(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】駐車支援装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20250902BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20250902BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20250902BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2023051992
(22)【出願日】2023-03-28
【審査請求日】2024-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】持田 勤
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102019105476(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0039633(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0029020(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0260887(US,A1)
【文献】特開2001-026279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと操舵輪との間に設けられた操舵装置と、前記操舵装置を駆動することにより前記操舵輪を自動的に操舵する駆動装置と、前記駆動装置を制御する制御ユニット
であって、駐車支援の指令を受けると、車両が目標駐車位置へ移動するように前記駆動装置を制御するよう構成された
制御ユニットと、を備え、
前記制御ユニットは、操舵角の見込み戻り量を記憶する記憶装置を含み、駐車が完了すると、現在の操舵角の大きさと前記見込み戻り量との和を第1回目の目標操舵角修正量として、操舵角が目標操舵角に対し現在の操舵角とは反対側へ前記第1回目の目標操舵角修正量だけ変化するように前記駆動装置を制御する第1回目の操舵角修正制御を行うよう構成された、駐車支援装置
において、
前記制御ユニットは、nを正の整数として、第n-1回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角が予め設定された非制御範囲を超えるときには、第n-1回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角の戻り量の大きさ及び第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角の大きさに基づいて、前記第n回目の操舵角修正制御が完了した後の第n回目の操舵角の戻り量の大きさを演算し、前記第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角及び前記第n回目の操舵角の戻り量の大きさに基づいて、第n+1回目の目標操舵角修正量を演算し、操舵角が前記目標操舵角に対し前記第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角とは反対側へ前記第n+1回目の目標操舵角修正量だけ変化するように前記駆動装置を制御する第n+1回目の操舵角修正制御を行うよう構成された、駐車支援装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の駐車支援装置において、前記制御ユニットは、
第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角が前記非制御範囲内であるとき、又は
第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角が前記非制御範囲外であり且つnが基準値以上であるとき、
には、第n+1回目の操舵角修正制御を行わないよう構成された、駐車支援装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の駐車支援装置において、前記記憶装置は、不揮発性の読み書き可能な記憶装置であり、前記制御ユニットは、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角が前記非制御範囲内であるときには、前記第n回目の操舵角の戻り量の大きさにて前記見込み戻り量の初期値を更新するよう構成された、駐車支援装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の駐車支援装置において、前記記憶装置は、複数の外気温の区分について操舵角の戻り量の初期値を記憶しており、前記制御