(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F01M 13/00 20060101AFI20250902BHJP
F02B 37/00 20060101ALI20250902BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20250902BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20250902BHJP
B60W 10/11 20120101ALI20250902BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20250902BHJP
【FI】
F01M13/00 K
F02B37/00 302F
F02D29/00 C
B60W10/00 106
B60W10/06
B60W10/11
(21)【出願番号】P 2022135319
(22)【出願日】2022-08-26
【審査請求日】2024-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有馬 輝芳
(72)【発明者】
【氏名】里見 知彦
(72)【発明者】
【氏名】井戸側 正直
(72)【発明者】
【氏名】金子 達也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴裕
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-102021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
F02B 37/00
F02D 29/00
B60W 10/04
B60W 10/06
B60W 10/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機関本体、前記機関本体に接続された吸気通路上に配置されたコンプレッサを含む過給機、前記機関本体で発生したブローバイガスを前記コンプレッサの下流側の前記吸気通路に導くブローバイガス還流通路、及び前記コンプレッサよりも上流側の前記吸気通路から前記機関本体に新気を導く新気導入通路、を有した内燃機関と、
前記内燃機関の動力が伝達される自動変速機と、を備えた車両の制御装置において、
前記内燃機関の要求動作点が過給領域に属する場合において、前記機関本体から前記新気導入通路を介して前記吸気通路に流れるブローバイガス中の水分が凍結したことにより生成される氷塊の生成度合を算出する算出部と、
前記生成度合が前記内燃機関の運転状態に影響を及ぼすおそれのある第1判定値以上の場合に、前記自動変速機のシフトアップを制限する制限部と、を備え
、
前記制限部は、前記生成度合が前記第1判定値よりも大きい値である第2判定値以上の場合には、前記要求動作点が自然吸気に属するように前記自動変速機を強制的にシフトダウンし、
前記制限部は、前記制限部による前記自動変速機のシフトダウンの実行前と実行後とで前記内燃機関が等出力を維持するように前記内燃機関の回転数及びトルクを制限し、
前記制限部は、前記自動変速機のシフトアップを制限した後に前記生成度合が前記第1判定値よりも小さい第3判定値未満となった場合には、前記自動変速機のシフトアップの制限を解除し、前記自動変速機を強制的にシフトダウンした後に前記生成度合が前記第2判定値よりも小さく前記第1判定値よりも大きい第4判定値未満となった場合には、前記自動変速機の強制的なシフトダウンを解除し、
前記算出部は、外気温が所定温度以下であって前記要求動作点が過給領域に属している経過時間が長いほど、前記生成度合を大きな値として算出し、前記要求動作点が自然吸気領域に属している経過時間が長いほど、前記生成度合を小さな値として算出する、車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
過給機付きの内燃機関を備えた車両が知られている。このような内燃機関には、機関本体で発生したブローバイガスを過給機のコンプレッサの下流側の吸気通路に導くブローバイガス還流通路と、コンプレッサよりも上流側の吸気通路から機関本体に新気を導く新気導入通路とを備えたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば内燃機関の動作点が過給領域にある場合には、コンプレッサよりも下流側の吸気通路内が正圧となって、ブローバイガスが機関本体から新気導入通路を介して吸気通路に逆流するおそれがある。この場合に外気温が低いと、逆流したブローバイガス中の水分が凍結して氷塊が生成されるおそれがある。