2組成を有する第2組成物とを含み、前記粒状の第1組成物は、原料ペレットの外形形状が実質的に維持されており、
前記第1組成物及び前記第2組成物は、それぞれワックスを含有し、前記第2組成物に含有される前記ワックスの融解温度が、前記第1組成物に含有される前記ワックスの融解温度よりも低い、固形化粧料。
【請求項3】
前記第2組成物が、粒状である、請求項1又は2に記載の固形化粧料。
【請求項4】
前記第2組成物が、連続相である、請求項1又は2に記載の固形化粧料。
【請求項5】
前記第1組成物の前記ワックスの含有量が、前記第1組成物の全量に対して5~25質量%であり、前記第2組成物の前記ワックスの含有量が、前記第2組成物の全量に対して5~25質量%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の固形化粧料。
【請求項6】
前記第1組成物の色が、前記第2組成物の色とは異なる、請求項1からのいずれか一項に記載の固形化粧料。
【請求項7】
第1組成を有する第1組成物の原料ペレットと、前記第1組成物とは異なる、第2組成を有する第2組成物とを準備し、
前記第1組成物の原料ペレット及び前記第2組成物を混合し、成形型に充填して加熱した後、冷却固化することを含み、
前記第1組成物及び前記第2組成物は、それぞれワックスを含有し、前記加熱の温度が、前記第1組成物に含有される前記ワックスの融解温度及び前記第2組成物に含有される前記ワックスの融解温度のうち、低い方の融解温度以上である、粒状の前記第1組成物を含む固形化粧料の製造方法。
【請求項8】
前記第1組成物に含有される前記ワックスの融解温度と、前記第2組成物に含有される前記ワックスの融解温度の差が、0~10℃である、請求項に記載の固形化粧料の製造方法。
【請求項9】
前記第2組成物に含有される前記ワックスの融解温度が、前記第1組成物に含有される前記ワックスの融解温度よりも低い、請求項に記載の固形化粧料の製造方法。
【請求項10】
第1組成を有する第1組成物の原料ペレットと、前記第1組成物とは異なる、第2組成を有する第2組成物とを準備し、
前記第1組成物の原料ペレット及び前記第2組成物を混合し、成形型に充填して加熱した後、冷却固化することを含み、
前記第1組成物及び前記第2組成物は、それぞれワックスを含有し、
前記第1組成物に含有される前記ワックスの融解温度と、前記第2組成物に含有される前記ワックスの融解温度が同一であり、
前記加熱の温度が、前記ワックスの融解温度~前記ワックスの融解温度+10℃の範囲である、粒状の前記第1組成物を含む固形化粧料の製造方法。
【請求項11】
前記第1組成物の原料ペレットの粒径が、1mmより大きい、請求項7から9のいずれか一項に記載の固形化粧料の製造方法。
【請求項12】
前記第2組成物の原料ペレットの粒径が、1mmより大きい、請求項7から10のいずれか一項に記載の固形化粧料の製造方法。
【請求項13】
第1組成を有する第1組成物の原料ペレットと、前記第1組成物とは異なる、第2組成を有する第2組成物とを準備し、前記第1組成物の原料ペレット及び前記第2組成物を混合し、成形型に充填して融解させた後、冷却固化することによって得られ
前記第1組成物及び前記第2組成物は、それぞれワックスを含有し、前記加熱の温度が、前記第1組成物に含有される前記ワックスの融解温度及び前記第2組成物に含有される前記ワックスの融解温度のうち、低い方の融解温度以上である、粒状の前記第1組成物を含む固形化粧料。
【請求項14】
第1組成を有する第1組成物の原料ペレットと、前記第1組成物とは異なる、第2組成を有する第2組成物とを準備し、前記第1組成物の原料ペレット及び前記第2組成物を混合し、成形型に充填して融解させた後、冷却固化することによって得られ
前記第1組成物及び前記第2組成物は、それぞれワックスを含有し、
前記第1組成物に含有される前記ワックスの融解温度と、前記第2組成物に含有される前記ワックスの融解温度が同一であり、
