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  • 特許-電極体の製造方法 図1
  • 特許-電極体の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】電極体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20250902BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250902BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/139
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023166587
(22)【出願日】2023-09-28
(65)【公開番号】P2025057002
(43)【公開日】2025-04-09
【審査請求日】2025-02-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】召田 智也
(72)【発明者】
【氏名】志村 陽祐
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-29256(JP,A)
【文献】特開2016-169059(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0122992(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0406401(US,A1)
【文献】特表2020-524081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体の製造方法であって、
集電体の少なくとも一方の面に電極材料が塗工されたワークを搬送しながら前記電極材料をレーザーにより乾燥する乾燥工程を含み、
前記乾燥工程において、前記レーザーの照射範囲が前記ワークの平面視において前記ワークの搬送方向に対して傾斜するように、前記レーザーを前記ワークに照射する、電極体の製造方法。
【請求項2】
前記ワークの平面視において、前記電極材料の幅方向は、前記ワークの搬送方向に対して直交し、
前記電極材料の幅方向に対する前記レーザーの照射範囲の傾斜角度が10°以上60°以下である、請求項1に記載の電極体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において開示されるような電極体の製造方法に関して様々な技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-029256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、レーザーで電極材料を搬送しながら乾燥する場合、電極材料が塗工されていない間欠部である集電体は熱が溜まりやすいため、間欠部に同時にレーザー照射すると、間欠部近傍の電極材料塗工部が必要以上に乾燥してしまう虞がある。また、レーザーの代わりに熱風やIRを用いた乾燥の場合、照射幅の制御が困難である。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、割れの発生を低減できる電極体の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本開示には、以下の態様が含まれる。
<1> 電極体の製造方法であって、
集電体の少なくとも一方の面に電極材料が塗工されたワークを搬送しながら前記電極材料をレーザーにより乾燥する乾燥工程を含み、
前記乾燥工程において、前記レーザーの照射範囲が前記ワークの平面視において前記ワークの搬送方向に対して傾斜するように、前記レーザーを前記ワークに照射する、電極体の製造方法。
【0007】
<2> 前記ワークの平面視において、前記電極材料の幅方向は、前記ワークの搬送方向に対して直交し、
前記電極材料の幅方向に対する前記レーザーの照射範囲の傾斜角度が10°以上60°以下である、前記<1>に記載の電極体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の電極体の製造方法は、割れの発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、従来の乾燥工程の一例を示す模式図である。
図2図2は、本開示の乾燥工程の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄(例えば、本開示を特徴付けない電極体の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0011】
本開示においては、電極体の製造方法であって、
集電体の少なくとも一方の面に電極材料が塗工されたワークを搬送しながら前記電極材料をレーザーにより乾燥する乾燥工程を含み、
前記乾燥工程において、前記レーザーの照射範囲が前記ワークの平面視において前記ワークの搬送方向に対して傾斜するように、前記レーザーを前記ワークに照射する、電極体の製造方法を提供する。
【0012】
図1は、従来の乾燥工程の一例を示す模式図である。
図1に示すように、ワーク1は、集電体上に電極材料2が塗工され、且つ、電極材料2の未塗工部である間欠部3を有する。搬送方向に、ワーク1が搬送され、平面視において電極材料2の幅方向に対して平行(搬送方向に対して垂直)にレーザーが照射されるため、熱が間欠部3に同時に蓄熱して電極材料2の塗工部への伝熱量が多くなり、電極材料2に割れが発生しやすい。
【0013】
図2は、本開示の乾燥工程の一例を示す模式図である。
図2に示すように、平面視において電極材料2の幅方向に対して傾斜角を付けてレーザーをワーク1に照射することにより、熱が間欠部3に蓄熱し難くなり、電極材料2の塗工部への伝熱量が少なくなり、電極材料2に割れが発生し難くなる。
【0014】
本開示においては、レーザーの照射範囲をワークの搬送方向に対して傾けることで、電極材料が塗工されていない間欠部である集電体に熱が集中的に溜まることがなく、良好な条件で電極材料を乾燥することができ、得られる電極体の割れの発生を低減できる。また、間欠部と電極材料塗工部の乾燥時間を同じにすることで高速乾燥できる。さらに、電池抵抗となるバインダーの偏析を抑制でき、電極材料中のバインダーの添加量を減少出来るため、得られる電極体を用いた電池の性能を向上できる。
【0015】
(乾燥工程)
本開示の電極体の製造方法は、乾燥工程を含む。
乾燥工程は、集電体の少なくとも一方の面に電極材料が塗工されたワークを搬送しながら前記電極材料をレーザーにより乾燥する工程である。
乾燥工程では、電極材料の乾燥のためにレーザー装置を用いてもよい。レーザー装置と併せて、乾燥装置として、熱風装置、IR(赤外線)装置など、電極材料を乾燥させることができる従来公知の装置を用いてもよい。乾燥工程では、電極材料を水分が数百ppm以下になるまで絶乾してもよい。
乾燥工程においては、乾燥炉内で電極材料を乾燥してもよい。乾燥工程においては、ワークを搬送体に載せて搬送してもよい。搬送速度は、例えば、30m/min以上であってもよい。
電極材料の乾燥温度は100℃~200℃であってもよい。
電極材料の乾燥時間は、特に限定されない。
電極材料は、乾燥工程後、電極層となり、集電体と、集電体の少なくとも一方の面に形成された電極層と、を含む電極体が得られる。
【0016】
乾燥工程においては、レーザーの照射範囲がワークの平面視においてワークの搬送方向に対して傾斜するように、レーザーをワークに照射する。