ユニットは、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角が前記非制御範囲内であるときには、外気温の情報を取得し、外気温が属する区分の操舵角の戻り量の初期値を、前記第n回目の操舵角の戻り量の大きさにて更新するよう構成された、駐車支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両のための駐車支援装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両のための駐車支援装置の一つとして、目標駐車位置及び現在地から目標駐車位置までの目標経路を設定し、操舵輪を自動的に操舵することにより、車両を目標駐車位置へ移動させて駐車するよう構成された駐車支援装置が知られている。
【0003】
駐車支援装置による駐車支援においては、車両が駐車位置から発進する際に、運転者が意図しない方向へ車両が移動しないよう、操舵角を0°又はその近傍に制御することにより、操舵輪が車両の直進位置又はその近傍に制御されることが好ましい。
【0004】
例えば、下記の特許文献1の段落[0083]には、円弧-クロソイド曲線-円弧-直線又は円弧-クロソイド曲線-直線からなる目標経路を設定することにより、駐車完了時の操舵角を0°にするよう構成された駐車支援装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
〔発明が解決しようとする課題〕
道路幅や目標駐車位置の周囲のスペースが限られている場合には、上記特許文献1に記載された駐車支援装置のように複雑な目標経路を設定することができない。これに対処すべく、駐車完了後に操舵輪を車両の直進位置又はその近傍へ自動的に操舵することにより、操舵角を0°又はその近傍に修正制御することが考えられる。
【0007】
しかし、駐車が完了した後に操舵輪を車両の直進位置又はその近傍へ自動操舵により駆動し、その操舵力を解除すると、操舵輪のタイヤ及び操舵部材の弾性変形が解放されることに起因して操舵輪の舵角が自動操舵の方向とは逆の方向へ戻るように変化する。よって、操舵角が自動操舵の方向とは逆の方向へ戻り変化するため、操舵角を0°又はその近傍に制御することができない。
【0008】
本発明は、操舵角の戻り変化を見込んで操舵輪を自動操舵によって駆動する操舵角の修正制御を行うことにより、操舵角を0°又はその近傍の目標操舵角に近づける可能性を高くすることができるよう改良された操舵支援装置を提供する。
【0009】
〔課題を解決するための手段及び発明の効果〕
本発明によれば、ステアリングホイール(14)と操舵輪(前輪16FL、16FR)との間に設けられた操舵装置(10)と、操舵装置を駆動することにより操舵輪を自動的に操舵する駆動装置(EPS装置12)と、駆動装置を制御する制御ユニット(運転支援ECU50)であって、駐車支援の指令を受けると、車両(102)が目標駐車位置へ移動するように駆動装置を制御するよう構成された制御ユニットと、を備え、制御ユニット(運転支援ECU50)は、操舵角の見込み戻り量の初期値(θrp)を記憶する記憶装置(50A)を含み、駐車が完了すると、現在の操舵角(θs0)の大きさと見込み戻り量の初期値(θrp)との和を第1回目の目標操舵角修正量(θc1)として、操舵角が目標操舵角(0°)に対し現在の操舵角とは反対側へ第1回目の目標操舵角修正量だけ変化するように駆動装置(EPS装置12)を制御する第1回目の操舵角修正制御(S50)を行うよう構成された、駐車支援装置(100)が提供される。
【0011】
上記の構成によれば、駐車が完了すると、操舵角が目標操舵角に対し現在の操舵角とは反対側へ、現在の操舵角の大きさと見込み戻り量の初期値との和である第1回目の目標操舵角修正量だけ変化するように駆動装置を制御する第1回目の操舵角修正制御が行なわれる。
【0012】
よって、見込み戻り量の初期値が考慮されず、操舵角が現在の操舵角の大きさだけ変化するように駆動装置が制御される場合に比して、操舵角を目標操舵角に近づける可能性を高くすることができる。
【0013】
制御ユニット(運転支援ECU50)は、nを正の整数として、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角(θsn)が予め設定された非制御範囲を超えるときには、第n-1回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角の戻り量の大きさ(θrn-1)及び第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角(θsn)の大きさに基づいて、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の第n回目の操舵角の戻り量の大きさ(θrn)を演算し、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角(θsn)及び第n回目の操舵角の戻り量の大きさ(θrn)に基づいて、第n+1回目の目標操舵角修正量(θcn+1)を演算し、操舵角が目標操舵角(0°)に対し第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角(θsn)とは反対側へ第n+1回目の目標操舵角修正量だけ変化するように駆動装置を制御する第n+1回目の操舵角修正制御(S50)を行うよう構成される。