前記加熱の温度が、前記ワックスの融解温度~前記ワックスの融解温度+10℃の範囲である、粒状の前記第1組成物を含む固形化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形化粧料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数色の化粧料を配置した固形化粧料が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に、塗布色を呈する有色の第一の部分組成物に、見せ色を呈する有色の第二の部分組成物がサンドイッチ型に挟み込まれた多色油性固型化粧料が開示されている。特許文献1に開示の多色油性固型化粧料は、第一の部分組成物と第二の部分組成物の質量比が9:1~7:3であり、第一の部分組成物を塗布した際の隠蔽度と第二の部分組成物を塗布した際の隠蔽度の差が、15以上である。皮膚に塗布した場合は、第一の部分組成物が第二の部分組成物を隠蔽し、実質的に第一の部分組成物しか発色しない構成となっている。
【0004】
特許文献2には、2種類以上の組成物をそれぞれ加熱により流動化させ、それぞれオリフィスから、支持体上に液滴状に射出して堆積物として形成される固体化粧品及びその製造方法が開示されている。2種類以上の組成物の堆積物により、例えば、堆積物のかたまりの色が異なる固体化粧品を、成形用の型は必要とせずに、成形することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-6349号公報
【文献】特許第6705603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された構成において、第二の部分組成物は、第一の部分組成物に挟み込まれているため、多色油性固型化粧料のどの方向から皮膚上に塗布したとしても、少なくとも最後に第一の部分組成物が塗布される。しかしながら、特許文献1に記載の多色油性固型化粧料においては、第一の部分組成物と第二の部分組成物とが混合された状態で塗布することについて、検討はなされていない。
【0007】
また、特許文献2に記載されている製造方法では、流動化された組成物をオリフィスから射出させるために、支持体上に堆積する液滴のかたまりは、液滴のサイズが大きくなるほど変形しやすく、固化した大きい形状のかたまりを所望の形状とするのは難しい。また、液滴のサイズを小さくすると、かたまりを形成するためには多数の液滴を集める必要があり、当該かたまりを所望の形状の大きさとするのはやはり難しい。
【0008】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、複数の異なる組成物が混合された状態で塗布することができる固形化粧料であって、少なくとも一つの組成物は原料ペレットの外形形状が実質的に維持されている固形化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る固形化粧料は、第1組成を有する粒状の第1組成物と、前記第1組成物とは異なる、第2組成を有する第2組成物とを含み、前記粒状の第1組成物は、原料ペレットの外形形状が実質的に維持されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、複数の異なる組成物が混合された状態で塗布することができる固形化粧料であって、少なくとも一つの組成物は原料ペレットの外形形状が実質的に維持されている固形化粧料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態による固形化粧料を用いた容器付口紅を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態による固形化粧料の部分拡大模式図である。
図3】本発明の一実施形態による固形化粧料の第一変形例を示す部分拡大模式図である。
図4】本発明の一実施形態による固形化粧料の第二変形例を示す部分拡大模式図である。
図5】本発明の一実施形態による固形化粧料の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の固形化粧料2をスティック状(棒状)の口紅に適用した例である。図1は、本発明の一実施形態による固形化粧料2を用いた容器付口紅1を示す斜視図である。
【0013】
本実施形態における「原料ペレット」とは、固形化粧料2を成形する容器(成形型4)の外で、あらかじめ所定の形状に成形された粒状物を意味する。成形用原料として市販されているペレットも含まれる。「原料ペレットの外形形状が実質的に維持されている」とは、原料ペレットの外形形状がそのまま(固体のまま)維持されている場合だけでなく、原料ペレットの外形の一部がわずかに変形している、あるいは、原料ペレットの形状を実質的に維持したまま、完全に溶融した後固化している場合を含む。視点を変えて言うと、成形後の平均的な形状から成形前の原料ペレットの形状が類推できる場合が含まれる。