このような氷塊が新気導入通路の内側面に付着したり、過給機のコンプレッサに衝突したりし、内燃機関の運転状態に影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、逆流したブローバイガス中の水分の凍結により氷塊が生成されて内燃機関の運転状態に影響を及ぼすことを抑制する車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、機関本体、前記機関本体に接続された吸気通路上に配置されたコンプレッサを含む過給機、前記機関本体で発生したブローバイガスを前記コンプレッサの下流側の前記吸気通路に導くブローバイガス還流通路、及び前記コンプレッサよりも上流側の前記吸気通路から前記機関本体に新気を導く新気導入通路、を有した内燃機関と、前記内燃機関の動力が伝達される自動変速機と、を備えた車両の制御装置において、前記内燃機関の要求動作点が過給領域に属する場合において、前記機関本体から前記新気導入通路を介して前記吸気通路に流れるブローバイガス中の水分が凍結したことにより生成される氷塊の生成度合を算出する算出部と、前記生成度合が前記内燃機関の運転状態に影響を及ぼすおそれのある第1判定値以上の場合には、前記自動変速機のシフトアップを制限する制限部と、を備えた車両の制御装置によって達成できる。
【0007】
前記制限部は、前記生成度合が前記第1判定値よりも大きい値である第2判定値以上の場合には、前記要求動作点が自然吸気に属するように前記自動変速機を強制的にシフトダウンしてもよい。
【0008】
前記制限部は、前記自動変速機のシフトアップを制限した後に前記生成度合が前記第1判定値よりも小さい第3判定値未満となった場合には、前記自動変速機のシフトアップの制限を解除し、前記自動変速機を強制的にシフトダウンした後に前記生成度合が前記第2判定値よりも小さく前記第1判定値よりも大きい第4判定値未満となった場合には、前記自動変速機の強制的なシフトダウンを解除してもよい。
【0009】
前記算出部は、外気温が所定温度以下であって前記要求動作点が過給領域に属している経過時間が長いほど、前記生成度合を大きな値として算出し、前記要求動作点が自然吸気領域に属している経過時間が長いほど、前記生成度合を小さな値として算出してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、逆流したブローバイガス中の水分の凍結により氷塊が生成されて内燃機関の運転状態に影響を及ぼすことを抑制する車両の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施例の車両の概略構成図である。
【
図3】
図3は、エンジンの動作点が過給領域にある場合の説明図である。
【
図4】
図4は、ECUが実行する氷塊生成度合算出制御の一例を示したフローチャートである。
【
図6】
図6は、ECUが実行する氷塊生成抑制制御の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[車両の概略構成]
図1は、本実施例の車両1の概略構成図である。
図1において、車両1は、エンジン10、トルクコンバータ50、自動変速機52、プロペラシャフト56、車軸60、駆動輪62、油圧制御回路70、オイルポンプ72、及びECU(Electronic Control Unit)100を備えている。エンジン10は、走行用の駆動力源として機能するガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、内燃機関の一例である。トルクコンバータ50は、エンジン10に連結された流体式伝動装置である。自動変速機52は、トルクコンバータ50に連結されており、トルクコンバータ50を介してエンジン10からの動力が伝達される。プロペラシャフト56は、自動変速機52の出力軸54に連結されている。差動歯車装置58は、プロペラシャフト56に連結されている。駆動輪62は、車軸60を介して差動歯車装置58に連結されている。
【0013】
自動変速機52には油圧制御回路70が設けられている。油圧制御回路70は複数のバルブを備え、バルブが制御されることにより自動変速機52のクラッチやブレーキの係合と解放とを油圧制御する。これにより、自動変速機52では所望のギヤ段を成立させることができる。トルクコンバータ50には、機械式のオイルポンプ72が連結されている。オイルポンプ72はエンジン10により回転駆動されることにより自動変速機52を油圧制御するための作動油圧や、エンジン10から駆動輪62までの間の動力伝達経路の各部を潤滑するための作動油圧を発生させる。
【0014】
ECU100は、車両1の走行制御に係る各種演算処理を行う演算処理回路と、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリと、を備える電子制御ユニットである。ECU100は、車両の制御装置の一例であり、詳しくは後述する算出部及び制限部を機能的に実現する。ECU100は、エンジン10の駆動を制御する。具体的にはECU100は、エンジン10のスロットル開度、点火時期、燃料噴射量を制御することにより、エンジン10のトルクや回転数を制御する。また、ECU100は、油圧制御回路70の制御を通じて、自動変速機52を制御する。