【0014】
上記の構成によれば、第n回目以降の操舵角修正制御において、操舵角修正制御毎に操舵角の戻り量の大きさを演算し、操舵角修正制御が完了した後の操舵角及び操舵角の戻り量の大きさに基づいて、操舵角が目標操舵角に近づくよう、操舵角修正制御を繰り返し行うことができる。
【0015】
〔発明の態様〕
更に、本発明の一つの態様においては、制御ユニット(運転支援ECU50)は、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角(θsn)が非制御範囲(-θe以上でθe以下)内であるとき(S60)、又は第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角(θsn)が非制御範囲外であり且つnが基準値(ne)以上であるとき(S60、S70)、には、第n+1回目の操舵角修正制御(S50)を行わないよう構成される。
【0016】
上記の態様によれば、操舵角修正制御が不必要に繰り返し行われることを防止することができる。
【0017】
更に、本発明の他の一つの態様においては、記憶装置(50A)は、不揮発性の読み書き可能な記憶装置であり、制御ユニット(運転支援ECU50)は、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角(θsn)が非制御範囲内であるときには、第n回目の操舵角の戻り量の大きさ(θrn)にて見込み戻り量の初期値(θrp)を更新する(S110)よう構成される。
【0018】
上記の態様によれば、操舵角修正制御が行なわれたときの操舵角の戻り量の大きさにて見込み戻り量の初期値を更新することができるので、見込み戻り量の初期値が一定である場合に比して、操舵角の実際の戻り変化に応じた操舵角修正制御を行うことができる。
【0019】
更に、本発明の他の一つの態様においては、記憶装置(50A)は、複数の外気温の区分について操舵角の戻り量の初期値(θrp)を記憶しており、制御ユニット(運転支援ECU50)は、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角(θsn)が非制御範囲内であるときには、外気温(Tout)の情報を取得し、外気温(Tout)が属する区分の見込み戻り量の初期値(θrp)を、第n回目の操舵角の戻り量の大きさ(θrn)にて更新する(S110)よう構成される。
【0020】
上記の態様によれば、外気温の各区分について、操舵角修正制御が行なわれたときの操舵角の戻り量の大きさにて見込み戻り量の初期値を更新することができる。従って、外気温の各区分の見込み戻り量の初期値が一定である場合に比して、操舵角の実際の戻り変化に応じた操舵角修正制御を行うことができる。
【0021】
本発明の他の目的、他の特徴及び付随する利点は、以下の図面を参照しつつ記述される本発明の実施形態についての説明から容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態にかかる駐車支援装置を示す概略構成図である。
【
図2】第一の実施形態における駐車完了後の操舵角制御のルーチンを示すフローチャートである。
【
図4】第二の実施形態における駐車完了後の操舵角制御のルーチンを示すフローチャートである。
【
図5】第三の実施形態における駐車完了後の操舵角制御のルーチンの要部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付の図を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
図1に示されているように、実施形態にかかる駐車支援装置100は、車両102に適用され、操舵装置10、電動パワーステアリング・ECU40、運転支援ECU50を含んでいる。車両102は、自動運転が可能な車両であってよく、駆動ECU60、制動ECU70及びメータECU80を備えている。本明細書においては、電動パワーステアリングは必要に応じてEPS(Electric Power Steeringの略)と呼称される。
【0025】
