(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】親水性ウレタン系止水剤
(51)【国際特許分類】
C08G 18/66 20060101AFI20250902BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20250902BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20250902BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20250902BHJP
【FI】
C08G18/66 074
C08G18/10
C08G18/76 057
C08G18/08 042
(21)【出願番号】P 2021087102
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2024-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2020090165
(32)【優先日】2020-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221797
【氏名又は名称】東邦化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 紫郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 清志
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-507661(JP,A)
【文献】特開2001-329163(JP,A)
【文献】特開2002-003821(JP,A)
【文献】特開2004-346127(JP,A)
【文献】特開2020-176168(JP,A)
【文献】特表2004-512401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00- 18/87
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールとジフェニルメタンジイソシアネート又はその変性体とを、イソシアネート基とヒドロキシ基の当量比(NCO/OH)が1.5~2.0となるように反応させて得られる末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含有する親水性ウレタン系止水剤であって、
前記ポリオールが、多価フェノール又は芳香族多価アルコールにエチレンオキサイドを単独又はエチレンオキサイドと炭素数3若しくは4のアルキレンオキサイドを付加重合させた数平均分子量が5,000以上20,000以下の芳香族親水性ポリオールと、数平均分子量が500以下の低分子ポリオールとを含有
し、
ポリオール全量に対する前記芳香族親水性ポリオールの含有量が80~98質量%、低分子ポリオールの含有量が2~10質量%であり、
前記芳香族親水性ポリオールと低分子ポリオールとの含有量の比率が、質量比で90/10~98/2であり、
前記ジフェニルメタンジイソシアネートが、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、または4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートと2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの混合物であって、その総質量に対して、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを40質量%以上含有するものであり、
さらにガンマーブチルラクトン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、2-オキソ-4-メチル-1,3-ジオキソラン、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルからなる群から選択される少なくとも1種の希釈剤を全成分の総質量に対して20~60質量%の量含有することを特徴とする、
親水性ウレタン系止水剤。
【請求項2】
残存する未反応の4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが2質量%以下である、請求項1に記載の親水性ウレタン系止水剤。
【請求項3】
前記多価フェノール又は芳香族多価アルコールが、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、レゾルシノール、及び1,4-ビスヒドロキシエトキシベンゼンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の親水性ウレタン系止水剤。
【請求項4】
前記低分子ポリオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び数平均分子量が500以下のポリエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の親水性ウレタン系止水剤。
【請求項5】
ジフェニルメタンジイソシアネー
トの変性体が
、ポリフェニルポリメチレンジイソシアネート及びカルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の親水性ウレタン系止水剤。
【請求項6】
さらにモノイソシアネートを含有する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の親水性ウレタン系止水剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性ウレタン系止水剤に関するものであり、より詳しくは、従来のMDI系ウレタンプレポリマーと同程度に低粘度でかつ多量の水の存在下でもゲル体を形成し、優れた硬化性を発揮する親水性ウレタン系止水剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン系止水剤は、トンネル工事の現場や漏水の発生したコンクリート構造物の防水補修等で広く使用されている。中でも親水性ウレタンプレポリマーを主成分とする止水剤は、少ない薬液量で多量の水を含水してゲル体を形成することから、トンネル掘削中の大量の湧水に対しても高い止水効果を発揮することができる。