【0014】
図1に示すように、固形化粧料2は、例えば、第1組成を有する粒状の第1組成物21と、第1組成とは異なる組成を有する第2組成物22とで構成され、モザイク柄(ドット柄)を有している。固形化粧料2は、筒状の繰り出し容器3に収容されており、固形化粧料2と繰り出し容器3とで容器付口紅1が構成されている。図1では、第1組成物21と第2組成物22は、原料ペレットは共に球状の場合であって、第1組成物は、球状の原料ペレットの外形形状が実質的に維持され、第2組成物22は、球状の原料ペレットの外形形状が実質的に維持されていない固形化粧料2を例示するものである。このように、複数の組成物のうちの少なくとも1種の組成物が原料ペレットの外形形状を維持した粒状であればよく、第2組成物22が、後述する連続相であってもよい。また、本実施形態では、2種の組成物を使用した例を示しているが、組成物の数は3種以上であってもよい。
【0015】
第1組成物21と第2組成物22とは、組成が異なっており、含有される成分の少なくとも一つが異なる。例えば、第1組成物21と第2組成物22とで色が異なる場合、固形化粧料2の表面から内部に亘って全体に異なる色が分散されているので、固形化粧料2のどの方向から皮膚上に塗布したとしても、異なる色が混合された状態で塗布することができる。また、固形化粧料2の外観に審美性を与えることができる。なお、各組成物の色は、白色や無色透明の場合も含まれる。
【0016】
第1組成物21及び第2組成物22は、例えば、ワックス、その他の油分、酸化防止剤、色材を含有する。以下に説明する実施形態の組成物に限らず、種々の組成物を使用することができる。本発明の効果を損なわない範囲で、各種成分、例えば、油分、粉体、界面活性剤、紫外線吸収剤、皮膜形成剤、褪色防止剤、酸化防止剤、消泡剤、美容成分、防腐剤、香料などを各種の効果を付与するために適宜配合することができる。
【0017】
油分としては、植物油、合成油等の起源、及び、固形油、液体油の性状を問わず、炭化水素類、油脂類、ロウ類、硬化油類、エステル油類、脂肪酸類、高級アルコ-ル類、シリコ-ン油類、フッ素系油類、油性ゲル化剤類等が挙げられる。
【0018】
具体的には、ワックスとして、ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス、ミツロウ、パラフィン、キャンデリラロウ、カルナバロウ、コメヌカロウ、トリ酢酸テトラステアリン酸スクロース等が挙げられる。ワックスの含有量は、各組成物の全量に対して5~25質量%であることが好ましい。これにより、固形化粧料2としての使用性を確保しながら、後述する製造時の原料ペレットの成形性を良好にすることができる。
【0019】
ワックス以外には、水添ポリデセン、水添ポリイソブテン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、流動パラフィン、スクワラン、水添ポリデセン、ワセリン等の炭化水素油、リンゴ酸ジイソステアリル、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル(商品名:コスモール168M)、(イソステアリン酸ポリグリセリル-2/ダイマージリノール酸)コポリマー(商品名:ハイルーセントISDA)、又は、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル(商品名:LUSPLAN DD-DA7)、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)等のダイマージリノール酸エステル、又は、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)、(ビス(ラウロイルグルタミン酸/ラウロイルサルコシン)ダイマージリノレイル)等のラウロイルグルタミン酸エステル等のエステル油、シメチコン、ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、ジフェニルジメチコン、ジメチコン、フッ素変性アルキルシリコーン等のシリコーン油等が挙げられる。
【0020】