【0015】
ECU100には、イグニッションスイッチ80、クランク角センサ81、エアフローメータ82、及び外気温センサ83からの信号が入力される。イグニッションスイッチ80は、イグニッションのオンオフ状態を検出する。クランク角センサ81は、エンジン10のクランクシャフトの回転数、即ちエンジン回転数を検出する。エアフローメータ82は、エンジン10の吸入空気量を検出する。外気温センサ83は、外気の温度を検出する。
【0016】
[エンジンの概略構成]
図2は、エンジン10の概略構成図である。エンジン10は、火花点火式の4気筒ガソリンエンジンであり、内燃機関の一例であるが、これに限定されず、4気筒以外であってもよく、例えば圧縮着火式のディーゼルエンジンなど他の方式のエンジンであってもよい。
【0017】
エンジン10は、機関本体11、ヘッドカバー12、クランクケース13、ピストン14、燃焼室15、吸気通路16、過給機20、インタークーラ22、及びスロットルバルブ24を備えている。機関本体11は、シリンダ11a、シリンダ11aの上方に設けられたヘッドカバー12、及びシリンダ11aの下方に設けられたクランクケース13を有している。ピストン14は、シリンダ11aの燃焼室15内を往復動する。機関本体11の各気筒には、吸気通路16が吸気マニホールド16aを介して接続されている。
【0018】
エアクリーナ17は、吸気通路16の入口部分の近傍に取り付けられている。過給機20のコンプレッサ20aは、吸気通路16におけるエアクリーナ17の下流に設置され、吸入空気を圧縮する。コンプレッサ20aは、排気通路(不図示)に配置されたタービン20bと連結軸を介して一体的に連結されている。エアクリーナ17とコンプレッサ20aとの間の吸気通路16には、上述したエアフローメータ82が設けられている。
【0019】
インタークーラ22は、吸気通路16におけるコンプレッサ20aの下流に設置され、過給された空気を冷却する。電子制御式のスロットルバルブ24は、インタークーラ22の下流に設けられており、ECU100により制御される。スロットルバルブ24の下流には、上述の吸気マニホールド16aが配置されている。
【0020】
シリンダ11aとヘッドカバー12内に、ブローバイガス案内通路31a及び31bが設けられている。このブローバイガス案内通路31aは、シリンダ11a及びヘッドカバー12内を貫通して形成され、クランクケース13内とオイルセパレータ43とを連通しており、クランクケース13内に存在するブローバイガスがオイルセパレータ43に導く。ブローバイガス案内通路31bは、ヘッドカバー12とオイルセパレータ43とを連通しており、ヘッドカバー12の内部空間に存在するブローバイガスがオイルセパレータ43に導く。
【0021】
ブローバイガスは、ブローバイガス案内通路31a及び31bを介してオイルセパレータ43に導かれ、オイルセパレータ43でオイルミストが分離されたブローバイガスは、オイルセパレータ43と吸気マニホールド16aとを連通するブローバイガス還流通路36によって、吸気マニホールド16aに還流される。
【0022】
ブローバイガス還流通路36のオイルセパレータ43側の端部には、PCV(Positive Crankcase Ventilation)バルブ38が設置されている。PCVバルブ38は、その上流側であるヘッドカバー12の内部空間とその下流側である吸気マニホールド16aとの差圧に応じて作動する差圧作動弁として構成されている。このようなPCVバルブ38によって、吸気マニホールド16aに還流するブローバイガスの流量が調整されるとともに、ヘッドカバー12の内部空間へのブローバイガスの逆流が防止される。
【0023】
また、ヘッドカバー12の内部空間とコンプレッサ20aの上流側であってエアクリーナ17の下流側の吸気通路16とを連通する新気導入通路34が設けられている。より具体的には、新気導入通路34は、吸気通路16と新気側セパレータ44とを連通している。新気側セパレータ44には新気案内通路33aが設けられており、新気側セパレータ44とヘッドカバー12の内部空間を連通している。更に、新気案内通路33bが、ヘッドカバー12内とクランクケース13内とを連通している。よって、新気導入通路34、新気側セパレータ44、新気案内通路33a及び33bによって、吸気通路16を通過する新気を、ヘッドカバー12の内部空間とクランクケース13に導入する。
【0024】
[ブローバイガスの逆流]
図2に示すように、エンジン10の動作点が自然吸気(NA:Natural Aspiration)領域にある場合、スロットルバルブ24よりも下流側である燃焼室15や吸気マニホールド16a内は負圧となり、コンプレッサ20aよりも上流側の吸気通路16は大気圧となる。このため、NA領域では、新気が新気導入通路34、新気側セパレータ44、新気案内通路33a、ヘッドカバー12、新気案内通路33b、及びクランクケース13に流れる。また、ブローバイガスは、クランクケース13やヘッドカバー12からオイルセパレータ43、及びブローバイガス還流通路36を介して吸気マニホールド16aに戻される。このようにしてブローバイガスが吸気マニホールド16aから燃焼室15内に供給され、ブローバイガスを燃焼させることができる。