【0003】
近年、ウレタンプレポリマーを構成する有機ポリイソシアネートとして、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)系イソシアネートが広く使用されている。しかし、従来のウレタンプレポリマー型止水剤には未反応のMDIモノマーが残存しており、作業者の労働環境を損なうおそれがあった。
【0004】
未反応MDIモノマーを低減するため、比較的高分子量のジオールに対し過剰量のMDIを反応させてプレポリマーを製造し、遊離のMDIを減圧留去する方法(特許文献1)や、プレポリマー反応生成物をモノマー状ジイソシアネートの沸点よりも僅かに低い沸点を有する少なくとも1種の不活性溶媒の存在下に蒸留する方法(特許文献2)が提案されている。しかし、これらの方法では高沸点のMDIをプレポリマーの熱分解を避けながら除去するため、薄膜蒸留等の高コストな精製工程が必要である。
【0005】
一方、ポリオールとMDIの化学量論的な反応当量比(NCO/OH)を2.0以下にすれば理論上はプレポリマーにMDIは残存しないが、反応中にオリゴマーが生成して増粘したり、得られるプレポリマーの長期安定性が損なわれる。
後処理工程や精製工程を伴わないモノマー性ジイソシアネートの含有量の少ない反応性ポリウレタンの製造方法として、2,4’-MDIを主成分とするモノマー性ジイソシアネートと分子量60~2000のジオールとを、NCO/OHが1.05/1~2.0/1で反応させる方法(特許文献3)が提案されている。
また、低粘度、低モノマー含量の2,4’-MDIプレポリマーの製造方法として、2,4’- MDIと平均官能基数が3~8のポリエーテルポリオールとをNCO/OHが2未満で反応させる方法(特許文献4)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-176252号公報
【文献】特表2003-515635号公報
【文献】特表2004-534132号公報
【文献】特開2006-37099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3や特許文献4で使用されている2,4’-MDIの2位のNCO基は立体的に反応しにくい位置にあるため、4’位のNCO基に比べて反応性が低い。そのため、4’位のNCO基が優先的に反応してプレポリマー化し、過剰にMDIを配合しなくても低粘度のウレタンプレポリマーが得られ、残存モノマーも少なくすることができる。しかしながら、そのようなウレタンプレポリマーを止水剤として用いた場合、未反応の2位のNCO基の反応性が低いため、硬化速度が遅くなり、十分な止水効果が得られない。
また、そもそも残存MDIモノマーが少ないウレタンプレポリマーはNCO含有量(単位質量当たりのNCO基の量)が低いため、大量の水の存在下では硬化しにくいという側面もある。
【0008】
そのため、MDIモノマーの残存量が低減され、従来のMDI系ウレタンプレポリマーと同程度に低粘度で且つ低濃度でも樹脂が硬化し、大量の湧水等にも止水効果を発揮できるウレタン系止水剤はこれまでなかった。
本発明は、残存するMDIモノマーが低減され、従来のMDI系ウレタンプレポリマーと同程度に低粘度でかつ多量の水の存在下でもゲル体を形成し、優れた硬化性を発揮するウレタン系止水剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、多価フェノール又は芳香族多価アルコールにエチレンオキサイドを単独又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加重合させた数平均分子量が5,000以上20,000以下の芳香族親水性ポリオールと、数平均分子量が500以下の低分子ポリオールとを含有するポリオールと、MDI系イソシアネートを反応させて得られるウレタンプレポリマーが、低粘度でかつ多量の水の存在下でもゲル体を形成し、優れた硬化性を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記[1]~[8]に関するものである。
【0011】
[1]ポリオールとジフェニルメタンジイソシアネート又はその変性体とを、イソシアネート基とヒドロキシ基の当量比(NCO/OH)が1.5~2.0となるように反応させて得られる末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含有する親水性ウレタン系止水剤であって、
前記ポリオールが、多価フェノール又は芳香族多価アルコールにエチレンオキサイドを単独又はエチレンオキサイドと炭素数3若しくは4のアルキレンオキサイドを付加重合させた数平均分子量が5,000以上20,000以下の芳香族親水性ポリオールと、数平均分子量が500以下の低分子ポリオールとを含有することを特徴とする、
親水性ウレタン系止水剤。
[2]残存する未反応の4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが2質量%以下である、[1]に記載の親水性ウレタン系止水剤。
[3]前記多価フェノール又は芳香族多価アルコールが、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、レゾルシノール、及び1,4-ビスヒドロキシエトキシベンゼンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の親水性ウレタン系止水剤。
[4]前記低分子ポリオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び数平均分子量が500以下のポリエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の親水性ウレタン系止水剤。
[5]ジフェニルメタンジイソシアネート又はその変性体が、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリフェニルポリメチレンジイソシアネート及びカルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]~[4]のいずれか1項に記載の親水性ウレタン系止水剤。