色材としては、例えば、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化コバルト、群青、紺青、酸化チタン、酸化亜鉛、雲母チタン、酸化鉄処理雲母チタン、ガラスフレーク、魚燐箔、オキシ塩化ビスマス、赤色228号、赤色226号、青色404号、黄色5号、赤色505号、赤色230号、赤色223号、橙色201号、赤色213号、黄色204号、黄色203号、青色1号、緑色201号、紫色201号、赤色202号、赤色204号等が挙げられる。色材は、1種または2種以上を任意に選択して配合することができる。なお、色材は疎水化等の処理をした処理物として配合することも可能である。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態による固形化粧料2の部分拡大模式図で、第1組成物211と第2組成物221が共に原料ペレットの外形形状を、実質的に維持している例である。
【0022】
固形化粧料2は、図2に示すように、粒状の第1組成物211と粒状の第2組成物221とが溶着して全体に分散し、モザイク柄(ドット柄)を有している。この形態の場合、第1組成物211に含有されるワックスの融解温度と、第2組成物221に含有されるワックスの融解温度の差が、0~10℃であると好ましい。融解温度は、ワックスが完全に液体になった時の温度を意味する。これにより、第1組成物211と第2組成物221を溶着させることができ、両組成物の接着性を良好にすることができる。なお、図2の模式図は、第1組成物211と第2組成物221との原料ペレットの球形の外形形状が維持されている状態が示されているが、加熱する温度により、例えば、両組成物共に、溶融によってわずかに変形(移動)した原料ペレットの表面が、組成物間の空隙を埋め、実質的に空隙をなくすことができる。
【0023】
図3は、本発明の一実施形態による固形化粧料2の第一変形例を示す部分拡大模式図であり、図4は、本発明の一実施形態による固形化粧料2の第二変形例を示す部分拡大模式図である。
【0024】
図3及び図4に示す形態では、第1組成物212、213は粒状であり、第2組成物222、223は連続相である。連続相とは、粒状の境界線がなくなった状態、もしくは単一の相状態を示す。本形態の固形化粧料2は、第2組成物222、223の連続相全体に、粒状の第1組成物212、213が分散し、ドット柄を有している。よって、本形態においても、複数の異なる組成物が混合された状態で塗布することができる。本形態では、第1組成物212、213が粒状である例を示しているが、第1組成物212、213の形状は任意の形状とすることができる。これにより、固形化粧料2の外観の柄をドット柄以外の柄とすることができる。
【0025】
図3に示す形態では、第2組成物222に含有されるワックスの融解温度が、第1組成物212に含有されるワックスの融解温度よりも低い場合である。この形態の場合、第1組成物212と第2組成物222に含有されるワックスの融解温度の差は特に制限はないが、好ましくは、5~25℃である。
【0026】
一方、図4に示す形態では、第2組成物223に含有されるワックスの融解温度が、第1組成物213に含有されるワックスの融解温度よりも高い場合である。この形態の場合、第1組成物213に含有されるワックスの融解温度と、第2組成物223に含有されるワックスの融解温度の差が、10℃以内であると好ましい。第1組成物213は、溶融によって粒状の形状の一部は変形するが、原料ペレットの外形形状は実質的に維持されているので、第1組成物213と第2組成物223とが混合された状態で塗布することができる。なお、ワックスの融解温度の差が10℃を超すと、第1組成物213は原料ペレットの外形形状を維持することは困難となる。
【0027】
次に、固形化粧料2の製造方法を説明する。
【0028】
図5は、本発明の一実施形態による固形化粧料2の製造方法を説明する図である。
【0029】
まず、第1組成を有する第1組成物21の原料ペレットと、第1組成とは異なる第2組成を有する第2組成物22の原料ペレットとを準備する。第1組成物21の原料ペレットと第2組成物22の原料ペレットとは、含有される成分の少なくとも一つが異なる。例えば、第1組成物21の原料ペレットと第2組成物22の原料ペレットとで色が異なる場合、表面から内部に亘って全体に異なる色が分散された固形化粧料2を製造することができるので、固形化粧料2のどの方向から皮膚上に塗布したとしても、異なる色が混合された状態で塗布することができる。また、固形化粧料2の外観に審美性を与えることができる。なお、各組成物の色は、白色や無色透明の場合も含まれる。第1組成物21の原料ペレットと第2組成物22の原料ペレットとで成分が異なる場合、複数種の組成物のペットを準備しておき、所望の効果に合わせて原料ペレットを適宜選択し、複数の効果を有する固形化粧料2を製造することができる。