EPS・ECU40、運転支援ECU50などの各ECUは、マイクロコンピュータを主要部として備える電子制御装置(Electronic Control Unit)であり、CAN(Controller Area Network)104を介して相互に情報を送受信可能に接続されている。各マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースなどを含んでいる。CPUは、ROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。これらのECUは一つのECUに統合されてもよい。
【0026】
図1に示されているように、操舵装置10は、EPS・ECU40に接続されたEPS装置12を含み、EPS装置12は、運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型のEPS装置として構成されている。EPS装置12のラックバー18は、タイロッド20L及び20Rを介して操舵輪である前輪16FL及び16FRのナックルアーム(図示せず)に連結されている。ステアリングホイール14はステアリングシャフト22及びユニバーサルジョイント24を介してEPS装置12のピニオンシャフト26に接続されている。
【0027】
図示の実施形態においては、EPS装置12はラックアシスト型の電動パワーステアリング装置であり、電動機28と、電動機28の回転及びトルクを往復動方向の変位及び力に変換してラックバー18に伝達する例えばベルト式の変換機構30と、を有している。EPS装置12は、ハウジング32に対し相対的にラックバー18を駆動することにより、制御トルクを発生する。
【0028】
よって、ステアリングシャフト22、ユニバーサルジョイント24、ピニオンシャフト26、EPS装置12及びタイロッド20L、20Rは、ステアリングホイール14と前輪16FL及び16FRとの間に操舵の変位及びトルクを伝達する操舵伝達系34を構成している。EPS装置12は、操舵伝達系34に制御トルクを付与するトルク付与装置として機能する。
【0029】
ステアリングシャフト22には、操舵角θsを検出する操舵角センサ36が設けられ、ピニオンシャフト26には、操舵トルクTsを検出する操舵トルクセンサ38が設けられている。
【0030】
なお、操舵角θs及び操舵トルクTsは、運転者の操舵操作により車両102が右旋回する際に正の値になるとする。よって、操舵トルクTsは、操舵トルクセンサ38のトーションバー(図示せず)に対しステアリングホイール14の側の部材及びEPS装置12の側の部材の相対回転が、車両の右旋回方向に対応する相対回転である場合に、正の値になる。また、EPS装置12は、操舵伝達系34に制御トルクを付与する限り、ピニオンアシスト型又はコラムアシスト型のEPS装置であってもよい。
【0031】
EPS・ECU40は、後述の運転操作センサ90及び車両状態センサ92により検出された操舵トルクTs及び車速Vに基づいて、当技術分野において公知の要領にてEPS装置12を制御することにより、操舵アシストトルクを制御し、運転者の操舵負担を軽減する。また、EPS・ECU40は、EPS装置12を制御することにより、必要に応じて前輪16FL及び16FRを操舵することができる。よって、EPS・ECU40及びEPS装置12は、必要に応じて前輪を自動的に操舵する自動操舵装置42として機能する。
【0032】
運転支援ECU50には、カメラセンサ52及びレーダセンサ54が接続されている。カメラセンサ52及びレーダセンサ54は、それぞれ複数のカメラ装置及び複数のレーダ装置を含んでいる。カメラセンサ52及びレーダセンサ54は、車両102の少なくとも前方の物標の情報を取得する物標情報取得装置56として機能する。なお、レーダセンサ54に代えて、又はレーダセンサ54に加えて、LiDAR(Light Detection And Ranging)が使用されてもよい。
【0033】
更に、運転支援ECU50には、設定操作器58が接続されており、設定操作器58は、運転者により操作される位置に設けられている。
図1には示されていないが、実施形態においては、設定操作器58は、駐車支援スイッチを含み、運転支援ECU50は、駐車支援スイッチがオンである場合に駐車支援制御を実行し、更には駐車完了後の操舵角制御を実行する。
【0034】
駆動ECU60には、
図1には示されていない駆動輪に駆動力を付与することにより車両102を加速させる駆動装置62が接続されている。駆動ECU60は、通常時には、駆動装置62により発生される駆動力が運転者による駆動操作に応じて変化するよう、駆動装置を制御し、運転支援ECU50から指令信号を受信すると、指令信号に基づいて駆動装置62を制御する。
【0035】
制動ECU70には、
図1には示されていない車輪に制動力を付与することにより車両102を制動により減速させる制動装置72が接続されている。制動ECU70は、通常時には、制動装置72により発生される制動力が運転者による制動操作に応じて変化するよう、制動装置を制御し、運転舵支援ECU50から指令信号を受信すると、指令信号に基づいて制動装置72を制御することにより自動制動を行う。
【0036】