[6]さらに希釈剤を含有する、[1]~[5]のいずれかに記載の親水性ウレタン系止水剤。
[7]前記希釈剤が、ガンマーブチルラクトン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、2-オキソ-4-メチル-1,3-ジオキソラン、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル及びアジピン酸ジメチルからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、[6]に記載の親水性ウレタン系止水剤。
[8]さらにモノイソシアネートを含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の親水性ウレタン系止水剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の親水性ウレタン系止水剤は、残存するMDIモノマーが低減され、従来のMDI系ウレタンプレポリマーと同程度に低粘度でかつ多量の水の存在下でもゲル体を形成し、優れた止水効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の親水性ウレタン系止水剤の主成分として使用する末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは、多価フェノール又は芳香族多価アルコールにエチレンオキサイドを単独又はエチレンオキサイドと炭素数3若しくは4のアルキレンオキサイドを付加した親水性ポリオールと低分子ポリオールを必須として含むポリオールと、ジフェニルメタンジイソシアネート又はその変性体とを反応させて得られるものである。
【0014】
<ポリオール>
本発明で使用するポリオールは、多価フェノール又は芳香族多価アルコールにエチレンオキサイドを単独又はエチレンオキサイドと炭素数3若しくは4のアルキレンオキサイドを付加した数平均分子量が5,000以上20,000以下の芳香族親水性ポリオールと、数平均分子量が500以下の低分子ポリオールとを必須として含有することを特徴とする。
【0015】
<芳香族親水性ポリオール>
本発明で使用する芳香族親水性ポリオールとは、出発原料(開始剤)である多価フェノール又は芳香族多価アルコールに、エチレンオキサイドを単独又はエチレンオキサイドと炭素数3若しくは4のアルキレンオキサイドを付加することで得ることができるものである。
多価フェノールとしては、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、フロログルシノールなどの単環多価フェノール;4,4’-ジヒドロキシ-2,2’-ジフェニルプロパン(ビスフェノールA)、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン(ビスフェノールF)などのビスフェノール類などが挙げられる。
芳香族多価アルコールとしては、1,4-ビスヒドロキシエトキシベンゼン、p-キシリレングリコール、m-キシリレングリコールなどが挙げられる。
これらの中でも、レゾルシノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、及び1,4-ビスヒドロキシエトキシベンゼンが好ましい。
【0016】
また、炭素数3若しくは4のアルキレンオキサイドとしては、プロピレンオキサイド、1,2-、1,3-、1,4-あるいは2,3-ブチレンオキサイド等が挙げられる。前記出発原料にこれらアルキレンオキサイドは付加せずにエチレンオキサイドのみを付加してもよいし、エチレンオキサイドとこれらのアルキレンオキサイドの2種以上の併用(ブロックまたはランダム付加)としてもよい。これらのなかでも、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを併用することが好ましく、これらをブロック付加の形で用いることがさらに好ましい。エチレンオキサイドと炭素数3若しくは4のアルキレンオキサイドを併用する場合、付加させたアルキレンオキサイドの総質量に基づいて、エチレンオキサイドの割合が50質量%以上であれば好ましく、70質量%以上であればより好ましい。
【0017】
芳香族親水性ポリオールの含有量は、MDIとの相溶性を高め、得られるウレタンプレポリマーの増粘を起こりにくくする観点から、ポリオール全量に対して60~99質量%使用することが好ましく、80~98質量%であればより好ましい。
【0018】
<低分子ポリオール>
さらに数平均分子量が500以下の低分子ポリオールを用いることで、ウレタンプレポリマーの硬化性を高めることができる。低分子ポリオールとは、ヒドロキシ基を2個以上有する数平均分子量が500以下の化合物であって、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール及び数平均分子量が500以下のポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0019】
低分子ポリオールの含有量は、ウレタンプレポリマーの硬化性と製品安定性の観点から、ポリオール全量に対して1~20質量%使用することが好ましく、2~10質量%であればより好ましい。
また、芳香族親水性ポリオールと低分子ポリオールとの含有量の比率は、質量比で80/20~99/1であれば好ましく、90/10~98/2であればより好ましい。
【0020】
本発明の目的を損なわない範囲で、上記以外のポリオールを使用することができる。そのようなポリオールとしては特に限定されるものではないが、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオールを挙げることができる。これらのポリオールを使用する場合、ポリオール全量に対して0~30質量%の量にて使用することが好ましい。
【0021】
ポリエーテルポリオールとしては、2個以上の活性水素原子を有する化合物(たとえば多価アルコール、多価フェノール、アミンなど)に炭素数2~4のアルキレンオキサイドが付加した構造を有する(ポリオキシアルキレン鎖を有する)化合物およびそれらの混合物が挙げられる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、1,3-および1,4-ブタンジオール、1,2-および1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