【0030】
原料ペレットは、例えば、球状とすることができる。この場合、原料ペレットの粒径は、1mmより大きいことが好ましい。原料ペレットの粒径の上限は、固形化粧料2のサイズによって任意の大きさとすることができるが、固形化粧料2が円柱のスティック状である場合、中心線に直交する断面の円の半径以下であることが好ましい。前記断面が楕円である場合は、原料ペレットの粒径の上限は、長半径以下であることが好ましい。具体的には、原料ペレットの粒径の上限は、特に限定はなく、固形化粧料2のサイズによって任意の大きさとすることができるが、10mmより小さいことが好ましく、6mmより小さいことがより好ましい。原料ペレットの形状は、球状だけでなく、円柱状、星形状、立方体等とすることができる。さらに、溶融状態の組成物をシリンジから滴下させ、滴下中に雨垂れ状のまま固化させた形状とすることができる。原料ペレットはまた、ある組成物を球状に成形後、当該球状組成物の表面を異なる組成の組成物を覆うことで、半径方向で組成(例えば色相)が異なる原料ペレットとすることができる。また、外層と内層とで異なる組成(色相)の円柱状の原料ペレットとすることができる。
【0031】
このように原料ペレットを成形する段階で、原料ペレットの外形を所望の形状とする、あるいは、原料ペレットを所望の異なる組成で成形することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態では、第1組成物21、第2組成物22どちらも原料ペレットを準備しているが、第2組成物22は、例えば、粉状、液体等、ペレット以外の状態で用いてもよい。
【0033】
図5(a)に示すように、第1組成物21の原料ペレット及び第2組成物22の原料ペレットを混合して成形型4に充填する。
【0034】
次に、図5(b)に示すように、第1組成物21の原料ペレット及び第2組成物22の原料ペレットが充填された成形型4を加熱冷却装置5にて所定の温度で加熱し、第1組成物21の原料ペレット及び第2組成物22の原料ペレットを加熱融解(熱融解)させる。ここで、第1組成物21及び第2組成物22は、それぞれワックスを含有することが好ましい。第1組成物21に含有されるワックスの融解温度と、第2組成物22に含有されるワックスの融解温度の差は、任意の大きさとすることができる。
【0035】
この場合、加熱温度は、第1組成物21に含有されるワックスの融解温度及び第2組成物22に含有されるワックスの融解温度のうち、低い方の融解温度以上であることが好ましい。加熱温度は、第1組成物21に含有されるワックスの融解温度及び第2組成物22に含有されるワックスの融解温度のうち、高い方の融解温度以上であることがより好ましい。これにより、第1組成物21の原料ペレットと第2組成物22の原料ペレットとを溶着させることができ、両組成物の接着性を良好にすることができる。
【0036】
なお、第2組成物22に含有されるワックスの融解温度が、第1組成物21に含有されるワックスの融解温度よりも高い場合は、第1組成物21に含有されるワックスの融解温度と、第2組成物22に含有されるワックスの融解温度の差は、10℃以内であることが好ましい。この場合も、加熱温度は、第1組成物21に含有されるワックスの融解温度及び第2組成物22に含有されるワックスの融解温度のうち、低い方の融解温度以上であることが好ましい。これにより、第1組成物21の原料ペレットと第2組成物22の原料ペレットとを溶着させることができ、両組成物の接着性を良好にすることができる。
【0037】
第1組成物21に含有されるワックスの融解温度と、第2組成物22に含有されるワックスの融解温度が同一である場合、加熱温度は、ワックスの融解温度~前記ワックスの融解温度+10℃の範囲であることが好ましく、ワックスの融解温度~前記ワックスの融解温度+5℃であることがより好ましい。
【0038】