運転操作センサ90及び車両状態センサ92は、CAN104に接続されている。運転操作センサ90及び車両状態センサ92によって検出された情報(センサ情報と呼ぶ)は、CAN104に送信される。運転操作センサ90は、駆動操作量センサ及び制動操作量センサを含んでいる。車両状態センサ92は、車速センサ、前後加速度センサ、横加速度センサ、及びヨーレートセンサなどを含んでいる。
【0037】
運転支援ECU50は、駐車支援制御、駐車完了後の操舵角制御、車線維持制御などの運転支援制御を行う中枢の制御装置である。実施形態においては、運転支援ECU50は、運転支援の指令を受けると、他のECUと共働して、車両102が目標駐車位置へ移動するように自動操舵装置42を制御する駐車支援制御を実行する。なお、駐車支援制御は、本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野において公知の任意の要領にて行われてよい。駐車支援制御による駐車は、乗員が車両に乗車した状態にて行われる駐車、運転者が降車して遠隔端末を運転者又は他のユーザが操作することによるリモート駐車であってよい。
【0038】
更に、運転支援ECU50は、車両102が目標駐車位置へ移動して停車し駐車支援制御が完了すると、駐車完了後の操舵角制御を実行する。操舵角制御は、後に詳細に説明するように、駐車完了後の操舵角が予め設定された非制御範囲を超えるときには、操舵角が目標操舵角に近づいて非制御範囲内になるように操舵角を修正する操舵角修正制御を含んでいる。なお、後述の各実施形態における目標操舵角は、0°である。
【0039】
[第一の実施形態]
第一の実施形態においては、運転支援ECU50のマイクロコンピュータは、記憶装置50Aを含み、記憶装置50Aは、駐車完了後の操舵角制御に使用される操舵角の見込み戻り量の大きさの初期値θr0(正の定数)を記憶している。なお、見込み戻り量の大きさの初期値θr0は、例えば実験的に求められた値であってよい。
【0040】
第一の実施形態においては、運転支援ECU50のROMは、
図2に示されたフローチャートに対応する駐車完了後の操舵角制御のプログラムを記憶している。CPUは、このプログラムに従って駐車完了後の操舵角制御を実行する。
【0041】
<第一の実施形態の駐車完了後の操舵角制御ルーチン>
図2に示されたフローチャートによる操舵角制御は、設定操作器58の
図1には示されていない駐車支援スイッチがオンであり駐車支援制御による駐車が完了したときに、運転支援ECU50のCPUにより所定の時間毎に繰り返し実行される。また、操舵角制御の開始時には、後述の操舵角修正制御の実行回数を示すn(正の整数)が、初期値である1に設定される。なお、これらのことは、後述の他の実施形態における駐車完了後の操舵角制御についても同様である。
【0042】
まず、ステップS10においては、CPUは、操舵角θの絶対値が非制御の基準値θe(正の定数)以下であるか否か、即ち操舵角修正制御が不要であるか否かを判定する。CPUは、肯定判定をしたときには、本制御を終了し、否定判定をしたときには、本制御をステップS20へ進める。
【0043】
ステップS20においては、CPUは、第1回目(n=1)の操舵角修正制御開始時の操舵角θs1を現在の操舵角θに設定する。
【0044】
ステップS30においては、CPUは、第1回目の操舵角修正制御に使用される前回の操舵角の戻り量の大きさθrn-1を、記憶装置50Aに記憶された初期値θr0に設定する。
【0045】
ステップS40においては、CPUは、下記の式(1)に従って、第n回目の操舵角修正制御の目標修正量θcnを演算する。下記の式(1)において、θsn-1は、第n-1回目の操舵角修正制御が行なわれた後の操舵角、即ち第n-1回目の操舵角修正制御後にタイヤなどの弾性変形が解放されることにより操舵角が戻ったときの操舵角であり、signθsn-1は、操舵角θsn-1の符号である。θrn-1は、第n-1回目の操舵角修正制御が行なわれた後の操舵角の戻り量の大きさであり、前回のステップ90において演算された値である。
θcn=-(θsn-1+signθsn-1×θrn-1) …(1)
【0046】
なお、第1回目の操舵角修正制御の目標修正量θc1は、nが1であるので、下記の式(2)に従って演算される。θs0は、駐車支援制御が完了したときの操舵角、従って第1回目の操舵角修正制御の開始時の操舵角である。
θc1=-(θs0+signθs0×θrp) …(2)
【0047】
ステップS50においては、CPUは、操舵角修正制御の修正量が目標修正量θcnになるようにEPS・ECU40へ指令信号を出力することにより、操舵角修正制御を実行する。目標修正量θcnが負の値であるときには、操舵角θがθsn-1+signθsn-1×θrn-1だけ左旋回方向へ変化するようにEPS装置12が制御される。逆に、目標修正量θcnが正の値であるときには、操舵角θがθsn-1+signθsn-1×θrn-1だけ右旋回方向へ変化するようにEPS装置12が制御される。