ここで、多価アルコール類としてジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンを使用することが止水性能の向上の点で好ましい。
また、炭素数2~4のアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2-、1,3-、1,4-あるいは2,3-ブチレンオキサイド等が挙げられる。
これらのポリエーテルポリオールの中でも特に数平均分子量が500~50,000のものが好ましく、1,000~20,000のものがさらに好ましく使用できる。
【0022】
ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン又はトリメチロールプロパン等のポリオールとコハク酸、グルタール酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等の飽和又は不飽和の多価カルボン酸、若しくはこれらの酸無水物との縮合生成物やポリカプロラクトンポリオール等が挙げられる。これらポリエステルポリオールは必要に応じ二種以上を混合使用することもできる。この中でも特に数平均分子量が500~50,000のものが好ましく、1,000~20,000のものがさらに好ましく使用できる。
【0023】
ポリカーボネートポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール又はジプロピレングリコール等のポリオールと、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応して得られるものが挙げられる。これらポリカーボネートポリオールは必要に応じ二種以上を混合使用することもできる。
【0024】
<MDI系イソシアネート>
本発明で使用するMDI系イソシアネートは特に限定されるものではなく、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのいずれであってもよく、また、これらの任意の混合物や、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート(ポリメリックMDI、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート)、ジフェニルメタンジイソシアネートの変性体であってもよい。ジフェニルメタンジイソシアネートの変性体としては、イソシアネート基の一部をビウレット、アロファネート、カルボジイミド、オキサゾリドン、アミド、イミド、イソシアヌレート、ウレトジオン等で変性したものが挙げられる。
これらの中でも、得られるウレタンプレポリマーの硬化性の観点から、MDIの総質量に対して、4,4’-MDIを5質量%以上含有するものが好ましく、20質量以上含有するものがより好ましく、30質量以上含有するものがさらに好ましく、40質量以上含有するものが特に好ましい。
また、得られるウレタンプレポリマーの粘性の観点から、MDIの総質量に対して、4,4’-MDIを80質量%以下含有するものが好ましく、70質量%以下含有するものがより好ましい。
【0025】
<ウレタンプレポリマー>
ポリオールおよびMDI系イソシアネートのプレポリマー化は公知の方法により行うことができるが、原料を合成反応装置に仕込んで撹拌し、60~160℃で反応させて行なうことが通常である。本発明において、ポリオールとMDIの反応当量比NCO/OHは、1.5~2.0である。NCO/OHを2.0以下とすることで、MDIモノマーが理論上残らない。
プレポリマー化の際、必要に応じて触媒を用いてもよい。触媒としては、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ステアリルアミン、ジメチルデシルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチレンテトラミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のアミン系触媒、モノブチルスズオキサイド、ジブチルスズオキサイド、テトラオクチルスズ、ジオクチルスズオキサイド、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート等のスズ系触媒を使用してもよい。
ウレタンプレポリマーのNCO含量は、好ましくは、0.50~4.00質量%、さらに好ましくは0.70~2.50質量%である。
【0026】
<希釈剤>
プレポリマー化反応中及び反応後の増粘を抑制するため、必要に応じて希釈剤を配合することができる。希釈剤としては、高沸点で臭気が少なく、高引火点で活性水素を有しないものが好ましく、具体的には、ガンマーブチロラクトン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、2-オキソ-4-メチル-1,3-ジオキソラン、メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、またはこれらの混合物が挙げられる。
希釈剤を使用する場合、本発明の親水性ウレタン系止水剤の全成分の総質量に対して20~60質量%の量にて使用することが好ましい。
【0027】
<モノイソシアネート>
さらに本発明の親水性ウレタン系止水剤には、貯蔵安定性を向上するため、モノイソシアネートを配合することができる。モノイソシアネートとしては、オクタデシルイソシアネート、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、及びp-トルエンスルホニルイソシアネート(PTSI)などが挙げられる。なかでも、p-トルエンスルホニルイソシアネートが好ましい。
【0028】
また、必要に応じて、整泡剤、消泡剤、架橋剤、着色剤、樹脂改質剤、難燃剤、紫外線吸収剤、耐久性改良剤等の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。
【0029】