最後に、図5(c)に示すように、熱融解した第1組成物21の及び第2組成物22を冷却固化させてスティック状の固形化粧料2を得る。加熱冷却装置5として、例えば、ペルチェ素子を搭載した装置を用いることができる。これにより、成形型4に各組成物を充填した後に、加熱及び冷却を連続して行うことができる。なお、図5(b)で示す加熱H1~4のうち上方からの加熱H4、図5(c)で示す冷却C1~4のうち上方からの冷却C4は省略してもよい。
【実施例
【0039】
次に、固形化粧料2の実験例及び実施例について、表1~7を参照しながら説明するが、本発明の固形化粧料2及び固形化粧料2の製造方法を限定するものではない。
【0040】
(実験例1:原料ペレットの粒径)
表1に示す組成の第1組成物21及び第2組成物22について、表2の実施例1~4及び比較例1に示す粒径を有する粒状の原料ペレットをそれぞれ作製し、原料ペレットを加熱融解した後冷却固化して成形し、直径12.5mmの円筒形の固形化粧料2を得た。表1中の色材1と色材2は、色が異なる色材である。また、表1中の各成分(含有量合計100質量%)の数値は、全量に対する質量%を示す。なお、原料ペレットの粒径は、形状が球以外の場合は、例えば径の最大値と最小値の平均値とすることができる。次いで、実施例1~4及び比較例1で得られた固形化粧料2について、固形化粧料2の成形性及び外観の評価を行った。固形化粧料2の成形性とは、成形した固形粧料2の空隙の有無を意味する。外観とは、固形化粧料2の外観における、原料ペレットの外形形状の維持状態を意味する。
【0041】
成形性の評価は、成形した固形化粧料の表面の空隙の有無を目視で確認した。その結果を「空隙なし:良好」、「空隙あり:不良」として表2に示す。外観の評価は、成形した固形化粧料2の外観を目視で確認して行った。その結果を「粒状の外観が残っていた(原料ペレットの外形形状が実質的に維持された):良好」、「溶けて粒状の外観が損なわれていた(原料ペレットの外形形状が実質的に維持されなかった):不良」として表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示すように、実施例1~3の固形化粧料2は、成形性、外観ともに良好であった。実施例4の固形化粧料2は、空隙ができたが、粒状の外観は残っていた。比較例1の固形化粧料2は、成形性は良好であったが、粒が溶けて粒状の外観が損なわれていた。以上の結果から、実験例1において、成形性、外観ともに良好な固形化粧料2を得るためには、原料ペレットの粒径が、1mmより大きいことが好ましい場合があることを確認した。
【0045】
(実験例2:ワックスの含有量)
表3は、原料ペレットの組成物におけるワックスの含有量が、原料ペレットの成形性と固形化粧料2の使用性に及ぼす影響を調べたものである。表3中の各成分(含有量合計100質量%)の数値は、全量に対する質量%を示す。第1組成物21又は第2組成物22として、実験A~Eの原料ペレットを作製し、原料ペレットの成形性を評価した。原料ペレットの成形性とは、各成分を溶かしたものをシリンジから吐出した後の形状の維持具合を意味する。原料ペレットの更に、作製したそれぞれの原料ペレットを加熱融解した後冷却固化し、第1組成物21又は第2組成物22単一の円筒形の固形化粧料2を得た。そして、得られた固形化粧料2の使用性を評価した。固形化粧料2の使用性とは、固形化粧料2を塗布した時のなめらかさを意味する。
【0046】
原料ペレットの成形性は、各成分を溶かしたものをシリンジから吐出した後の形状の維持具合を目視で確認して評価した。シリンジから吐出した後の原料ペレットの形状が、扁平にならずに立体形状を維持するほど良好であるとし、その結果を「非常に良好(吐出したままの形状):A」、「良好(少し広がった形状):B」、「やや不良(広がった形状):C」として表3に示す。固形化粧料2の使用性は、皮膚に塗布したときのなめらかさを専門パネルの官能評価により評価した。その結果を「非常に良好:A」、「良好:B」、「やや不良:C」、「不良:D」として表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3に示すように、実験A~Dの原料ペレットの成形性は、いずれも問題なく成形できる範囲であり、実験Aの原料ペレットも不良ではなく、問題なく成形できる範囲であった。実験A~Dの固形化粧料2の使用性は、いずれも問題なく使用できる範囲であり、実験Dの固形化粧料2も不良ではなく、問題なく使用できる範囲であった。実験Eは、原料ペレットの成形性は良好であるものの、硬くなりすぎて使用性は不良であった。以上の結果から、固形化粧料2としての使用性は問題なく、原料ペレットの成形性を良好にするためには、ワックスの含有量は、組成物の全量に対して5~25質量%であることが好ましく、10~23質量%であることがより好ましいことを確認した。