ワークの平面視において、電極材料の幅方向は、ワークの搬送方向に対して直交していてもよく、電極材料の幅方向に対するレーザーの照射範囲の傾斜角度が0°超過90°未満であってもよく、5°以上80°以下であってもよく、10°以上60°以下であってもよい。すなわち、ワークの搬送方向に対するレーザーの照射範囲の傾斜角度は、0°超過90°未満であってもよく、10°以上85°以下であってもよく、30°以上80°以下であってもよい。
レーザーの照射範囲の傾斜角度を付ける方法は、例えば、レーザーヘッド本体を斜めにすること、レーザーヘッドを複数個置くこと、垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)を用いること、及び、遮蔽板を設置すること等の方法が挙げられる。
レーザーエネルギー密度は、2W/cm以上であってもよい。
【0017】
ワークは、集電体と、集電体の少なくとも一方の面に塗工された電極材料と、を含む。
ワークは、集電体の両面に電極材料が塗工されたバイポーラ電極用であってもよい。バイポーラ電極用のワークにおいては、集電体の一方の面に塗工される電極材料は、正極材料であり、且つ、集電体のもう一方の面に塗工される電極材料は、負極材料である。
【0018】
集電体は、負極集電体、正極集電体、バイポーラ集電体等であってもよい。集電体の材料としては、例えば、アルミニウム、銅、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。集電体の厚さは、例えば0.1μm以上、100μm以下である。集電体の形状は、シート状等であってもよい。
【0019】
電極材料は、集電体の少なくとも一方の面である第1面に塗工される。電極材料は、集電体の第1面のみに塗工されてもよく、集電体の第1面および当該第1面の裏面である第2面に塗工されてもよい。
電極材料の塗工方法は、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。
電極材料は、活物質、バインダー、導電材、電解質、増粘剤等を含む混合物を溶媒とともに混合して調製することができる。電極材料は、正極材料であってもよく、負極材料であってもよい。電極材料は、10000ppm以下程度の水分を含んでいてもよい。
電極材料の幅は、特に限定されず、1000mm以上であってもよい。
【0020】
活物質は正極活物質であってもよい。正極活物質としては、例えば酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCuPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0021】
活物質は負極活物質であってもよい。負極活物質としては、例えば、カーボン活物質、酸化物活物質および金属活物質等を挙げることができる。カーボン活物質としては、例えば、黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボンおよびソフトカーボン等を挙げることができる。酸化物活物質としては、例えば、Nb、LiTi12およびSiOを挙げることができる。金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。
【0022】
バインダーとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有バインダー、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダーおよびアクリル系バインダーが挙げられる。
【0023】
導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマー等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)およびケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料;炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)およびカーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。
【0024】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類を挙げることができる。
【0025】
電解質としては、例えば、硫化物固体電解質および酸化物固体電解質などの固体電解質が挙げられる。硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。
【0026】
酸化物固体電解質としては、例えば、LiO-B-P、LiO-SiO、LiO-B、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4、LiSiO、LiPO、LiPO4-3/2x(x≦1)が挙げられる。
【0027】
溶媒としては、例えば、水系溶媒、有機溶媒等が挙げられる。水系溶媒とは、水、または、水と極性有機溶媒とを含む混合溶媒を意味する。例えば、活物質、バインダー等の種類に応じて適当な溶媒が選択され得る。
水系溶媒としては、取扱いの容易さからは、水を好適に用いることができる。混合溶媒に使用可能な極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。
有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0028】
本開示の製造方法で得られる電極体は、集電体と、集電体の少なくとも一方の面に塗工された電極材料を乾燥することにより形成された電極層と、を備える。
電極層は、正極層であってもよく、負極層であってもよい。電極層は、正極活物質および負極活物質の一方と、さらに、バインダー、導電材、電解質等を含有していてもよい。これらの材料については、上記のとおりである。
集電体は、負極集電体、正極集電体、バイポーラ集電体等であってもよい。集電体の材料、集電体の厚さ、集電体の形状については、上記のとおりである。
【0029】
本開示の電極体は、通常、電池の製造に用いられる。電極体は、正極であってもよく、負極であってもよく、バイポーラ電極であってもよい。バイポーラ電極は、集電体の一方の面に正極層と、集電体のもう一方の面に負極層を備える。
電極体が用いられる電池の種類は特に限定されないが、例えば、リチウムイオン二次電池が挙げられる。電池は、電解質として電解液を用いた液系電池であってもよく、電解質として固体電解質を用いた固体電池であってもよい。電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。中でも、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)の駆動用電源に用いられてもよい。また、電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【実施例
【0030】
(実施例1~6、比較例1)
電極材料としては、負極活物質として黒鉛と、増粘剤としてCMCと、バインダーとしてSBRと、を含む負極材料を用いた。電極材料の幅は1000mmとした。
集電体の一方の面上に電極材料を塗工したワークを準備し、レーザーを照射し、電極材料を乾燥させ、電極体を得た。
レーザーエネルギー密度は、2W/cm、レーザー照射範囲は、1200mm×300mmとした。
表1に示すように、各実施例、比較例において、電極材料の幅方向に対するレーザーの照射範囲の傾斜角度を変えた時の塗工端部の品質を評価した。
品質評価は、電極体の割れの有無を目視で確認した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示すように本開示の製造方法により得られる電極体は、割れの発生を低減できることが実証された。
【符号の説明】
【0033】
1.ワーク
2.電極材料
3.間欠部
図1
図2