【0025】
これに対して、エンジン10の動作点が過給領域にある場合には、以下のような問題が生じるおそれがある。
図3は、エンジン10の動作点が過給領域にある場合の説明図である。エンジン10の動作点が過給領域にある場合には、コンプレッサ20aの下流側である燃焼室15や吸気マニホールド16a内は正圧となり、コンプレッサ20aよりも上流側の吸気通路16は負圧となる。このため、ブローバイガスは、クランクケース13から、ブローバイガス案内通路31a、オイルセパレータ43、ブローバイガス案内通路31b、ヘッドカバー12、新気案内通路33a、新気側セパレータ44、新気導入通路34を順に流れてコンプレッサ20aよりも上流側の吸気通路16に逆流する。ここで外気温が低い場合、ブローバイガスが新気導入通路34を介して吸気通路16に流れる間に、ブローバイガス中の水分が凍結して氷塊が生成される可能性がある。このような氷塊が新気導入通路34内の内壁に付着して閉塞したり、コンプレッサ20aに衝突したり、PCVバルブ38を凍結させたりして、エンジン10の運転状態に影響を及ぼすおそれがある。そのため、本実施例では、ECU100は以下の制御を実行する。
【0026】
[氷塊生成度合算出制御]
図4は、ECU100が実行する氷塊生成度合算出制御の一例を示したフローチャートである。本制御は、イグニッションがオンの間は繰り返し実行される。ECU100は、氷塊の生成度合を示すカウンタを加算するための加算条件が成立したか否かを判定する(ステップS1)。
【0027】
カウンタを加算するための加算条件とは、例えば外気温が所定温度以下であって且つエンジン10の要求動作点が過給領域に属していることである。所定温度とは、
図3に示したようにブローバイガスが新気導入通路34を逆流した場合に、ブローバイガス中の水分が凍結する可能性がある温度である。所定温度は例えば0℃であるが、これに限定されず、0℃よりも所定のマージン分だけ高い温度であってもよい。要求動作点が過給領域にある場合とは、エンジン10の動作点が要求動作点に従って既に過給領域にある場合のみならず、エンジン10の動作点は未だNA領域にあるが運転者の操作指令に従って要求動作点が過給領域となった場合をも含む。
【0028】
また、エンジン10の要求動作点が過給領域に属しているか否かの判定は、エンジン回転数やエンジントルク、ギヤ段に基づいて決定してもよい。
図5は、エンジン10の動作点の説明図である。
図5のグラフでは横軸はエンジン回転数を示し、縦軸はエンジントルクを示す。
図5には、過給領域とNA領域との境界線が破線で図示されている。境界線よりも低トルク側がNA領域であり、境界線よりも高トルク側が過給領域である。
図5には、ギヤ段が1速から8速までのそれぞれの動作線が図示されている。これらの動作線は、エンジン回転数とエンジントルクとの関係を表す。ギヤ段が高くなるにつれて、エンジンの動作点はNA領域から過給領域に移行しやすくなる。このようなマップに基づいてエンジン10の要求動作点が過給領域に属しているか否かを判定してもよい。尚、詳しくは後述するが
図5にはエンジン10の等出力線を例示している。
【0029】
ステップS1でYesの場合、即ち外気温が所定温度以下であって、且つエンジン10の要求動作点が過給領域に属している場合には、ECU100はカウンタを加算する(ステップS2)。ステップS1でNoの場合、即ち外気温が所定温度以下であること及びエンジン10の要求動作点が過給領域に属していることの少なくとも一方を満たしていない場合には、ECU100はカウンタを減算する(ステップS3)。このような処理を繰り返すことにより、上記の加算条件を満たす継続時間が長いほどカウンタ値が増大して、氷塊の生成度合は大きいとみなすことができる。ステップS1~S3は、算出部が実行する処理の一例である。
【0030】
[氷塊生成抑制制御]
図6は、ECU100が実行する氷塊生成抑制制御の一例を示したフローチャートである。本制御は、イグニッションがオンの間は繰り返し実行される。ECU100はカウンタ値がシフトアップ制限解除判定値未満であるか否かを判定する(ステップS10)。ステップS10でYesの場合には、ECU100はシフトアップ制限を解除する(ステップS11)。ステップS10でNoの場合には、ECU100はカウンタ値がシフトアップ制限判定値以上であるか否かを判定する(ステップS12)。ステップS12でYesの場合には、ECU100はシフトアップを制限する(ステップS13)。シフトアップの制限は、具体的には本実施例では所定のギヤ段よりも高速段側への切り替えを制限することである。例えば、7速よりも高い8速への切り替えが制限される。但し、シフトアップの制限はこれに限定されず、例えばカウンタ値がシフトアップ制限判定値以上となった時点でのギヤ段よりも高速段側への切り替えを制限してもよい。