さらに、施工状況に応じて、本発明の親水性ウレタン系止水剤の他にエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂(メチルメタアクリレート等)、スチレン系樹脂などを併用してもよい。これらの樹脂を併用する場合、本発明の止水剤に用いるウレタンプレポリマーの質量に対して1~50質量%配合することができる。
【実施例】
【0030】
以下実施例により本発明を説明する。ただし本発明は、これらの実施例及び比較例によって何ら制限されるものではない。なお、本実施例において、数平均分子量はGPCを用いて測定した。
<GPCの測定条件>
装置:東ソー製 HLC-8120GPC
溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.6ml/min
温度:40℃
試料濃度:0.1%
試料注入量:20μl
検出器:RI
【0031】
実施例1
撹拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1Lの合成装置に親水性ポリオールとしてレゾルシノールのエチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック付加物(付加した全アルキレンオキサイドの総質量に基づいてエチレンオキサイド含量80質量%、数平均分子量8000)を400g、低分子ポリオールとしてジエチレングリコールを21g加えた。次いで同装置にイソシアネート成分として4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー(株)製ミリオーネートMT)を124g、希釈剤としてガンマーブチルラクトン240gを加え、100℃に昇温し5時間反応させて、NCO含量が1.95%のウレタンプレポリマーを得た。最後に希釈剤としてガンマーブチロラクトン300g、p-トルエンスルホニルイソシアネート6gを加えて、本発明の親水性ウレタン系止水剤を得た。
【0032】
実施例2~10、比較例1~5
親水性ポリオールとして表1に記載のB~Hを使用し、低分子ポリオール、イソシアネート及び希釈剤の種類と配合量、反応条件を表2に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、親水性ウレタン系止水剤を得た。
【0033】
【0034】
<低分子ポリオール>
・DEG:ジエチレングリコール
・EG:エチレングリコール
・PEG200:(東邦化学工業製ポリエチレングリコール、数平均分子量200)
・PG:プロピレングリコール
・1,4’-BG:1,4’-ブタンジオール
<MDI系イソシアネート>
・4,4’-MDI:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー(株)製 商品名「ミリオーネートMT」)
・混合MDI:4,4’-MDIと、2,4’-MDI(2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート)との混合物(東ソー(株)製 商品名「ミリオーネートNM))
・変性MDI:カルボジイミド変性4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー(株)社製 商品名「ミリオーネートMTL」)
・ポリメリックMDI:ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(東ソー(株)社製 商品名「ミリオーネートMR-200」)
・2,4’-MDI:2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(シグマアルドリッチジャパン製)
<希釈剤>
・GBL:ガンマーブチルラクトン
・MTM:トリエチレングリコールジメチルエーテル
・BTM:トリエチレングリコールブチルメチルエーテル
・PC:プロピレンカーボネート
<モノイソシアネート>
・PTSI:p-トルエンスルホニルイソシアネート
【0035】
[性能評価]
上記実施例1~10及び比較例1~5で得たウレタン系止水剤を以下(1)~(7)の性能評価試験に供した。結果を表2に示す。
【0036】
(1)粘度測定
JISK1557-5:2007プラスチック-ポリウレタン原料ポリオール試験方法に基づき、B型粘度計(ブルックフィールド社製)にてNo.2及びNo.3のローターを30~60rpmで回転させ、各サンプルの20℃での粘度を測定した。
(2)NCO含量
JISK1603-1:2007のプラスチック-ポリウレタン原料芳香族イソシアネート試験に基づき測定した。
(3)4,4’-MDIモノマー残存量
液体クロマトグラフ装置HPLC-prominence(島津製作所製)及びカラムDevelosil C30-UG 5μm(野村化学製)を用い、THF:水=4:6にて検量線を作成して、各サンプルに含有する4,4’-MDIモノマー残存量を測定した。
(4)サンプル外観
目視にて、サンプル液に濁りや不純物が発生していない透明な状態であることを確認し、透明であれば外観を良好とした。
(5)製品安定性
70℃で7日間静置した各サンプル20℃での粘度を、(1)の測定方法に基づき測定した。
(6)20%濃度硬化時間
ポリカップに10gのサンプル液を添加し、ここに20℃に温調した40gの水道水を加えてスパチュラーで10秒間攪拌する。水を添加して混合液が硬化して糸を引き始め、流動がなくなった時間を計測して「硬化時間」とした。
(7)最低ゲル化濃度
ポリカップに一定量のサンプル液を添加し、ここに同じく一定量の水道水を添加してスパチュラーで15秒間攪拌し、ゲル体が硬化し抵抗のある樹脂の糸が引くための樹脂の最低濃度を測定した。
【0037】
【0038】
表2の結果に示すとおり、本発明に係る親水性ウレタン系止水剤は、(1)~(7)のいずれの性能においても優れているとする結果が得られた。
これに対し、4,4’-MDIを過剰に配合した比較例1のウレタン系止水剤は、低粘度で硬化性に優れるものの、多量の4,4’-MDIモノマーが残存した。
一方、芳香族親水性ポリオール以外のポリエーテルポリオールと2,4’-MDIとをNCO/OHが2.0となるように反応させた比較例2~4のウレタン系止水剤は、粘度は低いものの20%濃度では硬化しなかった。
また、低分子ポリオールを配合しない比較例5のウレタン系止水剤は、7日後にゲル化した。