【0048】
ステップS60においては、CPUは、操舵角修正制御が完了してから操舵角の戻り変化に必要な所定の時間(例えば100msec)待機した後、ステップS10と同様に、操舵角θ(=θsn)の絶対値が非制御の基準値θe以下であるか否かを判定する。CPUは、肯定判定をしたときには、操舵角修正制御が不要になったと判定して本制御を終了し、否定判定をしたときには、本制御をステップS70へ進める。なお、ステップS60における基準値は、ステップS10における基準値よりも小さい値であってもよい。
【0049】
ステップS70においては、CPUは、操舵角修正制御の実行回数を示すnが基準値ne(例えば4のような正の一定の整数)以上であるか否かを判定する。CPUは、肯定判定をしたときには、本制御を終了し、否定判定をしたときには、本制御をステップS80へ進める。
【0050】
ステップS80においては、CPUは、下記の式(3)に従って、第n回目の操舵角修正制御が行なわれた後の操舵角の戻り量の大きさθrnを演算する。CPUは、操舵角の戻り量θrnの演算を完了すると、ステップS90において操舵角修正制御の実行回数を示すnを1インクリメントした後、本制御をステップS40へ戻す。
θrn=θrn-1+|θsn| …(3)
【0051】
<第一の実施形態の作動の例>
次に、
図3を参照して、第一の実施形態の作動の例について説明する。なお、
図3の時間軸は、事象の順序を示すためのものであり、正確な経過時間を示すものではない。
【0052】
車両102が目標駐車位置へ移動して停車することにより駐車支援制御が完了し、駐車完了後の操舵角制御が開始するとする。第1回目の操舵角修正制御の開始時である時点t11における操舵角θが、非制御の基準値θeよりも大きいθs0であるとする。
【0053】
時点t12において、太い実線の矢印にて示されているように、第1回目の操舵角修正制御により操舵角θがθs1+θr0だけ左旋回方向へ変化するようにEPS装置12が制御される。しかし、タイヤなどの弾性変形が解放されることにより、太い破線の矢印にて示されているように、操舵角θが車両の直進位置(θ=0)を越えて戻り、時点t13において、非制御の基準値θeよりも大きいθs1になったとする。
【0054】
第2回目の操舵角修正制御の開始時における操舵角はθs1であるので、第1回目の操舵角修正制御後の操舵角の戻り量の大きさθr1は、θs1+θr0である。第2回目の操舵角修正制御により、太い実線の矢印にて示されているように、時点t21において、第2回目の操舵角修正制御により操舵角θがθs1+θr1=2θs1+θrpだけ左旋回方向へ変化するようにEPS装置12が制御される。タイヤなどの弾性変形が解放されることにより、太い破線の矢印にて示されているように、時点t22において、操舵角θがθs2になったとする。
【0055】
θs2の絶対値が非制御の基準値θe以下であるときには、ステップS60において肯定判定が行われるので、駐車完了後の操舵角制御は終了する。これに対し、θs2の絶対値が非制御の基準値θeを超えているときには、ステップS60において否定判定が行われるので、ステップS40及びS50が実行される。即ち、上述の時点t21における操舵角修正制御と同様の操舵角修正制御が実行される。
【0056】
操舵角修正制御がne回繰り返し実行されても、戻り後の操舵角θsnの絶対値が非制御の基準値θeを超えているときには、ステップS70において肯定判定が行われるので、駐車完了後の操舵角制御は終了する。
【0057】
なお、上述の例は、第1回目の操舵角修正制御開始時の操舵角が右操舵方向の操舵角である。第1回目の操舵角修正制御開始時の操舵角が左操舵方向の操舵角である場合には、操舵角修正制御による操舵角の変化方向が逆である点を除き、上述の例と同様に操舵角修正制御が行なわれる。
【0058】
[第二の実施形態]
第二の実施形態及び後述の第三の実施形態においては、車両状態センサ92は、外気温Toutを検出する外気温センサを含んでいる。記憶装置50Aは、読み書き可能な不揮発性の記憶装置であり、複数の外気温の区分について操舵角の見込み戻り量の大きさの初期値θr0を記憶している。後に説明するように、操舵角の見込み戻り量の大きさの初期値θr0は、駐車完了後の操舵角制御が終了する際に、適宜更新される。
【表1】
【0059】
第二の実施形態においては、運転支援ECU50のROMは、
図4に示されたフローチャートに対応する駐車完了後の操舵角制御のプログラムを記憶している。CPUは、このプログラムに従って駐車完了後の操舵角制御を実行する。
【0060】
<第二の実施形態の駐車完了後の操舵角制御ルーチン>
図4と
図2との比較から解るように、ステップS30、S60及びS110以外のステップは、第一の実施形態の対応するステップと同様に実行される。
【0061】