【0031】
シフトアップ制限解除判定値は、シフトアップ制限判定値よりも小さい値である。シフトアップ制限判定値は、上述したように氷塊の生成によりエンジン10の運転状態に影響を及ぼすおそれがあるカウンタ値に設定されている。シフトアップ制限解除判定値は、生成された氷塊が十分に融解したものとみなすことができるカウンタ値に設定されている。シフトアップ制限解除判定値とシフトアップ制限判定値とは、実験結果やシミュレーション結果等に基づいて設定されている。また、シフトアップ制限解除判定値とシフトアップ制限判定値との間に差があることにより、シフトアップの制限とその解除とが繰り返されるハンチングを抑制できる。シフトアップ制限判定値は第1判定値の一例である。シフトアップ制限解除判定値は第3判定値の一例である。ステップS13の処理は、制限部が実行する処理の一例である。
【0032】
以上の処理により、カウンタ値がシフトアップ制限判定値以上にまで増大するとシフトアップが制限され、それ以上の氷塊の生成が抑制される。これにより氷塊によるエンジン10の運転状態への影響を抑制できる。その後にカウンタ値が低下してシフトアップ制限解除判定値未満になると、氷塊が十分に融解したものとみなして、シフトアップの制限が解除され、ドライバビリティを確保することができる。
【0033】
次にECU100はカウンタ値がシフトダウン解除判定値未満であるか否かを判定する(ステップS20)。ステップS20でYesの場合には、ECU100は強制的なシフトダウンを解除する(ステップS21)。ステップS20でNoの場合には、ECU100はカウンタ値がシフトダウン判定値以上であるか否かを判定する(ステップS22)。ステップS22でYesの場合には、ECU100はエンジン10の等出力を維持しつつ、エンジン10の要求動作点が過給領域からNA領域に移行するように強制的にシフトダウンする(ステップS23)。具体的にはECU100は、等出力を維持できNA領域内での最も高速段側のギヤ段にシフトダウンする。
【0034】
シフトタウン解除判定値は、シフトダウン判定値よりも小さい値であって、シフトアップ制限値よりも大きい値である。また、シフトダウン判定値は、上述したシフトアップ制限判定値よりも大きい値である。シフトダウン判定値は、氷塊の生成によりエンジン10の運転状態に影響を及ぼすおそれが強く、氷塊の融解を促進した方が望ましいカウンタ値に設定されている。シフトダウン解除判定値は、強制的にシフトダウンを行ってまで氷塊の融解を促進する必要がないカウンタ値に設定されている。シフトダウン解除判定値とシフトダウン判定値とは、実験結果やシミュレーション結果等に基づいて設定されている。また、シフトダウン解除判定値とシフトダウン判定値との間に差があることにより、強制的なシフトダウンとその解除とが繰り返されるハンチングを抑制できる。シフトダウン判定値は第2判定値の一例である。シフトダウン解除判定値は第4判定値の一例である。ステップS23の処理は、制限部が実行する処理の一例である。
【0035】
以上の処理により、シフトアップが制限された状態でカウンタ値が更にシフトダウン判定値以上にまで増大すると、エンジン10の要求動作点が過給領域からNA領域に移行するように強制的にシフトダウンが行われる。これにより、氷塊の溶解を促進することができる。また強制的にシフトダウンを行う場合には、エンジン10が等出力を維持するように、エンジン回転数及びエンジントルクが制限される。例えば
図5に示した等出力線に沿ってエンジン回転数を上昇させエンジントルクを低下させて、動作点が過給領域からNA領域に移行するようにシフトダウンが行われる。これによりドライバビリティの低下を抑制できる。カウンタ値が低下してシフトダウンが解除されると、氷塊の溶解を促進する必要はないものとみなして、シフトダウンが解除され、ドライバビリティを確保することができる。
【0036】
上記実施例では、外気温が所定温度以下であること、及びエンジン10の要求動作点が過給領域に属していることの少なくとも一方を満たしていない場合には、カウンタは減算されるがこれに限定されない。例えば、外気温が所定温度以下であるがエンジン10の要求動作点がNA領域に属している場合には、カウンタが減算され、外気温度が所定温度よりも高いがエンジン10の要求動作点が過給領域に属している場合には、現在のカウンタの値を保持してもよい。
【0037】
上記実施例では車両1はエンジン10を搭載したエンジン車両であるが、これに限定されず、エンジン及びモータを搭載したハイブリッド車両に上記実施例の内容を適用してもよい。
【0038】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 車両
10 エンジン
11 機関本体
16 吸気通路
20 過給機
34 新気導入通路
36 ブローバイガス還流通路
52 自動変速機
100 ECU(車両の制御装置、算出部、制限部)