【0049】
(実験例3:ワックスの融解温度)
表4に示す融解温度の異なる3種のワックスa、b、cを用いて、表5に示す組成の組成物A1、A2、B1、B2、C1、C2の原料ペレットを作製した。表4中の「融解温度」は、完全に液体になった時の温度を意味する。また、表5中の色材1と色材2は、色が異なる色材である。そして、表6の実施例5~10及び比較例2~4に示すように2種の原料ペレットを混合し、それぞれ表6に示す異なる加熱温度で加熱融解した後冷却固化して成形し、固形化粧料2を得た。
【0050】
実施例5~10及び比較例2~4において、得られた固形化粧料2の成形性及び外観を評価し、それらを総合して総合評価を行った。固形化粧料2の成形性の評価方法及び判定方法は、前述の実験例1と同様に行った。その結果を表6に示す。
【0051】
外観の評価方法については、前述の実験例1と同様に行い、その結果を「粒状の外観が残っていた(外形形状が実質的に維持された):良好」、「粒状の外観が一部損なわれていた(外形形状が実質的に維持されていたが、外形の一部がわずかに変形していた):やや良好」、「溶けて粒状の外観が損なわれていた(外形形状が実質的に維持されなかった):不良」として表6に示す。総合評価は、固形化粧料2の成形性及び外観の評価結果に「不良」がない場合「良好」、「不良」がある場合「不良」として表6に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
表6に示すように、融解温度85℃のワックスaを用いた固形化粧料2は、加熱温度が85℃(実施例5)、又は95℃(実施例6)のとき、融解温度78℃のワックスbを用いた固形化粧料2は、加熱温度が80℃(実施例7)、又は90℃(実施例8)のとき、融解温度94℃のワックスcを用いた固形化粧料2は、加熱温度が95℃(実施例9)、又は100℃(実施例10)のときに、総合評価が良好であった。比較例2~4に示すように、各ワックスの融解温度に対して、加熱温度が高すぎると外観が損なわれた。固形化粧料2の成形性及び外観は、加熱温度をワックスの融解温度~ワックスの融解温度+10℃の範囲にすると好ましい結果が得られた。
【0056】
(実験例4:ワックスの組合せ)
実験例3で作成した原料ペレットを、表7に示す組合せで混合したものをそれぞれ、表7に示す加熱温度で加熱融解した後冷却固化して成形し、固形化粧料2を得た。表7中の「ワックスの融解温度の差」は、第1組成物、第2組成物それぞれに含有するワックスの融解温度の差を意味する。実施例11、実施例12、及び比較例5の固形化粧料2について、固形化粧料の成形性及び外観を評価し、それらを総合して総合評価を行った。固形化粧料の成形性及び外観、総合評価の評価方法と判定方法は、上述の実験例3と同様である。
【0057】
【表7】
【0058】
表7に示すように、実施例11及び12の固形化粧料2では、固形化粧料の成形性、外観ともに良好であった。比較例5の固形化粧料では、組成物C1に含有されるワックスと組成物B1に含有されるワックスの融解温度の差が、実施例11及び12と比較して大きく、成形性は良好であるものの、粒状の外観が損なわれていた。
【0059】
以上の結果から、固形化粧料の成形性及び外観の良好な固形化粧料2を得るためには、異なる組成物それぞれに含有されるワックスの融解温度の差が、0~10℃であることが好ましいといえる。
【0060】
本実施形態では、口紅に適用した場合の固形化粧料2を示しているが、口紅に限らず、リップクリーム、バーム、ファンデーション、コンシーラー、アイシャドー、チーク、美容液、練香水等が挙げられる。また、本実施形態では、スティック状(棒状)の固形化粧料2を示しているが、スティック状に限らず、ブラッシャー、アイシャドー、ファンデーションなどの皿状など任意の形状とすることができる。
【0061】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 容器付口紅
2 固形化粧料
21、211、212、213 第1組成物
22、221、222、223 第2組成物
3 繰り出し容器
4 成形型
5 加熱冷却装置
図1
図2
図3
図4
図5