ステップS30においては、CPUは、外気温センサにより検出された外気温Toutの情報を読み込む。更に、CPUは、外気温Toutに基づいて表1を参照することにより、外気温Toutが属する温度区分の操舵角の見込み戻り量θrpを特定し、第1回目の操舵角修正制御における操舵角の戻り量θr0を、特定した操舵角の見込み戻り量θrpに設定する。
【0062】
ステップS60においては、CPUは、操舵角θ(=θsn)の絶対値が非制御の基準値θe以下であるか否かを判定する。CPUは、否定判定をしたときには、第1回目の操舵角修正制御と同様に本制御をステップS70へ進めるが、肯定判定をしたときには、本制御をステップS110へ進める。
【0063】
ステップS110においては、CPUは、ステップS80と同様に、第n回目の操舵角修正制御が行なわれた後の操舵角の戻り量の大きさθrnを演算する。更に、CPUは、外気温センサにより検出された外気温Toutの情報を読み込み、表1の外気温Toutが属する温度区分の操舵角の見込み戻り量の大きさの初期値θr0を操舵角の戻り量の大きさθrnにて更新して記憶する。なお、ステップS110が完了すると、本制御は終了する。
【0064】
上記の更新においては、外気温Toutが属する温度区分の操舵角の見込み戻り量の大きさの初期値θr0が操舵角の戻り量の大きさθrnに書き換えられてもよく、表1に記憶されていた値と操舵角の戻り量の大きさθrnとの平均値に書き換えられてもよい。
【0065】
[第三の実施形態]
第三の実施形態においては、運転支援ECU50のROMは、
図5に示されたフローチャートに対応する駐車完了後の操舵角制御のプログラムを記憶している。CPUは、このプログラムに従って駐車完了後の操舵角制御を実行する。
【0066】
<第三の実施形態の駐車完了後の操舵角制御ルーチン>
図5と
図4との比較から解るように、ステップS60、S100及びS120以外のステップは、第二の実施形態の対応するステップと同様に実行される。
【0067】
ステップS60においては、CPUは、操舵角θ(=θsn)の絶対値が非制御の基準値θe以下であるか否かを判定する。CPUは、否定判定をしたときには、第1回目の操舵角修正制御と同様に本制御をステップS70へ進めるが、肯定判定をしたときには、本制御をステップS100へ進める。
【0068】
ステップS100においては、CPUは、操舵角θsnが目標操舵角である0°に対し前回の操舵角θsn-1と同一の側の値であるか否かを判定する。CPUは、肯定判定をしたときには、第2回目の操舵角修正制御と同様に本制御をステップS110へ進め、否定判定をしたときには、本制御をステップS120へ進める。
【0069】
ステップS120においては、CPUは、外気温センサにより検出された外気温Toutの情報を読み込み、表1の外気温Toutが属する温度区分の操舵角の見込み戻り量の大きさの初期値θr0を前回の操舵角の戻り量の大きさθrn-1にて更新して記憶する。なお、第n回目の操舵角修正制御が行なわれた後の操舵角の戻り量の大きさθrnは演算されず、ステップS120が完了すると、本制御は終了する。
【0070】
上記の更新においては、外気温Toutが属する温度区分の操舵角の見込み戻り量の大きさの初期値θr0が操舵角の戻り量の大きさθrn-1に書き換えられてもよく、表1に記憶されていた値と操舵角の戻り量の大きさθrn-1との平均値に書き換えられてもよい。
【0071】
以上の説明から解るように、各実施形態によれば、駐車が完了すると、現在の操舵角θs0の大きさと見込み戻り量の大きさの初期値θr0との和である第1回目の目標操舵角修正量θc1が演算される(S40)。操舵角θが目標操舵角である0°に対し現在の操舵角とは反対側へ第1回目の目標操舵角修正量だけ変化するように駆動装置であるEPS装置12を制御する第1回目の操舵角修正制御が行なわれる(S50)。
【0072】
よって、見込み戻り量の初期値の大きさθr0が考慮されず、操舵角が現在の操舵角の大きさだけ変化するようにEPS装置12が制御される場合に比して、操舵角を目標操舵角に近づける可能性を高くすることができる。
【0073】
また、各実施形態によれば、第n-1回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角の戻り量θrn-1及び第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角θsnの大きさに基づいて、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の第n回目の操舵角の戻り量の大きさθrnが演算される(S80)。また、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角θsn及び第n回目の操舵角の戻り量の大きさθrnに基づいて、第n+1回目の目標操舵角修正量θcn+1が演算される(S40)。更に、操舵角が目標操舵角に対し第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角θsnとは反対側へ第n+1回目の目標操舵角修正量だけ変化するようにEPS装置12が制御される(S50)。
【0074】
よって、第n回目以降の操舵角修正制御において、操舵角修正制御毎に操舵角の戻り量の大きさθrnを演算し、操舵角修正制御が完了した後の操舵角θsn及び操舵角の戻り量の大きさθrnに基づいて、操舵角が目標操舵角に近づくよう、操舵角修正制御(S50)を繰り返し行うことができる。
【0075】
また、各実施形態によれば、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角θsnが予め設定された非制御範囲(-θe以上でθe以下)内であるときには(S60)、第n+1回目の操舵角修正制御が行われない。よって、操舵角修正制御が不必要に繰り返し行われることを防止することができる。
【0076】
また、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角θsnが非制御範囲外であっても(S60)、nが基準値ne以上であるときにも(S70)、第n+1回目の操舵角修正制御が行われない。よって、縁石のような障害物などに起因して操舵角を目標操舵角に近づけることができない状況において、操舵角修正制御が不必要に繰り返し行われることを防止することができる。
【0077】
特に、第二及び第三の実施形態によれば、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角θsnが非制御範囲内であるときには(S60)、第n回目の操舵角の戻り量の大きさにて見込み戻り量の初期値が更新される(S110)。よって、操舵角修正制御が行なわれたときの操舵角の戻り量の大きさにて見込み戻り量の初期値を更新することができるので、見込み戻り量の初期値が一定である場合に比して、操舵角の実際の戻り変化に応じた操舵角修正制御を行うことができる。
【0078】
また、第二及び第三の実施形態によれば、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角θsnが非制御範囲内であるときには(S60)、外気温Toutの情報が取得され、その外気温が属する区分の見込み戻り量の初期値が、第n回目の操舵角の戻り量の大きさにて更新される(S110)。よって、外気温の各区分について、操舵角修正制御が行なわれたときの操舵角の戻り量の大きさにて見込み戻り量の初期値を更新することができる。タイヤなどの弾性係数は外気温によって変動するので、外気温の各区分の見込み戻り量の初期値が一定である場合に比して、操舵角の実際の戻り変化に応じた操舵角修正制御を行うことができる。
【0079】
更に、第三の実施形態によれば、第n回目の操舵角修正制御が完了した後の操舵角θsnが非制御範囲内であり(S60)、操舵角θsnが目標操舵角である0°に対し前回の操舵角θsn-1とは反対の側の値であるときには(S100)、第n-1回目の操舵角の戻り量の大きさにて見込み戻り量の初期値が更新される(S120)。よって、操舵角の戻り量が操舵角修正制御による操舵角の修正量よりも小さくなった状況において、見込み戻り量の初期値が小さくなった操舵角の戻り量にて更新されることを防止することができる。
【0080】
以上においては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0081】
例えば、上述の各実施形態においては、目標操舵角は0°であるが、非制御範囲内の任意の値又は任意の範囲であってもよい。
【0082】
また、第一の実施形態においては、見込み戻り量の大きさの初期値θr0は外気温Toutに関係なく一つであるが、表1に示されているように、複数の外気温の区分について操舵角の見込み戻り量の大きさの初期値θr0が設定されてもよい。
【0083】
また、第一の実施形態においては、見込み戻り量の大きさの初期値θr0は更新されないが、第二及び第三の実施形態と同様に操舵角修正制御が行なわれた後の操舵角の戻り量の大きさθrnが演算され、操舵角の戻り量の大きさθrnにて見込み戻り量の大きさの初期値θr0が更新されてもよい。
【0084】
また、第二及び第三の実施形態のステップ110において、表1の外気温Toutが属する温度区分の操舵角の見込み戻り量の大きさの初期値θr0が操舵角の戻り量θrnにて更新されて記憶される。ステップ30における操舵角の見込み戻り量の大きさの初期値θr0の設定及びステップ110における初期値θr0の更新に際し、タイヤの種類、タイヤの使用年月、路面の摩擦係数などが考慮されてもよい。
【符号の説明】
【0085】
10…操舵装置、12…EPS装置、14…ステアリングホイール、16FL,16FR…前輪、40…EPS・ECU、50…運転支援ECU、50A…記憶装置、60…駆動ECU、70…制動ECU、100…操舵支援装置、102…車両